(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6163984
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】コンクリート構造体の補修方法、補修構造及びシールド工法のセグメント
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20170710BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20170710BHJP
E21D 11/08 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
E04G23/02 A
E04B1/94 E
E21D11/08
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-183506(P2013-183506)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-48694(P2015-48694A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100188547
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴野 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】林 成卓
(72)【発明者】
【氏名】川西 貴士
(72)【発明者】
【氏名】屋代 勉
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−016900(JP,A)
【文献】
特開2009−221753(JP,A)
【文献】
実開平04−052158(JP,U)
【文献】
特開2007−132082(JP,A)
【文献】
特開2002−129751(JP,A)
【文献】
特開2006−225906(JP,A)
【文献】
特開2007−205057(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0123541(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04B 1/94
E21D 11/00−11/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(e)の工程を備えたことを特徴とする、有機繊維が配合された防爆耐火性を有するコンクリート構造体の補修方法。
(a)取付部材を損傷部に設置する工程。
(b)有機繊維を配合した防爆耐火性補修材を前記損傷部に塗り付ける工程。
(c)前記防爆耐火性補修材の上に補強材を配置する工程。
(d)前記補強材を塗り付けた前記防爆耐火性補修材に押しつけて、前記補強材の隙間から前記防爆耐火性補修材を膨出させ、前記補強材を、取付部材を介して固定する工程。
(e)前記補強材の上を防爆耐火性補修材で覆う工程。
【請求項2】
補強材がエキスパンドメタルであることを特徴とする、請求項1に記載の構造体の補修方法。
【請求項3】
前記損傷部の表面に出ている有機繊維を除去する工程を備えた、請求項1または2に記載の構造体の補修方法。
【請求項4】
前記請求項1〜3に記載の方法により補修された、防爆耐火性コンクリートの補修構造。
【請求項5】
前記請求項1〜3に記載の方法により補修された、シールド工法のセグメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体の補修方法、補修構造及びシールド工法のセグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
道路トンネル内で事故がおこり火災が発生すると、コンクリート構造体が加熱されて高温になって表層部が剥離し、場合によっては爆裂することが知られている。
【0003】
この剥離や爆裂は、火災によってコンクリートが加熱される際に生じる水蒸気により、コンクリートの内部が高圧になること等により引き起こされるものである。
【0004】
