(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162798
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】環境応答性の繊維及び衣服
(51)【国際特許分類】
D01F 8/04 20060101AFI20170703BHJP
D03D 15/00 20060101ALI20170703BHJP
A41D 31/00 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
D01F8/04 Z
D03D15/00 A
A41D31/00 501C
A41D31/00 502B
【請求項の数】21
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-518610(P2015-518610)
(86)(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公表番号】特表2015-525312(P2015-525312A)
(43)【公表日】2015年9月3日
(86)【国際出願番号】US2013047078
(87)【国際公開番号】WO2013192531
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2016年6月2日
(31)【優先権主張番号】13/531,151
(32)【優先日】2012年6月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514144250
【氏名又は名称】ナイキ イノベイト シーブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ウィリアムス
【審査官】
久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−057099(JP,A)
【文献】
特開平06−280157(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0057261(US,A1)
【文献】
特開2003−041444(JP,A)
【文献】
特開2003−082553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F8/00−8/18
D03D1/00−27/18
A41D31/00−31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺激感応性複合繊維であって、
当該刺激感応性複合繊維のコアに配され、外的刺激の存在下で拡大し、外的刺激の非存在下で縮小する、第一形状を有する第一材料と、
第二形状を有する第二材料であって、前記第二材料の第二形状が複数のレッグを有し、前記第一材料の縮小時には前記第二材料の第二形状の複数のレッグが第一の位置にあり、前記第一材料の拡大時には前記第二材料の第二形状の複数のレッグが第二の位置にあるように、前記第二材料の第二形状の複数のレッグが前記第一材料の第一形状と少なくとも一箇所で機械的に係合された第二材料と、
を有する刺激感応性複合繊維。
【請求項2】
請求項1記載の刺激感応性複合繊維において、前記第一材料は、熱により拡大する刺激感応性複合繊維。
【請求項3】
請求項1記載の刺激感応性複合繊維において、前記第一材料は、湿気により拡大する刺激感応性複合繊維。
【請求項4】
請求項1記載の刺激感応性複合繊維/糸において、前記第一材料は、電磁界により拡大する刺激感応性複合繊維。
【請求項5】
請求項1記載の刺激感応性複合繊維において、前記第一材料及び前記第二材料は、ポリエステルから成る刺激感応性複合繊維。
【請求項6】
請求項1記載の刺激感応性複合繊維において、前記第二材料の前記第二形状は、第一材料から前記第二材料に伝達される力により位置変化する突起を有する刺激感応性複合繊維。
【請求項7】
径方向に機械的変化させることができる刺激感応性複合繊維であって、当該刺激感応性複合繊維の断面部が、
当該刺激感応性複合繊維のコアに配され、外的刺激により物理化学的変化させることができる第一材料であり、前記コアから外向きに伸びる略同じ長さの複数のアームを有し、前記複数のアームはそれぞれ、前記コアから伸びるにつれて徐々に幅広となっている第一材料と、
前記第一材料の前記それぞれのアームの両側に隣接し、前記第一材料の前記それぞれのアームと少なくとも一箇所で接触及び機械的に係合し、前記第一材料の前記それぞれのアームの拡大時には、互いに近づくように移動する複数のレッグと、前記第二材料の前記複数のレッグの移動に機械的に応じて位置変化する複数の突起とを有する第二材料と、
