特許第6163513号(P6163513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6163513距離測定センサ並びに物体の検出及び距離測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163513
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】距離測定センサ並びに物体の検出及び距離測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/486 20060101AFI20170703BHJP
   G01S 17/10 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   G01S7/486
   G01S17/10
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-89365(P2015-89365)
(22)【出願日】2015年4月24日
(65)【公開番号】特開2015-215345(P2015-215345A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2015年4月24日
(31)【優先権主張番号】10 2014 106 463.1
(32)【優先日】2014年5月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591005615
【氏名又は名称】ジック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルティン マーラ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス クレメンス
【審査官】 中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−181249(JP,A)
【文献】 独国特許発明第102011056963(DE,B3)
【文献】 欧州特許出願公開第01972961(EP,A2)
【文献】 特開2012−132917(JP,A)
【文献】 特開2010−122222(JP,A)
【文献】 特開2010−122221(JP,A)
【文献】 特開平09−184739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48− 7/51
G01S17/00−17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域内の物体(18)の検出及び距離測定のための距離測定センサ(10)であって、送信信号を送出するための送信器(12)と、前記監視領域内の物体(18)により拡散反射された前記送信信号から受信信号を生成するための受信器(20)と、前記受信信号を複数のデジタル的な状態にデジタル化するための複数閾値サンプリングユニット(34)と、前記デジタル化された受信信号から受信時点を特定し、該受信時点から、前記センサ(10)から前記物体(18)までの信号伝播時間を求めるように構成された制御及び評価ユニット(38)とを備えるセンサ(10)において、
前記複数閾値サンプリングユニット(34)の前段に前記受信信号の側部を平坦化する伸張フィルタ(32)が配置されており、前記伸張フィルタ(32)の前段に前記受信信号を飽和状態まで増幅し、飽和した該受信信号を矩形波に変形する制限増幅器(30)が設けられていることを特徴とするセンサ(10)。
【請求項2】
前記伸張フィルタ(32)がローパスフィルタを有することを特徴とする請求項1に記載のセンサ(10)
【請求項3】
前記制御及び評価ユニット(38)がデジタル部品(36)上、ASIC内、又はFPGA上に実装されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のセンサ(10)。
【請求項4】
