【文献】
MOSOLITS S. et al,Cancer Immunol. Immunother.,51(2002),p.209-218
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)配列番号2のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号3のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、又は配列番号24のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号25のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、並びに
(b)前記重鎖可変領域及び前記軽鎖可変領域を結合するリンカーペプチドを含む、単離された一本鎖可変断片であって、
前記一本鎖可変断片は、上皮細胞接着分子(EpCAM、配列番号1)のEGF様ドメインIIに位置する配列KPEGALQNNDGLYDPDCDE(配列番号63)中のエピトープに対する特異的結合親和性を有し、癌細胞のアポトーシスを誘導する特性を示す、単離された一本鎖可変断片。
前記癌細胞が口腔癌細胞、鼻咽頭癌細胞、結腸直腸癌細胞、及び卵巣癌細胞からなる群より選択される、請求項7に記載の癌細胞及び/又は腫瘍開始細胞の増殖を阻害する組成物。
検出可能な化合物若しくは酵素により標識されている、又はリポソーム中に封入されている、請求項1、2、3若しくは4に記載の抗体又は抗原結合断片又は請求項6に記載の単離された一本鎖可変断片。
癌細胞及び/又は腫瘍開始細胞の増殖の阻害を必要とする対象における前記癌細胞及び/又は腫瘍開始細胞の増殖を阻害する医薬品の製造における、請求項1、2、3若しくは4に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片又は請求項6に記載の単離された一本鎖可変断片の使用であって、
前記抗体又は抗原結合断片又は単離された一本鎖可変断片がヒト化されている、使用。
【実施例】
【0056】
本発明の実施形態による器具、機器、方法、及びそれらに関連する結果を以下に例示するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。例示中、閲覧者に都合のよいように見出し又は小見出しが使用される場合があるが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことに注意されたい。本明細書中において提案され開示される特定の理論は、特定の行動理論又は行動方法とは無関係に本発明が本発明に従って実施される限り、その理論の是非にかかわらず本発明の範囲を限定するものではない。
【0057】
材料及び方法
細胞株及び培養
以下のヒト細胞株を使用した。口腔癌(FaDu及びSAS)、鼻咽頭癌(NPC039)、卵巣癌(SKOV-3)、肺癌(CL1-5、H441、及びH520)、膵臓癌(MIA PaCa-2)、結腸直腸癌(COLO 205、HCT116、及びSW620)、肝細胞癌(Hep3B及びMahlavu)、腎細胞癌(A498)、前立腺癌(PC3)、CCD-1112Sk(ヒト正常包皮)、及び正常鼻粘膜上皮(NNM)の初代培養株。NPCは本研究室において確立したものを用いた(Lin et al. (1993) "Characterization of seven newly established nasopharyngeal carcinoma cell lines" Lab. Invest. 68,716-727)。MahlavuはMichael Hsiao博士(Genomic Research Center、中央研究院(Academia Sinica))の厚意により入手した。正常鼻粘膜上皮(NNM)の初代培養株は鼻茸患者の外科手術から入手した(Lee et al., (2007) "Effect of Epstein-Barr virus infection on global gene expression in nasopharyngeal carcinoma" Funct. Integr. Genomics 7, 79-93)。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)は購入し(Lonza, Walkersville, MD)、EBM-2培地(Lonza, Walkersville, MD)において増殖させた。ヒト口腔癌細胞株SASはJCRB(Japanese Collection of Research Bioresources)(東京、日本)から入手した。細胞は、5%CO
2中、37°Cにおいて、10% FBS添加ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。Pan-Chyr Yang博士の提供による肺腺癌細胞株(CL1-5)(Chu et al., (1997) "Selection of invasive and metastatic subpopulations from a human lung adenocarcinoma cell line" Am J Respir Cell Mol Biol. 17, 353-60)は、10%FBS添加RPMI培地において培養した。他の細胞株はATCCから購入し、5%又は10%ウシ胎児血清(FBS)添加ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、37°Cにおいて、5%CO
2含有加湿インキュベーター内で培養した。これらの細胞をATCCのプロトコールに従って培養し、蘇生後の継代培養は6か月未満とした。FaDu(咽頭癌)。
【0058】
モノクローナル抗体の作成及びIgGの精製
