特許第6162911号(P6162911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6162911オイルゲル、これを用いた電子機器保護用の耐圧材料およびオイルゲル形成剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6162911
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】オイルゲル、これを用いた電子機器保護用の耐圧材料およびオイルゲル形成剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 91/00 20060101AFI20170703BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20170703BHJP
   C08G 18/62 20060101ALI20170703BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20170703BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   C08L91/00
   C08L75/04
   C08G18/62 004
   C08G18/08 042
   C08G18/75 010
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-6217(P2017-6217)
(22)【出願日】2017年1月17日
【審査請求日】2017年3月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399121553
【氏名又は名称】株式会社エスイーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(72)【発明者】
【氏名】鉄村 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】毛内 也之
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−274990(JP,A)
【文献】 特開昭63−130616(JP,A)
【文献】 特開2002−121254(JP,A)
【文献】 特開平11−21540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08G 18/00−18/87
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖状ポリウレタン(A)と、パラフィン系オイル(B)と、を含有し、
前記鎖状ポリウレタン(A)は、鎖状ジオール(x)と、ジイソシアネート(y)と、の重合により形成された鎖状ポリウレタン(A1)であり、
前記鎖状ジオール(x)は、鎖状飽和炭化水素化合物の2個の水素原子が水酸基に置換された化合物であり、
前記ジイソシアネート(y)は、飽和炭化水素化合物の2個の水素原子がイソシアネート基に置換された化合物であり、
前記パラフィン系オイル(B)は、40℃における動粘度が20mm/s以上100mm/s以下のパラフィン系オイル(B1)であり、
前記鎖状ポリウレタン(A1)は、前記鎖状ポリウレタン(A1)と前記パラフィン系オイル(B1)の合計量に対し、10質量%以上50質量%以下の割合で含有されていることを特徴とするオイルゲル。
【請求項2】
前記鎖状ポリウレタン(A1)は、前記鎖状ポリウレタン(A1)と前記パラフィン系オイル(B1)の合計量に対し、20質量%以上40質量%以下の割合で含有されている請求項1に記載のオイルゲル。
【請求項3】
前記鎖状ジオール(x)は、水添ポリイソプレンジオール(x1)である請求項1又は2に記載のオイルゲル。
【請求項4】
前記鎖状ジオール(x)の数平均分子量は、1,000以上5,000以下である請求項1から3のいずれか一項に記載のオイルゲル。
【請求項5】
前記ジイソシアネート(y)は、脂環式飽和炭化水素化合物の2個の水素原子がイソシアネート基に置換されたジイソシアネート(y1)である請求項1から4のいずれか一項に記載のオイルゲル。
【請求項6】
前記ジイソシアネート(y1)は、ノルボルナンジイソシアネート(y1a)である請求項5に記載のオイルゲル。
【請求項7】
前記パラフィン系オイル(B)は、40℃における動粘度が85mm/s以上95mm/s以下のパラフィン系オイル(B1a)である請求項1から6のいずれか一項に記載のオイルゲル。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のオイルゲルからなる電子機器保護用の耐圧材料。
【請求項9】
鎖状飽和炭化水素化合物の2個の水素原子が水酸基に置換された鎖状ジオール(x);および40℃における動粘度が20mm/s以上100mm/s以下のパラフィン系オイル(B1);を含有する第1液と、
飽和炭化水素化合物の2個の水素原子がイソシアネート基に置換されたジイソシアネート(y);および40℃における動粘度が20mm/s以上100mm/s以下のパラフィン系オイル(B1);を含有する第2液と、
を組み合わせてなり、
前記第1液と前記第2液とを混合すると、前記第1液中の前記鎖状ジオール(x)と、前記第2液中の前記ジイソシアネート(y)と、の重合により鎖状ポリウレタン(A1)が形成されるオイルゲル形成剤であって、
前記第1液および前記第2液は、前記鎖状ポリウレタン(A1)、前記第1液に含まれる前記パラフィン系オイル(B1)および前記第2液に含まれる前記パラフィン系オイル(B1)の合計量に対し、10質量%以上50質量%以下の鎖状ポリウレタン(A1)が形成されるように、前記鎖状ジオール(x)、前記ジイソシアネート(y)および前記パラフィン系オイル(B1)を含有するものであることを特徴とするオイルゲル形成剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中(特に深海)で使用される電子機器を水圧から保護するための耐圧技術の分野に属するものである。具体的には、耐圧性に優れたオイルゲル、これを用いた電子機器保護用の耐圧材料およびオイルゲル形成剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋資源を開発し、または海洋環境を調査する等の目的で、水中において海洋センサや電子カメラ等の電子機器を使用するケースが増加している。水中で電子機器を使用する場合、電子機器に対して水圧がかかる。また、水中で電子機器を使用するために、電子機器を密閉容器に封入する場合には、電子機器に対して容器内に充填されたガスのガス圧がかかる。そして、大気圧とは異なり、前記水圧や前記ガス圧はその圧力値が変動する。
