(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、心臓10の解剖学的構造および主要な血管の概略断面図である。非酸素化血液は、上大静脈14および下大静脈16によって心臓10の右心房12に供給される。右心房12内の血液は、三尖弁20を通って右心室18に入ることができる。右心室18に入ると、心臓10は、酸素の気体交換のため、この血液を、肺動脈弁22を通して肺動脈24および肺まで供給する。循環圧力により、この血液は、肺静脈26を介して心臓に戻され、左心房28に入る。僧帽弁30が開くとき左心房28が満たされて、血液は左心室32に導かれ、大動脈弁34を通って、また大動脈36を通して身体の末端に排出されることが可能になる。心臓10が、正常な流れおよび圧力を継続的に生み出すことができないと、一般に心不全と称される疾病が生じる。
【0047】
心不全の1つの原因は、心臓10の1つまたは複数の弁の不全または機能不全である。例えば、大動脈弁34はいくつかの理由で機能不全を起こすことがある。例えば、大動脈弁34に、先天的に異常がある(例えば、二尖大動脈弁、大動脈弁石灰化、先天性大動脈弁疾患)場合があり、または、年齢とともに病気になる(例えば、後天性大動脈弁疾患)恐れがある。そのような状況では、異常があるまたは病変した弁34を置換するのが望ましいことがある。
【0048】
図2は、大動脈弁34を通して大動脈36に血液を供給する、左心室32の概略図である。大動脈36は、(i)心臓10の左心室32から現れる上行大動脈38、(ii)上行大動脈38から弓形をなす大動脈弓10、および(iii)大動脈弓40から下降して腹大動脈(不図示)に向かう下行大動脈42を有する。さらに、右頚動脈(不図示)および右鎖骨下動脈(不図示)にすぐに分岐する腕頭動脈44、左頚動脈46、および鎖骨下動脈48を含む、大動脈14の主な分枝が示される。
【0049】
膨張可能な人工大動脈弁移植片
図2を引き続き参照すると、より詳細に後述するように部分的に取り除かれた、先天性異常のまたは病変した大動脈弁34を補う、本発明の一実施形態による人工大動脈弁移植片100が示される。移植片100およびその様々な変形実施形態は、以下に詳細に説明される。より詳細に後述するように、移植片100は、血管内送り出しカテーテル200、またはトロカールによる経尖的アプローチを用いて、低侵襲的に送り出されるのが好ましい。
【0050】
以下の説明において、本発明は、主として、異常があるまたは病変した大動脈弁34の置換または修復に関連して説明される。しかし、本明細書に開示される方法および構造の様々な特徴および態様は、本明細書の開示に照らして当業者に理解されるように、心臓10の僧帽弁30、肺動脈弁22、および/または三尖弁20の置換または修復に適用可能である。加えて、当業者は、本明細書に開示される方法および構造の様々な特徴および態様は、弁などの身体の他の部分に使用することができ、また、例えば、食道、胃、尿管、および/または膀胱、胆管、リンパ系、および腸内の弁を追加することにより、利益を得られることも理解するであろう。
【0051】
加えて、移植片およびその送り出しシステムの様々な要素は、「遠位」方向および「近位」方向を含む座標系を基準にして説明される。本出願では、遠位方向および近位方向は、移植片100を送り出すのに使用され、大動脈36を通る血液の通常の方向と反対の方向に、大動脈36を通して前進させられる、展開システム300を参照する。したがって、一般に、遠位は心臓により近いことを意味し、近位は循環器系に対して心臓からより遠いことを意味する。
【0052】
次に
図3A〜Dを参照すると、図示される実施形態の移植片100は、概ね、膨張可能なカフまたは本体102を有し、それは、カフ102に連結された弁104(
図2参照)を支持するように構成される。より詳細に後述するように、弁104は、血液が第1の方向(
図3BにAと表示)に移植片100を通ることができる「開」形態と、血液が弁104を通って第2の方向B(
図3BにBと表示)に逆流できないようにする「閉」形態との間で、心臓10によって送られる血液の血流力学的移動に応じて移動するように構成される。
【0053】
図示される実施形態では、カフ102は、寸法保全性をほとんど有さない可撓性の布または薄い膜などの、薄い可撓性の管状材料106を有する。より詳細に後述するように、カフ102は、好ましくは本来の位置で、移植片100の他の要素(例えば、弁104)を固定することができ、そして組織内成長が生じ得る支持構造に変わることができる。膨張しなければカフ102は支持を提供できないことが好ましい。一実施形態では、カフ102は、ダクロン(Dacron)、PTFE、ePTFE、TFE、または、外科用ステント弁またはステントレス弁ならびに輪状形成リングなどの従来の装置で見られるようなポリエステル布106を有する。布106の厚さは、材料の選択および織り方によって、約0.002インチから約0.020インチの範囲であってもよい。織り密度も、血液が布106を通って浸透しない非常に緊密な織りと、組織が成長して布106を完全に取り囲むことができる緩い織りとの間で調節されてもよい。カフ102の追加の組成および構成は、より詳細に後述される。
【0054】
図3B〜3Dを引き続き参照すると、図示される実施形態では、移植片100は、1つまたは複数の膨張チャネル120を形成する膨張可能な構造107を含み、それは、図示される実施形態では、一対の別個のバルーンリングまたはドーナツ形体108a、108bによって部分的に形成される。リング108a、108bは、この実施形態では、カフ102の近位端126および遠位端128に配置される。後述するように、リング108は、様々な方式のいずれかで本体102に固定することができる。
図3Cを参照すると、図示される実施形態では、リング108は、カフ102の近位端126および遠位端128に形成された折り曲げ部110の中に固定される。折り曲げ部110は次に、縫合糸または縫目112によって固定される。
図3Cを参照。
【0055】
図示される膨張可能な構造107は、膨張可能なストラット114をさらに含み、それは、図示される実施形態では、3つの近位側屈曲部116および3つの遠位側屈曲部118を有する環状のジグザグパターンから形成される。
図3Cから最もよく分かるように、ストラット114は、縫合糸112によって、カフ材料のポケット115内でカフ102に固定することができる。もちろん、以下により詳細に説明するように、他の実施形態では他の構造を用いてストラット114を布106に固定することができる。
【0056】
上述したように、膨張可能なリング108およびストラット114は膨張可能な構造107を形成し、それは次に、膨張チャネル120を規定する。膨張チャネル120は、膨張媒体122を受け入れて、概ね、膨張可能な構造107を膨張させる。膨張すると、膨張可能なリング108およびストラット114は、膨張可能な移植片100を構造的に支持し、かつ/または心臓10内で移植片100を固定する助けとなることができる。膨張しなければ、移植片100は、好ましくは支持することができない、一般に薄い可撓性の定形のないアセンブリであり、有利には、経皮的に身体に挿入することができる小さな縮小された断面を成すことができる。より詳細に後述するように、変形実施形態では、膨張可能な構造107は、
図3Aおよび3Bに示す膨張可能なリング108およびストラット114に加えて、またはその代わりに、他の膨張可能な部材から形成することができる、膨張チャネル120の様々な構造のいずれかを有していてもよい。加えて、膨張可能な媒体122、および膨張可能な構造107を膨張させる方法は、より詳細に後述される。
【0057】
図3Dを特に参照すると、図示される実施形態では、近位側のリング108aおよびストラット114は、近位側のリング108aの膨張チャネル120がストラット114の膨張チャネル120と流体連通するように接合される。その一方で、遠位側のリング108bの膨張チャネル120は、近位側のリング108aおよびストラット114の膨張チャネル120とは連通していない。このように、(i)近位側のリング108aおよびストラット115の膨張チャネルは、(ii)遠位側のリング108bとは独立に膨張させることができる。より詳細に後述するように、膨張チャネル120の2つの群は、独立した膨張を容易にするために、別個の流体供給装置に接続されるのが好ましい。変形実施形態では、膨張可能な構造は、より少ない(すなわち、1つの共通の膨張チャネル)またはより多い独立した膨張チャネルを含むことができることを理解されたい。例えば、一実施形態では、近位側のリング108a、ストラット114、および遠位側のリング108bの膨張チャネルはすべて、単一の膨張装置によって膨張させることができるように、互いに流体連通させることができる。他の実施形態では、近位側のリング108a、ストラット114、および遠位側のリング108bの膨張チャネルをすべて分離させ、したがって3つの膨張装置を利用することができる。
【0058】
図3Bを参照すると、図示される実施形態では、近位側のリング108aは、約0.090インチの断面直径を有する。ストラットは、約0.060インチの断面直径を有する。遠位側のリング108bは、約0.090インチの断面直径を有する。
【0059】
従来技術の外科的に移植される弁では、弁は、一般に、シリコーンおよびダクロンで包まれた、ポリカーボネート、シリコーン、またはチタンで形成される、剛直な内側支持構造を含む。これらの外科用弁は、個々の移植部位およびオリフィスサイズのため、様々な患者に対して直径が異なる。一般に、移植可能な最大直径が、患者に対する最良の選択である。これらの直径は約16mmから30mmの範囲である。
【0060】
上述したように、移植片100は、現在利用可能なものよりも小さな断面および安全な方式で、カテーテル法によって医師が弁を送り出すことを可能にする。移植片100が送り出しカテーテル300によって部位に送り出されるとき、移植片100は、骨組みおよび輪郭の明確さを必要とする薄くて概ね定形のないアセンブリである。移植部位で、膨張媒体122(例えば、流体または気体)がカテーテル管腔を介して膨張チャネル120に加えられて、移植片100に骨組みおよび輪郭の明確さを提供してもよい。したがって、膨張媒体122は、膨張後、移植片100に対する支持構造の一部を含む。膨張チャネル120に挿入される膨張媒体122は、移植片100に骨組みを提供するため、本来の位置で加圧することができ、かつ/または固くすることができる。移植片100のさらなる詳細および実施形態は、Blockの米国特許第5554185号に見出すことができ、その開示の全体を参照により本明細書に組み込む。
【0061】
図2Aを参照すると、図示される実施形態では、移植片100は、胴部124が天然弁または血管34を排除し、近位側では近位端126がフープまたはリングを形成して、血流が左心室32に再び入らないように封止する、管状部材または双曲面形状として見ることができる形状を有する。遠位側では、遠位端128もフープまたはリングを形成して、血流が流出路を通って前進しないように封止する。2つの端部126、128の間で、弁104は本体102に取り付けられて、膨張したときに、移植片100が天然弁34を排除するか、または天然弁34の元の場所を越えて延び、その機能を代わりに果たす。遠位端128は、僧帽弁の適切な機能を妨げることなく、依然として弁を適切に固定するように、適切なサイズおよび形状を有しているべきである。例えば、僧帽弁を妨げないように、装置の遠位端128にノッチ、凹部、または切欠きがあってもよい。近位端126は、大動脈基部に収まるように設計されている。それは、大動脈基部の壁との良好な付着を維持するような形状にされることが好ましい。これにより、装置が心室32の後ろに移動するのが防止される。いくつかの実施形態では、移植片100は、冠状動脈を妨げるほど高い位置まで延びないように構成される。
【0062】
いかなる数の追加の膨張可能なリングまたはストラットが、近位端126と遠位端128との間にあってもよい。移植片100の遠位端126は、好ましくは左心室34内に配置され、また、大動脈内腔よりも大きな直径を有することができるので、軸方向での固定のため大動脈基部を利用することができる。これにより、血管壁に対するフック、かえし、または締まりばめの必要性を低減することができる。移植片100は、半径方向への膨張用の拡張バルーンの補助なしに設置することができるので、大動脈弁34および血管は、閉塞期間を有さず、患者に対してさらなる快適さと、医師に対して装置を正確に適切に設置するための時間をより多く提供することができる。移植片100は、可塑的に変形可能なまたは形状記憶合金のステントのように一回の設置の選択の自由しか有さない支持部材を利用しないので、移植片100は所望により移動可能および/または取外し可能であることができる。このことは、移植片100が、より詳細に後述するように送り出しカテーテル300から恒久的に分離されるまで、複数回行うことができる。加えて、移植片100は、カテーテル300が分離される前に、適切な機能、封止、およびサイズ決めのために移植片100を試験できるようにする機構を含むことができる。分離が生じると、流体を膨張チャネル120内で維持するために、装置での封止が必要になることがある。そのような封止を提供する装置を、以下により詳細に説明する。
【0063】
図2Bを参照すると、変形実施形態では、移植片100の遠位端128の形状は、僧帽弁輪の形状に対する影響が最小限に抑えられるように構成することができる。これは、
図2Aに示すように、移植片100が、天然輪35の中にまたはそれを越えて、左心室32の中まで延びる場合に特に重要である。一般に、遠位端128は、僧帽弁からの腱およびリーフレット組織が、その正常な運動中に移植片100によって影響を受けない、または剥離されないような形状にすることができる。このように、移植片100は、心臓の主要な伝導経路に圧力を加えないか、または最小限の圧力しか加えない。弁100のいくつかの異なる実施形態は、これらの問題を扱う。
図2B、2E、および2Fに示す実施形態では、移植片の遠位端128は「D」字型の断面を有し、「D」の平坦な辺が僧帽弁22の位置に対応して配置される。
図Cに示す他の実施形態では、移植片100の遠位端128はほぼ楕円形の断面を有し、楕円の短軸が、ほぼ僧帽弁の位置から隔壁まで延びる。さらに他の実施形態では、移植片100の遠位端128は、所望の位置で天然解剖学的構造と接触するように設計された脚部または拡大パッドを含む。例えば、所望の位置は、僧帽弁のいずれかの側の範囲にある輪の直下である。脚部は、膨張可能な構造であってもよく、または、展開可能なアンカーなどの別個の機械的構造が、ステンレス鋼またはニチノールなどの材料で作製されてもよい。これらのアンカーは、膨張媒体または二次システムによって展開することができる。
図2Gおよび2Hは、弁100の遠位端が一対のほぼ向かい合った平坦な側面128aを有する実施形態を示す。
【0064】
移植片100のさらに他の実施形態では、移植片100は、僧帽弁22に影響を及ぼすように構成される。そのような実施形態では、移植片100の遠位端128は、大動脈基部または大動脈弁輪から僧帽弁22の輪を押す、突部または機構を有する。このようにして、僧帽弁閉鎖不全は、前部リーフレット22aを後部リーフレット22bの方へ押し、弁の接合を改善することによって処置される。この機構は、移植片100とは別個の装置であることができ、かつ/または二次機構で作動されてもよく、あるいは、単に移植片100の形状の機能であってもよい。
【0065】
さらに他の変形実施形態の移植片100(
図2Dを参照)では、大動脈弁置換用途に関して、移植片100は、大動脈基部の頂部および底部の両方を使用して固定される。この場合、移植片100を心臓10から離す方向に押しやる軸方向の力は、大動脈基部の上側部分からの法線力による抵抗を受ける。この形態で移植されるように設計された移植片100は、輪の周りで固定するように設計された移植片(例えば、
図2Aに示す移植片100)とは異なる構造を有することができる。例えば、
図2Dに示すように、移植片100は、装置の中央部分124の直径が近位部分126または遠位部分128での直径よりも大きい、円筒状または部分的に球状の形状を有することができる。弁104は、冠状動脈よりも下の移植片100の遠位部分128、好ましくは輪上位置に位置することができるが、輪内位置も可能である。アンカー(不図示)も、この構造の装置と共に使用することができる。アンカーは、長さが1から4mm、および直径が0.010から0.020インチであるのが好ましい。
【0066】
図3Aおよび3Bを再び参照すると、本体102は、ダクロン、TFE、PTFE、ePTFE、金属織物、網状構造、または他の一般に容認された移植可能な材料などの様々な材料で作製することができる。これらの材料はまた、直接または間接的な熱、焼結技術、レーザーエネルギー源、超音波技術、モールド成形、または熱成形技術などを用いて、一緒に鋳造、押出し、または継合されてもよい。本体102は、別個の部材(例えば、リング108)によって形成することができる膨張管腔120を概ね取り囲むので、これらの管腔120の取り付けまたは封入は、本体材料106と密接に接触するか、または取り囲む材料106によって緩く拘束することができる。また、これらの膨張管腔120は、本体材料106を封止して、本体102自体から一体の管腔を作製することにより、形成することもできる。例えば、シリコーン層などの材料をダクロンなどの多孔質材料に添加することにより、布106は、封止されたときに、流体の浸透に抵抗するか、または圧力を保持することができる。シート材料または円筒状材料に材料を添加して、液密障壁を作製してもよい。しかし、
図3Aおよび3Bに示す実施形態では、膨張管腔120は、別個の膨張要素108a、108b、122を形成するバルーン111(
図4C参照)で形成され、これらの要素は次に、材料106に固定される。
【0067】
本体102の様々な形状は、人によって異なる解剖学的構造に最も良く適合されるように製造することができる。上述したように、これらには、単純な円筒状、双曲面体、中央部分では直径が大きく一端または両端では直径が小さい装置、漏斗型の構造、または天然の解剖学的構造に適合する他の形状などが含まれていてもよい。移植片100の形状は、装置が近位方向または遠位方向に移動しないような形で、天然の解剖学的構造の特徴と係合するような輪郭とするのが好ましい。一実施形態では、装置が係合する特徴は、大動脈基部または大動脈球34(例えば、
図2A参照)、あるいは冠状動脈洞である。他の実施形態では、装置が係合する特徴は、天然の弁輪、天然弁、または天然弁の部分である。特定の実施形態では、移動を防ぐために移植片100が係合する特徴は、1%〜10%の直径差を有する。他の実施形態では、移動を防ぐために移植片100が係合する特徴は、直径差が5%〜40%である。特定の実施形態では、直径差は、移植片100の自由形状によって規定される。他の実施形態では、直径差によって一方向のみへの移動が防止される。他の実施形態では、直径差によって、例えば、近位および遠位または逆行および順行の、二方向への移動が防止される。外科用弁と同様に、移植片100は、弁104のリーフレットが取り付けられる移植片100の部分において、直径が約14mmから約30mmの範囲で変化し、約10mmから約30mmの範囲の高さを有する。大動脈基部内に設置するための移植片100の部分は、好ましくは約20から約45mmの範囲の、より大きな直径を有してもよい。
【0068】
弁の異なる直径は、様々なサイズの天然弁を置換するために必要となる。解剖学的構造の異なる位置に対して、異なる長さの弁またはアンカー装置も必要となる。例えば、天然の大動脈弁を置換するように設計された弁は、冠状動脈心門の位置(左動脈および右動脈)のため、比較的短い長さを有する必要がある。肺動脈弁を置換または補足するように設計された弁は、肺動脈の解剖学的構造によって追加の長さが許容されるため、非常に長い長さを有することができる。
【0069】
図4は、移植片100が、上述したのと同様に配置された3つの交連可膨張性支持ポスト132を備えた遠位側の膨張リング130を含む、移植片100の変形実施形態を示す。弁104は、遠位側の膨張リング130および支持ポスト132で支持される。この形状は、エドワード・ライフ・サイエンスからMagna(商標)の名称で市販されている弁、および他の多くの市販されている外科用弁に類似している。しかし、図示される実施形態は、遠位側の膨張リング130および支持ポスト132内の膨張チャネル(不図示)のため、有利である。上述したように、膨張リング130および支持ポスト132の膨張チャネルは、流体接続されるか、または分離されることができる。
【0070】
膨張可能な弁の形状の他の変形例は、カフ102の全体またはほぼ全体が円筒状のポケットを形成し、それが流体で満たされて、本体102の円筒状部分から切り出された正弦曲線パターンで規定される交連支持体とともに円筒形状を作る、移植片100を含んでもよい。そのような実施形態では、本体102を、複数の点または範囲で縫合または接合して、流体が流れるまたはその流れが制限される通路を提供することが求められる場合がある。これによって、さらに、円筒形状の厚さを規定する本体102の壁を規定することが可能になる。血液または他の流体が弁を通ることができる最大範囲を可能にする、薄い本体の壁を維持することが望ましい場合がある。膨張した移植片100の壁厚は、構造、圧力、および材料に応じて、0.010から0.100インチの範囲であってもよい。遠位から近位にかけて、または半径方向に、カフの壁厚を変えることが望ましい場合もある。これにより、固定の心膜組織またはポリマー弁材料などの他の材料を、支持が最大である壁に接合することが可能になり、または、移植片100自体の範囲内で、最大有効オリフィス面積が許容される。移植片100は、接着剤、縫い合わせ、熱または本体材料を接合もしくは融合させるのに十分な他のエネルギー源によって液密封止されてもよい。剛性、支持、または輪郭の明確化のため、カフに二次材料を添加することができる。これらには、金属元素、ポリマーセグメント、複合材料を含むことができる。
【0071】
図5Aおよび5Bは、上述したような実施形態の一例を示す。図示される実施形態では、本体102は、概ねスリーブ形状の管腔132を形成する。本体102の上面134は貝状に形成される。上面134の頂点または交連136は、本体102の外側表面内に、またはそれに沿って配置された細長い部材138で支持される。リーフレット104は、その縁部が支持された交連136に対応するようにして本体102内で支持される。部材138は、金属ワイヤまたはレーザー切断した要素を含むことができる。これらの要素138は、縫い合わせ、接着、または織り込みなどの従来技術によって、本体102に取り付けられてもよい。要素138の断面は、円形、楕円、正方形、または長方形であることができる。寸法的には、それらは0.002から0.030インチの幅および/または厚さを有することができる。これらの要素138の材料は、ステンレス鋼、ニチノール、MP35Nなどのコバルトクロム、または他の移植片等級材料であることができる。これらの要素138は、X線透視、エコー、または超音波などの従来の画像化技術に基づいて可視化することができる。放射線不透過性マーカーが、カフの近位端および遠位端を規定するのに望ましいことがあり、これらのマーカーは、金、白金イリジウム、または本体102上に画像化要素を提供する他の材料などの材料であってもよい。
【0072】
図6は、上述したように、近位端126および遠位端128がリング(不図示)で支持された本体102を含む弁100の他の実施形態を示す。
図3Aおよび3Bの実施形態と比べて、この実施形態では、膨張可能なストラット114が細長い補強部材140に置き換えられている。補強部材140は、上述したように、表面134に貝状に形成された交連136にほぼ対応するように本体102上に配置することができる。補強部材140は、様々な方式のいずれかで本体102に連結することができる。図示される実施形態では、補強部材140は、本体102を通って延びる縫合糸112およびループ142の組合せによって、本体102に連結される。
【0073】
補強部材140は、金属ワイヤ、リボン、またはチューブであることができる。それらは厚さが0.005から0.050インチの範囲であってもよく、また、先細になるか、厚さ、幅、または直径が変化してもよい。上述した実施形態として、部材140は、弁交連136を支持し、かつ/またはカフの高さを規定するのに使用することができ、あるいは展開用カテーテルの取付点であることができる。これらの部材140は、上述したような従来技術によって、カフ材料106に縫い合わされるか、または織り込まれてもよく、また、縫合糸またはワイヤを受け入れるようにフープ状に成形されてもよい。部材140はまた、ハイポチューブから形成されてもよく、それにより、後述するような展開用制御ワイヤまたは展開用制御システムが、補強ワイヤを貫通するか、またはそれに取り付けられることができるようになる。他の長さの補強ワイヤもまた可能であり、場合によってはより短いワイヤが好ましいことがあり、それによって、より小さな断面で、石灰化された弁輪により良好に適合することができるか、またはアンカーが確実に好ましく係合される。補強ワイヤの短い部分はまた、軸方向以外の方向に配置されてもよい。ワイヤを軸からずらして配置することにより、弁が天然の組織に対してより自然に移動することが可能になるか、またはアンカーが回転したり外れないようにすることができる。補強部材140は、ほぼ直線のワイヤ片であってもよい。
【0074】
図7Aおよび7Bは、本体102のほぼ全体が流体で満たされて砂時計形状を作る移植片100のさらに他の実施形態を示す。近位端126および遠位端128の間で、本体102は軸方向に延びるチャネル46を含み、それが軸方向に延びる管腔48を形成して、天然弁または弁ステムを越えて延びる。
【0075】
本明細書に記載する実施形態では、膨張チャネル120は、その断面が、円形(
図8A参照)、楕円、正方形(
図10)、長方形(
図9B参照)、または放物形であるように構成されてもよい。円形断面は、0.0005〜0.010インチの範囲の壁厚を備える、直径が0.020〜0.100インチの範囲であってもよい。楕円断面は、所望のカフ厚さおよび所望の強度に応じて、2対1または3対1のアスペクト比を有してもよい。管腔120がバルーン111によって形成される実施形態では、これらの管腔120は、ナイロン、ポリエチレン、PEEK、シリコーン、または他の一般に容認された医療機器材料などの従来のバルーン材料から作製することができる。それらは、螺旋状に巻かれて円筒形状にされてチューブ(
図8A参照)を作るか、または半径方向にループ状にされて一連のドーナツ形体(
図9A参照)を作るか、あるいは波形にされて(
図3C参照)正弦曲線パターンを作って、半径方向および軸方向の両方の支持を提供してもよい。これらのパターンの組合せは、患者および所望の弁に最も良く適合されるのが望ましいことがある。例えば、近位側および遠位側の単一のドーナツ形体の組合せが好ましいパターンである場合があるが、装置の高さ全体にわたって追加の組織および/またはカルシウム支持体を提供するため、装置の近位部分および遠位部分の間にいかなる数のドーナツ形体が置かれてもよい。
【0076】
次に
図11および12を参照すると、移植片100は、血液を冠状動脈152に供給するため、切断または他の方法で弁120の本体102に形成された1つまたは複数の窓150を含むことができる。窓150の数は1から20個の範囲であることができる。図示される実施形態では、窓150は、近位端126および遠位端128の間でほぼ半径方向に配置される。移植片100の構造によって、これらの窓150は、少なくとも部分的に、膨張管腔、または金属製もしくはポリマーのストラットなどの支持構造によって規定することができ、あるいは、製造プロセスの一ステップとして本体材料に切り込まれることができる。一実施形態では、窓150の位置は、確実に窓150を適切に位置づけするため、放射線不透過性マーカーで示される。他の実施形態では、移植片100の回転配向は、移植片100が展開用カテーテル300に装填される方向によって制御される。この実施形態では、展開用カテーテル300は、カテーテル300が大動脈弓または他の何らかの本来の解剖学的構造を越えて送り出されるにしたがって、移植片100が適切な回転位置を向くように方向付けされた、予め設定された曲線または好ましく曲げられた面を有することができる。窓150の面積は、約1平方センチメートルから約6平方センチメートルであることが好ましい。一実施形態では、窓150の面積は約1.5平方センチメートルから約3平方センチメートルである。より大きなサイズの窓は、有利には、冠状動脈口に対する窓150の配置においてある程度の公差を許容することができる。窓150はまた、人工弁のステントセグメントに設置されてもよい。
【0077】
冠状動脈152を通る開放性の流れを維持するように構成された他の実施形態では、カフ102は、任意の方向でのはっきりした流れを可能にする目の粗いメッシュ構造を有する。メッシュ構造は、どの位置でも心門を横切る縫合糸またはワイヤが1つまたは2つ以下となるように、十分に構成されることが好ましい。メッシュが、ステンレス鋼などの可塑的に変形可能な材料、または同様の適切な機械的特性を備えた任意の生体適合性材料で製造された場合、血管形成術用バルーンで冠状動脈にアクセスし、メッシュ構造を心門から離れる方向に変形させることもできる。
【0078】
移植片100の位置および方向を可視化するため、本体102の一部は、理想的には放射線不透過性である。プラチナ金またはタンタル、もしくは他の適切な材料で作られたマーカーが使用されてもよい。これらは、適切に配置されなければならない弁の主要範囲を特定するのに使用されてもよく、例えば、弁交連は、大動脈弁の冠状動脈に対して適切に配置されることが必要な場合がある。さらに、心門を可視化できるように、処置中に、放射線不透過性チップを付けたガイドカテーテルを用いて冠状動脈にカテーテルを挿入することが好都合である場合がある。放射線不透過性を増加させた、または標準的な灌流孔よりも大きな特別なカテーテルを開発することができる。カテーテルはさらに、その近位部分の直径を減少させて、弁展開用カテーテルとともに導入できるようにすることもできる。
【0079】
上述したように、本体102は、送り出し中、柔軟かつ可撓性であって、送り出しシース内部に適合されるコンパクトな形状を提供する。したがって、本体102は、生体適合性のある薄い可撓性材料で作製されるのが好ましく、また、天然の組織との境界面での組織成長を補助してもよい。材料のいくつかの例は、ダクロン、ePTFE、PTFE、TFE、またはステンレス鋼、白金、MP35N、ポリエステル、もしくは他の移植可能な金属やポリマーなどの織材料であってもよい。
図2を参照して上述したように、本体102は、天然弁をカフの壁の下に排除できるように、管状または双曲面体の形状を有してもよい。この本体102内で、膨張チャネル120は、膨張媒体を送り出して移植片100の構造を規定しそれを付加するために、カテーテル管腔に接続することができる。上述したように、これらのチャネル120は、様々な構造のいずれかを有することができる。そのような構造では、チャネル120の数は1から50個であってもよく、すべてのチャネルに連通する単一の管腔、または別個のチャネルもしくはチャネル群に連通する別個の管腔を有してもよい。一実施形態では、カフまたはスリーブ102は2から12個の管腔を含み、別の実施形態ではカフ102は10から20個の管腔を含む。上述したように、チャネル120は、スリーブ102の材料106の一部であるか、またはそれから形成されることができ、かつ/または、カフに取り付けられたバルーン111などの別個の要素であることができる。血液などの流体が一方向に流れることができるように、または流れを一方向もしくは両方向に限定することができるように構成された弁104は、スリーブ102内に配置される。弁104のスリーブ102への取り付け方法は、従来の縫い合わせ、接着、溶接、干渉、または業界で一般に容認された他の手段によるものであることができる。
