【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様のみに限定されるものではない。
【0059】
[参考例1乃至16]
表1に示す鎖状ジオール(x);およびパラフィン系オイル(B);を含有する第1液を調製した(参考例1乃至7)。前記第1液には、反応触媒としてジブチル錫ジラウレートを添加した。ジブチル錫ジラウレートは第1液100gに対して0.05gの割合で添加した。その内容を表1に示す。
【0060】
また、表2に示すジイソシアネート(y);およびパラフィン系オイル(B);を含有する第2液を調製した(参考例8乃至14)。その内容を表2に示す。なお、鎖状ジオール(x)とジイソシアネート(y)の量は両物質の分子量に基いて両物質が当モルとなるように調整した。また、鎖状ポリウレタンの含有率が52質量%を超える場合には第1液と第2液の1:1混合が不可能であるため、パラフィン系オイルの量を適宜調整した。
【0061】
表1に示す鎖状ジオール(x)としては、水素添加されたポリイソプレン骨格の両末端に各1個の水酸基が結合された構造の水添ポリイソプレンジオールを用いた。その内容を表3に示す。
【0062】
表1および表2に示すパラフィン系オイルとしては、パラフィン(鎖状飽和炭化水素化合物)を主成分とし、40℃における動粘度が88.96mm
2/s、飽和分(飽和炭化水素化合物の占める比率)が90質量%以上、重量平均分子量が530のパラフィン系オイルを用いた。また、表2に示すジイソシアネートとしては、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)を用いた。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
[実施例1]
参考例1の第1液90.0gと、参考例8の第2液90.0gを0.05g精度の電子秤で計量し、質量比1:1となるように混合し、混合液180gを得た。混合は、室温(25℃)の条件下、チャック付きポリ袋に前記第1液と前記第2液を封入し、前記チャック付きポリ袋を外側から手で揉む方法により行った。この混合液160gを、縦69mm×横69mm×高さ59mmのアクリル樹脂製のケースに注入し、24時間放置することにより生成物を得た。
【0067】
[実施例2乃至5、比較例1乃至2]
第1液または第2液の種類を表4に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして生成物を得た。
【0068】
【表4】
【0069】
[混合性、硬化状態、透明性の評価]
第1液と第2液の混合性、および得られた生成物の硬化状態、透明性を以下の方法により評価した。その結果を表4に示す。
【0070】
(混合性<25℃>)
第1液と第2液を混合した際に、2液が均一に混合されるまでの時間によって混合性<25℃>を評価した。
【0071】
(1)混合開始から2分以内に均一に混合された場合を「良好(○)」とした。
(2)混合開始から5分以内に均一に混合された場合を「概ね良好(△)」とした。
(3)混合開始から5分以内に均一に混合されなかった場合を「不良(×)」とした。
【0072】
(硬化状態)
第1液と第2液を混合後、24時間、48時間、72時間の時点における生成物の状態を目視観察することにより、生成物の硬化状態を評価した。
【0073】
(1)生成物がゲル状を呈し、生成物が入ったケースを傾けても、生成物の形状が崩れることなく保持されている場合を「良好(○)」とした。
(2)生成物が膨潤したゲル状(ゆるいゼリー状)を呈しており、生成物が入ったケースを傾けると、生成物の形状が崩れる場合を「概ね良好(△)」とした。
(3)生成物が液状である場合を「不良(×:液状)」とした。
(4)生成物がゴム状である(固化したシリコーンコーキングと同程度の硬度を呈している)場合を「不良(×:ゴム状)」とした。
【0074】
(透明性)
