特許第6164525号(P6164525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマトミシン製造株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000002
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000003
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000004
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000005
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000006
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000007
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000008
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000009
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000010
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000011
  • 特許6164525-高周波ミシン 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164525
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】高周波ミシン
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/04 20060101AFI20170710BHJP
【FI】
   B29C65/04
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-212324(P2013-212324)
(22)【出願日】2013年9月21日
(65)【公開番号】特開2015-61743(P2015-61743A)
(43)【公開日】2015年4月2日
【審査請求日】2016年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114868
【氏名又は名称】ヤマトミシン製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】宮井 沙希
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−183790(JP,A)
【文献】 特開平08−096951(JP,A)
【文献】 特開平11−042755(JP,A)
【文献】 特開2012−110583(JP,A)
【文献】 特開2006−011113(JP,A)
【文献】 特開平09−294887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維生地の重ね合わせ部の間に熱可塑性樹脂テープが挟み込まれた被加工材又は二枚の繊維生地の端部を突合せ配置し該二枚の繊維生地の突合せ端部の上面間に亘って熱可塑性樹脂テープが載せ付けられた被加工材を摺接移動可能に載置支持する被加工材載置板と、この被加工材載置板の載置面上に載置支持された前記被加工材を上下から挟んで水平面に沿う特定方向へ搬送する上下一対の耐熱性エンドレスベルトと、前記上下一対の耐熱性エンドレスベルトを介して前記被加工材を上下から挟む位置に配置された上下一対のローラからなり、これらローラの相対回転により前記被加工材を前記特定方向に定速度で強制移送するローラ装置と、前記被加工材載置板の上部に配置されて前記被加工材を前記載置面側に押付ける押え機能を有する上部電極と、該上部電極に対向させて前記被加工材載置板の下部に配置された下部電極と、前記上部及び下部電極間に高周波電力を付与する高周波電力付与装置と、制御部と、を備え、
前記被加工材載置板の載置面上に載置支持されて前記特定方向に移送される前記被加工材に対し前記高周波電力付与装置から前記上部及び下部電極間に高周波電力を付与することによって、前記熱可塑性樹脂テープを高周波誘電加熱により溶融して前記繊維生地の重ね合わせ部又は突合せ端部を前記熱可塑性樹脂テープを介して接着するように構成されている高周波ミシンであって、
前記ローラ装置における上部ローラを、下部ローラに対して接近する位置と上方へ離間する位置とに昇降させるローラ昇降機構と、前記被加工材載置板の下部に配置されて前記上下一対の耐熱性エンドレスベルトの部分的な上下変位を介して前記上部電極を下部電極に対して接近する位置と上方へ離間する位置とに昇降させる電極昇降機構とが設けられており、
前記制御部は、前記ローラ昇降機構及び電極昇降機構により前記上部ローラ及び上部電極のそれぞれを下部ローラ及び下部電極に対して接近する位置に下降させて被加工材を前記特定方向に連続移送しながら、前記高周波電力付与装置から上部及び下部電極間に所定値の高周波電力を連続的に付与する第1の接着動作モードと、前記ローラ昇降機構により前記上部ローラを下部ローラに対して上方へ離間する位置に上昇させると共に、前記電極昇降機構により前記上部電極を下部電極に対して上方へ離間する位置と接近する位置とに間欠的に昇降させて被加工材を前記特定方向に移送しながら、前記高周波電力付与装置から上部及び下部電極間に所定値の高周波電力を間欠的に付与する第2の接着動作モードと、に切換え制御可能に構成されていることを特徴とする高周波ミシン。
【請求項2】
前記上下一対の耐熱性エンドレスベルトは、フッ化エチレン樹脂から構成され、被加工材を挟む上下対向面が前記特定方向に向けて同速度で移動するように上下各別に駆動移動されるように構成されている請求項1に記載の高周波ミシン。
【請求項3】
前記上下一対の耐熱性エンドレスベルトのうち、上部のエンドレスベルトの移動速度は、下部のエンドレスベルトの移動速度に対して調整可能に構成されている請求項1に記載の高周波ミシン。
