特許第6163723号(P6163723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163723
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】ストレッチ布帛およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20170710BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20170710BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20170710BHJP
   D06M 15/19 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   B32B27/12
   B32B5/02 A
   B32B27/20 Z
   D06M15/19
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-207941(P2012-207941)
(22)【出願日】2012年9月21日
(65)【公開番号】特開2014-61646(P2014-61646A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】稲田 康二郎
(72)【発明者】
【氏名】主森 敬一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 敬人
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−009378(JP,A)
【文献】 特開2004−257643(JP,A)
【文献】 特開2007−278629(JP,A)
【文献】 特開平11−063893(JP,A)
【文献】 特開2004−163019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
D02G 1/00− 3/48
D02J 1/00− 13/00
D06M 13/00− 15/715
F41A 1/00− 99/00
F41B 1/00− 15/10
F41C 3/00− 33/08
F41F 1/00− 7/00
F41G 1/00− 11/00
F41H 1/00− 13/00
F41J 1/00− 13/02
F42B 1/00− 99/00
F42C 1/00− 99/00
F42D 1/00− 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
90重量%以上のアラミド繊維および1重量%以上10重量%以下の弾性繊維を含む基布の少なくとも片面に、金属粒子が樹脂で完全に被覆されている金属粒子径1μm以上50μm以下の金属粒子含有樹脂層および着色剤含有樹脂層が積層されてなることを特徴とするストレッチ布帛。
【請求項2】
該布帛の引張強度が経緯共に950N/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載のストレッチ布帛。
【請求項3】
該弾性繊維がポリウレタン系の弾性糸である請求項1または2に記載のストレッチ布帛。
【請求項4】
該布帛の通気度が1cc/cm/s以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のストレッチ布帛。
【請求項5】
該金属含有樹脂層と該着色剤含有樹脂層のいずれもが凸版印刷法により形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のストレッチ布帛。
【請求項6】
該布帛の経方向もしくは緯度方向のストレッチ率が15%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のストレッチ布帛。
【請求項7】
該布帛の限界酸素指数が25以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のストレッチ布帛。
【請求項8】
該布帛の該金属粒子含有樹脂層および該着色剤含有樹脂層が付与された面のうち、少なくとも1面がカレンダー加工されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性ストレッチ布帛。
