特許第6163539号(P6163539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6163539バイオマスからパラ−キシレンを調製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163539
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】バイオマスからパラ−キシレンを調製する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/27 20060101AFI20170703BHJP
   C07C 15/08 20060101ALI20170703BHJP
   C07C 5/367 20060101ALI20170703BHJP
   C07C 51/265 20060101ALI20170703BHJP
   C07C 63/26 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   C07C5/27
   C07C15/08
   C07C5/367
   C07C51/265
   C07C63/26 D
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-507244(P2015-507244)
(86)(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公表番号】特表2015-520131(P2015-520131A)
(43)【公表日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】US2013037546
(87)【国際公開番号】WO2013159081
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年4月11日
(31)【優先権主張番号】61/636,326
(32)【優先日】2012年4月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391026058
【氏名又は名称】ザ コカ・コーラ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Coca‐Cola Company
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】プラカーシャ,インドラ
(72)【発明者】
【氏名】チャターべドゥラ,ベンカタ サイ プラカーシャ
(72)【発明者】
【氏名】クリーゲル,ロバート エム.
(72)【発明者】
【氏名】ファン,シャオヤン ファン
【審査官】 井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−219736(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/110402(WO,A1)
【文献】 特開平08−143484(JP,A)
【文献】 特公昭49−040708(JP,B1)
【文献】 特開平05−049936(JP,A)
【文献】 特開2008−088140(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0237732(US,A1)
【文献】 米国特許第02349232(US,A)
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,2012年 8月30日,134,pp. 15708-15711
【文献】 Chem. Eur. J. ,2011年,17,pp. 12452-12457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ−p−キシレンを調製する方法であって、
少なくとも1つのバイオマス供給源からバイオ−グルコースを得る工程と、
バイオ−グルコースをバイオ−エタノールに転化する工程と、
バイオ−エタノールの第1の部分をバイオ−2−ブテンに転化する工程と、
バイオ−エタノールの第2の部分をバイオ−1,3−ブタジエンに転化する工程と、
ディールス−アルダー付加環化条件下においてバイオ−2−ブテンおよびバイオ−1,3−ブタジエンを反応させてバイオ−4,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エンを形成する工程と、
バイオ−4,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エンをバイオ−o−キシレンに脱水素環化する工程と、
バイオ−o−キシレンをバイオ−p−キシレンに異性化する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
バイオ−テレフタル酸を提供するためのバイオ−p−キシレンの酸化をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ディールス−アルダー付加環化におけるバイオ−1,3−ブタジエンとバイオ−2-ブテンの活性比が、少なくとも2:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ディールス−アルダー付加環化におけるバイオ−1,3−ブタジエンとバイオ−2-ブテンの活性比が、少なくとも100:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ディールス−アルダー付加環化の温度が、500℃〜700℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ディールス−アルダー付加環化の温度が500℃〜700℃であり、かつ前記ディールス−アルダー付加環化におけるバイオ−1,3−ブタジエンとバイオ−2-ブテンの活性比が50:1〜100:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
バイオ−p−キシレンを調製する方法であって、
少なくとも1つのバイオマス供給源からバイオ−グルコースを得る工程と、
バイオ−グルコースをバイオ−エタノールに転化する工程と、
バイオ−エタノールの第1の部分をバイオ−エチレンに転化する工程と、
バイオ−エタノールの第2の部分をバイオ−ヘキサ−2,4−ジエンに転化する工程と、
ディールス−アルダー付加環化条件下においてバイオ−エチレンおよびバイオ−ヘキサ−2,4−ジエンを反応させてバイオ−3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エンを形成する工程と、
バイオ−3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エンをバイオ−p−キシレンに脱水素環化する工程と
を含む、方法。
【請求項8】
