特許第6164465号(P6164465)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6164465ドライビングシミュレータのモーション制御方法及び車両試験システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164465
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】ドライビングシミュレータのモーション制御方法及び車両試験システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20170710BHJP
【FI】
   G01M17/007 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-94407(P2013-94407)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-215243(P2014-215243A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100086391
【弁理士】
【氏名又は名称】香山 秀幸
(74)【代理人】
【識別番号】100110799
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 温道
(72)【発明者】
【氏名】嘉田 友保
(72)【発明者】
【氏名】葉山 良平
(72)【発明者】
【氏名】田上 将治
(72)【発明者】
【氏名】アリス マローニアン
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−104126(JP,A)
【文献】 特開2006−162320(JP,A)
【文献】 特開2005−172528(JP,A)
【文献】 特開2008−145532(JP,A)
【文献】 特表2009−536736(JP,A)
【文献】 特開2010−256354(JP,A)
【文献】 特開2002−122223(JP,A)
【文献】 特開2004−098705(JP,A)
【文献】 特表2010−526317(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0030720(US,A1)
【文献】 特開2010−012973(JP,A)
【文献】 特開2006−138827(JP,A)
【文献】 特開2011−038929(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/145270(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00〜17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライビングシミュレータのモーション制御方法であって、
前記ドライビングシミュレータと、自動車の機械要素である試験品が搭載された車両用試験装置とを通信回線で接続し、
前記ドライビングシミュレータは、車両操作信号を前記車両用試験装置に送信し、
前記車両用試験装置は、前記車両操作信号の内容に従って前記試験品を動作させ、前記試験品の動きを測定した測定データを車両モデルに入力して出力データを取得し、
前記車両用試験装置は、前記車両操作信号の内容を表す操作データと、それに対応する前記出力データとをドライビングシミュレータ側に転送し、
ドライビングシミュレータ側では、前記転送されてきたデータを車両挙動データベースに記憶し、運転者の車両操作に応じて、前記車両挙動データベースに記憶されたデータを利用してドライビングシミュレータを動作させる、ドライビングシミュレータのモーション制御方法。
【請求項2】
前記操作データと、それに対応する前記出力データとは、操縦入力パターンでの車両挙動が推定できる程度の事前挙動把握試験を実施して作成する、請求項1に記載のドライビングシミュレータのモーション制御方法。
【請求項3】
互いに通信回線で接続されたドライビングシミュレータと、自動車の機械要素である試験品が搭載された車両用試験装置とを含む車両試験システムであって、
前記ドライビングシミュレータは、車両操作信号を前記車両用試験装置に送信する送信部を有し、
前記車両用試験装置は、
前記車両操作信号を受信する受信部と、
受信した前記車両操作信号の内容に従って前記試験品を動作させ、前記試験品の動きを測定した測定データを車両モデルに入力して出力データを得る車両挙動演算部と、