【0003】
しかし、電子機器は大気圧下で、かつ、圧力値が変動しない条件下で使用することを前提とした部品で構成されており、大気圧以外の圧力(水圧や前記ガス圧)がかかる環境下での使用や圧力値が変動する条件下での使用を予定していない。このため、水中において電子機器を使用すると、電子機器にかかる水圧や前記ガス圧の影響で、或いはこれらの圧力値が変動(圧力変動)するために、電子機器の物理的破損、クロック脱調、誤動作等の不具合が発生するおそれがある。また、浸水や結露に起因する漏電、回路の短絡に起因する電気的破損等の不具合が発生するおそれもある。
【0004】
前記のような電子機器の物理的破損、クロック脱調、誤動作、漏電、電気的破損などの不具合を解消するためには、電子機器が水圧や圧力変動の影響を受けないように電子機器を圧力から護る技術(耐圧技術)が必要となる。耐圧技術としては、耐圧殻法とオイルシーリング法が知られている。
【0005】
耐圧殻法は、チタンや特殊ステンレスなどで作られた堅牢な耐圧殻(Pressure Shell)の中に、電子機器を不活性ガス(主に窒素ガス)と共に封入する古典的な方法である。しかし、耐圧殻法は耐圧殻の製造コストが極めて高く、また、圧力変動の影響を受けやすく、特に漏水や結露に起因する漏電が生じやすいという問題がある。
【0006】
一方、オイルシーリング法は、電子機器が装填された容器の内部に絶縁油(機械油やグリスなど)を満たす方法である。この方法によれば、電子機器が絶縁油からなる絶縁油層に覆われる。従って、前記絶縁油層に対して高い水圧が加わったとしても、その水圧は前記絶縁油層全体に分散され(水圧が均衡化され)、電子機器にかかる水圧の影響を最小限に抑えることができる。また、前記絶縁油層によって水分が侵入し難くなるために、漏水や結露に起因する漏電を有効に防止することができる。
【0007】
しかし、オイルシーリング法には、以下に掲げるような問題点があった。
(1)電子機器が絶縁油と直接接触しないように、予め電子機器を保護被膜で覆っておく必要があり、設備構成が複雑になる。
(2)絶縁油が海水中に漏れ出さないように、油密構造とする必要があり、設備コストおよび保守コストが増大する。
【0008】
そこで、絶縁油ではなく、樹脂材料により電子機器を包み込む技術が提案されている。例えば、高弾性材料製の圧力緩衝ゲルにより計測プラットフォームを包み込む技術が提案されている(特許文献1、2参照)。特許文献1、2に記載の技術においては、高弾性材料として、海洋生物由来で高生分解性のコラーゲン質またはゼラチン質の高分子蛋白質を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3936386号
【特許文献2】特許第4221510号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1または特許文献2に記載された圧力緩衝ゲルは、水圧が2MPaレベル(水深200mの海中<「表層」、「表面混合層」とも称される。>に相当)であれば、良好な耐圧性および防水性を示す。しかし、それより水深が深い領域、例えば、水圧が5.6MPaレベル以上(水深548.64m以深の深海<300尋以深、「abyssal」>に相当)となると、耐圧性や防水性の面で未だ不十分なものであった。より具体的には、電子機器にかかる水圧および急激な圧力変動によって電子機器の物理的破損、クロック脱調、誤動作、漏電、電気的破損などの不具合が発生するという問題があった。また、高い水圧や急激な圧力変動によって耐圧ゲルが損傷し、損傷部分から浸水するという不具合を生ずることもあった。
【0011】
本発明は、前記のような従来技術が有する課題を解決するものである。すなわち、本発明は、オイルシーリング法のような保護被膜や油密構造を必要とせず、水圧5.6MPaレベル以上(水深548.64m以深の深海に相当)においても、優れた耐圧性および防水性を示す電子機器保護用の耐圧材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記従来技術の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。そして、
(1)鎖状飽和炭化水素化合物を主成分とするオイル(パラフィン系オイル)中に、同じく鎖状構造を有するポリウレタン(鎖状ポリウレタン)を含む組成物がオイルゲルを形成すること;
(2)特定の含有率で鎖状ポリウレタンを含む組成物のみが耐圧性および防水性に優れるオイルゲルを形成すること;
を見出し、本発明を完成するに至った。即ち、前記課題は以下に示す本発明によって解決される。
【0013】
[1]オイルゲル:
本発明のオイルゲルは、鎖状ポリウレタン(A)と、パラフィン系オイル(B)と、を含有し、前記鎖状ポリウレタン(A)は、鎖状ジオール(x)と、ジイソシアネート(y)と、の重合により形成された鎖状ポリウレタン(A1)であり、前記鎖状ジオール(x)は、鎖状飽和炭化水素化合物の2個の水素原子が水酸基に置換された化合物であり、前記ジイソシアネート(y)は、飽和炭化水素化合物の2個の水素原子がイソシアネート基に置換された化合物であり、前記パラフィン系オイル(B)は、40℃における動粘度が20mm/s以上100mm/s以下のパラフィン系オイル(B1)であり、前記鎖状ポリウレタン(A1)は、前記鎖状ポリウレタン(A1)と前記パラフィン系オイル(B1)の合計量に対し、10質量%以上50質量%以下の割合で含有されていることを特徴とするオイルゲル;である。
【0014】
[2]耐圧材料:
