(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力軸と、その入力軸と同軸上に配置された出力軸の相互間において回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチおよびその2方向クラッチの係合および解除を制御する電磁クラッチを有し、
前記2方向クラッチが、前記出力軸の軸端部に設けられた外輪の内周と前記入力軸の軸端部に設けられた内輪の外周間に、制御保持器および回転保持器のそれぞれに設けられた柱部が周方向に交互に配置されるよう組込み、隣接する柱部間に形成されたポケット内に前記外輪の内周および内輪の外周に対して係合可能な一対の係合子と、その一対の係合子を離反する方向に付勢する弾性部材とを組込んだ構成とされ、
前記電磁クラッチが、前記制御保持器の外周部に形成された筒部に圧入される連結筒を外周に有し、その連結筒の圧入によって制御保持器に連結されたアーマチュアと、そのアーマチュアとの間に間隙をおいて軸方向に対向配置されたロータと、静止部材に支持されてロータと軸方向で対向し、通電により前記アーマチュアに磁気吸引力を付与してロータに吸着させる電磁石とからなり、
前記電磁石に対する通電によりアーマチュアと共に制御保持器をロータに向けて軸方向に移動させ、その軸方向への移動を運動変換機構により制御保持器と回転保持器をポケットの周方向幅が小さくなる方向の相対回転運動に変換して一対の係合子を係合解除させるようにした回転伝達装置において、
前記アーマチュアの前記ロータによって吸着される吸着面に対する背面と前記筒部の端面間に間隙が形成される状態でアーマチュアの連結筒と筒部の相対的な嵌合量を規制する規制手段を設けたことを特徴とする回転伝達装置。
前記電磁石と入力軸を相対的に回転自在に支持する軸受に前記ロータの内周に形成された内筒部の端面を当接させて電磁石とロータの軸方向の相対位置を規制した請求項1又は2に記載の回転伝達装置。
【背景技術】
【0002】
駆動軸から従動軸への回転の伝達と遮断とを行う回転伝達装置として、2方向クラッチを有し、その2方向クラッチの係合および解除を電磁クラッチにより制御するようにしたものが従来から知られている。
【0003】
特許文献1には、2方向クラッチの係合および解除を電磁クラッチにより制御するようにした回転伝達装置が記載されており、上記2方向クラッチにおいては、外輪とその内側に組み込まれた内輪との間に制御保持器と回転保持器とを、各保持器に形成された柱部が周方向で交互に配置されるよう組込み、隣接する柱部間に形成されたポケット内に対向一対のローラを組込み、その一対のローラを、その対向部間に組み込まれた弾性部材で離反する方向に付勢して、外輪の内周に形成された円筒面と内輪の外周に形成されたカム面に係合する位置にスタンバイさせ、上記内輪の一方向への回転により一方のローラを円筒面およびカム面に係合させ、内輪の回転を外輪に伝達するようにしている。
【0004】
また、上記2方向クラッチを制御する電磁クラッチにおいては、電磁石に対する通電により制御保持器を軸方向に移動させ、その制御保持器のフランジと回転保持器のフランジの対向面間に設けられた運動変換機構としてのトルクカムの作用によりポケットの周方向幅が小さくなる方向に制御保持器と回転保持器とを相対回転させ、各保持器の柱部で一対のローラを係合解除位置まで移動させて、内輪から外輪への回転伝達を遮断するようにしている。
【0005】
上記回転伝達装置においては、電磁クラッチの電磁石に対する通電を解除すると、対向一対のローラ間に組み込まれた弾性部材の押圧作用により制御保持器と回転保持器とがポケットの周方向幅が大きくなる方向に相対回転して対向一対のローラが円筒面およびカム面に直ちに係合するため、回転方向ガタがきわめて小さく、応答性に優れているという特徴を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1に記載された従来の回転伝達装置においては、電磁クラッチが、制御保持器に連結されたアーマチュアと、そのアーマチュアとの間に間隙をおいて軸方向に対向配置されたロータと、静止部材に支持されてロータと軸方向で対向する電磁石を有し、上記電磁石に対する通電によりアーマチュアに磁気吸引力を付与してロータに吸着し、そのアーマチュアと共に制御保持器を軸方向に移動させるようにしている。
【0008】