第1液と第2液を混合後、24時間の時点における生成物の透明度および色調を目視観察することにより透明性を評価した。
【0075】
(1)生成物が無色透明である場合を「良好(○)」とした。
(2)生成物が僅かに白濁し、半透明である場合を「概ね良好(△)」とした。
(3)着色があり、不透明である場合を「不良(×)」とした。
【0076】
[耐圧性、防水性、剥離性の評価]
(信号出力)
アクリル樹脂製のケース(縦69mm×横69mm×高さ59mm)の内部に、マイクロプロセッサを取り付けた電子回路を配置した。前記電子回路としては、商品名「AE−PIC18」(秋月電子通商製)を用いた。前記電子回路のサイズは、縦18mm×横52mm×部品高23mm(基板厚さ1.5mm)であった。前記電子回路には外部機器と接続するためのケーブルを取り付けた。前記ケーブルを介して前記電子回路をDC電源およびPC(パーソナルコンピュータ)に接続した。
【0077】
その後、前記ケースの内部に、第1液と第2液の混合液160gを注入し、前記電子回路の周囲に前記混合液を付着させた。室温(25℃)で24時間経過させ、前記混合液をゲル化させることにより、前記混合液に由来するオイルゲルからなる耐圧性保護層を形成した(以下、耐圧性保護層が形成された電子回路全体を「耐圧性電子回路」と称する。)。前記電子回路の周囲は前記耐圧性保護層によって完全に被覆された。
【0078】
まず、大気中、大気圧下(0MPa)において、前記電子回路からの信号出力を確認した。前記電子回路に前記耐圧性保護層を形成した後、24時間、48時間、72時間経過時に、前記電子回路に通電し、前記電子回路からの電気的出力を測定し、前記電子回路からの信号出力を確認した。
【0079】
大気中、大気圧下(0MPa)における信号出力を確認した後、前記耐圧性電子回路を前記ケースごと加圧水槽(中型高圧実験水槽)に投入した。下記のサイクルで前記加圧水槽(中型高圧実験水槽)の加圧−減圧操作を行うことにより、加圧−減圧サイクルにおける信号出力を確認した。
【0080】
(ア)加圧速度0.1MPa/secで、0MPa(大気圧)から5.6MPaまで加圧した。
(イ)5.6MPaの加圧状態で、10分間保持した。
(ウ)減圧速度0.1MPa/secで、5.6MPa(加圧状態)から0MPa(大気圧)まで減圧した。
(エ)前記耐圧性電子回路を前記加圧水槽から取り出し、前記耐圧性電子回路を目視確認し、その写真を撮影した(この際、前記耐圧性保護層や前記電子回路に浸水などの不具合がないか確認した)。
(オ)5秒間で、0MPa(大気圧)から12MPaまで加圧した。
(カ)12MPaの加圧状態で、10分間保持した。
(キ)5秒間で、12MPaから0MPa(大気圧)まで減圧した。
(ク)0MPaで、10分間保持した((オ)から(ク)の工程を「バーストテスト」と称することにする。)。
(ケ)バーストテストを更に2回繰り返す(バーストテストを合計3回行う)。
(コ)前記耐圧性電子回路を前記加圧水槽から取り出し、前記耐圧性電子回路を目視確認し、その写真を撮影した(この際、前記耐圧性保護層や前記電子回路に浸水などの不具合がないか確認した)。
(サ)前記耐圧性電子回路を前記加圧水槽から取り出した後、24時間経過後に、大気中、大気圧下(0MPa)における信号出力を確認した。
【0081】
なお、前記サイクルで5.6MPaまたは12MPaの加圧を行った理由は以下のとおりである。
(1)5.6MPa:
船舶分野における「深海(Abyssal)」の定義は水深300尋(545.4m)である。この水深における水圧に海水の平均比重(1.025)を乗じることにより、水圧5.6MPaを算出した。
(2)12MPa:
加圧・減圧サイクルを短時間で繰り返すバーストテストは、(a)水圧変化に対する耐性;および(b)長期耐久性;を評価するための試験である。
具体的には、0MPaから12MPaまで加圧した後、0MPaまで減圧する加圧・減圧サイクルを繰り返すバーストテストには、以下の2つの意味がある。