本発明の耐圧材料は、前記[1]に記載のオイルゲルからなる電子機器保護用の耐圧材料;である。
【0015】
[3]オイルゲル形成剤:
本発明のオイルゲル形成剤は、鎖状飽和炭化水素化合物の2個の水素原子が水酸基に置換された鎖状ジオール(x);および40℃における動粘度が20mm/s以上100mm/s以下のパラフィン系オイル(B1);を含有する第1液と、飽和炭化水素化合物の2個の水素原子がイソシアネート基に置換されたジイソシアネート(y);および40℃における動粘度が20mm/s以上100mm/s以下のパラフィン系オイル(B1);を含有する第2液と、を組み合わせてなり、前記第1液と前記第2液とを混合すると、前記第1液中の前記鎖状ジオール(x)と、前記第2液中の前記ジイソシアネート(y)と、の重合により鎖状ポリウレタン(A1)が形成されるオイルゲル形成剤であって、前記第1液および前記第2液は、前記鎖状ポリウレタン(A1)、前記第1液に含まれる前記パラフィン系オイル(B1)および前記第2液に含まれる前記パラフィン系オイル(B1)の合計量に対し、10質量%以上50質量%以下の鎖状ポリウレタン(A1)が形成されるように、前記鎖状ジオール(x)、前記ジイソシアネート(y)および前記パラフィン系オイル(B1)を含有するものであることを特徴とするオイルゲル形成剤;である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のオイルゲルは、海水に直接暴露させた状態で使用することができ、高い水圧が加わったとしても、その水圧を前記オイルゲル全体に分散させ、均衡化させる効果(水圧均衡効果)を有する。従って、水圧を均衡化水圧5.6MPaレベル以上(水深548.64m以深の深海に相当)においても、優れた耐圧性および防水性を示す。
【0017】
本発明のオイルゲルは耐圧殻法と比較して圧力変動の影響を受け難く、特に漏水や結露に起因する漏電を効果的に防止することができる。また、重量部品・大型設備である耐圧殻を使用する必要がなく、電子機器を含む装置全体を小型軽量化することができ、設備の製造コストを低減することができる。
【0018】
また、本発明のオイルゲルはオイルシーリング法のような保護被膜や油密構造を必要としない。従って、電子機器を含む設備構成を簡素化することができ、設備を製造するコストや設備を保守するためのコストを低減することができる。
【0019】
更に、本発明のオイルゲルは水圧5.6MPaレベル(水深548.64mの深海に相当)においても内包された電子機器を水圧および急激な圧力変動から保護することができ、前記電子機器の物理的破損、クロック脱調、誤動作、漏電、電気的破損などの不具合を有効に防止することができる。また、本発明のオイルゲルは前記水圧や急激な圧力変動によって損傷し難いため、損傷部分からの浸水による不具合を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のオイルゲル一の使用態様を模式的に示す概念図である。
図2】本発明のオイルゲルを用いた耐圧材料に水圧が加わった状態を模式的に示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明を実施するための形態について、さらに具体的に説明する。
【0022】
なお、本明細書において、「X単位」というときは、ポリウレタンを構成する構造単位であって、化合物Xに由来する構造単位を意味するものとする。
【0023】
[1]オイルゲル:
前記オイルゲルは、鎖状ポリウレタン(A)と、パラフィン系オイル(B)と、を含有するオイルゲルである。前記オイルゲルは、パラフィン系オイル(B)に含まれる鎖状飽和炭化水素化合物と鎖状ポリウレタン(A)との分子構造の類似性によりオイルゲルを形成していると推測される。通常のオイルゲルは高分子が三次元の網目構造をとり、その網目構造の隙間にオイルが保持されている。これに対し、前記オイルゲルはパラフィン系オイル(B)に含まれる鎖状飽和炭化水素化合物の鎖状部分と、鎖状ポリウレタン(A)の鎖状部分が疎水性相互作用によって緩く結合することにより形成されていると推定される。
【0024】
前記オイルゲルにおいては、パラフィン系オイル(B)に含まれる鎖状飽和炭化水素化合物と、鎖状ポリウレタン(A)が弱い力で結合されている。従って、前記オイルゲルは柔軟性に富む。また、前記オイルゲルに対して強い力が加わった際には前記鎖状飽和炭化水素化合物と前記鎖状ポリウレタンの結合状態は解かれ、それぞれの分子が自由に運動する。このため、前記オイルゲルは一定の形状を有するにも拘らず、絶縁油のような非圧縮性流体と類似した挙動を示す。従って、前記オイルゲルに対して高い水圧が加わったとしても、その水圧を前記オイルゲル全体に分散させ、均衡化させる効果(水圧均衡効果)を有する。
【0025】
前記水圧均衡効果によって前記オイルゲルは優れた耐圧性を示す。具体的には、前記オイルゲルに高い水圧や圧力衝撃が加わったとしても、電子機器の各部に対して圧力を均一に伝えることができる。これにより、電子機器の物理的な破損(圧力偏差による圧壊)を有効に防止することができる。また、高い水圧や圧力変化が加わった場合にも、電子機器を正常に動作させることができる。
【0026】
更に、前記オイルゲルは絶縁油のように流動せず、その形状を保持する性質(保形性)があるために、電子機器を覆う保護被膜や油密構造を必要としないという特徴がある。さらに、前記オイルゲルは、柔軟性が高く、固化させた後も容易に剥離させることができる。従って、電子機器のメンテンナンスを容易にすることができる。電子機器のメンテナンスが終了した後に、再度、前記オイルゲルにより前記電子機器を被覆することで、再度、前記電子機器に耐圧性等を付与することもできる。
【0027】
一般に、「オイルゲル」とは、オイルを分散媒とする分散系を指す。本発明に言う「オイルゲル」は、パラフィン系オイル(B)を分散媒とし、鎖状ポリウレタン(A)を分散質とする分散系である。「オイルゲル」は液体と固体の中間の性質を示す。従って、本明細書に言う「オイルゲル」には、液状物やゴム状物(弾性体)を含まない。即ち、前記特許文献1乃至2に記載された高弾性材料からなるゲルとは全く異なるものである。
【0028】
[1−1]鎖状ポリウレタン(A):