これに対して、特許文献1には所定の高温で気化する有機繊維が配合された防爆耐火性被覆材で構造体を被覆し、有機繊維の長手方向が構造体の表面に対して15°以上の角度を有するように配置して防爆耐火性被覆層を設ける方法が開示されている。この方法は、防爆耐火性被覆層が火災等で加熱されて高温になると有機繊維が気化して微細な多数の空洞をつくるとともに、これらの空洞が連結して該空洞部と外部とを連通する亀裂が生じ、防爆耐火性被覆層内の水蒸気等を外部に排出し、表層部の熱膨張力を緩和してその表層部の剥離や爆裂を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5034691号公報
【特許文献2】特開2009−281040号公報
【特許文献3】特許第4464904号公報
【特許文献4】特開2003−247287号公報
【特許文献5】特公昭57−20126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
道路トンネルのシールド工法では、セグメントと呼ばれる構造体が使用されるが、このセグメントに道路供用時の事故等により強い力が加わると、
図1に示すように表面に損傷が生じることがある。
図1において、1はセグメントであり、2は損傷部である。
このような場合には損傷部2の補修を行う必要があるが、セグメントに防爆耐火性を有したコンクリートを用いている場合、補修部分にも防爆耐火性を持たせることが求められる。
【0007】
防爆耐火性を有したコンクリートには、種々のものがあるが、上記した特許文献1の防爆耐火性被覆材のような、所定の高温で気化する有機繊維が配合された防爆耐火性を有するコンクリートがセグメントに用いられている場合には、補修部分にも有機繊維を配合した防爆耐火性補修材を用いることが考えられる。
【0008】
しかしながら、有機繊維が配合された防爆耐火性コンクリートの補修に有機繊維を配合した防爆耐火性補修材を用いて、たとえば上記した特許文献2のような、メッシュ部材をアンカーで係止して補修材に埋設補強する補修方法で普通に補修した場合、火の勢いが強い火災では、剥離や爆裂が生じてしまうことがわかった。
【0009】
その原因について分析したところ、火の勢いが強い場合には、防爆耐火性コンクリートの中で発生した水蒸気等が防爆耐火性補修材との間に溜まり、防爆耐火性補修材を持ち上げたり吹き飛ばしたりする現象が生じていることがわかった。この様子を
図2により説明すると、図の下方から防爆耐火性補修材4を超えて防爆耐火性コンクリート3に伝わった熱によって、防爆耐火性コンクリート3中の水や有機繊維が水蒸気やガスとなり、矢印で示すように防爆耐火性補修材4と防爆耐火性コンクリート3の接着部である界面5に溜まり、界面5で圧力が高まって、防爆耐火性補修材4を持ち上げたり吹き飛ばしたりしてしまう。そして、この現象は防爆耐火性補修材を塗り付ける際に、特許文献2のように補強材としてメッシュ部材を損傷部2に取り付けても発生してしまうことがわかった。
【0010】
本発明は、上記のような問題に鑑みなされたものであって、発明が解決しようとする課題は、有機材が配合された防爆耐火性を有するコンクリート構造体を補修する際に、火の勢いが強い火災であっても剥離や爆裂をしない補修方法、補修構造及びシールド工法のセグメントを提供することにある。
【0011】
なお、有機繊維が配合された防爆耐火性を有するコンクリート構造体は、道路トンネル用のセグメントには特に制限されない。たとえば、セグメントを用いないトンネルや地下鉄のトンネル、建築物の柱・壁等、種々のものが含まれる。また、構造体全体に有機繊維が配合されたものや、構造体の表面に有機繊維が配合された層があるものも含まれる。さらに、損傷部は、道路供用時の事故により形成されたものに特に制限されず、他の理由で形成されたものも含まれる。たとえば、特許文献2に記載されたような既存のコンクリート部材の劣化した表層部を除去したものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は次の(1)〜(5)のとおりのものである。
(1)以下の(a)〜(e)の工程を備えたことを特徴とする、有機繊維が配合された防爆耐火性を有するコンクリート構造体の補修方法。
(a)取付部材を損傷部に設置する工程。
(b)有機繊維を配合した防爆耐火性補修材を前記損傷部に塗り付ける工程。
(c)前記防爆耐火性補修材の上に補強材を配置する工程。
(d)前記補強材を塗り付けた前記防爆耐火性補修材に押しつけて、前記補強材の隙間から前記防爆耐火性補修材を膨出させ、前記補強材を、取付部材を介して固定する工程。
(e)前記補強材の上を防爆耐火性補修材で覆う工程。
(2)補強材がエキスパンドメタルであることを特徴とする、(1)に記載の構造体の補修方法。
(3)前記損傷部の表面に出ている有機繊維を除去する工程を備えた、(1)または(2)に記載の構造体の補修方法。
