特許第6162933号(P6162933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6162933振動装置、光走査装置、映像投影装置および画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162933
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】振動装置、光走査装置、映像投影装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20170703BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20170703BHJP
   B41J 2/47 20060101ALI20170703BHJP
   H04N 1/113 20060101ALI20170703BHJP
   G03G 15/04 20060101ALI20170703BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   G02B26/10 104Z
   G02B26/08 E
   B41J2/47 101D
   H04N1/04 104Z
   G03G15/04 111
   G03G15/00 550
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-151789(P2012-151789)
(22)【出願日】2012年7月5日
(65)【公開番号】特開2014-16387(P2014-16387A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】若林 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 成己
(72)【発明者】
【氏名】安藤 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】新井 克美
【審査官】 堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−069676(JP,A)
【文献】 特開2010−019933(JP,A)
【文献】 特開2009−042322(JP,A)
【文献】 特開平09−329758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/08 − 26/12
H02K 33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属合金で形成されたねじり梁と、
前記ねじり梁の一部に取り付けられた振動体と、
前記振動体が振動するように当該振動体を駆動する駆動部と、
前記駆動部から発生する熱が当該ねじり梁の軸の外周に伝達することを緩和する熱緩和部材と、を備え、
前記振動体は、前記ねじり梁の一部を挟み込む第1振動体と第2振動体とで構成され、
前記熱緩和部材は、前記振動体から突出する前記ねじり梁が挿通される挿通孔を有し、前記ねじり梁のうち前記第1振動体及び前記第2振動体で挟まれた前記一部分以外の部分であって前記ねじり梁の支持端側に突出した部分に対して前記駆動部から発生する熱の伝達を緩和するように、前記挿通孔を通じて前記他部分に挿通され、かつ、前記振動体に対して接近して設置されたことを特徴とする振動装置。
【請求項2】
前記ねじり梁の全体または一部は、前記熱緩和部材によって包囲されていることを特徴とする請求項1に記載の振動装置。
【請求項3】
前記振動体は、前記ねじり梁によって片持ち支持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動装置。
【請求項4】
前記振動体は、複数の前記ねじり梁によって両持ち支持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動装置。
【請求項5】
金属合金で形成されたねじり梁と、
前記ねじり梁の一部に取り付けられた振動体と、
前記振動体に設けられたミラー面と、
前記ミラー面に光を照射する光源と、
前記振動体が振動するように当該振動体を駆動することで、前記光を前記ミラー面によって走査させる駆動部と、
前記駆動部から発生する熱が当該ねじり梁の軸の外周に伝達することを緩和する熱緩和部材と、を備え、