SAS細胞及びEpCAM抗原に対するモノクローナル抗体を、標準的な方法を若干改変した手順により作成した(Wu et al. (2003). "Identification of a dengue virus type 2 (DEN-2) serotype-specific B-cell epitope and detection of DEN-2-immunized animal serum samples using an epitope-based peptide antigen" J. Gen. Virol. 84, 2771-2779; Liu et al. (2011) "Molecular mimicry of human endothelial cell antigen by autoantibodies to nonstructural protein 1 of dengue virus" J. Biol. Chem. 286, 9726-36)。簡潔には、雌BALB/cJマウスに対し、SASによる腹腔内免疫を3週間間隔にて4回実施した。最終追加免疫後4日目に、免疫化マウスの脾臓から脾細胞を採取し、50%ポリエチレングリコール(GIBCO, CA, USA)を使用してNSI/1-Ag4-1骨髄腫細胞と融合させた。ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)(SIGMA(商標), St. Louis, MO)及びハイブリドーマクローニング因子(ICN, Aurora, Ohio)を添加したDMEM中に融合細胞を懸濁し、続いて96ウェルプレートに蒔いた。SAS陽性だがNNM陰性である上記ハイブリドーマを、続いて限界希釈によりサブクローニングし、液体窒素中で保存した。プリスタン初回免疫BALB/cJマウスから腹水を得、mAbをタンパク質Gセファロース4Gゲル(GE Healthcare Biosciences, Pittsburgh, PA)により精製した。
【0059】
ELISA
96ウェルプレート(Corning Costar, St. Louis, MO)にSAS(口腔癌)細胞、NPC細胞、HCT116(結腸癌)細胞、SKOV3細胞(卵巣癌細胞株)、NNM細胞、及びHUVEC細胞を播種した。プレートを2%パラホルムアルデヒドにより固定し、1%ウシ血清アルブミンによりブロッキングした。プレートにOCAb9-1を添加して1時間インキュベートした。続いて0.1%(w/v)TWEEN(登録商標)20(PBST
0.1)含有PBSによりプレートを洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories)と共にさらに1時間インキュベートした。洗浄後、基質溶液o-フェニレンジアミン二塩酸塩(SIGMA(商標))と共にプレートをインキュベートした。3N HClを添加することにより反応を停止させ、マイクロプレートリーダーにより490nmにおいてプレートを読み取った。
【0060】
フローサイトメトリー
0.25%トリプシン-EDTA(1mM)(INVITROGEN(登録商標))を使用してSAS、HCT116、及びNNMを1〜3分間にわたり分離させた。細胞を蛍光標識細胞分取バッファー(1%ウシ胎児血清含有PBS)により洗浄した後、OCAb9-1及びEpAb mAb(0.00001〜1μg/mlの範囲に希釈)と共に蛍光標識細胞分取バッファー中で、1時間、4°Cでインキュベートした。二次抗体としてフィコエリトリン標識ヤギ抗マウスIgG(250倍希釈、Jackson ImmunoResearch Laboratories(West Grove, PA))を使用し、30分間にわたって4°Cにおいて実施した。最終洗浄後、細胞を1%FBS含有PBS中に再懸濁し、フローサイトメトリー(BD, San Jose, CA)により分析した。
【0061】
免疫蛍光染色
カバースリップ上で培養した細胞をパラホルムアルデヒド中に固定し、洗浄し、続いて1%ウシ血清アルブミン含有PBS中において10分間ブロッキングした。室温において、1%ウシ血清アルブミン中の一次抗体と共に細胞をインキュベートした。1時間インキュベートした後、細胞を洗浄し、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)ヤギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories)、Alexafluor488ヤギ抗マウス抗体(INVITROGEN(登録商標))、又はAlexaflour568ヤギ抗ウサギ抗体(INVITROGEN(登録商標))と共にインキュベートした。4'、6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を添加して核の対比染色を実施した。
【0062】
免疫組織化学的アッセイ
マウス又はヒト組織アレイ(Pantomics Inc., San Franscico, CA)由来の腫瘍組織を抗体と共に、続いて西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識二次抗体と共にインキュベートした。上記切片をジアミノベンジジンと共に最終インキュベートし、ヘマトキシリンにより対比染色した。ヒト結腸癌組織マイクロアレイ及び15個の主要型癌組織アッセイ(TMA BC05011及びTMA MTU391)を、BIOMAX(登録商標)から購入した。EpICDの発現をHistoQuestソフトウェア(TissueGnostics, Vienna, Austria)を使用して定量した。AQuestソフトウェア(TissueGnostics, Vienna, Austria)により、調整フィルター、カメラ、及び電動ステージ(Marzhauser Wetzlar, Germany)を用いて、標準化自動取得を実行した。イメージサイトメトリーに際し、全ての画像をTissue-Faxsソフトウェア(TissueGnostics, Vienna, Austria)を使用して取得した。
【0063】
標的タンパク質の同定
プロテアーゼインヒビターカクテル錠(Roche, Indianapolis, IN)を添加した溶解バッファー(50mM Tris-HCl、pH7.4、150mM NaCl、1%NP-40)により、SAS細胞を溶解させた。上清をOCAb9-1結合タンパク質Gセファロース(GE Healthcare Biosciences, Pittsburgh, PA)に供した。洗浄後、OCAb9-1に結合したタンパク質を溶出バッファー(0.2Mグリシン、pH2.5、150mM NaCl、及び1%NP-40)により溶出させ、溶出液をpH9.1の1M Tris-HClにより中和した(Liu et al., 2011)。溶出液をSDS-PAGEにより分離した。目的とするバンドをゲルから切り出し、25mM重炭酸アンモニウム(ABC)中50mMジチオエリスリトール(DTE)によりpH8.5において1時間にわたって37°Cで還元し、ABC中100mMヨードアセトアミド(IAA)により1時間にわたって室温においてアルキル化した。ABC中50%アセトニトリルにより洗浄後、ゲルを100%アセトニトリル中に浸漬し、0.02μgトリプシンと共に16時間にわたって37°Cにおいてインキュベートした。消化されたペプチドを5%TFA中50%アセトニトリルにより抽出し、Concentrator(Eppendorf, Hamburg, Germany)を使用して濃縮した。試料を、中央研究院Proteomics and Structural Biology Researchのコア施設(Core Facility)においてLC-MS/MS配列決定により分析した。
