(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162685
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】気泡ファイバーセメント建築用製品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 13/02 20060101AFI20170703BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20170703BHJP
C04B 16/02 20060101ALI20170703BHJP
C04B 24/34 20060101ALI20170703BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20170703BHJP
B28B 1/52 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
B32B13/02
C04B28/02
C04B16/02 Z
C04B24/34
C04B38/00 301C
C04B38/00 302Z
B28B1/52
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-508137(P2014-508137)
(86)(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公表番号】特表2014-519992(P2014-519992A)
(43)【公表日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】US2012035593
(87)【国際公開番号】WO2012149421
(87)【国際公開日】20121101
【審査請求日】2014年11月19日
(31)【優先権主張番号】61/479,814
(32)【優先日】2011年4月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510092904
【氏名又は名称】ジェイムズ ハーディー テクノロジー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JAMES HARDIE TECHNOLOGY LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098464
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 洌
(74)【代理人】
【識別番号】100149630
【弁理士】
【氏名又は名称】藤森 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100184826
【弁理士】
【氏名又は名称】奥出 進也
(72)【発明者】
【氏名】ペン、ジョー、チョウ
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー、トーマス、パトリック
【審査官】
増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04166749(US,A)
【文献】
特表平08−509949(JP,A)
【文献】
特開平01−306206(JP,A)
【文献】
特表2006−524626(JP,A)
【文献】
特開平03−223143(JP,A)
【文献】
特開平05−009048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C04B 1/00−32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の、薄い積層ファイバーセメント基材層であって、前記積層ファイバーセメント基材層のそれぞれが、20〜450ミクロンのあいだの厚さを有し、および、前記積層ファイバーセメント基材層のそれぞれが、隣接する積層基材層と結合し、それによってファイバーセメントマトリックスを形成するファイバーセメント基材層と、
前記ファイバーセメントマトリックス内に連行された空洞部分によって画定される、ファイバーセメントマトリックスから前記空隙を分離する材料なしにファイバーセメントマトリックス中に直接的に形成される複数の空隙とを含み、前記空隙が、前記ファイバーセメントマトリックスの密度を低下させるために、前記空隙の累積容積が前記ファイバーセメントマトリックスの体積の3%より大きくなるようにファイバーセメントマトリックス全体に均一に分散され、20ミクロンよりも大きい平均直径を有する、軽量の、低密度ファイバーセメント建築用製品。
【請求項2】
前記空隙の平均直径が20ミクロン〜100ミクロンのあいだである請求項1記載の建築用製品。
【請求項3】
前記ファイバーセメントマトリックスの密度が1.0〜1.3グラム毎立方センチメートル(g/cc)のあいだである請求項1記載の建築用製品。
【請求項4】
少なくとも90%の前記空隙が独立気泡である請求項1記載の建築用製品。
【請求項5】
前記ファイバーセメント基材層がセルロース繊維を含む請求項1記載の建築用製品。
【請求項6】
前記空隙の累積容積がファイバーセメントマトリックスの5〜20容積%のあいだである請求項1記載の建築用製品。
【請求項7】
水硬性結合剤と、セルロース繊維と、空気連行剤とを含むハチェックプロセス用ファイバーセメント水性スラリーであって、水セメント比が、20〜35であり、前記空気連行剤が、ヴィンソル樹脂、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせからなる群より選択され、かつ、前記空気連行剤が、0.1重量%〜2重量%含まれているハチェックプロセス用ファイバーセメント水性スラリー。
【請求項8】
前記空気連行剤が、犠牲フィラーを含む請求項7記載のハチェックプロセス用ファイバーセメント水性スラリー。
