【文献】
Seok-Jun Seo et al.,Electrochemical properties of pore-filled anion exchange membranes and their ionic transport phenomena for vanadium redox flow battery applications ,Journal of Membrane Science,2012年11月23日,428,pp. 17-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るレドックスフロー電池について説明する。
【0014】
<レドックスフロー電池の構造>
図1に示すように、レドックスフロー電池は、充放電セル11と、正極電解液22を貯蔵する第1タンク23と、負極電解液32を貯蔵する第2タンク33とを備える。さらに、レドックスフロー電池は、正極電解液22を充放電セル11に供給する第1供給管24と、負極電解液32を充放電セル11に供給する第2供給管34とを備える。
【0015】
充放電セル11の内部は、隔膜12によって正極側セル21と負極側セル31とに仕切られている。
【0016】
正極側セル21には、正極21aと正極側集電板21bとが互いに接触した状態で配置されている。負極側セル31には、負極31aと負極側集電板31bとが互いに接触した状態で配置されている。正極21a及び負極31aは、例えばカーボン製のフェルトから構成される。正極側集電板21b及び負極側集電板31bは、例えばガラス状カーボン板から構成される。正極側集電板21b及び負極側集電板31bは、充放電装置10に電気的に接続されている。レドックスフロー電池には、充放電セル11周辺の温度を調節する温度調節装置が必要に応じて設けられる。
【0017】
正極側セル21には、第1供給管24及び第1回収管25を介して第1タンク23が接続されている。第1供給管24には、第1ポンプ26が装備されている。第1ポンプ26の作動により、第1タンク23内の正極電解液22は、第1供給管24を通じて正極側セル21に供給される。このとき、正極側セル21内の正極電解液22は、第1回収管25を通じて第1タンク23に回収される。このように正極電解液22は、第1タンク23と正極側セル21との間を循環する。
【0018】
負極側セル31には、第2供給管34及び第2回収管35を介して第2タンク33が接続されている。第2供給管34には、第2ポンプ36が装備されている。第2ポンプ36の作動により、第2タンク33内の負極電解液32は、第2供給管34を通じて負極側セル31に供給される。このとき、負極側セル31内の負極電解液32は、第2回収管35を通じて第2タンク33に回収される。このように負極電解液32は、第2タンク33と負極側セル31との間を循環する。
【0019】
第1タンク23及び第2タンク33には、第1ガス管13aが接続されている。第1ガス管13aは、不活性ガス発生装置から供給される不活性ガスを、第1タンク23内の正極電解液22中及び第2タンク33内の負極電解液32中に供給する。これにより、正極電解液22及び負極電解液32と大気中の酸素との接触が抑制される。第1タンク23内及び第2タンク33内の気相中の酸素濃度は、不活性ガスの供給量を調整することで、略一定に保たれる。
【0020】
不活性ガスとしては、例えば窒素ガスが用いられる。なお、使用できる不活性ガスの例としては、窒素ガス以外に、例えば、二酸化炭素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスが挙げられる。第1タンク23及び第2タンク33に供給された不活性ガスは、排気管14を通じて排気される。排気管14の排出側の先端には、排気管14の先端開口を水封する水封部15が設けられている。水封部15は、排気管14内に大気が逆流することを防止するとともに、第1タンク23内及び第2タンク33内の圧力を一定に保つ。
【0021】
本実施形態のレドックスフロー電池は、ケース41を備えている。ケース41は、充放電セル11、第1タンク23、及び第2タンク33を取り囲む。ケース41には、第2ガス管13bが接続されている。第2ガス管13bは、不活性ガス発生装置から供給される不活性ガスを充放電セル11の周囲に供給する。これにより、充放電セル11と大気中の酸素との接触が抑制される。ケース41内の酸素濃度は、不活性ガスの供給量を調整することで、略一定に保たれる。