【0080】
カフ102は、理想的には、15から30mmの直径および6から70mmの長さを有する。壁厚は、0.01mmから2.00mmの理想的範囲を有する。上述したように、カフ102は、流体チャネルで形成された、または軸方向に分離されたポリマーもしくは固体の構造的要素で形成された部材により、本来の位置で長手方向の支持をもたらしてもよい。カフ102の内径は、弁の取り付け、および予測可能な弁の開閉機能のために一定のサイズを提供する固定の寸法を有してもよい。カフ102の外側表面の部分は、移植片100が天然の解剖学的構造との締まりばめを達成するのに対応し、かつ可能とされてもよい。
【0081】
膨張可能な構造107の形状の多くの実施形態を上記に説明してきた。加えて、上述したように、移植片100は、様々な全体的形状を有することができる(例えば、装置を弁輪の周りの適所で保持するための砂時計形状、または、装置は大動脈基部などの天然の解剖学的構造の別の部分で装置を適所に保持するために異なる形状を有してもよい)。装置の全体的形状にかかわらず、膨張可能なチャネル120は、移植片100の近位端126および遠位端128の近傍に位置することができ、好ましくはリングまたはドーナツ形体に近い構造を形成する。これらのチャネル120は、次の3つの機能、すなわち(i)移植片100によって排除された組織に対する支持を提供する、(ii)100に、軸方向および半径方向の強度、ならびに剛性を提供する、および/または(iii)弁104に対する支持を提供すること、の任意の組合せを果たすように設計された、中間チャネルによって接続されてもよい。膨張可能な構造107の特定の構造の特性または向きは、それぞれの機能をより良好に果たすように最適化することができる。例えば、膨張可能なチャネル120が、装置の関連部分に軸方向の強度を付加するように設計されている場合、チャネル120は、理想的にはほぼ軸方向に向けられる。膨張可能なチャネル120が、主に装置の関連部分に半径方向の強度を付加するように設計されている場合、チャネルは、理想的にはほぼ周方向に向けられる。組織が膨張可能なチャネル間に延びるのを防ぐため、チャネル120は、十分な足場を提供するように、十分に接近した間隔で配置されるべきである。
【0082】
さらに、使用される製造プロセスによって、特定の構造が好ましいことがある。例えば、バルーンが、
図3Cを参照して説明したような縫い合わせカフ内に設置される場合、近位、中間、および遠位の膨張チャネルを形成する単螺旋状のバルーン(例えば、
図8A参照)を製造するのが最も簡単な場合がある。
図3Dは、カフ102の折り曲げ部110内に配置されたリング108およびストラット114を利用する実施形態を示す。
【0083】
他の実施形態では、移植片100は、選択的に融合された複数層から製造され、次に、膨張チャネル120は、融合された範囲152の間の融合されていないまたは接合されていない範囲によって形成される。この場合、膨張チャネル120の様々な構造のいずれかを使用することができる。例えば、
図13Aに示すように、移植片100は、波状のチャネル120が間に配置された遠位側および近位側リング108を含むことができる。
図13Bは、膨張120が、軸方向に延びるリブ156を形成する、軸方向に延びる融合部を備えた、ほぼ円筒形状を形成した実施形態を示す。
図13Cは、
図13Bの実施形態に類似しているが、狭いリブ156を形成するように、融合部152がより大きい。これらの実施形態では、膨張チャネル120は、閉じ込められた空気または膨張前流体のポケットを形成することなく、膨張媒体がチャネルのすべてに流入することができるように構成されるのが好ましい。
【0084】
移植片100のカフ102および膨張チャネル120は、様々な方法で製造することができる。一実施形態では、カフ102は、血管内移植片または外科移植される人工心臓弁のカフに通常は使用される布に類似した布から製造される。布は、カフ102のいくつかの部分用に管状形状に織られるのが好ましい。布はまた、シート状に織られてもよい。布を製造するのに使用される糸は、好ましくは撚糸であるが、モノフィラメントまたは組糸を使用することもできる。糸の直径の有用な範囲は、直径約0.0005インチから約0.005インチである。織り方がどの程度緊密に作られるかによる。好ましくは、布は、1インチあたり約50から約500本の糸で織られる。一実施形態では、布チューブは、1インチあたり200本の糸またはピックで、18mmの直径で織られる。各糸は、PET材料の20本のフィラメントで作られる。この織物チューブの最終的な厚さは、チューブの1つの壁が0.005インチである。移植片100の所望の断面、および血液または他の流体に対する布の所望の浸透性によって、異なる織り方を用いてもよい。任意の生体適合性材料を使用して糸を作製することができ、いくつかの実施形態はナイロンおよびPETを含む。他の材料または材料の他の組合せが可能であり、それには、テフロン(登録商標)、フルオロポリマー、ポリイミド、または金属、例えばステンレス鋼、チタン、ニチノール、他の形状記憶合金、もしくは主にコバルト、クロム、ニッケル、モリブデンの組合せからなる合金が挙げられる。強度または放射線透過性を増加させるため、あるいは薬剤を供給するため、繊維を糸に添加してもよい。布チューブは、編組プロセスによって製造されてもよい。
【0085】
布の切り口は、布がほつれるのを防ぐため、溶融されるか、接着剤で覆われるか、または縫合される。好ましくは、エッジは切断プロセス中に溶融され、これはホットナイフを用いて行うことができる。工具のブレードは加熱され、材料を切断するのに使用される。ブレードの幾何学形状だけでなく温度および送り速度もまた制御することによって、切り口の幾何学形状が規定される。一実施形態では、ホットナイフのブレードは、半径が約0.010インチの鈍い刃先に研いだ、厚さ0.060インチのものである。ブレードは、約400°Fまで加熱され、毎分約20インチの速度でダクロン布を切断するのに使用される。好ましくは、切り口が溶融された布の薄層で封止され、その場合に、溶融された範囲は可撓性を有し、かつ亀裂を防ぐのに十分に小さいが、布がほつれるのを防ぐのに十分に厚くなるように、切断パラメータが調節される。溶融された布のビードの直径は、好ましくは0.0007から0.0070インチである。
【0086】
布の2つのエッジは、エッジを一緒に締め付けて重ね継ぎを形成し、次に自由縁部を溶融することによって封止されてもよい。これは、炎、レーザーエネルギー、ホットナイフまたは布の近傍を通る加熱要素などの布と接触する加熱された要素、または空気などの加熱された気体の有向の流れによって行われてもよい。2つのエッジを接合する溶融された布のビードは、好ましくは直径0.0007から0.0070インチである。
【0087】
布は、一緒に縫い合わされ、縫合され、封止され、溶融され、接着され、または接合されて、移植片100の所望形状を形成する。布の部分を付着させる好ましい方法は縫い合わせである。好ましい実施形態は、直径約0.005インチのポリプロピレンモノフィラメント縫合材料を使用する。縫合材料の直径は、0.001から0.010インチの範囲であってもよい。弁交連がカフに取り付けられる位置など、より応力が大きな位置では、より大きな縫合材料が使用されてもよい。縫合材料は、任意の許容可能な移植片等級材料であってもよい。好ましくは、ポリプロピレンなどの生体適合性縫合材料が使用される。ナイロンおよびポリエチレンもまた、一般に用いられている縫合材料である。他の材料または材料の他の組合せが可能であり、それには、テフロン(登録商標)、フルオロポリマー、ポリイミド、または金属、例えばステンレス鋼、チタン、ケブラー、ニチノール、他の形状記憶合金、もしくは主にコバルト、クロム、ニッケル、モリブデンの組合せからなるMP35Nなどの合金が挙げられる。好ましくは、縫合はモノフィラメント構造である。マルチストランドの編組または撚糸縫合材料も使用することができる。多くの縫合および縫い合わせパターンが可能であり、様々な文献に記載されている。好ましい縫い合わせ方法は、何らかのタイプの本縫いを使用し、縫合がその長さの一部でほつれた場合でも、縫合の全長がほつれに抵抗するような構造のものである。また、縫合は、一般に、依然として布の層をともに保持するその機能を果たす。
【0088】
図13Dは、石灰化輪と接触しているカフ102の外側部分156が、その耐摩耗性のために選択された材料を含む移植片100の他の実施形態を示す。一実施形態では、耐摩耗性材料は、ケブラーまたは他のアラミド繊維などの合成繊維である。他の実施形態では、耐摩耗性材料は、MP35Nまたはステンレス鋼などの金属である。一実施形態では、布は全体が耐摩耗性材料で織られる。他の実施形態では、布は、耐摩耗性材料などの材料と、組織内成長などの他の特性を最適化するように設計された第2の材料との組合せで織られる。布を製造する際、異なる材料の繊維は、撚り合わされて単一の糸にされてもよく、または、異なる材料の複数の糸がともに織られてもよい。あるいは、耐摩耗性の層が、完成した装置の外側に付加されるか、または、弁装置を保護するための障壁または格子として、最初に移植されてもよい。
【0089】
上述したように、カフ102は、いくつかのやり方で操作されて、膨張チャネル120を形成してもよい。多くの実施形態では、移植片100は別個のバルーン111を備えておらず、代わりに、カフ102の布106自体が膨張チャネル100を形成することができる。例えば、一実施形態では、移植片100の所望の最終的な直径と同様の直径の2つの布チューブが、互いに同軸に配置される。2つの布チューブは、膨張可能な構造107の幾何学形状を作るのに適したチャネル120のパターンで、一緒に縫い合わされるか、融合されるか、接着されるか、または他の方法で連結される。一実施形態では、縫い合わせパターンは、2つのチューブを接続する螺旋からなる。縫合範囲の間に形成された螺旋状チャネルは膨張チャネル(例えば、
図8A参照)となる。他の実施形態では、2つの同軸の布チューブは、実際にはそれ自体の上に折り畳まれた単一のチューブである。他の実施形態では、チューブは、布チューブの近位端および遠位端が環状リングまたはドーナツ形体を形成するパターンで一緒に縫い合わされる。例えば
図13Cを参照。構造のさらに他の実施形態では、装置の中央部分は、正弦曲線パターンに成形された1つまたは複数の膨張チャネルを含む。例えば
図13Aを参照。
【0090】
図14を参照すると、他の実施形態では、移植片100は、移植片100の最終直径に類似した単一の布チューブ160から形成される。膨張チャネルに適した直径のより小さな布チューブ162は、より大きなチューブ160に取り付けられる。より小さなチューブ162は、所望の特性を備えた膨張可能な構造107を提供するのに望ましい任意のパターンで、より大きなチューブ160の内側または外側に取り付けることができる。一実施形態では、チューブ162は螺旋状パターンで取り付けられ、他の実施形態では、チューブ162は、カフに対するリーフレットの接続の形状を模倣する正弦曲線パターンで取り付けられる。
図14に示すように、任意の薄く切られたハイポチューブまたは同様の要素164を、より小さなチューブ162の中に配置することができる。より小さなチューブ162は、縫合、接着、融合、または他の方法で、より大きなチューブ160に連結することができる。図示される実施形態では、縫合112は、針166および縫合糸168によって適用されて、より小さなチューブ162をより大きなチューブ164に固定する。
【0091】
他の実施形態では、人工移植片100の最終直径に類似した単一の布チューブが使用される。チューブの両端または一端は、裏返しにされて、チューブの一端または両端の短い長さで二層のチューブを形成する。チューブの層は、縫い合わされるか、または他の方法で取り付けられて、
図3Cに示すものと類似の方式で、チューブの端部でリング形状の膨張チャネルを形成する。あるいは、層は、異なるパターンで縫い合わされて、螺旋状または正弦曲線構造などの異なる形状で膨張チャネルを形成してもよい。
【0092】
多孔質の布がカフ102に使用される場合、膨張媒体が膨張管腔120から漏れるのを防ぐため、ライナー(例えば、
図14に示すように)またはコーティングを使用することが望ましい場合がある。布のこの部分は、布をより良好に封止するため、ポリマーまたは他の処理剤で覆われるか、充填されるか、またはそれに封入されてもよい。布部分全体が処理されてもよく、または布の特定部分が処理されてもよい。布は、カフ102が製造される前に、またはカフ102が製造された後に処理されてもよい。一実施形態では、処理剤は、溶媒に懸濁したポリマーである。溶媒が蒸発または他の方法で除去された後、ポリマーが残って布を封止する。他の実施形態では、封止剤は、液体またはペーストとして塗布され、次に、水分、UV光もしくは他の波長の光などの外部熱エネルギー、または2つ以上の成分を混合することによる化学反応などによって硬化される。他の実施形態では、封止剤はシリコーンである。
【0093】
好ましい実施形態では、布の膨張チャネルは、
図3A〜Cを参照して説明したようなバルーン111の形態のライナーを含む。バルーン111は、好ましくは、生体適合性材料から作られた薄壁のチューブである。一実施形態では、バルーン111は、0.005インチの壁厚を持つ、直径約0.030インチのナイロン管材料から吹込成形される。管材料は次に、約0.020インチの外径まで細くされ、その後、管材料は金型内に配置され、約200PSIまで加圧され、その後、金型は、バルーンが形成されるべき範囲が加熱される。加熱ステップは、約300°Fで加熱エア流を用いて行われてもよい。この実施形態のバルーンの最終直径は、バルーンの一部分で0.060インチであり、バルーンの第2の部分で0.090インチである。バルーン111の全長は約18cmである。バルーン111は、吹込成形でカフに適合する形状にされてもよく、または、バルーンは、二次ステップでカフに適合するように成形されてもよい。あるいは、ライナーが布カフよりも大きい場合、ライナーは、布カフとは異なる形状であって、アセンブリが布によって決まるサイズまで膨張することができるようにされてもよい。
【0094】
上述した膨張可能な人工移植片100のいくつかの実施形態は、円形またはリング形状のバルーン部材111を利用する。これらのバルーン111は、螺旋状に曲げられたガラス管を使用して製造することができる。その後、バルーン111は、血管形成用のバルーンを製造するのに使用されるのと類似の方法を用いて、チューブ内で吹込成形される。例えば、ガラス型は、空気、水、蒸気、赤外線素子を用いて加熱されてもよく、また、張力および圧力を印加して、バルーンが特定の直径および長さまで吹込成形されてもよい。バルーンを緩ませてエージングするように保持する第2の加熱プロセスを提供することにより、バルーンの形状を「セット」する二次プロセスが付加されてもよい。バルーンは、多くの異なる材料から吹込成形することができ、ナイロンペバックスおよびポリエチレンは特に適切なポリマーである。バルーン管材料は、型を介して挿入され、一端で封止される。管材料の節が、封止には十分である。管材料の他端は、80から350psiの範囲の圧力を提供する圧力源に接続される。必要な圧力は、管材料の材料および寸法によって決まる。次にバルーンは、管材料のいずれかの端部に任意に張力が印加された状態で、局所的な範囲で加熱される。管材料が拡張してガラス型の内径と合致した後、熱源は、管材料が成長して型の内径と合致するようにできる速度で、型の長さに沿って前進する。その後、バルーンおよび型は冷却されてもよい。冷却の1つの方法は、型に圧縮エアを吹き付けることである。その後、バルーンは型から取り除かれる。任意で、このステップを容易にするために離型剤が使用されてもよい。好ましい離型剤としては、シリコーン、ポリビニルアルコール(PVA)、およびポリエチレンオキサイド(PEO)が挙げられる。さらに、バルーンは、EPTFEなどの材料を編んでまたは織ってマンドレルを包むことによって製造されて、所望の形状を生成してもよく、材料は次に、焼結または接着などのプロセスでそれ自体に接合される。
【0095】
図3A〜Dを再び参照すると、好ましい実施形態では、移植片100は、完成した人工弁の所望の直径と類似した直径の織布のチューブ106の単一層から製造される。チューブ106の直径は約1インチである。長さ約1.2インチのチューブ106が使用される。エッジがほつれるのを防ぐため、チューブ106のエッジはホットナイフを用いて切断される。直径約0.065インチの織布の管材料の第2片115は、チューブ115のエッジがほつれないように、ホットナイフを用いて約7インチの長さに切断される。その後、より小さな直径のチューブ115は、布チューブ106の上縁部近傍に3つの尖頭部を生成するような形状で、より大きな直径の布チューブ106の内径の中央部分に縫い付けられる。尖頭部は、布チューブ106の上縁部から約0.15インチのところに配置される。より小さなチューブ115の尖頭部間の部分は、半径約0.5インチのより大きな直径のチューブの中央部分に縫い付けられる。その半径の底部は、より大きな直径の布チューブ106の下縁部から約0.27インチのところに配置される。その後、より大きな直径の布チューブ106の下縁部は、裏返されて、その外径の上に折り畳まれる。縫合部112は、折り畳み縁部から約0.1インチのところで、より大きな直径の布チューブ106の2つの層を貫通して配置される。この縫合部112は、布のチューブ106の切断縁部から約0.05インチ、かつより小さな直径の布チューブ115の取り付けによって形成された半径の下縁部から約.05インチの間隔を空けられる。
【0096】
図15を参照すると、
図3A〜Dの実施形態では、弁104の管状部分(好ましくは、直径約1インチおよび長さ約0.6インチの固定された心膜組織)は、より大きな布チューブ106の内径の中に挿入される。約0.08インチ×0.18インチの布の小さな四角形166は、各弁尖において、心膜組織104の管状部分内に設置される。縫合糸168は、布の四角形および心膜組織104を通り、次に、尖頭部116を形成するより小さな直径の布チューブ115の2つのセグメント間を通り、その後、より大きな直径の布チューブ106を通る。このように、心膜組織チューブの上縁部は、尖頭部116および弁交連を形成する3つの位置でカフ102に取り付けられる。その後、心膜組織チューブの下縁部は、より小さな布チューブ115と底部のリング形状の膨張チャネルを形成する縫合との間の位置で組織を縫合することにより、カフ102の下縁部に取り付けられる。
【0097】
その後、バルーン部材111は、カフ102によって形成されたチャネルそれぞれの内部に設置される。例えば、
図3Cを参照。他の実施形態では、カフ102は、非多孔質ポリマーのシートまたはチューブ、あるいは最小の孔隙率を備えたポリマーのシートまたはチューブで製造され、その場合、バルーンなどの二次封止部材は不要である。
【0098】
図16Aおよび16Bは、本明細書に参考により組み込まれるAndersenの米国特許第6168614号に記載されるような、経皮的に送り出すことができるステント付きの移植片170の変形実施形態を示す。移植片170は、概ね、自己拡張可能なステントを形成する近位側および遠位側の屈曲部を有する環状のジグザグパターンで配置された1つまたは複数の細長い部材を備える、ステント状の構造172を有する。弁174は、構造172に連結される。移植片170は、上述したような方式で構成された、1つ(
図16A)または複数(
図16B)の膨張可能なカフ176を含むことができる。膨張可能なカフ176は、弁周囲の漏れを最小限にするまたは排除するように構成される。例えば、膨張可能なカフ176は、膨張したときに、弁174の各リーフレットの固定された縁部の周囲での流体の流れを防止または制限するように、移植片170上に配置することができる。
図16Aの実施形態では、弁170は、弁174のリーフレットの固定された縁部がステント172に取り付けられる位置でステント172の外表面に取り付けられる、1つの円形のカフ174を含む。ステント172が拡張した後、膨張可能なカフ176は膨張媒体で満たされる。カフ176は、移植片170の外表面を天然の解剖学的構造に封止するのに適切な圧力まで膨張する。膨張可能な通路を有さないが、血管壁と弁174の間の封止を形成する役目をする、Oリングなどの受動的構造を提供することもできる。そのような実施形態では、封止構造は、解剖学的構造に容易に適合するように、柔らかい材料または発泡体で作られるのが好ましい。シリコーンまたはシリコーン発泡体を使用して、適切な封止部材を製造することもできる。
【0099】
拡張可能なステントを基礎とする人工弁に関する別の問題は、ステントが過度に拡張した場合、弁リーフレットが接合しない恐れがあることである。これにより、中央部で漏れが生じ、弁は不適切なものになる。一実施形態では、操作者が中央部の漏れを検出した場合に、操作者が高い圧力までカフを膨張させて、人工弁輪においてステント172の直径を減少させることができるように、上述した膨張可能な封止カフ176が設計される。操作者は、エコー検査法などの画像化技術を用いて、あらゆる逆流を監視する。この情報にしたがって、カフ176を、漏れを排除する最小圧力まで膨張させることができる。最小圧力を用いることにより、血流に利用できる最大可能範囲が確保される。この技術により、移植範囲に適切に適合されるように、最初に展開される直径を減少させるか、または構造のサイズを変更することが可能になる。
【0100】
非膨張性人工大動脈弁移植片
図17A〜20Aは、異なる技術を使用して弁182を移植部位に固定する移植片180の他の実施形態を示す。この実施形態では、移植片180は、弁182に取り付けられた少なくとも1つの部材184を有し、体内に展開されると弁182形状を提供する。一般に、部材184は、作動され展開されると、リングまたは環状形状を形成する。しかし、送り出し中、部材184は可撓性であって、断面を小さくして概ね伸張され、それと同時に弁182のリーフレット183は送り出しカテーテルを貫通するように支持部材184(
図20および20Aを参照)を包み込む。展開中、弁182のリーフレット183は広げられ、第2の形状をとって血管の封止を形成し、かつ血流の一方向のゲートとして機能する。心臓10内での弁180の展開を示す
図21Aおよび21Bも参照のこと。
【0101】
ラッチまたは係止機構181が、ワイヤの張力を維持するか、または、近位端近傍の位置に遠位端を係止する。この張力機構は、張力ワイヤを介したハンドル、油圧システム、ねじを駆動する回転部材で駆動されてもよい。さらに、張力部材は、縫合、接着剤、または張力ワイヤで作動される機械的スナップの協働タイプのロックなどの係止手段を利用して、所望の円形形状を維持してもよい。
【0102】
まず
図18A〜Cを参照すると、一実施形態では、構造184または構造の一部は、(例えば、本明細書に参考により組み込まれる米国公開公報US2002/0151961A1に見られるような)一側面にスロット188が切り込まれたステンレス鋼チューブ185で製造されて、送り出しに可撓性を提供する。チューブ内に設置されたワイヤ186が引っ張られて装置を付勢し、装置を、部材184に切り込まれた横断方向のスロット188のパターニングおよび幅で決定される形状にする。これらのスロット188および張力ワイヤ186により、装置は、
図17Aおよび18Cに示すような円形形状になる。他の実施形態では、
図17Bに示すように、リングが立体的であり、場合によっては弁交連の尖頭または高い点を組み込むように、スロット188を方向付けることができる。さらに、部材は、一体のストラット190を組み込んで、
図17Aに示すように弁182の交連を支持してもよい。
【0103】
図19Bおよび19Cは、スロット188が山形形状を有する実施形態を示す。装置内部のワイヤは、引っ張られて装置を付勢し、装置を、横断方向のスロット188のパターニングおよび幅で決定される形状にし、それによって、装置が
図19Cに示すような円形形状にする。他の実施形態では、リングが引っ張られたときに立体的になるように、スロット188を方向付けることができる。
【0104】
図22Aおよびタイプ形状22Bは、部材180が回転されると、予め成形された形状の部材180を提供するように構成された要素191から、部材180が形成される、変形実施形態を示す。例えば、図に示すように、要素191は台形形状を有してもよい。
【0105】
図23は、リング195を有する移植片194の実施形態を示す。図に示すように、装置194は、リング195を曲げて大きなアスペクト比の楕円形にすることにより、カテーテル内で拘束することができる。カテーテルから排出されると、移植片194は、円形またはより円に近い形状の自由な状態を取る。生体弁196は、組織を縫い合わせるまたは継合するなど、従来の方式によって取り付けることができる。
図24Aおよび24Bは、リング195が、細長い部材197を含む未変形の形態を有する、同様の実施形態を示す。
【0106】
図25A〜Cは、リング195を本来の位置で組み立てることが必要な、他の変形実施形態を示す。この実施形態では、リング195は、一連の遠位側屈曲部197aおよび近位側屈曲部197bを有する。
図25Bに示すように、リング195は、カテーテルによって送り出すために、引き伸ばして圧縮することができる。カテーテルから排出されると、リング195は、縫合などを用いて接続点199aおよび199bを連結することによって組み立てられる。
【0107】
図17A〜17Cを参照して上述した実施形態では、移植片は、送り出しカテーテルから解放されるか、またはそれから分離されなければならない。当業者は、本明細書の開示に照らして、多くの様々な解放分離方法が可能であることを理解するであろう。例えば、回転運動を使用して装置が展開される場合、通常は、ねじ接続などの、トルクを伝達できる分離が提供される。他の実施形態では、装置は、押し込み要素によってカテーテルから押し出される。さらに他の実施形態では、ピン継手などの機械的解放機構、カテーテル送り出しシステムからの装置のねじ戻し、ねじまたはワイヤなどの係留リンク、GDCコイルの展開に用いられるような可融性リンク、装置の取り付け部をカテーテルから分断する切断器具、節が解放されるまたは切断され得るところでカテーテルを装置に係留するねじ付きの節、カテーテルと装置のリンクを展開、拡張、または断裂させる油圧機構である。
【0108】
図25Dは、人工器官700の他の実施形態を示す。この実施形態では、人工器官700は可撓性の布カフ702を含む。布カフ702は、恒久的な支持構造706を後で設置することができる位置に、1つまたは複数のチャネル704を含む。一実施形態では、恒久的な支持構造は、後で支持構造が収容されるチャネル704によって製織される。他の実施形態では、支持構造706は可撓性構造のカフの中に予め装填される。有用な一実施形態では、カテーテルは少なくとも1つの管腔を含み、それを介して支持構造が前進することができ、アセンブリは収縮可能な送り出しシースの内部に適合されることができる。カフ702は、所望の弁輪に送り出され、支持構造706は、装置700の一部(例えば、チャネル704)の中へ前進する。これにより、人工器官700に構造が提供されるので、カフ702に連結される弁(不図示)を支持することができ、天然の輪内に配置され、機能することができるようになる。一実施形態では、支持構造706はワイヤである。操作者が人工器官700のサイズおよび位置に満足すれば、人工器官700を補強または固定する追加の支持構造が付加されてもよい。人工器官700が配置された後、弁カフ702および支持構造706を適所に残して、送り出しカテーテルが任意に引き抜かれ、または分離されてもよい。あるいは、送り出しカテーテルは、任意の時間適所に残されて、人工器官700を後で調節または除去することができるようにしてもよい。
【0109】
図示される実施形態では、カフ702は、カフ内に挿入された後に螺旋形状をなすワイヤ706の送り出しを可能にする、螺旋状のチャネル704を含む。螺旋は、
図25Dに示すように、装置700の近位端から弁の遠位端まで延び、個々のコイルは接近した間隔で配置される。
【0110】
好ましいワイヤ材料は、他の多くの金属およびポリマーが適切な特性を有するが、ニチノールである。ニチノールは、その化学的性質および熱履歴を使用して、その相が変化する温度を調整することができるという利点を備える。この転移温度が体温よりも僅かに低い温度となるように調節することにより、一組の機械的特性を備えた支持構造706を(例えば、カフ702内で)送り出すことができ、送り出し後、および支持構造706が体温と均衡した後に、支持構造706は第2の組の機械的特性(例えば、形状)を持つ。他の形状記憶合金などの、体温付近で相変化を起こす他の材料が、同様の利点を備えてもよい。
【0111】
一実施形態では、カフ702内のチャネル704に取り付けられるカテーテルは、ワイヤ706を、最小の摩擦で送り出し、過度に急峻な屈曲の数を最小限に抑えることができるような向きにあることが好ましい。カテーテルは、人工器官700の配置プロセスの間、膨張媒体が一時的に支持構造の役割を果たすことができるように、任意に膨張部分を含んでもよい。
【0112】
図25Eおよび25Fは、人工器官750の他の実施形態を示す。この実施形態では、人工器官750は、弁754に連結することができる可撓性の布カフ752を含む。
図25Eに示すように、人工器官750は、この形態では、カテーテル内で送り出される非常に柔軟な形状を有する。装置750が送り出し部位の近傍に配置されると、1つまたは複数のステント756を使用することによって、装置750に構造を付与することができる。ステント756は、自己拡張可能またはバルーン拡張可能であることができる。図示される実施形態では、ステント756は、装置750のほぼ近位端および遠位端に配置される。ステント756は、カフ752に連結される弁754を支持することができるように、また天然の弁輪内に配置されて機能することができるように、人工器官750に構造を提供する。
【0113】
リーフレットサブアセンブリ
図1〜16Bの実施形態を再び参照すると、弁104は、寸法的に安定な、予め位置合わせされた組織リーフレットのサブアセンブリを含む、生体タイプの心臓弁であることが好ましい。この構成にしたがって、例示的な生体弁104は、寸法的に安定で、かつ寸法的に一定して接合しているリーフレットサブアセンブリを形成する、定型化され先端で互いに取り付けられた複数の組織リーフレットを含む。次に、単一のプロセスであり得るプロセスで、サブアセンブリの各リーフレットは、カフ102と位置合わせされ、1つの交連の先端からリーフレット尖頭の周囲を通り、隣接する交連の先端まで均一に、別個にカフ102に縫い合わされる。その結果、縫い合わされた縫合は、同様に位置合わせされたステープルのように働き、そのすべてが均等に、予め位置合わせされ接合しているリーフレットそれぞれの尖頭全体に沿って作用する負荷力を受ける。膨張すると、カフ102は、膨張媒体およびその個々の圧力で交連を支持し、それが固くなり、ステント構造に類似のシステムを作る。それによって形成された移植片100は、交連ごとにリーフレット尖頭全体にわたって均等に応力を分配することによって、リーフレットの縫合境界面での応力と潜在的な疲労とを減少させる。この、改善され、寸法的に安定し、応力が減少されたアセンブリは、予め準備された布被覆カフ102の頂部に操作可能に取り付けられて、布被覆カフの頂部によって形成された負荷を分配する布座部上で、リーフレットを変形させることなく、またはその相対的な位置合わせおよびその噛合縁部の結果的な接合を妨害することなく、組織リーフレット尖頭を挟持する。組織リーフレットは、操作中、より低くより均等な分配応力を受けるので、使用中に変形することが少ない。したがって、この付着力の均等な分配によって、より安定し、より寿命が長い、リーフレットの機能的閉止または接合が提供される。