前記振動体は、前記ねじり梁の一部を挟み込む第1振動体と第2振動体とで構成され、
前記熱緩和部材は、前記振動体から突出する前記ねじり梁が挿通される挿通孔を有し、前記ねじり梁のうち前記第1振動体及び前記第2振動体で挟まれた前記一部分以外の部分であって前記ねじり梁の支持端側に突出した部分に対して前記駆動部から発生する熱の伝達を緩和すように、前記挿通孔を通じて前記他部分に挿通され、かつ、前記振動体に対して接近して設置されたことを特徴とする光走査装置。
【請求項6】
請求項に記載の光走査装置を備え、当該光走査装置によって走査された光によってスクリーンに映像を投影することを特徴とする映像投影装置。
【請求項7】
請求項に記載の光走査装置と、像担持体とを備え、当該光走査装置によって走査された光によって当該像担持体に画像を形成することを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動装置、光走査装置、映像投影装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
共振現象により振動する振動素子を備えた光走査装置は、少ない電力で大きな振幅の光走査を行えるといった利点を有している。特許文献1によれば、レーザー光線を反射させる磁石付きミラーと、磁石付きミラーを振動させるために交番磁界を発生するコイルとを備えた光走査装置が提案されている。これにより、大きな振動周波数が得られ、小型軽量でかつ低価格な光走査装置を提供されるという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−197333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、光走査装置は、振動素子の駆動を開始してから駆動を停止するまでの間、一定の周波数で振動素子を振動させなければならない。しかし、光走査装置が設置された環境や駆動部からの発熱などの要因により、一定の周波数で振動素子が振動しなくなってしまう。これは、振動素子の温度が変化すると、振動素子の共振周波数も変化してしまうからである。
【0005】
特許文献1では、コイルに交番電流を流すと、コイルの周りには交番電流に対応した交番磁界が発生し、この交番磁界が駆動用磁石にトルクを発生させ、駆動用磁石およびこれに接着固定されたミラーが共振振動する。よって、コイルに電流を通電した際に熱が発生してしまう。とりわけ、コイルと弾性線状部材が近接しているため、コイルから発生する熱の影響を受けやすい。その結果、弾性線状部材のバネ定数が変化してしまい、共振周波数も変動してしまう。
【0006】
そこで、本願発明は、外部環境の影響を小さくして安定的なねじり駆動を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、たとえば、
金属合金で形成されたねじり梁と、
前記ねじり梁の一部に取り付けられた振動体と、
前記振動体が振動するように当該振動体を駆動する駆動部と、
前記駆動部から発生する熱が当該ねじり梁の軸の外周に伝達することを緩和する熱緩和部材と、を備え、
前記振動体は、前記ねじり梁の一部を挟み込む第1振動体と第2振動体とで構成され、
前記熱緩和部材は、前記振動体から突出する前記ねじり梁が挿通される挿通孔を有し、前記ねじり梁のうち前記第1振動体及び前記第2振動体で挟まれた前記一部分以外の部分であって前記ねじり梁の支持端側に突出した部分に対して前記駆動部から発生する熱の伝達を緩和するように、前記挿通孔を通じて前記他部分に挿通され、かつ、前記振動体に対して接近して設置されたことを特徴とする振動装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、振動体を駆動する駆動部が発生する熱がねじり梁の軸の外周に伝達することを緩和するための熱緩和部材を設けることで、ねじり梁近傍の温度上昇を抑制することができる。これにより、振動体が静止した状態から振動した状態に移行する際に起こる共振周波数シフトが低減され、振動の安定化が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態にかかる振動装置の一例を示す斜視図
図2】本実施形態にかかる振動装置の一例を示す概略図
図3】実施形態にかかる振動部を示す概略図
図4】比較例にかかる振動装置の一例を示す概略図
図5】(A)は駆動開始直後における周波数の変動量を示す図、(B)は雰囲気温度と周波数との関係を示す図
