特許第6163710号(P6163710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163710
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】防汚フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20170710BHJP
   B32B 23/04 20060101ALI20170710BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   B32B27/20 Z
   B32B23/04
   C09J7/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-134783(P2012-134783)
(22)【出願日】2012年6月14日
(65)【公開番号】特開2013-256090(P2013-256090A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏祐
(72)【発明者】
【氏名】大森 友美子
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/032931(WO,A1)
【文献】 特開2010−030293(JP,A)
【文献】 特開2008−239830(JP,A)
【文献】 特開2006−028470(JP,A)
【文献】 特開2011−245477(JP,A)
【文献】 特開2011−195660(JP,A)
【文献】 特開2010−184999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
C08B1/00−37/18
C08J7/04−7/06
B05D1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材と防汚層を備える防汚フィルムであって、該防汚層はカルボジイミド基、オキサゾリン基、イソシアネート基のいずれか一種類以上の官能基を1分子あたり二つ以上有する高分子化合物とカルボキシル基を有する微細セルロース繊維が架橋した構造と水溶性高分子を有し、前記カルボキシル基に対し前記の官能基が0.2等量以上3等量以下となっており、前記防汚層の厚みが0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする防汚フィルム。
【請求項2】
前記微細セルロース繊維の数平均繊維径が0.003μm以上0.050μm以下、数平均繊維長が0.1μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の防汚フィルム。
【請求項3】
前記微細セルロース繊維の結晶化度が60%以上98%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか一項に記載の防汚フィルム。
【請求項4】
フィルム表面の水との接触角が45°以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の防汚フィルム。
【請求項5】
前記防汚層の上に水溶性の保護層を有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の防汚フィルム。
【請求項6】
前記基材の防汚層の反対側の面に接着層を有する請求項1乃至5のいずれか一項に記載の防汚フィルム。
【請求項7】
請求項5乃至6のいずれか一項に記載の防汚フィルムを被着した後、保護層を水洗して洗い落としてなる防汚体。
【請求項8】
微細セルロース繊維分散液を準備する工程と、
前記微細セルロース繊維分散液に調整した水溶性高分子を添加する工程と、
カルボジイミド基、オキサゾリン基、イソシアネート基のいずれか一種類以上の官能基を1分子あたり二つ以上有する高分子化合物を、前記微細セルロース繊維のカルボキシル基に対して前記官能基が0.2等量以上3等量以下となるように微細セルロース繊維分散液に添加し、調整する工程と、
前記調整された微細セルロース繊維分散液を、防汚層の厚みが0.1μm以上10μm以下となるように塗工し、乾燥する工程と、
を有することを特徴とする防汚フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は置換基を含むセルロース繊維を基材上に塗工することでなる防汚フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
屋外で使用される看板、ポスター、標識、垂れ幕などの表示物には印刷物が多く利用されているが、これらはその表面の清潔さを維持するために表面に塩化ビニルフィルムや撥水性のフッ素フィルムをラミネートされている。
撥水性を利用した防汚手段では、雨水が作った流路が乾燥した後に跡となる。また、そこに空気中の汚染物質が付着して汚れとなってしまう。特に親油性の汚れに対しては防汚性が低く、交通量の多い場所では排気ガスなどの煤煙により汚染され易く、長期間にわたって表面の清潔さを維持することは難しい。
