特許第6164551号(P6164551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164551
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】保持具、及び雑音電流吸収具
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/32 20060101AFI20170710BHJP
   F16B 2/08 20060101ALI20170710BHJP
   H01F 17/06 20060101ALI20170710BHJP
   H01F 27/06 20060101ALI20170710BHJP
   H03H 7/01 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   H02G3/32
   F16B2/08 F
   H01F17/06 K
   H01F15/02 D
   H03H7/01 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-3750(P2013-3750)
(22)【出願日】2013年1月11日
(65)【公開番号】特開2014-135871(P2014-135871A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】川合 秀治
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−240317(JP,A)
【文献】 実用新案登録第2576706(JP,Y2)
【文献】 実用新案登録第2560759(JP,Y2)
【文献】 特開2014−60326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/32
F16B 2/08
H01F 17/06
H01F 27/06
H03H 7/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに当接させると全体として筒状又は環状になる一対の磁性体のそれぞれを収納する一対の収納部を有し、前記収納部それぞれに前記磁性体それぞれを収納して、前記収納部間に電線を挟み込むかたちで当該電線の外周に装着すると、前記筒状又は環状となった前記一対の磁性体が前記電線の外周を取り囲む位置で保持される状態になる雑音電流吸収具用の保持具であって、
前記保持具は、係合部と当該係合部が係合可能な被係合部とを有し、前記係合部を前記被係合部に係合させると、前記保持具が閉状態となって前記一対の磁性体の出し入れが不能となる一方、前記係合部と前記被係合部との係合を解除すると、前記保持具が開状態となって前記一対の磁性体の出し入れが可能となる構造とされ、
前記収納部は、前記電線の軸方向における前記収納部の両端のうち、一端を画定する第一側壁と、他端を画定する第二側壁と、前記第一側壁と前記第二側壁との間で前記収納部の外周部分を画定する周壁とを備え、
前記第一側壁には、前記電線に沿って前記収納部の外側に向かって延出する延出片が設けられ、
前記収納部の前記第二側壁側には、前記一対の収納部それぞれが備える延出片を互いに所定距離以下まで接近させる外力が作用した際に、前記一対の収納部それぞれの前記第二側壁が互いに離間する方向へ変位するのを阻止する阻止部が設けられ、
前記阻止部は、一方の前記収納部から他方の前記収納部に向かって突出する嵌合部が、他方の前記収納部に設けられた被嵌合部に嵌合することで、前記第二側壁が互いに離間する方向へ変位するのを阻止する構造とされ、
前記嵌合部及び前記被嵌合部は、前記係合部及び前記被係合部とは別の部分であって、前記係合部及び前記被係合部は、前記保持具が前記閉状態とされても前記保持具の外部に露出する位置にある一方、前記嵌合部及び前記被嵌合部は、前記保持具が前記閉状態とされると前記保持具の外部には露出しない位置にあり、
