【実施例1】
【0020】
図1に示されるように、半導体モジュール1は、金属板2、拡散抑制膜4、プライマ6、モールド樹脂8、はんだ12及び半導体素子14を備える。
【0021】
金属板2は、回路配線を構成するものであり、図示省略した絶縁基板(例えば、DBA)上に設けられている。金属板2の材料は、Cu又はCu合金である。
【0022】
拡散抑制膜4は、金属板2の一方の面の全体を被覆している。一例では、拡散抑制膜4の材料は、Cu−Sn合金であり、CuとSnの金属間化合物を有する。
【0023】
プライマ6は、拡散抑制膜4の表面及び半導体素子14の表面を被覆している。一例では、プライマ6の材料は、ポリイミド(PI)を含む。プライマ6は、モールド樹脂8と拡散抑制膜4の密着力を向上させる。
【0024】
モールド樹脂8は、プライマ6及び拡散抑制膜4を介して金属板2の一方の面に接合されており、半導体素子14を封止する。一例では、モールド樹脂8の材料は、エポキシ樹脂である。
【0025】
半導体素子14は、はんだ12及び拡散抑制膜4を介して金属板2の一方の面に接合されている。一例では、半導体素子14は、IGBTである。
【0026】
次に、半導体モジュール1の製造方法を説明する。まず、
図2に示されるように、金属板2の表面にSnの被覆膜5を被覆する。一例では、被覆膜5の厚みは、1〜5μmである。被覆膜5は、メッキ技術、印刷技術又はスパッタ技術を利用して被覆される。次に、被覆膜5の表面の一部にはんだ12を介して半導体素子14を配置する。次に、熱処理により、半導体素子14を被覆膜5の表面の一部にはんだ接合する。一例では、熱処理の条件は、300〜400℃、5〜30分である。この熱処理により、被覆膜5のSnと金属板2のCuが反応し、CuとSnの金属間化合物が形成される。この結果、被覆膜5は、CuとSnの金属間化合物を有する拡散抑制膜4となる(
図1参照)。
【0027】
次に、
図3に示されるように、拡散抑制膜4及び半導体素子14の表面にプライマ6を塗布する。塗布されたプライマ6は、250℃、60分の乾燥処理により、硬化される。最後に、トランスファーモールド法を利用して、半導体素子14をモールド樹脂8で封止し、半導体モジュール1が完成する。
【0028】
上記の製造方法によると、金属板2の一方の面にCuとSnの金属間化合物を有する拡散抑制膜4が被覆されていることにより、金属板2のCuが拡散抑制膜4を超えてプライマ6に拡散することが抑制される。このため、プライマ6は、モールド樹脂8と拡散抑制膜4の密着力を向上させることができる。これにより、半導体素子14がモールド樹脂8によって良好に封止されるので、モールド樹脂8の内部における半導体素子14の機械的挙動はモールド樹脂8によって拘束される。この結果、半導体素子14と金属板2の熱膨張差に起因して両者の接合部に生じる熱歪みが抑えられ、半導体モジュール1の信頼性が向上する。
【0029】
(拡散抑制膜の実証試験)
拡散抑制膜がCuの拡散を抑制する効果について、以下の実験で検討した。
図4Aに示される比較例1の試料は、Cuの金属板22の表面をメッキ処理してNiのメッキ層24を形成し、金属板22の一方の面にポリイミドのプライマ26を塗布した後に、250℃、60分の乾燥処理でプライマ26を硬化させることで用意した。
図4Bに示される比較例2の試料は、Cuの金属板22の一方の面にポリイミドのプライマ26を塗布した後に、250℃、60分の乾燥処理でプライマ26を硬化させることで用意した。
図4Cに示される実施例の試料は、Cuの金属板22の一方の面をスパッタコーティングしてSnの被覆膜25を形成し、350℃、30分の加熱処理で被覆膜25のSnと金属板22のCuを反応させてCuとSnの金属間化合物を有する拡散抑制膜34を形成させ、さらに、金属板22の一方の面にポリイミドのプライマ26を塗布した後に、250℃、60分の乾燥処理でプライマ26を硬化させることで用意した。なお、実施例については、2つの試料を用意した。
【0030】
図5は、
図4Aの比較例1のSIMS分析の結果である。NiはCuの拡散を抑制する効果があることが知られた物質であり、比較例1はポジティブコントロールとなる。
図5に示されるように、プライマ26を由来とする12Cと比較して、金属板22を由来とする63Cuは約3桁低い。
【0031】
図6は、
図4Bの比較例2のSIMS分析の結果である。
図6に示されるように、プライマ26を由来とする12Cと比較して、金属板22を由来とする63Cuは約1桁低い。
図5のポジティブコントロールと対比すると、この比較例2では、金属板22を由来とする63Cuがプライマ26の表面に拡散していることが分かる。
【0032】
図7A及び
図7Bは、
図4Cの実施例のSIMS分析の結果である。
図7Aの試料では、プライマ26を由来とする12Cと比較して、金属板22を由来とする63Cuは約3桁低い。
図7Bの試料では、プライマ26を由来とする12Cと比較して、金属板22を由来とする63Cuは約2.5桁低い。
図5のポジティブコントロールと同様の結果である。このことから、CuとSnの金属間化合物を有する拡散抑制膜は、金属板のCuの拡散を抑制する効果があることが確認できた。また、CuとSnの金属間化合物を有する拡散抑制膜は、Niのメッキ層に比してクラックが発生し難いという特徴を有する。このため、半導体モジュールに適用した場合、クラックを起点としてはんだ層を劣化させることが抑えられ、半導体モジュールの信頼性が向上する。
【0033】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。