特許第6163561号(P6163561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6163561エンジンの過給機の回転ユニットとそのバランス調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163561
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】エンジンの過給機の回転ユニットとそのバランス調整方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20170703BHJP
   F04D 29/62 20060101ALI20170703BHJP
   F04D 29/28 20060101ALI20170703BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   F02B39/00 R
   F02B39/00 J
   F02B39/00 T
   F04D29/62 F
   F04D29/28 M
   F04D29/66 M
   F04D29/62 C
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-547298(P2015-547298)
(86)(22)【出願日】2013年11月12日
(86)【国際出願番号】JP2013080516
(87)【国際公開番号】WO2015071949
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2016年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(72)【発明者】
【氏名】成岡 翔平
(72)【発明者】
【氏名】有馬 久豊
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−092815(JP,A)
【文献】 特開2013−224676(JP,A)
【文献】 特開2011−247236(JP,A)
【文献】 実開平06−012798(JP,U)
【文献】 実開平07−022036(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
F04D 29/28
F04D 29/62
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気を加圧する過給機であって、ケースと、前記ケースに回転自在に収納される回転ユニットとを備え、
前記回転ユニットは、
回転軸と、
前記回転軸の先端部に固定された羽根車と、
前記羽根車とは別体で前記回転軸と一体に回転する回転部品と、
前記羽根車および前記回転部品を前記回転軸の軸方向に押圧して前記回転軸に固定する固定具と、
前記回転軸と一体に回転しない非回転部品と、を備え、
前記回転部品または前記固定具に、回転バランス調整用の調整部が形成され、
前記非回転部品を介して前記ケースに固定され、
前記回転ユニットに遊星歯車装置を介して動力が入力され、
前記非回転部品は、前記回転軸を前記ケースに支持する軸受を収納する軸受ハウジングと、この軸受ハウジングが軸方向に移動するのを防ぐストッパ部材とを有し、
前記軸受ハウジングは、前記ケースに径方向に移動可能に支持され、
前記ストッパ部材が、前記ケースに固定され、
前記回転軸の基端部に前記遊星歯車装置が連結されている過給機。
【請求項2】
請求項1に記載の過給機において、前記軸受ハウジングは、オイル層を介して前記ケースに径方向に移動可能に支持され、
前記ストッパ部材が、前記オイル層からのオイル漏れを防ぐためのオイルシールを保持するシール保持体である過給機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の過給機において、前記非回転部品と前記ケースとの間に、前記羽根車と前記ケースとのチップクリアランスを調節するシムが挿入されている過給機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の過給機において、前記固定具は、前記羽根車よりも比重が大きい材料で形成されている過給機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の過給機において、さらに、前記羽根車の背面にも前記調整部が形成されている過給機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の過給機において、前記固定具はナットで構成され、前記回転軸の先端部に前記ナットが螺合される雄ねじが形成され、
