(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は、電力設備を構成する電源変圧器11、電力幹線12、高調波発生手段13、誘導電動機14の関係を表す等価回路を示している。高調波発生手段13は、リアクタンス回路15及び高調波電流発生器16からなる。高調波電流発生器16は、図示のように電源変圧器11の近傍に設けるか、又は電力幹線(低圧幹線とも呼ぶ)12の末端に接続された誘導電動機14の入力端子近傍に接続する。
【0011】
電源変圧器11の2次巻線の両端からは、電力幹線(100V,200V,400V等)12が導出されている。電源変圧器11の2次巻線の両端間には電源電圧V
1が発生する。また、この2次巻線側には、電源変圧器11の巻線抵抗Rt及び巻線の漏れリアクタンス+jνXtが存在し、上述したリアクタンス回路15を構成する。
【0012】
また、この電力幹線12間には、ν次(11次、17次、23次等)の高調波を含む高調波電流(連続波電流又はパルス電流)Iν(pls)の発生源となる高調波電流発生器16が接続されている。この高調波電流Iν(pls)はインピーダンスの低い電源トランス11側に流れる。
【0013】
ここで、変圧器11及びリアクタンス回路15部分の等価回路は、
図2で示すように書き換えることができる。
図2において、変圧器11の1次側漏れリアクタンス11−1は、変圧器11の励磁回路のリアクタンス11−eに対して著しく小さいので、1次側漏れリアクタンス11−1はショートされたことと同じとなる。リアクタンス回路15のインピーダンスをZν(pall)とする。このリアクタンス回路15部分には、高調波電流発生器16からの高調波電流Iν(pls)が図示方向に流れることにより、高調波電源電圧Vν(pls)が発生する。すなわち、高調波電流発生器16は、高調波電源電圧Vν(pls)を発生させるためのν次の高調波電流Iν(pls)を流す電流源となる。
【0014】
図1に戻って、電力幹線12に接続された電動機14は、固定子14−1部分、及び回転子14−2部分を有している。電動機の固定子14−1には1次巻線w1が設けられ、回転子14−2には2次巻線w2が設けられている。1次巻線w1は、電力幹線12に線路リアクタンス分+jXlを介して接続しており、自身は抵抗分r
1とリアクタンス分+jνx
1を有する。また、2次巻線w2は抵抗分r
2’及びリアクタンス分+jx
2’及び機械的負荷に相当する抵抗r(mk)=(1−Sν) r
2’/Sνを有する。
【0015】
ここで、電動機14の図示しない入力端子に、電力幹線12から概略基本波の電源電圧V
1を印加すると、電動機14の固定子14−1に設けられた1次巻線w1には、
図1で示すように、電源の基本波電圧V
1に対して90°遅れの、基本波の励磁電流I
(0)(1)が流れる。また、固定子14−1と回転子14−2との間には、この励磁電流I
(0)(1)に比例して、励磁電流I
(0)(1)と同一位相の回転磁束φ
1が発生する。そして、この回転磁束φ
1に対して90°遅れ(電源電圧V
1に対しては180°遅れ)の逆起電力E
1が発生する。また、この電圧E
1に比例して回転子14−2の2次巻線w2には電圧E
1’が誘起される。
【0016】
電動機の固定子14−1には1次巻線w1を収容するスロットが形成されており、このスロットに起因して磁気抵抗が規則的に分布する。すなわち、
図3(a)で示すように、固定子14−1には、上述したように、3相(u,v,w)の一次巻線(コイルとも呼ぶ)w1を収容するスロット21が形成されている。この固定子14−1と回転子14−2との隙間では、コイルを収容しているスロット21の直下と固定子鉄心直下では磁気抵抗(パーミアンス)に差が存在する。このため、基本波による回転磁束φ
1の他に、スロット21に起因し、その個数に対応するν次の高調波回転磁束φνが発生する。
【0017】
ここで、固定子14−1の総スロット数をZ1、電機子上の極間隔をτp、極対数をPとすると、スロット21に起因するパーミアンスの分布波kは、次式(1)で示される。
【数1】
【0018】
なお、上式(1)においてkavはパーミアンスの平均値(average)である。
【0019】
図3(b)で示す基本波回転磁束密度はB
1をB
1sin(π/τ・x)とすると、実際の回転状態における磁束密度波Bνは次式(2)となる。
【数2】
【0020】
上記式(2)から、基本波波形B
1に対して90°遅れの(Z1/P+1)次の高調波回転磁束B(Z1/P+1)、及び基本波波形B1に対して90°進みの(Z1/P−1)次の高調波回転磁束B(Z1/P−1)が発生することがわかる。磁束は磁気回路の面積に比例するのでφ
1∝B
1であり、φ(Z1/P−1)次、及びφ(Z1/P+1)次の回転磁束が発生することを意味する。
【0021】
周知のように、φ(Z1/P+1)次の磁束は、基本波回転磁束波φ
1に対して正方向、かつ90°遅れで回転する。また、φ(Z1/P−1)次の磁束は、基本波回転磁束波φ
1に対して逆方向、かつ90°進み位相で回転する。通常、電動機の1極当りのスロット数(Z1/P)は、12,18,24個が多用されている。したがって、(Z1/P−1)次としては11,17,23次の逆回転磁束密度波が、(Z1/P+1)次としては13,19,25次の正回転磁束密度波がそれぞれ発生する。
【0022】
この次数νが(Z1/P+1)次、及び(Z1/P−1)次の高調波回転磁束φν(slot)によって、固定子14-1の1次巻線w1には高調波電圧Vν(slot)が、回転子14−2の2次巻線w2には高調波電圧Vν’(slot)が生じる。このうち、(Z1/P−1)次(11,17,23次)の高調波電圧Vν’(slot)は、回転子14−2に対して制動力となる回転磁束を生じ、後述するように無駄な電力を消費することになるので、低減させる必要がある。以下、(Z1/P−1)次の高調波への対応を説明する。
【0023】
本発明では、
図1及び
図2で示したように、電力幹線に高調波電流発生器16を接続して、一定のν次の高調波電流Iν(pls)を、インピーダンスZν(pall)を有するリアクタンス回路15に流している。このことにより、高調波電圧Vν(pls)=Zν(pall)・Iν(pls)を発生させ、増幅する。この高調波電圧Vν(pls)により、前述したスロット21に起因するν次の高調波回転磁束φν(slot)に対して逆位相となる高調波回転磁束φν(pls)を発生させる。このことにより高調波回転磁束φν(slot)を減少させ、高調波回転磁束φν(slot)により発生する高調波電圧Vν(slot),Vν’(slot)を減少させる。その結果、高調波電圧Vν’(slot)により無駄に消費されている電力を低減させることができる。
