(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の車体にワイヤハーネスを配線する際には、ワイヤハーネスを結束する結束バンド等と一体または別体の、合成樹脂から成形されたクランプが用いられる(特許文献1〜4参照)。この種のクランプは、複数の係合片を有しており、車体に突設されたスタッドボルトへ係合片の先端部が係合することでスタッドボルトに固定される。
【0003】
ところで、このクランプをスタッドボルトへ装着する際に互いに位置がずれていると、スタッドボルトの先端が係合片の基端部に干渉することがある。すると、このスタッドボルトとの干渉時の衝撃によって係合片が破損、損傷してしまい、スタッドボルトとの十分な係合力が得られなくなることがある。
【0004】
このため、係合片におけるスタッドボルトの挿入側を覆うように、保護用の蓋部を一体成形し、係合片の基端部へのスタッドボルトの干渉を防止するクランプがある(特許文献5,6参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、係合片とともに保護用の蓋部を一体成形したクランプを製造するには、金型の抜き方向が上下方向だけでなく左右前後等の方向にも必要となり、よって、成形用の金型として上下の金型のみならず、左右や前後にも金型が必要となる。このように、係合片とともに保護用の蓋部を有するクランプの成形には、複雑形状の多数の金型を要するため、設備費及び製造費が嵩んでしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、設備費及び製造費を抑制しつつ、ボルトとの係合時の係合片の破損、損傷を抑制し、ボルトへ良好に係合することが可能なクランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係るクランプは、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1) 樹脂によって一体成形され、ボルトに装着されて固定されるクランプであって、
本体部と、
前記本体部に穿設された、前記ボルトが挿入される
、上下方向に貫通する挿入孔と、
前記
挿入孔の上下方向の途中位置の内壁面から
前記挿入孔の中心軸方向へ向かって延設された、前記挿入
孔に挿入された前記ボルトに先端部が係合する、互いに対向位置に設けられた一対の係合片と、
前記一対の係合片の基端部より上方の前記挿入孔の前記内壁面における前記一対の係合片の対向方向の両端部及び前記対向方向に直交する幅方向の両端部に対応する4隅部にそれぞれ設けられた、前記挿入孔の中心軸方向へ向かって突出する4つの保護壁部と、
を備え、
前記一対の係合片の
前記幅方向の寸法が、前記ボルトの直径よりも小さくされ、
前記幅方向に対向する一対の前記保護壁部同士の隙間の寸法が、前記ボルトの直径よりも小さくされ、
各前記保持壁部の上面は、前記一対の係合片の対向方向にお
いて前記
挿入孔の
中心軸位置に近づくほど面の位置が低くなるように傾斜している、
こと。
(2) 上記(1)の構成のクランプであって、
前記係合片は、
前記先端部から前記基端部の全域に亘って、前記基端部へ向かって
前記幅方向の寸法が
徐々に小さくされていること。
(3) 上記(1)または(2)の構成のクランプであって、
前記係合片は、前記基端部へ向かって厚みが厚くされていること。
(4) 上記(1)から(3)の構成のクランプであって、
各前記保持壁部の上面は、前記幅方向にお
いて前記
挿入孔の
中心軸位置に近づくほど面の位置が低くなるようにも傾斜していること。
【0009】
上記(1)の構成のクランプでは、係合片の幅寸法がボルトの直径よりも小さくされ、係合片の基端部におけるボルトが挿入される上方を開放して開放部とするとともに係合片の基端部における開放部の両側に肉厚の保護壁部を設けている。
したがって、ボルトの先端が、係合片の基端部側へ位置ずれした状態で近接されたとしても、ボルトが保護壁部に当接することで、係合片の基端部へボルトが接触することを防ぐことができる。これにより、係合片の基端部にボルトが干渉して係合片が破損、損傷することを防ぐことができる。
また、係合片の基端部におけるボルトが挿入される上方が開放されているので、上下一対の金型で成形することが可能な形状とされ、よって、設備費及び製造費を抑えることができる。
つまり、設備費及び製造費を抑制しつつ、ボルトとの係合時の係合片の破損、損傷を抑制し、ボルトへ良好に係合することができる。
加えて、上記(
