(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、分光計測やセンシングなどへのレーザ素子の応用では、安定したシングルモード動作が求められる。上記した量子カスケードレーザにおいて、例えば外部共振器(EC:External Cavity)型、あるいは分布帰還(DFB:DistributedFeed Back)型の構成によってレーザ発振モードを制御する場合、光の共振方向に位置する素子端面における反射防止(AR:Anti Reflection)膜、あるいは高反射(HR:High Reflection)膜などの反射制御膜の形成、及びそれによる反射率制御が必須となっている(反射制御膜の形成については、例えば、特許文献2、3参照)。
【0006】
例えば、波長7μm以下の光を出力する量子カスケードレーザでは、反射制御膜の材料としてAl
2O
3を用いて、比較的薄い膜厚で反射防止膜(無反射膜)を実現することができる。これに対して、波長7μm以上の長波長領域では、光の吸収が大きいために、Al
2O
3を使用することはできない。このため、このような波長の光に対しては、その波長領域で透明な材料(充分な光透過性を有する材料)を用いた低屈折率膜と、高屈折率膜とを交互に積層した多層膜によって、反射制御膜を構成することとなる。
【0007】
多層膜で反射制御膜を構成する場合、低屈折率膜の材料としては、例えばCeO
2、ZnSを用いることができる。また、高屈折率膜の材料としては、例えばGeを用いることができる。このような材料を用いて構成される反射制御多層膜では、そのトータルの膜厚は1μm以上となり、また、その膜厚はレーザの波長が長波長化するほど厚くなる。
【0008】
ここで、量子カスケードレーザの製造工程において、レーザ素子の共振方向の端面に対する反射制御膜のコーティングは、通常、複数のレーザ素子が光の共振方向に直交する方向に配列されたレーザバーの状態で行われる。反射制御膜がコーティングされたレーザバーは、その後、へき開等によって各レーザ素子(単素子)に分割され、レーザ素子毎に、サブマウントへのハンダ付け等の工程が行われる。
【0009】
反射制御膜の膜厚が充分に薄い場合は、レーザバー端面の全面にコーティングしても、反射制御膜に剥離やクラックなどの損傷を発生させることなく、容易に単素子に分割することができる。一方、長波長領域に対応する厚い反射制御膜の場合、単素子にへき開する際に、半導体母材と一緒には反射制御膜が分断されず、バリや剥離等が発生する。また、レーザ素子をサブマウント上に実装する際に、応力によって反射制御膜にクラック等が発生する。このようなレーザ素子の製造工程での反射制御膜の変質、劣化は、レーザ素子の製造歩留りや信頼性の低下の原因となる。
【0010】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、レーザ素子の製造工程における反射制御膜の変質、劣化を抑制することが可能な量子カスケードレーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明による量子カスケードレーザは、(1)半導体基板と、(2)半導体基板上に設けられ、量子井戸発光層及び注入層からなる単位積層体が多段に積層されることで、量子井戸発光層と注入層とが交互に積層されたカスケード構造を有し、量子井戸構造でのサブバンド間遷移によって
、波長7μm以上の光を生成する活性層とを備え、(3)半導体基板を含む基体部と、活性層を含んで基体部上に設けられ、活性層で生成される所定波長の光に対するレーザ共振器構造における共振方向にストライプ状に延びるリッジ部とを有して構成され、(4)共振方向において互いに対向する第1端面及び第2端面のうちで少なくとも第1端面上に、活性層の端部を含むリッジ部のリッジ端面上から基体部の基体端面上にわたって反射制御膜が形成されているとともに、(5)基体端面上において、基体端面のリッジ部側の第1辺、第1辺に隣接する第2辺、第3辺、及び第1辺に対向する第4辺について、第2辺から所定幅の領域、第3辺から所定幅の領域、及び第4辺から所定幅の領域を除く領域に、反射制御膜が形成されて
おり、反射制御膜は、低屈折率膜と、高屈折率膜とが交互に積層された多層膜であり、反射制御膜は、その周縁部において膜厚が減少する断面形状に形成されているとともに、基体端面上から基体部の上面上に、及びリッジ端面上からリッジ部の上面上、両側面上にそれぞれ回り込むように付加的に形成された付加膜部を有することを特徴とする。
【0012】
上記した量子カスケードレーザでは、半導体基板を含む基体部と、カスケード構造の活性層を含み、基体部よりも狭い幅で共振方向に延びるストライプ状に形成されたリッジ部とを有するリッジ構造によって、レーザ素子を構成している。また、活性層で生成される所定波長の光に対し、レーザ共振器構造で共振方向に位置する2つの素子端面のうちで、少なくとも一方の面(第1端面)上に、活性層の端部を含むリッジ端面上から基体端面上にわたって連続するように反射制御膜を形成している。
【0013】