【請求項9】
90重量%以上のアラミド繊維および1重量%以上10重量%以下の弾性繊維を含む基布の少なくとも片面に、金属粒子が樹脂で完全に被覆されている金属粒子径1μm以上50μm以下の金属粒子含有樹脂層および着色剤含有樹脂層を順に凸版印刷することを特徴とするストレッチ布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性とストレッチ性と、遠赤外線偽装性とを有する布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ストレッチ性および切創防止に優れた生地として、例えば特許文献1には、芯糸に弾性繊維を用い、鞘糸にパラ系アラミド繊維の短繊維束を用いてなる被覆糸で構成された手袋が開示されている。伸縮性に優れ、着用快適性に優れたものであると記載されているが、該開発品は手袋用途であり遠赤外線偽装性については不十分なものであった。
また近年、自然環境における偽装技術として、可視および0.8〜1.2μmの波長領域の近赤外線に対する偽装に加え、8〜14μmの波長領域の遠赤外線に対する偽装について鋭意検討がなされている。その遠赤外線に対する偽装技術として、布帛表面に蒸着法、メッキ法等により金属薄膜層を形成した後、迷彩着色剤をプリント法またはコーティング法により付着せしめて得られる遠赤外線偽装布帛等が知られている。例えば、フィルムや布帛表面に金属薄膜層を形成し、その表面に着色剤含有樹脂を積層した遠赤外線偽装布帛(例えば、特許文献2)、金属薄膜層と着色剤含有樹脂層を形成後、撥水樹脂を施した遠赤外線偽装布帛(例えば、特許文献3)、布帛表面の糸条部のみにスパッタリングにより金属薄膜層を施した迷彩布帛(例えば、特許文献4)、金属にエポキシ樹脂を処理した金属樹脂層を有する遠赤外線偽装服(例えば、特許文献5)が提案されている。
【0003】
しかしながら、特許文献2に開示されている遠赤外線偽装布帛は、可視、近赤外線および遠赤外線偽装性は認められるが、金属薄膜層により通気性が失われ、通気性を必要とする分野への適用ができなかった。また、金属層と基材との接着力が十分でないため、洗濯耐久性が得られず、耐久性を必要とする分野には適用できなかった。特許文献3に開示されている遠赤外線偽装布帛は、可視、近赤外線および遠赤外線偽装性や洗濯耐久性は認められるが、金属薄膜層により通気性が失われ、通気性を必要とする分野への適用ができなかった。特許文献4に開示されている遠赤外線偽装布帛は、可視、近赤外線および遠赤外線偽装性や通気性は認められるが、金属層と基材との接着力が十分でないため、洗濯耐久性が得られず、耐久性が必要とする分野には適用できなかった。また、特許文献5に開示されている遠赤外線偽装服は、可視、近赤外線および遠赤外線偽装性が認められ、金属にエポキシ樹脂が処理されているため、耐久性が向上してはいたものの、洗濯耐久性の満足するものが得られないのが実状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−011060号公報
【特許文献2】特開平2−48940号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2006−110784号公報(請求項1、[0014])
【特許文献4】特開2005−169970号公報(請求項1)
【特許文献5】特開2004−53039号公報([0013])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点に鑑み、ストレッチ性と難燃性を両立せしめた布帛において、耐久性に優れた遠赤外線偽装性を有する布帛を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような構成を有する。
(1)90重量%以上のアラミド繊維および1重量%以上10重量%以下の弾性繊維を含む基布の少なくとも片面に、金属粒子が樹脂で完全に被覆されている金属粒子径1μm以上50μm以下の金属粒子含有樹脂層および着色剤含有樹脂層が積層されてなることを特徴とするストレッチ布帛。
(2)該布帛の引張強度が経緯共に950N/cm以上であることを特徴とする上記(1)に記載のストレッチ布帛。
(3)該弾性繊維がポリウレタン系の弾性糸である上記(1)または(2)に記載のストレッチ布帛。
(4)該布帛の通気度が1cc/cm/s以上である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のストレッチ布帛。
