(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162932
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】バルーンカテーテルおよびバルーンカテーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20170703BHJP
【FI】
A61M25/10 500
A61M25/10 510
A61M25/10 550
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-147071(P2012-147071)
(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2014-8241(P2014-8241A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】前田 純也
【審査官】
安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−317993(JP,A)
【文献】
特表2008−545511(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0141106(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0158517(US,A1)
【文献】
米国特許第06585926(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0082552(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/028419(WO,A1)
【文献】
特表2011−513000(JP,A)
【文献】
特表2011−513005(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0292668(US,A1)
【文献】
特表2011−518019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00−25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル本体と、
前記カテーテル本体の遠位部に設けられ、前記カテーテル本体内のルーメンを通じて流体を注入することにより前記カテーテル本体の遠心方向に拡径するバルーンと、
前記バルーンの外周面に形成され、前記バルーンの拡径時に亀裂する多孔質樹脂膜と、
を有し、
前記多孔質樹脂膜の孔は、前記バルーンの拡径時に前記多孔質樹脂膜の亀裂の起点となり、前記バルーンの拡径時に亀裂が入る部分となる、前記多孔質樹脂膜の前記孔以外の領域には、薬剤が混入されているバルーンカテーテル。
【請求項2】
前記多孔質樹脂膜の外周面には、保護膜が形成されている請求項1に記載のバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記保護膜は、多孔質樹脂材からなる請求項2に記載のバルーンカテーテル。
【請求項4】
薬剤、樹脂および溶媒を混合した混合液の膜を、カテーテル本体の遠位部に形成されたバルーンの外周面に形成する第1の工程と、
前記バルーンの外周面に形成された混合液の膜から前記溶媒を真空凍結乾燥法により除去して、前記混合液の膜を前記バルーンの拡径時に亀裂の起点となる孔を有し、且つ、前記孔以外の領域が、前記バルーンの拡径時に亀裂が入る部分となる多孔質樹脂膜に変化させる第2の工程と、
を含むバルーンカテーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテルおよびバルーンカテーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冠動脈血管インターベンション(PCI:Percutaneous Coronary Intervention)は、血管などの脈管において狭窄が生じた場合、血管の狭窄部位を拡張して血管末梢側の血流を改善するための安全かつ有効な治療法として、広く行われている。
【0003】
また、狭窄部位を拡張し、再狭窄を避ける治療方法も確立されつつある。例えば、バルーンの外側の表面が再狭窄を防ぐ薬剤でコーティングされたバルーンカテーテルを用いることにより、再狭窄率の低減を図る技術が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。このようなバルーンカテーテルを用いて施術する場合、まず、このバルーンカテーテルを血管内に挿入してバルーンを狭窄部位(以下、治療部位)に一致させる。次いで、バルーンを膨張させることによって、当該バルーンの表面にコーティングされた薬剤を治療部位に放出させる。薬剤を治療部位に放出させた後は、バルーンを減圧収縮させてバルーンカテーテルを体外へ抜去する。
【0004】
また、バルーンカテーテルのバルーンを、多孔質エラストマー材料を使用して製造した技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の技術では、バルーンには、複数の空洞が分散して形成されている。空洞には薬剤が埋め込まれている。このようなバルーンカテーテルを用いて施術する場合、バルーンカテーテルを血管内に挿入してバルーンを治療部位に一致させる。次いで、バルーンを膨張させることによって、当該膨張に伴い伸張した空洞から薬剤がしぼり出されるようにして、当該薬剤を治療部位に放出させる。これにより、他の方法(例えば、注射、服用等)では使用することができない種類や濃度の薬剤を、治療部位に直接届けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4436761号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B Braun社「SeQuent Please(薬剤溶出性バルーン)」カタログ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、表面を薬剤でコーティングしたバルーンの場合、バルーンカテーテルが治療部位に到達する前にコーティングが剥がれたり、溶けたりしてしまう等の理由から、治療部位に直接届けることができる薬剤の量が低下してしまう問題があった。
