(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
亜鉛めっきを施した送電鉄塔の表面に塗布され、耐候性を備える塗膜を前記送電鉄塔の表面に形成する送電鉄塔用塗料を、前記送電鉄塔の表面に塗布する送電鉄塔の塗装方法であって、
前記送電鉄塔用塗料は、
前記送電鉄塔の表面に直接塗布される下塗り塗料と、前記下塗り塗料の塗布後に重ねて塗布される上塗り塗料とを備え、
前記下塗り塗料は、湿気硬化型ポリウレタン樹脂、及び、第1溶剤を含む一方、導電材を含まず、
前記上塗り塗料は、フッ素樹脂、及び、第2溶剤を含み、
前記第2溶剤は、前記湿気硬化型ポリウレタン樹脂に対する溶解力が前記第1溶剤以下であり、
前記上塗り塗料による塗膜の設計上の厚さ、及び、前記下塗り塗料による塗膜の設計上の厚さを、50μmにすることを特徴とする送電鉄塔の塗装方法。
【背景技術】
【0002】
送電鉄塔は長期に亘って風雨等に曝される。このため、防錆対策として亜鉛めっきが施されている。この亜鉛めっきが経年劣化をすることから、送電鉄塔の表面に防錆塗装を定期的に行うことで、防錆効果を維持している。この送電鉄塔は、30m以上の高さを有しており、山間部等の交通が不便な場所にも設置されている。このため、防錆塗装は、作業者による刷毛塗りで行われている。
【0003】
刷毛塗り作業であることから、塗装用塗料の仕様を決める際には、次の点が考慮されている。第1は、高さ30m以上の高所での作業を行う点である。第2は、幅が10cm程度の細いフレームの上で作業を行う点である。第3は、数万ボルトから数十万ボルトで充電された送電線に接近して作業を行う点である。すなわち、塗装用塗料の仕様は、高所で足もとが不安定であり、迅速な作業が求められている点を考慮して決められる。
【0004】
塗装作業のサイクルをできるだけ長くしたい観点から、塗膜には、長期に亘る耐候性が求められる。塗膜の耐用年数を長くするためには、塗膜を厚くするとともに、塗り回数を増やすことが有効である。例えば、厚さ60μmの塗膜を1回塗りで形成した場合、耐用年数は5年程度となる。また、厚さ60〜65μmの塗膜を2回塗りで形成した場合、耐用年数は7〜15年程度となり、厚さ90μmの塗膜を3回塗りで形成した場合、耐用年数は20〜25年程度となる。
【0005】
20〜25年程度の耐用年数を確保するためには、3回塗りで膜厚が90μmの塗膜を形成することが望ましい。しかし、重ね塗りの回数が増えると作業期間が長くなるため、迅速な作業が困難になる。前述したように、足もとが不安定な高所作業であり、付近に送電線が設置されていることから、作業期間が長くなることは好ましくない。
【0006】
このような事情に鑑み、特許文献1には、亜鉛めっき処理された鋼構造物表面に、下塗り塗料を80〜150μmの厚さで塗布し、上塗り塗料を15〜60μmの厚さで塗布する技術が開示されている。また、特許文献2には、金属構造物表面に用いられる防錆塗膜として、下塗り層が湿気硬化型ポリウレタンウレア樹脂、及び雲母状酸化鉄(または亜鉛末)を含み、塗り重ねる層がフッ素樹脂を含む構成が開示されている。さらに、特許文献3には、ウレタン樹脂塗料を用いる中塗り工程と、親水性のフッ素樹脂を用いる上塗り工程とを含む外壁のリフォーム方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態では、顔料成分と、導電材と、湿気硬化型ポリウレタン樹脂と、エポキシ系樹脂と、フッ素系樹脂とを組み合わせて異なる仕様の塗装用塗料を複数種類作製し、評価を行った。評価は、複合サイクル試験、冷熱サイクル試験、促進耐侯性試験、及び、促進耐侯性・腐食性複合サイクル試験によって行った。
【0019】