【請求項9】
ファイバーセメント水性スラリー中に、ヴィンソル樹脂、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される空気連行剤を用いて空気泡を作り出す工程、
前記ファイバーセメントスラリーを薄いファイバーセメントフィルムとして、前記ファイバーセメントスラリーを介して回転される複数のふるいシリンダー上に積層する工程であって、前記空気泡が前記薄いファイバーセメントフィルム中に均一に分配される工程、
より厚いファイバーセメント層を作製するために一連の前記薄いファイバーセメントフィルムの連続層をベルトへと移送する工程、
前記より厚いファイバーセメント層から水を除去する工程、および
前記より厚いファイバーセメント層を硬化させる工程
を含む基材層の多重積層体を含むファイバーセメントパネル中に空気を連行する方法。
【請求項10】
前記ファイバーセメント水性スラリー中に空気泡を作り出す工程が、空気連行剤を前記ファイバーセメントスラリーに直接添加する工程、および、前記ファイバーセメントスラリーを激しく混合する工程を含む請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記ファイバーセメント水性スラリー中に空気泡を作り出す工程が、泡沫混合物を作製するために水中で空気連行剤を激しく予混合する工程、および、前記ファイバーセメントスラリーへ前記泡沫混合物を添加する工程を含む請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願に関する相互参照]
本出願は、2011年4月27日に出願された米国特許仮出願番号第61/479、814号を基礎とする、米国特許法第119条(e)に基づく優先権の利益を主張し、その出願の開示内容は、それら全体を参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0002】
[技術分野]
本発明の開示による実施態様は、軽量の、低密度ファイバーセメント材料組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
例えばファイバーセメントシートおよびパネルなどの、ファイバーセメントベースの建築用製品は、建造物建築において広範囲に使用されている。材料の所望の性能特性を維持しながら、ファイバーセメントの密度および重量を低下させるための様々な低コストな方法を開発しようという取り組みがなされてきた。例えば、セラミックマイクロスフィアなどの低密度添加剤がファイバーセメント中に組み込まれてきた。添加剤は一般的に、その導入ならびに耐用年数を通しての耐久性および性能の両方において、最終生成物の性能特性を損なうことなくファイバーセメントの密度を低下させるように選択される。
【0004】
しかしながら、多重に積層されている基材層を含む、ファイバーセメント建築用シートまたはパネルのための適切な低密度添加剤を開発することは、そのような製品を製造することにともなう過酷な処理条件のため非常に困難である。とりわけ、大部分の低密度添加剤は、セルロース繊維強化セメントシートおよびパネルを製造するために広く用いられているハチェックプロセスによって与えられる物理的および機械的外力に耐えることが困難である。選択される低密度添加剤は、ハチェックプロセスを通じて直面する高い圧力、外力、温度に耐えなければならないであろう。
【0005】
空気連行はコンクリートの密度を低下させるために使用可能な方法であるが、その技術を、予測できる空隙の含有量および分布が所望される繊維強化セメント系シートまたはパネルのエアレーションにうまくかつ一貫して適用することはできない。実際、多数の研究が、外力または圧力に付された際の未硬化の気泡コンクリートの空隙量を予測することの困難性を立証してきた。空洞部分に加えられる高圧、減圧による空間の破裂、および、衝撃力による空間の破裂は、気泡コンクリートのポンピングにおける空隙損失のメカニズムの一部である。したがって、例えコンクリートのエアレーションという概念が公知であるとしても、それは、従来の空気連行技術によって形成される空隙の数、分布およびサイズにおける一貫性のなさのため、低密度ファイバーセメントパネルまたはシートの製造へと成功裏には適用されていない。したがって、一貫して一様に分布されている空隙を有する繊維強化パネルまたはシートを製造するための、改良されたエアレーション方法および材料の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明の開示による配合物、材料、製品および製造方法はそれぞれ、いくつかの態様を有しており、それらのうちの1つのみがその所望の特性の原因となるわけではない。
【0007】
本明細書において直接的に定義されていないいずれの用語も、当該技術分野において理解されるように、それらと通常関連付けられる全ての意味を有していると理解されるべきである。いくつかの用語については以下で、または本明細書中の別の場所で、様々な実施態様の組成物、方法、システムなど、および、それらの製造方法または使用方法を記載する追加のガイダンスを当業者へ提供するべく議論される。当然のことながら、同じことが2以上の方法で述べられるかもしれない。結果として、代替の用語および同義語が、本明細書中で議論される任意の一またはそれ以上の用語に用いられ得る。用語が本明細書において詳細に述べられているか、または説明されているかどうかということに重きが置かれるべきではない。いくつかの同義語または代替可能な方法、材料などが提供される。1個または2,3個の同義語または等価物の参照は、明確に述べられない限り、他の同義語または等価物の使用を排除するものでない。本明細書における、用語の例を含む例の使用は、例示を目的とするものにすぎず、本明細書中における実施態様の範囲および意味を限定するものではない。
【0008】
