特許第6164569号(P6164569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6164569
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】熱電素子および熱電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/32 20060101AFI20170710BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20170710BHJP
   H01L 35/14 20060101ALI20170710BHJP
   H01L 35/22 20060101ALI20170710BHJP
   H01L 35/16 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   H01L35/32 A
   H01L35/34
   H01L35/14
   H01L35/22
   H01L35/16
【請求項の数】16
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-214899(P2013-214899)
(22)【出願日】2013年10月15日
(65)【公開番号】特開2015-79796(P2015-79796A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜之
【審査官】 今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−075167(JP,A)
【文献】 特開2000−307160(JP,A)
【文献】 特開2013−149652(JP,A)
【文献】 特開2004−193550(JP,A)
【文献】 特開2012−231025(JP,A)
【文献】 特開2011−159791(JP,A)
【文献】 特開2007−103861(JP,A)
【文献】 特開平05−190913(JP,A)
【文献】 特表2012−516030(JP,A)
【文献】 特開平09−266330(JP,A)
【文献】 特開平10−190070(JP,A)
【文献】 特表2012−514856(JP,A)
【文献】 特開昭56−042391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型熱電材料の一部およびn型熱電材料の一部が直接接合されたpn接合部を有するpn接合型の熱電素子であって、
前記pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mである、または
前記pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みであり、
前記pn接合部の禁制帯に連続的な欠陥準位が形成されている熱電素子。
【請求項2】
一定の逆方向バイアス電圧を印加したときの逆方向電流が、温度上昇に伴って増加する特性を有している請求項1に記載の熱電素子。
【請求項3】
前記逆方向電流をI、活性化エネルギーをΔE、ボルツマン定数をk、絶対温度をTとしたとき、I∝exp(−ΔE/kT)を満足している請求項2に記載の熱電素子。
【請求項4】
前記活性化エネルギーをΔE、前記pn接合部のバンドギャップをEgとしたとき、ΔE<Egを満足している請求項3に記載の熱電素子。
【請求項5】
前記pn接合部に偏析する酸化物の酸素濃度が、前記pn接合部以外の部分における酸素濃度の10at%を超えないように抑制されている請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の熱電素子。
【請求項6】
前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくともSiが用いられている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱電素子。
【請求項7】
前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくともSiGe系の材料が用いられている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱電素子。
【請求項8】
前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくともFeSi系の材料が用いられている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱電素子。
【請求項9】
前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくともBiTe系またはPbTe系の材料が用いられている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱電素子。
【請求項10】
前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくともペロブスカイト構造を含む材料が用いられている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱電素子。
【請求項11】
前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくとも酸化物が用いられている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱電素子。
【請求項12】
p型熱電材料およびn型熱電材料の少なくとも一部が直接接合されたpn接合部を有するpn接合型の熱電素子が多重積層されて構成された熱電素子であって、
各積層部を形成する前記pn接合型の熱電素子の前記pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mである、または
各積層部を形成する前記pn接合型の熱電素子の前記pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みであり、
前記pn接合部の禁制帯に連続的な欠陥準位が形成されている熱電素子。
【請求項13】
請求項2〜請求項11のいずれか1項に記載の熱電素子が多重積層されて構成されている請求項12に記載の熱電素子。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱電素子を製造する熱電素子の製造方法であって、
電子ビーム蒸着法により、基板表面の所定の位置に第1電極を形成する第1電極形成工程と、
分子線エピタキシー法により、前記基板表面および前記第1電極上にp型熱電材料またはn型熱電材料のいずれか一方の第1熱電材料を形成する第1熱電材料形成工程と、
電子ビーム蒸着法により、pn接合予定部を除いた前記第1熱電材料の表面に絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
アニールして、前記第1熱電材料の前記pn接合予定部における粗さがJIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mとなる、または、pn接合部の断面における前記第1熱電材料と前記第1熱電材料とは異なる型の第2熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みとなるように、前記第1熱電材料の前記pn接合予定部の表面を調整する表面調整工程と、
分子線エピタキシー法により、前記pn接合予定部および前記絶縁膜上に前記第2熱電材料を形成する第2熱電材料形成工程と、
電子ビーム蒸着法により、前記第2熱電材料上の所定の位置に第2電極を形成する第2電極形成工程とを備えている熱電素子の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の熱電素子を製造する熱電素子の製造方法であって、