図6】駆動部から発生する熱によるねじり梁近傍の温度変化を示す図
図7】画像形成装置の概略図
図8】映像投影装置の概略図
図9】本実施形態にかかる振動装置の一例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0010】
<振動装置の構成>
図1は、実施形態にかかる振動装置を示す斜視図である。振動装置1は、振動部10とそれを駆動する駆動部20を備えている。振動部10の振動体12と磁石31は、ねじり梁11によって片持ち支持されている。振動体12は非磁性の部材により構成されている。磁石31が発生する磁界の方向は、振動部10が静止しているときに駆動部20が発生する交番磁界の方向と概ね直交している。駆動部20のコイル25(図4(B))に振動部10の固有振動数と同じ周波数の電流が流れると、振動部10の振動体12は共振現象によって振動する。
【0011】
駆動部20のコイル25(図4(B))に電流が流れると熱が発生する。この熱がねじり梁11の軸の外周に伝達すると、固有振動数(共振周波数)が変動してしまい、振動部10が一定の周波数で振動しなくなってしまう。そこで、本実施形態では、ねじり梁11の全体または一部は熱緩和部材41により包囲されている。熱緩和部材41は、駆動部20が発生する熱がねじり梁の軸の外周に伝達することを緩和している。
【0012】
図2は、図1と異なる実施形態にかかる振動装置を示す斜視図である。熱緩和部材41は、ベース2から延びる2本の支持部材3に取り付けられている。熱緩和部材41にはねじり梁11の少なくとも一部が挿通される挿通孔24が設けられている。ねじり梁11の一端は挿通孔24に挿通されて支持されている。ねじり梁11の他端は振動体12に取り付けられている。ねじり梁11の外径と挿通孔24との内径との差を必要最小限の差とすることで、駆動部20が発生する熱の緩和効果を一層高めることができる。なお、挿通孔24にベアリングを設け、このベアリングにねじり梁11を挿通してもよい。これにより、駆動部20が発生する熱の緩和効果をさらに高めつつ、ねじり梁11を回転可能に支持できる。つまり、ねじり梁11を振動がスムーズになり、耐久性も向上する。
【0013】
図3は、振動部10の構成部品を示す図である。ねじり梁11は、金属合金などで構成されている。ねじり梁11の他端は櫂状の平面部を有している。この平面部の表面には磁石32、振動体13が取り付けられる。平面部の裏面には磁石31、振動体12が取り付けられる。このように、振動体12、13はねじり梁11の一部に取り付けられた揺動体として機能する。振動体12、13にはミラーが取り付けられるか、形成されてもよい。ここでは、磁石31、32は、ねじり梁11に取り付けられているが、振動体12、13の上に取り付けられてもよい。
【0014】
このように、本実施形態は、振動体12、13を振動させるために駆動部20が発生する熱によるねじり梁11近傍の温度変化を、熱緩和部材41で抑制することが可能となる。そのため、あえて温度変化に鈍感な材質を選択する必要が小さくなり、ねじり梁11の材質の選択範囲が広くなる。また、本実施形態では、熱緩和部材41を振動装置1に追加するだけでよく、駆動部20の構成変更は必要ない。そのため、振動装置1が大型化する懸念も小さい。
【0015】
また、本実施形態では、熱緩和部材41は、ねじり梁11の全体を包囲する構成や、挿通孔24を有しねじり梁11の外径と挿通孔24との内径との差を必要最小限の差とする構成としている。そのため、熱緩和部材41は、ねじり梁11の変位を規制する機能を兼ね備えており、複数方向からねじり梁11を制振することで耐衝撃性にも優れる効果も期待できる。
【0016】
このように、駆動部20より発生する熱がねじり梁11へ伝わる現象が抑制されるため、振動部10の駆動を安定的に制御できるようになる。
【0017】
なお、本実施形態では、振動体12、13は、ねじり梁11によって片持ち支持されているが、図9(A)〜図9(C)に示すように、2本のねじり梁11a、11bによって両持ち支持されてもよい。振動部10の表面にはミラーが形成され、裏面には磁石が取り付けられている。また、この磁石と対向するように駆動部20が配置されている。熱緩和部材41a、41bは、支持部材3a、3bに対して取り付けられている。熱緩和部材41a、41bは、駆動部20から発生する熱が2本のねじり梁11a、11bへ伝達することを妨げている。なお、熱緩和部材41a、41bの少なくとも一方に代えて、図1に示したような熱緩和部材41が採用されてもよい。つまり、ねじり梁11a、11bの一方または両方は、熱緩和部材41によって軸の周囲を包囲されていてもよい。
