(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164358
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】靴の中又は近傍に配置できるばね及び減衰要素
(51)【国際特許分類】
A43B 13/14 20060101AFI20170710BHJP
A43B 7/08 20060101ALI20170710BHJP
A43B 13/18 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
A43B13/14 C
A43B7/08
A43B13/18
【請求項の数】12
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-506723(P2016-506723)
(86)(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公表番号】特表2016-514577(P2016-514577A)
(43)【公表日】2016年5月23日
(86)【国際出願番号】AT2014050075
(87)【国際公開番号】WO2014165882
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2015年11月26日
(31)【優先権主張番号】A267/2013
(32)【優先日】2013年4月9日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】515208603
【氏名又は名称】グレル,マルセル
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】グレル,マルセル
【審査官】
梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−270542(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3145299(JP,U)
【文献】
米国特許第07694440(US,B1)
【文献】
特開2008−095757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 7/08
A43B 13/14
A43B 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第一磁石(3)、
前記複数の第一磁石(3)を靴(2)の第一部分領域(5)に設置するための第一固定要素(4)、及び、
複数の第二磁石(6)及び前記複数の第二磁石(6)を前記靴(2)の第二部分領域(7)又は前記靴(2)に隣接する領域に設置するための第二固定要素(8)を含み、
少なくとも1つの第一磁石(3)が少なくとも1つの第二磁石(6)に対して摺動可能に支持され、前記複数の第一磁石(3)及び前記複数の第二磁石(6)がハルバッハアレイの原理によって配列されることを特徴とする、靴(2)の中又は近傍に配置できるばね及び減衰要素(1)。
【請求項2】
それぞれ1つの第一磁石(3)及び1つの第二磁石(6)が軸(9)に配向され、その軸(9)が 部分負荷(16、16’)の負荷軸(10)に対して略平行に向けられることを特徴とする請求項1に記載の要素。
【請求項3】
前記複数の第一磁石(3)の表面及び前記複数の第二磁石(6)の表面が、多角形の合同形状を有することを特徴とする請求項1から2のいずれか一項に記載の要素。
【請求項4】
前記第一固定要素(4)と共に前記複数の第一磁石(3)が、及び/又は前記第二固定要素(8)と共に前記複数の第二磁石(6)が、前記靴(2)に取り外し可能に装着されていることを特徴とする請求項1から2のいずれか一項に記載の要素。
【請求項5】
前記複数の第一磁石(3)が第一靴底部分領域(11)に、及び前記複数の第二磁石(6)が 第二靴底部分領域(12)に配置されることを特徴とする請求項1から2のいずれか一項に記載の要素。
【請求項6】
前記複数の第一磁石(3)が前記靴(2)の第一軸部分領域に、及び前記複数の第二磁石(6)が第二軸部分領域に配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の要素。
【請求項7】
前記複数の第一磁石(3)及び/又は前記複数の第二磁石(6)がそれぞれ異なる磁界強度を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の要素。
【請求項8】
前記複数の第一磁石(3)及び前記複数の第二磁石(6)がそれぞれ同極を有する個々の磁石を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の要素。
【請求項9】
