(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記肉の塊は、畜肉の挽肉の塊、家禽肉の挽肉の塊、畜肉の肉片の塊又は家禽肉の肉片の塊であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【背景技術】
【0002】
食品における乾燥工程は、温度および圧力を調整して、加工することが一般的である。乾燥方法として、熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥などが挙げられる。
【0003】
非特許文献1には、水分の蒸発を左右する要因である温度と圧力を軸に、対応する乾燥方法が示されている。
【0004】
図10は、非特許文献1に示された、水分の蒸発を左右する要因である温度と圧力を軸に、対応する乾燥方法を示す概念図である。非加熱食肉製品は、低温下での乾燥が必要である。非特許文献1によれば、低温状態で食肉製品を乾燥させるには、減圧環境下で行う凍結乾燥が可能である。また、
図10に示すように、他の乾燥方法として、常温の低温付近の温度で、常圧環境下で行う除湿乾燥が知られている。
【0005】
しかしながら、低温状態で乾燥を行う凍結乾燥、除湿乾燥は、乾燥時間が長く、製造の短縮化による生産性向上が求められている。このため従来は、自然乾燥などが主流であったが、圧力などを変えることで、非加熱食肉製品の乾燥期間の短縮化や品質のばらつきを低減させることが行われている
【0006】
例えば、特許文献1には、塩漬調味料で原料肉を塩漬処理し、塩漬された肉を加圧しながら、熟成、乾燥を行う生ハムの製造方法が開示されている。特許文献1によれば、熟成、乾燥工程において、約10気圧が原料肉に加圧される。加圧時の圧力が低いと乾燥が不充分になり、高すぎるとリテーナーから肉がはみ出したりする、また、機械の設計上のコストが急激に高まることが記されている。
【0007】
また、特許文献2には、最終製品の塩分濃度やAw(水分活性)値のばらつきが低下し、生ハムを効率よく製造する方法が開示されている。特許文献2によれば、生ハムの製造は、塩漬した生ハム原木を、リテーナーに充填し、リテーナーの両側面に設けたエンドスペーサーに外側から50〜60kg/cm
2の圧力をかけたところで固定し、真空環境下で減圧乾燥するようにする。
【0008】
これにより、生ハムの乾燥期間が短縮されるため、生産性を高めることができ、さらに、生ハムの品質のばらつきを押さえることができる。
【0009】
また、特許文献3には、食品を保存するための減圧低温乾燥システムが開示されている。特許文献3によれば、真空引き工程で減圧した乾燥機内に窒素ガスを供給して加圧すると共に食品にエタノールを噴霧して、食品の組織内の酸素ガスまで窒素ガスに置換され食品の酸化を防ぎ、併せてエタノールが食品中に浸透して減菌化するものである。その後、乾燥機内の窒素ガスを抜いて減圧状態で遠赤外線により食品を加熱する。
【0010】
これにより、水分蒸発による品温(食品自身の温度)低下が抑制され、食品の中心部まで品温が維持されるので、食品が凍結せず、しかも減圧による水分蒸発が促進され、短時間に内部の水分まで除去でき、食品を半乾燥状態に仕上げることができる。
【0011】
また、特許文献4には、食品と、乾燥剤を間接接触させて、食品を乾燥する方法が開示されている。特許文献4によれば、易透水性材料に食品および乾燥剤をそれぞれ個別に包装し、伸縮性を有しかつ不透気性の膜体により開口部が封止された、排気孔を有する剛性容器内に、包装された食品と乾燥剤を、食品の片面に乾燥剤が接するよう配置して収納し、剛性容器内の空気を排出して減圧状態を維持する。このように、食品および乾燥剤はそれぞれ個別に包装されているので、減圧下で食品に乾燥剤が直接触れることがなく、乾燥がむらなく均一に行われるものである。
【0012】
また、特許文献5には、食品の旨みを維持しながら、乾燥効果を向上させて乾燥処理時間を短縮し、かつ食品周囲の乾燥雰囲気を常に設定された一定の温湿度環境の形成を可能にして、乾燥ムラを解消する食品の乾燥方法が開示されている。
【0013】