前記回転軸の基端部に、前記前記遊星歯車装置に連結される外歯が形成され、この外歯の側端面に前記軸受の端面が当接し、
前記雄ねじは、前記回転軸が回転すると前記ナットが締まる向きに設定され、
前記外歯は、はす歯形状に形成され、前記回転軸が回転すると、吸込反力の向きと反対側の軸方向の力がかかるように形成されている過給機。
【請求項7】
エンジンの吸気を加圧する遠心式過給機を組み立てる前に、前記過給機の回転軸のバランスを調整する方法であって、
前記回転軸に、前記回転軸の先端部に固定された羽根車とこの羽根車とは別体で前記回転軸と一体に回転する回転部品とを取り付け、固定具を用いて前記羽根車および前記回転部品を軸方向に押圧することにより前記回転軸に固定して回転ユニットを組み立てる回転ユニット組立工程と、
前記回転部品または前記固定具に調整部を形成することで、前記回転ユニットの回転バランスを調整する回転バランス調整工程と、
バランス調整後の前記回転ユニットを分解することなく、前記過給機のケースに組み付ける組付け工程と、
を備え、
前記回転ユニットに前記回転軸を前記ケースに支持する軸受を収納する軸受ハウジングを設け、
前記回転バランス調整工程では、前記軸受ハウジングを支持した状態で、前記回転ユニットを回転させて、前記回転ユニットの回転バランスを調整する遠心式過給機の回転軸のバランス調整方法。
【請求項8】
請求項7に記載のバランス調整方法によってバランス調整された回転ユニットを用い、前記回転ユニットに前記回転軸と一体に回転しない非回転部品を設け、
前記非回転部品と前記ケースとの間にシムを挿入することで、前記羽根車と前記ケースとのチップクリアランスを調節する遠心式過給機の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸気を加圧する機械式過給機のケースに回転自在に収納される回転ユニットとそのバランス調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のような車両に搭載されるエンジンにおいて、外気を加圧してエンジンに供給する過給機を設けたものがある(例えば、特許文献1)。この過給機は、エンジン回転軸の回転に連動して駆動するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平3−500319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような過給機の回転ユニットにおいて、羽根車の単体でバランスを調整した後、回転軸に、入力用の歯車、オイルシール等を組み込むと、組み込み後にバランスを再度調整する必要がある。
【0005】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、バランス調整が容易な過給機の回転ユニットとそのバランス調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のエンジンの過給機の回転ユニットは、エンジンの吸気を加圧する過給機のケースに回転自在に収納される回転ユニットであって、回転軸と、前記回転軸の先端部に固定された羽根車と、前記羽根車とは別体で前記回転軸と一体に回転する回転部品と、前記羽根車および前記回転部品を前記回転軸の軸方向に押圧して前記回転軸に固定する固定具とを備え、前記回転部品または前記固定具に、回転バランス調整用の調整部が形成されている。前記回転部品は、例えば、回転軸をケースに支持する軸受の内輪、スペーサ用のカラー等である。
【0007】
この構成によれば、固定具を用いて羽根車および回転部品が回転軸に一体化されているので、回転ユニットを一体で過給機に取り付けることができる。その結果、回転軸に羽根車および回転部品を一体化した状態で、回転ユニットのバランスを調整できるので、過給機に組み込んだのちのバランス調整が不要になるから、組立工数を削減できる。また、回転部品または固定具に、回転バランス調整用の調整部が設けられているので、羽根車のみを削る場合に比べて、選択肢が増えてバランス調整がし易くなる。
【0008】
