特許第6163139号(P6163139)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163139
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】親綱の設置方法及び親綱設置用の操作棒
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/32 20060101AFI20170703BHJP
   A62B 35/00 20060101ALI20170703BHJP
   E04D 15/00 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   E04G21/32 D
   A62B35/00 H
   E04D15/00 V
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-129813(P2014-129813)
(22)【出願日】2014年6月25日
(65)【公開番号】特開2016-8434(P2016-8434A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2016年12月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391009372
【氏名又は名称】ミドリ安全株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】植月 英貴
(72)【発明者】
【氏名】三橋 綾史
【審査官】 津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−179241(JP,A)
【文献】 特開2012−219561(JP,A)
【文献】 特開2005−299112(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3002444(JP,U)
【文献】 特開2005−325562(JP,A)
【文献】 特開2002−155632(JP,A)
【文献】 特開昭64−072760(JP,A)
【文献】 実開平06−039024(JP,U)
【文献】 国際公開第2013/125945(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/32
A62B 35/00
E04D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の屋根に親綱を設置する親綱の設置方法であって、
前記親綱及び該親綱を案内するためのパイロットラインのうち一方を線状部材として操作棒に接続する接続工程と、
前記線状部材を、前記操作棒の操作に伴う繰り出しが可能な状態で、前記建物の側方において地面又は地面付近に設定された仮置き位置に仮置きする仮置き工程と、
前記仮置き位置から引き出された前記線状部材が前記屋根の上に載るように前記操作棒を操作しながら、当該操作棒を前記仮置き位置側から、前記建物を挟んで前記仮置き位置とは反対側の反対位置に前記建物の外周を回り込んで移動させる移動工程と、
前記操作棒に対する前記線状部材の接続を解除する接続解除工程と、
を備えていることを特徴とする親綱の設置方法。
【請求項2】
建物の屋根に親綱を設置する親綱の設置方法であって、
前記親綱を案内するためのパイロットラインを線状部材として操作棒に接続する接続工程と、
前記パイロットラインを、前記操作棒の操作に伴う繰り出しが可能な状態で、前記建物の側方において地面又は地面付近に設定された仮置き位置に仮置きする仮置き工程と、
前記仮置き位置から引き出された前記パイロットラインが前記屋根の上に載るように前記操作棒を操作しながら、当該操作棒を前記建物を挟んで前記仮置き位置とは反対側の反対位置に移動させる移動工程と、
前記操作棒に対する前記パイロットラインの接続を解除する接続解除工程と、
前記親綱に接続された状態の前記パイロットラインを前記仮置き位置側又は前記反対位置側に回収することで、該親綱を前記屋根の上を通って前記仮置き位置側と前記反対位置側とに掛け渡す回収工程と、
を備えていることを特徴とする親綱の設置方法。
【請求項3】
前記仮置き工程では、前記パイロットラインに加えて、該パイロットラインにおける前記操作棒とは反対側の端部に接続される前記親綱を、同パイロットラインに続いて引き出される状態で前記仮置き位置に仮置きし、
前記回収工程では、前記パイロットラインを前記反対位置側に回収することを特徴とする請求項2に記載の親綱の設置方法。
【請求項4】
前記仮置き工程では、
前記回収工程を行うことで前記親綱を前記仮置き位置側と前記反対位置側とに掛け渡した状態で該親綱を前記仮置き位置側において地面に対して固定するための固定手段を、同親綱に接続された状態で設置し、
前記回収工程では、前記固定手段との間で前記親綱に張力がかかるまで前記反対位置側に該親綱又は前記パイロットラインを引っ張ることを特徴とする請求項3に記載の親綱の設置方法。
【請求項5】
前記固定手段は、上方に向けて開放された複数の収納部を有しており、
前記仮置き工程では、前記複数の収納部のうち少なくとも1つの収納部に水を入れることで、前記親綱を地面に対して固定する重り部を形成し、該重り部ではない少なくとも1つの収納部に前記パイロットライン及び前記親綱を収納することで、これらパイロットライン及び親綱を前記仮置き位置に仮置きすることを特徴とする請求項4に記載の親綱の設置方法。
【請求項6】
前記操作棒は、前記線状部材が着脱可能に接続される被接続部を有し、該被接続部が当該操作棒の一端に配置された状態のまま伸縮可能になっており、
前記接続工程では、前記操作棒を伸ばす前の状態で前記被接続部に前記線状部材を接続し、
前記移動工程では、伸ばした状態の前記操作棒を用いて前記線状部材を前記屋根の上に載せ、
前記接続解除工程では、前記操作棒を縮めた状態で前記被接続部から前記線状部材を取り外すことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の親綱の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親綱の設置方法及び親綱設置用の操作棒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建物を新築する際や、既存の建物についてメンテナンス作業を行う際に、作業者が屋根の上に登る場合がある。この場合、あらかじめ屋根に親綱を設置しておき、作業者は、自身に装着した安全帯などを親綱に連結することで、梯子の昇降や屋根上での作業について安全性を確保することができる。
