(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163641
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】焼成アパタイトを含む歯表面膜形成用粉体
(51)【国際特許分類】
A61K 6/033 20060101AFI20170710BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20170710BHJP
A61C 5/77 20170101ALI20170710BHJP
【FI】
A61K6/033
A61L27/12
A61C5/77
【請求項の数】21
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2016-568065(P2016-568065)
(86)(22)【出願日】2016年7月12日
(86)【国際出願番号】JP2016003297
(87)【国際公開番号】WO2017010089
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2016年12月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-139692(P2015-139692)
(32)【優先日】2015年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000130776
【氏名又は名称】株式会社サンギ
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】石崎 勉
(72)【発明者】
【氏名】荒川 正嘉
(72)【発明者】
【氏名】太田 一史
【審査官】
常見 優
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−282171(JP,A)
【文献】
特開平02−001285(JP,A)
【文献】
AKATSUKA, Ryo et al.,Effect of hydroxyapatite film formed by powder jet deposition on dentin permeability,Eur J Oral Sci,2012年,Vol.120, No.6,pp.558-562,ISSN:1600-0722, 特に、Abstract, Materials and methods
【文献】
AKATSUKA, Ryo et al.,Characteristics of hydroxyapatite film formed on human enamel with the powder jet deposition techniq,J Biomed Mater Res B Appl Biomater,2011年,Vol.98B, No.2,pp.210-216,ISSN:1552-4981, 特に、Abstract, Materials and methods
【文献】
NOJI, Miyoko et al.,Characteristics of the hydroxyapatite film deposited on human enamel: deposition of a ceramic film b,Int J Abrasive Technology,2009年,Vol.2, No.1,pp.83-96,ISSN:1752-265X, 特に、3.1 HAp particles
【文献】
佐藤慧 ほか,パウダージェットデポジション法によるエナメル質へのハイドロキシアパタイト成膜,日本機械学会論文集(C編),2013年12月25日,Vol.79, No.808,pp.4634-4642,ISSN:1884-8354, 特に、第4639頁第4行〜第9行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/10
A61L15/00−33/18
A61C 5/70− 5/77
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯に対して噴射する装置に使用して歯表面に膜を形成するための膜形成用粉体であって、Ca10-X・MX(ZO4)6Y2(ただし、Xは0〜10、Mは金属又は水素、ZO4はPO4、CO3、CrO4、AsO4、VO4、SiO4、SO4又はGeO4、Yは水酸基、ハロゲン元素又は炭酸基)で示されるアパタイトを、不活性ガス雰囲気下600〜1350℃で焼成することにより製造したことを特徴とする平均粒子径が0.5〜30μmである膜形成用粉体。
【請求項2】
アパタイトが、ハイドロキシアパタイトであることを特徴とする請求項1記載の膜形成用粉体。
【請求項3】
不活性ガスがアルゴンガス又は窒素ガスであることを特徴とする請求項1又は2記載の膜形成用粉体。
【請求項4】
さらに、歯冠の色調を調整するための色調調整剤を配合したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の膜形成用粉体。
【請求項5】
歯冠の色調調整剤が、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、及び赤色顔料から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4記載の膜形成用粉体。
【請求項6】
プラズマ照射を行うことにより製造したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の膜形成用粉体。
【請求項7】
さらに、機械的なエネルギーを加えることにより製造したことを特徴とする請求項6記載の膜形成用粉体。
【請求項8】
機械的なエネルギーを加えた後で、プラズマ照射を行うことにより製造したことを特徴とする請求項7記載の膜形成用粉体。
【請求項9】
ヘリウムガスを照射ガスとしたプラズマ照射であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか記載の膜形成用粉体。
【請求項10】
ハンドピース先端ノズル内径:0.5〜5.0mm、噴射圧:0.2〜0.8MPa、噴射ノズル先端−基板間距離0.1〜3.0cm、噴射ノズル移動速度0〜10mm/sの条件で、粉体を基板に噴射した場合に、形成された膜の膜厚が30μm以上で、ビッカース硬度が340Hv以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の膜形成用粉体。
【請求項11】
Ca10-X・MX(ZO4)6Y2(ただし、Xは0〜10、Mは金属又は水素、ZO4はPO4、CO3、CrO4、AsO4、VO4、SiO4、SO4又はGeO4、Yは水酸基、ハロゲン元素又は炭酸基)で示されるアパタイトを不活性ガス雰囲気下600〜1350℃で焼成した後、粉砕及び分級することを特徴とする、歯に対して噴射する装置に使用して歯表面に膜を形成するための、平均粒子径が0.5〜30μmである膜形成用粉体の製造方法。
【請求項12】
アパタイトが、ハイドロキシアパタイトであることを特徴とする請求項11記載の膜形成用粉体の製造方法。
【請求項13】
不活性ガスがアルゴンガス又は窒素ガスであることを特徴とする請求項11又は12記載の膜形成用粉体の製造方法。
【請求項14】
さらに、歯冠の色調を調整するための色調調整剤を配合したことを特徴とする請求項11〜13のいずれか記載の膜形成用粉体の製造方法。
【請求項15】
歯冠の色調調整剤が、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、及び赤色顔料から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項14記載の膜形成用粉体の製造方法。
【請求項16】
粉砕及び分級後に、プラズマ照射を行うことを特徴とする請求項11〜15のいずれか記載の膜形成用粉体の製造方法。
【請求項17】
さらに、機械的なエネルギーを加えることを特徴とする請求項16記載の膜形成用粉体の製造方法。
【請求項18】
機械的なエネルギーを加えた後で、プラズマ照射を行うことを特徴とする請求項17記載の膜形成用粉体の製造方法。
【請求項19】
ヘリウムガスを照射ガスとしたプラズマ照射であることを特徴とする請求項16〜18のいずれか記載の膜形成用粉体の製造方法。
【請求項20】
ハンドピース先端ノズル内径:0.5〜5.0mm、噴射圧:0.2〜0.8MPa、噴射ノズル先端−基板間距離0.1〜3.0cm、噴射ノズル移動速度0〜10mm/sの条件で、粉体を基板に噴射した場合に、形成された膜の膜厚が30μm以上で、ビッカース硬度が340Hv以上であることを特徴とする請求項11〜19のいずれか記載の膜形成用粉体の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜10のいずれか記載の膜形成用粉体を含むペレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体を歯に対して噴射することにより、歯表面に膜を形成する装置に使用して、高硬度で、酸に対する溶解度が極めて低い膜を短時間で歯表面に形成するために好適な、歯の主成分であるハイドロキシアパタイト粉体を含む膜形成用粉体、及び歯の色調に適合した膜を短時間で形成するために好適な、歯冠の色調を調整するための色調調整剤を配合したハイドロキシアパタイト粉体を用いた膜形成用粉体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アパタイト、中でもハイドロキシアパタイトは、歯や骨を構成する主成分であり、優れた生体適合性を有し、損傷した硬組織の置換又は修復のための好適な材料であることから、近年、ハイドロキシアパタイトを含有する歯科、医療用材料の開発が行われている。歯科においては、う蝕予防、う蝕治療や、歯牙の漂白を目的として、ハイドロキシアパタイトを含有した歯磨剤(特許文献1及び2)、ハイドロキシアパタイトを含有したグラスアイオノマーセメント用ガラス粉末(特許文献3)や、ハイドロキシアパタイト粉末と強酸水溶液とを混合し歯科用ペーストとして塗布する歯の漂白剤(特許文献4)が開発されている。
【0003】
また、リン酸カルシウム化合物層を形成する方法としては、プラズマ溶射法(特許文献5)やスパッタ法(特許文献6)や熱分解法(特許文献7、8)が開示されているが、これらは口中の歯に直接コーティングできる方法ではない。
他方、エナメル質や象牙質と一体化できる方法として、エナメル質や象牙質の主成分であるハイドロキシアパタイト粉体を高速で歯表面に噴射してエナメル質や象牙質の表面にハイドロキシアパタイト膜を形成する装置(特許文献9〜12)が提案されている。
【0004】
本発明のような粉体を目標物に対して噴射する技術を用いることは、金属表面に対してもハイドロキシアパタイト粉体の層を形成することが可能であることを認めており、例えば、インプラント体の表面にハイドロキシアパタイトを均一にコーティングすることで、より生体適合性を高めることが可能となり、インプラント周囲炎の予防、治療の予後の長期安定化、メインテナンス性の向上にも十分貢献できるものである。
【0005】
前記したように、エナメル質や象牙質と一体化できる方法として、エナメル質や象牙質の主成分であるハイドロキシアパタイト粉体を高速で歯表面に噴射してエナメル質や象牙質の表面にハイドロキシアパタイト膜を形成する方法が検討されているが、エナメル質や象牙質の表面にハイドロキシアパタイト膜を形成させて一体化するには粉体噴射量に対する成膜効率が悪く成膜に長時間を要する、形成した膜の酸に対する溶解性が高いなど実用に至っていない。
また、本発明の背景には、近年、審美歯科治療に対する患者の要望が高まっており、その治療法として、ブリーチング法やポーセレンラミネートベニヤ法による処置があるが、これらの治療法は、健全歯質を侵襲することから患者の負担が大きいことが問題視されている。これに対し、ハイドロキシアパタイト粉体の噴射により、歯に膜成形を行えば、歯と同様の成分で歯冠の色調調整をすることが可能となるため、健全な歯質に対する侵襲がなく、逆に歯質強化ができるなど、患者の負担を大きく低減した治療が可能となる。
【0006】
しかしながら、これまでハイドロキシアパタイト粉体を高速で歯表面に噴射してエナメル質や象牙質の表面にハイドロキシアパタイト膜を形成する装置や方法に関する提案は行われているが、高硬度で、酸に対する溶解度が極めて低い膜を短時間で形成するためのアパタイト粉体に関する提案や、審美治療に使用するための様々な歯の色調に適した色調調整材料としてのハイドロキシアパタイト粉体に関する提案はされていない。
【0007】
さらに、高硬度で、酸に対する溶解度が極めて低い膜を短時間で形成するためのアパタイト粉体の製造方法や、これらの色調調整材料の製造方法については、一般的な焼成、粉砕、混合等により製造されているだけで、詳細な検討が行われていない。特に、色調調整材料の製造方法においては、粉体混合機などによる粉体どうしの混合によって行なわれてきたが、混合操作のみによる方法の場合、粉体の混合が不十分であるなどの理由で組成にバラツキが生じると、形成した膜の色調にムラができる、又は退色が起こるなどの問題が起こることが考えられる。
【0008】
また、歯のエナメル質のビッカース硬度については、日本歯科理工学会 歯科器材調査研究委員会より、270〜366Hvとの報告や、さらに、歯冠修復物の性質は、歯質の物性と同等であるか、あるいはそれ以上の性質が必要とされるとの報告がされている(非特許文献1)。その他、プラズマ照射に関する報告もある(非特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4040705号公報
【特許文献2】特許第3971877号公報
【特許文献3】特開第672112号公報
【特許文献4】特許第3340265号公報
【特許文献5】特開2014−50610号公報
【特許文献6】特開2005−76113号公報
【特許文献7】特開平1−086975号公報
【特許文献8】特開2001−178813号公報
【特許文献9】特許第5031398号公報
【特許文献10】特許第3962061号公報
【特許文献11】特開2015−13095号公報
【特許文献12】特開2015−104429号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】歯科器材調査研究委員会、「歯科修復物に望まれる物理的・機械的性質の適正値について」、歯科材料・器械、16(6)、555-562、1997.