p型熱電材料およびn型熱電材料をそれぞれ所定の形状に成形後、仮焼結する仮焼結工程と、
前記p型熱電材料および前記n型熱電材料の各pn接合予定部を研磨して、前記各pn接合予定部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mとなる、または、pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みとなるように、前記各pn接合予定部の表面を調整する表面調整工程と、
前記p型熱電材料と前記n型熱電材料の前記pn接合予定部を互いに重ね合わせて本焼結してpn接合を形成する本焼結工程と、
前記p型熱電材料および前記n型熱電材料の所定の位置に、それぞれ第1電極および第2電極を形成する電極形成工程とを備えている熱電素子の製造方法。
【請求項16】
請求項12または請求項13に記載の熱電素子を製造する熱電素子の製造方法であって、
複数の前記p型熱電材料と前記n型熱電材料とを所定の形状に成形後、仮焼結する仮焼結工程と、
前記p型熱電材料および前記n型熱電材料の各pn接合予定部を研磨して、前記p型熱電材料と前記n型熱電材料の前記各pn接合予定部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mとなる、または、pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みとなるように、前記p型熱電材料と前記n型熱電材料の前記各pn接合予定部の表面を調整する表面調整工程と、
前記p型熱電材料および前記n型熱電材料のpn接合形成部分を除く部分に絶縁ペーストを塗布する絶縁ペースト塗布工程と、
複数の前記p型熱電材料と前記n型熱電材料とをそれぞれのpn接合予定部が重なるように交互に積層させて積層体を形成する積層工程と、
前記積層体を静水圧プレス法にて圧着する圧着工程と、
圧着された前記積層体を本焼結してpn接合を形成する本焼結工程と、
前記熱電材料の所定の位置に電極を形成する電極形成工程とを備えている熱電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、p型熱電材料とn型熱電材料とが直接接合されたpn接合型の熱電素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策のために二酸化炭素の削減が重要な問題となっており、熱を直接電気に変換することが可能な熱電素子が注目されている。
【0003】
熱電素子は、p型熱電材料とn型熱電材料とを電極により接続し、接続端側を高温に、他端側を低温にして温度差を形成することで、ゼーベック効果により起電力を生成させる素子であり、図9に示すπ型と呼ばれる構成の熱電素子4が一般的である。
【0004】
図9に示すように、π型熱電素子4は、p型熱電材料の一端とn型熱電材料の一端とが電極(高温側の電極)を介して接続され、それぞれの他端にはそれぞれ電極(低温側の電極)が取り付けられており、生成された起電力により低温側の電極に接続された負荷に電力が供給される。
【0005】
このようなπ型熱電素子4の高温側の電極において、一方のp型(またはn型)熱電材料に対してオーミック電極が形成されると、この電極は他方のn型(またはp型)熱電材料に対してはショットキー電極となり、ショットキー障壁が生じる。このようなショットキー障壁が生じると、π型熱電素子4から十分に電力を取り出せない。
【0006】
そこで、p型熱電材料とn型熱電材料とを電極を介して接続するのではなく、図10に示すような、p型熱電材料の一部およびn型熱電材料の一部が直接接合されたpn接合部を有するpn接合型の熱電素子が開発されている(例えば、特許文献1〜特許文献5)。このようなpn接合型の熱電素子は、p型熱電材料とn型熱電材料との間を電気的に接続する電極を用いないため、上記したショットキー障壁の問題が解決される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−27631号公報
【特許文献2】特表2012−516030号公報
【特許文献3】特表2012−516031号公報
【特許文献4】特開平10−4218号公報
【特許文献5】国際公開第2009/001691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のようなpn接合部を有する熱電素子においては、ショットキー障壁の問題は解決できているものの、キャリア(電子、正孔)を効率良く輸送して供給することが困難で、十分に電力を取り出せないという問題があった。
【0009】
この問題について図11を用いて説明する。図11図10に示したpn接合型の熱電素子におけるキャリア生成機構を説明する図である。図11において○(白丸)は正孔を示し、●(黒丸)は電子を示す。また、1p、2pおよび3pは、それぞれ、p型熱電材料における伝導帯の底のエネルギー準位(E)、禁制帯、および価電子帯の頂のエネルギー準位(E)を示し、1n、2nおよび3nは、それぞれ、n型熱電材料における伝導帯の底のエネルギー準位(E)、禁制帯、および価電子帯の頂のエネルギー準位(E)を示す。
【0010】
電力を効率よく取り出し続けるためには、図11に示すように、電子を熱拡散でp型熱電材料の低温側へ拡散させると共に、正孔をn型熱電材料の低温側へ拡散させた後、pn接合部においてトンネル効果やキャリア生成によりキャリア(正孔、電子)を供給し続けなければならない。
【0011】
しかしながら、従来のpn接合型の熱電素子においては、キャリア生成にはpn接合部のバンドギャップ(禁制帯の幅)に等しい大きなエネルギー障壁を通り抜けたり、越えたりしなければならないため、pn接合部でのトンネル効果によりキャリアが導入される確率も低く、またキャリアが生成される確率も低く、キャリアを効率よく輸送して供給することが困難であった。
【0012】
そこで、本願発明は、pn接合部におけるトンネル効果によりキャリアを導入する確率、およびキャリアを生成する確率を向上させ、良好なキャリア輸送を実現させることで、輸送効率の良好なpn接合部を有し、十分に電力を取り出すことができる熱電素子および熱電素子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、
p型熱電材料の一部およびn型熱電材料の一部が直接接合されたpn接合部を有するpn接合型の熱電素子であって、
前記pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mである、または
前記pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みであり、
前記pn接合部の禁制帯に連続的な欠陥準位が形成されている熱電素子である。
【0014】
また、本願発明は、
p型熱電材料およびn型熱電材料の少なくとも一部が直接接合されたpn接合部を有するpn接合型の熱電素子が多重積層されて構成された熱電素子であって、
各積層部を形成する前記pn接合型の熱電素子の前記pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mである、または
各積層部を形成する前記pn接合型の熱電素子の前記pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みであり、
前記pn接合部の禁制帯に連続的な欠陥準位が形成されている熱電素子である。
【発明の効果】
【0015】
本願発明によれば、トンネル効果によりキャリアを導入する確率、およびキャリアを生成する確率を向上させることができて、良好なキャリア輸送を実現させることができ、輸送効率の良好なpn接合部を有する熱電素子および熱電素子の製造方法を提供することができる。そして、このような熱電素子を用いることにより、十分に電力を取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本願発明の一実施形態に係るpn接合型の熱電素子の構造を模式的に示す断面図である。