【0024】
以下、上述した関係を、ベクトル図、
図4を用いて説明する。
【0025】
図4は、相数mが3、1極1相当たりのコイル数qが3で、1極対あたりのスロット数2mq、すなわち、前述した(Z1/P)が18個の電動機における17次高調波について示している。
【0026】
電動機14の入力端子に電源電圧V
1を印加すると、固定子14−1と回転子14-2との間には、電源の基本波電圧V
1に対して90°遅れの回転磁束φ
1が発生し、固定子14−1の1次巻線w1には、この回転磁束φ
1に対して90°遅れ(電源電圧V
1に対しては180°遅れ)の逆起電力E
1が発生する。
【0027】
固定子14−1と回転子14−2との隙間では、コイルを収容しているスロット21の数に対応するν次の高調波回転磁束φν(slot)が発生する。この高調波回転磁束φν(slot)は、基本波による回転磁束φ
1に対して90°進みである。また、この高調波回転磁束φν(slot)により1次巻線w1には高調波電圧Vν(slot)が発生する。この高調波電圧Vν(slot)は高調波回転磁束φν(slot) に対して90°進みである。
【0028】
これに対し、
図1及び
図2で示した高調波電流発生器16から、電源電圧V
1に対して同相のν次の高調波電流Iν(pls)を、電源変圧器11の漏れリアクタンス+jνXtを含むリアクタンス回路15に図示方向で流す。高調波電流Iν(pls)は、上述したリアクタンス回路15に流れることで、そのインピーダンスZν(pall)により、リアクタンス回路15両端に高調波電流による電圧降下が生じる。その高調波電圧をVν(pls)とすると、Vν(pls)=−Zν(pall)・Iν(pls)となる。リアクタンス回路15のインピーダンスZν(pall)は、前述のように、電源変圧器11の漏れリアクタンス+jνXtを含むので、I
17(pls)が流れることにより生じる高調波電圧Vν(pls)は、
図4で示すように、電源電圧V
1に対して90°遅れの位相となる。
【0029】
ここで、高調波電流発生器16が低圧幹線の末端に接続された場合は、リアクタンス回路
15のリアクタンスは、電源変圧器11のリアクタンスXtと、低圧幹線12のリアクタンスXlとの合算分となり、インピーダンスZν(pall)が求まる。
【0030】
この高調波電圧Vν(pls)が電動機14の1次巻線w1に印加されると、
図1で示したように、ν次の励磁電流I
(0)(ν,pls)が1次巻線w1に流れる。この励磁電流I
(0)(ν,pls)は、Vν(pls)に対して90°遅れであるので、励磁電流I
(0)(ν,pls)と同相の高周波回転磁束φν(pls)が
図4で示すように発生する。すなわち、高調波電流発生器16に基づく高周波回転磁束φν(pls)は、スロットに起因する高周波回転磁束φν(slot)との位相角θν(slot,pls) が180°で、完全に逆位相となる。したがって、スロットに起因する高周波回転磁束φν(slot)は減少し、この高周波回転磁束φν(slot)によって発生する高調波電圧Vν(slot),及びこれによって2次巻線w2に誘起される高調波電圧V’ν(slot)が減少する。その結果、高調波電圧Vν’(slot)により無駄に消費されている電力を低減させることができる。
【0031】
ここで、電力幹線12から給電される電動機14は、上述した1極対あたりのスロット数、すなわち、(Z1/P)が18個の電動機のみではなく、同じ電力幹線12に(Z1/P)が12個、或いは24個の電動機も混在して用いられることが多い。すなわち、前述のように電動機14には、1極当りのスロット数(Z1/P)は12,18,24個が多用されている。そこで、電力幹線12に接続する高調波電流発生器16には、電動機14において逆回転トルクを発生する11次、17次、23次が混合した高調波電流を流すものを用いる。
【0032】
この高調波電流発生器16が流す高調波電流Iν(pls)は、連続波電流又はパルス電流とする。先ず、この高調波電流Iν(pls)の電流波形が、基本電源電圧V
1に対して11次、17次、23次の連続波電流を発生する高調波電流発生器16について
図5を用いて説明する。なお、
図5は1相分を示している。実際の電力幹線12は3相系統であるので、
図5で示した1相分の回路を、3相を構成する各相u,v,wの入力電圧に対応するべく3回路設ける。
【0033】
高調波電流発生器16は、
図5で示すように、コンパレータ51、バンドパスフィルタ(以下、BPF)52、位相回路53、可変抵抗54、合成器55、及び出力回路56により構成される。
【0034】
コンパレータ51の入力側には、各相(例えばu相)からの入力電圧、すなわち、基本電源電圧V
1が入力される。このコンパレータ51により、基本電源電圧V
1と同相の矩形波が得られ、出力される。このコンパレータ51の出力側には、11次、17次、23次のBPF521,522,523がそれぞれ接続されている。これらBPF521,522,523は、上述した矩形波電圧から11次、17次、23次の高調波電圧を得る。
【0035】
BPF521,522,523の出力側には対応する位相回路531,532,533が接続されており、これらにより、11次、17次、23次高調波電圧の位相を基本電源電圧V
1の位相に対して同相となるように調整する。さらに、可変抵抗541,542,543により電圧成分含有率を調整後、合成器55に入力する。
【0036】
合成器55の出力側には、幹線12の1相分を構成する線u,v間に設けられた出力回路56が接続されている。出力回路56は、ダイオード及び抵抗を介して線u,v間に逆並列に接続された最終段出力素子としての電力トランジスタ又はMOS型FET(図ではMOS型FETを示している)561、562を有する。そして、それらのベース又はゲートには、上述した合成器55の出力側が、それぞれバイアス回路563,564を介して接続されている。このように電力トランジスタ又はMOS型FET561、562のベース又はゲートにそれぞれバイアス回路563,564を設けたことによりアナログ増幅器として機能する。
【0037】
高調波電流発生器16は上述のように構成されているので、幹線12の線間(
図5ではu,v間)には、基本電源電圧V
1に対して同相の11次、17次、23次を含む高調波電流Iν(pls)が流れる
なお、高調波電流発生器16の回路構成としては、
図6で示すように構成してもよい。すなわち、
図5で示した回路にトランス565を加え、このトランス565を介して、各最終段出力素子561、562に直流電源+V
OO,−V
OOを接続する。このように構成すると、基本電源電圧V
