【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記RF信号生成部は、前記RF信号のオン時間を前記固体レーザ媒質の蛍光寿命時間よりも長くし且つパルス繰り返し周期から前記蛍光寿命時間を引いた時間に対して前記RF信号のオン/オフタイミングを制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の固体パルスレーザ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、音響光学素子や固体レーザ媒質の平均温度が環境温度に依存するため、環境温度の変化により音響光学素子や固体レーザ媒質の平均温度も変化してしまう。このため、加熱・冷却機構を追加することで音響光学素子や固体レーザ媒質の平均温度を一定にして安定したエネルギーのパルスを得ていた。即ち、加熱・冷却機構を追加するため、コストが高くなり、装置が複雑化していた。
【0007】
また、特許文献2では、第1ミラーと第2ミラーとの間に放電管を配置しているが、レーザダイオードを用いた半導体レーザ発振では、各々のミラーの外側に半導体レーザを配置しており、構成が異なる。
【0008】
本発明の課題は、加熱・冷却機構を追加することなく、音響光学素子又は固定レーザ媒質の平均温度を一定に保ち、安定したエネルギーパルスを得ることができる固体パルスレーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、第1の発明の固体パルスレーザ装置は、励起光を発生する半導体レーザと、前記半導体レーザからの励起光に応じて誘導放出光を発生する固体レーザ媒質と、前記固体レーザ媒質で発生したレーザ光を変調する音響光学素子と、前記音響光学素子の温度を検出する温度検出部と、前記温度検出部で検出された前記音響光学素子の温度に基づきRF信号のオン/オフのタイミングを示すためのオン/オフタイミング信号を生成する制御回路と、前記制御回路で生成されたオン/オフタイミング信号に応じてオン/オフする前記RF信号を生成し生成されたRF信号を前記音響光学素子に印加するRF信号生成部とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、第2の発明の固体パルスレーザ装置は、励起光を発生する半導体レーザと、前記半導体レーザからの励起光に応じて誘導放出光を発生する固体レーザ媒質と、
前記固体レーザ媒質で発生したレーザ光を変調する音響光学素子と、前記固体レーザ媒質の温度を検出する温度検出部と、前記温度検出部で検出された前記固体レーザ媒質の温度に基づきRF信号のオン/オフのタイミングを示すためのオン/オフタイミング信号を生成する制御回路と、前記制御回路で生成されたオン/オフタイミング信号に応じてオン/オフする前記RF信号を生成し生成されたRF信号を前記音響光学素子に印加するRF信号生成部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る固体パルスレーザ装置によれば、加熱・冷却機構を追加することなく、音響光学素子又は固定レーザ媒質の平均温度を一定に保ち、安定したパルスエネルギーを得ることができる固体パルスレーザ装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の固体パルスレーザ装置の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1に係る固体パルスレーザ装置の構成を示すブロック図である。この固体パルスレーザ装置は、半導体レーザ1、固体レーザ媒質2、音響光学素子3、ミラー4a,4b、温度モニタ部5a、CPU(中央制御装置)6、RF信号生成部7を備えている。
【0016】
なお、固体レーザ媒質2、音響光学素子3およびミラー4a,4bから構成される部分を共振器と呼ぶ。
【0017】
半導体レーザ1は、励起光を発生する。この半導体レーザ1で発生された励起光は、レーザ光を集束するレンズ(何れも図示は省略する)及びミラー4aを介して固体レーザ媒質2に照射される。
【0018】
固体レーザ媒質2は、レーザ発振の元となる物質であり、例えば、YAGレーザと呼ばれる固体レーザにおいては、イットリウム、アルミニウムおよびガーネット(Yttrium Aluminum Garnet)などといった物質が用いられる。この固体レーザ媒質2は、半導体レーザ1から励起光が照射されることにより誘導放出光を発生する。この固体レーザ媒質2で発生された誘導放出光は、音響光学素子3に送られる。
【0019】
音響光学素子3は、Qスイッチを構成し、RF信号生成部7から送られてくるRF信号にしたがって、固体レーザ媒質2で発生された誘導放出光を変調することによりパルスエネルギーを制御し、パルス幅の狭いピークの大きなパルスレーザを出力する。この音響光学素子3から出力されたパルスレーザはミラー4bに送られる。
【0020】