【0064】
免疫沈降及びウェスタンブロット解析
プロテアーゼインヒビターミックス錠(Roche, Indianapolis, IN)を添加したRIPAバッファー(0.01Mリン酸ナトリウム(pH7.2)、150mM NaCl、2mM EDTA、50mM NaF、1%Nonidet P-40、1%デオキシコール酸ナトリウム、及び0.1%SDS)により細胞を抽出し、20,000gにおいて30分間にわたって4°Cで遠心分離した。抗EpCAM抗体を使用して上清の免疫沈降を実施した。HRP標識二次抗体(Jackson Immuno Research Labs, West Grove, PA)を使用し、高感度化学発光試薬(ECL)(Thermo Scientific, Rockford, IL)を使用してシグナルを展開させた。
【0065】
アポトーシスアッセイ
細胞を別個に播種し、mAb 0〜20μg/mlにより6時間処置した。アポトーシス細胞をAnnexin V-FITC及びPIにより検出し、フローサイトメーター(BD immmunocytometry systems, San Jose, CA)により分析した。早期アポトーシスをAnnexin V-FITCアポトーシス検出キットII(BD Pharmingen, La Jolla, CA)により測定した。アポトーシス核をヨウ化プロピジウム(PI)染色により検出した。
【0066】
抗腫瘍効力分析用動物モデル
SAS由来の口腔癌異種移植片(75mm
3以下)を有するSCIDマウスの尾静脈に、EpAb2-6又は同体積のPBSを静脈注射した。処置は、尾静脈注射により10mg/kgで1週間に2回、4週連続で投与し、総用量を80mg/kgとした。腫瘍をノギスにより週2回測定し、薬剤毒性の症状である体重減少に関しマウスを定期的に観察した。腫瘍体積を長さ×(幅)
2×0.52で計算した。併用療法腫瘍モデルとして、HCT116由来の結腸癌異種移植片(50mm
3以下)を有するSCIDマウスを、処置計画(EpAb2-6、IFL、EpAb2-6+IFL、及びPBS対照)に基づいて4群に分けた。EpAb2-6単独群のマウスにはEpAb2-6単独処置を、用量20mg/kgを尾静脈から週2回4週(毎週×4)にわたり静脈内(i.v.)注射することにより適用した。IFL単独群には、IFL(25mg/kg 5-FU + 10mg/kgロイコボリン + 10mg/kgイリノテカン)を、上記と同様に静脈内(i.v.)注射により週2回4週間(毎週×4)にわたって投与した。併用処置群には、IFL処置の24時間前にEpAb2-6を投与し、他の二つの群と同一の投薬サイクルにてEpAb2-6及びIFLの双方を与えた。EpAb2-6及びIFLの併用は、既に報告されている方法(Azrak RG et al. (2004) "Therapeutic synergy between irinotecan and 5-fluorouracil against human tumor xenografts" Clin Cancer Res. 10, 1121-9; Kim et al. (2010) "Dendritic cell vaccine in addition to FOLFIRI regimen improve antitumor effects through the inhibition of immunosuppressive cells in murine colorectal cancer model" Vaccine 28, 7787-7796)を改変して用いた。
【0067】
抗EpCAM抗体のクローニング及びCDR配列
ハイブリドーマ細胞からTRIzol試薬(INVITROGEN(登録商標))を使用して全RNAを抽出し、NucleoTrap mRNA Mini Kit(Macherey-Nagel GmbH & Co. KG.)を用いてmRNAを単離した。精製されたmRNAを、ThermoScript RT-PCR system(INVITROGEN(登録商標))により、プライマーとしてオリゴ(dT)を使用して逆転写した。種々のプライマーセットを用いたPCRにより、cDNA産物から可変性重鎖ドメイン及び可変性軽鎖ドメイン(V
H及びV
L)を増幅させた。PCR産物をTA Kit(Promega, Madison, WI)を使用してクローニングし、DNA配列決定によりV
H配列及びV
L配列を決定した。配列解析にはSoftware Vector NTI(InforMax)を使用した。カバットデータベースの配列及びImMunoGeneTicsデータベース(Lefranc et al. (2009) "IMGT, the international ImMunoGeneTics information system" Nucleic Acids Res. 37, D1006-12)のアライメントと比較することにより、これらの配列からフレームワーク領域(FR)及び相補性決定領域(CDR)を解析した。
【0068】
ヒト化EpAb2-6の構築及び発現
ヒト化EpAb2-6 V
Hを、受託番号DI164282の遺伝子に由来する改変FR1〜FR4、及びEpAb2-6 V
HのCDR1〜CDR3から構成した。ヒト化EpAb2-6 V
Lを、受託番号GM882764の遺伝子に由来する改変FR及びEpAb2-6 V
LのCDRから構成した。得られたV
Hを、シグナルペプチド及びヒトIgG1定常領域と共に改変発現ベクターpcDNA3.1(INVITROGEN(登録商標))にクローニングした。得られたV
Lを改変発現ベクターpSecTag(INVITROGEN(登録商標))にクローニングした。V
Hプラスミド及びV
LプラスミドをCHO-K1細胞にコトランスフェクションし、G418及びピューロマイシンにより2〜3週間かけて選択した。形質転換された細胞を96ウェルプレートにおいて限界希釈した。2週間後、McCoy's 5A培地(SIGMA-ALDRICH(登録商標))において安定なクローンからヒト化抗体を生成し、ELISAにより同定した。ヒト化抗体をCELLine AD 1000(INTEGRA Biosciences, Switzerland)により、製造元の推奨に従って生成した。
【0069】
ファージディスプレイバイオパニング
ファージディスプレイバイオパニングを、既に報告されている方法(Wu, et al., 2003; Liu, et al., 2011)に従って実行した。簡潔には、ELISAプレートをmAb 100μg/mlによりコートした。続いて、mAb 100μg/mlの試料をウェルに添加し、4°Cにおいて6時間インキュベートした。洗浄及びブロッキング後、ファージディスプレイされたペプチドライブラリ(New England BioLabs, Inc.)をファージが4×10
