【実施例1】
【0023】
図1は、実施例1に係る基板を示す断面図である。
図1のように、実施例1の基板100は、シリコン(Si)基板10上に、窒化物半導体層12、炭化シリコン(SiC)層14、及びグラフェン層16がこの順に積層された構造をしている。Si基板10の上面は、(111)面である。窒化物半導体層12は、Si基板10の上面への結晶成長によって、Si基板10の上面に接して設けられている。窒化物半導体層12は、例えば六方晶の結晶構造を有する窒化物半導体層であり、(0001)面(c面)を結晶成長面としている。つまり、窒化物半導体層12の(0001)面は、Si基板10の上面である(111)面上に存在する。窒化物半導体層12は、例えば六方晶の結晶構造を有する窒化アルミニウム(4H−AlN)層である場合が好ましい。
【0024】
SiC層14は、窒化物半導体層12の上面への結晶成長によって、窒化物半導体層12の上面に接して設けられている。SiC層14は、例えば立方晶炭化シリコン(3C−SiC)層であり、(111)面を結晶成長面としている。つまり、SiC層14の(111)面は、窒化物半導体層12の上面である(0001)面上に存在する。
【0025】
グラフェン層16は、SiC層14の上面に接して設けられている。グラフェン層16は、炭素原子の六員環が連なった構造をしていて、このような構造のシートが1層又は数層に積層されて設けられている。グラフェン層16は、ラマン分光法におけるGバンドに対するDバンドの強度比(D/G)、即ち1590cm
−1付近のピーク強度Gに対する1350cm
−1付近のピーク強度Dの比(D/G)の値が0.9以下となっている。この点の詳細については後述する。
【0026】
ここで、窒化物半導体層12がAlN層である場合での、窒化物半導体層12の好ましい膜厚を調べた実験について説明する。実験には、Si基板の上面である(111)面に、有機金属気相成長(MOVPE:Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)法を用いて、六方晶の結晶構造を有するAlN層を以下の条件で結晶成長させた複数の基板を用いた。なお、Si基板の大きさは、4インチである。
原料ガス:トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH
3)
成長温度:1100℃
成長圧力:100Torr(133hPa)
膜厚 :140nm〜300nm
【0027】
上記方法で作製した複数の基板に対して、AlN層の(0002)面でのX線解析におけるロッキングカーブの半値幅を測定した。
図2は、AlN層の膜厚と半値幅との関係を示す図である。
図2の横軸はAlN層の膜厚であり、縦軸はAlN層の(0002)面でのX線解析におけるロッキングカーブの半値幅である。
図2のように、AlN層が厚くなるに従い、半値幅は小さくなっていくことが分かる。つまり、AlN層が厚くなると、AlN層の結晶性が良好になることが分かる。これは、AlN層が薄い場合では、AlN層に生じる欠陥が多いが、厚くなると、このような欠陥が減少するためであると考えられる。しかしながら、AlN層が厚くなりすぎると、AlN層にクラックが発生し易くなってしまう。
【0028】
このことから、AlN層の欠陥による結晶性の劣化を考慮すると、AlN層の膜厚は、100nm以上が好ましく、150nm以上がより好ましく、200nm以上がさらに好ましい。AlN層に発生するクラックを考慮すると、AlN層の膜厚は、700nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましい。したがって、窒化物半導体層12がAlN層である場合、窒化物半導体層12の膜厚は、100nm以上且つ700nm以下が好ましく、150nm以上且つ500nm以下がより好ましく、200nm以上且つ300nm以下がさらに好ましい。
【0029】
次に、Si基板10とSiC層14との間に窒化物半導体層12を設けることで、SiC層14に与える影響を調べた実験について説明する。実験に用いた基板(以下、実験基板1と称す)は、次の製造方法によって作製した。まず、Si基板の上面である(111)面に、MOVPE法を用いて、六方晶の結晶構造を有するAlN層を以下の条件で結晶成長させた。AlN層は、(0001)面を結晶成長面として、Si基板の上面である(111)面に形成される。なお、Si基板の大きさは、4インチである。
