(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163916
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】砥石摩耗測定方法
(51)【国際特許分類】
B24B 49/18 20060101AFI20170710BHJP
B24B 53/00 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
B24B49/18
B24B53/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-136108(P2013-136108)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-9312(P2015-9312A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】山下 友和
【審査官】
宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−146831(JP,A)
【文献】
特開2011−249571(JP,A)
【文献】
特開2013−059833(JP,A)
【文献】
特開2010−240776(JP,A)
【文献】
特開2007−296604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B53/00−53/14
B24B49/00−49/18
B24B5/00−7/30
H01L21/304
H01L21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石車を自らの回転軸線に直角な方向に切込むことで、固定された被研削部材を研削した後に、前記被研削部材の研削除去された部分の形状の形状測定により、前記砥石車の工作物を研削する表面である研削作用面の摩耗量を測定する砥石摩耗測定方法において、
前記砥石車は、工作物を研削しない表面である半径R0の非研削作用面と、工作物を研削する表面である前記研削作用面を有し、
前記被研削部材の研削前の研削部位が半径rの円筒面であり、前記研削部位は前記回転軸線に平行に固定され、
前記形状が輪郭形状であり、前記輪郭形状の前記第1の部位は前記研削作用面により研削された部位であり、前記輪郭形状の前記第2の部位は前記非研削作用面により研削された部位であり、
前記形状測定は、前記輪郭形状の前記第1の部位の前記砥石車回転方向における幅fと、前記輪郭形状の前記第2の部位の前記砥石車回転方向における幅eを測定し、
前記被研削部材の前記円筒面の中心から前記砥石車の回転中心までの距離Lと、前記半径rと、前記半径R0と、前記幅fと、前記幅eとを用いて、幾何学形状関係にもとづき、前記研削作用面の摩耗量を演算する砥石摩耗測定方法。
【請求項2】
前記研削作用面の前記摩耗量dは、前記幾何学形状関係を表す式
d=L・((r2-f2/4)0.5−(r2−e2/4)0.5)/R0で求める請求項1に記載の砥石摩耗測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石車の研削による摩耗量を計測する砥石摩耗測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削においては、研削に伴い砥石車の研削作用面の摩耗や、研削作用面の形状乱れが発生する。この研削作用面の摩耗量や形状乱れが所定の値に達すると正常な研削ができないのでドレスを行い正常な研削作用面に修復することが行われている。
研削作用面の摩耗測定方法として、非接触の距離センサを用いて研削作用面の表面位置を計測する従来技術(例えば、特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−243905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、研削作用面と距離センサの距離の変動で砥石車の摩耗量を測定するので、距離センサの設置位置と砥石車の回転中心位置の距離の変動も摩耗量の変動に含まれて測定誤差を発生する。特に温度変化による構成部材の熱膨張による距離変動を低減するのは困難である。また、測定箇所は距離センサの測定できる特定の範囲のみであるため、研削作用面の摩耗量の差を測定するためには、研削作用面の各場所に距離センサを移動させて測定することが必要で、さらに誤差が大きくなる恐れがある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、砥石車の研削作用面全体の摩耗状況を、熱膨張の影響を受けないで計測可能な砥石摩耗測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、砥石車を自らの回転軸線に直角な方向に切込むことで、固定された被研削部材を研削した後に、前記被研削部材の研削除去された部分の形状の形状測定により、前記砥石車の工作物を研削する表面である研削作用面の摩耗量を測定する砥石摩耗測定方法において、
