(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162794
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】スチレン系フッ素重合体溶液から流延される光学フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20170703BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20170703BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20170703BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20170703BHJP
C08L 93/04 20060101ALI20170703BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20170703BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
C08J5/18CET
C08J7/00 303
C08L25/04
C08L23/00
C08L93/04
C08K5/544
G02B5/30
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-510334(P2015-510334)
(86)(22)【出願日】2013年4月25日
(65)【公表番号】特表2015-517585(P2015-517585A)
(43)【公表日】2015年6月22日
(86)【国際出願番号】US2013038191
(87)【国際公開番号】WO2013165806
(87)【国際公開日】20131107
【審査請求日】2016年4月20日
(31)【優先権主張番号】13/461,372
(32)【優先日】2012年5月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511256060
【氏名又は名称】アクロン ポリマー システムズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ビン
(72)【発明者】
【氏名】クオ,サウミング
(72)【発明者】
【氏名】マクウィリアムズ,ダグラス スティーブンズ
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,フランク ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】ジャームロス,テッド カルバン
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ジャオカイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ドン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シャオリアン
【審査官】
久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/040366(WO,A1)
【文献】
特表2013−539076(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0076487(US,A1)
【文献】
特開昭62−204255(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/129406(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/129407(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22、
7/00−7/02、7/12−7/18
B29C 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系フッ素重合体フィルムを基板上に流延するための方法であって、
ハンセン溶解度パラメータ(HSP、MPa
1/2)が以下の、|SP
b−SP
p|<5、|SP
b−SP
s|<4、|SP
b(H)−SP
p(H)|<7、および2<|SP
b(H)−SP
s(H)|<10であって、
式中、SP
b、SP
p、SP
sは、それぞれ、溶媒/溶媒ブレンド、フッ素重合体、および基板の全ハンセン溶解度パラメータであり、SP
b(H)、SP
p(H)、およびSP
s(H)は、それぞれ、溶媒/溶媒ブレンド、フッ素重合体、および基板の水素結合ハンセン溶解度パラメータであり、前記フッ素重合体は、以下の
【化1】
の部分であって、
式中、R
1、R
2、およびR
3は、各々独立に、水素原子、アルキル基、置換されたアルキル基、またはハロゲンであり、R
1、R
