【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、第1の態様によれば、本発明の主題は、院内感染に対する患者の易感染性を判定する方法であって、
・上記患者から採取した生体サンプル又は被験サンプル中のsCD127の発現を測定する工程と、
・sCD127の発現を参照値と比較した後に、院内感染に対する易感染性が高いと結論づける工程と
を含む方法である。
【0010】
したがって、院内感染に対する易感染性を判定するための本発明の方法は、イン・ビトロ(in vitro)又はエクス・ビボ(ex vivo)で行う方法である。
【0011】
sCD127は、IL−7受容体の一つであるCD127の可溶型又血漿型である。CD127、すなわち、IL−7受容体のα鎖は、75kDaの糖タンパク質であり、造血因子受容体のスーパーファミリーの一つである。CD132(共通γc鎖)と会合して膜で発現され、IL−7受容体を形成する。この受容体は、リンパ球の分化、生存及び増殖に重要な役割を果たしている。CD127は、219個のアミノ酸(aa)を有する細胞外領域と、25個のアミノ酸を有する膜貫通領域と、195個のアミノ酸を有する細胞質内領域とからなる。CD127をコードするmRNAの選択的スプライシングにより生成される、sCD127と呼ばれる可溶型/血漿型の存在は、1990年にGoodwin RGら(Cell,1990,23,941−951)により開示されているが、その生物学的機能については今日まで充分に明らかになっていない。
【0012】
「院内感染」とは、あらゆる感染、主に細菌感染であるが、ウィルス感染や真菌感染も含む感染のうち、患者管理(診断、治療、緩和ケア、予防的治療、リハビリ治療)の間又はその後に医療施設内で起こる感染であって、患者管理を始めた時点では潜伏も発症もしていない感染を意味する。感染状態が患者管理を始めた時点でははっきりと分からない場合、少なくとも48時間、あるいは潜伏期間よりも長い時間が経過した後であれば、一般的には院内感染とされる。
【0013】
本発明において、「全身性炎症反応症候群」又は「SIRS」とは、以下の基準のうち少なくとも2つを伴う反応を意味する。体温>38℃若しくは体温<36℃、心拍数>90/分、呼吸数>20/分若しくはpaCO
2<32mmHg、白血球数>12,000/mm
3若しくは白血球数<4,000/mm
3(Bone et al.,Chest,1992,1644−1655)。
【0014】
本発明において、「sCD127」とは、IL−7受容体のα鎖、又は、IL7R、又は、IL7R−ALPHA、又は、IL7RA、又は、CDW127とも呼ばれるIL−7受容体の可溶型又は循環型(血漿型又は血清型ともいう)をいい、具体的には、例えば、Goodwin et al,Cell,1990,23,941−951に説明されていたり、Crawley et al,Journal of Immunology,2010,184,4679−4687において分析されている。
【0015】
特に、本発明におけるsCD127の参照核酸配列は、好ましくは以下のものである。Ensembl:ENSG00000168685,HPRD−ID:00893 ヌクレオチド配列:
NM_002185.2,Vega genes:OTTHUMG00000090791。
【0016】
また、本発明におけるsCD127の参照タンパク質配列は、好ましくは以下のものである。NP_002176 XP_942460;version:NP_002176.2 GI:28610151。
【0017】
本発明の方法を用いて試験される被験サンプルは、院内感染に対する易感染性を判定することが望まれる患者から採取した生体サンプルである。特に、上記生体サンプルは、sCD127マーカーを含んでいる可能性のあるものから選択する。
【0018】
本発明は、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群すなわちSIRSを生じさせる傷害を受けた患者に特に好ましく適用される。したがって、本発明の方法において使用する生体サンプルは、集中治療室入院患者、及び/又は、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害(手術、やけど、外傷など)を受けた患者、特に敗血症患者、なかでも重症敗血症患者、特に敗血症性ショック患者から採取するのが好ましい。本発明の方法において使用する生体サンプルは敗血症性ショック患者から採取するのが特に好ましい。
【0019】
第1の好ましい実施形態によれば、本発明の方法によって、院内感染に対する患者の易感染性を判定できる。すなわち、第1の参照値と比較してsCD127が被験サンプル中で過剰発現していることが明らかになった場合に、院内感染するリスク又は院内感染に対する易感染性が高いと結論づけることができる。
【0020】
「過剰発現」とは、発現量が統計学的に有意に増加していることを意味する。
【0021】