前記嵌合部は、当該嵌合部の突出方向から見て前記電線の軸方向と平行な方向の長さが前記電線の軸方向に垂直な方向の長さよりも長い形状とされることにより、当該嵌合部又は前記第二側壁の変形を伴って前記嵌合部の先端が前記電線の軸方向へ変位するのを抑制してある
ことを特徴とする保持具。
【請求項2】
前記嵌合部は、当該嵌合部の突出方向から見て前記電線の軸方向と平行な方向の長さが前記電線の軸方向に垂直な方向の長さよりも長い形状とされていて、しかも、前記電線の軸方向と平行な箇所において前記周壁と一体成形されるとともに、前記電線の軸方向に垂直な箇所において前記第二側壁と一体成形されている
ことを特徴とする請求項1に記載の保持具。
【請求項3】
互いに当接させると全体として筒状又は環状になる一対の磁性体と、
前記一対の磁性体のそれぞれを収納する一対の収納部を有し、前記収納部それぞれに前記磁性体それぞれを収納して、前記収納部間に電線を挟み込むかたちで当該電線の外周に装着すると、前記筒状又は環状となった前記一対の磁性体が前記電線の外周を取り囲む位置で保持される状態になる保持具と
を備えた雑音電流吸収具であって、
前記保持具は、係合部と当該係合部が係合可能な被係合部とを有し、前記係合部を前記被係合部に係合させると、前記保持具が閉状態となって前記一対の磁性体の出し入れが不能となる一方、前記係合部と前記被係合部との係合を解除すると、前記保持具が開状態となって前記一対の磁性体の出し入れが可能となる構造とされ、
前記収納部は、前記電線の軸方向における前記収納部の両端のうち、一端を画定する第一側壁と、他端を画定する第二側壁と、前記第一側壁と前記第二側壁との間で前記収納部の外周部分を画定する周壁とを備え、
前記第一側壁には、前記電線に沿って前記収納部の外側に向かって延出する延出片が設けられ、
前記収納部の前記第二側壁側には、前記一対の収納部それぞれが備える延出片を互いに所定距離以下まで接近させる外力が作用した際に、前記一対の収納部それぞれの前記第二側壁が互いに離間する方向へ変位するのを阻止する阻止部が設けられ、
前記阻止部は、一方の前記収納部から他方の前記収納部に向かって突出する嵌合部が、他方の前記収納部に設けられた被嵌合部に嵌合することで、前記第二側壁が互いに離間する方向へ変位するのを阻止する構造とされ、
前記嵌合部及び前記被嵌合部は、前記係合部及び前記被係合部とは別の部分であって、前記係合部及び前記被係合部は、前記保持具が前記閉状態とされても前記保持具の外部に露出する位置にある一方、前記嵌合部及び前記被嵌合部は、前記保持具が前記閉状態とされると前記保持具の外部には露出しない位置にあり、
前記嵌合部は、当該嵌合部の突出方向から見て前記電線の軸方向と平行な方向の長さが前記電線の軸方向に垂直な方向の長さよりも長い形状とされることにより、当該嵌合部又は前記第二側壁の変形を伴って前
記嵌合部の先端が前記電線の軸方向へ変位するのを抑制してある
ことを特徴とする雑音電流吸収具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑音電流吸収具用の保持具、及び雑音電流吸収具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線に取り付けられて当該電線を流れる雑音電流を吸収する雑音電流吸収具が知られている。この種の雑音電流吸収具の一つとして、互いに当接させると全体として筒状又は環状(以下、両形状のことを筒状と総称する。)になる一対の磁性体と、これらの磁性体が筒状とされた状態で両磁性体を保持可能な保持具とを備えるものがある。
【0003】
このような構造の雑音電流吸収具を電線に対して取り付けると、筒状になる一対の磁性体が電線を外周側から取り囲み、これにより、一対の磁性体が磁気的に閉磁路を形成して、所期の雑音電流吸収能が発揮されることになる。
【0004】
