(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、雄型と雌型の何れか一方のレンズ形成面側の少なくとも一部にレンズ形成液を硬化する際に使用する光を遮蔽する物質を付着させ、次いで、前記雄型と前記雌型の間に前記レンズ形成液を充填し、その後、前記光を照射して前記レンズ形成液を硬化させる際に、気泡不良を生じない眼用レンズの製造方法、及び、この製造方法で製造された眼用レンズを提供することを目的とする。
【0008】
本発明の別の課題は、前記製造方法において、短時間に、安価に、高い良品率で、安全で高品質な眼用レンズを製造し、この製造方法で製造された眼用レンズを需要者の要求に応じて大量に、安価に、高品質に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための本発明の第1の製造方法は、(A)雄型と雌型の何れか一方のレンズ形成面側の少なくとも一部に、レンズ形成液を硬化する際に使用する光を遮蔽する物質を、付着させる工程;(B)前記雄型と前記雌型の間に、前記レンズ形成液を充填する工程;および(C)前記光を照射して、前記レンズ形成液を硬化させる工程、を含み、前記(C)工程において、少なくとも、前記光を遮蔽する物質が付着していない型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着している型に向かって、前記光を照射することである。また、本発明の眼用レンズは前記第1の製造方法によって製造される。
【0010】
本発明の第2の製造方法は、前記第1の製造方法における前記レンズ形成液に到達する前記光の強度は、前記光を遮蔽する物質が付着している型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着していない型に向かって照射されている光の強度より、前記光を遮蔽する物質が付着していない型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着している型に向かって照射されている強度の方が、強いことである。また、本発明の眼用レンズは前記第2の製造方法によって製造される。本発明で使用する「レンズ形成液に到達する前記光の強度」とは、前記光を遮蔽する物質を除去した際に、レンズ形成液に到達する前記光の強度を意味する。照射された前記光は、レンズ形成液に到達するまでの距離や型等の途中の障害物により減衰するため、それらの減衰量を考慮する必要がある。
【0011】
本発明の第3の製造方法は、前記第2の製造方法における前記レンズ形成液に到達する前記光の強度は、前記光を遮蔽する物質が付着している型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着していない型に向かって照射されている強度より、前記光を遮蔽する物質が付着していない型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着している型に向かって照射されている強度の方が、1.5倍以上である。また、本発明の眼用レンズは前記第3の製造方法によって製造される。
【0012】
本発明の第4の製造方法は、前記第1乃至3の製造方法において、前記レンズ形成液は、硬化時に体積が1%以上収縮することである。また、本発明の眼用レンズは前記第4の製造方法によって製造される。
【0013】
本発明の第5の製造方法は、前記第4の製造方法において、前記レンズ形成液は、硬化時に体積が3%以上収縮することである。また、本発明の眼用レンズは前記第5の製造方法によって製造される。
【0014】
本発明の第6の製造方法は、前記第5の製造方法において、前記レンズ形成液は、硬化時に体積が5%以上収縮することである。また、本発明の眼用レンズは前記第6の製造方法によって製造される。
【0015】
本発明の第7の製造方法は、前記第1乃至6の製造方法において、前記光を遮蔽する物質が付着している型は、前記光を遮蔽する物質と該型との間に被覆層を有することである。また、本発明の眼用レンズは前記第7の製造方法によって製造される。
【0016】
本発明の第8の製造方法は、前記第7の製造方法において、眼用レンズの1種であるコンタクトレンズの表面は一般に中央の光学面とその周囲の周辺面とからなるが、前記被覆層は少なくともコンタクトレンズの一方の側の全ての光学面を覆うことである。また、本発明の眼用レンズは前記第8の製造方法によって製造される。
【0017】