原料ガス:TMA、NH
3
成長温度:1100℃
成長圧力:100Torr(133hPa)
膜厚 :250nm
【0030】
AlN層の上面に、ガスソース分子線エピタキシー(GSMBE:Gas-Source Molecular Beam Epitaxy)法を用いて、SiC層を以下の条件で結晶成長させた。ここで、Si基板の融点は低いことから、SiC層を高温で成長させることが難しい。したがって、SiC層を低めの温度で成長させることになるが、この場合、SiC層は立方晶の結晶構造を取り易くなる。SiC層は、(111)面を結晶成長面として、AlN層の上面である(0001)面に形成される。
原料ガス:モノメチルシラン(MMS:CH
3SiH
3)
成長温度:800℃〜1050℃
成長圧力:2.5×10
−2Pa、4.0×10
−2Pa
膜厚 :100nm
【0031】
上記方法で作製した複数の実験基板1に対して、SiC層の(111)面でのX線解析におけるロッキングカーブの半値幅を測定した。また、比較のために、次の製造方法で作製した実験基板2に対しても、SiC層の(111)面でのX線解析におけるロッキングカーブの半値幅を測定した。実験基板2は、Si基板の上面である(111)面に、AlN層を介さずに、GSMBE法を用いて、SiC層を以下の条件で結晶成長させた。SiC層は、(111)面を結晶成長面として、Si基板の上面である(111)面に形成される。
原料ガス MMS
成長温度 800℃〜1050℃
成長圧力 2.5×10
−2Pa
膜厚 100nm
【0032】
図3は、SiC層の成長温度と半値幅との関係を示す図である。
図3の横軸はSiC層の成長温度であり、縦軸はSiC層の(111)面でのX線解析におけるロッキングカーブの半値幅である。
図3中の丸印はSiC層の成長圧力を4.0×10
−2Paとした実験基板1の測定結果であり、三角印はSiC層の成長圧力を2.5×10
−2Paとした実験基板1の測定結果であり、四角印は実験基板2の測定結果である。
図3のように、成長圧力が2.5×10
−2Pa及び4.0×10
−2Paのいずれの場合の実験基板1も、実験基板2と比べて、半値幅が小さく、SiC層の結晶性が良好である結果が得られた。これは、以下の理由によるものと考えられる。
【0033】
表1は、Si、4H−AlN、3C−SiCの格子定数、熱膨張係数、及びエネルギーバンドギャップを示す表である。なお、参考として、GaN、サファイア、4H−SiC、6H−SiCの格子定数、熱膨張係数、及びバンドギャップエネルギーについても示す。
【表1】
【0034】
表1のように、Siの格子定数は5.43Åで、3C−SiCの格子定数は4.36Åである。このため、実験基板2のように、Si基板の上面である(111)面に、立方晶の結晶構造を有するSiC層の(111)面を直接形成した場合、Si基板とSiC層との間には、約20%程度の格子歪が生じてしまう。一方、実験基板1では、Si基板の上面である(111)面に、六方晶の結晶構造を有するAlN層の(0001)面を介して、立方晶の結晶構造を有するSiC層14の(111)面を形成している。この場合、AlN層とSiC層との間の格子歪みは約1%程度と小さくなる。このようなことから、実験基板1では、実験基板2と比べて、SiC層に加わる格子歪みを低下させることができ、その結果、SiC層の結晶性が良好になったものと考えられる。
【0035】
また、表1から、AlN層の代わりにGaN層を用いた場合でも、SiC層に加わる格子歪みを抑えることができ、SiC層の結晶性を良好にできることが分かる。さらに、AlN層又はGaN層をSi基板とSiC層との間に形成することで、Si基板とSiC層との間の熱膨張係数の差を緩和させることもできる。これらのことから、Si基板とSiC層との間に窒化物半導体層を形成することで、SiC層の結晶性を良好にできることが分かる。
【0036】
上述の実験基板1と実験基板2とにおけるSiC層の成長速度について説明する。
図4は、SiC層の成長温度と成長速度との関係を示す図である。