【0114】
移植片100およびその中で使用されるカフ102の構造を用いることにより、多くの追加の利点が得られる。例えば、カフ102の各主要範囲に関して、可撓性を最適化またはカスタマイズすることができる。所望であれば、接合する組織リーフレット交連は、ある程度の偏位を許容するように、ある程度可撓性であるように作製されて、閉止部で組織にかかる応力を取り除くか、または弁の動作を調整することができる。同様に、弁100構造全体の基本の半径方向剛性を圧力または膨張媒体によって増減させて、弁100の真円度および形状を保存することができる。
【0115】
弁104のカフ102への取り付けは、縫い合わせ、リングまたはスリーブ取り付け、接着、溶接、締まりばめ、部材間の締付けなどの機械的手段による接合などを含む、従来の多くの方法によって完成させることができる。これらの方法の例は、Huynhらの特許公開公報06102944号またはLafranceらの2003/0027332号、またはPeredoの米国特許第6409759号に記載されており、参照により本明細書に組み込む。これらの方法は、弁装置業界で一般に知られ、受け入れられている。上述したように、カフ102は、身体内で構造が形成されるところで、膨張型をさらに収容してもよく、または、流体が注入されて支持構造を作るところでカフが型となる。弁は、組織弁、培養組織弁、機械弁、またはポリマー弁のいずれであっても、パッケージング前に、または病院で移植される直前に取り付けられてもよい。いくつかの生体弁は、ブタ、ウマ、ウシ、またはヒトの天然弁などの天然弁である。そのほとんどは、グルタルアルデヒドなどの定着液内に浮かべられる。
【0116】
固い旋回閉塞器またはリーフレットを備えた機械心臓弁は、数十年間の使用を通じて耐久性が実証されているという利点を有するが、人工弁上またはその周りでの血液凝固を伴う。血液凝固は、弁または関連する血管の急性閉鎖または亜急性閉鎖につながる恐れがある。この理由から、機械心臓弁を移植された患者は、弁が移植されたままである限り抗凝血剤の投与を受け続ける。抗凝血剤は、年間3〜5%の深刻な出血のリスクがあり、個人によっては安全に服用することができない。
【0117】
機械心臓弁に加えて、人工心臓弁は、可撓性の組織リーフレットまたはポリマーリーフレットで作製することができる。人工生体心臓弁は、例えば、ブタの心臓弁由来であることができ、または、ウシやウマの心膜など他の生体材料から製造することができる。人工心臓弁中の生体材料は、一般に、層状で乱流のない血流を提供する輪郭および表面特徴を有する。したがって、血管内凝結は機械人工心臓弁よりも生じにくい。
【0118】
天然生体弁は、動物種、通常はヒト、ウシ、ブタ、イヌ、アザラシ、またはカンガルーなどの哺乳類由来であることができる。これらの組織は、例えば、心臓弁、大動脈基部、大動脈壁、大動脈リーフレット、心膜パッチなどの心膜組織、バイパス移植片、血管、ヒトの臍組織などから得ることができる。これらの天然組織は、通常は軟組織であり、概ねコラーゲン含有物質を含む。組織は、生体組織、脱細胞化組織、または再細胞化組織であることができる。
【0119】
組織は架橋によって固定することができる。例えば、組織の酵素分解を防ぐことにより、固定によって機械的に安定化される。グルタルアルデヒドまたはホルムアルデヒドが、通常は固定に使用されるが、他の二官能性アルデヒド、エポキシド、ゲニピン、およびそれらの誘導体など、他の固定剤を使用することができる。組織は、組織のタイプ、用途、および他の要因によって、架橋形態または非架橋形態で使用することができる。一般に、異種移植片組織が使用される場合、組織は架橋および/または脱細胞化される。
【0120】
移植片100は、さらに、ポリマーおよびセラミックスなどの合成材料を含むことができる。適切なセラミックスとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、アルミナ、グラファイト、および熱分解カーボンが含まれる。適切な合成材料としては、ヒドロゲル、および重度の脱水に耐えることができない他の合成材料が含まれる。人工心臓弁は、精製した生体ポリマーだけでなく、合成ポリマーを含むこともできる。これらの合成ポリマーは、製織または編成してメッシュを作り、マトリックスまたは同様の構造を形成することができる。あるいは、合成ポリマー材料は、モールド成形または鋳造して適切な形態にすることができる。
【0121】
適切な合成ポリマーとしては、制限なく、ポリアミド(例えば、ナイロン)、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリレート、ビニル重合体(例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、およびポリ塩化ビニル)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、酢酸セルロース、ポリメタクリル酸メチル、エチレン酢酸ビニル、ポリスルホン、ニトロセルロース、および同様の共重合体が挙げられる。生体再吸収性ポリマー、例えば、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、ゼラチン、ゼラチン誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ジメチルグリコール酸)、ポリ(ヒドロキシブテレート)、および同様の共重合体などを用いることもできる。これらの合成ポリマー材料は、製織または編成してメッシュを作り、マトリックスまたは基材を形成することができる。あるいは、合成ポリマー材料は、モールド成形または鋳造して適切な形態にすることができる。
【0122】
生体ポリマーは、天然素材であることもできるし、あるいは発酵などまたは組換え遺伝子工学によって生体外で生成することもできる。組み換えDNA技術を使用して、実質的にあらゆるポリペプチド配列を操作し、次に、細菌細胞または哺乳類細胞のいずれかで、タンパク質を増幅し、発現させることができる。精製された生体ポリマーは、製織、編成、鋳造、モールド成形、押出し、細胞整列、および磁気整列などの技術によって、適切に基体を形成することができる。適切な生体ポリマーとしては、制限はなく、コラーゲン、エラスチン、絹、ケラチン、ゼラチン、ポリアミノ酸、多糖類(例えば、セルロースおよびデンプン)、およびそれらの共重合体が挙げられる。
【0123】
組織ベースの人工弁は、その天然の形態からリーフレットなどの構造的要素を維持することができ、かつ/または、別個の組織片のアセンブリから、構造的要素を組み込んで人工器官とすることができる。例えば、人工弁は、ブタの心臓弁、ウシの心膜、またはそれらの組合せから組み立てることができる。ブタの生体弁、例えば、ミネソタ州セントポールのセント・ジュード・メディカル社から市販されているトロントSPV.RTM.バルブを、本明細書に記載の器具を用いて患者に移植することができる。トロントSPV.RTMバルブは、大動脈心臓弁の位置に移植するように設計されている。例えば、DavidらのJ.Heart Valve Dis.1:244−248(1992)を参照。当業者であれば、本発明の器具は、任意の弁、特に患者に移植するように適合された任意の生体人工弁に適用可能であることを理解するであろう。
【0124】
補強材が、弁交連支持体および/または貝形状の内側表面に沿って設置されてもよい。他の実施形態では、補強材は、弁交連支持体などの弁の外表面上に設置される。補強材は、好ましくはアパーチャを含み、それを通して固定具が延び、またはそこに挿入されることができる。補強材は、比較的強度のある材料の薄いストリップである。固定具が挿入されたとき、または人工心臓弁が患者に移植された後に、補強材は、人工器官に対する損傷を防ぐか、または低減することができる。したがって、補強材は、固定具があることによって生じる可能性がある損傷から、交連支持体を保護し支持することができる。他の実施形態では、固定具が人工弁を通過した後に補強材を貫通するように、補強材は大動脈の外部に設置される。
【0125】
生体弁は、外科的または経皮的のいずれで移植されたとしても、移植後に石灰化のリスクがある。石灰化を防ぐか、または最小限に抑えるため、組織が固定される前にいくつかの処理が行われる。方法としては、エタノール、金属塩類、洗剤、バイオホスホン酸塩による弁処理、ポリマーの放出制御による薬物送達システムの共移植、および反石灰化剤の共有結合が挙げられる。好ましい実施形態では、弁組織は、緩衝グルタルアルデヒド溶液中で固定される前に、40%〜80%エタノールで20〜200時間処理される。エタノール前処理は、移植後の弁の石灰化を防ぐことができ、固定前に組織からコレステロールおよびリン脂質を除去する役割を果たす(Vyavahareらの、Prevention of Bioprosthetic Heart Valve Calcification by Ethanol Preincubationを参照のこと)。
【0126】
膨張媒体
膨張可能な構造107は、所望の性能によって、様々な膨張媒体122のいずれかを使用して膨張させることができる。一般に、膨張媒体は、水または水性ベース溶液などの液体、CO2などの気体、または、第1の比較的低粘性状態でカフ102に導入され、第2の比較的高粘性状態に変換させることができる、硬化可能な媒体を含むことができる。粘性の増大は、様々な既知のUV誘導または触媒誘導重合反応、あるいは当技術分野で既知の他の化学系のいずれかによって行われてもよい。粘性増大プロセスの終点は、所望の性能および耐久性によって、ゲルから剛性構造までの間のいずれかの硬度をもたらすことができる。
【0127】
有用な膨張媒体は、概ね、複数の成分を混合することによって形成され、数分から数十分、好ましくは約3分から約20分の硬化時間を有するものを含む。そのような材料は、生体適合性であって、長期間安定性(好ましくは、生体内で少なくとも数十年単位)であり、塞栓のリスクができるだけ少なく、かつ硬化前および硬化後の機械的特性が適切であり、生体内で本発明のカフ内での使用に適したものであるべきである。例えば、そのような材料は、カフおよびチャネルの充填プロセスを容易にするため、凝固または硬化前には、比較的低い粘性を有するべきである。そのような膨張媒体の望ましい硬化後弾性率は、約50から約400psiであり、生体内で適切な封止を形成するための、充填された本体に対する必要と、同時に臨床的に適切なカフのねじれ抵抗を維持することとの均衡をとる。必須ではないが、膨張媒体は、理想的には急性および慢性の両方で放射不透過性であるべきである。
【0128】
本発明の膨張媒体として使用するのに適した組成物の詳細は、2000年2月1日出願のHubbellらの米国特許出願09/496231号、名称「Biomaterials Formed by Nucleophilic Addition Reaction to Conjugated Unsaturated Groups」、および2000年6月2日出願のHubbellらの米国特許出願09/586937号、名称「Conjugate Addition Reactions for the Controlled Delivery of Pharmaceutically Active Compounds」に、より詳細に記載されている。これらの特許出願それぞれの全体を参考により本明細書に組み込む。
【0130】
この媒体は次のものを含む:
(1)約50から約55重量%の比率、特に約52重量%の比率で存在する、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)、
(2)約22から約27重量%の比率、特に約24重量%の比率で存在する、ペンタエリトリトールテトラ3(メルカプトプロピオネート)(QT)、および
(3)約22から約27重量%の比率、特に約24重量%の比率で存在する、グリシルグリシンバッファ。
【0131】
同時係属中のHubbellらの米国出願09/496231号および09/586937号に記載されているような、これらの成分および他の配合物の変形例が、必要に応じて使用されてもよい。さらに、約350から約850の範囲の分子量を有するPEGDAが有用であることを見出した。約440から約560の範囲の分子量を有するPEGDAが特に有用である。
【0132】
上述したような放射線不透過性材料が、この3成分システムに添加されてもよい。硫酸バリウム、タンタル粉末、および可溶性材料(ヨウ素化合物など)などの放射線不透過剤を、グリシルグリシンバッファに添加することが有用であることを見出した。
【0133】
出願人らは、リン酸緩衝生理食塩水に溶解させたトリエタノールアミンを、グリシルグリシンバッファの代わりに上述の第3の成分として使用して、本発明の実施形態で使用するのに適切な代替の硬化可能なゲルを形成してもよいことを見出した。
【0134】
これらの3成分システムの代替例は、ポリマー沈殿によって生体適合性溶媒から作製されたゲルである。そのような適切なポリマーの例として、エチレンビニルアルコールおよび酢酸セルロースが挙げられる。そのような適切な生体適合性溶媒の例として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、n−メチルピロリドン(NMP)などが挙げられる。そのようなポリマーおよび溶媒は、様々な組合せで必要に応じて使用されてもよい。
【0135】
あるいは、様々なシロキサンが膨張ゲルとして使用されてもよい。例としては、親水性シロキサンおよびポリビニルシロキサン(カリフォルニア州サンラーモンのDanville MaterialsからのSTAR−VPS、およびカリフォルニア州サンタバーバラのNuSil社製のものなどの、様々なシリコーン製品など)が挙げられる。
【0136】
本発明の膨張媒体または材料として有用な他のゲル系としては、加熱または冷却によって最初の液体状態またはチキソトロピー状態からゲル化する相変化系が挙げられる。例えば、n−イソプロピル−ポリアクリルイミド(NIPAM)、BASF F−127プルロニックポリオキサマー、および約500から約1200の範囲の分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)化学物質などの材料が適切である。
【0137】
有効なゲルは、さらに、十分なせん断減粘を受けて、送り出しカテーテルなどの導管を通って容易に注入されるが、本発明の様々なチャネルおよびカフの中にある場合には、ゼロまたは低いせん断速度で依然として実質的にゲル状になることができる、チキソトロピー材料を有してもよい。
【0138】
上述した3成分PEDGA−QT−グリシルグリシン配合物の場合、慎重な調製および供給プロトコルにしたがって、適切な混合、供給、および最終的に臨床的有効性を確保しなければならない。3つの成分はそれぞれ、通常、装置を展開する適切時間まで、注射器などの滅菌容器に別個に包装されている。QTおよびバッファ(通常、グリシルグリシン)は、通常それぞれの注射器間で約2分間、最初に連続的かつ十分に混合される。次に、PEGDAが、結果として得られた2成分混合物と、約3分間十分に混合される。その後、この結果として得られる3成分混合物は、次の数分間で硬化して所望の特性を有するゲルになるので、カフに導入するように準備される。硬化時間は、臨床設定の要件に応じて、配合、混合プロトコル、および他の変数を調節することによって調整されてもよい。これらの材料に適した供給プロトコルの詳細は、Chobotovらの米国特許出願09/917371号に記載されている。
【0139】
これらのゲルの硬化後の機械的特性は、配合を大きく変えることなく高度に調整することができる。例えば、これらのゲルは、数十psiから数百psiの範囲の弾性率を示してもよく、上述した配合物は、約175から約250psiの弾性率と、約30から約50%の破断伸びを示す。
【0140】
膨張材料に不活性な生体適合性材料を添加することが有用な場合がある。特に、食塩水などの流体を、PEGDA−QT−グリシルグリシン配合物(通常、混合後であるが、大幅な硬化が生じる前)に添加することにより、配合物の粘性が低下し、その結果、配合物の所望の物理的、化学的、および機械的特性、ならびにその臨床的有効性を犠牲にすることなく、配合物をカフおよびチャネルに注入することが非常に容易になる。適切な体積百分率では、食塩水などの材料を添加することによって、さらに、PEGDA−QT−グリシルグリシンなどの膨張材料が流出または漏出した場合に、塞栓症のリスクをもたらす可能性も低減することができる。最終的な食塩水/3成分配合物の体積百分率としての食塩水の濃度は、ゼロから最大60%以上の範囲であってもよく、特に適した食塩水濃度は、約20から約40%の範囲である。約30%の食塩水の体積百分率が、最も適切である。食塩水の代替物としては、グリシルグリシンなどのバッファを含む生体適合性の液体が挙げられる。
【0141】
より一般的な条件では、その成分がそれぞれ生体適合性であり、かつ血液に対して可溶性である膨張媒体を使用することが望ましい。生体適合性膨張媒体は、膨張媒体が偶発的に患者の血管内に放出された場合に、あらゆる毒性リスクを処理するので望ましい。可溶性膨張媒体は、血管内に放出された場合にあらゆる塞栓症のリスクを処理するので望ましい。そのような膨張媒体は、硬化前に血流中に流出した場合に、分散、ゲル化、または凝固するべきではない。流出した場合、正常な血流が急速に成分を分散させ、またそれらの濃度は、架橋および固体の形成に必要なレベル以下に下がる。その後、これらの成分は、患者に対して塞栓症のリスクをもたらすことなく、通常の経路を通って身体から排出される。膨張媒体例の多くの候補の中ですべての成分が血液に可溶性であるのは、ポリエチレングリコールジアクリレート、チオール化ポリエチレンアミン、およびバッファの組合せである。
【0142】
上述したように、移植片の配置領域での特性を最適化するため、複数種類の膨張媒体、または一種類の膨張媒体の複数の変形例が、単一の移植片に使用されてもよい。
【0143】
例えば、本発明の様々な実施形態のカフ102では、膨張材料は、適合可能な封止媒体として作用して、管腔壁に対する封止を提供する。したがって、近位側カフおよび遠位側カフの膨張媒体の望ましい機械的特性としては、カフが何らかの管腔の凹凸(石灰化したプラークの隆起など)の周りで変形できるようにする、また、管腔の輪郭に適合するための低いせん断強度が、後で管腔の膨張があった場合に必要に応じてそれに適合し封止を維持するように、充填材料がカフを拡張できるようにする高い体積圧縮性とともに挙げられる。
【0144】
特に有用であることが確認された他の膨張媒体は、一部分がエピクロロヒドリンおよびビスフェノールAの反応生成物、ならびにブタンジオールジグリセリジルエーテルを含む、エポキシベースの2部分膨張媒体である。また、一部分は2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミンを含む。材料は、約100〜200cPs(100rpm/23℃で)の粘性を有してもよいが、最も好ましくは、小さな管腔を介して体外から移植片に容易に導入することができる。動作温度範囲は、約−55から約+125℃であってもよいが、体温である+37℃が最も有利である。他の特性は、ショアーDスケールで約81の硬さ、および1,700PSIの重ねせん断強さを含んでもよい。この一例は、マサチューセッツ州ビルリカ、フォーチュンドライブ14から供給されるEPO−TEK301である。
【0145】
混合された未硬化膨張媒体は、好ましくは、2000cps未満の粘性を有する。一実施形態では、エポキシベースの膨張媒体は100〜200cpsの粘性を有する。他の実施形態では、膨張媒体は1000cps未満の粘性を有する。
【0146】
一実施形態では、膨張媒体は起泡剤を含む。発泡作用は装置の膨張可能な部分内に圧力を生成することができるので、発泡性膨張媒体は有益である。したがって、注入しなければならない膨張媒体は少なくて済む。さらに、分断プロセスによるいかなる圧力損失も、膨張媒体の発泡作用によって補填される。多くの適切な発泡性媒体が可能であり、一例はウレタンフォームである。
【0147】
他の実施形態では、バルーンまたは膨張チャネルは両端でカテーテルに接続されてもよい。これにより、バルーンを、気体または液体などの非凝固材料で予め膨張させることが可能である。気体を選択する場合、CO
2またはヘリウムが有望な選択であり、これらの気体は大動脈内バルーンポンプを膨張させるのに使用される。好ましくは、血管造影法によってバルーン位置を決定することができるように、予備膨張媒体は放射線不透過性である。治療的心臓学で通常使用される造影剤を用いて、液体の予備膨張媒体のほとんどに十分な放射線不透過性を付与することができる。移植片を恒久的なものとし、かつ予備膨張媒体を恒久的な膨張媒体と交換することが望ましい場合、恒久的な膨張媒体は第1のカテーテル接続部を通して膨張チャネルに注入される。恒久的な膨張媒体が注入されると、予備膨張媒体は第2のカテーテル接続部から排出される。恒久的な膨張媒体が注入されると予備膨張媒体が実質的にすべて排出されるように、カテーテル接続部が配置される。一実施形態では、予備膨張媒体が恒久的な膨張媒体中に混入するのを防ぐため、中間膨張媒体が使用される。一実施形態では、中間膨張媒体は気体であり、予備膨張媒体は液体である。他の実施形態では、中間膨張媒体または予備膨張媒体は、恒久的な膨張媒体が膨張チャネルの内側表面に接合するのを助けるプライマーとして機能する。他の実施形態では、予備膨張媒体または中間膨張媒体は、恒久的な膨張媒体が膨張チャネルの内側表面に接合するのを防ぐ離型剤の役割をする。
【0148】
恒久的な膨張媒体は、予備膨張媒体とは異なる放射線不透過性を有してもよい。過度に放射線不透過性の装置は、血管造影法において他の近傍の特性を不明瞭にする傾向がある。予備膨張ステップの間、膨張チャネルを明瞭に可視化することが望ましい場合があるので、放射線不透過性の高い膨張媒体が選択されてもよい。装置が恒久的な膨張媒体で膨張された後では、放射線不透過性の低い膨張媒体が好ましいことがある。造影剤が心室または大動脈に注入されたときに適切な弁機能を可視化するために、より放射線不透過性の低い特性が有益である。
【0149】
アンカー機構
上述した実施形態では、カフ102にアンカー機構220を組み込むことが必要または望ましい場合がある。アンカー機構220は、腹部大動脈瘤治療用の移植片、心耳閉鎖装置およびフィルタなどの介入的装置で広範囲に使用されてきたものなど、様々なアンカーまたはかえしのいずれかを有することができる。経皮的に移植可能な弁に使用される従来の保持機構のほとんどは、移植片と血管との間の締まりばめによって、保持力の大部分を提供する、または保持手段を作動させるものである。しかし、僧帽弁または大動脈弁の置換の場合、一方の弁輪の過度の膨張が他方の弁の機能に不利益な作用を有するので、弁輪での半径方向の力を最小限に抑えるのが望ましいことがある。
【0150】
図26を参照すると、アンカー機構220は、概ね、移植片100から半径方向外向きに突出して組織を拘束し、それによって移植片100が移動しないように固定する、半径方向に延びるフランジ222を有する。半径方向に延びるフランジ222は、
図26に示すような鋭い先端224を含むことができる。
図26に示す特定の実施形態を参照すると、アンカー220は、縫合228によってカフ102に連結された、ループ状のベース226を有することができる。ベース226は、カフ102の補強された範囲230に縫合されることができる。もちろん、当業者であれば、本明細書の開示に照らして、アンカー220およびアンカー220を移植片100に固定する方式の他の様々な構造を理解するであろう。
【0151】
他の実施形態では、弁100は天然の解剖学的構造に縫合される。例えば、弁100は、縫合を容易に移植片100に取り付けることができるように構成された、縫い合わせリングを含むことができる。経皮的または低侵襲的な縫製装置も組み込むことができ、またはそれを二次処置として使用することができる。この装置は、遠隔で操作されて、弁100を組織、または所望のバルブ位置に予め移植された第2の装置に取り付ける少なくとも1つの針を含む。他の方法は、縫合を押し込むまたは引き戻して適所に配置するためのバルーンあるいは他の力機構を利用してもよい。これらの針は、金属またはポリマー要素から作製されるか、あるいは解剖学的構造を通して挿入されてもよい縫合を利用することができる。それらは、直径が0.002インチから約0.040インチの範囲であり、解剖学的構造によって、0.005インチから約0.090インチまで解剖学的構造内に突出してもよい。
【0152】
図27A〜Cを参照すると、さらに他の実施形態では、弁100は、単一または複数の取外し可能なステープル、クリップ、かえし、またはフックで適所にステープルで留められるか、またはクリップ止めされる。
図27Aに示すように、弁100は、天然の大動脈弁24の上に配置することができる。この実施形態では、弁100は、より詳細に後述するように、制御ワイヤ230で一時的に固定される。外科的に挿入されたまたは経皮的な差込器具232は、弁100の近傍に配置され、それを使用して弁輪の周りにクリップ234または他のタイプのアンカーを挿入し、それによって組織および/または弁100の一部を拘束できるようにする。ステープル、クリップ、フック、またはかえしはまた、ステープル、クリップ、フック、またはかえしを天然弁の近傍もしくはその下に配置する装置により、経皮的に送り出すことができる。それらは、バルーン、引張りワイヤ、または他の力機構によって押し込み、または引き戻して、適所に取り付けることができる。弁100を適所にステープルで留めるのに使用される器具232は、僧帽弁リーフレットを互いに接続するのに使用される、E−Valve社製の、また、LucateroおよびSylvesterらの米国特許公開公報2004/0087975号に記載されているものと類似していることができ、これを本明細書に参考により組み込む。
図27Dおよび27Eは、器具232が、好ましくは装置232の遠位端に連結された遠位端と装置232を通って延びる近位端とを有する引っ張りワイヤ233を含む、一実施形態を示す。ワイヤ233に張力を加えることによって、器具232の頂部は、
図27Dおよび27Eに示すように大動脈壁の方へ曲げられることができる。
【0153】
一実施形態では、本願に記載した制御ワイヤ230に類似したワイヤは、そこを越えて第2の固定カテーテルが送り出されるガイドワイヤとして役立つ。固定カテーテルは所望の固定位置まで正確にワイヤに追随するので、それにより、人工器具に対するアンカー、ステープル、縫合などの正確な配置が可能になる。一実施形態では、アンカーは弁交連に位置する。他の実施形態では、アンカーは装置の近位端に位置する。アンカー送り出しカテーテルは、1つの管腔がワイヤを越えて進み、第2の管腔または追加の管腔がアンカーを送り出す、多管腔チューブからなってもよい。一実施形態では、アンカーは、回転運動によって作動し、人工器官を通って大動脈壁にねじ込まれるねじである。本願に記載される他のアンカー構造もまた、アンカー送り出しカテーテルに適合されてもよい。
【0154】
他の実施形態では、接着剤を使用して弁100が組織に固定される。例えば、フィブリン接着剤またはシアノアクリレートなどの接着剤を、経皮的または外科的に送り出して弁100を組織に取り付けることができる。経皮的に接着剤を送り出す方法としては、外表面の周りに接着剤を放出できるようにする開口部を有する管状支持部材を介して、それを運ぶ方法が挙げられる。接着剤は、確実に血液が弁100の周りで漏れないようにする他の固定方法とともに使用することができる。ePTFEパッチまたはジャケットなどの接着強化表面を設けて、長期固定のために細胞内成長を促進することができる。
【0155】
図28を参照すると、他の実施形態では、かえし、アンカー、フック、またはピン220が、カフ102の折り畳み部110内に位置する。膨張チャネル120が膨張していないとき、アンカー220のフランジ222は半径方向に延びない。カフ102内の膨張チャネル120が膨張され展開されると、アンカー220は、アンカー機構220のフランジ222を広げて半径方向に突出する位置に移動させるように構成される。そのような実施形態では、カフ102の一部を強化して、アンカー機構がカフ102の布または膨張通路120を穿刺しないようにすることができる。好ましくは、アンカー機構220は、組織を拘束するように設計されたアンカー機構の鋭い端部224が、膨張通路120の近傍に位置しないように、かつアンカー機構220が装置の通常の使用中に膨張通路を損傷し難くなるように方向付けられて配置される。アンカー機構220は、多くの方法でカフ102に取り付けることができ、例えば、組織を拘束することを意図しないアンカー機構220の端部が、カフに縫合、接着、または圧着される。この場合、アンカー機構220の縫合された端部は、縫合から外れるのを防ぐ形状を有することができる。アンカー機構220は縫合が貫通する穴を有してもよく、または、アンカー機構はワイヤで作製され、縫合が外れないようにする構造に形成されてもよい。1つの適切なパターンは、ほぼ円形または楕円形状である。他のものが当業者には明白であろう。
図29は、アンカー機構が膨張可能なストラットに配置される変形実施形態を示した。さらに他の実施形態では、各アンカーに対するしっかりした係合を提供し、またアンカーごとの係合を試験するため、アンカー220は、展開制御ワイヤ230の取り付け点で、またはその近傍で装置に固定することができる。
【0156】
図28および29の実施形態では、アンカー220は、膨張したときに展開され半径方向に拡張し、先端またはフック224に対して露出するようにして膨張管腔に付けられた、レーザーカットされた管状部材を有することができる。これらの拡張部材は、ステンレス鋼から切り出すことができ、また、ニチノールなどの可塑的に変形可能なもしくは超弾性材料であって、膨張管腔が膨張すると元に戻って先端またはフックが組織に露出しないようにすることができる。これらの装置で膨張管腔を包み、カフに取り付けて安定させることが望ましいことがある。より長い装置は、その力がより長い距離にわたって拡散されるので、より良好な安定性を提供する場合がある。カフを適切に固定するため、単一の装置または複数のフックが必要となる場合がある。フック224は、近位側または遠位側のどちらか、または所望であれば両方の方向を向いていてもよい。これらの実施形態におけるフック224は、好ましくは、軸方向から40〜95°曲げられる。
【0157】
図28Aは、アンカー224の他の実施形態を示す。この実施形態では、アンカーは、近位側および遠位側の屈曲部がほぼ正弦曲線パターンに曲げられて形成された、一対の環状ステント221の間で支持される。ステント221は、図に示すような膨張管腔を包むことができる。一実施形態では、ステント221が膨張管腔によって拡張すると、フック224は半径方向に延びる位置に移動される。
【0158】
他の実施形態では、移植片100の遠位端128および近位端126は、固定機能を提供するサイズとすることができる。例えば、
図3Aを参照して上述したように、弁100は、弁100の中央部分124よりも直径が大きな遠位端128または近位端126を利用することができる。好ましい実施形態では、移植片100は、拡大した遠位端128および拡大した近位端126の両方を含む。これにより、
図2Aに示すような砂時計形状の装置が製造される。弁100の拡大部分128および126は、装置が近位側または遠位側へ移動するのを阻害する。さらに、円錐形状が所望の位置におけるくさび効果を生み出し、それによって半径方向力を増加させるように、移植片100の遷移部を形成することもできる。あるいは、移植片がリベットのような形状にされ、軸方向力を加えることによって生じる半径方向力が最小限にされるように、浅い角度を有する遷移部を形成することができる。軸方向力は、移植片の範囲に作用する血液の圧力によって移植片に加えられる。この軸方向力には、移植片の表面上における法線力が反作用されなければならない。移植片100は、任意の所望の位置における法線力の半径方向成分が軸方向力の任意の所望の比であるように設計することができる。