【0022】
充電時には、正極21aに接触する正極電解液22中で酸化反応が行われるとともに、負極31aに接触する負極電解液32中で還元反応が行われる。すなわち、正極21aは電子を放出するとともに、負極31aは電子を受け取る。このとき、正極側集電板21bは、正極21aから放出された電子を充放電装置10に供給する。負極側集電板31bは、充放電装置10から受け取った電子を負極31aに供給する。負極側集電板31bは、負極31aから放出された電子を集めて充放電装置10に供給する。
【0023】
放電時には、正極21aに接触する正極電解液22中で還元反応が行われるとともに、負極31aに接触する負極電解液32中で酸化反応が行われる。すなわち、正極21aは電子を受け取るとともに、負極31aは電子を放出する。このとき、正極側集電板21bは、充放電装置10から受け取った電子を正極21aに供給する。
【0024】
<隔膜12の構成>
隔膜12は、正極側セル21と負極側セル31との間において活物質の透過を抑制する。隔膜12は陰イオン交換膜から構成されている。隔膜12は、充電時には、負極側セル31中の陰イオンを正極側セル21へ透過させるとともに、放電時には、正極側セル21中の陰イオンを負極側セル31へ透過させる。
【0025】
陰イオン交換膜は、ポリプロピレン製の非多孔質基材にハロゲン化メチルスチレンをグラフト重合してなるグラフト重合体と第三級アミンとを反応させることにより得られたものである。グラフト重合体と第三級アミンとの反応は、グラフト重合体の有するグラフト鎖に陰イオン交換基を導入する。
【0026】
ポリプロピレン製の非多孔質基材としては、市販のフィルム又はシート、例えば二軸延伸ポリプロピレンフィルム又は無延伸ポリプロピレンフィルムとして市販のものが用いられる。非多孔質基材の中でも、二軸延伸ポリプロピレンフィルムが好ましい。
【0027】
ポリプロピレン製の非多孔質基材の厚みは、10μm以上、300μm以下の範囲内であることが好ましい。非多孔質基材中におけるポリプロピレンの含有量は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。非多孔質基材には、ポリプロピレン以外の樹脂がブレンドされていてもよい。ポリプロピレン以外の樹脂としては、例えばポリエチレンが挙げられる。非多孔質基材には、可塑剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0028】
ハロゲン化メチルスチレンは、ポリプロピレン製の非多孔質基材にグラフト重合される。これにより、非多孔質基材を構成するポリプロピレンにポリ(ハロゲン化メチルスチレン)がグラフト鎖として導入されたグラフト重合体が得られる。ハロゲン化メチルスチレンとしては、例えば、クロロメチルスチレン、及びブロモメチルスチレンが挙げられる。
【0029】
グラフト重合体と反応させる第三級アミンとしては、ハロゲン化メチル基と反応し得る第三級アミンであれば特に限定されない。好適な第三級アミンとしては、炭素数が3〜12のアミン、例えば、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、及びトリブチルアミンが挙げられる。
【0030】
陰イオン交換膜の有するグラフト鎖は、ベンジルトリアルキルアンモニウム塩を側鎖に有するビニルポリマーであり、グラフト鎖の側鎖は、陰イオン交換基として第四級アンモニウムカチオンを有する。
【0031】
陰イオン交換膜のグラフト率は、55%以上、130%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは70%以上、130%以下の範囲内である。
【0032】
陰イオン交換膜のグラフト率は、ポリプロピレン製の非多孔質基材の質量をW
0、第三級アミンと反応した後の陰イオン交換膜の質量をW
1とした場合、下記式(A)に代入して算出される。
【0033】
グラフト率(%)=100×(W
1−W
0)/W
0 ・・・(A)
<隔膜12(陰イオン交換膜)の製造>
