(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
<作業機械の管理システムの概要>
図1は、本実施形態に係る作業機械の管理システム1の一例を示す図である。以下において、作業機械の管理システム1を、適宜、管理システム1と称する。管理システム1は、作業機械4を管理する。作業機械4の管理は、作業機械4の運行管理、作業機械4の生産性の評価、作業機械4のオペレータの操作技術の評価、作業機械4の保全、及び作業機械4の異常診断の少なくとも一つを含む。以下においては、作業機械として鉱山機械を例として説明する。
【0021】
作業機械の一例である鉱山機械とは、鉱山における各種作業に用いる機械類の総称である。作業機械4は、ボーリング機械、掘削機械、積込機械、運搬機械、破砕機、及び運転者が運転する車両の少なくとも一つを含む。掘削機械は、鉱山を掘削するための作業機械である。積込機械は、運搬機械に積荷を積み込むための作業機械である。積込機械は、油圧ショベル、電気ショベル、及びホイールローダの少なくとも一つを含む。運搬機械は、積荷を運搬するための作業機械である。破砕機は、運搬機械から投入された排土を破砕する作業機械である。作業機械4は、鉱山において移動可能である。
【0022】
本実施形態において、作業機械4は、鉱山を走行可能な運搬機械であるダンプトラック2と、ダンプトラック2とは異なる他の作業機械3とを含む。本実施形態においては、管理システム1により、主にダンプトラック2が管理される例について説明する。
【0023】
図1に示されるように、ダンプトラック2は、鉱山の作業場PA及び作業場PAに通じる搬送路HLの少なくとも一部を走行する。ダンプトラック2は、搬送路HL及び作業場PAに設定された目標走行経路に従って走行する。
【0024】
作業場PAは、積込場LPA及び排土場DPAの少なくとも一方を含む。積込場LPAは、ダンプトラック2に積荷を積み込む積込作業が行われるエリアである。排土場DPAは、ダンプトラック2から積荷が排出される排出作業が行われるエリアである。
図1に示す例では、排土場DPAの少なくとも一部に破砕機CRが設けられる。
【0025】
本実施形態では、ダンプトラック2は、管理装置10からの指令信号に基づいて鉱山を自律走行する無人ダンプトラックであることを前提に説明する。ダンプトラック2の自律走行とは、運転者の操作によらずに管理装置10からの指令信号に基づいて走行することをいう。無人ダンプトラックは、例えば故障をしたような場合には、運転者の操作によって走行する機能も有している。
【0026】
図1において、管理システム1は、鉱山に設置される管制施設7に配置された管理装置10と、通信システム9とを備える。通信システム9は、データ及び指令信号の少なくとも一方を中継する中継器6を複数有する。通信システム9は、管理装置10と作業機械4との間においてデータ又は指令信号を無線通信する。また、通信システム9は、複数の作業機械4の間においてデータ又は指令信号を無線通信する。
【0027】
本実施形態において、ダンプトラック2の位置及び他の作業機械3の位置は、GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星システム)を利用して検出される。全地球航法衛星システムの一例として、GPS(Global Positioning System)が挙げられるが、これに限定されるものではない。GNSSは、複数の測位衛星5を有する。GNSSは、緯度、経度、及び高度の座標データで規定される位置を検出する。GNSSにより検出される位置は、グローバル座標系において規定される絶対位置である。GNSSにより、鉱山におけるダンプトラック2の位置及び他の作業機械3の位置が検出される。
【0028】
以下の説明においては、GNSSによって検出される位置を適宜、GPS位置、と称する。GPS位置は、絶対位置であり、緯度、経度及び高度の座標データを含む。絶対位置は、高精度に推定されたダンプトラック2の推定位置を含む。
【0029】
<管理装置10>
次に、管理装置10について説明する。管理装置10は、作業機械4にデータ及び指令信号の少なくとも一方を送信し、作業機械4からデータを受信する。
図1に示すように、管理装置10は、コンピュータ11と、表示装置16と、入力装置17と、無線通信装置18とを備える。
【0030】