前記車両操作信号の内容を表す操作データと、それに対応する前記出力データとをドライビングシミュレータ側に転送し、
前記ドライビングシミュレータ側では、ドライビングシミュレータ側では、前記転送されてきたデータを車両挙動データベースに記憶し、運転者の車両操作に応じて、前記車両挙動データベースに記憶されたデータを利用してドライビングシミュレータを動作させる、車両試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドライビングシミュレータのモーション制御方法及び車両試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドライビングシミュレータには、運転をするために必要なステアリングハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバーなどの入力装置と、運転席にロール、ピッチ、ヨー等の各動きを与えるためのアクチュエータとが装備されていて、車窓から見える景色を映すためのモニタ、走行音や衝突音などを再生するためのスピーカーが搭載されている。ドライビングシミュレータは、制御環境下で多様な走行環境を生成し、加減速、コーナリング、ブレーキング時のロール、ピッチ、ヨーや操舵反力などの、ドライビングシミュレータにおける車両挙動(以下「モーション」ということがある)を再現できるので、車両システムの開発、運転者と車両、道路、交通との相互作用の研究などに活用されている。
【0003】
ドライビングシミュレータとは別に、車両用試験装置として、前後左右上下方向に移動可能な前後一対の架台を設置した装置が配備される場合がある。この車両用試験装置に一台の車両を設置して車両の試験を行うこともでき、この車両用試験装置に試験品搭載用車体フレームを設置して、車両のサスペンションシステム、ステアリングシステム、ブレーキシステムなどの機械要素若しくは機械部品(以下「試験品」という)をその上に設置して、その試験を行うこともできる(特許文献1参照)。
【0004】
車両用試験装置に試験品を設置する場合、試験品以外の車両構成部品としては、コンピュータにインストールされ、ソフトウェアによってシミュレートされたモデル(以下「車両モデル」という)の中に入っている仮想の部品を使用する。
試験品搭載用車体フレームに試験品を設置し、試験品の動きを測定したデータを、車両モデルに入力して、車両モデルから得られる姿勢パラメータ、操舵反力などを出力する。
【0005】
ドライビングシミュレータと車両用試験装置とは通信回線で結ばれ、互いにリアルタイムでデータのやり取りをする場合がある。この場合、ドライビングシミュレータから、運転をするために必要なステアリングハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバーなどの入力データが車両用試験装置に伝達されると、車両用試験装置は、前記入力データを試験品及び車両モデルに適用し、試験品及び車両モデルから得られる姿勢パラメータ、操舵反力などを出力する。ドライビングシミュレータ側では、車両モデルから出力された姿勢パラメータ、操舵反力などを再現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009-536736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、通信回線を通じて得られるデータに従ってドライビングシミュレータと車両用試験装置とを同時に動作させる場合、通信周期(各端末の処理時間、パケットの送出周期などによって決まる)が長いと、ドライビングシミュレータが操作データを送信してから、それに対応する出力データを車両用試験装置が計算して送信し、その出力データをドライビングシミュレータが受信して運転者にフィードバックするまで、前記通信周期に相当する時間の遅延が発生し、その遅延の間、ドライビングシミュレータがデータの更新をすることができず、ドライビングシミュレータが試験品の性能を正しく把握できない場合がある。特に、通信するデータ値が急激に変化する内容であった場合、その状態を再現するための追従が間に合わず、試験動作が不安定になることもあり、共振したりする。
【0008】
このように通信の遅れが一定時間以上ある場合、リアルタイムシミュレーションは難しくなり、車両試験システム全体に悪影響を及ぼす。