「鎖状ポリウレタン(A)」の「鎖状」とは、鎖状ジオールに由来する鎖状構造を有することを意味する。この「鎖状構造」については、「鎖状ジオール」の項で説明する。
【0029】
前記鎖状ポリウレタン(A)は、鎖状ジオール(x)と、ジイソシアネート(y)と、の重合により形成された鎖状ポリウレタン(A1)である。言い換えれば、前記鎖状ポリウレタン(A)は、前記鎖状ジオール(x)に由来する繰り返し単位(鎖状ジオール単位)と、前記ジイソシアネート(y)に由来する繰り返し単位(ジイソシアネート単位)と、を有している。鎖状ジオール(x)とジイソシアネート(y)という2置換の化合物同士を重合させれば、3次元ネットワーク構造を有するポリウレタンではなく、鎖状構造のポリウレタンが形成される。
【0030】
[1−1a]鎖状ジオール(x):
前記鎖状ジオール(x)は、鎖状飽和炭化水素化合物の2個の水素原子が水酸基に置換された化合物である。前記鎖状ジオールの中でも、鎖状飽和炭化水素化合物の両末端に位置する炭素原子に結合された2個の水素原子が水酸基に置換された構造の鎖状ジオール(鎖状両末端ジオール)が好ましい。
【0031】
「鎖状飽和炭化水素化合物」の「鎖状」とは、直鎖状または分岐状であり、環構造を有していないことを意味する。また、「飽和」とは、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を有していないことを意味する。「鎖状飽和炭化水素化合物」に含まれない炭化水素化合物としては、脂環式構造、芳香環構造等の環構造を含む環状炭化水素化合物;ポリブタジエン、ポリイソプレン等の不飽和炭化水素化合物;等を挙げることができる。不飽和炭化水素化合物に由来する鎖状ジオールは、ジイソシアネート(y)との重合により形成されるポリウレタンがゴム状(弾性体)となり、重合物が硬くなり易い。従って、水圧均衡効果に優れるソフトなオイルゲルを形成する目的に適していない。
【0032】
前記鎖状ジオール(x)は、水添ポリイソプレンジオール(x1)であることが好ましい。水添ポリイソプレンジオールはポリオレフィン鎖を有していることから、パラフィン系オイル中の鎖状飽和炭化水素化合物との疎水性相互作用により、オイルゲルを形成すると考えられる。また、水添ポリイソプレンジオール(x1)は炭素−炭素二重結合を含まないため、重合により得られるポリウレタンがゴム化(弾性体化)し難く、ソフトなオイルゲルを形成することができるという利点がある。
【0033】
前記水添ポリイソプレンジオール(x1)は、水酸基含有量が0.80mol/kg以上1.0mol/kg以下の水添ポリイソプレンジオールであることが好ましい。さらに、前記水添ポリイソプレンジオール(x1)は、臭素価が1g/100g以上10g/100g以下の水添ポリイソプレンジオールであることが好ましい。なお、前記水酸基含有量はJIS K 1557に記載の測定法に準拠して測定した値を意味するものとする。また、前記臭素価はJIS K 0070に記載の測定法に準拠して測定した値を意味するものとする。
【0034】
前記鎖状ジオール(x)の数平均分子量は、1,000以上5,000以下であることが好ましく、2,000以上3,000以下であることが更に好ましい。この数平均分子量はASTM D 2503に記載の方法に準拠して測定した値を意味するものとする。
【0035】
前記鎖状ジオール(x)の数平均分子量を前記の範囲とすると、40℃における動粘度が20mm/s以上100mm/s以下のパラフィン系オイル(B1)の主成分である鎖状飽和炭化水素化合物と鎖状ポリウレタン(A1)の鎖状部分の構造(鎖長)が近づくために疎水性相互作用をより発揮させ易くなると考えられる。パラフィン系オイル(B1)は平均分子量が1,000以下の鎖状飽和炭化水素化合物を主成分とする。この鎖状飽和炭化水素化合物の炭素鎖の鎖長と近づけるため、前記鎖状ジオール(x)の数平均分子量を前記の範囲に設定することが好ましい。
【0036】
[1−1b]ジイソシアネート(y):
前記ジイソシアネート(y)は、飽和炭化水素化合物の2個の水素原子がイソシアネート基に置換された化合物である。ここに言う「飽和炭化水素化合物」は、鎖状飽和炭化水素化合物(直鎖状と分岐状の双方を含む)および脂環式飽和炭化水素化合物を意味するものとする。
【0037】
前記ジイソシアネート(y)は、脂環式飽和炭化水素化合物の2個の水素原子がイソシアネート基に置換されたジイソシアネート(y1)であることが好ましい。
【0038】
また、前記ジイソシアネート(y1)は、ノルボルナンジイソシアネート(y1a)であることが好ましい。前記ノルボルナンジイソシアネート(y1a)は、鎖状ジオール(x)との重合により形成されたポリウレタンが視覚的にも電磁光学的にも高い透明性を示し、赤外光、可視光、紫外光を殆ど損失させることなく、透過させることができる。このため、前記オイルゲルは、例えば海中カメラ、水中照明装置(遠赤外光〜紫外光の照明を含む)等の光学分野の電子機器;光通信デバイス(送信デバイス、受信デバイスおよび光ファイバー末端)、携帯電話用アンテナ、衛星通信用アンテナ等の通信分野の電子機器;海中ケーブル、海中コネクタ等の信号接続機器;海底断層計、マントル検出器、海底地磁気センサなどの超精密磁気測定装置;などの電子機器の耐圧性保護材としての利用に適している。前記ノルボルナンジイソシアネート(y1a)は、2,5−ノルボルナンジイソシアネートであってもよいし、2,6−ノルボルナンジイソシアネートであってもよい。
【0039】
[1−1c]鎖状ジオール(x)とジイソシアネート(y)のモル比:
重合により、前記ポリウレタン(A1)を形成する際には、鎖状ジオール(x)とジイソシアネート(y)とを等モルで反応させることが好ましい。言い換えれば、鎖状ジオール(x)の水酸基とジイソシアネート(y)のイソシアネート基のモル比が等モル(理論値)となるように両物質を反応させることが好ましい。
【0040】
[1−2]パラフィン系オイル(B):
パラフィン系オイルとは、パラフィン(鎖状飽和炭化水素化合物)を主成分とするオイルを意味する。例えば、パラフィン系プロセスオイル等を挙げることができる。
【0041】
