(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記半導体レーザの出力強度を検出するモニタ回路を備え、前記増幅回路に前記モニタ回路で検出される出力強度に基づいて増幅率を調整する増幅率調整回路を備えている請求項1または2記載の短光パルス発生装置。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザを用いた加工装置や計測装置では、加工精度や計測精度を向上させるために、半導体レーザからナノ秒以下の短光パルスを発生させる必要がある。そのため、半導体レーザにおける緩和振動を利用して短光パルスを発生させるゲインスイッチング法が用いられている。
【0003】
特許文献1には、このようなゲインスイッチング法を用いた制御回路が示されている。当該制御回路は、離散的にパルス状の信号を生成するパルス生成器と、パルス生成器で生成されたパルス信号を所定の増幅率で増幅した駆動電圧パルスを半導体レーザに供給するドライバを備えている。駆動電圧パルスの電圧値は、パルス生成器で生成されたパルス信号の信号レベルに応じて決定されている。
【0004】
ゲインスイッチング法を利用して短光パルスを出力する半導体レーザの特性は、電流パルス入力に対する過渡応答としてレート方程式で示される。一般的な半導体レーザでは、注入キャリア密度(特許文献1ではレーザ駆動電圧に対応する値として説明されているが、実際には半導体レーザへの注入電流(印加電流)となる。)の増大に応じて、キャリア密度が飽和状態の少し手前から発光が開始される。そして、注入キャリア密度の増大に伴って光子密度即ち出射光強度が増大する。
【0005】
レート方程式から算出される発光開始時間は注入キャリア密度に反比例する。レーザ駆動電圧が大きいと、注入キャリア密度の振幅は発光開始直後に緩和振動によって最も大きい第1波として現れ、第2波、第3波と徐々に減衰して安定化する。
【0006】
当該制御回路では、緩和振動の発生に必要な電圧値の駆動電圧パルスを半導体レーザに印加して、緩和振動による第1波のみからなり第2波以降のサブパルスを含まない単峰性のレーザ光(以下、本明細書では「単峰パルス」と称する。)を出射させ、これによりレーザ光の瞬間的な出射光強度の最大値を安定値よりも増大させている。駆動電圧パルスのパルス幅は、発光開始時間と緩和振動の振動周期を加算した時間に設定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ある特定の繰り返し周波数の印加電流パルスに対して、単峰パルスを出射させるように印加電流のパルス幅とパルス振幅を調整したとしても、印加電流パルスの周波数が異なると、半導体レーザ内部でのキャリア密度等の状態が変化して、レーザ光の振幅が著しく低下し、或いは単峰パルスの立下り部分に第2波以降のサブパルスが発生して、半導体レーザから単峰パルスを安定的に出射させることが困難になるという問題があった。
【0009】
例えば、このような半導体レーザを加工装置に用いる場合に、単峰パルスに第2波や第3波のサブパルスが含まれると、実質的にパルス幅が広がったのと同じ効果になり、その結果として加工精度や加工能力が低下するという問題が生じる。
【0010】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、任意の周波数の駆動電流パルスが装置に入力された場合でも、その周波数で安定的に単峰パルスのレーザ光を出射させることができる短光パルス発生装
置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明による短光パルス発生装置の第一特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、半導体レーザにパルス電流を印加して短光パルスを発生させるゲインスイッチング法を用いた短光パルス発生装置であって、外部から入力される任意の周波数のトリガ信号列を所定パルス幅のパルス信号列に波形成形する波形整形回路と、前記波形整形回路から出力されるパルス信号列の振幅値を、前記トリガ信号列の周波数に応じて予め設定された電流値のパルス信号列に自動調整する振幅調整回路と、前記振幅調整回路で振幅値が自動調整されたパルス信号列に所定の直流バイアス電流値を加算して前記半導体レーザに印加する電流印加回路と、を備