【0003】
屋根に親綱を設置する方法としては、2本の操作棒を用いる方法がある(例えば特許文献1参照)。この方法では、伸縮可能な2本の操作棒の各上端部にパイロットロープを架け渡した状態で、これら操作棒を屋根の高さを越えるまで伸ばし、パイロットロープの繰り出しが可能な一方の操作棒を地面に起立させた状態で保持する一方で、作業者が他方の操作棒を建物の反対側に移動させることで、パイロットロープを屋根の上に架け渡した状態にする。その後、パイロットロープの一端に親綱を接続し、パイロットロープを他端側に引き下ろしてパイロットロープと親綱とを置換することで、その親綱を屋根上に架け渡した状態で設置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−155632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、2本の操作棒を用いる方法では、一方の操作棒を移動させた際に、パイロットロープを繰り出す方の操作棒が倒れることが懸念される。
【0006】
そこで、パイロットロープを繰り出す方の操作棒に倒れ防止機能を付与する方法が考えられるが、上記のように操作棒が大型であることからして倒れ防止機能が大袈裟なものになってしまう。また、パイロットロープを繰り出す方の操作棒を他の作業者が手で支えるという方法が考えられるが、これでは、親綱の設置作業を2人の作業者が専任で行うことになり、建築現場の作業人員が増加してしまう。
【0007】
なお、親綱を設置する方法としては、親綱を操作棒に直接接続し、パイロットロープを用いずに親綱を設置する方法がある。この方法においても、2本の操作棒を用いる場合には、上記のような懸念が生じる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、親綱を屋根に設置する際に安全性を確保し、しかも、コスト負担を低減することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて作用、効果等を示しつつ説明する。なお以下においては、理解の容易のため、発明の実施の形態において対応する構成を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0010】
第1の発明の親綱の設置方法は、建物(建物10)の屋根(屋根13)に親綱(親綱25)を設置する親綱の設置方法であって、前記親綱及び該親綱を案内するためのパイロットライン(パイロットライン31)のうち一方を線状部材として操作棒(操作棒32)に接続する接続工程と、前記線状部材を、前記操作棒の操作に伴う繰り出しが可能な状態で、前記建物の側方において地面又は地面付近に設定された仮置き位置(第1位置N1)に仮置きする仮置き工程と、前記仮置き位置から引き出された前記線状部材が前記屋根の上に載るように前記操作棒を操作しながら、当該操作棒を前記建物を挟んで前記仮置き位置とは反対側の反対位置(反対位置M)に移動させる移動工程と、前記操作棒に対する前記線状部材の接続を解除する接続解除工程と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
第1の発明によれば、親綱やパイロットラインといった線状部材を繰り出し前の状態で地面又は地面付近に仮置きするとともに、作業者が1本の操作棒を用いて線状部材を屋根上に敷設するようにしたため、2本の操作棒を用いる場合とは異なり、移動させない方の操作棒が倒れるということ自体が発生しないため、安全性の低下を防止できる。また、線状部材を繰り出す方の操作棒が倒れないように保持するという必要がないため、倒れ防止機能が付与された操作棒を準備する必要も、線状部材を繰り出す方の作業棒を他の作業者が手で支えるという必要もない。
【0012】
さらに、操作棒を操作する作業者が建物の反対側に移動した後、線状部材の繰り出しが適正に行われている状況であれば、必ずしも他の作業者を線状部材の仮置き位置に対して配置する必要がない。このため、線状部材の敷設作業を作業者が1人で行うことが可能になる。
【0013】
以上により、親綱を屋根に設置する際に安全性を確保でき、しかも、コスト負担を低減できる。
【0014】
なお、操作棒は、移動工程において作業者が当該操作棒を保持した状態で、線状部材を屋根よりも高い位置に持ち上げることが可能な長さ寸法を有していることが好ましい。これにより、線状部材を屋根の上に敷設する作業を操作棒により容易に行うことができる。
【0015】
第2の発明では、第1の発明において、前記接続工程では、前記親綱及び前記パイロットラインのうち前記パイロットラインを前記線状部材として前記操作棒に接続し、前記仮置き工程では、前記パイロットラインを前記仮置き位置に仮置きし、前記移動工程では、前記パイロットラインが前記屋根の上に載るように前記操作棒を移動させ、前記接続解除工程では、前記操作棒に対する前記パイロットラインの接続を解除し、さらに、前記親綱に接続された状態の前記パイロットラインを前記仮置き位置側又は前記反対位置側に回収することで、該親綱を前記屋根の上を通って前記仮置き位置側と前記反対位置側とに掛け渡す回収工程を備えている。
【0016】
第2の発明によれば、パイロットラインが線状部材として操作棒に接続されているため、例えば親綱が操作棒に接続された場合に比べて、操作棒を操作して線状部材を屋根の上に載せる作業を容易化できる。
【0017】
なお、パイロットラインは弾性変形可能な線状部材であることが好ましい。ここで、作業者が操作棒を操作することでパイロットラインを屋根の上に載せる際、そのパイロットラインは、地面近くの仮置き位置から上方に向けて延びた状態になることからして屋根の周縁部や上面に接触する可能性が高く、屋根の凹凸にパイロットラインが引っ掛かることが懸念される。これに対して、パイロットラインが弾性変形可能であれば、例えば弾性変形しないパイロットラインを屋根の上に載せる場合に比べて、作業者は、パイロットラインの弾性変形を利用してそのパイロットラインが屋根の凹凸を乗り越えるように操作棒を操作することが容易になる。
第3の発明では、第1の発明において、前記仮置き工程では、前記パイロットラインに加えて、該パイロットラインにおける前記操作棒とは反対側の端部に接続される前記親綱を、同パイロットラインに続いて引き出される状態で前記仮置き位置に仮置きし、前記回収工程では、前記パイロットラインを前記反対位置側に回収する。
【0018】