本発明の第9の製造方法は、前記第8の製造方法において、前記被覆層は、コンタクトレンズの一方の側の全ての光学面の他に、周辺面の10%〜99.9%を覆うことであり、好ましくは周辺面の50%〜99.8%を覆うことであり、より好ましく周辺面の80%〜99.7%以下を覆うことであり、最も好ましくは周辺面の95%〜99.7%を覆うことである。また、本発明の眼用レンズは前記第9の製造方法によって製造される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法により、雄型と雌型の何れか一方のレンズ形成面側の少なくとも一部にレンズ形成液を硬化する際に使用する光を遮蔽する物質を付着させ、次いで、前記雄型と前記雌型の間に前記レンズ形成液を充填し、その後、前記光を照射して前記レンズ形成液を硬化させる際に、気泡不良を生じさせないで、または、気泡不良を低減して眼用レンズを製造することができる。
【0019】
また、本発明の製造方法により、レンズ形成面側の少なくとも一部にレンズ形成液を硬化する際に使用する光を遮蔽する物質を有する眼用レンズを短時間に、安価に、高い良品率で製造することを可能にし、この製造方法で製造された眼用レンズを需要者の要求に応じて大量に、安価に、高品質に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、雄型と雌型の間に充填したレンズ形成液に光を照射してレンズ形成液を硬化させる。この際の型はPP、PE、ポリスチレン、ナイロン等の照射する光を透過する樹脂より主として形成されるが、照射する光を透過し、レンズ製造が可能であればガラス、石英等の無機物質等で形成されてもよい。また、雄型と雌型は同じ材料で形成されてもよく、異なる材質で形成されてもよい。さらに、使用前にプラズマ処理等により、一方の型のレンズ形成面が、または、両方の型のレンズ形成面が改質させられていてもよい。両型を異なる材質にしたり、改質すること等により、型を分割した際に一方の型にのみレンズを固着させたり、型よりレンズを外れ易くしたり、レンズ表面を親水性にする等の効果が得られるためである。
【0022】
本発明に使用する光としては、360nm程度の紫外線が有効な場合が多いが、レンズ形成液や型に応じ、360nmより短波長の紫外線や長波長の可視光線、赤外線等の電磁波が適宜使用できる。また、照射する方向は、
図2に示すように、レンズに対して垂直の方向が望ましい。レンズに均一に照射されるため、硬化が均一になるためである。最も均一に照射する方法として、レンズの球の中心から点光源で放射状に照射する方法が好ましいが、点光源の強度が不足する難点がある。
【0023】
本発明の雄型と雌型の何れか一方の型は、レンズ形成面側の少なくとも一部に硬化に使用する光を遮蔽する物質を有する。硬化に使用する光を遮蔽する物質の遮蔽原料としては、虹彩の色又は質感を他覚的に変化させる際に使用される顔料、二酸化チタン粉末等の不透明化材、及び、レンズの度数等を調節するためのエネルギー吸収材等があるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
これらの硬化に使用する光を遮蔽する物質としては、前記遮蔽原料が単独で使用される場合もあるが、一般的には、前記遮蔽原料にモノマー、高分子、増粘剤、重合開始剤や溶媒等を加えた混合物として、型のレンズ形成面側の所望の位置に刷毛やパット等で転写、配置、または、塗布される。または、インクジェットプリンター等で印刷される。そして、その後に使用されるレンズ形成液と全く混和しないで、あるいは、適度に混和して所望の形状、鮮明度、または、パターンとなるように、予め乾燥、または、硬化してフィルム状に形成したり、あるいは、粘性を高めておいてもよい。混合物として用いると、前記遮蔽原料がレンズ内部に入り込むため、レンズ表面から外部に露出することが避けられ、使用時に剥がれなくなるばかりでなく、レンズ表面を滑らかにして使用者の装用感を向上させ、安全性も向上させることができる。
【0025】
また、レンズ形成面側の少なくとも一部において、硬化に使用する光を遮蔽する物質を付着させる側の型のレンズ形成面上に、予め、被覆層を設け、前記被覆層上に前記光を遮蔽する物質を適用し、前記被覆層をも含有する眼用レンズとして製造することが好ましい。前記被覆層に前記光を遮蔽する物質を内在させてもよい。このようにすることにより、前記光を遮蔽する物質がレンズ表面から露出することを完全に避けることができるためである。
図1に、雄型のレンズ形成面側に前記光を遮蔽する物質を付着させた例を示す。(a)は、雄型のレンズ形成面側に、前記光を遮蔽する物質を直に付着させた例である。(b)は、雄型のレンズ形成面側に、前記被覆層に前記光を遮蔽する物質を内在させて付着させた例を示す。(c)は、雄型のレンズ形成面側に、外表面側に前記光を遮蔽する物質を付着した前記被覆層を付着させた例を示す。
