【実施例1】
【0019】
<概要>
本実施例の発明は、透明保護層と蓄光層と反射層とを有する蓄光表示板の製造方法であって、窪みを有する型基板上に枠を立設し、枠内に透明保護層、蓄光層、反射層を順次形成した後に、これらを枠ごと一体に離型するという方法で蓄光表示板を製造するものである。また、このような製造方法を用いて製造された蓄光表示板も本実施例の発明に含まれる。
【0020】
<処理の流れ>
(全般)
図1は、本実施例の蓄光表示板の製造方法における処理の流れの一例を示す図である。本図に示すように、本実施例の発明に係る製造方法は、枠立設ステップS0101と、透明保護層原材料流込ステップS0102と、蓄光層形成ステップS0103と、反射層形成ステップS0104と、離型ステップS0105とを有する。以下、これら各ステップについて、順次詳細に説明する。
【0021】
(枠立設ステップ)
枠立設ステップは、窪みを有する型基板上に、枠を、前記枠の下部開口面が前記窪みの上部開口面を包含するように立設するステップである。
【0022】
図2は、本実施例の蓄光表示板の製造方法について説明するための概念図である。このうち、
図2(a)は、型基板0200と、型基板上に立設される枠0210を示したものである。本図では、枠はまだ型基板上に立設されておらず、型基板上の上方に準備されている状態である。
図2(b)は、その後当該枠が下方向(
図2(a)における矢印A方向)に移動して型基板上に立設された状態である。なお、本図はあくまで概念図であるので、枠の形状、縦横の寸法比などはあくまで一例であり、本実施例の蓄光表示板の製造に用いられる枠がこのような形状、縦横の寸法比に限られるものでないことはいうまでもない。
【0023】
型基板は窪み0201を有している。また、枠は上部開口面0211及び下部開口面0212を有する無底の枠である。枠を型基板上に立設するときには、窪みの上部開口面0202を枠の下部開口面が包含するようにする。これは、後述のように枠内に透明保護層用原材料を流し込んだときに当該透明保護層用原材料が当該窪みの中の全部に充填されるようにするためである。「包含する」には、枠の下部開口面と型基板の窪みの上部開口面がぴったりと重なる場合、即ち、下部開口面の形状と型基板の窪みの上部開口面の形状が合同であり、かつ両開口面の位置が一致するように重ねられる場合が含まれる。
【0024】
窪みの形状には特に限定はないが、好適には略凹面鏡状のものが考えられる。この場合において、枠の好適な形状としては、窪みの直径と略同一長の内径を有する円筒形状の枠であるものが考えられる。
図2に示した窪み及び枠の形状もこのような例である(枠のさらに好適な形状の一例については後述する)。
【0025】
また、枠の材料にも特に限定はないが、枠は型基板から離型後、蓄光表示板の本体(基板)部分をなすものであるので、これに適した材料であることが望ましい。具体的な材料の一例としては、以下に型基板について例示するものと同様のものが考えられる。
【0026】
型基板の材料は特に限定されないが、金属、セラミック、硬性樹脂等の硬い材料であることが望ましい。具体的には、例えば、鉄、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、銅、ステンレス、真鍮などの金属や、ファインセラミックス、陶器、ガラスなどのセラミック、アクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂などの硬質樹脂などが考えられる。
【0027】
(透明保護層原材料流込ステップ)
透明保護層原材料流込ステップは、枠立設ステップにて立設した前記枠の上部開口面から、少なくとも前記窪みの全部を満たすように前記窪み又はこれに加えて前記枠内に液状の透明保護層用原材料を流し込むステップである。
図2(b)に示すように、透明保護層原材料の流込みは、枠0210の上部開口面0211から矢印Bに示す方向に流し込むといった要領で行われる。
