(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一般的な閉回路に含有された二相の作動流体により、熱源(11)から吸熱し、該熱を冷熱源(12)へと放熱するよう構成された、キャピラリポンプ型熱輸送装置であって、
入口と出口、および、液相の流体をキャピラリポンプ現象により吸い上げるミクロ多孔質体(10)を有する、少なくとも1つの蒸発器(1)と、
入口と出口を有する、少なくとも1つの凝縮器(2)と、
内部チャンバ(30)、および、少なくとも1つの入口ポートおよび/または出口ポート(31;31a、31b)を有する、リザーバ(3)と、
前記蒸発器(1)の出口を前記凝縮器(2)の入口に連結する、主として蒸気相の流体のための第1の伝達通路(4)と、
前記凝縮器(2)の出口を前記リザーバ(3)および前記蒸発器(1)の入口に連結する、主として液相の流体のための第2の伝達通路(5)と、
を備え、
前記リザーバ(3)の内部チャンバ(30)と前記蒸発器(1)のミクロ多孔質体(10)との間に、前記蒸発器(1)内の流体が、前記リザーバ(3)の内部チャンバ(30)に逆流することを防止するための逆流防止装置(6)をさらに備え、かつ、該逆流防止装置は、重力の影響下で使用され、浮力によって支持部(66)に当接して、上流へ流れる液体の通路を閉鎖する閉状態となる方向に押し戻されており、かつ、前記キャピラリポンプ現象による吸引効果により下流へと引き寄せられ、液体の下流への流れを可能とする開状態とするとともに、気泡を通過させて、ガスロックの発生を阻止するフロート(60)を備えることを特徴とする、
熱輸送装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、キャピラリポンプ型熱輸送装置における、二相流体ループの起動時および作動時の信頼性を高めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一般的な閉回路に含有された二相の作動流体により、熱源から吸熱し、該熱を冷熱源へと放熱するよう構成された、キャピラリポンプ(毛細管力駆動)型の熱輸送装置を対象とする。該装置は、
−入口と出口、および、液相の流体をキャピラリポンプ現象(毛細管力)により吸い上げるミクロ多孔質体を有する、少なくとも1つの蒸発器と、
−入口と出口を有する、少なくとも1つの凝縮器と、
−内部チャンバ、および、少なくとも1つの入口ポートおよび/または出口ポートを有し、気相部を液相部の上に位置させている、リザーバと、
−前記蒸発器の出口を前記凝縮器の入口に連結する、主として蒸気相の流体のための第1の伝達通路と、
−前記凝縮器の出口を前記リザーバおよび前記蒸発器の入口に連結する、主として液相の流体のための第2の伝達通路、とを備える。
【0007】
特に、本発明では、該装置は、前記リザーバの前記内部チャンバと前記蒸発器の前記ミクロ多孔質体との間に配置され、前記蒸発器内にある液体が、前記リザーバの前記内部チャンバへと逆流することを防止する逆流防止装置を備える。該装置は、記装置は、主として重力の影響下で使用され、前記逆流防止装置は、浮力によって閉状態の位置に押し戻されるフロートを備える。
【0008】
このような構成により、液体が前記蒸発器から前記リザーバへと逆流することが防止される。よって、強い熱負荷下における起動がより確実に行われる。さらに、前記フロートは、気泡を通過させるため、ガスロックの発生を阻止することができる。また、蒸気やガスを通過させることが可能でありながら、該逆流防止装置は、簡単な構造でかつ信頼性が高い。
【0009】
本発明の様々な実施態様においては、以下に示す1つ以上の構成が選択的に適用されうる。
【0010】
−前記フロートは、液相における流体密度よりも低い密度を示し、液相の流体密度の60%〜90%の密度で構成される。このため、前記逆流防止装置がキャピラリポンプによる吸い上げを妨害することはない。
【0011】
−前記フロートは、ステンレススチール製とすることができ、これにより、非常に良好な耐久性を得ることができる。
【0012】
−前記逆流防止装置を、前記第2の伝達通路に配置して、前記リザーバや前記蒸発器から独立させることが可能である。
【0013】
−前記逆流防止装置を、前記リザーバの下部領域に配置して、前記リザーバと連結することが可能である。
【0014】
−前記逆流防止装置を、前記蒸発器の上部領域に配置して、前記蒸発器と連結することが可能である。
【0015】
−前記流体伝達回路を管状導管により構成することができ、これにより、低コストで装置を提供できる。
【0016】
−前記入口/出口ポートは、前記リザーバの下部領域、好ましくは該リザーバの下側側部に配置される。