2、およびR
3のうちの少なくとも1つは、フッ素原子であり、Rは、各々独立に、スチレン環上の置換基であり、nは、スチレン環上の置換基の数を表す、0から5までの整数である
部分を含む、
関係を満たす溶媒または溶媒ブレンド中にフッ素重合体を溶解することによってポリマー溶液を調製するステップ
と、
前記ポリマー溶液を基板上に流延するステップと、
を備える、
方法。
【請求項2】
前記ハンセン溶解度パラメータが、|SPb−SPp|<4、|SPb−SPs|<3、|SPb(H)−SPp(H)|<6、および3<|SPb(H)−SPs(H)|<8である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハンセン溶解度パラメータが、|SPb−SPp|<3、|SPb−SPs|<2、|SPb(H)−SPp(H)|<5、および4<|SPb(H)−SPs(H)|<7である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記スチレン環上の置換基Rが、アルキル、置換されたアルキル、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、アルコキシ、アミノ、スルホン酸塩、リン酸塩、アシル、アシルオキシ、フェニル、アルコキシカルボニル、シアノから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記スチレン系フッ素重合体が、ポリ(α,β,β−トリフルオロスチレン)(PTFS)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記スチレン系フッ素重合体が、ポリ(α,β,β−トリフルオロスチレン)(PTFS)であり、かつ前記溶媒/溶媒ブレンドのハンセン溶解度パラメータが、が17.5<SPb<19.5を満たす、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記スチレン系フッ素重合体がPTFSであり、前記基板が、TACまたはCOPであり、前記溶媒または溶媒ブレンドが、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、塩化メチレン(MeCl2)、クロロホルム、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、トルエン、シクロペンタノン、1,4−ジオキサン、アセトフェノン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、N−メチル−2−ピロリドン、およびN,N−ジメチルホルムアミドを含む群から選択される1つまたは複数である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記スチレン系フッ素重合体がPTFSであり、前記基板がTACであり、前記溶媒または溶媒ブレンドが、PGMEA、MIPK、トルエン、PGMEAおよび酢酸エチルのブレンド、MEKおよびトルエンのブレンド、MIPKおよびトルエンのブレンド、ならびにMeCl2およびMIPKのブレンドを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記スチレン系フッ素重合体がPTFSであり、前記基板がTACであり、前記溶媒または溶媒ブレンドが、PGMEA、MIPK、トルエン、PGMEA/酢酸エチル(50/50)、MEK/トルエン(70/30)、およびMIPK/MeCl2(70/30)(重量比)を含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記スチレン系フッ素重合体がPTFSであり、前記基板がCOPであり、前記溶媒または溶媒ブレンドが、シクロペンタノン、アセトンおよびMIBKのブレンド、MEKおよびMIBKのブレンド、シクロペンタノンおよびトルエンのブレンド、シクロペンタノンおよびMeCl2のブレンド、ならびにMIPK/トルエンのブレンドを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記スチレン系フッ素重合体がPTFSであり、前記基板がCOPであり、前記溶媒または溶媒ブレンドが、アセトン/MIBK(60/40)またはMIPK/トルエン(70/30)(重量比)である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、前記重合体溶液によりコーティングする前に前記基板の表面を処理することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記表面の処理方法が、コロナ処理の方法である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記重合体溶液が、塩素化ポリオレフィン、非塩素化ポリオレフィン、ロジン、およびアミノシランを含む群から選択される接着促進剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