10pfuとなるよう希釈し、50分間にわたって室温においてインキュベートした。洗浄後、結合したファージを0.2Mグリシン/HCl(pH2.2)100mlにより溶出させ、1M Tris/HCl(pH9.1)15mlにより中和した。溶出させたファージを、以降の選択工程のためにER2738(New England Biolabs, Inc. MA, USA)において増幅させた。LB/IPTG/X-Galプレートにおいてファージを滴定した。第2回及び第3回のバイオパニングは第1回と同一のプロトコールにより行い、但しバイオパニングに際して添加する増幅ファージは2×10
11pfuとした。
【0070】
EpCAM変異体によるEpAb2-6エピトープの同定
組み換え発現プラスミドpcDNA(商標)3.1/V5-Hisを使用してEpCAM変異体を作成した。種々のEpCAM変異体の作成は、pcDNA(商標)3.1/V5-Hisを鋳型とする部位特異的変異誘発により実施した。pfu ultra DNA polymerase(Merck)を使用してPCRを実行し、全ての変異体コンストラクトをシークエンシングにより確認した。6ウェルプレート中において80%〜90%コンフルエントとしたHEK293細胞を、種々のEpCAMのプラスミドによりトランスフェクションした。トランスフェクションを2日間行った後、PBSにより細胞を洗浄した。プロテアーゼインヒビターミックス錠を添加したRIPAバッファーにより細胞を抽出し、20,000gにおいて30分間4°Cで遠心分離した。野生型及び変異型組み換えタンパク質を、一次抗体(EpAb2-6又はEpAb3-5)1μg/ml、続いてHRP標識二次抗体(Jackson Immuno Research Labs, West Grove, PA)と共にインキュベートすることにより染色した。高感度化学発光試薬(ECL)(Thermo Scientific, Rockford, IL)を用いてシグナルを展開した。
【0071】
表面プラズモン共鳴
ネズミ抗体及びヒト化抗体の親和性を、表面プラズモン共鳴(BIAcore T100, Biacore, Inc)により調べた。EpCAM抗原をSeries S Sensor Chip CM5(Biacore, Inc)に固定し、注入を流速10μl/分において実施した。mAbをHBS-EP
+バッファー(Biacore, Inc)中に希釈し、注入を流速50μl/分において1.5分間にわたって実施し、5分間かけて分離させた。各mAbを注入する前に10mMグリシンHCl及び0.2M NaCl(pH2.5)を注入することにより表面を再生した。BIAevaluationソフトウェアを用いglobal fit 1:1 binding modelによりデータを分析した。
【0072】
RNA抽出及び定量的リアルタイムRT-PCR
ULTRASPEC RNA isolation reagent(Biotecx Laboratories, Houston, TX)を使用して、全RNAを細胞株から調製した。Super-Script III RNaseH-reverse transcriptase(INVITROGEN(登録商標), Carlsbad, CA)を使用し、製造元の指導書に従ってcDNAを逆転写した。表1に、クローニング及び定量RT-PCRに使用したフォワードプライマー及びリバースプライマーを列記する。定量RT-PCRはLightCycler480 System(Roche Applied Science)により実施した。各試料の遺伝子発現レベルを、同一試料のGAPDH発現レベルにより標準化した。反応は3回実施し、S.D.値を計算した。
【0073】
【表1】
【0074】
スフェロイドアッセイ
スフェロイド形成にあたり、培養細胞を分離して単一細胞とした。細胞5×10
3個をウルトラロー・6ウェルプレート(CORNING(商標))に6日間にわたって播種し、B27(INVITROGEN(登録商標))、EGF(10ng/ml)、及びFGF(25ng/ml)を添加したDMEM/F12中に1週間に2回保持した。顕微鏡により球体を計数した。血清による分化誘導アッセイにあたり、10%FBS含有DMEMを添加したマトリゲル被覆プレートにおいて腫瘍球体を7日間培養することにより、分化を誘導した。
【0075】
プラスミド構築
全長ヒトEpCAMを、v5及び6xHisによりタグ付けしたpcDNA3.1ベクター中にクローニングした。まず、pEpEX
291(EpCAMの細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインから構成される)及びpEpICDプラスミドをpcDNA3.1-EpCAMから構築した。c-MYC(-1224/+47、転写開始部位に関連)、OCT4(-2616/+1)、及びNANOG(-1590/+250)のPCR断片をpGL4.1プラスミド(Promega)に挿入することにより、ルシフェラーゼレポーター活性を構築した。EpCAM(pLKO-shEpCAM)の小ヘアピンRNAをコードするレンチウイルス及び対照プラスミドpLKO-AS1を、RNAiコア機関(アカデミア・シニカ)から取得した。
【0076】
レンチウイルス感染
PolyJETトランスフェクションキット(SignaGen Laboratories)を用い、パッケージングプラスミド(pCMV-ΔR8.91)、エンベロープ(pMDG)、及びヘアピンpLKO-RNAiベクターにより、HEK293Tパッケージング細胞をコトランスフェクションした。トランスフェクション終了後48時間経過して、ウイルスを含有する上清を採取し、ポリブレン(8μg/ml)を含有する新しい培地と混合して、標的細胞と共にさらに48時間インキュベートすることにより感染させた。形質導入された細胞を、ピューロマイシン(4μg/ml)により4日間にわたって選択した。
【0077】
ルシフェラーゼレポーターアッセイ
細胞をプレートに播種し、PolyJETを使用して、pcDNA3.1発現ベクター、EpCAM発現ベクター、EpICD発現ベクター、又はEpEX発現ベクター(各400ng)、及びpGL4-Oct4-Luc発現プラスミド、Nanog-Luc発現プラスミド、Sox2-Luc発現プラスミド、又はc-Myc-Luc発現プラスミド(各100ng)により、24時間にわたってコトランスフェクションを実施した。プロモーター活性をDul-Gloルシフェラーゼキット(Promega)により測定し、内部対照としてpRL-TK(20ng)を用いたコトランスフェクションによりトランスフェクション効率を標準化した。
【0078】
コロニー形成及び浸潤アッセイ
コロニー形成アッセイにあたり、6ウェルプレートに細胞を密度5×10