【0017】
−前記第2の流体通路は、T字に結合した単一の導管、あるいは、2つの独立した導管により構成することが可能である。
【0018】
−前記リザーバは、前記入口ポート付近に入力流ディフレクタを備え、これにより、入力流による液体の混合を回避することができる。
【0019】
−前記リザーバは、流体連通を維持した複数の独立した液相チャンバを備え、これにより、前記リザーバ内に蓄えられた液体の混合を制限することができる。
【0020】
−前記リザーバは、前記複数の独立した液相チャンバを分離する仕切り構造を形成する複数の内部壁を備える。
【0021】
−前記複数の内部壁は、ハニカム構造の仕切り構造を形成することができ、この場合、コストと効率のバランスが最適化する。
【0022】
−前記熱輸送装置は、機械的ポンプを備えなくてもよい。これにより、装置の信頼性が向上する。
【0023】
−前記熱輸送装置は、さらに、起動に際してループの圧力状態を制御するため、エネルギ供給エレメントを前記リザーバに設置し、これにより、ループ起動時の信頼性をより向上させることができる。
【0024】
本発明のその他の態様、目的および作用効果は、以下、図面と共に示すいくつかの実施態様により明らかになる。ただし、これらの態様は、単なる例示であり、本発明を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、二相流体ループを用いた、キャピラリポンプ(毛細管力駆動)型熱輸送装置を示す。この装置は、入口1aと、出口1bと、キャピラリポンプを作動させる(毛細管力を駆動する)ためのミクロ多孔質体10とを有する蒸発器1を備える。このため、ミクロ多孔質体10が、入口1aと連通する中央長手方向に伸長する凹部15を取り囲んでおり、液体状態の作動流体9をリザーバ3から受け取るようになっている。
【0027】
蒸発器1は、電源部品アセンブリやその他の発熱エレメントの熱源と、たとえばジュール効果あるいはその他の手段により熱的に連結されている。
【0028】
液体で満たされたミクロ多孔質体の接触部16における熱の供給により、流体は液体状態から蒸気状態になり、移動チャンバ17、および、第1の伝達通路4を通じて排出される。第1の伝達通路4は、入口2aおよび出口2bを有する凝縮器2へと、前記蒸気を伝達する。
【0029】
蒸発器1内は、排出された蒸気の代わりに、中央凹部15からミクロ多孔質体10により吸収された液体で満たされる。なお、これが周知のキャピラリポンプ現象である。
【0030】
凝縮器2内では、熱が、蒸気相の流体から冷熱源12へと放出される。これにより、蒸気相の流体は冷却され、液相へと相変化する。すなわち凝縮が起こる。
【0031】
凝縮器2において、作動流体9の温度は、液体−蒸気の平衡温度以下まで下げられる。このような「サブ冷却」により、相当量の入熱がない限り、流体は蒸気状態に戻らなくなる。
【0032】
蒸気圧が、凝縮器2の出口2bの方向へと液体を押し、出口2bを、リザーバ3に連結された第2の伝達通路5へと開く。
【0033】
リザーバ3は、少なくとも1つの入口および/または出口ポート31を有するが、
図1の例では、入口ポート31aと出口ポート31bを独立して備えている。また、リザーバ3は、作動流体(冷却液)9で満たされた内部チャンバ30を有する。作動流体9としては、たとえばアンモニアやその他の適切な流体を選択できるが、メタノールを用いることが最も好ましい。作動流体9は、部分的には液相9a、部分的には蒸気相9bで存在する二相流体である。重力が作用する環境において、Zに沿った鉛直方向において、気相部9bは液相部9aの上に位置し、液体−蒸気の界面19が2つの相を分離する。
【0034】
該ループ内の圧力を決定するのは、この分離面19における温度であり、該圧力は、分離面19における温度での流体の飽和圧力に相当する。
【0035】
リザーバ3の底部34における液体の温度は、通常、分離面19における温度よりも低い。
【0036】
キャピラリポンプを備えたループが正しく作動するためには、分離面19における温度が、急速に変化することを回避する必要があり、特に、リザーバ3の底部の冷たい液体を上部へと移動させて、表面の温度を低下させ、さらに圧力の低下を招くことになる、液相9aの混合を回避する必要がある。
【0037】
第1および第2の流体伝達通路4、5は、管状導管により構成されることが好ましいが、その他の種類の伝達流体用の導管や輸送管を用いることもできる。
【0038】
また、第2の流体伝達通路5として、2つの独立した導管5a、5b(
図1)を用いることもできるが、T字継手を伴う単一の導管5c(
図2)を用いることもできる。
【0039】
