特許第6163925号(P6163925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6163925マット調転写フィルム、及びそれを用いた成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163925
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】マット調転写フィルム、及びそれを用いた成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20170710BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20170710BHJP
   B44C 1/17 20060101ALI20170710BHJP
   B29K 105/20 20060101ALN20170710BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
   B32B27/00 E
   B29C45/14
   B44C1/17 B
   B29K105:20
   B29L9:00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-146587(P2013-146587)
(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2015-16659(P2015-16659A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】松田 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 学
(72)【発明者】
【氏名】樋爪 友美
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−90399(JP,A)
【文献】 特開平11−208193(JP,A)
【文献】 特開平08−310139(JP,A)
【文献】 特表2000−500706(JP,A)
【文献】 特開2004−284119(JP,A)
【文献】 特開平01−280588(JP,A)
【文献】 特開2010−99969(JP,A)
【文献】 特開2009−72954(JP,A)
【文献】 特開2001−31825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29C 45/00−45/84
B41M 5/035
B41M 5/26− 5/52
B44C 1/16− 1/175
B29K 105/20
B29L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方の面に、少なくとも離型層、ハードコード層、及び接着層をこの順に有する転写フィルムであって、
前記離型層を、シリコーン変性アクリルウレタン樹脂で形成し、且つフィラーを含んだ層としたことを特徴とするマット調転写フィルム。
【請求項2】
前記シリコーン変性アクリルウレタン樹脂を、少なくともアクリルポリオール樹脂と、水酸基を含有するアクリルシリコン樹脂と、イソシアネート化合物との架橋反応から生成したことを特徴とする請求項1に記載のマット調転写フィルム。
【請求項3】
前記離型層に、水酸基を含有するセルロース誘導体をさらに含めたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマット調転写フィルム。
【請求項4】
前記離型層に、水酸基及び炭素数10以上30以下の長鎖アルキル基を含有するアクリルウレタン樹脂をさらに含めたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のマット調転写フィルム。
【請求項5】
前記ハードコート層と前記接着層との間に、加飾層を設けたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のマット調転写フィルム。
【請求項6】