バイオ−テレフタル酸を提供するためのバイオ−p−キシレンの酸化をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ディールス−アルダー付加環化におけるバイオ−1,3−ブタジエンとバイオ−2-ブテンの活性比が、少なくとも2:1である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ディールス−アルダー付加環化におけるバイオ−1,3−ブタジエンとバイオ−2-ブテンの活性比が、少なくとも100:1である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記ディールス−アルダー付加環化の温度が、500℃〜00℃である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記ディールス−アルダー付加環化の温度が500℃〜700℃であり、かつ前記ディールス−アルダー付加環化におけるバイオ−1,3−ブタジエンとバイオ−2-ブテンの活性比が50:1〜100:1である、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのバイオマス供給源が、トウモロコシ、メイズ、モロコシ、オオムギ、コムギ、ライムギ、イネ、キビ、オオムギ、イモ、サトウキビ、テンサイ、塊茎、ダイズ、糖蜜、果実材料、サトウキビ、テンサイ、木材、植物材料またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年4月20日に出願された米国仮特許出願第61/636,326号の利益を請求するものであり、この仮特許出願は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本発明は、一般的に、少なくとも1つのバイオマス供給源からバイオ−パラ−キシレン(p−キシレン)を調製する方法、ならびにバイオ−テレフタル酸およびバイオ−ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)を提供するために、本発明に従って製造されたバイオ−パラ−キシレンをさらに加工するための方法に関する。バイオマス供給源は、グルコースが得られ得る多種多様なデンプン含有、糖含有またはセルロース含有バイオマス供給源のうちの任意のものであり得る。
【背景技術】
【0003】
パラ−キシレン(p−キシレン)は、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)などのポリマーの形成において使用されるモノマーであるテレフタル酸の製造における重要な中間体である。しかし、p−キシレンの製造のための従来からの方法は、特定の制限を受ける。より具体的には、p−キシレンは、一般的に、好ましくない環境プロファイルを有しかつ著しい価格変動を受ける石油化学供給源材料から得られている。さらに、p−キシレンは、一般的に、C芳香族炭化水素を含有する加工された石油化学混合物から調製されているが、これは、p−キシレンが典型的にはその混合物の約20%〜約25%を占めるにすぎないことを考えれば、複雑かつ非能率的なプロセスである。
【0004】
バイオベースのプラスチック、すなわちバイオプラスチックは、バイオマス供給源材料(食品(例えば、トウモロコシ)または非食品材料(例えば、デンプン産生植物)を含む)から作製される新しいクラスのプラスチックである。バイオプラスチックは、石油ベースのプラスチックに比べて環境面での利点(再生可能な材料の使用および温室効果ガス排出のより限られた影響を含む)を提供する。バイオプラスチックはまた、通常、既存の製造技術を用いて、しばしば同じ反応器および機械を用いて製造され得る。
【0005】
PETは、特に飲食料品業界において、包装材料において最も一般的に使用されているプラスチックの中に入る。バイオマスからPET包装材料を開発することにおける関心がますます高まりつつある。バイオベースの材料から得られるPET(すなわち、バイオ−PET)を含む容器が、PCT国際公開第2009/120457号に開示されている。市販されているバイオ−PET包装材料は、バイオ由来のエチレングリコールと石油由来のテレフタル酸とを含有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
再生可能なバイオマス供給源からのテレフタル酸およびp−キシレンの製造の必要性が依然として存在する。バイオ由来のテレフタル酸とバイオ由来のエチレングリコールとの両方を用いて能率的かつ費用効果的にバイオ−PETを提供するさらなる必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書には、少なくとも1つのバイオマス供給源からバイオ−パラ−キシレン(p−キシレン)を調製する方法が開示されている。バイオ−テレフタル酸およびバイオ−ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)を提供するために、本発明に従って製造されたバイオ−パラ−キシレンをさらに加工するための方法もまた含まれる。バイオマス供給源は、グルコースが得られ得る多種多様なデンプン含有、糖含有、またはセルロース含有バイオマス供給源のうちの任意のものであり得る。
【0008】
1つの実施形態において、少なくとも1つのバイオマス供給源からのバイオ−p−キシレンの合成は、(i)少なくとも1つのバイオマス供給源からグルコース(本明細書においてバイオ−グルコースと呼ぶ)を得る工程と、(ii)バイオ−グルコースをバイオマス由来のエタノール(本明細書においてバイオ−エタノールと呼ぶ)に転化する工程と、(iii)バイオ−エタノールの第1の部分をバイオマス由来の2−ブテン(本明細書においてバイオ−2−ブテンと呼ぶ)に転化する工程と、そして別個に、(iv)バイオ−エタノールの第2の部分をバイオマス由来の1,3−ブタジエン(本明細書においてバイオ−1,3−ブタジエンと呼ぶ)に転化する工程と、(v)ディールス−アルダー付加環化条件下においてバイオ−2−ブテンをバイオ−1,3−ブタジエンと反応させてバイオマス由来の4,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エン(本明細書においてバイオ−4,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エンと呼ぶ)を形成する工程と、(vi)バイオ−4,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エンを脱水素環化してバイオマス由来のオルト−キシレン(本明細書においてバイオ−o−キシレンと呼ぶ)を形成する工程と、(vii)バイオ−o−キシレンを異性化してバイオ−p−キシレンを形成する工程とを含む。
【0009】