この実施形態においては、第1の参照値は、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群すなわちSIRSを生じさせる傷害を受けた患者であって、院内感染していないことが分かっている患者、特に院内感染していないことが分かっている敗血症患者、好ましくは院内感染していないことが分かっている敗血症性ショック患者から採取した生体サンプルで測定されたsCD127発現量に相当するものであってもよい。この場合、第1の参照値を与えるsCD127の発現の上記測定は、並行して行う、すなわち、院内感染に対する易感染性を判定することが求められる患者から採取したサンプル中のsCD127の発現の測定と同時に行うのが好ましい。ただし、参照サンプルの採取は被験サンプルの採取より前に行われる。
【0022】
この第1の参照サンプルは、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害を受けた患者であって、院内感染していないことが分かっている患者、特に院内感染していないことが分かっている敗血症患者、好ましくは院内感染していないことが分かっている敗血症性ショック患者から採取したサンプルのプールで測定されたsCD127発現量の平均値に相当するものであってもよい。この場合、第1の参照値を与えるsCD127の発現の上記測定は、院内感染に対する易感染性を判定することが求められる患者から採取したサンプル中のsCD127の発現の測定よりも前に行うことが好ましい。ただし、「プール」される参照サンプルは、被験サンプルの採取よりも前に採取される。
【0023】
この第1の好ましい実施形態において、特に敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するために、被験サンプル中のsCD127の発現の測定、及び、必要であれば第1の参照値を得るために使用する生体サンプル中のsCD127の発現の測定(すなわち、第1の参照値を生体サンプルから得た場合)は、敗血症性ショック発症後10日以内又は10日目(D10)、好ましくは敗血症性ショック発症後7日以内又は7日目(D7)、より好ましくは敗血症性ショック発症後4日以内又は4日目(D4)、特に敗血症性ショック発症後3日以内又は3日目(D3)に行う。
【0024】
第2の好ましい実施形態によれば、本発明の方法によって、院内感染に対する患者の易感染性を判定できる。すなわち、被験サンプルで測定されたsCD127の発現が第2の参照値と比較して有意に減少していない場合に、院内感染するリスク又は院内感染に対する易感染性が高いと結論づけることができる。被験サンプルで測定されたsCD127の発現の減少率が第2の参照値と比較して25%以下、特に20%以下の場合に、院内感染するリスクが高いと結論づけるのが特に好ましい。
【0025】
この第2の参照値は、同一患者から事前に採取した生体サンプル、すなわち被験サンプルの採取よりも前に採取した生体サンプルで測定されたsCD127発現量に相当するものであってもよい。「事前に」又は「前に」とは、被験サンプルを採取する際にそれよりも早く行うこと又は採取時よりも前に行うことを意味する。
【0026】
この第2の好ましい実施形態において、特に敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するために、被験サンプル中のsCD127の発現の測定は、敗血症性ショック発症後10日目又は約10日目(D10)、好ましくは敗血症性ショック発症後7日目又は約7日目(D7)、より好ましくは敗血症性ショック発症後4日目又は約4日目(D4)に行う。
【0027】
事前のサンプル採取は、例えば、敗血症性ショック発症後48時間以内又は48時間経過時であって、被験サンプルの採取の24時間以上前に行うことができる。事前のサンプル採取は、敗血症性ショック発症後48時間以内又は48時間経過時に行われ、被験サンプルの採取は、事前のサンプル採取後48時間以内又は48時間経過時に行われるのが好ましい。
【0028】
したがって、全ての場合、被験サンプル中のsCD127の発現を実際に測定する前に、本発明の方法は、第1の参照値又は第2の参照値のいずれかの参照値を事前に取得することを含んでもよく、上記参照値を被験サンプル中で検出された発現量と比較することにより、被験サンプルを採取した患者が院内感染するリスクが高いか否かを結論づけることができる。
【0029】
したがって、被験サンプルで測定されたsCD127発現値と比較されるのは、これらの参照値、すなわち事前に又は同時に得られた第1の参照値又は第2の参照値のいずれかである。
【0030】
本発明の方法を実施するサンプル(ここでは被験サンプルともいう)は、ヒト由来又は動物由来であってもよく、好ましくはヒト由来である。
【0031】
したがって、被験サンプルは様々な種類のものであってよい。特に、該サンプルは、例えば血液、全血(例えば静脈ルートから採取したもの、すなわち白血球、赤血球、血小板及び血漿を含むものなど)、血清、血漿及び気管支肺胞洗浄液から選択される生体液である。
