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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163386
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】燃料電池システム、及びその保護方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20170703BHJP
   H01M 8/04228 20160101ALI20170703BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20170703BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20170703BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20170703BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/04 Y
   H01M8/00 A
   !H01M8/12
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-175374(P2013-175374)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-46241(P2015-46241A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2015年10月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「固体酸化物形燃料電池を用いた事業用発電システム要素技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】末森 重徳
(72)【発明者】
【氏名】眞竹 徳久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 慎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 研太
【審査官】 久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−172105(JP,A)
【文献】 特表2013−530490(JP,A)
【文献】 特表2014−523081(JP,A)
【文献】 特開2009−224266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電する燃料電池セルが形成されているセルスタックと、
前記セルスタックに対して、発電状態における該セルスタックの極性と同じ極性の電圧を印加する電圧印加部と、
前記セルスタックへの外部からの前記燃料ガス及び前記酸化ガスの供給が停止していない状態で前記セルスタックから系統電力供給が遮断された際に、前記電圧印加部から前記セルスタックに対して前記電圧を印加させる保護制御部と、
を備えていることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記保護制御部は、前記セルスタックでの発電開始を検知すると、前記電圧印加部に、前記セルスタックに対する前記電圧の印加を停止させる、
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記保護制御部は、前記セルスタックの温度又は該セルスタック周りの環境温度が予め定められた温度以下であることを検知すると、前記電圧印加部に、前記セルスタックに対する前記電圧の印加を停止させる、
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料電池システムにおいて、
前記電圧印加部は、前記セルスタックに前記電圧を印加する蓄電池と、該蓄電池と前記セルスタックとが電気的接続されている接続状態と電気的接続が断たれる切断状態との切替を行うスイッチと、を有し、
前記保護制御部は、前記スイッチの動作を制御する、
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムにおいて、
前記電圧印加部は、前記セルスタックに印加される電圧を調節する電圧調節部を有し、
前記保護制御部は、前記電圧調節部を制御する、
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池システムにおいて、
前記セルスタックの温度又は該セルスタック周りの環境温度を検知する温度計を備え、
前記保護制御部は、前記温度計で検知される温度と前記セルスタックに印加する電圧の値又は該電圧の値に相関する前記電圧調節部での調節の値との予め定められた関係を示す関係情報を用いて、前記温度計で検知された温度に対応する値を定め、該温度計で検知された温度に対応する値が得られるよう、前記電圧調節部を制御する、
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項7】
請求項5に記載の燃料電池システムにおいて、
前記セルスタックの電圧の値を検知する電圧計を備え、
前記保護制御部は、前記電圧計で検知される前記電圧の値が予め定められた値以上になるよう、前記電圧調節部を制御する、
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池システムにおいて、
前記セルスタックの温度又は該セルスタック周りの環境温度を検知する温度計を備え、
前記保護制御部は、前記温度計で検知される温度と前記セルスタックに印加する電圧の値との予め定められた関係を示す関係情報を用いて、前記温度計で検知された温度に対応する電圧の値を定め、該値以上に前記電圧計で検知される前記電圧の値がなるよう、前記電圧調節部を制御する、
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の燃料電池システムにおいて、
複数の前記セルスタックを有する燃料電池モジュールを備えている、
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項10】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電する燃料電池セルが形成されているセルスタックを有する燃料電池システムの保護方法において、
前記セルスタックへの外部からの前記燃料ガス及び前記酸化ガスの供給が停止していない状態で前記セルスタックから系統電力供給が遮断された際に生じる前記セルスタックでの発電停止を検知する検知工程と、