このとき、アーマチュアと制御保持器の連結構造を、制御保持器の外周に設けられた筒部をアーマチュアの外周に設けられた連結筒内に圧入し、その筒部端面をアーマチュアの吸着面に対する背面に当接させて圧入量を規制しているため、上記アーマチュアがロータに吸着される状態において、アーマチュアの背面から筒部の端面に対する磁気の漏洩が多い。この場合、アーマチュアが吸着されない事態が生じると問題となるため、容量の大きな大型の電磁石を設けたり、入力電圧を高めたりする必要があり、当該部位の設計の自由度が低下し、その設計の自由度を高める上において改善すべき点が残されている。
【0009】
また、入力軸に形成されたロータ嵌合軸部の軸方向端面に軸受を当接させることで電磁石に対し入力軸を回転自在に支持しつつ電磁石の軸方向位置を規制し、一方、ロータを入力軸に設けられたフランジに当接させてロータの軸方向位置を規制して、ロータと電磁石の対向部間に形成される軸方向すきまを管理する構成であって、軸方向すきまの管理が入力軸を介する間接的な管理であるため、軸方向すきまのバラツキが大きく、アーマチュアに付与される磁気吸引力が不安定になり易い。その磁気吸引力が不安定とならないよう、前記と同様に、容量の大きな大型の電磁石を設けたり、入力電圧を高めたりする必要があり、上記磁気吸引力の安定化を図る上においても改善すべき点が残されている。
【0010】
この発明の課題は、アーマチュアから制御保持器への磁気の漏洩を抑制し、2方向クラッチを精度よく確実に機能させることができるようにした回転伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、入力軸と、その入力軸と同軸上に配置された出力軸の相互間において回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチおよびその2方向クラッチの係合および解除を制御する電磁クラッチを有し、前記2方向クラッチが、前記出力軸の軸端部に設けられた外輪の内周と前記入力軸の軸端部に設けられた内輪の外周間に、制御保持器および回転保持器のそれぞれに設けられた柱部が周方向に交互に配置されるよう組込み、隣接する柱部間に形成されたポケット内に前記外輪の内周および内輪の外周に対して係合可能な一対の係合子と、その一対の係合子を離反する方向に付勢する弾性部材とを組込んだ構成とされ、前記電磁クラッチが、前記制御保持器の外周部に形成された筒部に圧入される連結筒を外周に有し、その連結筒の圧入によって制御保持器に連結されたアーマチュアと、そのアーマチュアとの間に間隙をおいて軸方向に対向配置されたロータと、静止部材に支持されてロータと軸方向で対向し、通電により前記アーマチュアに磁気吸引力を付与してロータに吸着させる電磁石とからなり、前記電磁石に対する通電によりアーマチュアと共に制御保持器をロータに向けて軸方向に移動させ、その軸方向への移動を運動変換機構により制御保持器と回転保持器をポケットの周方向幅が小さくなる方向の相対回転運動に変換して一対の係合子を係合解除させるようにした回転伝達装置において、前記アーマチュアの前記ロータによって吸着される吸着面に対する背面と前記筒部の端面間に間隙が形成される状態でアーマチュアの連結筒と筒部の相対的な嵌合量を規制する規制手段を設けた構成を採用したのである。
【0012】
ここで、上記規制手段として、筒部の外径面に大径部を形成し、その大径部の軸方向端面に連結筒の開口端面を当接させる構成のものを採用することができる。
【0013】
上記のように、規制手段によってアーマチュアの吸着面に対する背面と制御保持器における筒部の端面間に間隙が形成される状態でアーマチュアと筒部の相対的な嵌合量を規制することによって、アーマチュアの背面から制御保持器の筒部端面への磁気の漏洩を大幅に抑制することができ、2方向クラッチを精度よく確実に機能させることができると共に、容量の小さな電磁石を採用することができ、設計の自由度を高めることができる。
【0014】
この発明に係る回転伝達装置において、電磁石と入力軸を相対的に回転自在に支持する軸受にロータの内周に形成された内筒部の端面を当接させて電磁石とロータの軸方向の相対位置を規制することにより、ロータと電磁石の対向部間に形成される軸方向すきまを常に一定の大きさに管理することができ、アーマチュアに付与される磁気吸引力の安定化を図り、2方向クラッチを確実に機能させることができる。
【0015】
ここで、電磁石に対して通電を開始する前の状態では、制御保持器と外輪の端面は接触状態にあり、その状態から電磁石に電流を印加すると、電磁石から入力軸および外輪に磁気が漏洩し、外輪に制御保持器を介してアーマチュアを吸引しようとする磁力が発生し、ロータによるアーマチュアの吸着が不安定となる可能性がある。
【0016】
