特許第6162788号(P6162788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6162788院内感染に対する易感染性を判定するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162788
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】院内感染に対する易感染性を判定するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20170703BHJP
   G01N 33/577 20060101ALI20170703BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20170703BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20170703BHJP
【FI】
   G01N33/53 V
   G01N33/577 B
   G01N33/543 545A
   !C07K16/28
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-500971(P2015-500971)
(86)(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公表番号】特表2015-513097(P2015-513097A)
(43)【公表日】2015年4月30日
(86)【国際出願番号】FR2013050624
(87)【国際公開番号】WO2013140103
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2016年1月25日
(31)【優先権主張番号】1252641
(32)【優先日】2012年3月23日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511264559
【氏名又は名称】オスピス シヴィル ド リヨン
【氏名又は名称原語表記】HOSPICES CIVILS DE LYON
(73)【特許権者】
【識別番号】304043936
【氏名又は名称】ビオメリュー
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルパープ, アラン
(72)【発明者】
【氏名】ヴネ, ファビエンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラール, アストリッド
(72)【発明者】
【氏名】モヌレ, ギョーム
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−514993(JP,A)
【文献】 特表2008−508895(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/082004(WO,A1)
【文献】 Faucher S、外8名,Development of a quantitative bead capture assay for soluble IL-7 receptor alpha in human plasma.,PLoS One.,2009年 8月,Vol.4,No.8,e6690
【文献】 Venet F、外2名,Clinical review: flow cytometry perspectives in the ICU - from diagnosis of infection to monitoring of injury-induced immune dysfunctions,Crit Care,2011年,Vol.15,No.5,Page.231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
C07K 16/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するための方法であって、
前記患者から採取した生体サンプル又は被験サンプル中のsCD127の発現を測定する工程と、
院内感染していないことが分かっている敗血症性ショック患者から採取した生体サンプルで測定されたsCD127発現量に相当するか、又は、該患者から採取したサンプルのプールで測定されたsCD127発現量の平均値に相当する第1の参照値と比較して、sCD127が前記被験サンプル中で過剰発現していることが明らかになった場合に、院内感染に対する易感染性が高いと結論づける工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記被験サンプル中のsCD127の発現の測定、及び、前記第1の参照値を得るために使用する前記生体サンプル中のsCD127の発現の測定は、敗血症性ショック発症後10日以内又は10日目(D10)に行うことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記被験サンプル中のsCD127の発現の測定、及び、前記第1の参照値を得るために使用する前記生体サンプル中のsCD127の発現の測定は、敗血症性ショック発症後7日以内又は7日目(D7)に行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被験サンプル中のsCD127の発現の測定、及び、前記第1の参照値を得るために使用する前記生体サンプル中のsCD127の発現の測定は、敗血症性ショック発症後4日以内又は4日目(D4)に行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記被験サンプル中のsCD127の発現の測定、及び、前記第1の参照値を得るために使用する前記生体サンプル中のsCD127の発現の測定は、敗血症性ショック発症後3日以内又は3日目(D3)に行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記患者から採取した前記被験サンプルは血漿サンプル又は血清サンプルであることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
