(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような体積弾性係数を補正、算出する技術によれば、燃料の排出量を検出する流量計や、密閉容器に体積変化を与える機構などの、比較的大がかりな特段の構成を備える必要があった。
そこで、本発明は、燃料が噴射される密閉容器内の燃料の体積弾性係数の算出を、より簡易な構成で実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題達成のために、本発明は、内部空間に燃料を充填した密閉容器と、噴射口を備え、当該噴射口から前記密閉容器の内部空間に向かって燃料を噴射するインジェクションノズルと、測定子を備え、当該測定子に加わる前記密閉容器の内部空間内の燃料の圧力を検出する複数の圧力センサと、測定部とを備えた噴射計測装置を提供する。但し、前記複数の圧力センサは、各圧力センサの測定子と前記インジェクションノズルの噴射口との間の距離が相互に異なるように配置されており、前記測定部は、前記インジェクションノズルから燃料の噴射による圧力変化の、各圧力センサにおける検出時刻の時間差と、各圧力センサの測定子と前記インジェクションノズルの噴射口との間の距離の差とに応じて、前記内部空間内の音速を算出すると共に、算出した音速と前記内部空間内の燃料の密度とより、前記内部空間内の燃料の体積弾性係数を算出するものである。
【0007】
ここで、このような噴射計測装置は、前記複数の圧力センサとして、二つの圧力センサを備え、前記測定部において、前記二つの圧力センサの測定子と前記インジェクションノズルの噴射口との間の距離の差を、前記インジェクションノズルから燃料の噴射による圧力変化の前記二つの圧力センサにおける検出時刻の時間差で除算した値に基づいて、前記内部空間内の音速を算出するように構成してもよい。
また、このような噴射計測装置は、さらに噴射計測装置に、前記内部空間内の燃料の温度を検出する温度センサと、前記内部空間内の燃料の温度と密度との関係を表すマップとを設け、前記測定部において、前記マップが表す関係に従って温度センサが検出した温度より前記内部空間内の燃料の密度を算出するようにしてもよい。
また、このような噴射計測装置は、前記測定部において、算出した前記体積弾性係数と、前記圧力センサで検出した圧力の変化により、燃料の噴射量と噴射率とのうちの少なくとも一方を算出するようにしてもよい。
【0008】
また、このような噴射計測装置は、前記密閉容器の前記燃料が充填される内部空間を球形状とし、前記インジェクションノズルから、前記球形状の中心に向かって前記燃料を噴射するようにすることも好ましい。
以上のような噴射計測装置によれば、圧力センサを複数備えるだけで燃料の体積弾性係数を算出することができる。また、この複数の圧力センサまたはその一部としては、燃料の噴射量や噴射率の算出に用いる圧力センサを共用することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、燃料が噴射される密閉容器内の燃料の体積弾性係数の算出を簡易な構成で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に本実施形態に係る噴射計測装置の構成を示す。
図示するように、噴射計測装置は、燃料で満たされた密閉容器1、密閉容器1内に燃料を噴射するインジェクションノズル2、インジェクションノズル2に噴射する燃料を供給するインジェクションポンプ3、密閉容器1内の燃料の温度を検出する温度センサ4、密閉容器1内の燃料の圧力を検出する二つの圧力センサ5、密閉容器1から外部への燃料排出路を開閉する排出バルブ6、排出バルブ6に連結され排出バルブ6が開状態にある期間中、密閉容器1内の燃料の圧力が規定背圧Pbとなるまで密閉容器1内の燃料を排出するリリーフバルブ7、測定制御装置8を備えている。
【0012】
また、測定制御装置8は、測定シーケンスの制御を行うシーケンス制御部81と、測定シーケンスに従って燃料の噴射量や噴射率や体積弾性係数の測定を行う測定部82とを備えている。
以下、このような噴射計測装置の二つの圧力センサ5の配置について説明する。
図2a、b、c、d、e、fに本実施形態に係る圧力センサ5の配置の実施例を示す。
図2の各図に示すように、密閉容器1は、球形状の内部空間11と、内部空間11に連結する排出流路12とが設けられており、内部空間11、排出流路12には、燃料が満たされている。