特許文献5によれば、食品に冷風を吹き付けて乾燥させる食品の乾燥において、内部に密閉空間を形成した乾燥室に貫通配置されコンベア面に多数の通気孔を有する搬送コンベア上に食品を載置して食品を乾燥室の内部に搬送し、乾燥室の内部で搬送コンベアの上下に配設されたノズルから食品に向かって垂直方向に除湿冷気を衝突させる。
【0014】
このように、特許文献5の食品の乾燥方法は、乾燥室の内部で食品を搬送しながら、除湿冷気を衝突させて食品の上下表面に除湿冷気の膜を形成することにより、食品を乾燥させるものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下図面を参照して、本発明による非加熱食肉製品の製造方法を実施するための形態について説明する。尚、本発明は、非加熱食肉製品に用いられる塩漬された肉の塊の乾燥工程を含む非加熱食肉製品の製造方法であって、デシカント方式による除湿乾燥により、相対湿度が50%以下、かつ、温度が−5℃以上20℃以下の常圧下の環境において、0.03m/s以上5.0m/s未満の風速下に肉の塊を配して乾燥する工程を含むようにしたものである。これにより、常圧下の環境で非加熱食肉製品の乾燥時間を短縮することが可能となる。
【0030】
[乾燥装置の構成]
図1は、非加熱食肉製品の製造方法を説明するための乾燥装置の構成を示す概念図であり、(a)は、デシカント除湿機の処理ファンを制御して風速を制御する場合を示し、(b)は、別個にサーキュレータ等の風速調整装置を設けて意図的に風速を意図的に制御する場合を示す。
【0031】
図1(a)、(b)に示すように、非加熱食肉製品の乾燥を行う乾燥装置1は、肉の塊である生ハム原木40等を収納する乾燥室2と乾燥室2内の除湿、乾燥を行うデシカント除湿機10とを有している。
【0032】
図1(a)に示すように、乾燥室2は、非加熱食肉製品としての生ハム原木40等を収納する。乾燥室2は、デシカント除湿機10で除湿された空気が吹き出し口3から水平方向に供給されて、一定の室温、湿度を有するように保たれている。
【0033】
また、
図1(a)に示すように、乾燥室2内では、点線で示す矢印の風が、デシカント除湿機10の処理ファン12(
図2に示す)によって意図的に制御された風速で流れている。
【0034】
生ハム原木40は、乾燥室2内に、釣り下げるように複数本配置されている。これにより、吹き出し口3から流れ出した除湿された空気は、乾燥室2に供給されて、除湿された空気の風が生ハムの表面を流れる。また、生ハムの表面を流れた風は、乾燥室2の他方の壁側(
図1(a)では正面視で右側壁)の吸い込み口4からデシカント除湿機10に流れる。
【0035】
このように、
図1(a)に示す乾燥装置1は、デシカント除湿機10によって乾燥室2内に除湿された空気が供給されており、デシカント除湿機10の処理ファン12(
図2に示す)によって、乾燥室2内を流れる風の風速を意図的に制御して、乾燥室2内の生ハム原木40の表面に風が流れるようにする。
【0036】
また、
図1(b)に示すように、乾燥室2内にサーキュレータ5等の風速調整装置を別途設けて、乾燥室2内の除湿された空気の風を流すようにすることも可能である。また、サーキュレータ5等の風速調整装置によって、乾燥室2内の風速を調整するようにする。これにより、デシカント除湿機10によって乾燥室2内に除湿された空気が供給されて、乾燥室2内に設置したサーキュレータ5によって乾燥室2に流れる風の風速が制御される。
【0037】
尚、生ハム原木40の乾燥室2への配置は、通気性の良いトレー(図示せず)等に釣り下げた生ハム原木40を収納して、トレーを搭載した台車等で移動して行うのが好適である。
【0038】
[デシカント除湿機の構成]
次に、
図2を用いて、デシカント除湿機の構成について
図2を用いて説明する。
図2は、デシカントを用いたデシカント除湿機の構成を示すブロック図である。
【0039】
図2に示すように、デシカント除湿機10は、除湿剤(デシカント)により空気中の水分を吸着して直接除去するようにしたものである。
図2に示しように、デシカント除湿機10は、吸気した空気の除湿を行う処理部11と、処理部11で吸着した水分を処理して除湿可能にする再生部25と、処理部11、再生部25の制御を行う制御回路35からなる。
【0040】
