特許第6164553号(P6164553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164553
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】焼結部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/06 20060101AFI20170710BHJP
   B22F 5/10 20060101ALI20170710BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20170710BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20170710BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20170710BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20170710BHJP
   B23K 35/30 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
   B22F7/06 F
   B22F5/10
   B23K1/19 C
   B23K1/00 330N
   !B22F1/00 U
   !C22C38/00 304
   !B23K35/30 310D
   !B23K35/30 310C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-126451(P2013-126451)
(22)【出願日】2013年6月17日
(65)【公開番号】特開2015-1015(P2015-1015A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】江上 雄一朗
【審査官】 本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−105913(JP,A)
【文献】 特公昭45−011606(JP,B1)
【文献】 特開平03−138305(JP,A)
【文献】 特開昭57−057807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 7/00−7/08
B22F 5/00−5/12
B23K 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部の一面側に軸方向に突出した小径ボス部を、他面側に軸方向に突出した大径ボス部
をそれぞれ有する焼結部品の製造方法であって、
前記焼結部品を、基部に軸孔を設けた第1成形体と、軸部の外周に鍔を設けた第2成形
体の2者で構成し、第1成形体の前記軸孔に第2成形体の前記軸部を上から下向きに貫通
させて前記基部の上側の端面上に第2成形体の前記鍔を重ね、さらに、前記鍔に設けた鑞
材セットポケットに鑞材チップを挿入し、この状態を保持して前記第1成形体と第2成形
体を加熱し、その加熱で溶融した鑞材を前記鍔の重ね面と前記軸孔の内周と前記軸部の外
周面との間の隙間に浸透させて前記第1成形体と第2成形体を接合する焼結部品の製造方
法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、板状基部の両面に突出部を有し、その両面の突出部の金型による同時成形が困難な焼結部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既知の焼結部品のひとつに、車両の変速機に採用されるプラネタリギヤ用のプラネタリキャリアがある。そのプラネタリキャリア(焼結プラネタリキャリア)は、全体を2つに分割し、原料粉末の成形工程を経て得られた2個の成形体を焼結時に鑞付け接合して所望の形状に仕上げる方法が採られている。
【0003】
そのような焼結部品として、例えば、下記特許文献1に示されるようなものがある。同文献に示された焼結部品は、第2成形体に設けられたブリッジ部の上向きに配置の先端に第1成形体を重ね、そのブリッジ部の先端と第1成形体の端面の突き合せ部を焼結時に鑞付け接合して製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−148779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前掲の特許文献1に開示された焼結部品の第1成形体は、板状基部の一面に突出したボス部を設けている。また、基部の他面には溶融した鑞材の鑞材溢れ止めになる小さな凸部を設けている。
【0006】
このような形状を有する第1成形体は、前記ボス部の端面とボス部のある側の基部の端面を互いに分割された下1、下2の各パンチで個別に成形し、基部の他面の凸部は上パンチの成形面に凹部を設けてその凹部の形状を転写する方法で成形することができ、その方法での成形が行われている。
【0007】
ところが、図3に示すような形状の成形体は上記の方法では成形することができない。
【0008】
図3に実線で示した形状の第1成形体と、図3に鎖線で示した形状の第2成形体を接合一体化したプラネタリキャリアが検討されている。
【0009】
図3の第1成形体は、プラネタリキャリア用の成形体であって、基部2の一面に突出した小径ボス部3を有し、さらに、基部2の他面に大径ボス部4と、その大径ボス部の周りに配置されるブリッジなどの突出部5を有する。
【0010】
この形状は、小径ボス部3がなければ金型による粉末の成形が可能であるが、小径ボス部3の突出寸法が大きいため、上パンチの成形面に設けた溝形状を転写する方法でその小径ボス部3を成形すると成形体を金型から抜き取る脱型作業が行えず、粉末の金型成形を断念せざるを得ない。
【0011】
また、上パンチも、下パンチと同様に小径ボス部3の端面を成形する上2パンチと小径ボス部の外周面と小径ボス部の周囲の基部の端面を成形する上1パンチの2つに分ければ成形は可能であるが、その方法では、得られる成形体の各部の密度を均一に制御することが難しく、実用に耐える成形体を得難い。
【0012】
このような事情から、図3のような部品を粉末冶金法で製造する(焼結して製造する)ことは行われていなかった。
【0013】
この発明は、小径ボス部と大径ボス部を基部の一面と他面に有し、そのボス部の突出量が大きいために粉末の成形が行えない図3のような焼結部品を製造可能となすことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、この発明においては、下記の製造方法を提供する。