【非特許文献2】北野勝久、他5名,大気圧プラズマを点けてみよう,J. Plasma Fusion Res. Vol.84, No.1, 19-28, 2008.
【非特許文献3】赤松浩、他2名,簡単に始められる大気圧プラズマジェットの実験,神戸高専研究紀要第50号(平成24年)
【非特許文献4】白鳥昇、他2名,大気圧プラズマの研究〜科学教育用粒子加速器の研究〜,長野県学校科学教育奨励基金 H25東京工業大学共同研究 研究結果報告書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上記の問題点を解消し、歯面などの基材上に、高硬度で、酸に対する溶解度が極めて低い膜を、迅速に、更に、歯と同様の色調調整を可能とする膜形成用粉体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ハイドロキシアパタイト粉体を、不活性ガスを用いて焼成した膜形成用粉体や、かかる膜形成用粉体に歯冠の色調を調整するための色調調整剤を添加・混合した膜形成用粉体や、これら膜形成用粉体に、粒子表面の清浄化や活性化を図るために低温プラズマ処理装置によりプラズマ照射を行ったり、更に圧縮や剪断のような機械的エネルギーを加えることにより、歯面などの基材上に短時間で、しかも膜の強度が高く、更に酸に対する溶解性が低いハイドロキシアパタイト膜や歯冠の色調が調整できるハイドロキシアパタイト膜が形成できる膜形成用粉体を開発した。本発明の膜形成用粉体を用いると、粉体の噴射量に対して成膜が良好であることから、短時間で膜が形成でき、粉体の飛散が少なく、患者や歯科医師に対する悪影響が少ない。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)歯に対して噴射する装置に使用して歯表面に膜を形成するための膜形成用粉体であって、Ca
10-X・M
X(ZO
4)
6Y
2(ただし、Xは0〜10、Mは金属、又は水素、ZO
4はPO
4、CO
3、CrO
4、AsO
4、VO
4、SiO
4、SO
4又はGeO
4、Yは水酸基、ハロゲン元素又は炭酸基)で示されるアパタイトを、不活性ガス雰囲気下600〜1350℃で焼成することにより製造したことを特徴とする平均粒子径が0.5〜30μmである膜形成用粉体。
(2)アパタイトが、ハイドロキシアパタイトであることを特徴とする上記(1)記載の膜形成用粉体。
(3)不活性ガスがアルゴンガス又は窒素ガスであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の膜形成用粉体。
(4)さらに、歯冠の色調を調整するための色調調整剤を配合したことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の膜形成用粉体。
(5)歯冠の色調調整剤が、酸化チタン、酸化亜鉛、群青及び赤色顔料から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(4)記載の膜形成用粉体。
(6)プラズマ照射を行うことにより製造したことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載の膜形成用粉体。
(7)さらに、機械的なエネルギーを加えることにより製造したことを特徴とする上記(6)記載の膜形成用粉体。
(8)機械的なエネルギーを加えた後で、プラズマ照射を行うことにより製造したことを特徴とする上記(7)記載の膜形成用粉体。
(9)ヘリウムガスを照射ガスとしたプラズマ照射であることを特徴とする上記(6)〜(8)のいずれか記載の膜形成用粉体。
(10)ハンドピース先端ノズル内径:0.5〜5.0mm、噴射圧:0.2〜0.8MPa、噴射ノズル先端−基板間距離0.1〜3.0cm、噴射ノズル移動速度0〜10mm/sの条件で、粉体を基板に噴射した場合に、形成された膜の膜厚が30μm以上で、ビッカース硬度が340Hv以上であることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれか記載の膜形成用粉体。
(11)Ca
10-X・M
X(ZO
4)
6Y
2(ただし、Xは0〜10、Mは金属、又は水素、ZO
4はPO
4、CO
3、CrO
4、AsO
4、VO
4、SiO
4、SO
4又はGeO
4、Yは水酸基、ハロゲン元素又は炭酸基)で示されるアパタイトを不活性ガス雰囲気下600〜1350℃で焼成した後、粉砕及び分級することを特徴とする、歯に対して噴射する装置に使用して歯表面に膜を形成するための、平均粒子径が0.5〜30μmである膜形成用粉体の製造方法。
(12)アパタイトが、ハイドロキシアパタイトであることを特徴とする上記(11)記載の膜形成用粉体の製造方法。
(13)不活性ガスがアルゴンガス又は窒素ガスであることを特徴とする上記(11)又は(12)記載の膜形成用粉体の製造方法。
(14)さらに、歯冠の色調を調整するための色調調整剤を配合したことを特徴とする上記(11)〜(13)のいずれか記載の膜形成用粉体の製造方法。
(15)歯冠の色調調整剤が、酸化チタン、酸化亜鉛、群青及び赤色顔料から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(14)記載の膜形成用粉体の製造方法。
(16)粉砕及び分級後に、プラズマ照射を行うことを特徴とする上記(11)〜(15)のいずれか記載の膜形成用粉体の製造方法。
(17)さらに、機械的なエネルギーを加えることを特徴とする上記(16)記載の膜形成用粉体の製造方法。
(18)機械的なエネルギーを加えた後で、プラズマ照射を行うことを特徴とする上記(17)記載の膜形成用粉体の製造方法。
(19)ヘリウムガスを照射ガスとしたプラズマ照射であることを特徴とする上記(16)〜(18)のいずれか記載の膜形成用粉体の製造方法。
(20)ハンドピース先端ノズル内径:0.5〜5.0mm、噴射圧:0.2〜0.8MPa、噴射ノズル先端−基板間距離0.1〜3.0cm、噴射ノズル移動速度0〜10mm/sの条件で、粉体を基板に噴射した場合に、形成された膜の膜厚が30μm以上で、ビッカース硬度が340Hv以上であることを特徴とする上記(11)〜(19)のいずれか記載の膜形成用粉体の製造方法。
(21)上記(1)〜(10)のいずれか記載の膜形成用粉体を含むペレット。
【0014】
本発明の異なる態様として、[1]上記Ca
10-X・M
X(ZO
4)
6Y
2で示されるアパタイトを、不活性ガス雰囲気下600〜1350℃で焼成することにより製造した平均粒子径が0.5μm〜30μmである膜形成用粉体を、歯に対して噴射する装置に使用して歯表面に膜を形成する方法や、[2]歯に対して噴射する装置に使用して歯表面に膜を形成するための膜形成用粉体として使用するための、上記Ca
10-X・M
X(ZO
4)
6Y
2で示されるアパタイトを、不活性ガス雰囲気下600〜1350℃で焼成することにより製造した平均粒子径が0.5μm〜30μmである膜形成用粉体や、[3]歯に対して噴射する装置に使用して歯表面に膜を形成するための膜形成用粉体の製造のための、上記Ca
10-X・M
X(ZO
4)
6Y
2で示されるアパタイトを、不活性ガス雰囲気下600〜1350℃で焼成することにより製造した平均粒子径が0.5μm〜30μmである粉体の使用や、[4]歯に対して噴射する装置に使用して歯表面に膜を形成するための膜形成用粉体であって、Ca
10-X・M
X(ZO
4)
6Y
2で示されるアパタイトを、600〜1350℃で焼成した後、プラズマ照射を行うことにより製造したことを特徴とする平均粒子径が0.5〜30μmである膜形成用粉体、を挙げることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の膜形成用粉体を歯面に高速で噴射することにより、患者に負担を与えることなく、アパタイト膜を迅速に形成することができるため、う蝕予防、う蝕治療や、歯牙の漂白や、歯面の色調に近い膜による審美治療を容易に行うことができる。また、ハイドロキシアパタイトのみの成膜層は、成膜層が半透明となることから、う蝕部位や、知覚過敏部位、また根面露出部などに成膜した場合には、施術部位が分かり難いため、施術野を明確にする上で、成膜層に色調性を与えることも重要である。
【0016】
本発明によると、成膜層の溶解性の抑制、硬度の向上が確認されたことから、長期間安定的に膜が維持される、即ち、成膜層の色ムラの抑制、色調の安定化した膜を得るために好適な色調調整剤を配合した膜形成用粉体を得ることが可能となる。また、歯の色相で悩みを持つ患者に対して、患者個人が望む様々な色相の成膜層を形成させることが可能となり、審美歯科治療に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に使用したプラズマ発生装置を示す図である。
【
図2】本発明に使用したプラズマ発生装置における高電圧発生回路を示す図である。
【
図3】実施例2−1で製造した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体の平均粒子径及び粒度分布を示す図である。
【
図4】実施例9−1の粉末X線回折装置による回折パターンを示す図である。
【
図5】実施例9−2の膜形成用粉体のレーザーラマン分光分析装置によるスペクトルの変化を示すである。
【
図6】色調調整剤を配合した膜形成用粉体を用いた成膜層(写真)である。
【
図7】実施例2で製造した膜形成用粉体、及び色調調整剤を配合した膜形成用粉体を用いた多層の成膜層(第1層に酸化チタン1%配合、第2層に酸化亜鉛5%配合、第3層にハイドロキシアパタイト)の図(写真)である。
【
図8】
図7に示す多層の成膜層のレーザー顕微鏡による断面像を示す図
【
図9】実施例2−4の色調調整剤を配合した膜形成用粉体(酸化チタン1%配合(左図)、酸化亜鉛5%配合(右図))を用いて歯面に形成した成膜層(写真)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の膜形成用粉体は、歯表面に膜を形成するという用途に用いられる、歯に対して噴射する装置に使用するための平均粒子径が0.5〜30μmである粉体であって、Ca
10-X・M
X(ZO
4)
6Y
2(ただし、Xは0〜10、Mは金属、又は水素、ZO
4はPO
4、CO
3、CrO
4、AsO
4、VO
4、SiO
4、SO
4又はGeO
4、Yは水酸基、ハロゲン元素又は炭酸基)で示されるアパタイトを、不活性ガス雰囲気下600〜1350℃で焼成することにより製造したことを特徴とし、また本発明の膜形成用粉体の製造方法としては、上記Ca
10-X・M
X(ZO
4)
6Y
2で示されるアパタイトを、不活性ガス雰囲気下600〜1350℃で焼成した後、粉砕及び分級して、粉体を歯に対して噴射することにより、歯表面に膜を形成する装置に使用するための、平均粒子径が0.5〜30μmの膜形成用粉体を製造する方法であれば特に制限されず、上記アパタイトとしては、リン酸カルシウム系アパタイトが好ましく、中でも化学式Ca
10(PO
4)
6(OH)
2で示される塩基性リン酸カルシウムであるハイドロキシアパタイトを特に好適に挙げることができる。
【0019】
上記リン酸カルシウム系アパタイトにおいて、Ca/Pモル比が1.67にならない非化学量論的なものであっても、アパタイトの性質を示すと共にアパタイト構造をとることができ、このような、例えば、Ca/Pモル比1.4〜1.8程度の合成アパタイトも本発明におけるアパタイトに含まれる。
