【実施例】
【0049】
実施例1:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)及び酸触媒下におけるバイオディーゼル変換率の分析
培養されたChlorella vulgarisを遠心分離して水分を一部除去しておき、50g/Lの湿潤微細藻類溶液を準備した。前記微細藻類溶液を攪拌可能でコンデンサ付きのガラス反応器に添加し、ヘキサン:メタノール、SDBS及び硫酸を混合し、その後100℃で3時間反応させた。具体的な反応条件を表3に示す。前述した反応により湿潤微細藻類からバイオディーゼルを抽出し、バイオディーゼルを含む溶媒層を分離して蒸発、濃縮し、回収されたバイオディーゼルの変換率を測定した。前記バイオディーゼル変換率は、脂肪酸メチルエステル(fatty acid methyl ester, FAME)標準分析法(EN 14103)に従ってガスクロマトグラフィー(Agilent 6890 Gas Chromatography)を用いて分析した。
【0050】
【表3】
その結果、SDBSを添加した場合、SDBS未処理区に比べてバイオディーゼル変換率が向上し、添加された硫酸量の増加に応じてバイオディーゼル変換率が増加した(
図3)。上記結果から、SDBS及び硫酸が統合バイオディーゼル変換工程における変換率の向上に影響を与えることが確認された。
【0051】
実施例2:酸触媒量によるバイオディーゼル変換率の変化の分析
微細藻類濃度、ヘキサン:メタノール、SDBS及び硫酸の反応条件以外は実施例1と同じ条件で反応を行って湿潤微細藻類からバイオディーゼルを変換し、FAME標準分析法(EN 14103)に従ってガスクロマトグラフィー(Agilent 6890 GC)を用いてバイオディーゼル変換率を分析した。具体的な反応条件を表4に示す。
【0052】
【表4】
SDBSを添加した条件下における硫酸量によるバイオディーゼル変換率の変化を分析した結果、硫酸量の増加によりバイオディーゼル変換率も継続して向上する傾向を示した(
図4)。
【0053】
また、微細藻類溶液の濃度を400g/Lに増加した上で、硫酸量によるバイオディーゼル変換率の変化を比較分析した。具体的な反応条件を表5に示す。
【0054】
【表5】
その結果、10g以下の硫酸を添加した場合は、硫酸の添加量が増加するに伴ってバイオディーゼル変換率が向上し、10gの硫酸添加によるバイオディーゼル変換率は83%と高い数値を示した(
図5)。それに対して、10g以上の過剰量の硫酸条件では、バイオディーゼル変換率がわずかに低下したが、60%以上のバイオディーゼル変換率を示した。
【0055】
一方、特許文献1においても硫酸触媒及びSDBSを用いて微生物から抽出したオイルのバイオディーゼルへの変換率を測定しているが、上記発明においては、硫酸量の増加にもかかわらずバイオディーゼル変換率の増加傾向は観察されず、その変換率は継続して約70%を維持している。それに対して、本発明におけるバイオディーゼル変換率は、硫酸添加量の増加により向上する傾向を示し、その値が80%以上と上記特許に比べてバイオディーゼル変換率が大幅に向上することが確認された。
【0056】
実施例3:SDBS及びメタノール条件によるバイオディーゼル変換率の変化の分析
微細藻類濃度、ヘキサン:メタノール、SDBS及び硫酸の反応条件以外は実施例1と同じ条件で反応を行って湿潤微細藻類からバイオディーゼルを変換し、FAME標準分析法(EN 14103)に従ってガスクロマトグラフィー(Agilent 6890 GC)を用いてバイオディーゼル変換率を分析した。具体的な反応条件を表6に示す。
【0057】
【表6】
メタノールは、微細藻類の細胞壁を破砕する役割を果たし、バイオディーゼル変換過程において反応物として用いられ、また、触媒とオイルの接触を容易にする役割を果たす。
【0058】
メタノールの添加量の変化によるバイオディーゼル変換率の変化を分析した結果、メタノールの添加量増加によるバイオディーゼル変換率の向上は観察されなかった(
図6のA〜C)。
【0059】
一方、SDBSの添加量の変化によるバイオディーゼル変換率の変化を分析した結果、0.4g及び0.8gのSDBSを添加した場合は同程度のバイオディーゼル変換率を示したが、1gのSDBSでは約20%向上したバイオディーゼル変換率が観察された。上記結果から、SDBS添加量の増加によりバイオディーゼル変換率が向上することが確認された(
図6のD〜F)。しかし、界面活性剤が過剰量で添加されると、界面活性剤によるエマルジョン形成によりバイオディーゼル収率が急激に低下し、SDBS 0.4g、0.8g及び1gの条件においてバイオディーゼル収率はそれぞれ23%、17%及び15%と測定された。また、界面活性剤を過剰量で添加するとバイオディーゼル変換反応の反応性が低下することがあるので、本発明においては0.4gのSDBSを用いてバイオディーゼル製造工程を行った。
