(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、自動車、建設資材等における用途に好適な高強度冷間圧延鋼板(high strength cold rolled steel sheet)、具体的には成形性に優れた高強度鋼板に関する。特に、本発明は、少なくとも980MPaの引張強度を有する冷間圧延鋼板に関する。
【0002】
背景技術
多種多様な用途において、強度レベルの増加は、特に自動車産業における軽量構造物のための必要条件であるが、これは、車体質量の低減が燃料消費の節減をもたらすためである。
【0003】
自動車車体部品は、多くの場合鋼板から打ち抜かれ、薄板の複雑な構造部材を形成する。しかしながら、そのような部品は、複雑な構造部品には低すぎる成形性のため、従来の高強度鋼から作製することができない。この理由から、多相変態誘起塑性補助鋼(TRIP鋼)が、ここ数年非常に注目を集めている。
【0004】
TRIP鋼は、TRIP効果を生じ得る準安定残留オーステナイト相を含む多相ミクロ組織を有する。鋼が変形される際、オーステナイトはマルテンサイトに変態し、これにより著しい加工硬化が得られる。この硬化効果は、材料のネッキングに抵抗して板成形操作における破壊を遅らせるように作用する。TRIP鋼のミクロ組織は、その機械的特性を大きく改変し得る。TRIP鋼ミクロ組織の最も重要な側面は、残留オーステナイト相の体積パーセント、サイズおよびモルホロジーであるが、これは、これらの特性が、鋼が変形される際のオーステナイトからマルテンサイトへの変態に直接影響するためである。室温でオーステナイトを化学的に安定化するためのいくつかの手法がある。低合金TRIP鋼において、オーステナイトは、その炭素含量、およびオーステナイト結晶粒の微小なサイズにより安定化される。オーステナイトを安定化するために必要な炭素含量は、約1重量%である。しかしながら、鋼中の高炭素含量は、溶接性の低下のため、多くの用途において使用することができない。
【0005】
したがって、室温でオーステナイトを安定化するべく、オーステナイト中に炭素を濃縮するために、特定の処理経路が必要である。一般的なTRIP鋼化学はまた、オーステナイトの安定化を助けるために、および炭素をオーステナイト中に分配するミクロ組織の形成を補助するために、他の元素を少量添加することを含む。最も一般的な添加は、共に1.5重量%のSiおよびMnである。ベイナイト変態中にオーステナイトが分解するのを妨げるために、一般にケイ素含量が少なくとも1重量%となるべきであることが必要と考えられている。ケイ素はセメンタイト中に固溶しないため、鋼のケイ素含量は重要である。US 2009/0238713は、そのようなTRIP鋼を開示している。しかしながら、高ケイ素含量は、熱間圧延鋼の低い表面品質および冷間圧延鋼の低い被覆性の原因となり得る。したがって、他の元素によるケイ素の部分的または完全な置換が調査されており、Al系合金設計に対して有望な結果が報告されている。しかしながら、アルミニウムの使用に関する欠点は、変態温度(A
c3)の上昇であり、これによって、従来の工業的焼なましラインにおける完全オーステナイト化が非常に困難または不可能となる。
【0006】
マトリックス相に応じて、以下の主要な種類のTRIP鋼が挙げられる。
【0007】
TPF ポリゴナルフェライト(polygonal ferrite)のマトリックスを有するTRIP鋼
TPF鋼は、すでに上述したように、ベイナイトおよび残留オーステナイトからの含有物(inclusions)を有する比較的軟質のポリゴナルフェライトからのマトリックスを含有する。残留オーステナイトは、変形時にマルテンサイトに変態し、望ましいTRIP効果をもたらし、これによって、鋼は、強度および絞り性(drawability)の優れた組合せを達成することができる。しかしながら、その伸びフランジ性(stretch flangability)は、ミクロ組織がより均質でマトリックスがより強固であるTBF、TMFおよびTAM鋼と比較してより低い。
【0008】
TBF ベイニティックフェライトのマトリックスを有するTRIP鋼