記スチレン系フッ素重合体がポリ(α,β,β−トリフルオロスチレン)(PTFS)であり、前記溶媒/溶媒ブレンドのハンセン溶解度パラメータが17.5<SPb<19.5を満たし、前記基板がTACまたはCOPであり、前記溶媒または溶媒ブレンドが、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、塩化メチレン(MeCl2)、クロロホルム、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、トルエン、シクロペンタノン、1,4−ジオキサン、アセトフェノン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、N−メチル−2−ピロリドン、およびN,N−ジメチルホルムアミドを含む群から選択される1つまたは複数である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年9月24日に出願された米国特許出願第12/890,011号の一部継続出願であり、これは、2008年8月22日に出願された米国特許出願第12/229,401号の一部継続出願であり、2007年3月29日に出願された米国特許出願第11/731,367号の一部継続出願である。本発明は、ポリマー溶液を基板上に流涎することによって調製された光学フィルムに関する。ポリマー溶液は、スチレン系フッ素重合体と、透明度、接着性、および位相差に関する光学フィルムの総合的な特性を最適化するために、フッ素重合体、基板、および溶媒/溶媒ブレンドのハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づいて選択される、溶媒または溶媒ブレンドとを含む。光学フィルムは、光学機器において、位相子としての使用に適する。
【背景技術】
【0002】
溶解度パラメータの概念は、1916年に、Hildebrandによって最初に提唱された。これは、溶液および溶質の内部エネルギーに関する。内部エネルギーは、内部圧力と密接な関係があり、これは、1立方センチメートルの物質が蒸発するために必要なエネルギーである。内部圧力の近い分子は、互いに引きつけ合い、相互に作用する、とHildebrandは提唱した。凝集エネルギー密度(CED)は、この内部エネルギーを表しており、物理的特性から算出され得る(CED=(ΔH−RT)/V
m)。溶解度理論による予測では、溶質は、CED値の近い溶媒または溶媒ブレンドにおいて溶解する。CEDの平方根は、溶解度パラメータと呼ばれ、ギリシャ文字δで表される。したがって、
【数1】
δの単位は、(cal/cm
3)
1/2またはMPa
1/2であり、ここで、1(cal/cm
3)
1/2=2.0455MPa
1/2である。ΔHは蒸発熱、Rは気体定数、Tは温度、V
mはモル体積である。全溶解度値の近い溶質および溶媒は、混和性であるが、全溶解度パラメータが大幅に異なる物質は、相溶性ではない。この溶解度分類方法は、炭化水素様の性質であり、高い極性または(水のような)水素結合する傾向を呈さない物質で有効に働く。
【0003】
ハンセン溶解度パラメータ
BurrellおよびHansenは、後に、部分溶解度パラメータの概念を取り入れた。彼らの提唱によれば、溶解度パラメータ(SP)は、3つの構成要素、すなわち、分散(無極性)SP(δ
d)、分極SP(δ
p)、および水素結合SP(δ
h)で表される。全溶解度パラメータは、数学的に次のように表現される。
【数2】
材料の全溶解度パラメータδ
tは、3つの部分溶解度パラメータ(δ
d、δ
p、およびδ
h)ベクトルが落ち合う、三次元空間上の点である。これらの溶解度パラメータは、一般に、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)と呼ばれている。溶媒の広範なリストのHSPが知られ、Charles,M.Hansen著「HANSEN SOLUBILITY PARAMETERS−A User’s Handbook」,第2版、CRC Press,Taylor & Francis Group,フロリダ州ボカラトン、2007年、p.347−483(以下、ハンセン便覧(HANSEN’s))に見つけることができる。この参考文献は、各溶媒に対し、3つの部分HSP(δ
d、δ
p、およびδ
h)の値を列挙している。全HSP(δ
t)は、式(2)で算出することができる。
【0004】
溶媒ブレンドのHSP
多数の溶媒の溶解度パラメータが分かっていることから、式(3)を用いて溶媒ブレンドの値を算出できる。式中、Φはブレンドにおける各溶媒成分の体積分率である。
【数3】
ブレンドの各HSP(δ
t、δ
d、δ
p、またはδ
h)は、対応する各溶媒成分の体積分率およびHSPを用いて、式(3)で算出され得る。
【0005】
ポリマーのHSP