さらに、上記構成で、反射制御膜のうちで基体端面上に形成される部分において、基体端面のリッジ部側の第1辺(上辺)に隣接する2辺である第2辺、第3辺(側辺)、及び第1辺に対向する1辺である第4辺(下辺)について、第2辺から所定幅w2の領域、第3辺から所定幅w3の領域、及び第4辺から所定幅w4の領域には反射制御膜が形成されておらず、それらの領域を除く領域に反射制御膜を形成する構成としている。
【0014】
このように、基体端面の2側辺及び1下辺の3辺の近傍領域に反射制御膜を形成しない構成によれば、レーザ素子の製造工程におけるバリ、剥離、クラック等の発生による反射制御膜の変質、劣化を抑制することができる。したがって、反射制御膜の劣化によって製造歩留りや信頼性を低下させることなく、反射制御膜によってレーザ発振モードが好適に制御された量子カスケードレーザを実現することが可能となる。
【0015】
ここで、上記した量子カスケードレーザにおいて、反射制御膜は、その周縁部において膜厚が減少する断面形状に形成されていることが好ましい。これにより、レーザ素子の製造工程におけるバリ、剥離、クラック等の発生による反射制御膜の変質、劣化を、さらに充分に抑制することができる。
【0016】
また、反射制御膜は、基体端面上から基体部のリッジ部側の面である上面上に、及びリッジ端面上からリッジ部の上面上、両側面上にそれぞれ回り込むように付加的に形成された付加膜部を有することが好ましい。このような構成によっても、レーザ素子の製造工程におけるバリ、剥離、クラック等の発生による反射制御膜の変質、劣化を、さらに充分に抑制することができる。
【0017】
また、反射制御膜については、具体的には、少なくとも1層のCeO
2膜を含む構成を用いることができる。CeO
2(酸化セリウム)は、長波長、中赤外領域の光に対して高い透過性を示し、かつ、素子端面に形成したときに良好な絶縁性を示す材料である。したがって、CeO
2膜を含む反射制御膜を量子カスケードレーザに適用することにより、素子端面での反射率制御を好適に実現することが可能となる。
【0018】
また、反射制御膜は、低屈折率膜と、高屈折率膜とが交互に積層された多層膜である構成としても良い。このような反射制御多層膜によれば、低屈折率膜及び高屈折率膜を用いた多層構造の具体的な設計により、素子端面での所定波長の光に対する反射率を好適に設定、制御することができる。また、反射制御膜がCeO
2膜を含む場合には、CeO
2膜は、通常、低屈折率膜として用いられる。
【0019】
また、反射制御膜は、所定波長の光に対する反射防止膜、または所定波長の光を所定の反射率で反射する反射膜であることが好ましい。このような反射防止(AR)膜、または反射膜(例えば高反射(HR)膜)を端面に形成することにより、量子カスケードレーザを、その具体的な共振器構造に応じて好適に構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の量子カスケードレーザによれば、半導体基板を含む基体部と、活性層を含むリッジ部とを有するリッジ構造とし、活性層で生成される所定波長の光に対し、共振方向に位置する2つの端面のうちで少なくとも一方の第1端面上に、活性層の端部を含むリッジ端面上から基体端面上にわたって反射制御膜を形成するとともに、基体端面上において、基体端面のリッジ部側の第1辺に隣接する第2辺、第3辺、及び第1辺に対向する第4辺について、第2辺から所定幅の領域、第3辺から所定幅の領域、及び第4辺から所定幅の領域を除く領域に反射制御膜を形成する構成とすることにより、レーザ素子の製造工程における反射制御膜の変質、劣化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面とともに本発明による量子カスケードレーザの実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0023】
図1は、本発明による量子カスケードレーザの一実施形態の構成を概略的に示す斜視図である。また、
図2は、
図1に示した量子カスケードレーザの構成を示す正面図である。また、
図3は、
図1に示した量子カスケードレーザの構成を示す側面断面図である。ここで、
図3においては、レーザ素子のリッジ構造におけるリッジ部の中心線に沿った側面断面図を示している。また、以下の各図においては、説明の便宜のため、xyz座標系を示している。この座標系において、x軸方向は、後述するレーザバーにおけるレーザ素子の配列方向であり、y軸方向は、レーザ共振器構造における共振方向であり、z軸方向は、レーザ素子本体における各半導体層の積層方向である。
【0024】
本実施形態の量子カスケードレーザ1Aは、半導体量子井戸構造におけるサブバンド間の電子遷移を利用して光を生成するモノポーラタイプのレーザ素子である。この量子カスケードレーザ1Aは、半導体基板10と、基板10上に形成された活性層15とを備えて構成されている。また、この量子カスケードレーザ1Aに対して、基板10側、及びリッジ部25側には、それぞれレーザ1Aを駆動するための電極が形成されている。ただし、
図1〜
図3においては、電極の図示を省略している。
【0025】