を有する刺激感応性複合繊維。
【請求項8】
請求項7記載の刺激感応性複合繊維において、当該刺激感応性複合繊維はさらに、
前記第一材料及び前記第二材料の間の隙間を充填し、当該刺激感応性複合繊維に略欠けのない断面部を与える犠牲ポリマーであり、前記第一材料及び前記第二材料のいずれも溶解させない工程において溶解させることができる犠牲ポリマー
を有する刺激感応性複合繊維。
【請求項9】
請求項8記載の刺激感応性複合繊維において、前記犠牲ポリマーは、酸可溶性である刺激感応性複合繊維。
【請求項10】
請求項8記載の刺激感応性複合繊維において、前記犠牲ポリマーは塩基可溶性である刺激感応性複合繊維。
【請求項11】
請求項8記載の刺激感応性複合繊維において、前記犠牲ポリマーは水溶性である刺激感応性複合繊維。
【請求項12】
刺激感応性複合繊維が使用された、適合性を有する織物/布地を作成する方法であって、
第一材料、第二材料、および犠牲材料を有する刺激感応性複合繊維を押し出す工程であって、前記第一材料が、前記刺激感応性複合繊維のコアに配され、第一環境条件により拡大し、第二環境条件により縮小する第一形状を有し、前記第二材料が、前記第一材料と機械的に係合された複数のレッグを有する第二形状を有し、前記第一材料の縮小時には前記第二材料の第二形状の複数のレッグが第一の位置にあり、前記第一材料の拡大時には前記第二材料の第二形状の複数のレッグが第二の位置にあり、前記犠牲材料が、前記刺激感応性複合繊維の押出の際に、前記第一材料を前記第一形状に、前記第二材料を前記第二形状に、前記第二材料の第二形状の複数のレッグを前記第一の位置に固定する、刺激感応性複合繊維を押し出す工程と、
押し出された前記刺激感応性複合繊維が組み込まれた織物/布地を形成する工程と、
前記刺激感応性複合繊維から、前記第一材料及び前記第二材料のいずれも溶解させることなく、前記犠牲材料を除去する工程と、
を含む方法。
【請求項13】
請求項12記載の作成方法において、前記織物/布地は、押し出された前記刺激感応性複合繊維が組み込まれた糸を織り込むことにより形成されている方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記犠牲材料は、前記織物/布地を形成する工程に先立って除去される方法。
【請求項15】
請求項13記載の方法において、前記犠牲材料は、前記織物/布地が織り込まれた後に除去される方法。
【請求項16】
刺激感応性複合繊維が使用された、適合性を有する織物/布地から作成された衣服であって、前記刺激感応性複合繊維は、
当該刺激感応性複合繊維のコアに配され、外的刺激により物理化学的変化させることができる第一材料であり、前記コアから外向きに伸びる複数のアームを有し、当該複数のアームはそれぞれ、前記コアから伸びるにつれて徐々に幅広となっている第一材料と、
前記第一材料の前記それぞれのアームの両側に隣接し、前記第一材料の前記それぞれのアームと少なくとも一箇所で接触及び機械的に係合し、前記第一材料の拡大時には、互いに近づくように移動する複数のレッグと、前記第二材料の前記複数のレッグの移動に機械的に応じて位置変化する複数の突起とを有する第二材料と、
を有する衣服。
【請求項17】
請求項16記載の衣服において、前記第一材料は、磁界の存在下で縮小し、磁界の非存在下で拡大する衣服。
【請求項18】
請求項16記載の衣服において、前記第一材料は、加熱により拡大し、冷却により縮小する衣服。
【請求項19】
請求項16記載の衣服において、前記第一材料は、湿度の存在下で拡大する衣服。
【請求項20】
請求項16記載の衣服において、前記第一材料は、印加された電界に応答する衣服。
【請求項21】
径方向に機械的変化させることができる刺激感応性複合繊維であって、当該刺激感応性複合繊維の断面部が、
当該刺激感応性複合繊維のコアに配され、外的刺激により物理化学的変化させることができる第一材料と、
前記第一材料に隣接する第二材料と、
当該刺激感応性複合繊維の周縁の一部のみに設けられた加工層と、
を有し、
前記第一材料は、電磁界により拡大する、刺激感応性複合繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境からの様々な刺激に感応性し得る形状変化型繊維及びそうした繊維が用いられた衣服に関する。環境からの刺激とは、例えば、湿度、温度、電界及び磁界等である。本発明は、適合性を有する快適な運動用衣服に限らず、当技術分野のいくつもの実用に供することができる。本発明の繊維で生じた小規模な形状変化は、相加効果を発揮し、糸への組込みもしくは織物(ファブリック)/布地(テキスタイル)への織り込み/編み込み又はその両方に供された際に大規模な形状変化型繊維として目視され得る。また、形状変化型繊維が組み込まれた織物/布地から、衣服を作成することができる。さらに、組み込まれた繊維の形状変化により、衣服の通気性、透湿性、色及び湿度制御性等を変化させることができる。
