特許第6164110号(P6164110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

<>
  • 特許6164110-半導体モジュールとその製造方法 図000002
  • 特許6164110-半導体モジュールとその製造方法 図000003
  • 特許6164110-半導体モジュールとその製造方法 図000004
  • 特許6164110-半導体モジュールとその製造方法 図000005
  • 特許6164110-半導体モジュールとその製造方法 図000006
  • 特許6164110-半導体モジュールとその製造方法 図000007
  • 特許6164110-半導体モジュールとその製造方法 図000008
  • 特許6164110-半導体モジュールとその製造方法 図000009
  • 特許6164110-半導体モジュールとその製造方法 図000010
  • 特許6164110-半導体モジュールとその製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164110
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】半導体モジュールとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20170710BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20170710BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20170710BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   H01L23/30 D
   H01L21/56 T
   H01L21/52 D
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-25139(P2014-25139)
(22)【出願日】2014年2月13日
(65)【公開番号】特開2015-153845(P2015-153845A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 正則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏一
(72)【発明者】
【氏名】淺井 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
【審査官】 豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−303215(JP,A)
【文献】 特開2011−228336(JP,A)
【文献】 特開昭58−182839(JP,A)
【文献】 特開2009−182159(JP,A)
【文献】 特開昭60−165745(JP,A)
【文献】 実開昭58−089946(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0161626(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/52
21/56−21/58
23/28−23/31
23/48
23/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体モジュールであって、
Cu又はCu合金の金属板と、
前記金属板の一方の面に接合されている半導体素子と、
前記半導体素子を封止するモールド樹脂と、
前記金属板と前記モールド樹脂の間に設けられている拡散抑制膜と、を備えており、
前記拡散抑制膜は、SnとCuの金属間化合物を有する半導体モジュール。
【請求項2】
半導体モジュールの製造方法であって、
Cu又はCu合金の金属板の一方の面に半導体素子を接合する工程と、
前記金属板の一方の面に拡散抑制膜を形成する工程と、
前記半導体素子をモールド樹脂で封止する工程と、を備えており、
前記拡散抑制膜を形成する工程は、
前記金属板の一方の面にSnの被覆膜を形成することと、
前記被覆膜が形成された前記金属板を熱処理することと、を有しており、
前記熱処理により、前記被覆膜のSnと前記金属板のCuが金属間化合物を形成する半導体モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記半導体素子を接合する工程は、前記半導体素子を前記金属板の一方の面にはんだ接合することを有しており、
前記被覆膜を形成することは、前記半導体素子をはんだ接合する前に実施され、
前記半導体素子をはんだ接合するときの熱処理により、前記被覆膜のSnと前記金属板のCuが金属間化合物を形成する請求項2に記載の半導体モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、半導体モジュールとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体モジュールは、金属板の一方の面に接合されている半導体素子がモールド樹脂で封止された構成を有する。モールド樹脂は、半導体素子を被覆するように金属板に接合されている。モールド樹脂が半導体素子を封止することで、半導体素子と金属板の熱膨張差に起因して両者の接合部に生じる熱歪みが抑えられ、半導体モジュールの信頼性が向上する。
【0003】
半導体素子と金属板の間の熱歪みを抑えるためには、モールド樹脂が金属板に強固に接合しなければならない。モールド樹脂と金属板の接合強度を向上させるために、モールド樹脂と金属板の間にプライマを挿入する技術が知られている。
【0004】