前記制御及び評価ユニット(38)が、前記送信器(12)を通じて多数の送信信号を送出し、その後前記受信器(20)により生成される前記受信信号をヒストグラムに蓄積し、該ヒストグラムから受信時点を特定し、該受信時点を用いて前記センサ(10)から前記物体(18)までの信号伝播時間に対応する測定値を求めるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセンサ(10)。
【請求項5】
前記制御及び評価ユニット(38)が、各時点における前記ヒストグラムへの寄与分に対して、デジタル的な状態に応じて重み付けを行うように構成されている請求項4に記載のセンサ(10)。
【請求項6】
前記制限増幅器(30)の前段に、最初は単極性である受信信号を双極性信号に変換するための双極フィルタ(26)が設けられている請求項1〜5のいずれかに記載のセンサ(10)。
【請求項7】
前記複数閾値サンプリングユニット(34)に、ゼロ閾値と、互いに符号が異なり、大きさが同じである第1の閾値及び第2の閾値とが設定されている請求項1〜6のいずれかに記載のセンサ(10)
【請求項8】
前記複数閾値サンプリングユニット(34)のための閾電圧を生成するために、前記伸張フィルタ(32)と前記複数閾値サンプリングユニット(34、40)との間に抵抗回路網(40)が配置されている請求項1〜7のいずれかに記載のセンサ(10)。
【請求項9】
前記複数閾値サンプリングユニット(34)が各々1つの閾値を有する複数の比較器ユニットを備えている請求項1〜8のいずれかに記載のセンサ(10)。
【請求項10】
前記比較器ユニット(34a〜c)がデジタル部品(36)の入力を介して実装されている請求項9に記載のセンサ(10)。
【請求項11】
前記送信器(12)が発光器であり、前記受信器(20)が受光器である光電センサとして構成されている請求項請求項1〜10のいずれかに記載のセンサ(10)。
【請求項12】
距離測定センサ(10)を用いて監視領域内の物体(18)を検出して該物体(18)までの距離を求める方法であって、前記距離測定センサ(10)から送信信号が送出され、前記監視領域内の物体(18)により拡散反射された前記送信信号から受信信号が生成され、該受信信号が複数の閾値を用いて複数のデジタル的な状態にデジタル化され、該デジタル化された受信信号から受信時点が特定され、該受信時点から、前記距離測定センサ(10)から前記物体(18)までの信号伝播時間に対応する測定値が求められる方法において、
前記デジタル化の前に前記受信信号が飽和状態まで増幅されて矩形信号になり、該矩形信号の側部が平坦化され、時間的に引き伸ばされることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1又は13のプレアンブルに記載の距離測定センサ並びに物体の検出及び距離測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数多くのセンサが信号伝播時間原理を用いている。この原理では、信号伝播時間、つまり信号の送信と受信の間の時間間隔が伝播速度を介して距離に換算される。この方法では、マイクロ波や光など電磁スペクトルの様々な周波数領域が利用される。マイクロ波の用途の1つは充填レベルの測定である。この場合、充填レベルを測定すべき媒質の境界面で信号が反射されるまでの伝播時間が測定される。放射されたマイクロ波はプローブに導入されるか(時間領域反射測定法、TDR)、あるいはレーダの場合のようにそのまま放射されて境界面で反射される。
【0003】
光伝播時間法の原理による光電センサの場合、光信号が送信され、物体により拡散反射又は直反射された光信号が受信されるまでの時間が測定される。光電式の距離測定は、例えば乗り物の安全確保、物流や工場の自動化、安全技術といった分野で必要とされることがある。多くの場合、求められる出力値は距離の測定値である。また、光伝播時間法による距離測定装置にはスイッチのように動作するものもある。この場合、所定の距離にあることが期待される反射器もしくは直反射性又は拡散反射性の物体の距離の変化が認識される。特別な用途として反射器との間隔を監視する反射式光遮断機がある。さらに光通過時間法は、監視平面又は3次元空間領域をも周期的に走査する距離測定用レーザスキャナの動作原理でもある。特に安全技術の分野では、設定自在な防護区画への許可なき侵入を監視する信頼性の高いレーザスキャナが用いられる。信頼性の高いセンサは特に確実に動作しなければならないため、例えば、機械の安全に関する規格EN13849や非接触型防護装置(beruehrungslos wirkende Schutzeinrichtungen: BWS)に関する機器規格EN61496といった高い安全要求を満たさなければならない。これらの安全規格を満たすために、例えば、冗長性のある多様な電子機器により確実な電子的評価を行う、機能の監視又は特に光学部品(なかでも前面パネル)の汚染の監視を行う、及び/又は、定義された反射率を持つ個別の検査用標的が各々対応する走査角度で必ず認識されるようにする等、幾つもの措置が講じられる。