【背景技術】
【0002】
時代と共に、運動用衣類は進歩してきた。今日、運動用衣類の製造には、様々なポリマー加工処理又は特定の物理化学性を有する多種の合繊糸を利用することができる。しかし、こうした例では、繊維が使用された衣服のいかなる着用時においても、繊維の物性は実質的に不変である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、概して、熱、湿度、電界、磁界及び光といった外的刺激によって径方向に機械的形状を変化させることができる繊維の製造及び使用に関する。本発明はさらに、そうした繊維の衣服への使用による、環境適合性を有する衣類の提供に関する。本明細書中で記載の繊維を糸に組み込み、この糸を織物に編み込み又は織り込み、この織物を用いてそうした衣服を作成することができる。また、同様に、本発明に従い、適合性を有する繊維を組み込んで、衣服以上の製品を作ることもできる。
【0004】
本発明によれば、複数成分の合成ポリマー繊維を提供することができる。さらに詳細には、ポリマー繊維は、物理化学性の異なる少なくとも2つの合成ポリマーから成り得る。本発明によれば、合成ポリマーは、溶融紡糸により製造することができる。また、例えば、所定の配向によって様々なポリマーを作ることもできる。様々なポリマーは、最終的に得られるポリマーの構造及び所望の繊維形状に応じた複数の区画(コンパートメント)に分割された溶融装置内で作ることができる。溶融装置は、例えば、複数の区画を有する坩堝であってもよく、当該坩堝の所定のサイズ及び形状の孔から複数のポリマー材料を(同時に)押出/押出成形して、所望の繊維又は繊維成分とすることができる。ポリマー材料が固形状態でもそれらの構造及び配向を維持できるように、繊維を急速に冷却させてもよい。本明細書中では、第一ポリマー及び第二ポリマーを有する繊維の例について記載するが、本発明の繊維に使用されるポリマー及び/又はポリマー形状の数は2個に限定されない。繊維は紡糸又はそうでなければ回収して、後続する製造工程で使用することができる。得られた繊維製品は、その径方向において、様々な物理化学性及び機械的性質を有し得る。
【0005】
所望のポリマー材料の最終的な構造及び配向に応じて、ポリマーの一方又は押出後の繊維を、除去可能なフィラーポリマー材料とすることができる。こうした犠牲ポリマー材料により、最初に押し出される繊維の断面部が、例えば、略円形になり、回収及び紡糸が容易になる。つまり、本発明の繊維の製造を補助することができる。犠牲ポリマーは、本発明の繊維及び/又は繊維が組み込まれた糸から織物/布地を織り込む前又は後に除去することができる。フィラーポリマーとも呼称され得る犠牲ポリマーは、繊維、糸又は衣服から選択的に除去して、最終製品としての衣服に様々な性質を備えた領域を作り出すことができる。
【0006】
本発明の繊維の場合、例えば、犠牲ポリマーは、酸可溶性ポリマーとし、その他のポリマーは耐酸性とすることができる。犠牲ポリマーは、繊維(又は繊維が組み込まれた糸)を、織物/布地の織り込みに先立って酸浴に浸漬することにより、除去することができる。また、(フィラーポリマーを含有したままの)未加工の繊維/糸を含む織込後の織物/布地を酸浴に浸漬することにより、犠牲ポリマーを除去することもできる。また、本発明の別の例においては、犠牲ポリマーは、塩基可溶性、水溶性又は油溶性等とすることができる。したがって、本発明の繊維/糸/布地/衣服を適切な物質に浸漬することにより、1又は複数の所望のロケーションでフィラーポリマーを除去することができる。
【0007】
一般的に、本発明の繊維の断面は、刺激感応性ポリマー材料の径方向の所定の形状及び配向を許容するのに適したいかなる固体形状であってもよい。例えば、円形、正方形、ダイヤモンド形及び矩形等が考えられる。犠牲ポリマーに含有されている刺激感応性ポリマー材料は、複雑な径方向構造を持つように形状付け及び配向付けされており、外的刺激により生じた物理化学的変化によって、機械的変化させることができる。これにより、糸の径方向全体に見られる軽微な変化の作用は、繊維長に沿って相乗的に増加し、織り込まれた織物/布地では明白な変化となる。したがって、本発明の糸を含む織物/布地は、衣服に使用された場合、動的表面を有し、こうした衣服は、いかなる状況でも着用者の着心地を調節又は最適化することができる。繊維の変化は、自動的及び/又はユーザ制御により生じ得る。例えば、本発明の繊維の変化が温度により生じるものである場合、変化は、ユーザ体温の関数として自動的に生じ得る。この場合は、例えば、他の繊維成分を露出すること、又は、織物/布地にある程度の通気性及び透湿性を持たせて遮断レベルを調節すること等により湿気を逃がしやすくすればよい。