TBF鋼は、ベイニティックフェライトマトリックスが優れた伸びフランジ性を可能とするため、長い間知られ多くの注目を集めている。さらに、TPF鋼と同様に、準安定残留オーステナイトアイランドからマルテンサイトへの歪み誘起変態により確実となるTRIP効果が、その絞り性を大幅に改善する。
【0009】
TMF マルテンシティックフェライト(martensitic ferrite)のマトリックスを有するTRIP鋼
TMF鋼もまた、強固なマルテンサイトマトリックス中に埋め込まれた準安定残留オーステナイトの微小アイランドを含有し、これによって、これらの鋼は、TBF鋼と比較してさらにより良好な伸びフランジ性を達成することができる。これらの鋼もまたTRIP効果を示すが、その絞り性は、TBF鋼と比較してより低い。
【0010】
TAM 焼なましされたマルテンサイトのマトリックスを有するTRIP鋼
TAM鋼は、新鮮なマルテンサイトの再焼なましにより得られる針状フェライトからのマトリックスを含有する。この場合も、歪み時の準安定残留オーステナイト含有物のマルテンサイトへの変態により、顕著なTRIP効果が可能となる。その強度、絞り性および伸びフランジ性の有望な組合せにもかかわらず、これらの鋼は、その複雑で高額となる二重の熱サイクルに起因して、工業的には著しい注目を集めていない。
【0011】
TRIP鋼の成形性は、主として残留オーステナイト相の変態特性により影響され、一方この特性は、オーステナイト化学、そのモルホロジー、およびその他の因子により影響される。ISIJ International Vol. 50(2010)、No. 1、p. 162-168において、少なくとも980MPaの引張強度を有するTBF鋼の成形性に影響する側面が議論されている。しかしながら、この文献において考察された冷間圧延材料は、950℃で焼なましされ、塩浴中300〜500℃で200秒間オーステンパーされた。したがって、高い焼なまし温度に起因して、これらの材料は従来の工業的焼なましラインにおける作製に適していない。
【0012】
発明の開示
本発明は、少なくとも980MPaの引張強度を有し、優れた成形性を有する高強度冷間圧延鋼板、およびこの鋼板を工業規模で作製する方法に関する。特に、本発明は、従来の工業的焼なましラインにおける作製に適した特性を有する冷間圧延TBF鋼板に関する。したがって、鋼板は、良好な成形特性を有するだけでなく、同時にA
c3温度、M
s温度、オーステンパー時間および温度、ならびに、熱間圧延鋼板の表面品質および工業的焼なましラインにおける鋼板の処理性に影響する粘着性スケール等の、他の因子に関して最適化されるであろう。
【0013】
詳細な説明
本発明は、特許請求の範囲において記載されている。
【0014】
冷間圧延高強度TBF鋼板は、(重量%で)以下の元素:
C 0.1〜0.3
Mn 2.0〜3.0
Si 0.4〜1.0
Cr 0.1〜0.9
Si+Cr ≧0.9
Al ≦0.8
Nb <0.1
Mo <0.3
Ti <0.2
V <0.2
Cu <0.5
Ni <0.5
B <0.005
Ca <0.005
Mg <0.005
REM <0.005
残部 不純物のほかにFe
からなる組成を有する。
【0015】
元素の限定について、以下で説明する。
【0016】
元素C、Mn、SiおよびCrは、以下に記載の理由から、本発明に必須である。
【0017】
C:0.1〜0.3%
Cは、オーステナイトを安定化する元素であり、残留オーステナイト相内の十分な炭素を得るために重要である。Cはまた、所望の強度レベルを得るために重要である。一般に、0.1%C当たり約100MPaの引張強度の増加が期待され得る。Cが0.1%未満である場合、980MPaの引張強度を達成するのは困難である。Cが0.3%を超える場合、溶接性が低下する。この理由から、好ましい範囲は、所望の強度レベルに依存して、0.15〜0.25%、0.15〜0.19%、または0.19〜0.23%である。
【0018】
Mn:2.0〜3.0%
マンガンは、M
s温度を低下させることによりオーステナイトを安定化し、冷却中にフェライトおよびパーライトが形成されるのを防止する、固溶強化元素である。さらに、Mnは、A
c3温度を低下させる。2%未満の含量では、980MPaの引張強度を得ることは困難となるかもしれず、またオーステナイト化温度が、従来の工業的焼なましラインには高すぎるかもしれない。しかしながら、Mnの量が3%を超える場合、偏析の問題が生じる可能性があり、加工性が低下する可能性がある。