前記ハードコート層と前記加飾層との間に、プライマー層を設けたことを特徴とする請求項5に記載のマット調転写フィルム。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のマット調転写フィルムを用いて製造したことを特徴とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット調転写フィルム及びそれを用いた成形品に関し、さらに詳しくは、工業製品の加飾に適したマット調転写フィルム、及びそれを用いた成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチック成形品への加飾方法には、塗装などの直接的な加飾方法の代替として、転写フィルムを用いた熱転写法が用いられている。高い表面硬度の成形品を得るために、一般的に転写フィルムはハードコート層を設けた構成となっており、基材フィルムの一方の面に、離型層、ハードコート層、加飾層、接着層を順次積層した構成となっている。
上記の転写フィルムを用いて被転写体に熱転写する方法としては、例えば、射出成形と同時にハードコート層/加飾層/接着層を転写する方法(インモールド射出成形法)や、熱ロールの熱圧でハードコート層/加飾層/接着層を被転写体へ転写する方法、真空もしくは圧空または加熱機を利用して被転写体へ転写する方法などがある。
【0003】
ここで離型層は、被転写体(プラスチック成形品など)への熱転写時に、ハードコート層からの良好な剥離性を付与する機能が求められる。さらには、ハードコート層を形成する際のインキ塗工時におけるインキのハジキが発生しないこと(上塗り性)、転写時の熱に耐えうる耐熱性があること、基材フィルム又は下地との密着が強いこと、被転写物の形状に追従できること(延伸性)、といった性能が求められる。
前記離型層を構成する材料としては、粘着テープの離型剤に多用されているシリコーン又はフッ素樹脂などがある。しかしながら、これらの材料は離型層の上に形成されるハードコート層形成用のインキの塗工時にハジキが発生し易いという問題がある。
【0004】
上記問題の解決策として、離型層にメラミン樹脂、特にアクリルメラミン樹脂を使用することが多い。
工業製品の中でも、特に電子機器の筐体の場合、表面のギラツキ防止や高級感の付与を目的として、成形品の表面をマット調にすることが求められることが多い。転写フィルムを用いて成形品表面をマット調にするためには、転写フィルムの離型層にフィラー(例えばシリカ、アルミナ、炭酸カルシウムなど)を含有させ、離型層に微細な凹凸を形成することによって、剥離後のハードコート層には微細な凹凸が形成され、成形品表面をマット調にするといった方法を用いることができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−122756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
工業製品の加飾に転写フィルムを使用する場合、転写フィルムは成形品の形状に追従できなければならないため、高い延伸性が要求される。しかし、成形品表面をマット調にするために、メラミン樹脂の離型層にフィラーを入れると、この延伸性が失われ、成形品表面にクラックが発生するといった問題があった。また、メラミン樹脂の離型層にフィラーを入れると、熱転写時にPETフィルムとの密着が極端に低下し、PETフィルムと離型層との界面で剥がれる不具合も多かった。このような密着不良の改善策として、PETフィルム上に易接着層を設け、密着を保つことが一般に行われているが、易接着層を設けることは、製造コストが高くなり好ましくない。
本発明は、このような問題点を解決しようとするものであり、被転写体への熱転写時にハードコート層にクラックが発生するのを低減でき、且つ、安価なマット調転写フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために鋭意研究されたものであり、以下のような手段で達成される。
本発明の一態様は、基材フィルムの一方の面に、少なくとも離型層、ハードコード層、及び接着層をこの順に有する転写フィルムであって、前記離型層を、シリコーン変性アクリルウレタン樹脂で形成し、且つフィラーを含んだ層としたことを特徴とするマット調転写フィルムである。
【0008】
また、上記マット調転写フィルムにおいて、前記シリコーン変性アクリルウレタン樹脂を、少なくともアクリルポリオール樹脂と、水酸基を含有するアクリルシリコン樹脂と、イソシアネート化合物との架橋反応から生成したこととしてもよい。
また、上記マット調転写フィルムにおいて、前記離型層に、水酸基を含有するセルロース誘導体をさらに含めたこととしてもよい。
また、上記マット調転写フィルムにおいて、前記離型層に、水酸基及び炭素数10以上30以下の長鎖アルキル基を含有するアクリルウレタン樹脂をさらに含めたこととしてもよい。
【0009】
また、上記マット調転写フィルムにおいて、前記ハードコート層と前記接着層との間に、加飾層を設けたこととしてもよい。
また、上記マット調転写フィルムにおいて、前記ハードコート層と前記加飾層との間に、プライマー層を設けたこととしてもよい。