即ち、基部の一面側に軸方向に突出した小径ボス部を有し、さらに、前記基部の他面側に大径ボス部を有する焼結部品の製造方法であって、
前記焼結部品を、基部に軸孔を設けた第1成形体と、軸部の外周に鍔を設けた第2成形体の2者で構成するようにした。
【0015】
また、第1成形体の前記軸孔に第2成形体の前記軸部を下向きに貫通させて前記基部の上側の面に第2成形体の前記鍔を重ね、さらに、前記鍔に設けた鑞材セットポケットに鑞材チップを挿入し、この状態で前記第1成形体と第2成形体を加熱するようにした。
【0016】
そしてさらに、その加熱で溶融した鑞材を前記鍔の重ね面と前記軸孔の内周と前記軸部の外周面との間の隙間に浸透させて前記第1成形体と第2成形体を接合するようにした。
【発明の効果】
【0017】
この発明の焼結部品の製造方法によれば、従来困難と考えられていた形状の焼結部品を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の方法で製造される焼結部品の一例を示す成形体接合前の断面図である。
図2図1の焼結部品の成形体接合後の断面図である。
図3】従来の方法で製造困難と考えられていた焼結部品の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の焼結部品の製造方法の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1及び図2に示した焼結部品1は、図3で説明した形状の成形体と同一形状である。
【0020】
即ち、プラネタリキャリアの片方の端板となす基部2の一面に突出した小径ボス部3を有し、さらに、基部2の他面に大径ボス部4と、その大径ボス部の周りに配置されるブリッジなどの突出部5を有する。
【0021】
この発明は、このような形状の焼結部品の製造を、原料粉末の圧粉成形段階で分割の仕方(分割位置)を工夫して全体を第1成形体10と第2成形体20の2つに分割し、その第1成形体10と第2成形体20を鑞付け接合することによって製造可能となす。
【0022】
図1に示すように、第1成形体10は、板状をなす基部2の中心に、焼結部品1の小径ボス部3と同心の軸孔11を有する。この第1成形体10は、軸孔11の周囲に軸方向に延びだす突出部5を設けたものを例示した。
【0023】
突出部5は、製造する焼結部品1が既述のプラネタリキャリア用である場合、プラネタリキャリアのブリッジとなるものであって、周方向に所定の間隔をあけて複数設けられる。
【0024】
第2成形体20は、軸部21の外周に鍔22を設けた形状にしてある。図示の軸部21は、内部に回転軸を通す中空軸になっているが、プラネタリキャリア以外の用途では中実の軸にすることもありうる。
【0025】
軸部21は、その外径を小径ボス部3の外径と等しくしている。また、鍔22は、その外径を大径ボス部4の外径と等しくしている。ここで言う「等しく」の意味は、焼結による収縮量を無視したものである。厳密には軸部21、鍔22のどちらも、収縮量相当分が加算された径になっている。
【0026】
軸孔11の内径は、軸部21の外周との間に溶融した鑞材が浸みこむ隙間が確保される大きさにしている。
【0027】
鍔22の外周には、鑞材のチップを配置する鑞材セットポケット23を設けている。図示の鑞材セットポケット23は、鍔22の外周に径方向に入り込む凹部を周方向に定ピッチで複数設けて各凹部によって形成したが、鍔22にその鍔を厚み方向に貫通する孔を設けてその孔で構成することも可能である。
【0028】
図示の第1成形体10と第2成形体20は、第1成形体10を突出部5が上向きに起立する姿勢にして耐熱トレーなどの耐熱保持具(図示せず)で支える。このとき、軸孔11の下方には、後述する軸部との干渉を回避するための空間を生じさせておく。
【0029】
そして、この第1成形体10の軸孔11に第2成形体20の軸部21を図1に示すように上から下向きに貫通させ、図2のように、基部2の上側の端面上に第2成形体20の鍔22を重ねる。
【0030】
さらに、その鍔22に設けた鑞材セットポケット23に鑞材チップTを挿入し、この状態を保持して第1成形体10と第2成形体20を焼結炉に導入し、焼結温度に加熱する。
【0031】
その加熱によって第1成形体10と第2成形体20を焼結し、その際の熱で同時に鑞材チップTを溶かして鍔22を第1成形体10の基部2の端面に鑞付けする。
【0032】
このとき、溶融した鑞材が鍔22の径方向内端まで浸透し、さらに、そこから、軸部21の外周面と軸孔11の内周面間に形成された隙間にも流れ、これにより、軸部21も軸孔11の内面に鑞付けされる。
【0033】
このように、鍔22の重ね面と軸部の軸孔挿入部の2箇所が同時に鑞付けされるため、第1成形体10と第2成形体20が焼結され、しかも、強固に鑞付けされた焼結部品1を得ることができる。
【0034】
上述したように、この発明では、製造目的の焼結部品を、分割位置を工夫して2つに分割し、基部の一面側に設けられる小径ボス部を第2成形体の軸部で、基部の他面側に設けられる大径ボス部を第2成形体の鍔でそれぞれ形成する。
【0035】
これにより、第1成形体に対する第2成形体の鍔と軸部の同時鑞付けが行なえ、また、2箇所の鑞付けによる強固な接合も実現され、従来困難視されていた図3のような焼結部品の製造が可能になった。
【実施例】
【0036】
図2に示した形状の焼結部品を試作した。使用した材料は、重量比で0.45%Mo−2.5%Cu−0.85%C−残Feであり、製品密度は、第1成形体10、第2成形体20とも7.09g/cmである。
【0037】
第1成形体10の基部2の厚みは10.5mm、第2成形体20の軸部21の外径はφ41mm、軸部21の外周と軸孔11の内面との間の隙間は、半径で0.015〜0.065mmとした。
【0038】
この寸法諸元の第1成形体10と第2成形体20を図2のように重ね、焼結炉に導入して温度1130℃、焼結時間2時間の条件で焼結し、同時に第1成形体10に対する鍔22と軸部21の鑞付けを行なった。
【0039】
このとき使用した鑞材は、重量比で(1.6〜2.0)%Si−(14〜16)%Mn−(38〜41)%Cu−(40〜43)%Ni−(1.3〜1.7)%B−5%Fe−4.8%HBO−1.2%Naの組成である。
【0040】
この試験で得られた試作部品を接合面が断面に現われるように切断し、図2に示した鍔の接合面Aと、軸部の接合面Bに対する鑞材の流れ状況を確認した。その結果、接合面A、Bの双方に鑞材が浸透して両面の接合が確実になされており、プラネタリキャリアの要求特性を満たすものになっていることを確認した。
【符号の説明】
【0041】
1 焼結部品
2 基部
3 小径ボス部
4 大径ボス部
5 突出部
10 第1成形体
11 軸孔
20 第2成形体
21 軸部
22 鍔
23 鑞材セットポケット
T 鑞材チップ
A,B 接合面
図1
図2
図3