【0159】
上述したような砂時計形状を利用する移植片100については、半径方向に拡張可能な応用例をあてはめることができる上述したアンカー機構220の方向付けを、再評価し再適用することができる。例えば、砂時計形状の構造の最遠位部分128にかえしを配置することができ、かえしは、軸方向にほぼ平行に方向付けられることが好ましい。
図28を参照。展開手順の間、遠位部分128を膨張させた後、移植片を弁輪の中に引き戻すことができる。その後、軸方向力が膨張管腔120によってアンカー機構220に加えられる。
【0160】
図30は、作動されたアンカー機構240の実施形態を示す。この実施形態では、ロッド部材242が、弁100の外表面に概ね配置されたチューブ244内に同軸上に配置される。半径方向に延びるフックまたはかえし246は、ロッド部材242に取り付けられ、チューブ244内に形成されたスロット248を通って延びる。第1の位置では、かえし246は、弁100の外表面に概ね接触して延びる。ロッド242が回転されると、かえし246は弁100から離れるように回転して、かえし246が露出してアンカーを形成する。逆に回転されると、かえし246は露出しなくなるので、弁100を送り出すまたは再配置することができる。図示される実施形態では、ロッド部材242は制御ワイヤ230に連結される。スロット248は、ロッド部材242がタブ246内で軸方向に移動されるときに、回転移動およびかえし246の露出を促進するランプまたはガイドを形成する。機構は、装置の膨張によって油圧で駆動することもできる。
【0161】
図30Aは、作動されたアンカー機構240の他の実施形態を示す。この実施形態では、機構240は、対応するテーパー面254aおよび254bで相互作用する近位側チューブ部分250および遠位側チューブ部分252を有する。チューブの2つの部分に力を加えることによって、遠位部分252は、長手方向および水平方向の両方に移動して、下側部分252の鋭い部分256を組織壁に対して露出させる。組織壁に対して露出されそれに係合されると、制御ワイヤ230に対する力を維持することにより、または、装置を適所で保持するねじおよびナットなどの締まりばめを用いることにより、装置を固定することができる。
【0162】
図31は、作動されたアンカー機構240の他の実施形態を示す。この実施形態では、アンカー240は、パターン262が切り込まれた管状部材260を有する。制御ワイヤ230は管状部材260を通って延び、遠位側止め具264に取り付けられる。管状部材260は、縫合、接着剤などによってカフ102に取り付けられる。制御ワイヤ230を引っ張ることにより、長手方向の圧縮力が作用してチューブが曲がり、フックまたはかえし266を組織壁に露出させる。チューブ260は、ステンレス鋼またはニチノールなどの金属材料で作製されてもよい。チューブ260が超弾性の場合、力が解放されるとフック266が元に戻ることができる。ステンレス鋼などで作製された場合、アンカー240は可塑的に変形することができ、フック266の露出が設定される。このアンカー240の作動には、チューブ260を曲げる長手方向の力が概ね必要であり、また、引っ張りワイヤ230の張力を保持するロックが必要な場合がある。このロックは、ねじおよびナットなどの締まりばめによって維持することができる。
【0163】
この実施形態では、フック266は、配備制御ワイヤ230の外径よりわずかに大きな内径のハイポチューブ260から切り出すことができる。好ましくは、これらの直径は、0.01から0.03インチの範囲である。フック266は、好ましくは、10から80°の角度で、より好ましくは20から45°の角度で装置から延びる。
【0164】
図32は、作動アンカー機構240の他の実施形態を示す。この実施形態では、アンカー240は、チューブ272に切り込まれ、チューブ内径274を通って曲がり、チューブの対向面で先端を露出するように形成された、予備形成されたフィンガ270を有する。チューブ272の両方の壁に切り開かれた窓276により、このフック270の露出が可能になる。ワイヤ230は、フックと干渉して、送り出しおよび復帰のためにそれを覆うように、チューブ272を通って配置することができる。この旋回するフック272はまた、チューブへの取り付けがフック272の中央部にある場合には、同じ側壁面上に使用することもできる。必要であれば、上述したのと同様のロック装置をワイヤに使用することができる。図示される実施形態では、チューブ272の可撓性を向上させるため、チューブ272は、チューブ272の壁に切り込まれたスロット278を含む。
【0165】
図32Aは、作動アンカー機構240aの他の実施形態をさらに示す。この実施形態では、アンカー240aは、チューブ272aに切り込まれ、第1の端部273aがチューブの内径274aを通って曲がり、チューブ272aの反対側で先端273bを露出するように形成された、予備形成されたフィンガ270aをさらに有する。チューブ272aの両方の壁に切り開かれた窓276aにより、このフック270aの露出が可能になる。ワイヤ230は、フック270の側部272aと干渉して、送り出しおよび復帰のために先端273bを偏向するように、チューブ272を通って配置することができる。
【0166】
図33は、作動アンカー240の他の実施形態を示す。この実施形態では、管状部材280はカフ102に取り付けられる。同軸部材282(例えば、制御ワイヤ230の遠位端)は、管状部材280内に配置され、同軸部材282に取り付けられるか、またはそれと一体であるフック284が設けられている。同軸部材282が管状部材280内で長手方向に移動されると、フック284は、チューブ280内の窓または開口部286を通して露出される。予備形成されたニチノールが使用された場合、フック284は、復帰可能であり、除去のためにチューブ280内に戻って復帰可能である。フック284は、装置の安定性のため、近位方向または遠位方向のどちらか、あるいは両方の方向に向くことができる。
【0167】
送り出しカテーテル
図34〜37は、上述した弁100を送り出すのに使用することができる、送り出しカテーテル300の例示的な実施形態を示す。一般に、送り出しカテーテル300は、当該分野で周知の技術を用いて、押出し成形された管材料で構成することができる。いくつかの実施形態では、カテーテル300は、編まれたまたはコイルに巻かれたワイヤおよび/またはリボンを管材料に組み込んで、剛性および回転トルク能力を与えることができる。補強用のワイヤの数は1から64であってもよい。より好ましくは、8から32のワイヤまたはリボンを有する、編まれた構造が用いられる。ワイヤが使用された場合、直径は、約0.0005インチから約0.0070インチの範囲であることができる。リボンが使用された場合、厚さは好ましくは幅よりも小さく、また、リボンの厚さは約0.0005インチから約0.0070インチの範囲であると同時に、幅は約0.0010インチから約0.0100インチの範囲であってもよい。他の実施形態では、コイルは補強部材として使用される。コイルは、チューブの周面を包み、チューブ内に組み込まれた1〜8つのワイヤまたはリボンを有することができる。ワイヤは、チューブ表面の湾曲面において互いに平行であるように巻かれてもよく、または、複数のワイヤが、別個の層において反対方向に巻きつけられてもよい。コイルに使用されるワイヤまたはリボンの寸法は、編組に使用される寸法と同様とすることができる。
【0168】
図34を最初に参照すると、カテーテル300は、概ね、近位端302および遠位端304を有する外側管状部材301、および近位端303および遠位端307をやはり有する内側管状部材305を有する。内側管状部材305は、内側環状部材305の近位端303および遠位端307が、外側管状部材301の近位端302および遠位端304を概ね越えて延びるように、外側管状部材301を概ね通って延びる。内側管状部材305の近位端303は、他の実験器具と噛み合い、内側部材305を把持してそれを外側部材に対して移動させる、接続ハブまたはハンドル306を含む。止血弁308が、好ましくは、外側管状部材301の近位端302で、内側部材305と外側部材301の間に設けられる。歪みリリーフ313が、好ましくは、内側管状部材305とハンドル306の間に設けられて、内側部材305に対する歪みを制限する。外側管状部材301の近位端302は、外側管状部材301を内側管状部材305に対して固定して保持する把持部材またはハンドル(不図示)を含むことができる。
【0169】
一実施形態では、カテーテル300の外径は、概ね約0.030インチから0.200インチあり、外側管状部材301の壁厚は約0.005インチから約0.060インチである。他の実施形態では、外径は、約0.15インチから約0.35インチ、または約12フレンチから約27フレンチの範囲である。この実施形態では、外側チューブ301の壁厚は、約0.005インチから約0.030インチである。カテーテル300の全長は、約80cmから約320cmである。
【0170】
上述したように、カテーテル300は、ワイヤ、装置、および流体がより詳細に後述するように通過できるように構成された、接続ハブまたはハンドル306を含む。接続ハブ306は、好ましくは、通常の臨床カテーテル要素と互換性があり、封止の完全性を維持するためのねじ付端部およびテーパー嵌合具を利用することができる。カテーテル300の内側部材305の内径は、ガイドワイヤ、装置、造影カテーテルおよび他のカテーテルなどの器具を通過させるため、同軸で使用できるように構成される。摩擦を低減し、かつ蛇行した湾曲部における性能を改善するために、テフロン(登録商標)などの内張り材料が使用されてもよい。さらに、BSI社製のDOW360、MDXシリコーン、または親水性コーティングなどの、滑りやすいコーティングが付加されて、他の形態の摩擦低減要素を提供してもよい。
【0171】
カテーテル300内のマルチデュロメータ材料は、移行区域を軟化させ、かつ押し込み性に対する適切な剛性を提供するのを補助する。移行区域はまた、材料の内径および外径が押出しプロセス中に変化する、バンプチュービングとして知られる押出しプロセスによって達成されてもよい。カテーテルシャフト301および305の全体は、1部品として製造することができる。そのようなカテーテルシャフトを製造する他の方法は、2つの要素をともに溶融または接着し、複数の直径および/または剛性を備えた単一のチューブを形成することにより、管材料の別個の部分品を接合することである。熱の適用は、シャフト材料上を流れるレーザーまたは加熱エアによって、または材料をともに流すのに十分な他の熱適用方法によって適用することができる。
【0172】
図34を引き続き参照すると、外側シース301の遠位端304は、移植片100を覆うように構成された拡大直径部分309を有する。一実施形態では、移植片100が収容される拡大直径部分309の直径は、約0.20インチから約0.32インチであり、長さは約0.5インチから約5.0インチである。直径が低減され可撓性が増加した第2の部分310が、移植片100を覆う部分309の近傍に位置する。この部分の直径は、約0.10インチから約0.25インチの範囲である。好ましい実施形態では、遠位部分309は、直径が約0.29インチ、長さが約0.08インチであり、近位部分310は外径が約0.19インチである。拡大遠位部分309は、カテーテル300の近位部分310よりも硬い材料で作ることができる。一実施形態では、拡大遠位部分309の材料は生体適合性材料である。他の実施形態では、材料はステンレス鋼などの金属材料である。他の実施形態では、材料は、FEP、PEEK、またはポリイミドなどのポリマーである。他の実施形態では、移植片100を覆う装置の拡大遠位部分309は、可視スペクトル内の光を伝達することができる。これにより、移植片100の方向付けをカテーテル300内で可視化することができる。遠位端304は、放射線透視下でカテーテル300を配置するため、放射線不透過性のマーカー(不図示)を有していてもよい。
【0173】
図34〜37、特に
図36Aおよび36Bを引き続き参照すると、複数のチューブが内側部材305を通って延びる。具体的には、図示される実施形態では、ガイドワイヤチューブ318、2つの膨張チューブ320、および3つの制御ワイヤチューブ316が、内側部材307の近位端303から遠位端307まで延びる。もちろん、変形実施形態では、移植片100の構成および展開手順によって、チューブ316、318、320を他の様々な数および組合せで使用することができる。これらのチューブは、ポリエテン、ポリプロピレン、ナイロン、PEEK、ポリイミド、または他の容認されたポリマー材料などの材料から押出し成形されてもよい。さらに、それらは、追加の支持のためのコイルまたは編組などの金属要素を組み合わせるか、あるいはニチノールまたはステンレス鋼などの金属の管材料から作られてもよい。後述するように、ガイドワイヤチューブ318はガイドワイヤを受け入れるように構成される。膨張チューブ320は、膨張媒体を移植片100に送り出すように構成され、制御ワイヤチューブ316は、移植片100に連結される制御ワイヤ230を受け入れる。より詳細に後述するように、膨張チューブ320は、
図40Aおよび40Bを参照して後述するように膨張分断機構を提供するため、内側部材および外側部材320a、320b(
図36B参照)を含むことができる。
【0174】
内側部材305の材料は、さらに、移行区域に対する補強部材、または直径を低減し適切な押込み性を維持するためバンプ押出し成形物からなってもよい。「ワイヤを越える」ものなどカテーテルを通る従来のガイドワイヤ通路を使用してもよく、または「迅速交換」などの技術を手順の容易性およびカテーテル交換の助けとしてもよい。1回のカテーテル法において複数の装置が配置されてもよいので、迅速交換が好ましいことがあるが、必須ではない。使い易さの助けとなり得る他の特徴としては、蛇行する解剖学的構造に容易にアクセスできるように、またはカテーテルの別の部分に対してカテーテルの一部分のより制御された動きを容易にできるようにするための、鉱物油、MDX(シリコーン)、または親水性層などの、外径および/または内径上の滑りやすいコーティングが挙げられる。装置が最終配置および位置に対して半径方向に接触を開始するため、バルーンを利用することが必要であるか、または望ましい場合がある。一実施形態では、ハブの遠位側に位置する膨張管腔およびバルーンが使用される。このバルーンは、弁が移植されてもよい、天然弁輪形、血管、または心門を予め拡張させるために使用される。圧力および流れの読み取りまたはドップラー情報のため、外部に信号を送信するための要素をカテーテル300に埋め込むことができる。これらは、圧電素子、電気的センサ、ワイヤ、圧力入口もしくは管腔、または光ファイバーなどの、電気機械的センサを含んでもよい。
【0175】
上述したように、移植部位のカテーテル法による移植片100の送り出しは、移植片100を血管内に展開または排出する機構を含むことができる。この機構は、力をカテーテル300の遠位部分に伝達する押込みまたは引張り部材を含んでもよい。これらの力は、外部から身体に適用され、カテーテルの近位端でハンドルを利用してもよい。遠位端へ力を伝達する装置はまた、緩めるまたは締める、また回転力を並進力に変換するねじおよびナットなど、またはカテーテルもしくは装置に剛性を付加するもしくはそれを減少させる、または装置が特定の形状をとるようにさせる回転部材を含んでもよい。ハンドル機構はまた、油圧をカテーテルの遠位部分に伝達するためのポートを含むか、または油圧力をハンドルで直接生成できる能力を有してもよい。これらの力は、装置またはカテーテルに伝達される押込みまたは引張り、装置の移植もしくは装置のカテーテルからの排出を可能にする装置の露出を含んでもよい。さらなる力は、移植するまたは移植位置をサイズ決めするため、装置またはカテーテルの半径方向または長手方向の拡張を含んでもよい。ハンドルは、さらに、圧力、流量、温度、およびドップラー情報などの情報を監視するため、電気信号に対する接続を含んでもよい。
【0176】
図34および36を参照すると、図示される実施形態では、移植片100は、外側シース301の遠位部分309と内側シース305の間に装填される。したがって、遠位部分309は、移植片100のレセプタクルを形成する。遠位側先端312は、ガイドワイヤチューブ318に連結することができる。先端312は、カテーテル300が前進されているとき、レセプタクルを閉じるのに使用することができる。ガイドワイヤチューブ318を動かさずに保持しながら、外側シース301を近位側に引き込ませることによって、先端312を外側シース301から離すことができる。あるいは、外側シース301を動かさずに保持しながら、ガイドワイヤチューブ318を前進させることができる。制御ワイヤチューブ316を通って延びる制御ワイヤ230は、後述するように移植片100に連結することができ、また、移植外側シース301が引き込まれるとき、移植片100を動かさずに保持するのに使用することができる。あるいは、外側シース301は、内側シース305に対して引き込ませることができ、内側シース305は、移植片110を外側シースの遠位部分309の外側に押すプッシャーとして作用する。移植片100の膨張チャネル120は、好ましくは、より詳細に後述するような膨張接続部材321によって、カテーテルの膨張チューブ318に接続される。
【0177】
図36を引き続き参照すると、膨張チューブ318、ガイドワイヤチューブ320、および制御ワイヤチューブ316は、好ましくは内側部材305の近位端303まで延びる。膨張流体源を膨張チューブ318に接続するため、接続ハブ323を設けることができる。様々な制御機構(不図示)および封止装置も、制御ワイヤ230および制御ワイヤチューブ316に接続するために設けることができる。
【0178】
より詳細に後述するように、制御ワイヤ230および/または膨張管腔318は、移植片100の展開機構の一部を形成することができる。移植片が部位に案内されるとき、移植片100とカテーテル300との取り付けは重要である。ステントおよび塞栓コイルなどの装置を、バルーン拡張およびカテーテルの遠位端から排出される単純なプッシャブルコイルを介して展開するため、多くの分離機構が使用されてきた。移植片100は、選択された部位において移植片100に対して、カテーテルの端部からの排出、ピン継手などの機械的解放機構、カテーテル送り出しシステムからの装置のねじ戻し、ねじまたはワイヤなどの係留リンク、GDCコイル展開で使用されるような可融性リンク、装置の取付部をカテーテルから切断する切断工具、節が解放されるまたは切断され得る場所でカテーテルを装置に係留するねじ付の節、カテーテルと装置との間のリンクを展開、拡張、または壊す油圧機構などの、多くの様々な方法を利用することができる。上述した概念はすべて、可撓性の先端312を用いて向上させることができ、それによって装置および送り出しカテーテル300の鋭い接合が可能になり、移植部位へのアクセスが得られる。
【0179】
より詳細に後述するように、移植片100が一時的に展開または配置された後、最適な結果を得るために移植片を再捕捉または再配置することが有利な場合がある。これは、移植片100の回転または平行移動、あるいは完全に除去したり、異なる直径、長さ、または形式の装置と交換したりすることを含んでもよい。移植された装置の捕捉には、装置を再び拘束して除去する、または適切な位置に再配置する第2のカテーテルが必要なことがある。このカテーテルは、上述したように、コイル、編組などのポリマー管材料から構成されてもよい。さらに、カテーテルの最遠位部分に、装置を受け入れまたは捕捉して身体から回収するための編まれた部分があってもよい。
【0180】
上述したように、ガイドワイヤチューブ320は、好ましくは、内側シース305および先端312を通って延びる。ガイドワイヤチューブ320は0.035から0.042インチの内径を有してもよいので、装置は一般的な0.035インチまたは0.038インチのガイドワイヤと適合性をもつ。変形実施形態は、直径0.014インチのガイドワイヤと適合性を有する直径0.014から0.017インチの管腔を含む。第3の実施形態では、ガイドワイヤ管腔320は、直径が0.039から0.080インチであるので、装置は、標準よりも大きなガイドワイヤ、またはピッグテイルカテーテルなどの診断用カテーテルで送り出されてもよい。これは、石灰化された弁を介する送り出しをより容易にするより堅固な支持という利点を備える。診断用カテーテルがガイドワイヤとして使用される場合、さらに、造影剤注入用のポートとして役立つこともある。
【0181】
ガイドワイヤチューブ320は、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン、またはテフロン(登録商標)を含浸させたポリマーなどの、潤滑性材料で作製することができる。さらに、それは潤滑性または親水性被膜で覆われてもよい。チューブ320は、他のカテーテル構成要素への結合を促進する潤滑性の内層および外層を含む、材料の複数層から構成することができる。
【0182】
カテーテル300は、配置を補助するため、ガイドワイヤを越えて送り出されてもよい。ガイドワイヤは、カテーテルの全長にわたって同軸で通過してもよいし、あるいは変形実施形態では、迅速交換として知られている構成において、カテーテルの一部のみが同軸で通過してもよい。これにより、装置が交換されて外される場合、より短いガイドワイヤを使用することができるようになる。
【0183】
図示される実施形態では、カテーテル300は、互いに対して動く外側カテーテルシャフト301および内側カテーテルシャフト305を有する。カテーテルが互いに対して移動する2つのシースの壁を通らなければならない迅速交換構造におけるガイドワイヤの損傷のリスクを最小限にするため、スロット機構が望ましい。内側または外側の細長いチューブのどちらかは、ガイドワイヤがカテーテルアセンブリの内径から外径まで通過する範囲において、長手方向のスロットを含んでもよい。他方の細長いチューブは、好ましくは、スロットと係合し、2つの細長い部材の過度の移動を防ぐ中空のピンを含む。ガイドワイヤは中空ピンの開口部を通る。中空ピンの内径は、好ましくは、カテーテルの中心軸に対して鋭角で配向される。
【0184】
迅速交換に類似した性能を可能にする他の構造は、ガイドワイヤが、人工弁の位置よりも遠位側の側穴を通ってカテーテルの先端に入るものである。ガイドワイヤは、カテーテル先端の中心近傍でシステムの先端から出る。この構造により、カテーテルが天然弁全体にわたってガイドワイヤに追随することが可能になるとともに、依然として短い長さのガイドワイヤ上で複数の装置を容易に交換できる。
【0185】
上述したように、カテーテル300の内部管腔は、展開制御ワイヤ管腔316、膨張管腔320、およびこれらの管腔316、320を封入する内側シース307を含むことができる。例えば、
図36Bを参照。
図37Aを参照すると、送り出しシステム300の一実施形態では、内部管腔316、320の一部またはその全体が、カテーテルの遠位部分304で送り出しカテーテル300内にあり、例えば送り出しカテーテル300の中央部分652で穴650を通過するので、カテーテル300の近位端306で送り出しカテーテル300とほぼ平行に配置される。一実施形態では、管腔316、320が通るスルーホール650は、装置300の遠位端304から約2から約20cmのところに配置することができる。送り出しカテーテル300の外径は、
図37Aに示すように穴よりも近位側で実質的に低減されるので、装置300全体が、装置300の遠位部分304を十分に受け入れる大きさの最も一般的な導入器を通過してもよい。
【0186】
送り出しシース300は比較的短い内部管腔316、320を越えて身体から取り出すことができる一方、操作者が必要に応じて操作できるように管腔316、320の部分は依然としてカテーテルの外に維持されるので、カテーテルこのカテーテル構成により、有利には、装置100を回収する必要がある場合に、操作者が容易に送り出しシース300と回収シース(本明細書に記載)とを交換することができるようになる。
【0187】
そのより短い長さのため、回収シースは、交換穴650を必要としないことがあり、また、回収シース内に内部管腔を同軸で配置することができる。しかし、好ましい実施形態では、回収シースは、やはり同様の位置に穴を含み、それによって、内部管腔が同軸でシースの遠位部分を通り、その穴を通って近位部分で回収シースにほぼ平行に配置されることができるようになる。
【0188】
一実施形態では、造影剤が装置の管腔(例えば、ガイドワイヤチューブ320)に通され、管腔は人工弁100を通る。これにより、追加の装置を備えた弁と交差せずに、血管造影法によって弁機能の目視評価が可能になる。好ましい実施形態では、弁がカテーテル内にある間、管腔は弁と交差する。好ましい実施形態では、装置がガイドワイヤを越えて送り出される場合、管腔はガイドワイヤチューブ320としても役立つ。造影剤注入のためのより多くの断面積を可能にするため、ワイヤは管腔から除去されてもよい。パワーインジェクタ器具による造影剤の注入を可能にするため、装置のハンドル近傍の管腔の近位端は、取付具に取り付けられる。管腔の内径は、0.014から0.100インチの範囲であってもよい。管腔の直径は、例えばカテーテルの長さ全体にわたって変化してもよく、例えば、好ましくは、人工弁を通る管腔の部分は、十分な流れおよび適切なサイズにされたガイドワイヤの使用の両方を可能にするため、可能な最小直径のものである。この部分の直径は、好ましくは0.014から0.080インチの範囲である。移植片に近いカテーテルの長さに沿って延びる管腔の部分は、より大きな直径であってもよく、より大きな直径によって、より低い圧力勾配で造影剤の流れが可能になり、また、対応するより大きな外径は装置一式の断面を増加させない。管腔のこの部分の内径は、好ましくは、0.035から0.100インチの範囲である。管腔の遠位部分は、管腔を介して十分な量の造影剤を注入するのに必要な圧力を最小限にするため、ディフューザまたはより大きな直径への移行を含んでもよい。ノーズコーンの周囲に配置された複数の出口ポートも、造影剤の流れを促進する。
【0189】
カテーテル300のアクセスは、大腿動脈のような主な動脈を通って得られてもよい。このアクセス部位は、大動脈弁置換に特に適切である。代替のアクセス方法は、他の弁に、より良く適合されてもよい。例えば、三尖弁および場合によって肺動脈弁は、静脈系を介して最も良好にアクセスできる。この場合、アクセスは、大腿静脈または頚静脈のいずれかによって得られる。次に、カテーテルは、上大動脈または下大静脈を介して右心房内に入る。本発明のいくつかの実施形態は、比較的大きな直径のカテーテルを利用するが、それは、すべての患者の大腿動脈の直径と適合しないかもしれない。これらの患者では、総腸骨動脈にアクセスするか、または経中隔アプローチを用いて静脈系を介して心臓にアクセスすることが望ましい場合がある。
【0190】
上述したように、カテーテル300は、装置が導入器の止血弁を通って容易に配置され、石灰化した大動脈弁と容易に交差することができるようにするため、非外傷性の先端312を含む。先端312は、前端において、円錐形、弾丸形、または半球形であってもよい。先端312の最大直径は、好ましくは、外側シース301の遠位部分309とほぼ同じである。先端312は、好ましくは、外側シース301の遠位部分309の内径よりもわずかに小さな直径まで段階的に減少し、その結果、先端は外側シース301に係合し、滑らかな移行を提供することができる。図示される実施形態では、先端312はガイドワイヤチューブ320に接続され、ガイドワイヤ管腔は先端312の部分を通る。先端312の近位側も、円錐、弾丸、または半球の形状を有するので、先端は、展開された弁100を通って、展開用カテーテル300内まで容易に後退させることができる。先端312は、ポリカーボネートなどの剛性のポリマー、またはシリコーンなどの可撓性を付与するより低いデュロメータ硬さの材料から製造することができる。あるいは、先端312は、異なるデュロメータ硬さを有する複数の材料で作製されてもよい。例えば、外側シース301の遠位部分309と係合する先端312の部分は、剛性材料から製造することができ、一方、先端の遠位端および/または近位端はより柔らかい材料から製造される。
【0191】
図35Aおよび35Bを参照すると、変形実施形態では、装置の先端312の範囲は膨張用のバルーン312aを収容するように配置される。このバルーン312aは、膨張および収縮のため、ガイドワイヤが通過する管腔(図示される実施形態中に示すような)または別個の管腔を使用することができる。遠位部分309は比較的大きいので(10〜24フレンチ)、弁領域を先にまたは後で拡張させるのに使用できる大きな直径のバルーンを配置する有利な位置であり得る。装置の固定またはアンカーの展開のため、このバルーン312aに取り付けられるステントまたは他の構造がさらにあってもよい。バルーン312aは、ボストン・サイエンティフィックから市販されている「SOX」装置に類似した、またPederson Jr.らの米国特許第6280412号に見られる薄膜材料で被覆されてもよい。この被覆により、送り出しの間、装置を覆うことができるようになり、また膨張時には露出させることができる。他の実施形態では、保護用にバルーン312aを覆う引裂きシースを使用することができる。
【0192】
図38A〜38Cは、上述した展開用カテーテル300とともに使用されてもよい格納式シース340の一実施形態を示す。多くの移植可能な医療装置が格納式シースを使用して送り出されてきた。例えば、いくつかの装置は、経皮的に腹部大動脈瘤を治療するための、自己伸長ステントおよび移植片を含む。この構造に関する1つの問題は、カテーテルを移植片上でスライドさせなければならず、それによって擦過およびせん断力が生じることである。生体弁または腹部大動脈瘤の移植片などの傷つきやすい移植片の場合、この擦過またはせん断によって移植片が損傷することがある。自己伸長ステントなどの脆弱性がより低い装置では、シース材料が擦り取られ、塞栓を起こす場合がある。Chobotovの特許に記載されるように、いくつかの医療装置は、半径方向に拡張可能なせん断障壁を使用してこの問題を解決している。実際には、このせん断障壁は、通常、その長さに沿って複数個所にスリットが入れられた薄い壁の管材料片からなる。外側シースは、後退するとき、スリット付き管材料に沿ってスライドする。外側シースがスリット付き管材料を越えて後退すると、半径方向に拡張して装置を解放することができる。
【0193】
図38A〜Cの格納式シース340は、上述した半径方向に拡張可能なせん断障壁に類似した機能を果たすが、いくつかの利点を備える。例えば、後述するように、鋭いエッジを有さず、またより柔軟な材料で作ることができるので、患者に外傷を与えるまたは移植片を損傷する可能性が低い。加えて、より薄い材料で作ることができるので、装置340がより小さな断面を有することができるようになる。また、外側シース340が後退された後、移植片100の全長を突出させない。
【0194】
図38A〜Cに示すように、図示される実施形態のカテーテル300では、外側シース301は、移植片100と外側シース301に対して静止した内側シース305とを展開するために後退され、プッシャーとして作用し、移植片100が展開中に外側シース301とともに後退するのを防ぐ。薄い可撓性の膜340は、プッシャー305の外側表面342に接続し、移植片100と外側シース301の間を通り、せん断障壁として作用する。その後、柔軟なせん断障壁340は、外側シース301の外側遠位端344に取り付けられる。好ましくは、膜またはせん断障壁340は、外側シース301の先端の外に延び、次に、