そこで、外輪と制御保持器の軸方向の対向面における少なくとも一方に非磁性体からなる磁気遮蔽リングを設け、あるいは、制御保持器を非磁性体の焼結体で形成することにより、電磁石に電流を印加してアーマチュアがロータに吸引され始めるとき、外輪からアーマチュアへの磁気漏洩を防止し、アーマチュアの吸着が不安定になるのを防止することができると共に容量の小さな電磁石を採用することができ、設計の自由度を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明においては、上記のように、アーマチュアの吸着面に対する背面と制御保持器における筒部の端面間に間隙が形成される状態でアーマチュアと筒部の相対的な嵌合量を規制する規制手段を設けたことによって、アーマチュアから制御保持器への磁気の漏洩を抑制することができ、2方向クラッチを精度よく確実に機能させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る回転伝達装置の実施の形態を示す。図示のように、回転伝達装置は、入力軸1と、その入力軸1と同軸上に配置された出力軸2と、その両軸の軸端部を覆う静止部材としてのハウジング3と、そのハウジング3内に組み込まれて入力軸1から出力軸2への回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチ10およびその2方向クラッチ10の係合、解除を制御する電磁クラッチ50とからなる。
【0020】
ハウジング3は円筒状をなし、その一端部には小径の軸受筒4が設けられ、その軸受筒4内に組み込まれた軸受5によって出力軸2が回転自在に支持されている。
【0021】
図1および
図2に示すように、2方向クラッチ10は、出力軸2の軸端部に設けられた外輪11の内周に円筒面12を設け、入力軸1の軸端部に設けられた内輪13の外周に複数のカム面14を周方向に等間隔に形成し、その複数のカム面14のそれぞれと円筒面12間に一対の係合子としてのローラ15と弾性部材20とを組込み、そのローラ15を保持器16で保持し、上記内輪13の一方向への回転により一対のローラ15の一方を円筒面12およびカム面14に係合させて内輪13の回転を外輪11に伝達し、また、内輪13の他方向への回転時に他方のローラ15を円筒面12およびカム面14に係合させて内輪13の回転を外輪11に伝達するようにしている。
【0022】
ここで、外輪11の閉塞端部の内面側には小径の凹部17が形成され、その凹部17内に組み込まれた軸受18によって内輪13の端部が回転自在に支持されている。
【0023】
内輪13は入力軸1の軸端部に対してセレーションによる嵌合とされて回り止めされているが、入力軸1に一体に設けるようにしてもよい。その内輪13の外周に形成されたカム面14は、相反する方向に傾斜する一対の傾斜面14a、14bから形成されて外輪11の円筒面12との間に周方向の両端が狭小のくさび形空間を形成しており、上記一対の傾斜面14a、14b間には内輪13の接線方向に向く平坦なばね支持面19が設けられ、そのばね支持面19によって弾性部材20が支持されている。
【0024】
弾性部材20はコイルばねからなる。この弾性部材20は一対のローラ15間に配置される組込みとされ、その弾性部材20により一対のローラ15は離反する方向に付勢されて、円筒面12およびカム面14に係合するスタンバイ位置に配置されている。
【0025】
保持器16は、制御保持器16Aと、回転保持器16Bとからなる。
図1および
図6に示すように、制御保持器16Aは、環状のフランジ21の片面外周部にカム面14と同数の柱部22を周方向に等間隔に設け、その隣接する柱部22間に円弧状の長孔23を形成し、外周には柱部22と反対向きに筒部24を設けた構成とされている。
【0026】
一方、回転保持器16Bは、環状のフランジ25の外周にカム面14と同数の柱部26を周方向に等間隔に設けた構成とされている。
【0027】
制御保持器16Aと回転保持器16Bは、制御保持器16Aの長孔23内に回転保持器16Bの柱部26が挿入されて、その柱部22、26が周方向に交互に並ぶ組み合わせとされている。そして、その組み合わせ状態で柱部22、26の先端部が外輪11と内輪13間に配置され、制御保持器16Aのフランジ21および回転保持器16Bのフランジ25が外輪11の外部に位置する組込みとされている。
【0028】
上記のような保持器16A、16Bの組込みによって、
図2に示すように、制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26間にポケット27が形成される。ポケット27は内輪13のカム面14と径方向で対向し、各ポケット27内に対向一対の係合子としてのローラ15および弾性部材20が組込まれている。