コンピュータ11は、処理装置12と、記憶装置13と、入出力部15とを備える。表示装置16、入力装置17、及び無線通信装置18は、入出力部15を介してコンピュータ11と接続される。
【0031】
処理装置12は、作業機械4の管理するための演算処理を実行する。記憶装置13は、処理装置12と接続され、作業機械4を管理するためのデータを記憶する。入力装置17は、作業機械4を管理するためのデータを処理装置12に入力するための装置である。処理装置12は、記憶装置13に記憶されているデータ、入力装置17から入力されたデータ、及び通信システム9を介して取得したデータを使って演算処理を実行する。表示装置16は、処理装置12の演算処理結果等を表示する。
【0032】
無線通信装置18は、管制施設7に配置され、アンテナ18Aを有し、入出力部15を介して処理装置12と接続される。通信システム9は、無線通信装置18を含む。無線通信装置18は、作業機械4から送信されたデータを受信可能であり、受信されたデータは、処理装置12に出力され、記憶装置13に記憶される。無線通信装置18は、作業機械4にデータを送信可能である。
【0033】
図2は、搬送路HLを走行するダンプトラック2を示す模式図である。管理装置10の処理装置12は、鉱山を走行するダンプトラック2の目標走行速度Vr及び目標走行経路RPを含む走行条件情報を生成する走行条件情報生成部として機能する。目標走行経路RPは、コースデータCSによって規定される。コースデータCSとは、絶対位置(座標)がそれぞれ規定された複数のポイントPIの集合体である。複数のポイントPIを通過する軌跡が目標走行経路RPである。処理装置12は、複数のポイントPIのそれぞれについてダンプトラック2の目標走行速度Vrを設定する。管理装置10は、通信システム9を介して、ダンプトラック2に、複数のポイントPIを含む目標走行経路RP及び各ポイントPIにおける目標走行速度Vrを含む走行条件情報を出力する。ダンプトラック2は、管理装置10から送信された走行条件情報に従って、鉱山を走行する。
【0034】
<ダンプトラック2>
図3及び
図4は、本実施形態に係るダンプトラック2の一例を模式的に示す図である。
【0035】
ダンプトラック2は、ダンプトラック2を走行させる走行装置21と、走行装置21が取り付けられる車両本体22と、車両本体22に支持されるベッセル23と、走行装置21を駆動する駆動装置24と、制御装置25とを備える。
【0036】
走行装置21は、車輪26と、車輪26を回転可能に支持する車軸27と、車輪26を制動する制動装置28と、走行方向を調整可能な操舵装置29とを有する。
【0037】
走行装置21は、駆動装置24が発生した駆動力により動作する。駆動装置24は、ダンプトラック2を加速させるための駆動力を発生する。駆動装置24は、電気駆動方式により走行装置21を駆動する。駆動装置24は、ディーゼルエンジンのような内燃機関と、内燃機関の動力により作動する発電機と、発電機が発生した電力により作動する電動機とを有する。電動機で発生した駆動力が走行装置21の車輪26に伝達される。車輪26は、電動機で発生した駆動力によって回転して、ダンプトラック2を走行させる。このように、車両本体22に設けられた駆動装置24の駆動力によって、ダンプトラック2は自走する。駆動装置24の出力が調整されることにより、ダンプトラック2の走行速度が調整される。駆動装置24は、電気駆動方式に限定されるものではない。駆動装置24は、例えば、内燃機関で発生した動力が、動力伝達装置を介して走行装置21の車輪26に伝達される駆動方式であってもよい。
【0038】
操舵装置29は、走行装置21の走行方向を調整する。ダンプトラック2の走行方向は、車両本体22の前部の向きを含む。操舵装置29は、車輪26の向きを変えることによって、ダンプトラック2の走行方向を調整する。
【0039】
制動装置28は、ダンプトラック2を減速又は停止させるための制動力を発生する。制御装置25は、駆動装置24を作動するためのアクセル指令信号、制動装置28を作動するための制動指令信号、及び操舵装置29を作動するためのステアリング指令信号を出力する。駆動装置24は、制御装置25から出力されたアクセル指令信号に基づいて、ダンプトラック2を加速させるための駆動力を発生する。制動装置28は、制御装置25から出力された制動指令信号に基づいて、ダンプトラック2を減速又は停止させるための制動力を発生する。操舵装置29は、制御装置25から出力されたステアリング指令信号に基づいて、ダンプトラック2を直進又は旋回させるために車輪26の向きを変えるための力を発生する。