図1は、雄型のレンズ形成面側に前記光を遮蔽する物質を付着させた例を示したが、雌型のレンズ形成面側に前記光を遮蔽する物質を付着させてもよい。また、雄雌の一方の型のレンズ形成面側に前記光を遮蔽する物質を実質的に付着させ、他方の型のレンズ形成面側に前記光を遮蔽する物質を、レンズ形成液の光による硬化に影響しない程度に僅かに付着させてもよい。前記光を遮蔽する物質を光硬化に影響しない程度に僅かに付着させる例としては、商品名、規格等を表す記号や文字がある。これ等の記号や文字は僅かな付着であるため、目立つように、反対側の面の光を遮蔽する物質の色とは異なる色にすることが好ましい。
【0026】
前記被覆層は前記光を遮蔽する物質を完全に覆うことが好ましいが、光を遮蔽する物質のみでなく、眼用レンズの一方の側の全ての光学部をも覆うことがより好ましい。眼用レンズは歪等がない高精度の度数が要求され、光学部の範囲が10mm程度以下と狭く、コンタクトレンズのように目の中で動く場合はさらに広い光学部が要求されるため、光学部とそれに続く周辺部とに歪等がないように一体で形成されていることが望ましいからである。
【0027】
前記被覆層は、コンタクトレンズの一方の側の全ての光学面の他に、周辺面の10%〜99.9%を覆うことが好ましく、周辺面の50%〜99.8%を覆うことがより好ましく、周辺面の80%〜99.7%以下を覆うことがさらに好ましく、周辺面の95%〜99.7%を覆うことが最も好ましい。前述したように、より広い面積を覆うことは光学的に有効であるが、逆に、レンズ形成液を硬化させて最終的なレンズ形状を製作する際に、レンズ形成液部分を前記被覆層部分より大きく作製することにより、コンタクトレンズエッジ部のバリ等の発生を抑えて滑らかに製造できるため、前記被覆層が周辺面の100%覆うことは好ましくないからである。
【0028】
本発明の眼用レンズの製造方法は、コンタクトレンズ、眼内レンズ、義眼、角膜内レンズ及びフェイキックIOLに適用可能であるが、特に、コンタクトレンズに適している。コンタクトレンズは着脱が自在で、かつ、目の表面に適用され外観を変えることができるからである。また、近年、使い捨て型のソフトコンタクトレンズが広く普及し、需要が大きいからである。
【0029】
本発明の眼用レンズの製造方法は、基本的には、雄型と雌型の間に充填したレンズ形成液に光を照射して硬化させる、注型法である。一般的な眼用レンズの製造法は、切削研磨法、スピンキャスト法と注型法とに分類される。切削研磨法は、最も古くからの製法であり、硬い材料を高精度に形成する際には現在も使用されているが、安く大量に生産するには不向きである。また、スピンキャスト法はエッジの仕上がりに難点があり、度数の再現性に不安要因を残しているため、現在では、使い捨て型のソフトコンタクトレンズの大部分は注型法で生産されている。しかし、切削研磨法やスピンキャスト法を注型法と組合せた製造方法においては、本発明の製造方法を利用する限り、本発明に属することは言うまでもない。
【0030】
一般的に、レンズ形成液の硬化には熱、または、光が使用される。熱は一般的に30〜100℃前後の温度が使用されるが、型の変形を伴うことがあり、熱変形温度の高い高価格の樹脂を必要とすることもある。また、硬化に数十分〜数時間を要し、生産性が悪い。光は、室温付近で数秒〜数分で硬化するため、生産性が高く、PPやPE等の軟化点の低い安価な樹脂が使用できる等の利点を有している。従って、本発明の眼用レンズの製造方法では、レンズ形成液の硬化に光を使用する。
【0031】
本発明に使用する「レンズ形成液」とは、雄型と雌型の何れか一方のレンズ形成面側の少なくとも一部に光を遮蔽する物質を付着させ、次いで、前記雄型と前記雌型の間に液を充填し、前記光を照射して前記液を硬化させることによって眼用レンズを製造する際に使用する、前記雄型と前記雌型の間に充填する液を意味する。従って、本発明の眼用レンズは、レンズ形成液の硬化物と光を遮蔽する物質とを含み、場合によっては前述した被覆層をも含む。
【0032】
本発明のソフトコンタクトレンズのレンズ形成液の構成成分としては、(A)レンズの主成分又は副成分となる官能基を有する化合物、(B)レンズの安定性や強度に影響を及ぼす複数の官能基を有する化合物、(C)硬化を起こさせる化合物、及び、(D)レンズまたはレンズ形成液に特別な機能等を与える化合物又は溶媒等、が使用される。
【0033】