本発明の開示による好ましい実施態様は、複数の薄い積層ファイバーセメント基材層を含む建築用製品を提供する。積層ファイバーセメント基材層のそれぞれは、隣接する積層基材層と結合し、それによってファイバーセメントマトリックスを形成している。建築用製品はさらに、ファイバーセメントマトリックス内に連行された空洞部分によって画定される複数の空隙を含み、したがって、空隙は、ファイバーセメントマトリックスから空隙を分離する材料なしに、ファイバーセメントマトリックス中に直接的に形成される。空隙は、ファイバーセメントマトリックスの密度を低下させるために、空隙の累積容積がファイバーセメントマトリックスの体積の3%より大きくなるようにファイバーセメントマトリックス全体に均一に分散される。いくつかの実施態様において、空隙はまた、20ミクロンよりも大きい平均直径を有する。ある実施態様においては、空隙の平均直径は20ミクロン〜100ミクロンのあいだである。さらに別の実施態様において、空隙の平均直径は20ミクロン〜50ミクロンのあいだ、好ましくは20ミクロン〜40ミクロンのあいだ、好ましくは30ミクロン〜40ミクロンのあいだである。別の実施態様において、空隙の累積容積は、ファイバーセメントの5〜20容積%のあいだである。さらに別の実施態様において、空隙の累積容積は、10〜20容積%のあいだである。さらに別の実施態様において、ファイバーセメントマトリックスの密度は、1.0〜1.3グラム毎立方センチメートル(g/cc)のあいだ、またはいくつかの他の実施態様においては1.2〜1.3g/ccのあいだである。さらに別の実施態様において、少なくとも90%の空隙が独立気泡である。さらに別の実施態様において、積層されているファイバーセメント基材層のそれぞれは、20〜450ミクロンのあいだの厚さを有する。さらに別の実施態様において、ファイバーセメント基材層はセルロース繊維を含む。
【0009】
本発明の開示の好ましい実施態様はさらに、水硬性結合剤、セルロース繊維および空気連行剤(air entrainment agent)を含むファイバーセメント配合物を提供する。好ましくは、空気連行剤は、配合物の0.1重量%〜2重量%、いくつかの実施においては0.3重量%〜2重量%含まれる。ある実施態様において、空気連行剤は、ヴィンソル樹脂(vinsol resin)を含む。別の実施態様において、空気連行剤は、ヴィンソル樹脂、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸、置換ベンゼンスルホン酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。さらに別の実施態様において、空気連行剤は、樹脂(ウッドレジン)(wood resin)、合成界面活性剤、スルホン化リグニン塩、石油酸塩、タンパク質性材料の塩、脂肪質および樹脂を含む酸ならびにそれらの塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、スルホン化炭化水素の塩、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。さらに別の実施態様において、空気連行剤は、樹脂(ウッドレジン)、スルホン化炭化水素、およびそれらの組み合せからなる群より選択される。さらに別の実施態様において、空気連行剤は、例えば発泡剤などの犠牲フィラーを含む。
【0010】
本発明の開示の好ましい実施態様はさらに、基材層の多重積層体を含むファイバーセメントパネル中に空気を連行する方法を提供する。前記方法は、ファイバーセメント水性スラリー中に空気泡を作り出す工程、ファイバーセメントスラリーをファイバーセメントの薄いフィルムとして、ファイバーセメントスラリーを介して回転される複数のふるいシリンダー上に積層する工程を含む。空気泡は、ファイバーセメントの薄いフィルム中に均一に分配される。前記方法はさらに、より厚いファイバーセメント層を作製するために一連のファイバーセメントの薄いフィルムの連続層をベルトへと移送する工程、より厚いファイバーセメント層から水を除去する工程、および、より厚いファイバーセメント層を硬化させる工程を含む。ある実施態様において、空気泡は、空気連行剤をファイバーセメントスラリーに直接添加し、そして、ファイバーセメントスラリーを激しく混合することによって、ファイバーセメント水性スラリー中に作り出される。別の実施態様において、泡沫混合物(foam mixture)を作製するために水中で空気連行剤を激しく予混合し、そしてその後、泡沫混合物をファイバーセメントスラリーへ添加することによって、空気泡がファイバーセメント水性スラリー中に作製される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施形態にもとづく低密度ファイバーセメント製品の概略図を示す。
【
図2】
図1のファイバーセメント製品の全体にわたって分散されている空隙のSEM写真を100倍の拡大率で示す。
【
図3】
図1のファイバーセメント製品の全体にわたって分散されている空隙のSEM写真を400倍の拡大率で示す。
【
図4】
図1のファイバーセメント製品の単一の空隙の構造のSEM写真を示す。
【
図5】好ましい実施態様の低密度ファイバーセメント製品および添加剤としてセラミックマイクロスフィアを有する同等の低密度ファイバーセメント製品の孔直径の分布の比較を示す。
【
図6】ハチェックプロセスとともに用いられる、低密度の、気泡ファイバーセメントシートを製造するための一実施態様の工程フローの概略図を示す。
【
図7】ハチェックプロセスとともに用いられる、低密度の、気泡ファイバーセメントシートを製造するための別の実施態様の工程フローの概略図を示す。
【