温度モニタ部5aは、音響光学素子3に取り付けられたサーミスタ等からなり、音響光学素子3の温度を検出する。CPU6は、温度モニタ部5aで検出された音響光学素子3の温度(温度モニタ値)に基づきRF信号のオン/オフのタイミングを示すためのオン/オフタイミング信号を生成する。
【0021】
RF信号生成部7は、CPU6で生成されたオン/オフタイミング信号に応じてオン/オフするRF信号を生成し生成されたRF信号を音響光学素子3に印加する。即ち、RF信号生成部7は、CPU6で生成されたパルス信号のオン/オフのデューティ比情報に応じてデューティ比が調整されたRF信号を生成し、音響光学素子3に送る。
【0022】
また、RF信号は、
図2に示すように、少なくとも固体レーザ媒質2の蛍光寿命(例えば時刻t3〜t4)以上の時間だけオンし、共振器のロスを上げる必要がある。また、音響光学素子3の温度が設定温度になるようにRF信号のオン/オフのデューティ比を調整する必要がある。
【0023】
このため、RF信号生成部7は、RF信号のオン時間を固体レーザ媒質2の蛍光寿命時間よりも長くし且つ音響光学素子3の温度が設定温度になるようにパルス繰り返し周期から固体レーザ媒質2の蛍光寿命時間を引いた時間に対してRF信号のオン/オフタイミングをPWM(パルス幅変調)により制御する。
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る固体パルスレーザ装置の動作を、
図2に示すタイミングチャートを参照しながら説明する。
【0024】
まず、固体パルスレーザ装置が起動されると、半導体レーザ1は、励起光を発生してレーザ媒質2を照射する。これにより、レーザ媒質2は、誘導放出光を発生し、音響光学素子3に送る。
【0025】
音響光学素子3では、RF信号生成部7から送られてくるRF信号にしたがって、固体レーザ媒質2で発生された誘導放出光の基本波を変調することによりパルスエネルギーを制御し、パルス幅の狭いピークの大きなパルスレーザを出力する(例えば、
図2の時刻t1,t4,t7)。
【0026】
また、音響光学素子3の温度が温度モニタ部5aにより検出され、CPU6は、温度モニタ部5aで検出された音響光学素子3の温度に基づきRF信号のオン/オフのタイミングを示すためのオン/オフタイミング信号を生成する。
【0027】
次に、RF信号生成部7は、CPU6からのオン/オフタイミング信号に基づき、
図2に示すように、RF信号のオン時間を固体レーザ媒質2の蛍光寿命時間よりも長くし且つ音響光学素子3の温度が設定温度になるようにパルス繰り返し周期から固体レーザ媒質2の蛍光寿命時間を引いた時間に対してRF信号のオン/オフタイミングをPWM(パルス幅変調)により制御する。
【0028】
例えば、音響光学素子3の温度が設定温度よりも低い場合には、RF信号のオン時間を長くし、音響光学素子3の温度が設定温度よりも高い場合には、RF信号のオン時間を短くすることで、音響光学素子3の温度を設定温度、即ち一定に保つことができる。
【0029】
以上説明したように、本発明の実施例1に係る固体パルスレーザ装置によれば、加熱・冷却機構を追加することなく、音響光学素子3の平均温度を一定に保ち、安定したエネルギーパルスを得ることができる。
【実施例2】
【0030】
図3は、本発明の実施例2に係る固体パルスレーザ装置の構成を示すブロック図である。
図3に示す実施例2に係る固体パルスレーザ装置は、固体レーザ媒質2の温度を一定にすることを特徴とする。
【0031】
この固体パルスレーザ装置は、半導体レーザ1、固体レーザ媒質2、音響光学素子3、ミラー4a,4b、温度モニタ部5b、CPU6a、RF信号生成部7aを備えている。
【0032】
半導体レーザ1、固体レーザ媒質2、音響光学素子3、ミラー4a,4bの構成は、
図1に示す実施例1のそれらと同じであるので、その説明は省略する。
【0033】
温度モニタ部5bは、固体レーザ媒質2に取り付けられたサーミスタ等からなり、固体レーザ媒質2の温度を検出する。CPU6aは、温度モニタ部5bで検出された固体レーザ媒質2の温度(温度モニタ値)に基づきRF信号のオン/オフのタイミングを示すためのオン/オフタイミング信号を生成する。
【0034】
RF信号生成部7aは、CPU6aで生成されたオン/オフタイミング信号に応じてオン/オフするRF信号を生成し生成されたRF信号を音響光学素子3に印加する。また、RF信号は、
図4に示すように、少なくとも固体レーザ媒質2の蛍光寿命(例えば時刻t3〜t4)以上の時間だけオンし、共振器のロスを上げる必要がある。また、固体レーザ媒質2の温度が設定温度になるようにRF信号のオン/オフのデューティ比を調整する必要がある。
【0035】
このため、RF信号生成部7aは、RF信号のオン時間を固体レーザ媒質2の蛍光寿命時間よりも長くし且つ音響光学素子3の温度が設定温度になるようにパルス繰り返し周期から固体レーザ媒質2の蛍光寿命時間を引いた時間に対してRF信号のオン/オフタイミングをPWMにより制御する。
【0036】
次にこのように構成された実施例2の固体レーザ装置の動作を説明する。まず、レーザ媒質2の発熱率η
hは以下の式で表すことができる。
【0037】
η
h=1−η