sCD127の発現をタンパク質レベルで測定することを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
sCD127の発現をタンパク質レベルでELISA法を用いて測定することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
sCD127の発現を抗sCD127抗体を用いて測定することを特徴とする、請求項1〜6および8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
sCD127の発現をモノクローナル抗sCD127抗体を用いて測定することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するための、イン・ビトロ又はエクス・ビボでのsCD127の測定の使用。
【請求項12】
sCD127の発現をタンパク質レベルで測定することを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
sCD127の発現をタンパク質レベルでELISA法を用いて、測定することを特徴とする、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
sCD127の発現を抗sCD127抗体を用いて測定することを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
sCD127の発現をモノクローナル抗sCD127抗体を用いて測定することを特徴とする、請求項11、12、および14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
生体サンプル中のsCD127の発現をイン・ビトロ又はエクス・ビボで測定するためのキットであって、
前記生体サンプル中のsCD127の発現を測定することを可能にする特異的ツール又は試薬と、
院内感染していることが分かっている敗血症性ショック患者から採取したサンプルのプールで測定された平均量に相当する量のsCD127を含むように調整されたサンプルである陽性対照サンプル、及び/又は、院内感染していないことが分かっている患者から採取したサンプルのプールで測定された平均量に相当する量のsCD127を含むように調整されたサンプルである陰性対照サンプルと
を含むキット。
【請求項17】
前記特異的ツール又は試薬は、sCD127の発現を検出及び/又は定量化することを可能にすることを特徴とする、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記特異的ツール又は試薬は、sCD127の発現をタンパク質レベルで、検出及び/又は定量化することを可能にすることを特徴とする、請求項17に記載のキット。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には医療分野に関し、特に集中治療の分野に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群すなわちSIRSを生じさせる傷害を受けた患者、特に敗血症患者、なかでも重症敗血症患者、好ましくは敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
院内感染は公衆衛生上の大きな問題である。入院患者は、本質的に、免疫適格性を直接損なう病状や全身状態によって、免疫防御が低下したり悪化したりしていることが多い。これらの患者、特に栄養不良の患者又は低年齢児や高齢者の患者(老人や幼児)は、一般的に特に感染しやすく、とりわけ院内感染を発症しやすい。
【0004】
院内感染の発生率は、他の病院内区域に比べて集中治療室において顕著に高い。この区域において院内感染の発生率が高いのは、いくつかの内因性リスク因子の有害な組合せによるものである。そのような内因性リスク因子としては、患者の侵襲的処置(人工呼吸、尿道カテーテルや他のカテーテル挿入)への曝露、患者の重症度(及び関連する併存症)、処置(複数回輸血や鎮静処置)が挙げられる。しかしながら、衛生上及び監視上(外因性リスク)のあらゆる措置をとり、これらの内因性リスク因子を考慮したところで、院内感染の発生率には変化が見られないか、わずかに減少するのみである。
【0005】
したがって、院内感染に対する患者の易感染性を判定することは、個別化を提案したり、致死的転帰を辿る追加のリスクをできるだけ最小限に抑えたりするために不可欠である。
【0006】
本発明者らの知る限り、院内感染に対する易感染性の増大と関連した現在唯一知られている免疫学的マーカーは、院内感染した患者では単球での発現(mHLA−DR)が減少するHLA−DR(ヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen)−DR)マーカーである。しかしながら、フローサイトメトリーによって示されるこのマーカーの発現には特別な設備(フローサイトメーター)が必要であり、この特別な設備は、生物学のプラットフォームでは使用することができず(血液学や免疫学を専門とする研究所での使用に限られる)、使用する際の標準が確立されていない。そのため、mHLA−DRの測定を日常的に行うことはできない。