【0019】
したがって、好ましい範囲は、2.0〜2.6%、2.1〜2.5%、2.3〜2.5%および2.3〜2.7%である。
【0020】
Si:0.4〜1.0
Siは、固溶強化元素として作用し、薄い鋼板の強度を確保するために重要である。Siは、セメンタイト中に固溶せず、したがって、セメンタイトが形成し得る前にベイナイト粒界から離れてSiが拡散するのに時間をかけなければならないため、ベイナイト変態中の炭化物の形成を大幅に遅延させるように作用することになる。
【0021】
したがって、好ましい範囲は、0.6〜1.0%、0.6〜1.0、0.7〜0.95%および0.75〜0.90%である。
【0022】
Cr:0.1〜0.9
Crは、鋼板の強度の増加に効果的である。Crは、フェライトを形成し、パーライトおよびベイナイトの形成を阻害する元素である。A
c3温度およびM
s温度は、Cr含量の増加により若干低下するのみである。予想外にも、Crの添加は、安定化残留オーステナイトの量の大幅な増加をもたらす。しかしながら、ベイナイト変態の阻害(retardation)により、通常のライン速度を使用した場合に従来の工業的焼なましライン上の処理が困難または不可能となる程、より長い保持時間が必要である。この理由から、Crの量は、好ましくは0.6%に制限される。したがって、好ましい範囲は、0.15〜0.6%、0.15〜0.35%、0.2〜0.4%、および0.25〜0.35%である。
【0023】
Si+Cr:≧0.9
SiおよびCrは、組み合わせて添加されると、残留オーステナイトの量の増加に対して相乗的な全く予想外の効果を有し、ひいてはこれが展伸性(ductility)の改善をもたらす。これらの理由から、Si+Crの量は、好ましくは1.4%に制限される。したがって、好ましい範囲は、1.0〜1.4%、1.05〜1.30%および1.1〜1.2%である。
【0024】
Mn+1.3*Cr:≦3.5
MnおよびCrは、ベイナイト形成を大きく遅延させ、ベイナイト範囲における保持中に少しだけの安定化を伴う未変態オーステナイトの割合を高くする。冷却中、高い割合の残留オーステナイトがマルテンサイトに変態し、最終的なミクロ組織中に大きなマルテンサイト/オーステナイト粒子の存在をもたらす。この場合、やや低い穴広げ値(hole expansion value)が得られ、したがって、Mn+1.3*Crは、3.5に制限されなければならず、好ましくは、Mn+1.3*Cr≦3.2である。
【0025】
C、Mn、SiおよびCrに加えて、鋼は、任意選択で、ミクロ組織を調節し、変態速度に影響を与え、ならびに/または機械的特性の1つもしくは複数を微調整するために、以下の元素の1種または複数種を含有してもよい。
【0026】
Al:≦0.8
Alは、フェライト形成を促進し、また脱酸素剤としても一般的に使用されている。Alは、Siと同様に、セメンタイト中に固溶せず、したがって、セメンタイトが形成し得る前にベイナイト粒界から離れて拡散しなければならない。M
s温度は、Al含量の増加と共に増加する。Alのさらなる欠点は、オーステナイト化温度が従来のCAラインには高過ぎる恐れがあるほどに、A
c3温度の劇的な増加をもたらすことである。これらの理由から、Al含量は、好ましくは0.1%未満、最も好ましくは0.06%未満に制限される。
【0027】
Nb:<0.1
Nbは、結晶粒度の成長に対するその著しい影響のため、低合金化鋼において強度および靭性を改善するために一般的に使用される。Nbは、NbCの析出によりマトリックスミクロ組織および残留オーステナイト相を精製すること(refining)によって、強度−伸びバランスを増加させる。鋼は、任意選択で、少なくとも0.015Nb、好ましくは少なくとも0.025Nbを含有してもよい。0.1%を超える含量では、その効果は飽和する。
【0028】
したがって、好ましい範囲は、0.01〜0.08%、0.01〜0.04%および0.01〜0.03%であり、さらにより好ましい範囲は、0.02〜0.08%、0.02〜0.04%および0.02〜0.03%である。
【0029】
Mo:<0.3