これらの試験のうち、複合サイクル試験は、塗料の防食性、耐水性、耐湿性、及び可撓性を評価するための試験である。冷熱サイクル試験は、塗料の可撓性、及び付着安定性を評価するための試験である。促進耐侯試験は、塗料の耐候性を評価するための試験である。促進耐侯性・腐食性複合サイクル試験は、総合的な耐久性を評価するための試験である。なお、各試験の内容については後述する。
【0020】
試験の説明に先立ち、使用材料について説明する。まず、顔料成分について説明する。
図1に示すように、顔料成分は、塗料の色を定める着色顔料と、流動性、強度、及び光学的性質等を改善する体質顔料とを有する。着色顔料としては、白色用の酸化チタン、黒色用のカーボンブラック、錆色用の酸化第二鉄、及び黄色用の黄色酸化鉄を用いた。体質顔料としては、炭酸カルシウム、カオリン、珪藻土、タルク、硫酸バリウム、及び炭酸バリウムを用いた。
【0021】
次に、湿気硬化型ポリウレタン樹脂について説明する。
図1に示すように、湿気硬化型ポリウレタン樹脂はA(湿硬ウレタン−A)からC(湿硬ウレタン−C)の3種類を用いた。
【0022】
湿硬ウレタン−Aは、樹脂成分が全体の58%であり、残りが顔料成分である。すなわち、導電材を含んでいない。樹脂としては、平均分子量が500〜1500の湿気硬化型ポリウレタン樹脂を用いた。溶剤としては、低沸点芳香族ナフサ、及びキシレンを用いた。この塗料としては、例えば中電工業株式会社製の商品名「パイネ#8010T」、大日本塗料株式会社製の商品名「Vグラン」があげられる。
【0023】
湿硬ウレタン−Bは、導電材として亜鉛末を含んでいる。そして、樹脂成分が全体の48%であり、残りが顔料成分と導電材である。そして、樹脂としては、平均分子量が500〜1500の湿気硬化型ポリウレタン樹脂を用いた。溶剤としては、低沸点芳香族ナフサ、中沸点芳香族ナフサ、及びトリメチルベンゼンを用いた。この樹脂としては、例えば大日本塗料株式会社製の商品名「Vグランジンク」があげられる。
【0024】
湿硬ウレタン−Cは、添加材として平均粒子径が約35μmのアルミニウム微粉末を含んでいる。そして、樹脂成分が全体の55%であり、残りが顔料成分と添加材である。そして、樹脂としては、平均分子量が500〜1500の湿気硬化型ポリウレタン樹脂を用いた。溶剤としては、低沸点芳香族ナフサ、中沸点芳香族ナフサ、及びトリメチルベンゼンを用いた。
【0025】
次に、エポキシ系樹脂について説明する。
図2に示すように、エポキシ系樹脂はエポキシ樹脂A(エポキシ−A)からC(エポキシ−C)の3種類とシリコンエポキシの4種類を用いた。
【0026】
エポキシ−Aは、樹脂成分が全体の58%であり、残りが顔料成分である。樹脂成分に関し、主剤にビスフェノールA型のエポキシ樹脂を用い、硬化剤にHMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)型のイソシアネート樹脂を用いた。溶剤としては、キシレン、エチルベンゼン、メチルイソブチルケトン、トルエン、及び酢酸エチルを用いた。この塗料としては、例えば大日本塗料株式会社製の商品名「エポオール#65−W」があげられる。
【0027】
エポキシ−Bは、樹脂成分が全体の54%であり、残りが顔料成分である。樹脂成分に関し、主剤には2種類のエポキシ樹脂を混合して用いた。1つ目の樹脂としては、重量平均分子量が約900であってエポキシ当量が450〜500であるビスフェノールA型のエポキシ樹脂を用いた。2つ目の樹脂としては、重量平均分子量が640でありエポキシ当量が約320であるビスフェノールA型のエポキシ樹脂を用いた。硬化剤にはアミン価60のポリアミドアミンからなるアミン樹脂を用いた。溶剤としては、キシレン、エチルベンゼン、メチルイソブチルケトン、及びイソプロピルアルコールを用いた。この塗料としては、例えば中電工業株式会社製の商品名「パイネ#7011」があげられる。
【0028】