また、この種の雑音電流吸収具用の保持具としては、筒状周壁と円形中央窓部を有する側壁とによる中空筒体を二等分した筒状コア用分割型ホルダーにおいて、前記筒体の外方へ延びる、内面に複数個の突起を有する樋状片を、側壁外面の半円形窓部中央に帯状連結片を介して一体にそれぞれ設けたことを特徴とする筒状コア用ホルダーが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この筒状コア用ホルダーの場合、樋状片を電線に両側から当接させ、樋状片の上から束線バンドで緊縛することにより、ホルダーを電線に固定することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−240317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載された技術の場合、図7に示すように、ホルダー(保持具)91と電線92とを束線バンド93で緊縛した際、一対の樋状片94,94間の間隔よりも電線92の径が細いと、ホルダー91を適切に装着できないことがある。
【0007】
より詳しくは、束線バンド93によって樋状片94,94が図7中に示す矢印Z1,Z2方向へ強く押圧されると、樋状片94,94の突設箇所とは反対側にある側壁95,95が図7中に示す矢印Z3,Z4方向へと変位することがある。この場合、ホルダー91の内部に収納された一対のコア片(磁性体)96,96間にも隙間(図7中に示す間隔Gの隙間)が生じるため、コア片96,96による閉磁路が適切に形成されなくなり、所期の雑音電流吸収能が発揮されなくなるおそれがある。
【0008】
このような問題は、上述のように電線92の径が細い場合以外にも、例えば、電線92の外被が柔らかくて潰れやすい場合にも発生し得る問題である。例えば、束線バンド93で緊縛した際、電線92の外被が潰れて一対の樋状片94,94が電線92の外被に食い込めば、樋状片94,94間の間隔は、本来の電線92の径よりも小さくなる。したがって、仮に電線92の径と一対の樋状片94,94間の間隔が一致する組み合わせを選定していたとしても、上記のような問題が発生することになる。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決可能なものであり、その目的の一つは、電線に装着された際に磁性体をより適切な状態で保持可能な雑音電流吸収具用の保持具、及び雑音電流吸収具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に説明する保持具は、互いに当接させると全体として筒状又は環状になる一対の磁性体のそれぞれを収納する一対の収納部を有し、前記収納部それぞれに前記磁性体それぞれを収納して、前記収納部間に電線を挟み込むかたちで当該電線の外周に装着すると、前記筒状又は環状となった前記一対の磁性体が前記電線の外周を取り囲む位置で保持される状態になる雑音電流吸収具用の保持具であって、前記収納部は、前記電線の軸方向における前記収納部の両端のうち、一端を画定する第一側壁と、他端を画定する第二側壁と、前記第一側壁と前記第二側壁との間で前記収納部の外周部分を画定する周壁とを備え、前記第一側壁には、前記電線に沿って前記収納部の外側に向かって延出する延出片が設けられ、前記収納部の前記第二側壁側には、前記一対の収納部それぞれが備える延出片を互いに所定距離以下まで接近させる外力が作用した際に、前記一対の収納部それぞれの前記第二側壁が互いに離間する方向へ変位するのを阻止する阻止部が設けられ、前記阻止部は、一方の前記収納部から他方の前記収納部に向かって突出する嵌合部が、他方の前記収納部に設けられた被嵌合部に嵌合することで、前記第二側壁が互いに離間する方向へ変位するのを阻止する構造とされ、前記嵌合部は、当該嵌合部の突出方向から見て前記電線の軸方向と平行な方向の長さが前記電線の軸方向に垂直な方向の長さよりも長い形状とされるか、前記第二側壁との間に空隙をなす位置に形成されることにより、当該嵌合部又は前記第二側壁の変形を伴って前記嵌合部の先端が前記電線の軸方向へ変位するのを抑制してあることを特徴とする。
【0011】
このような保持具を利用して雑音電流吸収具を構成すれば、延出片を電線の両側に配置して、その外周から何らかの部材(例えば、束線バンド等)で緊縛することにより、雑音電流吸収具を電線に対して強固に固定することができる。
【0012】