図2】本願発明の一実施形態に係るpn接合型の熱電素子におけるキャリア生成機構を説明する図である。
図3】本願発明の一実施形態に係るpn接合型の熱電素子の粗さの測定を説明する図である。
図4】本願発明の他の一実施形態に係るpn接合型の熱電素子の構造を模式的に示す側面図である。
図5】本願発明のさらに他の一実施形態に係るpn接合型の熱電素子の構造を模式的に示す斜視図である。
図6】本願発明の一実施形態に係るpn接合型の熱電素子の製造プロセスを説明する図である。
図7】本願発明の一実施形態に係るpn接合型の熱電素子における逆方向電流と温度との関係を説明する図である。
図8】本願発明の一実施形態に係るpn接合型の熱電素子の逆方向電流のキャリア輸送を説明する図である。
図9】π型熱電素子の構造を説明する断面図である。
図10】従来のpn接合型の熱電素子のpn接合部を説明する断面図である。
図11】従来のpn接合型の熱電素子におけるキャリア生成機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態を列記して説明する。
【0018】
本願発明の実施形態は、
(1)p型熱電材料の一部およびn型熱電材料の一部が直接接合されたpn接合部を有するpn接合型の熱電素子であって、
前記pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mである、または
前記pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みであり、
前記pn接合部の禁制帯に連続的な欠陥準位が形成されている熱電素子である。
【0019】
本願発明者は、pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上である場合や、pn接合部の断面におけるp型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みである場合、以下に図1図2を用いて説明するように、本実施形態の熱電素子は、pn接合部でキャリア(電子・正孔)を生成し続けるため、良好なキャリア輸送が可能となり、熱電素子から十分な電力を取り出すことができるとの知見を得た。この場合において、界面における粗さは1〜15nmであることが好ましく、また、凸部と凹部とによる入込みは1〜15nmであることが好ましい。
【0020】
即ち、図1は本願発明の一実施形態に係るpn接合型の熱電素子の構成を模式的に示す断面図であり、図2はそのキャリア生成機構を説明する図である。前記した図11と同様に、図2において○(白丸)は正孔を示し、●(黒丸)は電子を示す。また、1p、2pおよび3pは、それぞれ、p型熱電材料における伝導帯の底のエネルギー準位(E)、禁制帯、および価電子帯の頂のエネルギー準位(E)を示し、1n、2nおよび3nは、それぞれ、n型熱電材料における伝導帯の底のエネルギー準位(E)、禁制帯、および価電子帯の頂のエネルギー準位(E)を示す。
【0021】
図1に示すように、pn接合部の界面におけるp型熱電材料およびn型熱電材料の表面を意図的に粗らして、粗さを大きくすることにより、pn接合部に欠陥が導入されて、pn接合部の禁制帯に図2に示すような連続的な欠陥準位(連続準位)が形成される。この結果、トンネル効果によるキャリアの導入、またはキャリア生成のいずれか、あるいはその両方の確率が向上するため、熱拡散によりキャリア(電子・正孔)を効率輸送して供給し続けることが可能になる。
【0022】
これは、pn接合部の界面が平滑であることを理想とするトランジスタ、ダイオード、発光ダイオード(LED)などの半導体の技術を踏襲して、pn接合型の熱電素子においても、pn接合部を理想的にすること、即ちpn接合部の接合界面をより平滑にすることが好ましいとされていた従来の知見とは全く逆の知見であり、本願発明者はこの従来とは全く逆転した発想より得られた知見に基づき、本願発明を完成するに至った。
【0023】
具体的には、本実施形態に係るpn接合型の熱電素子のpn接合部は、接合前のp型熱電材料およびn型熱電材料のpn接合予定部の各表面を、例えば、アニール処理やポリッシュ処理して、粗さが1nm以上となるように粗くして双方の表面を互いに接合することにより得ることができる。この場合において、粗さは1〜15nmであることが好ましい。
【0024】
なお、この粗さは、JIS B 0601−1994に定義される算術平均粗さRaであり、図3に示すように、基準長さ間における曲線の絶対値の平均をいう。即ち、Raは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さl(エル)だけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、図3の下段に示す数式によって求められる。なお、平均線は、粗さ曲線y=f(x)において、平均線より上の山の部分の面積の和をS1とし、平均線より下の山の部分の面積の和をS2としたとき、S1=S2となるように引いた線である。
【0025】
そして、pn接合部の界面にこのようなRaの粗さが形成されたp型熱電材料とn型熱電材料とをpn接合した場合、その断面においては、p型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みとなる。この場合において、凸部と凹部とによる入込みは1〜15nmであることが好ましい。
【0026】
(2)前記熱電素子は、一定の逆方向バイアス電圧を印加したときの逆方向電流が、温度上昇に伴って増加する特性を有している。
【0027】
一定の逆方向バイアス電圧を印加したときの逆方向電流が温度上昇に伴って増加することは、温度上昇に伴ってキャリア生成が増加することを示しているため、このような特性を有するpn接合型の熱電素子を用いることにより良好なキャリア輸送が可能となる。そして、このようなpn接合型の熱電素子は、上記した(1)の熱電素子により提供される。
【0028】
(3)また、前記熱電素子は、前記逆方向電流をI、活性化エネルギーをΔE、ボルツマン定数をk、絶対温度をTとしたとき、I∝exp(−ΔE/kT)を満足している。
【0029】
本願発明者は、上記した(1)の熱電素子についてアレニウスプロットを取った場合、逆方向電流Iがexp(−ΔE/kT)に従うことを見出した。これは、上記の熱電素子が、温度上昇に伴って、逆方向電流が上昇しているため、このような特性を有する熱電素子を用いた場合、効率よくキャリア生成が行なわれることを示している。従って、このようなpn接合型の熱電素子を用いた場合、前記したように、良好なキャリア輸送が可能となる。
【0030】
(4)また、前記熱電素子は、前記活性化エネルギーをΔE、前記pn接合部のバンドギャップをEgとしたとき、ΔE<Egを満足している。
【0031】
pn接合部のバンドギャップEgよりも活性化エネルギーΔEが小さい場合、トンネル効果によるキャリアの導入やキャリアの生成がより容易となるため、より効率良くキャリアを輸送して供給し続けることが可能である。そして、このようなpn接合型の熱電素子は、上記した(1)の熱電素子により提供される。
【0032】
(5)また、前記熱電素子は、前記pn接合部に偏析する酸化物の酸素濃度が、前記pn接合部以外の部分における酸素濃度の10at%を超えないように抑制されている。
【0033】
pn接合部の界面を意図的に粗くすると、酸素がある雰囲気中でアニールした場合などに、pn接合部分に酸素が積極的に取り込まれて、界面に酸化物がパイルアップしてpn接合部に偏析し易い。そして、このように界面に酸化物が多く偏析して、その酸素濃度が10at%以上となると、電気特性(出力特性)の著しい悪化を招いてしまう。
【0034】
このような電気特性(出力特性)の著しい悪化は、真空中など酸素濃度が低い雰囲気下でアニールするなどして、界面に偏析する酸化物の酸素濃度がpn接合部以外の母体である部分における酸素濃度(酸素組成)の10at%を超えないように抑制することにより、防止することができる。
