(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数相の電機子巻線を備えたステータと、永久磁石を備え前記ステータの内側に回転自在に配置されたロータと、を備え、前記ロータを、前記永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させるブラシレスモータの制御方法であって、
当該ブラシレスモータの負荷状態に応じて、該ブラシレスモータにて最大トルクが出力される巻線電流値を示す基本波電流を算出し、
前記マグネットトルクによるトルクリップルを相殺する第1高調波成分と、前記リラクタンストルクによるトルクリップルを相殺する第2高調波成分とを算出し、
前記電機子巻線に印加する前記基本波電流の増減に伴い、前記基本波電流に、前記第1高調波成分のみ、又は、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を選択的に重畳させて、前記電機子巻線に対して供給される電流を補正し、
前記第1高調波成分のみを前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルと、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルの大小が逆転する時点にて、前記基本波電流に重畳される高調波成分を、前記第1高調波成分のみから前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分に、又は、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分から前記第1高調波成分のみに切り換えることを特徴とするブラシレスモータ制御方法。
請求項1〜7の何れか1項に記載のブラシレスモータ制御方法において、前記第1高調波成分と第2高調波成分は、当該ブラシレスモータにおけるトルクリップル率が5%を超えないように、前記基本波電流に重畳されることを特徴とするブラシレスモータ制御方法。
請求項1〜8の何れか1項に記載のブラシレスモータ制御方法において、前記ブラシレスモータは、電動パワーステアリング装置の駆動源として使用されることを特徴とするブラシレスモータ制御方法。
複数相の電機子巻線を備えたステータと、永久磁石を備え前記ステータの内側に回転自在に配置されたロータと、を備え、前記ロータを、前記永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させるブラシレスモータの制御装置であって、
前記電機子巻線の相電流を検出する電流センサと、
当該ブラシレスモータの負荷状態に応じて、該ブラシレスモータにて最大トルクが出力される巻線電流値を示す基本波電流を算出する基本電流算出部と、
前記電流センサにて検出した相電流値に基づいて、前記マグネットトルクによるトルクリップルを相殺する第1高調波成分と、前記リラクタンストルクによるトルクリップルを相殺する第2高調波成分とを算出する補正成分算出部と、
前記電機子巻線に印加する前記基本波電流の増減に伴い、前記基本波電流に対し、前記第1高調波成分のみ、又は、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を選択的に重畳させ、前記電機子巻線に対して供給される電流を補正する電流補正部と、を有し、
前記電流補正部は、前記第1高調波成分のみを前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルと、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルの大小が逆転する時点で、前記基本波電流に重畳する高調波成分を、前記第1高調波成分のみから前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分に、又は、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分から前記第1高調波成分のみに切り換えることを特徴とするブラシレスモータ制御装置。
請求項10〜17の何れか1項に記載のブラシレスモータ制御装置において、前記ブラシレスモータは、電動パワーステアリング装置の駆動源として使用されることを特徴とするブラシレスモータ制御装置。
【背景技術】
【0002】
近年、電動パワーステアリング装置(以下、EPSと略記する)等の駆動源として、ロータの内部に永久磁石を埋め込んだ形態のいわゆるIPM(Interior Permanent Magnet)型モータ(以下、IPMモータと略記する)の使用が増大している。このIPMモータは、磁石がロータに埋め込まれていることから、d軸(永久磁石の中心軸)方向と、q軸(d軸と電気的、磁気的に直交する軸)方向のインダクタンス差が大きく、ロータにはリラクタンストルクTrが発生する。従って、IPMモータでは、永久磁石によるマグネットトルクTmと共に、リラクタンストルクTrも利用でき、モータ全体のトータルトルクTtを大きくできるというメリットがある。このため、前述のEPSのみならず、電気自動車やハイブリッド自動車、エアコン等の家電製品、各種産業機械などにも、高効率で高トルクなモータとして、IPMモータの利用が拡大している。
【0003】