本発明において、さらに、回転ユニットが、前記回転軸と一体に回転しない非回転部品を備え、前記非回転部品を介して前記ケースに固定されていることが好ましい。非回転部品は、例えば、回転軸をケースに支持する軸受の外輪、この軸受を収納する軸受ハウジング、軸受用の潤滑油が羽根車側に漏れるのを阻止するオイルシール等である。この構成によれば、さらに非回転部品を回転ユニットに一体化した状態で、バランスを調整できるので、組立工数を一層削減できる。また、非回転部品をケースに固定することで、回転ユニットがケースに容易に取り付けられる。
【0009】
本発明の過給機は、前記回転ユニットと、前記非回転部品とを備え、前記非回転部品は、前記回転軸を前記ケースに支持する軸受を収納する軸受ハウジングと、この軸受ハウジングが軸方向に移動するのを防ぐストッパ部材とを有し、回転ユニットには遊星歯車装置を介して動力が入力され、前記軸受ハウジングは前記ケースに径方向に移動可能に支持され、前記ストッパ部材が、前記ケースに固定されている。この構成によれば、軸受ハウジングが径方向に移動可能であるので、遊星歯車装置を用いることに起因する回転軸の揺動を吸収できる。この場合、軸受ハウジングをケースに固定できないが、ストッパ部材をケースに固定することで、回転ユニットがケースに回転自在に収納される。
【0010】
前記軸受ハウジングが前記ケースに径方向に移動可能に支持される場合、前記軸受ハウジングは、オイル層を介して前記ケースに径方向に移動可能に支持され、前記ストッパ部材が、前記オイル層からのオイル漏れを防ぐためのオイルシールを保持するシール保持体であることが好ましい。この構成によれば、シール保持体とストッパ部材とを兼用できるので、部品点数が低減する。
【0011】
非回転部品を備える場合、前記非回転部品と前記ケースとの間に、前記羽根車と前記ケースとのチップクリアランスを調節するシムが挿入されていることが好ましい。この構成によれば、羽根車のクリアランスの調節が容易になる。
【0012】
本発明の過給機の回転軸のバランス調整方法は、エンジンの吸気を加圧する遠心式過給機を組み立てる前に、過給機の回転軸のバランスを調整する方法であって、前記回転軸に、前記回転軸の先端部に固定された羽根車とこの羽根車とは別体で前記回転軸と一体に回転する回転部品とを取り付け、固定具を用いて前記羽根車および前記回転部品を軸方向に押圧することにより前記回転軸に固定して回転ユニットを組み当てる回転ユニット組立工程と、前記回転部品または前記固定具に調整部を形成することで、前記回転ユニットの回転バランスを調整する回転バランス調整工程とを備えている。
【0013】
この構成によれば、固定具を用いて羽根車および回転部品が回転軸に一体化されているので、回転ユニットを一体で過給機に取り付けることができる。その結果、回転軸に羽根車および回転部品を一体化した状態で、回転ユニットのバランスを調整できるので、組立工数を削減できる。また、回転部品または固定具に、回転バランス調整用の調整部が設けられているので、羽根車のみを削る場合に比べて、選択肢が増えてバランス調整し易くなる。
【0014】
本発明のバランス調整方法において、前記回転ユニットに前記回転軸を前記ケースに支持する軸受を収納する軸受ハウジングを設け、前記回転バランス調整工程では、前記軸受ハウジングを支持した状態で、前記回転ユニットを回転させて、前記回転ユニットの回転バランスを調整することが好ましい。この構成によれば、軸受ハウジングを支持した状態で回転ユニットの回転バランスを調整するので、調整作業が容易になる。
【0015】
本発明の過給機の組立方法は、前記回転ユニットに前記回転軸と一体に回転しない非回転部品を設け、前記非回転部品と前記ケースとの間にシムを挿入することで、前記羽根車と前記ケースとのチップクリアランスを調節する。この構成によれば、羽根車のクリアランスの調節が容易になる。
【0016】
請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成のどのような組合せも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲の各請求項の2つ以上のどのような組合せも、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、本発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。本発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
図1】本発明の第1実施形態に係る回転ユニットを備えた過給機を搭載した自動二輪車を示す側面図である。
図2】同過給機を示す水平断面図である。
図3】同回転ユニットを拡大して示す水平断面図である。