第3の発明によれば、操作棒を保持した作業者が移動を開始するよりも前に、あらかじめパイロットラインと親綱とが接続されているため、作業者が操作棒を持って反対位置に移動した後、その反対位置側にパイロットラインを回収するだけで親綱を屋根の上に通すことができる。このため、パイロットラインを仮置き位置側に回収する場合とは異なり、親綱をパイロットラインとは異なる反対位置側に配置する必要がなく、親綱をパイロットラインと同じ仮置き位置に配置すればよいため、親綱を設置する際の準備作業が容易になる。また、作業者が親綱の設置作業を1人で行う場合に、反対位置に移動した後に再び仮置き位置側に戻ってパイロットラインに親綱を接続するという必要がないため、作業負担を低減できる。
【0019】
第4の発明では、第3の発明において、前記仮置き工程では、前記回収工程を行うことで前記親綱を前記仮置き位置側と前記反対位置側とに掛け渡した状態で該親綱を前記仮置き位置側において地面に対して固定するための固定手段(第1アンカー26)を、同親綱に接続された状態で設置し、前記回収工程では、前記固定手段との間で前記親綱に張力がかかるまで前記反対位置側に該親綱又は前記パイロットラインを引っ張る。
【0020】
第4の発明によれば、仮置き工程が行われた状態では既に親綱が固定手段に接続されているため、回収工程を行うことで親綱を仮置き位置側と反対位置側とに掛け渡した後に、親綱を固定手段との間で張力がかかるまで反対位置側に引っ張ることで、仮置き位置側において固定手段により親綱を地面に対して固定することができる。この場合、親綱を反対位置側に引っ張る際に、親綱の引っ張り量が多過ぎたり少な過ぎたりすることを回避できる。さらに、作業者が親綱の設置作業を1人で行う場合に、反対位置側にパイロットラインを回収した後に、再び仮置き位置に戻って親綱を地面に対して固定するという必要がないため、作業負担を低減できる。
【0021】
第5の発明では、第4の発明において、前記固定手段は、上方に向けて開放された複数の収納部(袋体41)を有しており、前記仮置き工程では、前記複数の収納部のうち少なくとも1つの収納部に水を入れることで、前記親綱を地面に対して固定する重り部(袋体41)を形成し、該重り部ではない少なくとも1つの収納部に前記パイロットライン及び前記親綱を収納することで、これらパイロットライン及び親綱を前記仮置き位置に仮置きする。
【0022】
第5の発明によれば、固定手段が複数の収納部を有しているため、仮置き位置にパイロットライン及び親綱を仮置きする作業、及び固定手段を移動しないように地面に対して設置することが容易となる。しかも、複数の収納部のうち、回収工程が行われることでパイロットラインや親綱が引き出された収納部については、水を入れることで重り部を追加して形成することができる。仮置き位置側において、固定手段による親綱の固定強度が不足しているという事態を回避できる。
【0023】
第6の発明では、第1乃至5のいずれか1つの発明において、前記操作棒は、前記線状部材が着脱可能に接続される被接続部を有し、該被接続部が当該操作棒の一端に配置された状態のまま伸縮可能になっており、前記接続工程では、前記操作棒を伸ばす前の状態で前記被接続部に前記線状部材を接続し、前記移動工程では、伸ばした状態の前記操作棒を用いて前記線状部材を前記屋根の上に載せ、前記接続解除工程では、前記操作棒を縮めた状態で前記被接続部から前記線状部材を取り外す。
【0024】
第6の発明によれば、操作棒が伸縮可能なため、接続工程及び接続解除工程のいずれにおいても、操作棒を保持している作業者が操作棒の被接続部に線状部材を着脱する作業を容易に行うことができる。このため、作業者が親綱の設置作業を1人で行う際に、例えば伸縮不可な操作棒を用いる場合とは異なり、操作棒を横倒しにして手で保持する側と被接続部側とを行き来するという手間を省くことができる。
【0025】
第7の発明では、第1乃至6のいずれか1つの発明において、前記仮置き工程では、前記建物の側方のうち、前記屋根の上に登るために梯子(梯子23)が設置される側に前記仮置き位置を設定する。
【0026】
梯子の昇降作業や屋根上での作業のために親綱を屋根に設置する場合、親綱の設置作業を行う作業者と、梯子に昇降するための準備作業を行う作業者とが同時進行で作業を進めることで、建築現場における作業効率を高めることができる。ここで、親綱の設置作業を行っている作業者は、移動工程において仮置き位置から離れた後、仮置き位置において線状部材が適正に引き出されていることを視認できない状況になると考えられる。
【0027】
これに対して、第7の発明によれば、梯子の設置位置の周辺に仮置き位置を設定しているため、親綱の設置作業を行っている作業者とは異なる作業者が、梯子に昇降するための準備作業を梯子の設置位置の近くで行っている場合に、その準備作業を行いながら線状部材が引き出されている状況を視認することができる。このため、昇降の準備作業を行っている作業者が、線状部材が適正に引き出されていない場合にだけ線状部材が適正に引き出されるように親綱の設置作業を補助するということが可能になる。したがって、親綱の設置と梯子に昇降するための準備とを同時進行で行うことで建築現場における作業効率を高めることができ、しかも、親綱の設置作業を適正に進めることができる。
【0028】
第8の発明の親綱設置用の操作棒は、親綱(親綱25)を建物(建物10)の屋根(屋根13)の上に設置するために操作される親綱設置用の操作棒(操作棒32)であって、前記親綱及び該親綱を案内するためのパイロットライン(パイロットライン31)のうち一方を線状部材として、該線状部材の端部に着脱可能に引っ掛けることが可能な引っ掛け部(引っ掛け部33)が、前記操作棒の先端部に設けられており、前記引っ掛け部は、当該引っ掛け部が前記線状部材の端部に引っ掛けられた状態を保持する保持状態と、同引っ掛け部を前記線状部材の端部から取り外すことが可能な非保持状態とに移行可能であることを特徴とする。
【0029】
第8の発明によれば、引っ掛け部を非保持状態に移行させるという容易な作業を行うことで操作棒に対する線状部材の着脱が可能になるため、操作棒に線状部材を接続するという前作業、及び操作棒から線状部材を取り外すという後作業について、作業負担を低減できる。また、引っ掛け部を保持状態に移行させることで、操作棒から線状部材が意図せずに離脱することを防止できる。したがって、線状部材の落下について安全性を確保した上で、作業者が操作棒を操作して線状部材を屋根の上という高所に載せる作業を行うことができる。
【0030】
第9の発明では、第8の発明において、長尺状の棒本体(棒本体36)と、前記引っ掛け部を有し、前記棒本体の先端部に取り付けられた引っ掛け部材(引っ掛け部材37)と、を備えている。