【0007】
したがって、院内感染に対する患者の易感染性を簡便かつ迅速に予測できる他の免疫学的マーカーに対するニーズが現実に存在する。院内感染するリスクが最も高い患者を特定することができれば、より適合しかつより的の絞られた予防的治療を行うことができるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況において、本発明は、患者の院内感染のリスクが高いことを予測するための新規なバイオマーカー、特に、集中治療室入院患者、及び/又は、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害(手術、やけど、外傷など)を受けた患者、特に敗血症患者、なかでも重症敗血症患者、好ましくは敗血症性ショック患者に対する新規なバイオマーカーを提供することを目的とする。したがって、このバイオマーカーの発現量を測定することにより、院内感染に対する患者の易感染性を簡便かつ迅速に判定することができ、それに応じて必要な予防上の措置をとることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、第1の態様によれば、本発明の主題は、院内感染に対する患者の易感染性を判定する方法であって、
・上記患者から採取した生体サンプル又は被験サンプル中のsCD127の発現を測定する工程と、
・sCD127の発現を参照値と比較した後に、院内感染に対する易感染性が高いと結論づける工程と
を含む方法である。
【0010】
したがって、院内感染に対する易感染性を判定するための本発明の方法は、イン・ビトロ(in vitro)又はエクス・ビボ(ex vivo)で行う方法である。
【0011】
sCD127は、IL−7受容体の一つであるCD127の可溶型又血漿型である。CD127、すなわち、IL−7受容体のα鎖は、75kDaの糖タンパク質であり、造血因子受容体のスーパーファミリーの一つである。CD132(共通γc鎖)と会合して膜で発現され、IL−7受容体を形成する。この受容体は、リンパ球の分化、生存及び増殖に重要な役割を果たしている。CD127は、219個のアミノ酸(aa)を有する細胞外領域と、25個のアミノ酸を有する膜貫通領域と、195個のアミノ酸を有する細胞質内領域とからなる。CD127をコードするmRNAの選択的スプライシングにより生成される、sCD127と呼ばれる可溶型/血漿型の存在は、1990年にGoodwin RGら(Cell,1990,23,941−951)により開示されているが、その生物学的機能については今日まで充分に明らかになっていない。
【0012】
「院内感染」とは、あらゆる感染、主に細菌感染であるが、ウィルス感染や真菌感染も含む感染のうち、患者管理(診断、治療、緩和ケア、予防的治療、リハビリ治療)の間又はその後に医療施設内で起こる感染であって、患者管理を始めた時点では潜伏も発症もしていない感染を意味する。感染状態が患者管理を始めた時点でははっきりと分からない場合、少なくとも48時間、あるいは潜伏期間よりも長い時間が経過した後であれば、一般的には院内感染とされる。
【0013】
本発明において、「全身性炎症反応症候群」又は「SIRS」とは、以下の基準のうち少なくとも2つを伴う反応を意味する。体温>38℃若しくは体温<36℃、心拍数>90/分、呼吸数>20/分若しくはpaCO<32mmHg、白血球数>12,000/mm若しくは白血球数<4,000/mm(Bone et al.,Chest,1992,1644−1655)。
【0014】
本発明において、「sCD127」とは、IL−7受容体のα鎖、又は、IL7R、又は、IL7R−ALPHA、又は、IL7RA、又は、CDW127とも呼ばれるIL−7受容体の可溶型又は循環型(血漿型又は血清型ともいう)をいい、具体的には、例えば、Goodwin et al,Cell,1990,23,941−951に説明されていたり、Crawley et al,Journal of Immunology,2010,184,4679−4687において分析されている。
【0015】
特に、本発明におけるsCD127の参照核酸配列は、好ましくは以下のものである。Ensembl:ENSG00000168685,HPRD−ID:00893 ヌクレオチド配列:NM_002185.2,Vega genes:OTTHUMG00000090791。
【0016】
また、本発明におけるsCD127の参照タンパク質配列は、好ましくは以下のものである。NP_002176 XP_942460;version:NP_002176.2 GI:28610151。
【0017】
本発明の方法を用いて試験される被験サンプルは、院内感染に対する易感染性を判定することが望まれる患者から採取した生体サンプルである。特に、上記生体サンプルは、sCD127マーカーを含んでいる可能性のあるものから選択する。
【0018】
本発明は、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群すなわちSIRSを生じさせる傷害を受けた患者に特に好ましく適用される。したがって、本発明の方法において使用する生体サンプルは、集中治療室入院患者、及び/又は、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害(手術、やけど、外傷など)を受けた患者、特に敗血症患者、なかでも重症敗血症患者、特に敗血症性ショック患者から採取するのが好ましい。本発明の方法において使用する生体サンプルは敗血症性ショック患者から採取するのが特に好ましい。