活性層15は、光の生成に用いられる量子井戸発光層と、発光層への電子の注入に用いられる電子注入層とが交互かつ多段に積層されたカスケード構造を有する。具体的には、量子井戸発光層及び注入層からなる半導体積層構造を1周期分の単位積層体16とし、この単位積層体16が多段に積層(
図3参照)されることで、カスケード構造を有する活性層15が構成されている。量子井戸発光層及び注入層を含む単位積層体16の積層数は適宜設定される。また、活性層15は、半導体基板10上に直接に、あるいは他の半導体層を介して形成される。なお、活性層15における量子井戸構造、及びそれによるサブバンド準位構造については、詳しくは後述する。
【0026】
量子カスケードレーザ1Aにおける半導体基板10、活性層15以外の半導体積層構造については、
図3にその具体的な一例を示している。
図3に示す構成例では、半導体基板10として、n型InP単結晶基板を用いている。そして、このInP基板10上に、基板側から順に、InP下部クラッド層50、InGaAs下部コア層51、単位積層体16が多段に積層された活性層15、InGaAs上部コア層52、InP上部クラッド層53、及びInGaAsコンタクト層54が順次積層されることで、量子カスケードレーザ1Aの素子本体における半導体積層構造が形成されている。
【0027】
本実施形態の量子カスケードレーザ1Aは、
図1に示すように、半導体基板10を含む基体部20と、活性層15を含んで基体部20上に設けられたリッジ部25とを有するリッジ構造に形成されている。リッジ部25は、活性層15で生成される所定波長の光に対するレーザ共振器構造において、光の共振方向(y軸方向)に延びるストライプ状に形成されている。また、リッジ部25は、基体部20のx軸方向の素子幅wに対し、それよりも狭い幅w0(
図2参照)で形成されている。
【0028】
図3に示す構成例では、このリッジ部25は、下部クラッド層50、下部コア層51、活性層15、上部コア層52、上部クラッド層53、及びコンタクト層54を含んで構成されている。このようなリッジ状のレーザ素子構造は、通常のエッチングプロセスで形成することができる。この場合、基体部20において、半導体基板10の上面が基体部20の上面として露出する構成となる。
【0029】
また、本実施形態のレーザ1Aでは、共振方向において互いに対向する第1端面11、及び第2端面12のうちで少なくとも一方の面である第1端面11上に、反射制御膜30が形成されている。この反射制御膜30は、
図1〜
図3に示すように、活性層15の共振方向での一方の端部を含むリッジ部25のリッジ端面115上から、基体部20の基体端面110上にわたって連続して形成されている。
【0030】
また、反射制御膜30の形成範囲については、リッジ端面115上では、その全面に反射制御膜30が形成されている。一方、基体端面110上においては、基体端面110のリッジ部25側の第1辺111、第1辺111に隣接する第2辺112、第3辺113、及び第1辺111に対向する第4辺114について、
図2に示すように、第2辺112から所定幅w2の領域、第3辺113から所定幅w3の領域、及び第4辺114から所定幅w4の領域を除く領域に、反射制御膜30が形成されている。
【0031】
また、本実施形態では、反射制御膜30は、基体端面110上の基体側膜部31、及びリッジ端面115上のリッジ側膜部32に加えて、基体端面110上から基体部20の上面(リッジ部25側の面)上に所定幅w5で回り込むように付加的に形成された付加膜部33、及びリッジ端面115上からリッジ部25の上面上、両側面上に同じく回り込むように付加的に形成された付加膜部34を有して構成されている。
【0032】
本実施形態による量子カスケードレーザ1Aの効果について説明する。
【0033】
上記実施形態の量子カスケードレーザ1Aでは、半導体基板10を含む基体部20と、カスケード構造の活性層15を含み、共振方向に延びるストライプ状に形成されたリッジ部25とを有するリッジ構造によって、レーザ素子を構成している。また、活性層15で生成される所定波長の光に対し、レーザ共振器構造で共振方向に位置する2つの素子端面11、12のうちで、少なくとも一方の第1端面11上に、活性層15の端部を含むリッジ端面115上から基体端面110上にわたって連続するように、反射制御膜30を形成している。
【0034】
さらに、上記構成で、反射制御膜30のうちで基体端面110上に形成される基体側膜部31において、基体端面110のリッジ部側の第1辺(上辺)111に隣接する2辺である第2辺(側辺)112、第3辺(側辺)113、及び第1辺111に対向する1辺である第4辺(下辺)114について、第2辺112から所定幅w2の領域、第3辺113から所定幅w3の領域、及び第4辺114から所定幅w4の領域(ただし、w2>0、w3>0、w4>0)には反射制御膜30を形成せず、それらの3辺周辺の領域を除く領域に反射制御膜30を形成する構成としている。
【0035】
このように、基体端面110の2側辺112、113、及び1下辺114の3辺の近傍領域に反射制御膜30を形成しない構成によれば、量子カスケードレーザ1Aのレーザ素子の製造工程におけるバリ、剥離、クラック等の発生による反射制御膜30の変質、劣化を抑制することができる。したがって、反射制御膜30の劣化によって製造歩留りや信頼性、素子寿命等を低下させることなく、反射制御膜30によってレーザ発振モードが好適に制御された量子カスケードレーザ1Aを実現することが可能となる。