図8】好ましい一実施態様の低密度気泡ファイバーセメントシートと、マイクロスフィア添加剤を用いて作製された対照の低密度ファイバーセメントシートとを比較するSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書は、全体にわたって分布している小さなかつ均一な連行されたエアポケットを有する多重に積層されているファイバーセメント基材層を含む、低密度ファイバーセメント製品を開示する。本明細書はまた、一貫した空隙量および均一な空隙分布を有する低密度気泡ファイバーセメントパネルを製造するための空気連行システムおよび方法を開示する。また、本明細書は、制御された空隙量および空隙分布を有する気泡ファイバーセメント製品を製造するために、ハチェックプロセスと併せて機能するように適応された空気連行技術を開示する。
【0013】
図1は、本発明の開示による低密度気泡ファイバーセメント製品100の一実施態様を示す。ファイバーセメント製品100は、全体でファイバーセメントマトリックス106を形成する、複数の、積層されているファイバーセメント基材層102を含む。
図1に示されるように、複数の空隙104が、マトリックス106中への空気連行によってファイバーセメントマトリックス106中に形成される。空隙104は、好ましくは予め選択された範囲内の大きさであり、かつ、ファイバーセメント製品100の全体にわたって均一に分配されている。ある実施において、空隙104の直径は、20ミクロン(μm)より大きく、好ましくは、20μm〜100μmのあいだである。別の実施において、空隙104の平均直径は、約20μm〜60μmのあいだである。別の実施において、空隙104はファイバーセメント製品100の5容積%より多く、好ましくは、5容積%〜20容積%のあいだ、好ましくは、5容積%〜10容積%のあいだ、好ましくは約9.2容積%である。
【0014】
図2は、ファイバーセメントマトリックス106の全体にわたって分散されている空隙104のSEM写真を100倍の拡大率で示したものである。
図3は、空隙104のSEM写真を400倍の拡大率で示したものである。
図4は、単一の空隙104の構造を示しているSEM写真を3000倍の拡大率で示したものである。SEM写真で示されるように、ファイバーセメントマトリックス106中に形成される空隙104は、一般的に、単一の空気泡および空気泡のクラスターの混合物である。マイクロスフィアなどの低密度添加剤とは異なり、空隙104は、各々の空隙を画定している壁がファイバーセメントマトリックスの一部であるように、空気連行によってファイバーセメントマトリックス中に直接的に形成される空洞部分である。空隙は、好ましくは、隣り合う空隙と連続した空気チャネルを形成しない、独立気泡空隙である。いくつかの実施態様において、製品中の、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または90%を超える空隙が独立気泡空隙である。空隙の形および容積は好ましくは、ファイバーセメント製品中に連行される空気の量によって決定される。空気連行技術はコンクリートのエアレーションのために使用されてきたが、従来のコンクリートエアレーション技術を用いて、均一に分配された、大部分が独立気泡である空隙をファイバーセメントパネルまたはシート中に形成することは非常に困難である。
【0015】
所望の形態を有する、均一に分配された、独立気泡空隙をファイバーセメントパネルまたはシート中に形成する際の課題の1つは、ハチェックプロセスに無傷で耐え得る空気泡をファイバーセメント中へ連行することへの困難性である。ハチェックプロセスは、多重に積層されている基材層を有するファイバーセメントパネルまたはシートを製造するための商業的に実現可能な方法として広く用いられている。発明者らの知る限り、ハチェックプロセスによって製造されたファイバーセメント建築用シートのエアレーションは、低い固形成分含有量のスラリー中に空気泡またはエアポケットを製造することの困難性およびハチェックプロセスの多数の過酷な処理工程による空気泡の破裂のために、均一な空隙を形成するための実行可能なプロセスとして考慮されたことは決してなかった。均一な空気泡形成への障害が存在する処理工程としては、スラリーの攪拌、ポンピングおよび攪拌工程;ファイバーセメントフィルム形成およびファイバーセメント層積層工程;より厚いファイバーセメント層および多層ファイバーセメントグリーンシートの高真空処理工程;グリーンシート上でのロール圧を増加させる高いニップ圧および密度;ならびに、高圧での長時間の高温高圧養生工程が挙げられる。
【0016】
さらに、典型的には水セメント比が1未満であるコンクリートのエアレーションの教示は、ハチェックプロセスによって製造されるファイバーセメント建築用シートのエアレーションが実行可能であるかどうかを決定するにあたり、なんらの指針も提供しない。例えば、外力や圧力に付された場合のエアレーションされた未硬化のコンクリート中の空気含有量を予測することの困難性が研究により示されている。いくつかの研究は、空気連行されたコンクリートの300psiを超える圧力でのポンピングを行わないよう薦めている。加えて、コンクリートセメントに対する空気連行添加剤の効果は、その性能に影響を及ぼす多数の因子のため、予測することが困難である。例えば、過度の振とうは、連行された空気の50%が3分間の振とうの後に失われるという結果をもたらし得る;非常に細かい(<150μm)および粗い(>1200μm)骨材は空気含有量を減少させるが、150〜1200μmのあいだの骨材は空気含有量を増加させる;ならびに、コンクリート温度の増加は空気含有量を顕著に減少させるであろう。
【0017】
未硬化のコンクリートセメント中に存在する空気泡のサイズは、それに与えられる外力によってもまた影響され得る。コンクリートをポンピングする際に起こる吸引および溶解は、その後に存在する50μmより小さい直径を有する空気泡がほとんどない、また存在したとしてもごくわずかしかないという結果をもたらし得るであろう。吸引は、生コンクリートが、ポンプのピストンチャンバが生コンクリートペーストで満たされている場合に減圧によって引き起こされる陰圧に付される場合に、ポンピングにおいて起こる。溶解は、水中に溶解はしているが、生コンクリートペーストが圧力から解放される際に再形成はされていない、より小さな空気泡を有する生コンクリートペーストが、圧力に付される場合に起こる。さらに未硬化の生コンクリートペースト中に連行された空気という技術分野における現在の知識は、連行された空気の溶解度が遊離の空気および水についてのものと同じであるというものであるように思われる。したがって、ヘンリーの法則に基づき、400psiの圧力に付される生コンクリートペーストは、存在する水分量の52%を構成する空気の全量をおそらく溶解するであろう。