【請求項4】
前記電極昇降機構は、水平運動及び上下運動の組み合わせによって下部の耐熱性エンドレスベルトの下面に接触して上下一対の耐熱性エンドレスベルト及び被加工材の一部分を間欠的に上下に繰り返し変位させるように間欠昇降移動する突き上げ部材を備えている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高周波ミシン。
【請求項5】
前記制御部は、前記第2の接着動作モードへの切換えに伴い、まず、前記ローラ昇降機構により前記上部ローラを下部ローラに対して上方へ離間する位置に上昇させ、次いで、該上部ローラの上昇状態を維持したままで前記電極昇降機構により前記上部電極を下部電極に対して間欠的に昇降させる制御を実行するように構成されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高周波ミシン。
【請求項6】
前記高周波電力付与装置は、前記第2の接着動作モード時及び第1の接着動作モード時のいずれにおいても、前記繊維生地の重ね合わせ部又は突合せ端部における接着力が一定又は略一定に保持されるように、前記上部及び下部電極間に付与する高周波電力の出力を調整可能に構成されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高周波ミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、綿や羊毛、絹等に代表される天然繊維、あるいは、ポリエステル、ナイロン、アクリル等に代表される合成繊維の布地(以下、本発明では、「繊維生地」という)を対象素材とし、この繊維生地の端部等を高周波による誘電加熱により溶融される熱可塑性樹脂テープを介して接着(溶着)することにより、例えば婦人服、子供服、紳士服等のアパレル品(衣料品)を製造加工する際に用いられる高周波ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波電力及び熱可塑性樹脂テープを利用して二枚の繊維生地を接着しアパレル品を製造加工する高周波ミシンは、繊維生地及び熱可塑性樹脂テープからなる被加工材を水平面に沿う特定方向へ搬送(移送)する搬送手段と、該搬送手段により搬送される被加工材の熱可塑性樹脂テープの上部及び下部に対向配置された一対の電極間に高周波電力を付与する高周波電力付与装置と、高周波電力の付与に伴う誘電加熱により溶融された熱可塑性樹脂テープの接着剤を繊維生地に浸透させる役目を持つ上下一対のローラからなるローラ装置とを具備させるだけでよく、針糸(上糸)、ルーパ糸、下糸などの縫糸をレーシングやルーピングして縫目を形成することによって繊維生地を縫合する一般的な縫製ミシンのように、例えば、繊維生地を縫製進行方向に移送する送り歯の他に、縫糸を繊維生地に貫通させる針、生地押え及びそれらの上下往復運動機構や、レーシングやルーピングを行わせるための下糸供給用の釜及びその作動機構あるいはルーパ糸供給用のルーパ及びその作動機構等々といった糸により縫目を形成するための複数の複雑な機構、部品の使用を省略あるいは削減することが可能で、ミシン全体の構造の簡素化、小型化を図りやすいという特長を有する。
【0003】
上記のような特長を有する高周波ミシンとして、本出願人らは、繊維生地を対象素材とし、繊維生地の重ね合わせ部間に熱可塑性樹脂テープを挟み込んだ被加工材を一般的な縫製ミシンが備える送り歯を用いて被加工材載置板上の水平面に沿う特定方向に間欠的に移送、つまり、移送と移送停止とを交互に繰り返しながら、移送停止の度に上下一対の電極を被加工材の上下(表裏)両面に接触するように押圧させると共に、その押圧状態で一対の電極間に高周波電力を付与することにより、前記熱可塑性樹脂テープを高周波誘電加熱により溶融して繊維生地の重ね合わせ部を接着するように構成された高周波ミシンを開発し既に特許出願している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記特許文献1に開示されている高周波ミシンにおいては、被加工材の間欠的な移送に伴い、一対の電極間に付与される高周波電力によって樹脂テープを一定単位の面積毎に溶融させ、その単位溶融面積部分を移送方向で一部ラップさせることにより、同一箇所を繰り返し接着することが可能であるため、比較的低い高周波電力を用いながら重ね合わせ部を全長に亘って略均一に接着することができる。また、高周波電力によって発生される熱を、線あるいは点接触部といった極小面積部に集中させることなく、一対の電極の面接触部に分散させることが可能であるため、高周波電力による熱が極小面積部に集中することに起因する繊維生地の焼損や破孔(孔明き)などの不良箇所の発生を極力回避することができる。さらに、一般的な縫製ミシンが備える送り歯を活用することにより、送り停止時に被加工材を任意に方向転換することで、直線移送に限らず曲線移送も可能となり、曲線状部位を有する繊維生地の接着加工にも対応させることができる。その結果、接着対象素材が熱に弱い繊維生地であっても、曲線状部位の多いアパレル品を加工対象とする場合であっても、仕上がりのよいアパレル品を製造加工することができるという効果が得られる。
【0005】
反面、上記特許文献1に開示の高周波ミシンでは、上下一対の電極の対向面が被加工材における繊維生地の上下(表裏)両面に直接に接触して押圧されるために、繊維生地の表裏両面に電極の押圧による痕跡(以下、「押圧痕」という。)が発生しやすい。また、重ね合わせ部等の被接着部の全長に亘って接着漏れや接着不全が生じないようにするためには、一対の電極による単位溶融面積部を被加工材の送り方向において一部ラップさせる必要がある。そのために、ラップ箇所に非ラップ箇所よりも多くの熱量が与えられることになり、繊維生地の表裏両面に被加工材の送り方向に直交する方向に沿って線状の過熱痕跡、通称、テカリ(以下、「過熱痕」という。)が断続的に発生しやすい。その結果、繊維生地から製造されたアパレル品として、仕上がりの面で見栄えも体裁も悪く、製品価値の低下を生じ易いという問題点が残されていた。
【0006】