エポキシ−Cは、樹脂成分が全体の54%であり、残りが顔料成分である。樹脂成分に関し、主剤にビスフェノールA型のエポキシ樹脂を用い、硬化剤にポリアミドアミンからなるアミン樹脂を用いた。溶剤としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、及びイソブチルアルコールを用いた。この塗料としては、例えば中電工業株式会社製の商品名「パイネ#9020」があげられる。
【0029】
シリコンエポキシは、樹脂成分が全体の52%であり、残りが顔料成分である。樹脂成分に関し、主剤にはビスフェノールA型のエポキシ樹脂とシリコーン樹脂とを混合して用いた。硬化剤には脂肪族ポリアミンからなるアミン樹脂を用いた。溶剤としては、メチルイソブチルケトン、ミネラルスピリット、及びイソブチルアルコールを用いた。この塗料としては、例えば大日本塗料株式会社製の商品名「Vシリコンスーパー」があげられる。
【0030】
次に、フッ素樹脂について説明する。
図3に示すように、フッ素樹脂はA(フッ素−A)からC(フッ素−C)の3種類を用いた。
【0031】
フッ素−Aは、樹脂成分が全体の74%であり、残りが顔料成分である。樹脂成分に関し、主剤に重量平均分子量7000〜40000であってOH価/ポリマーが20〜100であるFEVE(フルオロエチレン/ビニルエーテル共重合)型のフッ素樹脂を用いた。硬化剤にHMDI型のイソシアネート樹脂を用いた。溶剤としては、キシレン、エチルベンゼン、及び酢酸ブチルを用いた。
【0032】
フッ素−Bもまた、樹脂成分が全体の74%であり、残りが顔料成分である。樹脂成分に関し、主剤に重量平均分子量7000〜40000であってOH価/ポリマーが20〜100であり、かつ、弱溶剤可溶型であるFEVE型のフッ素樹脂を用いた。硬化剤にHMDI型のイソシアネート樹脂を用いた。溶剤としては、弱溶剤であるミネラルスピリット、及び低沸点芳香族ナフサを用いた。この塗料としては、例えば中電工業株式会社製の商品名「パイネ#9030T」、日本ペイント株式会社製の商品名「デュフロン100ファイン」、及び大日本塗料株式会社製の商品名「VフロンHBクリーンスマイル」があげられる。
【0033】
フッ素−Cは、樹脂成分が全体の75%であり、残りが顔料成分である。樹脂成分に関し、主剤に重量平均分子量7000〜40000であってOH価/ポリマーが20〜100であるFEVE型のフッ素樹脂を用いた。硬化剤にHMDI型のイソシアネート樹脂を用いた。溶剤としては、キシレン、エチルベンゼン、及び酢酸エチルを用いた。この塗料としては、例えば中電工業株式会社製の商品名「パイネ#9030」があげられる。
【0034】
そして、
図4に示すように、これらの塗料を組み合わせることで、仕様の異なる複数種類の塗料を作成し、亜鉛溶融めっき鋼板の表面に順次塗布して試験片を作成した。以下、各仕様について説明する。
【0035】
仕様220−1は、下塗り塗料と中塗り塗料と上塗り塗料の3種類からなり、従来仕様である。下塗り塗料としてはエポキシ−Bを用い、このエポキシ−Bを塗膜の標準厚さが30μmとなるように塗布して下塗り層を形成した。なお、塗膜の標準厚さとは、設計上の厚さを意味する。中塗り塗料としてはエポキシ−Cを用い、このエポキシ−Cを塗膜の標準厚さが30μmとなるように下塗り層に重ねて塗布して中塗り層を形成した。上塗り塗料としてはフッ素−Cを用い、このフッ素−Cを塗膜の標準厚さが30μmとなるように中塗り層に重ねて塗布して上塗り層を形成した。これにより、合計膜厚が90μmとなる3層構造の塗膜を、亜鉛溶融めっき鋼板の表面に形成した。
【0036】
仕様220−2は、下塗り塗料と上塗り塗料の2種類からなり、実施例の仕様である。下塗り塗料としては湿硬ウレタン−Aを用い、この湿硬ウレタン−Aを塗膜の標準厚さが50μmとなるように塗布して下塗り層を形成した。上塗り塗料としてはフッ素−Aを用い、このフッ素−Aを塗膜の標準厚さが50μmとなるように下塗り層に重ねて塗布して上塗り層を形成した。これにより、合計膜厚が100μmとなる2層構造の塗膜を、亜鉛溶融めっき鋼板の表面に形成した。