別の実施形態において、少なくとも1つのバイオマス供給源からのバイオ−p−キシレンの合成は、(i)少なくとも1つのバイオマス供給源からバイオ−グルコースを得る工程と、(ii)バイオ−グルコースをバイオ−エタノールに転化する工程と、(iii)バイオ−エタノールの第1の部分をバイオマス由来のエチレン(本明細書においてバイオ−エチレンと呼ぶ)に脱水する工程と、(iv)バイオ−エタノールの第2の部分をバイオマス由来のヘキサ−2,4−ジエン(本明細書においてバイオ−ヘキサ−2,4−ジエンと呼ぶ)に転化する工程と、(v)ディールス−アルダー付加環化条件下においてバイオ−ヘキサ−2,4−ジエンおよびバイオ−エチレンを反応させてバイオマス由来の3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エン(本明細書においてバイオ−3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エンと呼ぶ)を形成する工程と、(vi)バイオ−3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エンを脱水素環化してバイオ−p−キシレンを形成する工程とを含む。
【0010】
ディールス−アルダー付加環化の速度は、反応の温度および反応物の活性比を制御することにより最適化される。具体的には、反応速度は、高い温度および高いジエンとジエノフィルとの活性比の使用によって高められる。
【0011】
本明細書に記述される方法によって調製されたバイオ−p−キシレンは、さらに酸化されてバイオ−テレフタル酸を提供し得る。バイオテレフタル酸は、バイオマス由来のエチレングリコール(本明細書においてバイオ−エチレングリコールと呼ぶ)と縮合されて、ポリマーのテレフタル酸成分およびエチレングリコール成分の両方がバイオマス供給源材料から形成されているバイオ−PETポリマーを提供し得る。バイオ−PETポリマーは、バイオ−PET樹脂にされ得、次いでこれは、食品もしくは飲料容器または製品に形成され得る。
【0012】
本開示は、本開示の種々の特徴についての以下の詳細な説明およびそこに含まれる実施例を参照することにより、より容易に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エンをもたらすヘキサ−2,4−ジエンおよびエチレンのディールス−アルダー付加環化の反応座標を示している。
図2図2は、4,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エンを生成するブタ−1,3−ジエンおよび2−ブテンのディールス−アルダー付加環化の反応座標を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法のためのバイオ−グルコース出発物質は、少なくとも1つのバイオマス供給源から得られるまたは由来するものである。一部の実施形態において、2つ以上のバイオマス供給源が、バイオ−グルコースを得るために使用される。バイオマス供給源は、任意の天然植物材料またはデンプン(すなわち、多糖)を含有する植物由来材料(デンプン含有植物材料、糖含有植物材料およびセルロース含有植物材料を含む)である。デンプン含有植物材料としては、トウモロコシ、メイズ、モロコシ、オオムギ、コムギ、ライムギ、イネ、キビ、オオムギ、イモ、サトウキビ、テンサイ、塊茎、ダイズまたはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。糖含有植物材料としては、糖蜜、果実材料、サトウキビ、テンサイまたはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。セルロース含有材料としては、木材、植物材料またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、デンプン含有植物材料は、サトウキビ、トウモロコシである。植物材料は、植物の任意の部分(根、茎、葉またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない)を含み得る。
【0015】
バイオ−グルコースからバイオ−エタノールへの転化
本明細書に記述されるバイオ−p−キシレンへのディールス−アルダー経路の両方が、バイオ−グルコースからのバイオ−エタノールの製造に依拠している。
【化1】
【0016】
バイオ−グルコースをバイオ−エタノールに転化するプロセスは、バイオマス供給源材料の糖の、蒸留された純粋なバイオ−エタノール生成物への変換を含む。バイオ−エタノールを製造するための種々のプロセスおよび方法が、当業者によく知られている。バイオ−エタノール製造は、少なくとも以下の方法工程、すなわち、(1)磨砕、(2)液化、(3)糖化、(4)発酵および(5)蒸留を含む。場合によっては、特定の工程(例えば、糖化および発酵)は、同時に実施され得る。
【0017】
磨砕は、湿式または乾式のいずれかで行われ得る。乾式磨砕は、最も一般的なプロセスであり、全植物物質を粉砕して粗挽き粉にすることおよびスラリーの形成を含む。湿式磨砕は、穀粒を軟化して胚、繊維およびタンパク質成分から可溶性デンプンを分離するための種々の浸軟工程を含む。乾式磨砕が行われるかまたは湿式磨砕が行われるかに関わらず、結果として生じるデンプン含有物質は、水およびα−アミラーゼと混合され、約180℃〜約190℃の温度に加熱される。次いで、このスラリーは、より高い圧力および温度環境(例えば、221°Fの加圧ジェットクッカー)で第1の液化を受けた後に、大気または真空フラッシュ冷却器によって冷却される。第2の液化は第1の液化の後に任意選択で行われ得、アミラーゼがデンプンを短鎖デキストリンに分解することを可能にするために長時間(例えば、1〜2時間)にわたり180℃〜190℃の温度でスラリーを維持することを含む。糖化は、発酵と別個にまたは同時に行われ得る。一般的に、これらのプロセスは同時に行われる。液化が完了した後に、混合物(ここでは「マッシュ」と呼ぶ)は、デキストリンを単純な糖に分解するために酵素グルコアミラーゼで処理される。エタノール産生微生物もまた、グルコースをエタノールおよび二酸化炭素に転化するためにマッシュに添加される。糖化および発酵が完了すると、マッシュはマッシュからエタノール画分を単離するために蒸留される。エタノール画分は、多くの場合、少量の水を含有しており、これは、エタノール画分を200プルーフ(無水)エタノールをもたらすモレキュラーシーブにかけることにより除去され得る。
【0018】
エタノール産生微生物は、酵母または細菌であり得る。エタノール産生酵母としては、サッカロミケス属(Saccaromyces)からの細菌が挙げられるがこれらに限定されない。1つの実施形態において、エタノール産生酵母は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccaromyces cerevisae)である。
【0019】
別の実施形態において、エタノール産生細菌(ethanolic-producing bacteria)は、ザイモモナス属(Zymomonas)からのもの(例えば、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)など)である。
【0020】