【0035】
(6)また、前記熱電素子は、前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくともSiが用いられていることが好ましい。
【0036】
Siはp、n制御が可能な材料で、また高いゼーベック係数が実現可能であるため、Siを用いたp型熱電材料およびn型熱電材料は、熱電材料に好適であり、このようなp型熱電材料およびn型熱電材料を用いることにより、高い熱電性能を有するpn接合型の熱電素子が得られる。
【0037】
(7)また、前記熱電素子は、前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくともSiGe系の材料が用いられていることが好ましい。
【0038】
SiGe系の材料はp、n制御が可能な材料で、またGe混晶のため低い熱伝導率を実現可能な系であるため、SiGe系の材料を用いたp型熱電材料およびn型熱電材料は、高い熱電性能に好適な材料であり、このようなp型熱電材料およびn型熱電材料を用いることにより、より高い熱電性能を有するpn接合型の熱電素子が得られる。
【0039】
(8)また、前記熱電素子は、前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくともFeSi系の材料が用いられていることが好ましい。
【0040】
FeSi系の材料はp、n制御が可能な材料で、また機械的に強靭であるため、FeSi系の材料を用いたp型熱電材料およびn型熱電材料は、振動下における信頼性に優れた材料であり、このようなp型熱電材料およびn型熱電材料を用いることにより、振動下においても高い熱電性能を発揮するpn接合型の熱電素子が得られる。
【0041】
(9)また、前記熱電素子は、前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくともBiTe系またはPbTe系の材料が用いられていることが好ましい。
【0042】
BiTe系およびPbTe系の材料はp、n制御が可能な材料で、また高いゼーベック係数、低い熱伝導率を有する材料であるため、このようなp型熱電材料およびn型熱電材料を用いることにより、高い熱電性能を発揮するpn接合型の熱電素子が得られる。
【0043】
(10)また、前記熱電素子は、前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくともペロブスカイト構造を含む材料が用いられていることが好ましい。
【0044】
ペロブスカイト構造を含む材料はp、n制御が可能な材料で、また高いゼーベック係数を有する材料であるため、このようなp型熱電材料およびn型熱電材料を用いることにより、高い熱電性能を発揮するpn接合型の熱電素子が得られる。
【0045】
(11)また、前記熱電素子は、前記p型熱電材料と前記n型熱電材料のいずれか一方、または両方に、少なくとも酸化物が用いられていることが好ましい。
【0046】
酸化物はp、n制御が可能な材料で、また高い導電率であるため、このようなp型熱電材料およびn型熱電材料を用いることにより、高い熱電性能を発揮するpn接合型の熱電素子が得られる。
【0047】
また、本願発明の実施形態は、
(12)p型熱電材料およびn型熱電材料の少なくとも一部が直接接合されたpn接合部を有するpn接合型の熱電素子が多重積層されて構成された熱電素子であって、
各積層部を形成する前記pn接合型の熱電素子の前記pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mである、または
各積層部を形成する前記pn接合型の熱電素子の前記pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みであり、
前記pn接合部の禁制帯に連続的な欠陥準位が形成されている熱電素子である。
【0048】
pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上である、または各積層部を形成するpn接合部の断面におけるp型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みであるpn接合型の熱電素子は、前記したように、良好にキャリアを輸送して供給することができるため、このようなpn接合型の熱電素子が多重積層されていることにより、取り出せる電力を容易に増加させることができる。また、これらのpn接合型の熱電素子を多重積層構造に構成することにより、隙間無く全て固体化することが可能となるため、よりコンパクトな熱電素子を提供することができる。この場合において、界面における粗さは1〜15nmであることが好ましく、また、凸部と凹部とによる入込みは1〜15nmであることが好ましい。
【0049】
(13)また、pn接合型の熱電素子が多重積層されて構成された前記熱電素子は、上記(2)〜(11)のいずれか1つに記載の熱電素子が多重積層されて構成されていることが好ましい。
【0050】
前記したように、(2)〜(11)のpn接合型の熱電素子は、キャリアの輸送効率が高いため、(2)〜(11)のpn接合型の熱電素子を多重積層型に構成した場合には、コンパクトでありながら大きな電力を取り出すことができる。
【0051】
また、本願発明の実施形態は、
(14)(1)〜(11)のいずれか1つに記載の熱電素子を製造する熱電素子の製造方法であって、
電子ビーム蒸着法により、基板表面の所定の位置に第1電極を形成する第1電極形成工程と、
分子線エピタキシー法により、前記基板表面および前記第1電極上にp型熱電材料またはn型熱電材料のいずれか一方の第1熱電材料を形成する第1熱電材料形成工程と、
電子ビーム蒸着法により、pn接合予定部を除いた前記第1熱電材料の表面に絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
アニールして、前記第1熱電材料の前記pn接合予定部における粗さがJIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mとなる、または、pn接合部の断面における前記第1熱電材料と前記第1熱電材料とは異なる型の第2熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みとなるように、前記第1熱電材料の前記pn接合予定部の表面を調整する表面調整工程と、
分子線エピタキシー法により、前記pn接合予定部および前記絶縁膜上に前記第2熱電材料を形成する第2熱電材料形成工程と、
電子ビーム蒸着法により、前記第2熱電材料上の所定の位置に第2電極を形成する第2電極形成工程とを備えている熱電素子の製造方法である。
【0052】
本実施態様に係るpn接合型の熱電素子の製造方法は、アニールを用いてpn接合形成部分の粗さを調整するため、アニールの温度、時間を適切に調整することにより、pn接合部の界面における粗さやpn接合部の断面における入込みの高低差を精度よく制御することができる。また、気相法の中でも成長方向、組成分布を厳密にコントロールできる分子線エピタキシーを用いて熱電材料を形成しているため、所望の特性を有する熱電材料を形成することができる。また、熱電材料、絶縁膜、電極をいずれも蒸着など、薄膜の成膜に適した気相法を用いて成膜する(以下、「気相成膜方式」ともいう)ため、薄膜タイプのpn接合熱電素子の製造に好適である。
【0053】
なお、上記表面調整工程において、アニールは、200〜800℃の範囲の温度で、窒素の雰囲気で、0.5〜5時間の範囲の時間行うことが好ましい。また、上記各工程は、基本的には記載順に行われることが好ましい。
【0054】
また、本願発明の実施形態は、
(15)(1)〜(11)のいずれか1つに記載の熱電素子を製造する熱電素子の製造方法であって、
p型熱電材料およびn型熱電材料をそれぞれ所定の形状に成形後、仮焼結する仮焼結工程と、