前記検知工程で前記セルスタックでの発電停止が検知されると、前記酸化剤ガスが供給されている状態で、前記セルスタックに対して、発電状態における該セルスタックの極性と同じ極性の電圧を印加する電圧印加工程と、
を実行することを特徴とする燃料電池システムの保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルが形成されているセルスタックを有する燃料電池システム、及びその保護方法に関し、特に、セルスタックの酸化による損傷を抑える技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、低公害で発電効率が高いため、近年、各種分野での利用が期待されている。この燃料電池システムの構成要素である燃料電池モジュールは、炭化水素を含む燃料ガスと空気とを用いて発電を行うセルスタックの束と、このセルスタック束全体を覆う圧力容器とを備えている。セルスタックは、複数の燃料電池セルを有している。この燃料電池セルの燃料極は、Ni等の金属を含んでいる。
【0003】
ところで、燃料電池システムでは、電力負荷系統との電気的接続が断たれる電源喪失を伴うトリップ等で、セルスタックでの発電が停止し、セルスタック周りの還元雰囲気が維持できなくなった場合、セルスタック中の燃料極が酸化して損傷する。そこで、例えば、特許文献1に記載の技術では、セルスタックに還元性ガスを供給することで、セルスタック中の金属の酸化による損傷を防いでいる。具体的に、特許文献1に記載の技術では、水を蒸気にする気化器、燃焼ガスと蒸気等から水素を生成する外部改質器、及びこれらを加熱するためのバーナを設け、発電の停止時に水素を還元性ガスとしてセルスタックに供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−80192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術では、トリップ時に還元性ガスを供給するために多数の機器等が必要であり、設備コストがかさむ、という問題点がある。さらに、上記特許文献1に記載の技術では、トリップ後に気化器を起動してセルスタックに水蒸気を供給するまでに長い時間を要する。具体的に、セルスタックまでの配管中でのドレン発生を抑制するため、この配管を水蒸気の凝縮温度以上に余熱するなど供給開始前の準備が必要である。よって、上記特許文献1に記載の技術では、トリップ後に気化器を起動してセルスタックに水蒸気を供給するまでに、一定時間以上かかり、セルスタック中の燃料極が酸化することを抑制できない場合がある、という問題点もある。
【0006】
そこで、本発明は、発電停止時におけるセルスタックの酸化を抑えつつ、設備コストを抑えることができる燃料電池システム、及びその保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するための発明に係る一態様としての燃料電池システムの保護方法は、燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電する燃料電池セルが形成されているセルスタックを有する燃料電池システムの保護方法において、前記セルスタックに外部からの前記燃料ガス及び前記酸化ガスの供給が停止していない状態で前記セルスタックから系統電力供給が遮断された際に生じる前記セルスタックでの発電停止を検知する検知工程と、
前記検知工程で前記セルスタックでの発電停止が検知されると、前記酸化剤ガスが供給されている状態で、前記セルスタックに対して、発電状態における該セルスタックの極性と同じ極性の電圧を印加する電圧印加工程と、を実行することを特徴とする。
【0008】
また、上記問題点を解決するための発明に係る一態様としての燃料電池システムは、燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により発電する燃料電池セルが形成されているセルスタックと、前記セルスタックに対して、発電状態における該セルスタックの極性と同じ極性の電圧を印加する電圧印加部と、前記セルスタックに外部からの前記燃料ガス及び前記酸化ガスの供給が停止していない状態で前記セルスタックから系統電力供給が遮断された際に、前記電圧印加部から前記セルスタックに対して前記電圧を印加させる保護制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
セルスタックでの発電が停止し、セルスタック周りの還元雰囲気が維持できなると、セルスタック中の燃料極が酸化し、セルスタックが損傷する。セルスタックに対して、発電状態のセルスタックの極性と同じ極性の電圧を印加することで、この燃料極の酸化反応の進行を抑えることができる。そこで、当該燃料電池システム及びその保護方法では、セルスタックの発電停止の検知に伴って、発電状態のセルスタックの極性と同じ極性の電圧を印加する。
【0010】
従って、当該燃料電池システム及びその保護方法では、セルスタックの発電停止に伴って、直ちに、セルスタック中の燃料極の酸化反応に進行を抑えることができるので、セルスタックの損傷を防ぐことができる。また、当該燃料電池システム及びその保護方法では、電気的な回路構成でセルスタックの損傷を防ぐことができるので、特許文献1に記載の技術のように多数の機器等の設置が不要となり、設備コストを抑えることができる。
【0011】
ここで、前記燃料電池システムにおいて、前記保護制御部は、前記セルスタックでの発電開始を検知すると、前記電圧印加部に、前記セルスタックに対する前記電圧の印加を停止させてもよい。
【0012】
当該燃料電池システムでは、セルスタックに対する電圧の印加時間を制限できるので、電圧印加部での電力消費を抑えることができる。
【0013】
また、以上のいずれかの前記燃料電池システムにおいて、前記保護制御部は、前記セルスタックの温度又は該セルスタック周りの環境温度が予め定められ温度以下であることを検知すると、前記電圧印加部に、前記セルスタックに対する前記電圧の印加を停止させてもよい。
【0014】
当該燃料電池システムでも、セルスタックに対する電圧の印加時間を制限できるので、電圧印加部での電力消費を抑えることができる。
【0015】
また、以上のいずれかの前記燃料電池システムにおいて、前記電圧印加部は、前記セルスタックに前記電圧を印加する蓄電池と、該蓄電池と前記セルスタックとが電気的接続されている接続状態と電気的接続が断たれる切断状態との切替を行うスイッチと、を有し、前記保護制御部は、前記スイッチの動作を制御してもよい。
【0016】