え、前記振幅調整回路は、前記トリガ信号列の周波数を検出する周波数検出回路と、短光パルスを発生させるために前記半導体レーザへ印加する電流の周波数と振幅値の固有の相関関係を記憶する記憶回路と、前記周波数検出回路で検出された周波数と前記記憶回路に記憶された相関関係に基づいて前記パルス信号列の振幅値を自動調整する増幅回路とを備え、前記記憶回路は、前記周波数検出回路から出力されたパルス信号列を対数変換する対数増幅回路と、前記対数増幅回路の出力信号を反転増幅する反転増幅回路とを備えて構成され、前記周波数検出回路から任意の周波数のパルス信号列が入力されたときに、前記相関関係を示す振幅値に対応した信号が出力されるように、前記対数増幅回路の入力オフセット、前記反転増幅回路の入力オフセット及び増幅率を予め調整する相関関係設定回路を備えている点にある。
【0012】
本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、単峰パルス、即ち緩和振動による第1波のみからなり第2波以降のサブパルスを含まない単峰性のレーザ光を出射させるために半導体レーザに印加するパルス電流の電流値は、そのパルス幅を所定の値に固定した場合に、その周波数に応じて一定の相関を示して変動することを見出し、その周波数に応じて半導体レーザに印加するパルス電流の電流値を調整すれば、所望の周波数の単峰パルスを得ることができるという知見を得た。しかし、半導体レーザを用いた加工装置や計測装置の一般の使用者が、その都度所望の周波数の単峰パルスを得るために、光オッシロスコープで半導体レーザの発光波形をモニタしながら、半導体レーザに印加する電流値を調整するのは極めて困難である。
【0013】
そこで、外部から所望の周波数のトリガ信号列が入力されると、半導体レーザに印加する電流値が自動調整されて安定的に単峰パルスを出射させる短光パルス発生装置に想到した。先ず波形整形回路によってトリガ信号列が同じ周波数で所定パルス幅のパルス信号列に波形成形される。波形整形されたパルス信号列が振幅調整回路に入力されると、トリガ信号列の周波数に応じて予め設定された電流値のパルス信号列に自動調整され、電流印加回路を介して直流バイアス電流値が加算されたパルス信号列が半導体レーザに印加される。その結果、安定的に単峰パルスを出射させることができる。
【0014】
従って、半導体レーザを用いた加工装置や計測装置の一般の使用者は、半導体レーザへの印加電流値を意識せずに、所望の周波数の任意のトリガ信号列を短光パルス発生装置に入力すれば、安定的に単峰パルスを得ることができるようにな
る。
【0015】
外部から入力される任意の周波数のトリガ信号列が波形整形回路によって波形整形され、所定パルス幅のパルス信号列が対数増幅回路に入力され、対数変換された信号が反転増幅回路で反転増幅され、反転増幅回路からトリガ信号の周波数と相関関係を示す振幅値、つまり半導体レーザに印加される電流値に対応した信号が出力される。予め単安定マルチバイブレータから入力される基準となる複数の周波数のパルス信号列に応じて相関関係設定回路を調整することで、対数増幅回路及び反転増幅回路の特性が上述した相関関係を示す特性に調整される。具体的には対数増幅回路の入力オフセット、反転増幅回路の入力オフセット及び増幅率が調整される。尚、相関関係設定回路を備えた対数増幅回路及び反転増幅回路が記憶回路として機能する。
【0016】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述した第一特徴構成に加えて、前記周波数検出回路は、前記トリガ信号列から所定の振幅及びパルス幅の単一のパルスをその周波数に対応したパルス信号列として繰り返し出力する単安定マルチバイブレータで構成されている点にある。