【0037】
仕様220−3もまた、下塗り塗料と上塗り塗料の2種類からなり、実施例の仕様である。下塗り塗料としては湿硬ウレタン−Aを用い、この湿硬ウレタン−Aを塗膜の標準厚さが50μmとなるように塗布して下塗り層を形成した。上塗り塗料としてはフッ素−Bを用い、このフッ素−Bを塗膜の標準厚さが50μmとなるように下塗り層に重ねて塗布して上塗り層を形成した。これにより、合計膜厚が100μmとなる2層構造の塗膜を、亜鉛溶融めっき鋼板の表面に形成した。
【0038】
仕様220−4は、下塗り塗料と上塗り塗料の2種類からなり、比較例の仕様である。下塗り塗料としては湿硬ウレタン−Aを用い、この湿硬ウレタン−Aを塗膜の標準厚さが50μmとなるように塗布して下塗り層を形成した。上塗り塗料としてはシリコンエポキシを用い、このシリコンエポキシを塗膜の標準厚さが80μmとなるように下塗り層に重ねて塗布して上塗り層を形成した。これにより、合計膜厚が130μmとなる2層構造の塗膜を、亜鉛溶融めっき鋼板の表面に形成した。
【0039】
仕様220−5は、下塗り塗料と上塗り塗料の2種類からなり、比較例の仕様である。下塗り塗料としては湿硬ウレタン−Bを用い、この湿硬ウレタン−Bを塗膜の標準厚さが50μmとなるように塗布して下塗り層を形成した。上塗り塗料としてはフッ素−Bを用い、このフッ素−Bを塗膜の標準厚さが50μmとなるように下塗り層に重ねて塗布して上塗り層を形成した。これにより、合計膜厚が100μmとなる2層構造の塗膜を、亜鉛溶融めっき鋼板の表面に形成した。
【0040】
仕様220−6は、下塗り塗料と上塗り塗料の2種類からなり、比較例の仕様である。下塗り塗料としては湿硬ウレタン−Cを用い、この湿硬ウレタン−Cを塗膜の標準厚さが50μmとなるように塗布して下塗り層を形成した。上塗り塗料としてはフッ素−Bを用い、このフッ素−Bを塗膜の標準厚さが50μmとなるように下塗り層に重ねて塗布して上塗り層を形成した。これにより、合計膜厚が100μmとなる2層構造の塗膜を、亜鉛溶融めっき鋼板の表面に形成した。
【0041】
仕様220−7は、下塗り塗料と上塗り塗料の2種類からなり、比較例の仕様である。下塗り塗料としてはエポキシ−Aを用い、このエポキシ−Aを塗膜の標準厚さが60μmとなるように塗布して下塗り層を形成した。上塗り塗料としてはフッ素−Aを用い、このフッ素−Aを塗膜の標準厚さが50μmとなるように下塗り層に重ねて塗布して上塗り層を形成した。これにより、合計膜厚が110μmとなる2層構造の塗膜を、亜鉛溶融めっき鋼板の表面に形成した。
【0042】
次に、各仕様の試験片による複合サイクル試験について説明する。この複合サイクル試験は、JIS K 5600-7-9「サイクル試験方法」に準拠して行い、塗膜試験片に素地に達するX字状の切り込みを入れて、腐食サイクル環境に置き、発生する錆やフクレの程度(大きさ)を評価した。なお、この試験における1サイクルは6Hであり、その内訳は次の通りである。「塩水噴霧0.5H」→「湿潤1.5H」→「高温(50℃)2H」→「乾燥2H」。
【0043】
複合サイクル試験の試験結果を
図4に示す。同図、及び後述する他の図において、記号◎、○、△、×はそれぞれ結果の優劣を示す。すなわち、記号◎は最もよい結果を、記号○は2番目によい結果を、△は3番目によい結果を、×は最も悪い結果を示している。なお、フクレについて、各記号はフクレの大きさ(幅,直径)を示している。すなわち、記号◎はフクレの大きさが0〜4mmであることを、記号○はフクレの大きさが5〜8mmあることをそれぞれ示している。同様に、記号△はフクレの大きさが9〜12mmであることを、記号×はフクレの大きさが13mm以上であることをそれぞれ示している。