1)の構成のクランプでは、保護壁部におけるボルトの挿入側が、挿入部へ向かってボルトの挿入方向前方側へ傾斜されているので、ボルトと位置ずれした状態であっても、ボルトが当接する保護壁部に沿ってボルトと挿入部との位置決めを行うことができ、ボルトへのクランプの装着作業の円滑化を図ることができる。
上記(2)の構成のクランプでは、係合片の幅寸法が、基端部へ向かって小さくされているので、係合片の基端部へのボルトの接触をさらに確実に防止することができる。
上記(3)の構成のクランプでは、係合片の厚みが、基端部へ向かって厚くされているので、係合片の強度を十分に確保しつつ、係合片の幅寸法を基端部へ向かって小さくすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、設備費及び製造費を抑制しつつ、ボルトとの係合時の係合片の破損、損傷を抑制し、ボルトへ良好に係合することが可能なクランプを提供できる。
【0011】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係るクランプ及びスタッドボルトの斜視図、
図2は、本実施形態に係るクランプを示す図であって、
図2(a)は上面図、
図2(b)は側面図、
図2(c)は下面図、
図2(d)は端面図、
図3(a)は、本実施形態に係るクランプの側面に沿う断面図、
図3(b)は、
図3(a)の断面図を一部拡大した拡大断面図、
図4は、本実施形態に係るクランプの端面に沿う断面図である。
【0015】
図1から
図4に示すように、本実施形態に係るクランプ11は、周囲を壁部12a,12bで囲った箱型状の本体部12を有している。このクランプ11は、樹脂によって一体成形されたもので、金型内に樹脂を射出することで成形される。このクランプ11には、その本体部12の中央に、挿入部13が穿設されている。この挿入部13には、例えば、自動車等の車体に固定されたスタッドボルト(ボルト)1が挿入される。スタッドボルト1には、円板状のフランジ部2が形成されており、このフランジ部2が車体のフレーム等へ溶接されて固定される。また、このスタッドボルト1には、ネジ部3が形成されており、これにより、スタッドボルト1の周面に凹凸形状が螺旋状に形成されている。
【0016】
図3(a)、
図3(b)及び
図4に示すように、クランプ11は、ワイヤハーネス(図示略)を結束する結束バンドの固定板部5に固定される。この固定板部5には、矩形状の穴部6が形成されている。クランプ11の本体部12には、その両側の壁部12a及び両端の壁部12bにおけるそれぞれの下端部に、外方へ突出する係止片14が形成されている。また、クランプ11の本体部12には、その両側の壁部12aにおける両端側に、外方へ突出する係止爪15が形成されている。これらの係止爪15は、弾性変形可能とされている。これにより、結束バンドの固定板部5の穴部6にクランプ11の本体部12を嵌め込むと、固定板部5の穴部6の縁部が係止片14と係止爪15とに係止され、これにより、クランプ11に結束バンドの固定板部5が固定される。なお、結束バンドは、クランプ11に一体に設けられていても良い。
【0017】
クランプ11には、その本体部12に、一対の係合片21が形成されている。これらの係合片21は、互いに対向位置に設けられ、それぞれ挿入部13側へ向かって延設されている。これらの係合片21は、挿入部13へのスタッドボルト1の挿入方向前方側へ向かって斜めに形成されており、その先端部21aには、挿入部13に挿入されたスタッドボルト1のネジ部3の凹凸に係合可能な係合爪22が形成されている。係合爪22同士の間隔はスタッドボルト1の直径よりも狭くされている。
【0018】
これらの係合片21の幅寸法は、スタッドボルト1の直径よりも小さくされている。また、係合片21は、基端部21bへ向かって幅寸法が小さくされている。
【0019】
また、係合片21の基端部21b側では、そのスタッドボルト1が挿入される上方が開放されている。つまり、クランプ11の本体部12には、係合片21の基端部21bにおけるスタッドボルト1の挿入側に、開放部23が設けられている。
【0020】
また、クランプ11には、係合片21の基端部21bにおける開放部23の両側に保護壁部24が設けられている。この保護壁部24は、本体部12の壁部12aの内側の肉厚を厚くすることで形成されている。そして、
図3(b)に示すように、互いに対向する保護壁部24同士の隙間の幅寸法W1(対向する保護壁部24の表面において、最も接近する2点間の距離)は、係合片21と同様に、スタッドボルト1の直径W2よりも小さくされている。これにより、これらの互いに対向する保護壁部24の隙間へのスタッドボルト1の入り込みが防がれ、さらに、スタッドボルト1の先端が、保護壁部24によってスタッドボルト1が正規に位置するべき挿入部13へ案内される。