【0040】
以下の説明においては、制御装置25からアクセル指令信号が出力され、駆動装置24が駆動力を発生してダンプトラック2が加速する状態を適宜、加速状態、と称し、駆動装置24が発生する駆動力によりダンプトラック2が一定速度で走行する状態を適宜、定速状態、と称する。また、以下の説明においては、制御装置25から制動指令信号が出力され、制動装置28が制動力を発生してダンプトラック2が減速する状態を適宜、減速状態、と称する。また、以下の説明においては、制御装置25からのアクセル信号及び制動指令信号の両方の出力が停止され、駆動装置24が駆動力を発生せず制動装置28が制動力を発生しない状態で、ダンプトラック2が走行する状態を適宜、惰行状態、と称する。
【0041】
ダンプトラック2は、ダンプトラック2の走行速度Vsを検出する走行速度検出器31と、ダンプトラック2の加速度Asを検出する加速度検出器32と、ベッセル23に積載される積荷の積載量を検出する積載量検出器34とを備える。また、ダンプトラック2は、ダンプトラック2の位置を検出する位置検出器35と、例えば、
図1に示される管理装置10と通信する無線通信装置36とを備える。
【0042】
走行速度検出器31は、ダンプトラック2の走行速度Vsを検出する。走行速度検出器31は、車輪26の回転速度を検出する回転速度センサを含む。車輪26の回転速度とダンプトラック2の走行速度Vsとは相関するため、回転速度センサの検出値である回転速度値が、ダンプトラック2の走行速度値に変換される。なお、走行速度検出器31は、車軸27の回転速度を検出してもよい。
【0043】
加速度検出器32は、ダンプトラック2の加速度Asを検出する。ダンプトラック2の加速度Asは、正の加速度及び負の加速度(減速度)を含む。本実施形態においては、車輪26の回転速度を検出する回転速度センサの検出値である回転速度値に基づいて演算処理が実行されることにより、ダンプトラック2の加速度値に変換される。詳細には、加速度検出器32は、予め決められた時間における走行速度Vsの差に基づいてダンプトラック2の加速度Asを導出する。例えば、0.5[sec]間の走行速度Vsの差から加速度Asが導出される。走行速度検出器31と加速度検出器32とは別々の検出器でもよい。
【0044】
積載量検出器34は、ベッセル23に積載される積荷の積載量を検出する。ベッセル23に積荷が積載されていない空荷状態におけるダンプトラック2の重量は既知データである。積載量検出器34は、ベッセル23に積載される積荷の積載量を検出し、積載量の検出値と既知データである空荷状態のダンプトラック2の重量とに基づいて、ダンプトラック2の総重量Mを検出する。
【0045】
位置検出器35は、GPS受信機を含み、ダンプトラック2のGPS位置(座標)を検出する。位置検出器35は、GPS用のアンテナ35Aを有する。アンテナ35Aは、測位衛星5からの電波を受信する。位置検出器35は、アンテナ35Aで受信した測位衛星5からの電波に基づく信号を電気信号に変換して、アンテナ35Aの位置を算出する。アンテナ35AのGPS位置が算出されることによって、ダンプトラック2のGPS位置が検出される。
【0046】
通信システム9は、ダンプトラック2に設けられている無線通信装置36を含む。無線通信装置36は、アンテナ36Aを有する。無線通信装置36は、
図1に示される管理装置10と無線通信可能である。
【0047】
管理装置10は、通信システム9を介して、ダンプトラック2の走行条件情報を含む指令信号を、制御装置25に送信する。制御装置25は、管理装置10から供給された走行条件情報に基づいて、ダンプトラック2が走行条件情報(複数のポイントPIを含む目標走行経路RP及び各ポイントPIにおける目標走行速度Vrを含む)に従って走行するように、ダンプトラック2の駆動装置24、制動装置28、及び操舵装置29の少なくとも一つを制御する。
【0048】
<制御システム>
図5は、本実施形態に係る作業機械の制御システム20の制御ブロック図である。以下において、作業機械の制御システム20を、適宜、制御システム20と称する。制御システム20は、ダンプトラック2に搭載される。
【0049】
図5に示されるように、制御システム20は、無線通信装置36と、走行速度検出器31と、加速度検出器32と、積載量検出器34と、位置検出器35と、制御装置25と、駆動装置24と、制動装置28と、操舵装置29とを備える。
【0050】