隔膜12(陰イオン交換膜)は、重合工程及び置換反応工程を通じて製造される。
【0034】
重合工程では、非多孔質基材に生成させたラジカル活性点に、ハロゲン化メチルスチレンを用いてグラフト鎖を導入する。ラジカル活性点は、例えば、ラジカル重合開始剤の使用、電離放射線の照射、紫外線の照射、超音波の照射、プラズマの照射等により生成することができる。ラジカル活性点を生成する方法の中でも、電離放射線の照射を用いた重合工程は、製造プロセスが簡単、安全、かつ環境へ負荷も小さいという利点を有する。
【0035】
電離放射線としては、例えばα線、β線、γ線、電子線、X線等が挙げられる。電離放射線の中でも、工業的に利用し易いという観点から、例えばコバルト60から放射されるγ線、電子線加速器から放射される電子線、X線等が好適である。
【0036】
電離放射線の照射は、ラジカル活性点と酸素との反応を抑制するという観点から、窒素ガス、ネオンガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。電離放射線の吸収線量は、例えば1kGy以上、300kGy以下の範囲内である。電離放射線の吸収線量を調整することで、グラフト率を変更することができる。
【0037】
重合工程では、ラジカル活性点の生成した非多孔質基材に、ハロゲン化メチルスチレンを含む溶液を接触させる。この接触では、ハロゲン化メチルスチレンを含む溶液中に浸漬した非多孔質基材を振とうしたり、加熱したりすることで、ラジカル重合反応を促進することが可能である。
【0038】
ハロゲン化メチルスチレンを含む溶液の溶媒としては、例えば、アセトン等の親水性ケトンが好適に用いられる。
【0039】
上記のグラフト率は、ハロゲン化メチルスチレンを含む溶液中のハロゲン化メチルスチレンの濃度調整により容易に変更することができる。ハロゲン化メチルスチレンを含む溶液中におけるハロゲン化メチルスチレンの濃度は、例えば1質量%以上、70質量%以下の範囲内である。ラジカル活性点の生成した非多孔質基材に、ハロゲン化メチルスチレンを含む溶液を接触させる時間は、例えば30分以上、48時間以下の範囲内である。
【0040】
ラジカル活性点の生成した非多孔質基材とハロゲン化メチルスチレンを含む溶液との接触についても、電離放射線の照射の場合と同様に、窒素ガス、ネオンガス、アルゴンガス、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0041】
重合工程により得られたグラフト重合体は、必要に応じて洗浄された後に、置換反応工程に供される。
【0042】
置換反応工程では、第三級アミンを含む溶液をグラフト重合体に接触させることで、グラフト重合体の有するグラフト鎖の側鎖に陰イオン交換基を導入する。この接触では、第三級アミンを含む溶液中に浸漬したグラフト重合体を振とうしたり、加熱したりすることで、置換反応を促進することが可能である。
【0043】
第三級アミンを含む溶液の溶媒としては、例えば、水等の親水性溶媒が好適に用いられる。第三級アミンを含む溶液中における第三級アミンの濃度は、例えば1質量%以上、70質量%以下の範囲内である。置換反応の時間は、例えば30分以上、48時間以下の範囲内である。
【0044】
置換反応工程で得られた陰イオン交換膜は、必要に応じて洗浄された後に、隔膜12として用いられる。
【0045】
<電解液>
正極電解液22のpH及び負極電解液32のpHは、2以上、8以下の範囲内である。正極電解液22のpH及び負極電解液32のpHは、好ましくは4以上、7以下の範囲内である。
【0046】
正極電解液22のpH及び負極電解液32として、上記pHの範囲内で酸化還元反応を行うことのできる活物質を含む水溶液が用いられる。正極電解液22のpH及び負極電解液32のpHが2以上であることで、耐食性が確保され易くなる。正極電解液22のpH及び負極電解液32のpHが8以下であることで、例えば、活物質の溶解性が確保され易くなる。
【0047】
活物質としては、例えば、鉄のレドックス系物質、チタンのレドックス系物質、クロムのレドックス系物質、マンガンのレドックス系物質、及び銅のレドックス系物質が挙げられる。本出願で記載する「レドックス系物質」とは、金属の酸化還元反応で生成する金属イオン、金属錯イオン又は金属のことを言う。