このようなIPMモータではトータルトルクTtは次のように表され、一般に、同一電流に対する発生トルクを最大化するいわゆる最大トルク制御(進角制御)が実施される。
Tt=Tm+Tr
=p・φa・Iq+p・(Ld−Lq)・Id・Iq
(p:極対数,φa:永久磁石による電機子鎖交磁束,Ld:d軸インダクタンス,Lq:q軸インダクタンス,Id:d軸電流,Iq:q軸電流)
最大トルク制御では、電機子電流に対して最も効率的にトルクが発生するようにId−Iq間の角度β(電流位相角)が制御され、高効率で高トルクな運転が行われる。
【0004】
ところが、IPMモータにおいては、電機子電流が高くなると、トータルトルクTtに対するマグネットトルクTmとリラクタンストルクTrの割合が変化し、Tr側が増加する傾向がある。この場合、電流値が高いことから、その分、電機子反作用の影響も大きくなり、低電流時に比してトルクリップルが大きくなる。特に、リラクタンストルクが10%を超えると、トルクリップルが急激に増大し、トルクリップル率がEPSでは上限値とされる5%を超えてしまうという問題が生じる。
【0005】
そこで、従来より、IPMモータにおけるトルクリップルの低減について、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、トルクリップルを演算にて求め、これと逆位相のトルクを生じさせる電流指令値を演算、供給してトルクリップルを低減させるモータ制御装置が記載されている。そこではまず、トルクリップル演算手段により、dq座標系における基本波電流と永久磁石による電機子鎖交磁束の高調波成分に起因するトルクリップルを演算する。次に、トルクリップル低減高調波電流指令値生成器により、トルクリップル演算手段で演算されたトルクリップルと逆位相のトルクを生じさせる高調波電流指令値を演算する。そして、高調波電流制御回路にて、この高調波電流指令値に基づいて、高調波電流を制御することにより、モータのトルクリップルを低減させる。
【0006】
ところが、特許文献1の装置では、確かにトルクリップルを低減させることはできるものの、誘起電圧の正弦波をdq座標系に座標変換し、その上で、トルクリップルと逆位相のトルクを生じさせる高調波電流指令値を演算によって求めるため、演算負荷が非常に大きいという問題がある。特に、EPSのように、電流が広範囲で使用され、しかも、時々刻々変化するような装置では、上記のような演算をその都度行うには、非常に処理能力の高いCPUが必要であり、理論的には可能であっても実用的には難しい、という課題があった。
【0007】
そこで、本出願人は、CPUに大きな演算負荷を掛けることなく、ブラシレスモータのトルクリプルを低減させるべく、特許文献2のような制御方法・装置を提案した。そこでは、Tm分とTr分のトルクリップルを分離して捉え、各トルクリップルを減殺し得る電流指令値Id’,Iq’を、予め設定した補正マップを用いて設定する。補正マップには、各相の電流実効値と補正用パラメータとの関係が格納されており、制御装置のCPUは、検出電流値から補正マップを参照してパラメータを決定する。CPUは、補正マップを参照しつつ、トルクリップルを減殺し得る電流指令値Id’,Iq’を現在の電流値に基づいて算出する。これにより、トルクリップルを常時算出すると共にそれを減殺する指令値を逐一演算する必要がなくなり、トルクリップル低減に要するCPUの負担を大幅に低減させることが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2のような制御形態を取っても、d軸q軸の座標それぞれに高調波を重畳させると、モータの仕様によっては、リップル低減が十分に得られない領域が存在してしまう場合がある。このため、例えば、EPSシステムのように電流帯域(トルク域)が広いシステムに適用する場合、トルクリップルの低減効果が低い電流帯域が存在してしまう場合がある、という問題があった。特に、EPSシステムでは、操舵フィーリングへの影響を考慮すると、一般的にリップル率を5%以内に抑えることが求められており、広範な電流帯域全体でより均等にトルクリップルを低減可能な制御方式が望まれていた。
【0010】
本発明の目的は、簡単な制御形態でありながら、広範囲なトルク域でブラシレスモータのトルクリップルを低減可能なモータ制御方法・装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のブラシレスモータ制御方法は、複数相の電機子巻線を備えたステータと、永久磁石を備え前記ステータの内側に回転自在に配置されたロータと、を備え、前記ロータを、前記永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させるブラシレスモータの制御方法であって、当該ブラシレスモータの負荷状態に応じて、該ブラシレスモータにて最大トルクが出力される巻線電流値を示す基本波電流を算出し、前記マグネットトルクによるトルクリップルを相殺する第1高調波成分と、前記リラクタンストルクによるトルクリップルを相殺する第2高調波成分とを算出し、前記電機子巻線に印加する前記基本波電流の増減に伴い、
前記基本波電流に、前記第1高調波成分のみ、又は、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を選択的に重畳させて、前記電機子巻線に対して供給される電流を補正