図28Aに示すように外側シース301上で引っ張られて裏返される。その後、膜またはせん断障壁340は、外側シース301の先端近傍の外側表面342上で外側シース301に接合される。変形実施形態では、可撓性のせん断障壁340は、外側シース301の内側表面346に接合される。せん断障壁340は、好ましくはポリマーで作られ、約0.0002インチから約0.0020インチの厚さを有する。一実施形態では、ポリマーはナイロンである。せん断障壁340は、押出しプロセスによって、または、熱および圧力を用いてポリマー管材料が型の内部で膨張されるバルーン吹込みプロセスによって製造することができる。
【0195】
図38Bおよび38Cに示すように、外側シース301が引き戻されると、膜340が裏返り、移植片100から後退してそれ自体の上で二重になる。可撓性の膜340と、外側の格納式のシース301の内側表面346との間でスライドが生じる。有利には、移植片100と移植片100に接触する膜340の部分との間には、ほとんどまたはまったく相対移動が生じない。これにより、移植片100に対する損傷およびシース301からの塞栓粒子のリスクの可能性が最小限に抑えられる。外側シース301と膜340の間、および外側シース301とプッシャー305の間に潤滑剤を適用することができる。膜340は、有利には、潤滑剤から移植片100および患者を隔離する役割を果たす。この実施形態は、移植片100を展開するのに必要な力を低減し、より円滑でより制御された展開を可能にする。
【0196】
図34を再び参照すると、止血弁308は、好ましくは外側シース301の近位端に取り付けられて、血液が内側シース305および外側シース301を越えて漏れるのを防ぐ。一実施形態では、弁308は、touhy−borscht構造弁、または半径方向の圧縮が容易に調整可能な類似の弁である。弁を調節することによって、外側シース301をカテーテル300の内側シース305に係止して、移植片の送り出し中にそれらが偶発的に相対移動するのを防ぐことができる。カテーテル300の近位端304では、好ましくは、複数の膨張管腔の封止のための追加の止血弁(不図示)と、内部シース305を通らなければならない展開制御ワイヤが提供される。追加のポート(不図示)を設けることもでき、これは、カテーテル300が患者に挿入される前に、捕捉された空気があればそれを除去するためにカテーテル300を洗浄できるようにする。
【0197】
移植片と膨張管腔との間の接続
上述したように、多くの実施形態では、移植片100は、膨張チャネル120を規定する膨張可能な構造107を含む。これらの実施形態では、移植片100に構造を提供するために、膨張チャネル120は膨張媒体122によって膨張される。
図34〜37に示すように、展開用カテーテル300は、少なくとも1つの膨張チューブ318を含み、図示される実施形態では、カテーテル300の近位端304から遠位端302まで延びる2つの膨張チューブ318を含む。膨張チューブは、膨張媒体122が膨張可能な構造107に供給されることができるように、膨張チャネル120と連通して配置される。膨張可能な構造107が膨張した後、移植片100から膨張チューブ318を分離または離脱させることが必要になることが理解されるであろう。膨張チューブ318から移植片100を離脱させるための様々な装置および方法を以下に記載する。
【0198】
一般に、膨張媒体122が自己封止性でない実施形態では、膨張管腔318が移植片100から分離されると、膨張チャネル122を封止することが必要になる。これらの管腔の封止には、当該分野で公知の様々な技術を利用することができる。例えば、後述するように、膨張管腔は、それが弁を開位置にさせるような形で弁を介して配置することができる。弁は、様々な正常時締め切り弁または一方向弁(逆止弁)の1つであることができる。
【0199】
例えば、
図39Aは、ばね354を有する逆止弁352、およびボール部材356を含む接続機構350の実施形態を示す。ばね354およびボール部材356は、膨張チャネル120と連通している第1の開放端360、および膨張チューブ318と連通している第2の開放端362を有するチャンバ358内に位置する。ばね354は、第1の開放端360の狭くなった部分364によって支持される。ばね354は、チャンバ358の第2の端部362によって形成される弁座366に向けてボール356を付勢する。付勢された閉位置では、ボール356は、膨張媒体122が膨張チャネル120から出るのを防ぐ。膨張媒体122が圧力下で膨張チャネル120に適用されると、圧力によってボールが押されて弁座366から離れ、チャンバ358に入って、膨張媒体122が膨張チャネル120に流れ込むことを可能にする。圧力が除去されると、ばね354はボール356を弁座366に押し付けて、膨張媒体122が流出しないようにする。ピン368は膨張管腔318を通って延びることができ、また、ボール356を押して、逆止弁352を解除し、膨張チャネル120が収縮できるようにする。
【0200】
図39Bは、逆止弁352の他の実施形態を示す。この実施形態では、逆止弁352は、互いに向かって付勢されて膨張チャネル120を閉じる少なくとも2つのフランジまたはビル370a、370bを含む、ダックビル弁を有する。上述したボール弁と同様に、ピン368は、弁325を開き、膨張チャネル120が収縮できるようにするために使用することができる。
【0201】
図39Cは、封止機構350の他の実施形態を示す。この実施形態では、膨張管腔120は、膨張管腔318と膨張チャネル120の間にある柔らかいポリマープラグ372を通って配置された針(不図示)を使用して膨張する。針はプラグ372から引き抜かれ、プラグは針によって形成された穴を閉じて、流体または圧力の損失を防ぐ。好ましい実施形態では、プラグ372は、内側がナイロン、PE、またはPETのシリコーンのチューブ374である。シリコーンが硬化されチューブに接合された後、チューブは、任意に細くされて376、シリコーンプラグ372に圧縮力を付与してもよい。プラグを取り囲むチューブの近位および遠位部分は、さらに小さな直径まで細くされて、プラグの移動を防ぐことができる。針の直径は、0.010から0.050インチの範囲であってもよく、現在好ましい直径は約0.020インチである。プラグ372の直径は0.020から0.120インチの範囲であってもよい。図示される実施形態では、プラグ372は拡大遠位部分376をさらに含み、それは、チューブ374内に設けられて遠位側に向いたレッジ378に当接して、プラグ272の軸方向位置を固定する。プラグ372の近位端280は、図に示すように外向きのテーパーを有してチューブ374内でプラグ372をさらに固定することができる。
【0202】
図39Dは、接続機構が、液密チャンバ377の内側表面内で固定された破裂ディスク375を有する、他の実施形態を示す。ディスク375は、十分な圧力が加えられると、破裂して膨張チャネル120を膨張させることができるように構成される。
【0203】
いくつかの実施形態では、膨張チューブ318が意図しないで分断されないように、展開用カテーテル300および移植片100を構成することが有効である。例えば、一実施形態では、展開制御ワイヤ230も移植片100から分断されない限り、移植片100から膨張管腔218を除去することができないように、膨張チューブ318が展開制御ワイヤ230に接続される。
【0204】
図40Aおよび40Bは、封止および接続機構399の一実施形態を示す。この実施形態では、バルーン111は1片の管材料400に接続される。管材料400内には、
図39Cを参照して上述したように構成することができるシール封止プラグ402が配置される。膨張管腔318の先端404は、膨張媒体をバルーン111内に注入することができるように、プラグ402に挿入されるように構成される。接続バルーン406が、おおむね先端404の周りに、また管材料400内のプラグ402に近接して配置される。流体チャネル408は、カテーテル300の近位端で、接続バルーン406を膨張ポート410に接続する。使用中、バルーン11は、先端404を介して供給される膨張媒体で膨張させられる。管材料400から膨張管腔318を分断するため、接続バルーン406は、
図40Bに示すように収縮され、それにより、膨張管腔318をプラグ402および管材料400に対して引き抜くことができるようになる。ストッパまたは狭くなった領域(不図示)が管材料400内に設けられ、膨張した接続バルーン406と管材料400の間の接続を向上させることができる。
【0205】
図41は、封止および接続機構399の他の実施形態を示す。この実施形態では、機構399は、バルーン111の接続部分351で上述したように配置することができる、ボールスプリング式の逆止弁412を含む。接続機構416は、同軸チューブの外側層418および内側層420を有する。内側層418は、バルーン111の外側表面426または移植片100の他の部分の対応する係合機構424に係合するバンプ422などの係合機構を含む。
図41に示すように、外側層418は係合機構424、426を越えて延びる。外側層418は、内側層420上の係合機構422がバルーン411の係合機構424に係合されたままであるようにする直径を備える。外側層418が後退されると、機構422の範囲の内側層410は自由になり、バルーン422上の係合機構424から外れる。図示される実施形態では、内側層420は、部分的に膨張管腔318を規定する。ボール弁414を不活性化し、バルーン111を収縮できるようにするため、上述したようなプッシュワイヤ368を設けることができる。
【0206】
図42は、封止および接続機構399の他の実施形態を示す。この実施形態では、機構250は、バルーン111の接続部分351内に配置されたダック弁430を有する。カテーテル300が係合されると、送り出しチューブ318は、バルーン11の膨張および収縮の両方を可能にするダックビル弁420を通って延びる。弁420を通って延びるチューブ318は、さらに、バルーンに取り付けられた膨張管腔を保持するロック機構432を通って延びる。図示される実施形態では、ロック機構432は、カテーテル3000の長さ全体にほぼ延びるロック管材料434から構成される。ロック管材料434の遠位端は、拡大隆起部436、および隆起部426を通って延びる長手方向のスリット438を有する。ロック管材料424の遠位端は、ダックビル式弁430と並んでバルーン111の接続部分351に挿入されたオリフィスプラグ440内に嵌合する。オリフィスは、ロック管材料434の拡大隆起部436を受け入れる溝凹部442を有する。ロック管材料434中の長手方向スリット438により十分につぶれることが可能になり、スリット442とオリフィス44が容易に噛み合ったり外れたりする。膨張チューブ318は、ロック管材料434を通って延びて、つぶれたりバルーン111から解放されたりすることを防ぐ。
【0207】
バルーン111が所望の膨張媒体で膨張され、操作者が移植片100からカテーテル300を分断することを選択した後、膨張チューブ318はダックビル弁430を越えて引き抜かれる。このとき、可能な限りの膨張材料を、弁430を越えた範囲から除去するため、吸引が適用されてもよい。追加の流体を除去するため、すすぎ手順を使用することもできる。その後、膨張チューブ318は、ロック管材料434の拡大隆起部436およびスリット部分を越えて引き抜かれる。その後、ロック管材料434をオリフィス440から引き抜くことができ、移植片100はカテーテル300から分離される。
【0208】
図43は、封止および接続機構399の他の実施形態を示す。この実施形態では、バルーン111の接続部分351は、ねじ付ボア448と、流体通路452内のねじ付ボア448のほぼ近位に配置された弁座450を有する。ねじ456のねじ部分454はボア448内に配置される。ねじ456の拡大封止部457は、弁座450近傍の流体通路452内に配置される。ねじ456がボア448内にねじ込まれると、ヘッド457は座450と係合して、接続部分351内に形成された流体通路452を封止する。送り出しまたは接続チューブ318は、バルーン111の接続部分351に挿入することができる遠位端460を含み、送り出し管腔318を流体通路352と連通させる。遠位端460には、接続部分351の内側表面上に形成された対応する溝464に係合する解放可能なタング462を設けることができる。ねじ458は、
図43に示すような、膨張チューブ318を通って延びるドライバ466によって動作される。
【0209】
制御ワイヤ
上述したように、本明細書に記載した多くの実施形態の1つの利点は、移植片100の展開を制御することができることである。一実施形態では、移植片の展開は、移植片に分離可能に連結することができる制御ワイヤ230を使用して制御される。移植片10に分離可能に制御ワイヤ230を連結するための様々な機構を以下に記載する。
【0210】
図44を最初に参照すると、制御ワイヤ230は、シースまたは送り出しカテーテル300から除去された後に移植片100を制御し配置することができるように、移植片100のカフ102に取り付けられる。ワイヤ230は、移植片100が有効性を低減する方向に回転しないように、または弁104が、血流が正しい方向のみに流れるようにするその機能を実施しないようにするのに十分な剛性を有することが好ましい。有利には、ワイヤ230は、近位位置および遠位位置で移植片100に取り付けられる。これにより、ワイヤ230に対する移植片100の自由度が制限され、弁104または移植片100がワイヤ230の遠位端によって損傷する可能性を最小限にする。
【0211】
図44を引き続き参照すると、図示される実施形態では、ワイヤ230を移植片100に連結する機構には、ワイヤ230のほぼ全長に延びるシース470が組み込まれている。シースは、少なくとも1箇所、好ましくは2箇所で薄く切られてスカイブ272を形成する。スカイブ472において、カフ102の部分474またはカフ102に取り付けられた部材の一部は、ワイヤ230とシース470の間を通る。この方法では、ワイヤ230は、ワイヤ230の先端がスカイブ472を越えて延びるところまでワイヤ230をシース470から引き抜くことにより、カフ102から解放されてもよい。好ましい実施形態では、シース470は、展開用カテーテル300を通って延びる制御ワイヤチューブ316の一部から形成することができる。
【0212】
好ましくは、3つのワイヤ230が使用されるが、1〜10の任意の数が良好な結果を提供することができる。ワイヤ230の直径は、約0.002インチから0.020インチの範囲であることができる。ワイヤ230は、ニチノール、ステンレス鋼、または多くのコバルトクロムニッケルおよび/または鉄ベースの合金の1つなど、血液との接触に適した金属から製造することができる。ワイヤ230は、ポリイミドなどの所望の機械的特性を有するポリマーで作ることもできる。シース472は、ナイロン、テフロン(登録商標)、PBX、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミドなどの血液との接触に適した多くのポリマーから製造することができる。シース470は、弁100の偶発的な分断を防ぐため、軸方向に十分な剛性を有することが好ましく、したがって、シースの寸法は材料の軸方向の剛性によって決まる。0.026インチの外径および0.005インチの厚さの単一の壁を備えたポリイミドシース470が適切であることが分かっており、0.030インチの外径および0.007インチの厚さの単一の壁を備えたグリルアミドナイロンシースも適切であることが分かっている。好ましくは、ポリマーシース470は、外径が約0.018インチから0.040インチの範囲、および壁厚が約0.003インチから約0.010インチの範囲である。さらに、ステンレス鋼、ニチノール、または他の金属シースも利用できる。この場合、より小さな直径およびより薄い壁厚が一般に望ましい。一実施形態では、ステンレス鋼シース470は、0.014インチの外径および約0.011インチの内径を有し、ワイヤ230の外径は0.009インチである。金属シース470では、好ましい壁厚は約0.0005インチから約0.0050インチであり、好ましい外径は約0.007インチから約0.025インチである。シース470の内径は、ワイヤ230の上で自由に移動するためにクリアランスを提供するべきである。0.00インチから約0.007インチのクリアランスが、十分に自由な運動を提供するべきである。潤滑性または親水性コーティングが、シース470の内径またはワイヤ230の外径に適用されてもよい。異なるクリアランスは、滑りにくいポリマーで必要となる場合がある。それに加えて、ワイヤ230に対するシース470の動きを最適化するチューブ470の内径の表面仕上げを生成するように、押出し成形パラメータが調節されてもよい。ポリマーの中には、より荒い表面によって摩擦の低減が得られる場合がある。上述したように、シース470の理想的な壁厚は、選択された特定の材料の強度および剛性によって決まるが、0.002から0.020インチの単一の壁の厚さが適当である。
【0213】
展開制御ワイヤ230の近位端は、好ましくは、シース470に対するワイヤの意図しない相対運動を防ぐために、ロック機構(不図示)を含む。ワイヤ230はまた、1つのワイヤの個々の相対運動または複数のワイヤの総合的な相対運動を可能にする、ハンドル部分に取り付けられてもよい。一実施形態では、3つのワイヤ230がリングに取り付けられ、リングの縁部の周りで均等に離間する。リングが主要なハンドル要素に対して近位側または遠位側に移動すると、移植片100は、カテーテル先端に対して近位側または遠位側に移動する。リングがカテーテルハンドルの軸からずれて傾けられると、移植片100は同様の方向に傾けられる。
【0214】
展開制御機構はいくつかの機能を実施することができる。最初に、上述したように、移植片100の最初の展開中、移植片100が軸からずれて回転するのを防ぐ。さらに、展開制御機構は、移植片100がシースから除去された後にそれを再配置できるようにする。上述したワイヤを用いて、移植片100を近位側および遠位側に移動させることができる。
【0215】
図45A〜Cを参照すると、一実施形態では、移植片100は、最初は部分的に心室32(
図45A)内に展開され、次に、天然弁34輪(
図45B)で、またはその近傍で適所に引き戻される。好ましくは、弁100自体は、大動脈基部内の天然弁輪の直上に配置される。その後、どちらかの側部にわずかに延びる天然弁輪を横切って延びるように、移植片100を完全に展開する(例えば、膨張させる)ことができる。
図45Cを参照。展開制御ワイヤ230は、展開用カテーテル300のハンドルと移植片100の間で力を伝達する機構を提供する。全ての展開制御ワイヤ230を一緒に移動させることによって、装置は近位方向に前進、または遠位方向に後退させることができる。展開制御ワイヤ230の一部のみを他の展開制御ワイヤ230に対して前進させることによって、ワイヤの角度または向きを、天然の解剖学的構造に対して調節することができる。移植片100上、または展開制御ワイヤ230上の放射線不透過性マーカー、あるいはワイヤ230自体の放射線不透過性は、操作者が移植片100を配置し方向付ける際に、移植片100の向きを示す助けとなる。
【0216】
図46A〜Cを参照すると、展開制御装置は、さらに、結果が満足のいくものでない場合に、または移植片のサイズ決めを最適化することができる場合に、移植片100を後退させて展開用カテーテル300内に戻す方法を提供する。したがって、移植片100が完全にまたは部分的に展開された後(
図46A)、移植片100に軸方向力を伝達する機構を提供することに加えて、上述したワイヤ230は、
図46Bおよび46Cに示すように移植片100が後退されると、それを展開用カテーテル300内に引き戻すためのガイドまたはランプを提供する。移植片100は展開用カテーテル300内に回収することができ、または、移植片100を回収するため、展開用カテーテル300上により大きな回収シース(例えば、
図50の502を参照)を導入することができる。
【0217】
図47A〜Eは展開制御システムの他の利点を示す。
図47Aに示すように、移植片100は部分的に展開することができ、ワイヤを用いて天然の大動脈弁34に移植片100を収めることができる。その後、移植片100を
図47Bに示すように完全に展開し、次に
図47Cに示すように試験することができる。試験によって適切であることが証明されれば、移植片100を収縮させ、
図47Dに示すようにより最適な位置に移動させることができる。その後、移植片100を完全に展開し、
図48Eに示すように制御ワイヤから解放することができる。
【0218】
本明細書に記載した展開制御システムは、本願に記載した現場打ち支持構造とともに、または自己拡張ステント構造上で、もしくは本明細書に記載したような膨張可能な構造上で使用することができる。展開制御装置はまた、動脈瘤除去のためのステント移植片または狭窄症治療のための自己拡張ステントなど、他の非血管性装置に使用されてもよい。
【0219】
図48は、展開制御システムの他の実施形態を示す。この実施形態では、制御ワイヤ230は、ワイヤ230の遠位端に取り付けられた小さなバルーン480を含む。バルーン480は、移植片100上に設けられた小さなチューブ482を通して挿入される。一実施形態では、チューブ482は布から作られ、カフ102を形成するのに使用されるのと同じ布であることができる。展開制御ワイヤ230は、バルーン480を収縮させることによって解放される。バルーン480は、好ましくは直径が約0.02から0.12インチであり、チューブ482は、膨張されたバルーン480の外径よりもわずかに小さな内径を有することが好ましい。チューブ482の近位端および遠位端は、直径が小さい1つまたは複数の部分を追加として有していてもよく、その直径は、膨張されたバルーン480の直径より大幅に小さい。
【0220】
上述したように、展開制御ワイヤ230は、移植片100がシースから出された後にそれを再配置できるようにするために使用することができる。展開制御ワイヤ230は、操作者が移植片100を再配置し、移植片100が血流および圧力の力によって移動するのを防ぐことができるように、十分な剛性を有することが好ましい。移植片100が膨張されると、ワイヤ230は可撓性であることが望ましく、一実施形態では、従来のガイドワイヤの先端と同程度の可撓性であることが望ましい。この可撓性によって、移植片100が、ワイヤ230が除去された後にとるのと同じ形状および位置をとることができるようになる。これにより、操作者が移植片100を恒久的に移植しようとする前に、移植片100安定性および機能を試験し評価することができるようになる。増加した可撓性は、好ましくは、弁100が移植される血管によって規定される概ね円筒形状に接する面内に提供される。したがって、好ましい実施形態では、制御ワイヤ230は先端で特に可撓性であり、それによって、装置は、分断されたときのように、カテーテル300によって付与される力をほとんど受けない。
【0221】
可撓性および剛性の要件を満たすワイヤの多くの実施形態が可能である。一実施形態では、ワイヤは、可撓性のある先端と可撓性が低い近位部分とを有するように製造される。これらの特性を備えたワイヤを製造する技術は、ガイドワイヤ設計および製造の分野における当業者には広く知られている。その技術は、
図49Aに示すように先細にされた制御ワイヤの研削、および/またはワイヤの直径に向かって段階的にされる肩部を含む。他の実施形態では、ワイヤは、類似のタイプまたは異なる材料のコイルで包まれて、遠位部分に柔らかい感触を提供する。
【0222】
図49Bに示す他の実施形態では、展開制御ワイヤ230は、内側ワイヤ482および内側ワイヤ482の上の外側チューブ484から構成される。剛性のあるシステムが求められる場合、内側ワイヤ482およびチューブ484は一緒に使用される。より柔軟な制御ワイヤ230が望まれる場合、内側ワイヤ482またはチューブ484のどちらかが単独で使用される。一実施形態では、内側ワイヤ482は、ニチノールまたはステンレス鋼などの金属から製造されるのが好ましく、チューブ484は、金属またはポリマーであることができる。チューブ484は、螺旋状パターンに切られるか、またはそれから切り出されたセグメントもしくはそれに切り込まれたスカイブを有して、必要な範囲で所望の可撓性を作ってもよい。他の実施形態では、参照により本明細書に組み込まれるLashinskiらの米国特許公開公報2002/0151961A1号に見られるように、パターンがチューブ484に切り込まれてもよい。この実施形態では、チューブが曲げられると規定された形状を提供するように、チューブ484に切り込まれたパターンがある。他の実施形態では、ボストン・サイエンティフィック/ターゲット・セラピューティックス製の神経血管用製品に見られるような、チューブに切り込まれたスロットを利用するガイドワイヤを使用することができる。
【0223】
図49Cおよび
図49Dを参照すると、他の実施形態では、可変の剛性を備えた展開制御ワイヤは、それぞれが好ましい屈曲面を有するワイヤ486およびシース488をシステムとして利用することによって作製される。ワイヤ486およびシース488が、その好ましい屈曲面が並ぶように回転された場合(
図49D参照)、可撓性が求められる面で良好な可撓性を有する。より剛性のあるシステムが望ましい場合、ワイヤ486およびシース484は、それらの好ましい屈曲面がずれて(
図49C参照)、好ましくは約90°ずれるように回転される。この構成では、可撓性の低いシステムが作られる。ワイヤ486およびシース495の断面形状は、例えば、
図49Cおよび49Dに図示される実施形態に示すように、単一または複数の平坦部によって「D」字型の断面を作る、円形の断面であってもよい。
【0224】
回収工具および手法
現在の弁機構は、弁が支持構造に縫い合わされるステントに基づいた機構によって展開される場合が多い。本明細書に記載した膨張された実施形態では、膨張流体によって構造が二次的に移植片に付加される。これにより、固化するものを含む多数の媒体によって、ユーザが移植片を膨張または加圧することができるようになる。そのため、操作者が所望する場合、膨張媒体が固化されるか、または減圧によって身体内で移植片の移動が可能になる前に、移植片100を移動させることができる。カテーテルに基づいた装置は、直径が小さく、血管に対する外傷を低減し、かつ入口へのより容易なアクセスを可能にするので、ステントなどの装置が血管内で露出するかその中に導入された後に、それらを除去するのが困難な場合が多い。しかし、後述するように、本発明の装置により、経皮的に大動脈弁を身体から回収し、導入器に逆行させて再導入することが可能になる。
【0225】
図50は、移植片100を再捕捉するための装置500の一実施形態を示す。図に示すように、装置500は外側管状シース502を有する。管状の回収シース504は、外側シース502を介して挿入される。回収シース504は、シース504の遠位端に連結され、患者を傷付けることなく装置500内に移植片を捕捉するように構成された、ソックス構造または編組構造506を含む。身体へ導入されると、外側シース502に対する回収シース504の相対運動により、編組506が露出される。移植片100を編まれた部分内に引っ張ることにより、導入器またはシースに安全に再導入されてもよい。編組506により、移植片を傷付けることなく、またはシースの内径に嵌合しない恐れがあるより大きな直径に移植片が係留されるもしくは集められることなく、移植片を導入器内にガイドすることが可能になる。
【0226】
止血弁(不図示)が、好ましくは装置500の近位端に取り付けられる。さらに、近位端では、流体導入のため、洗浄ポートおよびコックを設けることができる。一実施形態では、内側シャフト504は、長さが約40から60cm、直径が約2から18mmである。変形実施形態では、編まれた部分506の遠位端508を、外側の同軸シース502の端部に取り付けることができる。これにより、2つのシース502、504の相対移動が可能になり、また、編まれた部分506がそれ自体の上で反転されることが可能になる。編まれた部分506は、身体に導入されたときに大動脈壁と接触するように、
図50に示すような漏斗状に作られるか成形されることができる。編組506は、ポリマーストランドまたはニチノール、ステンレス鋼またはMP35Nワイヤなどの材料で構成されてもよく、業界で公知の接着剤または熱接合技術によって取り付けられてもよい。このワイヤ、ストランド、またはリボンは、約0.002から0.020インチの直径または寸法を有してもよい。硬化したまたは拡張された形状は、約1.00から1.50インチであり、編組506の長さは約6から9インチとなる。さらに、編組506の長さおよび直径を固定したまま、内側シース504および外側シース504を接続することも可能である。2つのシース502、504の相対移動は、装置500の構造によって制限または排除される。両方の構成は、編まれた部分506が導入器に挿入されている間、編まれた部分506をつぶれさせる捕捉シースを必要としてもよい。このシースの直径は、約24Fであるか、または導入器の直径と同様である。シースを通して挿入されると、装置500は導入器から排出され、下行大動脈に露出される。止血弁は、血液がカテーテルシャフトから近位側に漏れるのを防ぐ。
【0227】
他の実施形態では、スリット付管材料は布コーンと置き換えられ、布コーンは、その開放を容易にする予備成形ワイヤまたはバルーンなどの機構を含んでいてもよい。
【0228】
編まれたコーン506は、ヒートセットまたは他の方法によって、患者の大動脈よりもわずかに大きな自由直径を備えたコーン形状に形成することができる。他の実施形態では、ワイヤの切断端部がすべてコーンの近位端に位置するように、編まれたコーンはワイヤのループから製造される。コーンを製造するのに使用されるワイヤは、好ましくは0.002インチから0.020インチの直径を有する。ワイヤはまた、0.002インチから0.020インチの厚さおよび0.003インチから0.030インチの厚さを有するリボンと置き換えられてもよい。コーンの小さな端部の直径は、好ましくは0.007インチから0.3インチであり、コーンは、所望の導入器のサイズを通過するのに十分に小さな直径までつぶされることが好ましい。コーン部分の大きな端部は、好ましくは、一般的なヒトの大動脈に類似した、またはそれよりもわずかに大きな直径、すなわち0.75から1.50インチまで拡張する。
【0229】
一実施形態では、人工弁が患者の内部で所望の結果を生まなかった場合に、移植片の再捕捉を容易にするため、別個の回収装置500が供給される。本明細書に記載するように、膨張可能なの大動脈移植片100を再捕捉するため、膨張チューブ318を残して、かつ/または展開制御チューブ316が移植片100に係留されたまま、装置用の送り出しカテーテル300が除去される。これらの接続部を越えて回収カテーテル500を挿入することによって、移植片100は次に、回収システム500と同軸になり、身体から除去される準備ができる。移植片100を越えて回収カテーテル500を前進させる、または制御ワイヤ230を引っ張ることによって、移植片100を編まれた部分506内に後退させることができる。移植片100は次に覆われ、安全にシース502内に引き戻され、身体から除去されることができる。
【0230】
図51は、回収装置/システム500の他の実施形態を示す。この実施形態では、内部シース502の遠位端は、移植片を装置500内に通すために広げられたスプリット部分510を含む。一実施形態では、内部シース504の遠位端は、長手方向に約1から2インチの長さで、半径方向には4から12回裂かれる。これは、予備成形されて開かれるまたは巻き戻される、一連の細いバンドまたはストリップ512を残す。図示される実施形態では、ストリップ512は、チューブの中心線から外向きに湾曲する。これは、除去される移植片100を捕捉するために、回収外側シース502がフレア512を越えて前進されることを必要とする。移植片100は、上述したのと同様の方法で装置をまとめるため、半径方向に離間した制御ワイヤ230を含むことができる。ワイヤは、ステンレス鋼、ニチノール、または医療装置において一般に容認された他の適切な材料であってもよい。このワイヤの形成により、半径方向に拡張可能になって大動脈壁と接触し、装置がシース内に引き込まれることが可能になる。
