【実施例1】
【0016】
図1に、熱供給プラントの設備構成の概略を示す。熱供給プラント101は、複数の発電設備、熱源設備を保有している。また、熱供給プラント101から供給されるエネルギーは需要家102に冷水・温水・蒸気の熱媒で送られる。熱源設備103は排熱から熱媒を生成する排熱回収型熱源機、熱源設備104は蒸気から熱媒を生成する蒸気焚熱源機、熱源設備105は電動式熱源機、熱源設備106はガス焚ボイラ、熱源設備107はガス焚熱源機、発電設備108はガスコージェネレーションシステムである。また、熱供給プラント101は商用電力109と商用ガス110(都市ガス)と接続している。
【0017】
図2に、最適運転計画立案装置201の構成図を示す。最適運転計画立案装置201はデータ読込部202で、設備性能モデル情報203、設備起動停止特性情報204、設備運転モード情報205、および需要エネルギー情報206を読み込む。
【0018】
これらの情報の内、設備起動停止特性情報204は、最適運転計画において設備の起動停止特性を考慮する為に必要な情報であり、
図8に示すようにユーザーが入力する起動停止に要する時間とエネルギー生成・消費量である。本実施例ではユーザーが入力する場合を説明するが、実施例2では設備帳票から設備起動停止特性情報を得る場合を説明する。
【0019】
設備性能モデル情報203は、設備の負荷率と消費エネルギーの関係を示す線形性能モデルや設備定格仕様情報を含んでいる。設備運転モード情報205は、目的関数の選択、制約条件の設定を含んでいる。需要エネルギー情報206は、需要家に送る熱媒である冷水・温水・蒸気の時刻毎の予測需要エネルギーを含んでいる。
【0020】
データ読込部202で読み込んだ情報を基に、最適化パラメータ設定部207で最適化変数、目的関数、制約式を最適化パラメータとして設定する。最適化パラメータ設定部207は、最適化変数として、設備103〜108の起動停止状態を示すZ
j(t)、負荷率を示すX
j(t)を定義する。ここでjは設備番号、tは時刻である。最適化パラメータ設定部207は、目的関数として、設備運転モード情報205に含まれる運転モードを用いる。運転モードは、例えば、運転コスト最小化、消費エネルギー最小化、CO2排出量最小化等である。最適化パラメータ設定部207は、制約条件として、エネルギー需給一致式及び設備運転モード情報205で指定された制約を定義する。定義する制約は、例えば、設備メンテナンスの有無、優先運転設備の有無、設備起動停止回数制限等である。なお、エネルギー需給一致式とは、熱供給プラントのエネルギー供給量と需要家のエネルギー需要量の需給一致を示す式である。最適化パラメータ設定部207により設定された最適化パラメータを基に、最適運転計画立案部208は混合整数計画法による最適化演算を実行する。最適運転計画立案部208の演算結果は、運転計画表示部209で画面にガイダンス表示210として出力される。ガイダンスを表示する画面は、最適運転計画立案装置201に接続する入出力装置(図示略)の出力画面である。
【0021】
図3に、最適運転計画立案装置201の全体フローチャートを示す。本フローチャートの各ステップS301〜S304は、
図2の構成図の最適運転計画立案装置201が有する各部に相当している。なお、起動停止特性に関する以下の説明では、起動特性を最適演算で評価する場合について説明する。ただし、停止特性を評価する場合も同様の考え方となる。
【0022】
最適運転計画立案装置201は、外部装置で用意された前述の各情報203〜206を、データ読込部によって最適運転計画立案装置201内の記憶領域に格納する(S301)。
【0023】
最適運転計画立案装置201は、最適化パラメータを設定する(S302)。前述の通り、最適化変数として設備の稼動状態でZ
j(t)=1、起動停止遷移状態及び停止状態でZ
j(t)=0を示す起動停止整数変数Z
j(t)を設定するが、起動停止整数変数Z
j(t)を利用して設備が停止から稼動に変わる時刻tでのみZ’
j(t)=1となる整数変数Z’
j(t)を式(1)の通り定義する。
【0024】
【数1】
【0025】
いま、時刻T1で整数変数Z’(T1)=1と仮定し、設備の起動中(起動を始めてから定格運転に到達するまで)の時間帯でZ_on
j(t)=1となる整数変数Z_on
j(t)を式(2)の通り定義する。このZ_on
j(t)を遷移状態変数と定義する。
【0026】
【数2】
【0027】
式(2)においてT2は起動開始時刻、T_on
jは設備jの起動に要する時間、T_wは最適化計算の時間粒度を表す。
【0028】
次に定義した遷移状態変数Z_on
j(t)を用いて式(3)に示す通り、起動に要するエネルギーを各用役に対するエネルギー需給一致の式に加える。エネルギー需給一致式は本熱供給プラントでは冷水・温水・蒸気・電力・排熱に関する一致式をそれぞれ定義する。
【0029】
【数3】
【0030】
式(3)において、E_demand(t)は需要家の需要エネルギー量、E_supply(t)はプラントの供給エネルギー量、E
j(t)は設備jの通常運転時エネルギー量(正で生成量、負で消費量)、E_on
j(t)は設備jの起動時エネルギー量(正で生成量、負で消費量)、E_grid(t)は買電・買ガス等エネルギー量、Nはプラント内機器台数を示す。今回、起動エネルギーを評価する為に新たに定義する式は、式(3)の第2式右辺第2項の(ΣE_on
j(t)×Z_on
j(t))である。以降、式(4)に示す冷水に関するエネルギー需給一致式を例に具体的な説明を行う。
【0031】
【数4】
【0032】
式(4)において、C_demand(t)は需要家の冷水需要量、C_supply(t)はプラントの冷水供給量、C_N