本発明は、かかる実情に鑑み、ドライビングシミュレータと車両用試験装置との間で通信に相当な時間がかかり、その間、ドライビングシミュレータがデータの更新をすることができない状態であっても、ドライビングシミュレータが試験品の状態を、できるだけ正確に模擬できるようにしたドライビングシミュレータのモーション制御方法及び車両試験システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ドライビングシミュレータと、自動車の機械要素である試験品が搭載された車両用試験装置とを通信回線で接続し、前記ドライビングシミュレータは、車両操作信号を前記車両用試験装置に送信し、前記車両用試験装置は、ドライビングシミュレータから得られる車両操作信号の内容に従って前記試験品を動作させ、前記試験品の動きを測定した測定データをコンピュータにインストールされている車両モデルに入力して、当該車両モデルから出力される出力データを取得し、前記車両用試験装置は、前記車両操作信号の内容を表す操作データと、それに対応する前記出力データとをドライビングシミュレータ側に転送し、ドライビングシミュレータ側では、前記転送されてきたデータを車両挙動データベースに記憶し、運転者の車両操作に応じて、前記車両挙動データベースに記憶されたデータを利用してドライビングシミュレータを動作させる、ドライビングシミュレータのモーション制御方法に係るものである。
【0010】
この方法によれば、ドライビングシミュレータの運転操作中に、リアルタイムで取得される車両挙動を表すデータをフィードバックして利用するのではなく、前記デタをドライビングシミュレータ側に転送し、ドライビングシミュレータ側では、運転者の車両操作に応じて、前記転送されたデタを利用してドライビングシミュレータを動作させる。
【0011】
前記操作データと、それに対応する前記出力データとは、操縦入力パターンでの車両挙動が推定できる程度の事前挙動把握試験を実施して作成することが好ましい。これにより、ドライビングシミュレータでは、前記事前に作成されたデタをドライビングシミュレータ側に転送して利用することができる。
また本発明の車両試験システムは、前記本発明に係るドライビングシミュレータのモーション制御方法を実施するためのシステムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ドライビングシミュレータと車両用試験装置との間のデータ通信に相当な遅延が発生する状態であっても、データの追従性を向上させることができ、ドライビングシミュレータにおいて、自動車の機械要素である試験品の状態を、最小の時間遅れで正確に模擬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ある場所(拠点1)にドライビングシミュレータDSを設置し、他の場所(拠点2)に車両用試験装置DMSを設置し、車両用試験装置DMSとドライビングシミュレータDSとを通信回線9で接続した本発明の実施形態に係る車両試験システム1を示す概略図である。
図2】ドライビングシミュレータDSの操作部を示す模式図である。
図3】車両用試験装置DMSの外観を図解的に示す概略斜視図である。
図4】ドライビングシミュレータDSの概略的な電気的構成を示すブロック図である。
図5】車両用試験装置DMSの概略的な電気的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、ある場所(拠点1)にドライビングシミュレータDSを設置し、他の場所(拠点2)に車両用試験装置DMSを設置し、車両用試験装置DMSとドライビングシミュレータDSとを光ケーブル、同軸ケーブルなどの通信回線9で接続した本発明の実施形態に係る車両試験システム1を示す概略図である。図1において、COM1はドライビングシミュレータDS側のコンピュータを示し、COM2は車両用試験装置DMS側のコンピュータを示す。
【0015】
本発明の実施の形態では、ドライビングシミュレータDSには、図2に示すように、ステアリングハンドル91、アクセルペダル92、ブレーキペダル93、シフトレバー94などの入力装置が搭載され、車窓から見える景色を映すためのモニタ95などが搭載されている。 ステアリングハンドル91には、運転者が路面から受ける反力を模擬的に与えるための反力モータ(図示せず)が連結されている。また、運転席にロール、ピッチ、ヨー等の各動きを与えるためのアクチュエータ(図示せず)が装備されている。
【0016】
ステアリングハンドル91の操舵角θ、アクセルペダル92の踏み込み量A、ブレーキペダル93の踏力Bの各データは、ドライビングシミュレータDS側のコンピュータCOM1に入力される。