前記パラフィン系オイル(B)は、40℃における動粘度が20mm/s以上100mm/s以下のパラフィン系オイル(B1)である。特に40℃における動粘度が85mm/s以上95mm/s以下のパラフィン系オイル(B1a)であることが好ましい。40℃における動粘度はJIS K2283に記載の測定法に準拠して測定した値を意味するものとする。パラフィン系オイルの動粘度は主成分である鎖状飽和炭化水素化合物の分子量(炭素鎖の鎖長と考えてよい)と相関がある。また、40℃における動粘度が100mm/s以下のパラフィン系オイル(B1)を用いることで、特に、数平均分子量1,000以上5,000以下の鎖状ジオール単位を有する鎖状ポリウレタンとの間で耐圧性に優れたオイルゲルを形成する。また、二液混合法によりオイルゲルを得る際に、室温(15℃以上45℃以下)の条件下、撹拌機等の撹拌装置を使用しなくとも容易に混合することが可能となる。
【0042】
パラフィン系オイル(B)の重量平均分子量は265以上1060以下であることが好ましく、430以上630以下であることが好ましい。この重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、単分散ポリスチレンを基準としてポリスチレン換算で求めた値を意味するものとする。
【0043】
[1−3]添加剤:
オイルゲルには、その耐圧・防水の効果を阻害しない限りにおいて各種添加剤が含有されていてもよい。各種添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等);酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤);消泡剤(例えば、シリコーン系脱泡剤等);等を挙げることができる。これらの添加剤は、均質な混合状態を得るために、室温(25℃)において液状のもの、または油溶性のものを用いることが好ましい。
【0044】
[1−4]組成比:
前記オイルゲルにおいては、前記鎖状ポリウレタン(A1)が、前記鎖状ポリウレタン(A1)と前記パラフィン系オイル(B1)の合計量に対し、10質量%以上50質量%以下の割合で含有されている。前記範囲とすることで、耐圧性、防水性に優れたオイルゲルを形成することができる。50質量%を超えると、生成物の性状が急激に変化し、弾性体としての性質を示すようになる。即ち、オイルゲルとしての性質を示さず、本発明の効果を奏しなくなる。10質量%未満であると、ゲルの保形性が低下する。耐圧性、防水性を更に向上させるためには、前記鎖状ポリウレタン(A1)が、前記鎖状ポリウレタン(A1)と前記パラフィン系オイル(B1)の合計量に対し、20質量%以上40質量%以下の割合で含有されていることが好ましい。
【0045】
[2]電子機器保護用の耐圧材料:
前記オイルゲルは、パラフィン系オイル(B)と同様の耐圧性、電気絶縁性を有することに加えて、ゲルであることに起因して保形性(形状保持性)、密着性にも優れる。従って、耐圧性、防水性に優れ、前記オイルゲルは電子機器保護用の耐圧材料として好適に用いることができる。
【0046】
図1は、本発明のオイルゲルの一の使用態様を模式的に示す概念図である。図1に示す耐圧性電子機器100は、電子機器2と、電子機器2の周囲を完全に被覆する耐圧性保護層10と、を備えている。そして、耐圧性保護層10が、本発明のオイルゲル1により形成されている。
【0047】
電子機器2は、センサ4と、配線6と、電子回路8とから構成され、センサ4と電子回路8が配線6により接続された構造を有する。電子機器2が耐圧性保護層10で被覆されることによって、センサ4、配線6、および電子回路8が一体化される。センサ4は水圧センサである。
【0048】
図2は、本発明のオイルゲルに水圧が加わった状態を模式的に示す概念図である。図2に示すように、耐圧性保護層10に外圧(水圧)が加えられると、その外圧(水圧)は耐圧性保護層10において均圧化され、耐圧性保護層10に被覆された電子機器2の全体に外圧(水圧)が遅滞なく均等に伝達される。これにより、耐圧性保護層10にかかる外圧と、電子機器2にかかる内圧のバランスが保たれ、電子機器2の物理的破損が有効に防止される。
【0049】
電子機器は、図1に示す例に限定されない。電子機器の例としては、水圧センサ以外の海洋センサ(水温センサ、導電率センサ、メタンハイドレート掘削用センサなど);海中カメラ;水中照明装置(遠赤外光〜紫外光の照明を含む);海洋ブイ;海中ケーブル;海中発電装置;海底地震計;などを挙げることができる。
【0050】
[3]オイルゲル形成剤:
前記オイルゲルは、いわゆる2液混合法により製造することができる。例えば、鎖状ジオール(x)およびパラフィン系オイル(B1)を含有する第1液と、ジイソシアネート(y)およびパラフィン系オイル(B1);を含有する第2液と、を組み合わせてなるオイルゲル形成剤を用いて製造することができる。前記第1液と前記第2液とを混合すると、前記第1液中の前記鎖状ジオール(x)と、前記第2液中の前記ジイソシアネート(y)と、の重合により鎖状ポリウレタン(A1)が形成される。
【0051】
このオイルゲル形成剤において、前記第1液および前記第2液は、前記鎖状ポリウレタン(A1)、前記第1液に含まれる前記パラフィン系オイル(B1)および前記第2液に含まれる前記パラフィン系オイル(B1)の合計量に対し、10質量%以上50質量%以下の鎖状ポリウレタン(A1)が形成されるように、前記鎖状ジオール(x)、前記ジイソシアネート(y)および前記パラフィン系オイル(B1)を含有させればよい。前記第1液には重合(ひいてはゲル化)を促進させるため、従来公知の反応触媒を添加してもよい。例えば、ジブチル錫ジラウレート等の有機錫化合物を用いることができる。
【0052】
前記鎖状両末端ジオール(x)、前記ジイソシアネート(y)、前記パラフィン系オイル(B)の具体的内容は、前記オイルゲルの項で説明した通りである。前記第1液と前記第2液は、15℃以上45℃以下の室温条件下でも(湯煎等の加熱を行うことなく)混合することができ、重合反応により前記鎖状ポリウレタン(A)を形成する。これにより、前記鎖状ポリウレタン(A)と前記パラフィン系オイル(B)から形成されるオイルゲルを得ることができる。
【0053】