jは設備jの定格冷水生成量、C_on
jは設備jの起動時冷水生成量を示す。(添字103は排熱回収型熱源機、104は蒸気焚熱源機、105は電動式熱源機、107はガス焚熱源機を仮定)。式(4)に示す各熱源設備の冷水生成量と設備状態を示す最適化変数Z(t),Z_on(t)の関係例を
図4に示す。
図4は、横軸が時刻、縦軸が冷水生成量で、各熱源設備の運転状況を示している。式(4)でZ_on
j(t)を用いて起動エネルギーを評価する項を定義したことにより、
図4の例の場合、熱源設備107の起動時冷水生成量を考慮することが可能となり、その結果、プラント全体として設備の停止から稼動の状態遷移を考慮した冷水生成量のエネルギー需給一致式の評価が可能となる。従来では、熱源設備107の起動時冷水生成量が考慮されない為、同時間帯における他の熱源設備103〜105の冷水生成量の計算において、前記熱源設備107の起動時冷水生成量が加味されず、実際のプラント運転時は運転計画時に比べ冷水供給過多になることが想定される。この場合、実運用では冷水供給過多による熱源設備の一次エネルギー消費の無駄や需給不一致による設備のイレギュラー運転を避ける為、オペレータによる調整が必要であった。
【0033】
上記で定義したエネルギー需給一致式の定式化を含む最適化パラメータ設定後、混合整数計画法による最適化演算をする(S303)。具体的にはS302で定義された目的関数を最小化する各設備の最適化変数Z
j(t),X
j(t)の組み合わせを決定する。このとき、式(3)の通り定義した起動停止エネルギーを含めたエネルギー需給一致式を満たすことを条件として演算を行う。
【0034】
次に、S303で出力された演算結果をガイダンス表示画面207に表示する(S304)。
図5に示す運転計画ガイダンス表示501のように、ガイダンスを、各設備の起動停止時間情報を含むガントチャートで表示する。
図5では、最適化演算の時間粒度が30分とした場合の例であるが、最適化演算の時間粒度は可変である。但し、時間粒度の設定は計算負荷と計算正確性のトレードオフ関係にある為、プラントの運転と整合性の取れる時間粒度が好ましい。
【0035】
以上のように本実施例では、従来考慮されていなかった起動停止に要する時間とエネルギーを考慮することで、より信頼性・現実性の高い運転計画を立案し、プラントオペレータの負担を軽減することが可能となった。
図9に示すように、最終的なプラント運転計画の決定はプラントオペレータを介する場合が一般的である。出力された最適運転計画ガイダンスは(S901)、誤差原因901〜904により現実モデルとの乖離が生じている為、プラントオペレータが誤差原因901〜904を経験的に考慮し(S902、S903)、最終的な運転計画の決定(S904)に至る。プラントの設備構成が複雑な場合は、プラント運用も煩雑化しオペレータへの依存性も増す為、最適計算上で起動停止特性を考慮することで、現実モデルと最適運転計画モデルとの乖離原因の一つを減らすことは非常に有効である。
【実施例2】
【0036】
本実施例は、
図2の設備起動停止特性情報204を設備帳票データから算出する場合の実施例であり、
図6は、本実施例の最適運転計画立案装置の構成図である。一般的なプラントは各設備に対して過去の運転実績である設備帳票データ604を備えている。本実施例では設備帳票データ604をデータ読込部602で読込み、設備起動停止特性演算部611で設備起動停止特性情報を算出する。設備帳票データ604は一般的に1時間間隔でデータが記録されている場合が多いが、設備帳票データ604の時間粒度と最適運転計画立案装置601で設定された時間粒度が異なる場合は、設備帳票データ604から近似的に起動エネルギーを算出する必要がある。例として
図7に1時間粒度の設備帳票データ701から熱源設備104の起動時蒸気消費量を算出する場合を示す。なお、設備の起動開始時刻、定格到達時刻は設備帳票データ701に含まれているものとする。
図7(1)は熱源設備の実際の起動特性を示している。設備帳票データ701には熱源設備104の蒸気消費量が記録されており、起動時蒸気消費量は式(4)の通り定義する。積算起動時蒸気消費量ΣG_on
104は帳票データ701に記録されたデータと熱源設備104の定格蒸気消費量から算出し、起動時蒸気消費量G_on
104はΣG_on
104を起動時間で按分することにより近似的に算出する。
【0037】
【数5】
【0038】
図7(2)は算出した起動時蒸気消費量を基にした最適計算上の起動特性である。起動時蒸気消費量704と705は同量であるが、最適計算上の起動特性では各時刻において起動時蒸気消費量を等分に評価している。
【0039】
以上、熱源設備104の起動時蒸気消費量の算出方法について記述したが、他設備や他用役の起動停止エネルギーについても同様の方法によって算出する。
【0040】
本実施例では帳票データを用いて起動停止エネルギーを起動停止時間帯において等分に評価する方法を説明したが、帳票データの時間粒度により起動時エネルギーをさらに細かく算出することも可能である。
【0041】
本実施形態のプラント最適運転計画立案装置によれば、複雑な設備群を要するプラントの最適運転計画において、設備の起動停止時間及び起動エネルギーを最適化手法の中で考慮することで、より正確で信頼性の高い最適運転計画立案が可能となる。すなわち、プラントの実際の運転に則した最適運転計画を立案できる。その結果、ユーザーへのガイダンスにおいても、従来の停止状態・運転状態に加えて起動中の状態も実際に則してガイダンスすることが可能になり、さらには立案された最適運転計画に従った自動運転にも応用できる。