【0004】
距離測定の精度は受信時点をどれだけ良好に特定できるかに決定的に依存する。従来のパルス法では個別パルスを送信し、それに対応して検出された反響パルスの位置を特定する。この反響パルスは比較器の閾値によりノイズ信号から区別される。この機能は、分離すべき反響パルスのうち最も低いパルスよりもノイズ信号の方が識別可能な程度に低くなければ信頼できない。特に障害が生じるのは、外光等による強い雑音が受信信号に重畳されている場合、大きな距離のもとで微弱な有効信号を分離しなければならない場合、あるいは、霧、ホコリによる強度の大気汚染又はセンサの前面パネルの汚れ等により、検出すべきでない反響パルスが系統的に比較的高い強度で生じるような不都合な環境条件が支配的である場合である。従来の対策は、光学的に迷光を抑制したり、雑音の少ない電子的な信号処理を行ったりする等の構造上の措置により、最も弱い有効信号と関連するノイズ信号のレベルとの間に非常に大きな信号差を作り出そうとするものである。この場合、達成される信号差により様々なノイズの影響に対するシステムの頑強さが決まる。
【0005】
例えば、個別パルスを評価する代わりに、それぞれ送信パルスを用いた複数回の個別測定を実行し、その都度の受信信号をヒストグラムに加算するという伝播時間法が特許文献1又は特許文献2から知られている。この統計的な評価を通じて有効信号が加算される一方、偶然による雑音の影響は平均化されるため、信号雑音比(SN比)が著しく改善される。この方法には、上記のような複雑な評価を非常に安価なハードウエア上で実行できるようにするために様々な措置が講じられるという特徴がある。その1つは、高価な高速のA/D変換器の代わりに、個別パルスをわずか1ビットの分解能でデジタル化(つまり二値化)するゼロ閾値型の比較器が用いられることである。更に特許文献3及び特許文献4に記載の発明では、受信時点ひいては伝播時間をより高い時間精度で捕らえるために、上述のような統計的手法の実効サンプリング速度が種々の対策により著しく改善されている。1ビットの分解能には簡単な部品を用いた実装等による利点があるが、欠点もある。例えば特許文献3の発明には高精度のPLLが2個必要である。加えて、実際のパルスは矩形状の側部(パルスの立ち上がり/立ち下がり部分)を有しているため、時間分解能を改善するために前記のような対策を講じなければ十分な精度でその位置を特定できない。また、従来技術は1ビットを超える分解能でデジタル化を行う可能性にも触れている。しかし、振幅分解能に段階を設けても矩形状のパルス側部の位置がより高い時間精度で特定されることにはならない。
【0006】
特許文献5に記載の発明では、前の段落で引用した各文献に記載の発明と同様に、多数の個別パルスに基づいて各距離測定が行われる。その際、ヒストグラムにおける受信時点を複数のビンに配分するために、測定の度に送信時点を変化させる。しかし、この手法では送信路と受信路の間で適切な制御と調整を行う必要がある。また、その効果は繰り返し動作に基づいているので、個々の測定の時間分解能は向上しない。
【0007】
特許文献6には、受信信号をデジタル化するためにFPGAのSERDESインターフェイスを利用する距離測定センサが記載されている。この方法ではプロトコルによりサンプリングが1ビット分解能に制限されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP 1 972 961 A1
【特許文献2】EP 2 469 296 A1
【特許文献3】EP 2 189 804 A1
【特許文献4】EP 2 189 805 A1
【特許文献5】EP 2 314 045 B1