(A)のレンズの主成分又は副成分となる官能基を有する化合物としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、2−HEMAと称す)、メタクリル酸、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート(以下、グリセロールMAと称す)、N−ビニルピロリドン(以下、N−VPと称す)及びジメチルアクリルアミド(以下、DMAAと称す)等の含水剤(A1)、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート(以下、トリスMAと称す)等の低分子量のシリコーン系モノマー、または、数十のシロキサン単位と官能基とオプションとして親水性単位とを有する数百から数万の中〜高分子量のシリコーン系重合性化合物等の酸素透過性向上剤(A2)、を単独または混合して使用する。混合して使用する場合、使用する化合物間の共重合性がよいと、屈折率や水和時の膨潤率が均一になり透明性やレンズの形状安定性に優れた高品質のレンズとなり好ましい。これらの化合物(A)の使用量は、少なくとも5%以上で、一般的には40〜99%使用する。シリコーン系を使用しないと、酸素透過性は高くないが、短時間の快適な装用に適した含水性ソフトコンタクトレンズになる。シリコーン系を使用すると酸素透過性は高くなるが、疎水性で脂肪成分が多く吸着し、目に固着しやすくなるため、含水剤を併用して親水性を高めたシリコーンヒドロゲルレンズとすることが一般的である。
【0034】
(B)のレンズの安定性や強度に影響を及ぼす複数の官能基を有する化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)クリレート(以下、EDMAと称す)、ジエチレングリコールジ(メタ)クリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)クリレート及びエチレングリコール(メタ)クリレートアリルエーテル等の、多価アルコールと官能基を有する酸やアルコール等との反応によって得られる化合物(B1)、2つ以上の官能基を有する中〜高分子化合物(B2)、ジビニルスチレン等の2つ以上の官能基を有する化合物(B3)、を単独または混合して使用する。使用量が少なすぎるとレンズが水等に溶解したり、レンズの安定性が不足することがある。使用量が多すぎると、架橋点が多くなり過ぎ、レンズが脆くなり、少し引っ張ると破損する等の欠点が目立つようになる。(B)の使用量としては、一般的には0.02〜10%使用する。
【0035】
(C)の硬化を起こさせる化合物としては、光重合開始剤や光増感剤等が使用される。光重合開始剤は、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(以下、HMPPと称す)等のアルキルフェノン系(C1)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド等のチタノセン系(C2)がある。光増感剤としてはベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体(C3)がある。これらの硬化を起こさせる化合物(C)は、主成分、副成分、複数の官能基を有する架橋剤、溶媒等のレンズ形成液との溶解性や共重合性等の相性等を考慮して、単独または混合して適宜使用する。また、レンズ形成液中に紫外線吸収剤や染料等の光吸収剤が含まれている場合は、これらの化合物の吸収波長以外の波長域、例えば、紫外線、可視光線、赤外線等の電磁波で硬化を起こさせる波長、及び、波長に適した化合物を選択することが好ましい。硬化を起こさせる化合物(C)の使用量は少なすぎると硬化に時間が掛かり過ぎ、多すぎると硬化物の分子量が短くなり過ぎてレンズの安定性や強度を低下させ好ましくない。硬化速度は、レンズ形成液中の硬化を起こさせる化合物の量、種類と到達する光の強度や波長によって影響される。硬化を起こさせる化合物0.01%以上で、一般的には0.1〜5%使用する。
【0036】
レンズ形成液を硬化させる光の波長としては、360nm程度の紫外線が有効な場合が多いが、レンズ形成液中に紫外線吸収剤や染料等の光吸収剤が含まれている場合は、これらの化合物の吸収波長以外の波長を照射して硬化させることが好ましい。従って、レンズ形成液に応じて紫外線、可視光線、赤外線等の電磁波を適宜使用する。また、レンズ形成液を硬化させる光の強度としては、硬化を起こさせる化合物(C)の種類と濃度やレンズ形成液の成分や濃度によって異なるが、一般的には0.01〜100mW/cm
2、好ましくは0.1〜50mW/cm
2が使用される。さらに、レンズ形成液を硬化させる時間としては、一般的には1秒〜100分、好ましくは10秒〜20分が選択される。硬化させる時間が短すぎると、短時間に爆発的に重合し、高熱で気泡が生じたり、型が変形したり、重合度不足によるレンズ強度の低下等を招くことがあるからである。硬化させる時間が長すぎると、生産性が低下し、大規模な設備や場所を必要とするからである。