Moは、強度を改善するために添加され得る。Nbと共にMoを添加することは、微細NbMoCの析出をもたらし、これは、強度および展伸性の組合せのさらなる改善をもたらす。
【0030】
Ti:<0.2; V:<0.2
これらの元素は、析出硬化に効果的である。Tiは、0.01〜0.1%、0.02〜0.08%、または0.02〜0.05%の好ましい量で添加され得る。Vは、0.01〜0.1%または0.02〜0.08%の好ましい量で添加され得る。
【0031】
Cu:<0.5; Ni:<0.5
これらの元素は、固溶強化元素であり、耐腐食性にプラスの効果を有し得る。これらは、必要に応じて、0.05〜0.5%または0.1〜0.3%の量で添加され得る。
【0032】
B:<0.005
Bは、フェライトの形成を抑制し、鋼板の溶接性を改善する。認め得るほどの効果を有するためには、少なくとも0.0002%が添加されるべきである。しかしながら、過剰量は、加工性を低下させる。
【0033】
好ましい範囲は、<0.004%、0.0005〜0.003%および0.0008〜0.0017%である。
【0034】
Ca:<0.005; Mg:<0.005; REM:<0.005
これらの元素は、鋼板中の含有物のモルホロジーを制御し、それにより、穴広げ性(hole expansibility)および伸びフランジ性を改善するために添加され得る。
【0035】
好ましい範囲は、0.0005〜0.005%および0.001〜0.003%である。
【0036】
Si>Al
Alは、Siと比較して、オーステナイト化温度をより顕著に上昇させるため、本発明による高強度冷間圧延鋼板は、ケイ素ベースの設計を有し、すなわち、Siの量はAlの量より多く、好ましくはSi>1.3Al、より好ましくはSi>2Al、最も好ましくはSi>3Al、またはさらにSi>10Alである。
【0037】
Si>Cr
本発明の鋼板において、特にケイ素ベースの設計を有する鋼板において、Siの量をCrの量より多くなるように制御し、ベイナイト変態に対する阻害効果に起因してCrの量を制限することが好ましい。このため、Si>Cr、好ましくはSi>1.3Cr、より好ましくはSi>1.5Cr、さらにより好ましくはSi>2Cr、最も好ましくはSi>3Crを維持することが好ましい。
【0038】
冷間圧延高強度TBF鋼板は、(体積%で)以下を含む多相ミクロ組織を有する。
残留オーステナイト 5〜20
ベイナイト+ベイニティックフェライト+焼戻しマルテンサイト ≧80
ポリゴナルフェライト ≦10。
【0039】
残留オーステナイト(RA)の量は、5〜20%、好ましくは5〜16%である。TRIP効果のため、残留オーステナイトは、高い伸びが必要な場合の必須条件である。多量の残留オーステナイトは、伸びフランジ性を低下させる。これらの鋼板において、ポリゴナルフェライトは、ベイニティックフェライト(BF)で置き換えられ、ミクロ組織は、一般的に50%を超えるBFを含有する。マトリックスは、高転位密度により強化されたBFラスからなり、ラスの間に残留オーステナイトが存在する。少量のマルテンサイトが最終的なミクロ組織内に存在してもよい。これらのマルテンサイト粒子は、多くの場合、残留オーステナイト粒子と密に接触しており、したがって、マルテンサイト−オーステナイト(MA)粒子と呼ばれる。マルテンサイト−オーステナイト(MA)粒子のサイズは、高穴広げ性型(high hole expansibility type)鋼板が望ましい場合は最大3μmとなるであろうが、高伸び型(high elongation type)鋼板の場合は、サイズは6μmまでとなり得る。
【0040】
残留オーステナイトの量は、Proc. Int. Conf. on TRIP-aided high strength ferrous alloys (2002)、Ghent、Belgium、p. 61-64において詳細に説明される飽和磁化法を用いて測定された。
【0041】
MA粒子のサイズは、レペラー(LePera)カラーエッチング後の光学顕微鏡写真から、画像分析ソフトウェアを使用して決定された。このエッチング技術は、例えば、Metallography、Vol. 12 (1979)、No. 3、p. 263-268において十分に説明されている。
【0042】