図4の横軸の上側はSiC層の成長温度であり、横軸の下側は成長温度で1000を割った値である。
図4の縦軸はSiC層の成長速度である。
図4中の丸印はSiC層の成長圧力を4.0×10
−2Paとした実験基板1の測定結果であり、三角印はSiC層の成長圧力を2.5×10
−2Paとした実験基板1の測定結果であり、四角印は実験基板2の測定結果である。
図4のように、実験基板2では、SiC層の成長温度が900℃を超えた高温になると、成長速度の低下が生じている。一方、実験基板1では、成長圧力が2.5×10
−2Pa及び4.0×10
−2Paのいずれの場合でも、SiC層の成長温度が900℃以上の高温になっても、成長速度の低下は抑えられていることが分かる。
【0037】
上述の実験結果を踏まえ、窒化物半導体層12がAlN層である場合での、
図1に示した実施例1に係る基板100の製造方法について説明する。まず、上面が(111)面であるSi基板10を準備する。Si基板10の上面に、MOVPE法を用いて、以下に示す条件によって、六方晶の結晶構造を有するAlN層からなる窒化物半導体層12を結晶成長させる。窒化物半導体層12は、(0001)面を結晶成長面として、Si基板10の上面である(111)面に形成される。
原料ガス:TMA、NH
3
成長温度:1100℃
成長圧力:100Torr(133hPa)
膜厚 :100nm〜700nm
【0038】
窒化物半導体層12の上面に、GSMBE法を用いて、以下に示す条件によって、SiC層14を結晶成長させる。上述したように、SiC層14は、立方晶の結晶構造を取り易く、(111)面を結晶成長面として、窒化物半導体層12の上面である(0001)面に形成される。
原料ガス:MMS
成長温度:800℃〜1050℃
成長圧力:2.5×10
−2Pa〜4.0×10
−2Pa
膜厚 :50nm〜500nm
【0039】
SiC層14の上面に対して化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)処理を行う。CMP処理は、例えばSiC層14の上面のRMS粗さ(二乗平均平方根粗さ)が12nm以下となるように行うことが好ましく、10nm以下となるように行うことがより好ましく、5nm以下となるように行うことがさらに好ましい。例えば、SiC層14の上面の5μm×5μmの範囲におけるRMS粗さが12nm以下となるように行うことが好ましく、10nm以下となるように行うことがより好ましく、5nm以下となるように行うことがさらに好ましい。なお、RMS粗さとは、粗さ曲面において、その平均面の方向に基準面積だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均面から測定曲面までの偏差の二乗を平均した値の平方根をいい、JIS B 0601−2001に規定するRqに相当する。また、CMP処理に用いるスラリーは、SiCをエッチングするような材料を用いることができる。
【0040】
CMP処理を行った後、SiC層14の上面に対して、水素(H
2)を含むガスを用いて、500℃〜1000℃の温度で5分〜15分の熱処理を行う(以下、水素熱処理と称す)。H
2を含むガスは、例えば希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴンなど)及び窒素(N
2)などの不活性ガスとH
2ガスとの混合ガスを用いることができる。
【0041】
水素熱処理を行った後、SiC層14の上面に対して、高真空中で、例えば約1200℃〜1300℃の温度の熱処理を行う。これにより、SiC層14の上面において、Siが昇華してCだけが残存し、残存したCが六員環に連なった構造となるグラフェン化が生じて、グラフェン層16が形成される。このような製造工程を含んで、実施例1の基板100が形成される。
【0042】
ここで、SiC層14の上面に対してCMP処理と水素熱処理とを行うことの効果を調べた実験について説明する。実験に用いた基板100は、次の製造方法によって作製した。まず、Si基板10の上面である(111)面に、MOVPE法を用いて、以下に示す条件で、六方晶の結晶構造を有するAlN層からなる窒化物半導体層12を結晶成長させた。
原料ガス:TMA、NH
3
成長温度:1100℃
成長圧力:100Torr(133hPa)