【0037】
オプションとして、(D)のレンズまたはレンズ形成液に特別な機能等を与える化合物または溶媒等が使用される。これらの例としては、シリコーンヒドロゲルの親水性を増加するポリビニルピロリドン等の親水性高分子(D1)、着色剤等の滲みを調節する目的で使用される増粘剤(D2)、水和後の形状を安定させるための所謂ウエットモールドに使用される溶媒(D3)、硬化後のレンズを型から外れ易くすることを目的とした溶媒(D4)、シリコーン系化合物と親水性化合物との相溶性を向上させるための溶媒(D5)等があり、これ等を単独または混合して使用する。これ等の化合物や溶媒(D)の使用量は、0〜90%の範囲で、目的に応じ適宜使用する。
【0038】
今回、本発明者は、光を遮蔽する物質を有する眼用レンズを試作するにあたり、雄型と雌型の何れか一方のレンズ形成面側の少なくとも一部に光を遮蔽する物質を付着させた型を用い、前記雄型と前記雌型の間に充填したレンズ形成液に前記光を照射して硬化させることによって眼用レンズを製造する方法を実施したところ、気泡が多数発生し、良品のレンズを得られなかった。
【0039】
前記気泡の発生状況を観察したところ、前記気泡は、前記光を遮蔽する物質を付着させた部分と付着さない部分との境界に、多数発生していた。前記光の照射方向、前記光を遮蔽する物質の形状、及び、レンズ形成液の種類を変更して気泡発生の機構を検討し、次のように推察した。重合時に、照射した光がレンズ形成液に多く到達した部分と少ししか到達しない部分とが混在すると、多く到達した部分が先に重合し始め、重合した部分の粘度が高くなり分子運動が抑制されるため累進的に重合が進行し、重合熱が発生して部分的に高温になり、重合した部分では低沸点のモノマー、溶媒及び溶存ガス等が気化状態または微小気泡となる。そして、照射した光の到達が少なく重合の遅いレンズ形成液側に、この気化状態物または微小気泡が移動する。一方、重合進行に伴い重合収縮が生じ、雄型と雌型とはより緊密に嵌合しレンズのエッジ部にて一方の型が他方の型に食い込み、型内の気密性が高まりレンズ形成液は減圧状態になり、照射した光の到達が少なく重合の遅いレンズ形成液においても、低沸点のモノマー、溶媒及び溶存ガス等が気化状態になる。このため、照射した光の到達が多く重合の早いレンズ形成液側から移動してきた気化状態物または微小気泡が、照射した光の到達が少なく重合の遅いレンズ形成液に溶解できず、光を遮蔽する物質を付着させた部分と付着さない部分との境界に、凝集して気泡となる。
【0040】
前記気泡の発生機構は、推論であり、検証されてはいないが、この推論から様々な要因が関係していることが考えられ、様々な解決策が考えられるため、その意味でこの推論には一定の価値があると思われる。この推論から考えられる第1の解決策として、レンズ形成液中の低沸点のモノマー、溶媒及び溶存ガスを除外して気泡要素を減少させることが考えられるが、低沸点モノマーはレンズの物性上必要であれば除外できず、溶媒も理由があって添加されているものであり容易には除外できず、この解決策は万能ではない。また、第2の解決策として、レンズの厚みを厚くすることにより、型内のレンズ形成液や気泡の移動を迅速にする方法も考えられるが、レンズを厚くするとコンタクトレンズの酸素透過量が減少し望ましくない。さらに、第3の解決策として、レンズ形成液中に高沸点の溶媒を大量に添加し、レンズ形成液の重合収縮率を低下させ減圧の程度を小さくする方法も考えられるが、型が大きくなって型の材料費が高額になるのみでなく、溶媒の除去に費用や時間等が掛かり、水和後のレンズの安定性等が悪くなることが懸念され、好ましくない。しかし、これ等の第1〜第3の解決策を単独で、または、組合せ、さらに、本発明の製造方法をも利用する限り、本発明に属する。
【0041】
本発明者は、前記気泡の解決方法を鋭意検討した結果、驚くべきことに、前述したような欠点を有さず、安価で、確実に、かつ、万能的に解決する製造方法を発明したのである。即ち、本発明の第1の製造方法は、(A)雄型と雌型の何れか一方のレンズ形成面側の少なくとも一部に、レンズ形成液を硬化する際に使用する光を遮蔽する物質を、付着させる工程;(B)前記雄型と前記雌型の間に、前記レンズ形成液を充填する工程;および(C)前記光を照射して、前記レンズ形成液を硬化させる工程、を含み、前記(C)工程において、少なくとも、前記光を遮蔽する物質が付着していない型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着している型に向かって、前記光を照射することである。前記光を遮蔽する物質が付着していない型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着している型に向かって前記光を照射することにより、前記光を遮蔽する物質が付着している型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着していない型に向かってのみ前記光を照射する場合に比較し、前記レンズ形成液の前記レンズ形成液の重合がより均一になるため、気化状態物が気泡とならず、あるいは顕微鏡でも確認できない微小気泡となり、レンズの気泡不良を減少させる。なお、