1が負の半サイクルにおいても、直流電源電圧が印加されることにより高調波電流を流すことが可能となる。
【0038】
次に、高調波電流発生器16が流す高調波電流Iν(pls)が矩形のパルス波形の場合について説明する。この場合、
図8で示すように、基本電源電圧V
1のピーク位相を基準として、対称、かつ幅τの矩形波パルスを流すように構成する。このとき、含有する各高調波電流成分Iν(pls)は、基本電源電圧V
1と同相である。このようなパルス電流の場合、最大23次の成分を含有するように、パルスデューティー:τ/Tは、1/23以下、好ましくは1/30以下とする。なお、Tは基本波の周期である。
【0039】
この場合の高調波電流発生器16は、
図7で示すように、位相進み回路71、コンパレータ72、微分回路73、及び出力回路74により構成される。
【0040】
位相進み回路71は、図示しないが、OPアンプを使用した積分回路により構成され、並列コンデンサと位相調節用の可変抵抗器を有する。この位相進み回路71の入力点aには、各相(例えばu相)からの入力電圧、すなわち、基本波電源電圧V
1が入力される(
図9の波形a)。位相進み回路71は、上述した抵抗器を調節することにより、出力点bには、基本電源電圧V
1に対して位相が90°−τ/2進んだ正弦波(
図9の波形b)が出力される。
【0041】
この正弦波はコンパレータ72に入力され、矩形波に成形される。したがって、その出力端cには、基本電源電圧V
1の零点に対して位相が90°−τ/2進み点にて立ち上がり立ち下がる矩形波(
図9の波形c)が得られる。
【0042】
この矩形波は微分回路に入力され微分される。微分回路73は、周知のようにコンデンサ及び時定数調節用の可変抵抗器とで構成されており、上述した矩形波が入力されたことにより、その出力点dには微分出力の指数関数波+Vg,−Vg(
図9の波形d)が得られる。
【0043】
この微分出力+Vg,−Vgは、出力回路74に入力される。出力回路74は、ダイオード及び抵抗を介して線u,v間に逆並列に接続された最終段出力素子としての電力トランジスタ又はMOS型FET741、742により構成され、それらのベース又はゲートには、微分回路73の出力側がそれぞれ接続され、上述した微分出力+Vg,−Vgが印加される。
【0044】
ここで、最終段出力素子741、742のベース又はゲートにはバイアス回路を設けてはいないので、最終段出力素子741、742に流れる出力電流(
図9の波形e)は矩形パルス+Id,−Idとなり、
図8で説明したように、基本電源電圧V
1のピーク位相を基準として、対称、かつ幅τの矩形波パルスとなる。この矩形波パルス+Id,−Idのパルス幅τは、微分回路73の時定数を調節することにより任意の幅に調節できる。
【0045】
次に、
図1で説明した電動機14の2次巻線w2における電力について詳細に説明する。先ず、すべりについて説明する。
【0046】
固定子14−1と回転子14−2との隙間に発生する回転磁束のうち、前述したように11次、17次、23次の成分は、基本波回転磁束に対して逆方向に回転する。これに対し、13次、19次、25次の成分は正方向に回転する。ここで、固定子上のν次高調波の回転磁束の速度をNνとする。回転子は概略基本波の同期速度N
0で回転する。すべりSνは次式(3)で求められる。
【0047】
Sν=(Nν−N
0)/Nν ・・・(3)
11次、17次、23次の逆回転磁束の場合、式(3)のNνに−1/11,−1/17,−1/23を代入すると、Sνの値として、+12,+18,+24が得られる。この場合、電動機14は、高調波成分に対して制動機として運転する。すなわち、2次巻線w2に流入したこの次数の高調波電力は負荷の軸に出力されず、2次巻線w2で消費される。
【0048】
13次、19次、25次の正回転磁束の場合は、式(3)から、Sνは−12,−18,−24と負の値となる。この場合、2次巻線w2に流入したこの次数の高調波電力は、同様に負荷の軸に出力されず、電源側に回生され、主として電動機14の1次巻線w1、
電力幹線
12の抵抗により消費される。
【0049】
次に、電動機14の2次巻線w2における基本波による電力についてみる。
図10は、
図1で示した電動機14の回転子14−2部分について、2次巻線w2に基本波電圧E
1’が誘起された場合の等価回路である。
【0050】
図10から、基本波の2次入力電力P
1’、すべりをS
1とすると、2次入力電力P
1’は次式(4)で求められる。
【数3】
【0051】
ここで、5.5kwの電動機の一例として、r
2=0.3Ω、x
2=0.3Ω,S1=0.04とすると、式(4)から、P
1’は次式(5)となる。
【0052】
P
1’=0.0177(E
1’)
2r
2 ・・・(5)
次に、逆回転磁束を発生する高調波が印加された場合の回転子14−2における高調波電圧含有率と消費電力についてみる。
【0053】
図11は、
図1で示した電動機14の回転子14−2部分について、高調波電圧Vν’(slot)が2次巻線w2に誘起された場合の2次巻線w2の等価回路を示している。2次巻線w2における基本波電圧E
1’に対するν次の高調波電圧Vν’の含有率をKνとすると、KνはKν=Vν’/E
1’で示される。2次巻線w2への高調波入力電力をPν’とすると、
図11により次式(6)が得られる。
【数4】
【0054】
ここで、ν=17とすると、前述した式(3)からSν=+18となる。5.5kwの電動機では、前述のようにr
2=0.3Ω、x
2=0.3Ωなので、これらを式(6)に代入すると17次の高調波入力電力P
17’は次式(7)となる。
【0055】
P
17’=11.1Kν
2(E
1’)
2r
2’ ・・・(7)
上記式(7)にKν=1,26%を代入し、前述の式(5)との関係からP
17’を求めると、P
17’=0.1P
1’となる。すなわち、17次高調波電圧の含有率が1.26%であると、基本波の10%相当が2次巻線w2の抵抗によって消費される。
【0056】
そこで、この実施の形態では、
図4で説明したように、スロットに起因して生じるν次の高調波回転磁束φν(slot)に対して、高調波電流発生器16からの高調波電流Iν(pls)によりリアクタンス回路15に生じたν次の高周波電圧Vν(pls)に基づき逆位相となる高調波回転磁束φν(pls)を発生させる。そして、この逆位相となる高調波回転磁束φν(pls)により、スロットに起因して生じるν次の高調波回転磁束φν(slot)を低減させている。この高調波回転磁束φν(slot)が低減することにより、高調波電圧Vν(slot),及びこれによって2次巻線w2に誘起される高調波電圧Vν’ (slot)が減少する。その結果、高調波電圧Vν’(slot)により2次巻線w2で無駄に消費されている電力を低減させることができる。