膜厚 :150nm
【0043】
窒化物半導体層12の上面に、GSMBE法を用いて、以下に示す条件で、立方晶の結晶構造を有するSiC層14を結晶成長させた。
原料ガス:MMS
成長温度:1050℃
成長圧力:2.5×10
−2Pa
膜厚 :100nm
【0044】
ここで、SiC層14を形成した直後の、SiC層14の上面を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)によって観察した。
図5は、SiC層14を形成した直後の、SiC層14の表面状態を示す図である。
図5のように、SiC層14を形成した直後では、SiC層14の上面のラフネスが悪く、SiC層14の上面の5μm×5μmの範囲におけるRMS粗さは14nmであった。
【0045】
次に、SiC層14の上面に対してCMP処理を行った。CMP処理は、10nm〜50nmの大きさのアルカリ性のコロイダルシリカ(colloidal silicate alkaline slurry)を用い、研磨パッドへの押付け圧力を2kgとして行った。この場合の、SiCに対するエッチングメカニズムは、以下のように示される。
SiC+2NaOH+2O
2→Na
2SiO
5+CO
2+H
2O
【0046】
CMP処理を行った後の、SiC層14の上面をAFMによって観察した。
図6は、CMP処理を行った後の、SiC層14の表面状態を示す図である。
図6のように、CMP処理を行うことでSiC層14の上面のラフネスが改善され、SiC層14の上面の5μm×5μmの範囲におけるRMS粗さは4.7nmであった。
【0047】
次に、SiC層14の上面に対して水素熱処理を行った。水素熱処理は、アルゴン(Ar)ガスにH
2ガスを3%混合させた混合ガス雰囲気中で、Si基板10をセットしたチャンバー内をRF加熱方式によって600℃に加熱した状態を10分間保持することで行った。
【0048】
水素熱処理を行った後の、SiC層14の上面をAFMによって観察した。
図7は、水素熱処理を行った後の、SiC層14の表面状態を示す図である。
図7のように、水素熱処理を行うことでSiC層14の上面のラフネスがさらに改善されて、SiC層14の上面の5μm×5μmの範囲におけるRMS粗さは3.7nmであった。
【0049】
このように、SiC層14の上面のRMS粗さは、CMP処理を行うことによって改善し、水素熱処理を行うことによってさらに改善する結果となった。水素熱処理によって、SiC層14の上面のRMS粗さが改善したのは、以下の理由によるものと考えられる。
図8は、水素熱処理で想定されるメカニズムを示す斜視図である。SiC層14に対して水素熱処理を行うことで、以下のように、SiCはSiH
4とCH
4とに分解される。
SiC+4H
2→SiH
4+CH
4
図8のように、SiH
4とCH
4の一部は蒸発するが(
図8中の破線矢印)、他の一部はSiC層14の上面を流動する(
図8中の実線矢印)と考えられる。SiC層14の上面を流動するSiH
4とCH
4によって、SiC層14の上面に形成された結晶同士の間隙が埋められ、その結果、RMS粗さが改善したものと考えられる。
【0050】
CMP処理した後と、CMP処理後にさらに水素処理をした後での、SiC層14の上面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した図を
図9(a)及び
図9(b)に示す。
図9(a)は、CMP処理後のSiC層14上面のSEM像であり、
図9(b)は、CMP処理後にさらに水素熱処理をした後のSiC層14上面のSEM像である。
図9(a)及び
図9(b)のSEM像から、SiC層14の上面に対して水素熱処理を行うことで、SiC層14の上面に形成された結晶同士の間隙が埋められ、表面欠陥が減少していることが確認できる。
【0051】
SiC層14の上面に対して水素熱処理を行った後、1.0×10
−8Pa〜1.0×10
−9Paの高真空中で、Si基板10を1200℃に昇温させて数秒経過させ、その後、800℃に降温させることを3回〜5回程度繰り返して、SiC層14の上面の異物及び水分を除去する表面クリーニングを行った。その後、SiC層14の上面に対して1250℃で10分間の熱処理を行い、SiC層14の上面をグラフェン化させて、グラフェン層16を形成した。