図4】同回転ユニットのバランス調整方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書において、「左側」および「右側」は、車両に乗車した操縦者から見た左右側をいう。
【0019】
図1は本発明の第1実施形態に係る回転ユニットを有する過給機を備えた自動二輪車の左側面図である。この自動二輪車の車体フレームFRは、前半部を形成するメインフレーム1と、後半部を形成するシートレール2とを有している。シートレール2は、メインフレーム1の後部に取り付けられている。メインフレーム1の前端にヘッドパイプ4が一体形成され、このヘッドパイプ4にステアリングシャフト(図示せず)を介してフロントフォーク8が回動自在に軸支されている。フロントフォーク8の下端部に前輪10が取り付けられ、フロントフォーク8の上端部に操向用のハンドル6が固定されている。
【0020】
一方、車体フレームFRの中央下部であるメインフレーム1の後端部に、スイングアームブラケット9が設けられている。このスイングアームブラケット9の取り付けたピボット軸16の回りに、スイングアーム12が上下揺動自在に軸支されている。このスイングアーム12の後端部に、後輪14が回転自在に支持されている。車体フレームFRの中央下部でスイングアームブラケット9の前側に、駆動源であるエンジンEが取り付けられている。エンジンEがチェーンのような動力伝達機構11を介して後輪14を駆動する。エンジンEは、例えば、4気筒4サイクルの並列多気筒水冷エンジンである。ただし、エンジンEの形式はこれに限定されない。
【0021】
メインフレーム1の上部に燃料タンク15が配置され、シートレール2に操縦者用シート18および同乗車用シート20が支持されている。また、車体前部に、樹脂製のカウリング22が装着されている。カウリング22は、前記ヘッドパイプ4の前方から車体前部の側方にかけての部分を覆っている。カウリング22には、空気取入口24が形成されている。空気取入口24は、カウリング22の前端に位置し、外部からエンジンEへの吸気を取り入れる。
【0022】
車体フレームFRの左側に、吸気ダクト30が配置されている。吸気ダクト30は、前端開口30aをカウリング22の空気取入口24に臨ませた配置でヘッドパイプ4に支持されている。吸気ダクト30の前端開口30aから導入された空気は、ラム効果により昇圧される。
【0023】
エンジンEの後方に、過給機32が配置されている。過給機32は、外気を加圧してエンジンEに供給する。前記吸気ダクト30は、エンジンEの前方から左外側方を通過して、過給機32の吸込口36に接続され、過給機32に走行風Aを吸気Iとして導いている。
【0024】
過給機32の吐出口38とエンジンEの吸気ポート42との間に、吸気チャンバ40が配置され、過給機32の吐出口38と吸気チャンバ40とが直接接続されている。吸気チャンバ40は、過給機32の吐出口38から供給された高圧の吸気Iを貯留する。過給機32の吐出口38と吸気チャンバ40とをパイプを介して接続してもよい。吸気チャンバ40と吸気ポート42との間には、スロットルボディ45が配置されている。
【0025】
吸気チャンバ40は、過給機32およびスロットルボディ45の上方に配置されている。吸気チャンバ40およびスロットルボディ45の上方に、前記燃料タンク15が配置されている。
【0026】
図2に示すように、過給機32は遠心式であり、過給機回転軸44の先端部(左側端部44a)に固定された羽根車50と、羽根車50を覆う羽根車ハウジング52と、過給機回転軸44を回転自在に支持する過給機ケース56と、エンジンEの動力を羽根車50に伝達する変速機構54と、変速機構54を覆う変速機構ケーシング58とを有している。本実施形態の羽根車50はアルミニウム合金製であるが、材質はこれに限定されず、例えば樹脂製であってもよい。
【0027】
羽根車ハウジング52と過給機ケース56とがボルト55を用いて連結され、過給機ケース56と変速機構ケーシング58とがボルト57を用いて連結されている。この実施形態では、変速機構54として遊星歯車変速装置を用いている。ただし、変速機構54は遊星歯車変速装置に限定されない。
【0028】
過給機32はエンジンEの動力によって駆動される。具体的には、クランク軸26(図1)の回転力が、図2に示すチェーン60を介して、過給機回転軸44に連結された、変速機54の入力軸65に伝達されている。より詳細には、入力軸65の右側端部にスプロケット62が設けられ、このスプロケット62の歯車62aにチェーン60が掛け渡されている。
【0029】