【0057】
ここで、前述のように、2次巻線に流入する高調波電力のうち、11次、17次、23次の高調波電力は2次巻線w2で消費され、13次、19次、25次の高調波電力は、電源側に回生され、電動機14の1次巻線w1、
電力幹線
12の抵抗により消費されることを説明した。したがって、通常はこの高調波電力分と基本波の機械軸出力電力分とが加算された電力が、電動機14の入力電力である。
【0058】
上述した実施の形態では、
図1で説明した高調波発生手段13を、電源変圧器11から導出された電力幹線12に設けて省電力設備を構成して、高調波電力分を減少させたので、この電力幹線12から給電される電動機14への入力電力が減少する。
【0059】
図
12は電動機の回転速度又はすべりに対する電動機14の2次巻線w2への入力電力の関係を示す特性図である。上述した省電力設備を投入する前は曲線aで示す特性であったが、省電力設備を投入した後は曲線bで示す特性に移行する。したがって電動機のすべりはSaからSbに減少し、電動機14への入力電力は減少する。
【0060】
表1は22kw電動機について省電力設備投入前と投入後について実測した結果を示している。この表1で示すように、投入後約1ヶ月で、電動機への入力電力は約10%、すべりは約7%それぞれ減少し、電動機の回転速度は滑りの減少分、上昇した。
【表1】
【0061】
次に、本発明の他の実施の形態について、
図13以降を参照して詳細に説明する。この実施の形態では、
図1で示したリアクタンス回路15内に、
図13で示すように、コンデンサ18を追加している。すなわち、電力幹線12間にコンデンサ18を接続し、上述した電源変圧器11の抵抗Rt及びリアクタンス+jνXtと共に、
図14で後述するリアクタンス回路15を構成する。すなわち、コンデンサ18は、容量性リアクタンス−jXc/νを有し、上述した電源変圧器11の抵抗Rt及びリアクタンス+jνXtと共に、15次〜23次(望ましくは16次〜20次)に共振するリアクタンス回路15を構成する。
【0062】
また、この電力幹線12間には、ν次(11次、17次、23次等)の高調波を含むパルス電流Iν(pls)の発生源となる高調波電流発生器16が接続されている。このパルス電流Iν(pls)に含まれるν次の高調波は、上述したリアクタンス回路15により増幅される。
【0063】
ここで、変圧器11及びリアクタンス回路15部分の等価回路は、
図14で示すように書き換えることができる。
図14において、変圧器11の1次側漏れリアクタンス11−1は、変圧器11の励磁回路のリアクタンス11−eに対して著しく小さいので、1次側漏れリアクタンス11−1はショートされたことと同じとなる。したがって、コンデンサ18は、
図14で示すように、抵抗Rt及びリアクタンス+jνXtに並列接続されたこととなり、このリアクタンス回路15は並列共振回路を構成する。また、このリアクタンス回路15の並列インピーダンスをZν(pall)とする。このリアクタンス回路15部分には、高調波電流発生器16からのパルス電流Iν(pls)が図示方向に流れることにより、高調波電源電圧Vν(pls)が発生する。すなわち、高調波電流発生器16は、高調波電源電圧Vν(pls)を発生させるためのν次のパルス電流Iν(pls)を流す電流源となる。
【0064】
なお、コンデンサ18及び高調波電流発生器16は、
図13で示すように電源変圧器11の近傍に設けるか、又は低圧幹線12の末端に接続された誘導電動機14の入力端子近傍に接続する。
【0065】
この実施の形態では、電力幹線12に接続された高調波電流発生器16から、
図15及び
図16で示すように、電源電圧V
1のピーク位置に対してθpls度進みの位相で立ち上がり、パルス幅Δθplsの矩形波のパルス電流Iν(pls)をリアクタンス回路15に流す。このことにより、その並列インピーダンスZν(pall)によって高調波電圧Vν(pls)=(−)Zν(pall)・Iν(pls)を発生させ、増幅する。この高調波電圧Vν(pls)により、前述したスロット21に起因するν次の高調波磁束のうち、逆回転トルクを発生する11次、17次、23次の高調波回転磁束φν(slot)に対して逆位相となる高調波回転磁束φν(pls)を発生させる。このことにより高調波回転磁束φν(slot)を減少させ、高調波回転磁束φν(slot)により発生する高調波電圧Vν(slot),Vν’(slot)を減少させる。その結果、高調波電圧Vν’(slot)により無駄に消費されている電力を低減させることができる。
【0067】
上述したように、電力幹線12に接続された高調波電流発生器16から、電源電圧V
1のピーク位置に対してθpls度進みの位相で立ち上がり、パルス幅Δθplsのパルス電流Iν(pls)を、コンデンサ18を並列接続したインピーダンスZν(pall)を有するリアクタンス回路15に流している。すなわち、上述した逆回転トルクを発生させる次数νのパルス電流Iν(pls)の各成分、I
11(pls), I
17(pls), I
23(pls)がリアクタンス回路15に流れることによって高調波電圧Vν(pls)=(−)Zν(pall)・Iν(pls)を発生させ、増幅する。
【0068】
まず、パルス電流Iν(pls)の成分I
17(pls)により発生する高調波電圧V
17(pls)について説明する。この高調波電圧V
17(pls)が電動機14の1次巻線w1に印加されると、
図13で示したように、ν次の励磁電流I
(0)(ν,pls)(I
(0)(17,pls))が1次巻線w1に流れる。この励磁電流I
(0)(17,pls)は、V
17(pls)に対して90°遅れであるので、励磁電流I
(0) (17,pls)と同相の高周波回転磁束φν(pls)、すなわち、φ
17(pls)が発生する。パルス発生器16に基づく高周波回転磁束φ
17(pls)は、スロットに起因する高周波回転磁束φ
17(slot)と逆位相となる。したがって、スロットに起因する高周波回転磁束φ
17(slot)は減少し、この高周波回転磁束φ
17(slot)によって発生する高調波電圧Vν(slot),及びこれによって2次巻線w2に誘起される高調波電圧V’ν(slot)が減少する。その結果、高調波電圧Vν’(slot)により無駄に消費されている電力を低減させることができる。
【0069】
次に、リアクタンス回路15の並列インピーダンスZνについて説明する。この実施の形態では、共振周波数ν
0を17次の高調波に共振するように設定している。すなわち、
図13及び
図14で示したコンデンサ18の容量性リアクタンス−jXcを、ν
0=17で共振条件を満足するように決定する。