そこで、本出願人らは上述した特許文献1に開示の高周波ミシンが有する問題点、すなわち、押圧痕の発生及び過熱痕の断続的な発生を解消するために、上下一対の電極のうち、少なくとも上部電極を被加工材の表面から常に上方に離間させて一対の電極を被加工材の表面又は表裏両面に対して非接触状態に保ちつつ、一対の電極間に所定の値の高周波電力を連続的に付与するように構成した高周波ミシンを開発し既に特許出願している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2011−47099号公報
【特許文献2】 特願2012−222519号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2で示されている本出願人らが開発し既に特許出願した高周波ミシンによれば、少なくとも上部の電極を被加工材(繊維生地)の表面に非接触の状態で接着動作させることが可能であるため、特許文献1の高周波ミシンが有する一つの問題点である押圧痕の発生をなくすることができると共に、高周波電力による熱を被加工材における被接着部の全長に亘り均等または略均等に与えることが可能であるため、特許文献1の高周波ミシンが有するもう一つの問題である過熱痕の断続的な発生もなくすることができる。
【0009】
しかしながら、本出願人らが開発し既に特許出願した特許文献2の高周波ミシンにおいては、上下一対の電極が被加工材を挟んで常に一定距離離れて対向配置された構成であるために、電極以外の部位、例えば、電線や電極に隣接する部品等に高周波電力の付与に伴う熱が発生し、その発熱の影響が周囲に拡散して、繊維生地を焦がしたり、焼損したりするなどの不良事態を発生しやすい。
また、特許文献2の高周波ミシンでは、被加工材の移送手段として、被加工材を表裏両面から挟むように配置された上下一対のローラからなるローラ装置を用い、該ローラ装置の上下一対のローラの相対回転により被加工材を一定速度で加工進行方向に連続的に強制移送するものであるために、高周波電力によって溶融された熱可塑性樹脂テープの接着剤が繊維生地中に浸透しやすいようにローラによる押圧力を強くすることが望ましいが、そうした場合、ローラによる強い押圧力の影響で被加工材の繊維生地が波打ちやすく、その結果、製造加工されるアパレル品の仕上がりが悪化するという新たな問題が残されていた。
【0010】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、押圧痕及び過熱痕の発生をなくするだけでなく、繊維生地の焦がしや焼損、波打ちによる仕上がりの悪化を防ぎ、しかも、曲線状部位の接着も容易かつ確実に行うことができる高周波ミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために案出された本発明に係る高周波ミシンは、繊維生地の重ね合わせ部の間に熱可塑性樹脂テープが挟み込まれた被加工材又は二枚の繊維生地の端部を突合せ配置し該二枚の繊維生地の突合せ端部の上面間に亘って熱可塑性樹脂テープが載せ付けられた被加工材を摺接移動可能に載置支持する被加工材載置板と、この被加工材載置板の載置面上に載置支持された前記被加工材を上下から挟んで水平面に沿う特定方向へ搬送する上下一対の耐熱性エンドレスベルトと、前記上下一対の耐熱性エンドレスベルトを介して前記被加工材を上下から挟む位置に配置された上下一対のローラからなり、これらローラの相対回転により前記被加工材を前記特定方向に定速度で強制移送するローラ装置と、前記被加工材載置板の上部に配置されて前記被加工材を前記載置面側に押付ける押え機能を有する上部電極と、該上部電極に対向させて前記被加工材載置板の下部に配置された下部電極と、前記上部及び下部電極間に高周波電力を付与する高周波電力付与装置と、制御部と、を備え、前記被加工材載置板の載置面上に載置支持されて前記特定方向に移送される前記被加工材に対し前記高周波電力付与装置から前記上部及び下部電極間に高周波電力を付与することによって、前記熱可塑性樹脂テープを高周波誘電加熱により溶融して前記繊維生地の重ね合わせ部又は突合せ端部を前記熱可塑性樹脂テープを介して接着するように構成されている高周波ミシンであって、前記ローラ装置における上部ローラを、下部ローラに対して接近する位置と上方へ離間する位置とに昇降させるローラ昇降機構と、前記被加工材載置板の下部に配置されて前記上下一対の耐熱性エンドレスベルトの部分的な上下変位を介して前記上部電極を下部電極に対して接近する位置と上方へ離間する位置とに昇降させる電極昇降機構とが設けられており、前記制御部は、前記ローラ昇降機構及び電極昇降機構により前記上部ローラ及び上部電極のそれぞれを下部ローラ及び下部電極に対して接近する位置に下降させて被加工材を前記特定方向に連続移送しながら、前記高周波電力付与装置から上部及び下部電極間に所定値の高周波電力を連続的に付与する第1の接着動作モードと、前記ローラ昇降機構により前記上部ローラを下部ローラに対して上方へ離間する位置に上昇させると共に、前記電極昇降機構により前記上部電極を下部電極に対して上方へ離間する位置と接近する位置とに間欠的に昇降させて被加工材を前記特定方向に移送しながら、前記高周波電力付与装置から上部及び下部電極間に所定値の高周波電力を間欠的に付与する第2の接着動作モードと、に切換え制御可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成された本発明の高周波ミシンによれば、一般的な縫製ミシンに比べて、ミシン全体の構造の簡素化、小型化を図りやすいという利点、及び、一対の電極間に付与される高周波電力によって発生される熱を、線あるいは点接触部といった極小面積部に集中させることなく、一対の電極の面接触部に分散させることが可能で、高周波電力による熱が極小面積部に集中することに起因する繊維生地の焼損や破孔(孔明き)などの不良箇所の発生を極力回避することができるという利点を有するのはもとより、被加工材を上下一対の耐熱性エンドレスベルトで上下から挟んで、これら上下一対のエンドレスベルトと共に被加工材を一対の電極間に連続的に通過させることが可能であるため、被加工材の繊維生地の表裏両面に電極が直接に接触することによる押圧痕及び断続的な過熱痕の発生をなくすることができる。
【0013】
また、被加工材を上下一対のエンドレスベルトにより挟み込んで移送するので、溶融された可塑性樹脂テープの接着剤が繊維生地中に浸透しやすいようにローラ装置における上部ローラによる被加工材への押圧力を強目に設定しても、該押圧力によって繊維生地が波打ちすることを抑制することができる。