【0036】
なお、上記した反射制御膜30の構成において、基体端面110上で反射制御膜30を形成しない領域の幅w2、w3、w4については、各辺112、113、114について同一の幅であっても良く、あるいは互いに異なる幅であっても良い。また、この領域の幅w2、w3、w4は各辺の全体に対して一定の幅である必要はなく、反射制御膜30が形成されていない領域の幅が辺に沿って変化していく構成であっても良い。一般には、上記したように、基体端面110の2側辺及び1下辺の3辺の近傍領域に反射制御膜30が形成されない構成であれば良い。
【0037】
上記構成の量子カスケードレーザ1Aにおいて、そのサイズ等の具体的な構成条件は各レーザ素子に求められる特性等に応じて適宜に設定することができる。そのような構成の一例としては、レーザ素子の共振器長がl=2〜4mm、素子のチップ幅がw=500μm、リッジ部25のストライプ幅がw0=5〜20μm、素子高さについては、基体部20の高さがh1=150μm、リッジ部25の高さがh2=10μmである。
【0038】
また、レーザ1Aの素子端面11上に形成される反射制御膜30について、基体端面110上における反射制御膜30の形成幅がw1=100〜400μm、基体端面110の下辺114の近傍で反射制御膜30が形成されない領域幅がw4=5〜50μm、基体部20の上面上、リッジ部25の上面上、両側面上に回り込む付加膜部33、34の形成幅(回り込み量)がw5=10〜100μmである。
【0039】
上記構成による量子カスケードレーザ1Aでの反射制御膜30の変質、劣化の抑制について、さらに説明する。
図4は、それぞれ上記構成の量子カスケードレーザ1Aである複数のレーザ素子が所定方向に配列されたレーザバーの構成を示す図であり、
図4(a)は斜視図、
図4(b)は半導体基板の下面側から見た底面図を示している。
【0040】
上述したように、量子カスケードレーザ1Aの製造工程では、反射制御膜30の端面11上へのコーティングは、通常、複数の量子カスケードレーザ素子が光の共振方向(y軸方向)に直交する方向(x軸方向)に配列、一体化されたレーザバー2Aの状態で行われる。反射制御膜30が形成されたレーザバー2Aは、
図4において分割ライン21を破線によって示すように、へき開等の分割手法によって個別のレーザ素子1Aに分割され、また、その後、レーザ素子1A毎に、サブマウントへの実装工程が行われる。
【0041】
このとき、例えば長波長領域のレーザ素子のように、反射制御膜30の膜厚が厚く、かつ分割ライン21上を含む端面11の全面に形成されている構成では、分割ライン21で単素子にへき開する際に、素子本体と一緒には反射制御膜30が分断されず、バリ、剥離等が発生する場合がある。また、半導体基板10の下面を実装面としてレーザ素子1Aをサブマウント上に実装する際に、例えば導電性接着剤や半田等によってチップをサブマウントに固定するが、この実装工程における熱応力等によって反射制御膜30にクラック、剥離等が発生する場合がある。
【0042】
これに対して、上記実施形態の量子カスケードレーザ1Aでは、上記したように、基体端面110の2側辺112、113、及び1下辺114の近傍領域に反射制御膜30を形成しない構成としている。このような構成によれば、レーザバー2Aでの分割ライン21に対応する2側辺112、113の近傍領域に反射制御膜30を形成しないことにより、へき開によるレーザ素子の分割の際のバリ、剥離等の発生が抑制される。また、下辺114の近傍領域に反射制御膜30を形成しないことにより、素子下面を実装面としてレーザ1Aをサブマウント上に実装する際のクラック等の発生が抑制される。これにより、レーザ素子の製造工程における反射制御膜30の変質、劣化を抑制することが可能となる。
【0043】
ここで、上記した量子カスケードレーザ1Aにおいて、反射制御膜30は、
図3、及び
図4(b)にその断面形状を示すように、反射制御膜30の周縁部において膜厚が減少する断面形状に形成されていることが好ましい。これにより、レーザ素子1Aの製造工程におけるバリ、剥離、クラック等の発生による反射制御膜の変質、劣化を、さらに充分に抑制することができる。上記実施形態のレーザ1Aでは、活性層15の端部を含む所定領域では、反射制御膜30は一定の膜厚で形成されて所望の反射特性を実現している。一方、周縁部に近づくと、反射制御膜30の膜厚が漸減して膜厚0に至る構成となっており、これにより、反射制御膜30の剥離等の発生が抑制される。
【0044】
また、反射制御膜30は、
図1に示すように、基体端面110上から基体部20のリッジ部25側の面である上面上に、及びリッジ端面115上からリッジ部25の上面上、両側面上にそれぞれ回り込むように付加的に形成された付加膜部33、34を有することが好ましい。このような付加膜部33、34を設ける構成によっても、レーザ素子1Aの製造工程におけるバリ、剥離、クラック等の発生による反射制御膜の変質、劣化を、さらに充分に抑制することができる。