ポリマーのハンセン溶解度パラメータは、一連の溶媒においてポリマーの溶解度を試験することによって測定され得る。ポリマーのHSPは、良溶媒のものに近く、非溶媒の値からかなり離れていると期待される。コンピュータプログラムまたは図式解法を利用して、溶解度試験の結果から最良適合を分析および取得し得る。ポリマーのHSPに加えて、相互作用半径R
0もまた生成され得る。δ
d対δ
p、δ
d対δ
h、およびδ
p対δ
hの3つの二次元プロットの半径がまず取得され、次いで、δ
d対δ
p対δ
hの三次元空間において球をプロットするために用いられる。結果として得られる最適化された球の半径が、相互作用半径R
0である。溶解球内の溶媒は、ポリマーに対する良溶媒であり、他方、球の外側のものは、貧溶媒である。
【0006】
三次元空間において、ポリマーおよび溶媒を表す2つのデータポイント間の距離は、次式で計算され得る。
【数4】
式中、δ
d2、δ
p2、およびδ
h2は、溶媒に関係し、δ
d1、δ
p1、およびδ
h1はポリマーおよび溶解球の中心に関係する。このように、R
a<R
0である溶媒は、ポリマーに対して良溶媒であり、R
a=R
0であれば境界の溶媒であり、R
a>R
0であれば貧溶媒である。溶解度に加えて、固有粘度、表面浸食、耐化学性、膨張、環境応力亀裂などの、溶媒に対するポリマーの親和性を反映し得るその他の特性もまた、ポリマーのHSPを生成するのに用いられ得る。市販のポリマーのHSPおよびR
0のリストは、ハンセン便覧のp.493−505にある。
【0007】
溶媒の選択
ポリマーの全HSPおよび部分HSPに最も良く一致する溶媒は、ポリマーに対して最も親和性が高く、したがって、溶解度が最も高い。しかしながら、これらの溶媒は、フィルム流延システムにおいては、ポリマーに対する最も好適な溶媒ではない場合もある。最適な溶媒は、システムにおいて何が望まれているのかによって変わる。溶解度の他に、溶媒選択に影響し得る要因には、例えば、費用、毒性、揮発性有機化合物(VOC)、蒸発速度、乾燥速度、他の成分との相溶性、溶液粘度、溶液レオロジー、フィルム形成特性、およびフィルム特性(機械的および光学的)がある。これらの要因は、互いに相互作用し、影響し合う可能性があり、このことは、システムに好適な溶媒を選択するのをさらに一層困難にする。
【0008】
米国特許出願第2011/0076487号は、スチレン系フッ素重合体を含むポリマー溶液を基板上に流涎することによって調製された光学補償フィルムを開示している。光学フィルムは、正の面外複屈折性を呈し、液晶ディスプレイ(LCD)、特に、インプレーンスイッチングLCD(IPS−LCD)における補償フィルム(Cプレート)として用いられて、画像の視聴品質を改善し得る。この用途に通常用いられる基板には、トリアセチルセルロース(TAC)、環状オレフィンポリマー(COP)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、セルロースエステル、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、およびポリオレフィンが含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特性の中でも、フィルムの透明度、基板に対する接着性、および位相差は、このような光学フィルムを機器にうまく適用するために必要とされる。フィルムはポリマー溶液から流延されることから、これらの所望の特性を与えるように、最も好適な溶媒/溶媒ブレンドが選択される。ポリマーに対する良溶媒は、透明度の高いフィルムを提供するが、フィルムは、基板に対する十分な接着性をもたない場合もある。同様に、基板に対する接着性を良好にする溶媒は、所望の位相差値をもたらさない場合もある。したがって、光学フィルムに必要とされる溶媒または溶媒ブレンドの特性のバランスを良くし得る、溶媒または溶媒ブレンドを選択するための方法の必要性が存在する。
【0010】
本発明は、特定の部品および部品配置において物理的な形を取り得、その実施形態は、本明細書において詳細に説明され、本明細書の一部を形成する添付の図面において図示される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】様々な溶媒を用いてTAC上に流延されたPTFSコーティングの位相差のグラフである。
【
図2】様々な溶媒ブレンドを用いてTAC上に流延されたPTFSコーティングの位相差のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
スチレン系フッ素重合体に基づいて最良の総合的な光学フィルムの特性を得る目的で、本発明者らは、ポリマー、基板、および溶媒/溶媒ブレンドのハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づいて溶媒または溶媒ブレンドが選択され得ることを見出した。そのような溶媒中のフッ素重合体から流延されたフィルムは、透明度、基板に対する接着性、および位相差において、最適な総合的な特性を呈する。