混合の方法は特に限定されない。例えば、前記第1液と、前記第2液を計量し、これらをチャック付きのポリ袋に投入し、前記ポリ袋の内部で混合する方法などを挙げることができる。混合の際には、前記ポリ袋に、前記第2液、前記第1液の順でこれらを投入し、混合することが好ましい。
【0054】
混合の温度も特に限定されない。ただし、前記第1液と、前記第2液が十分に馴染み、混ざり合う温度であることは必要である。具体的には、混合の温度が15℃以上45℃以下であることが好ましく、15℃以上25℃以下であることがさらに好ましい。
【0055】
電子機器をオイルゲルで被覆する際には、有底容器の内部に電子機器を配置した後、前記有底容器の内部に、前記第1液と前記第2液の混合液を注入し、前記電子機器の周囲に前記混合液を付着させる。
【0056】
「有底容器」としては、例えばプラスチック製のカップ、プラスチック製のケース等を用いることができる。前記電子機器全体が前記混合液に完全に浸漬されるまで、前記有底容器に前記混合液を注入することで、前記電子機器の周囲に前記混合液を付着させることができる。
【0057】
前記混合液は時間の経過とともに、前記鎖状ジオール(x)と前記ジイソシアネート(y)との反応が進行し、ゲル化する。前記混合液が液漏れしない程度にゲル化するまでの時間は約3時間であり、完全にゲル化するまでの時間は約24時間である。前記混合液がゲル化することで、前記電子機器の周囲に、前記混合液に由来するオイルゲルからなる耐圧性保護層が形成される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様のみに限定されるものではない。
【0059】
[参考例1乃至16]
表1に示す鎖状ジオール(x);およびパラフィン系オイル(B);を含有する第1液を調製した(参考例1乃至7)。前記第1液には、反応触媒としてジブチル錫ジラウレートを添加した。ジブチル錫ジラウレートは第1液100gに対して0.05gの割合で添加した。その内容を表1に示す。
【0060】
また、表2に示すジイソシアネート(y);およびパラフィン系オイル(B);を含有する第2液を調製した(参考例8乃至14)。その内容を表2に示す。なお、鎖状ジオール(x)とジイソシアネート(y)の量は両物質の分子量に基いて両物質が当モルとなるように調整した。また、鎖状ポリウレタンの含有率が52質量%を超える場合には第1液と第2液の1:1混合が不可能であるため、パラフィン系オイルの量を適宜調整した。
【0061】
表1に示す鎖状ジオール(x)としては、水素添加されたポリイソプレン骨格の両末端に各1個の水酸基が結合された構造の水添ポリイソプレンジオールを用いた。その内容を表3に示す。
【0062】
表1および表2に示すパラフィン系オイルとしては、パラフィン(鎖状飽和炭化水素化合物)を主成分とし、40℃における動粘度が88.96mm/s、飽和分(飽和炭化水素化合物の占める比率)が90質量%以上、重量平均分子量が530のパラフィン系オイルを用いた。また、表2に示すジイソシアネートとしては、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)を用いた。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
[実施例1]
参考例1の第1液90.0gと、参考例8の第2液90.0gを0.05g精度の電子秤で計量し、質量比1:1となるように混合し、混合液180gを得た。混合は、室温(25℃)の条件下、チャック付きポリ袋に前記第1液と前記第2液を封入し、前記チャック付きポリ袋を外側から手で揉む方法により行った。この混合液160gを、縦69mm×横69mm×高さ59mmのアクリル樹脂製のケースに注入し、24時間放置することにより生成物を得た。
【0067】
[実施例2乃至5、比較例1乃至2]
第1液または第2液の種類を表4に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして生成物を得た。
【0068】
【表4】
【0069】
[混合性、硬化状態、透明性の評価]
第1液と第2液の混合性、および得られた生成物の硬化状態、透明性を以下の方法により評価した。その結果を表4に示す。
【0070】
(混合性<25℃>)
第1液と第2液を混合した際に、2液が均一に混合されるまでの時間によって混合性<25℃>を評価した。
【0071】
(1)混合開始から2分以内に均一に混合された場合を「良好(○)」とした。
(2)混合開始から5分以内に均一に混合された場合を「概ね良好(△)」とした。
(3)混合開始から5分以内に均一に混合されなかった場合を「不良(×)」とした。
【0072】
(硬化状態)
第1液と第2液を混合後、24時間、48時間、72時間の時点における生成物の状態を目視観察することにより、生成物の硬化状態を評価した。
【0073】
(1)生成物がゲル状を呈し、生成物が入ったケースを傾けても、生成物の形状が崩れることなく保持されている場合を「良好(○)」とした。
(2)生成物が膨潤したゲル状(ゆるいゼリー状)を呈しており、生成物が入ったケースを傾けると、生成物の形状が崩れる場合を「概ね良好(△)」とした。
(3)生成物が液状である場合を「不良(×:液状)」とした。
(4)生成物がゴム状である(固化したシリコーンコーキングと同程度の硬度を呈している)場合を「不良(×:ゴム状)」とした。
【0074】
(透明性)
第1液と第2液を混合後、24時間の時点における生成物の透明度および色調を目視観察することにより透明性を評価した。
【0075】
(1)生成物が無色透明である場合を「良好(○)」とした。
(2)生成物が僅かに白濁し、半透明である場合を「概ね良好(△)」とした。
(3)着色があり、不透明である場合を「不良(×)」とした。
【0076】
[耐圧性、防水性、剥離性の評価]
(信号出力)
アクリル樹脂製のケース(縦69mm×横69mm×高さ59mm)の内部に、マイクロプロセッサを取り付けた電子回路を配置した。前記電子回路としては、商品名「AE−PIC18」(秋月電子通商製)を用いた。前記電子回路のサイズは、縦18mm×横52mm×部品高23mm(基板厚さ1.5mm)であった。前記電子回路には外部機器と接続するためのケーブルを取り付けた。前記ケーブルを介して前記電子回路をDC電源およびPC(パーソナルコンピュータ)に接続した。