p〔(1−η
l)η
r(λ
p/λ)+η
l(λ
p/λ
l)〕
ここで、η
pは励起量子効率、η
lは誘導放出に寄与する割合、η
rは複写量子効率、λ
pは励起波長、λは蛍光の平均波長、λ
lはレーザ発振波長を表す。
【0038】
RF信号生成部7aがRF信号をオンにして音響光学素子3をオンさせることによりレーザ発振を停止させる。この発振停止状態では、η
l=0となり、レーザ媒質2の発熱率η
hが上がる。
【0039】
一方、RF信号生成部7aがRF信号をオフにして音響光学素子3をオフさせることによりレーザ発振させる。この発振状態では、レーザ媒質2の発熱率η
hが下がる。即ち、RF信号生成部7aがRF信号のオン/オフを制御することにより固体レーザ媒質2の温度が変化するため、RF信号のオン/オフ期間の制御により固体レーザ媒質2の温度を調整することができる。また、RF信号生成部7aが、RF信号のオン時間を固体レーザ媒質2の蛍光寿命時間よりも長くし且つ音響光学素子3の温度が設定温度になるようにパルス繰り返し周期から固体レーザ媒質2の蛍光寿命時間を引いた時間に対してRF信号のオン/オフタイミングをPWMにより制御する。従って、レーザ媒質2の温度を設定温度、即ち一定の温度にすることができる。
【実施例3】
【0040】
図5は、本発明の実施例3に係る固体パルスレーザ装置の構成を示すブロック図である。
図5に示す実施例3に係る固体パルスレーザ装置も、
図3に示す実施例2に係る固体パルスレーザ装置のように、固体レーザ媒質2の温度を一定にすることを特徴とする。
【0041】
この固体パルスレーザ装置は、半導体レーザ1、固体レーザ媒質2、音響光学素子3、ミラー4a,4b、温度モニタ部5b、CPU6b、レーザダイオード制御部8(以下、LD制御部8)を備えている。
【0042】
半導体レーザ1、固体レーザ媒質2、音響光学素子3、ミラー4a,4b、温度モニタ部5bの構成は、
図3に示す実施例2のそれらと同じであるので、その説明は省略する。
【0043】
CPU6bは、温度モニタ部5bで検出された固体レーザ媒質2の温度(温度モニタ値)に基づき半導体レーザ1のオン/オフのタイミングを示すためのオン/オフタイミング信号を生成する。
【0044】
LD制御部8は、CPU6bで生成されたオン/オフタイミング信号に応じてオン/オフするLD制御信号を生成し生成されたLD制御信号を半導体レーザ1に印加する。LD制御部8は、制御信号のオン時間を固体レーザ媒質2の蛍光寿命時間よりも長くし且つパルス繰り返し周期から蛍光寿命時間を引いた時間に対して制御信号のオン/オフタイミングを制御する。
【0045】
次にこのように構成された実施例3の固体レーザ装置の動作を説明する。まず、半導体レーザ1をオンすると固体レーザ媒質2の温度が上昇し、半導体レーザ1をオフすると固体レーザ媒質2の温度が下降するため、温度モニタ部5bで固体レーザ媒質2の温度を検出する。
【0046】
次に、CPU6bは、温度モニタ部5bで検出された固体レーザ媒質2の温度(温度モニタ値)に基づき半導体レーザ1のオン/オフのタイミングを示すためのオン/オフタイミング信号を生成する。
【0047】
次に、LD制御部8は、CPU6bからのオン/オフタイミング信号に応じてLD制御信号のオン/オフにより半導体レーザ1をオン/オフさせる。このとき、LD制御部8は、
図6に示すように、LD制御信号(
図6の半導体レーザON/OFF信号)のオン時間を固体レーザ媒質2の蛍光寿命よりも長くし且つパルス繰り返し周期から蛍光寿命時間を引いた時間に対して制御信号のオン/オフタイミングを制御する。
【0048】
図6に示すように、固体レーザ媒質2の温度が上昇している場合には、制御信号のオン時間を短くし、固体レーザ媒質2の温度が低い場合には、制御信号のオン時間を長くする。即ち、半導体レーザ1のオン/オフを制御することにより、固体レーザ媒質2の温度を一定に保持することができる。
【0049】
なお、RF信号が音響光学素子3をオンさせる状態でもオフさせる状態でも、共振器のゲイン上昇又はパルスレーザと比較して小さいエネルギーの連続発振であり、パルスレーザの動作として支障はない。
【実施例4】
【0050】
図7は、本発明の実施例4に係る固体パルスレーザ装置の構成を示すブロック図である。
図7に示す実施例4に係る固体パルスレーザ装置は、
図1に示す実施例1に係る固体パルスレーザ装置と、
図5に示す実施例3に係る固体パルスレーザ装置とを組み合わせて構成したことを特徴とする。
【0051】
なお、
図7において、CPU6cは、
図1に示すCPU6と
図5に示すCPU6bとを一つにしたものである。RF信号生成部7bは、RF信号生成部7と同一機能を有し、LD制御部8aは、LD制御部8と同一機能を有する。
このように実施例4に係る固体パルスレーザ装置によれば、
図1に示す実施例1に係る固体パルスレーザ装置と、
図5に示す実施例3に係る固体パルスレーザ装置とを組み合わせて構成したので、
図1に示す実施例1に係る固体パルスレーザ装置の効果と、
図5に示す実施例3に係る固体パルスレーザ装置の効果とが得られる。