(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162703
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】結晶粒界を操作したアルファ‐アルミナでコーティングされた切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
B23B27/14 A
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-530258(P2014-530258)
(86)(22)【出願日】2012年9月17日
(65)【公表番号】特表2014-526391(P2014-526391A)
(43)【公表日】2014年10月6日
(86)【国際出願番号】EP2012068214
(87)【国際公開番号】WO2013038000
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年7月23日
(31)【優先権主張番号】11181643.5
(32)【優先日】2011年9月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510000378
【氏名又は名称】バルター アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ディルク シュティーンス
(72)【発明者】
【氏名】ザカリ ルッピ
【審査官】
永石 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−077405(JP,A)
【文献】
特開2006−198735(JP,A)
【文献】
特開2006−326713(JP,A)
【文献】
特開2006−334756(JP,A)
【文献】
特開2009−172748(JP,A)
【文献】
特開2010−214557(JP,A)
【文献】
特開2011−000690(JP,A)
【文献】
特開2011−005569(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0199026(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第01655392(EP,A1)
【文献】
国際公開第2010/106811(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0188747(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0170415(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0003452(US,A1)
【文献】
米国特許第06071601(US,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00878563(EP,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第01683893(EP,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02085500(EP,A2)
【文献】
欧州特許出願公開第02409798(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/16
B23P 15/28
C23C 16/00 − 16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金、サーメット、セラミック、スチール、若しくは立方晶窒化ホウ素(CBN)などの超硬質物質の基材、
及び、全厚さが5から40μmであるコーティングであって、前記コーティングは、少なくとも1つの層が1から20μmの厚さを有するα‐Al2O3層である1つ以上の耐熱性層から成る、コーティング、
から成り、
ここで、前記少なくとも1つのα‐Al2O3層中のΣ3型結晶粒界の長さは、Σ3、Σ7、Σ11、Σ17、Σ19、Σ21、Σ23、及びΣ29型結晶粒界(=Σ3‐29型結晶粒界)の結晶粒界を合計した全長さの80%超であり、結晶粒界性格分布は、EBSDによって測定される、切削工具インサート。
【請求項2】
前記少なくとも1つのα‐Al2O3層における前記Σ3型結晶粒界の長さが、Σ3‐29型結晶粒界の結晶粒界を合計した前記全長さの82%から99%、又は84%から97%、又は86%から92%であり、前記結晶粒界性格分布は、EBSDによって測定される、請求項1に記載の切削工具インサート。
【請求項3】
前記コーティングが、前記基材面に隣接する第一の層を含んでなり、前記第一の層は、Ti、Zr、V、及びHfのうちの1つ以上の炭化物、窒化物、炭窒化物、若しくはオキシ炭窒化物、又はこれらの組み合わせから成り、CVD又はMT‐CVDを用いて堆積され、1から20μmの厚さを有する、請求項1又は2のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項4】
前記コーティングが、前記基材面と前記第一の層との間に中間層を含んでなり、前記中間層は、窒化チタン、TiNから成り、CVD又はMT‐CVDを用いて堆積され、5μm未満の厚さを有する、請求項3に記載の切削工具インサート。