またドライビングシミュレータDSには、コンピュータCOM1の指令に応じて、運転者が路面から受ける反力データを模擬的に作りだし、それに基づいて反力モータ(図示せず)を駆動する反力モータドライバ63(図4参照)が接続されている。またドライビングシミュレータDSのコンピュータCOM1には、加減速時、コーナリング時、ブレーキング時のロール角r、ピッチ角p、ヨー角y(これらの3つを「姿勢パラメータ」という)の各動きを実現するためアクチュエータを駆動するモーションコントローラ64(図4参照)が接続されている。また走行距離に応じて風景を移動させ、回転させるためモニタ95を駆動制御する画像ドライバ67(図4参照)も搭載されており、この画像ドライバ67の指令に基づいてモニタ95に映しだされた風景が移動する。ロール角r、ピッチ角p、ヨー角yに応じて風景が移動する方向を、図2のモニタ95に矢印で示す。
【0017】
図3は、車両用試験装置DMSの外観を図解的に示す概略斜視図である。
車両用試験装置DMSは、左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪の4つの車輪に対応する4つの車軸21S,22S,23S,24S(21S,22Sは他の部材のため隠れているので図示せず)が取り付けられるとともに試験品が搭載される試験品搭載用車体2と、試験品搭載用車体2を支持しかつ試験品搭載用車体2に6自由度の運動をさせるための第1モーションベース3と、各車軸21S,22S,23S,24Sを支持し、かつ各車軸21S,22S,23S,24Sに6自由度の運動をさせるための4つの第2モーションベース4,5,6,7とを含む。
【0018】
図3においては、試験品搭載用車体2の前端が符号2fで示され、試験品搭載用車体2の後端が符号2rで示されている。試験品搭載用車体2の4つの車軸21S,22S,23S,24Sの外端部には、回転力を車軸に与えるための4つの電動モータ(以下「外力付加用モータ」という。)31,32,33,34の出力軸が連結されている。各電動モータ31,32,33,34は、実車両が走行しているときに外部から各車軸に加えられる回転力(外力)と同様な回転力を、対応する車軸21S、22S、23S、24Sに個別に付与するためのものである。外力には、たとえば、実車両が走行している場合に路面摩擦等に起因して各車軸に与えられる回転負荷、実車両が坂道を下っている場合に各車軸に路面を介して与えられる回転力等が含まれる。
【0019】
試験品搭載用車体2には、自動車の各種機械要素である試験品が搭載される。この実施形態では、試験品搭載用車体2には、電動パワーステアリング装置(EPS:electric power steering)40と、左後輪の車軸23S及び右後輪の車軸24を電動モータによって駆動するための後輪駆動モジュール50とが試験品として搭載されている。
この実施形態では、EPS40は、コラムアシスト式EPSである。EPS40は、よく知られているように、ステアリングホイール81と、ステアリングホイール81の回転に連動して前輪を転舵する転舵機構(図示せず)と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構83とを含んでいる。ステアリングホイール81と転舵機構82とは、ステアリングシャフトを介して機械的に連結されている。
【0020】
転舵機構は、ステアリングシャフトの下端に設けられたピニオンと、ピニオンと噛み合うラックが設けられたラック軸とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸の各端部は、タイロッド、ナックルアーム等を介して前輪に連結されている。操舵補助機構83は、操舵補助力を発生するための電動モータ(以下「アシストモータ」という。)と、アシストモータの出力トルクをステアリングシャフトに伝達するための減速機構とを含む。
【0021】
さらに、EPS40は、アシストモータを制御するためのECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)(以下「EPS用ECU」という)と、ラック軸の軸方向の変位位置を検出するための直線変位センサを含んでいる。
後輪駆動用モジュール50は、後輪用の車軸23S,24Sを回転駆動するための電動モータ(以下「後輪駆動モータ」という。)と、後輪駆動モータの回転力を後輪用の車軸23S,24Sに伝達するための伝達機構と、後輪駆動モータを制御すためのECU(以下「後輪駆動モータ用ECU」という。)と、後輪用車軸23S,24Sの両方又はいずれか一方の回転角を検出するための回転角センサを含んでいる。伝達機構は、クラッチ及び減速機構を含んでいる。伝達機構は、クラッチ及び減速機構のいずれか一方のみを含んでいてもよい。
