(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
2つのレーザガス循環経路に位相が180度異なる高周波電力を出力することが可能なレーザ電源を備えたガスレーザ発振器が知られている(例えば、特許文献1及び2)。このようなガスレーザ発振器は、放電負荷(放電管、補助電極、レーザガス)とインピーダンスの整合(放電管電圧が最大となるよう共振)をとるための、コイル及びコンデンサから成るマッチングユニットを備えている。レーザ電源は、マッチングユニットを介して、複数個の放電管及び補助電極に高周波電力を供給する。
【0003】
放電管の放電(主放電)を開始させるためには、補助電極の放電(補助放電)を開始させておく必要がある。補助放電を開始させていない状態で、レーザ電源の出力を高めた場合は、放電管に過大な電圧が印加され、レーザ電源に過大な電流が流れ、その結果、各々が破損するか、あるいはアラームを発生して停止する恐れがある。
【0004】
特許文献1には、レーザガスが循環する放電管の上流側に補助電極を備え、主放電を開始させる前に補助放電から電子を供給することで主放電を安定して確実に開始させる技術が開示されている。しかしながら、放電管の個数分の補助電極が必要となり、コスト削減が困難であるという問題があった。
【0005】
特許文献2には、放電管に貫通穴を設け、補助電極の個数を増やすことで主放電の安定化を図る技術が開示されている。しかしながら、放電管自体のコスト増の他、高価な放電管と補助電極を定期的に交換する必要があった。さらに、補助電極を設けた箇所(Oリング)からレーザガスがリークし、レーザパワーの低下やアーク放電による放電管の破損などの重大なリーク障害につながるリスクが増えるという課題があった。
【0006】
このように、従来技術においては、主放電を確実に安定して開始させるためには、放電管に対して同等数の補助電極が必要であるという問題があった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1に係るガスレーザ発振器の構成図である。
【
図2】本発明の実施例1に係るガスレーザ発振器におけるレーザ電源、マッチングユニット、放電管、及び補助電極の構成図である。
【
図3】本発明の実施例1に係るガスレーザ発振器におけるレーザ電源、マッチングユニット、放電管、及び補助電極の回路図である。
【
図4】第1経路及び第2経路の各放電管に位相が180°異なる電圧を印加する場合の電圧波形の例である。
【
図5】第1経路及び第2経路の各放電管に位相が180°異なり、ピーク電圧が異なる電圧を印加する場合の電圧波形の例である。
【
図6】第1経路及び第2経路の各放電管にピーク値が同じ電圧を印加する場合と、ピーク値が異なる電圧を印加する場合のレーザ電源をオンしてからの電圧の時間的変化を表す図である。
【
図7】本発明の実施例2に係るガスレーザ発振器の構成図である。
【
図8】本発明の実施例2に係るガスレーザ発振器におけるレーザ電源、マッチングユニット、放電管、及び補助電極の構成図である。
【
図9】本発明の実施例2に係るガスレーザ発振器におけるレーザ電源、マッチングユニット、放電管、及び補助電極の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係るガスレーザ発振器について説明する。
【0013】
[実施例1]
まず、本発明の実施例1に係るガスレーザ発振器について説明する。
図1は、本発明の実施例1に係るガスレーザ発振器の構成図である。本発明の実施例1に係るガスレーザ発振器101は、複数のレーザガス循環経路(R1,R2)と、第1放電管111と、第2放電管121と、レーザ電源10と、マッチングユニット20と、を有している。
【0014】
図1に示した例では、マッチングユニット20は、第1マッチングユニット21と、第2マッチングユニット22と、を備えている。第1マッチングユニット21は、第1放電管111及び第2放電管121に接続されており、第2マッチングユニット22は、第3放電管211及び第4放電管221に接続されている。
【0015】