【0048】
活物質は、上記pHの範囲内における析出を抑制するために、金属錯体として電解液中に含有されることが好適である。金属錯体を形成するためのキレート剤としては、活物質と錯体を形成し得るものであって、例えば、アミン、クエン酸、乳酸、アミノカルボン系キレート剤、及びポリエチレンイミンが挙げられる。
【0049】
以下、正極電解液22及び負極電解液32の一例の詳細について説明する。
【0050】
正極電解液22は、鉄のレドックス系物質と、酸とを含有する。酸は、クエン酸又は乳酸である。
【0051】
正極電解液22中では、鉄が活物質として機能し、例えば、充電時には、鉄(II)から鉄(III)への酸化が起こり、放電時には、鉄(III)から鉄(II)への還元が起こると推測される。正極電解液22は、上記の酸を含有することにより、実用的な起電力が得られ易くなっている。
【0052】
正極電解液22中における鉄のレドックス系物質(鉄イオン)の濃度は、エネルギー密度を高めるという観点から、好ましくは0.2モル/L以上であり、より好ましくは0.3モル/L以上であり、さらに好ましくは0.4モル/L以上である。正極電解液22中における鉄のレドックス系物質(鉄イオン)の濃度は、好ましくは1.0モル/L以下である。
【0053】
正極電解液22中の鉄のレドックス系物質に対する上記酸のモル比は、1以上、4以下の範囲内であることが好ましい。前記モル比が1以上の場合、正極電解液22の電気抵抗がより低くなるため、クーロン効率及び正極電解液22の利用率を高めることが容易となる。前記モル比が4以下の場合、経済性と実用性の両立が容易となる。
【0054】
正極電解液22のpHは、例えば、鉄のレドックス系物質及び上記酸の溶解性を確保し易いことから、1以上、7以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは2以上、5以下の範囲内である。なお、pHは、例えば20℃で測定される値である。
【0055】
正極電解液22には、必要に応じて、例えば、無機酸の塩又はキレート剤を含有させることもできる。
【0056】
負極電解液32は、チタンのレドックス系物質と酸とを含有する電解液である。酸は、クエン酸又は乳酸である。
【0057】
負極電解液32中では、チタンが活物質として機能し、例えば、充電時には、チタン(IV)からチタン(III)への還元が起こり、放電時には、チタン(III)からチタン(IV)への酸化が起こると推測される。負極電解液32は、上記の酸を含有することにより、錯体化し、約0.2V電位が下がるため、実用的な起電力が得られ易くなっている。
【0058】
負極電解液32中におけるチタンのレドックス系物質(チタンイオン)の濃度は、エネルギー密度を高めるという観点から、好ましくは0.2モル/L以上であり、より好ましくは0.3モル/L以上であり、さらに好ましくは0.4モル/L以上である。負極電解液32中におけるチタンのレドックス系物質(チタンイオン)の濃度は、好ましくは1.0モル/L以下である。
【0059】
負極電解液32中のチタンのレドックス系物質に対する上記酸のモル比は、1以上、4以下の範囲内であることが好ましい。前記モル比が1以上の場合、負極電解液32の電気抵抗がより低くなるため、クーロン効率及び負極電解液32の利用率を高めることが容易となる。前記モル比が4以下の場合、経済性と実用性の両立が容易となる。
【0060】
負極電解液32のpHは、例えば、チタンのレドックス系物質及び上記酸の溶解性を確保し易いことから、1以上、7以下の範囲内であることが好ましい。負極電解液32のpHは、2以上、5以下の範囲内であることがより好ましい。
【0061】
負極電解液32には、必要に応じて、例えば、無機酸の塩、各種キレート剤を含有させることもできる。
【0062】
正極電解液22及び負極電解液32は、公知の方法で調製することができる。正極電解液22及び負極電解液32に用いる水は、蒸留水と同等又はそれ以上の純度を有していることが好ましい。
【0063】
以上のように構成されたレドックスフロー電池では、第2タンク33内の負極電解液32中の溶存酸素量が1.5mg/L以下に設定されることが好ましい。溶存酸素量は、1.0mg/L以下であることがより好ましい。さらに、ケース41内の酸素濃度は10体積%以下であることが好ましい。加えて、第2タンク33内の気相中の酸素濃度は1体積%以下であることが好ましい。