【0014】
しかも、必要に応じて、ローラ装置における上部ローラを下部ローラに対して上方へ離間する位置に上昇させると共に、上下一対のエンドレスベルトの部分的な上下変位を介して上部電極を下部電極に対して間欠的に昇降させて被加工材を移送しながら、上部及び下部電極間に高周波電力を間欠的に付与する第2の接着動作モードに切換え制御することにより、該第2の接着動作モードのうち上部の電極が間欠上昇した時の被加工材に加わる接触圧は、上部ローラ及び上部電極が共に下降位置にある第1の接着動作モードに比べて小さくなり、この接触圧が小さくなった瞬間毎に被加工材を任意の方向に振り操作することで被加工材を徐々に方向転換して、直線に限らず容易に曲線移送させることができる。従って、曲線状部位の接着も容易かつ確実に行うことができる。
【0015】
以上の相乗作用によって、本発明は、押圧痕や過熱痕の発生、繊維生地の焦がしや焼損、波打ちによる仕上がり不良の発生を防ぎ、繊維生地から製造されたアパレル品として、仕上がりの面で非常に見栄えも体裁もよく、製品価値の向上を図ることができ、その上、曲線状部位の接着にも十分に適用可能な高周波ミシンを提供することができるに至った。
【0016】
上記高周波ミシンにおいて、前記上下一対の耐熱性エンドレスベルトは、フッ化エチレン樹脂から構成され、被加工材を挟む上下対向面が前記特定方向に向けて同速度で移動するように上下各別に駆動移動されるように構成されていることを基本とする(請求項2)が、前記上下一対の耐熱性エンドレスベルトのうち、上部のエンドレスベルトの移動速度を、下部のエンドレスベルトの移動速度に対して調整可能に構成することがより好ましい(請求項3)。
この場合は、上下一対の耐熱性エンドレスベルトの移動速度を相対的に調整することにより、重ね合わせられた下部の繊維生地部分と上部の繊維生地部分との移送方向の位置ずれを修正することが可能であり、位置ずれ状態のままで接着されることを防ぎ、一層仕上がりのよいアパレル品を得ることができる。
【0017】
また、上記高周波ミシンにおいて、前記電極昇降機構は、水平運動及び上下運動の組み合わせによって下部の耐熱性エンドレスベルトの下面に接触して上下一対の耐熱性エンドレスベルト及び被加工材の一部分を間欠的に上下に繰り返し変位させるように間欠昇降移動する突き上げ部材を備えていることが好ましい(請求項4)。
この場合は、前記第2の接着動作モードにおいて、上下一対のエンドレスベルトの下部に配置された突き上げ部材を間欠昇降移動させることにより、上下一対のエンドレスベルト及び被加工材の一部分を上下に繰り返し変位させて上部電極を昇降させることになるので、被加工材は常に上部電極と上下一対のエンドレスベルトとの間に挟まれており、第2の接着動作モード時に被加工材の繊維生地がずれることを防ぎつつ、被加工材の方向転換による曲線移送を確実に保つことができる。また、前記のような突き上げ部材を用いた電極昇降機構は、一般的な縫製ミシンの送り歯を水平運動及び上下運動の組み合わせによって駆動すべく構成されている既知の送り歯循環駆動機構を有効利用して簡単に構成することができる。
【0018】
また、上記高周波ミシンにおいて、前記制御部は、前記第2の接着動作モードへの切換えに伴い、まず、前記ローラ昇降機構により前記上部ローラを下部ローラに対して上方へ離間する位置に上昇させ、次いで、該上部ローラの上昇状態を維持したままで前記電極昇降機構により前記上部電極を下部電極に対して間欠的に昇降させる制御を実行するように構成されていることが好ましい(請求項5)。
この場合は、第2の接着動作モードへの切換えに当たり、最初に上部ローラをローラ昇降機構により上方へ離間上昇させた後、その状態を維持したままで次に電極昇降機構により上部電極を間欠的に昇降させるので、上部電極を間欠的に昇降させる電極昇降機構の動作負荷を軽減することが可能である。特に、突き上げ部材を使用する電極昇降機構の場合、動作負荷の軽減によって突き上げ部材自体の突き上げ面積を極力小さくすることが可能となり、昇降機構の小型化、簡素化を図ることができる。
【0019】
更に、上記高周波ミシンにおいて、前記高周波電力付与装置は、前記第2の接着動作モード時及び第1の接着動作モード時のいずれにおいても、前記繊維生地の重ね合わせ部又は突合せ端部における接着力が一定又は略一定に保持されるように、前記上部及び下部電極間に付与する高周波電力の出力を調整可能に構成されていることが好ましい(請求項6)。
【0020】
このような構成を採用する理由は次のとおりである。即ち、高周波電力が上部電極及び下部電極間に間欠的に付与される第2の接着動作モード時には、高周波電力が上部電極及び下部電極間に連続的に付与される第1の接着動作モード時よりも繊維生地の重ね合わせ部又は突合せ端部における接着力が低下する。それを解消するために、つまり、第2の接着動作モード時における接着力を第1の接着動作モード時における接着力と同等又は略同等に保つために、一対のエンドレスベルトによる被加工材の搬送速度を第1の接着動作モード時の搬送速度より低速にし、付与する高周波電力の値を大きくすることが望まれる。また、一対のエンドレスベルトによる被加工材の搬送速度は、例えば、繊維生地の種類等に応じて適宜に調整して用いられるが、この搬送速度の調整にかかわらず、常に同等又は略同等の接着力を確保すると共に、上,下部の電極間でのスパークの発生により繊維生地にダメージを与えないようにすることも重要である。
【0021】
これらの点を総合的に勘案して、前記高周波電力の出力を調整可能に構成する場合は、搬送速度の調整に応じて高周波電力の出力も任意に調整することが可能であり、これによって、第1及び第2の接着動作モード時における被加工材の搬送速度に関係なく、一定又は略一定の接着力を保持することができると共に、スパークによる繊維生地へのダメージの発生も防いで、曲線状部位と直線状部位とが混在する被加工材を接着対象とする場合でも被接着部位の全域を均一又は略均一に接着し、且つ、繊維生地へのダメージもない仕上がり良好なアパレル品を確実に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係る高周波ミシン全体の外観斜視図である。
図2】同上高周波ミシン全体の一部を破断して示す左側面図である。