【0052】
上記方法で作製した基板100に備わるグラフェン層16の膜質を、ラマン分光法を用いて評価した。グラフェン層16の膜質は、グラフェン層16に対するラマン分光法におけるGバンドに対するDバンドの強度比であるD/Gの値で評価することができる。つまり、ラマン分光法における1590cm
−1付近のピーク強度Gに対する1350cm
−1付近のピーク強度Dの比であるD/Gの値で評価することができる。グラフェン層16のグレインの端部分に起因するスペクトルがDバンドで、中央部分に起因するスペクトルがGバンドであることから、グレインサイズが大きくなるとD/Gの値は小さくなる。したがって、D/Gの値が小さいほど、グラフェン層16の膜質が良好であることが言える。ここで、比較のために、SiC層の上面に対してCMP処理及び水素熱処理を行わない点を除いて、上記方法と同じ方法で作製した比較例1、及び、SiC層の上面に対して水素熱処理を行わない点を除いて、上記方法と同じ方法で作製した比較例2の基板に備わるグラフェン層の膜質をラマン分光法を用いて評価した。なお、ラマン分光法による評価は、室温の状態で、2.41eVのレーザ光を用いて行った。
【0053】
図10(a)は、実施例1の基板100に備わるグラフェン層16に対するラマン分光法の測定結果であり、
図10(b)は、比較例1の基板に備わるグラフェン層に対するラマン分光法の測定結果であり、
図10(c)は、比較例2の基板に備わるグラフェン層に対するラマン分光法の測定結果である。
図10(b)のように、CMP処理及び水素熱処理を行わない比較例1では、グラフェン層のD/Gの値は1.03であった。
図10(c)のように、CMP処理のみ行い、水素熱処理を行わない比較例2では、グラフェン層のD/Gの値は0.80となり、比較例1に対して、グラフェン層の膜質が向上した。
図10(a)のように、CMP処理と水素熱処理を行った実施例1では、グラフェン層16のD/Gの値は0.24となり、グラフェン層16の膜質が格段に向上した。
【0054】
実施例1によれば、Si基板10上に形成したSiC層14の上面に対してH
2を含むガスを用いて熱処理を行い、その後に、SiC層14の上面にグラフェン層16を形成する。これにより、SiC層14の上面の平坦性を向上させることができ、その結果、良好な膜質を有するグラフェン層16を得ることができる。例えば、
図10(a)のように、ラマン分光法におけるD/Gの値が0.9以下のグラフェン層16を得ることができる。また、上記製造工程を含んで基板100を形成することで、ラマン分光法におけるD/Gの値が0.7以下のグラフェン層16を得ることも可能であり、0.5以下のグラフェン層16を得ることも可能であり、0.4以下のグラフェン層16を得ることも可能である。
【0055】
実施例1では、SiC層14の上面に対して、CMP処理を行った後に、H
2を含むガスを用いた熱処理を行う場合を例に説明したが、CMP処理を行わずに、H
2を含むガスを用いた熱処理を行う場合でもよい。しかしながら、SiC層14の平坦性をより向上させ、グラフェン層16の膜質をより良好とするために、H
2を含むガスを用いた熱処理は、CMP処理を行ったあとに行うことが好ましい。
【0056】
H
2を含むガスを用いた熱処理は、H
2ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いた熱処理を用いることが好ましく、500℃以上且つ1000℃以下の温度で行うことが好ましい。500℃よりも低い温度であると、SiH
4とCH
4がSiC層14の上面を流動せず、SiC層14の上面のRMS粗さを改善するのが難しいためである。1000℃よりも高い温度であると、SiC層14の上面に対するエッチングが優勢になってしまい、SiC層14の上面のRMA粗さの改善が難しくなるためである。したがって、このようなことを踏まえると、H
2を含むガスを用いた熱処理は、550℃以上且つ900℃以下で行うことがより好ましく、600℃以上且つ800℃以下で行うことがさらに好ましい。
【0057】
図1のように、Si基板10の上面に窒化物半導体層12を形成し、窒化物半導体層12の上面にSiC層14を形成することが好ましい。