【0017】
外部から当該装置に任意のデューティ比のトリガ信号列が入力されても、単安定マルチバイブレータによって所定の振幅及びパルス幅の単一のパルスがその周波数に対応したパルス信号列として繰り返し出力される。その結果、当該信号列の平均電流はトリガ信号列の周波数に対応した値となる。即ち、単安定マルチバイブレータは周波数検出回路として好適に機能する。
【0018】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述した第一または第二特徴構成に加えて、前記半導体レーザの出力強度を検出するモニタ回路を備え、前記増幅回路に前記モニタ回路で検出される出力強度に基づいて増幅率を調整する増幅率調整回路を備えている点にある。
【0019】
半導体レーザが長時間に亘ってパルス駆動されると、温度上昇を招いて発光特性が変動する。そこで、モニタ回路により半導体レーザの出力強度を検出し、その値に基づいて増幅回路の増幅率を調整することにより、温度変動に追従して安定的に緩和振動の第1波のみからなるパルス状のレーザ光を出射させることができるようにな
る。
【発明の効果】
【0020】
以上説明した通り、本発明によれば、任意の周波数の駆動電流パルスが装置に入力された場合でも、その周波数で安定的に単峰パルスのレーザ光を出射させることができる短光パルス発生装
置を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明による短光パルス発生装置及び短光パルス発生方法の実施形態を説明する。短光パルス発生装置は、半導体レーザにパルス電流を印加して単峰パルス、即ち緩和振動による発光開始直後の最も発光強度が大きな第1波のみからなり第2波以降のサブパルスを含まないパルス状のレーザ光を発生させるゲインスイッチング法を用いた装置である。
【0023】
図1には、短光パルス発生装置の機能ブロックの構成が示されている。短光パルス発生装置1は、波形整形回路2と、振幅調整回路3と、電流印加回路4と、半導体レーザLDと、内部発振器5とを備えた電子回路基板で構成されている。
【0024】
波形整形回路2は、外部から入力される任意の周波数のトリガ信号列を所定パルス幅のパルス信号列に波形成形する回路である。トリガ信号列のパルス幅がどのような値であっても、所定パルス幅のパルス信号列に波形成形される。
【0025】
所定パルス幅は、短光パルス発生装置毎に、実験等により適宜設定される値であり、少なくとも半導体レーザへ電流を印加してから緩和振動が発生するまでの時間、つまり発光開始時間以上の時間が最終的に半導体レーザに印加されるように設定される値であればよく、発光開始時間と緩和振動の振動周期とを加算した時間に限るものではない。但し、所定パルス幅の値が長すぎると、緩和振動による第2波以降のサブパルスを含んでしまうため、そのようにならない範囲で適宜設定される。
【0026】
本実施形態では、近赤外波長のレーザ光を出力する化合物半導体が用いられ、半導体レーザの種類や個体差の他、実際に半導体レーザに印加されるまでの回路や信号線のインピーダンス等の影響を考慮して、所定パルス幅は半値全幅で80ピコ秒から1ナノ秒の範囲に設定される。
【0027】
振幅調整回路3は、波形整形回路2から出力されるパルス信号列の振幅値を、トリガ信号列の周波数に応じて予め設定された電流値のパルス信号列に自動調整する回路である。振幅調整回路3によって、単峰パルスが得られるような電流値に調整される。
【0028】
電流印加回路4は、振幅調整回路3で振幅値が自動調整されたパルス信号列に所定の直流バイアス電流値を加算して半導体レーザLDに印加する回路である。
図4(b)に示すように、半導体レーザの良好で安定したスイッチング特性を得るためには、パルス電流に直流バイアス電流を加算した注入電流を半導体レーザに印加する必要がある。
【0029】
そのため、