【0028】
透明保護層は、透明樹脂などの透明材料によって形成される層状の部材であって、その配置の目的は、一般に蓄光層の損傷・劣化や汚れを防止することにあるが、本発明では、これとともに、その形状により蓄光表示板の蓄光層から発せられる光を斜め方向からでも容易に視認することができるようにすることにある。透明保護層原材料としては、例えば、PTFEなどの透明フッ素樹脂などが用いられる。
【0029】
透明保護層の形成方法として液状の透明保護層原材料を窪みに流し込んで形成する方法を用いることで、窪みに透明保護層原材料である塗料を塗布・印刷したり、窪みの形状に合わせて予め成形された透明保護フィルム等を貼り付ける方法に比べ、所定量の液状の透明保護層原材料を窪みに流し込んで乾燥させるだけでよいので、透明保護層の形成を簡単に行うことができる。しかも、乾燥による収縮を勘案してどれだけの量の透明保護層原材料を流し込めばどれだけの厚みや体積の透明保護層が形成されるかを予め計算によって知ることができるので、この計算によって得られた量の透明保護層原材料を一気に流し込むだけでよく、この点からも透明保護層の形成を簡単に行うことができる。
【0030】
透明保護層原材料を流し込む量は、例えば型基板の開口面の位置、即ち枠の下部開口面の位置まで充填される量とすることが考えられる。これは、換言すれば窪みを満杯に満たす量ということになる。枠は型基板から離型後、蓄光表示板の本体(基板)部分をなすものであることから、透明保護層原材料を流し込む量をこのようにすると、製造された蓄光表示板において枠から上に露出する部分がすべて透明保護層となり、蓄光層が枠から上に露出することがないので、一般に蓄光層の損傷・劣化や汚れを防止するという透明保護層の役目を好適に果たすことが可能となる。かかる観点からは、透明保護層原材料を流し込む量は、型基板の開口面の位置(枠の下部開口面の位置)を超えて枠内の一部を満たす位置まで充填される量であってもよい。「少なくとも前記窪みの全部を満たすように前記窪み又はこれに加えて前記枠内に」とは、このような枠内の一部を満たす位置まで充填される場合を含むという意味である。
【0031】
(蓄光層形成ステップ)
蓄光層形成ステップは、透明保護層形成ステップにて形成した透明保護層の上層に蓄光層を形成するステップである。蓄光層を形成する方法には特に限定はなく、例えば、予め形成された蓄光フィルムを接着剤で透明保護層の上に貼り付けるようにしてもよいし、蓄光材料を透明保護層の上に塗布・印刷するようにしてもよい。あるいは、枠の上部開口面から液状の蓄光層原材料を透明保護層の上に流し込むようにしてもよい。液状の蓄光層原材料を流し込む例については別の実施例にて後述する。
【0032】
(反射層形成ステップ)
反射層形成ステップは、蓄光層形成ステップにて形成した蓄光層の上層に反射層を形成するステップである。反射層は、反射材原料を含む層状の部材であり、蓄光材からの光を透明保護層方向に反射させて蓄光表示板の視認性を向上させるためのものである。反射材原料としては、例えば酸化チタン、シリカなどの白色顔料が用いられる。反射層を形成する方法にも特に限定はなく、例えば、予め形成された反射フィルムを接着剤で蓄光層の上に貼り付けるようにしてもよいし、反射材料を蓄光層の上に塗布・印刷するようにしてもよい。あるいは、枠の上部開口面から液状の反射層原材料を蓄光層の上に流し込むようにしてもよい。液状の反射層原材料を流し込む例については別の実施例にて後述する。
【0033】
(離型ステップ)
離型ステップは、前記窪みを有する型基板から前記透明保護層原材料流込ステップを経て形成された透明保護層を蓄光層と反射層を形成した前記枠ごと一体に離型するステップである。
【0034】