図2に示すように、デシカント除湿機10は、回転可能な除湿ロータ13を備えており、処理部11と再生部25とは、1つの除湿ロータ13を共有している。除湿ロータ13は円柱状の形状を成し、円柱状の内部にはシリカゲル等の除湿剤が内蔵されている。除湿剤が内蔵されている除湿ロータ13は回転して、除湿剤が処理部11から再生部25へ移動し、また、再生部25から処理部11へ移動する。これにより、除湿ロータ13は、処理部11での除湿剤による除湿及び再生部25での除湿剤の再生が行われる。
【0041】
また、除湿ロータ13は、円柱状の一方の先端表面には、処理部11の処理ファン12からの除湿される空気が流入する処理エリア14と、円柱状の他方の先端表面には、再生部25の再生ファン28からの加熱された空気が流入する再生エリア27とを有している。
【0042】
このように、除湿ロータ13は、円形を成す一方の表面から空気が流入して除湿剤を通り、円形を成す他方の表面から空気が流出するように構成されている。
【0043】
また、
図2に示すように、デシカント除湿機10にはモータ30が配されており、除湿ロータ13は、モータ30により円柱の中心軸を回転軸として回転するようになっている。
【0044】
デシカント除湿機10の処理部11は、乾燥室2からの空気、外気又は乾燥室2からの空気と外気を混合した空気を吸入するための処理ファン12と、除湿ロータ13のデシカントに空気を流入して除湿を行う処理エリア14と、除湿ロータ13で除湿された空気を冷却する冷却器15と、加熱するヒータ16とを備えている。冷却された又は加熱された空気は乾燥室2に供給される。
【0045】
尚、デシカント除湿機10の冷却器15、ヒータ16に代えて、冷凍機等を設けて、冷凍機によって乾燥室2の温度を調整、維持するようにしてもよい。
【0046】
処理ファン12は、制御回路35により回転速度の制御が可能に構成されている。処理ファン12の回転速度を可変することにより、乾燥室2から流入する空気の量が変化して、乾燥室2の風速を意図的に変えることができる。
【0047】
また、
図1(b)に示すように、乾燥室2内にサーキュレータ5等の風速調整装置を設けて、サーキュレータ5によって乾燥室2の風速を意図的に制御するようにしてもよい。
【0048】
また、除湿ロータ13で除湿された乾燥空気は、湿度センサ17、温度センサ18で、湿度、温度が測定されて、測定された湿度、温度のデータが制御回路35に入力される。
【0049】
一方、デシカント除湿機10の再生部25は、外気を吸入するための再生ファン28と、吸入した外気を加熱するヒータ26と、除湿ロータ13のデシカントにヒータ26で加熱した空気を流入して除湿剤(デシカント)の再生を行う再生エリア27とを備えている。除湿ロータ13が回転して、吸着した水分を有する処理エリア14が再生部25に位置したときに、ヒータ26で加熱した空気によって除湿剤(デシカント)の再生を行われる。
【0050】
除湿ロータ13の再生エリア27で加湿された空気は外部に排気される。このように、デシカント除湿機10の再生部25によって、除湿ロータ13の再生エリア27が除湿を行えるように再生される。除湿ロータ13の再生エリア27は、モータ30により回転して処理エリア14に移動して、除湿が可能となる。
【0051】
制御回路35は、デシカント除湿機10の処理部11、再生部25の制御を行う。制御回路35は、乾燥室2に供給する空気の相対湿度、温度、風速等を設定する入力設定部36が接続されている。入力設定部36は温度、湿度、乾燥時間を表示する表示部が内蔵されている。制御回路35は、入力設定部36から入力された設定値をメモリに記憶する。
【0052】
尚、温度に対する相対湿度と露点温度とは、相互に変換することができるため、どちらか一方を指定することにより、他方を算出することができる。このため、相対湿度に代えて、露点温度を設定するようにしてもよい。
【0053】
制御回路35は、入力設定部36で設定された温度、湿度を有する空気を乾燥室2に供給するように、処理部11、再生部25の制御を行う。
【0054】
デシカント除湿機10を使用した乾燥(方法)は、常圧で、20°C以下の温度での除湿が可能であるため、常圧、常温の自然乾燥と同等であり、さらに、低温状態にすることが可能である。このように、デシカント乾燥は、相対湿度が50%以下、かつ、温度が−5℃以上20℃以下の常圧下の環境における乾燥に好適である。
【0055】