【0014】
一実施形態では、本発明は、スチレン系フッ素重合体フィルムを基板上に流延するための方法を提供し、ハンセン溶解度パラメータ(HSP、MPa
1/2)が以下の関係を満たす溶媒または溶媒ブレンド中にフッ素重合体を溶解することによってポリマー溶液を調製するステップを備える。
|SP
b−SP
p|<5、|SP
b−SP
s|<4、|SP
b(H)−SP
p(H)|<7、および2<|SP
b(H)−SP
s(H)|<10
式中、SP
b、SP
p、SP
sは、それぞれ、溶媒/溶媒ブレンド、フッ素重合体、および基板の全ハンセン溶解度パラメータであり、SP
b(H)、SP
p(H)、およびSP
s(H)は、それぞれ、溶媒/溶媒ブレンド、フッ素重合体、および基板の水素結合ハンセン溶解度パラメータであり、上記フッ素重合体は、以下の部分を含む。
【化1】
式中、R
1、R
2、およびR
3は、各々独立に、水素原子、アルキル基、置換されたアルキル基、またはハロゲンであり、R
1、R
2、およびR
3のうちの少なくとも1つは、フッ素原子であり、Rは、各々独立に、スチレン環上の置換基であり、nは、スチレン環上の置換基の数を表す、0から5までの整数である。
【0015】
スチレン環上の置換基Rの例には、アルキル、置換されたアルキル、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボキシル、ニトロ、アルコキシ、アミノ、スルホン酸塩、リン酸塩、アシル、アシルオキシ、フェニル、アルコキシカルボニル、シアノなどが含まれる。
【0016】
溶媒/溶媒ブレンドは、|SP
b−SP
p|<5の関係を満たす場合もあるが、溶媒/溶媒ブレンドの水素結合HSPがポリマーのものと大幅に異なる場合は、好適な溶媒では有り得ない。したがtって、|SP
b(H)−SP
p(H)|<7の関係が必要とされる。良好な接着性を与えるには、溶媒/溶媒は、|SP
b−SP
s|<4を満たさなければならない。しかしながら、溶媒/溶媒ブレンドは、基板のHSPに密接に関係したHSPを有し得ない、または基板を著しく溶解する。したがって、一実施形態では、2<|SP
b(H)−SP
s(H)|<10の関係が選択される。本発明の説明を通して述べるHSPの値はすべて、MPa
1/2の単位である。(cal/cm
3)
1/2などの異なる単位の利用は、HSPの値を変え得るだけでなく、HSPの関係も変え得る。
【0017】
別の実施形態では、本発明におけるハンセン溶解度パラメータ(HSP)の関係は、|SP
b−SP
p|<4、|SP
b−SP
s|<3、|SP
b(H)−SP
p(H)|<6、3<|SP
b(H)−SP
s(H)|<8であり、さらに別の実施形態では、この関係は、|SP
b−SP
p|<3、|SP
b−SP
s|<2、|SP
b(H)−SP
p(H)|<5、および4<|SP
b(H)−SP
s(H)|<7である。
【0018】
HSPの関係を満たすために、1種または2種以上の溶媒が必要とされるのであってもよい。溶媒ブレンドは、2種または3種以上の溶媒を特定の割合で組み合わせて、最良の総合的な特性を提供し得る溶媒混合液を得ることによって調製され得る。溶媒ブレンドの調整に用いられる各溶媒は、HSPの関係を満たしていても、満たしていなくてもよい。したがって、フッ素重合体には貧溶媒であると考えられる2種または3種以上の溶媒を組み合わせて、本発明において使用できる溶媒ブレンドを得ることが可能である。
【0019】
本発明のHSPの関係を満たすために用いられ得る溶媒の例は、ハンセン便覧のp.347−483にあり、その内容は、参照により本明細書に援用される。この参考文献は、各溶媒に対して、分散HSP(SP
b(D))、分極HSP(SP
b(P))、および水素結合HSP(SP
b(H))列挙しており、これから、溶媒ブレンドのHSPが式(3)で算出され得る。各溶媒/溶媒ブレンドの全HSP(SP
b)は、式(2)で算出することができる。なお、本発明の説明を通して、記号SP
bは、1種類の溶媒または溶媒ブレンドのいずれかのハンセン溶解度パラメータを表す。
【0020】
スチレン系フッ素重合体は、ホモポリマーまたはコポリマーでもよい。ホモポリマーは、以下の構造を有するフッ素含有モノマーの重合によって調製され得る。
【化2】
式中、R
1、R
2、およびR
3は、各々独立に、水素原子、アルキル基、置換されたアルキル基、またはハロゲンであり、R
1、R
2、およびR
3のうちの少なくとも1つは、フッ素原子であり、Rは、各々独立に、スチレン環上の置換基であり、nは、スチレン環上の置換基の数を表す、0から5までの整数である。
【0021】
このようなフッ素含有モノマーの例には、限定されるものではないが、α,β,β−トリフルオロスチレン、α,β−ジフルオロスチレン、β,β−ジフルオロスチレン、α−フルオロスチレン、およびβ−フルオロスチレンが含まれる。ポリ(α,β,β−トリフルオロスチレン)(PTFS)は、本発明において用いられるホモポリマーである。
【0022】