【請求項5】
前記α‐Al2O3層が、前記第一の層の上に堆積される、請求項3又は4のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項6】
a)前記コーティングの最上層が、前記α‐Al2O3層であるか、又は、
b)前記コーティングの最上層が、前記α‐Al2O3層の上に堆積され、0.5から3μmの厚さを有するTi、Zr、V、及びHfのうちの1つ以上の炭化物、窒化物、炭窒化物、若しくはオキシ炭窒化物、又はこれらの組み合わせの層であるか、又は、
c)前記切削工具インサートの面領域が、前記α‐Al2O3層a)を最上層として含んでなり、一方前記切削工具インサートの残りの面領域が、前記α‐Al2O3層の上に堆積され、0.5から3μmの厚さを有するTi、Zr、V、及びHfのうちの1つ以上の炭化物、窒化物、炭窒化物、若しくはオキシ炭窒化物、又はこれらの組み合わせの層b)を最上層として含んでなる、
請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項7】
前記基材が、超硬合金から成る、請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項8】
前記基材が、前記基材面から5から30μmの厚さを有するバインダー相濃縮面ゾーン(binder phase enriched surface zone)を含んでなる超硬合金から成り、前記バインダー相濃縮面ゾーンは、前記基材のコアよりも少なくとも1.5倍高いCo含有量を有し、及び前記基材のコアにおける立方晶炭化物の含有量の0.5倍未満である立方晶炭化物の含有量を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
【請求項9】
前記少なくとも1つのα‐Al2O3層が、化学蒸着(CVD)によって堆積されるものであり、前記CVDプロセスの反応ガスは、H2、CO2、AlCl3、及びX、並びに所望に応じて添加してよいN2及びArを含んでなり、Xは、気体H2S、SO2、SF6、又はこれらの組み合わせであり、ここで、CVD反応チャンバー中におけるCO2及びXの体積比は、2<CO2/X<10の範囲内に入る、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削工具インサートを製造する方法。
【請求項10】
前記CVD反応チャンバー中におけるCO2及びXの前記体積比が、3<CO2/X<8の範囲内に入る、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記CVD反応チャンバー中における前記成分X、又は前記複数の成分Xの組み合わせの体積比率が、前記CVD反応チャンバー中のガスの全体積に対して0.2体積%から5.0体積%の範囲内に入る、請求項9又は10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記CVD反応チャンバー中におけるCO2/AlCl3の体積比が、1.5と等しいか若しくはそれよりも小さく、及び/又は前記CVD反応チャンバー中におけるAlCl3/HClの体積比が、1と等しいか若しくはそれよりも小さい、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記CVDプロセスにおける前記成分Xが、H2S、又はSO2、又はH2S及びSO2の組み合わせであり、ここで、前記CVDプロセスにおける前記成分XがH2S及びSO2の組み合わせである場合、SO2の体積比率は、H2Sの体積量の20%を超えない、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記CVDプロセスの前記反応ガスが、前記CVD反応チャンバー中のガスの全体積に対して4から20体積%の範囲の体積量でのN2及び/又はArの添加を含んでなる、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記CVDプロセスが、850から1050℃の範囲の温度で行われ、及び/又は前記CVDプロセスが、50から120ミリバールの範囲の反応ガス圧で行われる、請求項9から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金、サーメット、セラミック、スチール、若しくは立方晶窒化ホウ素(CBN)などの超硬質物質の基材、及び少なくとも1つの層がα‐Al
2O
3層である1つ以上の耐熱性層から成る硬質コーティングから成る切削工具インサート、並びに切削工具インサートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶粒界は、結晶粒成長などの物質特性、クリープ特性、拡散特性、電気特性、光学特性、及び最後になったが重要な特性である機械特性に大きな影響を及ぼす。考慮すべき重要な特性としては、例えば、物質中の結晶粒界密度、界面の化学組成、及び結晶学的組織、すなわち結晶粒界面方位及び結晶粒方位差である。対応格子(CSL)結晶粒界が、特殊な役割を果たしている。CSL結晶粒界は、多重度インデックス(multiplicity index)Σによって特徴付けられ、それは、結晶粒界で接している2つの結晶粒の結晶格子部位密度と、両結晶格子を重ね合わせた場合に対応する部位の密度との比率として定義される。単純な構造の場合、低Σ値の結晶粒界は、低界面エネルギー及び特殊な特性を有する傾向にあることが一般的に認められている。従って、特殊結晶粒界の割合、及びCSLモデルから推定される結晶粒方位差の分布の制御は、セラミックの特性、及びこれらの特性を向上させる方法にとって重要であると考えることができる。