【0044】
この複合サイクル試験では、仕様220−2〜4に関し、1600サイクルまでの耐久性が従来仕様の仕様220−1よりも良好であった。また、2400サイクル及び3200サイクルについては、仕様220−2〜4と仕様220−1との間で大きな違いは見られなかった。なお、比較例の仕様220−4では、3200サイクル時点において、切り込み部のフクレの大きさが8mmと他の仕様220−1〜3よりも僅かに大きかった。
【0045】
一方、比較例の仕様220−5〜6については、1600サイクルまでに切り込み部のフクレの大きさが10mm(仕様220−5),15mm(仕様220−6)であり、耐久性が不十分と思われたので、1600サイクルよりも後の試験は中止した。また、比較例の仕様220−7については、3200サイクル時点において、切り込み部のフクレの大きさが11mmと前述の仕様220−1〜3よりも大きかった。
【0046】
次に、冷熱サイクル試験について説明する。この冷熱サイクル試験は、JIS K 5400 9.3「耐冷熱繰り返し性」に準拠して行い、塗膜試験片を冷熱サイクル(膨張・収縮サイクル)環境に置き、塗膜外観、付着安定性の変化を評価した。なお、この試験における1サイクルは6Hであり、その内訳は「低温−20℃ 3H」→「高温50℃ 3H」である。
【0047】
冷熱サイクル試験の試験結果を
図5に示す。なお、付着性について、各記号は、クロスカット付着性試験での剥離格子数を示す。すなわち、5×5の格子状にカットされた塗膜の剥離格子数を示している。そして、記号◎は剥離格子数が0個であることを、記号○は剥離格子数が1〜5個であることをそれぞれ示している。同様に、記号△は剥離格子数が6〜10個であることを、記号×は剥離格子数が11個以上であることをそれぞれ示している。
【0048】
この冷熱サイクル試験において、仕様220−1〜3,5は何れも、1600サイクルまで剥離格子数が0個であり、かつ、ワレもフクレも確認されず、良好な結果であった。一方、仕様220−4は、200サイクルと1600サイクルの何れも剥離格子数が5個であり、付着安定性が多少低い傾向が見られた。また、仕様220−6,7は何れも、剥離格子数が15〜25と多く、付着安定性に欠けると考えられる。
【0049】
次に、促進耐候性試験について説明する。この促進耐候性試験は、JIS K 5400 9.8「促進耐候性(サンシャインカーボンアーク灯式)」に準拠して行い、塗膜試験片に強力な紫外線を照射し、紫外線による劣化(樹脂・顔料分の分解)を促進し、光沢、色彩変化を評価した。
【0050】
促進耐候性試験の試験結果を
図5に示す。なお、光沢は光沢保持率(%)を示す。そして、記号◎は光沢保持率が100〜80%であることを、記号○は光沢保持率が79〜60%であることをそれぞれ示している。同様に、記号△は光沢保持率が59〜35%であることを、記号×は光沢保持率が34%以下であることをそれぞれ示している。また、色差は△Eを示す。そして、記号◎は色差が0.0〜1.0であることを、記号○は色差が1.1〜2.0であることをそれぞれ示している。同様に、記号△は色差が2.1〜3.0であることを、記号×は色差が3.1以上であることをそれぞれ示している。
【0051】
この促進耐候性試験において、9000Hまで耐える仕様はなかった。このため、6000Hまでの結果で比較すると、仕様220−4については、6000Hでの光沢が低く、紫外線に対する耐性が他の仕様よりも低かった。反対に、仕様220−2については、6000Hにおける光沢や色差が他の仕様よりも良好であった。そして、残りの仕様については、大きな違いは見られなかった。
【0052】