前記砥石車は、工作物を研削しない表面である半径R0の非研削作用面と、工作物を研削する表面である前記研削作用面を有し、前記被研削部材の研削前の研削部位が
半径rの円筒面であり、前記研削部位は前記回転軸線に平行に固定され、前記形状が輪郭形状であり、
前記輪郭形状の前記第1の部位は前記研削作用面により研削された部位であり、前記輪郭形状の前記第2の部位は前記非研削作用面により研削された部位であり、前記形状測定は
、前記輪郭形状の
前記第1の部位
の前記砥石車回転方向における幅fと
、前記輪郭形状の前記第2の部位の前記砥石車回転方向における幅
eを測定し、
前記被研削部材の前記円筒面の中心から前記砥石車の回転中心までの距離Lと、前記半径rと、前記半径R0と、前記幅fと、前記幅eとを用いて、幾何学形状関係にもとづき、前記研削作用面の摩耗量を演算することである。
【0006】
請求項
2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、
前記研削作用面の前記摩耗量dは、前記幾何学形状関係を表す式
d=L・((r2-f2/4)0.5−(r2−e2/4)0.5)/R0で求めることである。
【0007】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記砥石車の工作物を研削しない表面である非研削作用面と前記研削作用面を用いて前記被研削部材を研削し、前記輪郭形状の前記第1の部位は前記研削作用面により研削された部位であり、前記輪郭形状の前記第2の部位は前記非研削作用面により研削された部位であることである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、被研削部材の研削除去された部分の輪郭形状において、同時に研削されて形成される第1の部位
の前記砥石車回転方向における幅の値fと
、第2の部位の前記砥石車回転方向における幅
eの値を用いた演算により砥石車の研削作用面の摩耗量を測定できるので、測定時の熱変位に影響されない。また、砥石車の半径方向の寸法差が拡大転写される輪郭形状を用いて摩耗量を測定するのでより正確に計測ができる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、
前記幾何学形状関係を表す式
d=L・((r2-f2/4)0.5−(r2−e2/4)0.5)/R0を使って前記研削作用面の前記摩耗量dを求めるとき、前記被研削部材の前記円筒面の中心から前記砥石車の回転中心までの距離Lと、前記被研削部材の前記円筒面の前記半径rと、前記砥石車の前記非研削作用面の前記半径R0のような熱膨張に比べて比較的大きな値を使用するので、測定時の熱変位に影響されない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の研削盤の全体構成を示す平面図である。
【
図6】転写部材に転写された研削除去部の輪郭形状を示す図(
図5のC矢視図)である。
【
図7】本実施形態の摩耗測定工程を示すフローチャート図ある。
【
図8】本実施形態の砥石車の研削作用面の表面粗さを示す図である。
【
図9】転写部材に転写された研削除去部の輪郭形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を円筒研削盤の実施事例に基づき説明する。
図1に示すように、研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上にX軸方向に往復可能な砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石車7を回転自在に支持し、砥石車7を回転させる砥石軸モータ(図示省略する)を備えている。テーブル4上には、転写用部材T(被研削部材)の一端を把持して支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動される主軸5と、転写用部材Tの他端を回転自在に支持する心押台6を備えており、転写用部材Tは主軸5と心押台6により支持されて、転写加工時には所定の回転位相で固定される。また、研削加工時には、この主軸5と心押台6は、転写用部材Tに換えて工作物W(図示省略する)を回転自在に保持することが可能である。ベッド2上の砥石車7と対向する位置には定寸装置9を備え定寸装置9により研削中の工作物Wの直径が測定可能である。ベッド2上の定寸装置9の横にカメラ10を備えている。