【0008】
本発明の繊維は、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、その他の熱可塑性ポリマー及びエラストマー等の、糸/布地/織物/衣服の製造や使用に適した合成ポリマー材料を含有することができる。
【0009】
最終的な織物/布地製品に所望される表面物性に応じて、織物/布地は、完全に本発明の繊維/糸から織り込んでも、本発明の繊維/糸と他の種類の繊維又は糸を組み合わせて織り込んでもよい。例えば、高弾性率の織物/布地を得るために、本発明の繊維を、例えば、ケブラー(登録商標)といった高弾性率アラミド繊維と組み合わせて織り込むことができる。また、例えば、最終的な織物/布地に「綿のような感触」が所望される場合は、本発明の繊維を、綿繊維と組み合わせて織り込み又は編み込みすることができる。本発明の繊維を、耐火性の繊維/糸と組み合わせて織り込み、織物/布地等に耐火性を持たせることや、本発明の繊維を、上述したような複数種の特殊な繊維又は糸と組み合わせて織み込む又は編み込むことにより、多機能な織物/布地を得ることもできる。
【0010】
本発明の繊維を糸に組み込み、糸を織り込み又は編み込みして、織物又は布地を作成することができる。本発明の繊維を使用した糸は、単一の形状変化型繊維から成ることにしても、形状変化型繊維とその他の種類の繊維との組み合わせを含むことにしてもよい。例えば、本発明の繊維から糸を形成したり、本発明の繊維を、例えば、スパンデックスといった弾性繊維と組み合わせて織り込む/編み込むことにより、織られた織物/布地に弾性を持たせたりすることができる。言い換えれば、特定の所望の性質を持った織物/布地を最終的に得るために、本発明の繊維を、いかなる種類の合繊又は天然の繊維/糸と組み合わせてもよい。また、繊維は、複合繊維糸に組み込まずに、織り込む又は編み込む対象となる織物/布地に直接組み込んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の糸又は繊維を、外的環境からの刺激により生じた機械的変化の前後において示す断面図である。
【
図2】本発明の糸又は繊維を、押出しの後、かつ、フィラーポリマーの溶解除去処理の前後において示す断面図である。
【
図3】
図1及び
図2に示されている、磁気変形性を有するコアの第一ポリマー材料を、「オン」「オフ」状態において示す拡大図である。
【
図4】磁気変形性を有する本発明の繊維/糸から形成された織物/布地を用いて作成された衣服の一例を示す図である。
【
図6】本発明の別の糸又は繊維を、押出しの後、かつ、フィラーポリマーの溶解除去処理の前後において示す断面図である。
【
図7】
図6に示されている本発明の糸又は繊維を、外的環境からの刺激により生じた機械的変化の前後において示す断面図である。
【
図8】本発明のさらに別の糸又は繊維を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。本発明は、外的刺激により径方向に物理化学的変化及び機械的変化させることができる新規な繊維並びにそうした繊維が使用された糸、布地、織物、衣服及び/又は製品に関する。外的刺激とは、いくつかの例を挙げると、温度、湿度及び電磁界の有無又は磁界等における変化である。
【0013】
図1を参照する。
図1には、本発明の例示的な複合刺激感応性繊維100の断面が示されている。なお、本発明から逸脱することなく、別の形状、種類及び成分数を有する構造を用いることもできる。
図1の複合刺激感応性繊維100は、繊維100のコアに配された第一ポリマー材料130を有することができる。第一ポリマー材料130は、外的刺激により、可逆的な物理化学的変化をさせることができる。
図1に示されている例では、第一ポリマー材料130は、第一アーム132及び第二アーム134といったアームが中央133で接続された十字形状である。第一ポリマー材料130の他に、複合刺激感応性繊維はさらに、第一ポリマー材料130に隣接する第二ポリマー材料120を有することができる。
図1の例では、第二ポリマー材料120は、第一ポリマー材料130のアーム132及び134等と機械的に連動する構造体から対になって伸びる一対の角状突起形である。第二ポリマー材料120は、第一ポリマー材料130の物理化学的変化に直接的に応答して、機械的変化することができる。第二ポリマー材料120の機械的変化は、第二ポリマー材料120の第一ポリマー材料130に対する形状及び配向に直接的に依存し得る。例えば、