3個となるよう10日間播種し、続いて固定して、クリスタルバイオレットにより染色した。浸潤アッセイにあたり、マトリゲル(BD Biosciences)被覆されたトランスウェルインサート(transwell insert)(8-μm polycarbonate Nucleopore filter, Corning)に室温において30分間かけて細胞(1×10
5)を播種し、純粋な再構成基底膜を形成した。24時間インキュベートした後、メタノールにより10分間にわたって細胞を固定し、続いて、浸潤を受けていない細胞を綿棒により除去した。浸潤を受けた細胞をDAPI染色により観察し、倒立蛍光顕微鏡検査(Zeiss)により画像化して、ImageJソフトウェアにより定量化した。
【0079】
統計的分析
データはいずれも、独立実験を少なくとも3回行うことにより取得した。値は平均±SDにより表す。各実験の試験条件における個々の対照との差異の有意性は、特記しない限りスチューデントt検定により計算した。*p値<0.05、**p値<0.01、又は***p値<0.001である際に、有意差があるとみなした。ログランク検定により生存率を分析した。スピアマン分析により相関係数を調べた。
【0080】
結果
口腔癌細胞を認識するmAbの作成及びその特徴の決定
口腔癌に対するモノクローナル抗体の作成にあたり、BALB/cJマウスにSAS細胞を注射した。8,000個を超えるハイブリドーマクローンをスクリーニングし、SAS細胞に対する反応性が高い12個のクローンを選択した(
図15)。細胞のELISA及びウェスタンブロット解析から、OCAb9-1はいくつかのヒト癌細胞を特異的に認識するが、NNM細胞又はHUVEC細胞等の正常細胞は認識しないことが示された(
図1)。種々のヒト癌組織アレイを使用してさらに実験したところ、OCAb9-1は由来の異なるヒト癌組織を特異的に認識できるが正常組織は認識しないことが示された(
図1C)。
【0081】
標的分子の同定にあたり、SAS細胞の溶解物を調製し、OCAb9-1標識免疫アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。銀染色及びウェスタンブロッティングにより、OCAb9-1が分子量39kDaの標的タンパク質を認識することが示された(
図2A)。LC-MS/MSによりタンパク質同定を実施したところ、OCAb9-1の標的タンパク質はヒトEpCAMであることがわかった(
図2B)。免疫沈降及びウェスタンブロッティングを市販の抗EpCAM抗体1144-1(それぞれ、Santa Cruz Biotech及びEpitomics)を使用して平行して実施することにより、EpCAMに対するOCAb9-1の特異性を確認した(
図2C)。OCAb9-1を用いたウェスタンブロッティング(
図2E)及びFACS(
図2F)により、shRNAによるEpCAMのノックダウン後にシグナルが顕著に減少したことが示され(
図2D)、従ってOCAb9-1がEpCAMを特異的に認識することが確認された(
図2)。
【0082】
OCAb9-1は癌細胞のアポトーシスを誘導できない。そのため、治療用抗体創出を目的として、SAS細胞からEpCAMタンパク質を精製し、EpCAMを認識するmAbを新たに5つ作成した(
図16)。細胞のELISA、ウェスタンブロット、及びFACS分析から、これらのmAbは癌細胞株(SAS、NPC039、HCT116、及びSKOV3)に対し強い検出シグナルを呈するが正常細胞株(HUVEC及びNNM)には結合親和性を示さないことがわかった(
図16)。FACS(データ記載なし)、免疫蛍光分析(
図3A)、及びウェスタンブロッティング(
図3B)から、これらのmAbはSAS細胞及びHCT116細胞に対し極めて高い細胞表面結合活性を示すがNMM細胞には反応しないことがわかった。これらのmAbの重鎖及び軽鎖における3つの相補性決定領域(CDR)を
図17に示す。これらのmAbはいずれも、EpCAMに対して非常に高い親和性を有し、その速度定数は10
-9〜10
-13の範囲である(
図18)。とりわけ、新たに作成した5つのmAbの1つであるEpAb2-6は、SAS細胞株及びHCT116細胞株を使用した場合に癌細胞のアポトーシスを誘導できた(
図3C及び
図3D)。
【0083】
in vitro及びin vivoにおける癌細胞増殖の阻害
腫瘍形成におけるEpCAMの機能的役割を評価するため、SAS細胞におけるEpCAMの遺伝子発現をEpCAM shRNAによりノックダウンした。EpCAMがノックダウンされると、増殖率(
図4A)、コロニー形成(
図4B)、遊走(
図4C)、及び浸潤能力(
図4D)が有意に減少した。EpCAMのノックダウンが癌細胞の増殖に影響を及ぼし且つin vitroにおける癌細胞のアポトーシスを誘導したことから、in vivoにおいて腫瘍の増殖を直接阻害する用途にEpAb2-6を使用できるか否かを調査した。口腔癌異種移植片を確立し、EpAb2-6又は対照PBSにより処置した。EpAb2-6により処置した腫瘍の体積は、2つの対照の体積と比較して減少した。対照PBS群の腫瘍はEpAb2-6群の腫瘍のそれぞれ1.5倍であった(n=6、*はp<0.05、
図4E)。抗体の治療効力をさらに特徴づけるため、EpAb2-6及びPBSによる処置後の担腫瘍マウスの生存率を比較した。EpAb2-6及びPBSによる処置後の担腫瘍マウスの総生存率の中央値は、それぞれ71日間及び48日間であった(
図4F)。EpAb2-6処置により、腫瘍球体の形成が効果的に抑制され(
図5C)、腫瘍及び腫瘍球体細胞の双方において低二倍体DNAの含有が促進された(
図5A及び
図5B)。これらの実験から、EpAb2-6がEpCAMを標的とすることによって、腫瘍球体の形成及び腫瘍の増殖が阻害され、担腫瘍マウスの寿命が長くなることが示された。
【0084】
ヒト結腸癌異種移植片におけるEpAb2-6及びIFLの併用
EpAb2-6及びIFLの併用による治療効力を評価するため、HCT116(3×10
6細胞)をNOD/SCIDマウスに注射した。HCT116異種移植片(50mm
3以下)を有するNOD/SCIDマウスに、EpAb2-6(20mg/kg)及びIFL(5-FU 25mg/kg + ロイコボリン10mg/kg + イリノテカン10mg/kg)の両方を週2回、全8回にわたって静脈内注射した。EpAb2-6及びIFLの両方により処置したマウスの腫瘍は、IFL単独により処置したマウスの腫瘍より小さいことがわかった(*はP<0.05)(
図6A)。IFL群における腫瘍の大きさは徐々に増加し、25日目にはEpAb2-6 + IFLの場合の1.6倍となった。EpAb2-6 + IFL群及びIFL群において、処置期間中に有意な体重変化はなかった(