【0003】
近年、電子線後方散乱回折(EBSD)として知られる走査型電子顕微鏡(SEM)に基づく技術が出現し、セラミック物質中の結晶粒界の研究に用いられている。EBSD技術は、後方散乱電子によって発生する菊池回折パターンの自動分析に基づいている。この方法のレビューは、非特許文献1に提供されている。研究すべき物質の各結晶粒について、結晶学的方位は、対応する回折パターンのインデックス後に決定される。市販のソフトウェアにより、組織分析、並びに結晶粒界性格分布(GBCD)の決定が、EBSDを用いることによって比較的容易に行われる。EBSDを界面に適用することにより、結晶粒界の方位差を、界面の大きなサンプル集団について特性決定することが可能となった。通常、方位差分布は、物質の処理条件と関連付けられている。結晶粒界方位差は、オイラー角、角/軸対(angle/axis pair)、又はロドリゲスベクトルなどの通常の方位パラメータによって得られる。CSLモデルは、特性決定用のツールとして広く用いられている。過去10年の間に、結晶粒界工学(GBE)として知られる研究分野が登場してきた。GBEの目的は、より良好なプロセス条件を開発することによって結晶粒界の結晶学を向上させ、それによってより良好な物質を得ることである。最近、EBSDが、硬質コーティングの特性決定に用いられてきており、参考文献として、非特許文献2を参照されたい。
【0004】
特許文献1は、上側層が1から15μmの範囲の平均層厚さを有するα‐Al
2O
3層から成るアルミナ層である工具コーティングを開示しており、ここで、α‐Al
2O
3層は、EBSDを用いて分析したΣ3の全ΣN+1に対する分布比が、60から80%の範囲である(Nは、コランダム型六方最密構造を考えると、2以上のいずれかの偶数であるが、分布頻度(distribution frequencies)の観点からNの上限が28である場合、4、8、14、24、及び26などの偶数は存在しない)。コーティングは、高速断続切削において非常に優れた耐チッピング性を示すと主張されている。特許文献1に従うα‐Al
2O
3コーティングの堆積は、H
2‐CO
2‐AlCl
3‐H
2S系から行われ、ここで、H
2Sは、0.1〜0.2体積%の範囲で、CO
2は、11.2〜15体積%の範囲で適用される。CO
2/H
2Sの比は、特許文献1に従うコーティングすべてにおいて、75よりも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7,442,433A号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D.J. Prior, A.P. Boyle, F. Brenker, M.C. Cheadle, A. Day, G. Lopez, L. Peruzzo, G.J. Potts, S.M. Reddy, R. Spiess, N.E. Timms, P.W. Trimby, J. Wheeler, L. Zetterstrom, The application of electron backscatter diffraction and orientation contrast imaging in the SEM to textural problems in rocks, Am. Mineral. 84 (1999) 1741-1759
【非特許文献2】H. Chien, Z. Ban, P. Prichard, Y. Liu, G.S. Rohrer, "Influence of Microstructure on Residual Thermal Stresses in TiCxN1-x and alpha-Al2O3 Coatings on WC-Co Tool Inserts," Proceedings of the 17th Plansee Seminar 2009 (Editors: L.S. Sigl, P. Rodhammer, H. Wildner, Plansee Group, Austria) Vol. 2, HM 42/1-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、先行技術と比較して改善された切削特性、改善された耐チッピング性、及び改善された耐クレータ摩耗性を示す、α‐Al
2O
3層を有するコーティングされた切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、超硬合金、サーメット、セラミック、スチール、若しくは立方晶窒化ホウ素(CBN)などの超硬質物質の基材、及び全厚さが5から40μmであるコーティングから成る切削工具インサートを提供し、このコーティングは、少なくとも1つの層が1から20μmの厚さのα‐Al
2O
3層である1つ以上の耐熱性層から成り、ここで、少なくとも1つのα‐Al
2O
3層中のΣ3型結晶粒界の長さは、Σ3、Σ7、Σ11、Σ17、Σ19、Σ21、Σ23、及びΣ29型結晶粒界(=Σ3‐29型結晶粒界)の結晶粒界を合計した全長さの80%超であり、この結晶粒界性格分布は、EBSDによって測定される。