バイオ−エタノールからバイオ−2−ブテンへの転化
バイオ−エタノールは、以下のスキームに従って、当業者に知られている方法によってバイオ−2−ブテンに転化され得る。
【化2】
【0021】
1つの実施形態において、バイオ−エタノールは、ジエチルエーテルと混合され、573Kで前処理されたアルミノボレートB−C1触媒を用いて、523K〜573Kの間の温度で処理される(Xu,et al.Journal of the Chemical Society,Chemical Communications,1992,17,pages 1228-1229)。
【0022】
別の実施形態において、バイオ−エタノールは、PCT国際出願公開第2008/069986号に記述されているManzerらの方法に従ってバイオ−2−ブテンに転化される。手短に言えば、蒸留プロセスからの直接のものまたは再蒸発させたもののいずれかの蒸気エタノールが、約150℃〜500℃の温度および約0.1MPa〜約20.7MPaの圧力で少なくとも1つの塩基性触媒と接触させられて、水とブタノール、主として1−ブタノールとの混合物を生成する。
【0023】
塩基性触媒は、均一系触媒または不均一系触媒のいずれかであり得る。均一系触媒としては、アルカリ金属水酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。塩基性触媒としては、金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、アルミン酸塩およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、塩基性触媒は、以下の金属、すなわち、セシウム、ルビジウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、バリウム、カリウムおよびランタンのうちの1つの金属酸化物である。特定の実施形態において、塩基性触媒は、触媒担体に担持されたものであり得る。触媒担体としては、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア、ゼオライト、炭素、粘土、二重層水酸化物(double-layered hydroxide)、ハイドロタルク石およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
塩基性触媒は、触媒の効率を向上させる触媒添加剤または助触媒をさらに含有し得る。助触媒としては、第8族金属、ならびに銅およびクロムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
バイオ−エタノールから水およびバイオ−1−ブタノールへの触媒転化は、バッチモードまたは連続モードのいずれかにおいて行われ得る。好適な反応器としては、固定床、断熱、流動床、輸送床および移動床が挙げられる。
【0026】
一部の実施形態において、塩基性触媒は、汚損された状態になり、再生を必要とし得る。触媒は、触媒を、空気、水蒸気、水素、窒素またはそれらの組み合わせからなる群から選択されるガスと、高温で接触させることにより再生される。
【0027】
バイオ−1−ブタノールおよび水の混合物は、任意選択で、水を除去するために精製され得、それにより、バイオ−1−ブタノールおよび少量の水から主としてなる部分的に精製された生成物を生成し得る。1つの実施形態において、バイオ−1−ブタノールおよび水の混合物は、相分離を用い、続いて蒸留を用いて精製されて、90重量%より多くのバイオ−1−ブタノールを含む溶液を提供し得る。
【0028】
次いで、バイオ−1−ブタノールおよび水の混合物は、少なくとも1種の酸触媒と接触させられて、バイオ−2−ブテンを生成し得る。反応は、液相または蒸気相のいずれかにおいて行われ得る。反応は、約50℃〜約450℃の温度で行われ得る。1つの実施形態において、反応は、約100℃〜約250℃の温度で実施される。
【0029】
1つの実施形態において、反応は、大気圧(約0.1MPa)〜約20.7MPaの間の圧力で実施され得る。別の実施形態において、反応は、約0.1MPaから約3.45MPaの圧力で実施され得る。反応は、不活性ガス条件下において行われ得、ここで、前記不活性ガスは、窒素、アルゴンおよびヘリウムからなる群から選択される。
【0030】
酸触媒は、均一系触媒または不均一系触媒であり得る。均一系触媒としては、無機酸、有機スルホン酸、ヘテロポリ酸、フルオロアルキルスルホン酸、金属スルホン酸塩、金属トリフルオロ酢酸塩、それらの配合物およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本方法のために有用な均一系触媒としては、硫酸、フルオロスルホン酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フッ化水素、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、トリフルオロメタンスルホン酸またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
不均一系触媒としては、不均一系ヘテロポリ酸、天然粘土鉱物、カチオン交換樹脂、金属酸化物、混合金属酸化物、金属塩、ゼオライトおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、不均一系触媒は、金属塩(金属硫化物、金属硫酸塩、金属スルホン酸塩、金属硝酸塩、金属リン酸塩、金属ホスホン酸塩、金属モリブデン酸塩、金属タングステン酸塩、金属ホウ酸塩またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない)であり得る。
【0032】
酸触媒作用の生成物であるバイオ−2−ブテンは、当業者に知られている方法(デカンテーション、濾過、抽出または膜分離が挙げられるが、これらに限定されない)によって反応混合物から精製され得る。
【0033】
バイオ−エタノールからバイオ−1,3−ブタジエンへの転化
バイオ−1,3−ブタジエンは、以下のスキームに従ってバイオ−エタノールから調製され得る。
【化3】
【0034】
1つの実施形態において、バイオ−エタノールは、約400℃〜約450℃の温度で金属酸化物触媒の上を通過させることにより、バイオ−1,3−ブタジエンに転化される。この反応は、バイオ−1,3−ブタジエンに加えて、水および水素ガスも生成する。
【0035】
別の実施形態において、バイオ−エタノールは、バイオ−1,3−ブタジエンを生成するために、蒸気相において酸化マグネシウム/シリカ触媒の上を通過させられる。触媒は、MgOおよびSiOの混合物であり得る。別の実施形態において、触媒は、MgO、SiOおよびAlの混合物である。触媒は、CaHPOまたはCa(POをさらに含み得る。
【0036】
