(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定手段は、前記低温側NOx浄化率が低下、前記高温側NOx浄化率が正常、且つ、前記炭化水素浄化率が低下した場合に、前記酸化触媒の二酸化窒素の生成性能を劣化と判定する
請求項1に記載の診断装置。
前記第2浄化率演算手段は、前記酸化触媒の上流側及び下流側の排気熱量差に、前記酸化触媒から外気に放出される熱損失量を加算して得られる炭化水素発熱量に基づいて前記炭化水素浄化率を演算する
請求項1又は2に記載の診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る診断装置を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
図1に示すように、ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)10には、吸気マニホールド10aと排気マニホールド10bとが設けられている。吸気マニホールド10aには新気を導入する吸気通路11が接続され、排気マニホールド10bには排気を大気に放出する排気通路12が接続されている。
【0017】
吸気通路11には、吸気上流側から順に、エアクリーナ30、MAFセンサ31、過給機のコンプレッサ32a、インタークーラ33が設けられている。排気通路12には、排気上流側から順に、過給機のタービン32b、前段後処理装置14、後段後処理装置20が設けられている。なお、
図1中において、符号36は外気温度センサを示している。
【0018】
前段後処理装置14は、円筒状の触媒ケース14a内に排気上流側から順に、DOC15と、DPF16とを配置して構成されている。また、DOC15の上流側には排気管内噴射装置13、DOC15の上流側にはDOC入口温度センサ18、DOC15の下流側にはDOC出口温度センサ19がそれぞれ設けられている。さらに、DPF16の前後には、DPF16の上流側と下流側との差圧を検出する差圧センサ17が設けられている。
【0019】
排気管内噴射装置13は、電子制御ユニット(以下、ECU)40から出力される指示信号に応じて、排気通路12内に未燃燃料(HC)を噴射する。なお、エンジン10の多段噴射によるポスト噴射を用いる場合は、この排気管内噴射装置13を省略してもよい。
【0020】
DOC15は、例えば、コーディエライトハニカム構造体等のセラミック製担体表面に触媒成分を担持して形成されている。DOC15は、排気管内噴射装置13又はポスト噴射によって未燃焼のHCが供給されると、これを酸化して排気温度を上昇させる。また、DOC15は、排気中のNOを酸化してNO
2を生成することで、排気中のNOに対するNO
2の比率を増加させる。
【0021】
DPF16は、例えば、多孔質性の隔壁で区画された多数のセルを排気の流れ方向に沿って配置し、これらセルの上流側と下流側とを交互に目封止して形成されている。DPF16は、排気中のPMを隔壁の細孔や表面に捕集すると共に、PM堆積量が所定量に達すると、これを燃焼除去するいわゆる強制再生が実行される。強制再生は、排気管内噴射装置13又はポスト噴射によりDOC15に未燃燃料(HC)を供給し、DPF16に流入する排気温度をPM燃焼温度(例えば、約600℃)まで昇温することで行われる。PM堆積量は、差圧センサ17のセンサ値から求めることができる。
【0022】
DOC入口温度センサ18は、DOC15に流入する上流側の排気温度(以下、DOC入口排気温度)を検出する。DOC出口温度センサ19は、DOC15から流出する下流側の排気温度(以下、DOC出口排気温度)を検出する。これら温度センサ18,19の検出値は、電気的に接続されたECU40に出力される。
【0023】
後段後処理装置20は、排気上流側から順に、尿素水噴射装置21と、円筒状の触媒ケース20a内に配置されたSCR22とを備えて構成されている。また、SCR22の上流側にはSCR入口温度センサ23及び、SCR入口NOxセンサ24が設けられると共に、SCR22の下流側にはSCR出口NOxセンサ25がそれぞれ設けられている。
【0024】
尿素水噴射装置21は、ECU40から出力される指示信号に応じて、前段後処理装置14と後段後処理装置20との間の排気通路12内に、図示しない尿素水タンク内の尿素水を噴射する。噴射された尿素水は排気熱により加水分解されてNH
3に生成され、下流側のSCR22に還元剤として供給される。
【0025】
SCR22は、例えば、ハニカム構造体等のセラミック製担体表面にゼオライト等を担持して形成されている。SCR22は、還元剤として供給されるNH
3を吸着すると共に、吸着したNH
3で通過する排気ガス中からNOxを還元浄化する。
【0026】