【0020】
上記ハイドロキシアパタイトは、リン酸カルシウムの1種であり、生体適合性が良好で、骨、歯等に多く含まれている。通常の方法で合成されるものの他、天然硬組織としてサケ等の食用魚の魚骨、豚骨、牛骨等からも得ることができる。
【0021】
本発明に使用するハイドロキシアパタイトの合成方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。例えば、水溶液中でカルシウム塩とリン酸塩とを反応させ、所定温度で乾燥することにより得ることができる。カルシウム塩としては、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム等の一般的なカルシウム塩を挙げることができ、リン酸塩としては、リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸ナトリウム等の一般的なリン酸塩を挙げることができる。
【0022】
他の合成方法としては、硝酸カルシウム四水和物を純水で溶解させ、その後、該溶液のpHをアンモニア水でpH10に調整した溶液に、リン酸二水素アンモニウム水溶液をゆっくりと加え、このとき、溶液中のpHが10になるように少量のアンモニア水を加え、リン酸水素二アンモニウムの水溶液を全て加えた後、溶液を攪拌しながら90℃で熟成を行い、沈殿物をろ過して、超音波処理により純水中で洗浄し、得られた固形物を80℃で乾燥させる方法を挙げることができる。
【0023】
また、室温下、0.5Mの水酸化カルシウム水懸濁液中に、リン酸水溶液を滴下してアパタイトの懸濁液を作製し、反応溶液のpHをアンモニア水溶液を用いて10.5に調整し、溶液が完全に混合したのを確認した後、この懸濁液を一晩熟成させ、得られた沈殿物をろ過、固形物を80℃で乾燥させる方法を挙げることができる。
【0024】
その他、リン酸水素カルシウム二水和物と炭酸カルシウムに、純水を加えて、自動乳鉢で混合・粉砕し、得られた混合粉体を80℃で乾燥させる等、通常の製造方法により、適宜、ハイドロキシアパタイトを合成することもできる。
【0025】
また、前記式におけるYがハロゲン元素であるアパタイトを合成する場合は、ハイドロキシアパタイト製造時に、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、塩化カルシウム等のハロゲン元素源を共存させることにより、ハイドロキシアパタイトの水酸基をハロゲン元素で置換することができ、Yがハロゲン元素であるフッ素アパタイトCa
10(PO
4 )
6 F
2や塩化アパタイトCa
10(PO
4 )
6 Cl
2を製造することができる。また、ハイドロキシアパタイトを形成させた後で、ハロゲン元素源を含む溶媒と混合することによっても置換することが可能である。フッ化カルシウムなどのハロゲン化合物とリン酸化合物によりハイドロキシアパタイトを乾式合成することでもハロゲン置換アパタイトを合成することができる。フッ素で置換したフッ素アパタイトは、歯面強化剤として使用できる。
【0026】
同様に、ハイドロキシアパタイト製造時に、炭酸ガス、ドライアイス、炭酸水素ナトリウム、炭酸二ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸二カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸二アンモニウム、炭酸カルシウムなどの炭酸基を含有する化合物を共存させることにより、Yの水酸基が炭酸基に置換された炭酸アパタイトを合成することができる。
【0027】
また、同様に、Caを金属元素で置換する場合、すなわち前記式でxが0でない場合、ハイドロキシアパタイト製造時に、例えばナトリウム、リチウム、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、カドミウム、鉛、バナジウム、ケイ素、ゲルマニウム、鉄、ヒ素、マンガン、アルミニウム、希土類元素、コバルト、銀、クロム、アンチモン、タングステン、モリブデン等の水溶性塩を共存させることにより、Caの少なくとも一部が金属元素に置換されたアパタイトを合成することができる。
【0028】
本発明の膜形成用粉体は、例えば、上記のような一般的な方法で製造したハイドロキシアパタイト等のアパタイトを、不活性ガス雰囲気で、600〜1350℃で焼成、好ましくは、800〜1350℃で焼成することにより得ることができる。不活性ガス雰囲気下600〜1350℃で焼成した後、粉砕及び分級、好ましくは粉砕、分級及び混合し、平均粒子径0.5μm〜30μm、好ましくは1μm〜10μmの膜形成用粉体を得ることができる。平均粒子径が0.5μm〜30μmである限り、その形状、構造等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。この焼成により得られた膜形成用粉体を、プラズマ照射を行う処理や、更に機械的エネルギーを付与する処理を行うことで、より膜形成に適した粉体を得ることができる。
【0029】
本発明の膜形成用粉体について、歯面などの基板上に形成した膜の性能を調べたところ、短時間で膜の形成を可能とし、さらに歯冠の変色に対する隠蔽力を検討したところ、30μm以上の膜厚を形成することが好ましく、またビッカース硬度が340Hv以上であることが好ましいことが明らかになり、そのため、アパタイトを不活性ガス雰囲気600〜1350℃で焼成することが必要であることがわかった。また、本発明の膜形成用粉体には、歯冠の色調を調整するための色調調整剤を配合することができる。ハイドロキシアパタイト粉体と種々の色調調整剤とを複合化することで、歯に対して様々な色調を付与する成膜層を形成するための色調調整剤を配合した膜形成用粉体を得ることができる。
【0030】
上記色調調整剤としては、少量で使用されるため、ハイドロキシアパタイトとの混合において、その平均粒子径の違いが混合性に大きな影響を与えるものではないが、色調調整材の粒子径は、ハイドロキシアパタイトの粒子径よりも小さいか、もしくは同程度であることが望ましいことから、0.01μm〜30μmが好ましく、更には、より良好な混合性を付与する観点から、0.05μm〜10μmであることが好ましい。
【0031】
歯冠の色調調整剤には、歯科用として公知の無機顔料、有機顔料がなんら制限なく使用できる。無機顔料としては、酸化物、水酸化物、硫化物、クロム酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩、炭酸塩、フェロシアン化合物、リン酸塩、炭素等が挙げられ、中でも酸化物が好適に用いられる。有機顔料としては、タール色素、アゾ系顔料、フタロシアニン顔料、縮合多環顔料、ニトロ系顔料、ニトロソ系顔料、蛍光顔料等が挙げられ、中でもアゾ系顔料とフタシアニン顔料が好適に用いられる。これらの無機顔料と有機顔料とを混合して使用することができる。
【0032】
具体的には、白色顔料として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、フッ化マグネシウム等、また、赤色顔料、及び/又は染料として、べんがら、モリブデンレッド、クロモフタールレッド、赤色2号(アマランス)、赤色104号(フロキシン)、赤色105号(ローズベンガル)、赤色106号(アシドレッド)、赤色201号(リソールルビンB)、赤色202号(リソールルビンBCA)、赤色203号(レーキレッドC)、赤色204号(レーキレッドCBA)、赤色205号(リソールレッド)、赤色206号(リソールレッドCA)、赤色207号(リソールレッドBA)、赤色208号(リソールレッドSR)、赤色213号(ローダミンB)、赤色214号(ローダミンBアセテート)、赤色215号(ローダミンBステアレート)、赤色218号(テトラクロロテトラブロモフルオレセイン)、赤色219号(ブリリアントレーキレッドR)、赤色220号(ディープマルーン)、赤色221号(トルイジンレッド)、赤色223号(テトラブロモフルオレセイン)、赤色225号(スダンIII)、赤色226号(ヘリンドンピンクCN)、赤色227号(ファストアシッドマゲンタ)、赤色228号(パーマトンレッド)、赤色230号の(1)(エオシンYS)、赤色230号の(2)(エオシンYSK)、赤色231号(フロキシンBK)、赤色232号(ローズベンガルK)、赤色401号(ビオラミンR)、赤色404号(ブリリアントファストスカーレット)、赤色405号(パーマネントレッドF5R)、赤色501(薬用スカーレット)、赤色502(ポンソー3R)、赤色503号(ポンソーR)、赤色504号(ポンソーSX)、赤色505号(オイルレッドXO)、赤色506号(ファストレッドS)、紫色201号(アリズリンパープルレーキSS)、紫色401号(アリズロールパープル)、ナフトールAS(ナフトールルビン、ナフトールレッドFGR、ナフトールカーミンFBB、ナフトールカーミンF3B、ナフトールレッドF5RK、ナフトールレッドHF4B)、BONAレーキ(BONAバリウムレーキ、BONAカルシウムレーキ、BONAストロンチウムレーキ、BONAマンガンレーキ、BONAマグネシウムレーキ)、リソールルビン(ブリリアントカーミン6B)、ジアミノアンスラキノニルレッド、DPPレッドBO、ジケトピロロピロール、ペリレンレッドBL、イミダゾロンレッドHFT、イミダゾロンカーミンHF3C、ベンズイミダゾロンカーミンHF4C、ジアミノアンスラキノニルレッド、ジクロロキナクリドンマゼンタ、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンレッド、キナクリドンバイオレット、ジオキサンバイオレット、縮合アゾスカーレット等、また、黄色顔料、及び/又は染料として、黄酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、酸化ビスマス、クロモフタールイエロー、黄色4号(タートラジン)、黄色201号(フルオレセイン)、黄色202号の(1)(ウラニン)、黄色202号の(2)(ウラニンK)、黄色203号(キノリンイエローWS)、黄色204号(キノリンイエローSS)、黄色205号(ベンチジンイエローG)、黄色401号(ハンサイエロー)、黄色402号(ポーライエロー5G)、黄色403号の(1)(ナフトールイエローS)、黄色406号(メタニルイエロー)、黄色407号(ファストライトイエロー3G)、ハンザイエロー10G、ジスアゾイエロー(AAMX、AAOT、HR、4G、3A、GR、G)、ベンズイミダゾロンイエロー(H2G、HG)、イソインドリンイエロー(G、R)、ピラゾロンイエローHGR、ジアリライドイエローAAOA等、また、青色顔料、及び/又は染料として、コバルトブルー、群青、紺青、クロモフタールブルー、フタロシアニンブルー、アルミニウムフタロシアニンブルー、インダンスレンブルー、緑色3号(ファーストグリーンFCF)、青色1号(ブリリアントブルーFCF)、青色2号(インジゴカーミン)、青色201号(インジゴ)、青色202号(パテントブルーNA)、青色203号(パテントブルーCA)、青色204号(カルバンスレンブルー)、青色205号(アルファズリンFG)等、さらに、黒色顔料として、黒酸化鉄、カーボンブラック等を挙げることができる。