図3】同上高周波ミシンによる加工対象となる被加工材の要部の拡大断面図である。
図4】同上高周波ミシンにおける主要部の構成を説明する要部の拡大縦断正面図である。
図5】同上高周波ミシンにおける主要部の構成を説明する要部の拡大縦断側面図である。
図6】同上高周波ミシンにおける高周波電力付与装置及び制御系の構成を示すブロック図である。
図7】同上高周波ミシンによる接着加工動作状態のイメージ図であって、(A)は第1の接着動作モードを示し、(B)は第1の接着動作モードから第2の接着動作モードへの切換え途中を示し、(C)は第2の接着動作モードを示す。
図8】同上高周波ミシンが第1の接着動作モードにある時の要部の拡大縦断正面図である。
図9】同上第1の接着動作モードにある時の要部の拡大縦断側面図である。
図10】同上高周波ミシンが第2の接着動作モードにある時の要部の拡大縦断正面図である。
図11】同上第2の接着動作モードにある時の要部の拡大縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る高周波ミシン全体の外観斜視図、図2は同上高周波ミシン全体の一部を破断して示す左側面図、図3は同上高周波ミシンによる加工対象となる被加工材の要部の拡大断面図、図4は同上高周波ミシンにおける主要部の構成を説明する要部の拡大縦断正面図、図5は同上高周波ミシンにおける主要部の構成を説明する要部の拡大縦断側面図である。
【0024】
図1及び図2に示すように、高周波ミシン1は、ミシン本体2とミシンアーム部3とミシンベッド部4とにより構成されている。
前記ミシンベッド部4の上端部には、後述する被加工材Hを摺接移動可能に載置する被加工材載置板(これは、一般的な縫製ミシンにおける針板に相当し、以下、載置板と称する。)5、滑り板6及び作業用板7がそれらの上面が面一又は略面一の状態で取り付けられている。前記載置板5、滑り板6及び作業用板7は、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ABS、ポリカーボネート等の構造材で、かつ、耐摩耗性、耐食性、電気絶縁性及び耐熱性を有する材料であるエンジニアリングプラスチックから構成されている。特に、載置板5の構成材料としては、ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂からなるスーパーエンジニアリングプラスチックを用いることが好ましい。この場合は、載置板5、滑り板6及び作業用板7の耐熱性、耐摩耗性を一層向上することができる。
【0025】
前記高周波ミシン1による加工対象となる被加工材Hは、図3の(A)に示すように、一枚の繊維生地Wの端部分を折り返して上下に重ね合わせるとともに、その重ね合わせた上下の繊維生地部間に、表裏両面が接着面に形成された熱可塑性樹脂テープであるホットメルト(例えば、日東紡社の商標名「ダンヒューズ」など)Tを挟み込んだもの、図3の(B)に示すように、二枚の繊維生地W,Wの端部同士を突合せ配置すると共に、該二枚の繊維生地W,Wの突合せ端部の上面間に亘って前記ホットメルトTを載せ付け(貼り付けた)もの、図3の(C)に示すように、二枚の繊維生地W,Wの端部同士を上下に重ね合わせ、その重ね合わせ端部の間に前記ホットメルトTを挟み込んだもの、のいずれであってもよい。
【0026】
高周波ミシン1は、前記載置板5、滑り板6及び作業用板7の他に、前記載置板5の載置面上に載置された前記被加工材Hを上下から挟んで水平面に沿う特定方向、即ち、接着加工方向Xへ搬送する上下一対の耐熱性エンドレスベルト8、9と、これら上下一対の耐熱性エンドレスベルト8、9の上下に対向する略水平ベルト部分8a,9aのうち前記接着加工方向Xの終端位置近傍において被加工材Hを上下から挟む位置に配置された上下一対のローラ10、11からなるローラ装置12と、該ローラ装置12に近接させて該ローラ装置12よりも接着加工方向Xの上流部で前記載置板5の上部に配置された上部電極13と、該上部電極13に対向させて前記載置板5の下部に配置された下部電極14と、前記上部電極13及び下部電極14間に高周波電力を付与する高周波電力付与装置15(図6参照)と、制御部16(図6参照)と、を備えている。
なお、前記上部電極13はプラスの電極であり、下部電極14はマイナス電極である。
【0027】
前記上下一対の耐熱性エンドレスベルト8、9は、PTFE等のフッ化エチレン樹脂から構成されている。図4図5に示すように、上下一対の耐熱性エンドレスベルト8、9のうち、上部のエンドレスベルト8は、駆動モータ(ステッピングモータ)17の出力軸17aに固定の駆動プーリー18と前記載置板5の接着加工方向Xの始端位置上方に配置された従動プーリー19と前記ローラ装置12における上部ローラ10及び複数の案内プーリー20とに亘って循環移動するように巻き掛けられており、前記従動プーリー19と前記上部ローラ10との間の略水平ベルト部分8aが前記載置板5と上部電極13との間において接着加工方向Xに移動するように構成されている。
【0028】
下部のエンドレスベルト9は、駆動モータ(ステッピングモータ)21の出力軸21aに固定の駆動プーリー22と複数の案内プーリー23との間に亘って循環移動するように巻き掛けられており、前記上部のエンドレスベルト8の略水平ベルト部分8aに対向し該略水平ベルト部分8aよりも接着加工方向Xに長い水平ベルト部分9aが前記載置板5及び下部電極14の上面に沿って接着加工方向Xに移動するように構成されている。
【0029】
以上の構成によって、上下一対のエンドレスベルト8、9は、上部のエンドレスベルト8の略水平ベルト部分8aと下部のエンドレスベルト8の水平ベルト部分9aとの間に被加工材Hを挟んだ状態で、被加工材Hを上,下部の電極13、14間及び上,下部ローラ10、11間を接着加工方向Xに向けて搬送される。
【0030】
前記上下一対のエンドレスベルト8、9は、各駆動モータ17、21の回転数制御により、高速と低速の二段階に切換え可能であって、高速、低速のいずれに切換えられた場合も上下に対向する略水平ベルト部分8a、9aが前記接着加工方向Xに向けて同速度で移動するように構成されている。また、上部のエンドレスベルト8側の駆動モータ17は、該上部のエンドレスベルト8の移動速度を、下部のエンドレスベルト9の移動速度を基準として微調整可能(手動にて調整可能)な速度調整部35(図6参照)が備えられている。