【0018】
したがって、上記で説明されるように、発明者らの知る限り、ハチェックプロセスを用いて作製される、多重に積層されている基材層を有するファイバーセメント建築用シートまたはパネルのエアレーションが技術的に実行可能であろうことを教示する、コンクリートのエアレーションおよび生コンクリートペーストの特性からの情報は存在しない。ハチェックプロセスを介して加工される材料が直面する圧力、外力および温度を踏まえて、ファイバーセメント建築用シートおよびパネルの密度を低下させるための低コストな、全ての従来方法は、中が空洞であるセラミックまたはガラスのマイクロスフィアなどの低密度添加剤の添加に基づくものであった。
【0019】
本発明の開示は、全体にわたって分配されている空洞部分を有する、多重に積層されている基材層をもつファイバーセメント製品の様々な実施態様を提供する。好ましくはファイバーセメント製品は、ハチェックプロセスを用いて作製される。いくつかの実施態様において、空洞部分は、ファイバーセメント製品の製造工程のあいだに空気連行によってマトリックス中に導入される。他の好ましい実施態様において、空洞部分は、材料が製造工程のあいだに分解し、最終製品のマトリックス内に空洞部分を残す犠牲材料をファイバーセメント配合物中に使用することによって導入される。ファイバーセメント製品は、パネルまたはシートであってもよく、そして、建築用製品として使用され得る。
【0020】
以下により詳細に説明されるように、本開示の好ましい実施態様にもとづく空気連行は、泡の安定性のための適切な空気連行剤の使用と併せて、空気泡を作り出すための、ハチェックプロセスにおける配合物スラリーの激しい攪拌によって達成され得る。いくつかの好ましい実施態様において、攪拌条件は、空気泡が実質的に20〜100μmの直径内であるように調節される。より大きな攪拌速度がより小さい泡サイズを製造することが発見された。いくつかの実施態様において、空気泡は、スラリー中に導入される前に、高度に純粋な泡沫(foam)を作製するポンプを用いて、泡沫として予め製造される。
【0021】
本明細書中で使用される空気連行剤は、ハチェックプロセス内において、泡生成および/または泡安定化を促進する能力を有する化学薬品または化合物であり得る。いくつかの実施態様において、これらの化学薬品は、界面活性剤として機能し泡の外殻を強化する長鎖ポリマーであってもよい。多くの種類の長鎖ポリマーが存在するが、セルロースファイバーセメントに適している空気連行剤の選択は自明なものではない。ファイバーセメント製品のためのハチェックプロセスにおけるプロセス水は、通常、例えばカルシウム(Ca
2+)、ナトリウム(Na
+)、カリウム(K
+)および硫酸塩(SO
42-)などのセメントの溶解した形状を含む。したがって、プロセス水はpHが高く、そして、選択される空気連行剤は高いpH環境に耐えうるものでなければならない。いくつかの実施態様において、好ましい空気連行剤は、アンモニウム置換によって作製されるカチオン性界面活性剤、樹脂(ウッドレジン)などのアニオン性界面活性剤、脂肪酸塩、または、カルボキシレート基(R−COO−)、硫酸基(R−SO
4−)およびスルホン酸基(R−SO
3−)を有する合成界面活性剤である。より好ましい空気連行剤は、ヴィンソル樹脂ナトリウム塩および/またはベンゼンスルホン酸ナトリウムである。いくつかの実施態様において、空気連行剤は、ファイバーセメント配合物の総量の0.1重量%〜5重量%、または0.3重量%〜2重量%のあいだの量で使用される。より好ましい実施態様において、使用される空気連行剤の量は、1重量%〜3重量%である。いくつかの実施において、空気連行剤は、ファイバーセメント製品の密度を低下させるために、例えばマイクロスフィアなどの他の低密度添加剤と併用して使用される。ある実施において、空気連行剤は、ファイバーセメント配合物の総量の約0.13重量%含まれ、および、マイクロスフィアはファイバーセメント配合物の総量の約1重量%含まれる。
【0022】
他の好ましい実施態様は、適切な犠牲材料またはフィラーを、ファイバーセメントマトリックス中に空隙を製造するために利用する。犠牲材料またはフィラーは、ハチェックプロセスのあいだに分解し、最終製品のマトリックス内に空洞部分を残すそれらの能力に基づいて選択される。いくつかの好ましい実施において、犠牲フィラーは、コスト効率の観点から、でんぷん、炭酸アンモニウムおよび/または炭酸水素ナトリウムであり得る。犠牲材料は好ましくは、製造工程のあいだに配合物全体にわたって混合されおよび分配され得るように、そしてそのために最終製品のマトリックス内に良好に分布された空洞部分を残すように、細かく砕かれた形状で配合物中に導入される。犠牲材料の好ましい粒子サイズは、250μm(60mesh)未満である。
【0023】
コンクリート空気連行添加剤(AEA)
いくつかの実施において、特定のコンクリート空気連行添加剤(AEA)が、ハチェックプロセスによって形成されるファイバーセメントシートまたはパネルのために選択および修飾される。コンクリートセメント産業において使用される市販で入手可能なAEAの種類としては4つの種類、樹脂(ウッドレジン)、合成界面活性剤、石油酸塩および脂肪酸塩が存在する。高いアルカリ性のファイバーセメントプロセス水と混合された市販のAEAからの泡沫製造に関する試験室試験が、いずれかのAEAがファイバーセメントシートおよびパネルのための可能な空気連行添加剤として使用できるかどうかを見出すために行われた。試験は、ミキサー(KitchenAid 325)を用いて、ファイバーセメントのハチェック製造プロセスからの500mLの高いアルカリ性のプロセス水と選択されたAEAの4gを、ボール中でミキサーのギア8で10分間混合して行われた。AEAの起泡性が、得られる泡沫の、ミキシングボールの底部からの高さを測定することによって測定された。