【0064】
なお、第1タンク23内の正極電解液22中の溶存酸素量についても1.5mg/L以下に設定されてもよいし、1.0mg/L以下に設定されてもよい。また、第1タンク23内の気相中の酸素濃度についても1体積%以下に設定されてもよい。
【0065】
<レドックスフロー電池の作用>
pHが2以上、8以下の範囲内の正極電解液22及び負極電解液32を用いたレドックスフロー電池は、上述した陰イオン交換膜を隔膜12として有するため、電池性能を発揮させることが容易となる。本実施形態のレドックスフロー電池によれば、例えば、実用的なエネルギー効率を発揮させることが容易となる。
【0066】
レドックスフロー電池の性能は、例えば、充放電サイクル特性(可逆性)、クーロン効率、電圧効率、エネルギー効率、電解液の利用率、起電力、及び電解液の電位により評価することができる。以下では、レドックスフロー電池の充放電1回を1サイクルという。
【0067】
充放電サイクル特性(可逆性)は、1サイクル目の放電のクーロン量(A)と10サイクル目の放電のクーロン量(B)とを下記式(1)に代入することで算出される。
【0068】
充放電サイクル特性[%]=B/A×100 ・・・(1)
充放電サイクル特性は、80%以上であることが好ましい。
【0069】
クーロン効率は、所定のサイクル目の充電のクーロン量(C)と放電のクーロン量(D)とを下記式(2)に代入することで算出される。
【0070】
クーロン効率[%]=D/C×100 ・・・(2)
クーロン効率は、例えば、10サイクル目のクーロン量から算出される値において、好ましくは90%以上である。
【0071】
電圧効率は、所定のサイクル目の充電の平均端子電圧(E)と放電の平均端子電圧(F)とを下記式(3)に代入することで算出される。
【0072】
電圧効率[%]=F/E×100 ・・・(3)
電圧効率は、例えば、10サイクル目の端子電圧から算出される値において、好ましくは70%以上である。
【0073】
エネルギー効率は、所定のサイクル目の充電の電力量(G)と放電の電力量(H)とを下記式(4)に代入することで算出される。
【0074】
エネルギー効率[%]=H/G×100 ・・・(4)
エネルギー効率は、10サイクル目の電力量から算出される値において、好ましくは70%以上である。
【0075】
電解液の利用率は、正極21a側又は負極31a側に供給される電解液の活物質のモル数にファラデー定数(96500クーロン/モル)を乗じてクーロン量(I)を求めるとともに、10サイクル目の放電のクーロン量(J)を求め、クーロン量(I)とクーロン量(J)とを下記式(5)に代入することで算出される。なお、正極21a側に供給される電解液の活物質のモル数と負極31a側に供給される電解液の活物質のモル数とが異なる場合は、より小さいモル数を採用する。
【0076】
電解液の利用率[%]=J/I×100 ・・・(5)
電解液の利用率は、10サイクル目の放電クーロン量から算出される値において、好ましくは35%以上である。
【0077】
起電力は、所定のサイクル目において充電から放電に切り替えるとき(電流が0mAのとき)の端子電圧とされる。
【0078】
起電力は、10サイクル目の端子電圧において、0.8V以上であることが好ましい。
【0079】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0080】
(1)本実施形態のレドックスフロー型電池では、正極電解液22及び負極電解液32のpHが2以上、8以下の範囲内である。このレドックスフロー型電池は、陰イオン交換膜を、正極電解液22と負極電解液32の隔膜12として有する。陰イオン交換膜は、ポリプロピレン製の非多孔質基材にハロゲン化メチルスチレンをグラフト重合してなるグラフト重合体と第三級アミンとを反応させることにより得られたものである。グラフト重合体と第三級アミンとの反応は、グラフト重合体の有するグラフト鎖に陰イオン交換基を導入する。この陰イオン交換膜を隔膜12として有するレドックスフロー電池は、pHが2以上、8以下の範囲内の電解液を用いる場合に、電池性能を発揮させる点で好適である。