しかも、一対の延出片間の間隔よりも電線の径が細い場合に、一対の延出片が外周側から強く緊縛されたとしても、上述のような阻止部が設けられているので、一対の収納部それぞれの第二側壁が互いに離間する方向へ変位することは阻止される。したがって、このような阻止部が設けられていないものに比べ、保持具によって保持された一対の磁性体間には隙間が生じにくくなり、一対の磁性体によって形成される磁気的な閉磁路が適切に維持されるため、良好な雑音吸収効果を確実に得ることができる。
【0013】
また、上述した阻止部を構成する嵌合部は、当該嵌合部の突出方向から見て電線の軸方向と平行な方向の長さが電線の軸方向に垂直な方向の長さよりも長い形状とされていれば、電線の軸方向へ曲がりにくくなるので、嵌合部の先端が電線の軸方向へ変位するのを抑制できるようになる。また、嵌合部と第二側壁との間に空隙をなす位置に嵌合部が形成されていれば、第二側壁が変形しても、それに追従して嵌合部が曲がることはなくなるので、嵌合部の先端が電線の軸方向へ変位するのを抑制できるようになる。
【0014】
したがって、これらのうち、いずれか一方又は両方の構成を採用すれば、嵌合部の先端が電線の軸方向へ変位しやすい構造となっているものに比べ、一対の第一側壁側を支点として一対の第二側壁間が離間する方向へ変位した際に、第二側壁間が離間しやすくなる方向へ嵌合部の先端が変位してしまうのを防止ないし抑制できる。よって、一対の磁性体間に隙間が生じるのを防止ないし抑制する効果を高めることができ、より一層良好な雑音吸収効果を期待することができるようになる。
【0015】
また、以上のように構成された保持具において、前記嵌合部は、当該嵌合部の突出方向から見て前記電線の軸方向と平行な方向の長さが前記電線の軸方向に垂直な方向の長さよりも長い形状とされていて、しかも、前記電線の軸方向と平行な箇所において前記周壁と一体成形されるとともに、前記電線の軸方向に垂直な箇所において前記第二側壁と一体成形されていると好ましい。
【0016】
このような保持具を利用して雑音電流吸収具を構成すれば、嵌合部が周壁及び第二側壁に対して一体成形されているので、嵌合部の曲げ剛性が高くなり、嵌合部の先端が電線の軸方向へ変位するのを、更に良好に防止ないし抑制することができる。
【0017】
特に、嵌合部は、電線の軸方向と平行な方向の長さが電線の軸方向に垂直な方向の長さよりも長い形状とされているので、周壁と一体成形された部分の長さが第二側壁と一体成形された部分の長さよりも長くなる。したがって、概ね筒状体の一部に相当する形状とされる周壁と、概ね板状体に相当する形状とされる第二側壁とでは、第二側壁の方が曲げ剛性は低くなりやすいが、より曲げ剛性の高い周壁側が主となって嵌合部をしっかりと支持するので、第二側壁側が主となって嵌合部を支持するもの以上に、嵌合部の先端が変位するのを防止ないし抑制する効果を高めることができる。
【0018】
また、以下に説明する雑音電流吸収具は、互いに当接させると全体として筒状又は環状になる一対の磁性体と、前記一対の磁性体のそれぞれを収納する一対の収納部を有し、前記収納部それぞれに前記磁性体それぞれを収納して、前記収納部間に電線を挟み込むかたちで当該電線の外周に装着すると、前記筒状又は環状となった前記一対の磁性体が前記電線の外周を取り囲む位置で保持される状態になる保持具とを備えた雑音電流吸収具であって、前記収納部は、前記電線の軸方向における前記収納部の両端のうち、一端を画定する第一側壁と、他端を画定する第二側壁と、前記第一側壁と前記第二側壁との間で前記収納部の外周部分を画定する周壁とを備え、前記第一側壁には、前記電線に沿って前記収納部の外側に向かって延出する延出片が設けられ、前記収納部の前記第二側壁側には、前記一対の収納部それぞれが備える延出片を互いに所定距離以下まで接近させる外力が作用した際に、前記一対の収納部それぞれの前記第二側壁が互いに離間する方向へ変位するのを阻止する阻止部が設けられ、前記阻止部は、一方の前記収納部から他方の前記収納部に向かって突出する嵌合部が、他方の前記収納部に設けられた被嵌合部に嵌合することで、前記第二側壁が互いに離間する方向へ変位するのを阻止する構造とされ、前記嵌合部は、当該嵌合部の突出方向から見て前記電線の軸方向と平行な方向の長さが前記電線の軸方向に垂直な方向の長さよりも長い形状とされるか、前記第二側壁との間に空隙をなす位置に形成されることにより、当該嵌合部又は前記第二側壁の変形を伴って前記嵌合部の先端が前記電線の軸方向へ変位するのを抑制してあることを特徴とする。