いずれの場合でも、2つの独立した導管の場合にはリザーバ3を介して間接的に、あるいは、T字継手による単独の導管の場合には直接的に、第2の流体伝達通路5は、凝縮器の出口2bと蒸発器の入口1aとを連結する。
【0040】
本発明によれば、当該熱輸送装置は、蒸発器1内の流体が、リザーバ3の内部チャンバ30へと逆流することを防止するため、リザーバ3の内部チャンバ30と蒸発器1のミクロ多孔質体10との間に、逆流防止装置6を備える。逆流防止装置6は、前記液体が蒸発器1からリザーバ3へと戻ることを阻止する。ほんの僅かな液体が蒸発器1からリザーバ3へと逆流するだけで、ミクロ多孔質体に局部的な乾燥を引き起こす可能性があり、二相ループのキャピラリポンプ機能の停止を招くおそれがあるが、このような現象は、逆流防止装置6によって防止される。この現象は、起動時の出力が高い(数キロワットおよび/またはcm
2につき数十ワット)場合ほど顕著である。このように、逆流防止装置6は、システム起動時の信頼性をより向上させる。
【0041】
逆流防止装置6の位置は、用途や要求される最適化の程度に応じて、いくつかの適切な位置から選択することが可能である。
【0042】
図1において、逆流防止装置6は、リザーバ3と記蒸発器1とを連絡する導管5bに設置されている。このように、蒸発器3とリザーバ1がその変更が難しい既定コンポーネントである場合には、逆流防止装置6を二相ループに挿入することが可能である。
【0043】
図2に示すように、逆流防止装置6を蒸発器1に隣接させ、蒸発器1と連結した状態で設置することも可能である。これにより、該システムのサイズを最適化できる。
【0044】
図3に示すように、逆流防止装置6リザーバ3に隣接させ、後述するように、リザーバ3と連結した状態で設置することも可能である。これによっても、システムのサイズを最適化できる。
【0045】
逆流防止装置6は、液相における前記流体の密度よりも少し低い密度を有するフロート60を備え、後述するように、液体の通路を閉鎖する位置に当接可能となっている。
【0046】
ただし、逆流防止装置6は、バルブと、弁座と、該バルブを前記弁座に向けて押圧する弾性体を備えた、より古典的な逆流防止弁(図示せず)の形態をとることも可能である。この場合、前記弾性体の強さは、前記キャピラリポンプの吸い上げ力(毛細管力)を妨害することがないよう、適度である必要がある。
【0047】
逆流防止装置6が、
図4aおよび
図4bに示すようなフロートである場合、フロート60を構成するユニットは、中空体63の内部に配置され、フロート60は、この中空体63の中を、少なくとも長手方向に動くことができる。ここでの長手方向は、Zの方向であり、浮力および重力が作用する方向である。
【0048】
図示の例において、中空体63およびフロート60は、このZ軸を中心に回転対称であるが、その他の構成を採用することも可能である。
【0049】
フロート60は、環状の支持面67を有し、これに対応する環状の支持部66(径方向内側に向いたショルダー部を中空体63内に形成する)を押圧するようになっている。フロート60が支持部66を押圧すると、第2の伝達通路5の上流スペース64は、第2の伝達通路5の下流スペース65と隔絶される。これが閉状態である。
【0050】
図4aに示すように、前記ループが既定の作動状態にある場合、キャピラリポンプ(毛細管力)が作用して吸引効果をもたらすため、下流スペースの圧力が僅かに低くなり、この吸引作用Sが、フロート60を下流へと引き寄せる。これにより、支持部66の位置で液体通路が開き、液体は上流64から下流65へと流れる。
【0051】
凝縮不能な蒸気やガスによる気泡が、下流域65で前記液体に発生した場合、これらを反対方向へ(下流から上流へ)と逃がすことができ、これにより、蒸発器1への新鮮な液体の供給が遮断されることがなくなる。このように、フロート60は、気泡を通過させて、ガスロックの発生を阻止する。これはガス抜き機能とも呼ばれる。
【0052】
本発明の有利な一態様によれば、フロート60は、液相における前記流体の密度よりも低い密度を示し、(たとえば、約100℃の最高温度において)液相の流体密度の60%〜90%で構成される。このように、重さと浮力との合力により、上流方向に押す力Pが発生する。
【0053】
しかしながら、この押す力Pの強度は、キャピラリポンプ(毛細管力)の吸引作用よりも、低く抑える必要がある。
【0054】
過渡的な作動段階において、具体的には、初始動時や、排出すべき熱負荷が急激に増加した場合において、蒸発器1内に発生する蒸気の急激な増加は、凹部15に蓄えられた液体をリザーバ1の方向へと押し返す傾向がある。こうしたことは、ミクロ多孔質体(ウィックとして知られる)の乾燥を引き起こし、前記ループの作動停止を招く可能性があるため、回避しなければならない。