【0009】
本発明の切削工具インサートのコーティングは、α‐Al
2O
3相が堆積されたままの状態であるα‐Al
2O
3から成る新規な改善されたアルミナ層を含んでなり、ここで、Σ3型結晶粒界が、EBSDによって測定された結晶粒界性格分布において支配的となっている。驚くべきことに、切削工具インサートの改善された切削特性、改善された耐チッピング性、及び改善された耐クレータ摩耗性は、Σ3‐29型結晶粒界の結晶粒界を合計した全長さの80%超がΣ3型の結晶粒界である場合に達成することができることが見出された。本発明の方法と関連付けて考察されるように、EBSDによって測定された本発明の支配的なΣ3型結晶粒界性格分布は、特定の堆積条件によって制御することができる。本発明は、極めて高い量のΣ3型の結晶粒界を得ることができるように、高度な結晶粒界工学(GBE)によってα‐Al
2O
3コーティングの特性を向上するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の切削工具インサートの好ましい実施形態では、少なくとも1つのα‐Al
2O
3層におけるΣ3型結晶粒界の長さは、Σ3‐29型結晶粒界の結晶粒界を合計した全長さの82%から99%、又は84%から97%、又は86%から92%であり、この結晶粒界性格分布は、EBSDによって測定される。少なくとも1つのα‐Al
2O
3層におけるΣ3型結晶粒界の長さが、Σ3‐29型結晶粒界の結晶粒界を合計した全長さの95%超である場合、それは非常に好ましい。
【0011】
本発明の切削工具インサートの別の好ましい実施形態では、コーティングは、基材面に隣接する第一の層を含んでなり、第一の層は、Ti、Zr、V、及びHfのうちの1つ以上の炭化物、窒化物、炭窒化物、若しくはオキシ炭窒化物、又はこれらの組み合わせから成り、CVD又はMT‐CVDを用いて堆積され、1から20μm、好ましくは5から10μmの厚さを有するものであり、好ましくは、第一の層は、炭窒化チタン、Ti(CN)から成る。このタイプの層は、本発明のタイプのα‐Al
2O
3層と組み合わせると、本発明の切削工具インサートに改善された耐フランク摩耗性を提供することが見出された。
【0012】
本発明の切削工具インサートのさらに別の好ましい実施形態では、コーティングは、基材面と第一の層との間に中間層を含んでなり、この中間層は、窒化チタン、TiNから成り、CVD又はMT‐CVDを用いて堆積され、5μm未満、好ましくは0.3から3μm、より好ましくは0.5から2μmの厚さを有する。このタイプの中間層を、基材面と第一の層との間に提供することにより、第一の層の接着性が改善され、従って、本発明のα‐Al
2O
3層の接着性も改善されることが見出された。
【0013】
好ましくは、本発明のα‐Al
2O
3層は、前記第一の層の上に直接堆積される。しかし、第一の層とα‐Al
2O
3層との間の1つ以上の追加の中間層も、本発明に従って提供されてよい。
【0014】
本発明の切削工具インサートのさらに別の好ましい実施形態では、
a)コーティングの最上層は、α‐Al
2O
3層であるか、又は、
b)コーティングの最上層は、α‐Al
2O
3層の上に堆積され、0.5から3μm、好ましくは0.5から1.5μmの厚さを有するTi、Zr、V、及びHfのうちの1つ以上の炭化物、窒化物、炭窒化物、若しくはオキシ炭窒化物、又はこれらの組み合わせの層であるか(トップコーティング)、又は、
c)切削工具インサートの面領域、好ましくは切削工具インサートのすくい面は、α‐Al
2O
3層a)を最上層として含んでなり、一方切削工具インサートの残りの面領域は、α‐Al
2O
3層の上に堆積され、0.5から3μm、好ましくは0.5から1.5μmの厚さを有するTi、Zr、V、及びHfのうちの1つ以上の炭化物、窒化物、炭窒化物、若しくはオキシ炭窒化物、又はこれらの組み合わせの層b)を最上層として含んでなる。
【0015】
α‐Al
2O
3層の上のトップコーティング層は、摩耗指標として、又はその他の機能の層として提供することができる。切削工具インサートの面領域の一部のみ、好ましくは切削工具インサートのすくい面が、最上層としてα‐Al
2O
3層を含んでなり、一方残りの面領域が、最外層としてトップコーティングによって被覆されている実施形態は、堆積されたトップコーティングを、ブラスティング、又はその他のいずれかの公知の方法によって除去することによって作製することができる。
【0016】
本発明の切削工具インサートのさらに別の好ましい実施形態では、基材は、超硬合金、好ましくは、Co 4から12重量%、所望に応じて含んでいてよい周期表のIVb、Vb、及びVIb族からの金属、好ましくはTi、Nb、Ta、又はこれらの組み合わせの立方晶炭化物 0.5〜10重量%、並びにWC 残量から成る超硬合金から成る。
【0017】
スチールの機械加工用途の場合、超硬合金基材は、好ましくは、周期表のIVb、Vb、及びVIb族からの金属、好ましくはTi、Nb、及びTaの立方晶炭化物を7.0から9.0重量%含有し、鋳鉄の機械加工用途の場合、超硬合金基材は、好ましくは、周期表のIVb、Vb、及びVIb族からの金属、好ましくはTi、Nb、及びTaの立方晶炭化物を0.3から3.0重量%含有する。
【0018】