(a)サンプルが30MPaから36MPa(水深で言えば3,000mから3,600m)に相当する水圧変化に晒された状況を模擬し、サンプルの水圧変化に対する耐性を評価する。
(b)サンプルが5.6MPaの水圧下で72時間浸漬された状況を模擬し、サンプルの長期耐久性を評価する。
【0082】
前記電子回路から正常に信号が出力されるか否か(周波数変化や信号途絶が起きないか)を確認し、信号出力を評価した。信号出力は、上記の加圧−減圧サイクルの間、連続的に確認した。信号は前記電子回路の内臓クロック、およびレゾネータを用いて出力させた。
【0083】
(1)クロック出力を分周した2MHzのデジタル信号
(2)前記デジタル出力をFV変換した電圧(アナログ信号)
(3)38,461Hz周期のUART信号(Universal Asynchronous Receiver Transmitter:モニタ用の特定アスキーコード16バイト)
をモニタすることにより、前記電子回路からの信号出力を確認した。
【0084】
(1)前記電子回路から前記デジタル信号、前記電圧、前記UART信号が正常に出力され、前記電子回路が正常に動作した場合(具体的には、前記(ア)乃至(サ)の加圧−減圧プロセス中、前記デジタル信号の周波数や前記電圧の変動が認められず、前記UART信号の途絶やデータ欠測が認められない場合)を「極めて良好(◎)」とした。
(2)前記電子回路から前記デジタル信号、前記電圧、前記UART信号が概ね正常に出力され、前記電子回路が正常に動作した場合(具体的には、前記(ア)乃至(サ)の加圧−減圧プロセス中、前記デジタル信号の周波数や前記電圧の変動が±3%の範囲内で認められるが、前記UART信号の途絶やデータ欠測が認められない場合)を「良好(○)」とした。
(3)前記電子回路から前記デジタル信号、前記電圧、前記UART信号の出力に若干の異常が認められるが、前記電子回路が概ね正常に動作した場合(具体的には、前記(ア)乃至(サ)の加圧−減圧プロセス中、前記デジタル信号の周波数や前記電圧に±3%の範囲を超える変動が認められるが、前記UART信号の途絶やデータ欠測は4回以下に収まっている場合)を「概ね良好(△)」とした。
(4)前記電子回路から前記デジタル信号、前記電圧、前記UART信号の出力に若干の異常が認められるが、前記電子回路の動作に若干の異常が認められる場合(具体的には、前記(ア)乃至(サ)の加圧−減圧プロセス中、前記デジタル信号の周波数や前記電圧に±3%の範囲を超える変動が認められ、かつ、前記UART信号の途絶やデータ欠測が5回以上認められる場合)を「やや不良(▲)」とした。
(5)前記電子回路が動作しなかった場合を「不良(×)」とした。
【0085】
(耐圧性)
前記信号出力の評価をした際に、5.6MPaに加圧後、および12MPaに加圧後(3回のバーストテスト後を意味する。以下同じ)において、前記耐圧性保護層(オイルゲル)の容積の減少、外部に連絡する割れ(浸水経路)が形成されたか否かについて確認し、耐圧性を評価した。水圧によって、前記耐圧性保護層の容積が減少し、前記耐圧性保護層に外部に連絡する割れが形成され、或いは前記耐圧性保護層のうちケーブルやケース壁面と接触している部分に浸水経路が形成されると、前記耐圧性保護層が有効に機能しなくなる。即ち、耐圧性保護層の容積減少、前記耐圧性保護層に形成された割れや浸水経路は、電子回路が破損し、或いは電子回路の動作に支障をきたす原因となる。
【0086】
(1)5.6MPaに加圧後、12MPaに加圧後とも、前記耐圧性保護層の容積変化が認められず、前記耐圧性保護層に割れと浸水経路が形成されていない。この場合を「極めて良好(◎)」とした。
(2)5.6MPaに加圧後、12MPaに加圧後とも前記耐圧性保護層の容積変化が認められず、前記耐圧性保護層に割れと浸水経路が形成されていない。しかし、12MPaに加圧後に前記耐圧性保護層の一部がケース壁面から剥離し、浸水経路が形成されている。この場合を「良好(○)」とした。
