【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2010/012913号
【特許文献2】国際公開第2010/052447号
【特許文献3】米国特許第7669798号明細書
【0009】
上述の保護又は粉砕装置は、追加の構造体を構成しなければならないという欠点を有し、これら追加の構造体の追加の質量は、航空機のペイロード(有効搭載量)にとって不利である。
【0010】
したがって、本発明者は、タイヤの外部に位置する追加の装置を用いないで、従って、航空機のペイロードを損なわないで、偶発的なタイヤトレッド分離が起きてもトレッドの断片の寸法及びかくして質量を減少させるという目的の達成に取り組んだ。
【0011】
この目的は、本発明によれば、航空機用タイヤであって、
‐トレッド表面を介して路面に接触するようになっていて、底面とトレッド表面との間で半径方向に延びるトレッドを有し、
‐トレッドは独立したキャビティを有する、航空機用タイヤにおいて、
各キャビティは、トレッド表面に設けられていて、円に内接した開放面を有し、キャビティの開放面に外接した円の中心は、タイヤの周囲の周長の少なくとも0.02倍に等しく且つ多くとも0.12倍に等しい軸方向間隔でトレッド表面の軸方向幅の少なくとも一部にわたり軸方向に分布して位置し、キャビティの開放面のところで外接した円の中心は、タイヤの周囲の周長の少なくとも0.02倍に等しく且つ多くとも0.12倍に等しい周方向間隔でタイヤの周囲の少なくとも一部にわたり周方向に分布して位置していることを特徴とする航空機用タイヤによって達成される。
【0012】
タイヤは、回転軸線を中心とした回転体の幾何学的形状を有するので、タイヤの幾何学的形状は、一般に、タイヤの回転軸線を含む子午面内に描かれる。所与の子午面の場合、半径方向、軸方向及び周方向は、それぞれ、タイヤの回転軸線に垂直な方向、タイヤの回転軸線に平行な方向及び子午面に垂直な方向を示している。タイヤの回転軸線に垂直であり且つタイヤのトレッドの中間を通る平面は、赤道面と呼ばれる。
【0013】
以下において、「半径方向」、「軸方向」、「周方向」という表現は、それぞれ、「半径(ラジアル)の方向に」、「軸線の方向に」、「円周の方向に」を意味している。
【0014】
一般に、タイヤは、トレッド表面(「踏み面」ともいう)を介して路面に接触するようになったトレッドを含むクラウンを有し、クラウンは、2つのサイドウォールによってリムに接触するようになった2つのビードに連結されている。
【0015】
トレッドは、半径方向内側の底面と半径方向外側のトレッド表面との間に半径方向に位置したトーラス又はドーナツ形の体積部又は塊であり、これは、タイヤの摩耗部分である。
【0016】
底面は、最大許容摩耗度を定める理論的に考えられた表面であり、摩耗レベルがこの底面に達すると、タイヤは、供用状態から外される。
【0017】
トレッド表面は、路面に接触するようになっている。慣例によれば、トレッド表面の軸方向幅は、新品状態にあるタイヤが垂直荷重とインフレーション圧力の組み合わせ作用を受けて32%に等しい半径方向撓みを生じたときにトレッド表面の軸方向接触限度相互間の軸方向距離であるとして定められている。定義によれば、タイヤの半径方向撓みは、タイヤが無負荷インフレート状態から静荷重を受けたインフレート状態に移った際のその半径方向変形量又は半径方向高さの相対変化である。この半径方向撓みは、タイヤの半径方向高さの変化分と、タイヤの外径とリムフランジ上で測定されたリムの最大直径との差の半分の比によって定められる。タイヤの外径は、例えばタイヤ・リム協会(Tire and Rim Association)、即ちTRAによって推奨される公称圧力までインフレートされた無負荷状態における静的条件下で測定される。
【0018】
トレッドは、一般に、中実ではなく、トレッドは、特にタイヤを路面にグリップさせる要件を満たすためにキャビティを有する。通常、トレッドは、底面から半径方向外方に延びる隆起要素で構成され、これら隆起要素は、ボイド(空所)によって互いに隔てられている。航空機用タイヤの場合、隆起要素は、通常、周方向溝と呼ばれる周方向ボイドによって互いに隔てられた周方向リブである。本発明では、トレッド中のキャビティは、互いに独立したキャビティであり、このことは、言わば、互いに繋がっていないキャビティであることを意味している。