[空気の除湿動作]
デシカント除湿機10は、湿った空気が処理ファン12により吸引される。処理ファン12によって湿った空気が除湿ロータ13の処理エリア14に流入させて、除湿が行われる。
【0056】
除湿ロータ13の処理エリア14を流れた除湿された空気は、湿度センサ17、温度センサ18で、湿度、温度が測定されて、制御回路35に入力される。制御装置は、湿度センサ17、温度センサ18のデータに基づいて、冷却又は加熱するように冷却器15又はヒータ16を起動する。また、設定した相対湿度となるように、モータ30の回転数を制御して、除湿ロータ13の処理エリア14の除湿量を変えるようにする。
【0057】
除湿ロータ13の処理エリア14で除湿された乾燥した空気は、乾燥室2へ送られる。除湿ロータ13はゆっくりと回転しており、また、除湿して水分を吸着した処理エリア14は、再生エリア27に移動して、再生エリア27がヒータ26で加熱されて、ヒータ26の熱により水分が放出され、高温高湿の空気となって外部に放出される。
【0058】
このとき、処理エリア27からの高温高湿の空気を熱交換器へ供給するようにしてもよい。また、熱交換器で高温高湿の空気を温度の低い室内の空気で冷やして結露させて、結露した水は水タンクで回収するようにしてもよい。
【0059】
[デシカント乾燥による生ハム原木の品質測定、評価]
次に、デシカントの乾燥方法によって製造した生ハム原木の品質測定、評価結果について説明する。
【0060】
生ハム原木の製造は、最初に、畜肉の挽肉又は畜肉の肉片を塩漬した肉の塊を、例えば、不織布等からなるケーシングに充填し、必要により、ケーシングの両側面から圧力をかけて固定する。その後、生ハム原木を静置し、静置後に肉の塊を生ハム原木として取り出して、その後、低温状態のスモーク工程により生ハム原木を燻煙する。尚、スモーク工程は省略することも可能である。
【0061】
次に、スモーク工程後の生ハム原木40を
図1に示す乾燥室2に収納する。生ハム原木40の設置は、
図1(a)、(b)に示すように、乾燥室2に釣り下げるように配置する。尚、生ハム原木40の設置は、釣り下げる状態に限らず、水平状態になるように配置してもよい。
【0062】
前述したように、デシカント除湿機10は、相対湿度又は露点温度、温度を設定し、また、乾燥室2に供給する風の風速を設定して、除湿剤(デシカント)により空気中の水分を直接除去するように構成されている。また、乾燥室2に供給する風は、設定した温度を有している。
【0063】
以下に、デシカント乾燥による露点温度(相対湿度)における各風速に対する生ハム原木の各種の測定結果について
図3乃至
図7を用いて説明する。
【0064】
[生ハム原木の乾燥時間の測定]
最初に、デシカント乾燥による生ハム原木の乾燥時間の測定について説明する。露点温度(相対湿度)に対する各風速における乾燥時間の測定は、生ハム原木の乾燥歩留を基準に行う。即ち、生ハム原木の乾燥工程開始前の重量を測定しておき、乾燥を開始してから、乾燥中の生ハム原木の重量が乾燥歩留が基準値以下の値のときに乾燥工程が終了したと判断する。このときの乾燥歩留の基準値は、89%とする。
【0065】
尚、生ハム製造工程における充填された直後の重量を測定し、このときの乾燥歩留を100%とし、スモーク工程後の乾燥工程前の生ハム原木の乾燥歩留を95%とし、乾燥中の重量からデシカント乾燥による乾燥歩留が85%以下となったときに乾燥工程が終了したと判断するようにしてもよい。尚、上述した乾燥歩留の基準値は、一例であり、これに限定するものではない。
【0066】
図3は、デシカント乾燥による露点温度(相対湿度)における各風速に対する乾燥時間の測定結果を示す表である。生ハム原木40は、
図1(a)に示す乾燥室2に静置されて、最初に、
図3に示すように、デシカント除湿機10に露点温度(相対湿度)に対する風速を設定する。尚、温度は、18℃に設定されている。最初に、露点温度5℃(このときの相対湿度は42.3%である。)での0.03m/s以上で風速0.5m/s未満の間のいずれかの値を設定する。例えば、0.3m/sに設定する。デシカント除湿機10は、この環境下で乾燥を開始する。
【0067】