本発明の実施例1に係るガスレーザ発振器101は、さらに、ガスレーザ発振器101の動作を制御するCNC(コンピュータ数値制御装置)60と、レーザ媒質であるガス(レーザガス)を循環させるガス循環システム200と、CNC60及びレーザ電源10との間に介在するインターフェイス部50と、を具備している。インターフェイス部50には、出力指令部51が設けられており、レーザ電源10に対して電圧指令を出力する。
【0016】
レーザ電源10は、ガス循環システム200の一部を形成する第1放電管111及び第2放電管121にマッチングユニット20内の第1マッチングユニット21を介して電力を付与する。
【0017】
ガス循環システム200は、連結ホルダ81を介して互いに連結された第1放電管111及び第3放電管221と、これらに対して並列に接続されていて合流部82を介して互いに連結された第2放電管121及び第4放電管221と、を有している。第1放電管111の連結ホルダ81とは反対側の端部において全反射鏡である第1折返鏡71が設けられている。第3放電管221の連結ホルダ81とは反対側の端部において部分反射鏡である出力鏡70が設けられている。第2放電管121の合流部82とは反対側の端部において全反射鏡である第2折返鏡72とが設けられている。第4放電管221の合流部82とは反対側の端部において、部分反射鏡であるリア鏡73が設けられている。レーザ光を増幅するための光共振器の構成は、図示された例に限定されない。
【0018】
複数のレーザガス循環経路(R1,R2)は、第1経路R1及び第2経路R2を含む。第1経路R1は
図1中の矢印A1、A4、Cに沿った経路であり、第2経路R2は矢印A1、A2、A3に沿った経路である。第1経路R1には第1放電管111が設けられ、第2経路R2には第2放電管121が設けられている。なお、連結ホルダ81を挟んで反対側に設けられたレーザガス循環経路に関して、
図1中の矢印B1、B4、Cに沿った経路を第1経路R1としてもよく、矢印B1、B2、B3に沿った経路を第2経路としてもよい。
【0019】
ガス循環システム200には、励起されて光を発生する性質を有するレーザ媒質であるレーザガスが満たされている。ガス循環システム200は、ターボブロワ84を有している。ターボブロワ84は、吸引側において連結ホルダ81又は合流部82を介して第1〜第4放電管111,121,211,221の各放電管の一端に接続されるとともに、吐出側において、各放電管の他端に接続されている。このターボブロワ84によって、レーザガスは、図中の矢印A1〜A4,B1〜B4によって示されるようにガス循環システム200内を循環する。ターボブロワ84の吸引側及び吐出側には、レーザガスを冷却する第1熱交換器83及び第2熱交換器85がそれぞれ設けられている。第1熱交換器83及び第2熱交換器85には、冷却水を供給する冷却水循環システム92が接続されている。また、ガス循環システム200には、レーザガスの圧力を制御するレーザガス圧制御システム91が接続されている。
【0020】
第1放電管111及び第2放電管121は、第1マッチングユニット21を介して、レーザ電源10内の第1レーザ電源ユニット11に接続されている。第3放電管211及び第4放電管221は、第2マッチングユニット22を介して、レーザ電源10内の第2レーザ電源ユニット12に接続されている。レーザ電源10内の第1レーザ電源ユニット11は、第1放電管111に第1高周波電力を供給し、第2放電管121に第1高周波電力とは位相が異なる第2高周波電力を供給する。同様に、レーザ電源10内の第2レーザ電源ユニット12は、第3放電管211に第1高周波電力を供給し、第4放電管221に第1高周波電力とは位相が異なる第2高周波電力を供給する。
【0021】
図2に、本発明の実施例1に係るガスレーザ発振器におけるレーザ電源、マッチングユニット、放電管、及び補助電極の構成図を示す。第1経路R1に設けられる第1放電管は
図2に111,112,113,…と示すように、複数個接続するようにしてもよい。同様に、第2経路R2に設けられる第2放電管は