【0070】
ここで、変圧器11に負荷がかかっている場合の17次の電圧は、50
KVAから500
KVA変圧器の低圧幹線の実負荷に投入した場合、約3倍に増大したので共振回路の尖鋭度をQ=3とした。このように尖鋭度をQ=3とし、Xc=ν
02Xt、Q=ν
0Xt/Rtを使用すると、並列インピーダンスZ
17(pall)は次式(8)で求められる。
【数5】
【0071】
上式(8) から、インピーダンスZ
17(pall)の位相角は18.4°遅れとなる。
【0072】
11次の高調波ν
11の場合は、上述したXc=ν
02Xt=17
2Xtを代入すると、並列インピーダンスZ
11(pall)は次式(9)で求められる。
【数6】
【0073】
上式(9)から、共振時に対する位相角は、θ
11=42.4°となる。
【0074】
23次の高調波ν
23の場合は、同様の算出方法により、並列インピーダンスZ
23(pall)は次式(10)で求められる。
【0075】
Z
23(pall)=8.22−j31.4 ・・・(10)
上式(10)から、共振時に対する位相角は、θ
23=75.3°となる。
【0076】
次に、高調波電流発生器16からのパルス電流Iν(pls)によって、リアクタンス回路15において発生する高調波電圧Vν(pls)について説明する。
【0077】
パルス電流Iν(pls)は、図
15及び図
16で示すように、基本波である電源電圧V1のピークのタイミングからθpls前に発生し、幅Δθplsの矩形波である。このパルス電流Iν(pls)が矩形波で、その発生位相がθpls、幅がΔθplsである場合について、コンピュータによりフーリエ解析した結果を
図18で示し、その数値を表2に示す。
【表2】
【0078】
表2は各Iν(pls)の位相角と、各高調波におけるリアクタンス回路15の位相角とを用いて計算した高調波電圧Vν(pls)の位相を示している。そして、この位相が電源電圧V
1に対して90°遅れ±30゜以内であれば、スロットに起因するVν(slot)に対して逆位相の範囲に入り、これを低減できるものとして「良」と判定している。
【0079】
図18は、矩形波の発生位相:θpls=+9゜、幅:Δθpls=6゜、刻み0.05゜としたもので、11次については
図19Aで、17次は
図19Bで、23次について
図19Cでそれぞれベクトル関係を表している。
【0080】
ここで、17次について説明すると、
図19B及び表2の該当欄で示すように、sinの値が0.056、cosの値が0.012であり、I
17(pls)のスペクトル値は表2の該当欄で示すように、0.057となり、電源電圧V
1に対しては102.1゜進んでいる。高調波電圧Vν(pls)は、Vν(pls)=(−)Zν(pall)・Iν(pls)であり、インピーダンスZ
17(pall)の位相角θ
Z(pall)は18.4°遅れであるから、高調波電圧V
17(pls)の位相角は96.3゜遅れとなる。
【0081】
表2は、
図18で示したフーリエ解析結果を、互いに異なる位相及びパルス幅の各矩形波について纏めたものである。この表2において、例えば、パルス位相θplsが9.0°、パルス幅Δθplsが5.0°の場合における、パルス電流Iν(pls)に含有される17次成分の高調波の各ベクトルを
図17Aに示す。
【0082】
フーリエ級数分解計算の結果、表2で示すように、矩形波パルスI
17(pls)は、パルス幅Δθplsが5.0°の場合、電源電圧V
1に対してθ
I17pls=108.8°進みである。また、インピーダンスZ
17(pall)の位相角θ
Z(pall)は18.4°であるので、高調波電圧Vν(pls)は−I
17(pls)に対して18.4°遅れる。したがって、高調波電圧V
17(pls)の位相をθ
V17(pls)とすると、
θ
V17(pls)=(−){180°−θ
17(pls)+θ
Z(pall)}=−89.6°となる。すなわち、高調波電圧V
17(pls)は、電源電圧V
1に対して89.6°遅れており、電源電圧V
1に対して90°進みのVν(slot)に対して概略逆位相となり、高調波電圧Vν(slot)を低減させることができる。
【0083】
パルス位相θplsが9.0°、パルス幅Δθplsが5.0°の場合、11次の高調波の各ベクトルを
図17Bに示す。すなわち、パルス電流Iν(pls)の11次の成分の位相は、電源電圧V
1に対してθ
I11pls=72.6°進みである。また、インピーダンスZ
11(pall)の位相角θ
Z(pall)は42.4°進みであるので、高調波電圧Vν(pls)は−I
11(pls)に対して42.4°進む。したがって、高調波電圧V
11(pls)の位相をθ
V11(pls)とすると、
θ
V11(pls)=(−){180°−θ
11(pls)−θ
Z(pall)}=−65.1°となる。すなわち、高調波電圧V
11(pls)は、電源電圧V
1に対して65.1°遅れており、この場合も、電源電圧V
1に対して90°進みのVν(slot)に対して概略逆位相となり、高調波電圧Vν(slot)を低減させることができる。
【0084】
パルス位相θplsが9.0°、パルス幅Δθplsが5.0°の場合、23次の高調波の各ベクトルを
図17Cに示す。すなわち、パルス電流Iν(pls)の23次の成分の位相は、電源電圧V
1に対してθ
I23pls=149.1°進みである。また、インピーダンスZ
23(pall)の位相角θ
Z(pall)は75.3°遅れであるので、高調波電圧Vν(pls)は−I
23(pls)に対して75,3°遅れる。したがって、高調波電圧V
23(pls)の位相をθ
23(pls)とすると、
θ
V23(pls)=(−){180°−θ
23(pls)+θ
Z(pall)}=−106.2°となる。すなわち、高調波電圧V
23(pls)は、電源電圧V
1に対して106.2°遅れており、この場合も、電源電圧V
1に対して90°進みのVν(slot)に対して概略逆位相となり、高調波電圧Vν(slot)を低減させることができる。
【0085】
このように、パルス位相θplsが9.0°、パルス幅Δθplsが5.0°の場合、11次、17次、23次の高調波電圧V
11(pls)、V
17(pls)、V
23(pls)は、いずれも電源電圧V
1に対して90°遅れ±30゜以内に収まっている。すなわち、スロットに起因する高調波電圧Vν(slot)に対して概略逆位相となり、これを有効に低減させることができ、表2では「良」と評価されている。
【0086】
すなわち、パルス電流Iν(pls)が矩形波であり、パルス位相θplsが9.0°の場合、パルス幅Δθplsが4〜6°まで、パルス位相θplsが10.0°の場合、パルス幅Δθplsが6〜8°まで、パルス位相θplsが10.8°の場合、パルス幅Δθplsが6.5〜8.2°までの範囲であれば、いずれも「良」と評価される。