【0045】
また、反射制御膜30については、具体的には、少なくとも1層のCeO
2膜を含む構成を用いることができる。CeO
2(酸化セリウム)は、長波長、中赤外領域の光に対して高い透過性を示し、かつ、素子端面に形成したときに良好な絶縁性を示す材料である。したがって、CeO
2膜を含む反射制御膜30を量子カスケードレーザ1Aに適用することにより、素子端面での反射率制御を好適に実現することが可能となる。
【0046】
また、反射制御膜30は、低屈折率膜と、高屈折率膜とが交互に積層された多層膜である構成としても良い。このような反射制御多層膜によれば、低屈折率膜及び高屈折率膜を用いた多層構造の具体的な設計により、素子端面での所定波長の光に対する反射率を好適に設定、制御することができる。また、反射制御膜30が上記のCeO
2膜を含む場合には、CeO
2膜は、通常、低屈折率膜として用いられる。
【0047】
また、反射制御膜30は、所定波長の光に対する反射防止膜、または所定波長の光を所定の反射率で反射する反射膜であることが好ましい。このような反射防止(AR)膜、または反射膜(例えば高反射(HR)膜)を端面に形成することにより、量子カスケードレーザ1Aを、その具体的な共振器構造に応じて好適に構成することができる。なお、
図1においては、レーザ素子1Aの第1、第2端面11、12のうちで、第1端面11に反射制御膜30が形成されている構成を例示したが、第1、第2端面11、12の両面にそれぞれ反射制御膜が形成されている構成としても良い。
【0048】
量子カスケードレーザ1Aにおける活性層15の構成について、その具体的な構成例とともに説明する。
図5は、
図1に示した量子カスケードレーザの活性層の構成、及び活性層におけるサブバンド準位構造の一例を示す図である。なお、
図5に示した構成例については、特許文献1(特開2011−243781号公報)を参照することができる。
【0049】
図5に示すように、活性層15に含まれる複数の単位積層体16のそれぞれは、量子井戸発光層17と、電子注入層18とによって構成されている。これらの発光層17及び注入層18は、それぞれ量子井戸層及び量子障壁層を含む所定の量子井戸構造を有して形成される。これにより、単位積層体16中においては、量子井戸構造によるエネルギー準位構造であるサブバンド準位構造が形成される。
【0050】
本実施形態による量子カスケードレーザ1Aにおいて活性層15を構成する単位積層体16は、
図5に示すように、そのサブバンド準位構造において、サブバンド間遷移による発光に関わる準位として、第1発光上準位L
up1と、第1発光上準位よりも高いエネルギーを有する第2発光上準位L
up2と、それぞれ第1発光上準位よりも低いエネルギーを有する複数の発光下準位L
lowとを有している。
【0051】
また、本実施形態において、発光層17は、n個(nは2以上の整数)の井戸層を含んで構成されるとともに、第1、第2発光上準位L
up1、L
up2について、その一方が、最も前段の注入層18a側の第1井戸層における基底準位に起因する準位であり、他方が、第1井戸層を除く井戸層(第2〜第n井戸層)における励起準位に起因する準位である構成となっている。また、第1発光上準位L
up1と第2発光上準位L
up2とのエネルギー間隔は、縦光学(LO:Longitudinal Optical)フォノンのエネルギーE
LOよりも小さく設定されている。
【0052】
ここで、LOフォノンのエネルギーE
LOは、例えば、量子井戸層の半導体材料としてInGaAsを想定した場合、E
LO=34meVである。また、LOフォノンのエネルギーE
LOは、量子井戸層をGaAsとした場合に36meV、InAsとした場合に32meVであり、上記した34meVとほぼ同程度である。
【0053】
このような準位構造において、2つの発光上準位L
up1、L
up2は、好ましくは、動作電界の条件下で、それぞれの準位のエネルギー位置が一致し、波動関数が強く結合(アンチクロッシング)するように設計される。この場合、これらの2つの上準位は、エネルギーに幅を持つ1本の発光上準位のように振舞う。このような構造では、2つの上準位の結合の大きさを変化させることにより、発光の半値幅(FWHM)を制御することが可能である。また、複数の発光下準位L
lowは、複数の準位を含む下位ミニバンドMBを構成しており、第1、第2発光上準位からの発光遷移は下位ミニバンドへ分散する。
【0054】
また、
図5の単位積層体16では、発光層17と、前段の注入層18aとの間に、注入層18aから発光層17へと注入される電子に対する注入障壁(injection barrier)層171が設けられている。また、発光層17と、注入層18との間においても、発光層17から注入層18への電子に対する抽出障壁(exit barrier)層191が必要に応じて設けられる。ただし、
図5では、発光層17と注入層18との間については、充分に波動関数が染み出す程度の薄い障壁層のみを設ける構成を例示している。
【0055】