し、前記第1高調波成分のみを前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルと、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルの大小が逆転する時点にて、前記基本波電流に重畳される高調波成分を、前記第1高調波成分のみから前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分に、又は、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分から前記第1高調波成分のみに切り換えることを特徴とする。
【0012】
本発明にあっては、最大トルク制御を実施しつつ、マグネットトルクによるトルクリップルを相殺し得る第1高調波成分と、リラクタンストルクによるトルクリップルを相殺し得る第2高調波成分とを算出する。第1及び第2高調波成分は、例えば、予め設定した補正マップ等を用いて算出される。補正マップ等には、相電流値と補正用パラメータとの関係が格納されており、CPU(制御手段)は、検出電流値から補正マップ等を参照してパラメータを決定し、第1及び第2高調波成分を算出する。CPUは、最大トルク制御の基本波電流の増減に伴い、第1高調波成分と第2高調波成分を選択的に基本波電流に重畳させ、電機子巻線への供給電流を補正する。これにより、CPUに対し大きな制御負担を掛けることなく、広範囲な電流領域にてトルクリップルの低減が図られる。
【0014】
また、前記基本波電流に対し、前記電機子巻線の相電流が小さく、前記第1高調波成分のみを前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルが前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルよりも小さい範囲では前記第1高調波成分のみを重畳し、前記電機子巻線の相電流が所定値を超え、前記第1高調波成分のみを前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルが前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルを超えた範囲では前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を重畳するようにしても良い。この場合、前記基本波電流に重畳される高調波成分が変更される前記電機子巻線の相電流の所定値を90Aに設定しても良い。
【0015】
前記第1高調波成分として、前記マグネットトルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の電流を適用し、前記第2高調波成分として、前記第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の電流を適用しても良い。
【0016】
前記第1高調波成分と前記第2高調波成分を、前記電機子巻線の相電流値と、該第1高調波成分と該第2高調波成分の算出に用いられる各パラメータとの関係が示された補正マップに基づいて算出しても良い。この場合、前記補正マップを、前記電機子巻線の相電流値と、前記第1及び第2高調波成分の振幅との関係を示す高調波係数マップと、前記電機子巻線の相電流値と、トルクリップル波形と前記第1及び第2高調波成分との間の位相のずれとの関係を示す位相調整マップと、を有する構成としても良い。
【0017】
また、前記第1高調波成分を、q軸方向の基本波電流Iqbに対して付加される、BsinN(θ+β)(B:高調波振幅係数,N:正の整数,θ:回転角(電気角),β:位相のずれ)とし、前記第2高調波成分を、d軸方向の基本波電流Idbに対して付加される、AsinN(θ+α)(A:高調波振幅係数,N:正の整数,θ:回転角(電気角),α:位相のずれ)とし、前記高調波係数マップに、前記電機子巻線の相電流値と前記高調波振幅係数A,Bとの関係を格納し、前記位相調整マップに、前記電機子巻線の相電流値と前記位相のずれα,βとの関係を格納しても良い。
【0018】
前記第1高調波成分と第2高調波成分を、当該ブラシレスモータにおけるトルクリップル率が5%を超えないように、前記基本波電流に重畳しても良い。また、前記ブラシレスモータを、電動パワーステアリング装置の駆動源として使用しても良い。
【0019】
一方、本発明のブラシレスモータ制御装置は、複数相の電機子巻線を備えたステータと、永久磁石を備え前記ステータの内側に回転自在に配置されたロータと、を備え、前記ロータを、前記永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させるブラシレスモータの制御装置であって、前記電機子巻線の相電流を検出する電流センサと、当該ブラシレスモータの負荷状態に応じて、該ブラシレスモータにて最大トルクが出力される巻線電流値を示す基本波電流を算出する基本電流算出部と、前記電流センサにて検出した相電流値に基づいて、前記マグネットトルクによるトルクリップルを相殺する第1高調波成分と、前記リラクタンストルクによるトルクリップルを相殺する第2高調波成分とを算出する補正成分算出部と、前記電機子巻線に印加する前記基本波電流の増減に伴い、