また、前記蓄電池及び前記スイッチを有する前記燃料電池システムにおいて、前記電圧印加部は、前記セルスタックに印加される電圧を調節する電圧調節部を有し、前記保護制御部は、前記電圧調節部を制御してもよい。
【0017】
当該燃料電池システムでは、セルスタックに印加する電圧を目的の値に調節することができ、不要に高い電圧をセルスタックに印加する必要がなくなるため、蓄電池での電力消費を抑えることができる。
【0018】
また、前記電圧調節部を有する前記燃料電池システムにおいて、前記セルスタックの温度又は該セルスタック周りの環境温度を検知する温度計を備え、前記保護制御部は、前記温度計で検知される温度と前記セルスタックに印加する電圧の値又は該電圧の値に相関する前記電圧調節部での調節の値との予め定められた関係を示す関係情報を用いて、前記温度計で検知された温度に対応する値を定め、該温度計で検知された温度に対応する値が得られるよう、前記電圧調節部を制御してもよい。
【0019】
セルスタック中の金属の酸化を抑える電圧値は、セルスタックの温度より変化する。そこで、ここでは、温度計で検知される温度とセルスタックに印加する電圧の値との関係を予め把握しておく。又は、温度計で検知される温度とセルスタックに印加する電圧の値に相関する電圧調節部での調節の値の関係を予め把握しておく。当該保護装置では、この関係を示す関係情報を用いて、温度計で検知された温度に対応する電圧の値を定める。そして、この値にセルスタックに印加される電圧の値がなるよう、電圧調節部を制御する。
【0020】
このため、当該燃料電池システムでは、不要に高い電圧をセルスタックに印加する必要がなくなるため、蓄電池での電力消費をより抑えることができる。
【0021】
また、前記電圧調節部を有する前記燃料電池システムにおいて、前記セルスタックの電圧の値を検知する電圧計を備え、前記保護制御部は、前記電圧計で検知される前記電圧の値が予め定められた値以上になるよう、前記電圧調節部を制御してもよい。
【0022】
当該燃料電池システムでは、セルスタックの電圧をフィードバック制御するので、セルスタックの電圧を正確に調節することができる。よって、当該燃料電池システムでも、不要に高い電圧をセルスタックに印加する必要がなくなるため、蓄電池での電力消費をより抑えることができる。
【0023】
また、前記電圧計及び前記電圧調節部を有する前記燃料電池システムにおいて、前記セルスタックの温度又は該セルスタック周りの環境温度を検知する温度計を備え、前記保護制御部は、前記温度計で検知される温度と前記セルスタックに印加される電圧の値との予め定められた関係を示す関係情報を用いて、前記温度計で検知された温度に対応する電圧の値を定め、該値以上に前記電圧計で検知される前記電圧の値がなるよう、前記電圧調節部を制御してもよい。
【0024】
当該燃料電池システムでは、フィードバック制御の目標値である電圧の値を、セルスタックの温度に応じて的確に定めることができるため、不要に高い電圧をセルスタックに印加する必要がなくなるため、蓄電池での電力消費をより抑えることができる。
【0025】
また、以上のいずれかの燃料電池システムにおいて、複数の前記セルスタックを有する燃料電池モジュールを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、発電停止時におけるセルスタック中の燃料極が酸化すること抑制することで、セルスタックの損傷を抑えることができる。さらに、本発明によれば、多数の機器等の設置が不要となり、設備コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る第一実施形態における燃料電池システムの概略構成を示す模式図である。
図2】本発明に係る第一実施形態におけるセルスタックの要部の拡大断面図である。
図3】本発明に係る第一実施形態におけるカートリッジの断面図である。
図4】本発明に係る第一実施形態における保護装置の構成を示す模式図である。
図5】発電停止後のセルスタックの電圧変化を示すグラフである。
図6】セルスタックの温度と平衡電圧との関係を示すグラフである。
図7】本発明に係る第一実施形態における燃料電池システムの発電状態における電子の流れを示す説明図である。
図8】本発明に係る第一実施形態における燃料電池システムの発電状態における電子の流れを示す説明図である。
図9】本発明に係る第二実施形態における保護装置の構成を示す模式図である。
図10】本発明に係る第二実施形態におけるセルスタックの温度と平衡電圧及び印加電圧との関係を示すグラフである。
図11】本発明に係る第三実施形態における保護装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る燃料電池システムの実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
「第一実施形態」
まず、本発明に係る燃料電池システムの第一実施形態について、図1図8を参照して説明する。
【0030】
本実施形態の燃料電池システムは、図1に示すように、燃料電池モジュールMと、燃料電池モジュールMからの直流電流を交流電流に変換するインバータ21と、このインバータ21と系統電力負荷29との間を電気的に切断する遮断器22と、燃料電池モジュールM等の動作を制御するシステム制御装置30と、を備えている。
【0031】
燃料電池モジュールMは、圧力容器10と、この圧力容器10内に配置されている複数のカートリッジ201及び複数の各種配管300と、を備えている。
【0032】
配管300としては、燃料ガス供給源1からの燃料ガスGfを圧力容器10内の各カートリッジ201に導く燃料ガス供給配管310と、各カートリッジ201を通過した燃料ガスGfを圧力容器10外に導く燃料ガス排出配管320と、酸化剤ガス供給源2からの酸化剤ガスGoを圧力容器10内の各カートリッジ201に導く酸化剤ガス供給配管330と、各カートリッジ201を通過した酸化剤ガスGoを圧力容器10外に導く酸化剤ガス排出配管340とがある。
【0033】
燃料ガスGfとしては、例えば、水素、一酸化炭素、メタン等の炭化水素系ガス、石炭等の炭素質原料のガス化により得られた炭化水素を含むガス、又は、これらの2以上の成分を含むガス等が利用される。また、酸化剤ガスGoとしては、例えば、酸素を15〜30vol%含むガス等が利用される。代表的な酸化剤ガスGoとしては、空気であるが、燃焼排気ガスと空気との混合ガスや、酸素と空気との混合ガスを利用してもよい。
【0034】
圧力容器10は、例えば、内部の圧力が0.1MPa〜約5MPa、内部の温度が大気温度〜約550℃で運用される。この圧力容器10は、耐圧性が要求されると共に、使用条件によって、酸化剤ガスGo中に含まれる酸素などの酸化剤に対する耐食性も要求される場合には、例えば、SUS304などのステンレス系材で形成されている。