次に、促進耐侯性・腐食性複合サイクル試験について説明する。この促進耐侯性・腐食性複合サイクル試験は、実環境を想定した腐食試験環境に塗膜試験片を置き、塗膜外観、付着安定性の変化を評価した。この促進耐侯性・腐食性複合サイクル試験において、1サイクルは240Hであり、その内訳は、「促進耐候性試験が120H」→「複合サイクル試験が120H(20サイクル)」である。
【0053】
促進耐侯性・腐食性複合サイクル試験の試験結果を
図6に示す。なお、付着性について、各記号は、クロスカット付着性試験での剥離格子数を示す。すなわち、5×5の格子状にカットされた塗膜の剥離格子数を示している。そして、記号◎は剥離格子数が0個であることを、記号○は剥離格子数が1〜5個であることをそれぞれ示している。同様に、記号△は剥離格子数が6〜10個であることを、記号×は剥離格子数が11個以上であることをそれぞれ示している。
【0054】
この促進耐侯性・腐食性複合サイクル試験において、錆、ワレ、フクレの3項目については、各仕様で優劣はつかなかった。付着安定性については、仕様220−2,5が最もよく、仕様220−1,3が次によかった。一方、仕様220−4については、仕様220−1〜3,5に比べてやや劣っていた。また、仕様220−6,7については、付着安定性が最も悪かった。
【0055】
図7は、前述した試験結果を総合した評価結果である。この図に示すように、仕様220−2,3については、従来使用と同等以上の耐候性を2回塗りで実現できると解されたので合格と判定した。そして、これらの仕様220−2,3については、JIS 5600-7-6「屋外暴露耐候性」に準拠した試験塗装を行った。そして、この試験塗装により、必要な耐候性を有していることを確認した。
【0056】
合格判定の仕様220−2において、下塗り塗料である湿硬ウレタン−Aは、樹脂成分として湿気硬化型ポリウレタン樹脂(平均分子量:500〜1500)、及び、溶剤(第1溶剤としての低沸点芳香族ナフサ、及びキシレン)を含む一方、導電材は含んでいない。一方、上塗り塗料であるフッ素−Aは、フッ素樹脂(FEVE型のフッ素樹脂とHMDI型のイソシアネート樹脂の組み合わせ)、及び、溶剤(第2溶剤としてのキシレン、エチルベンゼン、及び酢酸エチル)を含んでいる。
【0057】
同じく合格判定の仕様220−3において、下塗り塗料である湿硬ウレタン−Aは、仕様220−2と同じである。一方、上塗り塗料であるフッ素−Bは、フッ素樹脂(FEVE型のフッ素樹脂とHMDI型のイソシアネート樹脂の組み合わせ)、及び、溶剤(第2溶剤としてのミネラルスピリット、及び低沸点芳香族ナフサ)を含んでいる。
【0058】
さらに、仕様220−3に用いられている上塗り塗料の溶剤はいわゆる弱溶剤であり、仕様220−2に用いられている上塗り塗料の溶剤よりも、湿気硬化型ポリウレタン樹脂に対する溶解力が同等以下である。このため、上塗り塗料を重ね塗りする際の作業効率に優れている。
【0059】
加えて、下塗り塗料である湿硬ウレタン−Aの重ね塗り間隔は、最小時間で18時間(1℃)〜8時間(30℃)である。そして、仕様220−2,3では、2回塗りで仕上げか可能になることから、従来仕様のような3回塗りに比べて作業性が各段に向上するし、運搬対象の塗料の種類を減らすことができる。その結果、作業性の大幅な向上が図れる。加えて、下塗り層と上塗り層における塗膜の標準厚さが、共に50μmであることから、1回の刷毛塗り作業であっても良好な作業性を確保できる。
【0060】
一方、仕様220−4については、付着安定性がやや不良であったこと、耐候性が不良であったことから不合格となった。同様に、仕様220−5については、耐水性(耐湿性)が不良であったこと、耐候性がやや不良であったことから不合格となった。また、仕様220−6,7については、耐水性(耐湿性)や耐候性が不良若しくはやや不良であったことから不合格となった。
【0061】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。