【0087】
次に、電力幹線12に接続された高調波電流発生器16からの高調波電流Iν(pls)が、電源電圧V
1のピーク位置に対してθpls度進みの位相で立ち上がり、幅Δθplsの指数関数波の場合を説明する。この場合も、指数関数波Iν(pls)をリアクタンス回路15に流すことにより、その並列インピーダンスZν(pall)によって高調波電圧Vν(pls)=(−)Zν(pall)・Iν(pls)を発生させ、増幅する。
【0088】
図20は指数関数波をコンピュータによりフーリエ解析した結果を示し、その数値を表3に示す。
【表3】
【0089】
表3は表2と同様に、各Iν(pls)の位相角と、各高調波におけるリアクタンス回路15の位相角とを用いて計算した高調波電圧Vν(pls)の位相を示している。そして、この位相が電源電圧V
1に対して90°遅れ±30゜以内であれば、スロットに起因するVν(slot)に対して逆位相の範囲に入り、これを低減できるものとして「良」と判定している。
【0090】
図20は、指数関数波の発生位相:θpls=+10゜、幅:Δθpls=7゜、刻み0.05゜としたもので、11次については
図21Aで、17次は
図21Bで、23次について
図21Cでそれぞれベクトル関係を表している。
【0091】
ここで、17次について説明すると、sinの値が0.035、cosの値が0.009であり、I
17(pls)のスペクトル値は表3の該当欄で示すように、0.036となり、電源電圧V
1に対しては104.4゜進んでいる。高調波電圧Vν(pls)は、Vν(pls)=(−)Zν(pall)・Iν(pls)であり、インピーダンスZ
17(pall)の位相角θ
Z(pall)は18.4°遅れであるから、高調波電圧V
17(pls)の位相角は94.0゜となる。
【0092】
表3は、
図20で示したフーリエ解析結果を、互いに異なる位相及び幅の各指数関数波について纏めたものである。
【0093】
フーリエ級数分解計算の結果、表3で示すように、指数関数波パルスI
17(pls)は、パルス位相θplsが10.0°、パルス幅Δθplsが7.0°の場合、電源電圧V
1に対してθ
17(pls)=104.4°進みである。また、インピーダンスZ
17(pall)の位相角θ
Z(pall)は18.4°であるので、高調波電圧Vν(pls)は−I
17(pls)に対して18.4°遅れる。したがって、高調波電圧V
17(pls)の位相をθ
V17(pls)とすると、
θ
V17(pls)=(−){180°−θ
17(pls)+θ
Z(pall)}=−94.0°となる。すなわち、高調波電圧V
17(pls)は、電源電圧V
1に対して94.0°遅れ位相となる。
【0094】
11次、23次についても表3の値から同様の計算により、11次における高調波電圧V
11(pls)は−81.6゜、23次における高調波電圧V
23(pls)は−97.1゜となる。これらの値は、いずれの次数においても−90゜±30゜以内に収まっており、スロットに起因する高調波電圧Vν(slot)を低減できるものとして「良」と判定している。
【0095】
したがって、高調波電流Iν(pls)が指数関数波であり、位相θplsが7.0°の場合は幅Δθplsが1°、位相θplsが8°の場合は幅Δθplsが2°、位相θplsが9°の場合は幅Δθplsが4〜6
°、位相θplsが10°の場合は幅Δθplsが4〜20°、位相θplsが10.8°の場合は幅Δθplsが4〜15°の範囲であれば、いずれも「良」と評価される。
【0096】
次に、電力幹線12に接続された高調波電流発生器16からの高調波電流Iν(pls)が、電源電圧V
1のピーク位置に対してθpls度進みの位相で立ち上がり、幅Δθplsの三角波の場合を説明する。この場合も、指数関数波Iν(pls)をリアクタンス回路15に流すことにより、その並列インピーダンスZν(pall)によって高調波電圧Vν(pls)=(−)Zν(pall)・Iν(pls)を発生させ、増幅する。
【0097】
図22は三角波をコンピュータによりフーリエ解析した結果を示し、その数値を表4に示す。
【表4】
【0098】
表4は表2と同様に、各Iν(pls)の位相角と、各高調波におけるリアクタンス回路15の位相角とを用いて計算した高調波電圧Vν(pls)の位相を示している。そして、この位相が電源電圧V
1に対して90°遅れ±30゜以内であれば、スロットに起因するVν(slot)に対して逆位相の範囲に入り、これを低減できるものとして「良」と判定している。
【0099】
図22は、三角波の発生位相:θpls=+10゜、幅:Δθpls=16゜、刻み0.05゜としたもので、11次については
図23Aで、17次は
図23Bで、23次について
図23Cでそれぞれベクトル関係を表している。
【0100】
ここで、17次について説明すると、sinの値が0.043、cosの値が0.0175であり、I
17(pls)のスペクトル値は表4の該当欄で示すように、0.046となり、電源電圧V
1に対しては112.1゜進んでいる。インピーダンスZ
17(pall)の位相角θ
Z(pall)は18.4°遅れであるから、高調波電圧V
17(pls)の位相角は86.3゜となる。
【0101】
表4は、
図22で示したフーリエ解析結果を、互いに異なる位相及び幅の各三角波について纏めたものである。この表4において、上述したθpls=+10゜、幅:Δθpls=16゜の場合、17次では、高調波電圧V
17(pls)の位相角は86.3゜、23次では99.7゜で、いずれも90°遅れ±30゜の範囲内に入るが、11次では53.1゜となるので、11次、17次、23次を通した全体としての評価は「良」にはならない。
【0102】
11次、17次、23次を通した全体としての評価が「良」になるのは、表4から、位相θplsが8.0°の場合は幅Δθplsが5〜6°、位相θplsが9°の場合は幅Δθplsが9°、位相θplsが10°の場合は幅Δθplsが11°以上22゜まで、位相θplsが10.8°の場合は幅Δθplsが10.8°以上30゜まで、位相θplsが12.6°の場合は幅Δθplsが25〜28°が有効な組み合わせであり、「良」と評価される。
【0103】
このように、スロットに起因して生じ、逆回転トルクを発生するν次(11,17,23次)の高調波回転磁束φν(slot)に対して、これと同じ次数で逆位相の高調波回転磁束φν(pls)を、高調波電流Iν(pls)に基づいて発生させて高調波回転磁束φν(slot)を減少させることにより、電動機の効率を向上させることができる。