前記基本波電流に対し、前記第1高調波成分のみ、又は、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を選択的に重畳させ、前記電機子巻線に対して供給される電流を補正する電流補正部と、を有し、
前記電流補正部は、前記第1高調波成分のみを前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルと、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルの大小が逆転する時点で、前記基本波電流に重畳する高調波成分を、前記第1高調波成分のみから前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分に、又は、前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分から前記第1高調波成分のみに切り換えることを特徴とする。
【0020】
本発明にあっては、基本電流算出部にて最大トルク制御時の基本波電流を算出しつつ、補正成分算出部にて、マグネットトルクによるトルクリップルを相殺し得る第1高調波成分と、リラクタンストルクによるトルクリップルを相殺し得る第2高調波成分とを算出する。第1及び第2高調波成分は、例えば、予め設定した補正マップ等を用いて算出される。補正マップ等には、相電流値と補正用パラメータとの関係が格納されており、補正成分算出部は、検出電流値から補正マップ等を参照してパラメータを決定し、第1及び第2高調波成分を算出する。電流補正部は、最大トルク制御の基本波電流の増減に伴い、第1高調波成分と第2高調波成分を選択的に基本波電流に重畳させ、電機子巻線への供給電流を補正する。これにより、CPUに対し大きな制御負担を掛けることなく、広範囲な電流領域にてトルクリップルの低減が図られる。
【0022】
また、前記電流補正部は、前記基本波電流に対し、前記電機子巻線の相電流が小さく、前記第1高調波成分のみを前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルが前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルよりも小さい範囲では前記第1高調波成分のみを重畳し、前記電機子巻線の相電流が所定値を超え、前記第1高調波成分のみを前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルが前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を前記基本波電流に重畳させた場合におけるトルクリップルを超えた範囲では前記第1高調波成分及び前記第2高調波成分を重畳するようにしても良い。この場合、前記基本波電流に重畳される高調波成分が変更される前記電機子巻線の相電流の所定値を90Aに設定しても良い。
【0023】
前記第1高調波成分として、前記マグネットトルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の電流を適用し、前記第2高調波成分として、前記第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の電流を適用しても良い。
【0024】
前記制御装置に、前記電機子巻線の相電流値と、前記第1高調波成分と前記第2高調波成分の算出に用いられる各パラメータとの関係が示された補正マップをさらに設け、前記補正成分算出部は、前記補正マップに基づいて、前記第1高調波成分と前記第2高調波成分を算出するようにしても良い。この場合、前記補正マップを、前記電機子巻線の相電流値と、前記第1及び第2高調波成分の振幅との関係を示す高調波係数マップと、前記電機子巻線の相電流値と、トルクリップル波形と前記第1及び第2高調波成分との間の位相のずれとの関係を示す位相調整マップと、を有する構成としても良い。
【0025】
また、前記第1高調波成分を、q軸方向の基本波電流Iqbに対して付加される、BsinN(θ+β)(B:高調波振幅係数,N:正の整数,θ:回転角(電気角),β:位相のずれ)とし、前記第2高調波成分を、d軸方向の基本波電流Idbに対して付加される、AsinN(θ+α)(A:高調波振幅係数,N:正の整数,θ:回転角(電気角),α:位相のずれ)とし、前記高調波係数マップに、前記電機子巻線の相電流値と前記高調波振幅係数A,Bとの関係を格納し、前記位相調整マップに、前記電機子巻線の相電流値と前記位相のずれα,βとの関係を格納しても良い。
【0026】
前記制御装置は、前記基本波電流に対し、当該ブラシレスモータにおけるトルクリップル率が5%を超えないように、前記第1高調波成分及び/又は前記第2高調波成分を重畳するようにしても良い。また、前記ブラシレスモータを、電動パワーステアリング装置の駆動源として使用しても良い。
【発明の効果】
【0027】
本発明のブラシレスモータ制御方法、制御装置によれば、マグネットトルクによるトルクリップルを相殺し得る第1高調波成分と、リラクタンストルクによるトルクリップルを相殺し得る第2高調波成分とを算出し、最大トルク制御の基本波電流の増減に伴い、第1高調波成分と第2高調波成分を選択的に基本波電流に重畳させて電機子巻線への供給電流を補正するようにしたので、従来の制御形態に比して、広範囲な電流領域にてトルクリップルを低減させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、ブラシレスモータを用いたEPSの構成を示す説明図であり、本発明による制御処理が実施される。