本発明の別の態様は、上記マット調転写フィルムを用いて製造したことを特徴とする成形品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係るマット調転写フィルムを使用すれば、離型層がシリコーン変性アクリルウレタン樹脂で形成されているため、熱転写時に優れた離型性を呈し、且つ、シリコーン変性アクリルウレタン樹脂の優れた延伸性によって、熱転写時に発生するハードコート層のクラックを低減できるマット調転写フィルムを提供することができる。さらに、基材フィルムがPETフィルムである場合でも、PETフィルム上に易接着層を設けなくても、十分にPETフィルムと離型層とを密着させることができる。よって、安価なマット調転写フィルムを提供することができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係るマット調転写フィルムにおいて、前記離型層に、少なくともアクリルポリオール樹脂と、水酸基を含有するアクリルシリコン樹脂と、イソシアネート化合物との架橋反応から生成された前記アクリルウレタン樹脂を用いた場合には、室温〜50℃程度の低温で硬化反応が終了し、基材フィルムへの熱負荷の少ない離型層を作製することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係るマット調転写フィルムにおいて、前記離型層が水酸基を含有するセルロース誘導体をさらに含む場合には、射出成形と同時に転写するインモールド転写、すなわち高温での耐熱性が要求されるインモールド転写の場合でも、水酸基を含有するセルロース誘導体の存在により耐熱性が向上し、熱シワやブロッキングを抑制することができる。
また、本発明の一態様に係るマット調転写フィルムにおいて、前記離型層が水酸基及び炭素数10以上30以下の長鎖アルキル基を有するアクリルウレタン樹脂をさらに含む場合には、離型性と延伸性を向上することができる。さらに、離型層塗工時のレベリング性が向上するため、均一な離型層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のマット調転写フィルムの一実施形態を示す断面概略図である。
図2】本発明のマット調転写フィルムの一実施形態を示す断面概略図である。
図3図1のマット調転写フィルムを転写した成形品の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態に係るマット調転写フィルムは、基材フィルム1、離型層2、ハードコート層3、接着層4からなる積層体である(図1参照)。なお、マット調転写フィルムに絵柄を付与したい場合、ハードコート層3と接着層4の間に加飾層5を設けてもよい(図2参照)。ここで、加飾層5は、複数層である場合が多く、エンボス加工やパール顔料などの光学効果を有する加飾材料も入れることも可能である。また、加飾層5を設ける場合、加飾層5が成形品に対して充分接着性を有する場合には、接着層4を設けなくても良い。なお、本実施形態では、加飾層5を備えないマット調転写フィルムを「マット調転写フィルム100」と表記し(図1参照)、加飾層5を備えたマット調転写フィルムを「マット調転写フィルム101」と表記する(図2参照)。以下、マット調転写フィルム100、101を構成する上記各層について説明する。
【0015】
(基材フィルム1)
基材フィルム1としては、例えば、PETフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリカーボネートフィルム、ナイロンフィルム、セロファンフィルム、アクリルフィルム、塩ビフィルムといった基材が使用可能である。使用可能なフィルム厚みとしては、25μmから250μmの範囲内が使用可能であり、特に38μmから150μmの範囲内の厚みが好ましい。
【0016】
(離型層2)
離型層2は、シリコーン変性アクリルウレタン樹脂で形成され、且つフィラーを含んだ層である。そして、そのシリコーン変性アクリルウレタン樹脂は、少なくともアクリルポリオール樹脂と、水酸基を含有するアクリルシリコン樹脂と、イソシアネート化合物との架橋反応から生成されたものである。
【0017】
離型層2を形成するためのインキ組成物には、シリコーン変性アクリルウレタン樹脂が含まれている。このシリコーン変性アクリルウレタン樹脂を用いることにより、熱転写時には優れた離型性を呈し、且つ、シリコーン変性アクリルウレタン樹脂の優れた延伸性によって、熱転写時に発生するハードコート層3のクラックを低減することができる。さらに、シリコーン変性アクリルウレタン樹脂を用いることで、基材フィルム1にPETフィルムを用いた場合でも、PETフィルムとの十分な密着性を確保することができる。よって、PETフィルム上に易接着層を設けなくてもよい。