【0019】
第1の好ましい実施形態によれば、本発明の方法によって、院内感染に対する患者の易感染性を判定できる。すなわち、第1の参照値と比較してsCD127が被験サンプル中で過剰発現していることが明らかになった場合に、院内感染するリスク又は院内感染に対する易感染性が高いと結論づけることができる。
【0020】
「過剰発現」とは、発現量が統計学的に有意に増加していることを意味する。
【0021】
この実施形態においては、第1の参照値は、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群すなわちSIRSを生じさせる傷害を受けた患者であって、院内感染していないことが分かっている患者、特に院内感染していないことが分かっている敗血症患者、好ましくは院内感染していないことが分かっている敗血症性ショック患者から採取した生体サンプルで測定されたsCD127発現量に相当するものであってもよい。この場合、第1の参照値を与えるsCD127の発現の上記測定は、並行して行う、すなわち、院内感染に対する易感染性を判定することが求められる患者から採取したサンプル中のsCD127の発現の測定と同時に行うのが好ましい。ただし、参照サンプルの採取は被験サンプルの採取より前に行われる。
【0022】
この第1の参照サンプルは、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害を受けた患者であって、院内感染していないことが分かっている患者、特に院内感染していないことが分かっている敗血症患者、好ましくは院内感染していないことが分かっている敗血症性ショック患者から採取したサンプルのプールで測定されたsCD127発現量の平均値に相当するものであってもよい。この場合、第1の参照値を与えるsCD127の発現の上記測定は、院内感染に対する易感染性を判定することが求められる患者から採取したサンプル中のsCD127の発現の測定よりも前に行うことが好ましい。ただし、「プール」される参照サンプルは、被験サンプルの採取よりも前に採取される。
【0023】
この第1の好ましい実施形態において、特に敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するために、被験サンプル中のsCD127の発現の測定、及び、必要であれば第1の参照値を得るために使用する生体サンプル中のsCD127の発現の測定(すなわち、第1の参照値を生体サンプルから得た場合)は、敗血症性ショック発症後10日以内又は10日目(D10)、好ましくは敗血症性ショック発症後7日以内又は7日目(D7)、より好ましくは敗血症性ショック発症後4日以内又は4日目(D4)、特に敗血症性ショック発症後3日以内又は3日目(D3)に行う。
【0024】
第2の好ましい実施形態によれば、本発明の方法によって、院内感染に対する患者の易感染性を判定できる。すなわち、被験サンプルで測定されたsCD127の発現が第2の参照値と比較して有意に減少していない場合に、院内感染するリスク又は院内感染に対する易感染性が高いと結論づけることができる。被験サンプルで測定されたsCD127の発現の減少率が第2の参照値と比較して25%以下、特に20%以下の場合に、院内感染するリスクが高いと結論づけるのが特に好ましい。
【0025】
この第2の参照値は、同一患者から事前に採取した生体サンプル、すなわち被験サンプルの採取よりも前に採取した生体サンプルで測定されたsCD127発現量に相当するものであってもよい。「事前に」又は「前に」とは、被験サンプルを採取する際にそれよりも早く行うこと又は採取時よりも前に行うことを意味する。
【0026】
この第2の好ましい実施形態において、特に敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するために、被験サンプル中のsCD127の発現の測定は、敗血症性ショック発症後10日目又は約10日目(D10)、好ましくは敗血症性ショック発症後7日目又は約7日目(D7)、より好ましくは敗血症性ショック発症後4日目又は約4日目(D4)に行う。
【0027】
事前のサンプル採取は、例えば、敗血症性ショック発症後48時間以内又は48時間経過時であって、被験サンプルの採取の24時間以上前に行うことができる。事前のサンプル採取は、敗血症性ショック発症後48時間以内又は48時間経過時に行われ、被験サンプルの採取は、事前のサンプル採取後48時間以内又は48時間経過時に行われるのが好ましい。
【0028】
したがって、全ての場合、被験サンプル中のsCD127の発現を実際に測定する前に、本発明の方法は、第1の参照値又は第2の参照値のいずれかの参照値を事前に取得することを含んでもよく、上記参照値を被験サンプル中で検出された発現量と比較することにより、被験サンプルを採取した患者が院内感染するリスクが高いか否かを結論づけることができる。
【0029】
したがって、被験サンプルで測定されたsCD127発現値と比較されるのは、これらの参照値、すなわち事前に又は同時に得られた第1の参照値又は第2の参照値のいずれかである。
【0030】
本発明の方法を実施するサンプル(ここでは被験サンプルともいう)は、ヒト由来又は動物由来であってもよく、好ましくはヒト由来である。
【0031】
したがって、被験サンプルは様々な種類のものであってよい。特に、該サンプルは、例えば血液、全血(例えば静脈ルートから採取したもの、すなわち白血球、赤血球、血小板及び血漿を含むものなど)、血清、血漿及び気管支肺胞洗浄液から選択される生体液である。
【0032】