【0008】
また、上記特許文献1に記載の技術では、薬剤とバルーンとは一体形成されているので、薬剤を放出させるためにバルーンを膨張させればさせるほど、バルーンの壁厚は減少し、膨張の度合いによってはバルーンが破れてしまうおそれがあった。したがって、実際には、バルーンが破れない程度にバルーンを膨張させる必要がある。しかしながら、バルーンの膨張が不十分であると、薬剤はバルーンの表面上のみから放出され、当該バルーンの内部には薬剤が残存してしまう。それゆえ、治療部位に対して必要な量の薬剤を届けることができない。
【0009】
本発明は、治療部位に対して必要な量の薬剤を届けることが可能なバルーンカテーテルおよびバルーンカテーテルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るバルーンカテーテルは、
カテーテル本体と、
前記カテーテル本体の遠位部に設けられ、前記カテーテル本体内のルーメンを通じて流体を注入することにより前記カテーテル本体の遠心方向に拡径するバルーンと、
前記バルーンの外周面に形成され、
前記バルーンの拡径時に亀裂する多孔質樹脂膜と、
を有し、
前記多孔質樹脂膜
の孔は、
前記バルーンの拡径時に前記多孔質樹脂膜の亀裂の起点となり、前記バルーンの拡径時に亀裂が入る部分となる、前記多孔質樹脂膜の前記孔以外の領域に
は、薬剤が混入されている。
【0011】
本発明に係るバルーンカテーテルの製造方法は、
薬剤、樹脂および溶媒を混合した混合液の膜を、カテーテル本体の遠位部に形成されたバルーンの外周面に形成する第1の工程と、
前記バルーンの外周面に形成された混合液の膜から前記溶媒を真空凍結乾燥法により除去
して、前記混合液の膜を前記バルーンの拡径時に亀裂の起点となる孔を有し、且つ、前記孔以外の領域が、前記バルーンの拡径時に亀裂が入る部分となる多孔質樹脂膜に変化させる第2の工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、治療部位に対して必要な量の薬剤を届けることが可能なバルーンカテーテルおよびバルーンカテーテルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施の形態におけるバルーンカテーテルの要部断面図である。
【
図2】本実施の形態におけるバルーンカテーテルの製造方法を示す図である。
【
図3】本実施の形態におけるバルーンの外周面に形成される膜の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
[バルーンカテーテル100]
図1に示すバルーンカテーテル100は、血管などの脈管において生じた狭窄部位(以下、「治療部位」という)を拡張した後、当該治療部位に対して再狭窄を防ぐ薬剤を届けるために使用される。バルーンカテーテル100は、血管内に挿入されるカテーテル本体110と、カテーテル本体110の遠位部の外周面に設けられ、加圧流体(例えば、造影剤または、生理食塩水で薄められた造影剤)が注入されることによってカテーテル本体110の遠心方向(
図1の矢印A方向)に拡径するバルーン120とを備える。
【0015】
バルーン120の外周面には、薬剤が混入された多孔質樹脂膜130があらかじめ形成されている。150はカテーテル本体110に挿通し、治療部位までバルーンカテーテル100を案内するガイドワイヤである。なお、バルーン120の外周面に対する多孔質樹脂膜130の形成方法については後述する。
【0016】
カテーテル本体110の内部には、ガイドワイヤ150が挿通されるガイドワイヤルーメンと、バルーン120に加圧流体を注入するためのインフレーションルーメンとがカテーテル本体110の軸方向(
図1の矢印B方向)に沿って設けられている。
【0017】
バルーン120は、加圧流体が注入される前、カテーテル本体110の外径と近似する寸法でカテーテル本体110の外周面に密着するように設けられている。加圧流体が注入されると、バルーン120の壁は伸びて膨張する。なお、
図1では、バルーン120が膨張した状態を示している。
【0018】
[バルーンカテーテル100の製造方法]
次に、バルーンカテーテル100の製造方法の例を説明する。
【0019】
<バルーン120の形成工程>
説明を簡単にするため、カテーテル本体110の遠位部の外周面へのバルーン120の形成工程については詳細な説明を省略し、以下、バルーン120の外周面への多孔質樹脂膜130の形成方法について説明する。
【0020】
<混合液190の生成工程>
まず、
図2(a)に示すように、薬剤160、例えばプラスチック等の樹脂170、および溶媒180を所定の割合で混合して混合液190を生成する。
【0021】
<成膜工程>
次に、
図2(b)に示すように、カテーテル本体110の遠位部に形成されたバルーン120の外周面に混合液190を略均一に塗布して混合液190の膜を生成する。最後に、バルーン120の外周面に形成された混合液190の膜を急速凍結した後、凍結真空乾燥法によって混合液190の膜から溶媒180を除去する。
【0022】
このように、凍結真空乾燥法を用い、変質しやすい薬剤160を凍結させて真空中で溶媒180を蒸発させることにより、熱に弱い薬剤160の変化を極力抑えることができる。
【0023】