図3で説明したように、Si基板10の上面に窒化物半導体層12を設け、SiC層14を窒化物半導体層12の上面に設けることで、SiC層14の結晶性を良好にすることができるためである。SiC層14の結晶性が良好になると、SiC層14の上面に形成されるグラフェン層16の膜質を向上させることができる。このことについて、窒化物半導体層12が設けられていない点を除いて、比較例1の基板と同じ方法で作製した比較例3の基板に備わるグラフェン層の膜質をラマン分光法を用いて評価した実験結果によって説明する。
【0058】
図11は、比較例3の基板に備わるグラフェン層に対するラマン分光法の測定結果である。
図11のように、比較例3の基板に備わるグラフェン層のD/Gの値は1.18である。
図10(b)のように、Si基板とSiC層との間にAlN層からなる窒化物半導体層を設けた比較例1の基板に備わるグラフェン層のD/Gの値は1.03であったことから、窒化物半導体層を設けることで、グラフェン層の膜質が向上することが分かる。
【0059】
また、実施例1では、SiC層14に対して熱処理を行うことで、グラフェン層16を形成しているが、これは、上述したように、熱処理によってSiが昇華されて、残存したCがグラフェン化することで形成されるものである。この場合に、Si基板10上にSiC層14を直接形成した場合では、熱処理によってSi基板10のSiがSiC層14に拡散され、その結果、グラフェン化が阻害され、良好な膜質のグラフェン層16を形成することが難しくなると考えられる。一方、実施例1のように、Si基板10とSiC層14との間に窒化物半導体層12が形成されている場合では、窒化物半導体層12によって、Si基板10のSiの拡散が抑制される。したがって、このような観点からも、Si基板10とSiC層14との間に窒化物半導体層12を設けることが好ましい。なお、Si基板10のSiの拡散を抑制する点からは、Si基板10とSiC層14との間に、例えば酸化膜層を形成することも考えられる。しかしながら、この場合、SiC層14に対する熱処理において、酸化膜層の酸素(O)がCと反応して、良好な膜質のグラフェン層16の形成が難しくなると考えられる。したがって、Si基板10とSiC層14との間の層は、窒化物半導体層12であることが好ましい。
【0060】
窒化物半導体層12は、表1に示したAlN層やGaN層以外の層、例えばAlGaN層、InN層、InGaN層、InAlGaN層等の層の場合でもよい。窒化物半導体層12は、III−V族窒化物半導体層である場合が好ましく、SiC層14に加わる格子歪みをより小さくする観点から、AlN層である場合がより好ましい。
【0061】
グラフェン層16を、SiC層14の上面に対して熱処理を行うことで形成する場合を例に示したが、その他の方法によって形成してもよい。例えば、Cを含む気体又は固体を原料としたGSMBE法又はMBE法を用い、SiC層14の上面の結晶をテンプレートとしてグラフェン層16を形成してもよい。原料としては、例えばメタン、エタン、プロパン、フラーレンなどが挙げられる。
【実施例2】
【0062】
実施例2は、実施例1の基板100を備えた電子装置の例である。
図12は、実施例2に係る電子装置を示す断面図である。実施例2では、電子装置として電界効果トランジスタの場合を例に説明する。
図12のように、実施例2の電子装置200は、実施例1の基板100に備わるグラフェン層16上に、ゲート絶縁膜20を介して、ゲート電極22が設けられている。ゲート絶縁膜20は、例えばグラフェン層16側から膜厚5nmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)層と膜厚30nmの酸化シリコン(SiO
2)層とが積層された絶縁膜である。Al
2O
3層は、例えばアルミニウム(Al)を蒸着法を用いて堆積した後、自然酸化させることで形成できる。SiO
2層は、例えばプラズマ化学気相成長(プラズマCVD:Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成できる。ゲート電極22は、例えばゲート絶縁膜20側からチタン(Ti)と金(Au)が積層された金属膜である。
【0063】