金属板の材料には、低い電気抵抗及び高い熱伝導度を有するCu又はCu合金が用いられることが多い。ところが、このような材料の金属板では、Cuがプライマに拡散することが知られている。Cuがプライマに拡散すると、拡散したCuがプライマの反応基に結合し、モールド樹脂と金属板の接合強度が低下することが指摘されている。
【0005】
特許文献1は、モールド樹脂を射出成形するときの温度を低い温度に設定することで、金属板のCuがプライマに拡散することを抑制する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−135061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、モールド樹脂と金属板の接合強度を向上させるために、金属板のCuの拡散を抑制する技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示される半導体モジュールは、Cu又はCu合金の金属板、金属板の一方の面に接合されている半導体素子、半導体素子を封止するモールド樹脂及び金属板とモールド樹脂の間に設けられている拡散抑制膜を備える。拡散抑制膜は、Cuを含む金属間化合物を有する。金属板とモールド樹脂の間に拡散抑制膜が設けられているので、金属板のCuが拡散抑制膜を超えて拡散することが抑制される。これにより、モールド樹脂と金属板の接合強度が向上した半導体モジュールが提供される。
【0009】
本明細書で開示される半導体モジュールの製造方法は、Cu又はCu合金の金属板の一方の面に半導体素子を接合する工程、金属板の一方の面に拡散抑制膜を形成する工程及び半導体素子をモールド樹脂で封止する工程を備える。拡散抑制膜は、Cuを含む金属間化合物を有する。金属板の一方の面に拡散抑制膜を形成することにより、金属板のCuが拡散抑制膜を超えて拡散することが抑制される。これにより、モールド樹脂と金属板の接合強度が向上した半導体モジュールの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、半導体モジュールの要部断面図を模式的に示す。
図2図2は、半導体モジュールの製造過程の一工程を示す。
図3図3は、半導体モジュールの製造過程の一工程を示す。
図4A図4Aは、比較例1の試料の断面図を模式的に示す。
図4B図4Bは、比較例2の試料の断面図を模式的に示す。
図4C図4Cは、実施例の試料の断面図を模式的に示す。
図5図5は、比較例1のSIMS分析の結果を示す。
図6図6は、比較例2のSIMS分析の結果を示す。
図7A図7Aは、実施例の1つの試料のSIMS分析の結果を示す。
図7B図7Bは、実施例の他の1つの試料のSIMS分析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
【0012】
本明細書で開示される半導体モジュールは、Cu又はCu合金の金属板、金属板の一方の面に接合されている半導体素子、半導体素子を封止するモールド樹脂及び金属板とモールド樹脂の間に設けられている拡散抑制膜を備えていてもよい。拡散抑制膜は、Cuを含む金属間化合物を有していてもよい。
【0013】
金属板の用途は、特に制限されるものではない。一例では、金属板は、回路配線又はヒートスプレッダとして用いられてもよい。
【0014】
半導体素子の種類は、特に制限されるものではない。一例では、半導体素子は、IGBT、MOSFET、ダイオード、HEMT等のパワー半導体素子であってもよい。また、半導体素子と金属板を接合する技術は、特に制限されるものではない。半導体素子と金属板は、他の層を介して接合されてもよい。一例では、半導体素子と金属板は、はんだ接合していてもよい。
【0015】
モールド樹脂は、半導体素子を外部から物理的に保護するものである。モールド樹脂の材料は特に制限されるものではない。一例では、モールド樹脂の材料は、エポキシ樹脂、シアネート樹脂又はPEEK樹脂であってもよい。モールド樹脂は、プライマを介して金属板に接合してもよい。プライマの種類は、モールド樹脂の材料に応じて適宜に選択されるものであり、特に制限されるものではない。一例では、プライマの材料は、ポリアミドイミド、ポリイミド又はポリアミドであってもよい。プライマと金属板は、他の層を介して接合されてもよい。
【0016】
拡散抑制膜は、金属板のCuの拡散を抑制するものである。拡散抑制膜は、Cuと金属間化合物を形成する材料を含んでいるので、Cuと強く結合することができる。このため拡散抑制膜は、Cuの拡散を抑制することができる。一例では、Cuと金属間化合物を形成する材料は、Sn又はInであってもよい。
【0017】
本明細書で開示される半導体モジュールの製造方法は、Cu又はCu合金の金属板の一方の面に半導体素子を接合する工程、金属板の一方の面に拡散抑制膜を形成する工程及び半導体素子をモールド樹脂で封止する工程を備えていてもよい。拡散抑制膜は、Cuを含む金属間化合物を有する。ここで、各工程を実施する順序は特に制限されるものではない。また、特定の工程の一部又は全部が、他の工程と同時に実施されてもよい。
【0018】
本明細書で開示される半導体モジュールの製造方法では、拡散抑制膜を形成する工程が、金属板の一方の面にSnの被覆膜を形成すること及び被覆膜が形成された金属板を熱処理することを有していてもよい。この場合、熱処理により、被覆膜のSnと金属板のCuが金属間化合物を形成してもよい。この製造方法では、被覆膜のSnと金属板のCuを反応させることで、SnとCuの金属間化合物を有する拡散抑制膜が形成される。
【0019】
本明細書で開示される半導体モジュールの製造方法では、半導体素子を接合する工程が、半導体素子を金属板の一方の面にはんだ接合することを有していてもよい。この場合、被覆膜を形成することは、半導体素子をはんだ接合する前に実施されてもよい。さらに、半導体素子をはんだ接合するときの熱処理により、被覆膜のSnと金属板のCuが金属間化合物を形成してもよい。この製造方法によると、はんだ接合するときの熱処理を利用して、SnとCuの金属間化合物を有する拡散抑制膜が形成される。