本発明の切削工具インサートのさらに別の好ましい実施形態では、基材は、基材面から5から30μm、好ましくは10から25μmの厚さを有するバインダー相濃縮面ゾーン(binder phase enriched surface zone)を含んでなる超硬合金から成り、バインダー相濃縮面ゾーンは、基材のコアよりも少なくとも1.5倍高いCo含有量を有し、基材のコアにおける立方晶炭化物の含有量の0.5倍未満である立方晶炭化物の含有量を有する。この実施形態におけるα‐Al
2O
3層の厚さは、好ましくは、約4から12μmであり、最も好ましくは、4から8μmである。
【0019】
好ましくは、超硬合金本体のバインダー相濃縮面ゾーンは、本質的に立方晶炭化物を含有しない。バインダー相濃縮面ゾーンは、基材の靭性を向上し、工具の適用範囲を広げるものである。バインダー濃縮面ゾーンを有する基材は、スチールにおける金属切削作業用の切削工具インサートとして特に好ましく、一方、鋳鉄における金属切削作業用の切削工具インサートは、バインダー濃縮面ゾーンなしで作製されることが好ましい。
【0020】
本発明はさらに、本明細書にて定める切削工具インサートを製造する方法も提供し、ここで、前記少なくとも1つのα‐Al
2O
3層は、化学蒸着(CVD)によって堆積されるものであり、このCVDプロセスの反応ガスは、H
2、CO
2、AlCl
3、及びX、並びに所望に応じて添加してよいN
2及びArを含んでなり、Xは、気体H
2S、SO
2、SF
6、又はこれらの組み合わせであり、ここで、CVD反応チャンバー中におけるCO
2及びXの体積比は、2<CO
2/X<10の範囲内に入る。
【0021】
驚くべきことに、EBSDによって得られる本発明の支配的なΣ3型結晶粒界性格分布は、特定の堆積条件によって制御することができることが見出された。本発明の種類のΣ3型結晶粒界性格は、α‐Al
2O
3の堆積の過程でのCVD反応におけるCO
2及びXの体積比の制御によって達成することができる。体積比CO
2/Xが2よりも低い場合、α‐Al
2O
3層の成長速度が低過ぎてしまう。体積比CO
2/Xが10よりも高い場合、Σ3型結晶粒界の量が減少してしまう。
【0022】
本発明の方法の好ましい実施形態において、CVD反応チャンバー中におけるCO
2及びXの体積比は、3<CO
2/X<8、好ましくは4<CO
2/X<6の範囲内に入る。Σ3型結晶粒界の量は、体積比CO
2/Xがこれらの好ましい範囲内に入る場合、特にSO
2の存在下にて、さらに増加することができることが見出された。
【0023】
本発明の方法の別の好ましい実施形態において、CVD反応チャンバー中における成分X、又は成分Xの組み合わせの体積比率は、CVD反応チャンバー中のガスの全体積に対して0.2体積%から5.0体積%、好ましくは0.5体積%から3.0体積%、より好ましくは0.6体積%から2.0体積%の範囲内に入る。
【0024】
成分Xの体積比率が0.2体積%未満である場合、通常は、得られる堆積速度が低すぎてしまう。H
2Sが用いられる場合、H
2Sは可燃性であり、極めて有害なガスであることから、原則として、高すぎるレベルのH
2Sは避けるべきである。空気中のH
2Sの存在及びその濃度について、硫化水素検出器又はこのガスを検出する多種類ガスメータ(multi-gas meter)などの空気モニタリング装置を用いて、資格を有する責任者が試験を行わなければならない。火災及び爆発に対する予防策も講じる必要がある。
【0025】
本発明の方法のさらに別の好ましい実施形態において、CVD反応チャンバー中におけるCO
2/AlCl
3の体積比は、1.5と等しいか若しくはそれよりも小さく、及び/又はCVD反応チャンバー中におけるAlCl
3/HClの体積比は、1と等しいか若しくはそれよりも小さい。驚くべきことに、CVD反応チャンバー中におけるCO
2/AlCl
3の体積比を最大1.5までに制限することが、高い量のΣ3型の結晶粒界の形成に寄与することができることが見出された。さらに、CVD反応チャンバー中におけるAlCl
3/HClの体積比を最大1.0までに制限することも、高い量のΣ3型の結晶粒界の形成に寄与することができることが見出された。両方の条件が満たされると、Σ3型の結晶粒界の形成を、さらに改善することができる。
【0026】
本発明の方法のさらに別の好ましい実施形態において、CVDプロセスにおける成分Xは、H
2S、又はSO
2、又はH
2S及びSO
2の組み合わせであり、ここで、CVDプロセスにおける成分XがH
2S及びSO
2の組み合わせである場合、SO
2の体積比率は、H
2Sの体積量の20%を超えない。H
2S及びSO
2の組み合わせにおけるSO
2の量がH
2Sの体積量の20%を超えると、コーティングの均一性が低下し、その結果としていわゆる「ドッグボーン効果(dog-bone effect)」が生じてしまうことが見出された。
【0027】
本発明の方法のさらに別の好ましい実施形態において、CVDプロセスの反応ガスは、CVD反応チャンバー中のガスの全体積に対して4から20体積%、好ましくは10から15体積%の範囲の体積量でのN
2及び/又はArの添加を含んでなる。
【0028】
本発明の方法のさらに別の好ましい実施形態において、CVDプロセスは、850から1050℃、好ましくは950から1050℃、最も好ましくは980から1020℃の範囲の温度で行われ、及び/又はCVDプロセスは、50から120ミリバール、好ましくは50から100ミリバールの範囲の反応ガス圧で行われる。