入力軸65は中空軸からなり、軸受64を介して変速機構ケーシング58に回転自在に支持されている。入力軸65における先端部である右側端部65bの外周面にスプライン歯67が形成されおり、この外周面にスプライン嵌合されたワンウェイクラッチ66を介して、前記スプロケット62が入力軸65に連結されている。入力軸65の右側端部65bの内周面に雌ねじ部が形成されており、ワンウェイクラッチ66が、この雌ねじ部に螺合されたボルト68の頭部により、ワッシャ70を介して、右側端部65bに装着されている。
【0030】
過給機32の過給機回転軸44の基端部である右側部44bが、入力軸65の基端部である左側端部65aに、遊星歯車装置(変速機構)54を介して連結されている。入力軸65の左側端部65aは、鍔状のフランジ部65aからなる。過給機回転軸44は、中実のシャフトに形成されている。過給機回転軸44は、軸受69を介して過給機ケース56に回転自在に支持されている。
【0031】
図3に示すように、軸受69は軸方向(自動二輪車の左右方向)に並んで2つ配置されており、各軸受69は、回転部材である内輪69aと、静止部材である外輪69bとを有している。両内輪69a,69aの間にスペーサ部材となる間座71が配置されている。これら2つの軸受69,69が、軸受ハウジング76に収納され、軸受アセンブリBAの一部を構成している。つまり、内輪69aは、過給機回転軸44と一体に回転する回転部品RMであり、外輪69bおよび軸受ハウジング76は、過給機回転軸44と一体に回転しない非回転部品NMである。軸受ハウジング76は、軸受アセンブリBAの外周部を構成する。間座71も、軸受アセンブリBAの一部を構成している。
【0032】
軸受アセンブリBAは、外周部を把持固定した状態で、過給機回転軸44を回転自在に支持できる。軸受アセンブリBAは、過給機ケース56に形成されるアセンブリ収納空間に着脱可能に構成されている。具体的には、過給機ケース56に軸受アセンブリBAが収納された状態で、軸受アセンブリBAと過給機ケース56との間に径方向の隙間が形成される。この隙間に、後述のオイル層96を形成することで、軸受アセンブリBAは、過給機ケース56に対して浮動的に支持されている。
【0033】
軸受アセンブリBAの軸受69は、例えばアンギュラ玉軸受である。軸受アセンブリBAの軸受ハウジング76は、各外輪69b,69bの軸方向端面が当接する段差部が形成されている。段差部は、間座71と軸方向の長さが同じである。これにより、軸受ハウジング76は、2つの軸受69に対して軸方向に固定される。また、軸受ハウジング76の右側端面は、過給機ケース56に軸方向に対向しており、軸受アセンブリBAの右側への移動が規制されている。
【0034】
過給機回転軸44の右側端部(基端部)44bに、外歯78が形成されている。外歯78は、過給機回転軸44のほかの部分よりも大径に形成されている。外歯78の左側端面に、右側の軸受69の内輪69aの右側端面が当接している。
【0035】
過給機回転軸44における軸受アセンブリBAと羽根車50との間に、オイルシールアセンブリSAが配置されている。オイルシールアセンブリSAは、過給機回転軸44に嵌合されて羽根車50と左側の軸受99の内輪99aとの間で挟圧される筒状のカラー75と、後述のオイル層96(図2)からのオイル漏れを防ぐためのオイルシール77を保持するシール保持体79とを有している。
【0036】
図2に示すように、シール保持体79は、ボルト81により過給機ケース56に支持されている。つまり、シール保持体79は、軸受アセンブリBAが軸方向に移動するのを防ぐストッパ部材として機能する。オイルシールアセンブリSAのカラー75は、過給機回転軸44と一体に回転する回転部品RMであり、オイルシール77およびシール保持体79は、過給機回転軸44と一体に回転しない非回転部品NMである。
【0037】
カラー75は、羽根車50と軸受アセンブリBAの内輪69aとに狭持されて過給機回転軸44に固定されている。シール保持体79は、オイルシール77を保持し、オイルシール77は、カラー75とシール保持体79との径方向隙間をふさいで、羽根車50側にオイルが流れるのを防いでいる。過給機ケース56に形成されるシール保持体79を取り付けるためのボルト孔は、アセンブリ収容空間よりも径方向外側に形成されている。軸受ハウジング76の左側端面は、シール保持体79に軸方向に対向しており、軸受アセンブリBAの左側への移動が規制されている。
【0038】