【0003】
この汚染を防止する手法として、表面に親水性のフィルムを利用する手法が提案されている。この手法は、親水性の汚れは付着し易いものの、親油性の汚れは付着しにくいという性質を利用するものである。雨により表面が流される事で親水性の汚れを同時に除去することができる。またこの手法では親水性が高いフィルムほど親水性の汚れを除去し易く、親油性の汚れは付着しにくい。(特許文献1、2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−249739号公報
【特許文献2】特開2011−186478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の親水性のフィルムを利用した防汚手法では、成型直後は高い防汚性が得られるものの、一旦汚染物質が付着してしまうと親水性が低下して極端に性能が低下するという問題点がある。経時的に汚染防止効果が低下した場合、フィルムを接着した表示シート自体の取替えを必要とする。
【0006】
さらに、この防汚手法では防汚層の着色や剥がれの問題がある。屋外で使用する際には、紫外線などによる劣化で着色し難い事や熱による膨張が小さい事が求められる。着色・剥がれなどが発生した場合もフィルムを接着した表示シート自体の取替えを必要とする。
【0007】
また、従来の成型法では膜強度に乏しく破損が生じ易い。例えば、防汚フィルムを被着体に接着させる際には気泡を取り込まないためにフィルム表面に強い圧力を加える。この際に防汚層にきず、破損、変形等の欠陥が発生する事があり、防汚性能の低下につながる恐れがある。
【0008】
そのため、高強度を有し破損しにくく長期間にわたり親水性・透明性・低膨張率を維持する事ができる汚染防止技術の開発が求められてきた。
【0009】
本発明は、親水性が高いことで汚染されにくく、かつ強度が高く、耐候性にも優れ好適に用いることのできる取り扱いの容易な防汚フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題点に鑑み、天然材料の分散液に架橋剤を添加した後に基材に塗工し、特定の条件で天然材料のカルボキシル基又はヒドロキシル基を反応させ、架橋構造をとることによって上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
また、本発明は、天然材料塗工面の他面に粘着剤層を形成してなる透明な防汚性オーバーラミシートの作成方法であって、表示シートの印刷面に貼付することを特徴とする防汚性オーバーラミシートの作成方法を提供するものである。
【0012】
上記の課題を解決する手段として、請求項1に記載の発明は、少なくとも基材と防汚層を備える防汚フィルムであって、該防汚層はカルボジイミド基、オキサゾリン基、イソシアネート基のいずれか一種類以上の官能基を1分子あたり二つ以上有する高分子化合物とカルボキシル基を有する微細セルロース繊維が架橋した構造と水溶性高分子を有し、前記カルボキシル基に対し前記の官能基が0.2等量以上3等量以下となっており、前記防汚層の厚みが0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする防汚フィルムである。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記微細セルロース繊維のは、数平均繊維径が0.003μm以上0.050μm以下、数平均繊維長が0.1μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の防汚フィルムである。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記微細セルロース繊維の結晶化度が60%以上98%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか一項に記載の防汚フィルムである。
【0015】
請求項4に記載の発明は、フィルム表面の水との接触角が45°以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の防汚フィルムである。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記防汚層の上に水溶性の保護層を有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の防汚フィルムである。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記基材上の防汚層の反対側の面に接着層を有する請求項1乃至5のいずれか一項に記載の防汚フィルムである。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項5乃至6のいずれか一項に記載の防汚フィルムを被着した後、保護層を水洗して洗い落としてなる防汚体である。
【0019】