【0022】
各モーションベース3,4,5,6,7は、床上に載置された定盤10上に固定されている。各モーションベース3,4,5,6,7は、よく知られているように、定盤10に固定された固定ベース11と、固定ベース11の上方に配置された可動ベース(ムービンクベース)12と、固定ベース11と可動ベース12との間に連結され、可動ベース12に6自由度の運動(前後、左右、上下、ロール、ピッチ及びヨーの各運動)をさせるためのピストン状のアクチュエータ13と、アクチュエータ13を駆動制御するモーションコントローラ(図示略)から構成されている。アクチュエータ13は、6個の電動シリンダから構成されている。モーションコントローラは、前記6自由度の各運動に相当する信号の入力に応じて、アクチュエータ13内蔵の駆動モータに駆動電流を与えるためのドライバ回路から構成されている。
【0023】
第1モーションベース3の可動ベースには、試験品搭載用車体2の中央部が載せられた状態で試験品搭載用車体2が固定されている。つまり、第1モーションベース3の可動ベースの上面に、試験品搭載用車体2の下面の中央部が取り付けられている。つまり、試験品搭載用車体2は、第1モーションベース3によって支持されている。
外力付加用モータ31,32,33,34のモータ本体は、それぞれ第2モーションベース4,5,6,7の可動ベース12に、弾性シート部材30を介して載せられた状態で固定されている。つまり、外力付加用モータ31,32,33,34のモータ本体は、弾性シート部材30を介して第2モーションベース4,5,6,7に支持されている。言い換えれば、各車軸21S、22S、23S、24Sは、弾性シート部材30及び対応する外力付加用モータ31,32,33,34のモータ本体を介して、第2モーションベース4,5,6,7に支持されている。また、各外力付加用モータ31,32,33,34を制御するためのモータ制御装置35、36,37,38(図5参照)が、試験品搭載用車体2に搭載されている。
【0024】
これらの外力付加用モータ31,32,33,34により、実車両が走行しているときに外部から各車軸に加えられる回転力(外力)と同様な回転力を、対応する車軸21S、22S、23S、24Sに個別に付与することができる。これにより、実際の運転状況に応じた駆動負荷、サスペンション挙動を再現することが可能となる。
また、この車両用試験装置DMSでは、第1モーションベース3のアクチュエータ13を駆動制御し、第2モーションベース4,5,6,7のアクチュエータ13を個別に駆動制御することによって、各種の車体姿勢を作ることができる。したがって、各モーションベース3,4,5,6,7のアクチュエータ13を全体的に制御することにより、ローリング、ピッチング及びヨーイングを含む各種の車両走行姿勢を再現することが可能である。
【0025】
図4は、ドライビングシミュレータDSの概略的な電気的構成を示すブロック図である。
図4に示すように、ステアリングハンドル91の操舵角θ、アクセルペダル92の踏み込み量A、ブレーキペダル93の踏力Bの各データは、コンピュータCOM1内のネットワーク端末61に入力され、ここから車両用試験装置DMSに送信される。また各データθ,A,Bは、コンピュータCOM1内に設置されている車両挙動データベース62にも入力される。
【0026】
車両挙動データベース62は、コンピュータCOM1の演算部(図示せず)の指令に応じて、車両挙動データベースに入力された操舵角θに対応する反力データを読み出し、この反力データを反力モータドライバ63に提供する。また車両挙動データベース62は、各データθ,A,Bに応じた走行距離と、ロール角r、ピッチ角p、ヨー角yとを読み出してモーションコントローラ64及び画像ドライバ67に提供する。
【0027】
図5は、車両用試験装置DMSの概略的な電気的構成を示すブロック図である。
車両用試験装置DMSは、コンピュータCOM2と、車両用試験装置DMSの本体部分100とを備えている。
車両用試験装置DMSの本体部分100には、アシストモータ41、アシストモータ41を制御するためのEPS用ECU42、後輪駆動モータ51、後輪駆動モータ51を制御すための後輪駆動モータ用ECU52、各モーションベース3,4,5,6,7を駆動するモーションコントローラ3C,4C,5C,6C,7C 、及びモータ制御装置35、36,37,38が搭載されている。モータ制御装置35、36,37,38は、それぞれ外力付加用モータ31,32,33,34を駆動する装置である。