【0018】
シリコーン変性アクリルウレタン樹脂からなる離型層2の形成方法としては、例えば、アクリルポリオール樹脂と、水酸基を含有するアクリルシリコン樹脂と、イソシアネート化合物とからなるインキ組成物を、基材フィルム1の一方の面に塗布し、その後、架橋させる方法がある。なお、水酸基を含有するアクリルシリコン樹脂の配合量は、アクリルポリオール樹脂に対して2重量%以上30重量%以下の範囲内であることが好ましいが、特に限定するものではない。
【0019】
離型層2に無機フィラーや樹脂フィラー(以下、単に「フィラー」ともいう。)を含有させることによって、成形品表面をマット調にすることが可能である。離型層2にフィラーによる微細な凹凸を形成することで、剥離後のハードコート層3に微細な凹凸が形成され、成形品表面がマット調となる。なお、良好なマット調外観とするためには、含有させるフィラーの粒径は0.5μm以上15μm以下の範囲内であることが望ましい。また、離型層2の厚みは、含有させるフィラーを保持する必要があるため、フィラーの粒径に合わせて適宜設定する必要がある。例えば、2μm程度の粒径のフィラーを用いる場合、離型層2の厚みは3〜4μm程度が望ましい。一方、離型層2の厚みによってマット感を調整することができるため、所望のマット感に合わせて離型層2の厚みを微調整する必要がある。
【0020】
離型層2に使用されるフィラーとしては、種々の無機フィラーや樹脂フィラーを用いることができる。無機フィラーとしては、シリカ、カーボンブラック、酸化チタン、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、沈降性バリウム、タルク、ガラスビーズ、酸化亜鉛などを使用することができる。一方、樹脂フィラーとしては、アントラキノン、フタロシアン、ジオキサジンなどを使用することができる。
【0021】
マット調転写フィルム100、101は、用途によって転写時に極度に熱がかかる場合がある。例えば、射出成形と同時に転写するインモールド射出成形法では、転写時に160℃程度の熱がかかる。この場合、インモールド射出成形法に用いられるマット調転写フィルム100、101の離型層2には、水酸基を含有するセルロース誘導体を配合することで耐熱性を向上することができる。本実施形態で使用することが望ましい、水酸基を含有するセルロース誘導体は、ニトロセルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロースである。このときのセルロース誘導体の配合量は、主剤(アクリルポリオール樹脂)に対して、20重量%以上100重量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0022】
また、剥離時の高速化やウレタンを含有する密着性の高いハードコート層3の場合、離型層2の剥離がより軽いことが要求される場合がある。この際には、水酸基及び炭素数10以上30以下の長鎖アルキル基を含有するアクリルウレタン樹脂を配合することで、上塗り性を落とさずに剥離を軽くすることができる。なお、炭素数が10未満の場合には、熱転写時の離型性が不十分で被転写体の表面に転写ムラが生じて品質欠陥となる。また、炭素数が30を超えると、ハードコートインキの塗布時にハジキが生じ、均一なハードコート層3を形成することができない。このときのアクリルウレタン樹脂の適当な配合量は、主剤(アクリルポリオール樹脂)に対して、0.5重量%以上15重量%以下の範囲内である。また、離型層2の厚みは、特に制限が無いが、0.1μm以上5μm以下の範囲内の厚みが最適である。
【0023】
(ハードコート層3)
ハードコート層3は、転写後に基材フィルム1を剥離した際に、成形品200の最表面層となる層である。ハードコート層3の材料としては、被転写体への転写前にはタックフリー状態であり、被転写体に転写後、紫外線やエレクトロンビームを照射することで架橋できる樹脂からなることが望ましい。転写後に架橋する理由としては、ハードコート層3を予め架橋すると転写の延伸時にクラックが生じやすく、外観不良となるためである。一方、転写前にタックフリー状態とならなければ、耐ブロッキング性と射出成形時の耐熱性が不十分となる。また、紫外線やエレクトロンビームを照射することで架橋できる樹脂を使用する理由としては、前記樹脂を使用したハードコート層3であれば、紫外線もしくはエレクトロンビームを照射することによって、直ちに成形品200の表面を硬化させることができるため、成形品200の生産効率が向上することになる。また、ハードコート層3の厚みは、特に制限はないが、硬度の発現と硬化収縮、コストを考慮すると、2μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0024】