【0018】
<比較例の構成>
図4(A)、図4(B)は、比較例としての振動装置1’の側面図である。なお、すでに説明した個所には同一の参照符号を付与している。比較例としての振動装置1’は、本実施形態の振動装置1から熱緩和部材41を除外したものである。以下では、ねじり梁11の近傍の温度変化と共振周波数の依存関係を明らかにし、熱緩和部材41の必要性について証明する。
【0019】
振動装置1’が静止している状態で、駆動部20のコイル25に電流を流すと、磁石31、32と駆動部20との間に電磁力が発生し、振動部10が振動を開始する。駆動部20の駆動回路が電流の大きさを可変することにより振動部10の振れ角を制御する。駆動回路が電流を一定に維持することにより振れ角も一定に維持される。
【0020】
比較例について、振動部10の固有振動モードの周波数f0を2kHzとして実験した。図5(A)が示すように、振動部10が振動を開始してから最初の数分の間は、共振周波数が最大で0.5Hz前後にわたって変動することがわかった。このような現象が映像投影装置や画像形成装置に搭載された振動装置(光走査装置)に生じると、走査線にバラツキが生じる。その結果、スクリーンへ投影された映像が乱れたり、像担持体上の画像が乱れたりする。
【0021】
比較例について、25℃・45℃・60℃それぞれの温度雰囲気で実験を行い、共振周波数を検証した。図5(B)が示すように、共振周波数は、25℃で2226Hz、45℃で2221Hz、60℃で2217Hzであった。よって、比較例では−0.26Hz/℃の関係があることが確認できた。また、25℃の条件下で実験したところ、振動装置1’を静止状態から駆動を開始してから、共振周波数の変動が起こらなくなるまでで、−0.52Hzの周波数変動があることがわかった(図5(A))。この結果から、比較例のねじり梁11には2℃程度の温度上昇が起きていると推測できる(−0.52/−0.26=2.00)。
【0022】
振動装置1’が静止している状態から駆動部20のコイル25に電流を流し、振動部10の振動を開始してから数分間におけるねじり梁11の近傍の温度変化を測定した。図6はその測定結果を示している。ねじり梁11の近傍の温度は25℃から27℃へ2℃上昇が見られた。併せて、図5(A)、図5(B)に示したように共振周波数の変動結果も−0.52Hz(2℃程度の温度上昇)であることから、駆動部20の発熱が共振周波数の変動に関与していることが説明できる。したがって、本実施形態のように熱緩和部材41を設ければ、ねじり梁11の近傍の温度上昇を抑制できるため、共振周波数の変動を抑制できるといえる。
【0023】
<熱緩和部材41の効果>
固有振動モードの周波数f0は、ねじり梁11の温度上昇に伴って減少する性質を有している。駆動開始時、ねじり梁11の温度は雰囲気温度に等しくなっているが、駆動部20の発熱によりねじり梁11近傍の温度は上昇する。これにより、振動部10の駆動周波数が目標の駆動周波数fcから遠ざかるようになる。
【0024】
図1および図2に示した本実施形態のそれぞれについて、比較例に適用した条件と同様の条件で実験を行った。つまり、温度雰囲気25℃において停止状態から駆動経過数分までの間の本実施形態についての共振周波数の変化は、0.00Hzであった。よって、本実施形態では、比較例に対して、大幅に変動を改善できていることが確認できた。温度雰囲気範囲に関しては、25℃条件この限りではない。
【0025】
<振動部の材料>
ねじり梁11を構成する材料としては、たとえば加工硬化処理および時効硬化処理が施された加工硬化および時効硬化型のコバルト(Co)−ニッケル(Ni)基合金を採用できる。ここで言うCo−Ni基合金とは、CoおよびNiを含有する合金である。この合金には、たとえば、積層欠陥エネルギーを低下させるクロム(Cr)と、マトリクスの固溶強化や、偏析により転位を固着して時効および加工硬化能の向上に寄与する溶質元素としてモリブデン(Mo)、鉄(Fe)などが含まれてもよい。より具体的な合金の例としては、Co−Ni−Cr−Mo合金やCo−Ni−Fe−Cr合金などがあげられる。また、これらの合金は、ニオブ(Nb)、マンガン(Mn)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ボロン(B)およびマグネシウム(Mg)、炭素(C)などをさらに含むことができる。