図1の電動パワーステアリング装置(EPS)1は、ステアリングシャフト2に対し動作補助力を付与するコラムアシスト式の構成となっており、ブラシレスモータ3(以下、モータ3と略記する)が動力源として使用されている。
【0030】
ステアリングシャフト2にはステアリングホイール4が取り付けられており、ステアリングホイール4の操舵力は、ステアリングギヤボックス5内に配された図示しないピニオンとラック軸を介して、タイロッド6に伝達される。タイロッド6の両端には車輪7が接続されており、ステアリングホイール4の操作に伴ってタイロッド6が作動し、図示しないナックルアーム等を介して車輪7が左右に転舵する。
【0031】
EPS1では、ステアリングシャフト2に操舵力補助機構であるアシストモータ部8が設けられている。アシストモータ部8には、モータ3と共に、減速機構部9とトルクセンサ11が設けられている。減速機構部9には、図示しないウォームとウォームホイールが配されており、モータ3の回転は、この減速機構部9によって、ステアリングシャフト2に減速されて伝達される。モータ3とトルクセンサ11は、制御装置(ECU)12に接続されている。
【0032】
ステアリングホイール4が操作され、ステアリングシャフト2回転すると、トルクセンサ11が作動する。ECU12は、トルクセンサ11の検出トルクに基づいて、モータ3に対し適宜電力を供給する。モータ3が作動すると、その回転が減速機構部9を介してステアリングシャフト2に伝達され操舵補助力が付与される。ステアリングシャフト2は、この操舵補助力と手動操舵力によって回転し、ステアリングギヤボックス5内のラック・アンド・ピニオン結合により、この回転運動がラック軸の直線運動に変換され、車輪7の転舵動作が行われる。
【0033】
図2は、モータ3の構成を示す断面図である。
図2に示すように、モータ3は、外側にステータ21、内側にロータ22を配したインナーロータ型ブラシレスモータとなっている。ステータ21は、ハウジング23と、ハウジング23の内周側に固定されたステータコア24及びステータコア24に巻装された巻線(電機子巻線)25とを備えた構成となっている。ハウジング23は鉄等にて有底筒状に形成されており、その開口部には合成樹脂製のブラケット30が取り付けられている。ステータコア24は鋼板を多数積層した構成となっており、ステータコア24の内周側には複数個のティースが突設されている。ステータコア24には、巻線25の誘起電圧波形が正弦波となるようにスキューが施されている。なお、スキューは、ロータ22側に形成しても良い。
【0034】
図3は、ステータコア24の構成を示す説明図である。ステータコア24は、リング状の継鉄部26と、継鉄部26から内側方向へ突出形成されたティース27とから形成されている。ティース27は9個設けられており、各ティース27の間にはスロット28(9個)が形成され、モータ3は9スロット構成となっている。各ティース27の先端部には、補助溝20が形成されている。各ティース27には巻線25が集中巻にて巻装されており、巻線25は各スロット28内に収容されている。各巻線25は、U,V,Wの3相がスター結線されており、給電配線29を介してバッテリ(図示せず)と接続されている。巻線25に対しては、高調波成分を含んだ台形波形状の相電流(U,V,W)が供給される。
【0035】
ロータ22はステータ21の内側に配設されており、回転軸31と、ロータコア32、マグネット33を同軸状に配した構成となっている。回転軸31の外周には、鋼板を多数積層した円筒形状のロータコア32が取り付けられている。ロータコア32には、回転軸31の軸方向に貫通するスロットが6箇所設けられ、各スロット内にマグネット33が埋め込まれており、IPMモータ構造となっている。マグネット33は周方向に沿って6個配置されており、モータ3は、6極9スロット(6P9S)構成となっている。
【0036】
回転軸31の一端部は、ハウジング23の底部に圧入されたベアリング35に回転自在に支持されている。回転軸31の他端部は、ブラケット30に取り付けられたベアリング36によって、回転自在に支持されている。回転軸31の端部(
図2において左端部)には、スプライン部37が形成されており、図示しないジョイント部材によって、減速機構部9のウォーム軸に接続されている。ウォーム軸にはウォームが形成されており、減速機構部9にて、ステアリングシャフト2に固定されたウォームホイールと噛合している。
【0037】
ブラケット30内には、ベアリング36と、ロータ22の回転位置を検知するレゾルバ(角度センサ)41が収容されている。レゾルバ41は、ブラケット30側に固定されたレゾルバステータ42と、ロータ22側に固定されたレゾルバロータ43とから構成されている。レゾルバステータ42にはコイル44が巻装されており、励磁コイルと検出コイルが設けられている。レゾルバステータ42の内側には、レゾルバロータ43が配設される。レゾルバロータ43は、金属板を積層した構成となっており、三方向に凸部が形成されている。
【0038】