【0019】
このように構成された雑音吸収具においては、保持具が先に説明した保持具と同等に構成され、既に説明した通りの作用、効果を奏するので、一対の磁性体間に隙間が生じるのを防止ないし抑制することができ、良好な雑音吸収効果を期待することができる。
【0020】
なお、このように構成された雑音電流吸収具においても、前記嵌合部は、当該嵌合部の突出方向から見て前記電線の軸方向と平行な方向の長さが前記電線の軸方向に垂直な方向の長さよりも長い形状とされていて、しかも、前記電線の軸方向と平行な箇所において前記周壁と一体成形されるとともに、前記電線の軸方向に垂直な箇所において前記第二側壁と一体成形されていると好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)は雑音電流吸収具の使用状態を示す斜視図、(b)雑音電流吸収具を示す斜視図。
図2】(a)は保持具を示す斜視図、(b)は磁性体を示す斜視図。
図3】(a)は一対の収納部が係合していない状態を第一側壁側から見た説明図、(b)は一対の収納部が係合した状態を第一側壁側から見た説明図。
図4】雑音電流吸収具の使用状態を周壁側から見た説明図。
図5】別の保持具の斜視図。
図6】更に別の保持具の斜視図。
図7】従来の雑音電流吸収具の問題点を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について、具体的な事例を挙げて説明する。なお、以下の説明においては、必要に応じて図中に併記した上下左右前後の各方向を利用して説明を行う。ただし、これらの各方向は、雑音電流吸収具ないし保持具を構成する各部の相対的な位置関係を簡潔に説明するために規定した方向にすぎない。実際に雑音電流吸収具ないし保持具を利用するに当たって、雑音電流吸収具ないし保持具がどのような方向に向けられるかは任意であり、例えば、図中に示す上下方向が重力との関係で鉛直方向とは一致しない状態で使用されてもかまわない。
【0023】
[第一の事例]
図1(a)及び図1(b)に示す雑音電流吸収具1は、電線2を流れる雑音電流を吸収するために電線2の外周に装着されるもので、樹脂製の保持具3と、磁性材料(本実施形態ではフェライト)製の筒状磁性体5とを備えている。保持具3は、一対の樹脂部品3A,3Aを組み合わせて構成され、筒状磁性体5は、一対の磁性体5A,5Aを組み合わせて構成される。
【0024】
ただし、一対の樹脂部品3A,3Aは同形状、一対の磁性体5A,5Aも同形状なので、図1(a)及び図1(b)においては、図中下側に配置された樹脂部品3Aと磁性体5Aだけを実線で明示してある。実際には、図中上側にも樹脂部品3A(図1(a)中の仮想線参照。)と磁性体5A(図示略)が、上下左右を180度反転させた状態で配設される。
【0025】
電線2は、一対の磁性体5A,5A間に挟み込まれる位置に配置され、これにより、筒状磁性体5の内周側に通された状態とされる。なお、以下は、図中下側に配置された樹脂部品3Aと磁性体5Aを参照しつつ説明を続ける。
【0026】
樹脂部品3Aは、図2(a)に示すように、磁性体5Aを収納可能な収納部10を備えている。収納部10は、図中前端側を画定する第一側壁11と、図中後端側を画定する第二側壁12と、第一側壁11と第二側壁12との間で外周側を画定する周壁13とを有し、図中上面側は磁性体5Aを出し入れするための開口面15とされている。
【0027】
周壁13の内面側で、開口面15の図中下方となる位置には、収納部10に収納された磁性体5Aを開口面側(図中上方向)に向かって付勢する付勢片16が突設されている。また、周壁13の内面側には、図中左右一対の突起部17,17が形成されている(ただし、図2(a)では左側の突起部17だけを図示。)。
【0028】