【0077】
その後、前記ケースの内部に、第1液と第2液の混合液160gを注入し、前記電子回路の周囲に前記混合液を付着させた。室温(25℃)で24時間経過させ、前記混合液をゲル化させることにより、前記混合液に由来するオイルゲルからなる耐圧性保護層を形成した(以下、耐圧性保護層が形成された電子回路全体を「耐圧性電子回路」と称する。)。前記電子回路の周囲は前記耐圧性保護層によって完全に被覆された。
【0078】
まず、大気中、大気圧下(0MPa)において、前記電子回路からの信号出力を確認した。前記電子回路に前記耐圧性保護層を形成した後、24時間、48時間、72時間経過時に、前記電子回路に通電し、前記電子回路からの電気的出力を測定し、前記電子回路からの信号出力を確認した。
【0079】
大気中、大気圧下(0MPa)における信号出力を確認した後、前記耐圧性電子回路を前記ケースごと加圧水槽(中型高圧実験水槽)に投入した。下記のサイクルで前記加圧水槽(中型高圧実験水槽)の加圧−減圧操作を行うことにより、加圧−減圧サイクルにおける信号出力を確認した。
【0080】
(ア)加圧速度0.1MPa/secで、0MPa(大気圧)から5.6MPaまで加圧した。
(イ)5.6MPaの加圧状態で、10分間保持した。
(ウ)減圧速度0.1MPa/secで、5.6MPa(加圧状態)から0MPa(大気圧)まで減圧した。
(エ)前記耐圧性電子回路を前記加圧水槽から取り出し、前記耐圧性電子回路を目視確認し、その写真を撮影した(この際、前記耐圧性保護層や前記電子回路に浸水などの不具合がないか確認した)。
(オ)5秒間で、0MPa(大気圧)から12MPaまで加圧した。
(カ)12MPaの加圧状態で、10分間保持した。
(キ)5秒間で、12MPaから0MPa(大気圧)まで減圧した。
(ク)0MPaで、10分間保持した((オ)から(ク)の工程を「バーストテスト」と称することにする。)。
(ケ)バーストテストを更に2回繰り返す(バーストテストを合計3回行う)。
(コ)前記耐圧性電子回路を前記加圧水槽から取り出し、前記耐圧性電子回路を目視確認し、その写真を撮影した(この際、前記耐圧性保護層や前記電子回路に浸水などの不具合がないか確認した)。
(サ)前記耐圧性電子回路を前記加圧水槽から取り出した後、24時間経過後に、大気中、大気圧下(0MPa)における信号出力を確認した。
【0081】
なお、前記サイクルで5.6MPaまたは12MPaの加圧を行った理由は以下のとおりである。
(1)5.6MPa:
船舶分野における「深海(Abyssal)」の定義は水深300尋(545.4m)である。この水深における水圧に海水の平均比重(1.025)を乗じることにより、水圧5.6MPaを算出した。
(2)12MPa:
加圧・減圧サイクルを短時間で繰り返すバーストテストは、(a)水圧変化に対する耐性;および(b)長期耐久性;を評価するための試験である。
具体的には、0MPaから12MPaまで加圧した後、0MPaまで減圧する加圧・減圧サイクルを繰り返すバーストテストには、以下の2つの意味がある。
(a)サンプルが30MPaから36MPa(水深で言えば3,000mから3,600m)に相当する水圧変化に晒された状況を模擬し、サンプルの水圧変化に対する耐性を評価する。
(b)サンプルが5.6MPaの水圧下で72時間浸漬された状況を模擬し、サンプルの長期耐久性を評価する。
【0082】
前記電子回路から正常に信号が出力されるか否か(周波数変化や信号途絶が起きないか)を確認し、信号出力を評価した。信号出力は、上記の加圧−減圧サイクルの間、連続的に確認した。信号は前記電子回路の内臓クロック、およびレゾネータを用いて出力させた。
【0083】
(1)クロック出力を分周した2MHzのデジタル信号
(2)前記デジタル出力をFV変換した電圧(アナログ信号)
(3)38,461Hz周期のUART信号(Universal Asynchronous Receiver Transmitter:モニタ用の特定アスキーコード16バイト)
をモニタすることにより、前記電子回路からの信号出力を確認した。
【0084】
(1)前記電子回路から前記デジタル信号、前記電圧、前記UART信号が正常に出力され、前記電子回路が正常に動作した場合(具体的には、前記(ア)乃至(サ)の加圧−減圧プロセス中、前記デジタル信号の周波数や前記電圧の変動が認められず、前記UART信号の途絶やデータ欠測が認められない場合)を「極めて良好(◎)」とした。
(2)前記電子回路から前記デジタル信号、前記電圧、前記UART信号が概ね正常に出力され、前記電子回路が正常に動作した場合(具体的には、前記(ア)乃至(サ)の加圧−減圧プロセス中、前記デジタル信号の周波数や前記電圧の変動が±3%の範囲内で認められるが、前記UART信号の途絶やデータ欠測が認められない場合)を「良好(○)」とした。
(3)前記電子回路から前記デジタル信号、前記電圧、前記UART信号の出力に若干の異常が認められるが、前記電子回路が概ね正常に動作した場合(具体的には、前記(ア)乃至(サ)の加圧−減圧プロセス中、前記デジタル信号の周波数や前記電圧に±3%の範囲を超える変動が認められるが、前記UART信号の途絶やデータ欠測は4回以下に収まっている場合)を「概ね良好(△)」とした。
(4)前記電子回路から前記デジタル信号、前記電圧、前記UART信号の出力に若干の異常が認められるが、前記電子回路の動作に若干の異常が認められる場合(具体的には、前記(ア)乃至(サ)の加圧−減圧プロセス中、前記デジタル信号の周波数や前記電圧に±3%の範囲を超える変動が認められ、かつ、前記UART信号の途絶やデータ欠測が5回以上認められる場合)を「やや不良(▲)」とした。
(5)前記電子回路が動作しなかった場合を「不良(×)」とした。
【0085】
(耐圧性)
前記信号出力の評価をした際に、5.6MPaに加圧後、および12MPaに加圧後(3回のバーストテスト後を意味する。以下同じ)において、前記耐圧性保護層(オイルゲル)の容積の減少、外部に連絡する割れ(浸水経路)が形成されたか否かについて確認し、耐圧性を評価した。水圧によって、前記耐圧性保護層の容積が減少し、前記耐圧性保護層に外部に連絡する割れが形成され、或いは前記耐圧性保護層のうちケーブルやケース壁面と接触している部分に浸水経路が形成されると、前記耐圧性保護層が有効に機能しなくなる。即ち、耐圧性保護層の容積減少、前記耐圧性保護層に形成された割れや浸水経路は、電子回路が破損し、或いは電子回路の動作に支障をきたす原因となる。