上記環境下での乾燥状態を確認後に、生ハム原木を新たな生ハム原木に交換して、露点温度5℃での風速を0.5m/s以上で5.0未満の間のいずれかの値を設定する。例えば、風速を2.8m/sに設定する。この状態で乾燥状態を確認後に、生ハム原木を新たな生ハム原木に交換して、露点温度5℃での風速が、5.0m/s以上の値を設定する。例えば、風速が、6m/sとする。デシカント除湿機10は、この環境下で乾燥を開始する。この状態で乾燥状態を確認後に、生ハム原木を新たな生ハム原木に交換する。
【0068】
次に、露点温度を−15℃(このときの相対湿度は9.3%である。)に設定し、露点温度5℃と同一の風速での環境における乾燥時間を測定する。この状態で乾燥状態を確認後に、生ハム原木を新たな生ハム原木に交換する。
【0069】
次に、露点温度を−25℃(このときの相対湿度は3.9%である。)に設定し、露点温度5℃と同一の風速での環境における乾燥時間を測定する。
【0070】
図3に示すように、露点温度5℃における風速0.5m/s未満の環境では、乾燥時間が39時間であった。また、露点温度5℃における風速を0.5m/s以上で5.0未満の環境では、乾燥時間が31時間であり、風速が5.0m/s以上の環境では、30時間であった。
【0071】
次に、露点温度−15℃における風速0.5m/s未満の環境では、乾燥時間が31.5時間であった。また、露点温度−15℃における風速を0.5m/s以上で5.0m/s未満の環境では、乾燥時間が27時間であり、風速が5.0m/s以上の環境では、24時間であった。
【0072】
次に、露点温度−25℃における風速0.5m/s未満の環境では、乾燥時間が30.5時間であった。また、露点温度−25℃における風速を0.5m/s以上で5.0m/s未満の環境では、乾燥時間が26時間であり、風速が5.0m/s以上の環境では、22時間であった。
【0073】
これにより、生ハム原木のデシカント乾燥における乾燥時間は、露点温度が低いほど、また、風速が大きいほど短くなることが確認された。
【0074】
次に、乾燥時間の測定に使用した乾燥した生ハム原木を使用して、以下に示す外観評価、水分活性の測定及び官能評価を行った。
【0075】
[生ハム原木の外観評価]
図4は、デシカント乾燥による露点温度(相対湿度)における各風速に対する生ハム原木の外観評価の結果を示す表である。
図4に示すように、風速が0.03m/s以上5.0m/s未満の風速下に配した生ハム原木の外観は、良好であった。しかしながら、風速が5.0m/s以上の乾燥では、どの露点温度でも変質が見られ、特に、露点温度が低下するにつれて、表面に割れ等が発生し、大きな変質が見られた。
【0076】
これは、風速が5.0m/s以上の場合には、生ハム原木表面の乾燥が急速に行われ、生ハム原木の中間部、中心部の乾燥状態、特に、乾燥速度の違いにより変質が発生している。また、生ハム原木表面の乾燥が急激に起こるため、生ハム原木内部の湿気が外部に発散しづらくなるためであると推定される。
【0077】
[生ハム原木の水分活性の測定]
次に、デシカント乾燥による露点温度(相対湿度)における各風速に対する生ハム原木の各部位での水分活性の測定結果について
図5及び
図6を用いて説明する。
図5は、デシカント乾燥による露点温度(相対湿度)における各風速に対する生ハム原木の各部位での水分活性の測定個所を示す図であり、(a)は、生ハム原木の長手方向の各部位の測定個所を示す外観図、(b)は、生ハム原木内部の測定個所を示す断面図である。
図6は、デシカント乾燥による露点温度(相対湿度)における各風速に対する生ハム原木の各部位での水分活性の測定結果を示す表である。
【0078】
尚、一般に知られているように、食品中の水分はその存在状態により自由水と結合水に分けられ、食品の水分中の自由水の割合を水分活性Awといい、同一条件下における食品の水蒸気圧を純水の水蒸気圧で除した値と定義されている。
【0079】
また、水分活性の評価は、水分活性の基準値を0.95とし、測定された水分活性値が基準値未満であることを確認して乾燥状態を判断する。
【0080】
水分活性の測定は、
図2に示す乾燥時間を測定した生ハム原木を用いて行う。
図5(a)に示すように、生ハム原木の長手方向の各部位であるカタ部、中央部、モモ部(各部との境界を点線で示す)と、
図5(b)に示すように、