(4)前記(1)〜(3)に記載の方法により補修された、防爆耐火性コンクリートの補修構造。
(5)前記(1)〜(3)に記載の方法により補修された、シールド工法のセグメント。
【0013】
ここで、防爆耐火性とは、火災や熱により剥離や爆裂が生じないか、生じにくいことを意味する。
【0014】
防爆耐火性を有するコンクリートに配合された有機繊維と防爆耐火性補修材に配合した有機繊維は同じものでも、互いに異なったものでもよい。たとえば、材質や形状等が異なったものでも良い。有機繊維の材質はたとえばポリプロピレン繊維、ビニロン繊維等の合成繊維や公知の天然繊維、半合成繊維など、種々の有機繊維が採用可能である。また、単繊維で構成されたものであってもよいし、複数の単繊維が撚り合わされてなるものであってもよい。さらに有機繊維の軸線方向に延びる内部空間があるものであってもよいし、ないものであってもよい。また断面がC型や星形形状のものであってもよい。
【0015】
取付部材は補強材を強固に固定できる後施工のものであればよく、打ち込みアンカーや締付けアンカーなどのアンカーボルトが好ましい。アンカーボルトの具体例としては、サンコーテクノ(株)製のオールアンカーや日本ヒルティ(株)のウェッジ式締付方式アンカー等を挙げることができる。
【0016】
補強材は網目状であって、強度がある丈夫なものであればよく、ステンレスメッシュでも良いが、特にエキスパンドメタルは、本発明のように固定されている場合には断面に引張力が生じて引張材としてはたらくため、曲げに対する強度が高く、圧力に負けない補強材として適している。また、強度がありつつもたわみやすさに方向性があるため、1方向にたわませてトンネル内面などに多い円筒状の面に沿わせて設置することができる。さらに、断面で見て角部があることから防爆耐火性補修材4との馴染みがよい。
エキスパンドメタルの具体例としては、東邦ラス工業のTXSラージメッシュタイプや大信鋼業株式会社のXSシリーズ等を挙げることができる。
【0017】
取付部材を介して前記補強材を塗り付けた前記防爆耐火性補修材に押しつけて固定する際には、ナットを用いて締め付けてもよいが、油圧やてこの原理を用いて締め付けてから取付部材の穴にピンを通すなど、補強材の隙間から防爆耐火性補修材を膨出させて補強部材を固定できればどのような方法でも良い。
【0018】
膨出は、押し付けられた防爆耐火性補修材が補強部材の上面程度まで膨出すればよいが、補強部材の上面を超えることが好ましく、さらに上面から数mm程度膨出することがより好ましい。
【0019】
また、防爆耐火性補修材を損傷部に塗り付ける際や補強材の上を防爆耐火性補修材で覆う際には、鏝塗りが一般的だが、補修材を配置できれば鏝塗りに限定されず、吹付け等でも良い。
【0020】
ここで、補強材の上を防爆耐火性補修材で覆う際は、防爆耐火性補修材を打ち重ねて覆っても良いが、覆うことができれば打ち重ねに限定されない。たとえば、多めに膨出させた防爆耐火性補修材を均すなどして覆ってもよい。
【0021】
工程(a)〜(e)の順序は特に限定されない。たとえば、(b)の防爆耐火性補修材を損傷部に塗り付ける工程の後に、防爆耐火補修材に穴をあけて、(a)の取付部材を損傷部に設置する工程を行ってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、火の勢いが強い火災であっても剥離や爆裂が生じない、または生じにくい補修方法、補修構造及びシールド工法に使用されるセグメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】・・・表面に損傷が生じたシールド工法のセグメントを示す図。
【
図2】・・・火の勢いが強い場合に、防爆耐火性コンクリートの中で発生した水蒸気等が防爆耐火性補修材との間に溜まり、防爆耐火性補修材を持ち上げたり吹き飛ばしたりする現象を説明するための図。
【
図3】・・・本発明の補修方法の一実施例を説明するための図。
【
図4】・・・本発明の補修方法の一実施例を説明するための写真。
【
図5】・・・補強材の周辺に防爆耐火性補修材が充填されていない状態を示す図。
【
図6】・・・損傷部の表面に有機繊維が残っているまま防爆耐火性補修材を塗り付けた際の界面の状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に実施例を記載する。
まず、防爆耐火性補修材について説明する。