【0231】
これら再捕捉システムの他の応用例は、ステント(冠状動脈および末梢)、PFOおよびASD閉鎖装置、マイクロコイル、および身体からの回収する必要があるかもしれない他の移植可能な装置などの装置に有利な場合がある。現在、スネアおよび他の器具が身体から装置を引き出すのに使用されているが、多くの装置は、除去されるときにカテーテルまたは導入器に捕われる。これらの事象から装置を保護するためのバスケットを作製することによって、除去がより単純かつより安全になる。
【0232】
装置回収のための他の方法は、人工弁100を介して織られたストリングを提供することを含む。張力がストリングに加えられると、人工弁100は、送り出しシース、導入器、または回収シース内に回収されるのに十分に小さなサイズまで再びつぶれる。
【0233】
切除および減量装置
弁を移植する処置は、弁輪を拡大させることから始まるのが好ましい。これは、単純なバルーン弁形成術で実施することができる。しかし、多くの例ではこれは十分ではない。したがって、人工弁が外科的処置で置換される前に、外科医は、多くの場合、天然弁リーフレットを、特にその範囲内の石灰化または病的発生物を、修正または除去する。以下により詳細に記載するように、天然の大動脈弁が切除または減量される間、および人工弁が移植されるときに心臓からの流出を維持するため、一時弁520(
図52Aを参照)を設置することができる。一時弁520は、動脈弓または下行大動脈もしくは上行大動脈内の大動脈36に配置することができる。これらのタイプの弁の例は、参照により本掲載書に組み込まれる米国特許第3671979号および米国特許第4056854号に記載されている。他の多くの一時弁構造が可能であるが、可撓性ポリマーまたは生体弁が、カテーテルを介して容易に送り出すことができるので好ましい弁タイプである。可撓性ポリマー弁のいくつかの種類、例えば、「ダックビル」式、三葉式、二葉式の弁を使用することができる。あるいは、傘型弁または吹流し型弁を使用することができる。一時弁520は、自己拡張ステントまたは膨張可能なバルーン状の構造など、様々な方法によって、弁の基部で大動脈36の壁を封止し、一時的にそれに係合することができる。さらに、一時弁520は、全体的に膨張可能であるか、または、ナイロン、テフロン(登録商標)、ダクロン、またはポリプロピレンなどのポリマーを、ニチノール、ステンレス鋼、または医療装置で使用するのに一般に受容可能な他の材料などを含む金属元素と組み合わせて使用することができる。適切な配置のため、一時弁に放射線不透過性マーカーを取り付けてもよく、また、一時弁から展開可能なまたは受動的に取り付けられたアンカーが、装置の固定を補助することがある。
【0234】
一実施形態では、一時弁520は、上述した移植片100と同様に構成することができる。そのような実施形態では、一時弁520は、つぶれた一時弁を送り出し、弁本体またはカフを流体で満たして構造を提供することにより、または弁の送り出しおよび導入用のカテーテル内に弁アセンブリを圧縮し、シースを除去して装置を対象とする移植部位に導入することにより、カテーテル法技術によって送り出される。さらに、送り出し用のカテーテルから弁アセンブリを巻き出すまたは広げることも可能である。新たな弁の除去および導入が完了した後、装置を安全に除去することができる限り、いかなる送り出し方法も十分である。
【0235】
一時弁520は、流れを依然として維持しながらカテーテルが一時弁を越えるような方法を提供するべきである。一時弁520は、ガイドワイヤとの適合性を有する装置を容易に弁を越えて前進させることを可能にするため、弁を通って前進されるガイドワイヤで送り出すことができる。傘型弁が使用される場合、血流は装置と大動脈壁の間を流れる。この場合、ガイドワイヤまたはカテーテルは、弁を介してではなく弁の周りを通ってもよい。
【0236】
一時弁の使用に対する変形方法は、経皮的なバイパス処置を使用することである。この処置が実施される場合、大動脈の流出域を通して流れを維持することは必要なくなる。大動脈は、切除ステップの間閉塞されてもよく、また切除された範囲からの破片および流体は、切除ステップの後またはその間に吸引されてもよい。経皮的なバイパス処置において、血液は体外で酸素化され、身体内に再導入される。心拍動を停止するため心停止液が使用される。
【0237】
図52Bを参照すると、石灰化したまたは病変した弁が除去または切除されると、塞栓の破片が放出される恐れがあるので、塞栓防御装置522が望ましく、または必要である。塞栓防御装置522は、弁34からのあらゆる塞栓形成された血栓および破片を捕捉するように、一時弁520の下流に配置することが望ましい場合がある。塞栓防御装置522を冠状動脈の心門521の下に配置することが望ましい場合もある。この位置が選択されている場合、一時弁520の下流にフィルタ522を配置するのが困難であるか、または不可能なことがある。濾過サイズは、約25ミクロンから500ミクロンの範囲であることができる。防御装置522のフィルタ524は、ニチノール、MP35N、ステンレス鋼、または医療装置に使用される任意の受容可能なポリマー材料から作られてもよい。
【0238】
多くの様々な器具が、大動脈弁34の部分を除去する、または大動脈弁34から石灰化を除去することができる。外科用途または経皮的用途において知られているそのような器具の例としては、CUSAなどの超音波エネルギー源、カッターまたはナイフなどの手動器具、および、組織および/または除去されるカルシウムを溶解または軟化することができる流体が挙げられる。
図52Bに示すように、一実施形態では、切除器具530は、一般にフィルタ524内に配置される。
【0239】
一実施形態では、超音波変換器が、カテーテル先端の近傍に配置され、カルシウムを破壊し、かつそれを弁組織から放出する工具として使用されてもよい。この方法は、石灰化した大動脈弁の外科的修復に使用された。残念なことに、その処置はまた、大動脈弁閉鎖不全症を慢性的に引き起こすリーフレットの健康な部分も損傷させるる恐れがある。通常、大動脈弁閉鎖不全症は1年から2年で進行する。患者によっては、処置中に天然弁が破壊された。弁除去の準備として、この技術の経皮的適応が適切なことがある。超音波カテーテルに加えて、石灰化した組織を収集する何らかの方法が必要となる場合が多い。1つの方法は、本願に記載した塞栓防御フィルタである。あるいは、カテーテル先端に吸引を適用して、小さな粒子を除去することができる。どの方法でも、カルシウムの大きな塊が天然組織から放出されることがある。塊がカテーテルよりも大きい場合、安全に経皮的に除去することができる前に破壊しなければならない。好ましくは、超音波変換器を操作して、これらの大きな塊を除去できるのに十分に小さな粒子に破壊することができる。この技術は、参照によって本明細書に組み込まれる特許第4827911号、第493104号、第5015227号、第4750488号、第4750901号、および第4922902号に記載されている。これらの装置の周波数範囲は、約10〜50kHzであることが多いが、約35KHzが最適と思われる。
【0240】
天然弁34を切除するのに使用できる他の器具は、除去される組織上に異なる方向から集中する複数の外部エネルギー源を含んでもよい。この技術は、いくつかのエネルギー源とともに使用することができ、例えば超音波エネルギーがこのように使用されてもよい。放射エネルギーも、ガンマナイフと称される方法によって、このように使用されてもよい。
【0241】
加熱ワイヤシステムも、弁輪から大動脈弁を切断するために使用することができる。そのような実施形態では、ワイヤはカテーテルに取り付けられ、電気抵抗またはRFエネルギーなどの手段によって加熱されてもよい。ワイヤは、削除される弁の範囲内で操作され、バルーンまたはワイヤによって配置されてもよい。ワイヤは、直径が0.005〜0.100インチの範囲であってもよく、通常Ni-クロム材料から作られる。
【0242】
他の実施形態では、レーザーを使用して、石灰化した組織を別々に切除することができる。レーザーエネルギーは、カテーテルを介して光ファイバーで伝達され、カテーテル先端で石灰化した組織に適用することができる。カテーテル先端は、操作者によって操作されてエネルギーを部位特異的な範囲に向けて、組織および/または病変した物質の切除または切開を生じさせてもよい。レーザー波長が適切であり、影響される材料に合わせられることが重要である。波長、反復率、およびエネルギー密度を調節して除去プロセスをカスタマイズすることが必要な場合がある。
【0243】
さらに他の実施形態では、石灰化した弁組織は、切断バルーンを用いて、または膨張可能なバルーンをその長さに沿った金属または剛性プラスチックのブレードとともに用いて、破壊され除去されてもよい。この一例は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5616149号である。バルーンが拡張すると、ブレードは組織内に入れられてそれを別々にする。十分に大きなバルブ範囲を作るため、複数の膨張が必要な場合がある。一実施形態では、バルーンは、回転可能なカテーテルに取り付けられ、部分的に膨張されたバルーンを回転させて、組織を弁輪から削り取ることができるようにする。このバルーン源は、上述の「加熱ワイヤ」を応用して使用されて、除去または排除の前に、組織をパイ形のパターンに切断してもよい。
【0244】
大動脈弁の部分を除去するための上述の器具のいくつかは、カテーテルを通ることができるよりも大きい弁の部分またはカルシウムの部分を除去してもよい。これらの場合、切除された物質を粉砕し抽出する手段を備えたカテーテルが必要なことがある。一実施形態では、カテーテルは、大きな粒子を破壊しそれをカテーテルシャフトを通して戻すため、その先端近傍に回転オーガを含んでいる。より小さな粒子がカテーテル先端から出るのを防ぐため、吸引もまたカテーテルに適用されてもよい。この例としては、ボストン・サイエンティフィック製のRotoBlader装置が挙げられるが、カテーテル内に収容されて、粒子が下流に逃げるのを制限してもよい。
【0245】
図53A〜54Cは、組織の部分を打ち抜くためのパンチおよびダイを有する切除装置530の一実施形態を示す。装置530は、鋭いエッジ534を備えたパンチまたはカッター532を有し、それはカテーテル本体540のチャネルまたはキャビティ535内で可動に配置されて、除去された組織の部分を収集する。後述するように、カテーテルの長さにわたってワイヤ539を押すまたは引くことによって、油圧動作によって、または可撓性シャフトを通して伝達された回転力をパンチ532を作動する軸方向力または直線力に変換するカテーテル先端の近傍のねじ装置によって、パンチ532を作動させることができる。
【0246】
図53A〜54Cを引き続き参照すると、切断動作は、好ましくは遠位から近位に向かい、物質をカテーテルの内径の中に移動させる。図示しないが、装置530は、ばね力を用いて物質を排出し、トラップまたはドアを用いてカテーテルシャフトに入った物質を保持することができる。図に示すように、カテーテル本体540内に形成された窓544によって刃先542が形成される。窓544は刃先を形成し、刃先は、カテーテル540の直径に概ね垂直であり、または変形実施形態ではある角度でより低い切断力を提供する。刃先542および/またはパンチャー532は、除去される物質の切断を補助する、双曲面体、三角形、ひし形、または鋸歯状などの、様々な形状のいずれかを有することができる。刃先542および/またはパンチ532はまた、振動エネルギーまたは超音波エネルギーを使用して、物質を切断するのに必要な力を減少させることもできる。これらは、カテーテル540を通して送り出すことができ、変換器、モータ、またはRFエネルギーを含んでもよい。一変形実施形態では、パンチ532は回転ブレードと置き換えられる。装置530全体は、好ましくは可撓性であり、造影剤、導入器、食塩水、ガイドワイヤなど、通常のカテーテル法の器具を使用するように構成される。
【0247】
好ましい実施形態では、切断動作は、パンチ532を近位側に刃先542の中に引っ張ることによって行われる。パンチ532は、カテーテルを通って延びて装置530の近位端に設けられるハンドル546によって作動されるワイヤ539に連結される。この方向で切断することにより、切除された組織はカテーテル540に引き込まれ、力を伝達するワイヤ539には張力が負荷される。吸引機能もまた、切除された組織が引き込まれる管腔535に組み入れられる。カテーテル管腔535を通って流出する流体を最小限に維持することによって、塞栓のリスクも最小限にすることができる。ばね(不図示)を装置の遠位端552に設け、ワイヤ539が開放された後、パンチ532を遠位側に引くことができる。
【0248】
上述したような装置またはDCA装置において、装置の切断部分が組織を係合するように可動であることが有利である。切断部分を組織に押し付けるバルーンまたは力をかけられたワイヤは、従来、DCA装置とともに使用されるが、これによってかん流が防止される。
図54A〜54Cに図示される実施形態では、1つまたは複数のストラップ550が、カテーテル540の長さを拡張し、装置530の係合を補助する。ストラップ550は、カテーテル先端552の近傍でカテーテル540に取り付けられ、刃先542の反対側にある。1つまたは複数のストラップ540の部分551は、装置530の切断部分近傍の範囲で自由である。ストラップ550は、カテーテルシャフト540に対して前進されると、装置530の切断部分から離れるようにたわませられる。これにより、装置530の切断部分が組織内に押し付けられる。操作者は、装置530を回転させて所望の組織を係合してもよい。
【0249】
変形実施形態では、ストラップ550は、切断が生じるカテーテルの部分を越えて軸方向に延び、切断機構に取り付けられている細長い部材に対して自由に軸方向に移動することができる、細長い部材に取り付けられる。2つの細長い部材は好ましくは同軸で配置される。一実施形態では、細長い部材は両方ともポリマーチューブである。
【0250】
図55Aおよび55Bは、切除装置の他の実施形態を示す。この実施形態は、カテーテル本体540、刃先542、および組織パンチ532を含むという点で、
図53A〜54Cを参照して上述した実施形態に類似する。この実施形態では、組織パンチ532は、戻りばね554に連結され、膨張管腔556を通してカテーテル本体540の遠位端552にあるチャンバ558に供給される加圧流体によって作動される。シール560が、パンチ532とカテーテル本体540との間に設けられて、チャンバ558を封止する。加圧室558の圧力を増加させることによって、パンチ532は刃先542に対して近位側に移動される。圧力が減少すると、パンチ532はばね554によって遠位側に移動される。かえし560をカテーテル本体540内に設け、窓544を通って導入される組織を保持することができる。膨張管腔556は、
図55Bの中に示すような接着剤564によって、カテーテル本体540に取り付けることができる。
【0251】
図56A〜Cは、切除装置530の他の変形実施形態を示す。この実施形態では、切断ワイヤ570は、カテーテル本体574内に設けられる管腔572を通って延びる。切断ワイヤ570は、それらの遠位端でカテーテル本体574の遠位部分に取り付けることができる。切断ワイヤの長さのほとんどは、カテーテル本体574の管腔572に封入される。スカイブ576が遠位部分に設けられて、ワイヤ570がカテーテル本体574に取り付けられている点に非常に近接したワイヤ570の短い部分578を露出させる。一実施形態では、スカイブ576は、約5から100mmの長さ、好ましくは約10から30mmの長さである。ワイヤ570の近位端がカテーテル本体574に対して前進されると、遠位部分578は、たわんでスカイブ576を通してカテーテル本体574から離れる。ワイヤ570は、優先的に屈曲する面を提供し、カテーテル本体574の管腔572内での回転を防ぐ断面を有してもよい。これは、ワイヤ570が制御された向きで展開される助けとなってもよい。ワイヤ570の露出部分578は、ワイヤ570が前進されると組織に対して露出する切削面を含むことができる。他の実施形態では、この装置530は、ワイヤ570が展開、加熱され、次に弁輪を通って前進または後退されるように、または加熱され、次に弁輪内で作動されるように構成することができる。カテーテル本体574は、
図56Bに示すように管腔582内に配置された補強ワイヤ580を含むこともできる。
【0252】
図56Dは、切除装置530の他の変形実施形態を示す。この実施形態では、装置は、外側保護シース900、ガイドワイヤ904の上を進むことができる内部シース902、および外側シース900と内側シース902の間に配置された中間部材906を有する。中間部材906は切断構造908を含み、それは、外側シース900が引き抜かれて切断構造908が露出すると拡張することができる。この実施形態では、切断構造906は、環状のばね部材912によって支持される複数の細長い切断部材910を含む。装置は、弁内に配置されることができ、次に、外側シース900が引き抜かれて、切断部材910を露出させる。装置は、回転されて切断動作を提供することができる。
【0253】
さらに他の実施形態では、アテローム切除カテーテル装置(不図示)は、実質的に円形のハウジングトルクケーブルの遠位端でハウジングを含む。カッタートルクケーブルはハウジング内に配置され、その遠位端において回転可能かつ並進可能なカッターを含む。ハウジングは、アテロームがその中に突出する窓を含む。カッターはアテロームを切断する。ハウジングの遠位端に取り付けられたノーズコーンは、切断されたアテロームを収集して格納する。補強材が、窓に対向するハウジングの外部に取り付けられる。補強材を設けることができ、ハウジング内に設けられた膨張管腔を有するバルーンを含む。変形実施形態では、機械的補強材が設けられ、それはハウジングまたはノーズコーンの遠位端に取り付けられた遠位端と、ハウジングトルクケーブルのケーブル管腔内に設けられた補強ケーブルに連結された近位端とを含む。補強ケーブルは、遠位側に前進されて、補強材をたわませてハウジングから離すことができ、また近位側に引き抜かれて、補強材をハウジングに対して平坦にし、あるいはハウジングの窓側をアテロームに押し付けてそこから後退させることができる。
【0254】
弁の範囲から石灰化および病的発生物を除去する他の方法は、薬物を用いるものである。例えば、カルシウムを溶解させる薬剤は骨芽細胞によって分泌される。弁置換処置に先立って、これに類似した薬剤を利用することができる。あるいは、これに類似した薬剤を弁リーフレットまたは人工器官の別の部分にコーティングして、弁の寿命全体にわたってゆっくりと溶出するようにすることができる。これにより、弁の劣化に寄与する石灰化が防止または最小限にされる。薬剤は、ポリマーコーティング、多孔質金属コーティング、または組織自体に含まれることができる。
【0255】
除去または減量を補助するため、石灰化した組織は、当該分野で知られているような、心エコー検査および/またはX線透視法、ECHO、MRI、CTスキャンによって可視化されてもよい。
【0256】
図52Bを再び参照すると、保護フィルタ装置522に取り付けられたアクセスシースにより、切除装置530または他の器具が、左心室32とフィルタ530の間の作業範囲にアクセスすることが可能になる。アクセスカテーテルは、送り出しカテーテルの内部で折り畳むことができる可撓性材料で作られてもよい。これにより、比較的大きな断面の装置がアクセスカテーテルを通して導入されることができると同時に、送り出しカテーテルを小さな断面の装置とすることが可能になる。一実施形態では、一時弁および塞栓防御装置を含む送り出しカテーテルならびにアクセスカテーテルは、血管を通して前進される。装置は展開され、送り出しカテーテルは完全に患者から除去される。アクセスカテーテルは、次に、弁の除去および置換に必要な装置が通過するのに十分に大きな内径に拡張する。
【0257】
上述した弁交連を除去または切断する装置の多くは、切断が生じている間に、心出しバルーンを使用して天然弁輪の中心にカテーテルを配置することによって恩恵を受けることができる。心出しバルーンは、弁の近位側または遠位側に配置することができ、またはバルーンを近位側および遠位側の両方に配置することができる。バルーンは任意にかん流管腔を含むことができる。
【0258】
変形実施形態では、弁輪を拡大させる方法は、組織を除去する代わりに、あるいはそれに加えて組織を縮小させるプロセスを伴う。例えば、熱を加えることによってコラーゲンタイプの組織を縮小させることができる。そのような実施形態では、組織は、50から65℃の温度まで加熱されるのが好ましい。より好ましくは、組織は55から60℃まで加熱され、一実施形態では59℃まで加熱される。加熱は、様々なエネルギー源によって行われてもよく、経皮的な適用に特に有利な1つのエネルギー源はRFエネルギーである。したがって、先端に加熱された要素を備えたカテーテルが、弁の特定部分を加熱するために使用されてもよい。
【0259】
一実施形態では、カテーテルは加熱された部分の近傍で針を含む。リーフレット組織に熱を伝達するためのカテーテルの部分は、リーフレットの表面下に配置される。これにより、リーフレット組織への熱の伝達が最大限にされると同時に、血流への熱の伝達が最小限になる。
【0260】
他の実施形態では、加熱ステップは、弁輪の拡大も行う器具によって適用される。この器具は、変位されたストラップを用いる本願に記載したもののような、加熱された溶液で膨張されたバルーンまたは加熱要素を含む拡張装置であってもよい。
【0261】
一般に、熱の適用は、弁の中心に最も近いリーフレットの部分に作用することを意図する。弁輪の外側部分の過度の縮小は、有効オリフィス面積の低減につながる場合がある。各リーフレットの先端または自由縁部の近傍の範囲を縮小することにより、有効オリフィス面積が増加される。それにより、弁組織内のカルシウム堆積物がさらに放出され、したがって新しい弁を移植するための大きな有効オリフィス面積が提供されてもよい。
【0262】
移植片展開手順
大動脈の位置の中で移植片100を展開するための様々な手順および方法を以下に記載する。一実施形態では、方法は、概ね、多くの場合は大腿動脈を通して、大動脈にアクセスすることを含む。バルーン弁形成術が、大動脈弁狭窄症の場合に任意に実施されてもよく、または、上述のように天然弁を除去または減量する他の方法が使用されてもよい。送り出しシースまたはカテーテルが、大動脈弓上で、大動脈弁を越えて前進される。カテーテルの外側シースは後退されて弁およびカフを露出させる。弁を膨張させるために流体が使用され、第2の膨張流体が部分的に移植片を形成するために使用されてもよい。これにより、移植片の遠位部分がその全径まで開くことが可能になる。移植片の近位部分は、展開制御機構によってわずかに制限されてもよい。一般に、展開制御機構が装置の近位端の直径を制限する量は、外側シースを越えて延びるワイヤの長さによって決まり、それは操作者が調節することができる。あるいは、いくつかの実施形態では、移植片は、操作者が移植片の特定範囲を異なる量で膨張させることを可能にするため、複数の膨張ポートを含む。他の実施形態では、破裂ディスクまたはフロー制限器が、移植片100の近位部分の膨張を制御するために使用される。その後、移植片は適所に引き戻される。遠位リングは、大動脈輪の心室側に収まる。バルーンが、必要であれば装置を拡張または再拡張するために使用されてもよい。このとき、展開制御ワイヤは、切断バルーンが繊維状または石灰化した病変を破壊することができるのと同じ機構によって、融合した交連を分離するのを助けるように作用してもよい。追加の鋳込み材料が付加されて、移植片を完全に膨張させてもよい。その後、膨張管腔は分断され、展開制御ワイヤが次に分断され、カテーテルは装置を後に残して引き抜かれる。変形実施形態では、所望であれば、これらのステップは逆にされても、またその順序が変更されてもよい。
【0263】
上述した方法は、一般に大動脈弁の置換のための実施形態について説明している。しかし、肺動脈弁、僧帽弁、または三尖弁を置換するのに同様の方法が使用されてもよい。例えば、大腿静脈または頚静脈のいずれかを通して、静脈系を介して肺動脈弁にアクセスすることができる。僧帽弁は、上述したように静脈系を通してアクセスすることができ、次に、経中隔的に右心房から左心房にアクセスすることができる。あるいは、大動脈弁に関して上述したように、動脈系を通して僧帽弁にアクセスすることができ、また、カテーテルを使用して、大動脈弁を通過し、次に僧帽弁まで戻ることができる。
【0264】
僧帽弁置換については、移植片は、より短い本体長さ(例えば、1〜4cm)を必要とし、天然の僧帽弁範囲に取り付けられる。それは、大腿静脈を通って心臓の右側から、下大静脈を通って上昇し、右心房へ送り出されてもよい。そこから、経中隔的穿孔が、左心房への入口から作られ、僧帽弁にアクセスしてもよい。左心房に入ると、移植片は下を向いた弁とともに送り出されて、左心房から左心室への流れを可能にする。同様の形状により、装置が左心房内で展開され、左心室に前進されることが可能になる。近位側リングは、僧帽弁オリフィスと近位側カフの直径との直径差を作ることによって、左心室内で装置を保持するために膨張することが必要な場合がある。ここで、大動脈の置換に関して、天然弁を排除し、かつ置換弁が移植される余地を提供することを可能にするため、僧帽弁は、弁または腱索を部分的に除去または切断することが必要な場合がある。これは、バルーン弁形成術、切断バルーンなどの切断技術によって、またはホットワイヤまたはナイフを利用して天然弁にスリットを切り込んで排除を可能にすることによって行われてもよい。天然弁が新たな弁のために準備されると、僧帽弁オリフィスは、移植片の遠位部分と交差されてもよく、また、遠位部分は適切な形状および構造に膨張されてもよい。このとき、天然弁は排除され、置換弁は完全に使用可能になる。
【0265】
僧帽弁置換の他の方法は、経尖的な送り出しを含み、その際、患者が胸腔の小さな穿孔を受け入れ、操作者は、補助人工心臓移植に類似した心尖にアクセスすることができる。左心室へのアクセスが得られると、大動脈弁および僧帽弁は、置換弁を移植するための直接経路となる。この場合、大動脈弁は、カテーテルと同じ方向に流路内で送り出される。僧帽弁については、流路は移植の方向と反対である。両方とも、装置を固定するのに直径差を用いて、依然として移植片の基部を利用して装置を固定してもよい。カフが流体で満たされるとカフから受動的または能動的に突出することができるフックまたはかえしも使用することが望ましい場合がある。かえしは1つであることができ、または複数のかえしもしくはフックを使用することができ、組織の組成によって、長さは1〜5mmであることができる。組織が柔らかいまたは可撓性の場合、より長いかえしが必要なことがある。かえしがより良好に保持できる組織がより固くより繊維状の構造の場合、より短い長さを有することが望ましいことがある。
【0266】
肺動脈弁および三尖弁の配置については、操作者は、送り出しシステムを挿入するため、大腿静脈または内頚(IJ)静脈にアクセスすることができる。経中隔的な僧帽弁へのアプローチと同様に、送り出しシステムおよび装置は、大静脈に上からまたは下から導入され、肺動脈弁および三尖弁にアクセス可能なところで、右心房および右心室に導入される。大腿部へのアプローチは、その急峻な屈曲のため好ましく、送り出しシステムが上からまたはIJのアクセスから行われる必要がある。右心室に入ると、装置は大動脈の方法と同様に送り出されることができ、カフが肺動脈弁基部を利用して積極的なアンカーを行い、直径差によって装置が遠位側に移動しないように保持する。また、カフが流体で満たされるとカフから受動的または能動的に突出することができるフックまたはかえしを使用することが望ましい場合もある。かえしは1つであることができ、または複数のかえしもしくはフックを使用することができ、組織の組成によって、長さは1〜5mmであることができる。組織が柔らかいまたは可撓性の場合、より長いかえしが必要なことがある。かえしがより良好に保持できる組織がより固くより繊維性の構造の場合、より短い長さを有することが望ましいことがある。
【0267】
どの配置の場合も、求められる用途それぞれの性能によって、適切な弁構成が選択される。例えば、大動脈弁は、速度および移動度が高いため、ストレスおよび疲労に対する高い抵抗性が求められる2つまたは3つのリーフレットの弁を必要とすることがある。肺動脈弁は、性質がより受動的であるため、または弁が支持することが求められる圧力がより低いため、より低級の弁を必要とすることがある。長さは変化することができ、弁および周囲の構造によって決まる。僧帽弁にはより短い弁(1〜4cm)が必要なことがあるが、動作する空間がより広い大動脈弁は、より長い弁(1〜8cm)を許容することができる。どの用途の場合も、断面積が流出量を決定する一助となるので、一般に最大オリフィスサイズが求められる。大動脈の断面積は、極度に石灰化された弁における約0.00平方センチメートルから、健康な弁における約5平方センチメートルまで変化することができる。ほとんどの場合、置換に求められるのは、さらなる流れのために断面積を増加させることである。
【0268】
処置の間、または患者の選択もしくは経過観察の間、様々な画像化技術を使用することができる。これらには、X線透視法、胸部X線写真、CTスキャン、およびMRIが挙げられる。それに加えて、処置の間、または患者の選択もしくは経過観察の間、様々な流れおよび圧力を監視することができ、例えば、心エコー検査法が、心臓の関連する心室および導管を通る血流を監視するために使用されてもよい。肺動脈楔入圧、左心房圧力、および左心室圧力は、すべて記録され監視されてもよい。求められる弁のサイズを決定し、または解剖学的構造が弁移植片を十分に許容する空間を提供するか否かを決定するため、測定器具を使用することが望ましい場合がある。従来、直線距離を測定するのにマーカーワイヤが使用されており、また、冠状動脈から大動脈弁輪までの距離などの距離を測定するために、類似の技術をこの用途に使用することができる。弁の直径を測定するため、順応性が制御されたバルーンを使用することができる。理想的には、バルーンは順応性が高く、容積が制御されて膨張されるが、半順応性のバルーンを使用し、通常の治療的心臓病学膨張装置で膨張させることもできる。次に、バルーンの順応曲線を使用して、圧力を直径に関連付けることができる。心臓内の弁の直径範囲は、直径10〜50mmおよび長さ2〜40mmの範囲であってもよい。同様のサイズ決めバルーンが、中隔欠損を判断するのに使用されている。
【0269】
一実施形態では、人工弁の移植は、それを配置した後に拡張させるステップと、天然の解剖学的構造内で機能させるステップとを含む。拡張ステップが、バルーンの膨張に先立ってバルーン弁形成を置換するために使用される場合、カフは、拡張による塞栓を最小限にする。機能的移植片の拡張ステップは、装置の移植に先立って弁形成が行われるが、流出範囲が求められるほど大きくない患者に使用することもできる。移植可能な人工弁の特定の実施形態は、展開制御ワイヤまたは補強ワイヤを含む。これらの特性が、拡張後の時点で移植片内に存在する場合、その特性は、治療的心臓病学において周知の切断バルーンの機能に類似して、機構内にバルーンを展開することによる力を集中させるように作用してもよい。
【0270】