【0081】
(2)陰イオン交換膜のグラフト率が55%以上、130%以下の範囲内である場合、エネルギー効率をより高めることが容易となる。すなわち、陰イオン交換膜のグラフト率が55%以上の場合、陰イオンが透過し易くなるため、エネルギー効率が高まり易くなる。陰イオン交換膜のグラフト率が130%以下の場合、レドックス系物質の透過が抑制され易くなるため、エネルギー効率が高まり易くなる。
【0082】
(3)非多孔質基材が二軸延伸ポリプロピレンフィルムの場合、エネルギー効率をより高めることが容易となる。また、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いる場合、エネルギー効率をより高める点で、陰イオン交換膜のグラフト率は70%以上、130%以下の範囲内であることが有利である。
【0083】
(4)本実施形態の陰イオン交換膜は、入手容易な原材料を用いて製造できるため、レドックスフロー電池の隔膜について低コスト化に寄与し得る。このため、設備の低コスト化が実現可能となるため、レドックスフロー電池の更なる普及を促進するという観点で有利である。
【0084】
(5)陰イオン交換膜の製造方法は、ポリプロピレン製の非多孔質基材にハロゲン化メチルスチレンをグラフト重合する重合工程と、得られたグラフト重合体と第三級アミンとを反応させる置換反応工程とを含む。重合工程は電離放射線の照射を用いた重合工程であるため、製造プロセスが簡単、安全、かつ環境へ負荷も小さいという利点を有する。
【0085】
(変更例)
前記実施形態は以下のように変更されてもよい。
【0086】
・前記陰イオン交換膜は、イオン伝導のキャリアとなるイオンの透過性が前記陰イオン交換膜よりも高い支持体を備えていてもよい。すなわち、隔膜12は、陰イオン交換膜と、それを支持する支持体とを有する積層体であってもよい。
【0087】
・レドックスフロー電池の有する充放電セル11の形状、配置、又は数や第1タンク23及び第2タンク33の容量はレドックスフロー電池に求められる性能等に応じて変更されてもよい。また、充放電セル11に対する正極電解液22及び負極電解液32の供給量についても、例えば充放電セル11の容量等に応じて設定することができる。また、例えば、酸素濃度の影響の小さい電解液の場合には、ケース41を省略してもよい。
【実施例】
【0088】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0089】
(製造例1)
二軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名:パイレンフィルム−OT、P2161、厚み50μm、寸法80×80mm、東洋紡株式会社製)を、袋に密封した後、その袋中を窒素置換した。これに電子線を加速電圧750kV、吸収線量200kGyの条件で照射した後、袋中に40質量%のクロロメチルスチレン−アセトン溶液を20mL注入した。次に、袋を50℃の恒温槽中で2時間振とうした。これにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに4−クロロメチルスチレンをグラフト重合したグラフト重合体を得た。
【0090】
次に、得られたグラフト重合体を袋から取り出してアセトン及び水で洗浄した後に、窒素置換した袋中に再び密封した。その袋中に5質量%のトリメチルアミン水溶液を20mL注入した。これを50℃の恒温槽で2時間振とうすることで、グラフト重合体とトリメチルアミンとを反応させた。これにより、グラフト鎖に陰イオン交換基が導入された陰イオン交換膜を得た。
【0091】
得られた陰イオン交換膜を袋から取り出し、水で洗浄した後、乾燥させた。予め測定した二軸延伸ポリプロピレンフィルムの質量(W
0)と、陰イオン交換膜の質量(W
1)とを上述した式(A)に代入してグラフト率を算出した。
【0092】
(製造例2〜4)
製造例2〜4では、クロロメチルスチレン−アセトン溶液の濃度を変更した以外は、製造例1と同様にして、グラフト率の異なる陰イオン交換膜を得た。
【0093】
(製造例5及び製造例6)