制御装置25は、処理部41と、記憶部46とを備える。処理部41は、検出部41Aと、アクセル指令値出力部41Bと、アクセル変化量演算部42及び積分器43を有するアクセル指令値演算部47と、補正値演算部44と、加算処理部45とを備える。制御装置25は、制動装置28を動作させるための制動指令値演算部及び操舵装置29を動作させるための操舵指令値演算部を備えるが、本実施形態においてはその説明を省略し、駆動装置24を動作させるためのアクセル指令値に関するものを中心に説明する。
【0051】
処理部41は、無線通信装置36から出力された管理装置10からの走行条件情報を含む指令データ、走行速度検出器31から出力されたダンプトラック2の走行速度Vsを示す走行速度データ、加速度検出器32から出力されたダンプトラック2の加速度Asを示す加速度データ、積載量検出器34から出力されたダンプトラック2の積載量Mを示す積載量データ、及び位置検出器35から出力されたダンプトラック2の位置を示す位置データを取得する。また、処理部41は、駆動装置24にアクセル指令信号を出力し、制動装置28に制動指令信号を出力し、操舵装置29にステアリング指令信号を出力する。目標走行速度Vrが一定とは、所定範囲内で目標走行速度Vrが上下する場合も一定速度領域に含むものとする。
【0052】
検出部41Aは、ダンプトラック2の進行方向前方に存在する領域であって、目標走行速度Vrが一定であり、かつ現行の走行速度よりも低速となる領域を検出する。この領域を、以下においては、一定速度領域と称する。
【0053】
アクセル変化量演算部42は、ダンプトラック2を加速及び減速させるためのアクセル変化量Soを算出する。本実施形態において、アクセル変化量演算部42は、ダンプトラック2が目標走行速度Vrで走行するように、少なくともダンプトラック2の走行速度データ及び加速度データに基づいて、現時点のアクセル指令値に対して変化させるべきアクセル量であるアクセル変化量Soを算出する。
【0054】
例えば、アクセル変化量Soを算出する際には、現時点におけるダンプトラック2の実際の走行速度Vsと目標走行速度Vrとの速度偏差、及び現時点におけるダンプトラック2の加速度、の2変数のマップデータを予め用意しておき、このマップデータに基づいてアクセル変化量Soを決定してもよい。アクセル変化量演算部42は、決められた周期Tでアクセル変化量Soを算出する。
【0055】
積分器43は、アクセル変化量演算部42で算出されたアクセル変化量Soを積分処理し、積分処理されたものをアクセル指令値Siとして出力する。積分器43による積分処理は一般的な積分器と同様である。積分器43にアクセル変化量Soが通されることにより、アクセル指令値の変動が緩やかになる。本実施形態において、積分器43は、現時点よりも周期Tだけ過去の時点において、積分器43により積分処理されたアクセル指令値Siに、現時点においてアクセル変化量演算部42から取得したアクセル変化量Soを付加することにより、積分処理されたアクセル指令値Siを出力する。すなわち、アクセル指令値演算部47は、アクセル変化量演算部42で算出されたアクセル変化量So及び積分器43を用いて、アクセル指令値Siを出力する。
【0056】
補正値演算部44は、後述するように、検出部41Aによって一定速度領域が検出された場合に、アクセル指令値Siに加える補正値Cvを求める。より詳細には、現時点におけるダンプトラック2の実際の減速度(加速度偏差De)にダンプトラック2の総重量Mを乗算することにより、ダンプトラック2の走行に必要な駆動力(トルク)Tqが求められる。この計算では、現時点におけるダンプトラック2の実際の減速度を打ち消す分だけアクセル指令値に補正値Cvを加えることを想定しており、現時点におけるダンプトラック2の減速度が大きい程、補正値Cvも大きくなる。ダンプトラック2の実際の減速度は、
図5に示される加速度検出器32によって検出された加速度Asであってもよいし、走行速度検出器31によって検出されたダンプトラック2の実際の走行速度Vsを時間で微分することによって求められてもよい。ダンプトラック2の実際の減速度を用いずに、目標走行速度Vrの低下度合い(マイナス加速度)に基づいて減速度を求めてもよい。
【0057】
補正値演算部44は、補正値Cvを求める際に、空荷状態におけるダンプトラック2の重量、及びダンプトラック2の車格等を考慮するようにしてもよい。ダンプトラックの重量及び車格が大きくなる程、ダンプトラック2の慣性力も大きくなるためである。