(5)該金属含有樹脂層と該着色剤含有樹脂層のいずれもが凸版印刷法により形成されたことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のストレッチ布帛。
(6)該布帛の経方向もしくは緯度方向のストレッチ率が15%以上であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のストレッチ布帛。
(7)該布帛の限界酸素指数が25以上であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載のストレッチ布帛。
(8)該布帛の該金属粒子含有樹脂層および該着色剤含有樹脂層が付与された面のうち、少なくとも1面がカレンダー加工されていることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の難燃性ストレッチ布帛。
(9)90重量%以上のアラミド繊維および1重量%以上10重量%以下の弾性繊維を含む基布の少なくとも片面に、金属粒子が樹脂で完全に被覆されている金属粒子径1μm以上50μm以下の金属粒子含有樹脂層および着色剤含有樹脂層を順に凸版印刷することを特徴とするストレッチ布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ストレッチ性と難燃性を両立せしめた布帛であって、森林や草原などの自然環境において、優れた遠赤外線偽装性を有し、さらにはこれら性能の耐久性に優れ、しかも通気性に優れた布帛を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における基布としては、織物、編物が例示される。その中でも、布帛強力の面からは、織物が好ましく用いられる。かかる基布を構成する素材としては、難燃性、引張強度、金属含有樹脂の加工性の面からポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミドなどに代表されるアラミド繊維が好ましく用いられる。 かかる繊維には、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために通常使用されている各種添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤などを適宜含有せしめてもよい。また、これらの繊維からなる基布は、染色等により着色されていてもよい。
【0009】
本発明における弾性繊維としては、天然ゴム、合成ゴムなどからなる繊維状物や、ゴムのような伸縮性をもつ合成繊維等を使用することができる。なかでも高い伸縮性を持つポリウレタン系の弾性糸が好ましく使用される。
【0010】
本発明における基布に含まれるアラミド繊維と弾性繊維の含有量は、アラミド繊維を90重量%以上、弾性繊維を1重量%以上10重量%以下とすることが好ましい。アラミド繊維が90重量%未満となるとストレッチ性には優れるが、難燃性、引張強度が低下し、所期の性能が得られない傾向がある。弾性繊維が1重量%未満となるとストレッチ性が著しく低下するため、弾性繊維は1重量%以上とすることが好ましい。更には、アラミド繊維95重量%以上、弾性繊維が5重量%以下である。
アラミド繊維が90重量%以上含有されるため、本発明における布帛は、JIS L 1091 E法(1999年版)に基づいて測定される限界酸素指数が25以上となる。限界酸素指数を25以上とすることで、布帛が燃えにくく、防護用途に好ましく用いられる。
【0011】
また、アラミド繊維が90重量%以上含有されるため、本発明の布帛のJIS L 1096 (2010年版)ラベルドストリップ法による引張強度は経緯共に950N/cm以上となる。引張強度が950N/cm未満であると、野外での活動時に必要な防護性能を満たさない恐れがある。
また、快適なストレッチ性を付与するためには経方向もしくは緯方向の少なくともいずれか1方向において、JIS L 1096 B法(2010年版)による伸張率が15%以上であることが好ましい。伸長率が15%未満となると、着用時、背中、肘等の皮膚が伸張する部分において、つっぱり感を感じる傾向がある。前述の弾性繊維の経、緯の配置を適宜調整することで、かかる伸長率を15%以上とすることができる。
【0012】
本発明の布帛に、遠赤外線偽装性および可視偽装性、近赤外線偽装性を付与するために、布帛の少なくとも片面に金属粒子含有樹脂層および着色剤含有樹脂層が積層される。