【0029】
本発明の方法に従ってα‐Al
2O
3層を堆積させることにより、Σ3型結晶粒界の全長さが、Σ3、Σ7、Σ11、Σ17、Σ19、Σ21、Σ23、及びΣ29型結晶粒界(=Σ3‐29型結晶粒界)の結晶粒界を合計した全長さの80%超であるように、Σ3型結晶粒界の量を制御することができる。以下の実施例で示されるように、この種類のコーティングは、先行技術のコーティングと比較して、高速断続切削における非常に優れた耐チッピング性、及び連続旋削における向上された耐クレータ摩耗性を示す。
【0030】
EBSDサンプル処理及び測定
本発明において、結晶粒界の分布は、本明細書で述べるように、EBSDによって調べた。EBSD技術は、後方散乱電子によって発生する菊池回折パターンの自動分析に基づいている。参考文献として:D.J. Prior, A.P. Boyle, F. Brenker, M.C. Cheadle, A. Day, G. Lopez, L. Peruzzo, G.J. Potts, S.M. Reddy, R. Spiess, N.E. Timms, P.W. Trimby, J. Wheeler, L. Zetterstrom, The application of electron backscatter diffraction and orientation contrast imaging in the SEM to textural problems in rocks, Am. Mineral. 84 (1999) 1741-1759、を参照されたい。各結晶粒について、結晶学的方位は、対応する回折パターンのインデックス後に決定される。市販のソフトウェアを用いた。
【0031】
アルミナコーティング面を、EBSD用に調製した。まず、コーティング面を、平均粒子サイズ3μm及び1μmのダイヤモンドのスラリーをそれぞれ用いて、順に研磨した。次に、平均粒子サイズ0.04μmのコロイド状シリカを用いてサンプルを研磨した。研磨面が平滑であり、元のコーティング面に対して平行であることを確実にするように注意した。続いて、この試験片を超音波洗浄し、その後EBSDで調べた。
【0032】
洗浄後、α‐Al
2O
3コーティングの研磨面を、EBSDを備えたSEMによって調べた。SEMは、HKL NL02 EBSD検出器を備えたZeiss Supra 55 VPを用いた。EBSDデータは、集束電子ビームを各ピクセル上へ個別に位置させることによって順に収集した。サンプル面の法線は、入射ビームに対して70°傾斜させ、分析は、15kVにて行った。帯電効果を避けるために、10Paの圧力を印加した。開口径60μm又は120μmと合わせて高電流モードを用いた。データ収集は、研磨面上、50×30μmの面領域に相当する500×300ポイントについて、0.1μm/ステップのステップにて行った。データ処理は、ノイズフィルタリング有り及び無しで行った。ノイズフィルタリング及び結晶粒界性格分布は、市販のソフトウェアを用いて決定した。結晶粒界性格分布の分析は、Grimmer(H. Grimmer, R. Bonnet, Philosophical Magazine A 61 (1990) 493-509)から入手可能であるデータに基づいて行った。ブランドンの条件(Brandon criterion)(ΔΘ<Θ
0(Σ)
-0.5、ここで、Θ
0=15°)を用いて、実験値の理論値からの許容誤差を考慮に入れた(D. Brandon Acta metall. 14 (1966) 1479-1484)。任意のΣ値に対応する特殊結晶粒界を計数し、全結晶粒界に対する比として表した。
【0033】
本発明の目的及び本明細書における定義のために、Σ型結晶粒界の算出のためのΣ値は、ノイズリダクション無しでのEBSDデータに基づいている。試験片の調製は、充分な平滑性を有するように、本明細書で述べるように行われるよう注意すべきである。本発明の目的のために用いたソフトウェアは、Flamenco、バージョン5.0.9.0と称するオックスフォードインスツルメンツ(Oxford Instruments)からのHKLデータ収集ソフトウェアであった。結晶粒界分析には、Tangoと称するオックスフォードインスツルメンツからのHKL後処理ソフトウェアを用いた。
本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]−[15]に記載する。
[1]
超硬合金、サーメット、セラミック、スチール、若しくは立方晶窒化ホウ素(CBN)などの超硬質物質の基材、
及び、全厚さが5から40μmであるコーティングであって、前記コーティングは、少なくとも1つの層が1から20μmの厚さを有するα‐Al2O3層である1つ以上の耐熱性層から成る、コーティング、
から成り、
ここで、前記少なくとも1つのα‐Al2O3層中のΣ3型結晶粒界の長さは、Σ3、Σ7、Σ11、Σ17、Σ19、Σ21、Σ23、及びΣ29型結晶粒界(=Σ3‐29型結晶粒界)の結晶粒界を合計した全長さの80%超であり、結晶粒界性格分布は、EBSDによって測定される、切削工具インサート。
[2]
前記少なくとも1つのα‐Al2O3層における前記Σ3型結晶粒界の長さが、Σ3‐29型結晶粒界の結晶粒界を合計した前記全長さの82%から99%、又は84%から97%、又は86%から92%であり、前記結晶粒界性格分布は、EBSDによって測定される、項目1に記載の切削工具インサート。