SCR入口温度センサ23は、SCR22に流入する上流側の排気温度(以下、SCR入口排気温度)を検出する。SCR入口NOxセンサ24は、SCR22に流入する排気中のNOx値を検出する。SCR出口NOxセンサ25は、SCR22から流出する排気中のNOx値を検出する。これらセンサ23〜25の検出値は、電気的に接続されたECU40に出力される。
【0027】
ECU40は、エンジン10や排気管内噴射装置13、尿素水噴射装置21等の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。また、ECU40は、NOx浄化率演算部41と、HC発熱率演算部42と、NOx浄化率判定部43と、HC浄化率判定部44と、劣化判定部45とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、一体のハードウェアであるECU40に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0028】
NOx浄化率演算部41は、本発明の第1浄化率演算手段の一例であって、以下の数式1に基づいて、SCR22の低温側NOx浄化率NC
LOW%と、高温側NOx浄化率NC
HIGH%とを演算する。低温側NOx浄化率NC
LOW%は、SCR入口温度センサ23で取得されるSCR入口排気温度が、例えば180〜280度の範囲内にある時に演算される。また、高温側NOx浄化率NC
HIGH%は、SCR入口温度センサ23で取得されるSCR入口排気温度が、例えば280度を超えた時に演算される。
【0030】
数式1において、NOx
inはSCR22に流入する排気中のNOx値であって、SCR入口NOxセンサ24で取得される。また、NOx
OUTはSCR22から流出する排気中のNOx値であって、SCR出口NOxセンサ25で取得される。
【0031】
HC発熱率演算部42は、本発明の第2浄化率演算手段の一例であって、DPF16の強制再生時にDOC15内で酸化されるHCの発熱率(浄化率)を演算する。以下、発熱率の詳細な推定演算手順を説明する。
【0032】
図2に示すように、強制再生時に排気管内噴射装置13からDOC15に供給されたHCの実発熱量C
actは、DOC15の上流側の排気エネルギQ
inと下流側の排気エネルギQ
outとの排気エネルギ差ΔQに、DOC15から外気に放出される熱損失量Q
lostを加算することで得られる。
【0033】
上流側の排気エネルギQ
inは、以下の数式2に基づいて演算され、下流側の排気エネルギQ
outは以下の数式3に基づいて演算される。
【0036】
数式2,3において、c
exhは排気比熱を示している。また、m
exhは排気流量であって、MAFセンサ31の検出値及びエンジン10の燃料噴射量等から取得される。なお、排気流量m
exhは、排気流量センサ(不図示)等から直接的に取得してもよい。T
DOC_inはDOC入口排気温度であって、DOC入口温度センサ18で取得される。T
DOC_outはDOC出口排気温度であって、DOC出口温度センサ19で取得される。
【0037】
熱損失量Q
lostは、自然対流による熱損失量Q
naturalと、強制対流による熱損失量Q
forcedとの総和(Q
lost=Q
natural+Q
forced)と仮定することができる。
【0038】
自然対流による熱損失量Q
naturalは、以下の数式4に基づいて演算される。
【0040】
数式4において、A
sはDOC15の外周面(又は、触媒ケース14aのDOC15が設けられた部分の外周面)の有効面積を示している。T
DOC_brickはDOC15の内部温度であって、DOC入口排気温度T
DOC_inとDOC出口排気温度T
DOC_outとの平均値として取得される。T
ambientは外気温度であって、外気温度センサ36で取得される。h
nは自然対流の熱伝達率であって、以下の数式5から得られる。
【0042】
数式5において、kは空気の熱伝導率を示している。L
nはDOC15の代表長さであって、DOC15の容量等に応じて適宜設定される。Nu
nは、自然対流のヌセルト数を示している。
【0043】
一般的に、DOC15は円柱状であって、さらにDOC15を収容する触媒ケース14aは略円筒状に形成されている。そのため、DOC15内で発生した酸化熱は、これらDOC15や触媒ケース14aの円筒外周面の全面を介して外気に放熱されると考えられる。自然対流による放熱が、軸心を水平方向に向けた円筒外周面の全面から伝わると仮定すると、ヌセルト数Nu
nは、グラスホス数:Gr、プラントル数:Prとする以下の数式6から得られる。
【0045】
強制対流による熱損失量Q
forcedは、以下の数式7に基づいて演算される。
【0047】
数式7において、A