【0029】
図1に示すように、制御保持器16Aのフランジ21および回転保持器16Bのフランジ25は、入力軸1の外周に形成された円筒状のスライド案内面28に沿ってスライド自在に支持されている。
【0030】
スライド案内面28の電磁クラッチ50側の端部にはフランジ29が設けられ、そのフランジ29と回転保持器16Bのフランジ25間に組み込まれたスラスト軸受30によって回転保持器16Bが電磁クラッチ50側に移動するのが防止される状態で回転自在に支持されている。
【0031】
図1に示すように、制御保持器16Aのフランジ21と回転保持器16Bのフランジ25間には、制御保持器16Aの軸方向への移動を、その制御保持器16Aと回転保持器16Bの相対的な回転運動に変換する運動変換機構としてのトルクカム40が設けられている。
【0032】
図7(a)、(b)に示すように、トルクカム40は、制御保持器16Aのフランジ21と回転保持器16Bのフランジ25の対向面それぞれに周方向の中央部で深く両端に至るに従って次第に浅くなる対向一対のカム溝41、42を設け、一方のカム溝41の一端部と他方のカム溝42の他端部間にボール43を組み込んだ構成としている。
【0033】
カム溝41、42として、ここでは断面形状が円弧状の溝を示したが溝断面形状がV型の溝であってもよい。
【0034】
上記トルクカム40は、制御保持器16Aのフランジ21が回転保持器16Bのフランジ25に接近する方向に制御保持器16Aが軸方向に移動した際に、
図7(b)に示すように、ボール43がカム溝41、42の溝深さの最も深い位置に向けて転がり移動し、制御保持器16Aと回転保持器16Bをポケット27の周方向幅が小さくなる方向に相対回転させるようになっている。
【0035】
図1に示すように、内輪13には、入力軸1に形成されたスライド案内面28側の端部に、そのスライド案内面28とほぼ同径のホルダ嵌合面44が形成され、そのホルダ嵌合面44にローラ15および弾性部材20の軸方向への脱落を防止する環状のばねホルダ45が嵌合されている。
【0036】
ばねホルダ45は、内輪13の軸方向端面に衝合する状態で軸方向に位置決めされている。
図4および
図5に示すように、ばねホルダ45の外周には制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26間に配置される複数の制動片46が形成されている。
【0037】
複数の制動片46は、制御保持器16Aと回転保持器16Bとがポケット27の周方向幅を縮小する方向に相対回転した際に、制御保持器16Aの柱部22および回転保持器16Bの柱部26を両側縁で受け止めて対向一対のローラ15を係合解除する中立位置に保持するようになっている。
【0038】
複数の制動片46のそれぞれ外周部には、軸方向に延びて弾性部材20の外側に張り出すばね保持片47が形成され、そのばね保持片47の内径側に形成された切欠部48に弾性部材20の外周部が嵌合し、その嵌合によって、弾性部材20はローラ15の軸方向に移動するのが防止され、かつ、対向一対のローラ15間から脱落するのが防止されている。
【0039】
図1に示すように、電磁クラッチ50は、制御保持器16Aに形成された筒部24の端面と軸方向で対向するアーマチュア51と、そのアーマチュア51と軸方向で対向するロータ52と、そのロータ52と軸方向で対向する電磁石53とを有している。
【0040】
アーマチュア51は、入力軸1に設けられた前述のフランジ29によって回転自在かつスライド自在に支持されている。アーマチュア51の外周部には連結筒54が形成され、その連結筒54の内径面に制御保持器16Aの筒部24が圧入されて、制御保持器16Aとアーマチュア51が連結一体化されている。
【0041】
筒部24は、連結筒54との間に設けられた規制手段60によって圧入による嵌合量が規制され、その規制によってアーマチュア51のロータ52によって吸着される吸着面に対する背面と筒部24の端面間に間隙55が形成される。
【0042】
図8に示すように、規制手段60は、制御保持器16Aにおける筒部24の外径面に大径部61を設け、その大径部61の軸方向の端面に連結筒54の開口端面を当接させるようにしている。
【0043】
アーマチュア51は、制御保持器16Aの筒部24に対する連結によってフランジ29の外周と入力軸1の外周のスライド案内面28の軸方向の2箇所においてスライド自在の支持とされている。
【0044】
ロータ52は、外筒部52aおよび内筒部52bを有し、上記内筒部52bが入力軸1に嵌合されて回り止めされ、入力軸1に設けられた前述のフランジ29によって軸方向に位置決めされる。