該金属粒子含有樹脂層の金属粒子を形成する金属としては、チタン、ステンレス、ニッケル、クロム、金、銀、銅、鉄、亜鉛、アルミニウム等や、これらの合金等が適宜使用される。その中でも加工性および遠赤外線偽装性の面から、チタン、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、銅、銀から選ばれる少なくとも1種の金属及びその合金が好ましく用いられる。更に好ましくは一般的に原料入手が容易であり、安価で更に粒子径やその形状のコントロールが容易なアルミニウムの使用が望ましい。またこれら金属へ耐薬品性や洗濯性を付与するために、金属粒子の表面を樹脂で完全に被覆させる。この被覆剤としてアクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、ビニル系、ベンゾグアナミン系、メラミン系、エポキシ系等の樹脂が適時使用される。その中でも耐久性、加工性および遠赤外線偽装性の面より、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、塩化ビニル、酢酸ビニルなどの樹脂を用いることが好ましい。また、より金属への耐薬品性や洗濯性を付与するために樹脂被覆前に、より安定な無機材料等で金属を事前に処理してもよい。無機材料としては、酸化ケイ素、酸化アルミ、ジルコン、モリブデン、クロムおよびリン酸およびこれらを含む複合酸化物が適時使用されるが、より安価で加工性に優れる酸化ケイ素を用いることが好ましい。これら金属粒子の形状としては、円盤状であっても、薄板状であってものよい。これらの中でも、加工性および遠赤外線偽装性の面から円盤状が好ましく用いられる。金属粒子径は1〜50μmである。ここで粒子径が1〜50μmであるとは、全粒子の90重量%以上がこの範囲に含まれることを意味する。
金属粒子径とは、上記の樹脂で完全に被覆された場合、その被覆された状態における径を指す。50μmを超える粒子が多すぎると加工性と耐久性に問題が生じる場合があり、1μm未満が多すぎる場合は遠赤外線偽装性が不十分となる場合がある。これら金属は金属粒子含有樹脂層中の20〜80重量%を占めることが望ましい。20重量%未満の場合は遠赤外線偽装性が不十分となる傾向があり、80重量%を超えると加工性や耐久性等が低下する傾向がある。かかる金属粒子含有樹脂層を形成する樹脂としては、ポリウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、ビニル系、繊維素系、エポキシ系、アルキド系、ロジン系、メラミン系樹脂等を、硬化剤としてポリイソシアネート系、カルボジイミド系、シラノール系、金属キレート系硬化剤を用いて硬化したものが好ましく使用される。これらの中でも基布への接着性、柔軟性及び洗濯性の面からウレタン系、ポリエステル系樹脂に、ポリイソシアネート系硬化剤を用いる方法が好ましく使用される。また、使用される溶媒は水系でも溶剤系であってもよい。これらからなる金属粒子含有樹脂の処理液を、プリント(顔料捺染)方式、噴霧方式、印刷方式等で布帛上に塗布し、乾燥することで金属粒子含有樹脂層は形成されるが、布帛の柔軟性を損なわないため、印刷方式が好ましい。特に通気性を損ないにくいことや布帛の凹凸にムラなく印刷できることから、凸版(フレキソ)印刷が好ましく用いられる。また塗工量としては基布1mあたり乾燥皮膜2g〜15gの塗工量が望ましい。15gを超える場合は基布の柔軟性と通気性が低下する場合があり、2g未満の場合は遠赤外線偽装性が低下する場合がある。
【0013】
着色剤含有樹脂層は、可視および800〜1200μmの近赤外線領域において、偽装性を付与するものであり、基布表面に形成された上記金属粒子含有樹脂層上に形成される。着色剤としては、顔料、染料が挙げられるが、主として無機顔料、有機顔料が用いられる。例えば、無機顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化鉄、酸化鉄、鉄黒、アルミナ白、酸化亜鉛、酸化クロム、コバルトブルー、硫化亜鉛、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデートオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、紺青、群青、マンガンバイオレット、沈降性硫酸バリウム、鉛白、カーボンブラック等を主成分とする顔料、有機顔料としては、フタロシアニン系、スレン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、キナクリドン系、ペリレン系、フタロン系、メチン・アゾメチン系、ジケトピロロピロール系、アゾレーキ系、不溶性アゾ系、縮合アゾ系等が挙げられる。