大動脈弁へアクセスするため、大腿動脈(橈骨動脈、腕大動脈、頚動脈)を使用して、脈管系に器具を導入することができる。大動脈導管に入ると、カテーテルは、大動脈弓および天然の大動脈弁まで前進されてもよい。上述したように、一時弁を設置して、天然弁に対する作業が完了される間、血流を入口で制御できるようにする必要がある場合がある。これにより、心臓病治療医が、新たな大動脈弁の除去および設置のための準備をする時間が提供される。一時弁は、天然弁と冠状動脈の間に配置することができ、または、その弁は、冠状動脈間の位置、および大動脈から大血管分枝が分かれる位置、もしくは患者の大動脈内の他の位置に配置することができる。大動脈弁閉鎖不全症を治療するために、これらの本来ではない位置に弁を配置することは、Huffnagel弁を用いた臨床経験において有効であることが分かっている。これらの位置への一時弁の配置は、MouloluposおよびBoretosによって記載されている。ガイドワイヤまたはピッグテイルカテーテルが、大動脈弁の狭窄した穴を介してより剛性のあるカテーテルを通すために使用されてもよい。弁が解放され除去されたときに、冠状動脈分枝を含むあらゆる血管を残屑から保護するため、濾過装置を設置することが必要な場合がある。このフィルタは、大動脈弁における、冠状動脈口の直前または空洞よりも遠位側の領域、および大血管の直前の領域に配置されてもよい。弁開口を通ると、バルーンは、大動脈弁内に通されて、領域を予め拡張し、カルシウムがあればそれを解放してもよい。これは、石灰化している、かつ/または繊維化しているであろう組織を除去する助けとなり得る。超音波、RF、熱、またはレーザーなどのエネルギーを伝達するカテーテルの使用により、さらに、リーフレット内およびその上の石灰化を含む組織を破壊または解放することができる。カリフォルニア州のコラゾン社などの、カルシウムの溶解におけるある程度の展望が示されている化学的治療がある(米国特許第6755811号を参照)。超音波エネルギー装置は、米国特許第4827911号によって詳細に記載されており、手術部位において弁組織からカルシウムを除去するためのCUSAとして知られている検証済の実績がある。これは重大な展望を示しているが、コラーゲン組織を変性し、結果として、約1年残っている弁組織の変質につながり、機能性の低い弁が残る。フィルタが設置され、弁組織が軟化された後、除去される範囲を規定するためにテンプレートが使用されてもよい。このテンプレートは、穴を規定し、健康な組織が除去されるのを防ぐ。このとき、天然弁が除去されると一時弁が機能するので、弁は適切なときに除去することができる。これは、患者が大動脈弁狭窄症から大動脈弁閉鎖不全症に進行しないようにするため、重要になる。除去器具は次に、狭窄弁を通過し、天然弁の除去プロセスを開始してもよい。上述したように、また、特許およびRosengartの20040116951などの米国出願に記載されるように、この領域から組織を除去する多数の方法がある。
【0271】
上述した実施形態は、カテーテルに基づいた弁除去器具を送り出すことに良好に役立つ技術を提供する。押出し力および引っ張り力によって、図に示すようなピンおよびダイの組は、除去用のカテーテルシャフトに材料を残したまま、制御されたやり方で弁を除去することを可能にする。これは、大動脈の流出路を入口で、または弁で一時的に制御することを可能にする初めてのものであることを主張する。大動脈のバルーンポンプは、一時弁または条件によっては補助弁として機能してもよいが、バルーンポンプは、大動脈弁閉鎖不全症の患者には効果がなく危険である。除去された、または部分的に除去された大動脈弁は、重症の大動脈弁狭窄症を引き起こす。
【0272】
次に
図57A〜57Oを用いて、上述した処置のいくつかを利用する、人工大動脈弁100を設置する処置の実施形態を述べる。具体的には、図示される実施形態は、一時弁を配置するステップと、塞栓防御装置を配置する任意のステップと、狭窄弁の全体または一部を除去するか、減量するか、破壊するステップと、恒久的な人工弁を移植するステップと、次に一時弁および塞栓防御装置を除去するステップとを含む。当然ながら、当業者は、これらのステップがすべて必要なわけではなく、かつ/または特定のステップの順序を変更できることを理解するであろう。さらに、当業者は、本明細書に記載のステップの様々な変形実施形態を理解するだろう。
【0273】
図57Aに示すように、大動脈へのアクセスは、大腿動脈602を通してアクセスシース600によって提供することができる。展開用カテーテル604は、ガイドワイヤ606を越えて、アクセスシースを通して、また大腿動脈を通して大動脈弓10(
図57B)に向かって前進される。
図52Aを参照して上述したように、展開用カテーテル620は一時弁520を移植するのに使用される。塞栓防御フィルタも第1ステップとして移植されてもよいが、一時弁520が好ましくは第1ステップとして移植される。狭窄された大動脈弁34の治療については、一時弁520は大動脈36内に配置される。弁520は、上行大動脈または下行大動脈内に配置されてもよい。この位置の弁520は、Hufnagel弁を用いた治験によって適度に有効であることが証明されており、Mouloluposの第3671979号およびBoretosの第4056854号によって開示された同様の構造において記載されている。冠状動脈を越えて配置された弁は、長期移植片としては理想的な性能を提供しないが、この位置における弁の機能は、短期間の使用には十分であることが証明されている。健康な患者では、冠状動脈は心拡張中に満たされるが、重症の大動脈弁閉鎖不全症患者では、心拡張中に冠状動脈を満たすのに必要な圧力は存在しない。これらの患者は、生存のために冠状動脈を十分にかん流することができる。
【0274】
あるいは、一時弁520は、天然の大動脈弁と冠状動脈の間で作用するように配置されてもよいが、その物理的位置は、冠状動脈のかなり上に延びる可能性がある。この実施形態では、一時弁の入口側は、冠状動脈の直下の大動脈壁を封止する。弁の出口側は、冠状動脈を越えて上に延びる。弁の中央部分および弁の出口側は、患者の大動脈の内径よりも小さな外径を有する。これにより、血流が、弁の出口から、弁の外側を回って、冠状動脈の心門に向かって戻ることができるようになる。この実施形態では、弁は、弁の入口側に封止部分を有し、封止部分は、患者の大動脈基部直径と一致する外径を有する。この直径は、約18mmから約38mmの範囲である。異なる患者の解剖学的構造に対応するため、多数のサイズの弁が求められる。弁の封止部分は、封止を改善し、広範囲にわたる患者の解剖学的構造に最も良好に適合するように、拡張可能または順応性であってもよい。封止部分の長さは、弁の位置および冠状動脈の位置によって制限され、封止部分の長さは約1mmから約5mmの範囲、好ましくは約3mmであってもよい。弁の中央部分および出口部分は、好ましくは、天然の大動脈の直径の30%から90%である。これにより、血流が弁の周りを通って戻り、また冠状動脈をかん流するのに十分な空間が得られる。弁は、さらに二次保持機構を含み、冠状動脈を越えた弁の出口部分または中央部分を固定してもよい。
【0275】
あるいは、弁は、大動脈内に配置される、メドトロニックによって設計されたヘモポンプとして知られている装置に類似のポンプで置換することができる。ポンプは、血液を心室から大動脈内に移動させ、天然の大動脈弁および収縮する左心室の両方の機能の役目を果たす。ポンプは、モータが本体の外部に配置された、回転軸によって作動されるスクリュー式ポンプからなってもよい。カテーテルの遠位端に配置されたポンプの入口は、任意に、バルーンによってポンプの出口から隔離されてもよい。バルーンは、ポンプ入口とポンプ出口の間の位置で、ポンプの外径と大動脈の内径の間で膨張される。あるいは、両方がポンプ入口とポンプ出口の間にある2つの閉塞バルーンを使用するポンプが、治療のためにバルーン間の範囲を隔離することができる。弁除去処置はこの範囲で行われる。
【0276】
MouloluposおよびBoretosによって米国特許第3671979号および第4056854号にそれぞれ記載されている一時弁構造は、血液が弁と大動脈壁の間で一方向に流れることができるようにする傘型弁構造を含む。弁が大動脈壁を封止すると、弁は反対方向への流れを防止する。これらの弁は、一時弁カテーテルに取り付けられ、本発明での使用に適合させることができる。
【0277】
一時弁には、ボールケージ式弁、傾斜リーフレット弁、二葉弁、リード式弁、吹流し型弁、ダックビル弁、または三尖弁など、他の弁構造も可能である。これらに加えて、ポリウレタンを含む合成材料または生体弁から作られた弁を利用することもできる。恒久的な弁置換に一般に使用される、牛の心膜または豚の大動脈弁から構成された弁が適切である。小さな断面の経皮的装置を製造するため、好ましい実施形態は、ダックビル構造または傘型弁構造のいずれかの薄い可撓性のポリマー弁である。
【0278】
一時弁は、処置の終了時に容易に除去することができるように、また、操作者が残りのステップを実施するために弁を越えてアクセスできるように配置されるべきである。弁が身体内に配置される前に、弁を通って、または弁の周りに配置されたガイドワイヤまたはカテーテル管腔によって、下流側の処置のために必要なアクセスが可能になる。
【0279】
あるいは、膨張可能な構造が使用されてもよい。膨張可能な構造は、血管壁の改善された封止特性の利点を提供し、また、膨張可能な構造は、いくつかの弁構造を備えた小さな断面の装置を形成してもよい。膨張可能な弁構造は、上記の恒久的な弁置換装置における直流の開示に記載したようなワイヤを用いて、回収可能であるように設計することができ、膨張可能な人工弁は、Blockの第5554185号に最初に記載されており、本明細書にも記載される。膨張可能な構造は、約18mmから約35mmの外径まで膨張されるのが好ましい。
【0280】
他の実施形態では、一時弁構造は回収可能な自己拡張ステントである。ステントは、リングまたはコイルの形状にされたワイヤセグメントから形成されたZステントであることができる。あるいは、Zステントは、レーザー切断などのプロセスを使用して、チューブから切り出すことができる。Zステントでは、ステントを回収可能にするため、ステント形状の慎重な設計が求められる。クラウンが回収シース上に捕われないことを確実にしなければならない。これを達成する1つの方法は、各クラウンを隣のステントセグメントのクラウンに、溶接、融着、または他の接合技術によって取り付けることである。または、ボストン・サイエンティフィック製のウォールステントに類似した構造で、ステントをワイヤで編むことができる。ステントの材料は、好ましくはニチノールなどの超弾性材料である。あるいは、コバルトクロム合金またはチタンなどの、比較的高い降伏強さおよび/または比較的低い弾性率の材料を使用することができる。これらの非超弾性材料は、編組プロセスによって製造されたステントに使用するのに最も適切である。
【0281】
他の実施形態では、一時弁520の構造は、Yangの米国特許第6733525号に記載されている構造と類似の、または本明細書に記載するような、広げることができる構造からなる。その構造は、包まれた状態で送り出される。構造が配置された後、構造は広げられ、その最終直径まで拡張する。
【0282】
一般に、本発明に従ってさまざまな弁構造のいずれも一時弁に利用されてもよい。一時弁は、管腔内部位で比較的短い期間(例えば、数時間未満)機能的であり続けることのみを意図しているので、本発明の一時弁は、従来の恒久的に移植可能な弁の欠点(血栓形成、効率、耐久性など)の多くを問題にしない。したがって、弁構造は、最初の横断面形状を最小限にし、かつ除去を最適化するように選択することができる。
【0283】
例えば、弁がZステント構造で支持される上述の例では、ステントの各近位側頂点は、一時弁展開用カテーテルの長さに沿い軸方向に移動可能なまとまった共通の制御ワイヤに結合する引っ張りワイヤに取り付けられてもよい。所望の一時弁部位への経管腔的案内に続いて、外側シースは、制御ワイヤに対して近位側に後退されてもよく、それにより、ステントおよび弁がカテーテルの遠位端から展開されることが可能になる。処置の完了に続いて、制御ワイヤに対する近位側への牽引および/または外側シースに対する遠位の力を加えることによって、一時弁が除去されてもよい。複数の制御フィラメントは、Zステントが管状シース内に引き戻されるとそれをつぶれさせる。
【0284】
したがって、本発明の一時弁は、好ましくはその展開用カテーテルに恒久的に取り付けられる。この点について、用語「展開」は、一時弁を、例えば経管腔的案内のための低減された断面形状から、血管環境内で弁として機能するための拡大した断面形状に変換することを指す。しかし、弁は展開用カテーテルから取外されることはない。これにより、カテーテル内に後退させるための、一時弁を捕えるまたは他の方法で再捕捉することの複雑さが排除される。あるいは、本発明は、除去の前に捕捉されなければならない取外し可能な一時弁を使用することによって実施されてもよい。
【0285】
したがって、好ましい一時弁は、仮弁部位内に入れるまたはそこから出す経管腔的案内のための、弁を機能的構造内に前進させ、弁をつぶれた構造内に後退させるための近位側制御装置を有する、細長い可撓性のカテーテル本体によって運ばれることが好ましい。弁を一時弁カテーテル内に後退させる制御装置を作動する際、必ずしも弁の機能性を保つ必要はない。したがって、弁を一時弁カテーテル内に近位側に後退させるステップは、一時弁を除去するステップを容易にするのに望ましければ、解体、伸張、巻き戻し、または他の弁の分解を含んでもよい。
【0286】
生体弁は、弁の意図する動作寿命が短期間であるため本発明による一時弁に使用されてもよいが、様々なポリマー弁のいずれかが本明細書において使用するように適合されてもよい。ポリマー膜は、実質的に一方向のみへの血液の流れを可能にするために第1の開放形態と第2の閉鎖形態との間で移動可能である限り、正常な心臓弁のリーフレットに類似するように構成されてもよく、またはさまざまな代替形態のいずれかで構成されてもよい。したがって、ポリマー膜は、さまざまなフラップ弁、ダックビル弁、または他の形態のいずれに形成されてもよい。
【0287】
弁リーフレット構造に関わらず、一時弁は、上述したような膨張可能なカフによって支持されてもよい。一時弁展開用カテーテルは、近位側の膨張媒体源と遠位側の膨張可能なカフへの取付点との間に延びる膨張管腔を備える。所望の部位に配置されると、一時弁は、外側送り出しシースを近位側に後退させることなどによって解放されてもよい。その後、膨張媒体は膨張媒体源から送出されて、カフを膨張させて弁を使用可能にし、かつ血管壁との封止を提供してもよい。処置の後、膨張媒体は、膨張管腔318を介してカフから吸引されて、カフを収縮させ、一時弁は患者から引き抜かれる。
【0288】
あるいは、一時弁は、収縮して動脈内での順流を可能にするが膨張して動脈内での逆流を阻害するように心拍動と同期した膨張サイクルをもつ、膨張可能なバルーンの形態をとってもよい。
【0289】
塞栓防御フィルタが、一時弁または一時弁構造に取り付けられてもよい。フィルタは、ダックビル式の弁の出口部分に取り付けられてもよい。あるいは、フィルタは、それ自体の支持構造に取り付けられてもよい。
【0290】
図57Dおよび57Eに示すように一時弁が展開されると、経皮的に弁を移植する処置の間、フィルタすなわち塞栓防御装置522が使用されてもよい。上述したように、塞栓防御のいくつかの方法が可能である。
図57Fに図示される実施形態では、濾過バスケット524が、図に示すように一時弁520の下流に配置され、バスケット524は、塞栓形成された、または天然弁から切り取られたあらゆる残がいを捕え(
図57Gを参照)、次にバスケット524は回収される。
【0291】
捕捉サイズは約35から250ミクロンであり、また凝結を防ぐために抗血栓コーティングで処理されてもよい。弁が逆行方向から近づけられる場合、類似の構造のバスケットを、冠状静脈弁の経皮的治療のために設計された装置のカテーテルシャフトに取り付けることができる。装置が逆行方向で配置される応用例では、従来よりも大きなワイヤをベースとした塞栓防御装置を使用することができる。
【0292】
大動脈弁治療の応用例では、冠状動脈の心門が治療される範囲に非常に近接しているので、塞栓防御を弁輪に非常に近接させて配置することが望ましい場合がある。弁置換の前処理または単独で独立した治療として使用される弁形成のバルーンでは、塞栓防御フィルタは、バルーンの近位端に、またはバルーンの近位端に非常に近接して、特にバルーンの近位端から1cm以内のところでカテーテルシャフトに取り付けられてもよい。フィルタは、経皮的な人工弁送り出し用のカテーテルに同様に配置することができ、この構成は、バルーン拡張可能な人工弁には特に有益である。
【0293】
大動脈弁を通る流れを防ぐ手段による、バルーン弁形成または経皮的な人工弁の移植に適用可能な塞栓防御の代替方法を以下に記載する。流れは、治療部位の位置で、または好ましくは治療部位を越えた位置で、逆行方向または順行方向のいずれかで閉塞される。治療が行われる。治療部位は装置から外される。治療範囲は吸引される。閉塞によって流れが防止されるので、塞栓材料は移動しない。その後、閉塞は除去される。大動脈の応用例の好ましい実施形態は、2つのバルーンを備えた弁形成バルーンである。より大きな遠位側バルーンは心室内で膨張される。バルーンは、大動脈の流出が妨害されるように引き戻され、バルーンは大動脈弁よりも著しく大きくされる。第1のバルーンのすぐ近位側に配置された第2のより小さな直径のバルーンは、次に膨張されて、弁輪を拡張する。その後、第2のバルーンは収縮されて、範囲全体が吸引カテーテルで吸引される。その後、第1のバルーンは収縮されて、大動脈の流出を回復する。あるいは、この手術の間に、これらのバルーンの中央に流れを提供するチューブがあってもよい。これは、脱灰化されている範囲の周りでの、酸素化された血液の限定的なバイパスとなる。このバイパスの間、切断機構が導入されてもよく、弁およびカルシウムは機械的に除去される。切断機構の例としては、回転バー、セグメント内の物質を打ち抜く振動ピンおよびダイ、または吸引除去のために物質を破断する超音波エネルギーが挙げられる。これらの重要な血管への流れを継続するため、冠状動脈にさらにカニューレを挿入することが必要な場合がある。
【0294】
システムは、さらに、血液の移動を引き起こさない位置における左心室からの流出を大動脈基部の範囲に再導入するために、かん流管腔を含むことができる。例えば、血液を、冠状動脈内、大動脈弓内、または頚動脈内に再導入することができる。
【0295】
フィルタ装置522を送り出しカテーテルに取り付け、ハンドルによって作動させて、血管壁に対するフィルタを開閉させることも可能であり得る。この装置は、大動脈弓内で大動脈弁と大血管との間に配置される。二次カテーテルシステムを、大動脈からの残がいを濾過するために使用し、また他の血管から大動脈弓へ送り出すこともできる。このフィルタは、天然弁が除去または脱灰化されるときに弁支持体にフィルタ防御を提供する一時弁アセンブリに取り付けることもできる。フィルタはまた、切除器具に取り付けて、塞栓から下流の血管を保護することもできる。頚動脈、大血管、および大動脈などの個々の血管を別個に防御することにより、装置は、これらの血管それぞれの中で、血管を塞栓から防御することが必要となる。これらのフィルタは、EPI(ボストン・サイエンティフィック)に見られるような単純な吹流し型であることができ、またカテーテルを通して塞栓を回収することができる。濾過のための他のシステムとしては、バルーンが対象範囲を防御し吸引で塞栓を回収する、メドトロニック社によって販売されているPercusurge装置などが挙げられる。
【0296】
濾過装置は、いかなる物質も流出しないようにするため、石灰化した大動脈弁上に直接設置されてもよい。この濾過装置は、ニチノールまたはステンレス鋼などの織られたまたは編まれたワイヤ、MP35N、ポリマー繊維、または医療装置に一般に使用される他の適切な材料で作製されてもよい。材料は、円形、楕円形、または平坦なリボン材料からなってもよい。これは、小さな断面の装置を設計する場合に利点を提供するかもしれない。これらのワイヤは、0.001〜0.030インチの範囲の断面直径を有する。これらのワイヤは、図から分かるようにフィルタ材料を保持するため、より大きな延長ワイヤによって支持されてもよい。フィルタは、寸法保全性を提供するため、ステントまたは一連のストラットなどの支持構造を必要とする場合がある。このステント構造は、フィルタを開き、弁基部または血管壁を封止して保持するように、一般的なZステントまたは膨張可能な構造であることができる。支持構造は、シースから装置を露出させることにより、または、最初の形状から最終形状に構造を移動させる力を積極的に提供することにより、拡張または展開される。送り出しカテーテル内に収容されて、装置は、小さな断面に抑制され、可能になるとより大きな断面直径または範囲に拡張する。展開された装置は、下向きのまたは弁の方に向いた、開いた大きな直径を備えたほぼ円錐形状を有する。反対側の端部は、カテーテルの位置でまとまり、導入カテーテル、または捕捉された残がいを除去する第2の回収カテーテルによって回収可能である。これらのカテーテルは、約8〜24フレンチの直径を有する。濾過材料は、どの流れ特性が必要とされるかによって、支持構造の内部または外部に配置されることができる。例えば、フィルタ材料が支持構造の外部に配置された場合、フィルタは冠状動脈口と接触してもよい。フィルタ材料を支持構造の内部に配置して、支持構造を冠状動脈の心門から離して保持することがより望ましい場合がある。濾過は、約35〜250ミクロンのサイズの粒子を捕捉し、大動脈を通して適切な流れを可能にする。フィルタの遠位部分は、天然の大動脈弁のパターン化された除去を可能にする遠位端で、リングまたはテンプレートを有してもよい。遠位部分は、洞の大動脈壁と除去されるカルシウム堆積物との間に適合して取り除かれる。テンプレートは、上記の段落に記載されるような除去器具がたどってもよいパターンを提供する。テンプレートを使用することにより、パターンは天然の健康なオリフィスに接近する。受容可能な断面積は約2〜3cm
2である。これは、新たな弁を配置し、患者に良好な血行動態流を提供するのに適切な空間を提供する。このテンプレートは、ワイヤリングによって、またはクローバに類似した健康な弁に見られるような3つの弓形を備えたパターンによって提供されるガイドと同程度に単純であることができる。しかし、複雑な形状から開始するよりも丸孔を提供するほうが簡単な場合がある。このテンプレートは、天然弁の上または下にあってもよく、1つよりも多い形状および/またはサイズを必要としてもよい。
【0297】
フィルタの他の構造は、フィルタ材料に支持を提供する、編まれたニチノールのステントを利用するものであるが、カテーテル内で依然として回収可能である。この実施形態では、フィルタ材料は編組構造の内部にあり、編組は大動脈壁と接触する。これは、フィルタ装置と血管の間の封止を提供して、フィルタ要素を通る流れを導き、冠状動脈が開放性であることを可能にする。
【0298】
一時弁520および塞栓防御フィルタ524が適所に置かれた後、
図57F〜Hに示すように、減量または弁除去ステップが行われる。可能であれば、ガイドワイヤが天然弁を越えて前進されてもよい。重度に石灰化した天然弁では、弁を越えてワイヤを前進させることが不可能であるか、または実用的でない場合がある。これらの場合、新たな管腔が弁を通して形成されてもよい。これは、鋭いワイヤ針、または加熱ワイヤ切断器具、あるいは回転ドリル式切断器具を用いて行うことができる。心出し装置が使用されて、新たな管腔を、確実に天然弁の中央近傍で作製するようにされてもよい。慢性的に閉塞された動脈の治療のための、治療的心臓学において既知の心出し装置の構造が使用されてもよい。これらの装置は、通常、心出しバルーンを含む。あるいは、拡張可能なワイヤバスケットが、流れを維持しながらワイヤを中心合わせするのに使用されてもよい。拡張可能なバスケットは、ニチノールハイポチューブなどの超弾性ハイポチューブから切り出すことができる。1つのバスケット構造は、近位端および遠位端の両方にチューブの短い切断されていない部分を含み、このチューブセグメントは、約1から約3mmの長さである.近位側および遠位側のチューブ部分は、少なくとも3つのストラットによって接続される。ストラットは、約30から約60mmの長さであり、1つまたは複数のコネクタによって、その長さに沿って互いに固定されてもよい。チューブは、次に、中央部分が18mmから35mmまで拡張するように、熱固化または他の方法で形成される。ストラットは、血管壁を押して装置を中心合わせする間、近位側および遠位側の切断されていないハイポチューブ部分は、ガイドワイヤのアクセス用の中央管腔を支持する。
【0299】
ワイヤがアクセスした後、切断装置のいくつかの実施形態を狭窄された天然弁に通すことが、依然として困難または不可能な場合がある。必要であれば、第2の切断装置が挿入される弁開口部を十分に拡大するため、予備切断ステップが行われてもよい。一実施形態では、主切断装置は、ガイドワイヤに集中した回転バーを含む。バーは、小さな可撓性ハイポチューブ、または本体外部のモータによって回転される硬いシャフトに取り付けられる。好ましくは、ハイポチューブは0.014から0.040インチの内径を有し、シャフトは約0.010〜0.030インチの直径を有する。回転バーは、好ましくは、二次切断器具よりもわずかに大きな外径を有し、これは好ましくは2から6mmの範囲である。同様の回転バー装置が、ボストン・サイエンティフィック社から、狭窄動脈の治療用としてRotobladerの商標名で市販されている。
【0300】
この構造の切断装置は、石灰化した弁を所望の直径に開くために使用することもできる。この場合、約3から約9mmの範囲の直径のより大きなバーが使用されてもよい。操舵可能なカテーテルが、天然の解剖学的構造内の新たに拡大された開口部を中心合わせするために必要な場合がある。操舵可能なカテーテルは、細長いチューブの少なくとも一部で中心からずれて配置された引張りワイヤを備えた可撓性の細長いチューブからなってもよい。引張りワイヤに張力が加えられると、カテーテルは、ワイヤがずれている方向に曲げられる。複数の引張りワイヤを使用して、カテーテルを複数の範囲または方向に案内されるようにしてもよい。カテーテルは、好ましい屈曲面を備えて製造することもでき、それにより、中心合わせされた引張りワイヤでもカテーテルを案内することが可能になり、カテーテル形状のより正確な制御が提供される。カテーテルは、好ましくは3mmから9mmの外径のものである。
【0301】
切断装置の複数の実施形態が可能であり、そのいくつかは上述したものである。一実施形態では、切断装置530は、
図53Aを参照して記載したように、尖ったパンチをダイに押し込むまたはそれから引き出す器具からなる。これは、弁輪から石灰化した組織のセグメントを切断し、それらをカテーテルシャフトに引き戻す。その後、石灰化した組織を、カテーテルを通して身体から摘出するため、吸引が任意に適用されてもよい。ほとんどの組織はカテーテルシャフトに押し込まれるので、この構造は、最低限の塞栓の残がいしか生成しないという利点を有する。好ましくは、切断ダイは、切断力が最初に高い平方インチあたりの力で主に物質を貫通するような角度で研磨された硬化ピンから製造される。カッターは、好ましくは、ピンの軸方向から20から80°の角度で研磨される。第2の角度もまた、第1の研磨角度で形成されたポイントの近傍にピン上で研磨されてもよい。これにより、切断を開始するのに必要な力が最小限に抑えられる。好ましくは、ピン直径は3mmから10mmである。
【0302】
あるいは、切断部分が回転カッターからなる、同様の切断装置を使用することができる。カッターは、ダイ部分を介して引き戻されて、上述した装置と類似の方法でカテーテルシャフト内に材料を押し込む。カッターの回転縁部は、塞栓材料を可能な限り最小限にするように、研がれて刃とされてもよく、または装置の切断性能を最大限にするように鋸歯状にされてもよい。この装置は、DCAまたは方向性冠状動脈粥腫切除に一般に使用される装置に機能が非常に類似している。通常、DCA装置はプッシュモードで切断を行い、切り取られた部分を装置の遠位端近傍のキャビティに捕捉する。上述した装置は、プルモードで動作し、それによって、切断された物質が、カテーテルシャフトから排出されるか、またはカテーテルシャフト内のより大きな範囲を満たすことができるようになる。しかし、上述のいずれかの切断装置を、プルモードではなくプッシュモードで作動するように製造することができる。物質を引き戻す、またはカテーテルハンドルよりも近位側に引く螺旋方向を有することが望ましい場合がある。これにより、身体から残がいを除去することが便利になる。
【0303】
切断装置は、装置の切断部分を組織に係合させる装置を含んでもよい。一実施形態では、バルーン、場合によってかん流バルーンは、装置の非切断側に取り付けられる。バルーンが膨張すると、カッターは横方向に移動されて、組織に係合される。心臓からの流れを維持するため、バルーン膨張および切断は、大動脈弁が閉じている間に行われてもよい。これは、心エコー検査法または同様のセンシング技術によって患者の心拍数に同期することができ、または患者を一時的なペースメーカーの下に置き、ペースメーカー出力を用いてバルーンの膨張時間を計ることができる。膨張媒体は液体またはガスであることができる。ヘリウムまたはCO
2などのガスにより、小さな管腔を通して最も迅速な膨張時間が可能になる。ヘリウムはCO
2よりもさらに迅速な膨張時間を提供するが、CO
2はバルーンが破裂した場合により良好に血液に溶解することができる。
【0304】
好ましくは、かみ合い方法によって、
図53Aに示すように流れがかみ合い装置の周りを通過することが可能になる。これを行う1つの方法は、
図53Aを参照して上述したような、カテーテルを天然弁に対して外向きに拡張させる単一または複数の金属ストラップによるものである。ストラップは、ストラップの取付点を互いの方に移動させることにより、またはカテーテルの近位部分を介してストラップをスライドさせることにより、カテーテルシャフトから離れるように作られてもよい。あるいは、ストラップは自己拡張性に作られてもよく、送り出しの間、シースまたは他の手段によって抑制されてもよい。自己拡張するシースに収められた装置は、単純なストラップに加えて他の幾何学的形状からなってもよい。例えば、拡張装置を、回収可能な自己拡張ステントに類似した編まれたメッシュから形成することができる。これらのストラップは、約0.005〜0.020インチの断面および約40〜80mmの長さを有する。
【0305】
流れがカテーテルを越えることができるようにする他のかみ合い方法は、操舵可能なカテーテル機構を含む。切断装置の窓が組織に押し付けられるように装置を曲げることができ、同時にこの力は、反対方向で組織に当てられたカテーテルの部分によって対抗される。フォックスホロー社から市販されているDCA装置は、この機構を用いて組織にかみ合う。
【0306】
かみ合い手段は、カテーテルハンドルからのサイズの所定範囲に対して調整可能であってもよい。切断器具は、弁輪に前進されるか後退され、後に続く切断は操作者によって行われる。カテーテルは、各切断の間にわずかに回転されてもよい。新たな輪が、かみ合い手段が輪を通るように十分な大きさで切り取られると、操作者は、かみ合い手段の調節またはサイズに対応するサイズまで輪が拡大されたことを知る。これが、恒久的な人工弁が移植された後の適切な流れのために十分に大きな断面積である場合、次に、切断装置が除去されてもよい。より大きな輪が望まれる場合、かみ合い手段は、調節されるか、またはより大きなサイズと交換されてもよく、また、プロセスは繰り返される。ワイヤストラップの遠位端が切断装置の遠位端に取り付けられ、ワイヤストラップの近位端が、切断器具シャフトの上に取り付けられたシースの遠位端に取り付けられている場合、シースの前進によって、ワイヤストラップが離れ、組織にかみ合う。シースが前進される距離は、かみ合い機構が通る直径に対応する。カッターシャフト上のマークは、かみ合い手段がどの直径に拡張するかを操作者に示す。好ましくは、かみ合い手段は少なくとも約2cmまで拡張可能である。これにより、3cm