【0031】
図4図5に示すように、前記上部電極13は、前記従動プーリー19と前記上部ローラ10との間で前記載置板5の上部に配置されていると共に、後述する電極昇降機構24を介して下部電極14に対して接近する下降位置と下部電極14から上方へ離間する上昇位置とに昇降可能に構成されており、該上部電極13は下部電極14に接近する位置に下降された時、前記上下一対のエンドレスベルト8、9間に挟まれて搬送される前記被加工材Hを前記載置板5の載置面側に押付ける押え機能を有している。
【0032】
一方、前記下部電極14は、前記載置板5に形成の上下貫通穴部5aを通して電極面が前記載置板5の載置面と面一となるように固定されている。また、下部電極14には、高周波電力の付与に伴う接着動作時において該下部電極14を高温状態に維持するための予熱用カートリッジヒーター26が差し込み保持されている。
【0033】
前記ローラ装置12における上部ローラ10は、後述するローラ昇降機構25を介して下部ローラ11に対して接近する位置と上方へ離間する位置とに昇降可能に構成されている。一方、前記ローラ装置12における下部ローラ11は、外周面が前記載置板5に形成の貫通穴部5bを通して前記下部のエンドレスベルト8の下面に接触するように、前記載置板5の下部でミシンベッド部4に固定のフレーム29に回転自在に軸支されている。
【0034】
以上の構成によって、前記ローラ装置12は、上部ローラ10が下部ローラ11に接近する位置に下降された時、ローラ取付台26と上部電極13の支持枠27との間に介在のバネ28を介して、上下一対のエンドレスベルト8、9間に挟まれて搬送される被加工材Hを下部ローラ11との間で一定圧以上に弾圧して、高周波誘電加熱により溶融した前記被加工材Hにおける熱可塑性樹脂テープTの接着剤を繊維生地Wに滲み込ませる機能を発揮する。
【0035】
前記ローラ昇降機構25は、前記ローラ取付台26から上方に延びる昇降軸30と該昇降軸30を上下駆動昇降させるように前記ミシンアーム部3の内部に組み込まれた昇降用駆動機構とからなる。かかるローラ昇降機構25の昇降用駆動機構は、一般的な縫製ミシンにおける生地押えを昇降させるために採用されている押え昇降駆動機構と同様な構成を有し、その押え昇降駆動機構をそのままローラ昇降機構25に転用している。従って、一般的な縫製ミシンにおける押え昇降駆動機構自体は周知であるため、それを転用するローラ昇降機構25の具体的な構成の説明及び図示は省略する。
【0036】
前記電極昇降機構24は、前記下部電極14の上流近傍位置に配置された突上げ部材31と該突上げ部材31を前記載置板5に形成の上下貫通穴部5aを通して間欠的に上下に昇降させるように前記ミシンベッド部4の内部に組み込まれた水平運動及び上下運動との組み合わせ運動機構(合成運動機構)とからなる。かかる電極昇降機構24の合成運動機構は、一般的な縫製ミシンにおいて生地を間欠移送する送り歯の合成運動機構と同様な構成を有し、それ合成運動機構をそのまま電極昇降機構24に転用している。従って、一般的な縫製ミシンにおける送り歯の合成運動機構自体は周知であるため、それを転用する電極昇降機構24の具体的な構成の説明及び図示は省略する。
【0037】
前記電極昇降機構24は、前記突上げ部材31の上端が下部のエンドレスベルト9の下面に接触した状態で該突上げ部材31が昇降することにより、上下一対のエンドレスベルト8、9の略水平ベルト部分8a、9a及び被加工材Hの一部分を間欠的に上下に繰り返し変位させ、この繰り返し変位を介して上部電極13を下部電極14に対して接近する位置と上方へ離間する位置とに間欠的に昇降させる。
【0038】
なお、前記ミシンアーム部3の内部には、前記昇降軸30と略平行姿勢で上下方向に作動可能な複動式のシリンダ(図示省略)が設置されている。該複動式シリンダにおける下部シリンダロッド32の下端には、前記上部電極13の支持枠27の頂面に当接して上部電極13の上方への移動(上昇)を規制するストッパー部材33が固定されている。
また、前記電極昇降機構24における突上げ部材31は、上下一対のエンドレスベルト8、9の横幅よりも若干幅の狭い板状に形成されている。
【0039】
次に、高周波電力付与装置15の構成及び制御部16の構成について説明する。
図6に示すように、高周波電力付与装置15は、高周波発振器40と高周波整合装置41と高周波電力の出力を制御する制御回路42と高周波電力の出力調整部43と、を具備してなり、接着加工動作時には、前記上部及び下部電極13、14間に所定の値の高周波電力を連続的に又は間欠的に付与するように構成されている。
【0040】
上記した各構成要素の他に、本実施の形態に係る高周波ミシン1は、前記上下一対のエンドレスベルト8、9における駆動モータ17、21の回転・停止及び回転数を高速・低速に切換えるためのペダル44と、前記ローラ昇降機構25及び電極昇降機構24を動作・停止するための膝スイッチ45とを備えている。前記ペダル44の踏み込み信号及び踏み戻し信号と、前記膝スイッチ45のオン信号及びオフ信号とは、制御部16に入力される。一方、制御部16からは、前記高周波電力付与装置15における制御回路42、前記駆動モータ17、21、前記電極昇降機構24及びローラ昇降機構25のそれぞれに動作制御信号が出力される。
【0041】
以上のような構成からなる高周波ミシン1においては、前記ペダル44の踏み込み信号及び踏み戻し信号並びに膝スイッチ45のオン・オフ信号の前記制御部16への入力に伴い、該制御部16から前記各部42、17、21、24及び25に動作制御信号を出力させることにより、後述するような第1の接着動作モードと第2の接着動作モードとに切換え可能に構成されている。
【0042】
次に、図7の(A)〜(C)、図8及び図9と、図10及び図11を参照して本発明に係る高周波ミシン1の接着動作について詳述する。
(1)第1の接着動作モード:ペダル44を踏み込むと、その踏み込み信号が制御部16に入力されることによって、駆動モータ17、21が回転開始して上下一対のエンドレスベルト8、9が高速側の移動速度に制御されると共に、図7の(A)及び図8図9に示すように、ローラ装置12における上部ローラ10はローラ昇降機構25を介して下部ローラ11に対して接近する位置に下降され、かつ、上部電極13は電極昇降機構24を介して下部電極14に接近する位置に下降されたままである。