【0060】
実施例4:温度、時間、SDBSの有無によるバイオディーゼル変換率の変化の分析
微細藻類濃度、温度、時間及びSDBSの反応条件以外は実施例1と同じ条件で反応を行って湿潤微細藻類からバイオディーゼルを変換し、攪拌機能がない高圧反応器で反応工程を行った。具体的な反応条件を表7に示す。バイオディーゼル変換率は、FAME標準分析法(EN 14103)に従ってガスクロマトグラフィー(Agilent 6890 GC)を用いて分析した。
【0061】
【表7】
その結果、100℃から120℃への温度上昇により、バイオディーゼル変換率は低下する傾向を示した(
図7のA〜B)。それに対して、反応時間の変化によるバイオディーゼル変換率の変化は現れず、1.5及び3時間の反応時間で同程度のバイオディーゼル変換率を示した(
図7のC〜D)。
【0062】
一方、SDBSを添加した場合、SDBSを用いない場合に比べてバイオディーゼル変換率が50%以上増加した(
図7のE〜F)。この結果は実施例1の結果に一致する。上記結果は、界面活性剤であるSDBSが統合工程による微細藻類からのバイオディーゼル変換に効果的に作用することを示唆する。
【0063】
実施例5:微細藻類種によるバイオディーゼル変換率の変化の分析
培養されたopen pond mix種を遠心分離して水分を一部除去しておき、350g/Lの湿潤微細藻類溶液を準備し、前記微細藻類溶液を用いて下記表8に示す反応条件下でバイオディーゼルに変換した。微細藻類種以外は実施例1と同じ条件で反応を行い、バイオディーゼル変換率は、FAME標準分析法(EN 14103)に従ってガスクロマトグラフィー(Agilent 6890 GC)を用いて分析した。
【0064】
【表8】
その結果、SDBSの添加条件におけるopen pond mix種のバイオディーゼル製造工程においては、10g以下の硫酸を添加した場合、添加量に関係なく60%以上のバイオディーゼル変換率を示した(
図8)。
【0065】
また、Chlorella vulgaris以外のChlorella種及びNannochloropsis種を用いてバイオディーゼル変換率を比較分析した。バイオディーゼル変換工程は下記表9に示す反応条件下で行い、ヘキサンの代わりにクロロホルムを用いて溶媒の種類によるバイオディーゼル変換率の変化も分析した。
【0066】
その結果、Chlorella種はChlorella vulgarisと同程度の約80%の高いバイオディーゼル変換率を示し、Nannochloropsis種は約60%のバイオディーゼル変換率を示した(
図9)。上記結果から、微細藻類種に関係なく、本発明のバイオディーゼル製造工程により60%以上のバイオディーゼル変換率が得られることが確認された。
【0067】
一方、有機溶媒としてヘキサンの代わりにクロロホルムを用いた場合、低いバイオディーゼル変換率を示した(
図9)。上記結果からクロロホルムよりはヘキサンがバイオディーゼル変換工程に適することが確認された。
【0068】
【表9】
実施例6
界面活性剤の種類によるバイオディーゼル変換率の変化の分析
界面活性剤の種類以外は実施例1と同じ条件で反応を行って湿潤微細藻類からバイオディーゼルを変換し、攪拌機能がない高圧反応器で反応工程を行った。具体的な反応条件を表10に示す。バイオディーゼル変換率は、FAME標準分析法(EN 14103)に従ってガスクロマトグラフィー(Agilent 6890 GC)を用いて分析した。
【0069】
【表10】
界面活性剤の種類によるバイオディーゼル変換率の変化を比較分析した結果、界面活性剤のうちSDBSが他の5種の界面活性剤に比べて本発明のバイオディーゼル製造工程において高効率性を示すことが確認され、約80%の高いバイオディーゼル変換率を示し、統合工程におけるバイオディーゼル変換率の向上に最も効果的であることが確認された(
図10)。
【0070】
比較例1:複数ステップのバイオディーゼル変換反応
1−1:湿潤微細藻類からのオイル抽出後のバイオディーゼル変換率の分析
培養されたChlorella vulgarisを遠心分離して水分を一部除去しておき、湿潤微細藻類溶液を準備し、湿潤条件で硫酸・熱水抽出法により微細藻類オイルを抽出した。前記抽出反応は、SDBS及び硫酸を混合し、その後120℃で1時間行った。
【0071】
抽出した微細藻類オイルは、攪拌可能でコンデンサ付きのガラス反応器にて、メタノール及び硫酸を添加し、その後100℃で1時間反応させてバイオディーゼルに変換した。回収されたバイオディーゼル変換率は、FAME標準分析法(EN 14103)に従ってガスクロマトグラフィー(Agilent 6890 GC)を用いて分析した。具体的な反応条件を表11に示す。
【0072】
【表11】