図3に示すように、光を遮蔽する物質は環状の1つの連続体とする場合もあるが、
図4に示すように複数の集合体の場合もある。前記光を遮蔽する物質を付着させた型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着している型に向かって前記光を照射する場合、前記光を遮蔽する物質の1つの表面積が広い程レンズ形成液の光の到達量の少ない範囲が広くなり、気泡の発生を助長することになる。
【0042】
本発明の第2の製造方法は、前記第1の製造方法における前記レンズ形成液に到達する前記光の強度は、前記光を遮蔽する物質が付着している型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着していない型に向かって照射されている強度より、前記光を遮蔽する物質が付着していない型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着している型に向かって照射されている強度の方が、強いことである。このことにより、照射する光の強度が弱い場合に比較し、レンズ形成液の光を遮蔽する物質を付着させた部分と付着さない部分とに到達する照射した光量の差が少なくなり、前記レンズ形成液の重合がより均一になるため、気化状態物が気泡とならず、あるいは顕微鏡でも確認できない微小気泡となり、レンズの気泡不良をより減少させる。
【0043】
本発明の第3の製造方法は、前記第2の製造方法における前記レンズ形成液に到達する前記光の強度は、前記光を遮蔽する物質が付着している型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着していない型に向かって照射されている強度より、前記光を遮蔽する物質が付着していない型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着している型に向かって照射されている強度の方が、1.5倍以上である。このことにより、レンズ形成液の光を遮蔽する物質を付着させた部分と付着さない部分とに到達する照射した光量の差が第2の製造方法よりさらに少なくなり、前記レンズ形成液の重合がさらに均一になるため、気化状態物が気泡とならず、あるいは顕微鏡でも確認できない微小気泡となり、レンズの気泡不良をさらに減少させる。なお、前記レンズ形成液に到達する照射した光の強度は、前記光を遮蔽する物質が付着している型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着していない型に向かって照射されている強度より、前記光を遮蔽する物質が付着していない型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着している型に向かって照射されている強度の方が、3倍以上がより好ましく、10倍以上がさらに好ましく、前記光を遮蔽する物質が付着している型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着していない型に向かっては照射されず、前記光を遮蔽する物質が付着していない型の方向から前記光を遮蔽する物質が付着している型に向かってのみ照射されることが、最も好ましい。
【0044】
本発明の第4の製造方法は、前記第1乃至3の製造方法において、前記レンズ形成液は、硬化時に体積が1%以上収縮することである。前記レンズ形成液が硬化時に体積が1%以上収縮しても、前記第1乃至3の製造方法において記載した理由により、前記レンズ形成液の重合が均一になるため、気化状態物が気泡とならず、あるいは顕微鏡でも確認できない微小気泡となり、レンズの気泡不良を減少させる。
【0045】
本発明の第5の製造方法は、前記第4の製造方法において、前記レンズ形成液は、硬化時に体積が3%以上収縮することである。前記レンズ形成液が硬化時に体積が3%以上収縮しても、前記第4の製造方法において記載した理由により、前記レンズ形成液の重合が均一になるため、気化状態物が気泡とならず、あるいは顕微鏡でも確認できない微小気泡となり、レンズの気泡不良を減少させる。
【0046】