【0031】
第9の発明によれば、引っ掛け部材が棒本体に取り付けられているため、引っ掛け部材を専用品として製造する必要が生じたとしても、棒本体として汎用品を使用することができる。ここで、棒本体は、建物の屋根に届くほどの長さを有する大型の棒状部材であるため、専用品として製造するとコスト負担が大きくなることが懸念されるが、汎用品を使用することでコスト負担を低減できる。
【0032】
第10の発明では、第9の発明において、前記引っ掛け部材は、前記引っ掛け部に加えて、前記棒本体に交差する方向に延びているアーム部(アーム部51)を有しており、前記引っ掛け部は、前記アーム部の自由端側に配置されている。
【0033】
第10の発明によれば、引っ掛け部材がアーム部を有していることで、棒本体の延長線上から側方にずれた位置に引っ掛け部が配置されているため、建物の側方において地面の上にいる作業者が、アーム部を屋根の上方に配置させるように操作棒を操作することで、線状部材を屋根の上に載せる作業を容易に行うことができる。しかも、この場合、作業者は建物に近い位置にいても線状部材を屋根の上に敷設することが可能になるため、例えば狭小地に構築された建物についても、その敷地内から線状部材の敷設作業を容易に行うことができる。
【0034】
これに対して、例えば棒本体の延長線上に引っ掛け部が配置された操作棒では、作業者が建物からある程度離れなければ引っ掛け部を屋根の上方に配置させることができないため、狭小地に構築された建物について、その敷地内から線状部材の敷設作業を行うことが困難になってしまう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】親綱を設置した状態の建物の斜視図
図2】パイロットラインの設置作業について説明するための建物の斜視図
図3】第1アンカー及び操作棒の構成を示す図
図4】パイロットライン及び親綱の設置手順を示す図
図5】パイロットライン及び親綱の設置手順を示す図
図6】別の操作棒の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、本発明の親綱の設置方法を二階建ての住宅に適用して具体化している。図1は親綱25を設置した状態の建物10の斜視図である。
【0037】
図1に示すように、住宅等の建物10は、基礎11の上に設けられた建物本体12と、建物本体12の上に設けられた屋根13とを有している。建物本体12は、一階部分14及び二階部分15を有しており、平面視で長方形状とされている。
【0038】
屋根13は、切妻屋根とされており、その棟が建物本体12の長手方向に延びる向きで配置されている。屋根13は、傾斜した一対の屋根部13a,13bを有しており、これら屋根部13a,13bの接続部分により棟が形成されている。屋根部13a,13bは、建物本体12の短手方向に並べられており、それぞれ建物本体12の長手方向に延びている。屋根部13a,13bは、建物本体12の短手方向及び長手方向のそれぞれにおいて建物本体12の側方に突出しており、軒先及びけらばを形成している。この場合、軒先は、建物本体12の長手方向において棟に平行に延びている。
【0039】
なお、屋根13は、野地板等の屋根下地材と、この屋根下地材の上に設けられた瓦や折板材等の屋根仕上材(屋根葺き材)とを有している。
【0040】
本実施形態では、建物10に太陽光発電装置を新規で設置する際の作業について説明する。太陽光発電装置は、複数の太陽光パネル21を有しており、これら太陽光パネル21は屋根13の上に設置される。太陽光パネル21は、屋根部13a、13bのそれぞれの上に設置されるものであり、作業者は、太陽光パネル21の設置作業を行う際に屋根13の上に登ることになる。
【0041】
作業者が梯子23を登ることで屋根13上に移動する場合、あらかじめ屋根13に対して親綱25を設置しておき、作業者は、自身に装着した安全帯等を親綱25に連結した状態で梯子23の昇降作業や屋根13上での太陽光パネル21の設置作業を行う。梯子23は、一方の端部が下端として地面の上に置かれた状態で、屋根13の軒先に立て掛けられている。梯子23においては、その上端寄りの部分が、屋根部13a,13bのうち第1屋根部13aの軒先部分に接触した状態になっている。
【0042】
親綱25は、合成樹脂材料や金属材料などにより形成されたロープ等の線状部材であり、柔軟性を有している。屋根部13a,13bの並び方向(建物本体12の短手方向)に延びており、屋根13の棟を跨いで屋根部13a,13bの各軒先に掛け渡された状態で設置されている。親綱25においては、その中間部分が屋根13の上に配置されている一方で、一端側が第1屋根部13aの軒先から下方に向けて延び、他端側が第2屋根部13bの軒先から下方に向けて延びている。
【0043】
屋根部13a,13bの各軒先の下方位置には固定手段としてのアンカー26,27が設置されており、親綱25は、これらアンカー26,27に接続されていることで地面に対して固定されている。アンカー26,27のうち第1アンカー26は、第1屋根部13a側に配置されており、親綱25において第1屋根部13aから下方に延びた部分が第1アンカー26に接続されている。第1アンカー26は、棟が延びている方向において屋根13の一方の側端部(けらば)から所定距離(例えば1m)だけ他方の側端部に近づいた位置に配置されている。
【0044】
第2アンカー27は、第2屋根部13b側に配置されており、親綱25において第2屋根部13bから下方に延びた部分が第2アンカー27に接続されている。この場合、親綱25は、屋根13の上を通って第1アンカー26と第2アンカー27とに掛け渡されており、これらアンカー26,27により張力が加えられた状態になっている。
【0045】
アンカー26,27は、いずれも建物10の側方において地面の上に載置されている。第1アンカー26は、地面に対して設定された第1位置N1に配置されており、第2アンカー27は、第1位置N1とは建物10を挟んで反対側において、地面に対して設定された第2位置N2に配置されている。
【0046】
ちなみに、親綱25は、太陽光パネル21の設置作業を行う上で支障にならない位置に配置されている。具体的には、棟が延びている方向において、太陽光パネル21を設置する設置領域の側方位置に親綱25が配置されている。なお、太陽光パネル21を親綱25の上に設置しても、太陽光パネル21の設置後に親綱25の撤去が可能であれば、親綱25が太陽光パネル21の設置領域に配置されていてもよい。
【0047】