また、樹脂層を形成する樹脂としては、ポリウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、ビニル系、繊維素系、エポキシ系、アルキット系、ロジン系、メラミン系樹脂等挙げられ、更に該樹脂にポリイソシアネート系、カルボジイミド系、シラノール系、金属キレート系硬化剤を使用する方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、金属粒子含有樹脂層への接着性、柔軟性及び耐洗濯性の面からウレタン系、ポリエステル系樹脂にポリイソシアネート系硬化剤を使用する方法が好ましく用いられる。また、使用される溶媒は水系でも溶剤系であってもよい。これらからなる着色剤含有樹脂の処理液は、コーティング方式、プリント(顔料捺染)方式、噴霧方式、印刷方式等で金属粒子含有樹脂層上に塗布し、乾燥して着色剤含有樹脂層は形成される。薄膜形成つまり表面の遠赤外線偽装性の面から、印刷方式が好ましく、特に通気性を損ないにくいことから凸版(フレキソ)印刷が好ましく用いられる。
【0014】
また、着色剤含有樹脂層は、3色以上の複数色で迷彩模様を有していることが可視偽装、近赤外線偽装および遠赤外線偽装の面から好ましい。
【0015】
また、得られた遠赤外線偽装布帛に、適宜撥水樹脂層を形成することができる。撥水樹脂としては、通常、撥水性または防水性樹脂として使用されるものが適宜使用されるが、好ましくはポリウレタン樹脂、例えばポリエステル共重合系、ポリエーテル共重合系、ポリカーボネート系のポリウレタン樹脂、およびアミノ酸、シリコーン、フッ素系モノマーを共重合してなる変性ポリウレタン樹脂等が使用される。また、必要に応じ、エポキシ系、イソシアネート系等の架橋剤を併用することもできる。撥水樹脂層の厚さは、柔軟性、遠赤外線偽装性および撥水性の点から0.01〜5μmが好ましい。0.01μm未満では、十分な撥水性が得られ難くなり、5μmを越えると柔軟性および遠赤外線偽装性が得られ難くなる。かかる撥水樹脂層の形成方法としては、ナイフコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、リバースロールコーティング等のコーティング方式、または凸版印刷、グラビア印刷等の印刷方式、またはパディング方式を採用することができる。また、かかる撥水樹脂からなる処理液は、水系あるいは溶剤系のどちらであってもよい。
【0016】
本発明の布帛は、JIS L 1096:8.27.1 A法(フラジール形法、2010年版)に基づいて測定したときの通気度が1.0cc/cm/s以上であることが好ましい。通気量を上記の範囲に調整することで、被服、雨衣として使用する際に蒸れがなく、快適に着用することができる。通気度が1.0cc/cm/s未満であると体から発散される蒸気がこもり、蒸れるため着心地が不十分となる。
【0017】
また、JIS L 0217:103法(1995年版)で規定される洗濯方法で処理しても、外観に変化がなく、遠赤外線放射率の変化率が20%未満であることが好ましい。洗濯により樹脂剥がれや色落ちがあると、可視・近赤外線偽装性を維持できない。また、遠赤外線放射率の変化率が20%以上となると、遠赤外線偽装性が維持できなくなる。このような観点から、洗濯前後の放射率の変化率はより好ましくは10%未満である。
【0018】
本発明の布帛は、被服、雨衣、バッグ、テント、カバー類などの用途に好ましく用いられ、通気性、耐久性と遠赤外線に対する偽装性を備えたものとなる。
【0019】
また、本発明の布帛は、金属粒子含有樹脂層および着色剤含有樹脂層が付与されている面のうち、少なくとも1面がカレンダー加工を施されていることが好ましい。カレンダー加工を施すことにより、布帛表面が平坦となり、遠赤外線偽装性を向上させることができる。この加工は、金属粒子含有樹脂層付与前、付与後のいずれでも行うことが可能である。
【実施例】
【0020】
次に実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0021】
なお、実施例中における特性は、下記の方法により求めた。