製造例5及び製造例6では、製造例1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの代わりに無延伸ポリプロピレンフィルム(商品名:オーファンPPシート P23S、厚み250μm、寸法80×70mm、オージェイケイ株式会社製)を用いた。クロロメチルスチレン−アセトン溶液の濃度を調整した以外は、製造例1と同様にして、グラフト率の異なる陰イオン交換膜を得た。
【0094】
(電解液中のイオンの透過率の比較)
上記製造例1で得られた陰イオン交換膜について、電解液中のイオンの透過率を次のように測定した。まず、電解液を入れたガラス製容器の開口をイオン交換膜で密封した。電解液としては、0.2モル/Lの鉄(II)−クエン酸錯体水溶液を用いた。
【0095】
100mLの蒸留水を入れたビーカーを準備し、上記のガラス製容器に取り付けた陰イオン交換膜を蒸留水中に浸漬した状態で、スターラーを用いて蒸留水を24時間撹拌した。次に、蒸留水中の鉄イオン濃度を測定した。この鉄イオン濃度を、陰イオン交換膜の面積1cm
2当たり、かつ電解液の濃度1モル当たり、かつ1時間当たりの濃度に換算し、その換算値を透過率とした。
【0096】
製造例2〜6で得られた各陰イオン交換膜、及び、ポリプロピレン製の多孔質基材を用いない市販の陰イオン交換膜(AHA、アストム社製)についても製造例1で得られた陰イオン交換膜と同様にして透過率を求めた。
【0097】
図2には、各製造例で得られた陰イオン交換膜のグラフト率と透過率との関係を示している。
図2中の“A”で示されるプロットは、製造例1〜4の結果を示し、
図2中の“B”で示されるプロットは、製造例5及び製造例6の結果を示す。
図2のグラフ中の太線は、市販の陰イオン交換膜の透過率(透過率=2.0×10
−7)のレベルを示している。
【0098】
(実施例1)
<レドックスフロー電池>
図1に示されるレドックスフロー電池を用いた。正極及び負極としては、カーボンフェルト(商品名:GFA5、SGL社製)を用いて電極面積を10cm
2に設定した。集電板としては、厚み1.0mmの純チタンを用いた。隔膜としては、上記の製造例1と同様にして製造した陰イオン交換膜(グラフト率71%)を用いた。
【0099】
第1タンク及び第2タンクとしては、容量30mLのガラス容器を用いた。各供給管、各回収管、各ガス管及び排気管としては、シリコーン製のチューブを用いた。各ポンプとしては、マイクロチューブポンプ(MP−1000、東京理化器械株式会社製)を用いた。充放電装置としては、充放電バッテリテストシステム(PFX200、菊水電子工業株式会社製)を用いた。
【0100】
<鉄(II)−クエン酸錯体水溶液の調製>
蒸留水50mLに0.04モル(8.4g)のクエン酸を溶解させた。この水溶液に、0.01モル(0.4g)のNaOHを添加することで、pHを3に調整した。さらにこの水溶液に、0.02モル(5.56g)のFeSO
4・7H
2Oを溶解させた。次に、この水溶液に、全量が100mLとなるように蒸留水を加えた。これにより、鉄(II)−クエン酸錯体の濃度が0.2モル/Lの水溶液を得た。
【0101】
<チタン(IV)−クエン酸錯体水溶液の調製>
蒸留水50mLに0.04モル(8.4g)のクエン酸を溶解させた。この水溶液に、0.12モル(4.8g)のNaOHを添加することで、pHを6に調整した。さらにこの水溶液に、硫酸チタンの30質量%溶液を16g(0.02モルの硫酸チタンに相当)加えて水溶液が透明になるまで撹拌した。次に、この水溶液に、0.2モル(11.69g)のNaClを溶解させるとともに、全量が100mLとなるように蒸留水を加えた。これにより、チタン(IV)−クエン酸錯体の濃度が0.2モル/Lの水溶液を得た。
【0102】
<酸素濃度の調整>
正極電解液として鉄(II)−クエン酸錯体水溶液を用いるとともに、負極電解液としてチタン(IV)−クエン酸錯体水溶液を用いた。第1ガス管から窒素ガスを供給することで、各電解液のバブリングを行い、各電解液中の溶存酸素量を0.8mg/L(飽和酸素濃度の約10%)以下に調整した。なお、第1ガス管からの窒素ガスの供給は、以降の充放電試験中においても継続した。
【0103】
次に、第2ガス管からケース内に窒素を供給することで、充放電セルの周囲雰囲気の酸素濃度を1%以下に調整した。なお、第2ガス管からの窒素ガスの供給は、以降の充放電試験中においても継続した。