【0086】
(1)5.6MPaに加圧後、12MPaに加圧後とも、前記耐圧性保護層の容積変化が認められず、前記耐圧性保護層に割れと浸水経路が形成されていない。この場合を「極めて良好(◎)」とした。
(2)5.6MPaに加圧後、12MPaに加圧後とも前記耐圧性保護層の容積変化が認められず、前記耐圧性保護層に割れと浸水経路が形成されていない。しかし、12MPaに加圧後に前記耐圧性保護層の一部がケース壁面から剥離し、浸水経路が形成されている。この場合を「良好(○)」とした。
(3)5.6MPaに加圧後、12MPaに加圧後とも前記耐圧性保護層の容積変化が認められない。しかし、5.6MPaに加圧後および12MPaに加圧後に、前記耐圧性保護層に、外部に連絡していない割れや浸水経路が形成されている。この場合を「やや不良(△)」とした。
(4)12MPaに加圧後に前記耐圧性保護層の容積減少が認められ、前記耐圧性保護層に、外部に連絡する割れや浸水経路が形成されている。そして、実際に浸水の痕跡が認められる。この場合を「不良(×)」とした。
【0087】
(防水性)
前記信号出力の評価に基いて、前記耐圧性保護層の防水性を評価した。前記耐圧性保護層が防水性に劣る場合、前記耐圧性保護層の内部に水が浸入し、前記電子回路の動作に異常をきたすおそれがある。
【0088】
(1)全ての測定時点において、前記信号出力の評価が全て「極めて良好(◎)」であった場合を「極めて良好(◎)」とした。
(2)全ての測定時点において、前記信号出力の評価が「極めて良好(◎)」、「良好(○)」のいずれかであった場合を「良好(○)」とした。
(3)全ての測定時点において、前記信号出力の評価が「極めて良好(◎)」、「良好(○)」、「概ね良好(△)」のいずれかであった場合を「概ね良好(△)」とした。
(4)全ての測定時点において、前記信号出力の評価に「不良(×)」はないが、「やや不良(▲)」が一つでもあった場合を「やや不良(▲)」とした。
(5)前記信号出力の評価に「不良(×)」が一つでもあった場合を「不良(×)」とした。
【0089】
(剥離性)
前記信号出力の評価が完了した後(前記(サ)のプロセスが終了した後)において、前記ケースから前記耐圧性保護層を引き剥がした際の挙動や状態によって剥離性を評価した。
【0090】
(1)前記ケースに前記耐圧性保護層(オイルゲル)を残存させることなく、前記耐圧性保護層を綺麗に引き剥がすことができ、前記ケースにオイル分が付着していない場合を「極めて良好(◎)」とした。
(2)前記ケースに耐圧性保護層を残存させることなく、前記耐圧性保護層を綺麗に引き剥がすことができるが、前記ケース側にオイル分が付着している場合を「良好(○)」とした。
(3)前記ケースに耐圧性保護層が一部残存し、前記耐圧性保護層を綺麗に引き剥がすことができなかった場合を「概ね良好(△)」とした。
(4)前記ケースと耐圧性保護層が接着しており、前記ケースから前記耐圧性保護層を引き剥がすことができなかった場合を「不良(×)」とした。
【0091】
(評価)
実施例1乃至5は全ての評価において「やや不良(▲)」、「不良(×)」がなく、「極めて良好(◎)」、「良好(○)」または「概ね良好(△)」であった。特に、鎖状ポリウレタンの含有率が20%以上40%以下である実施例2乃至4は耐圧性および防水性が全て「極めて良好(◎)」であった。
【0092】
一方、比較例1および2は耐圧性の評価が「不良(×)」であった。即ち、サンプルにおいて、耐圧性保護層の容積減少、外部に連絡する割れや浸水経路の形成、浸水の痕跡が認められ、長期的に見ると、前記耐圧性保護層が有効に機能しなくなり、電子回路が破損し、或いは電子回路の動作に支障をきたすおそれがあるものと考えられた。
【0093】
また、比較例1または2の耐水性の評価は「○」であった。しかし、この評価は信号出力に基いて評価した結果である。実際には、比較例1および2において耐圧性保護層の容積減少、外部に連絡する割れや浸水経路の形成、浸水の痕跡が認められている。即ち、比較例1および2は、長期的に見ると、信号出力に影響を及ぼすレベルの浸水が起こり、電子回路が破損し、或いは電子回路の動作に支障をきたすおそれがあるものと考えられた。
【0094】
更に、比較例1および2は混合性の評価が「不良(×)」であった。第1液と第2液の混合直後から硬化が始まり、粘稠な水飴状を呈するために、混合開始から5分以内に均一に混合することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のオイルゲルは、水圧5.6MPaレベル(水深548.64mの深海に相当)の高い水圧から電子機器を保護するための耐圧材料として好適に用いることができる。具体的には、海洋センサ<水圧センサ、水温センサ、導電率センサ、メタンハイドレート掘削用センサなど>、海中カメラ、水中照明装置(遠赤外光〜紫外光の照明を含む)、海洋ブイ、海中ケーブル、海中発電装置、海底地震計などを保護するための耐圧材料として特に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0096】
1:オイルゲル、2:電子機器、4:センサ、6:配線、8:電子回路、10:耐圧性保護層、100:耐圧性電子機器。
【要約】
【課題】水圧5.6MPaレベル(水深548.64mの深海に相当)においても、優れた耐圧性および防水性を示す電子機器保護用の耐圧材料を提供する。
【解決手段】鎖状ポリウレタン(A)と、パラフィン系オイル(B)と、を含有し、鎖状ポリウレタン(A)は、鎖状ジオール(x)と、ジイソシアネート(y)と、の重合により形成された鎖状ポリウレタン(A1)であり、パラフィン系オイル(B)は、40℃における動粘度が20mm/s以上100mm/s以下のパラフィン系オイル(B1)であり、鎖状ポリウレタン(A1)は、鎖状ポリウレタン(A1)とパラフィン系オイル(B1)の合計量に対し、10質量%以上50質量%以下の割合で含有されていることを特徴とするオイルゲル。
【選択図】なし
図1
図2