図4(a)に示すように、一般的にはパルス発生器で生成したパルス電圧と、直流バイアス生成回路で生成した直流バイアス電圧とを加算する加算回路を備え、加算回路で加算された電圧を電圧/電流変換回路で変換した電流パルスが半導体レーザに印加される。電流印加回路4は、この加算回路と同様の機能を実現する回路である。
【0030】
図1に戻り、振幅調整回路3は、入力されたトリガ信号列の周波数を検出する周波数検出回路31と、単峰パルスを発生させるために半導体レーザLDへ印加する電流の周波数と振幅値の固有の相関関係を記憶する記憶回路32と、周波数検出回路31で検出された周波数と記憶回路32に記憶された相関関係に基づいてパルス信号列の振幅値を自動調整する増幅回路33とを備えている。
【0031】
記憶回路32として主に半導体メモリが用いられ、書換え可能なフラッシュメモリが好適に用いられる。増幅回路33は、波形整形回路2から出力されるパルス信号列を電圧/電流変換するとともに、その電流を増幅する回路である。
【0032】
増幅回路33の具体的な回路構成は特に限定されるものではなく、波形整形回路2から出力されるパルス信号列の電圧値を上述の相関関係に基づいて所定の電圧値に増幅する電圧増幅回路と、当該電圧増幅回路の出力を電圧/電流変換する変換回路を備えて構成することができる。
【0033】
また、波形整形回路2から出力されるパルス信号列の電流値を上述の相関関係に基づいて所定の電流値に増幅する電流増幅回路で構成することも可能である。つまり、振幅調整回路3は、波形整形回路2から出力されるパルス信号列の振幅値を、トリガ信号列の周波数に応じて予め設定された電流値のパルス信号列に自動調整する機能が実現されればよい。
【0034】
図2(a)に示すように、半導体レーザLDへのパルス状の印加電流値(図では、「注入電流」と表記されている。)が低い場合には、半導体レーザLDから十分な強度の光が出射されず、
図2(b)に示すように、半導体レーザLDへのパルス状の印加電流値が大き過ぎると、発光開始直後に最も発光強度が大きな第1波、続いて第2波、第3波とサブパルスが付加された光パルスが発生する。
【0035】
しかし、
図2(c)に示すように、適正な値の電流が印加されると、安定した単峰パルスが得られる。この適正な値の電流が、そのパルス幅を所定の値に固定した場合に、パルス状の印加電流の周波数によって異なるため、上述の波形整形回路2によって調整されるのである。
【0036】
図3(a)には、ある半導体レーザに対する印加電流のパルス周波数と、単峰パルスを得るための正規化された最適な電流値との相関関係が示されている。光オッシロスコープで当該半導体レーザの発光波形をモニタしながら、
図2(c)の実線で示した単峰パルスが得られるように、半導体レーザに印加する電流値を調整する作業を、100Hzから約250MHzまで繰り返すことにより得られた相関関係である。
【0037】
この例では、最適な電流値は、100Hz程度から100kHzまでの周波数域では略フラットな特性であるが、100kHzを超えると周波数が高くなるに連れて次第に低くなる。例えば、100Hz程度から100kHzまでの周波数域で80%(例えば100mA)のパルス電流を印加すると、単峰パルスが得られる場合に、10MHzでは約62%(前記のように80%に相当する電流値が100mAである場合には約78mA)のパルス電流を印加すると、単峰パルスが得られる。しかし、10MHzで80%(100mA)のパルス電流を印加すると、
図2(b)に示すような第2波や第3波を含む光パルスが発生する。
【0038】
そこで、
図3(a)で説明した相関関係に基づいて、所望のパルス周波数に対して単峰パルスが得られるような電流値を求め、当該電流値のパルス電流を半導体レーザLDに印加すれば、パルス電流の周波数にかかわらず安定して単峰パルスが得られるようになる。
【0039】
ある特定の条件下でステップ的な電流を半導体レーザに印加する場合には、レート方程式に基づいて発光開始時間及び緩和振動の振動周期をほぼ正確に求めることができるので、その値に基づいて単峰パルスを発生させるために必要な電流のパルス幅を制御することも考えられる。
【0040】