回転軸31が回転すると、レゾルバロータ43もまたレゾルバステータ42内にて回転する。レゾルバステータ42の励磁コイルには高周波信号が付与されており、凸部の近接離反により検出コイルから出力される信号の位相が変化する。この検出信号と基準信号とを比較することにより、ロータ22の回転位置が検出される。そして、ロータ22の回転位置に基づき、巻線25への電流が適宜切り替えられ、ロータ22が回転駆動される。
【0039】
このようなEPS1では、ステアリングホイール4が操作されてステアリングシャフト2が回転すると、この回転に応じた方向にラック軸が移動して転舵操作がなされる。この操作により、トルクセンサ11が作動し、その検出トルクに応じて、図示しないバッテリから給電配線29を介して巻線25に電力が供給される。巻線25に電力が供給されるとモータ3が作動し、回転軸31とウォーム軸が回転する。ウォーム軸の回転は、ウォームホイールを介してステアリングシャフト2に伝達され、操舵力が補助される。
【0040】
図4は、EPS1の制御装置50の構成を示すブロック図であり、本発明の制御方法は当該制御装置50にて実行される。EPS1は、前述のように、トルクセンサ11による検出値と、レゾルバ41によって検出されたロータ22の回転位置情報に基づいて駆動制御される。
図4に示すように、モータ3には、角度センサとしてレゾルバ41が配されており、ロータ回転位置は逐次ロータ回転位置情報として電流指令部51に入力されている。また、ステアリングホイール4の操作に伴い、トルクセンサ11からは、モータ3の負荷となるトルク値(モータ負荷情報)がモータ負荷情報として電流指令部51に入力される。また、電流指令部51の前段には、ロータ回転位置情報に基づいてロータ22の回転数を算出するロータ回転数算出部61が設けられている。電流指令部51には、このロータ回転数算出部61からも、ロータ回転数情報が入力されている。
【0041】
電流指令部51には、これらの検出値に基づいて演算処理を行い、モータ3に対して供給する基本電流量を算出する基本電流算出部52が設けられている。基本電流算出部52では、レゾルバ41からのロータ回転位置情報とロータ回転数情報及びモータ負荷情報から、モータ3への供給電流量を算出する。基本電流算出部52では、供給電流量として、d軸(トルクに寄与しない直交座標系成分),q軸(トルクに寄与する直交座標系成分)について、最大トルクを得られるId,Iqの基本波電流Idb,Iqbを算出する。
【0042】
電流指令部51にまた、マグネットトルクTmのトルクリップルと、リラクタンストルクTrのトルクリップルを減殺させるための補正マップ58が設けられている。補正マップ58は、モータ電流による両トルクリップルはモータごとに異なるため、モータごとに固有のものが設けられている。補正マップ58には、TmとTrの各トルクリップルが減殺されるように基本波電流Idb,Iqbを補正するための補正データ(高調波係数マップ62,位相調整マップ63)が格納されている。補正マップ58の補正データは予め実験や解析によって取得され、ここでは、巻線25の相電流値と補正パラメータとの関係が格納されている。
【0043】
電流指令部51にはさらに、補正成分算出部59と電流補正部60が設けられている。補正成分算出部59と電流補正部60には、電流センサ64にて検出されたモータ3の電流値がフィードバックされている。電流補正部60は、先に基本電流算出部52にて算出された基本波電流Idb,Iqbを補正マップ58を用いて補正し、電流指令値Id’,Iq’としてベクトル制御部53に出力する。その際、補正成分算出部59は、電流センサ64にて検出された相電流値から、補正マップ58を用いて補正パラメータを取得し、電流補正部60は、その結果に基づいて、基本波電流Idb,Iqbに所定の高調波成分を重畳させて電流指令値Id’,Iq’を作成する。
【0044】
ベクトル制御部53は、d軸,q軸のPI(比例・積分)制御部54d,54qと、座標軸変換部(dq/UVW)55とから構成されており、電流指令値Id’,Iq’は、PI制御部54d,54qにそれぞれ入力される。PI制御部54d,54qには、座標軸変換部(UVW/dq)56を介して、3相(U,V,W)のモータ電流値をdq軸変換した検出電流値I(d),I(q)が入力されている。PI制御部54d,54qは、電流指令値Id’,Iq’と検出電流値I(d),I(q)に基づき、PI演算処理を行い、d軸,q軸の電圧指令値Vd,Vqを算出する。電圧指令値Vd,Vqは、座標軸変換部55に入力され、3相(U,V,W)の電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換され出力される。座標軸変換部55から出力された電圧指令値Vu,Vv,Vwは、インバータ57を介してモータ3に印加される。
【0045】
ここで、モータ3のトータルトルクTtは、前述のように、
Tt=Tm+Tr
=p・φa・Iq+p・(Ld−Lq)・Id・Iq
にて表される。本発明では、特許文献2の制御形態と同様に、Tm分とTr分のトルクリップルを分離して捉え、各トルクリップルを減殺し得る電流指令値Id’,Iq’を補正設定するが、広範囲な電流領域でトルクリップルを低減させるべく、所定の電流値を切り換えポイントとして設定し、制御形態を切り換える。具体的には、90A以下の低電流域(低負荷域)ではIq値のみを補正設定すし、90A超の高電流域(高負荷域)ではId値とIq値の両方を補正設定する。
【0046】