【0033】
また、光沢感を付与するための色調調整剤として、二酸化ケイ素、樹脂微粒子(具体的には、ポリアクリル酸メチル粉体、ポリエチレン球、ポリプロピレン球、ポリスチレン球、ナイロン球等)を用いることができる。
【0034】
そしてまた、本発明の膜形成用粉体には、上記成分の他に、通常歯科用材料に用いられる他の成分、例えば、シリカ、リン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ジルコニアなどを必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0035】
本発明の膜形成用粉体として、更に、平均粒子径が同一の粉体又は異なる粒子径の粉体の混合物や、焼成不活性ガス雰囲気が同一の粉体、又は、焼成雰囲気が異なる不活性ガスの粉体の混合物、若しくは焼成雰囲気が不活性ガスと大気の粉体の混合物や、粒子径と焼成雰囲気の両方が異なる粉体の混合物や、アパタイト以外の成分を配合して焼成した粉体等を挙げることができる。
【0036】
本発明の膜形成用粉体の製造における低温プラズマ等のプラズマ照射を行う装置を用いるプラズマ照射は、アパタイト粉体単体における処理の外、アパタイト粉体同士の混合処理、あるいはアパタイト粉体と色調調整剤等のアパタイト以外の粉体の混合処理においても実施することが好ましい。例えば、歯冠の色調を調整するための色調調整剤を配合したハイドロキシアパタイト粉体の製造方法についても、通常は、ハイドロキシアパタイト粉体と色調調整剤とを混合処理するものであるが、混合操作には、混合時に低温プラズマ等のプラズマ照射を行う装置を用いて行うことが好ましい。。
【0037】
プラズマ照射に加えて、圧縮や剪断のような機械的エネルギーを付与する装置を用いて処理を行うことが好ましい。プラズマ照射を行うことで、粒子表面の清浄化や活性化を図ることができ、また、機械的エネルギーを加えることで、粒子どうしを強固で緻密に複合化させたり、粉体の機能性をより高めた粒子設計が可能とされている。しかし、検討の結果、機械的エネルギーを付与する装置による単独処理を行っても、形成された膜の特性において変化が認められなかった。また、これらプラズマ照射による処理に加えて、機械的エネルギーを付与する処理を行うことにより、特に、機械的エネルギー処理を行った後でプラズマ処理を行うことにより、粒子表面の結晶化がより高まる等、物理化学的特性が変化することが確認された。機械的エネルギーを付与する処理とプラズマ照射による処理を施した本発明の膜形成用粉体を用いて形成された膜の特性において良好な結果が見いだされ、口腔内環境での使用に適した膜が形成できることを確認した。
【0038】
上記プラズマ照射装置としては、プラズマ表面処理装置(浅草製作所)、マルチガスプラズマジェット(プラズマファクトリー)、プラズマミキサーPMR(アルファ株式会社)等を用いることができる。また、粒子に摩砕、摩擦、延伸、圧縮、せん断などの機械的エネルギーを加えることによって、構造、相転移、反応性、吸着性、触媒活性などの変化をひきおこすことができる。かかる機械的エネルギーを加える装置としては、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所)、メカノフュージョン、ノビルタ(ホソカワミクロン)等を用いることができる。例えば、メカノフュージョンによると、せん断力等により粒子の凸部がつぶされる効果があり、また摩砕と再付着により面取りしたような状態の粒子が得られる。これら装置を用いることで、膜形成に最適な膜形成用粉体を作製することが可能となる。
【0039】
粒子表面の清浄化や活性化を促す低温プラズマを付与する場合には、印加電圧を5〜20kV、ローターヘッドの回転速度を1500〜6000rpmとすることが好まく、処理時間は処理粉体等により異なるが、5〜20分を例示することができる。プラズマガス種としては、ヘリウムガス、アルゴンガス、酸素ガス、窒素ガス、ネオンガス、炭酸ガス、空気等を使用することができるが、ヘリウムガスを好適に例示することができる。また、機械的エネルギーを加える装置で処理する場合には、圧縮、せん断力を与えるローターヘッドの回転速度を、100〜6000rpmとすることが好まく、処理時間は処理粉体等により異なるが、5〜30分を例示することができる。なお、プラズマ照射装置、機械的エネルギーを加える装置の印加電圧、ガス種、処理速度、処理時間等は、適宜変更することができる。また、膜形成用粉体の形態については、粉体のみならず、粉体を押し固めたペレット、さらにこれを焼成した焼成ペレットの形態でも良く、これらペレットを粉砕、削るなどして粉体として使用することも可能である。ペレットの形態については、1種類の膜形成用粉体をペレット状としたものや、2種類以上の膜形成用粉体を積層したものでもよく、これらの形状についても、便宜上本発明の膜形成用粉体に含まれる。
【0040】
本発明の膜形成用粉体は、歯に対して噴射する装置に使用して歯表面に膜を形成するという用途に用いられる。かかる粉体噴射による膜形成装置としては、前記特許文献9〜12に記載の粉体噴射装置等を用いることができる。例えば、自社製の粉体噴射装置を用いる場合の成膜条件としては、ハンドピース先端ノズル内径:0.5〜5.0mm、噴射圧:0.2〜0.8MPa、噴射ノズル先端−歯表面間距離0.1〜30mm(ノズル先端は歯表面に垂直に保持)、噴射ノズル移動速度0〜10mm/sを挙げることができる。前記特許文献9〜12に記載の粉体噴射装置についても同様の条件で用いることができる。得られた成膜層はダイヤポリッシャーペーストで表面研磨を行うことが好ましい。また、色調調整剤を配合した膜形成用粉体を用いて成膜した後、その上層として、他の色調調整剤を配合した膜形成用粉体を用いて成膜したり、色調調整剤を配合していない膜形成用粉体を用いて成膜するなど、歯冠表面に多層の成膜層を形成することができる。
【0041】
以下、実施例によりこの発明を説明するが、この発明は以下の実施例により如何なる意味においても限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
[アパタイトの合成]
1−1 ハイドロキシアパタイトの合成
室温下、0.5Mの水酸化カルシウム水懸濁液(2L)中に、0.3Mのリン酸水溶液(2L)を滴下してアパタイトの懸濁液を作製した。反応溶液のpHはアンモニア水溶液を用いて10.5に調整した。溶液が完全に混合したのを確認した後、この懸濁液を一晩熟成させた。得られた沈殿物をろ過、固形物を80℃で乾燥させた。
【0043】
1−2 フッ素アパタイトの合成
0.25Mの水酸化カルシウム懸濁液(2L)と、0.3molのリン酸と0.1molのフッ化水素を混合した水溶液(2L)を調製した。室温下、この水酸化カルシウム懸濁液中に、リン酸とフッ化水素の混合水溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、懸濁液を攪拌しながら80℃で5時間熟成させた。得られた沈殿物をろ過して、固形分を80℃で乾燥させた。
【0044】
1−3 炭酸アパタイトの合成
0.75Lの純水中に炭酸ガスを30分間バブリングした。この溶液のpHは7から4に低下した。得られた溶液に0.3molのリン酸を加え、全量を純水で1Lにメスアップした。この溶液を0.5Mの水酸化カルシウム水溶液(1L)中に、1L/3hの速度で滴下した。懸濁液を2時間攪拌後、一晩熟成を行い、ろ過、得られた固形物を80℃で乾燥させた。
【0045】
1−4 マグネシウム固溶アパタイトの合成
0.19molの硝酸カルシウム四水和物と0.01molのMg(OH)
2を500mLの純水で溶解させた。その後、本溶液のpHをアンモニア水でpH10に調整した。この溶液に、0.12Mのリン酸二水素アンモニウム水溶液(500mL)をゆっくりと加えた。この時、溶液中のpHが10になるように少量のアンモニア水を加えた。リン酸水素二アンモニウムの水溶液を全て加えた後、溶液を攪拌しながら90℃で5時間熟成を行った。沈殿物をろ過して、超音波処理により純水中で3回洗浄を行った。得られた固形物は80℃で乾燥させた。
【実施例2】
【0046】
[膜形成用粉体の調製]
焼成用雰囲気炉として、真空置換式雰囲気炉2024−V型(丸祥電器)を用いた。また、粉砕、分級装置として、流動層式対向型ジェットミル カウンタージェットミル 100AFG型(ホソカワミクロン)を用いた。
【0047】
2−1 膜形成用アパタイト粉体
上記で合成したハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト及びマグネシウム固溶アパタイトを、乳鉢で粉砕し、大気中、アルゴンガス及び窒素ガス雰囲気中、200〜1350℃、又は600〜1350℃で焼成した。焼成した試料を、対向式気流粉砕機で粉砕、分級して、各々の試料について平均粒子径が0.5〜30μmのハイドロキシアパタイト粉体を得た。
【0048】
2−2 膜形成用シリカ配合ハイドロキシアパタイト粉体
また、上記2−1で合成した膜形成用アパタイト粉体に、アパタイト以外の成分としてシリカを1重量%添加して同様の処理を行い、シリカを配合したハイドロキシアパタイト粉体を得た。シリカは、「堺化学工業(株)のSciqasシリーズ 粒子径:1.0μm」を用いた。
【0049】
2−3 膜形成用色調調整剤配合ハイドロキシアパタイト粉体
上記2−1で作製した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体に、各種の色調調整剤を配合して、色調調整剤を配合した膜形成用粉体を得た。酸化チタンは「キシダ化学(株):特製」を、酸化亜鉛は「ハクスイテック(株):局方酸化亜鉛」を、群青は「(株)ピノア、ウルトラマリーン」を、酸化鉄は「関東化学(株):鹿1級」を、赤色204号は「東京化成工業(株)、レーキレッドCBA」をそれぞれ使用した。
【実施例3】
【0050】
[プラズマ照射処理及び/又は機械的エネルギー付加処理]
プラズマ照射装置として、自社で作製したプラズマ発生装置を用いた。プラズマ照射時に使用する粉体の混合機は、300ccのビーカーを、傾斜をつけた状態のターンテーブル電動式T−AU上に固定し、回転させて用いた。
プラズマ発生装置を
図1及び
図2に示す。図中、1はAC/DCコンバータ(AC100V→DC24V)、2は冷陰極管インバータ(DC24V→AC1000V)、3は昇圧回路(コッククロフト・ウォルトン回路;AC1000V→AC10KV)、4はプラズマノズル、5はガス流量計をそれぞれ示す。また、機械的エネルギーを加える装置として、メカノフュージョンAMS−MINI(ホソカワミクロン)を用い、機械的エネルギーとプラズマ照射を同時に行える装置として、ナノキュラNC−ALB(ホソカワミクロン)を用いた。
【0051】
3−1 プラズマ照射処理膜形成用粉体の製造
実施例2−1で製造した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体、実施例2−2で製造した膜形成用シリカ配合ハイドロキシアパタイト粉体、及び実施例2−3で製造した膜形成用色調調整剤配合ハイドロキシアパタイト粉体について、自社製プラズマ発生装置を用いて、プラズマ照射処理を行った。混合機(300ccのビーカーを、ターンテーブル電動式 T−AUで回転)で膜形成用粉体を混合しながら、プラズマ照射処理を行い、プラズマ照射処理膜形成用粉体を得た。