反射層形成ステップまでの処理がなされた状態では、透明保護層は枠内の最下層において型基板の窪み内に閉じ込められた状態になっている。そこで、離型ステップにおいて、透明保護層を型基板から離型して露出させるステップが当該ステップである。透明保護層は単に窪みの中に流し込み、乾燥させて形成したものであるので、透明保護層を型基板から離型するためには単に透明保護層を枠ごと持ち上げて型基板から離せばよい。あるいは、型基板からの離型をよりスムーズに行うため、透明保護層原材料を流し込む前に型基板の窪みに離型剤を塗布しておいてもよい。即ち、本実施例の蓄光表示板の製造方法は、枠立設ステップの前もしくは枠立設ステップと透明保護層原材料流込ステップの間に型基板の窪みに離型剤を塗布する離型剤塗布ステップを有していてもよい。離型剤としては例えばシリコーン系離型剤を用いればよい。
【0035】
図3は、離型ステップにおける処理の要領の一例を示す図である。本図(a)は、透明保護層原材料流込ステップ、蓄光層形成ステップ及び反射層形成ステップにおける処理がなされた時点における型基板0300、枠0310並びに透明保護層0313、蓄光層0314及び反射層0315の状態を垂直断面図で示したものである。離型ステップにおいては、この状態を出発点として透明保護層を型基板から離型する処理がなされる。具体的には、
図3(b)に示すように、窪みを有する型基板から、透明保護層・蓄光層・反射層が枠内に形成されている状態のまま、これらを枠ごと一体に持ち上げて型基板から離すようにする。窪みを有する型基板から「透明保護層を蓄光層と反射層を形成した前記枠ごと一体に離型する」とは、このように透明保護層・蓄光層・反射層が枠内に形成されている状態のまま、これらを枠ごと一体に型基板から離すことをいう。
【0036】
なお、本実施例とは異なるが、前記窪みを有する型基板から透明保護層を離型する際に、透明保護層、蓄光層及び反射層のみを一体として、これだけを枠から分離して離型するようにしてもよい。この場合、例えば枠が左右に分割可能に構成されており、分割した枠から上記の透明保護層、蓄光層及び反射層を一体として取り外し、同形の別の枠に収容するようにすることが考えられる。かかる構成は、例えば、既設の蓄光表示板の枠以外の部分が損傷した場合に、枠以外の部分を交換するといった場合に有用であり、この方法によれば、透明保護層、蓄光層及び反射層を形成する際に用いる枠を再利用でき、製造コストを節約することが可能となる。
【0037】
以上のような方法によって製造した蓄光表示板を実際に使用する際には、例えば、金属、セラミック、硬質樹脂等の基板上に枠の下部(又はこれに加えて反射層)が接するようにして設置すればよい。その際、枠や反射層を接着剤で接着したり、枠をねじ止め等により固定したりしてもよいし、単に基板上に載置するだけでもよい。単に基板上に載置したものは、例えば比較的小型の広告用の蓄光表示板であって、広告効果を考えつつ適宜配置位置を変えながら使用する蓄光表示板などに用いることが考えられる。
【0038】
(底板形成ステップを有する例)
なお、本実施例の蓄光表示板の製造方法は、反射層形成ステップと離型ステップの間に底板形成ステップを有していてもよい。底板形成ステップは、反射層形成ステップにて形成した反射層の上層に底板を形成するステップである。底板の材料としては金属、セラミック、硬質樹脂等が用いられる。底板の形成は、例えば、反射層の上に底板を接着剤で接着したり、枠に底板をねじ等で固定したりすることにより行われる。この場合、離型ステップは、前記窪みを有する型基板から前記透明保護層原材料流込ステップを経て形成された透明保護層を蓄光層と反射層に加え、当該底板をも含めて前記枠ごと一体に離型するサブステップを有することになる。
【0039】
このような底板形成ステップを有する製造方法にて製造された蓄光表示板は、それ自体が基板に相当する底板を備えることになるため、必ずしも別部材としての基板上に配置される必要はないものとなる。例えば、蓄光表示板が路面や壁面に設置されるものの場合であれば、単に路面や壁面やこれらに設けられた窪みに当該蓄光表示板を配置したり埋め込んだりするだけでよい。
【0040】