【0043】
この状態で、載置板5、滑り板6、作業用板7上に載置支持された被加工材Hは前記上下一対のエンドレスベルト8、9間に挟まれて接着加工方向Xに高速度に且つ直線的に連続移送されながら、上部及び下部電極13、14間を通過する際、高周波電力付与装置15から上部及び下部電極13、14間に所定値の高周波電力が付与され、被加工材Hの熱可塑性樹脂テープTが高周波誘電加熱により溶融される。その後、溶融された熱可塑性樹脂テープTを含む被加工材Hがローラ装置12の上下一対のローラ10、11間を通過する時、被加工材Hが押圧されて溶融された熱可塑性樹脂テープTの接着剤が繊維生地W,Wの突合せ端部又は重ね合わせ部に浸透し、繊維生地W,Wが接着される。該第1の接着動作モードによる直線状の接着動作が完了するまで前記ペダル44は踏み込まれたままであり、接着動作完了後にペダル44を元に戻すと、踏み戻し信号が制御部16に入力されて駆動モータ17、21の回転が停止され、上下一対のエンドレスベルト8、9は停止する。
【0044】
(2)第2の接着動作モード:膝スイッチ45をオン操作すると、そのオン信号が制御部16に入力されることによって、ローラ昇降機構25が作動して図7の(B)に示すように、ローラ装置12の上部ローラ10が下部ローラ11に対して上方へ離間する位置に上昇する。次に、ペダル44を踏み込んで踏み込み信号が制御部16に制御部16に入力されることによって電極昇降機構24が作動し、該電極昇降機構24の突上げ部材31の間欠昇降移動に伴い、図7の(C)及び図10図11に示すように、上下一対のエンドレスベルト8、9及び被加工材Hの一部分が間欠的に上下に
【0044】
(2)第2の接着動作モード:膝スイッチ45をオン操作すると、そのオン信号が制御部16に入力されることによって、ローラ昇降機構25が作動して図7の(B)に示すように、ローラ装置12の上部ローラ10が下部ローラ11に対して上方へ離間する位置に上昇する。次に、ペダル44を踏み込んで踏み込み信号が制御部16に制御部16に入力されることによって電極昇降機構24が作動し、該電極昇降機構24の突上げ部材31の間欠昇降移動に伴い、図7の(C)及び図10図11に示すように、上下一対のエンドレスベルト8、9及び被加工材Hの一部分が間欠的に上下に繰り返し変位し、その繰り返し変位に対応して上部電極13が下部電極14に対して上方へ離間する位置と接近する位置とに間欠的に昇降すると同時に、駆動モータ17、21が回転開始して上下一対のエンドレスベルト8、9が低速側の移動速度に制御される。この状態で、載置板5、滑り板6、作業用板7上に載置支持される被加工材Hは前記上下一対のエンドレスベルト8、9間に挟まれて接着加工方向Xに低速度に移送されながら、上部及び下部電極13、14間を通過する時で、上部電極13が下部電極14に接近する位置に間欠的に下降した毎に高周波電力付与装置15から上部及び下部電極13、14間に所定値の高周波電力が間欠的に付与されて、被加工材Hの熱可塑性樹脂テープTが高周波誘電加熱により溶融される。この第2の接着動作モードにおいて、上下一対のエンドレスベルト8、9に挟まれて移送される被加工材Hの移動速度は低速であるため、高周波電力が間欠的に付与されるだけでありながらも、熱可塑性樹脂テープTは接着加工方向Xに途切れなく連続的に溶融することが可能で、熱可塑性樹脂テープTの接着剤を繊維生地W,Wの突合せ端部又は重ね合わせ部の全域に満遍なく浸透させて繊維生地W,Wを確実且つ強固に接着することができる。
【0045】
また、第2の接着動作モードにおいては、上部ローラ10は下部ローラ11に対して上方へ離間する位置に上昇されたままにあり、上部電極13が下部電極14に対して上方へ離間する位置に間欠的に上昇されている時の被加工材Hに加わる接触圧は、第1の接着動作モードの時に比べて小さいために、この接触圧が小さくなった瞬間毎に作業者が被加工材Hを手に持って任意の方向に振り操作することにより、被加工材Hを徐々に方向転換して容易に曲線移送させて、曲線状部位の接着も容易かつ確実に行うことができる。
【0046】
そして、接着動作後は、ペダル44を踏み返し、その踏み返し信号を制御部16に入力することにより、上下一対のエンドレスベルト8の移動が停止される。続いて、ペダル44を再度踏み込んで、その踏み込み信号が制御部16に入力することにより、上部電極13及び上部ローラ10が上昇する。この状態で、繊維生地W,Wの重ね合わせ部又は突合せ端部が熱可塑性樹脂テープTにより接着された加工製品を高周波ミシン1から取り出すことができる。
【0047】
なお、第1の接着動作モード時及び第2の接着動作モード時に上下一対の電極13、14間に付与する高周波電力の所定の値とは、誘電加熱される一対の電極13、14が熱可塑性樹脂テープTを溶融させて繊維生地Wの重ね合わせ端部を接着させるに必要かつ十分な値であり、この値は、接着加工対象となる繊維生地Wの耐熱性などに応じて事前に設定される。特に、高周波電力が上部電極13及び下部電極14間に間欠的に付与される第2の接着動作モード時には、高周波電力が上部電極13及び下部電極14間に連続的に付与される第1の接着動作モード時よりも繊維生地の重ね合わせ部又は突合せ端部における接着力が低下しやすい。それを解消するために、つまり、第2の接着動作モード時における接着力を第1の接着動作モード時における接着力と同等又は略同等に保つために、一対のエンドレスベルト8、9による被加工材Hの搬送速度を第1の接着動作モード時の搬送速度より低速にすると共に、付与する高周波電力の値も第1の接着動作モード時よりも少し大きい値に設定することが望ましい。
【0048】
ただし、一対のエンドレスベルト8、9による被加工材Hの搬送速度は、例えば、繊維生地の種類等に応じて適宜に調整して用いることができるように構成されている。そこで、被加工材Hの搬送速度を調整した場合は、その速度調整に応じて前記出力調整部43を介して高周波電力の出力も任意に調整する。これによって、被加工材Hの搬送速度の調整にかかわらず、常に同等又は略同等の接着力を確保することができると共に、上,下部の電極13,14が間欠的に離間する第2の接着動作モード時に上,下部の電極13,14間でスパークが発生して繊維生地にダメージを与えることも防ぐことができる。
【0049】