図6B)。処置終了時、IFLにより処置したマウスの最終平均腫瘍重量は0.23gであり、EpAb2-6 + IFLにより処置したマウスでは0.146g、PBSバッファーを注射したマウスでは0.952gであった(
図6C及び
図6D)。
【0085】
ヒト化EpAb2-6(hEpAb2-6)の創出
EpAb2-6は親和性が高く、癌細胞のアポトーシス誘導に対し活性が高いことから、治療用抗体として使用できる可能性が示唆された。ヒト化mAbを創出するため、ハイブリドーマ細胞株由来のEpAb2-6 mAbのV
H及びV
Lセグメントについて塩基配列を決定した(
図17)。EpAb2-6のCDRをヒトIgG1骨格にグラフトし、ヒト化EpAb2-6(hEpAb2-6)を作成した(
図7A)。hEpAb2-6をCHO-K1細胞において発現させ、培養上清から精製した。ネズミEpAb2-6(mEpAb2-6)の特異性を維持するhEpAb2-6はSAS癌細胞及びHCT116癌細胞の両方を認識したがCCD-1112Sk正常細胞は認識しなかった。細胞のELISA及びウェスタンブロッティングから、hEpAb2-6が高い結合活性を有することがさらに示された(
図7B〜
図7D)。EpCAMに対するEpAb2-6及びhEpAb2-6の親和性を表面プラズモン共鳴により分析したところ、それぞれ0.3491nM及び0.6773nMであることがわかった(
図18)。さらに、SAS細胞株及びHCT116細胞株を使用したin vitroにおける研究から、hEpAb2-6が癌細胞のアポトーシスを誘導することがわかった(
図7E及び
図7F)。以上の結果からヒト化EpAb2-6はEpCAMに対する高い結合親和性を有することが明らかとなり、このことから、癌療法における治療用抗体として、又は腫瘍標的ドラッグデリバリーにおいて、またイメージングにおいて使用し得ることが示唆される。
【0086】
EpAb2-6特異的B細胞エピトープの同定
EpAb2-6特異的抗体に対する反応性が高く、正常マウスIgGにおける抗体に対する反応性が低い免疫陽性ファージクローン18個(PC-26、-11、-29、-3、-4、-18、-12、-1、-19、-27、-35、-21、-37、-20、-2、-7、-8、又は-44)を増幅させ、シークエンシングに用いるファージDNAを単離した。選択されたファージクローンの挿入ヌクレオチドの塩基配列を決定したところ、いずれのクローンも36nt(翻訳後は12aa残基
、それぞれ、配列番号64-72)を含有することがわかった(
図19)。MacDNASISソフトウェアを使用してペプチド配列
(配列番号64-72)のアライメントを作成し、EpAb2-6抗体のエピトープ及び結合モチーフを分析した。ヒトEpCAM(EGF-I)の第1のEGF様リピート(aa 27〜59)又はヒトEpCAM(EGF-II)の第2のEGF様リピート(aa 66〜135)を含む配列をコードするcDNAを、PCRにより増幅させた。オーバーラップPCR及びPCRに基づく部位特異的変異誘発により、
図8A及び
図8Bに示す変異をEGF-Iドメイン又はEGF-IIドメインの野生型に導入した。ウェスタンブロッティングにより、変異型EpCAM変異体に対するEpAb2-6抗体又はEpAb3-5抗体の反応性を試験した。個々のEpCAM変異体に対する各EpAb2-6抗体の結合(
図8B)を研究し、野生型EpCAM分子に対する結合と比較した。EGF-IIドメインのY95位又はD96位におけるアミノ酸変異により相対的結合活性が顕著に減少したことから、Y95及びD96は抗体結合に「必須」の残基であると考えられる。
図8に、EpCAMのEGF様ドメインIの配列VGAQNTVIC(配列番号62)及び同EGF様ドメインIIの配列KPEGALQNNDGLYDPDCDE(配列番号63)を示す。
【0087】
EpCAMの上昇と腫瘍開始特性との関連
腫瘍開始細胞は独立して付着することができる。そのため、HCT116結腸癌細胞を二通りの足場非依存性培養、腫瘍球体の形成、及びアノイキス抵抗性選択において選択した(
図9A)。興味深いことに、EpCAM mRNAの発現は、接着培養と比較してアノイキス抵抗性細胞(4倍)及びスフェロイド細胞(12倍)の双方において上昇した(
図9B右)。フローサイトメトリー分析から、細胞表面のEpCAMは、接着細胞の場合と比較してスフェロイド形成において4倍に(
図9C)、アノイキス抵抗性細胞において2倍に(データ記載なし)増加することがわかった。同様に、EpCAMの発現が、接着細胞の場合(69%存在)と比較して、球体形成ヘパトーマHep3B細胞(98%存在)において45%上昇した。この上昇は、分化条件下におけるスフェロイドの再付着後には減少することが観察された。さらに、TIC(腫瘍開始細胞)に対するマーカーであるCD133が球体形成Hep3B細胞において4倍増加し、分化後には減少することが確認された(データ記載なし)。また、EpCAMを豊富に含むHCT116細胞亜集団が顕著な球体形成能を示した(
図9D)。接着細胞及び球体形成細胞についてその腫瘍形成能を比較したところ、球体由来のHCT116細胞が優れた腫瘍開始性能を示すことが示された(
図9E)。スフェロイド由来の腫瘍異種移植片がいずれもより強い自己複製特性を呈することも見い出した(
図9F)。このことから、EpCAM発現の上昇が腫瘍開始性能に関与し得ることが示唆される。
【0088】
EpCAMによる初期化遺伝子発現及び腫瘍開始能の調節
定量PCR、ウェスタンブロッティング、及び免疫蛍光分析から一貫して、スフェロイド細胞においてEpCAM及び初期化遺伝子(c-Myc、Oct4、Nanog、及びSox2)の発現がいずれも上方調節されることが示された(
図10A)。EpCAMを豊富に含むHCT116細胞においても同様の結果が観察された(
図10B)。EpCAMが初期化遺伝子発現を調節できるか否かを調査する目的で、EpCAM構成型発現ベクターをHEK293細胞にトランスフェクションした。定量PCR分析から、EpCAMの過剰発現がc-Myc、Oct4、Nanog、及びSox2のmRNAレベルの上昇を誘導することが示された(
図10C)。これとは対照的に、Hep3B細胞及びHCT116細胞の双方において、レンチウイルス介在性shRNAによりEpCAMをノックダウンすると、EpCAM、c-Myc、Oct4、Nanog、及びSox2のmRNA発現が失われた(
図10D)。さらに、EpCAMのサイレンシングによりHep3B球体及びHCT116球体の数及び大きさがいずれも減少したことから、腫瘍球体形成能力に対するEpCAMの効果が確認された(
図10E)。腫瘍細胞の自己複製能に対するEpCAMの重要性をさらに評価するため、HCT116球体の分離及び再生を3回繰り返し、続いてEpCAMのサイレンシングを実施した。その結果、EpCAM shRNAチャレンジ後、継代培養において、球体の再生能力が大幅に減少することが示された(