コポリマーは、フッ素含有モノマーのうちの1種または2種以上の、エチレン系の不飽和モノマーのうちの1種または2種以上との共重合によって調製され得る。本発明に好適なスチレン系フッ素重合体組成およびそれらの調整のための方法についてのさらなる説明は、米国特許出願公開番号20110076487号に開示されており、その内容は、参照により本明細書に援用される。
【0023】
フッ素重合体の3つの部分HSP、すなわち、分散HSP(SP
p(D))、分極HSP(SP
p(P))、および水素結合HSP(SP
p(H))は、フッ素重合体の試料をHSPが既知である一連の溶媒に溶解して、溶解度を試験することによって推定され得る。次いで、コンピュータプログラムを利用して、溶解度試験の結果から最良適合を取得し得る。実施例1に説明するように、表3に列挙された溶媒におけるPTFSの溶解度を試験した。Steven AbbottによるコンピュータソフトウェアHSPiP(第3版、2010年)に結果を入力して、最良適合によりHSP値を取得した。このように得られたPTFSのHSP(MPa
1/2単位)は、SP
p(D)=19.87、SP
p(P)=8.68、SP
p(H)=5.72であり、全SP
p=22.43であり、R
0=9.0である。
【0024】
基板上へのポリマー溶液の流延は、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、カーテンコーティング、またはディップコーティングなどの当技術分野において既知の方法によって実行され得る。コーティングの厚さは、約2〜15μmである。基板の表面は、コロナ処理などの当技術分野において既知の方法を用いて表面エネルギーを高めるために予め処理されても、されなくてもよい。したがって、別の態様において、本発明は、コロナ処理による基板の表面処理のステップをさらに備える。表面処理に加えて、様々な基板に対するフッ素重合体コーティングの接着性は、乾燥中に、大半またはすべての溶媒をポリマー溶液から除去することによって改善される。このことは、高温乾燥および長時間乾燥の両方、またはいずれか一方を用いることによって達成され得る。基板に基づいて可能な場合、コーティングされた表面をフッ素重合体のガラス転移温度を超えて加熱することは、接着性を著しく改善する。基板は、当技術分野において既知であり、これらには、トリアセチルセルロース(TAC)、環状オレフィンポリマー(COP)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、セルロースエステル、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリイミド、および光学機器において一般的に使用されるその他の材料が含まれる。
【0025】
実例となる基板として用いられ得るポリマーのHSPは、ハンセン便覧のp.493−505にあり、一部の例を以下に列挙してある。
【表1】
【0026】
セルロースアセテートのHSPは、測定される個別の試料のエステル化度に応じて著しく変わり得る。その他のポリマーのデータもまた、測定に用いられる方法に応じて変わり得る。実施例において用いたセルローストリアセテート(TAC)は、SP
s(D)=13.3、SP
s(P)=4.22、SP
s(H)=10.92、およびSP
s=17.72を有し、用いた環状オレフィンポリマー(COP)は、表1に列挙されたCOCポリマーのHSP値、すなわち、SP
s(D)=18.00、SP
s(P)=3.00、SP
s(H)=2.00、およびSP
s=18.36に近いHSP値を有すると推測される。
【0027】
フッ素重合体のHSPに対して密接に関係するHSPを有する溶媒は、良好な溶解度を呈するが、フッ素重合体を基板上にコーティングするために用いられた場合、所望の特性をもたらすのに、それらは必ずしも最適な溶媒である必要はない。ポリマーおよび基板に対して境界の溶解度を有する溶媒/溶媒ブレンドは、最良の総合的な特性をもたらすのに好ましい選択肢である可能性が高い。加えて、そのような境界の溶媒から調製されたポリマー溶液は、一般的に、塗布しやすくするためには望ましい低い粘度を呈する。
【0028】
PTFSをTACまたはCOP基板上にコーティングするために用いるのに好適な溶媒/溶媒ブレンドの非限定的な例には、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、塩化メチレン(MeCl
2)、クロロホルム、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールメチルアセテート(PGMEA)、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、トルエン、シクロペンタノン、1,4−ジオキサン、アセトフェノン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、N−メチル−2−ピロリドン、およびN,N−ジメチルホルムアミドから選択される1つまたは2つ以上が含まれる。各溶媒のHSP値が表2に列挙されており、ここで、SP