ゲート電極22の両側には、グラフェン層16上に、ソース電極24とドレイン電極26とが設けられている。ソース電極24とドレイン電極26とは、例えば膜厚15nmのニッケル(Ni)からなる金属膜である。ゲート電極22、ソース電極24、及びドレイン電極26は、例えば蒸着法を用いて形成できる。ゲート電極22下であって、ソース電極24とドレイン電極26との間のグラフェン層16にチャネル28が形成される。ソース電極24上にはソースパッド30が設けられ、ドレイン電極26上にはドレインパッド32が設けられている。ソースパッド30及びドレインパッド32は、例えば電極側からTiとAuが積層された金属膜である。ソースパッド30及びドレインパッド32も、例えば蒸着法を用いて形成できる。
【0064】
実施例2の電子装置200は、実施例1の基板100に備わるグラフェン層16上にゲート電極22が設けられ、ゲート電極22を挟んでソース電極24とドレイン電極26とが設けられた電界効果トランジスタであり、ゲート電極22下のグラフェン層16にチャネル28が形成される。実施例1の基板100に備わるグラフェン層16の膜質は良好であることから、実施例2の電子装置200は、良好な特性を得ることができる。
【0065】
次に、実施例2の電子装置200に生じるリーク電流について説明する。まず、窒化物半導体層12にAlN層を用いた場合を考え、AlN層の絶縁性を評価した実験について説明する。実験には、Si基板上に厚さ150nmのAlN層を形成した基板を用い、AlN層の上面に50μm×50μmの大きさの2つのパッドを10μm間隔で配置し、パッド間に流れる電流を測定することで、AlN層の絶縁性を評価した。
【0066】
図13は、AlN層の絶縁性を評価した実験結果である。
図13の横軸は、パッド間の電圧であり、縦軸はパッド間を流れた電流である。
図13のように、パッド間に−4V〜+4Vの電圧を印加した場合に、パッド間を流れた電流は、ほぼ測定限界以下の約1.0×10
−10A/mm〜1.0×10
−12A/mm程度であった。つまり、AlN層は、少なくとも1.0×10
12Ω/sq.以上の高抵抗であることが確認できた。
【0067】
次に、実施例2に備わる基板100において、SiC層14からSi基板10に流れる電流をシミュレーションにより計算した。シミュレーションは、厚さ1μmのSi基板10上に、厚さ120nmのAlN層からなる窒化物半導体層12と厚さ100nmのSiC層14とが順に積層されているとした。そして、Si基板10の下面とSiC層14の上面とに、50μm×50μmの大きさのパッドを設けて、パッド間に流れる電流を計算することで行った。また、比較のために、窒化物半導体層が設けられず、厚さ1μmのSi基板上に厚さ100nmのSiC層が設けられた構造の比較例4に対しても、同様な方法によって電流を計算するシミュレーションを行った。
【0068】
図14は、SiC層からSi基板に流れる電流を計算したシミュレーション結果である。
図14の横軸は、パッド間の電圧であり、縦軸はパッド間を流れた電流である。
図14中の実線は実施例2のシミュレーション結果であり、破線は比較例4のシミュレーション結果である。
【0069】
図14のように、実施例2は、比較例4と比べて、SiC層14からSi基板10へ流れる電流が低減された結果が得られた。これは、Si基板10とSiC層14との間に設けられた窒化物半導体層12は、表1のように、バンドギャップエネルギーが大きい(例えばAlN層:6.2eV、GaN層:3.39)。このために、電流経路にポテンシャル障壁が形成されることによって、SiC層14からSi基板10に流れる電流が減少したものと考えられる。
【0070】
このように、Si基板10とSiC層14との間に窒化物半導体層12を形成することで、SiC層14の上面のグラフェン層16の膜質を良好にでき、電子装置200の特性を良好にできることに加え、リーク電流を低減できる効果も得られることが分かる。
【0071】
実施例2では、実施例1の基板100を備えた電界効果トランジスタの場合を例に説明したが、その他の電子デバイス、光デバイス、センサデバイスなどの電子装置の場合でもよい。
【0072】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。