【0025】
表1に示されるように、脂肪酸塩および合成界面活性剤のAEAは、高いアルカリ性のファイバーセメントプロセス水中において不活性化され空気泡生成は全く起こらなかった。ヴィンソル樹脂ナトリウム塩およびベンゼンスルホン酸ナトリウムは、高いアルカリ性のプロセス水から泡沫を製造することに成功した。
【0026】
セメント水和試験が、スラリーに対する水の比率(w/s比)が0.4であるセメントスラリーに示差熱量計測定法を適用して行われた。試験は、ベンゼンスルホン酸ナトリウムが0.5重量%でセメントに添加された場合、強力なセメント水和抑制剤であり、72時間以内では固化しないセメントを結果として生じることを示した。一方、ヴィンソル樹脂ナトリウム塩は、セメントの水和にほとんど影響を及ぼさなかった。ファイバーセメント製品のプロセス水は、その構成成分により高いpHを有しているので、追加の試験室試験が行われ、そして、大部分のコンクリートAEAによっては十分かつ制御可能なレベルのエントレインドエアを得ることは困難であることが発見された。
【0027】
ファイバーセメントプロセス水がなぜ大部分のコンクリートAEAの起泡性を抑制するのかをさらに評価するために、以下の試験がオレフィンスルホン酸ナトリウムとしてMicro Airを用いて行われた。試験および測定は、ファイバーセメントプロセス水試験と、AEAの量が50%、対象のAEA2gまで低減されたこと以外同じである。
【0029】
表2の結果より、プロセス水中の酸化カルシウムの存在がMicro Air AEAの起泡性を不活性化しているようである。したがって、ファイバーセメント製品中で機能し得るAEAとしては、AEAは高いpHで、およびおそらく、高いCa
+イオン濃度において機能する必要がある。
【0030】
添加剤としてヴィンソル樹脂ナトリウム塩を用いた気泡ファイバーセメントシート
ハチェックプロセスによるファイバーセメント建築用シートの作製がヴィンソル樹脂ナトリウム塩が添加されて、および、別個の試験が比較のために中が空洞であるマイクロスフィアが添加されて実施された。ファイバーセメントの配合物スラリーへの0.5%濃度のヴィンソル樹脂ナトリウム塩の添加が、3%の中が空洞であるマイクロスフィアを用いた配合物の場合のファイバーセメント建築用シートと同じ密度を産生することが見出された。添加剤としてヴィンソル樹脂ナトリウム塩を用いたファイバーセメント建築用シートの製品の性能が表3に示されている。
【0032】
ハチェックプロセスによって、かつ、2%ヴィンソル樹脂ナトリウム塩を用いて製造されたファイバーセメント建築用シートを用いた別個の試験は、平均の密度が1.15g/cm
3であるファイバーセメント製品を産生した。さらに、結果として得られる、エアレーションされたファイバーセメントの走査型電子顕微鏡(SEM)分析は、20μm〜100μmのあいだの範囲のファイバーセメント建築用シート中の空気泡粒子サイズを示している。加えて、SEM分析はまた、おそらくニップ圧のために空気泡の形態は一様でないように見えるが、連行空気泡は無傷であり、かつ、エアチャネルの存在なしでファイバーセメントシート中で分離されていることを示しており、これは過度の吸引力により起こったのかもしれない。ファイバーセメント建築用シートの分析によりまた、ボードの約9.2容積%の割合を占める、エントレインドエアを有する空洞部分全体が、全体にわたって均一に分布していることが判明した。
【0033】
ヴィンソル樹脂ナトリウム塩および低密度添加剤としてのセラミックマイクロスフィアを用いて作製された、同じ1.15g/cm
3の密度を有する低密度ファイバーセメント製品中の孔分布の比較が
図5に示されている。図に示されているように、いくつかの実施態様において、空気連行剤が組み込まれているファイバーセメント製品は、特定の孔サイズ範囲における孔容積におけるパーセント増加を示す。いくつかの実施において、直径0.01〜0.1ミクロンの範囲の孔において、約5〜30%の容積増加がみられる。別の実施において、直径0.01〜0.1ミクロンの範囲の孔において、約10〜23%の容積増加がみられる。図からわかるように、いくつかの実施態様において、本明細書中に開示される方法は、約0.01〜0.1ミクロンの範囲の孔の孔容積を少なくとも5%、および、好ましくは少なくとも10%、約30%まで、増加させるように使用され得る。また別の実施において、空気連行剤が組み込まれているファイバーセメント製品は、孔容積の少なくとも50%およびファイバーセメント製品の体積の少なくとも3%を構成する、20ミクロンより大きい、好ましくは20〜100ミクロンの平均の孔直径を示している。さらに、スラリー固体の総量への0.5重量%のヴィンソル樹脂ナトリウム塩の添加が、対照のファイバーセメント建築用シートと比較した場合に、オートクレーブ後のファイバーセメント建築用シート製品の密度において約4%の減少、および、飽和MoRにおいて約7%の減少をもたらすことが見いだされた。水分膨張率特性においては、ヴィンソル樹脂ナトリウム塩を用いた建築用シートは対照の建築用シートと同等であった。ヴィンソル樹脂ナトリウム塩の添加とハチェックプロセスによって作製されたファイバーセメント製品中のスフィアとを比較した場合の良さを理解するために、我々は、本試験からサンプリングされた0.5%ヴィンソル樹脂ナトリウム塩添加とマイクロスフィア添加の試験とのあいだの密度低下および性能を比較した。この分析により、密度低下に関しては、全体の固体への0.5%ヴィンソル樹脂ナトリウム塩の添加は、3〜4%のマイクロスフィアのそれへの添加の場合と同等であった。加えて、ASTM C 1185 第5節にしたがって測定された、湿紙の状態での圧縮強度(MoR)性能は、2つのファイバーセメント建築用シートのあいだで同等であることを示す。