防爆耐火性補修材は、所定の高温(火災時等に防爆耐火性補修材が達すると想定される温度で、たとえば、250℃〜500℃程度)で気化する有機繊維、具体的にはポリプロピレン繊維と、セメントと砂と水とポリマーとを含むポリマーセメントモルタルとを所定の割合で配合することにより製造することができる。
【0025】
ポリマーセメントモルタルは、セメントと砂と水とポリマーとを配合したものであり、JIS規格等にしたがって製造される。たとえば、ポリマーセメントモルタルは、ポリマーである酢酸ビニル・アクリル等の共重合樹脂を主成分とした再乳化粉末樹脂を含むプレミックス材料を使用することができる。具体的には、(株)トクヤマエムテックのリペアミックス等を挙げることができる。
【0026】
有機繊維は、たとえば紐状のポリプロピレン繊維を用いる。ポリプロピレン繊維は、250℃〜500℃で気化する。
【0027】
繊維の添加率が大きく繊維が長いと流動性が下がり、添加率が小さく繊維が短いと高温時に気化して水蒸気等の逃げ道を作るという効果がなくなるので、ポリプロピレン繊維の添加率を、ポリマーセメントモルタルに対して0.01〜1.0容積%、長さを5〜40mmにすることが好ましい。
吹付けで用いる場合には0.3〜0.4容積%の範囲内にする。ポリプロピレン繊維の繊度を1700dtex以下にすることで、連通した亀裂を作るために必要な繊維の本数を確保でき、長さを20mm以下にすることで、良好な施工性を得ることができる。
【0028】
この防爆耐火性補修材はたとえば以下のように製造する。
まずミキサー内に規定量の水を投入し、この水の中にプレミックス材料を添加して低速で180秒間練り混ぜて、ポリマーセメントモルタルを製造する。次に、ミキサー内にポリプロピレン繊維を添加して低速で60秒間練り混ぜることにより防爆耐火性補修材が製造される。
【0029】
次に、本発明に係る補修方法、補修構造及びシールド工法に使用されるセグメントを実施するための形態として、
図1に示したような道路トンネルに用いられるシールド工法のセグメントを補修する場合について図面を用いて詳細に説明する。
【0030】
図3(a)〜(i)に上記損傷部2を補修する手順を示す。1は道路トンネルに用いられるシールド工法のセグメントであり、2は道路供用時の事故等により生じた損傷部である。セグメント1にはポリプロピレン繊維のような有機繊維が配合された防爆耐火性コンクリート3が用いられている。4は防爆耐火性補修材であり、上述のようにこちらにも有機繊維が所定の添加率で配合されている。
【0031】
防爆耐火性コンクリート3には有機繊維が配合されているいため、補修前の状態では、
図3(a)に示すように、損傷部2の表面には防爆耐火性コンクリート3に配合されている有機繊維6が表出している。
そこでまず、
図3(b)のように、表出している有機繊維6を除去する。有機繊維6を除去するためにはワイヤブラシを用いて切断除去するが、溶融除去するなど、他の方法で除去してもよい。
次に、ドリルを用いて
図3(c)のように防爆耐火性コンクリート3の損傷部2に削孔する。
図3(d)のように、削孔した孔に取付部材としてアンカーボルト7を打ち込む。アンカーボルト7は打ち込まれることにより防爆耐火性コンクリート3から抜けない状態となる。補強材の取り付け強度面からみて取付部材同士の間隔は近いことが好ましく、具体的には隣接する取付部材の距離が30cm以下であることが好ましい。すなわち、780cm
2に1本以上の取付部材があることが好ましい。
図3(e)のようにアンカーボルト7にナット8を取り付ける。ここで、ナット8はスペーサの役割を果たす。ここでは、アンカーボルト7を打ち込んでからナット8を取り付けたが、ナット8をアンカーボルト7に取り付けてからアンカーボルト7を打ち込んでもよい。
スペーサとしてはナット8に限らずどのようなものでもよく、たとえば厚みのあるリングをアンカーボルトに嵌めて用いても良い。さらには取付部材の位置に設置しても別の位置に設置してもよい。防爆耐火性コンクリート3と後述の補強材との間に防爆耐火性補修材4を配置することができれば、スペーサとして種々のものを用いることができる。
損傷部2の表面にプライマーを塗布して乾燥させてから、
図3(f)のように有機繊維(図示せず)を含んだ防爆耐火性補修材4を鏝により塗り付ける。このとき、スペーサの高さよりやや多めに防爆耐火性補修材4を塗り付ける。
図3(g)のように補強材としてエキスパンドメタル9を配置する。
図3(h)のようにアンカーボルト7に金網固定用ワッシャー11を嵌め、ナット12を締め付ける。このとき、補強材であるエキスパンドメタル9の隙間から防爆耐火性補修材4が膨出するようにする。10は膨出部である。