請求項8に記載の発明は、微細セルロース繊維分散液を準備する工程と、前記微細セルロース繊維分散液に調整した水溶性高分子を添加する工程と、カルボジイミド基、オキサゾリン基、イソシアネート基のいずれか一種類以上の官能基を1分子あたり二つ以上有する高分子化合物を、前記微細セルロース繊維のカルボキシル基に対して前記官能基が0.2等量以上3等量以下となるように微細セルロース繊維分散液に添加し、調整する工程と、前記調整された微細セルロース繊維分散液を、防汚層の厚みが0.1μm以上10μm以下となるように塗工し、乾燥する工程と、を有することを特徴とする防汚フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、天然材料であるセルロースを利用することで、環境負荷の少ない防汚フィルムを提供することができる。また、防汚性に優れ、屋外等で使用される印刷物に接着することで長期間汚染を防止できる。さらに、強度に優れ、被着体に接着させる際にも破損しにくく、好適に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の防汚フィルムの一例を示す断面図である。
図2】本発明の防汚フィルムの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本発明の防汚フィルムは図1に示すように基材層1の一面に親水性の膜として防汚層2が塗工されており、さらにその上に水溶性の保護層3が形成されている。また基材層の他面には接着層5が形成されることによって構成される。
【0023】
基材層1は、この上に親水性樹脂の塗工・乾燥の工程が続くことから十分な強度と耐熱性を持つ事が求められる。また、屋外等で印刷物に被着させることから十分な耐候性、透明性を有している事が求められる。さらに、様々な形の被着体に接着させることから可撓性を有する樹脂が好適に用いられる。
【0024】
例えばポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、アクリルなどのプラスチック系フィルムが用いられる。これ等は透明性と耐候性に優れたものほど好ましい。特にアクリル系共重合体、ポリエステル系共重合体等の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0025】
熱可塑性樹脂のシート状基材層1は、Tダイ押出し成形、キャスト成形、カレンダー成形、インフレーション成形法によってフィルム状に形成することができる。前記成形法は、成形後のシートを二軸延伸することにより透明性、引張強度等を改良する上で望ましい方法である。
【0026】
基材層1の厚みは求められる透明性、強度に応じて決められる。一般的には10μm以上250μm以下、好ましくは15μm以上200μm以下の範囲で使用される。
【0027】
また、基材層1は被着体の印刷物の鮮明さを阻害しないために透明性の高い物ほど好ましい。光線透過率は70%以上、好ましくは90%以上とされ、さらに各種の印刷物に適用されることから可撓性材料が好ましい。
【0028】
なお、この基材層1の上には親水性の膜として防汚層2が塗工される。防汚層2は天然材料を用いて形成することができる。成膜樹脂は、シート状基材層1の表面に皮膜を形成することのできる天然材料であり、親水性を示すものである。親水性としては水との接触角が45°以下のものとする。
【0029】
本発明で用いられる天然材料は、セルロース類、カニやエビなどの甲殻類、カブトムシやコオロギなどの昆虫類の外骨格物質として、あるいは菌類や細胞壁にも存在するキチン・キトサンなどの多糖類が挙げられるが、特に加工性が優れるセルロースが好ましい。
【0030】
本発明でセルロース繊維を用いる場合は、以下の方法により、微細セルロース繊維分散体として得ることができる。まず、水または水/アルコール混合液中にて、天然セルロース原料に、酸化触媒であるN−オキシル化合物と酸化剤を作用させることで、セルロースのミクロフィブリル表面を酸化処理する。次に、不純物を除去した後、水または水/アルコール混合液中にて分散処理を施すことで、微細セルロース繊維の分散体として得ることができる。
【0031】
原料の天然セルロースは、針葉樹や広葉樹などから得られる各種木材パルプ、またはケナフ、バガス、ワラ、竹、綿、海藻などから得られる非木材パルプ、ホヤから得られるセルロース、微生物が生産するセルロース等を用いることができる。また、結晶構造については、セルロースI型のものが好ましい。
【0032】
酸化触媒としては、N−オキシル化合物、共酸化剤および酸化剤を含む溶液または懸濁液を使用する。N−オキシル化合物は、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペジニルオキシラジカル(TEMPO)や、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPOなどのTEMPO誘導体を用いることができる。共酸化剤は、臭化物またはヨウ化物が好ましく、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属を挙げることができ、特に、反応性の良い臭化ナトリウムが好ましい。酸化剤は、ハロゲン、次亜ハロゲン酸やその塩、亜ハロゲン酸やその塩、過酸化水素などを用いることができるが、特に次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0033】