また、本準位構造において、ミニバンドMBは、量子井戸発光層17内でのミニバンドと、注入層18内でのミニバンドとが結合して、発光層17から注入層18まで複数の準位が広がって分布するバンド構造を有している。このような構成により、ミニバンドMBは、そのうちの高エネルギー側で発光層17内にある部分が、上述した複数の発光下準位L
lowからなる下位ミニバンドとして機能するとともに、低エネルギー側で注入層18内にある部分が、発光遷移後の電子を発光下準位L
lowから後段の発光層17bへと緩和させる緩和準位L
rを含む緩和ミニバンドとして機能している。
【0056】
このように、発光下準位L
low及び緩和準位L
rに連続準位を用いることで、極めて高効率に反転分布を形成することができる。また、緩和ミニバンドを構成する複数の緩和準位L
rのうちで、注入層18内の基底準位L
gは、好ましくは、動作電界の条件下で、後段の単位積層体での発光層17bにおける第2発光上準位L
up2と強く結合するように設計される。
【0057】
このようなサブバンド準位構造において、前段の注入層18aでの緩和準位L
rからの電子e
−は、注入障壁を介して共鳴トンネル効果によって発光層17へと注入され、これによって、緩和準位L
rと結合している第2発光上準位L
up2が強く励起される。また、このとき、電子−電子散乱などの高速散乱過程を介して、第1発光上準位L
up1にも充分な電子が供給されて、2つの発光上準位L
up1、L
up2の両方に充分なキャリアが供給される。
【0058】
第1発光上準位L
up1及び第2発光上準位L
up2に注入された電子は、下位ミニバンドを構成する複数の発光下準位L
lowのそれぞれへと遷移し、このとき、上準位L
up1、L
up2と、下準位L
lowとのサブバンド準位間のエネルギー差に相当する波長の光hνが生成、放出される。また、このとき、上記したように、2つの上準位がエネルギーに幅を持つ1本の発光上準位のように振舞うため、得られる発光スペクトルは均一な広がりを有するスペクトルとなる。なお、
図5においては、図の見易さのため、上準位L
up1、L
up2から最も高エネルギー側の下準位L
lowへの発光遷移のみを示し、他の下準位への遷移については図示を省略している。
【0059】
発光下準位L
lowへと遷移した電子は、ミニバンドMBにおいて、LOフォノン散乱、電子−電子散乱などを介したミニバンド内緩和によって高速で緩和される。このように、ミニバンド内緩和を利用した発光下準位L
lowからのキャリアの引き抜きでは、容易に、2つの上準位L
up1、L
up2と複数の下準位L
lowとの間で、反転分布が形成される。また、発光下準位L
lowから注入層18内の準位L
rへと緩和された電子は、低エネルギー側の緩和準位である注入層18内の基底準位L
gを介して後段の発光層17bでの発光上準位L
up1、L
up2へとカスケード的に注入される。
【0060】
このような電子の注入、発光遷移、及び緩和を活性層15を構成する複数の単位積層体16で繰り返すことにより、活性層15においてカスケード的な光の生成が起こる。すなわち、量子井戸発光層17及び注入層18を多数交互に積層することにより、電子は積層体16をカスケード的に次々に移動するとともに、各積層体16でのサブバンド間遷移の際に光hνが生成される。また、このような光がレーザ1Aの光共振器において共振されることにより、所定波長のレーザ光が生成される。このように、広い発光スペクトルを実現可能な構成は、例えば外部共振器型、あるいは分布帰還型の構成によるシングルモード連続波長可変光源において、極めて有用である。
【0061】
図6は、活性層における1周期分の単位積層体の構造の一例を示す図表である。
図6に示す構成は、
図5に示したサブバンド準位構造を有する活性層の具体例となっている。また、本構成例における活性層15の量子井戸構造では、発振波長を10μmとして設計された例を示している。なお、このような量子カスケードレーザ1Aの半導体積層構造は、例えば、分子線エピタキシー(MBE)法、または有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法による結晶成長で形成することができる。
【0062】
本構成例における活性層15は、量子井戸発光層17及び電子注入層18を含む単位積層体16が所定周期で積層されて構成されている。また、1周期分の単位積層体16は、11個の量子井戸層161〜164、181〜187、及び11個の量子障壁層171〜174、191〜197が交互に積層された量子井戸構造として構成されている。これらの各半導体層のうち、量子井戸層は、InGaAs層によって構成されている。また、量子障壁層は、InAlAs層によって構成されている。これにより、活性層15は、InGaAs/InAlAs多重量子井戸構造によって構成されている。
【0063】
また、このような単位積層体16において、発光層17と注入層18とについては、
図6に示す積層構造において、4層の井戸層161〜164、及び障壁層171〜174からなる積層部分が、主に発光層17として機能する部分となっている。また、7層の井戸層181〜187、及び障壁層191〜197からなる積層部分が、主に注入層18として機能する部分となっている。また、発光層17の各半導体層のうちで、1段目の量子障壁層171が、前段の注入層と、発光層17との間に位置し、前段の注入層から発光層17への電子に対する注入障壁層となっている。