しかし、現実は半導体レーザへの印加電流値や温度等が変動すると発光開始時間も変動すること、駆動回路や配線のインピーダンスの影響等の様々な要因が絡むこと、さらには高い周波数で繰り返しパルス状の電流を半導体レーザに印加する場合には、キャリア密度の変化も複雑になり一様ではないこと等のため、半導体レーザに印加する電流のパルス幅を細かく制御するのは極めて困難である。
【0041】
本発明によれば、上述した相関関係に基づいて振幅調整回路3により電流値を制御するだけで、波形整形回路2から出力されるパルス信号列のパルス幅が所定の値に固定されていても、安定して単峰パルスが得られるのである。
【0042】
具体的に、周波数検出回路31は、トリガ信号列の周波数が数値入力される周波数入力回路と、周波数入力回路に入力された周波数に基づいて記憶回路32から対応する振幅値を読み出して増幅回路33に出力する読出回路を備えて構成することができる。
【0043】
周波数入力回路は、例えば、数値入力キーを備えて構成することができ、数値入力キーを操作して周波数を数値入力すれば、その値が周波数として認識されるデジタル回路である。また、周波数入力回路は、外部のコンピュータから通信線を介して伝送された周波数データを受信する受信回路を備え、当該受信回路で受信されたデータが周波数として認識されるデジタル回路で構成することもできる。
【0044】
また、周波数検出回路31は、トリガ信号列の立上りエッジまたは立下りエッジを計数して周波数を算出する周波数カウンタと、周波数カウンタで算出された周波数に基づいて記憶回路から対応する振幅値を読み出して増幅回路33に出力する読出回路を備えて構成することもできる。
【0045】
周波数カウンタは、例えば、トリガ信号列の立上りエッジまたは立下りエッジを検出するエッジ検出回路と、検出されたエッジを計数するカウンタ回路を含むデジタル信号処理回路で構成することができ、またトリガ信号列をA/D変換器を介して入力し、その値から周波数を算出するコンピュータで構成することもできる。
【0046】
上述の波形整形回路2、周波数検出回路31、記憶回路32をマイクロコンピュータ及びその周辺回路で構成することもできる。
【0047】
図5(a)には外部入力される所望の周波数で振幅値及びパルス幅が任意のトリガ信号列が示され、
図5(b)には波形整形回路で整形された所定振幅で所定パルス幅のパルス信号列が示され、
図5(c)には増幅回路33で所望の電流値に増幅された電流パルス列が示され、
図5(d)には電流印加回路4で直流バイアス電流が印加され、半導体レーザLDに印加される電流波形が示されている。当該電流波形のパルス電流が半導体レーザLDに印加されることにより、安定的に単峰パルスが出力できるようになる。
【0048】
即ち、上述した短光パルス発生装置で、外部から入力される任意の周波数のトリガ信号列を所定パルス幅のパルス信号列に波形成形する波形整形ステップと、波形整形ステップから出力されるパルス信号列の振幅値を、トリガ信号列の周波数に応じて予め設定された電流値のパルス信号列に自動調整する振幅調整ステップと、振幅調整ステップで振幅値が自動調整されたパルス信号列に所定の直流バイアス電流値を加算して半導体レーザに印加する電流印加ステップとを含む短光パルス発生方法が実行される。
【0049】
そして、振幅調整ステップでは、トリガ信号列の周波数を検出する周波数検出ステップと、単峰パルスを発生させるために半導体レーザへ印加する電流の周波数と振幅値の固有の相関関係を予め記憶回路に記憶する記憶ステップと、周波数検出ステップで検出された周波数と記憶回路に記憶された相関関係に基づいてパルス信号列の振幅値を自動調整する増幅ステップとが実行される。
【0050】
図6には、短光パルス発生装置1に、半導体レーザLDの出力強度を検出するモニタ回路としてのフォトダイオードPDが設けられ、増幅回路33にモニタ回路PDで検出されるレーザ光の出力強度に基づいて増幅率を調整する増幅率調整回路34がさらに設けられた例が示されている。
【0051】