周壁13の図中左端略中央には、図中上向きに突出する係合部18が形成され、周壁13の図中右端略中央には、上記係合部18を図中下向きにして挿し込むと係合部18と係合する被係合部19が設けられている。
【0029】
これら係合部18及び被係合部19は、一対の樹脂部品3A,3Aそれぞれが備える開口面15同士を突き合わせる向きにして合わせた際に、一方の樹脂部品3Aが有する係合部18と他方の樹脂部品3Aが有する被係合部19が係合するとともに、前記他方の樹脂部品3Aが有する係合部18と前記一方の樹脂部品3Aが有する被係合部19が係合する。
【0030】
第一側壁11及び第二側壁12には、それぞれ略半円形の切欠11A,12Aが形成されている。そして、第一側壁11側の切欠11Aの周縁略中央付近から収納部10の外方に向かって延出片20が延出している。
【0031】
また、周壁13の図中後端付近、かつ第二側壁12の図中左端付近には、図中上向きに突出する嵌合部21が形成され、周壁13の図中後端付近、かつ第二側壁12の図中右端付近には、上記嵌合部21を図中下向きにして挿し込むと嵌合部21が嵌合する被嵌合部22が設けられている。
【0032】
これら嵌合部21及び被嵌合部22は、一対の樹脂部品3A,3Aそれぞれが備える開口面15同士を突き合わせる向きにして合わせた際に、一方の樹脂部品3Aが有する嵌合部21と他方の樹脂部品3Aが有する被嵌合部22が嵌合するとともに、前記他方の樹脂部品3Aが有する嵌合部21と前記一方の樹脂部品3Aが有する被嵌合部22が嵌合する。
【0033】
磁性体5Aは、図2(b)に示すように、筒状体を軸方向に平行な面で二分割してなる形状とされている。磁性体5Aの中央部には、軸方向に垂直な断面の形状が半円形とされた電線挿通溝25が軸方向に沿って形成され、電線挿通溝25の左右両側には、磁性体5A,5Aを組み合わせて筒状磁性体5を構成する際に互いに当接する状態とされる当接面26が形成されている。
【0034】
また、磁性体5Aの外周側には、軸方向(図中前後方向)に延びる係合溝27,27が形成されている。これらの係合溝27,27は、磁性体5Aが収納部10に嵌め込まれた際に、上述した突起部17,17と係合する。
【0035】
以上のような雑音電流吸収具1は、図3(a)に示すように、開口面15,15同士を離すことで保持具3が開状態にされると、収納部10,10に対する磁性体5A,5Aの出し入れが可能となる。ただし、各磁性体5Aの係合溝27,27には、突起部17,17とが係合(図示せず)しているため、磁性体5Aが容易に収納部10,10から抜け落ちてしまうことはない。なお、この状態では磁性体5A同士は当接しておらず、筒状磁性体5を形成する状態にはない。
【0036】
一方、図3(b)に示すように、収納部10,10の開口面15,15同士を合わせることで保持具3が閉状態にされると、収納する磁性体5Aの出し入れが不能となる。この状態では、一方の樹脂部品3Aが有する係合部18と他方の樹脂部品3Aが有する被係合部19が係合するとともに、前記他方の樹脂部品3Aが有する係合部18と前記一方の樹脂部品3Aが有する被係合部19が係合しているため、保持具3は閉状態が維持される。
【0037】
また、保持具3が閉状態になると、一方の樹脂部品3Aが有する嵌合部21と他方の樹脂部品3Aが有する被嵌合部22が嵌合するとともに、前記他方の樹脂部品3Aが有する嵌合部21と前記一方の樹脂部品3Aが有する被嵌合部22が嵌合する。これら嵌合部21,21及び被嵌合部22,22の作用については後述する。
【0038】
保持具3が閉状態になると、磁性体5A,5Aは、互いの当接面26,26同士が当接して、これにより、筒状磁性体5が構成されることになる。この筒状磁性体5の貫通孔(すなわち、2つの電線挿通溝25,25に囲まれた領域)は、電線2を挿通するための挿通孔28となる。なお、磁性体5A,5Aは付勢片16により互いに向かって付勢される状態にあるため、磁性体5A,5A同士は、その当接面26同士が確実に当接し、その当接状態が維持される。
【0039】
第一側壁11及び第二側壁12それぞれの切欠11A,12Aは、磁性体5A,5Aの電線挿通溝25,25に合わせて形成されているため、保持具3を閉じても挿通孔28が塞がれることはない。