b(D)、SP
b(P)、およびSP
b(H)はハンセン便覧から取得され、SP
bは式(2)で算出されている。
【表2】
【0029】
TACを基板として用いた場合、約18−19の全HSP(SP
b)を有する溶媒/溶媒ブレンドが、フィルムの透明度、基板に対する接着性、ならびに位相差値において、より良好な特性を提供することがわかった。このような溶媒/溶媒ブレンドは、TAC基板の全HSPに近い全HSPを有するが、それらは、SP
b(H)(>4)において、著しく異なる。これにより、PTFSコーティングは、フィルムの透明度に影響することなく、また位相差値を大幅に低減することなく、良好な接着性を有する。このような溶媒の例には、PGMEA、MIPK、トルエン、PGMEAおよび酢酸エチルのブレンド、MEKおよびトルエンのブレンド、MIPKおよびトルエンのブレンド、ならびにMeCl
2およびMIPKのブレンドが含まれる。非限定的な溶媒の例には、PGMEA、MIPK、トルエン、PGMEA/酢酸エチル(50/50)、MEK/トルエン(70/30)、MIPK/トルエン(70/30)、およびMIPK/MeCl
2(70/30)が含まれる(重量比)。
【0030】
溶媒ブレンドの一部の実施例のHSPを表3に示す。値は、実施例2において説明したように、式(3)で算出される。
【表3】
【0031】
基板がCOPの場合、好適な溶媒の例には、シクロペンタノン、アセトンおよびMIBKのブレンド、MEKおよびMIBKのブレンド、シクロペンタノンおよびトルエンのブレンド、シクロペンタノンおよびMeCl
2のブレンド、ならびにMIPKおよびトルエンのブレンドが含まれる。非限定的な溶媒の例には、アセトン/MIBK(60/40)およびMIPK/トルエン(70/30)が含まれる(重量比)。
【0032】
アセトン(SP
b=16.97)およびMIBK(SP
b=19.94)は、各々、PTFSと混和しない。しかしながら、これら2つを40/60、50/50、60/40、70/30、および80/20の重量比で混合することによって、良好な透明度のポリマー溶液が調製された。各溶媒ブレンドの全HSPは、18.05、18.34、18.64、18.95、19.27と算出される。したがって、本発明は、スチレン系フッ素重合体がPTFSであり、溶媒/溶媒ブレンドのHSPが17.5<SP
b<19.5である実施形態をさらに提供する。
【0033】
基板に対するスチレン系フッ素重合体の接着性をさらに改良するために、接着促進剤を用いてもよい。例えば、接着促進剤は、ポリマー溶液に混合され、ポリマーと共に流延されて、コーティングフィルムを形成し得る。したがって、好適な接着促進剤は、所望の溶媒に溶解でき、スチレン系フッ素重合体と相溶性がある。接着促進剤は、光学フィルムの位相差値を著しく低減させないことがさらに望ましい。
【0034】
好適な接着促進剤の例には、限定するものではないが、Eastman Chemical Company(テネシー州キングスポート)から入手可能なもの、すなわち、Eastman Chlorinated Polyolefin164−1(登録商標)、343−1(登録商標)、および515−2(登録商標)などの塩素化ポリオレフィン、Eastman Chlorinated Polyolefin550−1(登録商標)などの非塩素化ポリオレフィン、ならびにAbitol E(登録商標)(水素化したガムロジン)、Permalyn 3100(登録商標)(ペンタエリスリトールのトール油ロジンエステル)、Permalyn 2085(登録商標)(グリセロールのトール油ロジンエステル)、Permalyn 6110(登録商標)(ペンタエリスリトールのガムロジンエステル)、およびForalyn 110(登録商標)(ペンタエリスリトールの水素化したガムロジンエステル)などの樹脂と、Dynasylan 1122(登録商標)およびDynasylan 210(登録商標)などのEvonik Industriesから入手可能なアミノシランとが含まれる。
【0035】
実施例
実施例1.様々な溶媒におけるPTFSの溶解度試験
PTFSの試料(例えば、1g)を表4に列挙された各溶媒(例えば、10g)と容器内で混合した。各混合物は、時間をかけて十分に混合させ、溶解度の結果を記録した。
【表4】
【0036】
実施例2.アセトンおよびMIBKの様々なブレンドにおけるPTFSの溶解度試験
アセトンおよびメチルイソブチルケトン(MIBK)をこの実験のために選択した。これは、これらが混和性であり、著しく異なるHSPを有していたためである(アセトン:SP
b=19.19、MIBK:SP