親綱25の設置作業について、図2図5を参照しつつ説明する。図2はパイロットライン31の設置作業について説明するための建物の斜視図、図3は第1アンカー26及び操作棒32の構成を示す図、図4図5はパイロットライン31及び親綱25の設置手順を示す図である。なお、図4には建物10の概略側面図を示し、図5においては、(a)〜(c)に建物10の概略平面図を示し、(d)に建物10の概略正面図を示す。
【0048】
屋根13に親綱25を設置する場合、親綱25に先行してパイロットライン31を屋根13の上に敷設し、そのパイロットライン31を利用して親綱25を屋根13の上に引き上げる。パイロットライン31は、合成樹脂材料や金属材料により形成されたワイヤ等の線状部材であり、弾性変形が可能になっている。パイロットライン31は、親綱25に比べて軽量に形成されており、単位長さ当たりの重量が親綱25よりも小さくなっている。また、パイロットライン31を、呼び線やパイロットロープと称することもできる。
【0049】
図2に示すように、作業者は、操作棒32を用いることでパイロットライン31を屋根13の上に敷設する。操作棒32は、作業者に保持された状態で屋根13において最も高い位置にある棟に届く程度の長さ寸法(例えば7〜8m)を有しており、その先端部にパイロットライン31が接続された状態で作業者により操作される。
【0050】
なお、操作棒32は、作業者に保持された状態で屋根13において最も低い位置にある軒先に届く程度の長さ寸法を有していてもよい。この場合でも、作業者は、操作棒32を操作することでパイロットライン31を軒先の上に載せ、その状態からパイロットライン31を棟に向けて移動させることが可能になる。
【0051】
図3に示すように、操作棒32は、その先端部に設けられた引っ掛け部33を有し、パイロットライン31の一端には、貫通孔を有するリング部34が設けられており、引っ掛け部33がリング部34に引っ掛け可能になっている。引っ掛け部33は、リング部34に引っ掛けられた場合にその引っ掛けられた状態を保持する保持状態と、リング部34に対する引っ掛け及び取り外しが可能な非保持状態とに移行可能になっている。これにより、リング部34に対する引っ掛け部33の着脱を容易に行うことができる一方で、引っ掛け部33がリング部34から意図せずに外れるということを防止できる。
【0052】
引っ掛け部33は、開放部分を有するフック体33aと、フック体33aの開放部分を閉鎖可能な開閉体33bとを有しており、開閉体33bはフック体33aに対して開閉可能に軸支されている。開閉体33bは、フック体33aの内側に向けて回動することで開状態に移行し、外側に向けて回動することで閉状態に移行する。開閉体33bは、閉状態に保持されるようにバネ等の付勢手段により付勢されており、その付勢力に抗する外力が加えられることで開状態に移行する。引っ掛け部33は、開閉体33bが閉状態にある場合に保持状態になっており、開閉体33bが開状態にある場合に非保持状態になっている。
【0053】
なお、引っ掛け部33は、パイロットライン31が着脱可能に接続される被接続部に相当する。
【0054】
操作棒32は、長尺状の棒本体36と、引っ掛け部33が形成された引っ掛け部材37とを有している。引っ掛け部材37は、棒本体36の一端に取り付けられている。引っ掛け部材37は、引っ掛け部33に加えて、棒本体36の一端に着脱可能に装着された装着部38を有している。装着部38は、引っ掛け部33とは反対側に向けて開放された中空部を有しており、この中空部に棒本体36の一端が挿入されることでその棒本体36に装着されている。装着部38は、ゴム等の弾性変形可能な材料により形成されており、その中空部に棒本体36が挿入されることで弾性変形し、棒本体36を中空部から離脱させないようになっている。
【0055】
棒本体36は、引っ掛け部33を操作棒32の一端に配置した状態のまま伸縮することが可能になっている。棒本体36は、筒状の本体部を複数有しており、隣り合う本体部のうち一方が他方の内部に収納されることで縮み、一方が他方の内部から引き出されることで伸びるようになっている。棒本体36において、複数の本体部には、他の本体部をすべて収納可能な外側本体部と、棒本体36が収縮しても他の本体部を内部に収納しない内側本体部36aとが含まれている。引っ掛け部材37は、内側本体部36aの端部に取り付けられていることで、棒本体36が収縮しても操作棒32の一端に配置された状態が保持されるようになっている。各本体部は、FRP等の合成樹脂材料により形成されている。
【0056】
なお、作業者が操作棒32を保持する場合、棒本体36の外側本体部を手で持つことになる。
【0057】
アンカー26,27は、それぞれ袋体41を複数(例えば4個)有している。袋体41は、上方に向けて開放された内部空間を有しており、その内部空間には物品を収納することが可能になっている。袋体41は、布材料や合成樹脂材料等の防水性を有する材料により形成されており、物品に加えて、水等の液体を貯留することが可能になっている。袋体41は、所定の収納容量(例えば20〜30L)を有しており、液体等が入れられることで重り部としての役割を果たすことが可能になっている。袋体41は、底部と側面部とを有しており、液体や物品が地面の上に置かれた場合に自立することができるようになっている。袋体41は収納部に相当する。
【0058】
なお、袋体41は、持ち手を有しており、この持ち手は、開口部を跨いで側面部の上部に掛け渡した状態で取り付けられている。また、図3には、第1アンカー26を図示している。
【0059】
次に、親綱25を設置する際の作業手順について説明する。
【0060】
まず、アンカー26,27を設置する(図1参照)。ここでは、第1アンカー26及び第2アンカー27を第1位置N1及び第2位置N2において地面の上に置き、これらアンカー26,27の各袋体41に水を入れる。
【0061】
ただし、第1アンカー26においては、全ての袋体41に水を入れるのではなく、いくつかの袋体41には親綱25やパイロットライン31を入れておく。複数の袋体41のうち、袋体41aには親綱25を入れ、袋体41bにはパイロットライン31を入れ、さらに、その他の袋体41に水を入れておく。パイロットライン31は、その先端部(リング部34側の端部)が引っ張られることで引き出される状態で袋体41bに収納されている。また、パイロットライン31の終端部(リング部34とは反対側の端部)は、粘着テープ等の接続部材42により親綱25の一端に接続されている。
【0062】
また、第2アンカー27においても、全ての袋体41に水を入れるのではなく、1つの袋体41は水を入れずに空の状態にしておく。
【0063】