また、密閉容器1には、インジェクションノズル2が、先端の噴射口が内部空間11の球形状の球面上に位置するように固定されており、インジェクションノズル2から燃料が内部空間11の球形状の中心に向けて噴射される。また、
図1に示すように排出流路12には、連結管13を介して上述した排出バルブ6が連結されている。
【0013】
そして、先端の測定子が内部空間11の壁面付近に配置された、2つの圧力センサ5が密閉容器1に対して固定されている。
なお、
図2の各図では図示を省略したが、先端の測定子が密閉容器1の内部空間11に突出するように上述した温度センサ4も密閉容器1に対して固定されている
さて、
図2aの実施例1、
図2bの実施例2、
図2cの実施例3、
図2dの実施例4、
図2eの実施例5、
図2fの実施例6に示すように、本実施形態では、インジェクションノズル2の先端の噴射口と圧力センサ5の先端の測定子との間の距離が、二つの圧力センサ5で異なるように、当該二つの圧力センサ5を配置する。
【0014】
すなわち、各実施例に示すように、インジェクションノズル2の先端の噴射口と圧力センサ5の先端の測定子との間の距離が一方の圧力センサではL1となり、他方の圧力センサではL2(L2>L1)となるように、二つの圧力センサ5を配置する。
なお、インジェクションノズル2の噴射口が配置されている位置を密閉容器1の内部空間11の中心の上方向として、
図2aの実施例1は、一方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心の横方向に、他方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心斜め下方向に配置したものであり、
図2bの実施例2は、一方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心の斜め上方向に、他方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心斜め下方向に配置したものであり、
図2cの実施例3は、一方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心の横方向に、他方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心の下方向に配置したものであり、
図2dの実施例4は、一方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心の斜め下方向に、他方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心の下方向に配置したものであり、
図2eの実施例5は、一方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心の斜め上方向に、他方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心の下方向に配置したものであり、
図2fの実施例5は、一方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心の斜め上方向に、他方の圧力センサ5を密閉容器1の内部空間11の中心の横方向に配置したものである。
【0015】
ここで、以下では、L=L2-L1として、この二つの圧力センサ5の測定子とインジェクションノズル2の先端の噴射口との間の距離L1とL2との差をLで表すこととする。
ここで、このように、二つの圧力センサ5を、インジェクションノズル2の噴射口との間の距離をLだけ異ならせて配置することの意義について説明する。
図3b、cに、インジェクションノズル2から燃料を噴射した場合に、インジェクションノズル2の噴射口との間の距離を異ならせて設けた4つの圧力センサで検出された圧力信号の信号波形を示す。
ここで、
図3bは、
図3aに示すように、インジェクションノズル2の噴射口が配置されている位置を密閉容器1の内部空間11の中心の上方向として、密閉容器1の内部空間11の中心の斜め45度上方向の位置に配置した圧力センサAと、密閉容器1の内部空間11の中心の横方向の位置に配置した圧力センサB、密閉容器1の内部空間11の中心の斜め45度下方向の位置に配置した圧力センサCと、密閉容器1の内部空間11の中心の下方向の位置に配置した圧力センサDの4つの圧力センサで検出した圧力信号の信号波形を表している。