硫酸・熱水抽出法を用いたオイル抽出ステップにより湿潤微細藻類からオイルを抽出し、その後抽出したオイルをバイオディーゼル変換反応に適用した結果、バイオディーゼル変換ステップにおいて約70%のバイオディーゼル変換率を示し、硫酸添加量の増加によるバイオディーゼル変換率の向上は観察されなかった(
図11)。
【0073】
それに対して、本発明は、オイル抽出ステップ及び抽出されたオイルのバイオディーゼルへの変換ステップを区分することなく、1つの反応器にて単一ステップで湿潤微細藻類からバイオディーゼルを生産し、その結果、比較例1−1における硫酸添加量と同程度の量である10gの硫酸添加によっても80%以上のバイオディーゼル変換率を示した。上記結果から、複数ステップのバイオディーゼル変換工程に比べて本発明の統合工程がバイオディーゼル生産においてより効率的であることが確認された。
【0074】
1−2:乾燥微細藻類からの抽出オイルのバイオディーゼル変換率の分析
培養されたChlorella vulgarisを凍結乾燥により乾燥させ、その後ヘキサン・メタノール溶媒を用いた溶媒抽出法により常温で微細藻類オイルを抽出した。抽出した微細藻類オイルは、攪拌可能でコンデンサ付きのガラス反応器にて、メタノール及び硫酸を添加し、その後100℃で1時間反応させてバイオディーゼルに変換した。回収されたバイオディーゼル変換率は、FAME標準分析法(EN 14103)に従ってガスクロマトグラフィー(Agilent 6890 GC)を用いて分析した。具体的な反応条件を表12に示す。
【0075】
【表12】
凍結乾燥させた微細藻類から溶媒抽出法により抽出したオイルをバイオディーゼル変換反応に適用した結果、硫酸の添加量増加によりバイオディーゼル変換率が向上する傾向を示したが、バイオディーゼル変換ステップにおいて0.06g以下の硫酸を添加した場合は40%以下の低い変換率を示し、0.1gの硫酸を添加した場合も70%以下のバイオディーゼル変換率を示した(
図12)。
【0076】
一般に、培養された微細藻類から回収した微細藻類は湿潤状態であり、湿潤状態のままバイオディーゼル生産工程に用いるとバイオディーゼル生産性が著しく低下する。よって、湿潤微細藻類からのオイル抽出効率を向上させるためには、乾燥工程を経るか、さらなるマイクロウェーブ(microwave)、超臨界メタノール、又は高温や高圧を用いて行わなければならないという欠点がある。しかし、本発明の統合工程は、培養された微細藻類を湿潤状態のまま反応に用いることができ、オイル抽出効率を向上させるための過程を追加しないにもかかわらず、80%以上の高いバイオディーゼル変換率を示す(
図5及び
図7)。
【0077】
比較例2:バイオディーゼル変換反応におけるSDBS及び水の影響の分析
統合工程による微細藻類オイルからのバイオディーゼル変換反応において、オイル以外に存在する反応物質による影響を調べるために、水の有無によるバイオディーゼル変換率の変化を分析した。具体的には、微細藻類から抽出された遊離脂肪酸の形態のオイルの代わりにオレイン酸を用いて反応を行った。オレイン酸を攪拌可能でコンデンサ付きのガラス反応器に添加し、その後下記表13に示す反応条件下でバイオディーゼル変換反応を行い、FAME標準分析法(EN 14103)に従ってガスクロマトグラフィー(Agilent 6890 GC)を用いてバイオディーゼル変換率を分析した。
【0078】
【表13】
オイル抽出ステップとオイルのバイオディーゼル変換ステップを分離して行う複数ステップのバイオディーゼル変換工程の場合は、微細藻類からオイルを抽出し、その後抽出したオイルのみ存在する状態でバイオディーゼル変換反応を行うのに対して、本発明の統合工程によりバイオディーゼルを変換する場合は、オイル以外に水などが混合した状態でバイオディーゼル変換反応を共に進める。よって、オイルからバイオディーゼルへの変換過程における水の影響を把握すると共に、SDBSの存在有無による変換率の変化を観察した。
【0079】
その結果、バイオディーゼル変換反応において水が添加されないと、約90%の高いバイオディーゼル変換率を示し、ここで、SDBSを添加することにより変換率がわずかに向上する結果が現れた。それに対して、水が添加されると、未添加の場合に比べてバイオディーゼル変換率が約20%低下したが、これはSDBS添加により再び向上する傾向を示した(
図13)。上記結果から、水が存在するバイオディーゼル変換反応において、界面活性剤であるSDBSの親水性基及び疎水性基の作用によりオイルとメタノールの接触が容易になり、水の阻害作用にもかかわらずバイオディーゼル変換率が増加することが確認された。
【0080】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は、明細書ではなく特許請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態を含むものであると解釈すべきである。