前記複数の第一磁石(3)及び前記複数の第二磁石(6)がそれぞれ異極を有する個々の磁石を含み、そのとき異なる極を持つ個々の磁石である前記複数の第一磁石(3)の個々の磁石の1つ及び前記複数の第二磁石(6)の個々の磁石の1つが向かい合って配置されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の要素。
【請求項10】
前記第一固定要素(4)及び前記第二固定要素(8)が多角形の運動線に沿って互いに対して摺動可能に支持されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の要素。
【請求項11】
前記第一固定要素(4)及び前記第二固定要素(8)が互いに対して点又は軸を中心に回転可能に支持されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の要素。
【請求項12】
前記ばね及び減衰要素(1)がさらなるばね及び減衰要素(15)と結合していることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一磁石を靴の第一部分領域に設置するための第一固定要素と共に第一磁石を、第二磁石を靴の第二部分領域又は靴に隣接して設置するための第二固定要素と共に第二磁石を含み、そのとき少なくとも1つの第一磁石が少なくとも1つの第二磁石に対し摺動可能に支持される、靴の中又は近傍に配置できるばね及び減衰要素に関する。
【背景技術】
【0002】
靴中のばね及び減衰要素は個々の磁石が十分近く接近したとき、2つの同極の個々の磁石の反発の原理によって作用する。反発力は従来技術の磁石の配置のとき、第一磁石及び第二磁石の間隔によって決まる。
【0003】
(特許文献1)は、靴用の2つの磁石を含むばね及び減衰要素を開示する。以下に開示される発明とは異なり、個々の磁石はハルバッハアレイ効果に従って配列されない。
【0004】
(特許文献2)は同様に、靴のばね及び減衰要素としての個々の磁石を含む磁石の使用を説明する。同様に(特許文献2)にも個々の磁石のハルバッハアレイによる特殊な配列についての示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7694440B1号明細書
【特許文献2】米国公開特許第20100011616明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.E.Hilton, S.M. McMurry, An adjustable linear Halbach array, Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 324(2012) p.2051−2056
【非特許文献2】K. Halbach, Design of permanent multipole magnets with oriented rare earth cobalt material, Nuclear instruments and methods 169 (1980) p. 1−10
【非特許文献3】J.C. Mallinson, One−side fluxes − a magnetic curiosity?, IEEE transactions on magnetics, Vol. mag−9, No. 4, December 1973
【非特許文献4】http://en.wikipedia.org/wiki/Halbach array
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以下に論じられる発明は、靴中のばね及び減衰要素としての磁石の使用を課題とし、そのとき磁石の特殊な配列による磁石の作用の仕方は、必要な磁石の数を最小限にするために最適に利用し尽くされるべきである。
【0008】
従来技術の磁石はかなり重く、それは靴中、特に運動靴中での使用に適さない。
【0009】
靴中の磁石の配置には、例えば地面上にある金属物質を靴中にある磁石によって引付ける効果もある。
【0010】
以下に開示される発明はこの短所を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のばね及び減衰要素は、第一磁石及び第二磁石がハルバッハアレイの原理によって配列されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
1つの第一磁石及び1つの第二磁石の個々の磁石の配列は例えば(非特許文献1)に解説されている。また (非特許文献2)、及び (非特許文献3)も参照されている。ハルバッハアレイによる配列には、磁界が第一及び第二磁石間の領域で収束されるという効果がある。これは本発明の課題にとって、第一磁石及び第二磁石の数量が、従来技術による装置に比較して低減される点において有利である。磁界の収束によって靴中に配置された磁石が金属物質を引付けるという短所は解決される。磁界の収束は本発明の開示の枠内で、強化された磁気流を有する(靴底内の)領域及び弱化された磁気流を有するさらなる領域(靴底の外領域)が設けられると理解される。