【0016】
また、
図3cは、
図3bの圧力信号の変動が開始する時間区間の部分を拡大して示したものである。
また、
図3b、c共に、上から下に向かって順に、圧力センサAで検出された圧力信号、圧力センサBで検出された圧力信号、圧力センサCで検出された圧力信号、圧力センサDで検出された圧力信号を表している。
また、
図3aの圧力センサ5の配置において、インジェクションノズル2の先端の噴射口と圧力センサの先端の測定子との間の距離は、圧力センサAは27.5mm、圧力センサBは50.9mm、圧力センサCは66.5mm、圧力センサDは72.0mmである。また、圧力センサAの測定子とインジェクションノズル2の噴射口までの距離L0と圧力センサBの測定子とインジェクションノズル2の噴射口までの距離との差LBは23.4mm、距離L0と圧力センサCの測定子とインジェクションノズル2の噴射口までの距離との差LCは=39.0mm、距離L0と圧力センサDの測定子とインジェクションノズル2の噴射口までの距離との差LDは44.5 mmである。
【0017】
また、密閉容器1の内部空間11に充填した燃料の温度は30度、密度は820.0kg/m
3である。
そして、この場合、
図3cに示されるように、圧力センサAで検出された圧力信号が表す圧力が有意に上昇した時刻を時刻0とすると、圧力センサBで検出された圧力信号が表す圧力が有意に上昇した時刻tBは20μs、圧力センサCで検出された圧力信号が表す圧力が有意に上昇した時刻tCは33μs、内圧力センサDで検出された圧力信号が表す圧力が有意に上昇した時刻tDは38μsであった。
【0018】
ここで、LB/tB=1.17、LC/tC=1.18、LD/tD=1.17とほぼ一定であって、各圧力センサの圧力信号が表す圧力が有意に上昇する時刻間には、圧力センサの測定子のインジェクションノズル2の噴射口との間の距離に比例した遅延が生じている。
したがって、各圧力センサの圧力信号が表す圧力が有意に上昇した時刻は、インジェクションノズル2の燃料の噴射により噴射口で発生した圧力波が圧力センサの先端の測定子に到達した時刻と考えることができる。
したがって、
図2a、b、c、d、e、fに示したように、二つの圧力センサ5をインジェクションノズル2の噴射口との間の距離をL異ならせて配置することにより、二つの圧力センサ5の出力する圧力信号間の遅延より、密閉容器1の内部空間11内の燃料を圧力波が伝搬する速度、すなわち音の速度(音速)を求めることができるようになる。なお、ここでは遅延時間の計測に圧力センサの圧力信号を使用した場合で説明したが、後に説明する圧力信号Sを時間微分した微分圧力信号dSを使用してもよい。
【0019】
さて、
図1に戻り、インジェクションポンプ3を駆動し、インジェクションノズル2から密閉容器1内に燃料が噴射されると、測定制御部8のシーケンス制御部81は、測定部82に燃料の体積弾性係数と噴射量と噴射率の算出を行わせ、排出バルブ6の開閉の制御を行い、密閉容器1内の燃料の圧力を規定背圧Pbに復帰させる処理を一度もしくは繰返し行う。
以下、測定部82における燃料の体積弾性係数と噴射量と噴射率の算出について説明する。
図4に、測定部82の機能構成を示す。
図示するように、測定部82は、圧力信号処理部821、遅延時間算出部822、音速算出部823、体積弾性係数算出部824、密度算出部825、温度-密度マップ826、噴射量/噴射率算出部827を備えている。
今、二つの圧力センサ5のうちの一方の圧力センサ5が出力する当該一方の圧力センサ5で検出した圧力を表す圧力信号をS1、他方の圧力センサ5が出力する当該他方の圧力センサ5で検出した圧力を表す圧力信号をS2で表すこととして、圧力信号処理部821は、圧力信号S1または圧力信号S2に対して、ローパスフィルタを用いて不要広域周波数成分を除去する周波数フィルタリング処理を施した圧力信号Sを生成したり、圧力信号Sを時間微分した微分圧力信号dSを生成する処理を行う。
【0020】
ただし、圧力信号処理部821は、圧力信号S1と圧力信号S2とを平均した平均信号に対して、ローパスフィルタを用いて不要広域周波数成分を除去する周波数フィルタリング処理を施して圧力信号Sを生成したり、圧力信号Sを時間微分した微分圧力信号dSを生成する処理を行うようにしてもよい。
【0021】