反応は、約350℃〜約450℃または約370℃〜約390℃の温度で実施され得る。エタノールから1,3−ブタジエンへの例示的な触媒転化は、Kvisle,et al., “Transformation of ethanol into 1,3-butadiene over magnesium oxide/silica catalysts”,Applied Catalysis,1998,41(1),pages 117-131およびBerak,et al., “Synthesis of butadiene from ethanol II”,Przemysl Chemiczny,1962,41(3),pages 130-133に記述されている。
【0037】
バイオ−1,3−ブタジエンは、当業者に知られている方法(デカンテーション、濾過、抽出または膜分離が挙げられるが、これらに限定されない)によって反応混合物から精製され得る。
【0038】
バイオ−エタノールからバイオ−エチレンへの脱水
バイオ−エチレンは、バイオ−(2E,4E)−ヘキサ−2,4−ジエンとのディールス−アルダー付加環化においてジエンとして作用する。バイオ−エタノールは、下記のスキームに従って、脱水されてバイオ−エチレンを形成し得る。
【化4】
【0039】
エタノールからエチレンを調製する方法は、当該技術分野において知られている。流動床反応器でのエタノールの脱水のための工業プロセスが、米国特許第4,423,270号に記述されている。エタノール出発物質は、上に記述したように、バイオマスから単離されたグルコースから得られる。
【0040】
バイオ−エタノールの脱水は、任意の知られている脱水触媒を用いて行われ得る。脱水触媒としては、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコアルミノホスフェート(SAPO)モレキュラーシーブ(米国特許第4,440,871号および同第7,199,277号)、金属置換アルミノホスフェート(AlPO;米国特許出願公開第2010/0249474号)活性化粘土、ゼオライト、TiO/γ−Al、Syndol、硫酸、リン酸、置換リン酸(米国特許第4,423,270号に記述されている)が挙げられるが、これらに限定されない。気化されたバイオ−エタノールが、脱水触媒の上を通過させられ得る。
【0041】
バイオ−エタノールからエチレンへの脱水は、流動床反応器中で、約700℃〜約1000℃または約750℃〜約900℃の温度でバイオ−エタノールを脱水触媒と接触させることにより進行し得る。
【0042】
バイオ−エタノールからバイオ−ヘキサ−2,4−ジエンへの転化
バイオ−ヘキサ−2,4−ジエンは、バイオ−エチレンとのディールス−アルダー付加環化においてジエノフィルとして作用する。バイオ−エタノールは、下記のスキームに従って、バイオ−ヘキサ−2,4−ジエンに転化され得る。
【化5】
【0043】
エタノールからヘキサ−2,4−ジエンを調製する方法は、当該技術分野において知られている。バイオ−エタノール出発物質は、上に記述したように、少なくとも1つのバイオマス供給源から得られたグルコースから得られる。
【0044】
1つの実施形態において、バイオ−エタノールは、メチルエチルケトン(MEK)と組み合わされ(combed)、好適な触媒(例えば、酸化タンタルを含浸させたシリカゲル(SiO−Ta)、シリカマグネシウム−タンタル、シリカ−マグネシウム−クロムまたはLebedev触媒)の上を通過させられる。
【0045】
反応は、約100℃〜約500℃または約370℃〜約450℃の温度で実施され得る。
【0046】
バイオ−ヘキサ−2,4−ジエンは、Gorin,et al.,Zhurnal Obshchei Khimii,1948,18,pages 1069-1076に記述されている手順に従って、結果として生じる生成物から得られ得る。
【0047】
ブタ−1,3−ジエンおよび2−ブテンのディールス−アルダー付加環化
バイオ−ブタ−1,3−ジエン(ジエン)およびバイオ−2−ブテン(ジエノフィル)は、以下のスキームに従って、適切なディールス−アルダー付加環化条件下で反応させられて、[4+2]環状付加物であるバイオ−4,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エンを生成する。
【化6】
【0048】
バイオ−(2E,4E)−ヘキサ−2,4−ジエン(ジエン)およびバイオ−エチレン(ジエノフィル)は、以下のスキームに従って、適切なディールス−アルダー条件下で反応させられて、[4+2]環状付加物であるバイオ−3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エンを生成する。
【化7】
【0049】
付加環化は、任意の好適な容器中で実施され得る。1つの実施形態において、付加環化は、チューブ反応器中で実施される。別の実施形態において、付加環化は、標準的な圧力容器中で実施される。
【0050】
本明細書における方法についての効率的な反応時間は、付加環化条件を制御することによって達成され得る。付加環化条件には、温度、活性比、溶媒、圧力および実行時間が含まれ得る。1つの実施形態において、効率的な反応時間は、温度および活性比の付加環化条件を最大化することにより達成される。
【0051】
1つの実施形態において、付加環化は、約100℃〜約700℃の温度で実施される。例えば、付加環化は、約200℃〜約700℃、約500℃〜約700℃、約175℃〜約300℃または約225℃〜約300℃の温度で実施され得る。
【0052】
活性比は、ジエンのモル数対ジエノフィルのモル数として定義される。例えば、活性比1は、ジエン1モル対ジエノフィル1モルに相当する。別の実施形態において、活性比25は、ジエン25モル対ジエノフィル1モルに相当する。一般的に、より高い活性比は、反応物間のより速い付加環化速度を結果としてもたらす。したがって、ジエンとジエノフィルとの活性比は、少なくとも2:1、より好ましくは少なくとも5:1、より好ましくは少なくとも10:1、より好ましくは少なくとも15:1、より好ましくは少なくとも20:1、より好ましくは少なくとも25:1、より好ましくは少なくとも30:1、より好ましくは少なくとも35:1、より好ましくは少なくとも40:1、より好ましくは少なくとも45:1、より好ましくは少なくとも50:1、より好ましくは少なくとも55:1、より好ましくは少なくとも60:1、より好ましくは少なくとも65:1、より好ましくは少なくとも70:1、より好ましくは少なくとも75:1、より好ましくは少なくとも80:1、より好ましくは少なくとも85:1、より好ましくは少なくとも90:1、より好ましくは少なくとも95:1、より好ましくは少なくとも100:1である。
【0053】
付加環化の温度および活性比の両方が、受け入れられる反応時間をもたらすように最適化され得る。1つの実施形態において、温度は、約100℃〜約700℃であり、かつ活性比は、約2:1〜約100:1である。別の実施形態において、温度は、約500℃〜約700℃であり、かつ活性比は、約50:1〜約100:1である。
【0054】
付加環化は、大気圧で、またはより高い圧力下で実施され得る。一般的に、より高い圧力は、環状付加物の形成を促進する。圧力は、約100psi〜約10,000psi(例えば、約200〜約8,000psi、約400〜約6,000psiまたは600〜3,000psi)の範囲であり得る。