図10F)。また、in vivoにおける段階希釈されたHCT116スフェロイドの移植から、腫瘍球体においてEpCAMをノックダウンすると潜在的腫瘍開始能力が有意に妨害され腫瘍の潜伏が効果的に抑制されることが明らかとなった(
図10G)。総じて、これらのデータから、EpCAMが初期化遺伝子発現の調節及び自己複製能の維持において必須であることが示された。
【0089】
EpCAMによるEMTの進行及び腫瘍形成の調節
上皮間葉転換(EMT)により、腫瘍細胞の幹細胞特性の獲得が可能となることが示された(Mani et al., 2008)。そこで、EMTの進行がEpCAMにより制御されるか否かの調査を試みた。免疫蛍光分析から、EpCAMノックダウン後におけるEMTマーカーの変化(上皮マーカーE-カドヘリン、及びサイトケラチン18の上方調節)及び間葉マーカーの変化(ビメンチンの下方調節)が示された(
図11A)。リアルタイムPCRのデータから、ベクター単独で処置した細胞の場合と比較して、EpCAMノックダウン細胞においてmRNAレベル及びタンパク質濃度の双方がE-カドヘリンの場合に増加し、ビメンチンの場合に減少したことが認められた(
図11B)。snail及びslug等の他のEMT調節転写因子についても、EpCAMノックダウン細胞、及びEpCAM低発現細胞の双方において同様に減少した(
図11B及び
図11C)。腫瘍形成能に対するEpCAMの効果を評価したところ、EpCAMを抑制した結果として、in vitroにおける浸潤能力及びコロニー形成能力が低減されることが明らかとなった(
図11D及び
図11E)。また、EpCAMの抑制により、in vivoにおける異種移植片の腫瘍の増殖が阻害された(
図11F)。原発性腫瘍抽出物に由来するRNA試料により、ベクター単独の場合と比較して、EpCAMノックダウン腫瘍細胞においてEpCAM、初期化遺伝子(c-Myc、Oct4、Nanog、及びSox2)、及び間葉マーカー(ビメンチン及びsnail)の発現が有意に減少することが示された(
図11G)。これらのデータから、EpCAMがEMTの進行及び腫瘍形成の調節に関与することが示された。
【0090】
タンパク質分解によるEpICDの切断とEpCAMのシグナル伝達調節との関連
EpCAMの構造には細胞外ドメイン(EpEX)、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメイン(EpICD)が含まれる。EpExは上皮増殖因子様ドメイン2つ及び低システイン領域から構成され、EpICDはアミノ酸26個からなる短い鎖から構成される。初期化遺伝子の調節及び腫瘍形成性に対するEpICDの効果を検査した。レーザー共焦点画像から、可溶性EpICDシグナルがHCT116細胞の細胞質及び核の双方において検出されたが(
図12A)、これに対しDAPT(γ-セクレターゼ阻害剤)存在下においては、この現象は生じない代わりにEpICDの大部分が膜結合EpEXとの共局在化を示す(
図12A)ことがわかった。また、可溶性EpICDの発現は、接着性腫瘍切片においてよりもスフェロイド由来の腫瘍切片において多かった。ウェスタンブロット解析から、293T/EpCAM-v5細胞において分子量40kDaのメジャーなバンド(EpCAM-v5)及び10kDa未満のマイナーバンド(EpICD-v5)が確認されたが、可溶性EpICD-v5(10kDa)の発現はDAPT処理により減少した(
図12B)。DAPT処理によりビメンチン、snail、及びslugの発現が抑制され(
図12C)、これに伴って腫瘍の浸潤性及び球体形成能力が減少した(
図12D及び
図12E)。EpICDが介在する初期化遺伝子に対する転写調節をさらに分析するにあたり、EpCAM又はEpICDをc-MYC、OCT4、NANOG、及びSOX2の暫定調節領域と共にコトランスフェクションしたところ、EpCAM及びEpICDの双方により上記4つの遺伝子の転写活性が上方調節された(
図12F及び
図12H)。しかし、EpCAMに誘導された上記活性化はDAPTの存在により阻止された(
図12G)。また、クロマチン免疫沈降アッセイから、EpICDの存在がHCT116細胞のc-MYCプロモーター(エクソン1ではなく近位上流領域)、OCT4プロモーター(遠位上流領域)、NANOGプロモーター(上流領域)、及びSOX2プロモーター(下流領域)において認められたが(
図12I及び
図12J)、この現象は、EpCAMをほとんど発現していない正常鼻粘膜細胞(NNM)においては見られなかった(データ記載なし)。
【0091】
EpCAMの細胞外ドメインの、EpCAMのシグナル伝達における活性化剤としての働き
EpCAMの細胞外ドメイン、及び膜貫通ドメインを含有するEpICD切断型ベクター(EpEX
291-v5)をさらに構築し(
図13A)、初期化遺伝子発現の制御におけるEpICDの重要性を確認した。予想外にも、EpEX
291-v5と共にHCT116細胞をトランスフェクションした場合においてもc-MYC、OCT4、NANOG、及びSOX2のレポーター活性が誘導された。可溶性EpEX(sEpEX)により処置した場合にも同様の結果が観察され(
図13B)、このことから、EpCAMの細胞外ドメインの分断又は遊離がEpCAMのシグナル伝達の調整において役割を果たし得ることが示唆される。この仮説を試験する目的で、EpCAMの細胞外ドメインに対する抗体と共にHCT116細胞の培養上清を免疫沈降させた。その結果、EpEXの遊離の増加が血清存在下において確認された(
図13C)。さらに、EpCAMノックダウン細胞においてEpEXの遊離の減少が確認された(
図13D)。また、DAPT(γ-セクレターゼ阻害剤)、TAPI(TNF-α変換酵素阻害剤)、又はその両方により処理すると、EpEXの遊離が生じず、またEpICDの切断も阻害された。しかし、膜結合EpCAMはこれらの処置による影響を受けなかった(
図13E)。HCT116細胞においてEpEX
291-v5を強制発現させた結果、培養上清中におけるEpEXの離脱が増加し、EpEX
291-v5トランスフェクタント及びsEpEX処置細胞の双方においてEpICDの切断及びビメンチンの発現の誘導が認められた(
図13F)。また、ヒト結腸癌検体を免疫蛍光分析に供したところ、核内で可溶性EpICDを発現する一部の腫瘍細胞が膜EpEX検出シグナルを失っているのに対し、他の腫瘍細胞又はその近傍の粘膜細胞に関してはその細胞膜中においてEpICD及びEpEXが完全に共局在化されていることが明らかとなった。正常結腸組織においてはEpEX及びEpICDいずれの発現も減少した(
図14A)。
【0092】
ヒト結腸癌におけるEpCAM/EpICDの発現と初期化因子との相関関係