[3]
前記コーティングが、前記基材面に隣接する第一の層を含んでなり、前記第一の層は、Ti、Zr、V、及びHfのうちの1つ以上の炭化物、窒化物、炭窒化物、若しくはオキシ炭窒化物、又はこれらの組み合わせから成り、CVD又はMT‐CVDを用いて堆積され、1から20μm、好ましくは5から10μmの厚さを有し、好ましくは、前記第一の層は、炭窒化チタン、Ti(CN)から成る、項目1又は2のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
[4]
前記コーティングが、前記基材面と前記第一の層との間に中間層を含んでなり、前記中間層は、窒化チタン、TiNから成り、CVD又はMT‐CVDを用いて堆積され、5μm未満、好ましくは0.3から3μm、より好ましくは0.5から2μmの厚さを有する、項目3に記載の切削工具インサート。
[5]
前記α‐Al2O3層が、前記第一の層の上に堆積される、項目3又は4のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
[6]
a)前記コーティングの最上層が、前記α‐Al2O3層であるか、又は、
b)前記コーティングの最上層が、前記α‐Al2O3層の上に堆積され、0.5から3μm、好ましくは0.5から1.5μmの厚さを有するTi、Zr、V、及びHfのうちの1つ以上の炭化物、窒化物、炭窒化物、若しくはオキシ炭窒化物、又はこれらの組み合わせの層であるか、又は、
c)前記切削工具インサートの面領域、好ましくは前記切削工具インサートのすくい面が、前記α‐Al2O3層a)を最上層として含んでなり、一方前記切削工具インサートの残りの面領域が、前記α‐Al2O3層の上に堆積され、0.5から3μm、好ましくは0.5から1.5μmの厚さを有するTi、Zr、V、及びHfのうちの1つ以上の炭化物、窒化物、炭窒化物、若しくはオキシ炭窒化物、又はこれらの組み合わせの層b)を最上層として含んでなる、
項目1から5のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
[7]
前記基材が、超硬合金、好ましくは、Co 4から12重量%、所望に応じて含んでいてよい周期表のIVb、Vb、及びVIb族からの金属、好ましくはTi、Nb、Ta、又はこれらの組み合わせの立方晶炭化物 0.5〜10重量%、並びにWC 残量から成る超硬合金、から成る、項目1から6のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
[8]
前記基材が、前記基材面から5から30μm、好ましくは10から25μmの厚さを有するバインダー相濃縮面ゾーン(binder phase enriched surface zone)を含んでなる超硬合金から成り、前記バインダー相濃縮面ゾーンは、前記基材のコアよりも少なくとも1.5倍高いCo含有量を有し、及び前記基材のコアにおける立方晶炭化物の含有量の0.5倍未満である立方晶炭化物の含有量を有する、項目1から7のいずれか一項に記載の切削工具インサート。
[9]
前記少なくとも1つのα‐Al2O3層が、化学蒸着(CVD)によって堆積されるものであり、前記CVDプロセスの反応ガスは、H2、CO2、AlCl3、及びX、並びに所望に応じて添加してよいN2及びArを含んでなり、Xは、気体H2S、SO2、SF6、又はこれらの組み合わせであり、ここで、CVD反応チャンバー中におけるCO2及びXの体積比は、2<CO2/X<10の範囲内に入る、項目1から8のいずれか一項に記載の切削工具インサートを製造する方法。
[10]
前記CVD反応チャンバー中におけるCO2及びXの前記体積比が、3<CO2/X<8、好ましくは4<CO2/X<6の範囲内に入る、項目9に記載の方法。
[11]
前記CVD反応チャンバー中における前記成分X、又は前記複数の成分Xの組み合わせの体積比率が、前記CVD反応チャンバー中のガスの全体積に対して0.2体積%から5.0体積%、好ましくは0.5体積%から3.0体積%、より好ましくは0.6体積%から2.0体積%の範囲内に入る、項目9又は10のいずれか一項に記載の方法。
[12]
前記CVD反応チャンバー中におけるCO2/AlCl3の体積比が、1.5と等しいか若しくはそれよりも小さく、及び/又は前記CVD反応チャンバー中におけるAlCl3/HClの体積比が、1と等しいか若しくはそれよりも小さい、項目9から11のいずれか一項に記載の方法。
[13]
前記CVDプロセスにおける前記成分Xが、H2S、又はSO2、又はH2S及びSO2の組み合わせであり、ここで、前記CVDプロセスにおける前記成分XがH2S及びSO2の組み合わせである場合、SO2の体積比率は、H2Sの体積量の20%を超えない、項目9から12のいずれか一項に記載の方法。
[14]
前記CVDプロセスの前記反応ガスが、前記CVD反応チャンバー中のガスの全体積に対して4から20体積%、好ましくは10〜15体積%の範囲の体積量でのN2及び/又はArの添加を含んでなる、項目9から13のいずれか一項に記載の方法。
[15]
前記CVDプロセスが、850から1050℃、好ましくは950から1050℃、最も好ましくは980から1020℃の範囲の温度で行われ、及び/又は前記CVDプロセスが、50から120ミリバール、好ましくは50から100ミリバールの範囲の反応ガス圧で行われる、項目9から14のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施例3に従う旋削試験後の、先行技術に従うコーティング2を有する切削インサートのすくい面。