本発明の第6の製造方法は、前記第5の製造方法において、前記レンズ形成液は、硬化時に体積が5%以上収縮することである。前記レンズ形成液が硬化時に体積が5%以上収縮しても、前記第5の製造方法において記載した理由により、前記レンズ形成液の重合が均一になるため、気化状態物が気泡とならず、あるいは顕微鏡でも確認できない微小気泡となり、レンズの気泡不良を減少させる。
【0047】
本発明の第7の製造方法は、前記第1乃至6の製造方法において、前記光を遮蔽する物質を付着させた型は、前記光を遮蔽する物質と該型との間に被覆層を有することである。前記第1乃至6の製造方法にてレンズの気泡不良を減少し、前記被覆層を含む眼用レンズとして製造することにより、前記光を遮蔽する物質がレンズ表面から露出することを完全に避けることができるためである。
【0048】
本発明の第8の製造方法は、前記第7の製造方法において、前記被覆層は少なくともコンタクトレンズの一方の側の全ての光学面を覆うことである。前記第7の製造方法の利点に加え、高精度の度数を有する眼用レンズを得るのに有利であるからである。
【0049】
本発明の第9の製造方法は、前記第8の製造方法において、前記被覆層は、少なくともコンタクトレンズの一方の側の全ての光学面の他に、周辺面の10%〜99.9%を覆うことであり、好ましくは周辺面の50%〜99.8%を覆うことであり、より好ましくは周辺面の80%〜99.7%以下を覆うことであり、最も好ましくは周辺面の95%〜99.7%以下を覆うことである。前記第8の製造方法の利点に加え、眼用レンズのバリ等の発生を抑えて滑らかに製造できるからである。
【0050】
本発明の光を遮蔽する物質を付着させた型が、前記光を遮蔽する物質と該型との間に被覆層を有する場合のコンタクトレンズの製造方法は、例えば、
図2に示すように、以下の工程を含む。
(1)被覆層を形成するため、雌型Bに被覆層形成液を充填する工程。
(2)コンタクトレンズの内面を形成するための雄型Aを雌型Bに嵌合し、雌型B方向から雄型A方向に光を照射して被覆層形成液を硬化し、被覆層を形成する工程。
(3)雌型Bを外し、雄型Aに前面側が固着した被覆層の後面側に前記光を遮蔽する物質を付着させる工程。
(4)コンタクトレンズの外面を形成するための雌型Cにコンタクトレンズ形成液を充填する工程。
(5)前記光を遮蔽する物質を付着させた被覆層を有する雄型Aを雌型Cに嵌合し、光を遮蔽する物質が付着していない雌型C方向から光を遮蔽する物質が付着している雄型A方向に向かって前記光を照射し、コンタクトレンズ形成液を硬化し、硬化したコンタクトレンズ中間製品を形成する工程。
(6)雄型Aと雌型Cを開いて、前記光を遮蔽する物質を有する硬化したコンタクトレンズ中間製品を取り出す工程。
【0051】
前記(1)の工程の被覆層形成液は、前記(4)の工程のコンタクトレンズ形成液と同一組成であると、両硬化物の物性が近似するため製品の規格等の安定性上有利である。また、被覆層形成液を親水性の2−ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分として疎水性のシリコーン系成分を含まない液とし、コンタクトレンズ形成液を親水性成分とシリコーン成分とを含む液とすることにより、コンタクトレンズの内面側は装用感に優れたシリコーン成分を含まないヒドロゲルとし、中間と外面側とは酸素透過性に優れたシリコーンヒドロゲルとすることも可能である。また、同様にして、このレンズの外面側に実質的に疎水成分を含まない親水成分のみよりなる被覆層を形成することにより、コンタクトレンズの内面側及び外面側は装用感に優れたシリコーン成分を含まないヒドロゲルとし、中間は酸素透過性に優れたシリコーンヒドロゲルとすることも可能である。この際、被覆層とレンズ形成液の硬化物層との境界に歪や剥がれが生じないよう、(イ)被覆層を薄くしてレンズ形成液の硬化物層に追従させたり、(ロ)境界で含浸架橋させて両層間に絡み合いを生じさせたり、(ハ)両層の含水率や線膨潤率等の物性を近似させてもよい。なお、被覆層は雄型ではなく、雌型に固定させてもよいが、説明上、例は雄型に固定させている。
【0052】
前記(1)〜(2)の工程では雄型Aに被覆層を形成し、前記(3)の工程で被覆層の後面側に前記光を遮蔽する物質を付着させたが、前記(1)〜(2)の工程をなくし、前記(3)の工程で、前記光を遮蔽する物質を、直接、雄型Aまたは雌型Cに付着させてもよい。雌型Cに付着させると、光を遮蔽する物質を含む混合液はコンタクトレンズの外面側に固定されることになり、角膜と直接触れる機会がなくなり安全上有利である。
【0053】
本発明の眼用レンズの製造方法及び眼用レンズについては前記の通りであるが、以下に幾つかの実施例を挙げて、本発明の効果について述べる。
【実施例1】
【0054】