【0045】
電磁石53は、電磁コイル53aと、その電磁コイル53aを支持するコア53bとからなる。コア53bは静止部材としてのハウジング3の他端部開口内に嵌合され、その他端部開口内に取付けた止め輪56によって抜止めされる。また、入力軸1は、その入力軸1に嵌合された軸受57を介してコア53bに対し相対的に回転自在とされている。
【0046】
軸受57は、コア53bの端部に形成された大径孔部53c内に嵌合され、その大径孔部53cの開口端部内に軸受57を抜止めする止め輪58が組み込まれている。
【0047】
ロータ52は、フランジ29との間に組み込まれたシム59により内筒部52bの端面が軸受57の内輪57aに当接する状態とされて電磁石53とロータ52は軸方向の相対位置が規制され、また、電磁石53は止め輪56に押し付けられて抜止め状態とされている。
【0048】
実施の形態で示す回転伝達装置は上記の構造からなり、
図1は、電磁石53の電磁コイル53aに対する通電の遮断状態を示し、アーマチュア51はロータ52から離反する状態にある。また、2方向クラッチ10の対向一対のローラ15は、
図3に示すように、外輪11の円筒面12および内輪13のカム面14に対して係合するスタンバイ位置に位置している。
【0049】
2方向クラッチ10のスタンバイ状態において、電磁コイル53aに通電すると、アーマチュア51に吸引力が作用し、アーマチュア51が軸方向に移動して、
図8に示すように、ロータ52に吸着される。
【0050】
ここで、アーマチュア51は筒部24に対する連結筒54の圧入によって制御保持器16Aに連結一体化されているため、アーマチュア51の軸方向への移動に伴って制御保持器16Aは、そのフランジ21が回転保持器16Bのフランジ25に接近する方向に移動する。
【0051】
このとき、
図7(a)に示すボール43が
図7(b)に示すように、カム溝41、42の溝深さの最も深い位置に向けて転がり移動し、制御保持器16Aと回転保持器16Bはポケット27の周方向幅が小さくなる方向に相対回転し、対向一対のローラ15は制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26で押されて互いに接近する方向に移動する。このため、ローラ15は、円筒面12およびカム面14から係合解除して中立状態となり、2方向クラッチ10は係合解除状態とされる。
【0052】
2方向クラッチ10の係合解除状態において、入力軸1に回転トルクを入力して内輪13を一方向に回転すると、ばねホルダ45に形成された制動片46が制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26の一方を押圧するため、内輪13と共に制御保持器16Aおよび回転保持器16Bが回転する。このとき、対向一対のローラ15は係合解除された中立位置に保持されているため、内輪13の回転は外輪11に伝達されず、内輪13はフリー回転する。
【0053】
ここで、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅を小さくなる方向に相対回転すると、制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26がばねホルダ45の制動片46の両側縁に当接して相対回転量が規制される。
【0054】
このため、弾性部材20は必要以上に収縮することはなくなり、伸長と収縮が繰り返し行われても疲労によって破損するようなことはない。
【0055】
内輪13のフリー回転状態において、電磁コイル53aに対する通電を解除すると、アーマチュア51は吸着が解除される。その吸着解除により、弾性部材20の押圧によって制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅が大きくなる方向に相対回転し、対向一対のローラ15のそれぞれが、
図3に示すように、円筒面12およびカム面14に係合するスタンバイ状態とされ、その対向一対のローラ15の一方を介して内輪13と外輪11の相互間で一方向の回転トルクが伝達される。
【0056】
ここで、入力軸1を停止して、その入力軸1の回転方向を切換えると、他方のローラ15を介して内輪13の回転が外輪11に伝達される。
【0057】
このように、電磁コイル53aに対する通電の遮断により、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅が大きくなる方向に相対回転して、対向一対のローラ15のそれぞれが円筒面12およびカム面14に直ちに噛み込むスタンバイ状態とされるため、回転方向ガタは小さく、また、内輪13は入力軸1に一体化されているため、入力軸1の回転を内輪13から外輪11に直ちに伝達することができる。