原料セルロース及び酸化触媒を含む反応液のpHは、酸化反応を効率良く進行させる点からpH9以上pH12以下、より好ましくはpH9以上11以下の範囲であることが好ましい。
【0034】
酸化反応の温度条件は、5℃以上70℃以下の範囲内であれば良いが、反応温度が高くなると副反応が生じやすくなることを考慮し10℃以上50℃以下が好ましい。
【0035】
酸化処理を施したセルロースは、ミクロフィブリル表面にカルボキシル基が導入され、さらに、該カルボキシル基同士の静電反発による浸透圧効果が、ナノオーダーのミクロフィブリルを独立(分散)させやすくする。そのためにはカルボキシル基の導入量は具体的には0.5mmol/g以上1.8mmol/g以下、より好ましくは1.2mmol/g以上1.8mmol/g以下の範囲内である事が好ましい。
【0036】
特に、分散媒として水を用いた場合、最も安定な分散状態を有する。ただし、乾燥条件、液物性の改良・制御など種々の目的に応じて、アルコール類(エタノール、メタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール)を始め、エーテル類、ケトン類を含んでもよい。
【0037】
また、分散方法としては、例えば、ミキサー処理、高速ホモミキサー処理、高圧ホモジナイザー処理、超高圧ホモジナイザー処理、超音波ホモジナイザー処理、グラインダー磨砕処理、凍結粉砕処理、メディアミル処理、ボールミル処理の何れか或いはこれらを組み合わせて用いることができる。この際に得られる微細セルロース繊維の平均繊維長が0.1μm以上50μm以下、より好ましくは0.1μm以上20μm以下の範囲内であれば繊維の絡み合いが強く、強度の高い塗工膜を作製する事ができる。
また、この際に得られる微細セルロース繊維の数平均繊維径は0.003μm以上0.050μm以下、より好ましくは0.003μm以上0.030μm以下であることを特徴とするものであり、光線透過率が70%以上である。微細セルロース繊維の繊維径が細すぎると強度不足がおこり、太すぎると加工性が悪化する。
【0038】
さらに、本発明にあっては、コーティング剤に含有される微細セルロース繊維の結晶化度が60%以上98%以下、より好ましくは70%以上98%以下であることを特徴とする。セルロースの結晶化度を高くすることにより、結晶内部には規則正しくセルロース分子鎖が並び、たくさんの水素結合が存在しており、コーティング剤によって形成されるコーティング層は理想的な強度を示すことができる。微細セルロース繊維の結晶化度が70%に満たない場合では、微細セルロース繊維の結晶化度が低く、脆い膜となってしまう。さらに、長さが50μmを超えるとセルロース繊維同士の絡み合いが大きくなるために繊維は分散しにくく、沈殿を形成しやすくなるため分散安定性が低下する。繊維の長さは、水などの溶媒に固形分濃度0.1%程度に希釈した繊維をガラス等に展開し、乾燥させたものをAFMやTEMなどを用いて測定することができる。
【0039】
本発明の塗膜は、30℃以上150℃以下の線膨張係数が、50ppm/℃以下であることが好ましく、より好ましくは20ppm/℃以下、更に好ましくは8ppm/℃以下である。この上限を超えてしまうと、製造工程での反り等の問題が起こることや、添加物のブリードアウトが懸念される。また、防汚フィルムとして用いる際には剥がれの原因となる。一方、線膨張係数の下限値については、線膨張係数が小さいほど製造工程や使用中の反り等の変形が生じにくくなるため、特に限定されない。
【0040】
本発明の防汚層2の成型に際しては、アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、ポリエチレンイミン、イソシアネート、エピクロロヒドリン、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ジエポキシアルカンなどの反応性官能基を有する化合物を、微細セルロース繊維を含む分散液に添加する。これらの添加した化合物は、酸化セルロース中のヒドロキシル基、カルボキシル基、アルデヒド基と反応し被膜の各性能、特に膜強度、耐水性、耐湿性、隣接する層との密着性向上に効果がある。前記特にカルボジイミド基、オキサゾリン基、イソシアネートに関して、微細セルロース繊維の分散液に架橋剤としてカルボジイミド基を持つ高分子化合物を添加した後に塗工・乾燥加熱することで、セルロースが架橋され、塗工膜を水中に浸漬させても溶解しないようにする事ができる。
【0041】
また、防汚層中の微細セルロース繊維の間に存在する隙間を充填することのできる材料として、セルロースと相性の良い水溶性高分子を含むことも可能である。
【0042】