【0021】
また、保護壁部24は、挿入部13に近づくにつれて肉厚となっている。つまり、保護壁部24は、挿入部13へ向かってスタッドボルト1の挿入方向前方側へ傾斜されている。また、
図3(b)に示すように、保護壁部24の高さ寸法H1(係合爪22の先端と、保護壁部24の上面のうち最も低い位置にある点との2点間の距離)は、スタッドボルト1のネジ部3における先細りしている部分の高さH2よりも大きくされている。これにより、保護壁部24によって挿入部13へ案内されているスタッドボルト1の先端が、係合片21に接触することを防ぐことができる。つまり、スタッドボルト1の先端が、保護壁部24によってスタッドボルト1が正規に位置するべき挿入部13へ案内された後、係合片21に接触することになる。
【0022】
上記のクランプ11は、下型と上型とからなる金型を用いて成形される。具体的には、金型の下型と上型とを上下に重ねて突き合わせた状態で、金型内の成形空間内に樹脂を射出する。すると、この金型の成形空間内に射出されて充填された樹脂によってクランプ11が成形される。そして、樹脂の硬化後に下型と上型とを離間させ、成形されたクランプ11を金型から脱型する。
【0023】
上記のクランプ11をスタッドボルト1に装着するには、クランプ11を把持し、このクランプ11におけるスタッドボルト1の挿入側をスタッドボルト1へ向ける。この状態で、クランプ11の挿入部13にスタッドボルト1が挿入されるように、クランプ11をスタッドボルト1へ近接させて押し込む。
【0024】
すると、
図3(a)、
図3(b)及び
図4に示すように、クランプ11の挿入部13に、その挿入側からスタッドボルト1が挿入され、係合片21の間にスタッドボルト1が入り込み、係合片21が外側へ押し出されるように弾性変形される。これにより、係合片21は、その復元力によってスタッドボルト1の周面側へ押し付けられ、先端部21aの係合爪22がスタッドボルト1のネジ部3の凹凸に係合する。これにより、クランプ11がスタッドボルト1に係合して装着される。これにより、結束バンドに結束させたワイヤハーネスが車体に配線される。
【0025】
ところで、クランプ11の挿入部13へスタッドボルト1を挿入させるべく、クランプ11を把持してスタッドボルト1へ近接させる際に、
図5及び
図6に示すように、スタッドボルト1に対してクランプ11の位置が、係合片21の基端部21b側にずれてしまうことがある。
【0026】
このような状態でクランプ11をスタッドボルト1へ押し込むと、スタッドボルト1の先端が保護壁部24に当接することとなる。したがって、スタッドボルト1の先端が係合片21の基端部21bへ接触することがなく、スタッドボルト1の係合片21の基端部21bへの干渉が防がれる。また、係合片21の幅寸法がスタッドボルト1の直径よりも小さくされていることにより、保護壁部24同士の隙間もスタッドボルト1の直径よりも狭くされ、よって、スタッドボルト1が保護壁部24に食い込むことも防がれる。
【0027】
また、保護壁部24に当接すると、スタッドボルト1の先端が、保護壁部24の挿入側の傾斜した部分によって挿入部13へ案内され、スタッドボルト1に対してクランプ11が変位される。これにより、スタッドボルト1がクランプ11の挿入部13に位置決めされることとなる。
【0028】
ここで、本実施形態のクランプ11と、保護壁部のないクランプと、を対比する。
図7に示すように、係合片21におけるスタッドボルト1の挿入側を開放しただけで、保護壁部24を設けないと、スタッドボルト1が係合片21の基端部21b側にずれた際に、スタッドボルト1の先端が、係合片21の基端部21bに接触してしまう。すると、このスタッドボルト1との干渉時の衝撃によって係合片21が破損、損傷してしまい、その後にスタッドボルト1が挿入部13へ挿入されたとしても、係合片21によるスタッドボルト1への係合力が不十分となってしまう。
【0029】
これに対して、上記実施形態に係るクランプ11では、係合片21の幅寸法がスタッドボルト1の直径よりも小さくされ、係合片21の基端部21bにおけるスタッドボルト1が挿入される上方を開放して開放部23とするとともに係合片21の基端部21bにおける開放部23の両側に保護壁部24を設けている。
【0030】
したがって、スタッドボルト1の先端が、係合片21の基端部21b側へ位置ずれした状態で近接されたとしても、スタッドボルト1が保護壁部24に当接することで、係合片21の基端部21bへのスタッドボルト1の干渉を防ぐことができる。これにより、係合片21の基端部21bにスタッドボルト1が干渉して係合片21が破損、損傷することを防ぐことができる。