上記患者から採取した被験サンプルは血漿サンプル又は血清サンプルであるのが好ましい。
【0033】
第1の参照値又は第2の参照値のいずれかの参照値を測定することができるサンプル(「参照サンプル」ともいう)は、様々な種類のものであってよく、特に被験サンプルについて上述したような生物学的種類のもの(生体液)であってもよい。これらの生体サンプルは、被験生体サンプルと同じ種類のものであるか、あるいは、少なくとも、sCD127の発現を検出及び/又は定量する際に参照とするのに適合した種類のものであるのが有利である。
【0034】
特に第1の参照値を得るために、これらのサンプルは、院内感染の易感染性を判定することが望まれる試験対象又は患者と同じ特徴又は大半の共通の特徴を有する人、特に同じ性別及び/又は類似の若しくは同じ年齢及び/又は同じ民族出身の人から採取するのが好ましい。この場合の参照サンプルは、事前にsCD127値の平均値を含むように調整されていれば、どのようなサンプルでもよく、生体サンプルであってもそうでなくてもよい。このsCD127値の平均値は、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害を受けた患者であって、院内感染していないことが分かっている患者、特に院内感染していないことが分かっている敗血症患者、好ましくは院内感染していないことが分かっている敗血症性ショック患者から採取した生体サンプルのプールで測定された量に相当するものである。この場合、ある特に好ましい変形例によれば、参照サンプルは、院内感染していないことが分かっている1人又は複数の敗血症性ショック患者から採取したものである。
【0035】
特に第2の参照値を得るために、参照サンプルは、上記同一患者から採取した生体サンプル、すなわち、院内感染に対する易感染性を判定することが望まれる患者であって、被験サンプルを採取する患者から採取した生体サンプルである。この参照サンプルは、事前のサンプル、すなわち、被験サンプルを採取する際に事前に採取した生体サンプルである。
【0036】
本発明においては、「発現を測定する」とは、イン・ビトロ(in vitro)又はエクス・ビボ(ex vivo)で測定することを意味する。また、この語は、sCD127をタンパク質レベルで検出及び定量することを示すものである。この目的のために、sCD127タンパク質の有無の判定、及び/又は、sCD127タンパク質の発現の測定に応じて、当業者に周知のあらゆる検出及び/又は定量の方法を用いて本発明を実施することができる。sCD127タンパク質の発現を測定する方法の例としては、特にCrawley et al,Journal of Immunology,2010,184,4679−4687に記載の方法が挙げられる。
【0037】
特に、sCD127の発現量の測定は、その発現の有無の判定及び/又はその発現量の定量を直接的又は間接的に行うことを可能にする、sCD127に特異的なツール又は試薬を用いて行う。
【0038】
sCD127を検出及び/又は定量することを可能にする上記ツール又は試薬のなかでは、特に特異的ポリクローナル又はモノクローナル抗体、好ましくはモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは誘導体、例えば「一本鎖」抗体Svが挙げられる。
【0039】
上記ツール又は試薬のなかでは、IL−7受容体の可溶型に特異的なもの、すなわち、該受容体の不溶性の細胞/膜型であるCD127を認識しないものが特に好ましい。しかしながら、分析するサンプルの種類(例えば、血漿又は血清、対、細胞又は全血を含む生体サンプル)などの他の手段によって2つの型を識別することが可能であれば、IL−7受容体の可溶型sCD127と細胞型CD127の両方を認識するツール又は試薬を使用することができる。
【0040】
sCD127の検出及び/又は定量をタンパク質レベルで行う際には、ウェスタンブロット法、ELISA法、RIA法、IRMA法、FIA法、CLIA法、ECL法、フローサイトメトリー又は免疫細胞学的手法などの標準的な手法を用いることができる。
【0041】
sCD127の発現をタンパク質レベルで、好ましくはELISA法を用いて、測定するのが特に有利である。
【0042】
本発明において、特にこの特定の実施形態によれば、sCD127の発現を、好ましくはモノクローナル又はポリクローナル抗sCD127抗体、特にモノクローナル抗sCD127抗体を用いて測定するのが好ましい。例えば、特にBeckman Coulter(R)社から市販されているヒトR34.34モノクローナル抗CD127抗体や、R&D Systems(R)社から市販されているポリクローナル抗CD127抗体が挙げられる。
【0043】
sCD127の発現の測定に関して上述した記載や好ましい形態は全て、該発現を被験サンプルや参照サンプルで測定する際にも同様に適用される。
【0044】
第2の態様によれば、本発明の別の主題は、院内感染に対する患者の易感染性を判定するための、イン・ビトロ(in vitro)又はエクス・ビボ(ex vivo)でのsCD127の測定の使用である。
【0045】
好ましくは、上記使用は、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群すなわちSIRSを生じさせる傷害を受けた患者、特に敗血症患者、なかでも重症敗血症患者、好ましくは敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するためのものであるのが特に有利である。本発明の使用は、院内感染に対する敗血症性ショック患者の易感染性を判定できるものであるのが好ましい。
【0046】