【
図2】実施例3に従う旋削試験後の、本発明に従うコーティング6を有する切削インサートのすくい面。
【実施例】
【0035】
実施例1 − α‐Al
2O
3コーティング
6.0重量%Co及び残量WCの組成である切削インサート用超硬合金基材(硬度約1600HV)を、0.6体積%CH
3CN、3.8体積%TiCl
4、20体積%N
2、及び残量H
2を用いたMT‐CVDを適用することによって、Ti(C,N)層でコーティングした。Ti(C,N) MT‐CVD層の厚さは、約5μmであった。
【0036】
別々の基材サンプルのこのTi(C,N)層上に、約8μmのα‐Al
2O
3から成る7種類の異なる層を、CVDを適用することによって堆積し、これらは、本明細書にて、コーティング1から7と称する。以下のインサート形状をコーティングした:SNUN140408(特にEBSD研究用)、CNMG120412、WNMG080412‐NM4、WNMG080416‐NM9、DNMG150608‐NM4。α‐Al
2O
3についてのコーティングパラメータを表1に示す。
【0037】
α‐Al
2O
3の堆積は、MTCVD層の上に、H
2‐N
2‐CO‐TiCl
4‐AlCl
3系から、0.05μmから約1μm、好ましくは0.5μmから約1μm厚さの結合層を、50から100ミリバールの圧力にて堆積することによって開始した。結合層の作製では、MTCVD層を、3体積%TiCl
4、0.5体積%AlCl
3、4.5体積%CO、30体積%N
2、及び残量H
2のガス混合物で、約1000℃の温度にて約30分間処理した。この堆積に続いて、H
2を用いた10分間のパージを行い、その後次の工程を開始した。
【0038】
この(Ti,Al)(C,N,O)結合層上に、4体積%CO
2、9体積%CO、25体積%N
2、残量H
2のガス混合物により、約750から1050℃、好ましくは約980から1020℃、最も好ましくは1000から1020℃の温度にて前記層を5〜10分間処理することによって、α‐Al
2O
3を核形成させた(P=80から100ミリバール)。この酸化に続いて、Arを用いた10分間のパージを行った。
【0039】
アルミナの堆積は、表1に示す体積量のAlCl
3、CO
2、Ar
2、N
2、HCl、及びH
2のガス混合物を、前駆体X無しにて、約1000℃の温度にて約10分間導入することによって開始した。これらの前駆体は、HCl以外は、同時に分流により流入させた(shunted)。HCl流は、開始の2分後に、分流により反応器へ流入させた(X導入の8分前)。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例2 − EBSD試験
実施例1のサンプルのアルミナ層を、研磨及び洗浄し、次に、EBSD測定を、EBSDサンプル処理及び測定について上述したように行った。
【0042】
Σ3型結晶粒界の相対量に関するEBSD測定の結果を、ノイズリダクション有り及び無しのデータとして表2に示す。表2から分かるように、全Σ3‐29型結晶粒界に対するΣ3型結晶粒界の量は、ノイズリダクションの結果として減少している。ノイズリダクションの結果としてのこの減少は、Σ3型結晶粒界の割合が低い先行技術のコーティングの方が大きい。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例3 − 旋削試験
WNMG080412‐NM4インサート上に堆積した実施例1のコーティング2及び6を、以下の切削パラメータを用い、切削油剤無しでカーボンスチール(C45)にて試験した:
形状:WNMG080412‐NM4
切削速度(vc)=280m/分
フィード(f)=0.32mm/rev
切削深さ(ap)=2.5mm
【0045】
12分間の旋削後のインサートのすくい面を、
図1(コーティング2 − 先行技術)及び
図2(コーティング6 − 本発明)に示す。本発明に従うインサートは、非常に少ないクレータ摩耗を示した。
【0046】
実施例4 − 旋削試験
WNMG080412‐NM4インサート上に堆積した実施例1のコーティング3、6、及び7を、以下の切削パラメータを用い、切削油剤無しでカーボンスチール(C45)にて試験した:
形状:WNMG080412‐NM4
切削速度(v
c)=220m/分
フィード(f)=0.32mm/rev
切削深さ(a
p)=2.5mm
【0047】
工具寿命を表3に示す。Σ3型結晶粒界の割合が高いコーティング6及び7を有するインサート(本発明)は、優れた耐クレータ摩耗性を示した。
【0048】
【表3】
【0049】
実施例5 − エッジ靭性試験
CNMG120412インサート上に堆積した実施例1のコーティング3、6、及び7を、以下の切削パラメータを用い、鋳鉄(GG25)の長さ方向の旋削において、エッジ靭性(耐チッピング性)について試験した:
インサート形状:CNMG120412
切削速度:v
c=300m/分
フィード(f)=0.32mm/rev
切削深さ:a
p=2.5mm
【0050】
インサートを、4及び8分間の切削後に検査した。表4に示すように、先行技術のコーティングと比較して、コーティングが本発明に従って作製された場合、エッジ靭性は大きく向上していた。
【0051】
【表4】