【0104】
このようなパルス電流を、電源電圧のピーク前の位相において得る方式の一つとして
図24で示す構成が用いられる。
図24はCR整流回路によって擬似矩形パルス電流を得える方式である。この方式では、電源電圧Eを有する電源241を全波整流回路242の交流入力側に接続し、出力側には、コンデンサ243及び抵抗244からなる並列回路を接続する。すなわち、この回路は、電源電圧Eの半波により充放電されるコンデンサ243及びこのコンデンサ243に並列接続された放電抵抗244を有し、コンデンサ243の静電容量Cと放電抵抗244の抵抗値Rからなる時定数CRにより、前記半波のピーク位相より前の位相で所定パルス幅τの擬似矩形パルス電流を発生する構成である。この関係を、
図25を用いて説明する。
【0105】
図24で示したコンデンサ243には、整流された電源電圧Eが加わっており、t
0のタイミングで電圧Eのピーク値Ep1まで充電される。t0以降の半周期では、コンデンサ243に充電された電荷が抵抗244によって時定数CRで放電し、コンデンサの端子電圧Cvは徐々に低下する。そして、タイミングt
1’においてEp2まで低下する。このとき電源電圧Eは上昇中であり、t
1’以降t
0’までの間はコンデンサ23に充電電流が流れ、これがパルス電流Iν(pls)、−Iν(pls)として生じる。これを
図13の高調波電流発生器16として置き換えると、電源241が、電源電圧V1の電力幹線であり、図
15、図
16で示したように電源電圧V
1のピーク前のパルス電流Iν(pls)を出力する。
【0106】
この回路による波形は
図25(b)で示すように、立ち上がり時間が短く、立ち下がり時間は比較的長い。そこで、
図17で示したように、立ち上がりタイミングをパルス発生位相θplsとし、ピーク電流値Aの33%低下点までの幅をパルス幅Δθplsとする。50Hzにおいて、R=16.4kΩ,C=27μF、時定数=440msにおいて0.2A、θpls=10.8°、Δθpls=7〜8°が得られた。また、50Hzにおいて、R=20kΩ,C=22μF、時定数=440msにおいて0.15A、θpls=10.8°、Δθpls=7〜8°が得られた。
【0107】
このほか、電源電圧V
1のピーク前のパルス電流Iν(pls)を出力する回路として、
図26で示す電子回路を用いてもよい。この場合の高調波電流発生器16は、
図26で示すように、位相進み回路261、コンパレータ262、微分回路263、バイアス回路264、及び出力回路265により構成される。また、これら各部の電圧、電流のタイミングを
図27に示す。
【0108】
位相進み回路261は、図示しないが、OPアンプを使用する積分回路より構成され、並列コンデンサと位相調節用の可変抵抗器を有する。この位相進み回路261の入力点aには、各相(例えばu相)からの入力電圧、すなわち、基本波である電源電圧V
1が入力される(
図27の波形a)。位相進み回路261は、上述した抵抗器を調節することにより、出力点bには、基本電源電圧V
1に対して位相が90°−θpls進んだ正弦波電圧(
図27の波形b)が出力される。なお、この位相進み回路261は、ディジタル計算方式のものとしてもよい。
【0109】
この正弦波はコンパレータ262に入力され、矩形波に成形される。したがって、その出力端cには、基本電源電圧V
1の零点に対して位相が90°−θpls進み点にて立ち上がり立ち下がる矩形波(
図27の波形c)が得られる。
【0110】
この矩形波は微分回路263に入力され微分される。微分回路263は、周知のようにコンデンサ及び時定数調節用の可変抵抗器とで構成されており、上述した矩形波が入力されたことにより、その出力点dには微分出力の指数関数波+Vg,−Vg(
図27の波形d)がそれぞれ得られる。
【0111】
微分回路263の出力側には、幹線12の1相分を構成する線u,v間に設けられた出力回路265が接続されている。出力回路265は、ダイオード及び抵抗を介して線u,v間に逆並列に接続された最終段出力素子としての電力トランジスタ又はMOS型FET(図ではMOS型FETを示している)2651、2652を有する。そして、それらのベース又はゲートには、上述した微分回路263の出力側が、それぞれバイアス回路264を介して接続されている。このように電力トランジスタ又はMOS型FET2651、2652のベース又はゲートにそれぞれバイアス回路264を設けたことによりアナログ増幅器として機能する。
【0112】
上記構成により微分出力+Vg,−Vgは、それぞれ出力回路265に入力され、最終段出力素子としての電力トランジスタ又はMOS型FET2651、2652のベース又はゲートに印加される。このため、最終段出力素子2651、2652には出力電流+Id,−Id(
図27の波形e)が流れ、パルス電流Iν(pls)として出力される。
【0113】
ここで、パルス電流Iν(pls)は、位相進み回路261の可変抵抗値を調節することにより、電源電圧V
1のピーク位相よりθpls進みの位相でパルスを発生させることができる。また、パルス幅Δθplsは、微分回路263の可変抵抗値を変化させることにより任意の幅に調節できる。
【0114】
表5は75kw負荷(冷凍機モータ)に対し、本発明装置を投入し、17次の連続波電流I
17(pls)=0.05Aを印加した場合の入力電力を、未投入の場合と比較して、その変化を測定した場合を示している。効果として、表に示すように約11%の電力低下が生じた。
【表5】
【0115】
表6は同上の負荷(冷凍機モータ)に対し、11次の連続波電流I
11(pls)=0.05Aを印加した場合の入力電力を測定した場合を示している。約5%の電力低下が生じた。この結果から、負荷であるモータの(Z1/P)は18個である可能性がある。
【表6】
【0116】
表7は同上の負荷(冷凍機モータ)に対し、23次の連続波電流I
23(pls)=0.05Aを印加した場合の入力電力を測定した場合を示している。約4%の電力低下が生じた。
【表7】
【0117】
表8は同上の負荷(冷凍機モータ)に対し、上述した11次、17次、23次の高調波電流各0.05Aを加算した連続波電流を印加した場合の入力電力を測定した場合を示している。約14%の電力低下が生じた。
【表8】
【0118】
表9は同上の負荷(冷凍機モータ)に対し、電源電圧V
1のピーク値に対称で、幅Δθpls=7.2゜(50Hzにてτ=0.4ms)、1.0Aの矩形波パルス電流を印加した場合の入力電力を測定した場合を示している。約11.2%の電力低下が生じた。
【表9】
【0119】
表10は、17次に共振した並列コンデンサを接続し、電源電圧V