2を越える有効オリフィス面積が提供される。
【0307】
切断装置530は、造影剤または薬剤注入用の管腔を含んでもよい。造影剤の注入により、X線透視法、MRI、NMR、または治療的心臓学で使用される他の画像化技術に基づいて、操作者が、大動脈基部および心室に対する切断範囲のサイズおよび位置を見ることができるようになる。薬剤の注入は、心臓または心室がいずれかの所望の効果を有するようにするのに使用されてもよい。抗生物質などの特定の薬剤は、心内膜炎のリスクを低減する、または心内膜炎によって損傷した弁を治療するのに役立つことができる。他の薬剤は、医師が所望するように、心拍数または心臓出力を増減させてもよい。膨張管腔の直径は、好ましくは0.010から0.060インチである。
【0308】
弁34が除去されると、処置を画像化することは重要である。操作者は、大動脈壁および大動脈基部に対する切断の位置を可視化できなければならない。切断処置を安全に行うことができるようにするため、X線透視法などの二次元画像化技術を複数の軸上で行う必要がある。操作者は、大動脈壁または心室を切り離さないように注意しなければならない。ヒス束などの輪の近傍の電気伝導経路は、特別な対応および注意を必要とすることがある。僧帽弁の前部リーフレットと大動脈弁との間の範囲は損傷を受けてはならず、また、僧帽弁リーフレットおよび腱策は回避されなければならない。処置の間にこれらおよび他の障害を可視化するため、多くの一般的な画像化技術が、処置の間、または処置の前の進路計画作成ステップにおいて用いられてもよい。心エコー検査法は、必要な範囲を画像化するために、いくつかの形態の1つで使用されてもよい。TEE、すなわち経食道心エコー検査法は、処置開始前および処置中の弁範囲の画像化に特に有用である場合がある。TTEも、患者に対する侵襲性がより低いという利益とともに使用されてもよいが、画像品質が低く、操作者の手が患者の胸の近傍になければいけないという点で制限されている。これは、X線透視法と他の画像化技術を同時に使用することが、操作者を不安にさせる。処置の間、X線透視法、MRI、またはNMR、あるいは同様の画像化技術が、新たに切断された開口部のサイズおよび形状、ならびに天然の解剖学的構造の関連する構造すべてに対する開口部の位置を可視化するために使用されてもよい。
【0309】
切断装置830は、単純なレバー式ハンドルによって作動され、ハンドルが握られると近位方向または遠位方向のいずれかにカッターを移動させることができる。それに加えて、ハンドルは、ハンドルが固定の位置で保持されている間にカテーテルが回転することを可能にする、回転スイベルまたはユニオン継手を含むことができる。さらに、カテーテルの回転機能を、ハンドルの作動に組み入れることができる。ハンドル機構は、カッターが作動されるたびにカテーテルが所定量回転するように、設計または調節することができる。これは、単純なカムおよび輪止め機構で、またはステップモータを用いて達成することができる。切断機構の動作は、操作者の疲労を最小限にし、かつ装置の過負荷を防ぐため、電気的にまたは空気圧によって動力を得ることもできる。この場合、操作者は、単にボタンを押して切断機能を作動させる。ハンドルは、さらに、カテーテルシャフト内部からの残がいの除去を補助する吸引管腔、および造影剤または薬剤、もしくは食塩水などの流体を注入する注入管腔を含んでもよい。装置にエネルギーを提供する他の手段としては、除去される範囲に高速度で接触して石灰化弁に高度な力を提供するインパクト駆動またははずみ駆動が挙げられる。駆動または推進方法は、物体を石灰化した弁の中へまたは貫通して駆動する油圧力を生成するために、ガス放出または化学反応を含んでもよい。他の予測可能な力として、物体を石灰化した弁の中へまたは貫通して駆動するために、ばね機構の予圧、および保存されたエネルギーの放出を含んでいてもよい。
【0310】
レーザーまたは加熱ワイヤを使用して弁を分断することもできる。重度に石灰化した範囲は、切断工具で除去する前にキャビテーション超音波エネルギーで破壊することができ、または、石灰化範囲を超音波で破壊し、残がいをフィルタ内に捕捉してもよい。同様に、カルシウムを溶解または解体するために化合物を使用することができる。
【0311】
図57I〜57Lを参照すると、弁移植ステップは、上述したような膨張可能な弁100、またはEdwars/PVT、CoreValveの自己拡張システムなどのステントベースの弁を設置するステップを含む。このステップは、カリフォルニア州のダイレクト・フロー・メディカル社のLashinskiおよびPVT/HeartPortのAndersonによる過去の出願に記載されている。
【0312】
次に
図57M〜57Oを参照すると、図示される実施形態における最終ステップとして、新たな弁の移植が成功した後に除去される2つの物体は、塞栓または残がいを保持していてもよい濾過装置522、およびその送り出しカテーテルである。このステップは、フィルタ内で捕捉されていない何らかの物体を捕捉するため、吸引および/または吸入を必要としてもよい。フィルタが一時弁520を通って移動すると、フィルタ524は、一時弁520が除去中に保持または移動するかもしれない粒子を捕捉するため、再展開される必要がある場合がある。一時弁520が収縮されるか、またはシース内に引き戻されると、フィルタ524およびその送り出しシステムは、新たな弁100を適切に機能させたまま、除去されてもよい。
【0313】
図示される実施形態は、流出路が移植ステップの間中阻害されない、経皮的な人工弁アセンブリの移植方法を提供する。心不全患者では、大動脈出力の阻害は、死亡などの重大な結果を有する場合がある。大動脈出力の阻害に関する重大性の低い別の問題は、収縮する心室が、大きな圧力を装置にかけて、配置を非常に困難にし、また場合によっては、装置が完全に展開または固定される前に、装置を所望の配置から押しやる恐れがあることである。この問題を克服するため、いくつかのケースでは患者の拍動が速められてきた。患者の心拍数を心臓が有効に血液を送り出さないほど増加させることによって。これは、この膨張可能な装置の移植中には不要かもしれない。
【0314】
対照的に、Andersenファミリーの米国特許(第5411552号、第6168614号、第6582462号)に記載されるような装置により、展開中に大動脈弁が完全またはほぼ完全に阻害される。例えば、バルーン拡張可能な弁構造が拡張すると、バルーンは大動脈の出力を阻害する。一実施形態では、Andersenは、バルーン弁形成で一般的であったように、弁を展開するための複数のバルーンの使用について記載している。複数のバルーンを使用することは、バルーンが、その本来のほぼ丸い断面形状をとる圧力まで十分に膨張されている場合、バルーンの間を流体が流れるための非常に小さな経路しか提供しない。しかし、バルーンが部分的に膨張されるか、膨張プロセスの間は、複数のバルーンは管腔に一致してそれを閉塞し、その結果、完全またはほぼ完全に流出路が閉塞する。
【0315】
AndersenおよびLeonhardt(第6582462号および第5957949号)に開示された自己拡張弁支持構造は、それらが展開されると大動脈の流出も阻害する。シースが装置の遠位部分から後退されると、装置は開き、天然の血管に一致し始める。弁輪または天然の解剖学的構造の他の部分を封止するように設計された弁構造の部分は、天然の解剖学的構造と接触する。同時に、装置の近位部分は、依然として展開用カテーテル内に拘束されたままで、弁が開くのを防ぐ。展開のこの段階では、装置は有効に大動脈出力のすべてを阻害する。
【0316】
流れを阻害することなく人工弁の移植を可能にする現行の技術の最も単純な拡大は、バルーン拡張可能な支持構造とともに、かん流バルーンを使用することである。かん流バルーンは、展開中にバルーンによって顕著なかん流を可能にするような大きさのバルーンを介して管腔を有する。かん流バルーン技術は、十分に開発され知られている。Wasicekらは、かん流バルーン付きカテーテルを第6117106号に記載している。
【0317】
自己拡張弁支持構造を用いることで、作用を受けた弁を通して自己拡張支持構造の外部に配置されたチューブ部分を使用して、弁を越える流れを維持することが可能である。自己拡張支持構造が完全に展開された後、チューブ部分を引き抜くことができる。チューブ部分は、少なくとも自己拡張弁支持構造の封止部分よりも長く、その引き抜きを可能にするため、好ましくは細長い部材に取り付けられる。あるいは、チューブ部分は弁支持構造の内部に配置することができる。この場合、チューブ部分は、流体(通常は血液)が展開用カテーテルに流入することを可能にする。展開用カテーテルのかん流穴により、血液が流出して天然の導管に入ることが可能になる。
【0318】
現在の膨張可能な人工弁または本明細書に記載の現場形成支持構造に関連して、流出が維持されることを可能にする、異なる展開処置が使用される。この展開方法は、いくつかの自己拡張する経皮的弁とともに使用することができる。展開方法は、大動脈弁置換に関して以下のように説明される。その処置は、他の冠状静脈弁に容易に適合させることができる。展開用カテーテルは大動脈弁を越えて前進される。人工弁および膨張可能なカフは心室内で露出するが、展開制御ワイヤに取り付けられたままである。膨張可能なカフの遠位端は膨張される。シースが十分に遠くまで後退されるので、展開制御ワイヤによって人工弁が機能することができるようになる。その後、装置は天然弁輪を越えて引き抜かれる。その後、装置は完全に膨張される。弁機能は、様々な診断法を使用して試験されてもよい。弁機能が十分な場合、膨張媒体は恒久的な膨張媒体と交換されてもよい。その後、展開制御ワイヤと膨張管腔とが分断され、カテーテルが引き抜かれる。この処置では、流出路を維持するのに重要なのは、展開制御ワイヤを使用することである。展開制御ワイヤにより、装置が所望の位置で恒久的に配置される前に、装置を展開シースから適切な距離移動させることが可能になる。他の展開制御装置も、同様の効果を有するように使用することができる。例えば、格納式シースと長手方向のスロットを有する移植片との間のせん断障壁として使用されるシースは、同様の機能を生じるように構成することができる。装置移植の前に、天然弁輪をバルーンで予め拡張させることが望ましい場合がある。これは、装置を移植し、弁範囲を予め調整するための、より大きな有効オリフィス面積を可能にしてもよい。第二に、移植の後、装置が輪の壁に並置され適切に収まっていることを確認するため、追加の拡張が望ましい場合がある。
【0319】
現在の経皮的な弁置換装置は、弁の配置を固定する前に弁の機能を試験する手段を提供しない。[上述した図面への言及を挿入]これらの装置はある位置に展開され、その位置が不適切な場合、または弁が良好な結果を有さない場合、弁を除去することができない。本発明は、弁を配置するステップと、弁に能力を与えるステップと、弁の機能を試験するステップと、最後に弁を展開するステップとからなる弁移植方法を含む。
【0320】
現在の膨張可能な人工弁または現場形成カフに関して、配置、能力付与、試験、および再配置または展開のステップからなる、独自の展開処置が使用される。この展開方法はまた、自己拡張支持構造を備えた弁または他の移植可能な装置に適合させることもできる。展開方法は、大動脈弁置換に関して以下のように説明される。その処置は、他の冠状静脈弁に容易に適合されることができる。展開用カテーテルは大動脈弁を越えて前進される。人工弁および膨張可能なカフは心室内で露出するが、展開制御ワイヤに取り付けられたままである。膨張可能なカフの遠位端は膨張される。シースが十分に遠くまで後退されるので、展開制御ワイヤによって人工弁が機能することができるようになる。その後、装置は天然弁輪を越えて引き抜かれる。その後、装置は、弁が機能できるようにするために完全に膨張される。弁機能は、様々な診断法を使用して試験されてもよい。弁機能、サイズ決めまたは固定が十分でないか理想的でない場合、弁は、部分的に収縮され、または前進もしくは後退され、次に再膨張されてもよく、あるいは弁は、完全に収縮され、展開用カテーテルまたは別のわずかに大きなカテーテル内に後退され、除去されてもよい。弁が、容認できるようにまたは理想的に配置され、サイズ決めされ、および固定されると、膨張媒体が、ゲル化、固化、または硬化してもよい恒久的な膨張媒体と交換されてもよい。その後、膨張カテーテルと展開制御ワイヤとが分断され、カテーテルは除去され、弁を完全に配備する。
【0321】
既知の自己拡張性の回収可能なステントからの技術が弁支持構造に適合される場合、ステントは、部分的に展開された状態から単に回収可能である。単に弁を支持し保持するのに十分な長さの自己拡張支持構造は、弁が完全に展開されるまで、弁機能の試験を可能にしない。これは、装置内に収容された支持構造の近位部分が、弁の正常な機能を防ぐためである。支持構造の近位側延長部を付加して、展開制御装置として作用するようにして、依然として弁の除去または再配置が可能な構成において弁機能の試験を可能にすることができる。細胞構造がステントを通して血流が流れることができるのに十分に開いている場合、近位側延長部分は、編まれたまたはレーザー切断されたステント構造の形態であることができる。大動脈弁の応用例では、近位側延長部の必要な長さは、おそらく冠状動脈の心門を越えて延びるものであろう。この場合、ステント構造の形状は、冠状動脈への妨げられない流れを可能にするか、または冠状動脈への適切な流れを可能にするように設計されてもよい。別の可能性は、複数の個々のワイヤとして作用するように、近位側延長部を設計することである。レーザー切断によって、あるいは編組パターンを変えることによって、これを行うことができる。これによって、さらに、移植片の近位部分が展開制御装置の役割を果たすことが可能になる。
【0322】
自己拡張ステントを再捕捉する方法は、Johnsonらの米国特許第5817102号によって以下のように説明される。
【0323】
本体管腔内で半径方向に自己拡張するステントを展開するための装置が提供される。その装置は、半径方向に自己拡張するステントを、自己拡張ステントがその軸方向長さ全体にわたって半径が低減された送り出し形態に弾性的に圧縮するステント制限手段を含む。その装置は、近位端、遠位端および遠位端近傍の遠位領域を有する細長い可撓性のステント送り出し装置を含む。遠位領域は、半径方向に自己拡張するステントを身体管腔に送り出し、身体管腔内の治療部位で、遠位領域に沿って送り出し装置を取り囲んでステントを配置する際に使用される。送り出し装置の近位端は身体外に残る。軸方向拘束手段が、送り出し装置の遠位領域にわたって配置される。制御手段が、送り出し装置および制限手段に関連付けられて動作可能である。制御手段は、制限位置に向かってまた離れる方向に、制限手段が自己拡張ステントを圧縮する送り出し形態から送り出し形態へ、送り出し装置に対して軸方向に制限手段を移動させ、軸方向拘束手段と表面でかみ合うようにステントを付勢する。拘束手段は、表面のかみ合いにより、制限手段が制限位置から軸方向に離れて移動して、半径方向の自己拡張のためにステントを解放すると、自己拡張ステントが展開装置と軸方向で整列するように維持するのに役立つ。
【0324】
好ましくは、ステント送り出し装置は、ガイドワイヤを受け入れる中央の管腔を備えた、細長い可変長の内部管材料である。ステント制限手段は、内部管材料を収容するための管腔を有する、細長い可変長の管材料であることができる。第2の(または外側)管材料は、ステントを取り囲んでそれを制限する。
【0325】
好ましい軸方向拘束手段は、遠位領域に沿って内部管材料を取り囲む柔らかいスリーブである。所望であれば、接着剤をスリーブの外表面に適用することができる。あるいは、軸方向拘束手段は、遠位領域に沿って配置された複数の細長いストリップからなることができ、所望であれば、接着剤がストリップの半径方向外側表面に適用される。
【0326】
いずれにしても、外部管材料がステントを取り囲んでステントを半径方向に圧縮する限り、ステントをスリーブまたはストリップと表面かみ合いの状態で維持することもできる。外部管材料が軸方向に引き抜かれて、ステントの一部が半径方向に自己拡張できるようにされたとき、ステントの残りの部分は、スリーブまたはストリップに制限されたままである。その結果、ステントは外部管材料によって軸方向に移動しない。むしろ、ステントは、内部管材料に対して軸方向にほぼ固定されたままである。この構造はいくつかの利点を提供する。第1に、内部管材料は、半径方向に自己拡張するステントを、展開中に所望の軸方向位置で積極的に維持する手段として使用することができる。内部管材料は、それ自体が、展開の前および展開中の、ステント位置の信頼性の高いインジケータとして使用することができる。さらに、部分的な展開の後にステントを後退させる必要が生じた場合、外部管材料は、ほとんどステントを一緒に運ぶことなく、制限位置内に戻ることができる。
【0327】
現在の経皮的な弁置換装置は、取外し可能でも再配置可能でもない。これらの装置は、ある位置で展開され、その位置が不適切な場合、または弁が良好な結果を有さない場合、経皮的に弁を除去し、再捕捉し、または再配置することができない。本発明は、人工弁の経皮的な再配置、再捕捉、および/または除去を容易にする、移植方法を含む。
【0328】
バルーン拡張可能な支持構造は、再捕捉、再配置、または除去できるようにすることがさらに困難である。1つの方法は、ニチノールなどの形状記憶合金を使用することである。この場合、ニチノールは使用されると体温でマルテンサイト相になる。マルテンサイトニチノールは、超弾性ではないが柔軟かつ適合性がある。それは、降伏強さが非常に低いことを除けば、バルーン拡張可能な支持構造材料としてある程度適切である。これは、使用されるには比較的厚い断面が必要とされる。バルーン拡張可能な支持構造は、Andersenが記載している方法など、所望の任意の方法によって展開される。弁の位置または性能が受容可能でない場合、支持構造は、その温度を変えることによって収縮させて、この場合、より小さく半径方向につぶれた形状である、予め設定された「記憶していた」形状に戻ってもよい。温度制御媒体は、食塩水などの流体であることができ、カテーテルまたはバルーンが支持構造を通して挿入されたまま送り出すことができる。これにより、弁または弁支持構造がバルーンまたはカテーテル上でつぶれて、除去または場合によっては再展開が可能になる。他の形状記憶材料が利用可能であり、バルーン拡張可能な支持構造として使用するためのより望ましい機械的特性を有していてもよい。場合によっては、これらの合金の生体適合性は未知である。
【0329】
再捕捉可能な自己拡張弁を構成することが可能である。これは、再捕捉可能な自己拡張ステントからの技術を用いて行うことができる。通常、これらの装置は、超弾性または高強度の合金から編まれ、比較的低い半径方向の強度を有する。シース内に引き戻されると、それらはその直径上でつぶれて長くされ、再捕捉性を促進する。編まれた自己拡張構造は、すべてが再捕捉可能なわけではない。我々の知る限りでは、この技術はこれまで弁支持構造に適用されていない。
【0330】
現在の膨張可能な人工弁または現場形成支持構造に関して、装置を再配置、再捕捉、および除去可能にすることができる、異なる展開処置が用いられる。この展開方法は、いくつかの自己拡張する経皮的な弁支持構造とともに用いることもできる。展開方法は、大動脈弁置換に関して以下のように説明される。その処置は、他の冠状静脈弁に容易に適合させることができる。展開用カテーテルは大動脈弁を越えて前進される。人工弁および膨張可能なカフは心室内で露出するが、展開制御ワイヤに取り付けられたままである。膨張可能なカフの遠位端は膨張される。シースが十分に遠くまで後退されるので、展開制御ワイヤによって人工弁が機能することができるようになる。その後、装置は天然弁輪を越えて引き抜かれる。その後、装置は完全に膨張される。弁機能は、様々な診断法を使用して試験されてもよい。弁機能、サイズ決め、または固定が十分でないか理想的でない場合、弁は、部分的に収縮され、または前進もしくは後退され、次に再膨張されてもよく、あるいは弁は、完全に収縮され、展開用カテーテルまたは別のわずかに大きなカテーテル内に後退され、除去されてもよい。弁が、容認できるようにまたは理想的に配置され、サイズ決めされ、および固定されると、膨張媒体が、ゲル化、固化、または硬化してもよい恒久的な膨張媒体と交換されてもよい。その後、膨張カテーテルと展開制御ワイヤとが分断され、カテーテルは除去される。この展開方法は、装置を再配置、再捕捉、および除去する能力など、多くの利点を提供する。
【0331】
代替の送り出し方法では、(外科的)経尖アクセスにより、装置が低侵襲性の外科的処置で配置されることが可能になる。これは、依然として鼓動している心臓の処置であるが、アクセス切開範囲を制限する。心尖を通ってチューブが挿入されて、順行アプローチから大動脈弁に装置が導入されてもよい。これにより、カテーテル送り出しで上述したのと同様の方法で、装置が配置および/または移動されることが可能になる。
【0332】
膨張可能なカフを備えた人工弁も外科的に送り出されてもよい。膨張可能なカフは、弁を天然の解剖学的構造に封止する助けとなる。この構造の弁は、静脈、肺、尿管、または、弁もしくは流れ制御装置の移植によって利益を得ることが知られている身体の任意の範囲はもちろん、任意の冠状動脈弁位置に配置されてもよい。一実施形態では、天然弁は、既知の冠状動脈人工弁と同様に適所で縫合される。その後、膨張可能なカフは拡張されて、天然の解剖学的構造と緊密な封止を形成する。他の実施形態では、弁は所望の場所に配置され、弁は拡張される。弁は、天然の解剖学的構造との物理的干渉によって適所に保持される。移植片の幾何学的形状は、上述した膨張可能な人工弁のための経皮的な適用に類似していてもよい。
【0333】
弁は、縫合またはステープルなどの追加の方法によってさらに固定されてもよい。外科的処置も、低侵襲性の方法で行われてもよく、例えば、弁取付けプロセスはそれほど重要ではないので、心房または大動脈のより小さな開口部を使用して弁を移植することができる。他の実施形態では、弁は低侵襲性の外科装置によって移植されてもよい。大動脈弁用途のこの構造の装置は、心尖の近傍の胸壁および心室壁を穿孔する。その後、装置は、本発明の経皮的実施形態と一致するやり方で天然弁輪を越えて前進され、移植される。この処置は、心エコー検査法、血管造影法、胸部検査法、または一般に知られている他の適切な可視化方法によって案内されてもよい。
【0334】
ワンステップ移植
部位において装置をワンステップで展開することによって、新たな弁を配置しながら天然弁を排除することができる。装置は、展開中に新たな構造下で古い弁を捕捉することによってそれを排除するため、管状の双曲線に類似した形状を有してもよいと考えられる。これは、バルーンで展開されるステントシステムによる移植中に血管が閉塞されない場合、患者の快適さを助けることができる。シースに収められた装置が、血管を通ってカテーテルによって大動脈弁を越えて送り出されると、それは、シースを部分的または完全に除去し、また天然弁のところもしくはその下での適切な配置を可能にすることによって、開かれるか露出される。血管に入ると、装置を近位側または遠位側に移動させることができ、また、流体がカフに導入されて、形状および構造的一体性を提供することができる。適切な配置または除去のため、流体を追加または回収することが必要な場合がある。カフが適切に配置され、流体が追加されて構造を作り、装置が血管壁を封止すると、送り出しカテーテルは、機能するようになった弁装置を恒久的な移植片として残して、分断され除去されてもよい。分断方法は、取付部を切断し、ねじを回転させ、ピンを引き抜きまたはせん断し、連結された要素を機械的に切り離し、溶融接合部を電気的に分離し、捕捉されたシリンダをチューブから除去し、加工領域を壊し、収集機構を除去して機械的接合部を露出させること、または当業界で既知の他の多くの技術を含んでもよい。
【0335】
2ステップ移植
2ステップで弁構造を移植することが望ましい場合がある。安全にかつ漏れなしで弁を天然の組織に取り付けることが望ましい。また、長期間血流を阻害することを回避するのが望ましい。これらの理由から、最初に保持・封止装置を第1ステップとして移植し、次に、第2ステップとして、取り付けられた弁とともにカフを移植することが望ましい場合がある。保持・封止装置は、適所で拡張されるステント様構造、または弁が二次的に取り付けられるリング状の支持構造であることができる。リング状構造は、上述したような流体膨張方法を利用することができ、また別個のシステムおよびカテーテルであることができる。それは、固定のためのかえしを含むことができる。さらに、血液が弁の周りで漏れるのを防ぐ助けとなる封止材料を含むこともできる。装置は、支持構造を取り付ける機構を含むことができる。保持機構は、支持体が受け入れる肩部またはチャネルであることができる。適所に置かれると、弁の展開は、上述したワンステップ移植で言及したように行われることができる。
【0336】
他の実施形態では、ステントなどの支持構造は1つのステップで送り出され、弁は後のステップで送り出される。その後、弁は支持構造に取り付けられる。支持構造は、天然の血管との物理的干渉を生じるように設計された、拡張可能な足場またはステントであってもよい。支持構造は、他の実施形態に記載されるような天然の解剖学的構造の幾何学的形状を使用することもできる。
【0337】
固定後のバルーンの収縮
他の実施形態では、バルーン膨張ステップが用いられて装置が使用可能にされ、支持構造およびアンカー装置は後のステップで送り出される。一実施形態では、支持構造はバルーン拡張可能なステントである。そのステントは膨張したカフの内部に配置される。ステントはまた、カフから近位方向または遠位方向に拡張してもよい。1つ以上のステントを使用することができる。好ましくは、ステントは、移植片の弁部分よりも近位側に配置され、ステントは、移植片の弁部分よりも遠位側に配置され、またはステントの一部は弁を越えて延びる。一実施形態では、バルーンは移植片の一部として収縮された状態で残される。バルーンは、封止機構が不要な場合を除いて、本願に記載した機構によってカテーテルから分断される。他の分離機構も可能である。他の実施形態では、バルーンは、収縮された後、装置から除去される。バルーンは、カフの中でチャネル内に配置され、単に収縮後に後退されてもよい。あるいは、バルーンは、バルーンが膨張すると壊れるように設計された縫合で移植片に取り付けられてもよい。バルーンが膨張され、および収縮された後、バルーンを後退させることができる。
【0338】
装置上のステント
カフに取り付けられた弁を第1ステップとして送り出し、第2ステップとして拡張可能な構造を送り出す方法。その構造は、カフの内部において同軸でかみ合った、ステントまたは広げることが可能なバンドであってもよい。カフは、膨張可能なカフを使用して配置されてもよく、装置がカテーテルから分断された後、カフは膨張したままである。この場合、膨張は、一時的な固定および恒久的な封止の機能を果たす。あるいは、カフは取外し可能なバルーンを含んでもよい。この実施形態では、恒久的な支持構造が展開されるまで、膨張は一時的な支持手段を提供する。しかし、他の代替例は、膨張を提供しない、弁とカフのアセンブリを含む。カフは、ある程度人工器官の拡張を引き起こすように形成された展開制御ワイヤを使用して、適所に保持される。その後、ステントまたは拡張可能な支持構造は、カフ内における同軸の配置まで送り出される。その後、ステントが展開されて装置を固定する。
【0339】
生体内での支持構造の作製
本発明は、患者の体内で支持構造を作製する方法を含む。好ましい実施形態は、鋳造み方法によって支持構造を製造することを含む。この方法では、流体が、弁に取り付けられて経皮的に送り出された型すなわちカフに注入される。その後、液体は、ゲル化、硬化、または凝固して支持構造を形成する。
【0340】
支持構造を生体内で製造する他の方法がある。一実施形態では、支持構造は多数の小さな固体粒子から組み立てられることができる。粒子は、スレッドに張力がかけられるとスレッドおよび粒子が固い構造を形成するような、粒子によって織られたスレッドなど、様々な手段によって互いに取り付けられることができる。粒子は、焼結法、接着剤、または別の方法によって互いに取り付けられることができる。支持構造はまた、ワイヤから適所に製造することができ、それは、編まれて生体内で支持構造の形状に挿入される。
【0341】
支持構造はまた、弁の適切な部分上におけるカルシウム堆積物の形成などの生体反応を用いて適所に製造することもできる。ナノマシンによって支持構造を組み立てることができる。
【0342】
支持構造はまた、型内に収容されない、凝固する、ゲル化する、または硬化する流体から製造することができる。その流体は、弁の外側表面、または弁が生体内で適用されるべき範囲からずれた内側表面上の範囲に適用されることができる。支持構造は、触媒の添加、熱、冷却、または他のエネルギー源によって、凝固する、硬化する、またはより堅くなる材料から製造することができる。材料は、弁が設置され、次に生体内で作動される前に、人工弁の外側表面に適用することができる。支持構造は、電子エネルギーによって励起または活性化されることができる。このソースはまた、磁界中で凝固する懸濁液を通して磁石によって活性化することもできる。
【0343】
非構造要素への弁の取り付け
本発明では、弁は非構造要素にのみ取り付けられる。好ましい実施形態では、非構造要素は縫い合わせカフまたは型である。支持構造は後に型内で製造される。非構造要素のみに恒久的に取り付けられた弁の他の例が可能である。弁は、布の支持されていない管状部分に取り付けることができる。布移植片および弁を患者の中で配置した後、ステントまたは他の支持構造を移植片とともに展開して、移植片を適所に固定することができる。ステントは、移植片を穿刺し、装置をしっかり天然の組織に固定する、かえしまたは牙を利用することができる。ステントはまた、部分的にのみ移植片に重なるように配置することもできる。このように、かえしまたは牙が移植片を穿刺しないように配置されることができる。他の実施形態では、交連支持ポストまたはかえし、もしくはアンカーなどの剛性のある構造要素がカフに取り付けられ、非構造要素によって送り出される。
【0344】
上述した様々な方法および技術は、本発明を実施する多数の方法を提供する。もちおん、記載された目的または利点の必ずしもすべてが、本明細書に記載されたいずれかの特定の実施形態にしたがって達成されなくてもよいことを理解すべきである。したがって、例えば、当業者は、方法は、本明細書に教示または提示したような他の目的または利点を必ずしも達成することなく、本明細書に教示したような1つの利点または複数の利点を達成する、または最適化するようなやり方で実施されてもよいことを理解するであろう。
【0345】
さらに、当業者は、本明細書に開示された様々な実施形態からの様々な特徴が互換可能であることを理解するであろう。同様に、上述した様々な特徴およびステップ、ならびにそのような特徴またはステップに対する他の等価物は、本明細書に記載の原理にしたがって方法を実施するために、当業者によって混ぜ合わされ組み合わせられることができる。さらに、本明細書に記載し例示した方法は、記載した特定の一連の動作に限定されず、また、説明した動作をすべて実施することに必ずしも限定されない。他の一連の事象または動作、または全てではない事象、もしくは事象の同時発生が、本発明の実施形態を実施する際に利用されてもよい。
【0346】
本発明を特定の実施形態および実施例に関して開示してきたが、当業者は、本発明は特定して開示した実施形態を越えて、他の代替実施形態、および/または用途および明白な変形例ならびにその等価物に及ぶことを理解するであろう。したがって、本発明は、本明細書の好ましい実施形態の特定の開示によって制限されるものではない。