図1に示されているように、第二ポリマー材料120は、第一ポリマー材料130のアーム132及び134等の間のダイヤモンド形状部分である。また、例えば、第二ポリマー材料120は、第一頂部123で第一伸長部124に第一角度で接続された第一レッグ122と、第二頂部127で第二伸長部128に第二角度で接続された第二レッグ126とを有する。第一レッグ122は、第一ポリマー材料130の第一アーム132と機械的に係合し、第二レッグ126は、第一ポリマー材料130の第二アーム134と機械的に係合し得る。第一アーム132及び第二アーム134が拡大すると、第一レッグ122及び第二レッグ126は互いに近づくように移動し、第一頂部123(第一レッグ122と第一伸長部124との間)及び第二頂部127(第二レッグ126と第二伸長部128との間)での接続角度が変化する。第二ポリマー120のダイヤモンド形状部分のこうした機械的作用により、
図1に示されているように、突起120、129、及び141等は移動する。
【0014】
例えば、
図1に示されている繊維において、繊維のコアに配された第一ポリマー材料130は、外的刺激の非存在下では第一形状101をとることができる。第一材料130の第一形状は、全体として、略同じ長さの少なくとも4つのアームを有し、アームはそれぞれ、コアから伸びるにつれて徐々に幅広となる。第二ポリマー材料120は、第一ポリマー材料130に少なくとも一箇所で隣接、接触又は機械的に係合しており、第二形状101を有する第二材料120は、第一材料130に対する外的刺激の非存在下では第一位置に、第一材料が外的刺激の存在下で拡大すると、第一材料により第三形状102に変化させられる。
【0015】
本例の第二ポリマー材料120は全体として、それぞれの端部に2個の角形状の突起を有する別個の中空ダイヤモンド形状構造を形成している。例えば、第一レッグ122及び第一伸長部124は、第一頂部123において第一角度で交差し、第一伸長部124からは第一突起121が延在することができる。同様に、第二レッグ126及び第二伸長部128は、第二頂部において第二角度で交差し、第二伸長部128からは第二突起129が延在することができる。中空のダイヤモンド形状は、第一ポリマー材料130の第一形状のアーム間の隙間、例えば、第一アーム132及び第一レッグ122並びに第二アーム134及び第二レッグ126において、第一ポリマー材料130と機械的に係合することができる。第一ポリマー材料130及び第二ポリマー材料120の機械的係合により、第一ポリマー材料130が外的刺激により拡大縮小すると、第二ポリマー材料120を有する中空のダイヤモンド形状は、(第一材料130が拡大した場合は)圧縮したり、(第一材料130が縮小した場合は)復元したりすることができる。これにより、機械的運動が生じ、例えば、第一レッグ122及び第二レッグ126から第一伸長部124及び第二伸長部128に機械的運動が伝達されて、最終的には、第二材料120で形成された角形状の突起121及び129が(第一材料130が縮小した場合は)第一の開位置101に、(第二材料130が拡大した場合は)第二の閉位置102に移動する。本発明の繊維には、追加的構成をいくつでも使用することができる。言い換えれば、コアの第一ポリマー材料130への外的刺激により生じた変化は、「連鎖反応」を引き起こし、繊維の長さ全体にわたる径方向の変化となる。さらに、こうした変化は、服、鞄、保護ケース、又はその他の種類の本発明の繊維から織り込まれた織物/布地を含む製品の製造への使用のために、繊維が織物/布地に織り込み又は編み込みされた場合に、その織物/布地の性質を変化させる。
【0016】
「第一」又は「第二」等と参照してきた材料又は構造は、説明のためのものであって、作成にかかる優先度若しくは順序、重要度又は説明及び特定の実施例の理解を容易にする以外の意図を意味するものではない。例えば、
図1の実施例では繊維のコアのポリマー材料を第一材料130とし、コアのポリマー材料130と機械的に係合するポリマー材料を第二材料120として説明したが、その他の用語を用いることもできる。また、様々な材料の相対位置は、図示されている実施例と異なっていてもよい。例えば、繊維のコアに1種類の材料を配し、繊維の周縁部に別の種類の材料を配するのではなく、多種の材料を、繊維のコア内、繊維の周縁部付近又は繊維の幅全体等に配すると共に機械的係合させることも可能である。また、本発明の繊維で使用される材料の種類の数はいくつであってもよい。
【0017】
次に、
図2を参照する。本発明の繊維は、そのポリマー材料の性質のために、通常は溶融紡糸により製造することができる。本発明の繊維は、所望の種類の変化に適した所定のパターンに応じて配置及び配向された独特かつ繊細な構造を有し得る。このように本発明の繊維の径方向形状は繊細であるため、繊維の製造では、除去可能な第三ポリマー材料110を用いることができる。