【特許文献6】DE 10 2011 056 963 B3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、距離測定センサによる測定値の検出を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、請求項1又は13に記載の距離測定センサ並びに物体の検出及び距離測定方法により解決される。本発明による距離測定は信号伝播時間法に基づいている。この方法では、送信信号、特に送信パルスが送出され、拡散反射された送信信号、つまり正確に言えば物体に当たった後に戻ってくる指向性又は無指向性の信号部分が、複数閾値サンプリングでデジタル方式の受信信号に変換された後、評価される。複数閾値サンプリングとは、信号n振幅に対して2つ以上の閾値を適用することにより複数のデジタル状態を生じさせる、つまり2値だけでなく3以上の多値で把握された振幅情報が利用できるようにするサンプリング手法である。複数閾値サンプリングが行われるため、複数のデジタル的な状態が生じる、つまり2値だけでなく3以上の多値で把握された振幅情報が利用できる。そして、本発明の出発点となる基本思想は、複数閾値サンプリングよりも前段にある受信路のアナログ部分で早々に受信信号の側部を伸張させて平坦化し、以て側部の傾きを緩やかにするということにある。
【0011】
本発明には、伸張フィルタにより信号の側部を平坦化して引き伸ばすことにより非常に高い時間分解能で受信時点を検出できるという利点がある。その結果、距離測定の精度も相応に高くなる。その際、サンプリングの時間分解能を高くする必要はない。従って、非常に高価であること又は技術的な理由からまだ利用可能になっていない、複数ビットの分解能と数GHzのクロック周波数を持つA/D変換器は使用されない。むしろ、前記伸張フィルタは、いわば時間情報を振幅情報と入れ換えて、より高速なサンプリングの代わりに複数ビットのサンプリングで振幅情報を捕らえることを可能にするものである。
【0012】
伸張フィルタはローパスフィルタを有していることが好ましい。ローパスフィルタが、急峻で最大限に圧縮された側部を持つ信号の極端な例である矩形信号を入力として受け取ると、そのうちの高周波数成分が低減され、側部が丸められてより平らになる。そうすると、受信時点に関する情報はもはや単一の時点に圧縮されるのではなく、より長い時間区間にわたって引き伸ばされるため、より低速のサンプリングでも検出できる。
【0013】
本発明において、制御及び評価ユニットは、デジタル部品上、特にプログラム可能な論理回路内、ASIC(特定用途向け集積回路)内、又はFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)上に実装されていることが好ましい。この種のデジタル部品は比較的安価でありながら高精度測定に関する要求を満たし、しかも要求される機能のうちの多くを、そのために追加の構成要素を設けなくても実行することができる。これ以降、デジタル部品とは、真正のマイクロプロセッサの場合のように汎用の評価ユニット上でプログラムを走らせるのではなく、該部品のデジタル回路を予め構成することにより用途への適合化が成される、構成自在なあらゆるデジタル式の評価手段を意味するものとする。このようなプログラム可能な論理回路のうち目下のところ好ましいのはFPGAである。そのため以下では先に挙げた各種のデジタル部品の代わりにFPGAという言葉を何度も用いるが、本発明はそれに限定されない。もっとも本発明では、信号の側部が引き伸ばされるおかげで、他の市販の部品を用いて光伝播時間法を実行することも可能である。このような部品は、制御及び評価用論理回路において前記デジタル部品を補完又は代替するものであって、標準的な送信器又は高周波データインターフェイスを有する。例えば、SERDES方式の部品の通信チャネルを本来の目的とは逆に受信信号のサンプリングに利用したり、HDMIインターフェイス等を持つビデオコントローラを利用したりすることができる。ビデオコントローラ自体はそもそも光伝播時間法への利用を想定したものではないが、本発明によればそれが可能である。すなわち、この種の部品にはもともと並列サンプリングのために複数の比較器が設けられているのが普通であるが、本発明ではそれを複数閾値サンプリングの実装のために利用するのである。