冷間圧延高強度TBF鋼板は、以下の機械的特性を有する。
引張強度(R
m) ≧980MPa
全伸び(A
80) ≧4%
穴広げ率(hole expanding ratio)(λ) ≧20%。
【0043】
穴広げ率(λ)は、好ましくは25%、より好ましくは≧30%、さらにより好ましくは≧40%である。
【0044】
R
mおよびA
80値は、欧州規格EN 10002 Part 1に従って得られ、試料は、ストリップの長手方向に沿って採取された。
【0045】
穴広げ率(λ)は、ISO/WD16630に従う穴広げ試験により決定された。この試験において、60°の先端を有する円錐ポンチが、100×100mm
2のサイズを有する鋼板に形成された直径10mmの穿孔穴に押し込まれる。最初の亀裂が特定された時点で試験は終了され、穴の直径が互いに直交する2つの方向において測定される。計算には算術平均値が使用される。
【0046】
%での穴広げ率(λ)は、以下のように計算される。
λ=(Dh−Do)/Do×100
式中、Doは、開始時の穴の直径(10mm)であり、Dhは、試験後の穴の直径である。
【0047】
鋼板の成形特性は、強度−伸びバランス(R
m×A
80)および伸びフランジ性(R
m×λ)のパラメータによりさらに評価された。
【0048】
伸び型鋼板は、高い強度−伸びバランスを有し、高穴広げ性型鋼板は、高い伸びフランジ性を有する。
【0049】
本発明の鋼板は、以下の条件の少なくとも1つを満たす。
R
m×A
80 ≧13000MPa%
R
m×λ ≧40000MPa%。
【0050】
本発明の鋼板の機械的特性は、合金組成およびミクロ組織により大きく調節され得る。
【0051】
本発明の1つの考えられる変形形態によれば、鋼は、0.15〜0.19C、2.1〜2.5Mn、0.7〜0.95Si、0.15〜0.35Crを含む。任意選択で、Si+Crは≧1.0に調整され、さらに、鋼は、0.02〜0.03Nbを含んでもよい。鋼板は、以下の要件:
(R
m)=980〜1200MPa、(A
80)≧6、好ましくは7%、(λ)≧20%、好ましくは≧40%
の少なくとも1つを満たし、さらに、
R
m×A
80≧13000MPa%およびR
m×λ≧40000MPa%、好ましくは≧50000MPa%
の少なくとも1つを満たす。典型的な化学組成は、0.17C、2.3Mn、0.85Si、0.25Cr、最大0.025Nb、不純物のほかにFeの残部、を含んでもよい。
【0052】
本発明の別の考えられる変形形態によれば、鋼は、0.19〜0.23C、2.3〜2.7Mn、0.7〜0.95Si、0.2〜0.4Crを含む。任意選択で、Si+Crは≧1.1に調整され、さらに、鋼は、0.01〜0.03Nbを含んでもよい。鋼板は、以下の要件:
(R
m)=1180〜1500MPa、(A
80)≧6、好ましくは7%、(λ)≧20%、好ましくは≧31%
の少なくとも1つを満たし、さらに、
R
m×A
80≧13000MPa%およびR
m×λ≧40000MPa%、好ましくは≧45000MPa%
の少なくとも1つを満たす。典型的な化学組成は、0.21C、2.5Mn、0.85Si、0.3Cr、0.07Mo、最大0.025Nb、不純物のほかにFeの残部、を含んでもよい。
【0053】
本発明の鋼板は、従来の工業的焼なましラインにおいて作製され得る。その処理は、
a)上に記載のような組成を有する冷間圧延鋼帯を用意する工程と、
b)冷間圧延ストリップを、A
c3温度を超える焼なまし温度T
anで焼なましして、鋼を完全に(fully)オーステナイト化する工程と、続いて、
c)フェライト形成を回避するのに十分な冷却速度であって、20〜100℃/秒である冷却速度で、冷間圧延鋼帯を、特に680〜750℃から、320℃〜475℃の範囲内の急冷の冷却停止温度T
RCまで冷却する工程と、続いて
d)T
MS−60℃からT
MS+90℃の範囲内のオーステンパー温度T
OAで、冷間圧延鋼帯をオーステンパーする工程と、
e)冷間圧延鋼帯を、周囲温度まで冷却する工程とを含む。
【0054】
そのプロセスは、好ましくは以下の工程を含むであろう。
工程b)において、焼なましは、840〜860℃で、100秒まで、好ましくは20〜80秒の焼なまし保持時間t
anの間行われ、