Nbは溶質元素として上述したMo、鉄同様の働きをする。Mnは面心立方格子相を安定化させて積層欠陥エネルギーを低下させる機能を有する。Wはマトリクスの強化と積層欠陥エネルギーの低下に寄与する。また、Tiは鋳塊組織の微細化や強度向上に寄与する。BおよびMgは熱問加工性を改善する。Cはマトリクスに固溶してCr、Mo、Nbなどと炭化物を形成し、粒界を強化する機能を発揮する。先のCo−Ni−Cr−Mo合金を用いた場合、その主要組成の重量比は、たとえば、Co:20.0〜50.0%、Ni:20.0〜45.0%、Cr/Mo:20.0〜40.0%(Cr:18〜26%、Mo:3〜11%)である。特に、Co:31.0〜37.3%、Ni:31.4〜33.4%、Cr:19.5〜20.5%、Mo:9.5〜10.5%としてもよい。
【0026】
より具体的には、溶製後に熱間鍛造や均質化熱処理などの工程を経て得られた少なくともCoおよびNiを含むマトリクスに置換型の溶質元素を含有する出発原料から、冷問圧延による加工硬化処理を経てCo−Ni−Cr−Mo合金材料を得る。この合金材料は、通常、圧延方向に集合組織が形成され、圧延方向と直交する方向に集合組織が形成されることとなる。このため、本実施形態のねじり梁11として用いる場合には、プレス加工、レーザー加工、ワイヤーカット加工などによって圧延方向と直交する方向がねじり梁11の長手方向となるように切り出す。あるいは、超塑性加工によって製品形状に加工し、これらの加工に伴って硬化処理を施して内部残留歪みを与えた後、真空中または還元雰囲気にて時効硬化処理を施すことによって所望のねじり梁11を得ることができる。この時効硬化処理は、400℃〜700℃の温度で数十分から数時間程度(たとえば550℃で2時間)行うのが最適であるが、処理時間を短縮するためにたとえば強磁場中での熱処理を用いることも有効である。
【0027】
これにより、高強度かつ振動減衰能が低く、しかも弾性限界の高い良好な振動特性を持つねじり梁11を得ることができる。このような非磁性で加工硬化および時効硬化型のCo−Ni−Cr−Mo合金の一例として、セイコーインスツル株式会社のSPRON510(商品名:SPRONは登録商標)を挙げることができる。このSPRON510は、Co:35%、Ni:32%、Cr:20%、Mo:10%の組成を有する。
【0028】
このようにして、共振周波数が尖鋭かつ振動が共振周波数に対して線対称となるような特性、すなわちQ値が高く(たとえば1000以上)かつばね特性の非線形性が非常に小さなねじり梁11を得ることができる。このようなねじり梁11は、振動変形による最大歪みが3×10−3mm程度まで大きくなっても不安定とはならず、消費電力が少ない振動装置1を実現することができる。
【0029】
なお、本実施形態では非磁性を示すCo−Ni基合金にてねじり梁11を形成した。これは振動体12、13をねじり梁11と共に揺動させる手段として、磁石31、32と交番磁界とを用いた場合に安定した駆動を実現することができるからである。したがって、素子駆動部として交番磁界以外の手段、たとえば圧電素子などを利用した場合には、ねじり梁11の材料として非磁性金属以外の一般的なばね用材料を用いることができる。より具体的には、SUS301、302、304、316、631、632などのステンレス鋼、ばね鋼(SUP)、ピアノ線(SWP)、ばね用炭素鋼のオイルテンパー線(SWO)採用することができる。この他、ばね用シリコンクロム鋼のオイルテンパー線(SWOSC)、ばね用ベリリウム銅合金(C1700、C1720)、ばね用チタン銅合金(C1990)、ばね用リン青銅(C5210)、ばね用洋白(C7701)などを採用することも可能である。
【0030】
また、振動体12、13と共にねじり梁11に取り付けられる磁石31、32は、できるだけ小型軽量であって高い保磁力を有することが好ましい。たとえば、Nd−Fe−B系やSm−Co系の希土類磁石などが磁石31、32として好適である。また、アルニコ磁石、Fe−Co−V合金磁石、Cu−Ni−Fe合金磁石、Cu−Ni−Co合金磁石、Fe−Cr−Co磁石、Pt−Co磁石、ハードフェライト(BaフェライトやSrフェライト)などの焼結磁石を採用してもよい。この他、ボンド磁石やスパッター法などで形成した薄膜磁石であってもよく、材質や製造方法または形状などで特に制限されるものはない。
【0031】