特に、水溶性高分子からは、ポリビニルアルコール(PVA)を用いることが好ましい。造膜性、透明性、柔軟性などに優れるポリビニルアルコール(PVA)は、天然材料との相性も良いため、容易に隙間を充填し、柔軟性と密着性を併せ持つ膜をつくることができる。一般に、ポリビニルアルコール(PVA)は、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものであるが、酢酸基が数十%残存し、部分けん化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全けん化PVAまでを含む。
【0043】
架橋剤を添加する場合、アンモニア系の揮発性の塩基を用いると反応の進行が早く、より効果が得られ易い。これはpHが高く、セルロースのカルボキシル基が塩を形成していると架橋剤と反応しにくいためである。アンモニア等の塩基を用いると塩基が揮発し、pHが低下するために、カルボキシル基が塩として存在しにくくなり反応が進行しやすくなる。
【0044】
上記の官能基はカルボキシル基に対し0.2等量以上3等量以下が好ましく、特に0.1等量以上2等量以下がより好ましい。官能基がセルロースのカルボキシル基に対し0.01等量を下回る場合、十分な架橋密度が得られないため吸水しやすいフィルムとなり添加の効果が発揮できず、3等量を上回る場合、コスト的に不利になることや成型フィルムがもろくひびが入りやすいものになるため好ましくない。さらに添加量が過剰な場合、セルロース繊維表面の親水性基が反応することで親水性が低下し、防汚性が不十分となる。
【0045】
また、上記の化合物を添加する際、反応の効率の面からpHは3以上6以下が好ましく、pHの調整には塩酸、酢酸等を用いることが好ましい。
【0046】
本発明の防汚フィルムは、上記の架橋剤を添加したセルロース分散液を塗工・乾燥することで得ることができる。例えば、セルロース繊維を含む分散液をPET基材上にバーコーターで塗工した後、室温以上160℃以下で乾燥させることにより、目的のシート状の基材を得ることができる。この際の乾燥温度は、低いほど架橋度が低く、接触角の小さいものが得られる。
【0047】
更に、セルロース繊維を含む分散液に含まれる分散媒が、アルコールとの混合液であると乾燥効率が良く、乾燥後の塗膜に分散媒が残りにくく緻密な膜が形成できる。アルコールは、コストや沸点の面から、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等の低分子量アルコールが好ましい。
【0048】
防汚層2の厚みは特に限定されないが0.1μm以上10μm以下、好ましくは0.1μm以上3μm以下である。0.1μmを下回る場合十分な強度が得られず、クラックなどの欠陥の原因となり、10μmを上回る場合、コスト的に不利になるため好ましくない。
【0049】
防汚層2の形成方法としては、公知の塗工法を用いることができ、例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーター等を用いることができる。以上の塗工方法を用いて、基材の一方の面に塗工する。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、熱風乾燥、UV乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等を用いることができる。
【0050】
防汚フィルムは、通常は使用初期に表面の水接触角が45度以下、好ましくは40度以下となる組成で塗工される。防汚フィルム表面の水接触角が45度以下であれば、防汚効果を飛躍的に高め、長期にわたって維持することが可能となる。
【0051】
防汚層2は無機粒子、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを適宜添加する事ができる。
【0052】
本発明において無機粒子は親水性、膜強度向上、ひび割れ防止などに効果があり、無機粒子として好適なものとしてシリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム等の無機酸化物、その他に無機水酸化物、無機炭酸塩、無機硫化物が挙げられ、無機粒子の平均粒子径は、通常0.1μm以下である。
【0053】
また本発明は耐候性向上、耐久性向上のために紫外線吸収剤を添加する事ができる。紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、スチルベン系等の公知の紫外線吸収剤を使用する事ができる。
【0054】
具体的には、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン等が挙げられ、分散性の良い2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノンが好ましい。紫外線吸収剤の添加量は使用環境に応じて適宜選択されるが、固形分換算で0.1質量%以上15質量%以下が好ましい。
【0055】
さらに熱安定性向上のために酸化防止剤を添加する事が可能である。
【0056】
具体的には、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。酸化防止剤の添加量は使用環境に応じて適宜選択されるが、固形分換算で0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0057】