1のピークのタイミングに対してθpls=10゜(50Hzにてτ=0.55ms)進みで、幅Δθpls=7゜(50Hzにてτ=0.4ms)の矩形波パルス電流Iν(pls)を0.5A流した場合の、負荷(22kw送風機用モータ)の入力電力を測定した場合を示している。約12.6%の電力低下が生じた。
【表10】
【0120】
表11は、17次に共振した並列コンデンサを接続し、電源電圧V
1のピークのタイミングに対してθpls=9゜(0.5ms)進みで、幅Δθpls=5゜(0.28ms)の矩形波パルス電流Iν(pls)を0.5A流した場合の、負荷(22kw送風機用モータ)の入力電力を測定した場合を示している。約11.6%の電力低下が生じた。
【表11】
【0121】
表12は、17次に共振した並列コンデンサを接続し、電源電圧V
1のピークのタイミングに対してθpls=8.1゜(0.45ms)進みで、幅Δθpls=5.4゜(0.3ms)の矩形波パルス電流Iν(pls)を0.5A流した場合の、負荷(22kw送風機用モータ)の入力電力を測定した場合を示している。この場合は、効果(電力低下)が3%と少なかった。これは表2で示したように、17次、23次の高調波電圧V
17(pls)、V
23(pls)が、スロットに起因する高調波電圧Vν(slot)に対して逆位相でないためと考えられる。
【表12】
【0122】
表13は、17次に共振した並列コンデンサを接続し、θpls=7゜(0.4ms)進みで、幅Δθpls=6゜(0.33ms)の指数関数パルス電流Iν(pls)を0.5A流した場合の、負荷(22kw送風機用モータ)の入力電力を測定した場合を示している。この場合も、効果(電力低下)が2.4%と少なかった。これは表3で示したように、17次、23次の高調波電圧V
17(pls)、V
23(pls)が、スロットに起因する高調波電圧Vν(slot)に対して逆位相でないためと考えられる。
【表13】
【0123】
表14は、17次に共振した並列コンデンサを接続し、θpls=9゜(0.5ms)進みで、幅Δθpls=5゜(0.28ms)の指数関数パルス電流Iν(pls)を0.5A流した場合の、負荷(22kw送風機用モータ)の入力電力を測定した場合を示している。12.5%効果(電力低下)が得られた。
【表14】
【0124】
表15は、17次に共振した並列コンデンサを接続し、θpls=10.8゜(0.6ms)進みで、幅Δθpls=7゜(0.4ms)の指数関数パルス電流Iν(pls)を0.5A流した場合の、負荷(22kw送風機用モータ)の入力電力を測定した場合を示している。11.7%効果(電力低下)が得られた。
【表15】
【0125】
表16は、CR回路方式(R=16kΩ、C=27μF、時定数=440ms、Iν(pls)=0.15A)と、17次に共振した並列コンデンサとを装備した場合の、負荷(22kw送風機用モータ)の入力電力を測定した。その結果、12.6%効果(電力低下)が得られた。これは、表2のθpls=10.8゜、幅Δθpls=7.2゜の矩形波に相当する。
【表16】
【0126】
表17は、CR回路方式(R=22kΩ、C=33μF、時定数=726ms、Iν(pls)=0.15A)と、17次に共振した並列コンデンサとを装備した場合の、負荷(22kw送風機用モータ)の入力電力を測定した。その結果、3.3%を効果(電力低下)が少なかった。これは、表2のθpls=7.2゜、幅Δθpls=5.4゜の矩形波に相当し、17次、23次の高調波電圧V
17(pls)、V
23(pls)が、スロットに起因する高調波電圧Vν(slot)に対して逆位相でないためと考えられる。
【表17】
【0127】
表18は、一般家屋の負荷(電灯負荷の他、エアコン1台、扇風機4台等)を、時刻2:10から4:20まで連続運転し、所定時間毎に使用電力を測定した場合を示している。この例では、途中の3:40のタイミングで、本発明の省電力装置(セイバー)をオンにして、電源電圧V
1と同相又は逆相の17次の高調波連側電流0.03Aを流した場合の使用電力の推移を示している。この例では、セイバーオンへの切り換えにより平均電力が約7%低下した。
【表18】
【0128】
表19は、同じく一般家屋の負荷を、時刻2:10から4:20まで連続運転し、所定時間毎に使用電力を測定した場合を示している。この例では、途中の3:30のタイミングで、セイバーをオンにして、電源電圧V
1と同相又は逆相の11次の高調波連側電流0.03Aを流した場合の使用電力の推移を示している。この例では、セイバーオンへの切り換えにより平均電力が約11%低下した。このことから一般モータの1極当りのスロット数(Z1/P)は12個が多い可能性がある
【表19】
【0129】
表20はA事業所のある特定時刻(PM3:00)に省電力設備を投入する実験を行い、その前後について、「高圧受電用積算電力計」「冷凍機専用の積算電力計」「補機専用の積算電力計」の各平均値を比較したものである。表2から、省電力設備投入後は、投入前に比べ、各積算電力計の平均値が低減している。
【表20】
【0130】
表21は、B事業所において同様の実験を行った結果を表している。表3から、省電力設備を投入した15時15分以降とそれ以前とでは平均電力の低減率が14.3%であることがわかる。
【表21】
【0131】
表22はA事業所における各種モータについて、省電力設備投入後1ヶ月の「入力電流」「入力電力」「温度変化」を計測する実験を行い、これらの値を投入前と比較して示している。表から、省電力設備投入後1ヶ月における各値が投入前よりそれぞれ低減されていることがわかる。
【表22】
【0132】
表23は75KW大形冷凍機を有する事業所Cにおける高圧受電用積算電力計の平均電力量を平成18年から平成24年7月まで計測した値である。この中で、平成23年10月から平成24年1月までは、半波整流方式によるパルス発生器を用いた省電力装置を投入し、それ以降は、全波整流方式によるパルス発生器を用いた省電力装置を投入して、実証実験を行った結果のデータである。表から、省電力装置を投入した平成23年10月からのデータが、それまでの同月のデータより低く省電力降下が生じていることがわかる。特に、全波整流方式によるパルス発生器を用いた省電力装置を投入した平成24年2月以降の省電力効果が顕著であることがわかる。
【表23】
【0133】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。例えば、電源電圧を商用周波数(基本周波数)の1周期内で細かくサンプリングし、電源電圧の最大値のタイミングをディジタル計算することにより発生することも可能である。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。