【0013】
第一磁石と第二磁石間の反発力は、磁界が収束されるため、ハルバッハアレイによる配列によって有利に影響される。
【0014】
本発明の要素は、それぞれ1つの第一磁石及び1つの第二磁石が1つの軸に整列されるように構築されることができ、その軸は部分負荷の負荷軸に対して略平行に向けられる。好適には第一磁石及び第二磁石が軸に対して垂直に配向される。
【0015】
そのような構造は、特に統一された負荷及びその結果として生じた負荷方向の場合に有利である。
【0016】
第一磁石の表面及び第二磁石の表面は多角形の合同形状を有することができるため、 第一磁石及び第二磁石は互いに相関する摺動のとき、反発力を、磁石の表面に応じて、複数の方向に生成できる。
【0017】
第一固定要素と共に第一磁石が、及び/又は第二固定要素と共に第二磁石が、靴に取り外し可能に装着されることができる。固定要素は、例えば差し込み及び/又はネジ接続のような従来技術の接続手段を使って靴に装着できる。
【0018】
第一固定要素及び/又は第二固定要素は接着層であることができる。
【0019】
靴中にあるばね及び減衰要素が着用者により簡単に別のばね及び減衰要素と交換されることができるように、有利にはばね及び減衰要素はモジュール式に構築される。取り外し可能なばね及び減衰要素の装着は、例えば従来技術による機械的接続方法で行われる。
【0020】
その中に本発明の要素が配置される靴の部分領域は例えば芯であることができる。
【0021】
靴は例えばランニングシューズ、スキー靴やクロスカントリースキー靴などのスポーツ用靴であることができる。
【0022】
本発明は、第一磁石が靴の部分領域中に、第二磁石が靴に隣接する領域に配置されることを排除しない。例えば第一磁石をクロスカントリースキー靴の底領域に、第二磁石を靴に隣接する領域、例えばスキーを接続する接触面に配置することができる。ここで模範例として説明された靴に隣接して設置された領域は、靴と機能的に連携する。
【0023】
本発明の要素は例えばスキー靴の留め金のような、着用者の足に適応させるための装置の中にも配置できる。要素の配置によって留め金の張力が制限されることができる。
【0024】
本発明の要素の可能な適用は、第一磁石を第一靴底部分領域に、第二磁石を第二靴底部分領域に配置することを特徴とする。
【0025】
本発明の要素は靴の底領域の垂直及び水平の負荷の緩衝及び減衰のために配置されることができる。垂直力は例えば着用者自身の体重又は着用者の運動経過によって生じうる。水平負荷は着用者の加速又は制動のときに生じる。
【0026】
ここに開示される発明は、着用者、特にその関節にかかる負荷を低減することを課題とする。
【0027】
靴の軸は靴の着用時に着用者によって伸張される。この伸張の原因は例えば足の変形、進行過程が原因である。本発明の要素のさらなる適用は、第一磁石を靴の第一軸部分領域に、第二磁石を第二軸部分領域に配置することを特徴とすることができる。
【0028】
第一磁石及び/又は第二磁石は異なる磁界強度を有する個々の磁石を具備することができる。異なる磁界強度によって異なるばね及び減衰性質を有するゾーンが本発明の要素に生じる。
【0029】
第一磁石及び第二磁石はそれぞれ同極の個々の磁石を含むことができる。
【0030】
第一磁石及び第二磁石はそれぞれ異極の個々の磁石を含むことができ、そのとき、その個々の磁石が異なる極を持つ、第一磁石の個々の磁石の1つ及び第二磁石の個々の磁石の1つが向かい合って配置される。
【0031】
個々の磁石は、同極の個々の磁石が向かい合って配置されるように配置されるため、磁界によって反発力が生成される。
【0032】
第一固定要素及び第二固定要素は、多角形の運動線に沿い、互いに対して摺動自在に支持されることができる。
【0033】
第一固定要素及び第二固定要素は、点或いは軸を中心に互いに対して回動自在に支持されることができる。
【0034】
可能な運動の種類は本発明の要素の靴中の位置付けに関連して選択できる。第一磁石の可能な動きは第二磁石と相関して負荷方向に対して略平行に行われる。
【0035】
第一磁石の第二磁石に相関する動きは―継手とも連結して―ガイド要素及び/又は靴の可能な変形方向によって設定されることができる。靴の可能な変形方向は適用された素材の特定の性質、素材の組み合わせによって定義されることができる。例えば靴の可能な変形方向は、全方向に伸張可能な素材と補強要素との組み合わせによって達成されることができる。
【0036】
本発明の要素はさらなるばね及び減衰要素と結合されることができる。さらなるばね及び減衰要素は例えば変形可能な素材から製造されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は靴底の踵領域にある本発明の要素の配置を示す。
【
図2】