【0035】
カートリッジ201は、複数のセルスタックの束で構成されている。図2に示すように、セル集合体であるセルスタック101は、円筒形状(又は管形状)の基体管103と、基体管103の外周面に形成されている複数の燃料電池セル105と、隣り合う燃料電池セル105の間に形成されているインターコネクタ107とを有する。燃料電池セル105は、図3に示すように、燃料極112と固体電解質111と空気極113とが積層して形成されている。セルスタック101は、さらに、基体管103の外周面に形成されている複数の燃料電池セル105のうちで、基体管103の軸方向において最も端に形成されている燃料電池セル105の空気極113に、インターコネクタ107を介して電気的に接続されているリード膜115を有する。
【0036】
本実施形態では、この円筒形状(又は管形状)のセルスタック101の内周側に燃料ガスGfが通り、セルスタック101の外周側に酸化剤ガスGoが通る。
【0037】
基体管103は、例えば、CaO安定化ZrO(CSZ)、Y安定化ZrO2(YSZ)、MgAl等のいずれかで形成されている多孔質体である。この基体管103は、燃料電池セル105とインターコネクタ107とリード膜115とを支持する役目を担っている。さらに、この基体管103は、内周側に供給された燃料ガスGfを基体管103の細孔を介して基体管103の外周面に形成される燃料電池セル105に拡散させる役目も担っている。
【0038】
燃料極112は、例えば、Ni/YSZ等、Niとジルコニア系電解質材料との複合材で形成されている。この場合、燃料極112は、燃料極112の成分であるNiが燃料ガスGfに対して触媒として作用する。この触媒としての作用は、基体管103を介して供給された燃料ガスGf中に、例えば、メタン(CH)と水蒸気とが含まれている場合、これら相互を反応させ、水素(H)と一酸化炭素(CO)に改質する作用である。
【0039】
空気極113は、例えば、LaSrMnO系酸化物、又はLaCoO系酸化物で形成されている。この空気極113は、固体電解質111との界面付近において、供給される酸化剤ガスGo中の酸素を解離させて酸素イオン(O2−)を生成する。
【0040】
固体電解質111は、例えば、主としてYSZで形成されている。このYSZは、ガスを通しにくい気密性と、高温下での高い酸素イオン導電性とを有している。この固体電解質111は、空気極113で生成された酸素イオン(O2−)を燃料極112に移動させる。
【0041】
前述の燃料極112では、固体電解質111との界面付近において、改質により得られた水素(H)及び一酸化炭素(CO)と、固体電解質111から供給された酸素イオン(O2−)とが反応し、水(HO)及び二酸化炭素(CO)が生成される。この燃料電池セル105では、この反応過程で酸素イオンから電子が放出されて、発電が行われる。
【0042】
インターコネクタ107は、例えば、SrTiO系などのM1−xTiO(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表される導電性ペロブスカイト型酸化物で形成されている。このインターコネクタ107は、燃料ガスGfと酸化剤ガスGoとが混合しないように緻密な膜で、酸化雰囲気と還元雰囲気との両雰囲気下で安定した電気導電性を有する。このインターコネクタ107は、隣り合う燃料電池セル105において、一方の燃料電池セル105の空気極113と他方の燃料電池セル105の燃料極112とを電気的に接続する。つまり、このインターコネクタ107は、隣り合う燃料電池セル105同士を電気的に直列接続する。
【0043】
リード膜115は、電子伝導性を有すること、及びセルスタック101を構成する他の材料との熱膨張係数が近いことが必要であることから、例えば、Ni/YSZ等のNiとジルコニア系電解質材料との複合材で形成されている。このリード膜115は、インターコネクタ107により電気的に直列接続されている複数の燃料電池セル105で発電された直流電力をセルスタック101の端部付近まで導出する役目を担っている。
【0044】
カートリッジ201は、図3に示すように、複数のセルスタック101と、複数のセルスタック101の束の一方の端部を覆う第一カートリッジヘッダ220aと、複数のセルスタック101の束の他方の端部を覆う第二カートリッジヘッダ220bと、を有している。複数のセルスタック101は、互いに平行で且つその長手方向における互いの位置が揃って、全体として円柱形状を成している。また、第一カートリッジヘッダ220a及び第二カートリッジヘッダ220bは、円柱形状を成している複数のセルスタック101の束の外径よりわずかに大きな外径の円筒形状を成している。このため、カートリッジ201は、全体として、セルスタック101の長手方向に長い円柱形状を成している。なお、カートリッジ201は、円柱形状でなくてもよく、例えば、角柱形状であってもよい。
【0045】
第一カートリッジヘッダ220a及び第二カートリッジヘッダ220bは、いずれも、複数のセルスタック101の束の端部が開口228から内部に入り込む円筒形状のケーシング229a,229bと、ケーシング229a,229bの開口228を塞ぐ仕切断熱板227a,227bと、ケーシング229a,229bの内部空間をセルスタック101の長手方向で2つの空間に仕切る管板225a,225bと、複数のセルスタック101相互を電気的に接続する集電板241a,241bと、集電板241a,241bと電気的に接続されている集電棒242a,242bと、を有している。管板225a,225b等は、高温耐久性のある金属材料で形成されている。管板225a,225b及び仕切断熱板227a,227bには、複数のセルスタック101の端部のそれぞれが挿通可能な貫通孔が形成されている。管板225a,225bは、その貫通孔に挿通されたセルスタック101の端部をシール部材又は接着剤237を介して支持する。このため、この管板225a,225bには貫通孔が形成されているものの、この管板225a,225bを基準にしてケーシング229a,229b内の一方の空間に対する他方の空間の気密性が確保されている。仕切断熱板227a,227bの貫通孔の内径は、ここに挿通されるセルスタック101の外径よりも大きく形成されている。つまり、仕切断熱板227a,227bの貫通孔の内周面と、この貫通孔に挿通されたセルスタック101の外周面との間には隙間235a,235bが存在する。
【0046】
集電板241a,241bは、複数のセルスタック101の一方の端部相互を電気的に接続する正極集電板241aと、複数のセルスタック101の他方の端部相互を電気的に接続する負極集電板241bと、を有している。また、集電棒242a,242bは、正極集電板241aに電気的に接続されている正極集電棒242aと、負極集電板241bに電気的に接続されている負極集電棒242bと、を有している。