【0014】
制御及び評価ユニットは、送信器を通じて多数の送信信号を送出し、その後受信器により生成される受信信号を蓄積してヒストグラムを形成し、該ヒストグラムから受信時点を特定し、該受信時点を用いてセンサから物体までの信号伝播時間に対応する測定値を求めるように構成されていることが好ましい。この場合、まず冒頭で説明した統計的な評価が行われるが、その際に測定の繰り返しと統計的な評価により測定精度及び特にSN比が明らかに改善する。この処理が複数閾値のサンプリングと信号側部の伸張により更に正確になる。
【0015】
制御及び評価ユニットは、各時点におけるヒストグラムへの寄与分に対して、デジタル的な状態に応じて重み付けを行うように構成されていることが好ましい。具体例として、閾値が3つある場合、重み付けにより4つのデジタル的な状態が生じる。そして、ヒストグラムのビンのうち各時点において観察された受信信号の区間に属するビンにおいては、該区間において受信信号が幾つの閾値を超えたかに応じて0、1、2又は3だけ計数値が増える。更にその後、こうして作られたヒストグラムに基づいて受信時点の特定が行われる。
【0016】
伸張フィルタの前段に、最初は単極性である受信信号を双極性信号に変換するための双極フィルタが設けられていることが好ましい。監視領域内の物体又は干渉物から到来する送信パルスの反響もやはり最初は少なくとも大まかにはパルス状であり、従ってピークを成しているため、単極性である。これはとりわけ、負にはなり得ないため常に単極性信号しか生じない光信号の場合に当てはまる。双極フィルタは単極性の受信信号を、例えば少なくとも極大、極小及びその間のゼロ交差を持つ振動である双極性信号に変換する。双極フィルタとしてはバンドパスフィルタ又は微分器が特に好適である。更に増幅器、特にトランスインピーダンスアンプを前記双極フィルタの前段又は後段に設けてもよい。
【0017】
伸張フィルタの前段に制限増幅器が設けられていること、特に前記双極フィルタの後段に設けられていることが好ましい。これにより受信信号が飽和状態まで増幅され、矩形信号になる。この矩形信号は重要な時間情報をほぼ単一の時点に全て含んでいるため、それを伸張フィルタで処理することが特に有用である。
【0018】
本発明において、複数閾値サンプリングユニットには、ゼロ閾値と、互いに符号が異なり、特に大きさが同じである第1の閾値及び第2の閾値とが設定されていることが好ましい。ゼロ閾値は一般に中間の振幅にあり、好ましくは実際にゼロとする。光信号の場合、双極フィルタを前段に接続するだけで中間の信号レベルがゼロになる。第1及び第2の閾値はこのゼロ閾値を囲んで、好ましくは対称に位置する。4個以上の閾値も可能であるが、比較的低コストで複数閾値サンプリングを実現しつつ、単一の閾値だけを用いる場合に比べて大きな利益を得るには3個が妥当である。
【0019】
複数閾値サンプリングユニットのための閾電圧を生成するために、伸張フィルタと複数閾値サンプリングユニットとの間に抵抗回路網が配置されていることが好ましい。これにより非常に簡素且つ安価な部品で閾値を定義することができる。抵抗ネットワークを接地する代わりに正又は負の電圧供給源に接続すれば、制御及び評価ユニットにより閾電圧を動的に適応させることもできる。
【0020】
複数閾値サンプリングユニットは各々1つの閾値を有する複数の比較器ユニットを備えていることが好ましい。これは各比較器ユニットが1つの閾値に基づく判定を担うという非常に簡単な実装である。
【0021】
比較器ユニットはデジタル部品の入力を介して実装されていることが好ましい。このようにすれば、追加の構成要素が不要となるか、そうでなくても、例えば、受信信号を所望の閾値に応じてデジタル部品の複数の入力へ導く前述の抵抗回路網のための極めて簡単なアナログの回路素子があれば十分である。あるいは、専用の比較器を別の回路素子の形で設けてもよい。この形態には、比較器の仕様がデジタル部品の仕様に左右されないという利点がある。これは安全技術での使用を容易にする。なぜなら、デジタル部品の入力の安全性の仕様は実際上変更できないのに対して、信頼できる仕様の比較器を自由に利用できるからである。
【0022】