【0055】
付加環化は、任意の適合性の水性または有機溶媒中で実施され得る。1つの実施形態において、極性有機溶媒が使用される。好適な有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、ジオキサン、キシレン、ニトロベンゼン、アセトン、クロロベンゼン、エチルエーテル、シクロヘキサン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ギ酸、ブタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、メタノールまたはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
付加環化の経過および完了は、当業者に知られている任意の方法によってモニタリングされ得る。付加環化をモニタリングするのに好適な方法としては、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、質量分析および核磁気共鳴分光法が挙げられる。
【0057】
当業者であれば、本明細書に記述されるディールス−アルダー付加環化の実行時間が、反応物、反応物濃度、溶媒、温度および圧力に基づいて変化することを認識するであろう。したがって、本明細書に記述される方法の実行時間は、約5分〜約24時間であり得る。例えば、実行時間は、約30分〜約10時間または約2時間〜約5時間であり得る。反応は、反応物の全てが消費されるまで実施されるか、または環状付加物の単離を可能にするために時期尚早に停止されるかのいずれかであり得る。
【0058】
1つの実施形態において、バイオ−ブタ−1,3−ジエンおよびバイオ−2−ブテンの場合のディールス−アルダー付加環化は、バイオ−(2E,4E)−ヘキサ−2,4−ジエンおよびバイオ−エチレンのディールス−アルダー付加環化と同じ条件(例えば、温度、活性比、溶媒、圧力、実行時間)下で進行する。しかしながら、他の実施形態においてはそれぞれの付加環化の条件は異なり得、すなわち、異なる温度にて、異なる活性比で、異なる溶媒中で、異なる圧力を用いて、異なる時間にわたって実施し得ることが理解される。
【0059】
環状付加物は、当業者に知られている任意の方法(濾過、抽出、クロマトグラフィー、結晶化または膜分離が挙げられるが、これらに限定されない)によって精製され得る。
【0060】
一部の実施形態において、ディールス−アルダー付加環化反応は、50%より高い収率で行われる。例えば、反応は、60%より高い収率、70%より高い収率、80%より高い収率、90%より高い収率、95%より高い収率、97%より高い収率、98%より高い収率または99%より高い収率で進行し得る。
【0061】
ディールス−アルダー環状付加物の脱水素環化/芳香族化
ディールス−アルダー環状付加物(バイオ−4,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エンおよびバイオ−3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エン)は、以下のスキームに従って、脱水素環化/芳香族化されてバイオ−キシレンを提供し得る。
【化8】
【0062】
バイオ−4,5−ジエメチルシクロヘキサ(diemethylcyclohex)−1−エンの芳香族化は、バイオ−オルト−キシレン(バイオ−o−キシレン)をもたらす。バイオ−3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エンの芳香族化は、バイオ−パラ−キシレン(バイオ−p−キシレン)をもたらす。
【0063】
脱水素化/芳香族化の方法は、当該技術分野において知られている。1つの実施形態において、ディールス−アルダー環状付加物は、HS改質剤の存在下において環状付加物を脱水素環化触媒と接触させることによって芳香族化される。HS改質剤は、脱水素環化条件下においてHSを形成する任意の化合物であり得る。改質剤として有用な、硫黄を有する化合物は、米国特許第3,428,702号に示されており、硫化アリル、硫化ベンゾイル、二硫化ベンジル、硫化ベンジル、2−メチル−1−ブタンチオール、3−メチル−1−ブタンチオール、2−メチル−2−ブタンチオール、tert−オクタンチオール、二硫化ブチル、硫化ブチル、1,2−エタンジチオ(ethanedithio)、エタンチオール、硫化エチレン、二硫化エチル、フルフリルメルカプタン、1−ヘプタンチオール、1−ヘキサンチオール、二硫化イソアミル、硫化イソアミル、硫化イソブチル、二硫化メチル、硫化メチル、2−ナフタレンチオール、1−ナフタレンチオール、1−ペンタンチオール、二硫化フェニル、1−プロパンチオール、2,2’−チオジエタノール、チオフェン、二硫化アセチル、ベンゼンスルフォン酸、o−ブロモ−ベンゼンスルホン酸、p−ブロモ−ベンゼンスルホン酸、o−ホルミル−ベンゼンスルホン酸、メチルベンゼンスルホン酸、ベンジルスルホキシド、ブチルスルホキシド、2,2’−ジチオフェン、硫酸ブチル、スルホン酸ブチル、ブチルスルホン、ブチルスルホキシド、ジチオカルバミン酸、チオール−カルバミン酸、チオノ−カルバミン酸、トリ−チオ−炭酸、ジチオール−炭酸、硫酸セチル、硫酸ドデシル、1,2−エタンジスルホン酸、エチオン酸無水物、亜硫酸エチル、エチルスルホン、エチルスルホキシド、エチル硫酸、メタンチオール、メチルスルホキシド、2−ブロモチオフェン、2−クロロチオフェン、2,5−ジメチルチオフェン、2,5−ジヨードチオフェン、2,3−ジメチルチオフェン、硫化ビニル、1−デカノールスルフェート、硫酸メチル、亜硫酸メチル、ジクロロフェニルホスフィンスルフィド、エチルメチルスルフィド、硫酸テトラデシル、チオナフタレン、チオアフテンキノン(thioaphthenequinone)、2−メチルチオフェン、3−メチルチオフェン、a−トルエンチオール、ジアルキルアルカノールアミンに溶解した硫黄またはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0064】
脱水素環化触媒は、かかる目的のために当業者に知られている任意の触媒であり得る。例えば、脱水素環化触媒は、第IV−B族、第V−B族または第VI−B族の元素の酸化物であり得る。好適な脱水素環化触媒としては、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウム、チタン、ジルコニウム、チオイウム(thioium)、セリウム、セシウム、アンチモン、スズ、亜鉛、鉄、セレン、銅、白金、パラジウム、ニッケル、コバルトまたはそれらの組み合わせの酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
反応は、約300℃〜約650℃(例えば、約450℃〜約600℃)の温度で実施され得る。反応圧力は、大気圧〜約50psiであり得る。
【0066】