前記p型熱電材料および前記n型熱電材料の各pn接合予定部を研磨して、前記各pn接合予定部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mとなる、または、pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みとなるように、前記各pn接合予定部の表面を調整する表面調整工程と、
前記p型熱電材料と前記n型熱電材料の前記pn接合予定部を互いに重ね合わせて本焼結してpn接合を形成する本焼結工程と、
前記p型熱電材料および前記n型熱電材料の所定の位置に、それぞれ第1電極および第2電極を形成する電極形成工程とを備えている熱電素子の製造方法である。
【0055】
仮焼結の状態で、p型熱電材料およびn型熱電材料のpn接合形成部分の粗さを所定の粗さに調整し、次にpn接合形成部分同士を重ね合わせて本焼結を行うことにより、各pn接合予定部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上となる、または、pn接合部の断面におけるp型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みとなるように所望の大きさに調整することができる。また、熱電材料を成形後焼結する(以下、「成形焼結方式」ともいう)製造方法を用いるため、基板を必要としない厚手、即ちバルクタイプのpn接合型の熱電素子の製造に好適である。この場合において、界面における粗さは1〜15nmであることが好ましく、また、凸部と凹部とによる入込みは1〜15nmであることが好ましい。
【0056】
なお、上記本焼結工程は、500〜1000℃の範囲の温度で、窒素の雰囲気で、0.1〜3時間の範囲の時間行うことが好ましい。また、上記各工程は、基本的には記載順に行われることが好ましい。
【0057】
また、本願発明の実施形態は、
(16)pn接合型の熱電素子が多重積層されて構成された(12)または(13)に記載の熱電素子を製造する熱電素子の製造方法であって、
複数の前記p型熱電材料と前記n型熱電材料とを所定の形状に成形後、仮焼結する仮焼結工程と、
前記p型熱電材料および前記n型熱電材料の各pn接合予定部を研磨して、前記p型熱電材料と前記n型熱電材料の前記各pn接合予定部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1〜15mとなる、または、pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1〜15mの凸部と1〜15mの凹部とによる入込みとなるように、前記p型熱電材料と前記n型熱電材料の前記各pn接合予定部の表面を調整する表面調整工程と、
前記p型熱電材料および前記n型熱電材料のpn接合形成部分を除く部分に絶縁ペーストを塗布する絶縁ペースト塗布工程と、
複数の前記p型熱電材料と前記n型熱電材料とをそれぞれのpn接合予定部が重なるように交互に積層させて積層体を形成する積層工程と、
前記積層体を静水圧プレス法にて圧着する圧着工程と、
圧着された前記積層体を本焼結してpn接合を形成する本焼結工程と、
前記熱電材料の所定の位置に電極を形成する電極形成工程とを備えている熱電素子の製造方法である。
【0058】
pn接合形成部分を除く部分に絶縁ペーストが塗布された複数のp型熱電材料とn型熱電材料を交互に積層する。そして、積層体を静水圧プレス法にて圧着する。これにより、pn接合型の熱電素子が多重積層されて構成された(12)または(13)の熱電素子を製造することができる。そして、p型熱電材料とn型熱電材料のpn接合形成部分が、より隙間無く、確実に重ね合わされた状態で焼成することができる。
【0059】
なお、上記本焼結工程は、280〜1100℃の範囲の温度で、窒素の雰囲気で、3〜10時間の範囲の時間行うことが好ましい。また、上記各工程は、基本的には記載順に行われることが好ましい。
【0060】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本願発明を実施形態に基づき、図面を参照して説明する。なお、本願発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0061】
1.pn接合型の熱電素子の基本的構造
pn接合型の熱電素子として、図1にバルクタイプのpn接合型の熱電素子1を示し、図4に薄膜タイプのpn接合型の熱電素子2を示す。バルクタイプのpn接合型の熱電素子1(図1)、および薄膜タイプのpn接合型の熱電素子2(図4)は、共にpn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上である、またはpn接合部の断面におけるp型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みである。そして、より好ましくは粗さが5nm以上、または前記の入込みが前記の平均線から3nm以上の凸部と3nm以上の凹部とによる入込みである。
【0062】
熱電材料には、Si、SiGe系、FeSi系、BiTe系、PbTe系、ペロブスカイト構造を含む化合物、あるいは酸化物が用いられる。
【0063】
FeSi系の熱電材料としては、FeSi、MgSi、FeMnSi、FeCoSiなどを挙げることができる。これらの内でも機械的強度の観点から、FeSi、MgSiが好ましい。
【0064】
また、BiTeの熱電材料としては、BiTe、BiSbTe、BiSnTeなどを挙げることができ、PbTe系の熱電材料としては、PbTe、PbSnTe、PbSbTeなどを挙げることができる。これらの内でも高いゼーベック係数の観点から、BiSbTe、PbSnTeが好ましい。
【0065】
また、ペロブスカイト構造を含む化合物としては、LaCuO、NdCeCuOなどを挙げることができる。これらの内でも高いゼーベック係数の観点から、LaCuOが好ましい。
【0066】
また、酸化物の熱電材料としては、SrTiO、La−SrTiO、SrTiO:Nb、SrTiO:NiMo、CaTiO、BaTiOなどを挙げることができる。これらの内でも高い導電率の観点から、SrTiO:Nbが好ましい。
【0067】
上記した各熱電材料に、B(硼素)などのp型ドーパント、P(燐)などのn型ドーパントを適量ドープすることにより、p型熱電材料およびn型熱電材料を得ることができる。また、電極には通常Au(金)製の電極が好ましく用いられる。
【0068】
2.多重積層タイプのpn接合型の熱電素子
多重積層タイプのpn接合型の熱電素子の一例を図5に示す。多重積層タイプのpn接合型の熱電素子3は、複数のp型熱電材料pと複数のn型熱電材料nとが交互に積層され、隣り合うp型熱電材料pとn型熱電材料nとが一部でpn接合されている(図5の場合、3個のpn接合型の熱電素子が直列配置されている)。
【0069】
このとき、各積層部を形成するpn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上である、または各積層部を形成するpn接合部の断面におけるp型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みである。
【0070】
また、pn接合以外の部分には例えばSiO(シリカ)製などの絶縁体(絶縁膜)が形成され、両端のp型熱電材料pとn型熱電材料nには電極が形成されている。
【0071】
3.pn接合型の熱電素子の製造方法
(a)バルクタイプのpn接合型の熱電素子の製造方法
バルクタイプのpn接合型の熱電素子の製造には、成形焼結方式が好適である。即ち、仮焼結の状態で、p型熱電材料およびn型熱電材料のpn接合形成部分の粗さを所定の粗さに調整し、次にpn接合形成部分同士を重ね合わせて本焼結を行うことにより、pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上となる、またはpn接合部の断面におけるp型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みとなるようにすることができる。
【0072】