【0047】
第一カートリッジヘッダ220aのケーシング229aと管板225aとで形成されている空間は、燃料ガスGfが供給される燃料ガス供給室217を形成している。このケーシング229aには、燃料ガス供給配管310からの燃料ガスGfを燃料ガス供給室217に導くための燃料ガス供給孔231aが形成されている。この燃料ガス供給室217内には、複数のセルスタック101における基体管103の端部が位置し、ここで開放している。燃料ガス供給配管310から燃料ガス供給室217に導かれた燃料ガスGfは、複数のセルスタック101の基体管103の内部に流れ込む。この際、燃料ガスGfは、燃料ガス供給室217により、複数のセルスタック101の各基体管103に対してほぼ均等流量に配分される。このため、複数のセルスタック101における各発電量の均一化を図ることができる。
【0048】
第二カートリッジヘッダ220bのケーシング229bと管板225bとで形成されている空間は、セルスタック101の基体管103内を通過した燃料ガスGfが流れ込む燃料ガス排出室219を形成している。このケーシング229bには、燃料ガス排出室219に流れ込んだ燃料ガスGfを燃料ガス排出配管320に導くための燃料ガス排出孔231bが形成されている。この燃料ガス排出室219内には、複数のセルスタック101における基体管103の端部が位置し、ここで開放している。複数のセルスタック101の各基体管103内を通過した燃料ガスGfは、前述したように、燃料ガス排出室219に流入した後、燃料ガス排出配管320を通って、圧力容器10外へ排出される。
【0049】
第二カートリッジヘッダ220bのケーシング229bと仕切断熱板227bと管板225bとで形成されている空間は、酸化剤ガス供給室216を形成している。このケーシング229bには、酸化剤ガス供給配管330からの酸化剤ガスGoを酸化剤ガス供給室216に導くための酸化剤ガス供給孔233bが形成されている。この酸化剤ガス供給室216内に導かれた酸化剤ガスGoは、仕切断熱板227bの貫通孔の内周面と、この貫通孔に挿通されているセルスタック101の外周面との間の隙間235bから、第一カートリッジヘッダ220aと第二カートリッジヘッダ220bとの間の発電室215へと流出する。
【0050】
第一カートリッジヘッダ220aと第二カートリッジヘッダ220bとの間の発電室215には、複数のセルスタック101の燃料電池セル105が配置されている。このため、この発電室215では、燃料ガスGfと酸化剤ガスGoとが電気化学的反応して、発電が行われる。なお、この発電室215で、セルスタック101の長手方向における中央部付近の温度は、燃料電池モジュールMの定常運転時に、およそ700℃〜1100℃の高温雰囲気になる。また、この発電室215は、第一カートリッジヘッダ220aと第二カートリッジヘッダ220bとの間であって、外周側が断熱材16で囲まれた空間である。この断熱材16は、例えば、アルミナシリカ系の材料で形成されている。
【0051】
第一カートリッジヘッダ220aのケーシング229aと仕切断熱板227aと管板225aとで形成されている空間は、発電室215を通った酸化剤ガスGoが流入する酸化剤ガス排出室218を形成している。このケーシング229aには、酸化剤ガス排出室218に流れ込んだ酸化剤ガスGoを酸化剤ガス排出配管340に導くための酸化剤ガス排出孔233aが形成されている。発電室215中の酸化剤ガスGoは、仕切断熱板227aの貫通孔の内周面と、この貫通孔に挿通されているセルスタック101の外周面との間の隙間235aから酸化剤ガス排出室218内に流入した後、酸化剤ガス排出配管340を通って、圧力容器10外へ排出される。
【0052】
発電室215の高温化に伴って、各カートリッジヘッダ220a,220bの管板225a,225bが高温化する。第一カートリッジヘッダ220a及び第二カートリッジヘッダ220bの仕切断熱板227a,227bは、この管板225a,225bが高温化による強度低下や酸化剤ガスGo中に含まれている酸化剤による腐食を抑える。さらに、この仕切断熱板227a,227bは、管板225a,225bの熱変形も抑える。
【0053】
前述したように、発電室215中の酸化剤ガスGoと、この発電室215に配置されている複数のセルスタック101の内側を通る燃料ガスGfとは、セルスタック101における複数の燃料電池セル105で電気化学反応する。この結果、複数の燃料電池セル105で発電が行われる。
【0054】
複数の燃料電池セル105での発電で得られた直流電流は、複数の燃料電池セル105相互間に設けられているインターコネクタ107を経て、セルスタック101の端部側へ流れ、このセルスタック101のリード膜115に流れ込む。そして、この直流電流は、リード膜115から、集電板241a,241bを介して、カートリッジ201の集電棒242a,242bに流れ、カートリッジ201外部へ取り出される。複数の集電棒242a,242bは、互いに直列及び/又は並列接続されている。集電棒のうち、電流的に最も下流側の集電棒は、インバータ21に接続されている。カートリッジ201外部に取り出された直流電流は、直列及び/又は並列接続されている複数の集電棒を経て、インバータ21に流れ、ここで交流電流に変換されて、遮断器22を介して、系統電力負荷29へと供給される。
【0055】
セルスタック101の内周側を流れる燃料ガスGfとセルスタック101の外周側を流れる酸化剤ガスGoとは、このセルスタック101を介して熱交換する。この結果、燃料ガスGfは、酸化剤ガスGoにより加熱され、酸化剤ガスGoは、逆に燃料ガスGfにより冷却される。本実施形態では、これら燃料ガスGfと酸化剤ガスGoとがセルスタック101の内周側と外周側とを対向して流れる。このため、燃料ガスGfと酸化剤ガスGoとの熱交換率が高まり、セルスタック101の上部において、燃料ガスGfによる酸化剤ガスGfの冷却効率、及び、セルスタック101の下部において、酸化剤ガスGoによる燃料ガスGfの冷却効率が高まる。よって、本実施形態において、酸化剤ガスGoは、第一カートリッジヘッダ220aを形成する管板225a等が座屈変形等しない温度に冷却されてから、この第一カートリッジヘッダ220aの酸化剤ガス排出室218に流れ込む。また、本実施形態において、燃料ガスGfは、発電室215内のセルスタック101内で、ヒータ等を用いることなく発電に適した温度に予熱昇温される。
【0056】