【0058】
加算処理部45は、アクセル指令値演算部47で求められたアクセル指令値Siと、補正値演算部44で求められた補正値Cvとを加算して、補正アクセル指令値Scを求める。
【0059】
アクセル指令値出力部41Bは、加算処理部45によって求められた補正アクセル指令値Scを駆動装置24に出力する。駆動装置24は、アクセル指令値出力部41Bから出力された補正アクセル指令値Scに従って駆動力を発生する。
【0060】
<走行時における制御>
ダンプトラック2が
図1に示される鉱山の搬送路HLを走行する際の制御例を説明する。管理装置10から目標走行速度Vrを含む走行条件情報がダンプトラック2に送信される。ダンプトラック2の制御装置25は、目標走行速度Vrに従ってダンプトラック2が走行するように、ダンプトラック2の駆動装置24を制御する。
【0061】
制御装置25は、例えば、走行速度検出器31の検出結果である実際の走行速度Vsと目標走行速度Vrとの差分である速度偏差、及び加速度検出器32の検出結果である現時点でのダンプトラック2の加速度Asからなるマップデータに基づいてアクセル変化量Soを決定し、最終的にアクセル指令値を出力することにより加速状態にすることができる。加速状態とは、駆動装置24を駆動するためのアクセル指令値がプラスの値(ゼロより大きい値)である状態を定義しており、例えば現時点よりもアクセル指令値が小さい値に変化している状態、すなわちアクセルを緩めて減速している状態も加速状態に含まれる。
【0062】
制御装置25は、前述した速度偏差及び加速度を用いた前述のマップデータに基づいて、アクセル指令値を演算した結果、アクセル指令値がゼロになる、すなわち惰行状態になるようにしてもよい。詳細には、前述した通り、アクセル指令値演算部47は、積分器43を用いているため、アクセル指令値が突然ゼロになることはなく、アクセル指令値は徐々に減少していき最終的にゼロになる。そのため、実際の走行速度Vsが目標走行速度Vrを少し超えてもすぐには惰行状態に切り替わらないように設定されている。制御装置25は、基本的に加速状態で走行し、時折惰行状態に切り替えながら、目標走行速度Vrから大きく外れないよう駆動装置24を制御してダンプトラック2を走行させる。制御装置25は、ダンプトラック2を減速又は停止させる場合、アクセル指令信号の出力を停止するとともに制動装置28を動作させる。
【0063】
<ダンプトラック2が一定速度領域ALTに進入し、一定速度領域ALTを走行する際の制御>
図6は、ダンプトラック2が一定速度領域ALTを走行する際の状態を示した図である。
図7は、ダンプトラック2が一定速度領域ALTを走行する際における走行速度Vs及び目標走行速度Vrと時間tとの関係を示す図である。
図7の縦軸は速度Vであり、横軸は時間tである。
図6及び
図7は、ダンプトラック2の進行方向の搬送路HLに、目標走行速度Vrが一定であり実際の走行速度Vsよりも低速となる領域が設けられている例を示している。このような領域を、一定速度領域ALTと称する。一定速度領域ALT内では、目標走行速度Vrが一定である。一定速度領域ALTは、例えば、雨等によりスリップしやすい場所等に設けられるようにしてもよい。ダンプトラック2は、一定速度領域ALTの手前において、走行速度Vsを低下させる必要があるため、一定速度領域ALTの手前には目標走行速度Vrが徐々に低下する減速領域ADSが設定される。
図7に示される例では、時間t1から時間t2の間が減速領域に相当する(以下の例も同様)。
【0064】
一定速度領域ALTの手前の領域である減速領域ADSでは、制御装置25は、ダンプトラック2の走行速度Vsが徐々に低下する目標走行速度Vrに追従するようにダンプトラック2の走行速度Vsを低下させるため、アクセル指令値を徐々に低下させる。その後、ダンプトラック2が一定速度領域ALTに入った後には、一定速度領域ALTにおいて設定された目標走行速度Vrでダンプトラック2を走行させるため、制御装置25は所定のアクセル指令値を出力して、ダンプトラック2を定速走行させる。
【0065】
しかし、ダンプトラック2が一定速度領域ALTに進入する時間t2直後において、制御装置25は、ダンプトラック2の走行速度Vsが一定速度領域ALTにおいて設定された目標走行速度Vrとなるようにアクセル指令値を制御するが、