図4にナットを締め付けている最中の写真を示す。締め付けによりエキスパンドメタルの隙間から防爆耐火性補修材が膨出している。
膨出した防爆耐火性補修材が固まる前に、
図3(i)のように防爆耐火性補修材4を打ち重ねて鏝塗りし、表面を整えて仕上げる。
以上の実施例ではナット8をスペーサとして用いたが、補強材の下面側(
図3(g)、(h)では補強材9の上方)の防爆耐火性補修材がある程度の厚さになるようにすればよいので、スペーサを省略することもできる。その場合は、補強材9の下面側の防爆耐火性補修材がある程度の厚さになるまでナット12を締め付けて、隙間から防爆耐火性補修材4が膨出するようにする。
【0032】
防爆耐火性コンクリート3と防爆耐火性補修材4は一体にできないため、どうしても界面5が構造上の欠陥になりやすい。そして、「発明が解決しようとする課題」で
図2を用いて説明したように、火災時に防爆耐火性コンクリート3内に水蒸気等が発生すると、コンクリート内部の圧力が上昇して、構造上弱い界面5に水蒸気等が集中する。補強材を用いてこれを効果的に抑えるために、補強材と防爆耐火性補修材の一体化が必要となる。
【0033】
補強材を設置してから1回で防爆耐火性補修材を打設したり、補強材の設置位置あるいは設置位置下面まで防爆耐火性補修材を打設してから補強材を普通に係止し、その後で補強材の上面側に防爆耐火性補修材を打設したりすると、補強材の周辺に防爆耐火性補修材が充填されにくく、
図5のように補強材14の周辺に未充填空間13が生じてしまい補強材と防爆耐火性補修材が一体化した構造になりにくい。その結果、界面5における水蒸気等が防爆耐火性補修材4を塗り付けた補修部分を持ち上げようとする力にうまく対抗できない。
【0034】
本発明では
図3(h)および
図4で示したように、補強材を固定する際には押し付けて、その隙間から防爆耐火性補修材を膨出させる。そのことにより、補強材の周辺に防爆耐火性補修材が十分に充填されて未充填空間13がほぼ存在しない一体化した構造になるため、蒸気等による圧力などに耐えられる十分に強い構造とすることができる。
【0035】
さらには、補強材を押し付けて固定することによって、防爆耐火性補修材が補強材の隙間から膨出する際に有機繊維が補強材の面とは垂直の方向に押し出され、補強材の面から有機繊維が立ち上がった傾向になる。有機繊維は火災の熱で気化して防爆耐火性補修材に多数の空洞を作り、気化した気体が膨張することにより有機繊維の長手方向にひびが入り易いので、上記のような傾向となっていることにより、補強材の面の領域において水蒸気等が通りやすい構造を得ることができる。
【0036】
また、そもそも界面は構造上弱いので、この部分に水蒸気等が集中するような補修をすることは望ましくない。損傷部には防爆耐火性コンクリートの有機繊維が多く表出しているが、この上にそのまま防爆耐火性補修材を塗り付けると、
図6のように界面5に沿って有機繊維6が存在することになる。そうすると、火災が起きた際には有機繊維6の部分が空隙になって防爆耐火性コンクリート3からの水蒸気等がそのまま界面5の有機繊維6の部分に導かれ、当該水蒸気等が界面5に集中することになり剥離や爆裂が生じやすくなる。そこで、界面5に表出している有機繊維6を
図3(b)のように除去しておけば、上記問題点を回避できる。
【0037】
このようにして出来上がった補修構造は、有機繊維が配合された防爆耐火性を有するコンクリート構造体の損傷部に防爆耐火性補修材が適用された補修構造であって、取付部材によって前記損傷部の表面から隙間をあけて補強材が固定され、前記補強材の周辺に防爆耐火性補修材が十分に充填されて未充填空間がほぼ存在しない一体化した構造となっている。また、防爆耐火性補修材が補強材の隙間から膨出する際に有機繊維が補強材の面とは垂直の方向に押し出されるため、補強材の面から有機繊維が立ち上がった傾向の構造になっている。ここで、防爆耐火性補修材における有機繊維の添加率は、ポリマーセメントモルタルに対して0.01〜1.0容積%であることが好ましい。また、補強材はエキスパンドメタルであることが好ましく、損傷部の表面では有機繊維が除去されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0038】
1 ・・・セグメント
2 ・・・損傷部
3 ・・・防爆耐火性コンクリート
4 ・・・防爆耐火性補修材
5 ・・・界面
6 ・・・有機繊維
7 ・・・アンカーボルト(取付部材)
8 ・・・ナット(スペーサ)
9 ・・・エキスパンドメタル(補強材)
10・・・膨出部
11・・・金網固定用ワッシャー
12・・・ナット
13・・・未充填空間
14・・・補強材