過給機回転軸44の左側端部(先端部)の外周面に雄ねじ部が形成されており、この雄ねじ部にナット85が螺合されている。ナット85は、羽根車50、カラー75および軸受アセンブリBAの内輪69aを基端部の外歯78に対して過給機回転軸44の軸方向(自動二輪車の右側)に押圧して、外歯78との間で固定する固定具を構成する。ナット85は、羽根車50よりも比重の大きい材料、具体的には、鉄または鋼製の六角ナットからなる。
【0039】
図3に示すように、これら過給機回転軸44、羽根車50、オイルシールアセンブリSA、軸受アセンブリBAおよびナット85により、羽根車50一体に回転する部材を含んで過給機ケース56に着脱自在に収納されて、持ち運び可能にユニット化される回転ユニットRUを構成している。回転ユニットRUは、羽根車50とともに一体回転する部材をすべて含むことが好ましい。回転ユニットRUは、高速に回転する。本実施形態では、一分あたり5万回転以上で回転する。
【0040】
羽根車50の軸方向(左右方向)両端面は、軸心方向に直交する平面で形成されている。左側端面は、ナット85が当接する座面を構成し、右側端面は、カラー75に当接する当接面を構成している。本実施形態では、羽根車50の右側端面が、カラー75、内輪69a、間座71を介して間接的に、外歯78の左側端面に当接している。
【0041】
つまり、羽根車50の右側端面を間接的に外歯78の左側端面に当接させた状態で、ナット85によって羽根車50の左側端面を押し付けることで、羽根車50が過給機回転軸44に固定される。ここで、過給機回転軸44の左側端部44aに形成された雄ねじは、過給機回転軸44が回転すると、ナット85が締まる向きに設定されている。また、外歯78は、はす歯形状に形成されており、過給機回転軸44が回転すると、羽根車50の回転に起因して発生する吸込反力の向きと反対側の軸方向の力がかかるように形成されている。外歯78をはす歯で構成することで、軸受69にかかる軸方向の負荷を減らすことができる。
【0042】
ナット85に、回転ユニットRUの回転バランス調整用の調整部100が形成されている。調整部100は、削り込み、または肉盛りにより形成される。ナット85に加えて、羽根車50の背面にも調整部100を設けてもよい。調整部100は、羽根車50よりも比重が重い部位に設けるのが好ましい。本実施形態では、羽根車50はアルミニウム合金製で、ナット85は鋼製であるから、ナット85は羽根車50よりも比重が重い部位である。
【0043】
回転ユニットRUには、図2の遊星歯車装置54を介して動力が入力される。遊星歯車装置54は入力軸65と過給機回転軸44との間に配置され、変速機構ケーシング58に支持されている。過給機回転軸44の右側端部(基端部)44bに、外歯78が形成されており、この外歯78に複数の遊星歯車80が周方向に並んでギヤ連結されている。すなわち、過給機回転軸44の外歯78は遊星歯車装置54の太陽歯車として機能する。さらに、遊星歯車80は径方向外側で大径の内歯車(リングギヤ)82にギヤ連結している。遊星歯車80は、過給機ケース56に装着された軸受84によりキャリア軸86に回転自在に支持されている。
【0044】
キャリア軸86は固定部材88に固定され、この固定部材88が過給機ケース56にボルト90により固定されている。つまり、キャリア軸86は固定されている。内歯車82には入力軸65の左側端部に設けられた入力ギヤ92がギヤ連結されている。このように、内歯車82が入力軸65と同じ回転方向に回転するようにギヤ接続され、キャリア軸86が固定されて遊星歯車80は内歯車82と同じ回転方向に回転する。太陽歯車(外歯車78)は出力軸となる過給機回転軸44に形成されており、遊星歯車80と反対の回転方向に回転する。
【0045】
過給機ケース56に、外部からの過給機潤滑通路(図示せず)に連通して、軸受ハウジング76まで潤滑油を導く潤滑油通路94が形成されている。詳細には、過給機ケース56と軸受ハウジング76との間にオイル層96が形成され、このオイル層96に潤滑油通路94が接続されている。これにより、軸受ハウジング76は、オイル層96を介して過給機ケース56に径方向に移動可能に支持されている。オイル層96は、過給機回転軸44の揺動を緩和する機能を持つ。
【0046】
シール保持体79(非回転部品NM)と過給機ケース56との間に、羽根車50の先端と羽根車ハウジング52の内周面との隙間であるチップクリアランスを調節するドーナツ板状のシム102が挿入されている。
【0047】