その結果、曲線状部位と直線状部位とが混在する被加工材を接着対象とし、これをいかなる速度で搬送する場合でも、被接着部位の全域を均一又は略均一に接着し、且つ、繊維生地へのダメージもない仕上がり良好なアパレル品を確実に加工することができる。
【0050】
以上詳述したような本実施の形態の高周波ミシン1は、一般的な縫製ミシンに比べて、ミシン全体の構造の簡素化、小型化を図りやすいという利点、及び、一対の電極間に付与される高周波電力によって発生される熱を、線あるいは点接触部といった極小面積部に集中させることなく、上下一対の電極13、14の面接触部に分散させることが可能で、高周波電力による熱が極小面積部に集中することに起因する繊維生地の焼損や破孔(孔明き)などの不良箇所の発生を極力回避することができるという利点を有するのはもとより、被加工材Hを上下一対の耐熱性エンドレスベルト8、9で上下から挟んで、これら上下一対のエンドレスベルト8、9と共に被加工材Hを上下一対の電極13、14間に連続的に通過させることが可能であるため、被加工材Hの繊維生地の表裏両面に電極13、14が直接に接触することによる押圧痕及び断続的な過熱痕の発生をなくすることができる。
【0051】
また、被加工材Hを上下一対のエンドレスベルト8、9により挟み込んで移送するので、溶融された可塑性樹脂テープTの接着剤が繊維生地中に浸透しやすいようにローラ装置12における上部ローラ10による被加工材Hへの押圧力を強目に設定しても、該押圧力によって繊維生地が波打ちすることを抑制することができる。その結果、繊維生地から製造されたアパレル品として、仕上がりの面で非常に見栄えも体裁もよく、製品価値の向上を図ることができる。
【0052】
その上、上記したような第1の接着動作モード及び第2の接着動作モードを適宜に組み合わせることにより、例えば、直線状部位→曲線状部位が連なる被加工材、曲線状部位→直線状部位が連なる被加工材、直線状部位→曲線状部位→直線状部位が連なる被加工材、曲線状部位→直線状部位→曲線状部位が連なる被加工材等、接着すべき部位が直線と曲線を含んだいかなる形態の部位を有する被加工材であっても、各部位に沿った接着加工を容易且つ確実に行うことができる。
【0053】
また、本実施の形態の高周波ミシン1においては、前記上下一対の耐熱性エンドレスベルト8、9のうち、上部のエンドレスベルト8の移動速度を、下部のエンドレスベルト9の移動速度に対して調整可能な速度調整部35が設けられている。
この場合は、速度調整部35を適宜操作して上下一対の耐熱性エンドレスベルト8、9の移動速度を相対的に調整することにより、重ね合わせられた下部の繊維生地部分と上部の繊維生地部分との移送方向の位置ずれを修正することが可能であるので、上下の繊維生地部分が位置ずれしたままの状態で接着されることを防ぎ、一層仕上がりのよいアパレル品を得ることができる。
【0054】
また、本実施の形態の高周波ミシン1において、電極昇降機構24として、水平運動及び上下運動の組み合わせによって下部の耐熱性エンドレスベルト9の下面に接触して上下一対の耐熱性エンドレスベルト8、9及び被加工材Hの一部分を間欠的に上下に繰り返し変位させるように間欠昇降移動する突き上げ部材31を用いた機構を採用している。これによって、一般的な縫製ミシンの送り歯を水平運動及び上下運動の組み合わせによって駆動すべく構成されている既知の送り歯循環駆動機構を有効利用して構造的に簡単且つ小型に構成することができる。
【0055】
また、本実施の形態の高周波ミシン1においては、前記第1の接着動作モードから第2の接着動作モードへの切換えに伴い、まず、前記ローラ昇降機構25により前記上部ローラ10を下部ローラ11に対して上方へ離間する位置に上昇させ、次いで、該上部ローラ10の上昇状態を維持したままで前記電極昇降機構24により前記上部電極13を下部電極14に対して間欠的に昇降させる制御を実行するように構成されている。
【0056】
この場合は、第2の接着動作モードへの切換えに当たり、最初に上部ローラ10をローラ昇降機構25により上方へ離間上昇させた後、その状態を維持したままで電極昇降機構24により上部電極14を間欠的に昇降させるので、上部ローラ10も一緒に昇降させるものに比べて、電極昇降機構24の動作負荷を軽減することが可能である。特に、突き上げ部材31を使用する電極昇降機構24の場合、動作負荷の軽減によって突き上げ部材31自体の突き上げ面積を極力小さくすることが可能となり、昇降機構24の小型化、簡素化を図ることができる。
【0057】
また、本実施の形態の高周波ミシン1においては、下部電極14に、高周波電力の付与に伴う接着動作時において該下部電極14を高温状態に維持するための予熱用カートリッジヒーター26を差し込み保持させているので、特に下部電極14を予熱して被加工材Hを常に高い温度に保持することが可能である。そのため、上下一対の電極13、14間に付与する高周波電力をできるだけ低く設定してスパークの発生を防止しつつも、熱可塑性樹脂テープTを確実且つ迅速に溶融して所定の接着加工を常に効率よく、かつ、安定よく行なうことができる。
【0058】
更に、本実施の形態のように、載置板5、滑り板6及び作業用板7等を、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジリアリングプラスチックのように、耐摩耗性、電気絶縁性及び耐熱性に優れた材料から構成することにより、それら載置板5、滑り板6及び作業用板7等の構造強度を十分に確保できるとともに、耐摩耗性、耐食性、電気絶縁性及び耐熱性にも優れ、高周波電力が与えられる条件下で使用される各部材を耐久性の高いものに構成することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 高周波ミシン
5 被加工材載置板
8、9 上下一対の耐熱性エンドレスベルト
10、11 上下一対のローラ
12 ローラ装置
13、14 上部及び下部電極
15 高周波電力付与装置
16 制御部
17、21 駆動モータ(ステッピングモータ)
24 電極昇降機構
25 ローラ昇降機構
31 突上げ部材
35 速度調整部
43 出力調整部
W 繊維生地
T 熱可塑性樹脂テープ
H 被加工材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11