図7のUSで示されるようにダンプトラック2の走行速度Vsの大幅なアンダーシュートが発生してしまう。走行速度Vsのアンダーシュートとは、ダンプトラック2の走行速度Vsが目標走行速度Vrを下回る現象である。ダンプトラック2のような重量の大きい機械であるとその慣性力も大きいため、走行速度Vsが一旦下降傾向になると、その傾向を平坦にするために多大な駆動力が必要となるためである。
【0066】
本実施形態においては、一定速度領域ALTへの進入直後における走行速度Vsのアンダーシュートを抑制するため、制御装置25は、
図1に示される管理装置10からダンプトラック2に送信される走行条件情報に含まれる目標走行速度Vrの情報から、一定速度領域ALTを検出した場合には、アクセル指令値にアクセル補正値を加えるようにしている。次に、走行速度Vsのアンダーシュートを抑制するためのより詳細な制御の内容を説明する。
【0067】
<走行速度Vsのアンダーシュートを抑制するための制御>
図8は、走行速度Vsのアンダーシュートを抑制するための制御例を説明するための図である。
図8の縦軸は速度Vであり、横軸は時間tである。
図8の実線は目標走行速度Vrであり、破線はダンプトラック2の実際の走行速度Vsである。本実施形態において、制御システム20の制御装置25は、ダンプトラック2が一定速度領域ALTに到達する前の減速領域ADSにおける、ある時点、
図8に示される例では時間tnでの位置PPにおいて、検出器41Aによりダンプトラック2の進行方向前方に存在する一定速度領域ALTの有無を検出する。制御装置25は、一定速度領域ALTが検出された場合、補正値Cvを求め、得られた補正値Cvをアクセル指令値Siに加算する補正を実行する。次に、制御装置25の検出部41Aが一定速度領域ALTを検出する手法の一例を説明する。
【0068】
図9は、検出部41Aが一定速度領域ALTを検出する手法の一例を示す図である。本実施形態において、検出部41Aは、ダンプトラック2の進行方向前方に存在する複数の走行条件情報に含まれる複数の目標走行速度Vrを用いて一定速度領域ALTを検出する。走行条件情報は、
図2に示されるように、目標走行経路RP、すなわち絶対位置がそれぞれ規定された複数のポイントPIの集合体と、各ポイントPIに対応する目標走行速度Vrとを含む。すなわち、本実施形態において、検出部41Aは、ダンプトラック2の進行方向前方に存在する複数のポイントPIに対応する複数の目標走行速度Vrを用いて一定速度領域ALTを検出することになる。
【0069】
図9に示される例において、ダンプトラック2は、走行速度Vsで、矢印が示す方向に走行、すなわち進行している。ダンプトラック2の進行方向前方には、複数のポイントPIが存在する。本実施形態において、
図9に示されるように、複数のポイントPIは、決められた間隔ΔL毎に設定されている。本実施形態において、検出部41Aは、ダンプトラック2の進行方向前方に存在する第1のポイントPI1における第1の目標走行速度Vr1(第1の走行条件情報に相当)と、第1のポイントPI1よりもダンプトラック2の進行方向前方に存在する第2のポイントPI2における第2の目標走行速度Vr2(第2の走行条件情報に相当)とを用いて一定速度領域ALTを検出する。検出部41Aは、第1の目標走行速度Vr1と第2の目標走行速度Vr2との差分ΔVrが所定の閾値未満である場合、一定速度領域ALTを検出した、と判定する。第1のポイントPI1及び第2のポイントPI2として、現在のダンプトラック2の現在位置に対してどの程度離れたポイントPIを指定するかは、適宜設定されてもよい。
【0070】
検出部41Aが一定速度領域ALTを検出する手法は前述した手法に限られない。検出部41Aは、例えば、ある時刻taにおいてダンプトラック2から所定距離だけ離れた第1のポイントPI1の第1の目標走行速度Vr1と、時刻taよりも所定時間後の時刻tbにおける第1のポイントPI1の第2の目標走行速度Vr2との差分ΔVrに基づいて、一定速度領域ALTを検出するようにしてもよい。
【0071】
検出部41Aは、第2の走行条件情報よりもダンプトラック2の進行方向前方に存在する第3のポイントにおける第3の目標走行速度Vr3(第3の走行条件情報に相当)をさらに用いて一定速度領域ALTを検出してもよい。すなわち、一定速度領域ALTは、少なくとも2つの走行条件情報に含まれるそれぞれの目標走行速度Vrを用いて検出される。3以上の走行条件情報に含まれるそれぞれの目標走行速度Vrを用いて一定速度領域ALTが検出される場合、検出部41Aは、例えば、それぞれの目標走行速度Vrのばらつきが所定の閾値未満である場合に、一定速度領域ALTを検出した、と判定する。