なお、本実施形態では、燃料ガスGfと酸化剤ガスGoとがセルスタック101の内周側と外周側とを対向して流れる、つまり燃料ガスGfと酸化剤ガスGoとが逆向きに流れるが、必ずしもこの必要はなく、例えば、燃料ガスGfと酸化剤ガスGoとがセルスタック101の内周側と外周側で同じ向きに流れてもよいし、酸化剤ガスGoが燃料ガスGfの流れに対して直交する方向に流れてもよい。
【0057】
本実施形態の燃料電池システムは、図1に示すように、さらに、燃料ガス供給配管310を通る燃料ガスGfの流量を調節する燃料ガス調節弁311と、酸化剤ガス供給配管330を通る酸化剤ガスGoの流量を調節する酸化剤ガス調節弁331と、各カートリッジ201が有している複数のセルスタック101を保護する保護装置50と、を有している。
【0058】
システム制御装置30は、例えば、燃料ガス調節弁311、酸化剤ガス調節弁331、遮断器22等に対して制御信号を出力する。また、システム制御装置30は、保護装置50に対して、発電開始指令、発電停止指令等の信号を出力する。
【0059】
保護装置50は、図4に示すように、複数のセルスタック101に対して、電力を発生している際、すなわち発電状態のセルスタック101の極性と同じ極性の電圧を印加する電圧印加回路(電圧印加部)51と、この電圧印加回路51を制御する保護制御装置(保護制御部)61と、を有している。
【0060】
電圧印加回路51は、蓄電池52と、蓄電池52の正極と正極集電棒242aとを電気的に接続する電線53aと、蓄電池52の負極と負極集電棒242bとを電気的に接続する電線53bと、いずれかの電線53a,53bを流れる電流を遮断するスイッチ54と、を有している。
【0061】
保護制御装置61は、システム制御装置30からの発電開始指令や発電停止指令等の信号が入力する入力部62と、入力部62が受け付けた信号に応じてスイッチ54の動作を制御する印加電圧制御部63と、を有している。
【0062】
セルスタック101では、前述したように、燃料ガスGfの改質で得られた水素(H)及び一酸化炭素(CO)と、固体電解質111から供給された酸素イオン(O2−)とが反応し、水蒸気(HO)及び二酸化炭素(CO)が生成される。この水蒸気の一部は、燃料極112において、燃焼ガスGfに含まれているメタン(CH)等の炭化水素と反応し、水素(H)と一酸化炭素(CO)の生成に利用される。二酸化炭素や一部の水蒸気等は、改質されなかった燃料ガスGfと混ざって燃料ガス排出配管320を介して、燃料電池モジュールMの外部に流出する。
【0063】
ここで、系統電力負荷29になんらかの事故等が生じる等で、燃料電池モジュールMと系統電力負荷29とを電気的に接続している遮断器22が開き、燃料電池モジュールMから系統電力負荷29への電力供給が遮断される。この場合、燃料電池モジュールMでの発電が停止する。すなわち、燃料電池モジュールMのセルスタック101において、燃料ガスGfの改質で得られた水素(H)及び一酸化炭素(CO)と、固体電解質111から供給された酸素イオン(O2−)との反応が停止する。この結果、この反応で生成されていた水蒸気(HO)が生成されなくなる。水蒸気(HO)が生成されなくなると、燃料極112において、燃料ガスGfと水蒸気との反応による水素(H)が生成されなくなり、燃料極112周りの雰囲気が還元雰囲気でなくなる。この結果、セルスタック101中の燃料極112が酸化して損傷するおそれが生じる。
【0064】
燃料極112等は、前述したように、Niを含む複合材料で形成されている。燃料極112周りの雰囲気が還元雰囲気でなくなると、この燃料極112を形成しているNiが酸化し、NiOとなる。この結果、燃料極112等が損傷する。
【0065】
セルスタック101での発電が停止すると、図5に示すように、セルスタック101の電圧が急激に低下する。そして、セルスタック101の電圧がある値Voになると、この電圧値Voをほぼ維持した状態がしばらく続く。その後、セルスタック101の電圧は、再び、急激に低下する。この電圧の急激な低下は、セルスタック101の緻密膜が損傷し、空気極113側の空気が燃料極112側に侵入することで生じる電圧低下であり、セルスタック101の損傷を示唆している。
【0066】
セルスタック101の電圧がある値Voになっているとき、以下の式に示すように、Niの酸化反応と、NiOの還元反応とが平衡状態になっている。燃料極112側の酸素分圧は、下記の平衡状態で決定されるため、電圧値(この電圧値Voを平衡電圧値Voとする)は一定状態となる。但し、この状態においても、図2に示すように、酸化剤ガスGf中の酸素O2が空気極113側から燃料極112側に僅かに侵入している。この酸素による燃料極112の酸化量が、一定量以上になると、燃料極112の酸化膨張量によって生じる応力に緻密膜の強度が耐えられなくなり、セルスタック101が損傷する。ただ、平衡状態では、酸素侵入量は非常に少なく燃料極112をすべて酸化させるまでには至らない。この際の燃料極112側の酸素分圧は、下記の平衡で決定し、その電圧の値は、平衡電圧値Voとなる。
2Ni+O2⇔2NiO
【0067】
ここで、セルスタック101での発電が停止しても、セルスタック101の電圧の値を平衡電圧値Vo以上に維持することができれば、酸素イオンは発電時と逆方向の、アノード(燃料極112)からカソード(空気極113)に流れることになり、アノードの酸素分圧は低く抑えられるので、Niは還元状態で維持できる。従って、燃料極112の酸化によるセルスタック101の損傷を防ぐことができる。そこで、本実施形態の保護装置50では、システム制御装置30から運転停止指令が出力されると、セルスタック101に対して、電力を発生している際、すなわち発電状態のセルスタック101の極性と同じ極性の電圧を印加する。具体的に、保護制御装置61の入力部62は、システム制御装置30からの運転停止指令を受け付けると、その旨を保護制御装置61の印加電圧制御部63に通知する。印加電圧制御装置は、その旨の通知を受け取ると、セルスタック101での発電停止を検知し(検知工程)、電圧印加回路51のスイッチ54を閉じる、つまり、蓄電池52とセルスタック101との間を電気的に接続状態にする。蓄電池52とセルスタック101との間が電気的に接続状態になると、セルスタック101の正極(+)に蓄電池52の正極(+)の電位がかかり、セルスタック101の負極(−)に蓄電池52の負極(−)の電位がかかる(電圧印加工程)。結果として、セルスタック101の電圧の値は、蓄電池52の電圧の値になり、平衡電圧値Vo以上に維持され、酸化によるセルスタック101の損傷を防ぐことができる。
【0068】
ここで、図7及び図8を用いて、本実施形態の燃料電池システムの発電状態及び発電停止状態での電子の流れについて、簡単に説明する。
【0069】