【0052】
3−2 プラズマ照射処理及び機械的エネルギー付加処理膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体の製造(個別処理)
実施例2−1で製造した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体、実施例2−2で製造した膜形成用シリカ配合ハイドロキシアパタイト粉体、及び実施例2−3で製造した膜形成用色調調整剤配合ハイドロキシアパタイト粉体について、機械的エネルギーを加える装置(メカノフュージョン AMS−MINI、ホソカワミクロン)で処理を行なった後、プラズマ照射を行う処理を行なって、膜形成用粉体を得た。同様に、実施例2−1で製造した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体について、プラズマ照射を行う処理を行なった後、機械的エネルギーを加える装置で処理を行なって、膜形成用粉体を得た。
【0053】
3−3 プラズマ照射処理及び機械的エネルギー付加処理膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体の製造(同時処理)
実施例2−1で製造した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体、実施例2−2で製造した膜形成用シリカ配合ハイドロキシアパタイト粉体、及び実施例2−3で製造した膜形成用色調調整剤配合ハイドロキシアパタイト粉体について、機械的エネルギー付加処理とプラズマ照射処理を同時に行える装置(ナノキュラ NC−ALB、ホソカワミクロン)で処理を行い、膜形成用粉体を得た。
【0054】
3−4 機械的エネルギー付加処理膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体の製造
実施例2−1で製造した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体、実施例2−2で製造した膜形成用シリカ配合ハイドロキシアパタイト粉体、及び実施例2−3で製造した膜形成用色調調整剤配合ハイドロキシアパタイト粉体について、機械的エネルギーを加える処理を行ない、膜形成用粉体を得た。
【実施例4】
【0055】
[膜厚、Ca溶出量、ビッカース硬度の測定]
実施例2−1で製造した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体、実施例2−2で製造した膜形成用シリカ配合ハイドロキシアパタイト粉体、及び実施例2−3で製造した膜形成用色調調整剤配合ハイドロキシアパタイト粉体により膜を形成し、それぞれ膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度の測定を行った。また、上記色調調整剤を配合した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体を用いた成膜層(写真)を
図6に示す。
【0056】
4−1 膜形成用粉体の粒度
実施例2−1で製造した膜形成用粉体の平均粒子径及び粒度分布を
図3に示す。膜形成用粉体の粒度分布の測定には、粒度分布測定装置(LA−950, 堀場製作所社製)を使用した。また測定には乾式ユニットを使用した。なお、これ以降に記載する[表]等における「粒子径0.5μm」は平均粒子径が0.4〜0.6μmの粉体を、「粒子径1μm」は平均粒子径が0.9〜1.1μmの粉体を、「粒子径5μm」は平均粒子径が4.0〜6.0μmの粉体を、「粒子径10μm」は平均粒子径が9.0〜11.0μmの粉体を、「粒子径20μm」は平均粒子径が19.0〜21.0μmの粉体を、「粒子径30μm」は平均粒子径が29.0〜31.0μmの粉体をそれぞれ意味する。
【0057】
4−2 膜の形成方法
ヒト抜去歯からエナメル質平滑面を切り出して、表面研磨を行った。粉体噴射による膜形成装置により、上記の研磨表面に、各種の上記膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体を用いて成膜処置を行った。成膜条件は、ハンドピース先端ノズル内径:5.0mm、噴射圧:0.6MPaとした。噴射ノズル先端−基板間距離は0.5cm(ノズル先端は基板に垂直に保持)、噴射ノズル移動速度は10mm/sとした。得られた成膜層はダイヤポリッシャーペーストで表面研磨を行った。なお、研磨処理による成膜層の厚さは変化しないことを、デジタルマイクロスコープVHX−1000(株式会社キーエンス)を用いて確認した。
【0058】
4−3 成膜厚さの測定
上記4−2の成膜処理により形成した膜厚の測定は、デジタルマイクロスコープVHX−1000(株式会社キーエンス)を用いて3D計測から膜厚を求めた。
【0059】
4−4 膜からのCa溶出量の測定
上記4−2の成膜処置を行った成膜面(約2mm×2mmのウインドウ)以外の試料面を、全てネイルエナメルでマスキングして、Ca溶出量の測定用のエナメル質ブロックを作製した。膜のCa溶出量の評価は、口腔内のpH変動を模擬したpHサイクル試験によって、成膜層から溶出するCaイオン濃度を測定した。試験溶液には0.2mol/Lの乳酸緩衝溶液(pH4.5)及び0.02mol/LのHEPES緩衝溶液(pH7.0)を使用した。この溶液に、上記で作製したCaイオン溶出量の測定用のエナメル質ブロックを、37℃の試験条件下で、乳酸緩衝溶液に30分浸漬する。続いてHEPES緩衝溶液に90分浸漬というサイクルを計3サイクル行った。試験終了後、溶液中に溶出したCaイオン濃度をイオンクロマトグラフィーで測定した(陽イオンクロマトグラフィー法)。また、測定方法は、以下の測定条件で行なった。
装置名:Intelligent HPLC LC-2000 Plus(日本分光社)
測定用カラム:陽イオン測定用カラム IC YK-421(Shodex社)
溶離液:5mM酒石酸+1mMジピコリン酸+1.5g/Lホウ酸
流量:1.0ml/min
試料注入量:20μl
カラム温度:40℃
検出器:電気伝導度検出器
【0060】
4−5 ビッカース硬度の測定
成膜処理により作製した膜について、微小硬度計FM−700(株式会社フューチュアテック)を用いて、押し込み荷重:100g、荷重保持時間:30秒で測定した。
【実施例5】
【0061】
[測定結果1]
実施例2で製造した膜形成用アパタイト粉体について成膜処理を行い、各試料について、成膜厚さ、Ca溶出量、ビッカース硬度の測定を行った。成膜には、自社製の粉体噴射装置を用いた。自社製の粉体噴射装置は、AC/DCコンバータ(AC100V→DC24V)、ソレノイドバルブ、ミストセパレータ、エアーレギュレータ、スピードコントローラなどを備えている。
【0062】
5−1 膜厚
実施例2−1で製造した膜形成用アパタイト粉体について成膜処理を行い、成膜厚さを測定した。大気雰囲気中で200〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径における膜厚の測定結果を[表1]に、アルゴンガス雰囲気中で600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径における膜厚の測定結果を[表2]に、窒素ガス雰囲気中で600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径における膜厚の測定結果を[表3]に、大気雰囲気中で600〜1350℃で焼成したフッ素アパタイト粉体の各種粒径における膜厚の測定結果を[表4]にそれぞれ示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
以上の結果より、大気雰囲気中600℃で焼成した、平均粒子径が0.5μmのハイドロキシアパタイト粉体やフッ素アパタイト粉体で成膜した場合の膜厚は30μm未満であったが、アルゴンガス雰囲気や窒素ガス雰囲気中600〜1350℃で焼成した、平均粒子径が0.5〜30μmのハイドロキシアパタイト粉体はすべて30μm以上の膜厚を有していた。このことから、大気雰囲気中よりも不活性ガス雰囲気、とりわけアルゴンガス雰囲気で焼成することにより製造したハイドロキシアパタイト粉体を膜形成用粉体として用いると、優れた膜厚が得られることがわかる。
【0068】
5−2 Ca溶出量
実施例2−1で製造した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体について成膜処理を行い、Ca溶出量を測定した。大気雰囲気中で600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径におけるCa溶出量の測定結果を[表5]に、アルゴンガス雰囲気中で600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径におけるCa溶出量の測定結果を[表6]に、窒素ガス雰囲気中で600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径におけるCa溶出量の測定結果を[表7]にそれぞれ示す。
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
以上の結果より、大気雰囲気中600〜1350℃で焼成した、平均粒子径が0.5〜30μmのハイドロキシアパタイト粉体で成膜した場合のCa溶出量に比べて、アルゴンガス雰囲気や窒素ガス雰囲気中600〜1350℃で焼成した、平均粒子径が0.5〜30μmのハイドロキシアパタイト粉体で成膜した場合のCa溶出量はすべて減少していた。このことから、大気雰囲気中よりも不活性ガス雰囲気、とりわけアルゴンガス雰囲気で焼成することにより製造したハイドロキシアパタイト粉体を膜形成用粉体として用いると、Ca溶出量が略20%抑制されることがわかる。
【0073】
5−3 ビッカース硬度
実施例2−1で製造した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体について成膜処理を行い、ビッカース硬度を測定した。大気雰囲気中で600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径におけるビッカース硬度の測定結果を[表8]に、アルゴンガス雰囲気中で600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径におけるビッカース硬度の測定結果を[表9]に、窒素ガス雰囲気中で600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径におけるビッカース硬度の測定結果を[表10]にそれぞれ示す。
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
【表10】
【0077】