(本実施例の製造方法で製造した蓄光表示板)
以上のような方法によって製造した蓄光表示板は、蓄光層からの光を斜め方向からでも容易に視認することができるという特徴を有する。
【0041】
この点、従来の蓄光表示板のように、蓄光層の上層に平板状の透明保護層を配置したものであっても、蓄光層から透明保護層に入射された光のうち、一部の光は透明保護層から外部に照射されるが、一部の光は透明保護層と外部の境界面において全反射されて蓄光層を介して反射層に戻り、再び蓄光層を経て透明保護層に入射されるという工程を繰り返す。そこで、透明保護層の内部で光が拡散し、外からは蓄光層から発せられた光が透明保護層内で明るく輝いて見えることになる。しかし、従来の蓄光表示板ではこの透明保護層が平板状であるため、斜め方向からこの蓄光層からの光を容易に視認することは困難である。一方、本実施例の蓄光表示板では、透明保護層が凸状の形状をしているため、斜め方向からでもこの透明保護層の側面部分を容易に視認することができる。このため、透明保護層内で明るく輝いて見える蓄光層から発せられた光を、斜め方向からでも容易に視認することが可能となる。特に、型基板の窪みが上述のように略凹面鏡形状である場合には、ここに流し込まれて形成された透明保護層は略凸レンズ形状となり、上述のような斜め方向からの視認をより容易に行うことが可能となる。
【0042】
さらに、枠の形状のより好適な一例として、枠の内壁に凹部を有するとともに、枠の上部側面に張出部を有するものが考えられる。最も好適には、型基板が上述したような略凹面鏡状の窪みを有する場合において、枠が窪みの直径と略同一長の内径を有する円筒形状のものであって、かつ枠の内壁に凹部を有するとともに、枠の上部側面に張出部を有するものが該当する。
【0043】
図4は、本実施例における枠の形状の一例を示す図であって、枠がこのような凹部と張出部を有する形状のものを垂直断面図で示したものである。また、本図の枠は離型ステップにおける離型処理を行った後、上下反転させて使用時における向きにした状態のものである。本図に示すように、凹部0416は、枠0410の内壁0417に設けられたくさび形状などの凹みである。このような凹部を設ける目的は、液状の透明保護層原材料などを枠内に流し込んだ時に、当該液材が当該凹部に入り込んで透明保護層が乾燥した際に当該透明保護層を枠にしっかりと固定するためである。透明保護層に限らず、蓄光層や反射層をこのような流込み方法によって形成する場合も、透明保護層原材料が流し込まれる位置にこのような凹部を設けておくことで同様の効果を奏することができる。本図では、枠内に透明保護層0413、蓄光層0414、反射層0415及び底板0418が形成されている例が示されているが、凹部は、各層を形成するための液状の原材料が流し込まれる位置にそれぞれ設けるようにしてもよいし、一部の層の位置に設けるようにしてもよい。本図の例では、蓄光層を形成するために液状の蓄光層原材料が流し込まれる位置に凹部が設けられている例が示されている。
【0044】
また、張出部0419は、枠の上部開口面の周縁に設けられた張り出し部分である。このような張出部を設ける目的は、例えば、本実施例の方法によって製造された蓄光表示板を路面等に設置する際に、路面が柔らかい状態のときに蓄光表示板の張出部を当該路面内に埋め込むことで、路面が固まった後は蓄光表示板が路面にしっかりと固定されるようにするためである。また、単に蓄光表示板を基板上に載置して使用する場合にあっては、このような張出部を脚として用いることで、蓄光表示板を安定的に置くことが可能となる。
【0045】
<効果>
本実施例の発明によれば、蓄光層から発せられる光を斜め方向からでも容易に視認できるようにし、もって視認性を向上させた蓄光表示板の製造方法、及びかかる製造方法によって製造された蓄光表示板を提供することが可能となる。かかる本発明によれば、地震等の災害時における避難誘導をより安全・確実に行ったり宣伝・広告効果を高めたりできる。