本発明に係るセンサは、前記発信器が発光器であり、前記受信器が受光器である光電センサとして、特にレーザスキャナとして構成されていることが好ましい。このような光ベースのセンサは距離測定に利用されることが多い。このセンサは単一ビーム方式、つまり測定対象物へ方向づけられたセンサとすることができる。また、送信パルスを送出する方向を回転ミラー等によって周期的に変化させることで監視平面又は空間領域をも走査するレーザスキャナも考えられる。光信号をベースとしない別のセンサの例にはTDR方式の充填レベルセンサがある。
【0023】
本発明に係るセンサは保安用出力部を有する安全センサとして構成され、制御及び評価ユニットは監視領域内の防護区画への許可なき侵入を認識したときに安全確保のための電源遮断信号を前記保安用出力部に出力するように構成されていることが好ましい。安全センサの例としては、安全スキャナ、距離測定又は検知用の安全光遮断機、若しくは安全用の光伝播時間式3次元カメラがある。
【0024】
本発明に係る方法は前記と同様に更なる特徴を加えながら構成することが可能であり、それにより同様の効果を奏する。そうした特徴の模範例は本願の独立請求項に続く従属請求項に記載されているが、それに限定されるものではない。
【0025】
以下、本発明について、更なる利点及び特徴をも考慮しつつ、実施例に基づき、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】距離測定センサのブロック図。
図2図1のセンサに含まれる信号処理用測定カーネルのブロック図。
図3】前段に配置された伸張フィルタを用いた複数閾値サンプリングのための回路図。
図4】前段に配置された伸張フィルタを用いた複数閾値サンプリングの別の実施形態の回路図。
図5】複数閾値サンプリングの説明図。
図6】伸張フィルタがない場合の受信信号の側部の波形の例。
図7】伸張フィルタがある場合の受信信号の側部の波形の例。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は一次元の光電式距離検知器として構成された本発明の一実施形態に係る距離測定センサ10のブロック図である。発光器12は、発射光が分割鏡14を透過した後、レンズ16を通って監視領域18に達するように方向付けられている。この領域内の光路上に物体18があれば、発射光はその物体18により直反射又は拡散反射され、再びレンズ16を通って分割鏡14へ戻り、そこで受光器20へと反射され、検出される。なお、分割鏡方式の構成は単なる例と理解すべきであり、例えば二重眼方式のような分割鏡のない構成も本発明に含まれる。また、一次元光電センサに関する説明であることも単に例示的なものと理解すべきである。というのも本センサ10は、光格子やレーザスキャナのような多次元の装置にすることも、あるいはTDR方式の充填レベルセンサのように全く異なる電磁信号で動作する装置にすることも可能だからである。
【0028】
測定カーネル22は発光器12を制御し、受光器20の信号を評価する。物体18の距離測定のために光伝播時間を算出するために、光信号が送出され、再度受信されて、発信時点と受信時点の間の時間差が求められる。光信号は好ましくはパルス状である。信号の形状としては矩形パルスが好適であるが、他にも例えばガウスパルス、各信号を符号化して分類する等のためのマルチモード信号、階段状のパルス等が考えられる。ただし、信号は必ずしもパルス状である必要はない。なぜなら、重要なことは、極値とそれに伴う側部のような、時間の確定を可能にする特徴部分がとにかくその信号に含まれていることだけだからである。好ましい実施形態では、光パルスが1つしかない個別事象に基づいてではなく、多数の個別事象から成るヒストグラムを用いて信号の評価が行われる。これについては冒頭に挙げた各文献を再度参照されたい。
【0029】
図2は測定カーネル22のブロック図と様々な段階における送信信号及び受信信号の波形の例を示している。送信路において、本来の発光器12の前段に駆動回路(レーザ駆動部)24が設けられており、これを用いて図のような矩形状の光パルス(Popt)が送出される。光パルスは物体18により拡散反射された後、受光器20において受信電流(I)に変換される。この電流はまずアナログの受信路を流れ、続いてデジタル的に評価される。
【0030】