【0072】
一定速度領域ALTへの進入時に速度のアンダーシュートが発生するためには、一定速度領域ALTへの進入前に減速領域が設けられていることが条件となるため、本実施形態において、検出部41Aは、第1の目標走行速度Vr1と第2の目標走行速度Vr2との差分が閾値未満であることに加え、ダンプトラック2の減速度が閾値以上(閾値よりも減速している状態)であることを条件に、一定速度領域ALTを検出したと判定するようにしてもよい。また、本実施形態において、検出部41Aは、条件を満たしている状態が所定期間継続した場合に、一定速度領域ALTを検出したと判定するようにしてもよい。
【0073】
検出フラグFgがONされる、すなわち一定速度領域ALTが検出されると、
図5に示される補正値演算部44は、前述したように、アクセル指令値Siについての補正値Cvを求める。加算処理部45は、アクセル指令値Siと、補正値Cvとを加算して、補正アクセル指令値Scを求める。アクセル指令値出力部41Bは、加算処理部45によって求められた補正アクセル指令値Scを駆動装置24に出力する。駆動装置24は、アクセル指令値出力部41Bから出力された補正アクセル指令値Scに従って駆動力を発生する。
【0074】
図10は、本実施形態に係る作業機械の制御方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る作業機械の制御方法は、走行速度Vsのアンダーシュートを抑制するための制御であり、制御システム20が実現する。
【0075】
ステップS101において、
図5に示される制御システム20が有する制御装置25のアクセル指令値演算部47は、アクセル指令値Siを求める。ステップS102において、検出部41Aが一定速度領域ALTを検出した場合(ステップS102,Yes)、ステップS103において、
図5に示される制御システム20の制御装置25、より詳細には補正値演算部44が、アクセルの補正値Cvを求める。ステップS104において、
図5に示される制御システム20の制御装置25、より詳細にはアクセル指令値出力部41Bは、アクセル指令値Siに補正値Cvを加えた補正アクセル指令値Scを駆動装置24に出力する。
【0076】
ステップS102において、検出部41Aが一定速度領域ALTを検出しない場合(ステップS102,No)、ステップS105において、
図5に示される制御システム20の制御装置25、より詳細にはアクセル指令値出力部41Bは、ステップS101で求められたアクセル指令値Siを駆動装置24に出力する。
【0077】
図11は、本実施形態に係る作業機械の制御方法によって制御されたダンプトラック2が、一定速度領域ALTを走行する際における走行速度Vs及び目標走行速度Vrと時間tとの関係を示す図である。
図11の縦軸は速度Vであり、横軸は時間tである。
図12は、ダンプトラック2が一定速度領域ALTを走行する際におけるアクセル出力OAと時間tとの関係を示す図である。
図12の縦軸はアクセル出力OAであり、横軸は時間tである。アクセル出力OAは、アクセル指令値出力部41Bの出力であり、アクセル指令値Si又は補正アクセル指令値Scである。
図12の実線で示されるアクセル出力OApは、本実施形態に係る作業機械の制御方法によるものであり、破線で示されるアクセル出力OAnは、本実施形態に係る作業機械の制御方法によらないもの(アクセル指令値Siに補正値Cvを加えないもの)である。
【0078】
図11から、本実施形態に係る作業機械の制御方法によって制御されたダンプトラック2は、
図7に示される本実施形態に係る作業機械の制御方法によって制御されていないダンプトラック2と比較して、走行速度Vsのアンダーシュートが抑制されていることが理解できる。また、
図12から、本実施形態に係る作業機械の制御方法によって制御されたダンプトラック2は、
図7に示される本実施形態に係る作業機械の制御方法によって制御されていないダンプトラック2と比較して、一定速度領域ALTに進入する前におけるアクセル出力OApの低下度合が小さく、また、アクセル出力OApが増加するタイミングも早いことが理解できる。
【0079】