【0032】
上記患者から採取した被験サンプルは血漿サンプル又は血清サンプルであるのが好ましい。
【0033】
第1の参照値又は第2の参照値のいずれかの参照値を測定することができるサンプル(「参照サンプル」ともいう)は、様々な種類のものであってよく、特に被験サンプルについて上述したような生物学的種類のもの(生体液)であってもよい。これらの生体サンプルは、被験生体サンプルと同じ種類のものであるか、あるいは、少なくとも、sCD127の発現を検出及び/又は定量する際に参照とするのに適合した種類のものであるのが有利である。
【0034】
特に第1の参照値を得るために、これらのサンプルは、院内感染の易感染性を判定することが望まれる試験対象又は患者と同じ特徴又は大半の共通の特徴を有する人、特に同じ性別及び/又は類似の若しくは同じ年齢及び/又は同じ民族出身の人から採取するのが好ましい。この場合の参照サンプルは、事前にsCD127値の平均値を含むように調整されていれば、どのようなサンプルでもよく、生体サンプルであってもそうでなくてもよい。このsCD127値の平均値は、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害を受けた患者であって、院内感染していないことが分かっている患者、特に院内感染していないことが分かっている敗血症患者、好ましくは院内感染していないことが分かっている敗血症性ショック患者から採取した生体サンプルのプールで測定された量に相当するものである。この場合、ある特に好ましい変形例によれば、参照サンプルは、院内感染していないことが分かっている1人又は複数の敗血症性ショック患者から採取したものである。
【0035】
特に第2の参照値を得るために、参照サンプルは、上記同一患者から採取した生体サンプル、すなわち、院内感染に対する易感染性を判定することが望まれる患者であって、被験サンプルを採取する患者から採取した生体サンプルである。この参照サンプルは、事前のサンプル、すなわち、被験サンプルを採取する際に事前に採取した生体サンプルである。
【0036】
本発明においては、「発現を測定する」とは、イン・ビトロ(in vitro)又はエクス・ビボ(ex vivo)で測定することを意味する。また、この語は、sCD127をタンパク質レベルで検出及び定量することを示すものである。この目的のために、sCD127タンパク質の有無の判定、及び/又は、sCD127タンパク質の発現の測定に応じて、当業者に周知のあらゆる検出及び/又は定量の方法を用いて本発明を実施することができる。sCD127タンパク質の発現を測定する方法の例としては、特にCrawley et al,Journal of Immunology,2010,184,4679−4687に記載の方法が挙げられる。
【0037】
特に、sCD127の発現量の測定は、その発現の有無の判定及び/又はその発現量の定量を直接的又は間接的に行うことを可能にする、sCD127に特異的なツール又は試薬を用いて行う。
【0038】
sCD127を検出及び/又は定量することを可能にする上記ツール又は試薬のなかでは、特に特異的ポリクローナル又はモノクローナル抗体、好ましくはモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは誘導体、例えば「一本鎖」抗体Svが挙げられる。
【0039】
上記ツール又は試薬のなかでは、IL−7受容体の可溶型に特異的なもの、すなわち、該受容体の不溶性の細胞/膜型であるCD127を認識しないものが特に好ましい。しかしながら、分析するサンプルの種類(例えば、血漿又は血清、対、細胞又は全血を含む生体サンプル)などの他の手段によって2つの型を識別することが可能であれば、IL−7受容体の可溶型sCD127と細胞型CD127の両方を認識するツール又は試薬を使用することができる。
【0040】
sCD127の検出及び/又は定量をタンパク質レベルで行う際には、ウェスタンブロット法、ELISA法、RIA法、IRMA法、FIA法、CLIA法、ECL法、フローサイトメトリー又は免疫細胞学的手法などの標準的な手法を用いることができる。
【0041】
sCD127の発現をタンパク質レベルで、好ましくはELISA法を用いて、測定するのが特に有利である。
【0042】
本発明において、特にこの特定の実施形態によれば、sCD127の発現を、好ましくはモノクローナル又はポリクローナル抗sCD127抗体、特にモノクローナル抗sCD127抗体を用いて測定するのが好ましい。例えば、特にBeckman Coulter(R)社から市販されているヒトR34.34モノクローナル抗CD127抗体や、R&D Systems(R)社から市販されているポリクローナル抗CD127抗体が挙げられる。
【0043】
sCD127の発現の測定に関して上述した記載や好ましい形態は全て、該発現を被験サンプルや参照サンプルで測定する際にも同様に適用される。
【0044】