親綱25は、その先端部(パイロットライン31に接続された方の端部)が引っ張られることで引き出される状態で袋体41aに収納されている。親綱25の終端部(パイロットライン31とは反対側の端部)は、接続金具等の接続具により第1アンカー26の全ての袋体41に接続されている。例えば、接続具は、各袋体41の持ち手に対して親綱25の終端部を接続している。なお、親綱25及びパイロットライン31が、それぞれの先端部が引っ張られることで引き出される状態としては、巻回して束にされた状態が挙げられる。また、接続具は、袋体41に対して持ち手とは異なる部分に対して接続されていてもよい。
【0064】
親綱25及びパイロットライン31を収納した袋体41a,41bを第1位置N1に設置することは、親綱25及びパイロットライン31を第1位置N1に引き出し可能な状態で仮置きすることになる。この場合、第1位置N1は、親綱25及びパイロットライン31にとっての仮置き位置に相当し、袋体41a,41bを用いて親綱25やパイロットライン31を第1位置N1に仮置きする作業が仮置き工程に相当する。
【0065】
親綱25及びパイロットライン31を第1位置N1に仮置きした後、図4(a)に示すように、操作棒32の引っ掛け部33にパイロットライン31の先端部(リング部34)を接続する接続工程を行う。この工程では、操作棒32を伸ばしていない非伸長状態としたまま、操作棒32に対するパイロットライン31の接続作業を行うことで、第1作業者P1は、その接続作業が終了した後に大きく移動することなく操作棒32の外側本体部を手で持つことが可能になる。
【0066】
そして、図4(b)に示すように、第1作業者P1は、建物10の長辺部の側方位置において、操作棒32を保持した状態でその操作棒32を伸ばす、という伸長工程を行う。第1作業者P1は、操作棒32を上下方向に立てた状態で、その先端部が屋根13の最も高い部分(棟)よりも高い位置に配置できる程度の長さまで伸す。この場合、操作棒32の伸長に伴ってパイロットライン31が第1アンカー26の袋体41bから引き出されるため、操作棒32を伸ばす際の作業負担を低減できる。また、この場合、図5(a)にも示すように、第1作業者P1は、建物10よりも第1アンカー26側の位置にいることになる。
【0067】
その後、第1作業者P1は、第1位置N1側から建物10の外周を回り込んで第2位置N2側に移動する移動工程を行う。この移動工程において第1作業者P1は、図4(c)、図5(b),(d)に示すように、まず、パイロットライン31が屋根13の上に載るように操作棒32を操作しながら、建物10における第1位置N1側の出隅部分の外側を回り込むことで、建物10の長辺部の側方位置(第1屋根部13aの軒先の下方位置)から建物10の短辺部の側方位置(「けらば」の下方位置)に移動する。
【0068】
第1作業者P1は、建物10から側方にある程度離れた位置を通り、操作棒32をその先端部(引っ掛け部33)が屋根13の上側に存在するように斜めに傾け、それによって、建物10の出隅部分の外側を回り込む際にパイロットライン31を屋根13の角部分の上に載せる。この場合、パイロットライン31を第1屋根部13aの軒先の側端部に上から引っ掛けるとともに、パイロットライン31が第1屋根部13a側から棟を越えて第2屋根部13b側に掛け渡されるように操作棒32を操作する。なお、第1作業者P1が第1アンカー26から遠ざかる向きに移動するだけでパイロットライン31は袋体41bから引き出されることになる。
【0069】
ここで、第1作業者P1が第2位置N2側への移動を開始するよりも前のタイミングで、第1作業者P1とは異なる第2作業者P2が、第1位置N1側において梯子23に昇降するための準備作業を開始する。例えば、第2作業者P2は、既に梯子23を第1位置N1の近くに運んでおき、その状態で自身への安全帯の装着を開始する。この場合、第2作業者P2は、昇降の準備作業を行いながら、袋体41a,41bからパイロットライン31や親綱25が繰り出される状態を視認することが可能になっている。このため、パイロットライン31や親綱25が絡まるなど繰り出し状態が不適になった場合には、第1作業者P1に知らせることや、その繰り出し状態を適正に戻すための作業を行うことができる。
【0070】
第1作業者P1は、建物10の「けらば」の下方位置に移動した後、図4(d)、図5(c)に示すように、建物10における第2位置N2側の出隅部分の外側を回り込むことで、建物10を挟んで第1位置N1とは反対側の反対位置Mに移動する。反対位置Mは、第2屋根部13bの軒先の下方位置であって第2位置N2に近い位置であり、第1作業者P1が第2アンカー27に対して所定作業を行うことが可能になっている。
【0071】
第1作業者P1は、反対位置Mに移動した後、図4(e)に示すように、操作棒32を保持した状態でその操作棒32を縮めるという収縮工程を行う。第1作業者P1は、伸長工程と同様に、操作棒32を上下方向に立てた状態で非伸長状態になるまで縮める。
【0072】
その後、図4(f)に示すように、第1作業者P1は、操作棒32に対するパイロットライン31の接続を解除する接続解除工程を行う。この接続解除工程では、操作棒32の引っ掛け部33からパイロットライン31のリング部34を取り外す。そして、パイロットライン31を第2位置N2側に引き寄せる。ここで、パイロットライン31において引き寄せた部分は、第2アンカー27の各袋体41のうち水を入れずに空にしてある袋体41に入れていく。これにより、第2アンカー27の袋体41の1つをパイロットライン31の収納部として利用することができる。
【0073】
第1作業者P1は、第2位置N2側にパイロットライン31の全てを回収した後、接続部材42を取り外すことでパイロットライン31と親綱25との接続を解消する。また、第1作業者P1は、親綱25の終端部が第1アンカー26の袋体41aから引き上げられ、それ以上の引き上げが第1アンカー26の重さにより規制された状態になるまで、第2位置N2側に向けて親綱25を引き寄せる。この場合、第1位置N1を視認している第2作業者P2が、親綱25の引き寄せを終了するように第1作業者P1に指示を出すことが好ましい。これにより、第1作業者P1による親綱25の引き寄せが多過ぎたり少な過ぎたりすることを防止できる。
【0074】
第1作業者P1は、親綱25の引き寄せ作業を終了した後、その親綱25の先端側の部分を第2アンカー27に接続する。これにより、図1に示すように、親綱25を弛みがない状態で屋根13に設置することができる。その後、第2作業者P2は、梯子23を第1アンカー26の近くにおいて第1屋根部13aの軒先に立て掛け、親綱25に安全帯を連結して梯子23の昇降を開始する。親綱25を設置した後に梯子23の設置作業を行うことで、梯子23の設置作業を先に行った場合とは異なり、パイロットライン31や親綱25が梯子23に引っ掛かってしまうということを防止できる。