(3)5.6MPaに加圧後、12MPaに加圧後とも前記耐圧性保護層の容積変化が認められない。しかし、5.6MPaに加圧後および12MPaに加圧後に、前記耐圧性保護層に、外部に連絡していない割れや浸水経路が形成されている。この場合を「やや不良(△)」とした。
(4)12MPaに加圧後に前記耐圧性保護層の容積減少が認められ、前記耐圧性保護層に、外部に連絡する割れや浸水経路が形成されている。そして、実際に浸水の痕跡が認められる。この場合を「不良(×)」とした。
【0087】
(防水性)
前記信号出力の評価に基いて、前記耐圧性保護層の防水性を評価した。前記耐圧性保護層が防水性に劣る場合、前記耐圧性保護層の内部に水が浸入し、前記電子回路の動作に異常をきたすおそれがある。
【0088】
(1)全ての測定時点において、前記信号出力の評価が全て「極めて良好(◎)」であった場合を「極めて良好(◎)」とした。
(2)全ての測定時点において、前記信号出力の評価が「極めて良好(◎)」、「良好(○)」のいずれかであった場合を「良好(○)」とした。
(3)全ての測定時点において、前記信号出力の評価が「極めて良好(◎)」、「良好(○)」、「概ね良好(△)」のいずれかであった場合を「概ね良好(△)」とした。
(4)全ての測定時点において、前記信号出力の評価に「不良(×)」はないが、「やや不良(▲)」が一つでもあった場合を「やや不良(▲)」とした。
(5)前記信号出力の評価に「不良(×)」が一つでもあった場合を「不良(×)」とした。
【0089】
(剥離性)
前記信号出力の評価が完了した後(前記(サ)のプロセスが終了した後)において、前記ケースから前記耐圧性保護層を引き剥がした際の挙動や状態によって剥離性を評価した。
【0090】
(1)前記ケースに前記耐圧性保護層(オイルゲル)を残存させることなく、前記耐圧性保護層を綺麗に引き剥がすことができ、前記ケースにオイル分が付着していない場合を「極めて良好(◎)」とした。
(2)前記ケースに耐圧性保護層を残存させることなく、前記耐圧性保護層を綺麗に引き剥がすことができるが、前記ケース側にオイル分が付着している場合を「良好(○)」とした。
(3)前記ケースに耐圧性保護層が一部残存し、前記耐圧性保護層を綺麗に引き剥がすことができなかった場合を「概ね良好(△)」とした。
(4)前記ケースと耐圧性保護層が接着しており、前記ケースから前記耐圧性保護層を引き剥がすことができなかった場合を「不良(×)」とした。
【0091】
(評価)
実施例1乃至5は全ての評価において「やや不良(▲)」、「不良(×)」がなく、「極めて良好(◎)」、「良好(○)」または「概ね良好(△)」であった。特に、鎖状ポリウレタンの含有率が20%以上40%以下である実施例2乃至4は耐圧性および防水性が全て「極めて良好(◎)」であった。
【0092】
一方、比較例1および2は耐圧性の評価が「不良(×)」であった。即ち、サンプルにおいて、耐圧性保護層の容積減少、外部に連絡する割れや浸水経路の形成、浸水の痕跡が認められ、長期的に見ると、前記耐圧性保護層が有効に機能しなくなり、電子回路が破損し、或いは電子回路の動作に支障をきたすおそれがあるものと考えられた。
【0093】
また、比較例1または2の耐水性の評価は「○」であった。しかし、この評価は信号出力に基いて評価した結果である。実際には、比較例1および2において耐圧性保護層の容積減少、外部に連絡する割れや浸水経路の形成、浸水の痕跡が認められている。即ち、比較例1および2は、長期的に見ると、信号出力に影響を及ぼすレベルの浸水が起こり、電子回路が破損し、或いは電子回路の動作に支障をきたすおそれがあるものと考えられた。
【0094】
更に、比較例1および2は混合性の評価が「不良(×)」であった。第1液と第2液の混合直後から硬化が始まり、粘稠な水飴状を呈するために、混合開始から5分以内に均一に混合することはできなかった。