図2に121,122,123,…と示すように、複数個接続するようにしてもよい。また、第1放電管111,112,113,…の近傍には、第1補助電極311,312,313,…がそれぞれ形成されている。同様に、第2放電管121,122,123,…の近傍には、第2補助電極321,322,323,…がそれぞれ形成されている。なお、
図1に示すように連結ホルダ81を挟んで反対側に設けられた第2放電管211及び第3放電管221の近傍には第3補助電極411及び第4補助電極421がそれぞれ設けられている。
【0022】
図3に、本発明の実施例1に係るガスレーザ発振器におけるレーザ電源、マッチングユニット、放電管、及び補助電極の回路図を示す。マッチングユニット20内の第1マッチングユニット21は、第1経路R1における放電負荷(ガス組成やガス圧、放電管)とインピーダンスの整合(共振)をとるための第1コイルL11及び第1コンデンサC11、並びに第2経路R2における放電負荷とインピーダンスの整合をとるための第2コイルL12及び第2コンデンサC12を含む。なお、第1コンデンサC11と第2コンデンサC12は節点Pで接続され、接点Pは接地されている。
【0023】
CNC60は、図示されないCPU、RAM、ROM等のハードウェア構成を有しており、各種演算処理を実行するとともに、予め定められる動作プログラムに従って、ガスレーザ発振器101を制御する制御指令を出力する。
【0024】
第1経路R1に設けられた第1放電管111への印加電圧の周波数と、第2経路R2に設けられた第2放電管121への印加電圧の周波数は同じである。ガスレーザ発振器101が必要とするレーザパワーに対して、ガス組成やガス圧が設定される。
【0025】
本発明の実施例1に係るガスレーザ発振器においては、第1放電管111に印加される電圧のピーク値と、第2放電管121に印加される電圧のピーク値との差が所定範囲になるように、第1コイルL11、第1コンデンサC11、第2コイルL12、及び第2コンデンサC12の各値が定められていることを特徴とする。第1コイルL11及び第1コンデンサC11から算出されるインピーダンスをZ1とし、第2コイルL12及び第2コンデンサC12から算出されるインピーダンスをZ2とすれば、Z1≠Z2である。また、インピーダンスがゼロとなる共振周波数fはf=1/2π√(LC)で計算できるが、放電管やレーザガスの定数の計算が困難であるため、測定により求めることが好ましい。
【0026】
従来技術では、印加される電圧の位相が180度異なる2つのレーザガス循環経路において等価な定数でマッチングユニットが構成され、各々の負荷である放電管に最も効率良く、等価な放電管電圧が印加される設定となっていた。
図4に、第1経路及び第2経路の各放電管に位相が180°異なる電圧を印加する場合の電圧波形の例を示す。
【0027】
本発明では、どちらか一方のレーザガス循環経路に設けられた放電管に接続されたコイルのインダクタンス値(巻き数)、若しくはコンデンサの定数を従来通り放電管電圧が最大となるように設定し、もう一方のレーザガス循環経路に設けられた放電管に接続されたコイルとコンデンサは、それよりも所定値だけ低くなるように設定する。
図5に、第1経路及び第2経路の各放電管に位相が180°異なり、ピーク電圧が異なる電圧を印加する場合の電圧波形の例を示す。
図5に示した例では、第2経路R2に印加する電圧のピーク電圧が、第1経路R1に印加する電圧のピーク電圧よりも500〜1000[V]低い例を示している。
【0028】
図6に第1経路R1及び第2経路R2の各放電管にピーク値が同じ電圧を印加する場合(
図6(a))と、ピーク値が異なる電圧を印加する場合(
図6(b))のレーザ電源10をオンしてからの電圧の時間的変化を表す図を示す。
図6(a)に示すように、第1経路R1の第1放電管111及び第2経路R2の第2放電管121にピーク値が同じ電圧を印加する場合は、レーザ電源10をオンしてから時間t
1後に、第1放電管111及び第2放電管121においてほぼ同時に放電が開始される。このときの放電管電圧ピーク値をV
P1とする。一方、
図6(b)に示すように、第1経路R1の第1放電管111の放電管電圧を従来通りとし、第2経路R2の第2放電管121の放電管電圧を所定値だけ低くする。そうすると、第1放電管111は時刻t