【0064】
なお、本構成例においては、発光層17と、注入層18との間に位置し、発光層17から注入層18への電子に対する抽出障壁層については、実効的に抽出障壁として機能している障壁層は存在していない。
図6においては、障壁層191を形式的に抽出障壁層と規定し、その前後で、発光層17と注入層18とを機能的に区分している。また、活性層15において発光層17、及び注入層18を構成する井戸層、障壁層のそれぞれの層厚は、量子力学に基づいて設計される。
【0065】
次に、量子カスケードレーザ1Aの素子端面11上に形成される反射制御膜30の具体例について説明する。以下に示す反射制御膜の構成例では、波長10μm帯の光を対象として、多層膜によって反射制御膜30を構成するとともに、多層膜の低屈折率材料としてCeO
2、ZnSを用い、高屈折率材料としてGeを用いている。CeO
2は、波長10μm帯で透明、低屈折率であって、優れた絶縁性を有し、かつ空気中で安定であるため、反射制御多層膜において素子本体と接触する第1層、及び最外層に好適な材料である。また、以下において、各材料の屈折率nについては、量子カスケードレーザ(QCL)1Aの素子本体はn=3.19、また、CeO
2はn=1.6、ZnSはn=2.2、Geはn=4.0としている。
【0066】
図7は、量子カスケードレーザ1Aに形成される反射制御膜30の第1の構成例を示す側面図である。本構成例の反射制御膜310は、波長λ=10.0μmの光に対する反射防止(AR)膜として設計されたものであり、レーザ素子1Aの端面11上に、厚さ100nmのCeO
2膜311、厚さ50nmのZnS膜312、厚さ510nmのGe膜313、厚さ1230nmのZnS膜314、及び厚さ100nmのCeO
2膜315を積層することで、多層膜による反射防止膜310が構成されている。この反射防止膜310の合計厚さは1990nm、光の反射率は0.001%である。
【0067】
図8は、量子カスケードレーザ1Aに形成される反射制御膜30の第2の構成例を示す側面図である。本構成例の反射制御膜320は、波長λ=10.0μmの光に対する高反射(HR)膜として設計されたものであり、レーザ素子1Aの端面11上に、厚さ100nmのCeO
2膜321、厚さ1250nmのZnS膜322、厚さ625nmのGe膜323、厚さ1250nmのZnS膜324、厚さ625nmのGe膜325、厚さ1250nmのZnS膜326、厚さ625nmのGe膜327、厚さ50nmのZnS膜328、及び厚さ100nmのCeO
2膜329を積層することで、多層膜による高反射膜320が構成されている。この高反射膜320の合計厚さは5875nm、光の反射率は95.979%である。
【0068】
これらの構成例に示すように、波長10μm帯などの長波長領域では、低屈折率膜及び高屈折率膜の多層膜等による反射制御膜の設計膜厚が非常に厚くなり、レーザ素子の製造工程における反射制御膜の変質、劣化が問題となる。これに対して、上記構成の量子カスケードレーザ1Aによれば、基体端面のリッジ部側の上辺を除く2側辺、及び1下辺の近傍領域に反射制御膜を形成しない構成とすることにより、反射制御膜の膜厚が厚くなった場合でも、その製造工程での変質、劣化を防止することができる。
【0069】
次に、上記構成の反射制御膜30を有する量子カスケードレーザ1Aの製造方法について説明する。
図9は、反射制御膜30の形成工程において用いられるレーザバー固定ジグ及びマスクの構成の一例を示す斜視図であり、
図9(a)はレーザバー固定ジグ60の構成を示し、
図9(b)は反射制御膜形成用の板状マスク65の構成を示している。また、
図10は、
図9に示したレーザバー固定ジグ60及びマスク65を用いた反射制御膜30の形成工程の一例を示す図であり、
図10(a)は斜視図、
図10(b)は平面断面図を示している。
【0070】
量子カスケードレーザ1Aの端面への反射制御膜30の形成は、上述したようにレーザバー2A(
図4参照)の状態で、例えば電子ビーム蒸着装置などの真空蒸着装置を用いて行われる。
図9に示すレーザバー固定ジグ60では、枠体61内において、所定本数(例えば10本程度)のレーザバー2Aを並べて配置する。このとき、レーザバー2Aは、隣接するレーザバー2Aの間にダミーバーを挟んだ状態で、反射制御膜30が形成される素子端面が図中の上方に露出するように配列され、両端の固定バー62、及び固定バネ63によって、枠体61に固定される。
【0071】
このように固定ジグ60に固定された複数のレーザバー2Aの露出端面に対し、その上方を板状マスク65で覆い、
図10(a)に示すように、マスク65を固定ジグ60の枠体61に固定する。この板状マスク65は、レーザバー2Aにおけるレーザ素子1Aの配置間隔(反射制御膜30の形成間隔)に一致した周期で形成された複数のスリット(開口部)66を有するスリット板である。このようなスリット板は、例えば、Si基板などの半導体基板を用い、通常のリソグラフィー技術及びエッチング技術によって形成することができる。
【0072】