以上の結果より、大気雰囲気中600〜1350℃で焼成した、平均粒子径が0.5〜30μmのハイドロキシアパタイト粉体で成膜した場合のビッカース硬度は302〜330Hvであり、いずれも330Hv以下であった。この数値は、文献で報告されているエナメル質のビッカース硬度の低いレベルに相当する値であった。これに対して、アルゴンガス雰囲気や窒素ガス雰囲気中600〜1350℃で焼成した、平均粒子径が0.5〜30μmのハイドロキシアパタイト粉体で成膜した場合のビッカース硬度は、それぞれ351〜391Hv及び341〜372Hvと、すべて340Hv以上であった。この数値は、文献で報告されているエナメル質のビッカース硬度の高いレベル、又はその値を超える値を示しており、天然の歯質よりも高くなる傾向が示された。以上のことから、大気雰囲気中よりも不活性ガス雰囲気、とりわけアルゴンガス雰囲気で焼成することにより製造したハイドロキシアパタイト粉体を膜形成用粉体として用いると、ビッカース硬度が略15〜18%増強することがわかる。
【0078】
以上のことから、不活性ガス雰囲気、特にアルゴンガス雰囲気中600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体においては、平均粒子径が0.5〜30μmの粉体で成膜した膜の膜厚、Ca溶出量、ビッカース硬度のすべての測定結果において最も良好な結果が得られ、膜形成用粉体として有効な粉体であることがわかる。
【0079】
大気雰囲気中600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体で成膜した膜のビッカース硬度においては、いずれも330Hv以下であったが、不活性ガス雰囲気中600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体で成膜した膜のビッカース硬度はいずれの粒子径においても340Hv以上の強度が認められ、膜形成用粉体として有効な粉体であった。
特に、アルゴンガス雰囲気中600〜1350℃で焼成したハイドロキシアパタイト粉体においては、平均粒子径が0.5〜30μmの粉体で成膜した膜の膜厚、Ca溶出量、ビッカース硬度の全ての測定結果において最も良好な結果が得られた。
【0080】
5−4 膜厚(色調調整剤配合)
実施例2−3で製造した膜形成用色調調整剤配合ハイドロキシアパタイト粉体について成膜処理を行い、成膜厚さを測定した。アルゴンガス雰囲気中で200〜1350℃で焼成した酸化チタン1質量%配合ハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径における膜厚の測定結果を[表11]に、アルゴンガス雰囲気中で200〜1350℃で焼成した酸化亜鉛5質量%配合ハイドロキシアパタイト粉体の各種粒径における膜厚の測定結果を[表12]にそれぞれ示す。
【0081】
【表11】
【0082】
【表12】
【0083】
以上の結果より、アルゴンガス雰囲気中で600〜1350℃で焼成した平均粒子径が0.5〜30μmの粉体で、遮蔽隠蔽性の高い膜(膜厚:30μm以上)が、短時間で形成されることがわかった。これら[表11]及び[表12]に示される結果と[表2]に示される結果とを対比すると、酸化亜鉛5質量%配合したハイドロキシアパタイト粉体で成膜した場合の膜厚と配合しなかった場合の膜厚は略同じ程度であり、酸化チタン1質量%配合したハイドロキシアパタイト粉体で成膜した場合の膜厚は、配合しなかった場合の膜厚よりもむしろ優れていることがわかった。
【実施例6】
【0084】
[測定結果2]
実施例2で製造した膜形成用アパタイト粉体に、機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した粉体、又は機械的エネルギー付加処理やプラズマ照射処理を施していない未処理の粉体でそれぞれ成膜処理を行い、各試料について、成膜厚さ、Ca溶出量、ビッカース硬度の測定を行った。膜の形成方法は、前記実施例4−2と同様に、ヒト抜去歯からエナメル質平滑面を切り出して、表面研磨を行った。粉体噴射による膜形成装置により、上記の研磨表面に、各種のハイドロキシアパタイト粉体を用いて成膜処置を行った。また、成膜条件は、ハンドピース先端ノズル内径:3.0mm、噴射圧:0.4MPaとして、噴射ノズル先端−基板間距離は10mm(ノズル先端は基板に垂直に保持)、噴射ノズル移動速度は2mm/sとした。得られた成膜層はダイヤポリッシャーペーストで表面研磨を行った。
【0085】
6−1 機械的エネルギー付加処理後にプラズマ照射処理
機械的エネルギー付加処理は、機械的エネルギーを加える装置(メカノフュージョン AMS−MINI、ホソカワミクロン)を用いて、ローター回転数500rpmとして30分間処理した。また、プラズマ処理は、機械的エネルギー処理後の粉体を投入した容器をローター回転数150rpmで回転させた状態で、プラズマ発生条件(印加電圧20kV)のプラズマを、プラズマノズル先端から照射させて5分間処理を行なった。プラズマガスは、ヘリウム、アルゴン、窒素、炭酸、酸素を用いた。
【0086】
(1)アルゴンガス雰囲気焼成粒子径1μmのハイドロキシアパタイト粉体
実施例2−1で製造したアルゴンガス雰囲気中で600〜1350℃で焼成した粒子径1μmのハイドロキシアパタイト粉体に機械的エネルギー付加処理をし、その後にプラズマ照射処理を施した粉体で作製した成膜の膜厚の測定結果を[表13]に、Ca溶出量の測定結果を[表14]に、ビッカース硬度の測定結果を[表15]に、それぞれプラズマガス種ごとに示す。
【0087】
【表13】
【0088】
【表14】
【0089】
【表15】
【0090】
以上の結果より、機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した粉体で作製した成膜は、未処理の粉体で作製した成膜に比べて、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において優れていた。また、プラズマガス種の影響は、He>Ar>N
2>CO
2>O
2の順に優れていた。
【0091】
(2)アルゴンガス雰囲気焼成と大気中焼成との1対1混合粉体
アルゴンガス雰囲気で焼成した粒子径1μmのハイドロキシアパタイト粉体と、大気雰囲気で焼成した粒子径1μmのハイドロキシアパタイト粉体との1対1混合粉体に機械的エネルギー付加処理をし、その後にプラズマ照射処理を施した混合粉体で作製した成膜の膜厚の測定結果を[表16]に、Ca溶出量の測定結果を[表17]に、ビッカース硬度の測定結果を[表18]に、それぞれプラズマガス種ごとに示す。
【0092】
【表16】
【0093】
【表17】
【0094】
【表18】
【0095】
以上の結果より、機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した混合粉体で作製した成膜は、未処理の粉体で作製した成膜に比べて、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において優れていた。また、プラズマガス種の影響は、膜厚においては差がなく、Ca溶出量においてはHe>Ar>CO
2>N
2>O
2の順に優れ、ビッカース硬度においてはHe>Ar>N
2>CO
2>O
2の順に優れていた。
【0096】
(3)アルゴンガス雰囲気焼成と窒素ガス雰囲気焼成との1対1混合粉体
アルゴンガス雰囲気で焼成した粒子径1μmの膜形成用粉体と、窒素ガス雰囲気で焼成した粒子径1μmの膜形成用粉体との1対1混合粉体に、機械的エネルギー付加処理をし、その後にプラズマ照射処理を施した混合粉体で作製した成膜の膜厚の測定結果を[表19]に、Ca溶出量の測定結果を[表20]に、ビッカース硬度の測定結果を[表21]に、それぞれプラズマガス種ごとに示す。
【0097】
【表19】
【0098】
【表20】
【0099】
【表21】
【0100】
以上の結果より、機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した混合粉体で作製した成膜は、未処理の粉体で作製した成膜に比べて、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において優れていた。また、プラズマガス種の影響は、膜厚においてはHeが優れ、Ca溶出量においてはHe>Ar>CO
2>N
2>O
2の順に優れ、ビッカース硬度においてはHe>Ar>N
2>CO
2>O
2の順に優れていた。また、アルゴンガス雰囲気焼成と窒素ガス雰囲気焼成との1対1混合粉体の方がアルゴンガス雰囲気焼成と大気中焼成との1対1混合粉体よりも、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において優れていた。
【0101】
6−2 機械的エネルギー付加処理後にプラズマ照射処理(色調調整剤配合)
実施例2−3で製造した膜形成用色調調整剤配合ハイドロキシアパタイト粉体に機械的エネルギー付加処理をし、その後にプラズマ照射処理を施した粉体、及び未処理粉体を用いて成膜して、膜厚、膜からのCaイオン溶出量、及び膜のビッカース硬度の測定を行った。機械的エネルギー処理は、機械的エネルギーを加える装置(メカノフュージョン AMS−MINI、ホソカワミクロン)を用いて、ローター回転数5,000rpmとして5分間処理した。プラズマ処理は、機械的エネルギー処理後の粉体を投入した容器をローター回転数150rpmで回転させた状態で、プラズマ発生条件(印加電圧5kV)のプラズマを、プラズマノズル先端から照射させて20分間処理を行なった。プラズマガスは、ヘリウム、アルゴン、窒素、炭酸、酸素を用いた。
【0102】
膜の形成方法は、前記実施例4−2と同様に、ヒト抜去歯からエナメル質平滑面を切り出して、表面研磨を行った。粉体噴射による膜形成装置により、上記の研磨表面に、各種のハイドロキシアパタイト粉体を用いて成膜処置を行った。また、成膜条件は、成膜条件は、ハンドピース先端ノズル内径:0.5mm、噴射圧:0.2MPaとして、噴射ノズル先端−基板間距離は30mm(ノズル先端は基板に垂直に保持)、噴射ノズル移動速度は5mm/sとした。得られた成膜層はダイヤポリッシャーペーストで表面研磨を行った。
【0103】
アルゴンガス雰囲気で焼成した平均粒子径1μmの膜形成用粉体に色調調整剤として酸化チタンを1質量%配合した膜形成用粉体を機械的エネルギー付加処理し、その後にプラズマ照射処理を施した粉体で作製した成膜の膜厚の測定結果を[表22]に、Ca溶出量の測定結果を[表23]に、ビッカース硬度の測定結果を[表24]に、それぞれプラズマガス種ごとに示す。同様に、アルゴンガス雰囲気で焼成した平均粒子径1μmの膜形成用粉体に色調調整剤として酸化亜鉛を5質量%配合した膜形成用粉体を機械的エネルギー付加処理し、その後にプラズマ照射処理を施した粉体で作製した成膜の膜厚の測定結果を[表25]に、Ca溶出量の測定結果を[表26]に、ビッカース硬度の測定結果を[表27]に、それぞれプラズマガス種ごとに示す。
【0104】
【表22】
【0105】
【表23】
【0106】
【表24】
【0107】
【表25】
【0108】
【表26】
【0109】
【表27】
【0110】
以上の結果より、機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した粉体で作製した成膜は、未処理の粉体で作製した成膜に比べて、いずれのプラズマガス種においても膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において優れていた。また、特にプラズマガスにヘリウムガスを使用することによって、実施例6−1と同様にこの実施例6−2においても、膜厚の形成速度が速く、Ca溶出量が抑制され、高いビッカース硬度が得られたことから、より緻密化した安定的な膜を形成できることが分かる。