図2(c)に示すように、凍結真空乾燥法によって溶媒180を除去すると、バルーン120の外周面に形成された混合液190の膜は多孔質樹脂膜130に変化する。多孔質樹脂膜130の厚さは、例えば3/100[mm]である。多孔質樹脂膜130は、複数の孔130aと、孔130a以外の領域で薬剤160が混入された薬剤担持樹脂部130bとを有する。
図2(d)は、バルーン120の外周面に形成された多孔質樹脂膜130の外観を示す図である。
【0024】
[バルーンカテーテル100の使用手順]
次に、血管などの脈管において生じた狭窄部位(治療部位)を拡張した後、バルーンカテーテル100を用い、当該治療部位に対して再狭窄を防ぐ薬剤160を届ける手順について説明する。
【0025】
まず、術者は、治療部位を通過して血管内に挿入されたガイドワイヤ150に沿わせて、バルーン120を膨張させていない状態のバルーンカテーテル100を治療部位まで挿入する。
【0026】
次に、カテーテル本体110の近位部に接続されたシリンジ(図示せず)によって生理食塩水等の液体を注入することにより、バルーン120を拡径させる。これにより、バルーン120の外周面に形成された多孔質樹脂膜130の孔130aに亀裂が入り、その亀裂部分から血管中の血液が孔130aに浸入する。孔130aに浸入した血液と薬剤担持樹脂部130bの薬剤160とが孔130aにおいて混合される。そして、混合された血液が治療部位に流れ出すことによって、薬剤160は治療部位へ放出される。
【0027】
その後、術者は、シリンジによって生理食塩水等の液体を吸引することにより、バルーン120を収縮させ、バルーンカテーテル100を引き抜く。最後に、ガイドワイヤ150を引き抜くことによって、治療部位に薬剤160を届ける作業は終了する。
【0028】
以上詳しく説明したように、本実施の形態のバルーンカテーテル100は、カテーテル本体110と、カテーテル本体110の遠位部に設けられ、カテーテル本体110内のルーメンを通じて流体を注入することによりカテーテル本体110の遠心方向に拡径するバルーン120と、バルーン120の外周面に形成された多孔質樹脂膜130とを有する。そして、多孔質樹脂膜130には、孔130a以外の薬剤担持樹脂部130bに薬剤160が混入されている。
【0029】
このように構成した本実施の形態によれば、バルーンカテーテル100を治療部位に移動させる際、多孔質樹脂膜130の樹脂170は、薬剤160が溶けてしまうことを防止する壁の役割を果たす。そのため、バルーンカテーテル100が治療部位に到達する前に、治療部位に届けることができる薬剤160の量が低下してしまうことを防止することができる。
【0030】
また、バルーン120および多孔質樹脂膜130はそれぞれ別体としてバルーンカテーテル100に設けられているので、多孔質樹脂膜130の全ての孔130aに亀裂が入るようにバルーン120を大きく拡径させても、バルーン120自体の厚みが薄くなるわけでなく、バルーン120が破れる心配はない。それゆえ、バルーン120の拡径時に多孔質樹脂膜130の内部に薬剤160が残存することを防止し、治療部位に対して必要な量の薬剤160を届けることができる。
【0031】
また、本実施の形態における多孔質樹脂膜130の生成方法によれば、混合液190を生成する際、薬剤160の濃度を変えることによって、治療部位に届ける薬剤160の量を容易にコントロールすることができる。また、溶媒180の量を変えることによって、治療部位に対する薬剤160の放出スピードを容易にコントロールすることができる。例えば、溶媒180の量を多くすれば、多孔質樹脂膜130の孔130aが大きくなり、バルーン120の拡径時に多孔質樹脂膜130に亀裂が入りやすくなる。それゆえ、治療部位に対する薬剤160の放出スピードを速くすることができる。一方、溶媒180の量を少なくすれば、多孔質樹脂膜130の孔130aが小さくなり、バルーン120の拡径時に多孔質樹脂膜130に亀裂が入りにくくなる。それゆえ、治療部位に対する薬剤160の放出スピードを遅くすることができる。
【0032】
なお、上記実施の形態において、
図3に示すように、多孔質樹脂膜130の外周面には保護膜200が形成されていても良い。このようにすれば、バルーンカテーテル100を治療部位に移動させる際、薬剤160が溶けてしまうことをより確実に防止することができる。保護膜200は、バルーン120の拡径時に裂けやすくする観点および、治療部位に対する薬剤160の放出スピードを速くする観点から、例えば膨張率の低い材料または多孔質樹脂材からなって良い。保護膜200が多孔質樹脂材からなる場合には、バルーンカテーテル100を治療部位に移動させる際、保護膜200から薬剤160が不必要に溶けてしまうことを防止する観点から、保護膜200には、薬剤160が混入されていない方が望ましい。
【0033】
また、上記実施の形態では、多孔質樹脂膜130に混入された薬剤160が、再狭窄を防ぐ薬剤である例について説明したが、本発明はこれに限らない。薬剤160は、例えば、鎮痙薬、抗血栓剤、抗血小板剤、抗生物質、ステロイド、抗酸化剤、抗ガン剤、抗炎症剤、化学療法剤、抗凝血剤、又はこれらの組み合わせであっても良い。
【0034】
また、上記実施の形態では、バルーンカテーテル100は、血管中の治療部位に対して薬剤160を届けるために使用される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、血管以外の管腔(例えば胃等)の治療部位に適用することも可能である。
【0035】
その他、上記実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0036】
100 バルーンカテーテル
110 カテーテル本体
120 バルーン
130 多孔質樹脂膜
130a 孔
130b 薬剤担持樹脂部
150 ガイドワイヤ
160 薬剤
170 樹脂
180 溶媒
190 混合液
200 保護膜