さらに、本発明の使用のために、sCD127の発現をタンパク質レベルで、特にELISA法を用いて、測定するのが好ましい。
【0047】
特に、sCD127の発現は、モノクローナル又はポリクローナル抗sCD127抗体、好ましくはモノクローナル抗sCD127抗体を用いて測定してもよい。この本発明の第2の態様においても、上述した抗体を使用することができる。
【0048】
より広義には、上記方法やその組合せに関する上述の全ての好ましい実施形態もまた、本発明の使用の好ましい実施形態を構成する。
【0049】
第3の態様によれば、本発明の別の主題は、生体サンプル中のsCD127の発現をイン・ビトロ(in vitro)又はエクス・ビボ(ex vivo)で測定するためのキットであって、
・上記生体サンプル中のsCD127の発現を測定することを可能にする特異的ツール又は試薬と、
・院内感染していることが分かっている患者から採取したサンプルのプールで測定された平均量に相当する量のsCD127を含むように調整されたサンプルである陽性対照サンプル、及び/又は、院内感染していないことが分かっている患者から採取したサンプルのプールで測定された平均量に相当する量のsCD127を含むように調整されたサンプルである陰性対照サンプルと
を含むキットである。
【0050】
したがって、本発明のキットは、上記生体サンプル中のsCD127の発現を測定することを可能にする特異的ツール又は試薬と、少なくとも1つの対照サンプルとを含む。
【0051】
本発明のキットは、特に、患者、とりわけ敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定できる。
【0052】
生体サンプル中のsCD127の発現を測定することを可能にする、本発明のキットに含まれる特異的ツール又は試薬は、sCD127の発現をタンパク質レベル又はsCD127活性レベル、好ましくはタンパク質レベルで検出及び/又は定量することを可能にするものが好ましい。
【0053】
特に好ましい実施形態によれば、本発明のキットは、モノクローナル又はポリクローナル抗sCD127抗体、特にモノクローナル抗体を含む。
【0054】
他の陽性対照サンプルとして、院内感染していることが分かっている患者から採取したサンプルも挙げられる。同様に、他の陰性対照サンプルとして、院内感染していないことが分かっている患者から採取したサンプルも挙げられる。陽性対照であれ陰性対照であれ、この種の対照サンプルは、1人又は複数の集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害を受けた1人又は複数の患者、特に1人又は複数の敗血症患者、好ましくは1人又は複数の敗血症性ショック患者から採取するのが好ましい。例えば、上記キットは、1人又は複数の集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害を受けた1人又は複数の患者であって、院内感染していないことが分かっている患者、特に院内感染していないことが分かっている1人又は複数の敗血症性ショック患者から採取した陰性対照サンプルを含んでいてもよい。
【0055】
上記キットは、陽性対照サンプルと陰性対照サンプルの両方、特に、上述のように調整したサンプルからそれぞれ選択される陽性対照サンプルと陰性対照サンプルの両方を含んでいるのが好ましい。
【0056】
また本発明は、本発明の方法を実施するための、特に院内感染に対する患者の易感染性を判定するための、本発明のキットの使用も包含する。上記使用は、好ましくは、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害を受けた患者、特に敗血症患者、なかでも重症敗血症患者、好ましくは敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するための使用である。本発明のキットの使用は、院内感染に対する敗血症性ショック患者の易感染性を判定できるものであるのが好ましい。
【0057】
上記方法やその組合せに関する上述の全ての好ましい実施形態もまた、本発明のキット及びその使用の好ましい実施形態を構成する。
【0058】
他の種々の特徴は、本発明の主題の実施形態を例示的に説明した付属の図面(ただし本発明はこの例に限定されない)を参照して、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1A】IL−7の血漿中濃度について、35人の敗血症性ショック患者(1〜2日目(1−2)及び3〜4日目(3−4))の結果と、30人の健常ボランティア(HV)の結果を示す。“HV”に対して**p<0.005(マン・ホイットニーのU検定)
図1B】上記結果の“NS”患者群と“S”患者群との比較を示す。
図1C】上記結果の“NI” 患者群と“No NI”患者群との比較を示す。
図2A】CD4T細胞でのCD127の発現について、35人の敗血症性ショック患者(1〜2日目及び3〜5日目)の結果と、30人の健常ボランティア(HV)の結果を示す。§p<0.05(1つの同一患者群内の経時変化(ウィルコクソンの対応のあるt検定))
図2B】CD8T細胞でのCD127の発現について、35人の敗血症性ショック患者(1〜2日目及び3〜5日目)の結果と、30人の健常ボランティア(HV)の結果を示す。“HV”に対して*p<0.05(マン・ホイットニーのU検定)
図3A】sCD127の血漿中濃度について、35人の敗血症性ショック患者(1〜2日目及び3〜4日目)の結果と、30人の健常ボランティアの結果を示す。§§p<0.005(1つの同一患者群内の経時変化(ウィルコクソンの対応のあるt検定))