以上説明したように、制御装置25は、ダンプトラック2の進行方向前方に一定速度領域ALTを検出した場合にはアクセル指令値Siを補正するので、一定速度領域ALTに到達する前の早い段階で、補正値Cvによってアクセル指令値Siを増加させることができ、アクセル指令値Siの低下度合を小さくすることができる。その結果、制御装置25は、ダンプトラック2が一定速度領域ALTを走行する際における走行速度Vsのアンダーシュートを抑制できる。走行速度Vsのアンダーシュートが抑制されることにより、ダンプトラック2の走行速度Vsの変化を低減できる。すなわち、アクセル指令値Siの変動が抑制されるので、ダンプトラック2の燃費の低下を抑制できる。また、走行速度の低下を抑制できるため、生産性の向上にもつながる。
【0080】
このように、本実施形態は、設定された目標走行速度に従って鉱山を走行するように制御される無人の作業機械が、走行速度が制限された領域を走行するにあたって、走行速度が目標走行速度を下回ることを抑制することができる。
【0081】
一定速度領域ALTは、本実施形態のものに限定されない。一定速度領域ALTは、例えば、作業機械が走行する鉱山の速度制限エリア、
図1に示される搬送路HLが狭くなっている部分及び搬送路HL同士の交差点の少なくとも1つを含んでいればよい。また、一定速度領域ALTは、パトロール車両の近傍をダンプトラック2が走行する領域であってもよいし、積込場LPA及び排土場DPAに進入する領域であってもよい。
【0082】
<変形例>
前述した実施形態では、アクセル指令値Siへの補正値Cvを計算するにあたり、減速中のダンプトラック2の実際の減速度を打ち消す分のみを考慮に入れた。これは、走行速度Vsのアンダーシュートは、ある速度の変化傾向(加速度)が短時間に急激に変化したときに生じるものであり、アンダーシュートを抑制するためには、加速度の変動分を考慮に入れる必要がある。前述した実施形態では、
図8における減速領域ADS及び一定速度領域ALTが示すように、一定速度領域ALTにおける加速度はほぼゼロであるため、減速中の減速度(マイナスの加速度)さえ考慮すればよい。
【0083】
例えば、
図8の減速領域ADS後の領域(一定速度領域ALT)が、その目標走行速度Vrが一定速度ではなく直線的に上昇する領域(一定加速度領域)であった場合、前述した実施形態のように、減速領域ADSにおけるダンプトラック2の減速度(マイナスの加速度)のみを考慮したとしても、アンダーシュートを十分に抑制することができない。このような場合には、ダンプトラック2の減速度に加え、目標走行速度Vrが直線的に上昇していく領域(一定加速度領域)における加速度も考慮に入れる必要がある。
【0084】
具体的には、検出部41Aが、ダンプトラック2が現時点で減速領域ADSにあり、減速領域ADS後の領域が一定加速度領域であることを検出した場合、補正値演算部44は、一定加速度領域における加速度を考慮して補正値Cvを求めるようにしてもよい。詳細には、補正値演算部44は、減速領域ADSにおけるダンプトラック2の減速度(絶対値)に、一定加速度領域における加速度を加えたものを加速度偏差Deとして求める。そして、補正値演算部44は、得られた加速度偏差Deにダンプトラック2の総重量Mを乗算することにより、ダンプトラック2の走行に必要な駆動力(トルク)Tqを算出し補正値Cvを求めるようにしてもよい。なお、一定加速度領域における目標走行速度Vrが直線的に上昇するとは、目標走行速度Vrが時間の一次関数になるように上昇する場合、及び目標走行速度Vrが時間の一次関数を基準として所定範囲内で上下しながら上昇する場合も含むものとする。
【0085】
変形例においては、検出部41Aによる検出方法、補正値Cvの算出方法以外には、上記実施例と同様の方法を用いることができる。
【0086】
前述した実施形態では、鉱山で用いられる鉱山機械を作業機械の一例として説明したが、作業機械は鉱山機械に限られず、作業現場で用いられる作業機械及び建設現場で用いられる建設機械等であってもよい。作業機械は、鉱山機械を含むものである。また、「作業機械の制御システム」として、前述の実施形態では地上の鉱山におけるダンプトラックの制御システムを例に説明したが、それに限られず、地上の鉱山における他の鉱山機械、又は作業現場で用いられる作業機械(ホイールローダ等)の制御システムも含んでよい。
【0087】
以上、本実施形態を説明したが、前述した内容により本実施形態が限定されるものではない。前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。本実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。