【0031】
なお、係合片21におけるスタッドボルト1が挿入される上方に蓋部を一体成形することでもスタッドボルト1との干渉を防ぐことができるが、この場合、成形時に金型の抜き方向が上下方向だけでなく左右前後等の方向にも必要となる。したがって、成形用の金型として上下の金型のみならず、左右や前後にも金型が必要となり、複雑形状の多数の金型を要するため、設備費及び製造費が嵩んでしまう。
【0032】
これに対して、本実施形態のクランプ11では、係合片21の基端部21bにおけるスタッドボルト1の挿入側が開放部23によって開放されているので、上下一対の金型で成形することが可能な形状とされ、よって、設備費及び製造費を抑えることができる。
【0033】
つまり、本実施形態に係るクランプ11によれば、設備費及び製造費を抑制しつつ、スタッドボルト1との係合時の係合片21の破損、損傷を抑制し、スタッドボルト1へ良好に係合することができる。
【0034】
特に、係合片21の幅寸法が、基端部21bへ向かって小さくされているので、係合片21の基端部21bへのスタッドボルト1の接触をさらに確実に防止することができる。
【0035】
なお、係合片21の幅寸法を基端部21bへ向かって小さくすることで、基端部21bでの強度が十分に得られなくなる場合は、係合片21の厚みを、基端部21bへ向かって厚くすることが好ましい。このようにすると、係合片21の強度を十分に確保しつつ、係合片21の幅寸法を基端部21bへ向かって小さくすることができる。
【0036】
また、保護壁部24が、挿入部13に近づくにつれて肉厚となっている、すなわち、挿入部13へ向かってスタッドボルト1の挿入方向前方側へ傾斜されているので、スタッドボルト1と位置ずれした状態であっても、スタッドボルト1が当接する保護壁部24によって、スタッドボルト1と挿入部13との位置決めを行うことができ、スタッドボルト1へのクランプ11の装着作業の円滑化を図ることができる。
【0037】
ここで、
図8から
図10に示すクランプ11Aは、保護壁部24におけるスタッドボルト1の挿入側に、挿入部13へ向かってスタッドボルト1の挿入方向前方側へ傾斜する滑らかなテーパ面24aを形成したものである。このようなテーパ面24aを形成したことで、位置ずれしたスタッドボルト1がテーパ面24aに当接した際にスタッドボルト1に対してクランプ11Aを極めて円滑に変位させることができる。これにより、スタッドボルト1のクランプ11Aの挿入部13への位置決めのさらなる円滑化を図ることができ、スタッドボルト1へのクランプ11Aの装着作業のさらなる容易化を図ることができる。
【0038】
次に、参考例に係るクランプについて説明する。
【0039】
図11は、参考例に係るクランプの斜視図、
図12は、参考例に係るクランプの分解斜視図である。
【0040】
図11及び
図12に示すように、このクランプ11Bでは、係合片21におけるスタッドボルト1の挿入側が開放されている。また、このクランプ11Bでは、保護壁部24が設けられていない代わりに、本体部12におけるスタッドボルト1の挿入側に、合成樹脂製の蓋部材31が嵌め込まれている。この蓋部材31には、スタッドボルト1が挿入可能な挿入孔32が形成されており、この挿入孔32がクランプ11Bの挿入部13と連通している。また、この蓋部材31の表面は、挿入孔32へ向かってスタッドボルト1の挿入方向へ傾斜したすり鉢状の傾斜面とされている。
【0041】
そして、この蓋付きのクランプ11Bでは、蓋部材31の挿入孔32へスタッドボルト1を挿入させると、このスタッドボルト1が挿入部13に挿入されて係合片21の間に入り込み、係合片21の係合爪22がスタッドボルト1のネジ部3の凹凸に係合する。これにより、クランプ11Bがスタッドボルト1に係合して装着される。
【0042】
ここで、スタッドボルト1に対してクランプ11Bの位置が、係合片21の基端部21b側にずれていても、この蓋付きのクランプ11Bでは、スタッドボルト1の先端が、蓋部材31に当接することとなり、スタッドボルト1の係合片21の基端部21bへの干渉が防がれる。また、スタッドボルト1は蓋部材31の表面からなる傾斜面によって挿入孔32へ案内されて挿入部13へ導かれ、よって、クランプ11Bがスタッドボルト1に位置決めされ、円滑に装着される。
【0043】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。