具体的には以下に示すような製造方法によりバルクタイプのpn接合型の熱電素子を製造することができる。
【0073】
まず、p型熱電材料およびn型熱電材料を用意し、それぞれを型に入れ成形した後、仮焼結を実施する。
【0074】
次に、各熱電材料のpn接合部となる部分を研磨(ポリッシュ)して、pn接合部となる部分の粗さを上記したように調整する。
【0075】
次に、各熱電材料のpn接合部となる部分を互いに重ね合わせて、本焼結することによりpn接合を形成する。
【0076】
次に、p型熱電材料およびn型熱電材料の所定の位置にAuなどからなる第1電極および第2電極を形成する。これにより、バルクタイプのpn接合型の熱電素子が製造される。
【0077】
なお、上記において、仮焼結および本焼結の温度、時間は熱電材料の材質に応じて適宜設定される。また、焼結は、熱電材料の表面が酸化して酸素濃度が高い酸化物が偏析しないように、真空または不活性ガス雰囲気中で行われる。
【0078】
なお、pn接合形成部分を除く部分への絶縁ペーストの塗布、および熱電材料上の所定位置への電極の形成には通常メタルマスクを用いたマスキングが行われる。
【0079】
(b)薄膜タイプのpn接合型の熱電素子の製造方法
一方、薄膜タイプのpn接合型の熱電素子は、気相成膜方式を用いて製造される。気相成膜方式による薄膜タイプのpn接合型の熱電素子の製造方法を図6を用いて説明する。図6は本実施形態の薄膜タイプのpn接合型の熱電素子の製造プロセスを説明する図である。
【0080】
まず、サファイア基板S上にメタルマスクをセットした後、EB法(E1ectron Beam evaporation;電子ビーム蒸着法)で所定の位置にAu製の電極11を蒸着し(手順1)、一度取出す。
【0081】
次に、所定の位置にメタルマスクをセットした後、MBE法(Molecular Beam Epitaxy;分子線エピタキシー法)にて、例えばn型熱電材料12としてn型SiGe(Ge20at%、P(燐)ドープ)を成膜して取り出す(手順2)。
【0082】
次に、pn接合形成部分13が隠れるようにメタルマスクを再セットし、EB法で絶縁膜(Al)14を成膜する(手順3)。
【0083】
次に、所定の温度、雰囲気で所定の時間、例えば、本実施形態では800℃、真空中で3分間、高温アニールを行ってpn接合形成部分13の粗さを調整(意図的に粗く)する。
【0084】
次に、MBE法にてp型熱電材料15としてp型SiGe(Ge20at%、B(硼素)ドープ)を成膜し、pn接合形成部分13にpn接合部16を形成する(手順4)。
【0085】
次に、p型熱電材料15の上にメタルマスクをセットし、EB法で所定の位置にAu製の電極11を蒸着する。以上より薄膜タイプのpn接合型の熱電素子2を作製する(手順5)。
【0086】
なお、高温アニール終了後、p型熱電材料15を成膜する前に、n型熱電材料12のpn接合形成部分13の粗さを適宜チェックする。粗さの測定には、AFM(Atomic Force Microscope;原子間力顕微鏡)を用い、前記したようにJIS B 0601−1994に規定する算術平均粗さRaの測定方式に準拠して測定を行う。なお、本願発明者は、AFMとして、デジタルインスツルメンツ社製のNanoScope IIIaを用いて、粗さの測定を行い、測定された粗さ(Ra)が1nm以上の場合に良好なキャリア輸送を実現できることを見出した。
【0087】
また、pn接合部16を形成した後に、pn接合部16の断面におけるp型SiGeとn型SiGeの互いの入込みを適宜チェックする。入込みのチェックは、pn接合部の断面形状を測定することによって行われる。断面形状の測定には、TEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)またはSEM(Scanning Electron Microscope;走査型電子顕微鏡)を用いる。
【0088】
具体的には、試料を例えばFocused Ion Beam(収束イオンビーム)で加工し、試料断面を作製する。その後、測定対象がμmオーダーより大きい場合にSEMを使用し、測定対象が1〜100nmの場合にTEMを使用して断面を観察し、pn接合部16の界面(曲線)におけるp型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みを算出する。なお、本願発明者は、TEMとしては、日本電子株式会社製のJEM−2100F/Csを用い、SEMとしては、HITACHI製のS−4300SEを用いて断面形状の測定を行っている。本願発明者は、測定対象の大きさに対応して上記2機種を用いて断面形状の測定を行い、測定されたpn接合部16の断面におけるp型SiGeとn型SiGeの互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みの場合に、良好なキャリア輸送を実現できることを見出した。
【0089】
なお、このp型熱電材料15とn型熱電材料12との互いの入込みは、前記したように、pn接合部の断面におけるp型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線からの凸方向および凹方向への入込みであるため、それぞれが上記で求められたRa(nm)、即ち凸方向および凹方向に1nm以上となる。
【0090】
(c)多重積層タイプのpn接合型の熱電素子の製造方法
【0091】
多重積層タイプのpn接合型の熱電素子は、以下のようにして製造する。
まず、例えば、n型SiGe(P(燐)ドープ)、p型SiGe(B(硼素)ドープ)を用いて、複数のp型熱電材料およびn型熱電材料を予め所定の形状に成形して仮焼結した後、pn接合形成部分を研磨(ポリッシュ)して所定の粗さに調整した後、SiOとMgSiOとワニス、溶剤を混ぜた絶縁ペースト10μmで挟んで、図5に示すようにp型熱電材料とn型熱電材料のpn接合部同士が重なるように交互に積層させる。
【0092】
次に、静水圧プレス法にて200MPaで圧着し、圧着された積層体を真空中で1050℃で本焼結しpn接合を形成させる。次に、例えばダイシングソーで所定の寸法にカットし電極を形成することで、多重積層タイプのpn接合型の熱電素子を得ることができる。
【0093】
4.発電装置
本実施形態の発電装置には、上記したpn接合型の熱電素子が用いられており、発電に際しては、抵抗加熱と冷却水などを用いて、pn接合側が高温、他端側(電極側)が低温となるように、熱電素子温度差を形成する。ただし、図5に示す多重積層タイプのpn接合型の熱電素子3を発電装置として用いる場合、通常図5に示す電極がない側を280〜800℃の高温にし、電極のある側を30〜500℃の低温にする。
【0094】
これらのpn接合型の熱電素子は前記したように、キャリア輸送効率に優れているため、十分な発電能力を発揮させることができる。
【0095】
[実験例]
1.薄膜タイプの熱電素子と電力との関係
本願発明の実施形態においては、pn接合部16を形成する前において、pn接合形成部分(接合予定部)13を粗くするかどうかがポイントとなる。例えば、図6に示した上記実施形態の場合、粗くしない(高温アニールを行わない)場合の粗さは0.2nmであり、高温アニールを施した後では粗さが1.3nmとなった。
【0096】
なお、前記したように、粗さの測定は、AFMとしてデジタルインスツルメンツ社製のNanoScope IIIaを用いて行った。
【0097】
これらpn接合型の熱電素子に対して、抵抗加熱により高温側を250℃、冷却水により低温側を50℃として、温度差ΔT=200Kを印加し、それぞれの熱電素子における最大電力をデジタルマルチメータで測定した。
【0098】
結果は、粗さが0.2nmの場合は0.1nW、粗さが1.3nmの場合は10nWであり、粗さがが大きい方が、最大電力が大きいことが確認できた。これらは、本願発明の実施形態において提案するpn接合により導入されたpn接合部16の欠陥により、トンネル効果によるキャリアの導入確率およびキャリアの生成確率が向上し、良好なキャリア輸送が実現できたためと考えられる。
【0099】