【0034】
いくつかの好ましい実施態様はまた、ファイバーセメントのスラリー中へ導入される泡のサイズを制御する。より小さい泡はより大きな泡と比較してより大きな表面張力を有しているので、20〜100ミクロンの範囲内である泡のサイズがハチェックプロセスに耐え抜くために最も適していることが明らかとなった。このプロセスは、泡形成のための、激しいスラリー攪拌もしくは高いスラリーポンピング速度を使用することによって、または、特定の高いせん断力のシャーポンプを導入することによって行われ得る。
【0035】
犠牲フィラー
他の好ましい実施態様は、ハチェックプロセスのあいだに分解し、最終製品のマトリックス内に空洞部分を残すように構成されるであろう適切な犠牲フィラーの慎重な選択によって、気泡ファイバーセメント製品を製造する方法を提供する。使用可能な犠牲フィラーの範囲がファイバーセメントのハチェックプロセスに対して試験された。試験結果が表4に示されている、ろ過密度減少の割合が、犠牲フィラーを用いた場合および用いない場合の、セメント/シリカスラリーの真空ろ過から得られるろ過ケーキを比較することによって計算された。パッドプレス密度低下割合が、28ton/ft
2の圧縮圧力を用いたWabash油圧プレス機器(PC−75−4TMモデル)から製造されたファイバーセメントパッドより計算された。この結果から、いくつかの選択された材料のみが空気連行プロセスに適切であることが明らかとなった。
【0037】
図6は、ハチェックプロセスを用いた、低密度の、気泡ファイバーセメント製品を形成するための工程600を示している。工程600は、その中に形成される空隙が均一であり、予測可能であって、ハチェックプロセスの過酷な条件を耐え抜くことができるように、空気をファイバーセメントマトリックス中に連行するように設計されている。この実施態様において、空気は、ハチェックプロセスのあいだに空隙を形成するようにファイバーセメントパネル中に連行される。工程600は、一またはそれ以上の空気連行剤が、水、セルロース繊維、シリカ、セメント、および、低密度添加剤などの添加剤を含む水性スラリーと激しく混合される段階610で開始される。ある実施において、水性スラリーは、固体全体の重量の約1/3を占めるセメントを含む、約8〜15重量%の固体を含む。いくつかの実施態様において、水性スラリーは、450rpmよりも速い速度で、好ましくは500rpmよりも速い速度で、シャーポンプによって混合され得る。水性スラリーにおける、水セメント比はおよそ20〜35であり得る。空気連行剤は好ましくは、水性スラリーの約0.3〜2重量%を構成する、ヴィンソル樹脂、より好ましくはヴィンソル樹脂ナトリウム塩である。驚くべきことに発明者らは、空気連行剤が、この重量パーセントの範囲にある場合に、ファイバーセメントマトリックス中に所望の緩衝特性および他の特性を提供することを見出した。空気連行剤は、この実施態様において、直接水性スラリーへ添加されてもよい。マイクロスフィアまたは他の低密度添加剤がファイバーセメント製品の密度を低下させるために典型的に使用されるいくつかの実施において、必要とされるマイクロスフィアの量を低減するために、そしてこれゆえ材料のコストを低下させるために、マイクロスフィアと併用して空気連行剤が添加されてもよい。ある実施において、空気連行剤は、ファイバーセメント配合物の約0.1〜0.2重量%、好ましくは0.13重量%を構成しており、そして、マイクロスフィアは、ファイバーセメント配合物の約0.1重量%を構成する。
【0038】
工程600は、空気泡を含む水性スラリーがフィードサンプへと移送され、そして複数のタンクへとポンプで送り出される工程620へと続く。それぞれのタンクは一貫したスラリー混合物であることを確実とするためにそれぞれ攪拌装置を備える。タンク内の水性スラリー中のファイバーセメント材料は、その後、工程630において、タンク中のスラリーを介して回転される複数のふるいシリンダー上にファイバーセメントの薄いフィルムとして積層される。ファイバーセメントの薄いフィルムはその後、工程640において、より厚いファイバーセメント層を製造するためにそれぞれが重なるように積層される。工程600は、タンク中のスラリーを介して回転するふるいシリンダーを駆動し、かつ、回転するふるいシリンダー上に積層されたファイバーセメントの薄いフィルムを受け取る、特定のフェルトベースのベルトを使用することにより、ファイバーセメントの薄いフィルムからより厚いファイバーセメント層を製造する。
【0039】
回転するふるいシリンダーは、特定のフェルトベースのベルトおよびフィルターのボトムランによって回転され得、そして、ふるいシリンダーに取り付けられているふるいスクリーンを介してスラリーをろ過する。スラリーがこのふるいスクリーンを通ってろ過されるので、ファイバーセメント材料の薄いフィルムの層が表面上に積層される。ファイバーセメント材料の薄いフィルムは、0.20〜0.45mm(20〜450μm)のあいだの厚さを有し、そして、60%〜75%のあいだの固体(セメントが30%の固体を含む場合、水セメント比が1.4〜2.2で)を含む。スラリーからの過剰の水は、その後、ろ液としてふるいスクリーンを通過し、そして、ふるいシリンダーの端部から排出され、タンク中のスラリー固体の回収および再循環を可能にする。ふるいスクリーンの開口部は通常0.30〜0.50mm(300〜500μm)であるので、300μmよりも顕著に小さい、繊維質ではない全ての材料は、ふるいスクリーンを通って洗い流されるか、または、ふるいスクリーン上にメッシュを形成しているセルロース繊維によって捕捉される。したがって、小さな繊維質ではない材料の捕捉は、ふるいスクリーンの表面上のセルロース繊維である最初のフィルター層の形成に依存している。
【0040】