【0019】
トレッドの半径方向内側にはクラウン補強材が配置され、このクラウン補強材は、タイヤのクラウン補強構造体である。航空機用タイヤのクラウン補強材は、一般に、クラウン層と呼ばれる少なくとも1つのクラウン補強層を有する。各クラウン層は、エラストマー材料、即ち、天然又は合成ゴムを主成分とするエラストマー材料で被覆された補強要素で構成され、相互に平行な補強要素は、周方向と+20°〜−20°の角度をなしている。航空機用タイヤでは、クラウン層の補強要素は、一般に、波状に起伏した曲線の状態をなして周方向に配列されている。
【0020】
クラウン層のうちで、通常はテキスタイル補強要素から成る実働補強材を構成する実働層と通常は金属又はテキスタイル補強要素から成っていて実働補強材の半径方向外側に配置された保護補強材を構成する保護層とが区別される。実働層は、クラウンの機械的挙動を支配する。実働層の補強要素は、通常、好ましくは脂肪族ポリアミド又は芳香族ポリアミドで作られた延伸テキスタイルフィラメントで作られたコードである。保護層は、本質的に、トレッドを通ってタイヤの内側に向かって半径方向に広がる恐れのある攻撃から実働層を保護する。保護層の補強要素は、金属細線で作られたコードであるか延伸テキスタイルフィラメントで構成されたコードであるかのいずれかであるのが良い。
【0021】
本発明によれば、各キャビティは、トレッド表面に設けられていて、円に内接した開放面を有する。キャビティは、トレッドに設けられていて、開放面に従ってトレッド表面上に開口した穴である。開放面は、任意の形状、例えば(非限定的な例を挙げると)、円の形状、楕円形の形状、正方形の形状、長方形の形状、十字の形状又は山形の形状を有することができる。この開放面は、直径が開放面の最大寸法に一致した円に内接した状態で設けられるのが良い。キャビティは、トレッド表面と底面との間の半径方向距離の少なくとも半分に等しい相当大きな半径方向高さにわたって内側に向かって半径方向に延びた穴である。
【0022】
また、本発明によれば、キャビティの開放面に外接した円の中心は、タイヤの周囲の周長の少なくとも0.02倍に等しく且つ多くとも0.12倍に等しい軸方向間隔でトレッド表面の軸方向幅の少なくとも一部にわたり軸方向に分布して位置している。
【0023】
トレッド表面の軸方向幅は、慣例によれば、新品状態にあるタイヤが垂直荷重とインフレーション圧力の組み合わせ作用を受けて32%に等しい半径方向撓みを生じたときにトレッド表面の軸方向接触限度相互間の軸方向距離であるとして定められている。定義によれば、タイヤの半径方向撓みは、タイヤが無負荷インフレート状態から静荷重を受けたインフレート状態に移った際のその半径方向変形量又は半径方向高さの相対変化である。この半径方向撓みは、タイヤの半径方向高さの変化分と、タイヤの外径とリムフランジ上で測定されたリムの最大直径との差の半分の比によって定められる。タイヤの外径は、公称圧力までインフレートされた無負荷状態における静的条件下で測定される。
【0024】
軸方向間隔は、2つの連続して位置するキャビティの開放面のところで外接した円の中心相互間の軸方向距離である。軸方向間隔は、一定であっても良く可変であっても良い。
【0025】
タイヤの周囲の周長は、トレッド表面の展開長さである。実際、かかる周方向長さは、リムに取り付けられておらず且つ非インフレート状態の新品状態にあるタイヤについて例えば巻尺を用いて測定されるのが良い。
【0026】
さらに本発明によれば、キャビティの開放面のところで外接した円の中心は、タイヤの周囲の周長の少なくとも0.02倍に等しく且つ多くとも0.12倍に等しい周方向間隔でタイヤの周囲の少なくとも一部にわたり周方向に分布して位置している。
【0027】
周方向間隔は、2つの連続して位置するキャビティの開放面のところで外接した円の中心相互間の周方向距離である。周方向間隔は、一定であっても良く可変であっても良い。