振動体12、13の材料としては、アルミナ、ジルコニア、ベリリウム、チッ化ケイ素、チッ化アルミニウム、サファイヤ、炭化ケイ素、二酸化ケイ素、ガラス、樹脂などの非磁性体を利用できる。また、これらの表面を鏡面化することによって光反射面(ミラー面)として利用できる。
【0032】
<画像形成装置>
図7は、本実施形態の振動装置1により構成された光走査装置30を備えた画像形成装置200の概略図である。画像形成装置200は、光走査装置30によって走査された光によって像担持体である感光体204上に画像を形成する。光走査装置30は、上述した振動装置1を応用したものであって、振動体12、13の少なくとも一方にミラー面が形成されている。画像形成装置200は、いわゆるレーザービームプリンター(LBP)である。なお、画像形成装置200は、プリンタ、複写機、複合機、ファクシミリ装置などであってもよい。
【0033】
レーザーなどの光源201ミラー面に光を照射する。具体的に、光源201が射出した光は射出光学系202を通り光走査装置30のミラー面で反射され、結像光学系203を通過して、像担持体である感光体204上を露光する。ミラー面が揺動することで、光の反射方向が連続的に変化する。これにより、光の走査が実現される。感光体204の両端には、ビーム検知センサ205が設けられている。ビーム検知センサ205が光を検知すると検知信号を制御回路206に出力する。制御回路206は、ビーム検知センサ205からの検知信号に応じた制御信号を光走査装置30の駆動回路207にフィードバックする。つまり、1つ目のビーム検知センサ205が検知信号を出力したタイミングから2つ目のビーム検知センサ205が検知信号を出力したタイミングまでの時間が一定となるように、駆動回路207は、コイル25に通電する電流の周波数を調整する。これにより、光走査装置30の走査周期(駆動周波数)が所望の目標値に維持されるようになる。
【0034】
本実施形態の画像形成装置200は、上述した振動装置1を応用した光走査装置30を有している。そのため、温度変動に対しても走査線のずれを抑制でき、画像の品質を維持できるようになる。また、振動装置1が製造コストやスペース効率に関して従来よりも有利であるため、光走査装置30や画像形成装置200も製造コストやスペース効率に関して従来よりも有利である。また、振動装置1の小型化によって、光走査装置30や画像形成装置200も小型化しやすくなる。
【0035】
<映像投影装置>
図8は、本実施形態の振動装置1により構成された光走査装置30を備えた映像投影装置300の概略図である。映像投影装置300は、光走査装置30によって走査された光によってスクリーン303に映像を投影する。
【0036】
光源301は、3原色(RGB)の光をミラー面にそれぞれ照射する。光走査装置30によって水平方向に走査(偏向)された光は、さらに、垂直走査装置302によって垂直方向に走査され、スクリーン303に映像として投影される。垂直走査装置302の走査速度は光走査装置30の走査速度よりも遅い。垂直走査装置302には、たとえば、非共振駆動で高精度な位置決めができるガルバノミラーが用いられてもよい。
【0037】
光走査装置30の走査角は、制御回路304から出力される制御信号に基づいて駆動回路305が制御する。また、垂直走査装置302の走査角も同様に、制御回路304から出力された制御信号に基づいて制御される。制御回路304は、入力回路306からは、投射画角や投射サイズが設定される。距離測定装置307は、映像投影装置300からスクリーン303までの距離を測定する。制御回路304は、これらの情報に基づいて映像のサイズや縦横比を決定し、決定した映像のサイズや縦横比が実現されるように、光走査装置30と垂直走査装置302の走査角を制御する。映像の投射サイズは、走査角を変更しなくても、光源301のON/OFF制御で可能である。しかし、走査角を変更することにより光源301のOFF時間を減らすことできるため、光を有効に利用することができる。
【0038】
本実施形態の映像投影装置300は、上述した振動装置1を応用した光走査装置30を有している。そのため、温度変動に対しても走査線のずれを抑制でき、投影画像の品質を維持できるようになる。また、振動装置1が製造コストやスペース効率に関して従来よりも有利であるため、映像投影装置300も製造コストやスペース効率に関して従来よりも有利である。また、振動装置1の小型化によって、映像投影装置300も小型化しやすくなる。
図1
図2
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図7
図8
図9