【0022】
(1)通気度、通気性
JIS L 1096:8.27.1 A法(フラジール形法:試験差圧125Pa)に準じ通気度の測定を行い、通気性について次の基準で判定した。
【0023】
1.0cc/cm/s以上 ○
0〜1.0cc/cm/s ×
(2)洗濯耐久性
JIS L 0217:103法に準じ、10回の繰り返し洗濯処理を行ない、布帛の表面状態を観察し、次の基準で判定した。
【0024】
外観検査:
変化無し ○
一部樹脂剥がれ・色落ち有り △
樹脂剥がれ・色落ち大 ×
性能評価:洗濯前後の上記(3)で測定される熱放射率の変化率が
10%未満 ○
10%以上20%未満 △
20%以上 ×
(3)平均熱放射率
各色につき2箇所ずつD and S AERD熱放射率計(Devices Servicens社製)にて測定し、その平均値を算出した。洗濯前および洗濯後のサンプルを本方法で評価し、洗濯前の平均熱放射率を「放射率」、洗濯後の平均熱放射率を「洗濯後の放射率」とし、{(放射率-洗濯後の放射率)/放射率}×100(絶対値)を「放射率の変化率」として算出した。
【0025】
(4)偽装性
試料を樹木の前に吊るし、背景との混和をA〜Cの条件で確認し、次の基準で偽装性を判定した。洗濯前と洗濯後に確認した。
【0026】
識別困難 ○
偽装効果有り △
識別容易 ×
A.遠赤外線偽装性
検出波長8〜14μmの赤外線画像装置(遠赤外線カメラ)を用いて、100mの距離から観察し、上記基準にて判定した。
【0027】
B.近赤外線偽装性
近赤外線カメラを用いて、100mの距離から観察し、上記基準にて判定した。
【0028】
C.可視偽装性
目視で100mの距離から観察し、上記基準にて判定した。
【0029】
(5)限界酸素指数
JIS L 1091 E法により測定した。
【0030】
(6)ストレッチ性
JIS L 1096 B法(織物の定荷重法)により測定した。
【0031】
(7)引張強度
JIS L 1096 A法(ラベルドストリップ法)により測定した。
【0032】
実施例1
メタアラミド繊維(ノーメックス)100%の綿番手40番双糸を経糸とし、メタアラミド繊維(ノーメックス)と40デニールのポリウレタン弾性糸(ライクラ)からなる綿番手40番双糸のコアスパンヤーン糸を緯糸としてなるメタアラミド繊維95重量%、ポリウレタン弾性糸5重量%からなる目付け565g/m2の2/1ツイル組織の織物を常法により精練・熱セットした。しかる後、生アルミを粉砕して得たアルミ粒子の表面をアクリル樹脂で完全に被覆し、粒子径10〜16μmの被覆アルミニウム粒子を得た。これをウレタン−ポリエステル樹脂、ポリイソシアネート硬化剤と混合し、乾燥皮膜塗布量が9g/mとなるように凸版印刷(フレキソ印刷)法により熱セット後の生地に3度塗布し、乾燥した。次いで、アルミニウム含有樹脂層上に、淡緑色、濃緑色、茶色および黒色の顔料とビヒクルからなる4色のインキ組成液を用い、各色の膜厚が2〜5μmになるように凸版印刷(フレキソ印刷)法により塗布、乾燥し、迷彩模様を有する着色剤含有樹脂層を形成して難燃性、ストレッチ性、偽装性を持つ布帛を得た。
【0033】
このようにして得られた偽装布帛の特性を後述の表1に示した。実施例1の偽装布帛は、森林に混和した可視・近赤外線偽装性および遠赤外線偽装性、および難燃性、ストレッチ性が認められ、通気性・洗濯耐久性とも優れていた。
比較例1
メタアラミド繊維(ノーメックス)100重量%の綿番手40番双糸を経糸とし、メタアラミド繊維(ノーメックス)100重量%からなる綿番手40番双糸を緯糸としてなるメタアラミド繊維100%からなる目付け570g/m2の2/1ツイル組織の織物を常法により精練・熱セットした。しかる後、実施例1と同様のフレキソ印刷を行い、難燃性、偽装性を持つ布帛を得た。
【0034】
このようにして得られた偽装布帛の特性を後述の表1に示した。比較例1の偽装布帛は難燃性、偽装性、通気性、洗濯耐久性とも優れていたが、ストレッチ性が著しく低下した。
【0035】
比較例2
メタアラミド繊維(ノーメックス)100%の綿番手40番双糸を経糸とし、メタアラミド繊維(ノーメックス)と40デニールのポリウレタン弾性糸(ライクラ)からなる綿番手40番双糸のコアスパンヤーン糸を緯糸としてなるメタアラミド繊維85重量%、ポリウレタン弾性糸15重量%からなる目付け553g/m2の2/1ツイル組織の織物を常法により精練・熱セットした。しかる後、実施例1と同様のフレキソ印刷を行い、難燃性、偽装性を持つ布帛を得た。