具体的には、過給機ケース56にシム収容空間が形成され、シム102がシール保持体79と過給機ケース56との間に介在している。シム102は、過給機ケース56に対して着脱可能である。シム収容空間は、アセンブリ収容空間よりも径方向外側に形成されている。シム102の枚数が増えるほど、シール保持体79が過給機ケース56に対して左側に離れた位置で、過給機ケース56に固定される。例えば、厚さの異なるシム102が複数枚用意され、シール保持体79と過給機ケース56との間に、シム102が1枚あるいは複数枚配置される。具体的には、軸受ハウジング76がシール保持体79に当接した状態で、羽根車50と羽根車ハウジング52との間のチップクリアランスが所定範囲に収まるように、シム102が選択される。
【0048】
前記チップクリアランスが所定範囲内に収まることで、過給機32の性能が維持できる。チップクリアランスが小さくなるほど、高速回転時における過給機32の性能が向上する。回転ユニットRU全体で軸方向位置を調整しているので、軸方向位置を調整した場合でも、回転バランスが乱れることはない。
【0049】
つぎに、図3の回転ユニットRUのバランス調整方法および過給機への組付方法について説明する。図4に示すように、同バランス調整方法は、回転ユニットRUを組み立てる回転ユニット組立工程S1と、組み立てた回転ユニットUのバランス調整を行う回転バランス調整工程S2とを有している。バランス調整後の回転ユニットUは、組付工程S3において過給機ケースに組み付けられる。
【0050】
回転ユニット組立工程S1では、図3の過給機回転軸44に、軸受アセンブリBAおよびオイルシールアセンブリSAを取り付け、過給機回転軸44の左側端部44a(先端部)に羽根車50を装着した後、過給機回転軸44の先端の雄ねじにナット85を螺合する。ナット85を締め付けることで、羽根車50、軸受アセンブリBAの内輪69a、間座71およびオイルシールアセンブリSAのカラー75が軸方向(右側)に押圧され、外歯78とナット85との間で挟持される。これにより、羽根車50、軸受アセンブリBAの内輪69a、間座71およびカラー75が過給機回転軸44に相対変位不能に固定され、回転ユニットRUが組み立てられる。
【0051】
回転バランス調整工程S2では、軸受アセンブリBAの軸受ハウジング76の外周面およびシール保持体79を治具によって支持した状態で、羽根車50を回転させて、ナット85の調整部100を削ることで、回転ユニットRUの回転バランスを調整する。必要に応じて、過給機42の性能に影響の少ない羽根車50の背面を削って、回転バランスを調整する。本実施形態では、回転ユニットRUの重心が軸心に近づくようにバランス調整される。これにより、回転ユニットRUが高速回転したときに、軸受69が損傷するのを防いだり、回転ユニットRUの振動を抑えたり、回転ユニットRUが加振源になるのを防いだりすることができる。
【0052】
ナット85は機械加工にて形成されない可能性があり、一般に、六角形など非円形に形成される。このため、過給機回転軸44に対して回転バランスが乱れやすい。したがって羽根車50端体で回転バランスを調整しても、ナット85が装着された状態では回転バランスがとれていないことがある。本実施形態のように、回転ユニットRUとして組み立てた状態で回転バランスを調整することで、羽根車50以外の回転部品RMの回転バランスも考慮してバランスを調整することができるから、回転バランスの精度が向上する。
【0053】
組付工程S3では、回転バランス調整後の回転ユニットRUを、冶具から取り外して分解することなく、過給機ケース56に組み付ける。その際、オイルシールアセンブリSAのシール保持体79と過給機ケース56との間にシム102を挿入することで、羽根車50と過給機ケース56とのチップクリアランスを調節する。
【0054】
上記構成において、ナット85を用いて羽根車50、軸受アセンブリBAおよびオイルシールアセンブリSAが過給機回転軸44に一体化されているので、回転ユニットRUを一体で過給機ケース56から取り付けることができる。その結果、過給機回転軸44に羽根車50、軸受アセンブリBAおよびオイルシールアセンブリSAを一体化した状態で、回転ユニットRUのバランスを調整できるので、過給機32に組み込んだのちのバランス調整が不要になるから、組立工数を削減できる。また、ナット85に、回転バランス調整用の調整部が設けられているので、羽根車50のみを削る場合に比べて、選択肢が増えてバランス調整がし易くなる。
【0055】
さらに、ボルト81を用いてオイルシールアセンブリSAのシール保持体79を過給機ケース56に固定することで、回転ユニットRUが過給機ケース56に容易に取り付けられる。そのため、回転ユニットRUを過給機ケース56に圧入する必要がないので、組立も容易である。