【0028】
ドライビングシミュレータDS側のコンピュータCOM1(図1参照)と通信回線9を介して接続されるコンピュータCOM2は、車両用試験装置DMSの各モーションベース3,4,5,6,7のモーションコントローラ3C,4C,5C,6C,7C、及び車両用試験装置DMSに搭載されているモータ制御装置35、36,37,38を制御する装置であり、これらのコンピュータCOM2の制御機能は、コンピュータに搭載されたプログラムによって実現される。
【0029】
EPS用ECU42は、ラック軸の軸方向の変位位置を検出するための直線変位センサ(図示略)を含んでいる。後輪駆動モータ用ECU52は、後輪用車軸23S,24Sの両方又はいずれか一方の回転角を検出するための回転角センサ(図示略)とを含んでいる。
ドライビングシミュレータDSから、通信回線9を介して、運転者の運転操作に応じた操舵角θ、アクセル踏み込み量A、ブレーキ踏力B等のデータがネットワーク端末73に入力される。これらのうち、操舵角 θのデータは、車両用試験装置DMSに搭載されているEPS用ECU42に送られる。アクセル踏み込み量A のデータは、車両用試験装置DMS搭載されている後輪駆動モータ用ECU52に送られる。ブレーキ踏力Bのデータは、コンピュータCOM2の車両挙動演算部71に送られる。
【0030】
EPS用ECU42は、ドライビングシミュレータDSから送られてくる操舵角θのデータに基づいて操舵トルクを決定し、決定した操舵トルクに応じてアシストモータ41を駆動制御する。また、EPS用ECU42は、直線変位センサの出力信号に基づいて、EPS40に含まれているラック軸の軸方向変位量(以下「ラック軸変位量」という)及びラック軸の軸方向変位速度(以下「ラック軸変位速度」という)を計測して、コンピュータCOM2に送る。
【0031】
後輪駆動モータ用ECU52は、ドライビングシミュレータDSから送られてくるアクセル踏み込み量A のデータに基づいて、後輪駆動モータ51のトルク指令値を決定し、決定したトルク指令値に応じて後輪駆動モータ51を駆動制御する。また、後輪駆動モータ用ECU52は、回転角センサの出力信号に基づいて、後輪用の車軸23S,24Sの回転速度(以下「車軸回転速度」という。)を測定して、コンピュータCOM2に送る。
【0032】
コンピュータCOM2は、前記ネットワーク端末73と、車両挙動演算部71と、指令値生成部72と、車両挙動データベース74とを備えている。
車両挙動演算部71は、車両モデル75というソフトウェアを利用して演算を行う。ここで車両モデル75とは、前記試験品が搭載される実車両の挙動を模擬するために作られたソフトウェアであり、ドライビングシミュレータDSから得られるブレーキ踏力B、 ラック軸変位量、ラック軸変位速度、車軸回転速度などの各データに基づいて、運転状況に応じた車体の位置・姿勢、各車輪の位置・姿勢及び各車軸に加えられている外力を生成するためのモデルのことをいう。
【0033】
車両挙動演算部71には、ネットワーク端末73から得られるブレーキ踏力情報、EPS用ECU42から送られてくるラック軸変位量及びラック軸変位速度及び後輪駆動モータ用ECU52から送られてくる車軸回転速度が入力される。車両挙動演算部71は、車両モデル75を利用して、これらの入力情報に基づいて、ドライビングシミュレータDSによってシミュレートされている運転状況に応じた車体の位置・姿勢、各車輪の位置・姿勢及び各車軸に加えられる外力を生成する。
【0034】
指令値生成部72は、車両挙動演算部71によって生成された車体の位置・姿勢、各車輪の位置・姿勢のデータに基づいて、各モーションベース3,4,5,6,7に対する姿勢指令値を、一定の周期ごとに生成する。また、指令値生成部72は、車両挙動演算部71によって生成された各車軸に加えられている外力に基づいて、各外力付加用モータ34,35,36,37それぞれに対するトルク指令値とを生成する。
【0035】
車両挙動データベース74は、指令値生成部72が生成した姿勢指令値、トルク指令値などの出力データを、データベースとして記憶する記憶装置である。