【0075】
なお、親綱25の設置作業が終了した後、第1アンカー26の袋体41a,41bは、親綱25やパイロットライン31が引き出されたことで空になっている。そこで、袋体41a,41bに水を入れることで、第1アンカー26の重量を増加させる。これにより、第1アンカー26による親綱25の固定強度を高めることができる。
【0076】
また、第2アンカー27においては、回収したパイロットライン31を袋体41から取り出して片付けることで、その袋体41が再び空になる。そこで、その袋体41に水を入れて第2アンカー27の重量を増加させる。これにより、第2アンカー27による親綱25の固定強度を高めることができる。
【0077】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0078】
第1位置N1においては、地面に置かれた袋体41bにパイロットライン31が収納されているため、第1作業者P1が操作棒32を持って第1位置N1から第2位置N2に移動する際に、別の作業者(例えば第2作業者P2)が第1位置N1からのパイロットライン31の繰り出し作業を行うという必要がない。このため、パイロットライン31の敷設作業を第1作業者P1が1人で行うことができる。
【0079】
例えば、第1位置N1に棒部材が立設され、その棒部材の上端からパイロットライン31が繰り出されるという構成では、その棒部材を別の作業者が手で支えている必要がある。また、棒部材が屋根13に届くほどの長さを有していれば、この棒部材が倒れた場合に、建物10や人に接触する可能性が高くなってしまう。これに対して、本実施形態では、棒部材を用いずにパイロットライン31の繰り出しが行われているため、パイロットライン31の敷設に際して安全性が低下することを抑制できる。
【0080】
したがって、親綱25を屋根13に設置する際に安全性を確保でき、しかも、コスト負担を低減できる。
【0081】
パイロットライン31の終端部と親綱25の先端部とが接続された状態でパイロットライン31の敷設作業が行われるため、第1作業者P1は、第1位置N1から反対位置Mに移動した後、パイロットライン31を第2位置N2側(反対位置M側)に回収することで、第1位置N1側に戻らなくても親綱25を屋根13の上に設置できる。このため、パイロットライン31を敷設した後に、第1作業者P1が第1位置N1側と第2位置N2側とを往復するという手間を省くことができる。
【0082】
親綱25の終端部が第1アンカー26に接続された状態でパイロットライン31の敷設作業及び回収作業が行われるため、第1作業者P1は、親綱25を弛みがない状態になるまで第2位置N2側に引っ張るという容易な作業を行うことで、親綱25の終端部を第1アンカー26により固定することができる。このため、第1作業者P1は、親綱25を屋根13の上に敷設した後に、再び第1位置N1側に戻って親綱25を第1アンカー26に固定するという作業を行う必要がない。
【0083】
アンカー26,27が複数の袋体41を有しているため、これら袋体41を、水を入れることで重り部として利用すること、及びパイロットライン31や親綱25を入れておく収納部として利用することの両方が可能になる。したがって、重り部と収納部とを別々の専用部材として準備する必要がないため、作業負担及びコスト負担の両方を低減できる。
【0084】
操作棒32が伸縮可能になっているため、伸縮させることができない操作棒を使用する場合とは異なり、操作棒32に対するパイロットライン31の着脱作業を第1作業者P1が1人で行う際に、操作棒32を地面に横倒しの状態で置いて操作棒32の根元側と先端側とを行き来するという手間を省くことができる。
【0085】
操作棒32の先端部に引っ掛け部33が設けられているため、その引っ掛け部33にパイロットライン31のリング部34を引っ掛けるという容易な作業を行うことで、操作棒32に対するパイロットライン31の接続作業を行うことができる。また、引っ掛け部33は保持状態にあることで、パイロットライン31が引っ掛かった状態を保持するため、パイロットライン31の敷設作業を行っている最中にパイロットライン31が意図せずに操作棒32の先端部から外れるということを防止できる。
【0086】
操作棒32においては、棒本体36の先端部に引っ掛け部材37が取り付けられているため、引っ掛け部材37を専用品として製造する必要が生じたとしても、棒本体36は専用品ではなく汎用品を使用することができる。これにより、操作棒32についてコスト負担の低減を実現できる。
【0087】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0088】
(1)操作棒32が、その長手方向に交差する方向に延びたアーム部を有していてもよい。例えば、図6(a),(b)に示すように、操作棒32の引っ掛け部材37がアーム部51を備えた構成とする。この構成では、アーム部51が装着部38の先端部から棒本体36に直交する方向に延びている。アーム部51は、所定の長さ寸法(例えば30〜50cm)を有しており、その先端部(自由端側)に引っ掛け部33が配置されている。このため、第1作業者P1がこの操作棒32を用いてパイロットライン31の敷設作業を行う場合に、第1作業者P1は、操作棒32と屋根13との離間距離がアーム部51の長さ寸法より小さくなる位置を通ることで、操作棒32を斜めに傾けなくてもアーム部51の先端部(引っ掛け部33)を屋根13の上側に存在させることができる。これにより、パイロットライン31の敷設作業を容易化することができる。
【0089】
また、操作棒32を斜めに傾けなくてもパイロットライン31を屋根13の上に載せることができるため、第1作業者P1は、建物10から側方にある程度離れるという必要がない。このため、仮に建物10が狭小地に構築されていることなどに起因して、敷地境界線と建物10との離間距離が操作棒32を斜めに傾けることができないほどに小さくても、第1作業者P1が敷地内にいながらにして操作棒32を用いてパイロットライン31を屋根13の上に敷設することができる。
【0090】
(2)上記実施形態では、操作棒32の引っ掛け部33において、開閉体33bが付勢手段により付勢されていたが、引っ掛け部33が保持状態と非保持状態とに移行可能であれば、開閉体33bは付勢されていなくてもよい。例えば、開閉体33bが雌ネジを有し、フック体33aの端部が雄ネジを有しており、フック体33aに対する開閉体33bのねじ込みの状態に応じて保持状態と非保持状態とが切り替えられる構成とする。また、引っ掛け部33が保持状態と非保持状態とに切り替えられるのであれば、引っ掛け部33はフック体33aや開閉体33bを含まずに形成されていてもよい。