このような固定ジグ60及び板状マスク65を用いる構成では、
図10(b)に示すように、スリットの配置間隔d1及び開口幅d2を、量子カスケードレーザ1Aの素子幅及び反射制御膜30の形成幅に合わせて適切に設定することにより、活性層15の端部等を含む所定領域に反射制御膜30が形成されるとともに、レーザ1Aでの基体端面の2側辺に対応するレーザバー2Aでの分割ライン21の近傍領域はマスクされて、反射制御膜30が形成されないこととなる。また、このような方法によって形成された反射制御膜30では、その断面形状は、膜の周縁部において膜厚が漸減する形状となる。なお、このような構成の一例として、スリットの配置間隔をd1=500μm、開口幅をd2=100〜200μmに設定することができる。
【0073】
また、レーザバー2Aにおけるレーザ1Aでの基体端面の下辺の近傍領域については、固定ジグ60にダミーバーとともにレーザバー2Aを固定する際に、高さが異なるダミーバーでレーザバー2Aを挟んで固定することで、その下辺の近傍領域に反射制御膜30が形成されない構成を実現することができる。すなわち、レーザバー2Aにおけるレーザ1Aの基体部20側に、レーザバー2Aよりも高さが高いダミーバーを配置し、リッジ部25側に、レーザバー2Aよりも低いダミーバーを配置する。
【0074】
このとき、基体部20側に配置された高いダミーバーがシャドーマスクとして作用し、反射制御膜30の素子下面への回り込みを防ぐとともに、このシャドーマスクにより、素子下辺の近傍領域に反射制御膜30が形成されないこととなる。また、リッジ部25側に低いダミーバーを配置することにより、反射制御膜30が素子上面等に回り込んだ付加膜部33、34が形成される。これによって、付加膜部33、34のアンカー効果により、素子上面からの反射制御膜30の剥離等を抑制することができる。
【0075】
なお、反射制御膜の形成に用いられる固定ジグ及びマスクについては、
図9、
図10に示す構成に限られるものではなく、具体的には様々な構成を用いることができる。
図11は、レーザバー固定ジグ及びマスクを用いた反射制御膜30の形成工程の他の例を示す図であり、
図11(a)は斜視図、
図11(b)は平面断面図を示している。
図11に示す構成では、固定ジグ60に固定された複数のレーザバー2Aの端面を覆うマスクとして、複数の棒状部材を所定間隔で配置した棒状マスク68を用いている。
【0076】
このような固定ジグ60及び棒状マスク68を用いる構成によっても、
図11(b)に示すように、棒状部材の配置間隔d3及び幅d4を適切に設定することにより、活性層15の端部等を含む所定領域に反射制御膜30が形成されるとともに、レーザ1Aでの基体端面の2側辺に対応するレーザバー2Aでの分割ライン21の近傍領域はマスクされて反射制御膜30が形成されないこととなる。なお、このような構成の一例として、棒状部材の配置間隔をd3=500μm、幅をd4=300μmに設定することができる。また、マスクの具体的な構成については、本構成例では複数の棒状部材によって棒状マスク68を構成しているが、このような構成に限らず、例えば複数の板状部材によってマスクを構成しても良い。
【0077】
本発明による量子カスケードレーザは、上記した実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記した構成例では、半導体基板としてInP基板を用い、活性層をInGaAs/InAlAsによって構成した例を示したが、量子井戸構造でのサブバンド間遷移による発光遷移が可能なものであれば、具体的には様々な構成を用いて良い。
【0078】
このような半導体材料系については、上記したInGaAs/InAlAs以外にも、例えばGaAs/AlGaAs、InAs/AlGaSb、AlGaN/GaN、Si/SiGeなど、様々な材料系を用いることが可能である。また、半導体の結晶成長方法についても、例えばMBE法、MOCVD法など、様々な方法を用いて良い。また、量子カスケードレーザの活性層における積層構造、及びレーザ素子全体としての半導体積層構造についても、上記した構造以外にも様々な構造を用いて良い。
【0079】
また、量子カスケードレーザの活性層における量子井戸構造、及びサブバンド準位構造についても、
図5はその一例を示すものであり、具体的には上記した構成に限らず、様々な構成を用いて良い。一般には、活性層15は、カスケード構造を有し、量子井戸構造でのサブバンド間遷移によって光を生成することが可能に構成されていれば良い。また、発光層17、注入層18を構成する量子井戸層、障壁層の層数、各層厚についても、発光動作に必要な具体的な準位構造等に応じて適宜に設定して良い。
【0080】
また、量子カスケードレーザの端面上に形成される反射制御膜30についても、具体的には
図1〜
図3に示した構成に限らず、様々な構成を用いて良い。例えば、上記構成例において、基体部20の上面上、及びリッジ部25の上面上、両端面上にそれぞれ回り込むように形成された付加膜部33、34については、不要であれば設けない構成としても良い。また、反射制御膜30の形成方法についても、
図9〜
図11に示した方法に限らず、具体的には様々な方法を用いることが可能である。