本発明では、防汚層の上に水溶性保護層4が設けられる。保護層は以下の層を使用する前に傷つけることで防汚性能が低下する事を防ぐためのものである。この保護層は膜強度や柔軟性、耐候性が求められる。ただし使用前には洗い流されるものであるため、水に溶けやすく、毒性の低いものが良い。
【0058】
上記の要求を満たすものとして、水溶性の高分子が多くあげられるが、中でも防汚層と容易に分離できるものが好ましく。例としてポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0059】
特に強度や柔軟性に優れたうえ、環境に影響の小さいポリビニルアルコールが最も好ましい。これを水或いは水溶性溶剤に溶解させた後に塗工・乾燥する。防汚層3への塗工手段や乾燥方法に制限はなく、公知のものを採用できる。
【0060】
また、保護層は無機粒子を含んでいても良い。
【0061】
無機微粒子として好適なものは、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム等の無機酸化物、その他に無機水酸化物、無機炭酸塩、無機硫化物が挙げられ、無機粒子の平均粒子径は、通常0.1μm以下である。これら無機微粒子の添加は保護層の強度向上、帯電防止、水溶性の向上のために有効である。
【0062】
本発明に用いられる接着層4は接着剤として一般的に用いられるものでよく、積層される各層の材質に応じてアクリル系、ポリエステル系、エチレン−酢酸ビニル系、ウレタン系、塩化ビニル−酢酸ビニル系、塩素化ポリプロピレン系などの公知の接着剤を用いることができる。
【0063】
接着層4の厚みは、通常1μm以上200μm以下、特に1μm以上10μm以下が好ましい。
【0064】
また、接着層4が常温接着剤の場合、図2に示すように離型紙5が取り付けられる。常温接着剤としてはアクリル系接着剤やゴム系接着剤、シリコン系接着剤が挙げられる。
【0065】
接着する方法としてはヒートラミネート、コールドラミネート、スキージまたはローラー等による手貼り等が挙げられる。被着体としては屋外広告板、道路標識、屋外看板、等、長期間屋外に曝される構造体が例示される。本発明の防汚フィルムを用いることにより、屋外の過酷な環境下にあっても、耐候性に優れ、劣化することなく、被着体の表面に印刷された文字、記号、絵柄等を、長期間に亘って透明性を高く保護することができる。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0067】
以下に示すセルロース繊維、水溶性高分子および無機微粒子の各材料を、表1に示した配合比で混合し、コーティング液を作製した。
【0068】
(セルロース分散液の製造方法)
漂白クラフトパルプ10gを水500ml中で一晩静置し、パルプを膨潤させた。これを20℃に温度調整し、TEMPO0.1gと臭化ナトリウム1gを添加し、パルプの懸濁液とした。さらに、攪拌しながらセルロース重量当たり10mmol/gの次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この際、約1Mの水酸化ナトリウム水溶液を添加してパルプ懸濁液のpHを約10.5に保持した。その後240分間酸化反応を行い、十分に水洗しパルプを得た。得られたパルプをイオン交換水で固形分濃度1%に調整し、高速回転ミキサーを用いて約60分間攪拌し、透明なセルロース繊維の分散液を得た。
【0069】
(ポリビニルアルコール溶液の調製方法)
ポリビニルアルコール(PVA−124、クラレ社製)5gをビーカーに量りとり、純水500gを加えた。これを100℃に加熱し、溶解させ1%溶液として用いた。
【0070】
(試料の作成)
厚さ25μmポリエチレンテレフタラートフィルム(ポリエステルフィルム E5102、東洋紡社製)基材上に塗液を塗工した後にそれぞれの塗工フィルムの評価を行った。
【0071】
(水溶性保護層用塗液の調製)
ポリビニルアルコール(PVA424、クラレ社製)25gをビーカーに量りとり、純水500gを加えた。これを100℃に加熱し、溶解させ5%溶液として用いた。
【0072】
<実施例1−3>
(セルロース分散液の製造方法)で得られたセルロース分散液を塩酸でpH4.7とした。続いてエポクロス、WS500(日本触媒社製)を純水で10倍希釈した後、セルロースのカルボキシル基に対しオキサゾリン基が0.2、0.5、1.0等量となるようそれぞれ添加・混合した。膜厚0.5μmとなるようにバーコートにて塗工し、120℃、30分間乾燥させた。続いてこの防汚層上に、水溶性保護層用塗料を膜厚2μmとなるようにバーコート法にて塗工し、120℃、10分間乾燥させ水溶性保護層を形成した。
【0073】
<実施例4−6>
(セルロース分散液の製造方法)で得られたセルロース分散液を塩酸でpH4.7とした。続いてカルボジライトV−02−L2(日清紡ケミカル社製)を純水で10倍希釈した後、セルロースのカルボキシル基に対しカルボジイミド基が0.2、0.5、1.0等量となるようそれぞれ添加した。膜厚0.5μmとなるようにバーコートにて塗工し、120℃、30分間乾燥させた。続いてこの防汚層上に、水溶性保護層用塗料を膜厚2μmとなるようにバーコート法にて塗工し、120℃、10分間乾燥させ水溶性保護層を形成した。