まず、図を用いて、燃料電池システムの発電状態での電子の流れについて説明する。発電状態では、保護装置50におけるスイッチ54が開状態で、遮断器22が閉状態である。この発電状態では、前述したように、空気極(カソード)113で固体電解質111との界面付近において、供給される酸化剤ガスGo中の酸素を解離させて酸素イオン(O2−)が生成される。固体電解質111では、空気極113で生成された酸素イオン(O2−)が燃料極112に移動する。燃料極(アノード)112では、固体電解質111との界面付近において、改質により得られた水素(H2)等と固体電解質111から供給された酸素イオン(O2−)との反応過程で、酸素イオン(O2−)から電子(e−)が放出される。よって、燃料電池セル105内では、空気極(カソード)113側から燃料極(アノード)112側に電子(e−)が移動する。言い換えると、燃料電池セル105内では、燃料極(アノード)112側から空気極(カソード)113側へ電流が流れる。この電流は、遮断器22を経て、系統電力負荷29に流れる。なお、図1を用いて説明したように、本実施形態の場合、系統電力負荷25の前段にインバータ21が設けられているため、系統電力負荷29には交流電流が供給される。
【0070】
次に、図を用いて、燃料電池システムの発電停止状態での電子の流れについて説明する。発電状態から発電停止状態になると、遮断器22が状態になる一方で、保護装置50におけるスイッチ54が状態になる。このため、保護装置50における蓄電池52の負極からの電子(e−)が、電線53bを経て、燃料電池セル105の燃料極(アノード)112へ移動する。この電子(e−)は、固体電解質111を経て、空気極(カソード)113へ移動する。よって、燃料電池セル105内では、燃料極(アノード)112側から空気極(カソード)113側に電子(e−)が移動する。
【0071】
ところで、蓄電池52の電圧の値は、平衡電圧値Vo以上である必要がある。この平衡電圧値Voは、図6に示すように、セルスタック101の温度が高まるに連れて次第に低下する。そこで、本実施形態では、セルスタック101が如何なる温度のときでも、セルスタック101に対して平衡電圧値Vo以上の電圧を印加できるように、蓄電池52として、温度の関係で最も高いときの平衡電圧値Voよりも高い電圧値Vaの蓄電池52を用いている。
【0072】
保護制御装置61の入力部62は、システム制御装置30から運転開始指令を受け付けると、その旨を保護制御装置61の印加電圧制御部63に通知する。印加電圧制御装置は、その旨の通知を受け取ると、セルスタック101での発電開始を検知し、電圧印加回路51のスイッチ54を開く、つまり、蓄電池52とセルスタック101との間を電気的に切断状態にする。蓄電池52とセルスタック101との間が電気的に切断状態になると、蓄電池52からセルスタック101への電圧の印加が終了する。
【0073】
以上のように、本実施形態では、セルスタック101での発電が停止すると、直ちに、このセルスタック101に対して、平衡電圧値Vo以上の電圧がセルスタック101に印加されるので、酸化によるセルスタック101の損傷を防ぐことができる。
【0074】
さらに、本実施形態では、基本的には、電気的な回路構成でセルスタック101の損傷を防ぐことができるので、特許文献1に記載の技術のように多数の機器等の設置が不要となり、設備コストを抑えることができる。
【0075】
「第二実施形態」
次に、本発明に係る燃料電池システムの第二実施形態について、図9及び図10を参照して説明する。なお、本実施形態及び以下の第三実施形態の燃料電池システムは、第一実施形態の燃料電池システムと比較して、セルスタック101の保護装置が主として異なっている。このため、以下では、この保護装置について主として説明する。
【0076】
本実施形態の保護装置50aは、図9に示すように、第一実施形態の保護装置50と同様、電圧印加回路(電圧印加部)51aと、保護制御装置(保護制御部)61aと、を有している。本実施形態の保護装置50aは、さらに、セルスタック101周りの温度を検知する温度計58を有している。
【0077】
電圧印加回路51aは、蓄電池52と、蓄電池52の正極と正極集電棒242aとを電気的に接続する電線53aと、蓄電池52の負極と負極集電棒242bとを電気的に接続する電線53bと、いずれかの電線53a,53bを流れる電流を遮断するスイッチ54と、いずれかの電線53a,53b中に設けられている可変抵抗器(電圧調節部)55と、を有している。
【0078】
保護制御装置61aは、システム制御装置30からの発電開始指令や発電停止指令等の信号が入力する入力部62aと、入力部62aが受け付けた信号に応じてスイッチ54及び可変抵抗器55の動作を制御する印加電圧制御部63aと、を有している。前述した温度計58で検知された温度は、保護制御装置61aの入力部62aに入力する。
【0079】
本実施形態でも、第一実施形態と同様に、保護制御装置61aの入力部62aは、システム制御装置30から運転停止指令を受け付けると、その旨を保護制御装置61aの印加電圧制御部63aに通知する。印加電圧制御部63aは、その旨の通知を受け取ると、電圧印加回路51aのスイッチ54を閉じと共に、可変抵抗器55の抵抗値を調節する。
【0080】
セルスタック101に印加する電圧は、前述したように、平衡電圧値Vo以上であれば、セルスタック101の酸化を防ぐことができる。この平衡電圧値Voは、図6を用いて前述したように、セルスタック101の温度が高まるに連れて次第に低下する。そこで、本実施形態では、図8に示すように、セルスタック101の温度毎に、その温度での平衡電圧値Voよりわずかに高い電圧値を印加電圧値Viとして定めている。
【0081】
本実施形態の印加電圧制御部63aは、図10に示す温度と印加電圧値Viとの関係情報64を持っている。印加電圧制御部63aは、この関係情報64を用いて、温度計58で検知された温度に対応する印加電圧値Viを定め、この値Viの電圧がセルスタック101に印加させるよう、可変抵抗器55の抵抗値を調節する。
【0082】
従って、本実施形態では、セルスタック101の温度に応じて変化する平衡電圧値Voよりも僅かに高い印加電圧値Viの電圧がセルスタック101に印加される。このため、本実施形態では、酸化によるセルスタック101の損傷を確実に防ぐことができると共に、蓄電池52の電力消費量を抑えることができる。
【0083】
また、本実施形態でも、保護制御装置61aの入力部62aがシステム制御装置30から運転開始指令を受け付けると、保護制御装置61aの印加電圧制御部63aが電圧印加回路51aのスイッチ54を開く。さらに、本実施形態では、温度計58で検知された温度が予め定められた温度、例えば、100℃以下になっても、印加電圧制御部63aが電圧印加回路51aのスイッチ54を開く。