【0040】
雑音電流吸収具1を電線2に対して取り付ける際には、保持具3を開状態にして電線挿通溝25,25間に電線2を配置し、保持具3を閉状態とすることで、雑音電流吸収具1が電線2の外周に装着される。また、雑音電流吸収具1を電線2に対して強固に固定したい場合には、図4に示すように、電線2を挟む両側の位置にある延出片20,20の外周側から、何らかの部材(例えば、束線バンド30)で電線2及び延出片20,20を緊縛する。
【0041】
このとき、電線2の径が延出片20,20間の距離よりも細い場合、あるいは、電線2の外被が柔らかくて延出片20,20が電線2に対して食い込む場合などには、延出片20,20間の距離が本来の設計寸法よりも接近する状態となる。この場合、[発明が解決しようとする課題]の欄で図示を交えて説明した通り、緊縛された方の端部(第一側壁11側)とは反対側の端部(第二側壁12側)では、上下にある第二側壁12,12間を上下に離間させようとする力が作用する。
【0042】
しかし、この保持具3では、第二側壁12,12側となる位置に、嵌合部21,21及び被嵌合部22,22が設けられ、これらが上述の通り互いに嵌合しているため、これにより、第二側壁12,12の離間が阻止される。すなわち、嵌合部21,21及び被嵌合部22,22は、一対の収納部10,10それぞれの第二側壁12,12が互いに離間する方向へ変位するのを阻止する阻止部として機能している。
【0043】
したがって、収納部10,10の離間が防止ないし抑制され、保持具3は閉状態が適切に維持される。その結果、一対の収納部10,102内に収納される磁性体5A,5A(詳しくは当接面26,26)同士が離れることがなく、一対の磁性体5A,5Aによって磁気的な閉磁路が形成された状態が適切に維持されるため、雑音吸収効果を確実に得ることができる。
【0044】
また特に、上記嵌合部21の場合、嵌合部21の突出方向(図中上方)から見て電線2の軸方向と平行な方向(図中前後方向)の長さL1が電線2の軸方向に垂直な方向(図中左右方向)の長さL2よりも長い形状(すなわち、L1>L2)とされている。そのため、前後方向の厚みが薄い場合(すなわち、L1<L2)に比べ、嵌合部21は電線2の軸方向へ曲がりにくくなり、嵌合部21の変形に伴って嵌合部21の先端が電線2の軸方向へ変位するのを抑制することができる。
【0045】
したがって、一対の第二側壁12,12間を離間させようとする力が作用した際に、第二側壁12,12間が離間しやすくなる方向へ嵌合部21,21の先端が変位してしまうのを防止ないし抑制できる。これにより、一対の磁性体5A,5A間に隙間が生じるのを防止ないし抑制する効果を高めることができる。
【0046】
また、上記嵌合部21の場合、嵌合部21が第二側壁12及び周壁13に対して一体成形されているので、この点でも嵌合部21の曲げ剛性が高くなり、嵌合部21の先端が電線2の軸方向(図中前後方向)へ変位するのを、更に良好に防止ないし抑制することができる。第二側壁12と周壁13とを比べると、第二側壁12は平面状、周壁13は円筒曲面状となっている。そのため、壁の肉厚が同等であれば周壁13の方が第二側壁12よりも剛性が高くなる。上記嵌合部21の場合、上述の通り、周壁13に対して一体成形されている部分の長さL1が、第二側壁12に対して一体成形されている部分の長さL2よりも長くされている(すなわち、L1>L2)。したがって、第二側壁12が多少変形したとしても、嵌合部21は周壁13によってしっかりと支持され、第二側壁12の変形に伴って嵌合部21の先端が変位することも抑制される。
【0047】
[第二の事例]
次に、別の事例について説明する。なお、以下に説明する事例は、上述した第一の事例と共通する構成が多いので、第一の事例との相違点を中心に詳述し、共通する構成に関しては、第一の事例と同じ符号を付すだけにとどめ、その詳細な説明を省略する。
【0048】
上述した第一の事例では、嵌合部21の前後方向長L1と左右方向長L2との関係をL1>L2とすることで、第二側壁12が多少変形したとしても、嵌合部21は周壁13によってしっかりと支持される構造としてあったが、第二側壁12が変形した場合に、嵌合部21に与える影響を排除する手段としては、以下のような構成も考え得る。