別の実施形態において、脱水素環化は、第VIII族金属を含浸させた水蒸気に安定な第II族金属アルミン酸塩の上をディールス−アルダー環状付加物に通過させることによって実施される(米国特許第3,766,291号)。例えば、脱水素環化触媒は、アルミン酸亜鉛、スズおよび白金であり得る。例えば、1wt%のスズを含有するように改変された、アルミン酸亜鉛上の0.4〜0.6wt%のPt。
【0067】
特定の実施形態において、ディールス−アルダー反応および脱水素環化は、同じ反応容器中で実施される。ディールス−アルダー反応の完了後に、脱水素環化のための触媒が添加され得る。
【0068】
反応は、約750°F〜約1250°Fまたは約900°F〜約1050°Fの温度で実施され得る。反応圧力は、大気圧〜約500psi(例えば、約50〜約300psi)であり得る。
【0069】
さらに別の実施形態において、脱水素環化は、アルカリ金属酸化物および任意選択で酸化クロムにより活性が高められたアルミナから実質的になる触媒の上をディールス−アルダー環状付加物に通過させることによって実施される(米国特許第4,151,071号)。1つの実施形態において、触媒は、ナトリウムもしくはカリウム、ルビジウムまたはセシウムの酸化物と任意選択で酸化クロムとにより活性が高められたアルミナから実質的になる。
【0070】
反応は、約700°F〜約1100°F(例えば、約800°F〜約1050°F)の範囲内の温度で実施され得る。反応圧力は、大気圧〜約300psi(例えば、大気圧〜約50psi)であり得る。
【0071】
結果として生じるバイオ−キシレン(オルトまたはパラ異性体)は、当業者に知られている任意の方法(濾過、抽出、クロマトグラフィー、結晶化または膜分離が挙げられるが、これらに限定されない)によって精製され得る。
【0072】
バイオ−o−キシレンからバイオ−p−キシレンへの異性化
一部の実施形態において、バイオ−3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エンの脱水素環化によって生成されたバイオ−p−キシレンは、バイオ−テレフタル酸の生成(後述される)のために直接使用される。しかしながら、バイオ−4,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エンの脱水素環化によって生成されたバイオ−o−キシレンは、以下のスキームに従って、バイオ−テレフタル酸形成前にバイオ−p−キシレン異性体に異性化されるべきである。
【化9】
【0073】
1つの実施形態において、バイオ−o−キシレンは、o−キシレンをp−キシレンに異性化することが可能な異性化触媒(例えば、ゼオライト触媒)の上を通過させられる。ゼオライト触媒としては、ZSM−5型、ZSM−12型、ZSM−35型またはZSM−38型の酸型ゼオライト(米国特許第3,856,871号)が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、バイオ−o−キシレンは、気化されて、異性化触媒を含有する床の上を通過させられる。別の実施形態において、反応は、バイオ−o−キシレンの流動性を保持するのに十分な圧力を用いて、液相において行われ得る。別の実施形態において、反応は、気相において行われ得る。
【0074】
反応は、約300℃〜約1000℃(例えば、約500℃〜約800℃または約500℃〜約650℃)の温度で実施され得る。反応圧力は、約150psi〜約700psi(例えば、約160psi〜約520psi)であり得る。
【0075】
別の実施形態において、ゼオライト触媒はまた、水素化能を有する金属(例えば、第VIII族の金属も含有する(米国特許第RE31,919号)。なお別の実施形態においては、ゼオライト触媒に、ニッケル、白金またはそれらの組み合わせから選択される金属を含浸させ得る。
【0076】
反応は、約500℃〜約1000℃(例えば、約600℃〜約800℃)の温度で実施され得る。反応圧力は、約150psi〜約500psi(例えば、約150psi〜約300psi)であり得る。
【0077】
バイオ−p−キシレンは、当業者に知られている方法(濾過、抽出、クロマトグラフィー、結晶化または膜分離が挙げられるが、これらに限定されない)により精製され得る。
【0078】
バイオ−p−キシレンからバイオ−テレフタル酸への酸化
本発明の一部の実施形態において、バイオ−p−キシレンは、下記のスキームに従って、バイオ−テレフタル酸に酸化され得る。
【化10】
【0079】
p−キシレンからテレフタル酸への酸化の方法は、当該技術分野において知られている。1つの実施形態において、バイオ−p−キシレンは、カルボン酸含有溶媒に溶解されて、触媒と接触させられ得る。好適なカルボン酸含有溶媒としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、無水酢酸またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、溶媒は、酢酸である。
【0080】
触媒は、米国特許第3,334,135号に記述されるように、任意のコバルト触媒であり得る(例えば、コバルト触媒は、Co(OAc)・4HOである)。酢酸マンガンが、共触媒として使用され得る。反応は、約30℃〜約200℃(例えば、約120℃〜約200℃)の温度で実施され得る。酸化をもたらすために、酸素が反応混合物の上を通過させられ得る。
【0081】
別の実施形態において、臭素含有化合物が、酸化を促進するために反応混合物に添加され得る(米国特許第3,139,452号)。1つの実施形態において、HBrが、コバルト含有触媒のモル当量に相当する量で使用され得る。
【0082】
バイオ−テレフタル酸は、従来の方法によってエステル化されて、ジメチルエステルであるバイオ−ジメチルテレフタレートを提供し得る。
【0083】
バイオ−テレフタル酸またはバイオ−ジメチルテレフタレートは、当業者に知られている方法(濾過、抽出、クロマトグラフィー、結晶化または膜分離が挙げられるが、これらに限定されない)によって精製され得る。
【0084】
バイオ−PETポリマーの合成
本発明のバイオ−テレフタル酸は、以下のスキームに従って、バイオ−PETポリマーを形成するために使用され得る。
【化11】
【0085】
テレフタル酸およびエチレングリコールからPETを形成する方法は、当該技術分野において知られている。任意の知られている条件が、バイオ−テレフタル酸(またはバイオ−ジメチルテレフタレート)およびエチレングリコールの縮合のために使用され得る。
【0086】
エチレングリコールは、石油化学供給源またはバイオマス由来の供給源から得られ得る。バイオマス由来のエチレングリコール(すなわち、バイオ−エチレングリコール)を調製する方法は、国際公開第2010/101698号において提供されている。1つの実施形態において、本明細書において提供される方法に従って作製されたバイオ−テレフタル酸(またはバイオ−ジメチルテレフタレート)は、石油由来のエチレングリコールと縮合されて、部分的にバイオマス出発物質から得られたバイオ−PETポリマーを結果としてもたらす。