【0091】
(3)上記実施形態では、操作棒32において、装着部38が弾性変形することで引っ掛け部材37が棒本体36に装着されていたが、引っ掛け部材37が棒本体36に着脱可能であれば、引っ掛け部材37は棒本体36に対して螺着されていてもよく、ビス等の固定具により固定されていてもよい。
【0092】
また、引っ掛け部材37は、棒本体36に対して着脱できない状態で設けられていてもよい。例えば、内側本体部36aと引っ掛け部材37とが一体成型された構成とする。
【0093】
(4)上記実施形態では、パイロットライン31が弾性変形可能であり、親綱25が柔軟性を有していたが、パイロットライン31及び親綱25の両方が弾性変形可能としてもよく、これら両方が柔軟性を有していてもよい。
【0094】
(5)上記実施形態では、操作棒32が伸縮可能な構成とされたが、操作棒32は伸縮させることができない構成としてもよい。この場合でも、接続工程や接続解除工程において、大型の操作棒32を地面に横倒しの状態で置き、第1作業者P1が操作棒32の先端部に移動することで、操作棒32に対するパイロットライン31の接続及び接続解除を行うことができる。
【0095】
(6)上記実施形態では、仮置き工程においてパイロットライン31と親綱25とを別々の袋体41a,41bに入れておいたが、これらパイロットライン31と親綱25とは1つの袋体41に入れておいてもよい。この場合でも、1つの袋体41の内部において、親綱25の上にパイロットライン31を配置することで、パイロットライン31に続いて親綱25が繰り出される状態をつくり出すことができる。
【0096】
また、パイロットライン31や親綱25は、操作棒32の操作に伴って繰り出し可能な状態で第1位置N1に仮置きされていれば、袋体41に入れられていなくてもよい。つまり、パイロットライン31や親綱25は、アンカー26,27に収納されているのではなく、専用の収納体に収納されていてもよい。
【0097】
(7)上記実施形態では、固定手段としてのアンカー26,27が水の入れられた袋体41とされていたが、アンカー26,27は、鋼材やコンクリートブロック等の重量物とされていてもよい。この場合、パイロットライン31や親綱25を収納する収納部は、アンカー26,27とは別に設けられていることが好ましい。また、親綱25は、基礎11や建物10の躯体の一部に対して固定されていてもよい。この場合は、基礎11や躯体が固定手段に相当する。
【0098】
(8)上記実施形態では、親綱25の設置作業について、仮置き工程の後に接続工程が行われていたが、接続工程は仮置き工程の前に行われてもよい。この場合、第1作業者P1等は、操作棒32の引っ掛け部33にパイロットライン31のリング部34を引っ掛けた状態で、これら操作棒32とパイロットライン31とをまとめて第1位置N1に運べばよい。
【0099】
また、接続解除工程は、回収工程の前ではなく回収工程の後に行われてもよい。これは、第1作業者P1が、パイロットライン31を第2位置N2側に回収した後でも、そのパイロットライン31を操作棒32から取り外すことが可能なためである。
【0100】
(9)上記実施形態では、第1位置N1においてパイロットライン31及び親綱25の両方を仮置きしたが、第1位置N1にはパイロットライン31だけを仮置きし、親綱25は第2位置N2に仮置きしてもよい。この場合、第1作業者P1は、反対位置Mに移動することでパイロットライン31を敷設した後、そのパイロットライン31を操作棒32から取り外して親綱25の先端部に接続し、第1位置N1側に戻ってこの第1位置N1側にパイロットライン31を引き戻すことで回収する。この作業手順でも、屋根13の上に親綱25を設置することができる。
【0101】
(10)上記実施形態では、親綱25を屋根13の上に設置する際にパイロットライン31を使用したが、パイロットライン31を使用しなくてもよい。例えば、パイロットライン31ではなく親綱25を操作棒32に接続し、操作棒32を操作することで親綱25を屋根13の上に載せる方法とする。この方法では、接続工程において、親綱25の先端部にリング部を取り付けておき、そのリング部を操作棒32の引っ掛け部33に引っ掛ける。また、移動工程では、第1作業者P1が親綱25が屋根13の上に載るように操作棒32を操作しながら移動する。接続解除工程では、親綱25のリング部を引っ掛け部33から取り外すことで、操作棒32に対する親綱25の接続を解除する。
【0102】
操作棒32にパイロットライン31及び親綱25のいずれを接続する場合でも、操作棒32に線状部材を接続することになり、第1作業者P1は、操作棒32を操作することで線状部材を屋根13の上に載せることになる。なお、操作棒32に親綱25を接続する場合には、親綱25が弾性変形可能な線状部材とされていることが好ましい。これにより、操作棒32を用いて親綱25を屋根13の上に載せる作業を容易化できる。
【0103】
(11)上記実施形態では、第1位置N1は地面に対して設定されていたが、第1位置N1は地面から上方に離間した位置(地面付近)に設定されていてもよい。例えば、地面の上に仮置き台が載置され、その仮置き台の上に第1アンカー26が置かれてもよい。
【0104】
(12)上記実施形態では、親綱25を設置した後に梯子23を屋根13に立て掛けたが、梯子23を屋根13に立て掛けた状態で親綱25の設置作業を行ってもよい。
【0105】
(13)上記実施形態では、新規の太陽光パネル21を建物10の屋根13に取り付ける際に親綱25が設置されたが、親綱25は、既設の太陽光パネル21のメンテナンスや、既設の屋根13のメンテナンス、建物10の新築工事に際して設置されてもよい。
【0106】
(14)上記実施形態では、親綱25を棟に交差して延びるように設置したが、親綱25を棟に沿って延びるように設置してもよい。また、親綱25を設置する屋根13は、切妻屋根ではなく、寄棟屋根や片流れ屋根、陸屋根とされていてもよい。
【符号の説明】
【0107】
10…建物、13…屋根、23…梯子、25…線状部材としての親綱、26…固定手段としての第1アンカー、31…線状部材としてのパイロットライン、32…操作棒、33…被接続部としての引っ掛け部、36…棒本体、37…引っ掛け部材、41…重り部を形成する収納部としての袋体、51…アーム部、N1…仮置き位置としての第1位置、M…反対位置、P1…作業者としての第1作業者。
図1
図2
図3
図4
図5
図6