それぞれのふるいシリンダー上のふるいスクリーンの表面上に形成されるファイバーセメントフィルムは、その後、特定のフェルトベースのベルトの外側表面への接触により移送される。この移送工程は、フェルトがふるいスクリーンと比較してより多孔性ではないために起こる。特定のフェルトベースのベルトがそれぞれ連続する一連のタンクを通り過ぎるにつれて、それは、関連するふるいシリンダーからファイバーセメントフィルムの、対応する一連の連続層を受け取り、そして、より厚いファイバーセメント層を作り上げる。その後、工程650において、より厚いファイバーセメント層は、依然として存在している水および水分を除去するために、ベルトのトップランに沿って配置される真空ボックスを通過する。より厚いファイバーセメント層の厚みおよび存在する水分含有量を考慮すると、真空度の設定は、水銀柱18〜25インチの範囲であり得る。
【0041】
より厚いファイバーセメント層はその後、特定のフェルトベースのベルトのための駆動力も提供しているトレッドローラー、および、比較的大きなドラム直径の形状である、隣接する蓄積または「サイズ」ローラーのあいだを通過する。トレッドローラーおよびサイズローラーは、より厚いファイバーセメント層が先にふるいシリンダーからベルトへと移送されたのと同様の機構によってそれがサイズローラーへと移送される間に、さらなる水がより厚いファイバーセメント層から搾り取られるように配置される。ニップ圧とも称される、トレッドローラーとサイズローラーとのあいだのニップにおける圧力は、処理の必要条件に応じて350psi〜1000psiのあいだである任意の値である。好ましくは、圧力はファイバーセメント層中の少量の空気泡ですら除去しないように選択される。サイズローラーは、積層シートが切断される前に許容される回転数にしたがって、多数のより厚いファイバーセメント層を蓄積する。したがって、多数の薄い基材層を有するファイバーセメントシートの形成は、フィルムを切断する前により多くの回転数を許容させることによって達成される。工程660における切断工程において、ローラーの表面上に累積的に形成された、積層ファイバーセメント材料のシリンダーを長手方向に切断するために、ワイヤまたはブレードが、サイズローラーの表面から外側に放射状に突出される。
【0042】
いったん切断されると、積層ファイバーセメント材料のシートは、ランオフコンベヤによって移動されるべくサイズローラーから剥がれる。この段階での材料は、おおよそ湿紙の厚紙程度の硬さを有し、したがって、ランオフコンベヤ上で容易に平坦な形状を呈する。ウェットエンドにおける工程を完了させるために、フェルトは、フィルムの新しい層を受け取るためにタンクへと戻る前に、一連のシャワーおよび真空ボックスを通過することにより洗浄される。当然のことながら、工程によって製造される積層シート材料の質および特性は、スラリー形成に関連する広範囲の変数および機械のウェットエンドにおける様々な設定値に依存する。さらに先の加工ラインにおいて、この材料(「グリーンシート(green sheet)」として知られる)は、高圧ウォータージェット切断を用いて、グリーントリミング工程(green trim station)においておおよそのサイズに切断され、その後、個々のシートとしてスタッカへと運ばれる。スタッカにおいて、グリーンシートは真空パッドによってピックアップされ、そして、間紙とともにオートクレーブパックを構成する。部分的硬化の後、および任意には密度を増加させるためのさらなる圧縮工程の後、グリーンシートは、工程670において、高温および高圧の条件下での最終的な硬化のためにオートクレーブユニットへとロードされる。オートクレーブの中では、原材料のあいだで化学反応が、セルロース強化繊維に結合されるケイ酸カルシウムマトリックスを形成するように起こる。この工程は、飽和蒸気圧下、160〜190℃で8〜12時間のあいだ行われる。反応終了後、シートは完全に硬化したものとなっており、工程680における正確な最終トリミング、最終加工および包装が可能な状態である。結果として得られる製品は、多重に積層されている基材層を有する、低密度気泡ファイバーセメントパネルまたはシートである。ファイバーセメントパネルは、ファイバーセメントマトリックス全体を通じて一様に分布されている空気泡を有する。空気泡は好ましくは、独立気泡であり、かつ、10〜100μmの範囲である平均直径を有する。いくつかの実施態様において、80%を超える空気泡が独立気泡である。いくつかの他の実施態様において、90%を超える空気泡が独立気泡である。
【0043】
図7は、ハチェックプロセスを用いて低密度気泡ファイバーセメント製品を形成するための別の工程700を示している。工程700では、空気連行剤を直接ファイバーセメントの水性スラリーに添加する代わりに、空気連行剤は、最初に水および任意には他の添加剤と、泡沫混合物を形成するために、工程710において高いせん断力のシャーポンプを用いて混合される。泡沫混合物はその後、工程720において、セメント水性スラリーに添加され、そして混合される。空気連行剤の水との予混合は、泡沫混合物が水性スラリーへと添加された時に、より均一に分配される空気泡を結果的にもたらし得る。
【0044】
図8は、本明細書中で記載される方法にしたがって作製された低密度気泡ファイバーセメントシートと、マイクロスフィア添加剤を用いて作製された対照の低密度ファイバーセメントシートとを比較しているSEM写真である。
図8に示されるように、気泡ファイバーセメントシート中の空気泡のサイズは、マイクロスフィアのサイズに相当する、10〜150μmのあいだの範囲を維持するように制御されている。しかしながら、気泡ファイバーセメントシートは、ファイバーセメントマトリックス中に均一に分配される空隙を作り出すためにマイクロスフィアまたは他の添加剤の添加を必要としないため、製造がより低コストである。
【0045】
本開示の好ましい実施態様に関する前述の記載は、本発明の基本的な新規な特徴を示し、開示し、そして指摘している。示されている装置、システムおよび方法ならびにそれらの使用の詳細の形式における様々な省略、置き換えおよび変更が、本発明の主旨から逸脱することなく当業者によってなされ得ることが明らかであろう。