図5(a)に示す各部の表面近傍の端部と、生ハム原木の中心位置付近の中心部と、端部と中心部との中間に位置する層である中間部での水分活性を測定する。水分活性の測定は、水分活性測定装置を用いて測定し、測定した9個所(
図5(a)に示すa、b、c、d、e、f、g、h、i)の水分活性値から平均値及び水分活性値における最大値と最小値との数値幅を算出する。
【0081】
図6に示すように、露点温度5℃、風速0.5m/s未満の環境では、水分活性の平均値は、0.934であり、最大値と最小値との数値幅は、0.030であった。
【0082】
また、露点温度5℃、0.5m/s以上で5.0m/s未満の環境では、水分活性の平均値は、0.926であり、最大値と最小値との数値幅は、0.030であった。
【0083】
また、露点温度−15℃での風速5.0m/s未満の環境では、水分活性の平均値、最大値と最小値との数値幅は、露点温度5℃とほぼ同程度の値が得られた。
【0084】
しかしながら、風速が5m/sを超えて、かつ、露点温度が低い状態の環境では、水分活性の平均値及び最大値と最小値との数値幅が多少大きくなり、水分活性での乾燥状態にばらつきが見られる。
【0085】
このように、本発明におけるデシカント方式による除湿乾燥の条件下では、生ハム原木内の9個所の水分活性の平均値が均一に下がり、また、最大値と最小値との数値幅は小さくなり、生ハム原木の内部の層でのばらつきが少なく、生ハム原木の全体が均一に乾燥されていることが確認された。
【0086】
尚、乾燥工程での乾燥状態の判断を乾燥歩留で行った例を示したが、乾燥状態の判断を乾燥歩留に代えて、水分活性値が0.95未満となったときに乾燥工程の終了と判断してもよい。
【0087】
[生ハム原木の官能評価]
次に、デシカント乾燥による露点温度(相対湿度)における各風速に対する生ハム原木の官能評価について
図7を用いて説明する。
図7は、デシカント乾燥による露点温度(相対湿度)における各風速に対する生ハム原木の官能評価の結果を示す表である。
【0088】
図7に示すように、風速が0.03m/s以上5.0m/s未満及び5.0m/s以上の風速下においても、嗅覚、味覚等の官能評価が良好であった。
【0089】
[従来の乾燥方法と本発明との比較]
以上の評価結果を基に、従来の乾燥方法と本発明による非加熱食肉製品の製造方法との比較を
図8に示す。
図8に示すように、デシカント乾燥を用いて肉の塊(生ハム原木)の表面に対して、0.03m/s以上5.0m/s未満の風速を有する風を流すことによって、推測するに、生ハム原木内部から表面に発散される湿気が、風に流されて停滞することなく対流し、表面が完全に乾燥することなく、ほどよく、外部への水分の通り道が確保されると考えられる。これにより、従来5日以上要していた乾燥時間が2日以下に大幅に短縮することが可能となった。また、生ハム原木の外観、品質も良好であり、水分活性値のばらつきも押さえることができる。
【0090】
一方、5.0m/s以上の風速下では、表面の乾燥が急速に起こり、表面のみが完全に乾燥して、外部への水分の通り道が確保されず、内部の湿気が外部に発散されることなく、停滞して水分活性がばらつき、割れ等の外観不良が発生すると考えられる。
【0091】
また、乾燥室が無風状態では、生ハム原木の乾燥が進まないため、乾燥時間が測定することができなかった。さらに、無風状態では、外観評価、官能評価とも不良状態であることを確認した。これは表面に発散される湿気が、風に流されずに停滞し、乾燥時間が長くなると考えられる。
【0092】
尚、非加熱食肉製品に用いられる塩漬された肉の塊として生ハム原木を用いた乾燥方法について述べたが、本発明による非加熱食肉製品の製造方法は、肉の塊として生ハム原木に限らず、生ベーコン原木、生サラミ原木に対しても適用することができる。
【0093】
また、本発明による非加熱食肉製品の製造方法は、畜肉の挽肉の塊、家禽肉の挽肉の塊、畜肉の肉片の塊又は家禽肉の肉片の塊に対しても用いることができる。また、生ハム原木、生ベーコン原木や生サラミ原木以外の他の非加熱食肉製品における乾燥工程に対しても適用することができる。
【0094】
次に、デシカント乾燥を用いた非加熱食肉製品の製造工程について
図9を用いて説明する。
図9は、デシカント乾燥を用いた非加熱食肉製品の製造工程を示す概略のフロー図である。
【0095】