図5は、相電流値(A)とトルクリップル率(%)との関係を示すグラフである。発明者らの実験によれば、当該モータ3では、最大トルク制御の場合、トルクリップルを5%以下に抑えることは難しいが、
図5に示すように、IdとIqを組み合わせて補正制御を行うことにより、トルクリップルが5%以下に抑えることが可能となる。しかしながら、Id,Iqを組み合わせて補正を行っても、70(A)以下の領域では、トルクリップルが4%程度あり、さらに40(A)以下では4%を超え、境界値(5%)まで余り余裕がない。その一方、Iqのみを補正設定した制御形態では、110(A)を超える高負荷領域では、トルクリップルが4%を超えるものの、Id+Iqの場合とは逆に、70(A)以下の領域ではトルクリップルが3%前後に抑えられる。
【0047】
そこで、本発明の制御形態では、
図5において「Id,Iq」の両方を対象として補正制御を行った場合のリップル線図と、「Iqのみ」を対象として補正制御を行った場合のリップル線図が交差し両者が逆転する「90A」付近を制御形態の切り換えポイントとして設定する。つまり、「Id+Iq」と「Iqのみ」の両制御形態について、それぞれトルクリップル低減効果の優れた部分を抽出して組み合わせる。これにより、
図6のように、低負荷領域(20〜90A)から、高負荷領域(90A超)まで、幅広い電流帯域にてトルクリップルを4%以下に抑えることができ、従来の制御形態に比して、広範囲なトルク域でトルクリップルを安定的に低減させることが可能となる。また、補正制御後のトルクリップルも4%以下に抑えられるため、境界値まで余裕のある制御が可能となる。
【0048】
前述のように、本発明の制御形態では、トルクリップルを当初からTm分とTr分とに分けて考え、まず、Tmのトルクリップルを減殺させるIq値を設定する(Iqのみ補正)。次に、この補正されたIq値を考慮して、Trのトルクリップルを減殺させるId値を設定する(Id,Iq補正)。すなわち、90A以下の低電流域では前者の制御形態(Iqのみ補正)を実行し、90A超の高電流域(高負荷域)では後者の制御形態(Id,Iq補正)を実行する。
【0049】
この際、本発明の制御処理では、従来の処理のようにトルクリップルを逐次演算して行くのではなく、トルクリップルの性質(波形)に鑑み、それを打ち消すような波形の高調波成分を補正マップ58に基づいて付加して行く。補正マップ58には、高調波成分を設定する場合に使用するパラメータと相電流との関係が示されており、電流センサ64にて検出されたモータ3の相電流の実効値から、重畳すべき高調波成分が直ちに算出される。そして、この高調波成分を基本波電流に付加することにより、トルクリップルを低減させる電流指令値Id’,Iq’が設定される。以下、このような制御処理について、
図7〜9に基づいて、具体的に説明する。
【0050】
まず、
図7(a)に示すように、モータ3のような6極9スロットのモータでは、ロータ1回転(機械角360度)について、Tm,Tr共に18山のトルクリップルが生じる。但し、TmとTrではトルクリップルの位相や振幅に違いがあり(
図7(b))、両者を同時に減殺し得る逆位相の高調波成分は設定できない。そこで、トルクリップルをTm分とTr分とに分けて考えると、6極9スロットのモータにおけるTm=p・φa・Iq(Iq:一定)のリップルは、
図8(a)に示すように、電気角では18/3=6次(山)となる。また、Tm/Iq=p・φaのリップルもまた、
図8(b)に示すように電気角では6次(山)となる。
【0051】
従って、このリップルに対して、
図8(c)のような逆位相のN=6n次(nは正の整数:ここではn=1)のIq(h)を掛け合わせれば、Tm分のトルクリップルが相殺され0となる(
図8(d))。すなわち、Tm分のトルクリップルを減殺するには、Iqの基本波に6次の高調波成分(第1高調波成分)を付加し、次式のような電流指令値Iq’を設定する。
Iq’(θ)=Iqb(基本波電流)+Bsin6(θ+β)
(B:高調波振幅係数,β:位相のずれ,θ:回転角(電気角))
本発明の制御形態にあっては、90A以下の低電流域では、IqをこのIq’に補正し、モータの駆動制御を行う。なお、この場合は、Idに対する補正は行わず、基本波をそのまま電流指令値Id’として出力する。
【0052】
一方、このようにしてTm分のトルクリップルを0とし、その際のIqをIq(h)とすると、このときのトータルトルクTt(h)は、Iq(h)によるマグネットトルクTm(h)とリラクタンストルクTr(h)の和となり、
Tt(h)=Tm(h)+Tr(h)
=p・φa・Iq(h)+p・(Ld−Lq)・Id・Iq(h)
となる。上式において、第1項のTm分のトルクリップルは0であり一定となる。これに対し、第2項はIq(h)を含んだトルクリップルを有している。つまり、前記Iq’(θ)を適用した場合、Tm分のトルクリップルは0となるが、Iq(h)によってはTr分のトルクリップルは解消しない。
【0053】
そこで、改めてTr(h)=p・(Ld−Lq)・Id・Iq(h)について検討する。この場合も、6極9スロットのモータにおけるTr(h)のリップルは、
図9(a)に示すように、前述同様、電気角では6次となる。一方、通常の最大トルク制御のようにId=一定と考えると、Tr(h)/Id=p・(Ld−Lq)・Iq(h)のリップルも