図2から見て取れるように、第三ポリマー材料110は、繊維の押出又は溶融紡糸の際に、第一ポリマー材料130及び第二ポリマー材料120の間の隙間を充填することができる。第三ポリマー材料110は、押出又は溶融紡糸される繊維に略円形の断面部201を与えるのに役立つ。ただし、繊維の断面部が適度に充填されていれば、断面部は、正方形、楕円形等、又は本発明の繊維の第一ポリマー、第二ポリマー及びその他の成分から形成された複雑な繊維構造の封止に適したその他の形状とすることができる。
【0018】
第三ポリマー材料110は、繊維を構成する他のポリマーに損傷を引き起こすことなく溶解させることが可能な犠牲ポリマーから成り得る。例えば、第一ポリマー材料130及び第二ポリマー材料120が耐酸性であれば、第三の犠牲ポリマー材料110は、容易に除去できるように、酸浴に溶解させることが可能なポリマーから成り得る。また、第一ポリマー材料130及び第二ポリマー材料120が耐塩基性であれば、第三の犠牲ポリマー材料110は、塩基可溶性材料であり得る。他の例では、フィラーポリマー材料110は、水洗浄により容易に除去することができるように、水溶性ポリマーから成ることも可能である。第三の犠牲ポリマー材料110を除去すれば、本発明の繊維のアクティブな断面形状202が得られる。
【0019】
第三の犠牲ポリマー材料110は、糸を形成する前、及び/又は、繊維若しくは繊維が組み込まれた糸から織物/布地を織り込み/編み込みする前に、繊維から除去することができる。また、第三の犠牲ポリマー材料110は、本発明の繊維から織物/布地を織り込み/編み込みした後に除去することもできる。あるいは、第三の犠牲ポリマー材料110は、織物/布地を使用して製品を製造した後に除去することもできる。犠牲ポリマー材料110は、繊維、織物/布地、及び/又は、製品から選択的に除去することができ、それにより、環境変化に対する様々な適合性を有する領域を作り出すことができる。言い換えれば、フィラーポリマー材料は、本発明の繊維の製造後のいかなる工程においても除去することができ、この除去工程は、後続する処理工程のニーズに応じて調節することができる。
【0020】
コアの第一ポリマー材料130として、外的刺激により収縮拡大することができる多種多様のポリマーを使用することができる。例えば、磁気変形性ポリマー材料をコアの第一ポリマー材料130として使用してもよい。コアの磁気変形性材料は、磁界刺激により物理変化させることが可能な、磁粉又はナノ粒子の懸濁液であってもよい。例えば、公知の磁性流体材料では、磁粉が磁界へと方向付けられるため、流体の粘度は、予測可能かつ印加された磁界強さに比例した速度で増加し得る。ポリマー磁気変形性材料の場合は、磁界の有無により、ポリマーの占める部分が増減(拡大収縮)し得る。磁気変形性材料は、「オフ」状態では拡大し、磁界が印加され、磁粉が磁界へと方向付けられる「オン」状態では収縮することができる。
【0021】
本発明の繊維のコアの第一ポリマー材料130として磁気変形性材料を使用した場合、繊維が組み込まれた織物/布地に磁界を印加することにより、微視的に繊維を径方向に変化させることができる。
図1を再び参照すると、第一ポリマー材料130及び第二ポリマー材料120は、オフ状態において、第一の閉位置102にあり得る。磁界が印加されると、第一ポリマー材料130の磁粉は磁界へと方向付けられるため、「オン」状態の第一ポリマー材料130及び第二ポリマー材料120は、第二の開位置101へと変化し得る。こうした特徴は、例示的な
図3から、より良く理解できるだろう。
図3中、310は「オフ」状態であり、320は「オン」状態である。磁界が繊維に印加されていない際は「オフ」状態310であり、磁界が繊維に印加されている際は「オン」状態320である。ただし、「オフ」及び「オン」は、相対的状態にすぎない。繊維、糸、布地及び/又は衣服の所望の性質は、本発明の所定の繊維に使用されている材料及び構成に応じて、「オフ」状態又は「オン」状態で実現することができる。
【0022】
繊維レベルで生じる微視的なあらゆる変化に加えて、繊維が織物/布地に組み込まれた場合は、微視的に認識できる程度の変化が観測される。織物/布地で認識される微視的な変化としては、例えば、(第一のコアポリマー材料及び第二の機械的係合ポリマー材料として、色の異なるポリマー材料を使用することによる)色の変化と、(織物/布地の「孔」のサイズを変化させることによる)遮断レベルの変化と、(他のポリマー材料を遮蔽又は露出することによる)織物/布地の感触の変化等が挙げられる。こうした変化は、ユーザにより制御することができる。例えば、ユーザは、織物/布地の上で物理的磁石を揺動させるだけで、磁界を印加することができるためである。磁界が消勢すると、第一ポリマー材料130は、その「オフ」状態に緩やかに戻り、それにより、織物/布地の元の性質が回復される。
【0023】