マット調転写フィルムに絵柄を付与したい場合、ハードコート層3と接着層4の間に加飾層5を設けてもよい。加飾層5は、上記各層と比べて、特に材料的な違いはない。加飾層5の形成において採用可能な加飾技術としては、色インキによる一般印刷は勿論のこと、パールや蛍光、ミラー、再帰反射、磁気印刷などの特殊印刷、熱や紫外線によって凹凸構造(各種レンズ効果やホログラム)を形成するエンボス加工、アルミニウムや銀、クロム、酸化チタン、硫化亜鉛などを真空蒸着やスパッタによって形成する薄膜形成技術などが挙げられる。
【0025】
(接着層4)
接着層4としては、公知のヒートシール性接着剤又は粘着剤を使用できる。例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、塩酢ビ樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤などが挙げられる。接着層4の厚みは、0.5μm以上10μm以下の範囲内の厚みが最適である。
本実施形態における各層の形成方法は、既存の塗布・印刷方法を採用することができ、例えば、ダイレクトグラビア、グラビアリバース、マイクログラビア、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、スプレーコート、マイヤーコート、コンマコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷などが挙げられる。
【0026】
本実施形態に係るマット調転写フィルム100を用いて、インモールド射出成形もしくは熱転写することにより、成形品200を製造することができる。インモールド射出成形法は、マット調転写フィルム100を射出成形用金型内へ挿入し、マット調転写フィルム100の接着層4側から該射出成形用金型のキャビティ内へ成形樹脂6を射出成形する方法である。このインモールド射出成形法を用いて成形樹脂6の表面にマット調転写フィルム100を転写する。そして、成形樹脂6及びマット調転写フィルム100が冷却した後、射出成形用金型を解放する。最後に、マット調転写フィルム100の基材フィルム1及び離型層2を剥離して成形品200を取り出す。こうして成形された成形品200を、図3に示す。
【0027】
また、マット調転写フィルム100を用いて、真空圧空成形機で成形することにより、成形品200を製造することができる。真空圧空成形機での成形は、被転写体を真空圧空成形機にセットし、高温下で真空または圧空にして、マット調転写フィルム100と被成形体を密着させて、マット調転写フィルム100を転写するといった方法である。
【0028】
(効果)
本実施形態に係るマット調転写フィルム100、101は、離型層2がシリコーン変性アクリルウレタン樹脂で形成されている。このため、マット調転写フィルム100、101を使用すれば、熱転写時に優れた離型性を呈し、且つ、シリコーン変性アクリルウレタン樹脂の優れた延伸性によって、熱転写時に発生するハードコート層3のクラックを低減できるマット調転写フィルムを提供することができる。さらに、マット調転写フィルム100、101を使用すれば、基材フィルム1がPETフィルムである場合でも、PETフィルム上に易接着層を設けなくても、十分にPETフィルムと離型層2とを密着させることができる。よって、安価なマット調転写フィルムを提供することができる。
【0029】
また、マット調転写フィルム100、101は、離型層2に、少なくともアクリルポリオール樹脂と、水酸基を含有するアクリルシリコン樹脂と、イソシアネート化合物との架橋反応から生成されたシリコーン変性アクリルウレタン樹脂を用いている。このため、マット調転写フィルム100、101であれば、室温〜50℃程度の低温で硬化反応が終了し、基材フィルム1への熱負荷の少ない離型層2を作製することができる。
【0030】
また、マット調転写フィルム100、101は、離型層2に水酸基を含有するセルロース誘導体を含んでいる。このため、マット調転写フィルム100、101を使用すれば、射出成形と同時に転写するインモールド転写、すなわち高温での耐熱性が要求されるインモールド転写の場合でも、水酸基を含有するセルロース誘導体の存在により耐熱性が向上する。よって、離型層2に生じる熱シワやブロッキングを抑制することができる。
【0031】