【0056】
本実施形態では、遊星歯車装置54を用いて回転ユニットRUに動力を伝達しているので、入力軸65、キャリア軸86および過給機回転軸44の3つの軸の芯出しを行う必要があり、軸心を一致させるのが困難である。しかしながら、軸受ハウジング76がオイル層96を介して過給機ケース56に径方向に移動可能に支持されているので、遊星歯車装置54を用いることに起因する過給機回転軸44の揺動を吸収できる。この場合、軸受ハウジング76を過給機ケース56に固定できないが、シール保持体79を過給機ケース56に固定することで、回転ユニットRUがケースに回転自在に収納される。さらに、シール保持体79が、軸受ハウジング76の軸方向への移動するのを防ぐストッパ部を兼ねているので、部品点数を減らすことができる。
【0057】
さらに、オイルシールアセンブリSAのシール保持体79と過給機ケース56との間にシム102を挿入することで、羽根車50と過給機ケース56とのチップクリアランスを調節しているので、羽根車50のクリアランスの調節が容易になる。
【0058】
また、軸受ハウジング76の外周面を支持した状態で、回転ユニットRUの回転バランスを調整するので、過給機回転軸44に羽根車50、軸受アセンブリBAおよびオイルシールアセンブリSAを一体化した状態で、回転ユニットRUのバランスを調整でき、調整作業が容易になる。
【0059】
回転ユニットRUとして羽根車50と一体回転しない軸受ハウジング76が、回転ユニットRUに含まれている。これにより、軸受ハウジング76の外周部を冶具で支持した状態で、回転バランス調整を行うことができる。その結果、回転バランスの調整を容易にかつ精度よく行うことができる。このように、羽根車50と一体回転する回転部品RMを回転可能に支持する部分が、回転ユニットRUに含まれることが好ましい。
【0060】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。上記実施形態では、ナット85に調整部100を設けていたが、羽根車50を除く他の回転ユニット構成部品に調整部100を設けてもよい。例えば、羽根車50とナット85との間にカラーを配置し、このカラーに調整部100を設けてもよい。その際、カラーに偏心をつけておき、カラーの向きを変えることでバランス調整することもできる。
【0061】
本発明の回転ユニットは、羽根車が比較的高速で回転する遠心式過給機に好適に適用され、特に、遊星歯車装置にて増速される過給機に好適に適用される。また、エンジンのような回転数が比較的高速な装置からの動力で駆動される過給機に好適に適用される。ただし、他の構造の過給機にも適用することができ、自動二輪車以外の乗物のエンジンに搭載された過給機にも適用することができる。また、エンジンの回転力のほか、排気エネルギー、電気モータ等によって、駆動される過給機にも適用できる。
【0062】
回転ユニットRUには、シールアセンブリSAのうちカラー75が含まれていればよく、オイルシール77およびシール保持体79が回転ユニットRUから省略してもよい。また、シールアセンブリSAはなくてもよく、シム102を用いない構造の過給機にも本発明は適用できる。
【0063】
また、オイル層96はなくてもよい。その場合、軸受ハウジング76を過給機ケース56に圧入嵌合してもよく、また、軸受ハウジング自体を過給機ケース56に形成してもよい。さらに、上記実施形態では、基端部に設けた大径の外歯78と先端に螺合したナット85との間で回転ユニット構成部品を挟持することで回転ユニットRUを一体化したが、回転ユニットRUの構造はこれに限定されない。例えば、基端部に小径の歯車を設け、先端部に大径のストッパを設け、基端部に螺合したナットとストッパとの間で回転ユニット構成部品を挟持してもよい。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
32 過給機
44 過給機回転軸(回転軸)
50 羽根車
54 遊星歯車装置(変速機)
56 過給機ケース(ケース)
69 軸受
69a 軸受の内輪(回転部品RM)
69b 外輪(非回転部品NM)
75 カラー(回転部品RM)
76 軸受ハウジング(非回転部品NM)
77 オイルシール(非回転部品NM)
79 シール保持体(ストッパ部材、非回転部品NM)
85 ナット(固定具)
96 オイル層
100 調整部
102 シム
E エンジン
RU 回転ユニット
S1 回転ユニット組立工程
S2 回転バランス調整工程
S3 組付工程
図1
図2
図3
図4