1´(<t
1)において放電を開始し、第2放電管121は時刻t
1´よりも所定時間だけ後の時刻t
2において放電が開始される。第2放電管121が放電する前に、第1放電管111が放電しているため、この放電が種火となって、第2放電管121は、補助電極による放電がなくても従来よりも低い電圧で放電を開始することができる。従来は第1放電管111と第2放電管121を同時に放電させる必要があるが、本発明では第1放電管111のみ先に放電させるため、従来よりも低い電圧V
P1´(<V
P1)で第1放電管111の放電が開始される。その結果、従来のt
1からt
1´に放電の立ち上がりが速くなる。
【0029】
一例として、
図5に示すように、放電管への最大印
加電圧が4500[V]の場合、2つの経路の放電管に印加するピーク値の差は500〜1000[V]の範囲が好ましい。片方の経路の下げ幅が1000[V]を超えると第1経路と第2経路の絶縁距離をより大きく確保する必要があり、ユニットサイズが大きくなる、絶縁破壊のリスクが大きくなるというデメリットが生じるおそれがある。また、放電管印加電圧を下げ過ぎると十分なレーザパワーが得られなくなる。電圧差が500[V]より小さい場合は、従来技術と同様に本願発明の効果は得られなくなり、放電管電圧が低い方の経路は補助電極が必要となる。
【0030】
以上の説明においては、第1経路R1に接続されたマッチングユニットのコイル及びコンデンサの値と第2経路R2に接続されたマッチングユニットのコイル及びコンデンサの値が異なるように設定する場合を例示したが、レーザ電源内部で類似の構成を設ける方法や、電源内部の出力トランスの巻き数等を変えることによっても第1放電管と第2放電管の印加電圧のピーク値を変えることができる。
【0031】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2に係るガスレーザ発振器について説明する。
図7は、本発明の実施例2に係るガスレーザ発振器の構成図である。本発明の実施例2に係るガスレーザ発振器102が、実施例1に係るガスレーザ発振器101と異なっている点は、第1放電管111及び第2放電管121のうち、ピーク値が高い方の放電管の近傍にのみ補助電極が備えられている点である。実施例2に係るガスレーザ発振器102のその他の構成は、実施例1に係るガスレーザ発振器101における構成と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0032】
図8に、本発明の実施例2に係るガスレーザ発振器におけるレーザ電源、マッチングユニット、放電管、及び補助電極の構成図を示す。また、
図9に、本発明の実施例2に係るガスレーザ発振器におけるレーザ電源、マッチングユニット、放電管、及び補助電極の回路図を示す。
図9において、第1経路R1に接続された第1マッチングユニット21の第1コイルL11及び第1コンデンサC11の値は印加電圧のピーク値が最大となるように設定されている。一方、第2経路R2に接続された第1マッチングユニット21の第2コイルL12及び第2コンデンサC12の値は印加電圧のピーク値が第1経路R1における印加電圧のピーク値より所定の値だけ小さくなるように設定されている。その結果、
図6に示したように、実施例1と同様に、第1経路R1における放電が種火となって、第2経路R2において放電が行われる。そのため、実施例2におけるガスレーザ発振器においては、第2経路R2における補助電極を省略することができる。
【0033】
以上の説明においては、第2経路R2における補助電極を省略する例を示したが、第1経路R1の印加電圧を第2経路R2における印加電圧より小さくすることにより、第1経路R1における補助電極を省略するようにしてもよい。
【0034】
実施例2に係る発明によれば、補助電極の個数を従来に比べて半数にすることが可能となり、装置のコスト減、リーク障害などのリスク低減を実現できる。また、補助電極と放電管(主電極)が独立する構成のため、印加電圧が低い補助電極は定期的な交換が不要(ランニングコスト低減)となるという効果も得られる。