図3B】上記結果の“NS”患者群と“S”患者群との比較を示す。§p<0.05 §§p<0.005(1つの同一患者群内の経時変化(ウィルコクソンの対応のあるt検定))
図3C】上記結果の“NI”患者群と“No NI”患者群との比較を示す。“No NI”に対して#p<0.05 ##p<0.005(マン・ホイットニーのU検定);§§p<0.005(1つの同一患者群内の経時変化(ウィルコクソンの対応のあるt検定))
図4】HLA−DRマーカーの発現について、35人の敗血症性ショック患者(1〜2日目及び3〜4日目)の結果と、30人の健常ボランティアの結果を“NI”又は“No NI”患者群によって示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0060】
<方法>
<IL−7の血漿中濃度の測定>
IL−7の血漿中濃度は、Bio−Rad社から市販されているLUMINEX(TM)法を利用したキット(Bio−Plex Pro サイトカイン/ケモカイン/成長因子アッセイ:BioPlex Pro試薬キット(Bio−Rad、#171−304070)及びシングルプレックスIL−7)を用いて、サプライヤーの使用説明書に従って測定した。
【0061】
<IL−7受容体(CD127)の細胞発現の測定>
手短に言うと、全血50μlを、フィコエリトリン−テキサスレッド(ECD)と結合した抗CD4抗体(Beckman Coulter社、#6604727)5μl、又は、ECDを結合した抗CD8抗体(Beckman Coulter社、#737659)5μlと、フィコエリトリン(PE)と結合した抗CD127抗体(Beckman Coulter社、#IM1980U)10μlとの存在下、室温、暗所で15分間インキュベートした。次に赤血球を低張溶解液により溶血させ、自動TQ−Prepシステム(Beckman Coulter社)を用いて自動溶血により細胞を固定した。CD4+又はCD8+Tリンパ球の表面上でのCD127の膜発現は、フローサイトメトリーによって測定した。
【0062】
<ELISA法によるIL−7受容体の可溶型(sCD127)のアッセイ>
コーティング
500mlの水中に0.8gのNaCO、1.4gのNaHCO、0.1gのNaNを含むように、コーティング緩衝液(pH9.6)を調製した。
【0063】
コーティング緩衝液で希釈した捕獲抗体(Ab)(マウスモノクローナル抗体、抗CD127、ヒト、R34.34、Beckman Coulter(R)社)100μLをアッセイプレートの各ウェルに入れた([Ab]=8μg/mL)。それから、プレートにカバーをかけて4℃で一晩インキュベートした。
【0064】
その後、ウェルの内容物を吸引し、少なくとも300μLの0.05%PBS−Tween20洗浄用緩衝液で3回ウェルを洗浄した。洗浄毎に全ての液体を注意深く除去した。最後の洗浄の後、プレートを吸収紙上にひっくり返して、痕跡量の緩衝液を全て除去した。
【0065】
ブロッキング
各ウェルごとに150μLのブロッキング緩衝液(10%ウシ胎児血清(FBS)/0.05%PBS−Tween20)を用いて非特異的な固定をブロッキングした後、プレートを37℃で1時間インキュベートした。
【0066】
再度、ウェルの内容物を吸引し、少なくとも300μLの0.05%PBS−Tween20洗浄用緩衝液で3回ウェルを洗浄した。洗浄毎に全ての液体を注意深く除去した。最後の洗浄の後、プレートを吸収紙上にひっくり返して、痕跡量の緩衝液を全て除去した。
【0067】
サンプル及び対照
C.Janot−Sardet et al.Journal of Immunological Methods,2010,28,115−123に従って、下記表1に示すように、5%FCS含有PBS希釈用緩衝液で希釈した組換えヒトIL−7Rα/CD127 Fcキメラ(R&D Systems社、カタログ番号:306−IR)を用いて参照範囲を得た。
【0068】
【表1】
【0069】
100μLのサンプル又は対照(即時再構成し、60ng/ml及び10ng/mlの濃度で分注したCD127Fcキメラの溶液)を各ウェルに添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。
【0070】
再度、ウェルの内容物を吸引し、少なくとも300μLの0.05%PBS−Tween20洗浄用緩衝液で3回ウェルを洗浄した。洗浄毎に全ての液体を注意深く除去した。最後の洗浄の後、プレートを吸収紙上にひっくり返して、痕跡量の緩衝液を全て除去した。
【0071】
検出抗体
PBS/5%FBSで希釈した検出抗体(1%TBS−BSA1mLで再構成したビオチン化ポリクローナル抗CD127ヤギ抗体(R&D Systems(R)社))100μLを各ウェルに加え([Ab]=200ng/mL)、次にプレートを37℃で1時間インキュベートした。
【0072】
再度、ウェルの内容物を吸引し、少なくとも300μLの0.05%PBS−Tween20洗浄用緩衝液で3回ウェルを洗浄した。洗浄毎に全ての液体を注意深く除去した。最後の洗浄の後、プレートを吸収紙上にひっくり返して、痕跡量の緩衝液を全て除去した。
【0073】
検出
100μLのストレプトアビジン−HRPを各ウェルに添加した([ストレプトアビジン−HRP]=8μL/mL)。プレートにカバーをかけて室温で30分間インキュベートした。
【0074】
再度、ウェルの内容物を吸引し、少なくとも300μLの0.05%PBS−Tween20洗浄用緩衝液で3回ウェルを洗浄した。洗浄毎に全ての液体を注意深く除去した。最後の洗浄の後、プレートを吸収紙上にひっくり返して、痕跡量の緩衝液を全て除去した。この洗浄工程では、吸引前にウェルに洗浄用緩衝液を1〜2分間しみ込ませた。