第2の態様によれば、本発明の別の主題は、院内感染に対する患者の易感染性を判定するための、イン・ビトロ(in vitro)又はエクス・ビボ(ex vivo)でのsCD127の測定の使用である。
【0045】
好ましくは、上記使用は、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群すなわちSIRSを生じさせる傷害を受けた患者、特に敗血症患者、なかでも重症敗血症患者、好ましくは敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するためのものであるのが特に有利である。本発明の使用は、院内感染に対する敗血症性ショック患者の易感染性を判定できるものであるのが好ましい。
【0046】
さらに、本発明の使用のために、sCD127の発現をタンパク質レベルで、特にELISA法を用いて、測定するのが好ましい。
【0047】
特に、sCD127の発現は、モノクローナル又はポリクローナル抗sCD127抗体、好ましくはモノクローナル抗sCD127抗体を用いて測定してもよい。この本発明の第2の態様においても、上述した抗体を使用することができる。
【0048】
より広義には、上記方法やその組合せに関する上述の全ての好ましい実施形態もまた、本発明の使用の好ましい実施形態を構成する。
【0049】
第3の態様によれば、本発明の別の主題は、生体サンプル中のsCD127の発現をイン・ビトロ(in vitro)又はエクス・ビボ(ex vivo)で測定するためのキットであって、
・上記生体サンプル中のsCD127の発現を測定することを可能にする特異的ツール又は試薬と、
・院内感染していることが分かっている患者から採取したサンプルのプールで測定された平均量に相当する量のsCD127を含むように調整されたサンプルである陽性対照サンプル、及び/又は、院内感染していないことが分かっている患者から採取したサンプルのプールで測定された平均量に相当する量のsCD127を含むように調整されたサンプルである陰性対照サンプルと
を含むキットである。
【0050】
したがって、本発明のキットは、上記生体サンプル中のsCD127の発現を測定することを可能にする特異的ツール又は試薬と、少なくとも1つの対照サンプルとを含む。
【0051】
本発明のキットは、特に、患者、とりわけ敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定できる。
【0052】
生体サンプル中のsCD127の発現を測定することを可能にする、本発明のキットに含まれる特異的ツール又は試薬は、sCD127の発現をタンパク質レベル又はsCD127活性レベル、好ましくはタンパク質レベルで検出及び/又は定量することを可能にするものが好ましい。
【0053】
特に好ましい実施形態によれば、本発明のキットは、モノクローナル又はポリクローナル抗sCD127抗体、特にモノクローナル抗体を含む。
【0054】
他の陽性対照サンプルとして、院内感染していることが分かっている患者から採取したサンプルも挙げられる。同様に、他の陰性対照サンプルとして、院内感染していないことが分かっている患者から採取したサンプルも挙げられる。陽性対照であれ陰性対照であれ、この種の対照サンプルは、1人又は複数の集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害を受けた1人又は複数の患者、特に1人又は複数の敗血症患者、好ましくは1人又は複数の敗血症性ショック患者から採取するのが好ましい。例えば、上記キットは、1人又は複数の集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害を受けた1人又は複数の患者であって、院内感染していないことが分かっている患者、特に院内感染していないことが分かっている1人又は複数の敗血症性ショック患者から採取した陰性対照サンプルを含んでいてもよい。
【0055】
上記キットは、陽性対照サンプルと陰性対照サンプルの両方、特に、上述のように調整したサンプルからそれぞれ選択される陽性対照サンプルと陰性対照サンプルの両方を含んでいるのが好ましい。
【0056】
また本発明は、本発明の方法を実施するための、特に院内感染に対する患者の易感染性を判定するための、本発明のキットの使用も包含する。上記使用は、好ましくは、集中治療室入院患者、及び/又は、手術、やけど、外傷などの、全身性炎症反応症候群(SIRS)を生じさせる傷害を受けた患者、特に敗血症患者、なかでも重症敗血症患者、好ましくは敗血症性ショック患者の院内感染に対する易感染性を判定するための使用である。本発明のキットの使用は、院内感染に対する敗血症性ショック患者の易感染性を判定できるものであるのが好ましい。
【0057】
上記方法やその組合せに関する上述の全ての好ましい実施形態もまた、本発明のキット及びその使用の好ましい実施形態を構成する。
【0058】
他の種々の特徴は、本発明の主題の実施形態を例示的に説明した付属の図面(ただし本発明はこの例に限定されない)を参照して、以下の説明から明らかになるであろう。