fはDOC15の外周面(又は、触媒ケース14aのDOC15が設けられた部分の外周面)の有効面積を示している。T
DOC_brickはDOC15の内部温度であって、DOC入口排気温度T
DOC_inとDOC出口排気温度T
DOC_outとの平均値として取得される。T
ambientは外気温度であって、外気温度センサ36で取得される。h
fは強制対流の熱伝達率であって、以下の数式8から得られる。
【0049】
数式8において、L
fはDOC15の代表長さであって、DOC15の容量等に応じて適宜設定される。Nu
fは、強制対流のヌセルト数を示している。
【0050】
図3に示すように、一般的にDOC15を収容した触媒ケース14aは車体のシャシフレームSの下部に固定され、その前方には変速機TM等が配置されている。そのため、走行時に車体前方から下部に流れ込む走行風は、DOC15(又は、触媒ケース14a)の下面部にのみ影響を与える平板上の乱流と仮定することができる。すなわち、強制対流のヌセルト数Nu
fは、平板上の乱流熱伝達式を解いて導かれる以下の数式9から得られる。
【0052】
数式9において、Reはレイノルズ数を示している。レイノルズ数Reは、空気の平均速度:v、空気密度:ρ、DOC15の代表長さ:L、動粘性係数:μとする以下の数式10から得られる。
【0054】
HC発熱率演算部42は、上述の数式2に基づいて演算した上流側の排気エネルギQ
inと、上述の数式3に基づいて演算した下流側の排気エネルギQ
outとの排気エネルギ差ΔQに、上述の数式4〜10に基づいて演算した熱損失量Q
lostを加算することで、強制再生時におけるDOC15内のHC実発熱量C
actを演算する。そして、HC実発熱量C
actを排気管内噴射(又はポスト噴射)の理論発熱量C
theoで除算することで、DOC15内でのHC実発熱率C
ACT%を演算する。
【0055】
NOx浄化率判定部43は、本発明の判定手段の一例であって、NOx浄化率演算部41で演算される低温側NOx浄化率NC
LOW%及び、高温側NOx浄化率NC
HIGH%に基づいて、SCR22におけるNOx浄化率の低下を判定する。より詳しくは、ECU40には、予め実験等により求めた、SCR22に流入する排気中のNO及びNO
2がDOC15を正常とした場合のNOx浄化率閾値NC
STD%(例えば、
図4の実線)が記憶されている。NOx浄化率判定部43は、低温側NOx浄化率NC
LOW%とNOx浄化率閾値NC
STD%との差ΔNC
LOW%及び、高温側NOx浄化率NC
HIGH%とNOx浄化率閾値NC
STD%との差ΔNC
HIGH%が所定の上限閾値ΔNC
MAXに達すると、これら低温側及び高温側のNOx浄化率を低下と判定する。
【0056】
HC浄化率判定部44は、発明の判定手段の一例であって、HC発熱率演算部42で演算されるHC実発熱率C
ACT%に基づいて、DOC15におけるHC浄化率の低下を判定する。より詳しくは、ECU40には、予め実験等により求めた、DOC15内で所定量のHCが略完全に酸化した場合のHC発熱率閾値C
STD%が記憶されている。HC浄化率判定部44は、HC実発熱率C
ACT%とHC発熱率閾値C
STD%との差ΔC
%が所定の上限閾値ΔC
MAXに達すると、DOC22のHC浄化率を低下と判定する。
【0057】
劣化判定部45は、本発明の判定手段の一例であって、NOx浄化率判定部43によるNOx浄化率の判定結果及び、HC浄化率判定部44によるHC浄化率の判定結果に基づいて、DOC15のNO
2生成性能の劣化を判定する。以下、詳細な劣化の判定手順を説明する。
【0058】
一般的に、SCR22においては、上流側に配置されたDOC15のNO酸化能力(NO
2生成性能)が低下すると、
図4に示すように、特に低温域(例えば、180〜280度)でNOx浄化性能が低下する。一方、高温域(例えば、280以上)では、NOx浄化性能は低下しない傾向にある。すなわち、低温側NOx浄化率NC
LOW%が低下しても、高温側NOx浄化率NC
HIGH%が低下していない場合は、SCR22は正常であって、DOC15のNO
2生成性能が低下していると推定される。
【0059】
また、一般的に、DOC15においては、
図5(a)に示すように、NO
2生成性能が低下すると、
図5(b)に示すように、HC酸化能力(HC浄化率)も同様に低下する傾向にある。すなわち、DOC15の劣化によりHC実発熱率C
ACT%が低下している場合は、付随的にNO
2生成性能も低下していると推定される。
【0060】
劣化判定部45は、〔条件1〕低温側NOx浄化率NC
LOW%が低下、〔条件2〕高温側NOx浄化率NC
HIGH%が低下していない、〔条件3〕HC浄化率(HC実発熱率C
ACT%)が低下の3条件が成立した場合に、DOC15のNO