【0087】
別の実施形態において、本明細書において提供される方法に従って作製されたバイオ−テレフタル酸(またはバイオ−ジメチルテレフタレート)は、バイオ−エチレングリコールと反応させられて、完全に生物学的出発物質から得られたバイオ−PETポリマーを結果としてもたらす。
【0088】
反応物は、固相重合に供されて、バイオ−PET樹脂を形成し得る。例えば、PETを調製するための米国特許出願公開第2005/026728号に記述されている方法が、バイオ−PETを形成するために使用され得る。手短に言えば、バイオ−テレフタル酸およびバイオ−エチレングリコールのスラリーが調製され得る。別個に、チタン錯体触媒が、ポリマーマトリックス中に分散される。このマトリックスが、エステル化およびポリマー溶融物形成を促進するためにスラリーに添加される。その溶融物が、ペレットを形成するために使用され、このペレットが、次いで、バイオ−PETを得るために固相重合される。
【0089】
別の実施形態において、バイオ−PETは、分解エステル交換(degradative transesterification)または加水分解プロセスによってスクラップPETポリマーを再生利用することにより作製される。
【0090】
反応物は、大気圧にて触媒溶液中で重合されて、バイオ−PETポリマーを形成し得る。酸性または塩基性触媒が使用され得る。好適な触媒としては、アンチモン含有触媒、ゲルマニウム含有触媒、チタン含有触媒およびコバルト含有触媒が挙げられるが、これらに限定されない。例示的なアンチモン含有触媒としては、三酸化アンチモン、三酢酸アンチモンまたはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例示的なゲルマニウム含有触媒としては、二酸化ゲルマニウムが挙げられるが、これに限定されない。例示的なチタン含有触媒としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−イソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、酢酸チタン、シュウ酸チタン、チタン酸ナトリウムもしくはカリウム、チタンハロゲン化物、カリウム、マンガンおよびアンモニウムのチタン酸塩六フッ化物、アセチル酢酸チタン、チタンアルコキシド、チタネートホスファイト、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。種々の金属含有触媒の混合物もまた利用され得る。
【0091】
縮合反応はまた、カップリング剤を用いて誘導され得る。好適なカップリング剤としては、カルボジイミドカップリング剤(例えば、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)または1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCl))が挙げられるが、これらに限定されない。効率的なカップリングを促進する添加剤(例えば、1−ヒドロキシ−1,2,3−ベンゾトリアゾール(HOBt)、HOBt/CuCl、7−アザ−1−ヒドロキシ−1,2,3−ベンゾトリアゾール(HOAt)、3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアゾール(HOOBt)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)または3−スルホ−1−ヒドロキシスクシンイミド(S−NHS))もまた含まれ得る。
【0092】
反応は、約100℃〜約500℃の温度で実施され得る。例えば、バイオ−テレフタル酸およびエチレングリコールの反応は、約220℃〜約260℃の温度で実施され得る。別の例において、バイオ−ジメチルテレフタレートおよびエチレングリコールの反応は、約150℃〜約280℃の温度で実施され得る。
【0093】
包装材料
本発明の方法に従って形成されたバイオ−PETポリマーは、バイオ−PET樹脂を形成するために使用され得、次いで、これは、バイオ−PETプレフォーム(perform)またはバイオ−PET包装材料に形成され得る。包装材料という用語は、本明細書で使用される場合、包装材料の物品のあらゆる構成要素(クロージャー、ラベルおよび二次包装材料を含む)をいう。1つの実施形態において、バイオ−PET包装材料は、食品もしくは飲料容器もしくは製品、またはそれと関連するあらゆるクロージャー(例えば、蓋)、ラベルもしくは二次包装材料である。食品容器としては、使い捨てタッパーウェア(Tupperware)、再使用可能なタッパーウェア(Tupperware)、および市販の飲食物製品のための容器が挙げられるが、これらに限定されない。飲料容器としては、ボトルおよびカップが挙げられるが、これらに限定されない。飲食物製品としては、ストロー、爪楊枝、使い捨て皿、および使い捨て食事用器具類が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0094】
実施例1:ヘキサ−2,4−ジエンおよびエチレンのディールス−アルダー付加環化
3,6−ジメチルシクロヘキサ−1−エンをもたらすためのヘキサ−2,4−ジエンおよびエチレンのディールス−アルダー付加環化の反応座標が図1に示されている。ディールス−アルダー付加環化のコンピュータにより計算された温度、活性比および反応速度は、表1に示されており、アイリング(Eyering)の式に基づいている。
k=(kt/h)(−Ea/RT)
式中、k=速度定数;
=ボルツマン定数;
T=温度;
h=プランク定数;および
Ea=活性化エネルギー(143.1kJ/mol)
【0095】
「比」は、エチレンのモル数対ヘキサ−2,4−ジエンのモル数として定義される。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
実施例2:ヘキサ2,4−ジエンおよびエチレンのディールス−アルダー付加環化
[4+2]環状付加物である4,5−ジメチルシクロヘキサ−1−エンを生じるブタ−1,3−ジエンおよび2−ブテンのディールス−アルダー付加環化の反応座標が図2に示されている。ディールス−アルダー付加環化のコンピュータにより計算された温度、活性比および反応速度は、表2に示されており、アイリング(Eyering)の式に基づいている。
k=(kt/h)(−Ea/RT)
式中、k=速度定数;
=ボルツマン定数;
h=プランク定数;
T=温度;および
Ea=活性化エネルギー(131.05kJ/mol)
【0101】
「比」は、2−ブテンのモル濃度対ブタ−1,3−ジエンのモル濃度として定義される。
【0102】
【表5】
【0103】
【表6】
【0104】
【表7】
【0105】
考察
表1および表2は、ジエン対ジエノフィルの活性比を高めることは、温度に関わらず、付加環化反応の速度を高めることを例証している。同様に、反応の温度を高めることは、活性比に関わらず、付加環化反応の速度を高める。最も速い反応速度は、最大活性比および最高温度で起こる。
図1
図2