【0028】
航空機用タイヤが離陸又は着陸段階の際に、ずんぐりとした物体を踏むと、このずんぐりとした物体は、トレッドを切り、そして或る特定の半径方向厚さにわたりトレッドの亀裂を開始させる場合がある。この亀裂は、トレッド表面の接触パッチに入ると、ホイールの各回転による機械的繰り返し応力の作用を受けて、この亀裂は、タイヤの内部に向かって半径方向最も外側の層のクラウン層まで半径方向に広がり、次に、半径方向最も外側のクラウン層の半径方向外側フェースに沿って軸方向且つ周方向に広がり、それにより、タイヤのクラウンが半径方向最も外側のクラウン層のところで切断される。機械的応力及び特に遠心力の作用を受けて、亀裂は、タイヤの種々の方位角でトレッドを介してタイヤの外部に向かって半径方向に広がることにある。その結果、様々な寸法の断片の形態でこのようにして切り出されたトレッドの部分又はそれどころか事実上トレッド全体は、タイヤからとれ、そして航空機の構造体にぶつかり又はエンジンに入る恐れをもった状態で外方に飛び散る。
【0029】
従来型トレッド(これは、周方向溝によって互いに隔てられた周方向リブを有するトレッドであることを意味する)の場合、トレッドの断片は、軸方向部分にわたり又はトレッドの軸方向幅全体にわたり軸方向に延びていると言える。トレッドの断片は、タイヤの周囲の大部分にわたり又はそれどころかその周囲全体にわたり周方向に延びる場合がある。その結果、飛び散るトレッドの断片は、航空機の構造体又はエンジンを損傷させる恐れのある不都合な寸法及び質量を有する。
【0030】
本発明のトレッド、即ち、軸方向に分布して設けられたキャビティ及び周方向に分布して設けられたキャビティを有するトレッドの場合、トレッドの断片は、従来型トレッドの場合よりも小さな軸方向及び周方向寸法を有する。
【0031】
これは、キャビティがトレッドの半径方向厚さの局所減少に対応する限り、トレッドの切断を開始させる領域を構成するからである。半径方向厚さのこの減少により、ヒンジ効果が得られる。というのは、キャビティが、トレッド表面の接触パッチに入ってこれから出るからである。かくして、かかる減少は、半径方向最も外側のクラウン層の半径方向外側フェースから半径方向外方に広がる亀裂の出現を促進する。キャビティがホイールの各回転により接触パッチを通過するときにキャビティの開閉を交互に行う機械的応力により、亀裂は、広がりやすくなり、これら亀裂は又、トレッドの半径方向厚さの局所減少が行われるとすれば、より迅速に開く。換言すると、キャビティは、亀裂の出現及びトレッドの切断の開始を促進する局所弱体化又は脆弱領域を構成する。
【0032】
それぞれ規定された軸方向及び周方向間隔で軸方向及び周方向に分布して配置されたキャビティは、トレッドの好ましい亀裂発生平面を定めるキャビティの2次元ネットワークを構成する。これは、キャビティがこの2次元ネットワークのセルの頂点を構成しているからである。キャビティのところに出現した亀裂は、1つのキャビティから別のキャビティに広がり、それによりトレッドをこのネットワークのセルの状態に切断する。本発明者は、トレッドの切断の結果として得られるトレッドの断片の最大軸方向及び周方向寸法がネットワークのセルの寸法によって制限されるということに注目することができた。
【0033】
かくして、本発明者は、最大寸法が航空機製造業者の仕様を満たすトレッドの断片を得るためにトレッド表面の軸方向幅に沿うキャビティの軸方向分布及びタイヤの周囲に沿うキャビティの周方向分布を最適化しようとした。この最適化により、本発明者は、タイヤの周囲の周長の0.02倍の値と多くとも0.12倍に等しい値との間にある軸方向間隔及び周方向間隔を選択した。具体的に説明すると、タイヤの周囲の周長の0.12倍に等しい最大周方向間隔により、トレッド表面を接触パッチ内に周方向の少なくとも1つのキャビティが存在するようになる。基準接触パッチは、32%の半径方向撓みをもたらす垂直荷重及びインフレーション圧力の組み合わせを受ける新品タイヤの接触パッチである。
【0034】