また、マット調転写フィルム100、101は、離型層2が水酸基及び炭素数10以上30以下の長鎖アルキル基を有するアクリルウレタン樹脂を含んでいる。このため、マット調転写フィルム100、101を使用すれば、離型層2の離型性と延伸性を向上させることができる。さらに、離型層塗工時のレベリング性が向上するため、均一な離型層2を形成することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
<実施例1>
厚さ50μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(三菱樹脂社製:G440E50)を基材フィルムとして、その一方の面に、下記組成の離型インキをマイクログラビア法を用いて、乾燥後の膜厚が0.2μm厚となるように塗布、乾燥し、その後50℃で5日間エージングして、離型フィルムを作製した。
【0033】
(離型インキの組成)
アクリルポリオール樹脂(東栄化成社製LC#6560):100重量部
ニトロセルロース(H1/4):10重量部
アクリルシリコン樹脂:5重量部
イソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製コロネートL):20重量部
シリカ(粒径2μm):4重量部
次に、上記離型フィルムの一方の面に、下記組成のハードコートインキをマイクログラビア法にて、乾燥後の膜厚が4.0μmになるように塗布、乾燥してハードコート層を形成した。
【0034】
(ハードコートインキの組成)
紫外線硬化樹脂(DIC社製RC29−117:紫外線重合開始剤入り、固形分30%):100重量部
シリカ(日産化学社製:粒径10〜20nm、MEK分散液、固形分30%):20重量部
【0035】
次に、上記ハードコート層の上に、接着層としてアクリルポリオール/イソシアネート系インキ(東洋インキ社製:V425アンカー)を、グラビア法を用いて乾燥後の膜厚が2μmになるように塗布して、マット調転写フィルムを作製した。
上記で得られたマット調転写フィルムを射出成形機の金型内部にセットして、ポリカーボネート/ABSアロイ樹脂を射出成形して、成形と同時に転写してマット調成形品を得た。
【0036】
<実施例2>
実施例1と同様にして、基材フィルムの一方の面に、離型層、ハードコート層を順次積層した。
次に、上記ハードコート層の上に、プライマー層としてアクリルポリオール/イソシアネート系インキ(東洋インキ社製:V425アンカー)を、グラビア法を用いて乾燥後の膜厚が2μmになるように塗布した。その上に所定の加飾インキで印刷して加飾層を形成し、さらにその上に接着インキ(東洋インキ社製:K539HP接着ワニス)を用いて、グラビア法により乾燥後の膜厚が1μmとなるように塗布して接着層を形成し、マット調転写フィルムを作製した。
次に、真空圧空成形機(TOM成形機)に上記マット調転写フィルムと、ポリカーボネート/ABSアロイ樹脂からなるノートパソコン筐体をセットし、120℃で真空圧空成形して、転写したマット調の表面を有する成形品を得た。
【0037】
<比較例1>
実施例1と同様の基材フィルムの一方の面に、実施例1の離型インキのアクリルポリオール樹脂の代わりにメラミン系インキを用い、マイクログラビア法にて、乾燥後の膜厚が0.2μmになるように塗布し、その後、180℃で焼き付けして離型フィルムを作製した。
次に、上記離型フィルムの離型層上に実施例1と同様にしてハードコート層を形成した。
【0038】
<評価及び方法>
実施例1、2及び比較例1で作製したマット調転写フィルムについて、各マット調転写フィルムの被成形体(ノートパソコン筐体)への転写性を目視にて評価した。外観異常がない場合(実用上問題のないレベル)を○、ある場合(実用上問題がある)を×とした。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
<比較結果>
実施例1及び2で得られたマット調転写フィルムは、成形品表面にクラックが発生せず、良好な外観の成形品を得ることができた。また、基材フィルムと離型層の密着も十分であり、良好な剥離性を有していた。一方、比較例1で得られたマット調転写フィルムでは、成形品表面にクラックが発生した。また、基材フィルムと離型層の密着が不足していたため、成形品に離型層まで転写され、良好な外観の成形品を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の一態様により得られたマット調転写フィルムは、家電製品、住宅機器、事務機器、自動車部品などに利用されるパネル部材等の表面保護兼加飾に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…基材フィルム
2…離型層
3…ハードコート層
4…接着層
5…加飾層
6…成形樹脂
100…マット調転写フィルム
101…マット調転写フィルム
200…成形品
図1
図2
図3