図9(b)に示すように電気角では6次(山)となる。従って、Tr(h)のトルクリップルに対して、
図9(c)のような逆位相のId(h)(6n次(nは正の整数:ここではn=1))を掛け合わせれば、Tr(h)のトルクリップルが相殺され0となる(
図9(d))。すなわち、Tr分のトルクリップルを減殺するには、Idの基本波に6次の高調波成分(第2高調波成分)を付加し、次式のような電流指令値Id’を設定すれば良い。
Id’(θ)=Idb(基本波電流)+Asin6(θ+α)
(A:高調波振幅係数,α:位相のずれ,θ:回転角(電気角))
【0054】
そこで、90A超の高電流域では、トータルトルクTtのリップルを減殺させるべく、まずTm分のリップルを0とし、その上で、Tr分のリップルを0とし得る条件を検討し、その結果、電流指令値Id’,Iq’を次式のように補正する。
Id’(θ)=Idb+Asin6(θ+α) (式1)
Iq’(θ)=Iqb+Bsin6(θ+β) (式2)
なお、高調波振幅係数A,Bは、トルクリップル相殺のために付加される逆位相の6次高調波成分の振幅を意味している。また、位相のずれα,βは、Tm,Trのトルクリップル波形とsinθとの位相のずれを意味している。この場合、TmとTrのリップルは別個の波形をとなるため、式1,2ではそれぞれ別の値α,βが設定されている。
【0055】
このような検討結果に基づき、90A超の高電流域では、基本電流算出部52にてIdb,Iqb(基本波電流)を求め、その後、電流補正部60にてIdb,Iqbを補正し、電流指令値Id’,Iq’を設定する。その際、電流補正部60は、検出電流値(相電流値)に基づいて、高調波係数マップ62と位相調整マップ63からA,B,α,βを取得し、電流指令値Id’,Iq’を算出する。高調波係数マップ62には相電流値と高調波振幅係数A,Bとの関係が、また、位相調整マップ63には相電流値と位相のずれα,βとの関係がそれぞれ格納されており、電流補正部60は、式1,2に基づいて電流指令値Id’,Iq’を算出する。
【0056】
図10は、相電流値とIdb,Iqb及びId’,Iq’との関係を示すグラフである。
図10に示すように、Id’,Iq’(波線)の値は、Idb,Iqb(実線)を中心として上下に幅を持った値となっており、これは、式1,2における第2項の数値の変化、つまり、高調波成分の振幅A,Bに対応している。Idb,Iqbに対しては、振幅A,Bの6次高調波成分が付加され、
図10に波線にて示したようなId’,Iq’が設定される。高調波係数マップ62にはこのような振幅A,B(波線間の幅)が相電流値に対応して格納されている。電流補正部60は、電流センサ64にて検出した相電流値から、高調波係数マップ62を用いて式1,2の高調波振幅係数A,Bを取得する。
【0057】
図11は、相電流値とα,βとの関係を示すグラフである。前述のように、α,βはTm,Trとで異なる値となるが、相電流値によっても位相が異なる。このため、相電流値によるα,βの変化を考慮する必要がある。
図11はそのようなα,βの変化が示されており、位相調整マップ63には、
図11の関係が格納されている。電流補正部60は、電流センサ64にて検出した相電流値から、位相調整マップ63を用いて式1,2の位相のずれα,βを取得する。
【0058】
このように、本発明のシステムでは、90Aを切り換えポイントとして、その前後で制御形態を切り換えることにより、従来と同程度のCPUを使用しつつ、広範囲な電流領域にてトルクリップル率を5%以下(発明者らの実験では4%以下:
図6参照)に抑えることができた。従って、本発明による制御方法・制御装置を用いたEPSでは、高速走行中のような低負荷時から、据え切り時等のような高負荷時まで、幅広いトルク領域にてトルクリップルが大きくならず、操舵フィーリングの向上を図ることが可能となる。
【0059】
また、本発明による制御処理では、最大トルクが得られる進角制御を実施しつつ、Tm分とTr分のトルクリップルを分離して捉え、各トルクリップルを減殺し得る電流指令値Id’,Iq’を、予め設定した補正マップを用いて設定する。補正マップには、各相の電流実効値と補正用パラメータとの関係が格納されており、制御装置は、検出電流値から補正マップを参照してパラメータを決定する。つまり、本発明においては、必要な定数が予めマッピングされており、CPUは、これを参照するだけで電流指令値Id’,Iq’を算出することができる。これにより、制御装置側では、トルクリップルを常時算出し、それを減殺する指令値を逐一演算する必要がなくなり、IPMモータの制御におけるCPUの負担を大幅に低減することが可能となる。
【0060】
本発明は前述のような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の実施形態では、モータ仕様に基づき、Id,Iqに6n次の高調波を含有させたが、モータ仕様に応じて含有させる高調波の次数は適宜変更される。また、本発明は、2P3Sをベースにした6P9Sや8P12Sなどの2P3S×n構成のモータは勿論のこと、これ以外にも、10P12Sや14P12Sなど、電気角360°にて6山のリップルが生じるモータにも全く同様に適用可能である。つまり、本発明によれば、電気角にて表されたリップル波形が同じ次数にて示される各モータは、極・スロット数に関係なく、同様の高調波成分の付与によりトルクリップルの低減が可能となる。