2生成性能を劣化状態と判定する。
【0061】
次に、
図6に基づいて、本実施形態の診断装置による制御フローを説明する。
【0062】
ステップ(以下、ステップを単にSと記載する)100では、SCR入口温度センサ23で取得されるSCR入口排気温度T
SCR_inが低温判定温度(例えば、180度)に達したか否かが判定される。さらに、S110では、SCR入口排気温度T
SCR_inが高温判定温度(例えば、280度)を超えたか否かが判定される。
【0063】
S110で「No」の場合は、SCR入口排気温度T
SCR_inが低温判定温度と高温判定温度(例えば、180〜280度)の範囲内にあるので、S120に進み低温側NOx浄化率NC
LOW%が演算される。一方、S110で「Yes」の場合は、SCR入口排気温度T
SCR_inが280度を超えているので、S130に進み高温側NOx浄化率NC
HIGH%が演算される。
【0064】
S140では、SCR22の低温側NOx浄化率NC
LOW%が低下しているか否かが判定される。「No」の場合は、DOC15及びSCR22共に正常と推定されるため、本制御はリターンされる。
【0065】
S150では、SCR22の高温側NOx浄化率NC
HIGH%が低下しているか否かが判定される。「Yes」の場合(低温側浄化率及び高温側浄化率共に低下)は、SCR22の劣化等が推定されるため、S160でSCR22を異常と判定してリターンされる。一方、「No」の場合は、低温側NOx浄化率NC
LOW%のみが低下しており、SCR22は正常と推定されるため、DOC15の劣化を判定すべくS170に進む。
【0066】
S170では、DPF16の強制再生の実行有無が確認される。強制再生が実行された場合(Yes)はS180に進む。
【0067】
S180では、DOC15のHC実発熱率C
ACT%(HC浄化率)が演算され、S190では、HC浄化率が低下しているか否かが判定される。「No」の場合は、DOC15の劣化以外の要因が考えられるため、本制御はリターンされる。一方、「Yes」の場合は、〔条件1〕低温側NOx浄化率NC
LOW%が低下(S140)、〔条件2〕高温側NOx浄化率NC
HIGH%が正常(S150)、〔条件3〕HC実発熱率C
ACT%が低下(S190)の3条件が成立している。すなわち、SCR22は正常で、DOC15はHC浄化性能の低下に付随して、NO
2生成性能も低下している状態と推定される。本制御はS200に進み、DOC15のNO
2生成性能を劣化と判定して、その後リターンされる。
【0068】
次に、本実施形態に係る診断装置による作用効果を説明する。
【0069】
従来、排気中に含まれるNO
2値をセンサで直接的に検出することは困難であり、DOCのNO
2生成性能は、NOxセンサ等の検出値に排気中のNO
2比を乗算して得られる推定値等に基づいて診断されている。しかしながら、排気中のNOとNO
2との比率は、エンジンの運転状態等に応じて変化するため、NOxセンサの検出値から推定したNO
2値を用いる手法では、DOCの劣化を正確に診断できない可能性がある。
【0070】
これに対し、本実施形態の診断装置では、DOC15を通過した排気中のNO
2値を推定することなく、〔条件1〕低温側NOx浄化率NC
LOW%、〔条件2〕高温側NOx浄化率NC
HIGH%、〔条件3〕HC実発熱率C
ACT%の3条件に基づいて、DOC15のNO
2生成性能を診断するように構成されている。
【0071】
したがって、本実施形態の診断装置によれば、運転状態の変化の影響等を受けることなく、DOC15のNO
2生成性能を高精度に診断することができる。
【0072】
また、本実施形態の診断装置では、DOC15の上流側及び下流側の排気エネルギ差ΔQに外気への熱損失量Q
lostを加算して得られるHC実発熱量C
actに基づいて、DOC15のHC浄化率を判定するように構成されている。
【0073】
したがって、本実施形態の診断装置によれば、外部への熱損失量Q
lostを考慮した高精度なHC実発熱量C
actを演算することが可能となり、HC浄化率の低下を排気エネルギ差ΔQにのみ基づいて判定する場合に比べて、判定精度を効果的に向上することができる。
【0074】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0075】
例えば、
図7に示すように、前段後処理装置14にDOC15のみを備え、DPF16や排気管内噴射装置13を省略した構造にも適用することが可能である。この場合は、
図6に示すフローチャートのS170(DPF強制再生)を省略して、エンジン10によるポスト噴射等を実行すればよい。また、エンジン10はディーゼルエンジンに限定されず、ガソリンエンジン等の他の内燃機関にも広く適用することが可能である。