アナログ前処理においては、例えばバンドパスフィルタ又は微分器から成る双極フィルタ(パルス整形部)26の作用により、矩形状の受信パルス(Iuni−pol)から双極性信号(Ibi−pol)が生じる。実際には矩形パルスが振動にぶつかり、この振動がその後減衰して双極性の信号形状になる。この信号はその後も強度及び時間の情報を全て含んでおり、広いダイナミックレンジでの扱いをはるかに容易にする。双極性信号は次にトランスインピーダンスアンプ(TIA)等の増幅器28において増幅され、振幅の大きな電圧信号(Ubi−pol)になる。双極フィルタ26と増幅器28は逆の順序で接続してもよい。増幅された電圧信号は更に制限増幅器(LA)30において飽和状態になるまで増幅されて矩形信号(Umax)となるが、その後もなお負の矩形振動を含む双極性信号のままである。伸張フィルタ32は例えばローパスフィルタ(TP)から成り、矩形信号の側部の傾きを緩やかにする(fmax)。
【0031】
その次に複数閾値サンプリングが実行される。図2の測定カーネル22において、複数閾値サンプリングは、FPGA36上に実装された制御及び評価ユニット38の入力部にある比較器34a〜cを介して実行される。このユニットは受信信号を更にデジタル的に評価することで受信時点を確定し、その受信時点と既知の送信時点から目的とする光伝播時間を確定する。別の実施形態では比較器34a〜cが専用の部品から成る。
【0032】
一見すると制限増幅器30と複数閾値サンプリングの組み合わせは無意味に思われる。矩形波の側部を複数閾値で検出しても、1ビットサンプリングに比べてさし当たり何の利点もない。制限増幅器30を通った後のアナログ信号の制限は極端な動的圧縮を意味する。センサ10のダイナミックレンジに収まる全ての信号が制限増幅器30の出力において最大レベルに調整されることになる。そうなると距離情報は振幅ではなく位相だけに内在する。伸張フィルタ32による傾きの制限を加えることで初めて装置の利益が得られる。伸張フィルタ32は振幅情報に含まれる時間情報の転送を可能にする。それゆえ、この振幅情報を複数閾値でサンプリングすることはサンプリング速度を上げることと等価である。後で図3及び4を基にして詳しく説明するように、伸張フィルタ32と複数閾値サンプリングの組み合わせはとりわけ抵抗回路網とFPGA36の入力部によって特に効率よく実装することができる。
【0033】
図3は伸張フィルタ32とその後段に配置された抵抗回路網40の回路構成の例を示している。抵抗回路網40は比較器34a〜cを用いた複数閾値サンプリングのための閾値を準備する。本例では伸張フィルタ32がローパス回路として実装されている。抵抗回路網40により上側、中間及び下側という3つの閾値が定義される。例えば中間閾値は差動電圧がほぼゼロの場合、上側閾値は所定の正の差動電圧の場合、下側閾値は所定の負の差動電圧の場合に反応する。
【0034】
上側又は下側閾値の大きさは抵抗R11又はR13における電圧降下により決まる。抵抗R14を接地する代わりにそれに負の制御電圧を加算し、それに合わせて抵抗R10に正の制御電圧を供給すれば、各閾値を動的に変化させることができる。例えば、様々な受信状況に適応するために、制御及び評価ユニット38はFPGA36を通じてそのような2つの制御電圧を出力することができる。電圧制御の基準の一例は、20%又は80%といった所与のデューティサイクルが生じるように上下の閾値を調節するというものである。
【0035】
抵抗R12は、比較器入力における各RC要素の時定数が等しくなるようにする。ここでC部分は比較器34a〜cの入力容量である。中間閾値のゼロを中心として閾値が対称になるように適切に抵抗値を決めると、R10//R11=R13//R14=R12となる。
【0036】
入力容量の違い等により時定数に明らかな差があるときは、コンデンサC12及びC23の付加により比較器入力におけるAC信号の大きさを等しくすることができる場合がある。抵抗R4は3つの負の比較器入力の入力容量と組み合わされて負の入力信号のための適切なRC要素を形成し、その抵抗値は好ましくはR4=R12/3である。抵抗R3は中間閾値を差動電圧なしで駆動することを可能にする。
【0037】
伸張フィルタ32により入力信号の側部の傾きが緩やかにされ、例えば矩形状の入力信号の場合、閾値が同時にではなく確実に前後に離れて出現する。特に、図2に示したようにゼロレベルに対して対称な矩形信号の場合、上下の閾値が中間閾値の後で出現する。