指令値生成部72によって生成された各モーションベース3,4,5,6,7それぞれに対する姿勢指令値は、車両挙動データベース74に与えられる。また姿勢指令値は、対応するモーションベース3,4,5,6,7のモーションコントローラ3C,4C,5C,6C,7Cにも与えられる。各モーションコントローラ3C,4C,5C,6C,7Cは、指令値生成部72から与えられた姿勢指令値に基づいて、対応するアクチュエータ13を制御する。これにより、各モーションベース3,4,5,6,7の可動ベース12は、姿勢指令値に応じた姿勢となるように運動する。
【0036】
指令値生成部72によって生成された各外力付加用モータ31,32,33,34それぞれに対するトルク指令値は、車両挙動データベース74に与えられる。またトルク指令値は、対応するモータ制御装置35、36,37,38にも与えられる。各モータ制御装置35、36,37,38は、指令値生成部72から与えられたトルク指令値に基づいて、対応する外力付加用モータ31,32,33,34を制御する。これにより、各外力付加用モータ31,32,33,34からは、トルク指令値に応じたモータトルクが発生する。
【0037】
本発明の実施形態によれば、ドライビングシミュレータDSの側において、ステアリングハンドル91、アクセルペダル92、ブレーキペダル93、シフトレバー94などの入力装置を操作して、あらゆる操縦入力パターンでの車両挙動が推定できる程度の事前挙動把握試験を実施し、車両用試験装置DMS側の車両挙動データベース74に、指令値生成部72が生成した姿勢指令値やトルク指令値などの出力データを、前記車両操作信号の内容を表す複数の操作データであるブレーキ踏力B、 ラック軸変位量、ラック軸変位速度、車軸回転速度などに対応させて記憶し蓄積する。
【0038】
事前挙動把握試験は、(1)ドライビングシミュレータDSに入った運転者が入力装置を実際に操作して、通信回線9を介して、運転者の運転操作に応じた操舵角θ、アクセル踏み込み量A、ブレーキ踏力B等のデータを車両用試験装置DMS側に送信することにより行っても良いし、(2)ドライビングシミュレータDSのコンピュータCOM1が入力装置を操作すれば出力されるであろう各信号を模擬的に作り出し、その各信号を車両用試験装置DMS側に送信するようにしてもよい。
【0039】
事前挙動把握試験が終了すれば、車両挙動データベース74に姿勢指令値やトルク指令値などのデータが蓄積されているので、それらのデータは、図4に示したコンピュータCOM1内に設置されている車両挙動データベース62に転送される。転送の方法は限定されないが、事前挙動把握試験が終わった時点で、車両挙動データベース74のデータを通信回線9を通して、あるいは可搬型のメモリを介して、移動若しくはコピーするようにしてもよいし、事前挙動把握試験中に、通信回線9を通して、2つの車両挙動データベース74,62を双方向に同期させても良い。
【0040】
したがってドライビングシミュレータDS側では、ドライビングシミュレータの運転操作中に、ドライビングシミュレータと車両用試験装置との間でリアルタイムのデータ通信を行っているかどうかにかかわらず、前記車両挙動データベース62を利用して、ドライビングシミュレータを動作させることができる。
なお、ドライビングシミュレータを操作して試験品の試験データを収集するために、ドライビングシミュレータと車両用試験装置との間でリアルタイムのデータ通信をして、車両挙動データベース74に、指令値生成部72が生成した姿勢指令値やトルク指令値などの出力データを記憶し蓄積することは、もちろん可能である。
【0041】
本発明によれば、ドライビングシミュレータの運転操作中に、リアルタイムの車両挙動データをフィードバックして利用するのではなく、ドライビングシミュレータ側の車両挙動データベース62を利用して、ドライビングシミュレータを動作させることが特徴である。
この結果、ドライビングシミュレータDSと車両用試験装置DMSとの間のデータ通信に相当な遅延が発生する状態であっても、データの追従性を向上させることができ、ドライビングシミュレータDSにおいて、試験品を含む試験品搭載用車体2の状態を、正確に模擬することができる。
【0042】
なお、本発明は前記した発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…車両試験システム、3…第1モーションベース、4〜7…第2モーションベース、12…可動ベース、13…アクチュエータ、61…ネットワーク端末、62…車両挙動データベース、63…反力モータドライバ、64…モーションコントローラ、71…車両挙動演算部、72…指令値生成部、74…車両挙動データベース、75…車両モデル、COM1,2…コンピュータ、DS…ドライビングシミュレータ、DMS…車両用試験装置
図1
図2
図3
図4
図5