【0074】
<実施例7−9>
(セルロース分散液の製造方法)で得られたセルロース分散液に[ポリビニルアルコール溶液の調製方法]で得られたPVA水溶液をセルロース/PVA=100:50となるよう添加し、塩酸でpH4.7とした。続いてエポクロス、WS500(日本触媒社製)を純水で10倍希釈した後、セルロースのカルボキシル基に対しオキサゾリン基が0.2、0.5、1.0等量となるようそれぞれ添加・混合した。膜厚0.5μmとなるようにバーコートにて塗工し、120℃、30分間乾燥させた。続いてこの防汚層上に、水溶性保護層用塗料を膜厚2μmとなるようにバーコート法にて塗工し、120℃、10分間乾燥させ水溶性保護層を形成した。
【0075】
<比較例1>
(セルロース分散液の製造方法)で得られたセルロース分散液を塩酸でpH4.7とした。膜厚0.5μmとなるようにバーコートにて塗工し、120℃、30分間乾燥させた。続いてこの防汚層上に、水溶性保護層用塗料を膜厚2μmとなるようにバーコート法にて塗工し、120℃、10分間乾燥させ水溶性保護層を形成した。
【0076】
<比較例2>
(セルロース分散液の製造方法)で得られたセルロース分散液に[ポリビニルアルコール溶液の調製方法]で得られたPVA水溶液をセルロース/PVA=100:50となるよう添加し、塩酸でpH4.7とした。膜厚0.5μmとなるようにバーコートにて塗工し、120℃、30分間乾燥させた。続いてこの防汚層上に、水溶性保護層用塗料を膜厚2μmとなるようにバーコート法にて塗工し、120℃、10分間乾燥させ水溶性保護層を形成した。
【0077】
<比較例3>
アクリル樹脂(ES−85、中央理化工業社製)を溶解し、固形分を3%としたものを膜厚0.5μmとなるようにバーコートにて塗工し、120℃、30分間乾燥させた。続いてこの防汚層上に、水溶性保護層用塗料を膜厚2μmとなるようにバーコート法にて塗工し、120℃、10分間乾燥させ水溶性保護層を形成した。
【0078】
<比較例4>
ウレタン樹脂(タケラックWPB341、三井化学社製)を固形分5%となるように純水で希釈したものを膜厚0.5μmとなるようにバーコートにて塗工し、120℃、30分間乾燥させた。続いてこの防汚層上に、水溶性保護層用塗料を膜厚2μmとなるようにバーコート法にて塗工し、120℃、10分間乾燥させ水溶性保護層を形成した。
【0079】
得られた防汚フィルムは以下の方法で測定を行った。
a.接触角・防汚性能評価
保護層を洗い流した後、防汚剤層表面に蒸留水を1滴滴下し、1分間後の接触角を測定した。また、JIS Z 9105に準拠してデューサイクル式促進耐候性試験を行い、前後の接触角の比較を行った。
b.光線透過率
U−4000分光光度計(日立製作所社製)を用いて、660nmにおける光線透過率を測定した。
c.接着力
保護層を洗い流した後、防汚層塗膜表面に接着部分の長さが3cmになるようにセロテープ(登録商標)を貼り付けた。テープを押し付けて完全に塗工面に密着させた後にテープの一方の端を塗膜面に対して直角方向に瞬時に引き剥がし、塗膜の剥離の程度を観察し剥離性を評価した。
(評価)
○:剥離なし
△:部分的に剥離
×:完全に剥離
d.耐擦傷性
耐擦傷性試験は耐擦傷性試験機(テスター産業製AB・301)を用い、スチールウール#0000で試料表面を荷重250gf/cm2にて10往復擦過した後に保護層を洗い流し、光学顕微鏡で観察される傷の本数で評価した。光学顕微鏡を用いたキズのカウント方法は、スチールウール擦過部分(10mm巾)の巾方向に沿って(キズに対して直角に)走査し、走査線が交わった数をキズの本数とした。なお、顕微鏡観察は倍率100倍で行った。
【0080】
【表1】
【0081】
表1の結果から明らかなように、実施例1乃至9はデューサイクル式促進耐候性試験後でも良好な接触角を示し、親水性に優れることがわかった。
【0082】
また、何れも良好な光線透過率と密着性を持つものの、架橋剤の添加量が少ないと膜が剥がれ易い事が推測された。
【0083】
比較例1、2の結果により、架橋構造を有していない形態では、吸水により接触角の測定が不能であった。したがって、本発明の実施形態に係る発明において、架橋の効果により低い接触角を維持したまま耐水化され、長期間の使用にも耐えられる耐候性を付与できた事がわかる。また比較例1、2は保護層を洗い流す際に防汚層も溶出してしまったため評価は保護層を塗工していないものを用いた。
【0084】
比較例3、4の結果より、他の樹脂を防汚層として使用した場合、防汚層の強度が低く傷つきやすいことや線膨張率が高い事から剥がれの原因となっている事が伺えた。
【0085】
以上のように親水性の天然材料を用いることにより、高強度かつ高い親水性を維持しつつ耐候性のある防汚フィルムを提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0086】
1 基材層
2 防汚層
3 水溶性保護層
4 接着層(加熱接着層)
5 離型紙
図1
図2