【0038】
別の実施形態では、比較器入力34a〜cの入力容量(典型的には数pF)を閾値用の直列抵抗と組み合わせることで伸張フィルタ32が実現される。この場合、いわば閾値抵抗R11及びR13の前段にあるローパス回路R1、C2、R2及びC2が比較器入力34a〜cに付属する3つのローパス回路により置換又は補完される。この場合、比較器入力34a〜cの入力容量がC部分、閾値抵抗R11及びR13がR部分としてそれぞれ機能する。
【0039】
図4は比較器34a〜cの入力に直結されていた時定数用のRC要素がない別の回路を示している。
【0040】
図3及び4の回路の別の変形例(図示せず)として、制限増幅器30の出力において信号の側部の傾きを規定することにより伸張フィルタ32を置換又は補完してもよい。
【0041】
図5は複数閾値サンプリングについて改めて詳しく説明した図である。ここでも例として3つの閾値でサンプリングが行われる。これは比較的低コストで時間分解能を大幅に改善できるという点で非常に有利である。もっとも、2つだけ又は4つ以上の閾値を用いることも考えられる。
【0042】
受信信号の時間分解能は、比較器34a〜cの駆動又は比較器34a〜cへの問い合わせに用いられる周波数であるサンプリング周波数により決まる。図5の上部に時間がわずかにずれた3つの受信信号61a〜cが例示されている。1つの閾値を用いたサンプリングであれば、せいぜいサンプリング周期に相当する時間のずれ、つまり受信信号61aと61cがようやく区別できるに過ぎない。その間の受信信号61bはもはや分離できず、他の受信信号61a及び61cのいずれかと同様に扱われる。
【0043】
図5の残りの部分は複数閾値サンプリングにより時間分解能が向上することを明確に示している。3つの閾値が受信信号を異なる高さで切り離す。そして、幾つの閾値を超えたかに応じてデジタル化後の受信信号に異なる重みがつけられる。各閾値を超えるたびに二値信号を加算器に入力することによっても同様の結果が得られる。そうすると、受信信号61a〜cから生じる3つの異なるデジタル信号波形62a〜cが加算器の出力に現れる。これらのデジタル信号波形が図5の下部に数字の列63a〜cで改めて全て描かれている。信号の側部にそれぞれ様々な階段状の波形が生じており、そこに位相位置に関する追加的な情報が含まれているため、1つの閾値を用いたサンプリングよりも高い時間分解能が得られる。
【0044】
本発明の好ましい実施形態においては、光伝播時間が単独の測定からではなく、個別の測定を繰り返して受信情報をヒストグラムに蓄積し、それを統計的に評価することよって得られる。ヒストグラムのビンは受信信号の各時間区間に割り当てられ、好ましくはデジタル化後の受信信号のサンプリング間隔毎に1つのビンが割り当てられる。各ビンは最初にゼロに設定される。この場合、個別測定の各サンプリング間隔においてそれに対応するビンに配分される値は、複数の閾値のいずれが超えられたかに依存する。例えば、幾つの閾値が超えられたかに応じてビンに値0、1、2又は3が加算される。つまり、数字の列63a〜cは個々の測定で得られる個別ヒストグラムのようなものを表しており、これが合算されて本来のヒストグラムの形に累積される。
【0045】
図6は伸張フィルタ32を設けない場合の受信信号の立ち下がり側部を再度示したものである。この図から、どの精度で振幅を検出するかに関わらず、測定精度がサンプリングの時間分解能により直接的に制限されることは明らかである。それゆえ、高精度の測定を行うには、冒頭で幾つか例を挙げたように、サンプリング速度を上げるための追加の手段が必要である。
【0046】
これに対して図7は、伸張フィルタ32により引き伸ばされた受信信号の立ち下がり側部に3つの閾値を用いたサンプリングを適用したところを示している。こちらは複数の閾値の使用によりサンプリング速度が実質的に上がっている。装置のジッタの大きさが「サンプリング速度×閾値の数」程度である限り、サンプリング速度を追加的に上げる必要はない。仮にそうしても、装置のジッタによりいずれにせよ不正確さが存在する状態で測定したのでは何の利益もない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7