半導体レーザLDが長時間に亘ってパルス駆動されると、温度上昇を招いて発光特性が変動する。そのような場合でも、モニタ回路PDにより半導体レーザLDの出力強度が検出され、その値に基づいて増幅回路33の増幅率が調整されるので、温度変動に追従して安定的に所望の単峰パルスが出射される。つまり、増幅率調整回路34により、モニタ回路PDにより半導体レーザLDの出力強度が一定の目標強度になるように、記憶回路32から読み出された電流値に対する増幅率がフィードバック補正される。
【0052】
上述のモニタ回路PDにより半導体レーザの出力強度を検出するモニタステップが実行され、増幅率調整回路34により増幅ステップにおいてモニタステップで検出される出力強度に基づいて増幅率を調整する増幅率調整ステップが実行される。
【0053】
内部発振器5は、上述した電流の周波数と振幅値の固有の相関関係を記憶回路32に記憶する際に用いられる。先ず、内部発振器5からの出力が波形整形回路2及び周波数検出回路31に入力されるように、内部発振器5と外部トリガ信号を切り替えるスイッチが操作される。
【0054】
次に、内部発振器5による発振周波数を100Hzにセットし、半導体レーザLDの出力光を光オッシロスコープでモニタしながら、単峰パルスが出力されるように、増幅回路33の増幅率を調整する。具体的には記憶回路32のデータを、治具として外部接続された計算機を介して書き換えることにより増幅回路33の増幅率を調整することができる。
【0055】
内部発振器5による発振周波数を100Hzから100MHzまで一桁ずつ切り替えて、このような調整作業を繰り返すことにより、100Hzから100MHzまで周波数を一桁ずつ切り替えた周波数に対する増幅率或いは電流値が求まる。尚、求めた増幅率或いは電流値は任意に設定した基準増幅率或いは基準電流値に基づいて正規化した値であり、その値が記憶回路32に書き込まれる。
【0056】
図3(b)には、このようにして求められた相関関係が示されている。求められた各周波数における最適電流値間の中間の値は、その間を線形補間することにより決定することができる。調整により得られた一桁の周波数域を所定の周波数間隔で線形補間した値を記憶回路32に記憶し、トリガ信号列の周波数にもっとも近い周波数に対応して記憶回路32から読み出した最適電流値で増幅回路33を制御してもよいし、トリガ信号列の周波数が含まれる直近の上下の周波数に対応する最適電流値を記憶回路32から読み出して、その間を線形補間した値を最適電流値として増幅回路33を制御してもよい。
【0057】
図7には、さらに別の態様の周波数検出回路31及び記憶回路32が示されている。
周波数検出回路31は、トリガ信号列から所定の振幅及びパルス幅の単一のパルスをその周波数に対応したパルス信号列として繰り返し出力する単安定マルチバイブレータ310で構成されている。
【0058】
記憶回路32は、単安定マルチバイブレータ310から出力されたパルス信号列を対数変換する対数増幅回路320と、対数増幅回路320の出力信号を反転増幅する反転増幅回路325とを備えて構成されている。
【0059】
さらに、単安定マルチバイブレータ310から任意の周波数のパルス信号列が入力されたときに、上述の相関関係を示す振幅値に対応した信号が出力されるように、対数増幅回路320の入力オフセット、反転増幅回路325の入力オフセット及び増幅率を調整する相関関係設定回路321,326,327を備えている。
【0060】
端子Aに入力された任意のパルス幅のトリガ信号列は、フリップフロップ回路、抵抗R1、コンデンサC1で構成される単安定マルチバイブレータ310により、パルス幅Td(C1×R1)、振幅Vhのパルス信号列に波形整形される。
【0061】
次段の対数変換のトランジスタTr1の時間応答特性が十分低い場合は、抵抗R2に流れる電流I1は、パルス信号列の平均電流として計算することが可能になる。このとき、I1=Td×F×(Vh/R2)と表すことができる。Fはトリガ信号列の周波数である。即ち、当該パルス信号列の平均電流はトリガ信号列の周波数に対応した値となり、周波数検出回路31として機能する。
【0062】