【0055】
図4bに示すように、蒸発器1の凹部15から液体が流れ出る場合、上流へと向かう圧力Fにより、フロート60は支持部66へと十分に押しつけられ、液体の通路を閉鎖する。その結果、リザーバ内部30へと向かう液体の逆流は、回避される。
【0056】
逆流防止装置6をリザーバ3の下部エリアに有する、特に有利な構成の1つにおいて、逆流防止装置6は、リザーバ3の底部の、出口ポート31b(
図3および
図5参照)に配置される。この場合、本体部63は、鍔部68を備える。そして鍔部68が、公知の固定手段により、しっかりとリザーバ3の底部37に固定される。さらに、底部37のポート31bの位置は、そのまま閉鎖用支持部66として使用される。
【0057】
本発明によれば、フロート60は、きわめて良好な耐久性を得るためには、ステンレススチール製であることが好ましい。
図6に示すように、フロート60は、2つのハーフシェル61、62の最外部同士を、溶接68により相互につなぎ合わせることにより、形成される。2つのハーフシェル61、62は、大気またはガス、好ましくは不活性ガスで満たされた内部チャンバ89を形成する。2つのハーフシェル61、62の壁の厚さ、および、内部チャンバ89のサイズは、フロート60全体が所望の密度となるように選択される。
【0058】
さらに、低温衝撃現象を導くリザーバ3内部における混合現象を回避するため、
図7aおよび
図7bに示すように、互いに独立するものの流体連通が維持されている複数の独立チャンバを、リザーバ内に設けることができる。より詳細には、リザーバ3内に、複数の内部壁7を配置して、前記複数の独立チャンバを仕切るようにする。
【0059】
さらに、本発明の好適な態様によれば、リザーバ3は、第2の導管5の構成に応じて、入口ポート31aまたは入口/出口ポート31付近に、入力流ディフレクタ8を備えることができる。
【0060】
入力流ディフレクタ8は、リザーバ3内に急速に到着した液体が、液体の混合を促進してしまう泡立ち現象や水流が生じることを阻止する。入力流ディフレクタ8の形状には、下向きU字状や皿蓋状などの、入力流の軌道を十分に迂回させることができる任意の形状が採用される。
【0061】
仕切り構造71は、垂直、すなわち重力の方向に向いた内部壁7で構成される。ただし、これらの内部壁7を、僅かに傾けたり、
図7aに示すようにかなり大きく傾けたりすることも可能である。
【0062】
好ましくは、仕切り構造71として、六角形メッシュのハニカム構造が選択される。
【0063】
リザーバ3の形状は任意であり、具体的には、平行六面体形状や円筒形状を採りうる。さらに、仕切り構造71を、ステンレススチール製とすることが好ましい。
【0064】
本発明の一態様によれば、前記複数の独立チャンバは、小断面通路、好ましくはリザーバの最大断面積の1/10以下の断面積を有する小断面通路により、連通される。
【0065】
本発明の好適態様によれば、仕切り構造71は、該構造が急激に温度変化しないように、該構造に熱慣性を付与する相変化物質により構成される。
【0066】
図7aおよび
図7bに示した、熱排出能力を高め、および/または、可能な限り熱源に近接させて蒸発器1を配置するために、複数の蒸発器1を平行に設置した構成も、本発明の範囲に含まれる。
【0067】
図7aの構成によれば、蒸発器1のそれぞれが、その液体供給通路に、1つずつ逆流防止装置6を備える。一方、
図7bの構成の場合、逆流防止装置6は、分岐部5e、5fの上流の蒸発器1へと向かう共通の導管5dに、1つだけ設置されており、逆流防止装置6の共通化を図ることで、複数の蒸発器1を備えたシステムのコストを最適化している。
【0068】
さらに、当該装置は、リザーバ3に設置された加熱エレメントや加圧エレメントのような、エネルギ供給エレメント36を備えることにより、起動時のループの圧力状態を制御することができる。加熱エレメントの場合、制御(CTRL)システム38が、センサ(図示せず)から伝達される温度情報および/または圧力情報に基づき、加熱エレメント36の熱供給を管理し、二相ループの起動を確実に行わせる。さらに、この制御(CTRL)システムは、相当量の熱が蒸発器へ到達した場合でも、二相ループがこれに対応できるようにすることもできる。これにより、熱散逸の必要性に対する二相ループの反応を早めることができる。したがって、ループのサイズは、排出すべき相当の熱量を考慮して最適化される。
【0069】
本発明によれば、当該装置には機械的ポンプの使用は必要とされない。ただし、本発明は、当該装置において、機械的補助ポンプの使用を排除するものではない。