Raが大きい方が最大電力が大きくなるという効果は、前記した他の熱電材料においても不変であると考えられるため、確認するために、他の熱電材料でも試験してみた。まず、BiTe系で試してみた。SiGe系と同様にMBE法で、Bi、Teをソースとし、n型ドーパントとしてSeを、p型ドーパントとしてSbを添加した。温度差ΔT等の測定条件は、SiGe系薄膜の場合と同様とした。
【0100】
また、PbTe系でも同様にMBE法で、Pb、Teをソースとし、n型ドーパントとしてPbCl、p型ドーパントとしてNaTeを添加してn型熱電材料およびp型熱電材料とした。
【0101】
これらBiTe系、PbTe系について、SiGe系と併せてRa<1nmの場合の最大電力を1として規格化して評価した。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
表1より、これらSiGe系、BiTe系、PbTe系のいずれの場合も、Ra(粗さ)≧1nmとすることにより、電力(最大電力)が2桁近く増加していることが分かり、pn接合部への欠陥導入を意図した界面の粗さを増加させることで、取り出せる電力が向上することが確認された。
【0104】
なお、表1には粗さをRaで表記しているが、p型熱電材料とn型熱電材料の互いの入込みへの換算は、前記したようにpn接合部の断面におけるp型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線からRa(nm)以上の凸部とRa(nm)以上の凹部とによる入込みであることから行うことができる。そして、高温アニールを行ったものは、入込みが前記の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みである。
【0105】
そして、前記したように、pn接合部の断面におけるp型熱電材料とn型熱電材料との互いの入込みは、TEMおよびSEMを用いて断面形状を測定することにより行った。TEMとしては、日本電子株式会社製のJEM−2100F/Csを用い、SEMとしては、HITACHI製のS−4300SEを用いて断面形状の測定を行った。
【0106】
次に、上記電力増大の効果が界面でのキャリア生成によるものかどうかを確認するため、熱電素子における逆方向バイアス−2V印加時の逆方向電流と温度との関係を調べた。具体的にはSiGe系pn接合型熱電素子の各温度での逆方向電流を測定し、測定結果を温度の逆数に対してプロット(アレニウスプロット)した。結果を図7に示す。図7の横軸は温度の逆数であり、縦軸は逆方向電流(Dark current)である。なお、上側の横軸に温度を表記した。
【0107】
図7より、逆方向電流は温度上昇に伴い増加しており、温度の逆数に対して直線関係にあるところから逆方向電流Iの大きさは、I∝exp(−ΔE/kT)に従うことが分かり、これより、上記電力増大の効果が界面でのキャリア生成によるものであることが確認された。なお、305K以下で直線から外れているが、これは逆方向電流の大きさが測定限界を下回り、測定誤差が生じたためである。
【0108】
上記結果より、粗さ(Ra)を大きくしたときに電力が増大する理由は、図8に示すように、pn接合部に欠陥準位が生成されて、キャリア生成の活性化エネルギーΔEが熱電材料のバンドギャップEgよりも小さくなり、キャリアが生成しやすくなる(キャリア生成確率が向上するためであると考えられる。例えば、図7に示したSiGe(Ge20at%)の場合、バンドギャップEg=0.85eVに対して活性化エネルギーΔEは0.44eVと小さくなっている。
【0109】
2.バルクタイプの熱電素子と電力との関係
次に、バルクタイプのpn接合型の熱電素子についてもpn接合部の界面を粗らすことによる電力増大の効果を調べた。
【0110】
具体的には、SiGe系の熱電材料、即ち、n型SiGe(Ge20at%、P(燐)ドープ)、p型SiGe(Ge20at%、B(硼素)ドープ)を用意し、それぞれを型に入れ800℃、窒素雰囲気中、3時間仮焼結を実施して、バルクを形成した。
【0111】
その後、各バルクのpn接合部となる部分を30nmのアルミナスラリーでポリッシュした後、シリカスラリー10nmでポリッシュした。このときの、pn接合形成部の粗さはRa=0.5nmであった。
【0112】
また、意図的に粗らすため、アルミナスラリーによるポリッシュで止めたもの、および耐水研磨紙2500番(最大粒径18μm)で粗らしたものを用意した。これらの粗さ(Ra)は、それぞれ13nmと3μmであった。
【0113】
その後、n型熱電材料バルクとp型熱電材料バルクとをスパークプラズマ焼結法を用いて接合して850℃、窒素雰囲気中、3時間本焼結した。
【0114】
ペロブスカイト構造を含むLaCuO系、即ち、p型(La1.97Sr0.03)CuO、n型(Nd1.97Ce0.03)CuOについてもSiGe系と同様にそれぞれバルクを用意した。これらのバルクのpn接合形成部分の粗さ(Ra)は、それぞれ0.9nm、15nm、4μmであった。
【0115】
その後、n型熱電材料バルクとp型熱電材料バルクとを接合して850℃、窒素雰囲気中、3時間本焼結した。
【0116】
また、FeSi系、即ち、p型FeMnSi、n型FeCoSiについても同様の方法でpn接合形成部分の粗さ(Ra)が0.9nm、2nm、9nm、13nm、10μmのバルクを用意し、n型熱電材料バルクとp型熱電材料バルクとを接合して800℃、窒素雰囲気中、3時間本焼結した。
【0117】
また、同様に、SrTiO系、即ち、p型SrTiO:NiMo(NiMoドープ)、n型SrTiO:Nb(Nbドープ)についても同様の方法でpn接合形成部分の粗さ(Ra)が0.8nm、1nm、2nm、12nm、13μmのバルクを用意し、n型熱電材料バルクとp型熱電材料バルクとを接合して850℃、窒素雰囲気中、3時間本焼結した。
【0118】
作製したpn接合型の熱電素子の最大電力を前記薄膜タイプのpn接合型の熱電素子と同様の方法で測定した。測定結果を表2にまとめて示す。
【0119】
【表2】
【0120】
表2より、バルクタイプの場合も、pn接合部の粗さRaを大きくすることで、最大電力が増大していることが分かった。また、SiGe系、LaCuO系の結果から、pn接合部の粗さRaをそれぞれ13nm、3μmおよび15nm、4μmとRaを1nm以上にすることにより、Raが0.5nmおよび0.9nmに比べて最大電力が1桁もしくはそれ以上増大していることが分かった。
【0121】
また、FeSi系の結果から、pn接合部の粗さRaをそれぞれ2nm、9nm、13nm、10μmとRaを1nm以上にすることにより、Raが0.9nmに比べて最大電力が1桁もしくはそれ以上増大していることが分かった。
【0122】
また、SrTiO系の結果から、pn接合部の粗さRaをそれぞれ1nm、2nm、12nm、13μmとRaを1nm以上にすることにより、Raが1nmで最大電力の増加が小さいものの、Raが1nm以外のものについてはRaが0.8nmに比べて最大電力が1桁もしくはそれ以上増大していることが分かった。
【0123】
なお、図1に示したpn接合型の熱電素子1では、pn接合部に電極が設けられていないが、電極が設けられていても問題はない。即ち、図1に示したpn接合型の熱電素子1において、pn接合部の上面にpn接合部にまたがって電極が形成されていてもよい。
【0124】
また、図5に示した多重積層タイプのpn接合型の熱電素子3においても、pn接合部に電極が設けられていないが、上記と同様に電極が設けられていても問題はない。即ち、図5に示した多重積層タイプのpn接合型の熱電素子3において、図5に示す上面にpn接合部にまたがって電極が形成されていてもよい。また、図5に示す下面にpn接合部にまたがって電極が形成されていてもよい。
【0125】
具体的には、上面には3個のpn接合部が形成されているので、それぞれのpn接合部をまたぐように3個の電極が形成されていてもよく、また、下面には2個のpn接合部が形成されているので、それぞれのpn接合部をまたぐように2個の電極が形成されていてもよい。
【0126】