b=16.97)。また、これらはPTFSに対して貧溶媒であることが分かった。PTFSは、膨張するが、各溶媒に溶解しなかった。表5に列挙されているように、PTFS(4g)を様々なアセトン/MIBK比の溶媒ブレンドのそれぞれの中において(22.66g)混合することによって、一連の溶液を調製した。ポリマー溶液を2日間ローラの上に配置した。重量比で40/60、50/50、60/40、70/30、および80/20のものは透明である一方で、30/70および90/10のものは曇っており、残りは、溶解しないポリマーを含むことがわかった。
【0037】
アセトン/MIBK=60/40(重量%)のものについて、以下に示されているように、アセトンおよびMIBKのHSPから式(3)で各ブレンドのHSP値を算出した。
(アセトンの密度=0.792g/ml、MIBKの密度=0.802g/ml)
アセトン体積%=(60/0.792)/[(60/0.792)+(40/0.802)]=60
MIBK体積%=(40/0.802)/[(60/0.792)+(40/0.802)]=40
SP
b(D)=0.60×15.5+0.40×15.3=15.42
SP
b(P)=0.60×10.40+0.40×6.10=8.69
SP
b(H)=0.60×7.00+0.40×4.10=5.85
SP
b=(15.42
2+8.69
2+5.85
2)
1/2=18.64
【表5】
【0038】
実施例3.TAC基板上への様々な溶媒におけるPTFSの溶液の流延
まず、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムの試料(3インチ×4インチ)を、Laboratory Corona Treater(型式BD−20C、Electro-Technic Products,INC)を用いて、コロナ放電で約2分間処理した。表5に列挙されているように、様々な溶媒/溶媒ブレンドにおいて(22.66g)PTFS粉末(4g、固有粘度=1.0dL/g)を混合することによって、一連のPTFS溶液(15重量%)を調製した。ナイフ式の塗布器を用いて、各溶液をTACフィルム(厚さ、80μm)上に流延した。流延直後、コーティングされたフィルムを熱風乾燥器に80℃で5分間配置して、約5から約10μmの範囲の厚さを有する乾燥したコーティングを得た。各溶液から3枚のコーティングフィルムを得るように、実験を繰り返した。分光光度計(UltraScan VIS、Hunter Associates Laboratory,Inc)を用いて、フィルムの曇り度を測定した。コーティングされたTACフィルムを7日間エージングさせ、その外観を観察した。一部のコーティングフィルムが基板から剥離し、接着性が悪いことがわかったが、それ以外はそのままであった。結果を表6に示す。
【表6】
【0039】
実施例4.様々な溶媒を用いてTAC上に流延されたPTFSコーティングの位相差測定
コーティングフィルムが基板に付着していある間に、実施例3において調製されたコーティングされたTACフィルムの厚さおよび面外光学位相差(R
th)を測定した。厚さをMetricon 2010プリズムカプラで測定し、位相差をJ.A.Woollam M−2000Vで測定した。全体の値から基板のR
thを差し引くことによって、各コーティングの位相差(R
th、nm)を算出した。こうして得られたR
th値を厚さ(T、μm)で正規化して、R
th/T(nm/μm)の値を得て、
図1および
図2に示されるように、これを波長に対してプロットした。なお、区別しやすくするために、
図1および
図2に列挙された溶媒/溶媒ブレンドの凡例は、対応する曲線の順番にしたがって、上から下へ並べてある。
【0040】
実施例5.PTFSをTAC上に流延するために用いた溶媒のハンセン溶解度パラメータ
実施例3および4の結果から、表7に列挙された溶媒/溶媒ブレンドは、PTFSをTAC基板上に流延するために用いられる場合、フィルムの透明度、接着性、ならびに位相差において、コーティング特性の優れたバランスを提供し得ることが認められる。溶媒ブレンドのHSPは、式(3)で、実施例2において説明したように、算出される。
【表7】
【0041】
以上、実施形態を記載した。上記の方法および装置が、本発明の一般的な範囲から逸脱することなく、変更および修正を組み込み得ることは当業者に明らとなる。添付の特許請求の範囲またはその均等物の範囲内にある限り、このような修正および変更をすべて含むことが意図される。上の記載は、多くの特殊性を含んでいるが、これは、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではなく、本発明の実施形態のうちのいくつかの実例を単に提供するもとして解釈されるべきである。様々なその他の実施形態および副産物は、その範囲内で可能である。
【0042】
さらに、本発明の広い範囲を明示する数値の範囲およびパラメータは近似値であるが、具体的な実施例において言及された数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、あらゆる数値は、それぞれの試験測定結果に見られる標準偏差から必然的に結果として生じる特定の誤差を元来含んでいる。
【0043】
このように本発明を説明した上で、ここで特許請求の範囲を記載する。