【実施例1】
【0020】
図1に示されるように、半導体モジュール1は、金属板2、拡散抑制膜4、プライマ6、モールド樹脂8、はんだ12及び半導体素子14を備える。
【0021】
金属板2は、回路配線を構成するものであり、図示省略した絶縁基板(例えば、DBA)上に設けられている。金属板2の材料は、Cu又はCu合金である。
【0022】
拡散抑制膜4は、金属板2の一方の面の全体を被覆している。一例では、拡散抑制膜4の材料は、Cu−Sn合金であり、CuとSnの金属間化合物を有する。
【0023】
プライマ6は、拡散抑制膜4の表面及び半導体素子14の表面を被覆している。一例では、プライマ6の材料は、ポリイミド(PI)を含む。プライマ6は、モールド樹脂8と拡散抑制膜4の密着力を向上させる。
【0024】
モールド樹脂8は、プライマ6及び拡散抑制膜4を介して金属板2の一方の面に接合されており、半導体素子14を封止する。一例では、モールド樹脂8の材料は、エポキシ樹脂である。
【0025】
半導体素子14は、はんだ12及び拡散抑制膜4を介して金属板2の一方の面に接合されている。一例では、半導体素子14は、IGBTである。
【0026】
次に、半導体モジュール1の製造方法を説明する。まず、図2に示されるように、金属板2の表面にSnの被覆膜5を被覆する。一例では、被覆膜5の厚みは、1〜5μmである。被覆膜5は、メッキ技術、印刷技術又はスパッタ技術を利用して被覆される。次に、被覆膜5の表面の一部にはんだ12を介して半導体素子14を配置する。次に、熱処理により、半導体素子14を被覆膜5の表面の一部にはんだ接合する。一例では、熱処理の条件は、300〜400℃、5〜30分である。この熱処理により、被覆膜5のSnと金属板2のCuが反応し、CuとSnの金属間化合物が形成される。この結果、被覆膜5は、CuとSnの金属間化合物を有する拡散抑制膜4となる(図1参照)。
【0027】
次に、図3に示されるように、拡散抑制膜4及び半導体素子14の表面にプライマ6を塗布する。塗布されたプライマ6は、250℃、60分の乾燥処理により、硬化される。最後に、トランスファーモールド法を利用して、半導体素子14をモールド樹脂8で封止し、半導体モジュール1が完成する。
【0028】
上記の製造方法によると、金属板2の一方の面にCuとSnの金属間化合物を有する拡散抑制膜4が被覆されていることにより、金属板2のCuが拡散抑制膜4を超えてプライマ6に拡散することが抑制される。このため、プライマ6は、モールド樹脂8と拡散抑制膜4の密着力を向上させることができる。これにより、半導体素子14がモールド樹脂8によって良好に封止されるので、モールド樹脂8の内部における半導体素子14の機械的挙動はモールド樹脂8によって拘束される。この結果、半導体素子14と金属板2の熱膨張差に起因して両者の接合部に生じる熱歪みが抑えられ、半導体モジュール1の信頼性が向上する。
【0029】
(拡散抑制膜の実証試験)
拡散抑制膜がCuの拡散を抑制する効果について、以下の実験で検討した。図4Aに示される比較例1の試料は、Cuの金属板22の表面をメッキ処理してNiのメッキ層24を形成し、金属板22の一方の面にポリイミドのプライマ26を塗布した後に、250℃、60分の乾燥処理でプライマ26を硬化させることで用意した。図4Bに示される比較例2の試料は、Cuの金属板22の一方の面にポリイミドのプライマ26を塗布した後に、250℃、60分の乾燥処理でプライマ26を硬化させることで用意した。図4Cに示される実施例の試料は、Cuの金属板22の一方の面をスパッタコーティングしてSnの被覆膜25を形成し、350℃、30分の加熱処理で被覆膜25のSnと金属板22のCuを反応させてCuとSnの金属間化合物を有する拡散抑制膜34を形成させ、さらに、金属板22の一方の面にポリイミドのプライマ26を塗布した後に、250℃、60分の乾燥処理でプライマ26を硬化させることで用意した。なお、実施例については、2つの試料を用意した。
【0030】
図5は、図4Aの比較例1のSIMS分析の結果である。NiはCuの拡散を抑制する効果があることが知られた物質であり、比較例1はポジティブコントロールとなる。図5に示されるように、プライマ26を由来とする12Cと比較して、金属板22を由来とする63Cuは約3桁低い。
【0031】
図6は、図4Bの比較例2のSIMS分析の結果である。図6に示されるように、プライマ26を由来とする12Cと比較して、金属板22を由来とする63Cuは約1桁低い。図5のポジティブコントロールと対比すると、この比較例2では、金属板22を由来とする63Cuがプライマ26の表面に拡散していることが分かる。
【0032】
図7A及び図7Bは、図4Cの実施例のSIMS分析の結果である。図7Aの試料では、プライマ26を由来とする12Cと比較して、金属板22を由来とする63Cuは約3桁低い。図7Bの試料では、プライマ26を由来とする12Cと比較して、金属板22を由来とする63Cuは約2.5桁低い。図5のポジティブコントロールと同様の結果である。このことから、CuとSnの金属間化合物を有する拡散抑制膜は、金属板のCuの拡散を抑制する効果があることが確認できた。また、CuとSnの金属間化合物を有する拡散抑制膜は、Niのメッキ層に比してクラックが発生し難いという特徴を有する。このため、半導体モジュールに適用した場合、クラックを起点としてはんだ層を劣化させることが抑えられ、半導体モジュールの信頼性が向上する。
【0033】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0034】
1:半導体モジュール
2:金属板
4:拡散抑制膜
6:プライマ
8:モールド樹脂
12:はんだ
14:半導体素子
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B