キャビティの開放面のところで外接した円の中心の軸方向間隔は、トレッドの摩耗量を最大にし、分離状態になりがちなトレッドの断片の最大軸方向幅を過度に制限することがないようタイヤの周囲の周長の少なくとも0.06倍に等しい。
【0035】
キャビティの開放面のところで外接した円の中心の周方向間隔は、更に有利には、トレッドの摩耗量を最大にし、分離状態になりがちなトレッドの断片の最大周方向長さを過度に制限することがないようタイヤの周囲の周長の少なくとも0.06倍に等しい。また、この間隔により、トレッド表面の接触パッチ内において列1つ当たり少なくとも2つのキャビティを周方向に設けることが可能である。
【0036】
また、キャビティの開放面のところで外接した円の中心を一定である軸方向間隔でトレッド表面の軸方向幅全体にわたって軸方向に分布して配置し、それによりトレッドの脆弱な領域の一様な存在及びかくして軸方向における亀裂の一様な開口を保証することが有利である。
【0037】
同様に、キャビティの開放面のところで外接した円の中心を一定である周方向間隔でタイヤの周囲全体にわたって周方向に分布して配置し、それによりトレッドの脆弱な領域の一様な存在及びかくして周方向における亀裂の一様な開口を保証することが有利である。
【0038】
好ましい実施形態によれば、キャビティの開放面のところで外接した円の中心の軸方向間隔と周方向間隔は、等しい。この特徴は、トレッドが一様なメッシュセルに分割され、より一貫性のあるトレッド片寸法を促進するようにする。
【0039】
キャビティの開放面のところで外接した円の半径は、少なくとも1.5mmに等しい。これは、開放面の最小サイズであり、従って、トレッドの切断を開始することができるキャビティの最小サイズである。
【0040】
キャビティの開放面のところで外接した円の半径は、多くとも軸方向間隔の0.25倍に等しく且つ多くとも周方向間隔の0.25倍に等しく、それにより2つのキャビティ相互間に十分な材料が存在するようにすると共にトレッドが塊状体によって損傷を受けていないときに通常の動作中におけるトレッドの弱体化が回避される。これは、トレッドが通常の動作中、無傷のままであるようにすることが重要だからである。
【0041】
好ましい実施形態によれば、キャビティの平均平面は、相互に平行であり且つ周方向と角度をなす平均平面の第1の系列と相互に平行であり且つ第1の系列の平均平面に垂直な平均平面の第2の系列との間に分布して配置されている。本発明との関連で定められるキャビティの平均平面は、開放面に垂直に且つ開放面の最も長い寸法方向に沿って差し向けられる。このようにして得られたキャビティの2次元ネットワークは、従って、トレッドの均一な切断に好適な長方形又は正方形のセルで構成される。
【0042】
先の好ましい実施形態の第1の変形形態によれば、平均平面の第1の系列の角度は、0°に等しい。これらの条件の下で、平均平面の第2の系列の角度は、周方向に対して90°に等しく、これは、キャビティが接触パッチに入ってこれを出るときに平均平面がこの第2の系列に属するキャビティの開閉サイクルにとって特に望ましい。
【0043】
先の好ましい実施形態の第2の変形形態によれば、平均平面の第1の系列の角度は、45°に等しい。これらの条件下においては、平均平面の第2の系列の角度も又、45°に等しい。その結果、この45°の角度は、キャビティが接触パッチに入ってこれを出るときに両方の系列のキャビティの開閉サイクルに好都合であろう。
【0044】
最後に、キャビティの半径方向高さは、少なくともトレッドの半径方向高さの半分に等しく且つ多くともトレッドの半径方向高さに等しければ有利である。最小半径方向高さは、キャビティが十分に効果的であることが必要であるということによって許容される。最大半径方向高さは、キャビティが最大許容トレッド摩耗を超えて延びてはならないということによって妥当とされる。キャビティの半径方向高さの最適化も又、意図したタイヤの耐摩耗性に対して必要なトレッドの体積で決まる。キャビティは、必ずしも、同一の半径方向高さを有する必要はなく、その結果、キャビティは、適宜マルチレベルトレッド摩耗インジケータを構成することができるようになる。
【0045】
本発明の特徴及び他の利点は、
図1〜
図5の助けにより良好に理解されよう。