図2に示すように、カメラ10は主軸の回転中心と同じ高さに水平に保持され、レンズ部10aが主軸の回転中心方向を向いている、このため、転写用部材Tを研削後に180度反転させることで、転写用部材Tの研削部位の画像を垂直な方向から撮影可能となる。
【0013】
この研削盤1は、所定のプログラムを実行することで自動化された研削工程や砥石磨耗測定工程を実行する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御部31、テーブル4の送りを制御するZ軸制御部32、主軸5の回転を制御する主軸制御部33、カメラ10を制御するとともに撮影した画像の寸法を測定できるカメラ制御部34、各種のデータの記録をする記録部35、各種の演算を行う演算部36、各種の表示を行う表示部37などを具備している。
【0014】
上記の研削盤1で砥石車7の摩耗量を測定する方法について説明する。
図3に示すように砥石車7を用いて工作物Wを研削する場合、工作物の削り残し防止するため工作物の幅より砥石車の幅を広くする。このため、研削に使用される研削作用面7aの両端に研削に使用されない非研削作用面7bが発生する。研削作用面7aは研削中に砥粒の脱落や破砕が発生し摩耗するので、非研削作用面7bの半径R
0より研削作用面7aの半径R
1が減少する。研削作用面7aの摩耗量dは非研削作用面7bと研削作用面7aの半径方向の段差量となる。
図4、
図5に示すように、摩耗量dの生じた砥石車7を用いて、砥石車7の幅より広い円筒面を備えた転写用部材Tを、円筒面が砥石車7の回転軸線と平行になるように固定し、砥石車7を砥石車7の回転軸線に直交する円筒面の方向へ切込みながら研削すると、
図6に示すような研削部位が転写用部材Tに転写される。研削部位の輪郭形状Ftにおいて、砥石車7の回転方向における、非研削作用面7bにより研削された輪郭の幅はeであり、研削作用面7aにより研削された輪郭の幅はfである。摩耗量dは、輪郭形状Ftにおいては(e−f)/2として表示される。砥石車7の円筒面への切込み量を小さくすると、斜め切断法による拡大作用によりd<(e−f)/2となり、転写用部材Tの円筒面の半径rと切込み量を適切に設定することで、(e−f)/2をdの数十倍に拡大することができる。
この輪郭形状Ftを、カメラ10で撮影し、その画像から実測したe、fを用いて摩耗量dを演算することで、正確な摩耗量dを測定することができる。
【0015】
具体的な摩耗量測定方法を
図7のフローチャートに基づき説明する。
転写用部材Tを取り付ける(S1)。砥石車7を転写用部材Tに切込む。X軸を送り、非研削作用面7bが転写用部材Tの表面からu切込まれる位置に砥石車7を位置決めする(S2)。砥石車7を後退させる(S3)。転写用部材Tを撮影位置に位置決めする。Z軸を送り、転写用部材Tがカメラ10に正対する位置にテーブル4を位置決めする(S4)。主軸5を180度回転させて、研削部位がカメラ10に正対する位置に転写用部材Tを割出す(S5)。カメラ制御部34により、カメラ10で研削部位を撮影し、その画像からe、fを実測し記録部35に記録する(S6)。演算部36で、摩耗量dを演算式d=L・((r
2-f
2/4)
0.5−(r
2−e
2/4)
0.5)/R
0を用いて演算する。ここで、R
0は砥石車7の非研削作用面7bの半径であり、ドレス時にドレス後の値が記録部35に記録されている。また、Lは転写用部材Tの円筒中心から砥石車7の回転中心までの距離であり、X軸の送り位置として記録部に記録されている(S7)。演算された摩耗量dを表示部37に表示する(S8)。
【0016】
以上のように、磨耗量を転写用部材Tに転写された輪郭形状Ftを用いて、非研削作用面7bと研削作用面7aの拡大された幅の差を用いて算出するので、研削盤1の各部の熱変位に影響されない摩耗量の正確な測定ができる。
【0017】
上記の実施事例では、円筒形状の転写部材を用いたが、平面の転写部材を用いてもよい。この場合、摩耗量dを演算する演算式はd=(e
2/4-f
2/4)/(2・R
0)を用いて演算する。
また、研削作用面7a内の幅方向の位置による摩耗量の差により、工作物の研削面の表面粗さが決まるので、この摩耗量の差を測定することで、工作物の研削部の表面粗さを評価することもできる。この場合、砥石車7が
図8に示すような摩耗をしていると、
図9に示すような輪郭形状Ftaが転写用部材Tに転写される。研削作用面7aにより形成された輪郭の最大幅f
1と最小幅f
2を用いて、研削作用面7a内の摩耗量の最大差d
1を演算することができる。例えば、平面の転写部材を用いた場合は、演算式d
1=(f
12/4-f
22/4)/(2・R
0)を用いて演算する。
【符号の説明】
【0018】
T:転写部材 W:工作物 3:砥石台 4:テーブル 5:主軸 6:心押台 7:砥石車 9:定寸装置 10:カメラ 30:制御装置 31:X軸制御部 32:Z軸制御部 33:主軸制御部 34:カメラ制御部 35:記録部 36:演算部 37:表示部