【0084】
セルスタック101又はその周りの温度がある温度以下になると、セルスタック101における燃料極112周りの雰囲気が還元雰囲気でなくても、燃料極112での酸化反応が進行しなくなる。そこで、本実施形態では、燃料極112での酸化反応が進行しなくなる温度(例えば、100℃)以下になると、印加電圧制御部63aが電圧印加回路51aのスイッチ54を開く、つまり、蓄電池52とセルスタック101との間を電気的に切断状態にする。従って、本実施形態では、セルスタック101に対する電圧印加時間が短縮化される。よって、本実施形態では、この観点からも蓄電池52の消費電力を抑えることができる。
【0085】
なお、本実施形態の印加電圧制御部63aは、温度と印加電圧値Viとの関係情報64を持っているが、この替りに、温度と可変抵抗器55の抵抗値との関係情報、又は温度と可変抵抗器55に対する駆動指令の値との関係情報を持っていてもよい。すなわち、印加電圧制御部63aは、印加電圧値Viと相関関係のある可変抵抗器55での調整の値と温度との関係情報を持っていればよい。
【0086】
「第三実施形態」
次に、本発明に係る燃料電池システムの第三実施形態について、図11を参照して説明する。
【0087】
本実施形態の保護装置50bは、第二実施形態の保護装置50aと同様に、電圧印加回路(電圧印加部)51aと、保護制御装置(保護制御部)61bと、温度計58と、を有している。本実施形態の保護装置50bは、さらに、セルスタック101の電圧値を検知する電圧計59を有している。
【0088】
本実施形態の電圧印加回路51aは、第二実施形態の電圧印加回路51aと同一である。
【0089】
保護制御装置61bは、システム制御装置30からの発電開始指令や発電停止指令等の信号が入力する入力部62bと、入力部62bが受け付けた信号に応じてスイッチ54及び可変抵抗器55の動作を制御する印加電圧制御部63bと、を有している。前述した電圧計59で検知された電圧値は、温度計58で検知された温度と同様に、保護制御装置61bの入力部62bに入力する。この印加電圧制御部63bは、第二実施形態の印加電圧制御部63aと同様に、セルスタック101の温度と印加電圧値Viとの関係情報64を持っている。
【0090】
本実施形態でも、第二実施形態と同様に、保護制御装置61bの入力部62bは、システム制御装置30から運転停止指令を受け付けると、その旨を保護制御装置61bの印加電圧制御部63bに通知する。印加電圧制御部63bは、その旨の通知を受け取ると、電圧印加回路51aのスイッチ54を閉じと共に、可変抵抗器55の抵抗値をセルスタック101の温度に応じて調節する。この際、本実施形態の印加電圧制御部63bは、入力部62bが受け付けた電圧値が、セルスタック101の温度に応じた印加電圧値Viになるよう、可変抵抗器55の抵抗値を調節する。すなわち、第二実施形態では、可変抵抗器55の抵抗値をフィードフォワード制御で調節するが、本実施形態ではフィードバック制御で調節する。
【0091】
従って、本実施形態では、セルスタック101の電圧の値を第二実施形態よりも正確に制御することができる。このため、本実施形態の印加電圧制御部63bが持っているセルスタック101の温度と印加電圧値Viとの関係情報64において、セルスタック101の温度毎の印加電圧値Viを、第二実施形態の印加電圧値Viよりも平衡電圧値Voに近い値、つまりより低い値にすることができる。よって、本実施形態では、蓄電池52の消費電力を第二実施形態よりも抑えることができる。
【0092】
なお、本実施形態でも、第二実施形態と同様、保護制御装置61bの入力部62bがシステム制御装置30からの運転開始指令を受け付けるか、入力部62bが受け付けた温度が予め定められた温度以下になると、電圧印加回路51aのスイッチ54を開き、セルスタック101への電圧印加を停止する。
【0093】
また、本実施形態の保護装置50bは、温度計58を有しているが、この温度計58はなくてもよい。この場合、保護制御装置は、電圧計59で検知される電圧の値が予め定められた値以上になるよう、可変抵抗器55の抵抗値を調節する。この予め定められた値は、セルスタック101の温度の関係で最も高いときの平衡電圧値Voよりも僅かに高い値である。
【0094】
「変形例」
第一実施形態では、保護制御装置61の入力部62がシステム制御装置30から運転開始指令を受け付けたときのみ、セルスタック101への電圧印加を停止する。しかしながら、この第一実施形態において、温度計を設け、入力部が受け付けた温度が予め定められた温度以下になったときも、セルスタック101への電圧印加を停止するようにしてもよい。
【0095】
第二及び第三実施形態では、カートリッジ201の燃料ガス供給室217内の温度を温度計58で検知することで、セルスタック101の温度を間接的に検知している。しかしながら、燃料ガス排出室219や発電室215等内の温度を温度計で検知して、この温度をセルスタック101の温度としてもよい。また、温度計の端子をセルスタック101に接触させて、セルスタック101の温度を直接検知してもよい。
【0096】
また、以上の各実施形態では、いずれも、運転停止指令を受けると、セルスタック101での発電が停止したと検知して、セルスタック101に電圧を印加する。しかしながら、以上の各実施形態において、セルスタックの電圧を検知する電圧計を設け、この電圧計で検知された電圧値が予め定められた値よりも低下すると、セルスタック101での発電が停止したと検知して、セルスタック101に電圧を印加するようにしてもよい。
【0097】
また、以上の各実施形態では、いずれも、集電棒242a,242bに保護装置の電線53a,53bを接続しているが、集電板241a,241bに保護装置の電線53a,53bを接続してもよい。
【0098】
また、以上の各実施形態では、いずれも、セルスタック101が円筒状であるが、その他の形状、例えば、板状であってもよい。
【符号の説明】
【0099】
101:セルスタック、105:燃料電池セル、112:燃料極、201:カートリッジ、241a,241b:集電板、241a:正極集電板、241b:負極集電板、242a,242b:集電棒、242a:正極集電棒、242b:負極集電棒、10:圧力容器、29:遮断器、30:システム制御装置、50,50a,50b:保護装置、51,51a:電圧印加回路(電圧印加部)、52:蓄電池、54:スイッチ、55:可変抵抗器(電圧調節部)、58:温度計、59:電圧計、61,61a,61b:保護制御装置(保護制御部)、62,62a,62b:入力部、63,63a,63b:印加電圧制御部、64:関係情報
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