【0036】
このようにして得られた偽装布帛の特性を後述の表1に示した。比較例2の偽装布帛は難燃性、偽装性、通気性・洗濯耐久性、ストレッチ性とも優れていたが、引張強度およびが著しく低下した。
【0037】
比較例3
実施例1と同一のメタアラミド繊維95重量%、ポリウレタン弾性糸5重量%からなる目付け565g/m2の2/1ツイル組織の織物を常法により精練・熱セットした。しかる後、表面をアクリル樹脂で被覆したアルミニウム箔を裁断して得たアルミニウム材料を得た。このアルミニウム材料は樹脂で被覆されていない部分が存在した。これをウレタン−ポリエステル樹脂、ポリイソシアネート硬化剤と混合し、乾燥皮膜塗布量が9g/mとなるように凸版印刷(フレキソ印刷)法により3度塗布し、乾燥した。次いで、実施例1と同一の方法で着色剤含有樹脂層の形成を実施した。
このようにして得られた偽装布帛の特性を後述の表1に示した。比較例3の偽装布帛は、森林に混和した可視・近赤外線偽装性および遠赤外線偽装性が認められ、通気性も十分であったが、洗濯耐久性が満足するレベルにはなかった。
【0038】
実施例2
実施例1と同一のメタアラミド繊維95重量%、ポリウレタン弾性糸5重量%からなる目付け565g/m2の2/1ツイル組織の織物を常法により精練・熱セットした。しかる後、生アルミを粉砕して得たアルミ粒子の表面を、アルコキシシランの加水分解反応によって生成したシリカで完全に被覆した後アクリル保護層施し、粒子径7〜13μmの被覆アルミニウム粒子を得た。しかる後、ウレタン−ポリエステル樹脂、ポリイソシアネート硬化剤と混合し、乾燥皮膜塗布量が3g/mとなるように凸版印刷(フレキソ印刷)法により1度塗布し、乾燥した。次いで、実施例1と同一の方法で着色剤含有樹脂層の形成を実施した。
このようにして得られた偽装布帛の特性を後述の表1に示した。実施例2の偽装布帛は、森林に混和した可視・近赤外線偽装性および遠赤外線偽装性が認められ、通気性・洗濯耐久性、難燃性、ストレッチ性とも優れていた。
【0039】
実施例3
実施例1と同一のメタアラミド繊維95重量%、ポリウレタン弾性糸5重量%からなる目付け565g/m2の2/1ツイル組織の織物を常法により精練・熱セットした。しかる後、生アルミを粉砕して得たアルミ粒子の表面を、アルコキシシランの加水分解反応によって生成したシリカで完全に被覆し、粒子径10〜16μmの被覆アルミニウム粒子を得た。しかる後、ウレタン−ポリエステル樹脂、ポリイソシアネート硬化剤と混合し、乾燥皮膜塗布量が9g/mとなるように凸版印刷(フレキソ印刷)法により3度塗布し、乾燥した。次いで、実施例1と同一の方法で着色剤含有樹脂層の形成を実施した。
このようにして得られた偽装布帛の特性を後述の表1に示した。実施例3の偽装布帛は、森林に混和した可視・近赤外線偽装性および遠赤外線偽装性が認められ、通気性・洗濯耐久性とも優れていた。
比較例4
実施例1と同一のメタアラミド繊維95重量%、ポリウレタン弾性糸5重量%からなる目付け565g/m2の2/1ツイル組織の織物を常法により精練・熱セットした。一方、ポリエステルフィルム上に離型層を介して真空蒸着により、アルミニウムの膜厚が0.05μmになるように蒸着加工を施した上に、接着層として5μmの膜厚を有するポリウレタン系樹脂を塗布した。しかる後、上記フィルム上に形成されたアルミニウム薄膜層を、接着層を介してかかる織物表面に転写した。次いで、実施例1と同一の方法で着色剤含有樹脂層の形成を実施した。
【0040】
このようにして得られた偽装布帛の特性を後述の表1に示した。比較例4の偽装布帛は、森林に混和した可視・近赤外線偽装性および遠赤外線偽装性が認められ、洗濯耐久性も十分であったが、通気性がなかった。
【0041】
比較例5
実施例1と同一のメタアラミド繊維95重量%、ポリウレタン弾性糸5重量%からなる目付け565g/m2の2/1ツイル組織の織物を常法により精練・熱セットした。次いで、スパッタリング装置を用い、この織物の表面に、アルミニウムの膜厚が0.05μmになるように調整し、アルゴン雰囲気中で蒸着加工を施し、織物表面にアルミニウム薄膜層を形成した。次いで、実施例1と同一の方法で着色剤含有樹脂層の形成を実施した。
【0042】
このようにして得られた偽装布帛の特性を後述の表1に示した。比較例5の偽装布帛は、森林に混和した可視・近赤外線偽装性および遠赤外線偽装性が洗濯前では認められ、通気性も十分であったが、洗濯耐久性がなかった。
【0043】
【表1】