EpCAM及びEpICDの発現と初期化因子及び腫瘍悪性度との関係についてさらに分析した。その結果、正常結腸組織の場合と比較して、癌性結腸組織においてEpICDの発現が増加することが示された。癌におけるEpICDの発現レベルは腫瘍グレードと関連を有するようであったが、統計的有意な差異はなかった(
図14B及び
図14C)。また、核においてEpICDを発現する一部の腫瘍組織(49例のうち24例)において、EpICDを発現する領域は全領域中で相当に小さいことも見い出した。シグナルの大部分はサイトゾル区画又は膜区画において検出され(
図14D)、このことから、EpICDの核移行は動的な一過性の調節であることが示唆される。EpCAMにおけるmRNAレベルをさらに評価し、このmRNAレベルと、42例の結腸癌パネルから取得した上記4つの初期化因子との相関関係をさらに評価したところ、EpCAMの発現と相関関係にあるのはc-MYC(係数=0.501、中程度の相関関係)、NANOG(係数=0.513、中程度の相関関係)、及びOCT4(係数=0.244、重要な相関関係はない)であることが示された(
図14E)。
【0093】
結論として、EpCAM及び幹細胞性遺伝子の共発現がTICにおいて上昇することが示された。EpCAMは、初期化因子(c-Myc、Oct4、Nanog、及びSox2)の発現及びEMTの発現を共に上方調節する。EpCAMのEpEX及びEpICDへのタンパク質分解は、EpCAMのシグナル伝達の調整において重要な役割を果たしていた。EpICDの核移行により初期化遺伝子の発現が調節され、一方、細胞外におけるEpEXの遊離によりEpICDの更なる活性化が誘発される。EpCAMの抑制又はEpICD切断の阻止により、in vitro及びin vivoの双方において浸潤性、増殖、及び自己複製能が低減される。この結果は、EpCAMの過剰発現により腫瘍開始及び腫瘍進行の促進が助長されることを示す。EpCAM mAbを、癌の診断及び予後並びに癌を対象とする療法及びイメージングに使用できる。
【0094】
EpCAM、又は上皮特異抗原(ESA)は、上皮が形質転換された新生組織形成を同定する際の癌特異抗原である。EpCAMの過剰発現は転移性腫瘍細胞、薬剤耐性腫瘍細胞、及び循環腫瘍細胞に関連し、これらはいずれもTICの特徴である。CD44
+/CD24
-をEpCAMと併用したイムノアッセイ染色により、膵臓癌、卵巣癌、肝臓癌、及び結腸直腸癌におけるTICの同定に成功した研究がいくつかある。それらのデータから、EpCAMの上方調節が腫瘍球体の培養において確認されたことが示され、このことから腫瘍の開始、増殖、及び浸潤におけるその影響が大きいことが示されるが、EpCAMのノックダウン後には自己複製及び開始能が阻害された。一方、腫瘍細胞におけるEpCAMの機能喪失によりクローンの増殖、浸潤、及び腫瘍形成が抑制された。また、EpCAMの発現増加が腫瘍グレードに関連していることがわかり、このことから、腫瘍の進行においてEpCAMが重要な役割を果たしていることが示される。
【0095】
腫瘍の形成におけるEpCAM及びTICの関連については数多く報告されているが、TIC中のEpCAMによる調節を受ける遺伝的特性がどのようなものであるかは未だ明確になっていない。上記遺伝子のレシプロケイションとTICとを関連づける直接的な証拠が未だ十分でないからである。本発明者らのデータから、腫瘍球体及び球体由来の異種移植片においてc-Myc、Oct4、Nanog、及びSox2が存在する場合にEpCAM発現の上昇及び持続が認められた。EpCAMによるその作用の獲得又は喪失は上記遺伝子の産生に直接影響を及ぼし、ルシフェラーゼアッセイにより上記遺伝子がEpCAMに調節されることが確認された。さらに、癌組織mRNAアレイのデータから、EpCAMの発現がc-Myc、Oct4、Nanog、及びSox2と相関関係にあることが確認された。総じて、これらのデータから、EpCAMによる初期化因子の直接的な調節が腫瘍開始を促進し得ることが示された。
【0096】
幹細胞性遺伝子に加えて上皮間葉転換の促進もまた、EpCAMが介在する腫瘍の進行に「関連」し得る。本発明者らのデータによれば、EpCAMを過剰発現する細胞においてsnail、slug、及びビメンチンの上方調節及びE-カドヘリンの下方調節の双方が認められた。逆に、EpCAMのノックダウン又はDAPTの添加により、EpICDの遊離が阻止はされたが、snail、slug、及びビメンチンのmRNAレベルが抑制され、これに伴って腫瘍浸潤が減少した。
【0097】
EpICDは、TNF-α変換酵素(TACE)及びγ-セクレターゼ(プレセニリン2、PS2)によるタンパク質分解、続いてFHL2及びTcf/Lef1による調節を受ける。培養腫瘍細胞、球体由来腫瘍異種移植片、及びヒト結腸癌において一貫して、細胞質及び核の両方における可溶性EpICDの蓄積が認められることを見い出した。クロマチン免疫沈降及びルシフェラーゼアッセイから、EpICDが初期化遺伝子に結合し且つ初期化遺伝子をトランス活性化することが示された。γ-セクレターゼ阻害剤により処理したところEpICDの切断及び核移行が阻止され、これに伴って初期化因子及びEMT遺伝子の発現が抑制され、したがって腫瘍の自己複製及び浸潤が阻害された。しかし、細胞質又は核内における可溶性EpICDの発現は全腫瘍細胞において均一ではなく、このことから、EpICDの切断は動的なプロセスであり得ることが示唆された。本発明者らは、EpICDに加えてEpEXの遊離がEpCAMのシグナル伝達事象を誘発し得ることを明らかにした。上清中におけるEpEXの遊離は血清濃度に応じて増加し、DAPT又はTAPIのいずれかを添加するとEpEX及びEpICDの遊離が阻止された。また、sEpEX処置又はpEpEXによるトランスフェクションによりEpICDの切断及び初期化遺伝子活性化の誘導が促進され、このことから、EpEXの切断によりEpCAMのシグナル伝達が開始され得、またその遊離によりEpCAMの活性化がさらに誘発され得ることが示唆された。
【0098】
本発明は、EpCAMに対する結合親和性が非常に大きい新規EpCAM mAbに関し、この新規EpCAM mAbは有効な腫瘍阻害活性を有するため、その治療的意義を期待し得る。総じて、本発明者らは、EpCAM、特にEpICDの増加により幹細胞性遺伝子の発現及びEMTプロセスが上方調節されてTICにおける腫瘍形成が促進されることに対し、包括的な証拠を示す。さらに、EpEXの遊離はオートクライン効果又はパラクライン効果を介してEpCAMのシグナル伝達事象を誘発し得る。したがって、処置又は検出に使用されるEpCAM及び/又はEpEXに対する阻害剤又は抗体の創出及び適用は、腫瘍及びTICの根絶に有用であり、また腫瘍を対象とするイメージングに際しても有用である。