図2は靴底の前方領域にある本発明の要素の配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0038】
図1は本発明のばねと減衰要素1を有し、第一磁石3及び第二磁石6を含む靴2を示す。第一磁石3は第一固定要素4に、第二磁石6は第二固定要素7に装着される。第一固定要素4を使って第一磁石3は靴2の第一部分領域5に装着される。これと同様に第二磁石6は第二固定要素7を使って靴2の第二部分領域8に装着される。
【0039】
図1で分かるように、本発明の要素1は靴2の踵領域中に配置されるため、固定要素4、7は第一靴底領域11或いは第二靴底領域12に配置される。
【0040】
固定要素4、7は靴2の中に、第一磁石3が第二磁石6に相関して、靴2が変形しても、動くことが可能であるように配置される。固定要素4、7は継手17によって縁に結合され、それによって固定要素4、7相互の相関的動きが実質的に回転運動に制限される。
【0041】
図1に示される配置は、踵を介して靴2にもたらされる負荷16を緩衝し、減衰するという課題を担う。負荷軸10及び第一磁石3の第二磁石6に相関する可能な動きの軸9は略平行にある。図示されたケースにおいて、軸9は磁石3、6の互いに対する可能な回転運動に対して接線方向に延びる。
【0042】
図1に示された本発明のばね及び減衰要素1の配置は、実質的に(垂直の)負荷軸10の方向への負荷16による負荷のために設定される。この理由から、磁石3、6の互いに向かい合う表面は平坦に形成されている。
【0043】
従来技術と比較して、
図1に示される本発明の要素1の配置は、第一次磁石3及び第二磁石6がハルバッハアレイの原理によって配列されていることを特徴とする。ハルバッハアレイの原理による配列は
図2に示される。
【0044】
第一固定要素4及び/第二固定要素8は取り外し可能に靴2に装着される。取り外し可能な接続は、本発明の要素1の簡単な交換を可能にする、従来技術によるネジ又は差し込み接続である。着用者は要素1の交換によって、靴1にばね及び減衰性質をその臨時的要件に適合させることができる。
【0045】
靴2は本発明の要素1に加えて、付加的に本発明の要素1に作用する、さらなるばね及び減衰要素15を含む。
【0046】
図2は第一磁石3及び/又は第二磁石6の個々の磁石の磁界電流に応じた、個々の磁石のハルバッハアレイによる特殊な配列(非特許文献4)を示す。
図2に示された配列は個々の磁石が一列に並ぶ特殊なケースの配列である。
【実施例2】
【0047】
図3は水平の負荷方向10にある負荷16のための本発明の要素1の可能な配置を示す。靴2或いは着用者に対するこのような負荷は着用者の制動又は加速のとき生じる。
【0048】
図1に示された配置と同様に、要素1は靴2の底領域に配置される。第一固定要素4は第一靴底領域11に、第二固定要素7は第二靴底領域12に配置される。磁石2、6は互いに対して摺動可能に形成される。
【0049】
磁石2、6の互いに向き合う表面は平坦に形成される。磁石2、6の表面は、運動軸10及び軸9に対して実質的に90°の角度で配向される。
【実施例3】
【0050】
図4は第一靴底領域11或いは第二靴底領域12の中の磁石2、6の可能な配置を示し、そのとき磁石2、6の互いに向かい合う表面は多角形に形成され、互いに合同の表面を有する。磁石2、6の多角形の表面は
図4で示された可能な配置のケースではピラミッド型又は(断面図で見ると)三角形である。
【0051】
磁石2、6の多角形としての形成は、異なる負荷方向10、10’を有する負荷16及び負荷16’によって与えられた不統一な負荷により決定する。
図4に示される磁石2、6は十分に接近したとき、磁石2、6の形状及び互いに対する摺動に応じて一方向への反発力を発生させる。
【実施例4】
【0052】
図5は本発明の要素の配置のさらなる可能性を示す。
図5に示された靴2は、靴底領域に配置されたばね及び減衰要素としてのさらなる要素15を含む。さらなる要素15は中空体を含んで形成され、そのとき中空体にはそれぞれ1つの第一磁石3及び第二磁石6が配置される。さらなる要素15は、第一磁石3を第一靴底領域11に設置するための第一固定要素4として、及び第二磁石6を第二靴底領域12に設置する第二固定要素7として用いられる。
【0053】
明瞭な表示をするために、
図5では数個のみのさらなる要素15が示される。
【0054】
上記に説明された実施形態或いは配置は、決して発明の対象に限定して評価されるものではない。上記に説明された実施形態或いは配置は、互いに組み合わせられることもできる。
【符号の説明】
【0055】
図面では、以下の参照符号が靴の次の要素を表す:
1.ばね及び減衰要素
2.靴
3.第一磁石
4.第一固定要素
5.第一部分領域
6.第二磁石
7.第二固定要素
8.第二部分領域
9.軸
10.負荷軸
11.第一靴底部分領域
12.第二靴底部分領域
13.なし
14.なし
15.さらなる要素
16.負荷
17.継手