図9に示すように、最初に、原料肉を用途に合わせて、整形し、肉の塊や挽き肉状態にする(ステップS1)。次に、肉の塊や挽き肉に塩等を加えて塩漬し、塩漬した肉の塊を、ケーシングに充填して、静置する(ステップS2)。また、ケーシングに充填後に、必要によりケーシングの両端から加圧する。静置後に、原木状態で保存性、風味を高めるために低温状態で原木をスモーク(燻煙)する(ステップS3)。尚、スモーク工程は省略することも可能である。
【0096】
スモーク終了後、原木の乾燥を行う(ステップS4)。乾燥工程は、前述したデシカント除湿機を有する乾燥室に設置する。デシカント除湿機に露点温度、風速を設定し、所定の時間乾燥させる。例えば、水分活性の値が0.95未満になるまで乾燥を行う。
【0097】
乾燥後、原木をスライスして、スライスした生ハムを包装して出荷する(ステップS5)。
【0098】
このように、乾燥工程にデシカント除湿を用いて、相対湿度が50%以下、かつ、温度が−5℃以上20℃以下の常圧の環境下で、生ハム原木に風を流すことにより、乾燥時間が短縮させ、品質が安定した生ハム原木を製造することができる。
【0099】
以下述べたように、本発明によれば、非加熱食肉製品の乾燥にデシカント乾燥を用いることにより、相対湿度が50%以下、かつ、温度が−5℃以上20℃以下の常圧下の環境で、0.03m/s以上5.0m/s未満の風速下に肉の塊の原木を配して乾燥することにより、原木内部から表面に発散される湿気が、風に流されて停滞することなく対流する。これにより、乾燥時間の短縮化、原木全体の水分活性値の均一な低下、原木表面の変質防止を図ることができる。
【0100】
また、本発明によれば、非加熱食肉製品の製造において乾燥工程にデシカント乾燥を用いることにより、相対湿度が50%以下、かつ、温度が−5℃以上20℃以下の常圧下の環境で、0.03m/s以上5.0m/s未満の風速下に肉の塊の原木を配して乾燥することにより、通常乾燥と比較して、乾燥時間の大幅な短縮、原木全体の水分活性値の均一な低下が可能となるため、賞味期限、微生物等の管理が容易であるため非加熱食肉製品の大量生産に好適である。
【0101】
また、本発明による非加熱食肉製品の製造方法は、デシカント方式による除湿乾燥を用いたことにより、常圧及び低温状態での乾燥が可能となる。
【0102】
また、本発明による非加熱食肉製品の製造方法は、デシカント乾燥を用いて生ハム原木等の肉の塊の表面に0.03m/s以上5.0m/s未満の風速を有する風を流すことにより、生ハム原木内部から表面に発散される湿気が、風に流されて停滞することなく対流し、表面が完全に乾燥することなく、ほどよく、外部への水分の通り道が確保される。これにより、乾燥時間を大幅に短縮することができ、水分活性値のばらつきも押さえることができる。また、外観、品質も良好な生ハム原木を生産することができる、
【0103】
また、本発明による非加熱食肉製品の製造方法は、デシカント乾燥を用いて生ハム原木等の肉の塊の表面に0.03m/s以上5.0m/s未満の風速を有する風を流すことにより、これらの環境下で乾燥した生ハム原木、生ベーコン原木等の水分活性値は、原木の内部全体で均一に低下して、ばらつき幅が小さくなり、安定した品質の生ハム原木、生ベーコン原木等を生産することができる。また、従来の製造方法と変わらない風味、味わい等を有することができる。
【0104】
この発明は、その本質的特性から逸脱することなく数多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではないことは言うまでもない。
【課題】 低湿度下における乾燥において、非加熱食肉製品の製造における乾燥時間の短縮化が可能であり、さらに、非加熱食肉製品の表面変質を防ぎ、優れた品質の非加熱食肉製品を効率よく生産することが可能な非加熱食肉製品の製造方法を提供する。
【解決手段】 乾燥装置1は、肉の塊である生ハム原木40等を収納する乾燥室2と乾燥室2内の除湿、乾燥を行うデシカントである乾燥剤を用いて除湿するデシカント除湿機10とを有し、デシカント除湿機10により生成された、乾燥室2の相対湿度が50%以下、かつ、温度が−5℃以上20℃以下の常圧下の環境において、0.03m/s以上5.0m/s未満の風速下に生ハム原木40等の肉の塊を配して乾燥する工程を含むようにする。