【0049】
すなわち、図5に示す事例においては、嵌合部21と第二側壁12との間に間隔Gの空隙31をなす位置に嵌合部21が形成されている。すなわち、嵌合部21は、周壁13に対して一体成形されているものの、第二側壁12からは離間した状態にある。
【0050】
このような構成を採用すれば、第二側壁12が多少変形したとしても、それに追従して嵌合部21が曲がることはなくなるので、嵌合部21の先端が電線2の軸方向(図中前後方向)へ変位するのを抑制することができる。
【0051】
したがって、このような構成を採用しても、一対の第二側壁12,12間を離間させようとする力が作用した際に、第二側壁12,12間が離間しやすくなる方向へ嵌合部21,21の先端が変位してしまうのを防止ないし抑制できる。これにより、一対の磁性体5A,5A間に隙間が生じるのを防止ないし抑制する効果を高めることができる。
【0052】
[第三の事例]
上記第二の事例のように、嵌合部21と第二側壁12との間に間隔Gの空隙31をなす位置に嵌合部21が形成されていれば、第二側壁12が多少変形したとしても、それに追従して嵌合部21が曲がることはなくなる。
【0053】
したがって、このような対策だけで嵌合部21の曲げ剛性を十分に確保できる場合には、図6に示すように、嵌合部21の前後方向長L1と左右方向長L2との関係をL1<L2としてもかまわない。すなわち、上記第一の事例〜第三の事例として開示した構成のうち、いずれの構成を採用して嵌合部21の曲げ剛性を高めるかは、要求される剛性を考慮して任意に選定すればよい。第二側壁12の変形による影響を排除しつつ嵌合部21の剛性を高めたい場合には、第二の事例が好適であり、第二側壁12の変形を過度に考慮しなくてもよい場合には、第一の事例が好適である。
【0054】
[変形例等]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な事例に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
【0055】
例えば、上記各事例においては、阻止部として設けられた嵌合部21及び被嵌合部22が、収納部10の後端側(第二側壁12の近傍)に設けられていたが、これに加えて、収納部10の前端側(第一側壁11の近傍)にも同等な阻止部(嵌合部21及び被嵌合部22)を併設してもよい。
【0056】
また、上記各事例においては、阻止部として設けられた嵌合部21及び被嵌合部22が互いに嵌合することのみを説明したが、これらが嵌合したときの具体的形態としては、嵌合部21が被嵌合部22に対して圧入されるもの、嵌合部21が被嵌合部22に対して嵌入された際にいずれか一方にある凸部が他方にある凸部又は凹部に引っかかるものなど、どのような形態になっていてもよい。また、被嵌合部22そのものの具体的形態としては、有底穴状のもの、貫通孔状のもの、溝状のものなど、嵌合部21が嵌入された際に、それを受け入れて嵌合状態になるものであれば何でもよい。
【0057】
さらに、上記各事例においては、雑音吸収効果を得る対象物として電線2を例示したが、この電線は電力線、信号線のいずれであってもよく、雑音電流(ノイズ電流)の伝播が考えられるもの全てを本発明の適用対象とすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1…雑音電流吸収具、2…電線、3…保持具、3A…樹脂部品、5…筒状磁性体、5A…磁性体、10…収納部、11…第一側壁、12…第二側壁、11A,12A…切欠、13…周壁、15…開口面、16…付勢片、17…突起部、18…係合部、19…被係合部、20…延出片、21…嵌合部、22…被嵌合部、25…電線挿通溝、26…当接面、27…係合溝、28…挿通孔、30…束線バンド、31…空隙、91…ホルダー、92…電線、93…束線バンド、94…樋状片、95…側壁、96…コア片。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7