【0104】
溶存酸素量は、溶存酸素計(飯島電子工業株式会社製、“B−506”)を用いて測定した。酸素濃度は、酸素濃度計(新コスモス電機株式会社製、“XPO−318”)を用いて測定した。
【0105】
<充放電試験>
充放電試験は、充電から開始し、まず、50mAの定電流で60分間充電した(合計180クーロン)。次に、50mAの定電流で、放電終止電圧を0Vとして放電した。
【0106】
以上の充放電を1サイクルとして、充放電を100サイクル繰り返した。
【0107】
充放電を行う際のレドックス反応は、以下のように推定される。
【0108】
正極:鉄(II)−クエン酸錯体 ⇔ 鉄(III)−クエン酸錯体+e
−
負極:チタン(IV)−クエン酸錯体+2e
− ⇔ チタン(III)−クエン酸錯体
充放電試験において、充放電サイクル特性(可逆性)、クーロン効率、電圧効率、エネルギー効率、電解液の利用率、及び起電力を求めた。
【0109】
充放電サイクル特性(可逆性)は、1サイクル目の放電のクーロン量(A)と10サイクル目の放電のクーロン量(B)から求めた。
【0110】
クーロン効率は、10サイクル目のクーロン量から求めた。
【0111】
電圧効率は、10サイクル目の平均端子電圧から求めた。
【0112】
エネルギー効率は、10サイクル目の電力量から求めた。
【0113】
電解液の利用率は、10サイクル目のクーロン量から求めた。
【0114】
起電力は、10サイクル目の端子電圧とした。
【0115】
(充放電試験の結果)
表1に、実施例1における充放電試験の結果を示す。
【0116】
【表1】
図3には、実施例1の充放電試験において、8サイクル目から9サイクル目までの充放電した際の電池電圧の推移を示している。これにより、レドックスフロー電池としての実用性を有することが確認された。
【0117】
(実施例2〜4)
実施例2及び実施例3では、製造例1と同様にして陰イオン交換膜を得た。実施例4では、クロロメチルスチレン−アセトン溶液の濃度を変更した以外は、製造例1と同様にして陰イオン交換膜を得た。実施例2の陰イオン交換膜のグラフト率は、78%であり、実施例3の陰イオン交換膜のグラフト率は83%であり、実施例4の陰イオン交換膜のグラフト率は121%である。
【0118】
実施例2〜4においても、上記実施例1と同様にして充放電試験を行い、エネルギー効率を求めた。
【0119】
(実施例5及び実施例6)
実施例5及び実施例6では、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの代わりに、無延伸ポリプロピレンフィルム(商品名:オーファンPPシート P23S、厚み250μm、寸法80×70mm、オージェイケイ株式会社製)を用いるとともに、クロロメチルスチレン−アセトン溶液の濃度を変更した以外は、製造例1と同様にしてグラフト率の異なる陰イオン交換膜を得た。実施例5の陰イオン交換膜のグラフト率は、52%であり、実施例6の陰イオン交換膜のグラフト率は、88%である。
【0120】
実施例5及び実施例6においても、上記実施例1と同様にして充放電試験を行い、エネルギー効率を求めた。
【0121】
図4には、実施例2〜6における陰イオン交換膜のグラフト率とレドックスフロー電池のエネルギー効率との関係を示している。
図4中の“A”で示されるプロットは、実施例2〜4の結果を示し、“B”で示されるプロットは、実施例5及び実施例6の結果を示す。
図4のグラフ中の太線“C”は、ポリプロピレン製の多孔質基材を用いない市販の陰イオン交換膜(AHA、アストム社製)を隔膜として用いて実施例1と同様に充放電試験を行った際のエネルギー効率(エネルギー効率=70%)のレベルを示している。また、
図4のグラフ中の太線“D”は、市販の陽イオン交換膜(CMS、アストム社製)を隔膜として用いるとともに、正極電解液に0.2モル(11.69g)のNaClをさらに溶解させた以外は、実施例1と同様に充放電試験を行った際のエネルギー効率(エネルギー効率=72%)のレベルを示している。
【0122】
図4に示される結果から、実施例2〜6のレドックスフロー電池のエネルギー効率は、市販のイオン交換膜を用いたレドックスフロー電池のエネルギー効率と同様に好適であることが確認された。