【0111】
また以上の結果より、機械的エネルギー処理及びプラズマ処理を行なった膜形成用粉体、及び色調調整剤を配合した膜形成用粉体で形成した膜においては、ビッカース硬度が380Hv以上、特に機械的エネルギー処理後にプラズマ処理を行なった膜形成用粉体においては、いずれも400Hv以上の値を示していることから、天然の歯質を強化することが認められ、このことは歯の寿命を長期化するという意味では大きな利点となる。また、機械的エネルギー処理及びプラズマ処理を行なった色調調整剤を配合した膜形成用粉体で形成した膜厚は、膜形成用粉体で形成した膜厚と比較してほとんど差は認められなかったことから、色調調整剤が膜の形成に影響を及ぼすことがないことがわかる。
【0112】
さらに、機械的エネルギー処理及びプラズマ処理を行なった膜形成用粉体、及び色調調整剤を配合した膜形成用粉体で形成した膜のCa溶出量は、未処理(混合のみ)や機械的エネルギー処理で形成した場合のCa溶出量に比較して低い値を示しており、形成された膜の安定性が向上し、高い耐酸性を有する緻密な膜を得ることができることから、pH変化の過酷な口腔内環境において安定的に存在する膜を提供できると考えられる。
【0113】
また、歯冠の変色に対する隠蔽力を検討したところ、30μm以上の膜厚を形成することが好ましいことが明らかとなったことから、短時間で30μm以上の膜厚を形成し、エナメル質のビッカース硬度の中程度のレベルである340Hv以上のビッカース硬度を有する膜を形成することができる膜形成粉体を得ることができる。
【実施例7】
【0114】
[測定結果3]
[焼成雰囲気が異なる粉体の処理方法による効果の違い]
7−1 実験条件
実施例2で製造した膜形成用アパタイト粉体に、1)機械的エネルギーを加えた後にプラズマ照射を行う処理(機械的エネルギー→プラズマ処理;個別処理)、2)プラズマ照射を行った後に機械的エネルギーを加える処理(プラズマ処理→機械的エネルギー;個別処理)、3)機械的エネルギーとプラズマ照射を同時に加える処理(機械的エネルギー=プラズマ処理;同時処理)、4)プラズマ照射を行う処理(プラズマ処理)、5)機械的エネルギーを加える処理(機械的エネルギー処理)を各々行った粉体、及び6)焼成、粉砕、分級、混合するだけで、プラズマ照射及び/又は機械的エネルギーを加える処理を行わない粉体(未処理)でそれぞれ成膜処理を行い、各試料について、成膜厚さ、Ca溶出量、ビッカース硬度の測定を行った。成膜厚さ、Ca溶出量、ビッカース硬度の測定方法は、実施例5と同様の方法により行った。
【0115】
機械的エネルギー付加処理は、機械的エネルギーを加える装置(メカノフュージョン AMS−MINI、ホソカワミクロン)を用いて、ローター回転数2500rpmとして10分間処理した。また、プラズマ照射処理は、機械的エネルギー付与処理前後の粉体を投入した容器をローター回転数150rpmで回転させた状態で、プラズマ発生条件(印加電圧10kV、プラズマガス:ヘリウム)のプラズマを、プラズマノズル先端から照射させて10分間処理を行なった。
【0116】
膜の形成方法は、前記実施例4−2と同様に、ヒト抜去歯からエナメル質平滑面を切り出して、表面研磨を行った。粉体噴射による膜形成装置により、上記の研磨表面に、各種のハイドロキシアパタイト粉体、及び色調調整剤配合ハイドロキシアパタイト粉体を用いて成膜処置を行った。また、成膜条件は、ハンドピース先端ノズル内径:1.8mm、噴射圧:0.5MPaとして、噴射ノズル先端−基板間距離は5mm(ノズル先端は基板に垂直に保持)、噴射ノズル移動速度は1mm/sとした。得られた成膜層はダイヤポリッシャーペーストで表面研磨を行った。
【0117】
7−2 アルゴンガス雰囲気焼成ハイドロキシアパタイト粉体
アルゴン雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級した膜形成用粉体に上記1)〜6)の処理を施した粉体を用いて成膜した。成膜厚さについての結果を[表28]〜[表30]に、Ca溶出量についての結果を[表31]〜[表33]に、ビッカース硬度についての結果を[表34]〜[表36]に示す。
【0118】
【表28】
【0119】
【表29】
【0120】
【表30】
【0121】
【表31】
【0122】
【表32】
【0123】
【表33】
【0124】
【表34】
【0125】
【表35】
【0126】
【表36】
【0127】
以上の結果より、1)機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した粉体、2)プラズマ照射処理をした後に機械的エネルギー付加処理を施した粉体、3)機械的エネルギー付加処理とプラズマ照射処理を同時処理した粉体、4)プラズマ照射処理した粉体で作製した成膜は、5)機械的エネルギー付加処理した粉体や6)未処理の粉体で作製した成膜に比べて、粒子径の如何に関わらず、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において、略1)>2)>3)>4)>5)=6)の順で優れていた。
【0128】
7−3 膜形成用アパタイト粉体
実施例2で合成したフッ素アパタイト、炭酸アパタイト、マグネシウム固溶アパタイトについても、上記7−2と同様の試験を行なった。その結果、プラズマ照射を行う処理(プラズマ処理)、機械的エネルギーを加える処理とプラズマ照射の両方を行う処理、特に、機械的なエネルギーを加える処理の後で、プラズマ照射を行う処理(機械的エネルギー→プラズマ処理(個別処理))を行った場合には、焼成、粉砕、分級、混合するだけで、プラズマ照射、及び機械的エネルギーを加える処理を行わない(未処理)の膜形成用粉体に比べて、膜厚、Ca溶出量、ビッカース硬度において、7−2の場合と同様の結果が得られた。
【0129】
7−4 アルゴンガス雰囲気焼成と大気雰囲気焼成との1対1混合ハイドロキシアパタイト粉体
アルゴン雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体と、大気雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級したハイドロキシアパタイト粉体を1:1で混合した粉体を用いて、上記7−2と同様の試験を行なった。成膜厚さについての結果を[表37]と[表38]に、Ca溶出量についての結果を[表39]と[表40]に、ビッカース硬度についての結果を[表41]と[表42]に示す。
【0130】
【表37】
【0131】
【表38】
【0132】
【表39】
【0133】
【表40】
【0134】
【表41】
【0135】
【表42】
【0136】
以上の結果より、1)機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した粉体、3)機械的エネルギー付加処理とプラズマ照射処理を同時処理した粉体、4)プラズマ照射処理した粉体で作製した成膜は、5)機械的エネルギー付加処理した粉体や6)未処理の粉体で作製した成膜に比べて、粒子径の如何に関わらず、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において、略1)>3)>4)>5)=6)の順で優れていた。また、不活性ガスであるアルゴンガス雰囲気で焼成した膜形成用粉体と、大気雰囲気で焼成したハイドロキシアパアイト粉体を1:1で混合した粉体においても、プラズマ照射を行う処理(プラズマ処理)、機械的エネルギーを加える処理とプラズマ照射の両方を行う処理を行うと、形成した膜の膜厚が30μm以上の膜形成が認められ、膜形成用粉体として有効な粉体となることがわかった。なお、アルゴンガス雰囲気焼成と大気雰囲気焼成との1対1混合ハイドロキシアパタイト粉体で作製した成膜は、アルゴンガス雰囲気焼成ハイドロキシアパタイト粉体で作製した成膜に比べて、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において劣っていた。
【0137】
7−5 アルゴンガス雰囲気焼成と窒素雰囲気焼成との1対1混合ハイドロキシアパタイト粉体
アルゴン雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体と、窒素雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級したハイドロキシアパタイト粉体を1:1で混合した粉体を用いて、上記7−2と同様の試験を行なった。成膜厚さについての結果を[表43]と[表44]に、Ca溶出量についての結果を[表45]と[表46]に、ビッカース硬度についての結果を[表47]と[表48]に示す。
【0138】
【表43】
【0139】
【表44】
【0140】
【表45】
【0141】
【表46】
【0142】
【表47】
【0143】
【表48】
【0144】
以上の結果より、1)機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した粉体、3)機械的エネルギー付加処理とプラズマ照射処理を同時処理した粉体、4)プラズマ照射処理した粉体で作製した成膜は、5)機械的エネルギー付加処理した粉体や6)未処理の粉体で作製した成膜に比べて、粒子径の如何に関わらず、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において、略1)>3)>4)>5)=6)の順で優れていた。また、アルゴンガス雰囲気焼成と窒素雰囲気焼成との1対1混合ハイドロキシアパタイト粉体で作製した成膜は、アルゴンガス雰囲気焼成と大気雰囲気焼成との1対1混合ハイドロキシアパタイト粉体で作製した成膜に比べて、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において優れていたが、アルゴンガス雰囲気焼成ハイドロキシアパタイト粉体で作製した成膜に比べると、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において劣っていた。
【0145】
7−6 膜形成用シリカ配合ハイドロキシアパタイト粉体
上記実施例2−2に示されるように、平均粒子径1μmのハイドロキシアパタイト粉体に、シリカ粉体を1%添加した粉体を、アルゴン雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級したシリカを添加した粒子径1μmの膜形成用粉体を用いて、上記7−2と同様の試験を行なった。成膜厚さについての結果を[表49]と[表50]に、Ca溶出量についての結果を[表51]と[表52]に、ビッカース硬度についての結果を[表53]と[表54]に示す。
【0146】
【表49】
【0147】
【表50】
【0148】
【表51】
【0149】
【表52】
【0150】
【表53】
【0151】
【表54】
【0152】