工程c)において、冷却は、焼なまし温度T
anから、680℃から750℃の間にある徐冷の停止温度T
SCまでの、約3〜20℃/秒の第1の冷却速度CR1で、および急冷の停止温度T
RCまでの、20℃/秒から100℃/秒の間の第2の冷却速度CR2で行われ、
工程d)において、オーステンパーは、350℃と475℃の間にある温度T
OA、および150〜450秒、好ましくは280〜320秒の期間(time interval)t
OAで行われる。
【0055】
好ましくは、工程c)とd)の間に、冷間圧延鋼帯に外部加熱が行われない。
【0056】
熱処理条件を調整する理由を、以下に記載する。
【0057】
焼なまし温度T
an>A
c3温度:
鋼を完全にオーステナイト化することにより、ポリゴナルフェライトの量が制御され得る。焼なまし温度T
anがA
c3温度未満である場合、ポリゴナルフェライトの量が10%を超える危険性がある。過剰のポリゴナルフェライトは、より大きなサイズのMA成分をもたらす。
【0058】
320〜475℃の範囲内の急冷の冷却停止温度T
RC:
急冷の冷却停止温度T
RCを、320℃と475℃の間の温度に制御することにより、MA成分のサイズおよび残留オーステナイトRAの量が制御され得る。急冷の冷却停止温度T
RCがこの温度範囲を超過する場合、MA成分のサイズはより大きくなり、RAの量はより低くなる。さらに、T
RCが上述の温度範囲より低い場合、RAの量はより低くなる。これらの状況は両方とも、鋼板の均一な伸びおよび全伸びの低下をもたらす。
【0059】
T
MS−60℃からT
MS+90℃の範囲内のオーステンパー温度T
OA:
オーステンパー温度T
OAを、T
MS−60℃からT
MS+90℃、好ましくはT
MS−60℃からT
MS+80℃の間の温度に制御することにより、残留オーステナイトRAの量が制御され得る。より低いオーステンパー温度T
OAは、RAの量を低下させる。より高いオーステンパー温度T
OAは、RAの量を低下させ、MA成分のサイズを増加させる。T
RCと同様に、これらの状況は両方とも、鋼板の均一な伸びAgおよび全伸びA
80を低下させる。
【0060】
第1および第2の冷却速度、CR1、CR2:
焼なまし温度T
anから、680℃と750℃の間の温度範囲内の徐冷の停止温度T
SCまでの第1の冷却速度CR1を、約3〜20℃/秒に、また急冷の停止温度T
RCまでの−20〜100℃/秒の第2の冷却速度CR2を制御することにより、ポリゴナルフェライトの量が制御され得る。冷却速度CR2の低下は、ポリゴナルフェライトの量を10%超まで増加させることになる。第1の冷却速度CR1は、多くの焼なましラインのレイアウトに由来し、またそれ自体は、鋼板のミクロ組織および機械的特性に直接影響を与えない。しかしながら、焼なましラインの一部として、この冷却速度は、全体の焼なましサイクルが達成され得るように正確に調節されなければならない。
【0061】
本発明の一実施形態において、鋼板は、13000MPa%以上、好ましくは13500MPa%以上、最も好ましくは14000MPa%以上の強度−伸びバランスR
m×A
80を有する高伸び型鋼板である。その場合、工程d)は、T
Ms−30℃からT
Ms+90℃、例えばT
Ms−30℃から475℃、好ましくはT
Ms−10℃から440℃のオーステンパー温度で行われる。
【0062】
本発明の別の実施形態において、鋼板は、40000MPa%以上、好ましくは50000MPa%以上、最も好ましくは55000MPa%以上の伸びフランジ性R
m×λを有する高穴広げ性型鋼板であり、工程d)は、T
Ms−60℃からT
Ms+30℃、好ましくはT
Ms−60℃から400℃、より好ましくはT
Ms−60℃から380℃のオーステンパー温度で行われる。
【0063】
例
表Iに従う化学組成を有するいくつかの試験合金1〜14を製造した。鋼板を製造し、表IIに特定されるパラメータに従い、従来のCAラインにおいて熱処理に供した。いくつかの機械的特性と共に、鋼板のミクロ組織を検査したが、その結果を表IIIに示す。
【0064】
MAサイズd
MAの列において、画像分析を用いて測定されたマルテンサイト−オーステナイト粒子の粒径が示されており、MAサイズは、以下の3つの主要なクラスに分けられる。