別の例では、本発明の磁気変形性繊維を含む衣服又は製品は、バッテリといった電源を設けることにより「オン」・「オフ」することができる電磁界発生プローブと共に設計され得る。本例では、ユーザはさらに、変化が現れる時間の長さも制御することができる。
【0024】
本発明の繊維が組み込まれた織物/布地の磁気変形性は、
図4を参照すれば、より良く理解できるだろう。
図4には、磁気変形性を有する衣服400が示されている。衣服を構成する織物/布地は、例えば、矢印410により示されているように、磁石420を布地430の上で揺動させることにより変化させることができる。また、例えば、磁界を発生させることにより、変化の長時間の継続又は制御を可能にすることができる。こうした磁界は、バッテリといった電源を備えた衣服に所要のプローブを設けることにより生じさせることができる。
【0025】
本発明の繊維の別の例では、感熱性ポリマー材料をコアの第一ポリマー材料130として使用することができる。感熱性ポリマー材料は、例えば、通常体温よりわずかに高い温度又は本発明の繊維から織り込まれた織物/布地の特定の目的に適したその他の温度で拡大し得る。上述した例と同様に、磁気変形性材料を使用して、本発明の繊維が組み込まれた織物/布地に多種多様な変化及び変化の組合せを出現させることができる。例えば、身体運動により上昇した着用者の体温に応じた衣服の色の変化及び遮断レベルの変化が認識され得る。例えば、
図1の例で示されている第一のコアポリマー材料130及び第二の機械的係合ポリマー材料120の色が異なる場合、第一ポリマー材料及び第二ポリマー材料が第一の開位置101から閉位置102に変化するにしたがって、織物/布地の孔サイズは増加し得る。同時に、主に第二ポリマー材料120が織物/布地の表面に露出される。言い換えれば、織物/布地の色は、開位置では主に第一コアポリマー130の色であり、閉位置では主に第二の機械的係合ポリマー120の色へと変化する。
【0026】
別の例では、コアの第一ポリマー材料130は、感熱性ポリマー材料とし、第二の機械的係合ポリマー材料120は、湿気を逃がすポリマー材料として、例えば、本発明の繊維が組み込まれた織物/布地510から作成された衣服500に、着用者の体温及び発汗が身体運動と共に上昇及び増加するにしたがって変化する湿度制御性を持たせることができる。これは、
図5を参照すれば、より良く理解できるだろう。
図5は、運動用衣服の性質が熱により変化する様子を示す。このように、本発明の繊維が組み込まれた織物/布地は、最終製品の特定のニーズに、動的に適合させることができる。
【0027】
別の例では、第一ポリマー材料130は、身体の発汗又は雨及び霧等といった環境要因による湿度の有無に応じて拡大縮小することが可能な感湿性ポリマー材料とすることができる。繊維を発汗感応繊維とする場合、例えば、湿度の存在下では拡大するポリマーをコアの第一ポリマー材料130として使用することにより、遮湿レベルを下げ、湿気を逃がすポリマー材料を第二の機械的係合ポリマー材料120として使用することにより、繊維が組み込まれた繊維/糸及び織物/布地の湿度制御性を向上させることができる。
【0028】
図6には、異なる構造を有する別の例示的な複合刺激感応性繊維600の断面が示されている。複合刺激感応性繊維600は、異なる構造を有する。
図2の複合刺激感応性繊維100と同様に、本発明の繊維600は通常、溶融紡糸、押出又はその他の適切な方法により製造することができる。本発明の繊維600は、互いに異なる少なくとも3種類のポリマー材料から成り得る。
図6の複合刺激感応性繊維600は、繊維600のコアに配された第一ポリマー材料630を有することができる。第一ポリマー材料630は、外的刺激により、可逆的な物理化学的変化をさせることができる。複合刺激感応性繊維600はさらに、第一ポリマー材料630に隣接する第二ポリマー材料620を有することができる。繊維600の第一ポリマー材料630及び第二ポリマー材料620は、所望の種類の変化に適した所定のパターンに応じて配置及び配向された独特かつ繊細な構造を有し得るため、繊維600の製造では、第三の犠牲ポリマー材料610を用いることができる。
図6から見て取れるように、犠牲ポリマー材料610は、繊維の押出又は溶融紡糸の際に、第一ポリマー材料630及び第二ポリマー材料620の間の隙間を充填することができる。犠牲ポリマー材料610は、押出又は溶融紡糸される繊維に略円形の断面部601を与えるのに役立つ。ただし、繊維の断面部が適度に充填されていれば、断面部は、正方形、楕円形等、又は本発明の繊維の第一ポリマー、第二ポリマー及びその他の成分から形成された複雑な繊維構造の封止に適したその他の形状とすることができる。
【0029】