以上の結果より、1)機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した粉体、3)機械的エネルギー付加処理とプラズマ照射処理を同時処理した粉体、4)プラズマ照射処理した粉体で作製した成膜は、5)機械的エネルギー付加処理した粉体や6)未処理の粉体で作製した成膜に比べて、焼成温度の如何に関わらず、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において、略1)>3)>4)>5)=6)の順で優れていた。また、膜形成用シリカ配合ハイドロキシアパタイト粉体で作製した成膜は、シリカが配合されていないアルゴンガス雰囲気焼成ハイドロキシアパタイト粉体で作製した成膜に比べて、膜厚で若干劣るものの、Ca溶出量及びビッカース硬度においては同程度に優れていた。
【0153】
7−7 粒子径が異なるハイドロキシアパタイト粉体を混合した混合粉体
アルゴン雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級した平均粒子径が10μmの膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体と、アルゴン雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級した平均粒子径が1μmの膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体を1:1で混合した粉体を用いて、上記7−2と同様の試験を行なった。成膜厚さについての結果を[表55]と[表56]、及びその比較を[表57]に、Ca溶出量についての結果を[表58]と[表59]、及びその比較を[表60]に、ビッカース硬度についての結果を[表61]と[表62]、及びその比較を[表63]にそれぞれ示す。
【0154】
【表55】
【0155】
【表56】
【0156】
【表57】
【0157】
【表58】
【0158】
【表59】
【0159】
【表60】
【0160】
【表61】
【0161】
【表62】
【0162】
【表63】
【0163】
以上の結果より、1)機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した粉体、3)機械的エネルギー付加処理とプラズマ照射処理を同時処理した粉体、4)プラズマ照射処理した粉体で作製した成膜は、5)機械的エネルギー付加処理した粉体や6)未処理の粉体で作製した成膜に比べて、焼成温度の如何に関わらず、膜厚、Ca溶出量、及びビッカース硬度のすべての項目において、略1)>3)>4)>5)=6)の順で優れていた。また、平均粒子径が1μmと10μmの膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体を1:1で混合したハイドロキシアパタイト粉体を用い、機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した粉体で作製した成膜は、平均粒子径が1μmや平均粒子径が10μmの各膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体を用い、機械的エネルギー付加処理をした後にプラズマ照射処理を施した粉体で作製した成膜に比べて、膜厚、Ca溶出量及びビッカース硬度のすべての項目において優れていた。
【0164】
以上の実験結果からわかるように、プラズマ照射を行う処理(プラズマ処理)を行うことで、高硬度で、酸に対する溶解度が低い膜(Ca溶出量が少ない膜)を短時間で形成するために好適な、膜形成用粉体が得られた。特に、機械的なエネルギーを加えた後で、プラズマ照射を行う処理(機械的エネルギー→プラズマ処理;個別処理)を行うことで、更に高硬度で、酸に対する溶解度が極めて低い膜を、更に短時間で形成するために好適な、膜形成用粉体が得られた。
【実施例8】
【0165】
[膜形成用色調調整剤配合ハイドロキシアパタイト粉体]
前記実施例2−3に示されるように、アルゴン雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級した膜形成用粉体に、色調調整剤を配合した粉体に、1)機械的エネルギーを加えた後にプラズマ照射を行う処理(機械的エネルギー→プラズマ処理;個別処理)、3)機械的エネルギーとプラズマ照射を同時に加える処理(機械的エネルギー=プラズマ処理;同時処理)、4)プラズマ照射を行う処理(プラズマ処理)、5)機械的エネルギーを加える処理(機械的エネルギー処理)を各々行った粉体、及び6)焼成、粉砕、分級、混合するだけで、プラズマ照射及び/又は機械的エネルギーを加える処理を行わない粉体(未処理)でそれぞれ成膜処理を行い、各試料について、実施例7と同様に、成膜厚さ、Ca溶出量、ビッカース硬度の測定を行った。成膜厚さ、Ca溶出量、ビッカース硬度の測定方法は、実施例5と同様の方法により行った。
【0166】
8−1 色調調整剤として酸化チタンを1質量%配合した粉体
アルゴン雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級した膜形成用粉体に、色調調整剤として酸化チタンを1質量%配合した粉体に上記1)及び3)〜6)の処理を施した粉体用いて成膜した。成膜厚さについての結果を[表64]と[表65]に、Ca溶出量についての結果を[表66]と[表67]に、ビッカース硬度についての結果を[表68]と[表69]に示す。
【0167】
【表64】
【0168】
【表65】
【0169】
【表66】
【0170】
【表67】
【0171】
【表68】
【0172】
【表69】
【0173】
8−2 色調調整剤として酸化亜鉛を5質量%配合した粉体
アルゴン雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級した膜形成用粉体に、色調調整剤として酸化亜鉛を5質量%配合した粉体に上記1)及び3)〜6)の処理を施した粉体用いて成膜した。成膜厚さについての結果を[表70]と[表71]に、Ca溶出量についての結果を[表72]と[表73]に、ビッカース硬度についての結果を[表74]と[表75]に示す。
【0174】
【表70】
【0175】
【表71】
【0176】
【表72】
【0177】
【表73】
【0178】
【表74】
【0179】
【表75】
【0180】
8−3 色調調整剤として赤色204号を0.1質量%配合した粉体
アルゴン雰囲気で焼成して、対向式気流粉砕機で粉砕、分級した膜形成用粉体に、色調調整剤として赤色204号を0.1質量%配合した粉体に上記1)及び3)〜6)の処理を施した粉体用いて成膜した。成膜厚さについての結果を[表76]と[表77]に、Ca溶出量についての結果を[表78]と[表79]に、ビッカース硬度についての結果を[表80]と[表81]に示す。
【0181】
【表76】
【0182】
【表77】
【0183】
【表78】
【0184】
【表79】
【0185】
【表80】
【0186】
【表81】
【実施例9】
【0187】
[膜形成用粉体の特性]
各処理における膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体の粉体性状の違いを検討するために、粉末X線回折試験、レーザーラマン分光分析試験により、膜形成用粉体の特性を調査した。
【0188】
9−1 粉末X線回折試験
実施例2−1で製造した(焼成、粉砕、分級、混合するだけで、プラズマ照射及び/又は機械的エネルギーを加える処理を行わない)平均粒径1μmのハイドロキシアパタイト粉体(HAP);実施例7−2で製造した、このハイドロキシアパタイト粉体に機械的エネルギーを加えた後にプラズマ照射を行う処理を行った平均粒径1μmの膜形成用粉体、及び実施例実施例8−1で製造した、酸化チタンを1質量%配合した膜形成用ハイドロキシアパタイト粉体に機械的エネルギーを加えた後にプラズマ照射を行う処理を行った平均粒径1μmの膜形成用粉体;の3つの試料について、粉末X線回折装置(Empyrean、PANalytical製)を用いて、ターゲット:Cu、管電圧:45kV、管電流:40mA、走査範囲:2θ=5〜60°の条件で粉末X線回折試験を行なった。結果を
図4に示す。その結果、全ての回折パターンは同様であり、これら試料における粉体の違いを確認することはできなかった。
【0189】
9−2 レーザーラマン分光分析試験
粉末X線回折試験では、粉体粒子の近表面における結晶性の変化を確認することができないことから、ラマン分光分析法による検討を行なった。実施例7−2で製造した、平均粒径1μmの1)機械的エネルギーを加えた後にプラズマ照射を行う処理(機械的エネルギー→プラズマ処理;個別処理)、3)機械的エネルギーとプラズマ照射を同時に加える処理(機械的エネルギー=プラズマ処理;同時処理)、4)プラズマ照射を行う処理(プラズマ処理)、5)機械的エネルギーを加える処理(機械的エネルギー処理)を各々行った粉体、及び6)焼成、粉砕、分級、混合するだけで、プラズマ照射及び/又は機械的エネルギーを加える処理を行わない粉体(未処理)の5つの試料について、レーザーラマン分光分析装置(Invia Reflex、RENISHAW製)を用いてその特性を調査した。
【0190】
上記5つの試料について、ハイドロキシアパタイトに帰属される960cm
−1付近のピークについて、プラズマ処理前と処理後のピーク強度の変化を比較した。レーザーラマンスペクトルのピーク強度の変化を[表82]及び
図5に示す。その結果、プラズマ処理を行うと、未処理に比べて、ピーク強度が高くなることが認められた。機械的エネルギー処理とプラズマ処理を同時に加える処理を行うと960cm
−1付近のピーク強度が高くなり、機械的エネルギー処理をした後に、続けてプラズマ処理を行うと960cm
−1付近のピーク強度がさらに高くなることが認められた。このことは、粒子表面における結晶性が向上したことを示しており、機械的エネルギーとプラズマ処理によるメカノケミカル効果による高結晶化を伴った粒子の複合化が起きたことを裏付けるものである。
【0191】
【表82】
【実施例10】
【0192】
[多層の成膜層]
歯冠色調調整剤料の膜(白色;酸化チタン1%配合)をガラス板上に成膜し、この第1層上に、第2層として歯冠色調調整剤料の膜(歯の色に近い色;酸化亜鉛5%配合)を成膜し、この第2層上に、第3層として歯冠色調調整剤料の膜(透明色(トップコートとして);ハイドロキシアパタイトのみ)を成膜した。成膜条件は、第1層、第2層、第3層は全て同じであり、ハンドピース先端ノズル内径:1.8mm、噴射圧:0.5MPaとした。噴射ノズル先端−基板間距離は1.0mm(ノズル先端は基板に垂直に保持)、噴射ノズル移動速度は5mm/sで行なった。結果(写真)を
図7に示す。また、
図7に示す多層の成膜層のレーザー顕微鏡による断面像を
図8に示す。
【0193】
実施例2−3の色調調整剤を配合した膜形成用粉体(酸化チタン1%配合;左図)、酸化亜鉛5%配合;右図))を用いて、成膜条件、ハンドピース先端ノズル内径:1.8mm、噴射圧:0.5MPa、噴射ノズル先端−基板間距離は1.0mm(ノズル先端は基板に垂直に保持)、噴射ノズル移動速度は5mm/sの条件で、歯表面の一部に形成した成膜層の写真を
図9として示す。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明の膜形成用粉体は、歯科治療の分野で有用である。
【符号の説明】
【0195】
1 プラズマ発生装置のAC/DCコンバータ
2 プラズマ発生装置の冷陰極管インバータ
3 プラズマ発生装置の昇圧回路(コッククロフト・ウォルトン回路)
4 プラズマ発生装置のプラズマノズル
5 プラズマ発生装置のガス流量計