【0075】
2本の瓶のTMB発色基質溶液(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、bioMerieux社、#XX7LF1UC)を等体積で混合した。この基質溶液100μLを各ウェルに入れた。プレートにカバーをかけて室温で30分間インキュベートした。
【0076】
最後に、450nmでの吸光測定によりプレートの読み取りを行った。
【0077】
<HLA−DRの単球発現の測定>
測定は、フローサイトメトリー法を用いてEDTA加全血の直接染色によって行った。
【0078】
以下の2つの抗体を50μLの全血とともに(室温、暗所で30分間)インキュベートした。
・5μLのフルオレセイン結合抗CD14抗体(Beckman Coulter Immunotech社、Ref.:IM0645)。これにより、白血球の中から単球を同定することができる。
・10μLのフィコエリトリン結合抗HLA−DR抗体(Becton Dickinson社、Ref.:347401)。これにより、細胞表面上でのHLA−DR発現を定量できる。
【0079】
次に赤血球を除去した。1mlの溶解溶液(Becton Dickinson社により参照番号349202で市販されている)を1:10の希釈率で加えて(室温、暗所で15分間)溶血させた。
【0080】
次に、この細胞をフローサイトメーター(FC500、Beckman Coulter社)で分析した。
【0081】
結果を陽性細胞に対する百分率(%)として表す。陽性の閾値はアイソタイプ対照(Mouse IgG2a PE、Becton Dickinson社、Ref.:349053)によって決定した。
【0082】
結果
敗血症性ショック発症後1〜2日目及び3〜4日目の35人の敗血症性ショック患者から血漿サンプルを採取した後、保管した(後ろ向きコホート)。IL−7及びsCD127の各血漿中濃度、CD4T細胞でのCD127の発現、単球でのHLA−DRの発現などの異なるパラメータやマーカーを測定した。敗血症性ショックで集中治療室に入院してから28日後時点で、35人の患者のうち13人(37%)の患者は死亡し(“NS”)、22人の患者は生存していた(“S”)。6人(17%)の患者が院内感染し(“NI”)、29人の患者は院内感染の発症を免れていた(“No NI”)。
【0083】
同じ測定を30人の健常ボランティア(HV)にも行った。
【0084】
得られた結果をこれらのボランティア又は患者の異なる母集団に対するマン・ホイットニーのU検定を用いて比較し、付属の図1〜4にまとめた。
【0085】
この結果によれば、二次感染した患者のIL−7の血漿中濃度は、院内感染を発症しなかった患者と比較して、1〜2日目では有意に減少しているが、3〜4日目では有意ではなかった(図1C)。一方、生存患者(“S”)と死亡患者(“NS”)の間では変化がないままであった。
【0086】
さらに、IL−7受容体(CD127)の細胞での発現は、敗血症性ショック発症後も維持され(図2A及び2B)、生存患者(“S”)と死亡患者(“NS”)の間に差はなく、院内感染した患者(“NI”)と院内感染しなかった患者(“No NI”)の間にも差はなかった(結果はここには示していない)。
【0087】
敗血症性ショック発症時に見られたIL−7受容体の可溶型すなわちsCD127の血漿中濃度のわずかな増加は、統計学的に有意なものではなく、時間の経過とともに「正常」値に戻った(図3A)。
【0088】
一方、sCD127の血漿中濃度は生存患者(“S”)と死亡患者(“NS”)の間では変化がないままなのに対し(図3B)、院内感染した“NI”患者のsCD127の血漿中濃度は、院内感染しなかった“No NI”患者と比較して顕著に増加した(図3C)。
【0089】
また、院内感染した“NI”患者では、sCD127の血漿中濃度が時間が経過しても変化しないが(1〜2日目と3〜4日目の間)、これは院内感染しなかった“No NI”患者とは対照的である(図3C)。
【0090】
比較のために、同一コホートの患者において従来技術のマーカーHLA−DRの発現について検討したが、従来技術で明確に確立されている知見に反し、院内感染した“NI”患者と院内感染しなかった“No NI”患者の間ではこのマーカーの発現が減少するという証拠は得られなかった(図4)。
【0091】
この違いは、おそらくここで検討したコホートのサイズが従来技術の検討において分析されたコホートと比べて小さいことに関連していると思われるが、この違いはHLA−DRと比べてsCD127マーカーが適切であることを実証している。ここで検討したコホートのサイズの違いはあれ、この結果は、本発明によるsCD127の発現の検討が、院内感染に対する患者の易感染性に関して有益な情報を与えるものであることを示している。
【0092】
したがって、これら全ての結果は、sCD127の発現の測定は、患者、特に、集中治療室入院患者、及び/又は、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害(手術、やけど、外傷など)を受けた患者、特に敗血症患者、なかでも重症敗血症患者、好ましくは敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するために有益な免疫学的マーカーであることを示している。
【0093】
本発明は、本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良が可能であることから、本明細書に記載し、例示した実施例に限定されるものではない。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4