この電流I1に、さらに端子Bから抵抗R3を介して入力される定電流I2が加算された加算電流がトランジスタTr1とオペアンプOP1で構成される対数増幅回路320に入力される。
【0063】
図7の下部中央のグラフに示されているように、抵抗R3を介して入力される定電流I2(オフセット電流)により、対数増幅回路320の出力電圧V1の水平部の長さが設定される。つまり、定電流I2が入力される抵抗R3により相関関係設定回路321が構成されている。
【0064】
図8には、定電流I2の値を変化させたときの対数増幅回路320の出力電圧と単安定マルチバイブレータ310から出力されるパルス信号列の周波数の特性が示されている。定電流I2の値を調整することにより、
図3(a)に示すパルス周波数が100Hzから100kHzまでのフラットな領域の範囲が設定される。
【0065】
対数変換された電圧V1は反転増幅回路325に入力され、
図7の下部右側のグラフに示されているように、極性が反転されて出力される。そして、このとき抵抗R7に流れるオフセット電流によって出力がプラス側にシフトされる。
【0066】
抵抗R7を調整することによってシフト量を調整することができる。その調整量は以下の数式で示される。尚、Vsは、反転増幅回路325のマイナス側電源の電源電圧値である。
シフト量=(R6/R7)×Vs
【0067】
反転増幅回路325の増幅率は抵抗R6により調整することができ、グラフの下垂部の傾きを調整することができる。このとき、増幅率は以下の数式で示される。
増幅率=−(R6/R5)
【0068】
つまり、シフト量を調整する抵抗R7により、
図3(a)のパルス周波数が100Hzから100kHzまでのフラットな領域のレベルを予め調整する相関関係設定回路326が構成され、抵抗R7が調整された後に、増幅率を調整する抵抗R6により、
図3(a)のパルス周波数が100kHzより高周波数側での下垂部の傾きを予め調整する相関関係設定回路327が構成されている。
【0069】
電流I2、抵抗R7,R6を順に予め調整することにより、半導体レーザに対する印加電流のパルス周波数と、緩和振動により第1波のみからなる単峰パルスを得るための正規化された最適な電流値との相関関係が設定される。従って、この態様の対数増幅回路320と、反転増幅回路325と、対数増幅回路320の入力オフセット、反転増幅回路325の入力オフセット及び増幅率を調整する相関関係設定回路321,326,327は、アナログの記憶回路32として機能する。
【0070】
このような態様の短光パルス発生装置に、さらに上述した増幅率調整回路34を組み込むことも可能である。
【0071】
上述した相関関係は、使用する半導体レーザの種類によって異なり、また、同じ種類の半導体レーザであっても個体差により異なる場合がある。そのような場合でも、本発明による短光パルス発生装置及び短光パルス発生方法を採用すれば、半導体レーザ毎に初期に相関関係を求めて記憶回路32に相関関係を記憶しておけば、その後使用者が調整する手間が無くなり、所望の周波数のトリガ信号列を短光パルス発生装置に入力するだけで、安定的に単峰パルスを得ることが出来るようになる。
【0072】
上述した実施形態では、近赤外波長のレーザ光を出力する化合物半導体を例に説明したが、本発明に用いられる半導体レーザの種類やその発光波長は特に制限されず、例えば可視光領域や紫外線波長領域であってもよい。
【0073】
本発明による短光パルス発生装置は、半導体レーザを用いた加工装置、距離や形状を計測したり、医療分野等で蛍光寿命を測定する各種の計測装置に好適に用いることができる。
【0074】
上述した実施形態は、本発明の一実施形態に過ぎず、該記載により本発明の範囲が限定されるものではない。短光パルス(単峰パルス)を発生させるための相関関係の具体的な数値は、全ての半導体レーザに共通の値ではなく、半導体レーザ毎に異なる値となる。また、短光パルス発生装置を構成する各部の具体的な回路構成は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能である。