【0058】
また、内輪13から外輪11への回転トルクの伝達は、カム面14と同数のローラ15を介して行われるため、内輪13から外輪11に大きな回転トルクを伝達することができる。
【0059】
なお、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅が大きくなる方向に相対回転すると、ボール43は対向一対のカム溝41、42の浅溝部に向けて転がり移動して、
図7(a)に示す状態となる。
【0060】
ここで、
図8に示すように、電磁コイル53aに対する通電によりロータ52にアーマチュア51が吸着された状態において、アーマチュア51のロータ52に対する吸着面の背面と制御保持器16Aにおける筒部24の端面間には間隙55が形成されているため、上記間隙55によってアーマチュア51の背面から制御保持器16Aにおける筒部24の端面への磁気の漏洩が抑制される。このため、電磁コイル53aに対する通電によって2方向クラッチ10を確実に機能させることができる。
【0061】
図8に示すように、電磁石53と入力軸1を相対的に回転自在に支持する軸受57にロータ52の内周に形成された内筒部52bの端面を当接させて電磁石53とロータ52の軸方向の相対位置を規制することにより、ロータ52と電磁石53の対向部間に形成される軸方向すきま62のすきま量を常に一定の大きさに管理することができる。その結果、アーマチュア51に付与される磁気吸引力の安定化を図り、2方向クラッチ10を確実に機能させることができる。
【0062】
ここで、電磁石53の電磁コイル53aに対して通電を開始する前の状態では、
図1に示すように、制御保持器16Aと外輪11の端面は接触状態にある。その状態から電磁コイル53aに電流を印加すると、同図の矢印イで示すように、電磁石53から入力軸1および外輪11に磁気が漏洩し、外輪11に制御保持器16Aを介してアーマチュア51を吸引しようとする磁力が発生し、ロータ52によるアーマチュア51の吸着力が低下する可能性がある。
【0063】
上記のような、電磁コイル53aへの電流の印加初期における磁気漏洩を防止するため、
図9においては、制御保持器16Aにおけるフランジ21の外輪11の端面に対する対向面に非磁性体からなる磁気遮蔽リング70を取り付けて、外輪11から制御保持器16Aのフランジ21に磁気が漏洩するのを防止するようにしている。
【0064】
また、
図10においては、外輪11の端面に磁気遮蔽リング70を取り付け、さらに、
図11においては、制御保持器16Aを非磁性体の焼結体で形成して、外輪11から制御保持器16に磁気が漏洩するのを防止するようにしている。
【0065】
図1に示す回転伝達装置の装置に対する組付けに際し、入力軸1および出力軸2のそれぞれは駆動側および従動側の継手軸80に形成された軸挿入孔81内に挿入されてセレーション82の嵌合により回り止めされる。また、継手軸80の外周から軸挿入孔81の内周一部を横切るように形成されたボルト挿入孔83に抜止めボルト84を挿入し、その抜止めボルト84の一部を入力軸1および出力軸2のそれぞれの外周に形成されたボルト係合溝85に係合させて入力軸1および出力軸2の抜止めとされる。
【0066】
継手軸80に対する入力軸1および出力軸2の挿入に際し、入力軸1および出力軸2の先端部外周に形成された面取り86を継手軸80の軸挿入孔81の開口端に形成された面取り87に面合わせして挿入することが行われるが、継手軸80と入力軸1および出力軸2が相対的に傾斜する場合が多く、その傾斜によってスムーズに挿入することができない場合が多くある。
【0067】
入力軸1および出力軸2の外周に形成されたボルト係合溝85が抜止めボルト84の外周に沿う円弧状のものであると、部品相互のバラツキによりボルト係合溝85がボルト挿入孔83に対して軸方向位置にずれが生じ、抜止めボルト84を挿入することができない場合がある。
【0068】
図12(a)、(b)に示すように、入力軸1および出力軸2の先端部外周に円弧面90を形成し、あるいは、
図13に示すように、軸端面からボルト係合溝85に至る範囲の全体を円弧面91とすることによって継手軸80に対して入力軸1および出力軸2をスムーズに挿入することができ、挿入性の向上を図ることができる。
【0069】
また、
図14に示すように、ボルト係合溝85を断面長円形とすることにより、ボルト挿入孔83に対する位置ずれを防止し、抜止めボルト84を確実に挿入することができる。