犠牲ポリマー材料610は、繊維を構成する他のポリマーに損傷を引き起こすことなく溶解させることができる。例えば、第一ポリマー材料630及び第二ポリマー材料620が耐酸性であれば、犠牲ポリマー材料610は、容易に除去できるように、酸浴に溶解させることが可能なポリマーを含むこととすればよい。また、第一ポリマー材料630及び第二ポリマー材料620が耐塩基性であれば、犠牲ポリマー材料610は、塩基可溶性ポリマー材料とすればよい。他の例では、犠牲ポリマー材料610は、水洗浄により容易に除去することができるように、水溶性ポリマーから成ることも可能である。犠牲ポリマー材料610を除去すれば、本発明の繊維のアクティブな断面形状602が得られる。
【0030】
図7には、犠牲ポリマー材料610の溶融除去後の例示的な複合刺激感応性繊維600の断面が、そのアクティブな構造において示されている。
図7の複合刺激感応性繊維600は、第一ポリマー材料630と、第一ポリマー材料630に隣接する第二ポリマー材料620とを有する。
図6の例では、第二ポリマー材料620は、第一ポリマー材料630の物理変化と機械的に連動する構造体から対になって伸びる一対の角状突起形である。言い換えれば、本例の複合体は、第一ポリマー材料630の所定の物理変化に応じて、第一構造701から第二構造702へと構造変化させることができる。
【0031】
図8は、本発明の複合繊維800のさらに別の例を示す。本例において、参照符号801により総称される第一ポリマー材料810、第二ポリマー材料820及び第三ポリマー材料830を有する複合繊維800はまず、押出又は溶融紡糸され得る。ここで、第一ポリマー材料810は犠牲ポリマー材料とすることができる。第一ポリマー材料810の除去に先立って、複合繊維800はまず、加工処理を施され、耐水性及び耐火性等といった付加的な所望の性質を与えられる。そうした加工処理は、化学的及び/又は機械的なものであり得る。本発明により使用することが可能な化学的加工としては、柔軟剤、吸収性加工、樹脂加工、撥油加工、撥水加工、紫外線防御加工、多種のコーティング加工及びラミネート加工等が挙げられる。化学的加工は、繊維、糸、布地、部分的に作成された物品、及び/又は、完全に作成された物品の製造段階で施すことができる。化学的加工は、接着剤や結合剤等を用い、溶液(バス)、噴霧、パッド若しくはその他の機構による接触塗布などいかなる技術で施してもよい。本発明により使用することが可能な機械的加工としては、カレンダー加工、圧縮加工、ピーチスキン加工、スエード加工、サンド加工、ブラシ加工、シャーリング加工及びエンボス加工等が挙げられる。機械的加工は、繊維、糸、布地、部分的に作成された物品、及び/又は、完全に作成された物品の製造段階で施すことができる。繊維/糸/布地/物品には、複数種の加工を施すこともできる。加工後に得られた繊維が、参照符号802により集合的に図示されている。参照符号802により全体が示されているように、施された処理により、繊維800に材料が付加されるか、又は、繊維800の表面が変化することがあり得る。加工は、必須ではないが、材料によって異なる相互作用を及ぼし得るため、第一ポリマー材料の上には第一加工表面840を、第三ポリマー材料830の上には第二加工表面850を形成することができる。また、加工済みの繊維の別の材料の上に、別の加工表面を形成することもできる。加工工程が完了すると、第一ポリマー材料810及びその上にある加工表面840を除去することが可能な任意の適切な方法により、第一ポリマー材料810を溶融/除去することができる。これにより、参照符号803により示されているように、アクティブな構造において、第一の犠牲ポリマー材料810と除去済みの犠牲ポリマー材料810の上にあるコーティング層840とが除去され、第二ポリマー材料820と所望の加工層850を有する第三ポリマー材料830とを有する繊維803が得られる。その結果、繊維803には加工済み及び未加工の表面が存在することになり、上述したような機械的変化により、多種の表面が露出されて、繊維の性質を変化させることができる。
【0032】
本発明の他の目的、効果及び新規な技術的構成の一部は、以下の説明に記載されており、一部は、以下の説明を考察することによって当業者に明らかであるか、本発明の実施によって理解されるだろう。
【0033】
上述の記載から見て取れるように、本発明は、本明細書中で上述した全ての意図及び目的、並びに、明白な効果及び構成に内在する効果を十分に達成するように構成されているものである。
【0034】
理解されるように、特定の特徴と組合せの構成要素とを様々に活用することができ、これらを、その他の特徴と組合せの構成要素とを参照せずに用いることもできる。このことは、特許請求の範囲で考慮されており、その範囲に含まれる。
【0035】
本発明の範囲を逸脱することなく本発明を様々に利用することが可能であるため、本明細書中の記載又は添付の図面の記載は全て例示的であり限定するものではないことを理解されたい。