3.酸素の影響
前記したように、pn接合部を意図的に粗らす場合、酸素がある雰囲気中でアニールあるいは本焼結すると、酸素が積極的に取込まれ、界面に酸化物がパイルアップしてしまい易い。そこで、次に酸素の影響について調べた。具体的には、pn接合形成部分を意図的に粗らした熱電材料を用いたSiGe系の薄膜タイプについて、高温アニールを真空雰囲気と大気雰囲気の2通りの雰囲気の下で行いpn接合形成部分の表面の酸素濃度を測定し、母体(母材)に対する界面の酸素の増加割合、即ち、偏析の程度を調べた。また、SiGe系およびSrTiO系のバルクタイプについて、本焼結を真空雰囲気と大気雰囲気の2通りの雰囲気の下で行いpn接合形成部分の表面の酸素濃度を測定し、母体(母材)に対する酸素の増加割合を調べた。また、併せて最大電力を測定した。なお、酸素濃度の測定にはSEM−EDX(SEM:走査型電子顕微鏡、即ちScanning Electron Microscope、EDX:エネルギー分散型X線分光法、即ちEnergy Dispersive X−ray Spectroscopy)を用いた。測定結果をまとめて表3に示す。
【0127】
【表3】
【0128】
表3より、大気雰囲気下で高温アニールや本焼結を行った場合、同じ粗さ(Ra)であっても真空下に比べて界面での酸素増加割合が2桁以上大きいこと、および酸素増加割合が大きいものは、最大電力が小さいことが確認された。また、酸素濃度増加による最大電力の低下を十分に抑制するためには、酸素増加割合を10at%以下に抑えることが好ましいことが分かった。
【0129】
(付記)
また、本願発明は以下の実施態様を含む。
【0130】
(付記1)
p型熱電材料の一部およびn型熱電材料の一部が直接接合されたpn接合部を有するpn接合型の熱電素子を製造する熱電素子の製造方法であって、
前記熱電素子は、前記pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上である、または
前記pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みである熱電素子であり、
サファイア基板上に第1のメタルマスクを形成する第1メタルマスク形成工程と、
電子ビーム蒸着法により、基板表面の所定の位置にAu電極を形成する第1電極形成工程と、
第2のメタルマスクを形成する第2メタルマスク形成工程と、
分子線エピタキシー法により、n型SiGe熱電材料またはp型SiGe熱電材料のいずれか一方の第1熱電材料を形成する第1熱電材料形成工程と、
前記接合部となる部分を除いて第3のメタルマスクを形成する第3メタルマスク形成工程と、
電子ビーム蒸着法によりAl絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
アニールして、前記第1熱電材料のpn接合予定部における粗さがJIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上となる、または、pn接合部の断面における前記第1熱電材料と前記第1熱電材料とは異なる型の第2熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みとなるように、前記第1熱電材料のpn接合予定部の表面を調整する表面調整工程と、
分子線エピタキシー法により前記第1熱電材料とは異なる型のSiGe熱電材料である前記第2熱電材料を形成する第2熱電材料形成工程と、
第4のメタルマスクを形成する第4メタルマスク形成工程と、
電子ビーム蒸着法により、前記第2熱電材料上の所定の位置にAu電極を形成する第2電極形成工程とを備えている熱電素子の製造方法。
【0131】
(付記2)
p型熱電材料の一部およびn型熱電材料の一部が直接接合されたpn接合部を有するpn接合型の熱電素子を製造する熱電素子の製造方法であって、
前記熱電素子は、前記pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上である、または
前記pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みである熱電素子であり、
n型SiGe熱電材料およびp型SiGe熱電材料をそれぞれ所定の形状に成形後、仮焼結する仮焼結工程と、
前記n型SiGe熱電材料および前記p型SiGe熱電材料の各pn接合予定部をアルミナスラリーまたは耐水研磨紙を用いて研磨して、各pn接合予定部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上となる、または、pn接合部の断面における前記p型SiGe熱電材料と前記n型SiGe熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みとなるように、各pn接合予定部の表面を調整する表面調整工程と、
前記n型SiGe熱電材料および前記p型SiGe熱電材料のpn接合予定部を互いに重ね合わせて所定の温度、雰囲気の下で所定の時間本焼結してpn接合を形成する本焼結工程と、
前記n型SiGe熱電材料および前記p型SiGe熱電材料の所定の位置に、それぞれ第1Au電極および第2Au電極を形成する電極形成工程とを備えている熱電素子の製造方法。
【0132】
(付記3)
p型熱電材料およびn型熱電材料の少なくとも一部が直接接合されたpn接合部を有するpn接合型の熱電素子が多重積層されて構成された熱電素子を製造する熱電素子の製造方法であって、
前記pn接合型の各熱電素子は、各積層部を形成する前記pn接合部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上である、または
各積層部を形成する前記pn接合部の断面における前記p型熱電材料と前記n型熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みである熱電素子であり、
複数のp型SiGe熱電材料とn型SiGe熱電材料とを所定の形状に成形後、仮焼結する仮焼結工程と、
前記p型SiGe熱電材料および前記n型SiGe熱電材料のpn接合予定部を研磨して、前記p型SiGe熱電材料および前記n型SiGe熱電材料のpn接合予定部の界面における粗さが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaで1nm以上となる、または、pn接合部の断面における前記p型SiGe熱電材料と前記n型SiGe熱電材料との互いの入込みが、JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さRaを算出する際の平均線から1nm以上の凸部と1nm以上の凹部とによる入込みとなるように、前記第1SiGe熱電材料のpn接合予定部の表面を調整する粗さ調整工程と、
前記p型SiGe熱電材料と前記n型SiGe熱電材料のpn接合形成部分を除く部分に絶縁ペーストを塗布する絶縁ペースト塗布工程と、
複数の前記p型SiGe熱電材料と前記n型SiGe熱電材料とをそれぞれのpn接合部分が重なるように交互に積層させて積層体を形成する積層工程と、
前記積層体を静水圧プレス法にて圧着する圧着工程と、
圧着された前記積層体を本焼成する本焼成工程と、
前記熱電材料の所定の位置に電極を形成する電極形成工程とを備えている熱電素子の製造方法。
【0133】
(付記4)
本実施形態の熱電素子を備えている発電装置。
【産業上の利用可能性】
【0134】
熱電変換による発電装置に用いることができ、クリーンで、効率の良い発電が可能となる。
【符号の説明】
【0135】
1、2、3、5 pn接合型の熱電素子
4 π型熱電素子
11 電極
12 n型熱電材料
13 pn接合形成部分
14 絶縁膜
15 p型熱電材料
16 pn接合部
S サファイア基板
1p、1n 伝導帯の底のエネルギー準位
2p、2n 禁制帯
3p、3n 価電子帯の頂のエネルギー準位
p P型熱電材料
n n型熱電材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11