− 小(MA粒子のサイズd
MA≦3μm)、
− 中(3μm<d
MA<6μm)、
− 大(d
MA≧6μm)。
【0065】
セメンタイトの列において、Nは、ミクロ組織中に見出すことができるセメンタイトの量がほとんど無視できることを示し、一方Yは、最終的なミクロ組織中に有意な量の有害なセメンタイトが存在することを示す。
【0066】
本発明の鋼板の結果を、特許請求される範囲内のクロムを含有しない鋼板10および11の結果と比較すると、ミクロ組織および機械的特性に対するクロムの好ましい影響が明らかである。表III中の実験番号28〜33は、いくつかの場合において残留オーステナイトの量が低過ぎたこと(番号28、29および31)、ならびにミクロ組織がある程度のセメンタイトを含有していたことを示している。
【0067】
Crが添加されていないが0.6%Siを有する鋼板番号10および0.82%Siを有する鋼板番号11の結果から、Si含量が、ベイナイト変態中、セメンタイトの形成を防止するには低過ぎることが明らかである。本発明の鋼板では、全く異なる挙動が見られる。したがって、Crは、セメンタイト析出の阻害または防止においてSiと同様に作用すると考えられる。これらの結果にある程度基づいて、連続焼なましラインにおける作製のための改善された加工性を有する、Crが添加されたSiベースの合金設計を有する特許請求されるTBF鋼が開発された。
【0068】
鋼板番号12において、妥当な機械的特性が得られた。しかしながら、表面調査によって、低Si材料と比較して、Si酸化物による表面の著しく高い被覆率が示されており、これは焼なまし中のロール上の酸洗液形成(pickle formation)の危険性を増加させ、したがってこの材料は本発明の範囲外である。
【0069】
Si+Cr≧0.9を満たさない0.62%Siおよび0.14Crを有する鋼板番号13の結果からは、SiおよびCrの相乗効果が、それぞれR
m×A
80およびR
m×λに関して、前述の請求を満足するために適切な伸びおよび穴の広がりを確実とするには低過ぎる(表III中の例番号37)。
【0070】
表IIからの焼なましサイクル3を適用することによる、Cr>Si含量、また同時にMn+1.3*Cr>3.5である鋼板タイプ番号14の結果から、低い穴広げ値が得られた(表III中の番号42)。すでに述べたように、そのような高いMnおよびCr含量は、オーステンパー段階中のベイナイト形成の大幅な遅延をもたらす。したがって、大きな割合のMA粒子を含有するミクロ組織が得られ、これはやや低い穴広げ挙動をもたらす。
【0071】
鋼板番号6を、特許請求される範囲外のオーステンパー温度、すなわち、325℃の低いオーステンパー温度(熱サイクル番号6)および485℃の高いオーステンパー温度T
OA(熱サイクル番号7)による焼なましに供した。この焼なましの結果を、それぞれ表IIIの例番号38および39に示す。低いオーステンパー温度は、オーステナイトへのCの遅い再分布、およびマルテンサイト内における炭化鉄析出のより強い原動力の結果、不十分な量の残留オーステナイトRAに起因して、非常に低い伸びRp0.2をもたらした。高いオーステンパー温度の場合、オーステナイトからフェライトおよびセメンタイトへの部分的分解が抑制され得ず、その結果安定化残留オーステナイトが少量となった。
【0072】
さらなる比較例は、780℃の焼なまし温度T
anでの熱サイクル番号8に対応するこの低い変態域内焼なまし(intercritical annealing)は、極めて大量のフェライトを、したがって控えめな穴広げ性能をもたらした(表III中の例40)。
【0073】
10℃/秒の冷却速度での例を、表IIのサイクル番号9に示す。確認できるように、そのような低い冷却速度は、焼なまし温度からオーステンパー段階までの冷却中にフェライト形成をもたらし、したがって控えめな穴広げ性能をもたらした(表IIIの例番号41)。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3-1】
【0077】
【表3-2】
【0078】
【表3-3】
【0079】
産業上の利用可能性
本発明は、自動車等の車両のための優れた成形性を有する高強度鋼板に広く適用することができる。