次に、遅延時間算出部822は、圧力信号S1と圧力信号S2との間の、各圧力信号が表す圧力が有意に上昇した時刻の差、すなわち、インジェクションノズル2の燃料の噴射により発生した圧力波が二つの圧力センサ5の測定子に到達した時刻の差を遅延時間τとして算出する。
【0022】
なお、各圧力信号が表す圧力が有意に上昇した時刻は、圧力信号が燃料噴射前の圧力(規定背圧Pb)から所定値以上増加した時刻として求めるようにしてもよいし、圧力信号を微分した信号の値が所定値を超えた時刻として求めるようにしてもよい。
ここで、遅延時間算出部822が算出した遅延時間τは、インジェクションノズル2の先端の噴射口で燃料の噴射により発生した圧力波の二つの圧力センサ5の測定子への到達時刻の差、すなわち、インジェクションノズル2の先端の噴射口で燃料の噴射により発生した音の二つの圧力センサ5の測定子への到達時刻の差を表すので、音速算出部823は、密閉容器1の内部空間11内の音速vを、遅延時間算出部822が算出した遅延時間τと、二つの圧力センサ5の測定子とインジェクションノズル2の先端の噴射口との間の距離L1とL2との差Lと、予め設定しておいた補正係数αを用いて、
v=α・L/τ
により算出する。なお、Lは二つの圧力センサ5の配置位置に応じて定まる既知の固定値である。また、補正係数αは、予め実験的に求めた適切な値を設定しておく。
【0023】
次に、内部空間11内の燃料の圧力は、上述したリリーフバルブ7によって一定の規定背圧Pbに維持されるので、内部空間11内の燃料の密度は、内部空間11内の燃料の温度に対して定まる。ただし、各回の燃料噴射による密度増加は無視できるほど小さいものとする。そして、温度-密度マップ826には、このような内部空間11内の燃料の温度と、内部空間11内の燃料の密度との関係が予め登録されている。
【0024】
そして、密度算出部825は、温度センサ4が検出した密閉容器1の内部空間11内の燃料の温度Tより、温度-密度マップ826を参照して、当該内部空間11内の燃料の密度ρを算出する。
また、体積弾性係数算出部824は、液体を伝搬する音の音速と、液体の密度と、液体の体積弾性係数との間には、
体積弾性係数 = 密度・音速の二乗
の関係があることを利用して、音速算出部823が算出した音速vと、密度算出部825が算出した燃料密度ρより、内部空間11内の燃料の体積弾性係数kを、
k=ρ・v
2
により算出する。
【0025】
そして、噴射量/噴射率算出部827は、液体を満たした容器内に液体を噴射したときに、その噴射量に比例して容器内の液体の圧力が上昇することを利用して噴射量や噴射率を求めるZeuchの方法により、燃料の噴射量と噴射率を算出する。
すなわち、容積Q0の容器内に燃料を容積Qだけ噴射したときの容器内の燃料の圧力上昇Pzは、燃料の体積弾性係数kを用いて、
Pz =(k・Q)/Q0
と表されるので、噴射量/噴射率算出部827は、圧力信号処理部821で算出された圧力信号Sから求まる、インジェクションノズル2からの燃料噴射前後の圧力上昇Pzと、体積弾性係数算出部824が算出した体積弾性係数kと、密閉容器1の内部空間11の容積Q0を用いて、
Q=(Pz・Q0 )/k
によって、燃料の噴射量Qを算出する。
【0026】
また、時間をtとして、Qを時間微分することにより、燃料噴射率dQ/dtを、
dQ/dt=(Q0 /k)dPz /dt
により算出する。
なお、この式のdPz /dtの項は、圧力信号処理部821で算出される微分圧力信号dSの値を用いることができる。
以上、本発明の実施形態について説明した。
以上のように、本実施形態によれば、圧力センサ5を二つ備えるだけで燃料の体積弾性係数を算出することができる。また、この二つの圧力センサ5またはそのうちの一つの圧力センサ5は、燃料の噴射量や噴射率の算出に用いる圧力センサ5として共用することができる。
【0027】
よって、本実施形態によれば、燃料の体積弾性係数の算出を簡易な構成で実現することができる。
なお、本実施形態では、圧力センサ5を二つだけ備えたが、3以上の圧力センサ5を備え、各圧力センサ5で検出したインジェクションノズル2の噴射により発生した圧力波の到達時刻の差を考慮して、内部空間11内の音速vを算出するようにしてもよい。すなわち、たとえば、3以上の圧力センサ5のうちの2個の圧力センサ5の組合せの各組について音速を算出すると共に、その平均を最終的に音速vとして算出するようにしてもよい。