PP製雌型Bに重合収縮率が6%の被覆層形成液P1(2−HEMA59w/w%,グリセロールMA30w/w%, EDMA0.5w/w%,HMPP0.5w/w%, グリセリン10w/w%)を23μl入れ、プラズマ処理したPP製雄型Aにて嵌合し、窒素雰囲気下で、雌型Bから雄型Aに向かって光(中心波長365nm,3mW/cm
2)を5分間照射し、両型間の前記被覆層形成液P1を硬化させ、両型を分離した。雄型Aに付着した被覆層は、前面曲率6.6mm,後面曲率6.6mm,中心厚み0.024mm,外径10.88mmとなるように設計されている。被覆層の後面に、
図3(球の半径6.6mm、光遮蔽部分の内側の直径6.15mm、外側の直径10.00mm、面積63mm
2)形状に、前記光を遮蔽する物質S1(2−HEMA30w/w%,酸化鉄40w/w%,酸化チタン20w/w%,増粘剤10w/w%)を厚み10μmになるように被覆層の後面に印刷し、送風器中で10分間約25℃にて放置した。印刷した前記光を遮蔽する物質S1の表面は乾燥したように観察された。PP製雌型Cにレンズ形成液として前記P1液を35μl入れ、送風器中で放置した前記光を遮蔽する物質S1が付着された被覆層の固着した雄型Aにて嵌合し、窒素雰囲気下で、雌型Cから雄型Aに向かって前記光を5分間照射し、前記レンズ形成液P1を硬化させた。硬化したレンズ形成液の外径は10.92mmとなるように設計されている。次いで、両型を分離し、雄型Aに固着したコンタクトレンズ中間製品8個を雄型Aの前後両面から顕微鏡10倍で検査したが、気泡は8個とも検出されなかった。コンタクトレンズ中間製品の固着した雄型Aを精製水5mlに浸漬すると、コンタクトレンズ中間製品は膨潤して雄型Aより外れた。膨潤したコンタクトレンズ中間製品を新たな精製水5mlに10分間室温で浸漬した。室温で新たな精製水5mlに10分間浸漬する操作を5回実施し、コンタクトレンズ中間製品内の溶出性成分を除去した。NaCLを0.9%とエチレンジアミン4酢酸3Naを0.03%加えた精製水1.5ml入りPP製容器内の窪みに前記溶出性成分を除去したコンタクトレンズ中間製品を入れ、多層フィルムでシールし、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。冷後、前記多層フィルムを剥がし、コンタクトレンズを検査したが、設計通り度数−3.00D,中心厚み0.11mm,直径14.2mmで気泡や歪のない良品の製品が8枚得られた。
【0055】
(比較例1)前記レンズ形成液P1を硬化する際に、前記雄型Aから前記雌型Cに向かって前記光を照射した以外は、実施例1と同様に行った。気泡不良は、雄型Aに付着したコンタクトレンズ中間製品8個中6個に肉眼で確認され、10倍の顕微鏡では8個全てに気泡不良が確認された。
【実施例2】
【0056】
前記レンズ形成液P1を硬化する際に、前記と同一波長にて、雌型Cから雄型Aに向かって2mW/cm
2、及び、雄型Aから雌型Cに向かって1mW/cm
2の強度の光を照射した以外は、実施例1と同様に行った。コンタクトレンズ8枚全てに気泡が確認されず、良品と判定された。
【実施例3】
【0057】
重合収縮率が3%のレンズ形成液L2(2−HEMA50w/w%, EDMA0.5w/w%,HMPP0.5w/w%, グリセリン49w/w%)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。コンタクトレンズ8枚全てに気泡は確認されず、良品と判定された。
【実施例4】
【0058】
重合収縮率が6%の被覆層形成液P2(2−HEMA69w/w%, EDMA0.5w/w%,光重合開始剤0.5w/w%,1−オクタノール30w/w%)を使用した以外は、実施例1と同様にして、送風器中で放置した光を遮蔽する物質S1が印刷された被覆層の付着した雄型Aを得た。PP製雌型Cにレンズ形成液L3(平均分子量が5千でポリジメチルシロキサンの両末端がプロピルメタクリレート基である化合物40w/w%,トリスMA20w/w%,DMAA39w/w%,EDMA0.5w/w%,HMPP0.5w/w%)を30μl入れ、前記雄型Aにて嵌合し、窒素雰囲気下で、前記雌型Cから前記雄型Aに向かって実施例1と同じ光を5分間照射し、前記液L3を硬化させた。コンタクトレンズ中間製品は中心厚み0.08mm,外径10.92mmとなるように設計されている。両型を分離したところ、コンタクトレンズ中間製品は雄型Aに付着した。実施例1と同様にコンタクトレンズ中間製品を処理し、内面側は装用感に優れたヒドロゲルとし、中間と外面側とは酸素透過性に優れたシリコーンヒドロゲルとしたコンタクトレンズを8枚得た。コンタクトレンズ8枚全てに気泡が確認されず、良品と判定された。